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1987-12-15 第111回国会 参議院 外交・総合安全保障に関する調査会 閉会後第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年十二月十五日(火曜日)    午後一時五分開会     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会 長         加藤 武徳君     理 事                 坂元 親男君                 堀江 正夫君                 最上  進君                 志苫  裕君                 和田 教美君                 上田耕一郎君                 関  嘉彦君     委 員                 石井 一二君                 植木 光教君                 大木  浩君                 鈴木 貞敏君                 中西 一郎君                 永野 茂門君                 林 健太郎君                 真鍋 賢二君                 松浦 孝治君                 山内 一郎君                 矢田部 理君                 山口 哲夫君                 中西 珠子君                 田  英夫君                 青島 幸男君    事務局側        第一特別調査室        長        荻本 雄三君    説明員        防衛庁長官官房        防衛審議官    村田 直昭君        防衛庁防衛局調        査第二課長    伊藤 康成君        外務省国際連合        局長       遠藤  實君        外務省情報調査        局安全保障政策        室長       森本  敏君    参考人        国際連合事務次        長        明石  康君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○外交総合安全保障に関する調査  (国際情勢認識に関する件)     ―――――――――――――
  2. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) ただいまから外交総合安全保障に関する調査会を開会いたします。  外交総合安全保障に関する調査のうち、国際情勢認識に関する件を議題とし、INF条約我が国安全保障について参考人から意見を聴取いたし、政府から説明を聴取いたしたいと存じます。  本日は、参考人として国際連合事務次長明石康君に御出席をいただいております。  この際、明石参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところを本調査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  INF条約我が国安全保障について忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  それでは、本日の議事の進め方といたしまして、まず明石参考人から二十分程度意見をお述べいただき、次に外務省から三十分程度防衛庁から二十分程度それぞれ説明を聴取いたし、その後、委員の質疑にお答えいただく方法で進めたいと存じますので、何とぞよろしくお願いをいたします。  まず初めに、明石参考人お願いをいたします。
  3. 明石康

    参考人明石康君) ただいま御紹介にあずかりました明石でございます。  このたびはこういう形でお招きいただきまして大変に光栄に存じております。  私は国連本部におりまして、世界各国議員団が次から次と超党派の形で国連に参りまして、そのような人たちと会う機会も多々ございますけれども、そういう形で各国国会の方々とお会いするということについて、私は非常に重要なことではないかと思っております。  その一つの理由としましては、政府関係者が鋭意国際条約ないしは協定を結ぶわけでございますけれども、そういうふうにして署名された条約ないしは協定を批准するのは各国国会義務でございます。それから第二には、国際協力技術協力ということについても、各国外交政策の重要な一端として取り決めを結ぶわけでございますけれども、そういうことについて予算措置をするのは各国国会義務でございます。それから第三には、各国当事者というのは目前の問題ないしは短期的な問題にどうしても忙殺されます。そういうふうな意味で、中期的、長期的な観点からその国の外交政策国際政治全体の問題について考え、いろいろ提案するという役割各国国会議員役割ではないかというふうに考えております。  そういう三つの点で、我々国連当事者としましては、各国国会議員皆様方との意見交換というものについて非常に重要性を付与しております。  きょうの私の話は大体三つに分けてお話しいたしたいと思っております。  第一点は、ついこの間署名されました米ソ中距離核戦力、いわゆるINF取り決めについてでございます。それから第二には、最近終わりました第四十二回国連総会におきます軍縮討議がどういうものであったかと、その特徴の幾つかについて触れさせていただきたいと思います。第三には、来年の春、五月末から六月に予定されております第三回国連軍縮特別総会というものについて見通しを述べさせていただいて、私の話の締めくくりにさせていただきたいというふうに考えております。  第一には、米ソ中距離核戦力INF取り決めてございますけれども、一九八五年三月から二年半余り交渉を経て、本年十二月八日、米ソ両国の首脳によって署名されたこのINF取り決めは、射程五百キロから五千五百キロの両国陸上配備核戦力廃棄を内容としております。すなわちこれまでの軍備管理に関する国際条約国際協定は数あまたございますけれども、実際の核戦力廃棄を意図しておるという点において、極めて歴史的な意義を有していると言えると思います。この合意は、核兵器拡散条約、いわゆるNPT条約の第六条を引くまでもなく、国連の場を中心核兵器国に対し核軍縮実現を呼びかけてきた国際社会にとっても大いに歓迎すべき出来事であります。廃棄されます核兵器の実際の数は、現在存在する核兵器総数の一〇%にも満たないものではありますが、その及ぼす政治的、心理的な意義は極めて大きいものであることは否定できないと思います。  本件取り決めにおいて特に注目すべき点は、検証面で新しい進展を見せていることでございます。  今時取り決めによって米ソ両国は、条約の発効後、該当兵器の位置とか兵器生産施設等について詳細な情報交換を行い、三年後の完全廃棄、さらにその後の十年間にわたって現地査察を行うことに同意しております。また、必要に応じて短期間に相手側施設を何らの障害もなくチャレンジ査察という形で現地査察を行い、また相手側の国家的な検証手段、いわゆるスパイ衛星ないしは査察衛星による査察を妨害しないという点にも合意がなされております。これはこれまでタブー視されてきた軍事的に機微な情報を公開すること、それをまた現地査察によって確認するという道を開いた点において極めて画期的な成果であります。これらの原則受け入れが将来例えば化学兵器の撤廃というほかの軍縮交渉にも適用されるということになりますれば、検証問題の解決を促進し、軍縮条約権威の維持と信頼醸成見地からも極めて有意義であると申せると思います。  軍縮を行うことによってかえって安全が損なわれるというようなことがあっては本末転倒となります。INF取り決め対象米ソ両国核兵器全体の数%にしか相当しませんが、たとえこのようなわずかな量の兵器削減でありましても、これによって相互均衡が崩れたり安全が損なわれたりするということが予見されたならば、この取り決めは成立しなかったはずでございます。  今回の米ソ・サミット及びINF取り決め署名によって得られた両国間の厳格な検証への合意に基づいて相互の安定と信頼を維持しながら、軍備の水準を下げていくということが確保される見通しがつきましたならば、対弾道弾ミサイル制限条約、いわゆるABM条約の取り扱いをめぐって紆余曲折がこれからもあるとしても、戦略核の五〇%削減ということも、明年前半には現実のものになる可能性がこれで生まれてきたというふうに考えてよろしいかと思います。  国連としましては、INF合意実効性のある戦略核五〇%削減への弾みを与え、また今回の詳細な検証への合意が他の多国間交渉へ好影響を与えるということを期待したいと思います。特に今回合意された検証条項は、将来の軍縮協定を締結する上でのかぎないしは前提ともなり得べきものだと思います。  それから、第四十二回国連総会第一委員会のことしにおける動きについて触れさせていただきたいと思います。  国連加盟国軍縮問題を審議する中心的な場所であります国連総会第一委員会においては、ことしも十月から十一月にかけて軍縮に関するほとんどあらゆる問題が検討され、六十三本の決議が採択されました。今会期におきましては、会期直前の九月、INF廃棄に関して米ソ原則的に合意をなし遂げたということを背景としまして、そういう好ましい環境のもとで開催されたこともございまして、政治的な論争が回避されまして、同一事項を取り扱った決議案の一本化ということが行われまして、例えば採択された決議総数は、昨年の四十七本に比べまして、ことしは四十三本と四本城でございました。  それから数多くの決議案が無投票で、いわゆるコンセンサスで採択されたということも顕著な点でございました。