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亀井参考人 亀井でございます。
本日は、
参考人として
発言の
機会を得られまして大変感謝申し上げております。ありがとうございます。
昨年の秋に、
著作権審議会第一小
委員会から、
海賊版の陳列等については
著作権侵害として扱うことが適当であろうというような御報告をいただきまして、これがマスコミに大々的に
報道されまして、私
どもビデオソフト業界としてはもう欣喜雀躍、大変感激して喜んだわけでございます。
ビデオ協会につきましてちょっと説明さしていただきますが、
ビデオソフト業界が芽生えましたのが約二十年前でございます。当時はまだソフトも業務用が主でございまして、
理由はまだハードの
普及が十分でなかったということでございます。ところが
昭和五十年にベータ型、五十一年にVHS型のホーム用のデッキが発売されまして以来、家庭用のVTRが急速に
普及したわけであります。
昭和四十年代におきましても
ビデオソフトの
海賊版というのは散見されました。
ビデオ協会が
昭和四十六年に任意
団体として発足いたしました後、五十三年に社団法人として認可されたわけでございますけれ
ども、任意
団体当時もこの
海賊版につきましてはもう最大の問題として対応したわけでございます。
まず、協会の統一シールをつくりまして正規の商品にこれを貼付する、
海賊版にはこれが張られてないということで識別の便宜に供し、またそれのないものは
海賊版であるということで、流通の面でも注意を促すというような
効果を期待したわけでございます。ところが印刷
技術が、まだ当時は御承知のようにコピーが十分できる時代でございました。シールそのものがコピーされてしまってその
効果もだんだん薄れてきました。
次に手を打ちましたのは、カセットの
ケースでございます。ちょっとここに見本がございますのでごらんいただきますが、普通の
ビデオカセット生テープは、市販のものはこのふたが黒くなっております。これをこのカーキ色に統一いたしまして、正規の商品には全部この
ケースを使う、べータには白いふたを使うというようなことで対応をしたわけでございますが、実はこのふた自体がまた流通してしまいました。これも
効果がなくなったということで、業界としてはいろいろと苦慮してきたわけでございます。
著作権というのは御承知のように私権でございまして、
権利者みずからがまず守らなければならない、防衛しなければならないということで、余り他人に期待するわけにはいかないわけでございますので、できるだけの自助努力で闘ってきたわけでございますけれ
ども、どうも後追いになってしまう。しかも、ホームユース用の
ビデオデッキが全国的にこういうふうに
普及してまいりますと、コピー
行為も全国的に分散してしまったわけでございます。かつては、
音楽テープの
海賊版事件など私も
レコード協会に三十年近くおりましてかなりの事件とかかわり合いを持ちましたけれ
ども、かなり特定された地下組織で大量につくっていたわけです。ところが今日ではもう全国的にこれが行われている。特に
昭和五十六年ごろからですか、ホームユース用の
ビデオデッキが一〇%を超えて急速に
普及し始めたのに対応しまして、ホームユース用の
ビデオソフトも各ソフトメーカーが大量に市販し始めた。この販売用のソフトがレンタルの需要を掘り起こしたわけです。
ビデオ協会としましても、このレンタルにつきましては、
レコードのレンタルのようなああいう前車の轍を踏むことなく、明らかに
頒布権が既に与えられておりますので、ここでひとつルールをきちっとつくって合法的にビジネスをしていただこうということでルールをつくったわけでございますが、まず新規参入の業者が非常にふえた。一本仕入れて後はコピーで賄って、それをレンタルに回すという
行為が非常に増加してまいりました。
そこで、
昭和五十九年の秋に、ここにいらっしゃいます
芥川さんのところのJASRAC、それから文芸
関係の
著作権者
団体、映像
関係その他の
著作権者
団体、さらには
関係の企業、今日では約七十社ほどになっておりますが、これらが大同団結いたしまして、
