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国務大臣(宇野宗佑君) 第百十二回
国会が再開されるに当たり、
我が国外交の
基本方針につき所信を申し述べます。
現下の国際
情勢は、さきの
米ソ首脳
会談、特に中距離核戦力全廃条約の署名に見られるように、東西間において歓迎すべき動きがありますが、
世界各地ではなお紛争や混乱が続いており、全体として依然不安定な状況にあります。
世界経済を見ましても、先進
諸国が緩やかながら
成長を持続させていることは明るい要因でありますが、為替・株式市場の不安定、経常収支の大幅不
均衡、保護主義圧力の増大、累積債務問題などの深刻な問題を抱えており、その先行きは楽観を許しません。
このような流動する
国際社会の中にあって、
我が国は今や、
世界の動向に大きなかかわりを持つ重要なメンバーとなるに至っております。資源に乏しく、
世界全体の三百六十分の一ほどの狭小な領土と、
世界の約四十分の一の人口しかない
我が国が、
世界の一割を優に超えるGNPを有し、一人当たり
国民所得では
世界最高の
水準に達しておるのであります。資源小国の
我が国においては、一塊の資源をもむだにせず、一滴の石油をもおろそかにせず、ひたすら技術革新と経営改善に当たって今日に至ったのであります。このような
国民のたゆまざる
努力は、これを多としなければなりません。無論、この間、食糧を初め、資源を
供給してくれた国があり、さらに安全保障、自由貿易といった面で、
我が国が
国際環境に恵まれてきた事実も忘れるわけにはまいりません。
したがって、
国際社会の平和と
繁栄のための
役割をみずから率先して果たすことは、国際的に大きな地位を占めるに至った
我が国の
責任であり、みずからの平和と
繁栄を
確保する唯一の道なのであります。
私は、このような確信に基づき、
外交に課せられた
使命の重大さに身を引き締めつつ、「
世界に開かれ、
世界に
貢献する
日本」を目指し、積極果敢な
外交を展開していく決意であります。(
拍手)
現在の
世界の平和が、力の
均衡と抑止により
維持されているという冷厳な現実は、今さら指摘するまでもありません。
西側先進
民主主義諸国としては、平和を
確保するための抑止力を
維持しつつ、
ソ連を初めとする東側
諸国との
対話と交渉を進め、
東西関係を
相互信頼に基づく、より安定した軌道に乗せるよう
努力しなければなりません。私は、先の
米ソ首脳
会談において、
我が国がかねて主張してきた
地球的規模での中距離核戦力の全廃が合意されたことを、一九八三年のウィリアムズバーグ・
サミットで確認された
西側の結束のたまものとして、高く評価するとともに、核
軍縮の第一歩として心より歓迎いたします。しかし、
戦略核兵器を初めとする他の軍備管理・
軍縮問題に加え、アフガニスタン等の
地域紛争、人権問題などの
解決もまた肝要であります。これらの
分野においても、実質的な進展がもたらされ、
東西関係の全体としての
安定化が図られるよう、私は期待いたします。したがって、
我が国はそのためにも
西側の一員として、引き続き
米国の
努力を支援しなければなりません。また、
我が国自身、実効的な
軍縮努力が国際的に一層増進され、軍備のレベルが
均衡のとれた形で一歩一歩引き下げられるよう、本年五月末より開催される第三回
国連軍縮特別総会などの場において強くそれを訴えてまいりたいと
思います。
日米安保体制を
基盤とする
米国との
友好関係は、
我が国外交の
基軸であります。
政府といたしましては、日米安保体制を堅持し、その一層の円滑かつ効果的な運用の
確保のため、引き続き
努力してまいる
所存であります。また、
日米両国を取り巻く最近の
経済情勢の一層の
変化により、
在日米軍経費が著しく圧迫されている事態にかんがみ、
在日米軍従業員の安定的な
雇用の
維持を図り、もって在日米軍の効果的な
活動を
確保するとの
観点から、
日本側負担の増大を図っていく
所存であります。このため、
在日米軍労務費特別協定の
改正に関しまして今
国会において御
審議をお願いいたしたいと
考えております。
今般、竹下総理は
米国を訪問し、
レーガン大統領と実り多い
会談を行いました。両首脳は、今や
世界にとって決定的な
重要性を有する
日米関係を不動のものとし、
両国が力を合わせて、
世界の平和と
繁栄のため一層
協力していくことについて意見の一致を見ました。さらに、日米間の二国間の案件については、
共同作業を通じ、現実に
一つ一つこれを
解決していくことが、両首脳の間で確認されました。
このように、今次首脳
会談を通じ、今後の
日米関係の
運営についての基調が設定されたことは極めて有意義なことであります。なお、私自身もその際、シュルツ国務長官及びカールッチ国防長官とそれぞれ