無投票で採択された決議の数は二十二本から二十五本にふえております。  この関連で、一方においては検証とか遵守化学兵器を扱った決議のように、東側西側間の歩み寄りが非常に見られました。そういう歩み寄りの面が見られた反面では、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの非同盟諸国は多くの軍縮分野での即時交渉を求めるなど、今までの立場を維持し、また東側西側が支持しております第一委員会合理化決議案というものに約二十カ国の非同盟諸国が棄権するなど、米ソないしは東西両陣営主導型の動きに非同盟が反発するという動きも出てきております。アメリカは核実験全面停止宇宙軍備競争防止軍縮開発との関係などの分野におきましては、我が国を含む西側諸国初め、多くの国々が賛成しても一国だけ独自の立場を貫くという姿勢幾つかの点で見せたことも注目されました。  新しい傾向としましては、従来のように核の軍縮優先事項として維持しながらも、非核分野重要性に対する認識が深まったことが挙げられると思います。その例としましては、通常兵器軍縮措置を解明しようという動き、それから信頼醸成措置のガイドラインを検討しなければいけないという動きがございまして、いずれも明年五月の国連軍縮委員会の場でさらに検討されることになっております。  軍縮は多くの場合、国際緊張と不信の結果でありまして、その原因であるとは必ずしも言えないと思います。  軍縮措置合意するためには検証措置とその遵守ということが不可欠でありまして、その点についての共通認識が広まりつつあるということは、一つ現実主義の芽生えとして歓迎してよい点ではないかと思います。この二つの分野決議案はいずれも無投票で採択されてきておりまして、カナダが中心となって推進しております検証につきましては、先ほど述べました国連軍縮委員会での審議を経て第三回の軍縮特別総会でも取り上げる予定になっております。軍縮分野におきます国際的な意見表明の場ともいうべき第一委員会軍縮交渉機関ではございません。しかしながら、単なる論争の場ではなく、作業の効率を高め、実現可能な措置についての世界的な共通認識を今後とも広げていくことが第一委員会に関しては期待されておると思います。  それから、来年五月から六月にかけて予定されております第三回の国連軍縮特別総会について触れたいと思います。  本年の国連総会は、一九七八年の第一回総会、それから一九八二年の第二回特別総会に引き続く第三回の軍縮特別総会の開催を、明年五月三十一日より六月二十五日まで四週間にわたって開催することを決定いたしました。米ソ間のINF取り決めのような二国間交渉成功は、国連の場における多国間協議交渉に好ましい影響をもたらすことは言うまでもございません。しかしながら、現実問題としましてこれが直ちに多国間の交渉成功を保証するものだとは言えないのではないかと思います。言いかえますと、二国間交渉進展多国間交渉成功させる必要条件ではありましても、十分な条件とは言えないとも思われます。歴史的に見ましても、二国間の交渉進展しているとき、その交渉当事国はその成果を守り、多国間機関の関与を好まないという傾向を示すことがございます。  INF交渉が、我が国メンバーになっております多国間軍縮交渉機関でございますジュネーブ軍縮会議における核軍縮問題の交渉開始につながっていくかは必ずしも判然といたしません。同時に、米ソ間の核実験に関します交渉開始が先月始まったわけでございますけれども、これが国連軍縮会議での核実験禁止問題の実質的作業開始意味しないということにも留意する必要があるかと思います。米ソ両国のこの問題への対応を別にしまして、核実験禁止に関しましては非同盟諸国は独自のアプローチを提案しております。  国連軍縮特別総会は、先回の第二回の特別総会におきましては我が国鈴木総理を含めます十八名の元首、総理クラス、四十四名の外務大臣クラスの参加を含めまして、軍縮問題を極めて高いレベルから集中的に検討する極めて重要な会議でございました。しかし、特別総会はあくまで軍縮協議機関でございまして交渉機関とは言えないものであります。したがって、特定の軍縮措置についての具体的な合意特別総会において成立するといったような期待は慎むべきではないかと思います。これまでの軍縮が停滞しておる過去の責任お互いに問うということではなくて、国連中心として将来、軍縮の点でいかなる行動がとれるかということについて、未来的な見地から取り組むべき場ではないかと考えます。  一つ例えてみますと、核不拡散条約生物兵器禁止条約化学兵器使用禁止に関する一九二五年の議定書など既に存在します条約遵守権威を高めるといったようなこと、ないしは軍縮会議において鋭意行われております化学兵器交渉並びに戦略核削減核実験等米ソ間の交渉を促進するということを横から進めるという点、ないしは検証とか通常兵器軍縮、客観的な情報公開、ないしは地域軍縮といったような比較的新しい分野での原則アプローチ、これからの国連課題に関して青写真をつくり共通の理解を得るようにする、そういうグローバルな場としての国連軍縮特別総会目的を達成することが非常に大事ではないかと考えております。  もう一つ軍縮特別総会におきましては軍縮機構の見直しも焦点となるかと思います。  ジュネーブにございます四十カ国の軍縮会議、この中では我が国も非常に有力なメンバー一つでございますけれども、現在の四十カ国の構成国を若干拡大することの可否ということ、それからコンセンサス原則になっておりますけれども、それと作業改善の問題、合理化の問題といったような手続問題についても軍縮特別総会において検討が行われるのではないかと思います。  それから、国連総会、その第一委員会補助機関であります国連軍縮委員会につきましては、やや総花的に議事審議する傾向がございますけれども、議題をもっと絞って成果を上げる方向努力するというふうな提案もあるのではないかと思いますし、それから著名人で構成されております軍縮諮問委員会、これは我が方からは前ジュネーブ軍縮大使であります今井大使が参加されておりますけれども、この軍縮諮問委員会についても、単に軍縮研究のみならず国連における軍縮問題全体に取り組む、また、一般的な形でのアドバイスを事務総長に提出するという新しい任務を付与すべきことが議論されるのではないかと思います。  それから、機構問題の最後としましては、軍縮分野における国連役割との関連で、私の担当しております国連軍縮局の機能の強化といったような点も検討対象となろうかと思っております。  最後に、まとめとしまして、軍縮交渉におきます二国間のアプローチ多国間のアプローチというものは、お互いに排他的なものではなくて相互補完的なものだと思います。どちらが欠けても国際平和と軍縮の達成は不可能であると思います。  核軍縮は、米ソを初めとする核兵器国軍事大国努力にまたなければなりませんし、多国間の機関はこれらの国々努力を奨励し要請するという立場にございます。また他方拡散防止条約NPTを柱とするそういう核不拡散体制強化とか化学兵器全面停止とか、地域軍縮を推進するとか、こういう問題は明らかに世界のほとんどの国を含む多国間のアプローチがどうしても必要とされる分野でございます。そういう意味で、ジュネーブ軍縮会議国連自体会議をする余地は非常に大きいものがあると思われます。  核実験禁止に関しましても、地震学的な検証方法開発とデータの世界的伝達及びすべての核実験停止の確保という見地からも、二国間の交渉と並行しまして多国間の努力が必要とされる分野だろうと存じます。そのためにも、日本を含む地震学専門家委員会も既に十一年間ジュネーブ活動をしております。  日本としましては、軍縮会議国連の場で、核実験禁止化学兵器禁止に活発な活動を続けてきておりますが、今後さらに西側一員米国同盟国という立場に立ちながらも、唯一の被爆国としての、また平和憲法を持つ国として、その持てる経済力政治的安定性、進んだ科学技術というものを利用し、西側内の立場の調整、検証問題への寄与、多国間の交渉において今後とも積極的に貢献されることを期待したいと存じます。  最後に、軍縮というものは国の安全保障と表裏一体をなすものでございます。したがって、非常に複雑なものであり、大きな困難を伴う問題でございます。均衡を保ちつつ検証措置を伴った実現可能かつ具体的な軍縮措置を粘り強く探求する努力を通じて、軍備に依存することによる安全保障を徐々に軍縮による安全保障によって置きかえていく、そのことは第一回軍縮特別総会最終宣言にもうたってございます。現在の平和が不十分な形であり、戦略的な均衡によって保たれておること。しかし、それをより軍備の低い段階の戦略的平等に持っていくということが目的である点においては、西側諸国社会主義圏も一致しておるわけでございます。INFに関する米ソ共同声明も「戦略的安定」という言葉に何度か触れております。  検証につきましては、今までのような原則論ではなくて、今後は具体的にいかなる義務お互い受け入れ得るか、例えば機密情報の提供は可能であろうかといったような問題。例えば化学兵器に関しましては、化学工業企業秘密の問題なんかが具体的な問題となってくると思います。ゴルバチョフソ連書記長が、ソ連透明度を大きくするという点から西側が驚くような検証措置を提案するようになってきております。そういう意味で、単なるスローガンではない軍縮へのきめ細かい現実的なアプローチ、それに伴う政治的、財政的その他の負担の受け入れということが今後の各国課題になってきております。この関連で、国連の将来持つ役割と、それからその中で日本の果たし得る大きな貢献というものも真剣に検討されるべき段階に入ってきているというふうに考えられると思います。  どうも長くなりまして失礼いたしました。
  4. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) ありがとうございました。  それでは次に、外務省お願いをいたします。遠藤国際連合局長
  5. 遠藤實