ビデオ著作権保護監視機構という自主的な防衛かつ調査・摘発機関を設置いたしました。
ビデオ協会はその中心的な活動を果たさせていただいておりますが、当時、五十九年の末で
レンタル店が約三千店ほどでございます。その後、今日一万五千とも二万店とも言われるほどにふえております。これは無為供手してふえたわけじゃございませんが、その間には、
アメリカの映画協会も年間の予算数億円を投じて
日本に
日本支社をつくり、
海賊版を撲滅すべく対応され始めました。これが
昭和六十一年の二月だったと思います。
それから、同年の四月に警察庁も不正商品取締官を設置されまして、いわゆるにせブランド商品、それから
海賊版等の商標法・
著作権法違反の事犯を取り扱う専門の役職を設置されて対応されました。
我々民間の取り締まり、摘発かつ啓蒙機関であります八
団体も連携しまして、不正商品対策
協議会というのをまたつくりました。これもやはりその年、六十一年の夏でございます。さらに、企業内でも
海賊版に対応するための
委員会組織をつくっていろいろ活動しております。ビクターグループあるいはパイオニアレーザーディスクグループ、このように民間でそれぞれ組織をつくって活発な活動を続けているにもかかわらず、なかなか
海賊版が鎮静化しない。これは一体なぜだろうか。
先刻もう御推察のとおり、まずは
著作権思想の
普及がいまだしという感じ、特に新規参入の業者というのは
著作権に余り理解のない
方たちが非常に多いわけです。先ほど申しましたように三千店が二年足らずで一万五千店、さらには、これは予測ですけれ
ども二万店とも言われますが、そのほとんどが、中には脱サラもあり、その他もろもろの業種から参入された
方たちでございます。そういう人
たちも、
自分が
海賊版を扱わなくても周囲で
海賊版を扱っているとするとどうしても対抗上扱わざるを得ない。昨年、私
どもの方もお店に対してアンケート調査をいたしましたが、その中で、何とか
海賊版をもっと撲滅してもらえないのか、
権利者は一体何をしているのだというような強い不満が出ました。
そういう時期に、例の
陳列罪の話が出てきたわけでございます。正規の業者は本当に欣喜雀躍、今にも廃業したいという業者も随分おりましたし、また現実に廃業した方もおりますけれ
ども、この情報に力づけられて今は一生懸命頑張っているところでございます。この
法案が一日も早く施行されることを一日千秋の思いで
皆さんお待ちになっていると思います。
ところで、我々が実際どういうふうにそれでは対応してきたかということを多少申し上げて御
参考に供したいと思いますが、まず
海賊版を扱っている店の情報を得ますと、今の監視機構等々の組織の専従者が現地へ訪問してそれを確認いたします、果たして
海賊版であるかどうか。それから同時に、それらの組織の職員が数名の班を組んで重点的にある
地域を、ローラー作戦と申しておりますが、巡回して訪店をし調査をしております。そこで
海賊版がありますと、まずいろいろと基本的な知識を
お話しして了解を得て、やめていただくように努力をするわけでございますが、そのときに、
海賊版の処理につきましては所有権を放棄していただきましてできるだけ回収するようにさせていただきます。とにかく、法律的に訴えて云々というよりも、まず
海賊版をこの世の中から排除することが先決でございます。そういうことで、もしも
海賊版を出していただけないなら、供出してもらえないような業者の場合は、これはやむを得ませんので法に訴えて手続をとる。不幸にして民間の
団体の場合は強制力がございませんので、それ以上どうしても突っ込めません。当初は民事訴訟でいろいろと損害賠償等も求めましたけれ
ども、これまた時間がかかる、費用もかかる、最後はやはり裁判官の和解の勧告で終わってしまいます。すべて今までそんな結果に終わっております。そういうことで、どうしてもこれはやはり一罰百戒、刑事告訴で社会的な信用面でのダメージを与えるしかなかろうかということで、
昭和六十年ごろから刑事告訴に重点を変えました。
民事の場合も同様でございますけれ
ども、まず
著作権侵害につきましては侵害の事実を立証しなければなりません。そのためにはやはり物で証拠を調えなければなりません。ところが、今のソフト業界市場というのは劇場用映画の