会談し、主要な国際
情勢、二国間の案件及び安保体制の一層の円滑な運用について忌憚のない意見交換を行いました。
また、
米国に続く
カナダ訪問において、日加
両国の首脳が来るトロント・
サミットの成功に向けての
協力を打ち出すとともに、日加
両国間の
協力関係の一層の前進のため、広範な
分野で
協力と交流を進めていくことで意見の一致を見たことは有意義であったと
考えます。
さらに
西欧諸国は、今日の国際
政治経済秩序を支えていく上で、
北米諸国とともに枢要な
役割を果たしておりますが、これら
諸国との間で緊密な連帯と
協調を図っていくことは、
我が国自身の
繁栄と安定を
確保していくためにも極めて重要であります。私は、先般来日されましたハウ英国外相と、日英のダイナミックなパートナーシップの幕あけに向けた
会談を行い、ドクレルクEC委員とも率直な意見交換を行いました。今後とも、
西欧各国とこのような
対話を積極的に
推進し、
政治、
文化を含む幅広い
分野で、日欧
関係の一層の
強化を図ってまいります。
ソ連との
関係につきましては、
東西関係全般がさらに建設的方向に進むことにより、
日ソ関係にもそれが好ましい影響となってあらわれることを期待しますが、現在の
関係は、北方領土問題が未
解決であることに加え、極東における
ソ連の軍事力の増強もあり、依然として厳しい状況にあります。
我が国といたしましては、日ソ双方の
努力により
関係改善を行っていくことを希望します。しかしそのためには、日ソ外相間定期協議の
早期開催を含め、
両国間の
政治対話を一層
強化拡大し、
相互理解の増進を図っていくことが重要であります。北方領土問題を
解決して
平和条約を締結することにより、
ソ連との間に、真の
相互理解に基づく安定的な
関係を
確立することが
我が国の不動の
方針であり、今後とも、北方四島一括返還の
実現に向けて、粘り強く
努力を傾けてまいります。(
拍手)
東欧
諸国につきましては、
東西関係において、これら
諸国との
対話がより重要になってきている事実を踏まえ、各国の国情と政策を十分勘案の上、
政治対話及び
経済、
文化面での交流を一層
促進していく
考えであります。
ひるがえって、
アジア・
太平洋地域の一国たる
我が国といたしましては、これら域内
諸国との
友好協力関係の増進を
外交の重要な柱とし、各国の歴史や
文化面での独自性を尊重しつつ、同
地域の平和と
発展のため今後とも積極的に
貢献する
所存であります。
私は、先月竹下総理に同行してマニラを訪れ、
日本・
ASEAN首脳会議に出席いたしました。総理は、
我が国が
軍事大国への道を歩まず、
世界の平和と
繁栄のために
貢献していくとの
立場を改めて主張されましたが、このような
姿勢と理念は同
会議で
我が国が表明いたしましたASEANに対する積極的
施策と相まって、
内外に高く評価されました。したがって
我が国は、今次
会議において深められました首脳レベルでの
信頼関係を
基礎に、ASEAN
諸国との
友好協力関係を一層緊密なものとするよう努める
所存であります。また、この機会に行われましたフィリピン公式訪問において、竹下総理よりアキノ
大統領に対し、
民主主義に基づく国づくりの
努力に、
我が国としてできる限りの支援を行っていくとの
方針を改めて表明いたしました。
カンボジア問題につきましては、その
早期解決を図るため、
我が国といたしましても積極的に
貢献すべく、ベトナム軍の撤退とカンボジア人の民族自決の
実現を柱とする
政治解決に向けた、シアヌーク殿下の真摯な
努力を支援してまいる
所存であります。
韓国では、先月の
大統領選挙において、民主正義党の盧泰愚総裁が当選され、二月には政権移譲が行われる
予定であります。私は、韓国
国民の建設的
努力により、憲法
改正を初めとする諸
改革が順調に
実施され、韓国が
民主主義の道を一層力強く歩んでいることに、改めて敬意を表したいと
思います。(
拍手)
我が国といたしましては、今後も
日韓友好協力関係を、より安定的な
国民的
基盤の上に立って、
発展させていくことが一層重要であると
考えます。本年九月ソウルで開催されます
オリンピックには、既に
米国、
中国、
ソ連を初め大多数の国が
参加表明を行っており、私は、このことを心から歓迎するものであります。
我が国といたしましては、今後とも、ソウル・
オリンピックの成功と朝鮮半島における
緊張緩和のために、できる限りの
協力を行っていく
所存であります。
中国との
友好協力関係の
維持発展は、
アジアひいては
世界の平和と
繁栄にとっても重要であります。
中国では現在、
改革と開放の
方針の
もと、
経済体制と
政治体制の
改革が大胆に
推進されております。
我が国といたしましても、かかる