    説明員遠藤實君) 外務省国連局長遠藤でございます。  本日は、INF条約交渉経緯署名意義及び我が国安全保障についての諸問題ということで御説明を申し上げたいと思います。  大別いたしまして、第一にINF交渉経緯意義、次にグローバルな観点から見ましたINF交渉我が国安全保障という順序で御説明を申し上げたいと思います。  御案内のように、十二月八日、ワシントンにおきまして、レーガン大統領ゴルバチョフ書記長との間でINF条約署名されました。これによりまして一九八一年十一月三十日からジュネーブにおいて開始され、途中ソ連による交渉の離脱といった期間がございましたけれども、これを含めまして約六年間にわたった長期間の中距離核戦力に関する米ソ交渉が妥結したわけでございます。  ここで、本題に入ります前に若干前置きといたしまして、我が国にとって米ソ交渉意味、それから軍備管理軍縮問題一般に対する我が国基本姿勢について一言触れさせていただきたいと思います。  我が国といたしましては、米ソ交渉の帰趨が我が国安全保障にも重大な影響を及ぼすということから、これを重視いたしまして、INF交渉の行方に重大な関心を持ってきたわけでございます。  そもそも軍備管理軍縮は、軍備を可能な限り低いレベル均衡させるということによりまして、関係国安全保障を高めるべきものでありまして、また当然、その合意につきまして効果的な検証措置が確保されていることが重要であるというのが我が国基本的認識であります。米国もかかる方向対ソ交渉を進めるべく努力してきていると理解しておりまして、我が国西側一員として、米国のかかる努力を支援してきたところであります。  現実世界核兵器の大宗を保有いたします米ソ間の核軍縮交渉が、軍縮なかんずく核軍縮の促進にとりまして重大な意味を持つことは当然でございまして、その意味我が国といたしましても、米ソ両国が特別な責任を有するということを強調してきたところであります。  他方軍備管理軍縮は、米ソ両国のみに任せておいてもよいというものではありませんで、多国間における軍縮への努力が重要なことも言をまたないところであります。  先ほどの明石国連事務次長の話もございましたけれども、我が国といたしましては、国連ジュネーブ軍縮会議等の場を通じまして、国際的な軍縮努力に積極的に参加するということを基本政策としてきております。このような多国間の軍縮努力においても、さきに述べました軍縮に対する基本姿勢は同じでありまして、単なる宣伝的な行為ではなく、実効的かつ具体的な措置を着実にとっていくべきであると訴えてきたところであります。このような観点から、例えば検証措置等につきまして、地震探知についての我が国貢献等は特筆さるべきではないかと考えております。我が国といたしましては、今後ともかかる努力を続けていく所存でございます。  そこで、本題に戻らせていただきますと、まず交渉妥結に至る経緯でございますが、一九七〇年代の半ばに至りまして、ソ連戦略核兵器分野、特に大陸間弾道弾につきまして米国に追いつき、いわゆる戦略核均衡、パリティに達したと認識されるに至ったということに加えまして、一九七七年からは、飛距離命中精度移動性等の面ですぐれた性能を有する三弾頭の中距離核ミサイルSS20の配備を開始いたしました。  これに対しまして欧州NATO諸国内では、このSS20の配備を契機に、それまでのワルシャワ条約機構軍通常戦力面での優位に加えまして、SS20の戦力が、これに対抗する米国ミサイルがないままに増強されるということは、米国戦略兵器欧州防衛から切り離し得るとソ連が信じるに至るのではないかという懸念が抱かれたわけであります。これがいわゆる米欧デカップリングの懸念であります。  NATO諸国は、このような状況におきまして集中的な論議の末、一九七九年十二月、いわゆる交渉配備という二重決定を行ったわけであります。すなわち、ソ連SS20配備増強に対抗して、一九八三年末より米国は長距離のINFミサイル五百七十二基のヨーロッパ配備段階的に行う、同時にソ連との間で、米ソ長距離INFミサイルの最も低いレベルでのグローバルな均衡の達成、及び短距離INFミサイルに規制を目指すという交渉を行う、これがこの二重決定の内容であります。  その後、米国はこのNATOの二重決定に基づきましてソ連との間でSS20に代表される中距離核戦力規制のための交渉を求めまして、一九八一年十一月三十日から米ソINF交渉が開始されたわけであります。  なお、交渉開始に先立つ八一年の十一月十九日に、レーガン大統領はワシントンのナショナル・プレス・クラブでの演説におきまして、ソ連SS20等のINFを撤廃すれば米国もパーシングⅡ、地上発射巡航ミサイルの西欧配備計画を中止するという、いわゆるグローバル・ゼロ・オプション提案を行ったわけでありますが、ソ連側は同提案を拒否いたしました。この一九八一年十一月十九日のレーガン大統領提案が今次INF条約におけるINFグローバル全廃のそもそもの発端であるということは御案内のとおりでございます。  当時、このレーガン大統領提案に対しまして、我が国は外務大臣談話を発出いたしましてこれを歓迎いたしました。しかしながら、米ソ交渉進展を見せないままソ連SS20配備増強が続けられましたために、米国は西欧防衛のための抑止力の信頼性を維持強化するべく、さきのNATO二重決定に基づきまして、一九八三年末から西欧へのパージングーⅡ及び地上発射巡航ミサイル配備に着手いたしました。ソ連はこれを不服として、一九八三年十一月、一方的に交渉を離脱し、INF交渉は中断いたしました。  その後、米ソ両国は一九八五年一月、INF交渉を含む新たな軍備管理交渉、通常、核及び宇宙兵器交渉といっておりますが、これを開始することで合意いたしまして、八五年の三月からINF交渉が再開されました。そして、紆余曲折を経まして、先般の条約署名に至ったわけであります。  この間、一九八五年十一月のジュネーブでの米ソ首脳会談におきまして、米ソ両国INF合意に向けての作業をSDI、戦略核という他の分野とは切り離して促進するということで合意に達しまして、翌八六年十月のレイキャビックでの米ソ首脳会談におきまして、両国首脳は長射程のINF、すなわちSS20、パージングーⅡ、地上発射巡航ミサイルにつきまして双方グローバル百弾頭、欧州ゼロとすることで原則的に合意したものの、ゴルバチョフ書記長INFをSDI等の他の分野とリンクさせるパッケージ合意を会合の最終段階に至り主張いたしましたために、右は潜在的な合意にとどまったわけであります。  その後、本年二月に至りまして、ソ連INF交渉をSDI等の他の交渉分野と切り離して進めるという立場に戻りました。またソ連は、本年七月には、米国が一九八一年のINF交渉開始以来提案し、我が国が一貫して主張してまいりましたINFのグローバル全廃を受け入れる旨表明いたしましたことから、交渉上の主要な障害が取り除かれたわけであります。  以上の経緯を経まして、本年九月の米ソ外相会談においてINF条約締結に関する原則的な合意が成立し、その後三たびの米ソ外相会談とジュネーブにおける交渉によりまして、十二月八日にINF条約署名の運びとなったわけであります。  次に、INF条約署名意義に移りたいと思います。  この条約は、初めて米ソ間の核兵器削減するという意味を持つものであります。今次のご条約は、従来の軍備管理交渉あるいは軍縮交渉核兵器の上根を設けるといったところにせいぜいとどまったわけでございますが、今回は既存の核兵器交渉を通じて初めて相互削減するというものでありまして、核軍縮の第一歩として画期的な意義を有するものと考えております。  さらに、このINF条約におきましては、アジアも含めてグローバルな全廃を規定しているものということであります。今次の条約は、交渉開始以来、米国が提案し我が国が主張してきた、アジア部を含むINFのグローバルな全廃をもたらすものでありまして、我が国としてはかかる最終合意をもたらした米国交渉努力を高く評価するとともに、これが西側結束の成果であると考えております。  アジア部のSS20に関するソ連の主張は、交渉当初は欧州撤去分のSS20をアジア部に移転する、これは八三年一月十七日のグロムイコ外相の発言でございますが、こういう立場であったわけでございますが、その後、アジア部のSS20は凍結する、これは八三年八月二十七日のアンドロポフ書記長の発言でございます。  こういう立場に変更されまして、さらに一九八六年のレイキャビック首脳会合以降は、欧州はゼロにするがアジアに百弾頭残すという立場に変わりまして、しかし結局、本年七月、ゴルバチョフ書記長がインドネシア「ムルデカ」紙とのインタビューにおいてグローバルな全廃への同意を表明したわけであります。ソ連が最終的にグローバルな全廃に同意するに至った背景に関しまして、ソ連自身は、アジア諸国民の要望にこたえるためと言っておりますが、その真意に関して種々の見解があることは御案内のとおりでございます。ソ連INF交渉開始以来何度か立場を変えてきている背景といたしまして、本件交渉開始以来我が国を初めとする西欧諸国、西側諸国が結束いたしまして米国交渉努力を支持し、断固たる態度を示してきたことに負うところが大であると周時に、ソ連SS20配備への対抗措置として、米国NATO諸国へパーシングーⅡび地上発射巡航ミサイル配備を行ったことも影響を与えたものと考えられるところでありますが、ソ連アジア部のSS20に関しては米国交渉努力のほかに、我が国が機会あるごとにソ連指導部・外交当局に対しましてSS20のグローバル全廃を申し入れてきた外交努力の積み上げも、ソ連指導部に一定の影響力を与えたものと考えております。  次に、このINF条約のさらにもう一つの特徴でございますが、今回初めて本格的な現地査察について合意したという点がございます。この条約には本格的な現地査察を含む詳細な検証規定が初めて盛り込まれているということでございますが、これは今後、戦略核化学兵器等の条約を作成する際に、検証に関する前例となり得るものと考えております。なお、この詳細は、条約の内容についての説明でお配りしてありますところに箇条書きで書いてあります。もし必要でございましたら後ほどさらに詳細触れたいと思います。  次に、INF条約の内容といたしまして、条約は本文が全部で十七条、廃棄手続に関する議定書査察に関する議定書、その他了解事項等の関連文書から成るものでありまして、その概要につきましては配付されております資料にあるとおりでございます。  条約対象となるINFにつきましては、射程五百から五千五百キロの地上発射の弾道ミサイル及び地上発射の巡航ミサイルということであります。それから廃棄されるミサイル数、これは米側高官の記者会見によりますと、米側が八百五十九、ソ連が千七百五十二。  