ビデオパッケージが中心になっておりまして、特にレンタルの場合は一回見ればまあよかろうというようなことでレンタルの需要が多いわけですけれ
ども、
レンタル店というのはまず会員制でお客を把握します。利用するには身分証明書、運転免許証あるいは学生証を提示して会員になって、それからレンタルソフトを借りるわけでございますが、
海賊版のソフトを借りるにしても、まず地元の住所でないと極めて不自然でございますね。我々中央に本部を置いて幾ら調査員が多くなっても、やはり調査員の名前、住所でというわけにはいかないわけでございます。現場の、あるいはその近くの知り合いをたどって借りる。ところが、借りてもレンタルですから物は返さなければなりません。そうすると証拠は手元に残らないわけです。そこで我々は、そのレンタル商品を、いわゆるそういう
海賊版を扱っている店というのは店頭ダビングサービスという
行為を行っておりまして、千円前後でコピーをしてくれるわけですね。これは明らかに違法
行為でございますけれ
ども、
権利者側ですからみずから承知の上でコピーをするわけですのでこれは問題ないと思いますけれ
ども、そこで
海賊版のコピーをまず一本つくる、これを持ち帰りまして、
海賊版であることの鑑定書をつくるわけです。この鑑定書というのは、本物の映像の
権利が、いつ、どこで発生し、だれが持っているかという、
権利の所在がまず確認されなければなりません。その辺の書類づくりから始まりまして、それとどこが違うのかという真贋の商品の違いを克明に鑑定書の形で
まとめまして、これを告訴状につけて警察に
提出するわけです。当然に本物も同時に添付するということになりますが、三年くらい前までは、この告訴状を警察に受理していただくまでが大変な
仕事だったわけですね。警察側も余り
著作権違反事件については御経験がございませんし、やはりもっと社会的に重要な強盗殺人事件の方に目が向けられるのかどうかわかりませんが、いずれにしてもどうも敬遠されがちだった。先ほど申しました不正商品取締官の設置以来、各所轄署も競って
海賊摘発に乗り出していただき、今日そういう点では大変私
ども助かっております。
ところで、警察はその受理した告訴状に基づきまして一応内偵をいたします。これは警察庁から御事情をお聞きいただければもっと詳しいのかもしれませんが、私
どもが拝見しておる限りで申し上げますと、まず内偵し、ある日突然強制家宅捜査をする、そこで一応
海賊版を全部押収してくる。この押収というのは没収ではございません。とにかく任意
提出の形で持ち帰ってくる。それからがまた大変でございます。大体、
海賊版というのは何百本、ときには何千本の在庫でございますので、そういうところが今まで摘発を受けている規模でございますが、その持ち帰ったものをまず整理いたします。一本一本
海賊版であることの立証をしなければなりません。これは
権利者側に鑑定依頼がなされます。
権利者側は、先ほど申しましたように、克明に本物との違い、もちろん
権利があるものは所在をはっきりさせなければいけませんけれ
ども、そういうような鑑定書をつくりまして警察の方に御報告する。警察は、
海賊版であることが確かめられた後、それが果たして、どこで、だれによって、いつごろつくられたかということをまず調べるわけでございますが、まずこれは通常は判明いたしません。先ほど申しましたように、全国的にとにかくコピー
行為が分散してしまっている。
レンタル店というのはモニター用の
ビデオデッキを持っていますから、これを二台つなげればコピーできてしまうわけですね。ですから、
レンタル店は
海賊版製造能力をすべて持っているんですけれ
ども、その店がつくったという証拠がどこにも残らないわけです。
それから、通常やはり多いのは、カバン屋と称しまして、地下組織でつくりました
海賊版をかばんに入れて持ち歩く。もちろんワゴン車か何かに乗ってくるわけですけれ
ども、それで現金でそこで取引をする。かなり安いはずです。
追加の注文をしようと思っても、一方的に売り込みに来まして、相手方の所在は全く不明でございます。時に電話番号を置いてまいりますけれ
ども、そこへ電話をかけても全然別なところにかかってしまう。これは
