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斉藤(節)
委員 私は、今まで同僚
委員などがやっておりました
質問の総括みたいな話を最初させていただきます。
まず、私はかねてから我が国の
環境行政について考えてきたのでありますが、このことについて申し上げ、御所見をいただければと存ずる次第でございます。
それは、私なりの解釈を申し上げますならば、長官と
環境庁の次官を初めとするスタッフの方々と、
委員長を中心とする事務、
調査室の方々を含む本
委員会のメンバー、これだけの陣容で我が国の自然を保護していくということでありますが、もちろん、
厚生省、通産省、
建設省その他
関係省庁においても、また地方自治体においても、
環境保全のための行政を行う部局、また対策を行う部局はあるわけであります。しかし、何と申しましてもさきに述べました陣容が我が国の
環境行政の衝に当たっていることは間違いないと思うわけでございます。それゆえに、私は、
政策決定に当たっては慎重の上にも慎重を期した審議を尽くさねばならないと思うわけであります。
もちろん、申すまでもなく、このようなことはどこの
省庁でも同じことでありますが、またどこの
委員会でも同じことでありますが、私は特にこのように申し上げますのは、
政策の決定いかんによっては、将来の子々孫々から大変な恨みを買うことになるのは私たちじゃないかと思うからであります。それゆえ、私たちは未来の人々の利益代表でありまして、目先の利益代表ではないということに徹すべきではないかと思うわけでございます。
一万分の一度の違いでも、宇宙的距離になりますと大変な
方向の違いになるように、
政策におきましても、一万分の一度の
政策決定の違いが将来においてどれほどの違いを生ずるか、はかり知れないのであります。
もし将来、現在の私たちが想像できないほどに我が国の
環境が、否、地球
環境が悪化していたとすれば、未来の人々は、あの当時の
環境委員会がしっかりやっていてくれたなら今日このような
環境にはなっていなかったはずだ、そのように言って、当時の私たちを恨み、また悲しむのじゃないかな、そんなように思うわけでございます。それゆえ、
環境行政は他の行政とは異なると思うわけでございます。したがいまして、私たちは党派に偏することなく、またある種の利益団体の代弁をすることなく、客観的に審議をすべきであると思うわけでございます。そのためには、現時点で個人があるいは社会が保有している知識や経験、それに最新の科学的データを結集して、将来的に最善であると予測、評価される
政策を選択していかなければならないと思うわけでございます。
しかし、このような選択を行う場合にも使う情報には多分に不確実な
要素を含んでいるのでありますから、パーフェクト選択とは言えないわけであります。ある
政策決定を行う場合、あらかじめ、その
政策を
実施したと仮定して得られるプラス面とマイナス面を点数化いたしまして、その総合計点が一番高い場合の
政策を選択すべきであると思うわけであります。もちろん、その場合のプラス面とマイナス面の情報を選択する場合に、恣意的な配慮があってはならないということは申すまでもないことであります。例えば、そのときの経済、政治情勢などの都合のいい情報の選択であってはならないのであります。このように
政策の意思決定を行う場合、用いる情報の選択が難しいことと同時に、使った情報自身にも、さきに述べましたように不確実性を含んでおりますので、それをどれだけカバーしていけるかということにも問題があるわけであります。そのためにはプラス面とマイナス面の得点予測をできるだけ系統的に、いわゆるシステマチックに行った上で合理的な
政策を実行していくべきだと思うのであります。このような合理的な
政策を実行するための手段としてアメリカなどでは、既に、コスト・アンド・ベネフィット・アナリシス、いわゆる費用と便益の分析が行われているわけであります。また、リスク
アセスメント、こういった手法が行われているわけでありますけれ
ども、このことは大変重要なことであると私は思っているわけであります。
ここにいい例としてバチルス・チューリンゲンシスという生物農薬があるわけですが、これはことしの五月十五日の新聞でありますけれ
ども、「生物農薬から下痢毒素」ということで、これは、農水省がいわゆる生物農薬として青虫とかその他いろいろの、白菜あるいはキャベツなどにつく虫を殺す、そういう農薬でありますけれ
ども、実は同じ菌を、
厚生省では食中毒菌として指定しているのですね。農水省と
厚生省、同じ国でありながら
政策が全く反対である。これはとりもなおさずリスク
アセスメントが十分行われてなかったからだと私は思うわけであります。特に先ほど、当時の経済あるいは政治に、そういった状況に支配されることなく、恣意的なそういうデータをとってはならぬと私は申し上げましたけれ
ども、これは明らかに農水省は、欧米では安全だ、だか
らいいのじゃないかと強く主張したのですね。それに対して
厚生省は、余り好ましい状況じゃないということを表明しているわけです。と言いながら押し切られてしまった格好で、これが生物農薬として使われている。それが結局、下痢毒素をつくり出す菌だったということがわかって今非常に問題になっているわけでありますけれ