それから、廃棄の手順といたしましては、長射程INFは二段階に分けて三年間で廃棄、それから短射程のINF条約発効後十八カ月以内に廃棄ということでございます。それから廃棄方法につきましては、地上での爆破によって行われるけれども、発射による廃棄、展示物としての保存等も一定の条件のもとに認められるということでございます。  それから検証のシステムは、ここに項目が掲げられてありますように、非常に広範かつ詳細にわたるものであります。この点につきましてはまた御質問ございましたら御説明いたしたいと思います。  それから一言ちょっと、お配りいたしました資料の二ページ目にございます表で、中に黒枠で囲っておりますのが今回のINF撤廃条約対象となるミサイルでございます。これはごらんいただければおわかりになるかと思いますので、詳細の説明は省略させていただきます。  次に、グローバルな観点から見ましたINF条約我が国安全保障につきまして御説明申し上げたいと思います。  まずその中で、第一に東西関係全体の中におけるINF条約の位置づけてあります。  INFのグローバル全廃が合意されたということを弾みといたしまして、今後米ソ軍備管理交渉の他の分野、特に戦略核の五〇%削減についての進展が注目されるところでありますが、先日ワシントンで行われました米ソ首脳会談においては大きな進展は見られなかったと言えるかと思います。戦略核削減につきましては米ソとも前向きの姿勢を示しておりまして、首脳会談後の米ソ共同声明におきましても、一九八八年前半の次回首脳会談での署名に間に合うよう条約を完成させるべく作業を行うよう、ジュネーブ交渉団に指示することで合意したというふうに言っておりまして、次回の首脳会談までに五〇%削減の中身、特に戦略核の内訳等につきまして交渉進展が期待されるわけでございますが、戦略核の問題は米ソ双方にとりましておのおのの核戦力体系の根幹をなすものでございまして、合意が得られるまでにはさらに紆余曲折があり得る、今後の展開については予断を許さないものがあるというふうに考えております。  また、軍備管理交渉軍縮交渉に不可欠の検証につきましても、INF合意での検証措置というのは参考にはなりますけれども、同時にINFの場合は全廃でありまして、全廃の場合と半分残る場合これは検証の難しさは質的に異なる、はるかに難しいという問題もございます。  なお、防御・宇宙の分野におきましては共同ステートメントによりますと、まず第一に、一九七二年に署名された形でABM条約遵守しつつ同条約で認められる研究、開発及び試験を必要に応じ実施する、一定の期間は同条約から離脱しない。それから第二点といたしまして、今の右の一定期間終了の少なくとも三年前までに戦略的安定に関する検討を開始する、その間に双方が他の合意に至らない限りその一定期間終了後双方は自由にみずからの行動を決定することができる。第三に、かかる合意は、戦略攻撃兵器に関する条約ABM条約等と同様、法的ステータスを有するものとするという合意が見られております。  そこで、INF条約と東西関係でございますが、INF条約署名それ自身はさきに述べましたような意義を有するものでございますが、これを東西関係全体の文脈の中でとらえる際には、以下の観点から十分な注意を払う必要があるわけでありまして、核弾頭全体からいたしますと数%と言われる今回のINFの全廃条約署名をもって東西関係進展に過大な期待を抱くということには慎重である必要があろうと考えております。  すなわち、軍縮は東西関係の重要な要素でございますけれども全部ではありません。東西関係はトータルな関係でなければならないわけでありまして、INF条約に関してソ連側がしばしばその立場を変更してきたにもかかわらず、我が国を初めとする西側諸国が当初より主張してきたINFのグローバル全廃につき、最終的にソ連との間で合意が得られたことは、ウィリアムズバーグ・サミットにおいて確認されたように、西側の安全は不可分でおるという認識のもとに、西側諸国がその結束を維持しつつ米国対ソ交渉努力を一貫して支持してきたこと。したがって、今後INF条約署名を契機として真の東西関係進展が実現するには、戦略核削減はもとより、化学兵器、通常戦力をも含めた軍縮問題全体についての協議の進展、アフガニスタン、カンボジア問題を初めとする地域問題の実質的な解決、さらには人権、二国間問題における米ソ間の協議の進展等が肝要でありまして、この過程において西側諸国としては、ソ連との対話の道を維持しつつ、西側の結束を維持することによりまして米国交渉努力を引き続き支援していくことが必要と考えております。その際、東西関係の将来に希望を抱く必要がありますが、真に東西関係進展するかどうか見きわめていかなければならないという、一貫した態度を維持していくことが重要であると考えております。  次に、INF条約後の西側安全保障につきまして、西欧諸国に広がっております安全保障上の懸念の問題と、それから我が国安全保障INF条約について最後に触れたいと思います。  まず、西欧諸国の問題でございますが、今般のINF条約署名によりましてINFのグローバル全廃が合意されたということは、一九七九年のNATOのいわゆる二重決定に沿ったものでありまして、西欧諸国、特にNATO諸国としては協定それ自体は評価できるとしているところであります。しかしながら、そもそも通常兵力の面でワルシャワ条約機構軍NATO軍に対して圧倒的に優位にあった状況に加えて、ソ連SS20を一方的に配備したことにINF交渉の発端があったということからいたしますと、NATO諸国としては、かかる通常戦力面での脅威にいかに対処していくかは引き続き重要な問題でありまして、加えて米国INF欧州から撤廃されることによって、米国欧州における核抑止力が今後いかにして維持されていくかにつき、深刻な懸念NATO諸国内に広がっているということが指摘されております。  以上を踏まえたNATO諸国立場は次の諸点に集約されるかと思います。  すなわち、一、INFのグローバル全廃を歓迎し、これを支持する。二、今次合意は長期にわたる同盟諸国の決意と団結によりなし得たものである。三、NATOにとり柔軟反応戦略は不可欠であり、その維持のために通常・核両面において必要な防衛努力を継続する。今後、NATO諸国INF後の西欧の安全保障につきいかなる対応を行っていくかについては、西側一員としての我が国にとっても関心の高いところであります。  最後に、我が国安全保障INF条約について御説明したいと思います。  今般のINF条約署名によりまして、ソ連中距離核戦力、特にSS20の我が国に対する脅威が取り除かれたということは、我が国安全保障上も歓迎し得るところであります。しかし、我が国としては、我が国固有の北方領土をソ連が引き続き不法に占拠しており、かつ北方領土のうち、国後、択捉、色丹島にソ連が一九七八年以来地上軍を再配備しており、その規模も師団級であると推定されること、さらには、我が国周辺における極東ソ連軍の増強及びその活動の活発化には変化が見られないことから、我が国周辺の状況には依然として厳しいものがあると考えております。ソ連側は、昨年七月のゴルバチョフ書記長のウラジオストク演説に見られるように、アジア・太平洋地域への関心の高まりを示してはおりますが、これまでのところ我が国周辺におけるソ連側の行動には何ら変化がないということから、今後ソ連側が言葉ではなく具体的にどのような行動を示してくるかにつき慎重に見きわめていく考えであります。  いずれにいたしましても、今後とも我が国はその安全保障を、日米安保体制の円滑かつ効果的運用を図るとともに、自衛のために必要な限度において質の高い防衛力の整備を行い、同時に、我が国を取り巻く国際環境をできる限り平和で安定的なものにするための積極的な外交を展開することにより確保してまいりたいと存じております。  どうもありがとうございました。
  6. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) ありがとうございました。  それでは次に、防衛庁お願いをいたします。村田防衛審議官
  7. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) 今御紹介いただきました防衛庁の村田でございます。  若干のお時間をいただきまして、本日の課題でございますINF条約我が国及びアジアの安全保障に及ぼす影響等について御説明させていただきます。  まず、本件についての基本的な認識について申し述べます。  去る十二月九日開催されました米ソ首脳会談において、レーガン大統領ゴルバチョフ書記長は、アジアを含むグローバルなINFミサイル全廃条約署名いたしました。地上発射のINFミサイルという特定の核兵器に関するものとは申せ、現存の核兵器が撤廃されることとなり、かつ、現地査察を含む厳格な検証を行うこととされたことは画期的なものでありまして、軍備管理軍縮の実質的な進展を強く期待してまいりました我が国としても歓迎しておるところでございます。しかし、INFミサイルが撤廃されたといたしましても、アジアにおきましても巨大な核及び通常戦力が存在することには変わりがなく、依然としてアジアの軍事情勢には厳しいものがあると申せます。  いずれにしましても、我が国の防衛力整備は、通常兵器による限定的かつ小規模な侵略に有効に対処し得る防衛力の保有を目標とするものでございまして、INFミサイルの撤廃によって我が国の防衛政策に変更を生じるといったものではないと考えております。  第二に、SS20の軍事的意義と撤廃に向けての努力についてでございます。  今般のINFミサイル全廃条約によりましてアジア地域から撤廃される核ミサイルは、ソ連SS20、SS12等でありますが、その能力、軍事的機能等からSS20ミサイルが最も注目されてきたところでございます。極東地域へのSS20の配備は、欧州への配備と相前後しまして一九七七年から開始され、その後急速に増強が重ねられまして、現在では、ソ連全土に配備されている四百五基のうち約百六十二基のSS20が極東ソ連配備されておりますことは御案内のとおりでございます。  SS20は、射程が約五千キロに及び、三弾頭のMIRVを搭載し、命中精度が高く、再装てんが可能ということで、移動性のある画期的なミサイルでございまして、それまで極東ソ連配備されていた旧式のSS4、SSミサイルと比較しまして格段に能力の向上が図られております。極東においては、シベリア中央部とバイカル湖周辺地域に配備され、我が国及び中国を含むアジアのほぼ全域を射程内におさめており、これらの地域に対する至短時間での攻撃能力を大幅に向上させてまいりました。  