海賊版を持って歩いているので、店頭展示じゃございません、とにかく所持して、
海賊版を持って歩いて商売している人
たちです。こういう
行為をしているところに対しては警察も手が及ばないわけですね。現場を押さえない限り、持っているだけではどうしようもない。
お店を
対象にした捜索の
お話の続きを申しますが、そこで
海賊製造本犯が不明だとすれば、後は
頒布権侵害で立件するしかないのですね。ところが
頒布というのは、御承知のように
著作権法に定義規定がございまして、有償無償を問わず、譲渡または貸与という物の移動が伴わなければならないというふうに解釈されております。
旧法時代は、流通過程に投ぜられたものは
頒布状態にあるという解釈もあったのですけれ
ども、現行法では、定義規定があるためにといいますか、在庫
状態では
頒布とはいえない。結局、
海賊版を目の前にしていても、製造本犯をつかまえるか、あるいは
頒布の事実、いつ、どこで、だれに、どのソフトを貸し出したか、そういうことが立証されない限りどうにもならないのが今の状況でございます。
日本の
著作権法、大変よくできているように私らも思いますけれ
ども、実際に実務との間の乖離というのはそういう点で非常に大きいなというふうに日ごろ痛感しております。
それで、何人かの消費者を訪ねて警察側も証言を得て調書をつくり、
頒布権侵害で立件するわけですけれ
ども、これもそう何百人というわけにもいかぬわけですね。実際に店頭にある
海賊版というのは何百本、何千本でございますし、それが何回も
頒布、レンタルされているわけですから、違法
行為自体は相当な規模に上るわけですけれ
ども、実際に起訴し得る犯罪
行為の規模というのは極めて規模の小さいものになってしまう。
一昨年の秋に福岡で大々的な手入れをいたしました。四万五千本の押収をしてまいりました。処理するのに警察で約六カ月かかりました。もちろん私
どももいろいろとお手伝い申し上げましたけれ
ども、それでレンタルの足をとるのにコンピューターを使って整理をしたくらいでございます。それほどに警察も手間暇かけて送検する、起訴する。ところが、規模が不幸にして今申し上げましたようにほんの一部に限られてしまいますので、裁判の結果も当然予測されるわけですけれ
ども、非常に軽微なもになってしまう。大体、今まで告訴をしましたのが六十一年の初めから今日まで百二十八件ございます。その間で起訴されましたのが五十六件、そのほかのものはまだペンディングでございますが、その五十六件のうち四十七件は略式命令で、五万円ないし最高二十万円で済んでしまっています。
海賊版を何本も置いてチェーン店を展開して、それでもなおかつ二十万円で済んでしまっているというような実績でございます。最近では、懲役刑も統計上は邦・洋合わせまして九件出ておりますが、いずれも大体三年
程度の執行猶予でございます。悪いやつにすれば痛くもかゆくもありません。むしろ商売ができないようにすることの方が彼らには打撃のようでございます。民事で押さえようと思っても同じような立証作業をしなければなりませんし、被害を立証するにしても、今のと全く同じように小規模に終わってしまいますのでこれも余り
効果がない。やはり
海賊版を全部店頭から撤去する、商品がなければ商売になりませんので、それがやはり一番
効果的な方法だとかねがね私
ども考えていたわけでございます。
時間がどうも足りなくなりましたが、そういうことで、その
背景等もいろいろとございますけれ
ども、私
どもとしてはできるだけ、我々でできることは全力を尽くして今までやってきましたし、また今後ともそのつもりでおります。
ビデオ協会五十三社、
ビデオソフトメーカー並びにその関連企業で構成しておりますが、まずこの
海賊版が最優先の問題でございまして、これでは正規の事業が成り立たない。映像というのは御承知のように相当な先行投資をしてつくり上げているわけで、これを回収することができなくなれば次の映像
著作物ができなくなる、こういうような
関係もございます。諸悪の根源はすべて
海賊版だと私
ども思っておりますが、今回の
法案を速やかに御
審議いただき、一日も早くこれが施行されますように業界を
代表して切にお願い申し上げます。
ありがとうございました。(拍手)