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西廣政府委員 まず、限定的・小規模という言葉の面から申し上げますが、実はこの種言葉が最初に
我が国の防衛力整備に使われ出しましたのは、第二次防衛力整備計画、その際に、
我が国が整備すべき防衛力は、「
通常兵器による局地戦以下の事態」に対応するものであるということが言われました。それが引き続き三次防、四次防という形で使われてまいっております。
ところが、
通常兵器による局地戦以下の事態といいましても、これは非常に幅がございます。そこで、その
通常兵器による局地戦以下の事態のすべてに対応する能力を持つということは、大綱策定当時の現に維持をしておる防衛力から比べるとかなり天井の高いものである、それをその段階で追求するということは、いろいろな
意味で困難が多いだけではなくて、そういう余り高い目標を追求しますと防衛力
自身が跛行的になってしまう、あるものはかなりのところへ行くけれ
ども、あるものは非常におくれてしまうというようなことで、防衛力
自身にも好ましくない、もろもろのことがありまして、さらにそれを限定しようではないかというのが大綱策定当時の考え方でありました。
そこで出てまいったのが「限定的かつ小規模な」ということになったわけであります。「限定的」と申しますのは、まさに二次防当時から言われておる「
通常兵器による」という
意味も
一つはございます。そのほかに「限定的」というものは時間的にもという
意味もあります。そう三年も五年も続くというような大戦争、あるいは十分相手方が二年も三年も準備をしてかかってくるというようなものに備えるものではないというような時間的な要素も入っております。さらに言えば、二次防当時の「局地戦以下」と言った際のいわゆる
地域的な限定、要するにグローバルウオーではない、ローカルウオーである、そういったものに備えるという
意味で、
地域的な限定という
意味も含めて「限定的な」という言葉を使いました。
その中でさらに「小規模」という、もう
一つ枠をしぼめているということでございますが、この「小規模」という点では、例えば
我が国周辺の国の軍備を見ますと、
ソ連という
我が国周辺の一番大きな軍事力を持っている国を見ますと、極東に相当の軍事力というものが配備をされております。現在の
日本の防衛力の十倍近い軍事力が配備されておりますが、それならそれがすべて
日本を指向しているかというと、そうではない、これは中ソ国境のために構築されている兵力もございますし、対米配備といいますか、
アメリカというものを恐らく念頭に置いておるであろう核ミサイルを積んだ潜水艦がいるとか、そういったものもたくさんございます。そういった軍種あるいは装備を見ますと、それなりにこれはどこを向いているなというものがある程度分析をされるわけであります。と同時に、みずからの防衛のため、いわゆる防空戦闘機部隊とかそういったものもございます。
そういったものはそれなりの
任務を果たしておるという前提で、なおかつそのままの
状況で動かし得る兵力、つまり十分な準備を行わなくても草々の間に例えば
日本なら
日本の攻撃に使い得る軍事力、その程度の侵略というものが小規模侵略というようにお考えいただきたいと思います。
そういう形で大綱というものができておりますので、
先生お尋ねのように、大綱策定当時、まず我々としてはそれぞれの陸海空の部隊につきまして、大綱にも書いてありますように、一応防衛面においては機能的に欠落がない、この機能はあるけれ
どもこの機能はないということではないものにしたいということが
一つ。それからもう
一つは、
地域的に薄くても一応網をかぶせるものでありたい、つまり北海道は守っておるけれ
ども九州は守っていないとか、そういうことがないようにする、全国的に一応の網をかぶせるということで、全国的にすき間のないものにしたいというのが第二点であります。
そのほか、教育訓練を適切に恒常的に行い得るようにするとか、いろんな平時的な要件。それから時間的にも、例えばレーダーサイト等でありますが、昼はできるけれ
ども夜はできないとか、夏はできるけれ
ども冬はできないということじゃなくて、二十四時間、三百六十五日やり得るようにする。そういう平時の警戒態勢については常時警戒態勢というものがとれるようにするというようなことで、所要の防衛力というものを積み上げてみたわけであります。
一番いい例が、わかりやすい例で申し上げますと、戦闘機部隊でありますけれ
ども、
日本全国、もちろん例えば南鳥島とかそういうところは無理でございますけれ