中国の近代化の
努力を高く評価し、できる限り支援するとともに、今後とも
日中共同声明、日中平和友好条約及び日中
関係四
原則を踏まえ、
両国関係の一層の
発展のために尽力する
所存であります。特に、本年は、
日中平和友好条約締結十周年に当たっており、
両国首脳間の
対話実現を含め、
両国間の
相互理解と
相互信頼の増進のため積極的に
努力してまいります。
インド、パキスタン等の南西
アジア諸国との間では、近年要人往来も活発であり、
我が国との
関係は急速に緊密化しております。この
地域では、南
アジア地域協力連合が軌道に乗り、
地域協力が進展しております。
我が国といたしましては、引き続き同
地域の安定と
経済発展のために
協力していく
所存であります。
大洋州
諸国との
関係につきましては、豪州及びニュージーランドとの間の
友好協力関係を一層
拡大強化してまいります。また、近年その
重要性を増している太平洋島嶼国との間でも、その平和と
発展のために
経済協力を一層
推進し、
関係を
強化していく
考えであります。
アジア・
太平洋地域の
調和のとれた
発展を目指す太平洋
協力につきましては、
政府といたしましても、これを積極的に支援してまいります。
中東における
情勢は依然として流動的であります。
イラン・
イラク紛争及びペルシャ湾の
安全航行の問題に関しましては、紛争当事国と率直な
政治対話を今後とも継続するとともに、同湾の
安全航行確保のために昨年十月に決定されました諸
措置の早急な
実施に努めてまいります。また、
我が国が
国連安全保障理事会の非
常任理事国であることをも踏まえ、
関係諸国及び
国連事務総長とも協議しつつ、安保理
決議第五百九十八号に基づく紛争の平和的
解決へ向けて
努力を重ねてまいります。現に私は、イラン外相の訪日を求め、親しく
会談し、一方、イラク外相には特使を派遣して、双方に
国連決議の尊重を強く
要請いたしました。
中東和平問題に関しましては、イスラエル占領下にある西岸、ガザ地区における最近の騒擾にも照らし、
我が国といたしましては、国際
会議開催等和平
実現のための動きが進展するよう強く希望し、
関係当事者への働きかけを含め、応分の
努力と
貢献を行っていく
所存であります。
また、アフガニスタンにおいて
ソ連の軍事介入が八年余りにわたり続いていることは、極めて遺憾であります。
我が国といたしましては、
ソ連軍の全面撤退を含む
政治解決の
早期実現を呼びかけるとともに、
国連による調停
努力を支援してまいります。
累積債務問題を初めとする
経済困難に直面している中南米
諸国に対しまして、
我が国は、
資金還流措置、
経済技術
協力の拡充、貿易、投資の
拡大を行い、
経済再建と民主化の進展、
定着のための各国の自助
努力を支援する
所存であります。
中米問題につきましては、引き続き域内
諸国の和平
努力を支持するとともに、中米
地域の
経済発展を支援していく
考えであります。また、真の中米和平が
実現した暁には、この
地域の復興開発のためできる限りの援助を
実施する
所存であります。
アフリカ
諸国は、一部に食糧危機を抱えるなど、依然として厳しい
経済困難の中にありますが、サハラ以南アフリカ
諸国等に対する五億ドル程度のノンプロジェクト型無償資金
協力の
実施を初め、アフリカ
諸国の自助
努力を積極的に支援してまいります。
我が国は、南アフリカ共和国のアパルトヘイト、すなわち人種隔離政策に断固反対し、各種の対南ア規制
措置を講じております。今後とも、本問題の平和的
解決のため、
国際社会と一致
協力し、
努力を重ねていく
所存であります。また、アパルトヘイトの犠牲者のための人道的援助及び南ア周辺
諸国に対する
経済協力も
強化してまいります。
世界経済の
持続的成長、
対外不
均衡の
是正及び
為替市場の安定のためには、
主要国が引き続き
経済構造調整を
推進しつつ、マクロ
経済政策の
協調をより一層
強化することが不可欠であります。なかんずく、巨額な経常収支の黒字を抱える
我が国は、
内需拡大の
積極的推進、一層の市場開放、途上国への資金還流等の国際的な
貢献を継続し、
対外不
均衡の
是正に全力を傾けなければなりません。
また、国際貿易面では、
ガット体制をより
強化改善し、その対象となる
分野も
拡大する必要が生じてまいりました。このため、
ウルグアイ・ラウンド交渉が進められており、
我が国といたしましても、
自由貿易体制の
維持強化という共通の目標に向かって、諸
外国と
協調しつつ
努力していく決意であります。その際、交渉の具体的進展を
内外に明示していくためにも、可能なものから
早期合意を図っていくことが必要であります。広範な
分野にわたる交渉の過程においては、各国とも、
国内経済構造にかかわる諸問題の
見直しと
