○鈴木(直)政府
委員 オゾン層の
保護に関しますフロン等の
規制のきっかけになりましたのは、先生御存知だと思いますけれ
ども一九七四年、昭和四十九年に米国のカリフォルニア大学のローランド教授とモリナ博士が発表いたしました論文が契機でございます。論文の名称は「
環境中のフルオロクロロメタン類」でございまして、これが反響を呼んだわけでございます。その主
要点でございますけれ
ども、次のようになっております。
エアゾール製品あるいは冷凍機等に用いられておりますフロンが大気中に放出されますと、対流圏内ではほとんど分解されずそのまま成層圏に達します。対流圏といいますのは地上から約二十キロぐらいまでの範囲内で、二十キロ程度を超しますと成層圏になると言われておりますけれ
ども、その対流圏の中では非常に安定しておりますために、
変化しませんで成層圏にまで達してしまう。そこで太陽からの紫外線により分解されまして、フロンに含まれている塩素原子が放出される、それが成層圏の中にございますオゾンを破壊する、しかもそれが連鎖反応的に進行するということでございます。その結果といたしまして、地表に到達する有害な紫外線の量が増加して皮膚がんの発生率が上昇する
可能性がある、こういう議論でございました。現実にフロンは成層圏に既にある程度大量に滞留しているようでございまして、このような不必要なフロンの放出を早急に停止しないと将来地球に深刻な影響を及ぼすことになりかねない、こういう御議論だったと存じます。
この論文の発表を契機にいたしまして、米国を中心にフロン
規制の動きが大変盛り上がったわけでございますが、今御説明いたしましたように、この問題は成層圏の問題でございますので、結局一国のみの対策では十分な効果がない、少なくとも地球的規模で本件に対して対応しなければならないのじゃないか、こういう
認識が高まりまして、その後、国際
会議の場等で議論が行われているわけでございます。
その後、国連にございますUNEP、これは国連
環境計画という名称でございますが、その場で
委員会ができまして具体的な議論に入っていったわけでございますが、そこに
提出されたレポートがございます。これは、具体的には一九八六年八月でございますけれ
ども「人間活動の
オゾン層及び気候に与える影響について」というレポートがございまして、これがそれ以後のフロン
規制に関する国連の場での議論のベースになった、おっしゃったフロンと
オゾン層破壊との関係に関するレポートでございます。そのポイントは、特定のフロンは年間トータルで見ると七ないし一〇%増加傾向にある。一方、
オゾン層でございますけれ
ども、四十キロ高度の成層圏オゾンについては、一九七八年以降二、三%減少している。特に南極大陸上空のオゾンが一九七〇年以降九月から十月にかけて、これは南極におきます春でございますが特に減少していて、そのときのレポートでは四〇%減少している、こういう
報告がございました。ただ、同じ
報告の中に、一九七〇年から八四年までの大気中の総オゾン量につきましては、統計解析を行ったところ特に有意な
変化は示していないということも付記してございました。
しかし、それ以後の議論の中で、いわゆる成層圏の問題でございますから直接そこにおきます影響というものを把握することは実際ではなかなか難しゅうございますし、大気の中で同じような実験をすることは難しいというようなことから、いろいろ想定される化学反応をすべて導き出しまして、それをベースにコンピューターを利用いたしました数量
モデルを使ってシミュレーションをやっているわけでございます。そのシミュレーション
モデルによりまして、成層圏においてどのような形でフロンが
オゾン層の破壊に寄与しているであろうかということを推測したというのがその後の作業の重要な点でございまして、その主要なレポートが一九八七年四月にUNEPの
専門家会合に出されているわけでございます。
そのレポートによりますと、このままフロンが年二ないし四%の量で発生が継続してまいりますと
オゾン層の破壊が相当進むということを言いつつ、仮にそれに対して
規制を行うならば、実際上それに対応する
オゾン層の
保護を図れる
可能性が高いというようなことを具体的に
指摘したわけでございまして、それがベースになりまして今回御提案しております条約なり議定書という方向に結びついていったと存じます。
その議定書の前文に、この物の
考え方に関する非常に基本的な点が書いてございまして「ある種の物質の世界的規模における放出が、人の健康及び
環境に悪影響を及ぼすおそれのある態様で
オゾン層の著しい破壊その他の
変化を生じさせる
可能性のあることを
認識し、」このように言っております。この国際
会議におきまして、
オゾン層の破壊に影響を及ぼすという
可能性を共通
認識として持ったということでございまして、それをベースに予防的措置をとって
オゾン層の
保護策を講じなくてはならない、こういう結論を導き出しているわけでございます。
すなわち、
先ほどの御質問の中の具体的な実証はあるかということでございますが、現在まで国際
会議で議論されましたのは成層圏の問題でございますので、直接そこにおける化学的な現象を見て証明するという段階には至っておりませんが、化学者の
方々が持っておられます
知識、経験というものを総積み上げをいたしまして、それをコンピューター等によりまして推測をし、かつまた具体的に起こっております
オゾン層の
変化について地上からの観測あるいはまた人工衛星による観測等によって見ながら、その
可能性があるということを見た上で結論を出しているということが今回のベースになっていると存じます。
それから、第二の御質問でございましたがんの発生との関係いかん、こういうことでございますけれ
ども、これにつきましても注目すべきレポートは、一九七九年米国の科学アカデミー、これはNASと言っておりますが、それが発表しているわけでございます。これは現在、私
どもの国際的に一応共通の
認識になっている基本的なレポートだと存じますけれ
ども、
オゾン層と紫外線との関係につきましては、紫外線の中で人体に有害な影響を及ぼす短い紫外線、これはUV―Bと言っているようでございますけれ
ども、これを
オゾン層が吸収いたしまして、その結果といたしまして紫外線の量が減る、具体的には
オゾン層の濃度が一%減少いたしますと地表に到達する紫外線の量が平均二%程度増加する、こういう予測をしております。その上で、例えば紫外線の増加が皮膚がんに影響があるかどうかという点でございますが、この点につきましてはマウスによっていろいろ実験をやっているようでございまして、マウスにその有害な短い波長の紫外線を反復照射いたしますと皮膚がんが発生するということが実験的に確かめられているようでございます。
特に皮膚がんの発生
状況も、統計的には次のような形になっているようでございます。
一つは、外部に露出しやすい部分、これは頭とか首とか腕でございますが、その辺に皮膚がんが発生しやすい。それから、色素が紫外線を吸収する皮膚を持っている人種では皮膚がんは少ない。逆に言いますと、白色系の人種の
方々の皮膚がんの発生率は高いということかと存じます。それから、低緯度地域の方が皮膚がんが発生しやすい。低緯度地域というのは赤道に近い方に住んでいる
方々、こういうことになると存じますが、そういうような関係が見出されるというようなことでございます。そのようなことから、具体的にこの全米科学アカデミーの試算によりますと、紫外線の量が一%増加いたしますと、皮膚がんの発生率は平均いたしまして約一%増加するというように見込まれているわけでございまして、
オゾン層の濃度が一%減少すると、結果として皮膚がんの発生率は平均二%増加するのではないか、かような予測が行われたわけでございます。
以上のような、いろいろな各方面の
専門家方のいわゆる科学的な
知識の経験の積み上げというようなことで今回の条約及び議定書という形になり、かつまたそれを実施するための
法律の提案、かような形になっていると存じます。