ども、一応主要な北海道、本州、四国、九州、それから南西諸島というものを含めて、そこに相手が中高度ぐらいで入ってくる場合に発見をし、国土に相手が到達しないうちにこちらが領空侵犯対処をしておおむね対応できるような態勢にするためには、細長い国でありますのでどうしても全国七カ所くらいで待機をしなければいけない。そうすると、七カ所に航空部隊を置かなくてはいけない。そこで二十四時間待機をする。これは五分待機のもの、三十分待機のものといろいろありますが、待機をさせるためには何機要るか。待機だけしておりますと訓練が全くできませんので、どんどん練度が落ちてまいります。それを二十四時間順番にクルーが待機をし、かつ訓練を整々と行って新陳代謝が行えるようにするためには何個隊要るかというようなことで積み上げたのが、現在の十三飛行隊というものであります。
そこで、それですと平時態勢はよろしいわけですが、先ほど申したような小規模侵攻、そういった際に力があるかないかということは全くわかりませんので、そこで
先生御
質問にありましたシミュレーションというものを行ったわけであります。
防空については、先ほど申し上げたように、周辺諸国が、それぞれの
任務というものをある程度
現状のまま果たしながら、その中で抽出し得る兵力で
日本を攻撃した場合に、先ほど申した平時態勢下で保有しておる防衛力というものを総動員したらどの程度の防衛力が発揮できるかというシミュレーションであります。
簡単に申しますと、このシミュレーションの
内容というのは、相手方が攻撃してくる、それに対してこちらが、戦闘機部隊あるいはミサイル部隊、そういったものが防空作戦をやるわけであります。当然彼我に被害が出るわけであります。相手も相当撃墜されますが、こちら側も飛行場もやられ、
航空機もやられるし、ミサイルもやられる、そういう形になります。そこで、お互いに痛み分けになるわけですが、シミュレーション上、二回戦をやらせてみる。そうしますと、最初の被害の程度というものによって二回戦は
状況が変わってまいります。最初、より被害を受けますと、二度目はもっとひどい被害を受けるという格好になります。
言いかえますと、いわばボクシングで第一ラウンド、第二ラウンドとやるように、第一ラウンドをやりましてダメージを受ける、二度目になるとダメージを受けた方がもっと弱ってくるというような格好でありまして、それが三回戦、四回戦といってもお互いに痛み分けで五分でいけるというのが
一つの限界点、それ以上であれば非常によろしいということになろうかと思います。これを私
どもはシミュレーションの中で、彼我の被害率が一になる、ローが一というように申しておりますが、そういう
状況というようにとらえております。
これを撃墜率に換算しますと、相手方の被害の方に着目しますと撃墜率になるわけですが、ほぼ三〇%近いもの、三〇%程度のものであります。ただ、これは撃墜率だけですと、先ほど申したようにミサイルとかいろいろな問題がありますので、あるいはこちらの地上施設がいろいろやられるということで、必ずしも正確でありませんので、私
どもは撃墜率という言葉は使っておりませんが、撃墜率でいえば三〇%程度のものを得られれば、二度目になれば、お互いに痛み分けでまた三〇%ぐらいというようなことでいけるという
一つのシミュレーションができるわけです。
そういうシミュレーションをやってみまして、ローが一という、イコールのような
状況が維持できるかできないかということをやって、先ほど申した平時における態勢でどこまでやれるかというシミュレーションをやって、それで足りるか足りないかということを検討したわけであります。
潜水艦等についても同様でございまして、潜水艦の場合は、恐らく
日本に攻撃をしかけてくる前に相手側の潜水艦というものはもう港から出まして、それぞれの活動海域、いわゆる哨区と申しますが、そこに出ていると思うのです。出て、自分たちが一番有利なところへ展開したところで
状況が始まってくるということになります。
それから、彼らの航続時間、海の中におれる時間、働いて、そして海峡を通って帰ってくる、そして次に今度はまた海峡を通って出てくるという潜水艦の行動の一サイクルというものがあります。通常ですと出てきてから帰るまでが一サイクルですが、潜水艦の場合は、先ほど申したようにもう既に戦場になるべきところに配備されておりますから、そこから始まってそこに帰ってくるまでの一サイクル、約二ヵ月間ぐらいだろうと私
ども思っておりますけれ
ども、その間にどれだけ我が方は船舶が被害を受け、相手側にどの程度のダメージを与え得るか、撃沈率を稼ぎ得るかというシミュレーションをやりまして、これまたやはり四〇%近いものを持ちませんと、こちらの被害が累増していって、とても
我が国が必要とする海上輸送量というものは確保できないということになります。
そこで、その種のシミュレーションをやって、先ほど申したように、護衛艦隊であれば通常の訓練サイクルで四個群は最低欲しい、五個群がベストであるという、サイクルを行うための、軍としての周期訓練を行うための規模なり、あるいはそれぞれの沿岸海域を警備する部隊、艦艇部隊について言えば少なくとも二隻以上のものが常時各沿岸海域にいるというような
状況を平時からとりたいという前提に立った防衛力で今のようなシミュレーションをやって、それで十分かどうかというシミュレーションをやったという次第であります。