このようなSS20の能力から見まして、SS20の配備は、その射程内に置かれた我が国を含む自由主義諸国内に米国の抑止力への信頼性に対する不安を醸成し、米国とこれら諸国との分断を図っているものであるとも見られておりました。  これに対し米国は、アジア地域にSS20に相当する核ミサイル配備しておりません。このようなご軍事的意義を有するSS20の増強に対しまして、中国を初めアジアの国々は、アジアの安全保障に重大な影響を与えるものとして深い懸念を常々表明してまいっておりました。我が国としましても、SS20の増強を含む極東ソ連軍の質、量両面にわたる増強とその行動の活発化は、我が国に対する極東ソ連軍の潜在的脅威を増大させるものと認識しまして、米ソINFミサイル削減交渉に対しましては、アジアを含むグローバルな撤廃を強く要請してまいったところでございます。今般INFミサイルが撤廃されることとなりましたことは、我が国を含めた米国を初めとする西側諸国の一体となった努力成果と申せると思います。  第三に、INFが全廃された場合のアジアの軍事情勢について申し上げます。  極東に配備されております百六十二基のSS20は、我が国や中国等を射程内におさめており、発射後十数分以内に我が国などに到達できる性能を有しておりますが、今後これが廃棄されるということになりますれば、このような機能を果たし得るソ連の軍事能力が減少することは事実でございます。しかしながら、今般廃棄対象となるINFミサイルは全地球上の核弾頭総数の数%にすぎないと言われておりまして、巨大な量の核兵器が依然としてアジアを含めました世界に存在するという冷厳な事実が変わるものではありません。  また、通常戦力については、従来から東西の間に大きな不均衡があるとの懸念がありますが、これに対し、米国を初めとする自由主義諸国は核兵器の抑止力を背景として対処しているところでございます。さらに、できるだけ核兵器に頼ることなく抑止効果を向上させるため通常戦力の整備に努めておりますが、この面では軍備管理軍縮については話し合いは行われているものの、いまだ将来の課題にとどまっております。他方、アジアにおいてもソ連の巨大な軍事力が展開している状況に変わりはなく、また、通常戦力について軍備管理軍縮の端緒も見られておらず、強大な軍事力が展開し、各地で対峙している状況にございます。  このような基本的な認識に立って、以下INFミサイルが全廃された場合の影響を踏まえて、アジアの軍事情勢についてその概観を申し述べますが、米ソINFミサイル全廃によって現在見られる軍事的対峙の状況、軍事情勢の厳しさに基本的な変化が見られることを予測するのは困難だと考えております。  第一に、米ソ関係について見ますと、この地域においても米ソのグローバルな軍事的対峙の一環としての対峙が存在をしております。ソ連は極東地域にソ連全体の四分の一から三分の一に相当する軍事力を配備し、引き続き質、量両面にわたる増強を行っております。この地域に配備されている約八十五機のTU20Mバックファイア爆撃機は、地上目標や我が国周辺海域に対するすぐれた攻撃能力を有しておりまして、核の搭載も可能なものでございます。一方、米国は紛争を抑止し、米国及び同盟諸国の利益を守る政策をとってまいっており、この地域においても太平洋軍隷下の陸、海、空軍の一部を前方展開しております。米ソ二国間の関係全般においては、今般のINFミサイル全廃条約の締結や戦略核兵器削減交渉進展等改善の兆しが見えまするものの、以上申し上げましたように、この地域においても米ソ両国は軍事的に厳しく対峙しておる状況にございます。  第二に、中ソ関係につきましては種々の関係改善の努力が行われているにもかかわらず、中ソ国境においては、引き続き双方合わせて百八十万人以上という大規模な軍事力が配備されており、両国の基本的な軍事的対峙の状況に変化は見られておりません。ソ連は、中ソ国境周辺において現在五十七個師団、約五十万人以上の地上兵力を配備しております。一方、中国は、ソ連アジア部に配備されているSS20が中国を含むアジア各国に重大な脅威となっているとの認識を示し、かねてからSS20の削減を求めてまいったところでありまして、今般のソ連INFミサイルの撤廃を基本的には歓迎しております。しかしながら、依然ソ連を最大の軍事的脅威と認識していると見られ、中ソ国境周辺には、百三十万人以上という大規模な兵力を配備しているところでございます。  第三に、朝鮮半島におきましては、昨年一月に対話が中断されて以来、その再開の見通しは立つておりませんで、依然として百二十万人を超える地上軍が非武装地帯を挟んで対峙しており、軍事的緊張が続いている状況に変化は見られません。  このような軍事情勢の中にあって、極東ソ連軍は、通常戦力につきましても質、量両面にわたり顕著に増強されております。海上兵力は、三隻のキエフ級空母のうち二隻、さらにキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦が配備されておるなど、ソ連海軍最大の太平洋艦隊はその能力を一層向上させつつあります。また、航空兵力は、戦闘機の約八割が第三世代航空機によって占められ、最新型のスホーイ27戦闘機などが配備され始めているなど、引き続き近代化が進められております。さらに地上兵力の増強近代化も着々と進められております。  また、ソ連は、一九七八年以降、我が国固有の領土である北方領土に地上軍部隊を再配備し、現在では師団規模と推定される地上軍部隊や、約四十機のミグ23戦闘機を配備している状況でございます。  ソ連は、以上のような軍事力増強とともに、我が国周辺におきまして艦艇及び航空機の活動を活発化させておりますが、去る十二月九日には、ソ連のTU16バジャーJ型一機が沖縄本島上空及び徳之島-沖永良部島間の領海上空を侵犯したことは先般御承知のとおりでございます。このような事実は、この地域の国際軍事情勢を厳しくしているのみならず一我が国に対する潜在的脅威の増大と受けとめざるを得ず、ソ連INFミサイルの撤廃によってこの状態が変わるものではないと考えております。  最後に、今後の我が国の防衛政策についてでございます。  冒頭に申し上げましたように、我が国は今般のINFミサイル全廃条約を歓迎しておりますし、今後さらに、米ソ間において戦略核戦力等の分野についても軍備管理軍縮進展することを強く期待しておるところでございます。いずれにしましても、我が国は核の脅威に対しては米国の核抑止力に依存することとしております。  他方我が国の防衛力整備は、御承知のとおり、通常兵器による限定的かつ小規模な侵略に有効に対処し得る防衛力の保有を目標とするものでございます。したがいまして、アジアを含むINFミサイルの全廃によりましても、このような防衛政策を見直すといったことにはならないわけでありまして、今後とも厳しい国際軍事情勢にかんがみ、非核三原則を堅持しつつ自衛のため心要最小限度の防衛力を保有し、核及び通常戦力から成る米国の抑止力と相まって、我が国に対する侵略の未然防止に努めてまいる所存でございます。  以上でございます。
  8. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) ありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取、政府からの説明聴取を終わります。  それでは、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  9. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 ただいまはお三方から大変貴重な御意見を拝聴しましてありがとうございました。まず御礼を申し上げます。  私は、今回の調印は確かに世界人類にとって画期的なことであって、まさに人類の希望、悲願に沿うものであることを高く評価するのにもちろんやぶさかではないわけであります。これが米ソともにただ人道主義で行ったなどというそういう所論もありますが、そのような説にはにわかに賛同できないわけであります。そこには両国の国益が大きな基本となっておる、これは当然でもありますし、間違いないことだと、私はそう受けとめております。特に最近、北大の木村教授も指摘しておられましたが、ソ連の一貫した力の信奉がこれによって変化をした、あるいは近く変化をするだろう、こういったようなことは到底考えられない。したがって、両国の今後の努力に期待をし、その推移を希望を持ちながら注意深く見守ってまいりたいと思うのでありまして、一部の平和攻勢等によって日本はその対応を誤まることがあってはならないと思うわけでございます。  以下、四つの点につきまして、外務省及び防衛庁にお尋ねをしたいと思います。  その第一は、今いろいろと御説明もございましたが、今回の検証合意内容によって、本当に全面的な確実な廃絶ができて、また従来SALTI、ABM条約等で行われましたような抜け道を生じて、これにかわるようなものが新たに出現する可能性は絶無であると言えるのかどうかという点でございます。  と申しますのは、本年六月に、加藤会長以下私ども若干名で訪米をいたしました。そのときに、エメリー軍備管理軍縮局次長とお会いいたしましたときに、この検証の問題につきまして、私の記憶によりますと、大筋で大切なことをやっておけば小さな細部のことまでする必要はないのだといったような印象の言葉がありました。私はそれを聞いて大変衝撃を受けたわけであります。当時の状況からいいますと、アメリカはなるべく早い時期の両首脳の会談を望んでいる、あるいはこのINFの調印を志向しているという印象を持ったわけでありますが、それと今度のこの検証、これのシステム、このかかわり合いというものをどう見たらいいのかなということでございます。  さらに申し上げますと、従来から、先ほどSALTⅠあるいはABM条約で申し上げましたが、この種の協定というものはできるだけ全部を終えんするように決められるわけでございますが、実際の実効ということになりますと終えんできない面が出てくるんじゃないか。実際に検証をやってみますと、そこにはあらかじめ協定をした範囲では律せられないようなものが出てくる可能性が十二分にあるんじゃないかということ。  さらに、このSS20というのは、何しろ広大なソ連の国土の中で移動性を持ったものである、それが本当に検証できるのかということ。検証段階におきましても、今日までの長い両国の国民の不信感というものがどのように作用するのか。あれこれ思いますと、確実な検証によるその実効というものを心から願うものでありますけれども、本当にその願いが確実に達成されるというふうに見ていいかどうか、こういう点でございまして、外務省からお答えを願いたいと思います。
  10. 遠藤實