改革が必要となります。
我が国といたしましても、国の
内外において痛みを分かち合いながら、
世界経済との
調和を積極的に図っていく決意であり、また、これがひいては、
我が国の長期的利益にかなうものと確信いたしております。この意味で、今日ほど内政と
外交が深いかかわりを持っているときはないと言っても過言ではありません。
経済困難に悩む
開発途上国への
協力は
我が国の
国際的貢献の重要な柱であります。
我が国は第三次
中期目標の
もとで
政府開発援助の拡充に努めており、
政府は六十三年度のODA
予算として対前年度比六・五%増を計上しております。
また、累積債務問題、一次産品市況の低迷等に見られるように、途上国をめぐる
環境が悪化し、南北格差は
拡大する傾向にあります。この中で
我が国は、
開発途上国のニーズの多様化に弾力的に対応できるよう、国際緊急援助体制の一層の
充実、途上国の
経済政策支援のための円借款の供与、前述のノンプロジェクト型無償資金
協力の
実施、あるいは内貨融資の
拡大等を行ってまいりました。今後とも、途上国に対する支援を質量両面から
強化するとともに、
国連等の場において建設的な南北
対話を
促進するために、積極的に
貢献してまいる
所存であります。
世界各地の難民問題に対しましても、
我が国は、資金及び食糧援助並びにインドシナ難民の受け入れなどを通じ、今後とも積極的に
貢献してまいります。
国連は平和
維持、人権の擁護、人類の福祉
向上などのため
活動を行っている唯一の普遍的国際機構であり、今後も、
政治、
経済、
社会等の幅広い
分野において、
人類共通の利益にかなった
国際秩序を築き上げるため、ますます重要な
役割を果たしていくべきものであります。
我が国は、加盟以来、
国連重視政策を取り続けており、引き続き
国連を通じる
国際協力を一層
強化していく
所存であります。
政治面では、安全保障理事会の非
常任理事国としての重責を果たすべく、国際の平和と安全の
維持のため
外交努力を重ねてまいります。さらに、
国連等の
平和維持活動に対する
我が国の非
軍事的貢献を一層
強化拡充するため、鋭意
努力していく
所存であります。
昨年十一月の
大韓航空機事件は極めて遺憾であり、かかる
テロ行為は厳しく非難されるべきものであります。(
拍手)また近年、凶悪な
国際テロ事件が
世界各地で起きていることは、海外にある
我が国国民の安全を図る上でも看過し得ない問題であります。
政府としては、いかなる
国際テロにも断固反対するとの
立場から、その防止のための
国際協力を
推進していく
所存であります。同時に、海外にある邦人の保護体制の
整備に努めてまいります。
以上申し述べましたとおり、
我が国が名実ともに外に開かれた国際国家として
繁栄していくためには、国際の平和と安定への寄与、
世界経済の持続的
発展のための積極的
協力が不可欠であります。しかし、それだけでは十分とは申せません。
世界の諸
国民が物の豊かさだけではなく心を伴った豊かな文明を創出していく歴史的
努力の中で、
我が国がどれだけ独自の
貢献をなし得るかが同時に問われているのであります。(
拍手)私は、
外務大臣に就任以来、ことごとに
我が国の
国際社会に占める大きさを痛感いたしております。すなわち、
世界は、
我が国に対し多岐にわたる要望を提起し、
我が国がそれらにこたえ、
世界に
貢献していくことを期待いたしております。このことはとりもなおさず、
世界が、
我が国に物だけを求めるのではなく、心を求める
時代に入ったと言えましょう。
この意味で、
我が国といたしましては、官民を挙げて、
文化、学術、
科学技術といった面での創造と
世界的な交流を
推進すべき
役割をみずから引き受けるべきときに来ております。特に、人物交流を通じてこそ心も通い合うのであり、
政府といたしましても、次代を担う青少年や留学生の交流、さらには、昨年から
実施している語学指導などを行う
外国青年招致事業等、幅広い交流を
強化してまいります。また、かかる
努力は、
政府のみならず、
国民一人一人の
課題でもあると
考えます。私は今後とも、
地方自治体、民間各層の御
理解と御
協力を得つつ、このような
国際交流の一層の
推進を図ってまいります。
私は、
外交実施体制を一層
強化拡充することによって、今日、
我が国外交が抱える多くの重要な
課題に能動的かつ機動的に対応してまいります。
新しい
世紀は目前に控えております。このときこそ、「
世界に開かれ、
世界に
貢献する
日本」を
実現するため、国家として、懸命の
努力を傾けなければなりません。
国民各位及び同僚
議員の力強い御支援をお願いする次第であります。(
拍手)
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