ども、このように、リスク
アセスメントをしっかりやっておけばこういったような問題は起こらないというふうに私は思うわけでございます。
また、オゾン問題について申し上げますと、このたびのオゾン層破壊物質として問題になりましたフロンとかハロン、こういったようなものについては、いち早くアメリカにおいて使用削減あるいは禁止という措置をとり、また国際的にも条約とか議定書といったような形で締結することになったわけでありますけれ
ども、それは、リスク
アセスメントなどの手法により、将来オゾン層破壊によってこうむる地球的な
規模における
環境への
影響を予測したためであったわけであります。すなわち、現在それを防ぐために費やす経済的負担よりも、対策を講じないために起こると予測される地球
環境破壊から受ける損害の方がはるかに比較にならないほど巨額である、そういう予測から、このたびこのような措置がとられて、先日の商工
委員会でも法案が通ったわけでありますけれ
ども、このようにいわゆるリスク
アセスメントがしっかりしておればこういう
政策をしっかり決めていけるわけであります。
これと同じようなことを、乾電池、これについてリスク
アセスメント手法を導入して将来安全
政策をとるべきではないかということをここで問題にしたいわけでございます。
乾電池の場合、フロンの場合と非常に異なりますのは、幸か不幸か、私は不幸の方が大きいと思うのでありますけれ
ども、土壌汚染とか
水質汚濁または汚染については、その性格上、大体その国自体の問題である場合がほとんどでありまして、国際的問題になりにくいものだと私は思うわけであります。ヨーロッパの国々の場合のように陸続きの国境を持っているようなそういうところは二国間問題あるいは三国間問題ぐ
らいになるかもしれませんけれ
ども、大きな国際問題にまで発展するという問題ではないと思うわけでございます。でありますから、フロンのように国際条約とか議定書などというところまで発展しないものであろうと私は思うわけであります。
それでなくても我が国の行政は、諸外国で十分問題になってからでないと実行に移されないなどの慎重を期していくという姿勢であるとも言われておりますとおり、我が国独自の問題ともなれば外圧もないことでありますからなおさら動きにくいのが現実じゃなかろうかと思うわけでございます。
しかし、私は、ここで強調しておきたいのは、リスク
アセスメントがしっかり確立されていたならば、水俣病あるいは四日市ぜんそく、イタイイタイ病問題などのように多くの痛ましい人命と巨額の経済的負担をしないで済んだのではないか、そういうふうに思うわけであります。すなわち、コスト・アンド・ベネフィット・アナリシスがしっかり行われていれば、工場排水あるいは鉱山
廃棄物あるいは工場排煙などの処理を十分に行われたと思うのであります。もちろん、当時としては、そのような予測を与え得る十分な科学的データが不足していたと言えるでありましょう。しかし、私は、これらの歴史的事実を踏まえて今後の問題に対処すべきであることを強調しているのであります。
ここで私は、国際的反面教師とも言えるような状態になりましたものを例として挙げますと、
一つは、先ほど申し上げました水俣湾の有機水銀汚染、水俣病でございます。二つ目は、四日市石油コンビナートによる
大気汚染、ぜんそくであります。それから、富山県神通川流域のカドミウム鉱毒、いわゆるイタイイタイ病であります。それから四番目は、アメリカ、カリフォルニア州シリコンバレーにおけるハロゲン化炭化水素による地下水の汚染。それから五番目は、アメリカのスリーマイルアイランドで起きました原発事故でございます。これは加圧式の原子炉でございます。それから六番目は、ソ連のチェルノブイリ原発事故、これは黒鉛炉であります。黒鉛炉というのは、アメリカの炉とソ連の炉は全然性質が違います。やり方も違うわけであります。ですからここで挙げたわけでありますが、こういったようなものはほかにもまだあると思いますけれ
ども、これらの事件が、我が国を初め諸外国においても、その轍を踏まないようにということで、現在、対策を十分講じようといった動きがあるというわけであります。
このようなことをいろいろ私は申し上げましたけれ
ども、この次の
質問に入る前に
大臣にここで、私のこういった
意見に対してどのような御所見を持たれておるのか。また、我が国においても、先ほどいろいろ、同僚
委員の
野坂委員からニホンザルの問題も出ました。あれもリスク
アセスメントをしっかりやっておれば問題がなかったし、それから、今同僚
委員の
遠藤委員から話がありました騒音の問題も、しっかりとコストとベネフィットの分析をやっておけば、このぐ
らいの費用をかけても十分便益はあるんだというようなことがわかればよかったわけでありますけれ
ども、あんな問題が今起きているということでございますが、そういったリスク
アセスメントを今後我が国としてしっかり確立すべきであるという私の主張でありますけれ
ども、それに対しましての御所見、それから、もしおやりになるのでありましたら、どのような手順でおやりになろうとされるのか、その辺な
どもお聞きしたいと思いまして、御所見を賜りたいのであります。