    説明員遠藤實君) お答え申し上げます。  これをかいくぐって何らかの違反行為がなされる可能性が絶無か、こういうふうに質問をされますと、実はこれは私は、個人的にはちょっと一〇〇%と申し上げるのはちゅうちょいたしますけれども、少なくとも長期間にわたる交渉の末に、およそ考え得る抜け道はふさいだというのが両国間の当事者の感じであろうと思いますし、特に米国の場合は、検証措置に抜かりがあるということになりますと、議会がその点を問題にしてこの条約の批准というものが得られない可能性があるわけであります。したがいまして、その意味では交渉当事者は少なくとも万全を期したということは言えると思っております。  そこで事実、従来にない例えば現地査察でありますとか、あるいは抜き打ち査察といった制度も盛り込まれておりますし、それからさらに、仮に予見し得なかったような事態、そういった事態に備えまして、特別査察委員会が一方の要請によって開催されるということであります。したがって、我が国としては少なくとも現段階においてこれ以上のものは望み得ないというふうに考えております。
  11. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 私が今御質問したのは、やはり国民の中で従来の経緯から大変心配しておるという声を外務省当局も十分に了解していただいて、今後の米ソのこの廃絶の進行の中で何らかの役割を果たしていただきたい、こういう願いを込めて質問したわけでございます。  次は、これは外務省防衛庁両当局にお尋ねをします。  それは、今日まで世界の常識でありました核を含む軍事力の均衡の上に立った抑止論に対して、既にお二人とも若干の見解は示しておられるわけでございますが、今年の春、ゴルバチョフ書記長が、モスクワで行いました国際フォーラムで核抑止論否定の見解を述べておることは御承知のとおりでございます。このINF条約が調印をされた直後から国内でも一部で、もうこの抑止論というのは成り立たなくなったのだ、いや低下するんだ、あるいは抑止論そのものが間違いだったんだといったような議論も出ておるわけでございます。私は決してそうは思わないわけであります。やはり軍事力の均衡の上に立った抑止論行動というものは基本的に変わっていないし、これは低レベルに持っていくということは必要だけれども、それでなければ世界の平和は保てないと思っております。その辺につきまして、結論だけでよろしゅうございます、外務省、続いて防衛庁から承ります。
  12. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今先生の方から御指摘になりました問題につきましては、結論から申し上げますと、今日の国際社会というのは、依然として核兵器を含めた力の均衡に基づく抑止が平和と安定を支えているというのが冷厳な現実でございまして、核の使用を含めて武力衝突を未然に防止するためには、力の均衡を通じて有効な抑止力を維持するために努力しなければならないと考えております。今回のINF合意も結局、八一年にレーガン政権が成立しまして、まさに米大統領が言っておるように力を背景にした対ソ交渉、きちっとした核の抑止力を維持し、その背景に立って対ソ交渉をやってきたその成果というものがあらわれたものであると考えております。したがって、そういう観点に立って今回のINF合意というのは、アメリカのそういう対ソ交渉というものが正しい方向にあったということを証明するものであると考えております。  軍備管理につきましては、まさに先生御指摘のとおり、こういう現実を踏まえて軍備の水準を可能な限り均衡な、かつ低いレベルに下げるというために努力することは当然のことでございまして、その点については御指摘のとおりでございます。
  13. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) ただいま外務省の方から御答弁ございましたけれども、私どもとしましても、今日の国際社会において核兵器を含めた力の均衡に基づく抑止というものが平和と安全を支えているということは、冷厳な事実であろうと考えております。
  14. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 今後いろんな議論が出てくると思います。その議論に対して、全く外務省防衛庁に今お答えいただきましたのと私同意でございますし、そのような考え方を少しでも崩すようなことがあったならば、それは極端に言いますと国民に対する反逆にもなるぞ、このような思いも持っておるわけでございますので、ひとつしっかりと腹を決めてやっていただきたいと思うわけであります。  三番目は、遠藤局長からも御説明いただきましたが、西欧におけるところの米国を含む関係国の戦略の再構築の方向とその問題点ということでございます。  率直に言いますと、西ヨーロッパが今日までとってきた柔軟反応戦略に対して、このINFを全廃したということは大きなダメージだった、私はそう率直に感じております。確かにNATO各国首脳はこれに対して、従来からの発言経緯もあります、全面的に賛成しておりますが、戦略家と言われる人たち、軍事事情に詳しい人たちから、大きな問題点として懸命を表明されるに至っておる原因となっておることについても、私は当然だと思っております。一部で既に、米国のプレゼンスの後退に対する西ヨーロッパ諸国の反応というものも見られるやに思われます。今後のこの西ヨーロッパにおけるところの抑止力を維持し、平和を確保するための戦力の構成というものが、通常戦力強化というような問題に進んでいくであろうということは当然予想されるところであります。しかし西ヨーロッパ当局の財政事情や、そしてソ連の今後さらに熾烈に行われるであろうところの平和攻勢ということを考えますと、なかなかそう簡単なことではないだろうと思われます。  化学兵器や通常兵力や、そして戦術核の軍縮の問題も当然考えられなければなりません。しかし、これは従来のNATO諸国とワルシャワ条約諸国との長い間の歴史的な経緯を見ても、そう簡単にいくはずのものではありません。第一、戦術核においては、両者持っていますけれども数も質も違います。通常兵力においてはなお大きな隔たりを持っております。化学兵器はもうほとんど一〇〇対○といったような状況にあります。そういう中で本当にこういった戦力、兵力がまともに均衡ある姿でもって減少されていくのかということについては、大変な難しい問題だろうと私は思っております。  そのようなことを踏まえた場合に、本当に世界にとって重要な地域の一つであります西ヨーロッパにおけるところの平和を確保するための、抑止力を維持するための戦略はどのような方向でもって構築をされていくんだろうかということについて多大の関心を持たざるを得ないわけであります。ひとつ外務省防衛庁両当局、お考えがあればここでもってお聞かせ願いたいと思います。
  15. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今先生の方から御指摘になりましたINF条約締結後の欧州における核の抑止力に対する懸念というものについては、先生御指摘のとおりでありまして、今回のINF条約というものを、西欧の諸国は一様に条約の締結というものを評価し、この条約そのものがグローバルな撤廃を達成したという点について、かつINF条約の締結そのものが一つのサクセスストーリーであるというふうに評価していることは御指摘のとおりでございます。他方において、NATOの将来、NATOの特に安全保障の問題というものについても、専門家の一部に懸念が広がっているということも事実でございます。  これについては、従来からNATOの中で非常に長い議論が行われておりますが、十一日に行われたNATOの外相理事会の後で採択されました理事会のコミュニケの部分では、今回のINF条約を歓迎する、右条約同盟全体の団結と決意の成果であり、また安全保障にかかわる西欧同盟の要求を完全に満たし、同盟の重要かつ長年の目標を達成するものであると評価しつつ、かつこれがNATOの柔軟反応戦略と整合しているという点を指摘し、さらに今後NATOとしてはどういう方向で戦略を進めなければならないかという点について四つの問題を提起しているわけであります。  一つは、米ソの戦略攻撃核兵器の五〇%削減、いわゆるSTART交渉の妥結。二番目は、化学兵器のグローバルな撤廃。三番目は、全欧州における通常戦力の安定かつ安全なレベルの確立ということであり、最後に通常戦力バランスの確立及び化学兵器のグローバルな撤廃との関連において、より短射程の米ソ地上配備ミサイルの実質的かつ検証可能な同等のレベルまでの削減を求めております。この背景には、今先生御指摘のように、一つには、東側、ワルシャワ条約機構が西側すなわちNATO諸国に対し通常戦力の部分ではるかに優位にあるという認識があり、二番目には、INF条約締結後において西側の核の抑止がどうなるかということ、それに対する懸念というものがベースにあるんであろうと思われます。  いずれにしろ欧州は、今後通常戦力、核双方の抑止力をいかにして高めるかという点について、今御説明しましたように、戦略核の大幅削減化学兵器、通常戦力の大幅な削減、及び短距離核の同等なレベルまでの削減というものを求めつつ、それぞれの自国の防衛力整備に努めるものであるというふうに理解をしております。
  16. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) 今外務省当局の方から御説明あったとおりでございまして、特につけ加えることはございません。
  17. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 最後に私は、日本を含む極東地域の防衛戦略に及ぼす影響日本の対応という問題を取り上げてみたいと思いますが、この問題につきましては、既にただいま遠藤局長、村田審議官から具体的に、またはっきりとそのお考えが述べられました。私もお二人の御意見に全く同意でございます。そこでこの際、少し私の意見を付加して述べさせていただきたいと思います。  今度のアジアにおけるところのINFの全廃は、一方的にソ連のみが持っていた地上配備戦域核が廃棄されるわけでありますので、その意味においては、我々にとって、アジアにとっては大変なプラスだったと評価するわけでございます。しかし、お二人から御意見がございましたように、これによって現実的に極東の米ソ中心としたところの軍事情勢が変化するわけじゃない、基本的には厳しい状況が依然として続くであろうということについては、だれも疑いを差し挟まないと思います。しかし、国内の一部では既に、これによってデタントが急速に進展をする、日本もそれに対して積極的に寄与しなきゃならないという論があります。その寄与しなきゃならないという論の中には、一部では、中国を含む日本ソ連との軍備管理交渉の提案などというものも見受けましたが、言ってみれば、そんなことは絵にかいたもちであって、現実的でないことは言うまでもございません。そういうようなことをやる前に、やはりいろいろと日本としてはやることがあるのじゃないかなと思います。  もう一つは、このINF交渉の結果、私が個人的に心配している問題がございます。それは、米国のそのデタントのムードが高まってくる中で、在韓米軍の撤退という問題がカーター当時に引き続いて再燃するおそれはないかなということでございます。既に私の承知しているところでは、ほかのいろんな情勢から、一つの選択肢としての在韓米軍の撤退がスタディーとして米国のある研究所等で行われておるということも聞いておりますが、仮にそういうことがあるとしたならば、これはアジアにとって、日本にとって大変大きな問題になる。その辺をよくわきまえてしっかりとやる必要があるんじゃないかなということが一つでございます。  もう一つは、先ほど特に防衛庁当局から御説明がありましたが、我々が現在進めておるところの中期防衛力整備計画というのは平和時の防衛力であって、それもまだまだ未達成部分が余りにも多い。私をして言わしむれば、中期防衛力整備計画を仮に完全に行ったからといって、平和時の日本の安全を確保するに足る防衛力にはまだ欠けているところがたくさんある。そのような状況下で、やはり日本は腹を決めて、国民の理解を求めながらしっかりと着実な防衛努力をやる。同時に、日米の信頼関係の確保を図るための施策をしっかりやっていく。それこそが今日の、また近い将来における日本のとるべき政策ではないか。  防衛力整備につきましては、全く違う次元から、米国の国力が明瞭にかつての米国よりも低下しつつあるというこの現実の上に立って、中長期的に米国のプレゼンスが減少をするかもしれない。その可能性についても十分な検討をしておく必要があるんじゃないかということを思っておるわけでございます。  今申し上げたのは私の意見でございます。もしそれに対してお二人からコメントがあれば、コメントを承りまして私の質問を終わります。
  18. 森本敏

    説明員(森本敏君) 特にございません。
  19. 遠藤實

    説明員遠藤實君) 特にございません。
  20. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) 村田審議官、何か御意見ございませんか、今の堀江さんの御発言について。
  21. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) 先ほど来御説明しておりますとおり、従来の防衛政策に従って平和時における必要最小限度の防衛力である大綱の水準の達成に鋭意努力する所存でございます。
  22. 最上進

    ○最上進君 堀江委員から既に質問がございました。重複を避けまして簡単に御質問を申し上げたいと思います。  今回の条約調印、署名の前後にアメリカのレーガン大統領は、今回のこの締結は史上初めて軍備削減現実のものにしたという論評をいたしております。ゴルバチョフ書記長は、核軍縮の分水嶺であるという表現をしたというふうに報道されているわけでございます。この御両者の発言を伺う限りでは、やはり今後戦略核兵器削減あるいはまた通常兵器均衡という大きな目標に向かう決意をあらわしておられるというふうに私は理解をいたしているわけでございます。  そこで、まあ日本国民一億総評論家ということが言われております今日でございますので、いろいろなことが言われております。成功だとか、あるいは歓迎するとか、あるいはまたソ連が優位であったとかアメリカが勝ったとかいろいろ勝手に言われておりますけれども、少なくとも既存の一つ兵器体系の全廃に合意したというこの事実は、やはり事実として歴史的な成果であると私は実は評価をいたしている一人でございます。そういう中で、ただいま堀江委員も触れられたわけでございますが、人道主義もあったかもしれません、あるいはまた、当然両国の国益を踏まえた交渉であったと、これは否定するものではございませんけれども、なぜ今この時期にこの交渉が長い交渉経過を経て締結されたか、交渉が成り立ったかという、その政治的な要因、背景というものをやはり感じざるを得ないわけでございます。この政治的な背景というものは一体何であるのか、ひとつ外務省側から御説明をいただければありがたいと思います。
  23. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今回のINF条約の妥結というものは、米ソの双方がそれぞれの政治的かつ軍事的な利益という点において共通の利益を持ったということによるものである。もちろんその他の要因もたくさんございまして、遠藤局長の方から御説明申し上げたとおりでございますが、米国レーガン大統領にとりましてはこれが最後の任期であり、御存じのとおりイラン・ゲート事件、経済問題その他、レームダックと言われているレーガン政権の最後の任期で、歴史的な大統領としての足跡を残したいという政治的な目標と申し上げますか、そういった考え方、基本的なねらいというものがアメリカにはあったであろうと思われます。  他方においてソ連の方としても、ゴルバチョフ政権が進めておりますペレストロイカ、すなわち一連の改革計画というものも必ずしも期待したほどは成功に至っておらず、ゴルバチョフ政権にとってみれば、今年前半に党評議会を迎え、一応政権の中で自分の地位を確立した後、ソ連としてはアメリカと対等に交渉して外交上の成果を得るということが現在のゴルバチョフ政権にとって最も重要な目標であったであろうと推測されるわけですが、そういった意味で、米ソの政治的な目標といいますか、ねらいが見事に一致したということも今回INF条約妥結に至った要因の一つであると考えております。
  24. 最上進

    ○最上進君 レーガン大統領の場合には、任期少なくなってまいりまして、当然ここで歴史的なひとつ大きな仕事をしたいという、そういう考え方が背景にあったということも理解できますし、また、ゴルバチョフ書記長の場合のペレストロイカとの関連性というものも当然理解できるわけでございます。単なるいわゆる経済改革だけでなくて、既にゴルバチョフ路線のこのペレストロイカは、当然幅広い外交にまで直結をした動きになってきているというふうに言われているわけでございますけれども、今回のINF交渉とペレストロイカとの関連性というものをもう少し深く掘り下げて御説明をいただければありがたいと思います。
  25. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今のソ連の進めてまいっておりますペレストロイカというのは、私、必ずしもソ連の専門家ではなくて詳細に承知しておらないわけですが、現在のソ連の国内でゴルバチョフ政権が政権成立後、国内の一連の改革計画として進めておるもので、これについての我が方の評価というものは、国内でゴルバチョフ政権そのものが進めて、かつ当初に期待していたほどの成果が必ずしもまだ上がっていない、全く初期の段階であるというふうに評価しておりますが、他方において、今申し上げましたように、政治的にはここで何らかの外交上の成功といいますか成果というものを上げる必要があるということが、今申し上げたように、ゴルバチョフ政権にとっての当面の非常に大きなねらいであるということを御説明申し上げたとおりであります。
  26. 最上進

    ○最上進君 少なくともゴルバチョフ書記長になりましてから、大きくその政策というものが変わりつつあることは事実でございますし、こうした外交に直結したその動きの中で、西側で歓迎すべき点は、今回のINF交渉もしかりでございますけれども、こうした点については即座にこれに対応して、究極世界の平和と安定に結びつけることができれば、これはやはり結びつけるということが大変肝要であろうというふうに私は思っております。  米国中心にして、やはり日本を含めて西側諸国の協議を早急に進めていくという意見が一部にございますけれども、こうした点についてはどのようにお考えか、お聞かせをいただきたいと思います。
  27. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今の御質問の点につきましては、今回のINF条約の締結というのは、いわゆる軍備管理軍縮問題としては一つ成果ではありますが、米ソ関係、東西関係というものの中で、軍備管理軍縮問題というのはその一つでありまして、決して全体の要素ではないということであります。東西関係というのは、今申し上げましたように、軍備管理軍縮問題以外に、地域問題や人権問題あるいは米ソの二国間問題といった分野がございまして、トータルな関係として東西関係をとらえる必要があると考えております。今回の米ソ首脳会談が米ソの首脳による第三回目の率直かつ忌憚のない意見交換であったということについては、両国間で対話が着実に進んでおるという点において評価しておりますが、今、遠藤局長から御説明申し上げましたように、今回の米ソ会談はINF条約署名という以外に、実務関係においてとりたてて顕著な進展がなかった模様であり、我々としましては、INF条約署名というそういった平和的なムードというものの中にある東西関係現実というものを、厳しく見詰めていく必要があるというふうに考えております。
  28. 最上進

    ○最上進君 これは防衛庁にお伺いをしたいのでございますが、検証の問題あるいはまた査察の問題、これにつきましては堀江委員から既に質問がございましたけれども、要するに、どういう取り決めをされても当然米ソ間の相互信頼というものが最後まで貫けるかどうかということがやはり土台になっていくんだと思うのです。  そこで、ミサイル廃棄の問題、これは相手国の査察員が二十人ぐらい立ち会ってやるそうです。ロケットの種類や数を確認するということでありますけれども、実際に相手の国のミサイルというものをまだ見たわけでもないわけですから、今回初めて見るということでありますから、本当に本物が今廃棄をされている、壊されているんだという、そこに立ち会ってみてもこれは判定ができないのじゃないかという意見が事実ございます。同時にまた、弾頭部分の構造とかあるいは配線だとかということは、これはどちらの国にとっても大切な軍事機密でございますから、こうした核弾頭の廃棄の確認をするというようなこと、これがやはり実際に軍事機密に触れることでもありますだけに大変難しい問題じゃないかというふうに思うわけでございますが、こうした点を実務としての防衛庁ではどういう判断をされておられるのか、ひとつお伺いをさせていただきたいと思います。
  29. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) ただいま先生から御質問がありましたことについてでございますけれども、おのおのの相互検証段階においては、双方とも現在まで核兵器を製造し配備をしてきた国でございますから、それぞれの十分な知識を持った者がその衝に当たると考えますので、そういう御心配もあろうかと思いますけれども、それを克服して進められるものと考えております。我々自身、核兵器がいかなるものかという実体的なものについては、いまだかつて触れたことがないわけでございまして、その辺についてはちょっと申しかねることでございます。
  30. 最上進

    ○最上進君 最後の質問でございますが、米ソ両国の今後の条約発効までの手続、そしてその見通し、いつ、ころになるのか。特に、レーガン大統領を支えてまいりましたタカ派、これは上院には大変多いわけでありますけれども、この辺での動き、また国会での批准承認が得られない場合、かつてSALTⅡの問題のときに、これはアフガンへのソ連侵攻がちょうどございましてカーター大統領が提案を取り下げたという経過がございますけれども、いわゆる条約発効までの今後の見通し、これらについてお聞かせいただきたいと思います。
  31. 森本敏

    説明員(森本敏君) 条約につきましては、双方の国で批准の手続をし、批准成立後に条約発効になるという点については、条約発効後の手続を条約の中で決めてあるとおりでございますが、米国におきましては、先生今御指摘のとおり、共和党保守派の一部にこの条約そのものについての反対があることは事実であると思います。  御存じのとおり、米国においては条約の承認は上院百名の三分の二以上の賛成を得ることが必要であります。したがって純理論的に申し上げますと、三十四名以上の反対者があれば条約の批准は否決されるわけでございます。現在のところ、恐らく来年の一月以降に上院において同条約の批准のための公聴会等が進められると考えております。必ずしも正確に数字がわかりませんが、十五名ないし二十名の共和党保守派の議員が本条約に反対しているという動きがあることについては承知しております。  見通しいかんと聞かれました場合については、御存じのとおり米国の上院議員は、それぞれの決議、レゾリューションについての採決が米国のそれぞれの上院議員の出身州にまでわかるようになっており、現在のような米ソのいわゆる平和的なムードというものが米国の中にあるという状況の中で、なかなか本条約の否決の方に票を投じるということが政治的に難しい面もあると思われますし、また、この条約米国において否決されるということになりますと、これは我々同盟国にとっても大変なことでございます。したがって、政治的にはどうしても批准してもらわなければ困る。NATOも、先日のNATO外相理事会において、本条約が速やかに批准されることを期待するということを冒頭に述べておりますが、このように世界全体が注目する条約米国の中で批准されるということについては、我々は期待と一応の見通しを持っているわけでございます。
  32. 最上進

    ○最上進君 終わります。
  33. 志苫裕

    志苫裕君 率直な感想を申し上げますと、あれもこれも少し聞こうかなと思ってきたんですが、外務省のお話、防衛庁のお話を聞いていまして、外務省までもそんなことなのかなという感じを持ったんです。何か素直に喜ばない。私なんかごく普通の市民として、普通の国民として、まずはよかった、核兵器の一分野ではあるけれども、全廃ということですから。  物には一つのきっかけがあって、弾みをさらにつけながらどんどん雰囲気も広めていく。もちろん冷厳な目を失わないようにしなければなりませんが、そういう姿勢が率直に言って余り感じませんで、何か邪悪の帝国ソ連西側のあの手この手の団結でやりむり封じ込めて、恐れ入りましたと言わせたと。何か防衛サイドは年がら年じゅうそんなことを言っておるからそう不思議でもなかったけれども、外務省がそういう外交姿勢なのかなということに、率直に言って非常にがっかりしたというか、そんな感想を持ちました。外交姿勢というのは、むしろこういう平和のきっかけというようなものを大事にしてさまざまな分野にどんどん広げていくというものなんじゃないでしょうか。水をぶっかけて、あれも心配だこれも心配だといっていくものじゃないのじゃないでしょうか。まずはその辺から外務省に聞きたいのですが。
  34. 遠藤實

    説明員遠藤實君) 今回のINF全廃条約調印につきましては、素直に喜んでおります。政府全体として、総理初め外務大臣もこれを心から歓迎するということを内外に述べておりますし、その点につきましては素直に喜ばないのではないかといったことはございません。  それから、私どもといたしましても、当然これが一つのきっかけになりましてさらに戦略核化学兵器といった面で軍縮があるいは軍備管理が進められていくということを期待し、また我々もできるだけの支援をしたいというふうに考えておりますけれども、同時に、軍備管理軍縮といったものはやはり安全保障を損なうものであってはならないという点を申し上げたわけでございます。
  35. 志苫裕

    志苫裕君 ずっといきさつも先ほどお話がありましたが、一時期、アジア部にヨーロッパの方から持ってきた分も含めて百残すということなどの時期もありまして、最終的にはゼロになりましたけれども、どうも米ソいずれも白人でありますだけに、やっぱりヨーロッパ正面というものを絶えず大事に考えていて、そこでの処理を考える。したがって、背中に当たるアジアの方は割合に鈍感なところがあるという点にかねがね我々なりに不満を感じているわけです。であればあるほど外務省は、少なくとも今度はグローバルゼロになりましたが、かつて中曽根さんのあそこに百置くんならアラスカに置けというような発想ではなくて、ヨーロッパがそういう形で解決へ向かうのであればアジアもということで、アジアのそういう平和構想というようなものについて提起をするという、いわば外交のスタンスというようなものが必要なんじゃないでしょうか。  後ほども触れますけれども、先ほど防衛庁から、米ソ、米中、朝鮮半島、そのほか北方領土及び日本海周辺におけるソ連軍の増強のお話がありましたけれども、それはソ連側から見るとやっぱり、アジア大陸を取り囲むようにアメリカの基地がある、さまざまな兵器体系の配置もある、その後ろの海にはうようよと核があるというふうに、ソ連側が言えばこれは同じことなんであります。ですからこれは、西側一員のスタンスもさることながら、アジアにおいてそのような核を海からも撤去してくれぬかというような発想を、こういう機会に日本外交当局は持つべきなんじゃないでしょうか。そういう点はいかがなんですか。
  36. 遠藤實

    説明員遠藤實君) まず、INF交渉の過程の一段階におきまして、アジア部に百残すというソ連側の提案がありまして、これに対しては我が国としては、もちろんアジアと欧州は同じでなきゃいかぬという強い主張をしたわけでありますけれども、ただ、いわゆるカードとして、もしソ連側が百をアジア部に残すんであれば、アラスカを含む米本土にも百残さざるを得ないというアメリカ側の考え方を一時容認したことはございます。しかし、あくまでこれはカードとしてでありまして、目的はアジア部のSS20を全廃させるという一つの過程あるいは手段の問題ということでございます。  それから、アジアにおきまして核軍縮あるいはその他の軍縮を進めるべきではないかという御意見でございますけれども、我が国としては、一般的にアジア・太平洋地域におきまして真に実効性のある軍備管理、あるいは軍縮が実現することは長期的な目標としては当然適切なものであると考えております。しかし、現状におきましてこの地域におきます国際政治情勢等を考えますと、現段階においては、この地域におきます軍備管理あるいは軍縮交渉といったものはまだ熟していない、いわば現実性がないということでありまして、まず国際政治状況といったものの改善に努力すべきであるというふうに考えております。  御案内のように、日ソ間には領土問題もございますし、それ以外にも、先ほどもちょっと触れましたけれども、我が国としては当然、北方領土からソ連軍は撤退すべきであるというふうに考えておりますし、そのほか朝鮮半島の緊張緩和の問題とか、それから若干遠くなるかもしれませんが、アフガニスタンあるいはカンボジアの問題等々もあることは御高承のとおりでございます。
  37. 志苫裕

    志苫裕君 今、率直に言って感じたところで外務省外交姿勢についてお伺いしたんですが、ちょっと具体的に聞きますが、これは明石さんの方がいいんでしょうか。  先ほどアメリカの議会筋の動向のことは伺いましたが、我々はマスコミを通じて知る以外にないのです。素直に言ってアメリカの国民の動向はどんなものなんでしょうか、これに対する評価は。
  38. 明石康

    参考人明石康君) 今の志苫先生の御質問に対しましては、アメリカの新聞、雑誌、テレビを通じて散見する限りにおきましては、アメリカ国民は圧倒的にこのINFの締結というものを歓迎しておるという感じがいたします。  先ほど森本室長から上院の批准の見通しについての話がありましたけれども、上院に関する限り大体室長の言うとおりだと思います。共和党保守派の一部、ヘルムズ議員その他、強いて言えば約二十名前後反対するかもしれませんけれども、現在までのところ、民主党の大統領候補に出ております候補は全員こぞってINFは賛成の模様でございます。共和党に関しましてもジョージ・ブッシュ副大統領、この候補が賛成。一つのかなめはもう一人の大統領候補でありますドール上院議員なんです。非常に言い方は慎重でございますけれども、ドールさんもあえて反対はしないという意向のようでございます。ある程度了解事項をつけ加える可能性はありますけれども、はっきりとこの条約を修正しないとだめだと、修正条項なんかをつけるような傾向は今まで見られないようでございます。  しかしながら、一つの不確定要素は、さっきもちょっとお話がありましたけれども、アフガニスタン問題で例えばソ連が一切の妥協を排するという立場を続けましたならば、それがINFの批准に悪影響を与えはしないかということが一つ気がかりな材料としてはございます。しかしながら、ゴルバチョフ書記長はアメリカで行政府レーガン大統領に会うほかにも、上下両院議員と精力的に会いまして大変にいい印象を与えております。そういう意味ではアメリカ人によくあることなんですけれども、一種のゴルバチョフ・ブームが起きておりまして、そのブームがいつまで続くかわかりませんけれども、今のところ見通しは楽観的であるということが言えると思います。
  39. 志苫裕

    志苫裕君 先ほど最上委員の質問に室長がお答えになっておりまして、今度の調印にこぎつけた政治的背景のお話がありましたが、経済的背景はそれぞれの国にあるんじゃないのでしょうか。一応その辺を補足していただけますか。
  40. 森本敏

    説明員(森本敏君) 先ほどの先生の御質問につきまして政治的な背景というものを説明申し上げましたが、今回のINF条約の妥結には、それ以外に軍事的な側面と、先生御指摘のように経済的な側面ももちろんあろうかと存じます。  軍事的な側面というのは、ソ連にとってSS20というのは大変優秀な兵器システムでございまして、正直申し上げて、ソ連の軍部はこれを全廃するということは展開の当初は考えてもみなかったであろうと思われます。他方において、先ほど国連局長より御説明申し上げましたとおり、ソ連SS20を配備したことにより、NATOが七九年の末に二重決定を行い、八三年よりSS20の脅威に対処するという形でパージングⅡと地上発射の巡航ミサイル配備したわけですが、ソ連にとってみれば、このパージングⅡと地上発射の巡航ミサイルというのは軍事的に見ても想像以上に大きな脅威であったであろうと考えられます。さらに推測すれば、ソ連にとってみれば、SS20を撤廃してもアメリカ側のかかるINFを撤廃することができれば、プラス・マイナス得であるといった駆け引きを考えたからであるという見方もできるのであろうと思います。  経済的な面から申し上げれば、先生今御指摘のとおり、当然経済的な側面というものがありまして、ソ連にとってみれば次々に新しい兵器開発するということは経済的に大変な負担でありまして、今回ソ連戦略核兵器の五〇%削減に応じているのも、こういった経済的な側面というものは無視できないものであるというふうに考えております。
  41. 志苫裕

    志苫裕君 ちょっと防衛庁防衛庁は雨が降ってもやりが降っても防衛力増強なんですけれども、一時期、INFというのは割合に中距離、短距離ですから、シベリアにあれば日本へ届く、これは危ないと、そういういわばソ連脅威論の道具立てになっていたわけです。しかし、今度はそれはなくなる。なるほど長いやりは持っていますが、あれは日本あたりには落ちてこない、ずっと遠くへ行く、大陸間を飛ぶわけですから。そういう事情の変化というものは、防衛庁の一種の状況の想定といいますか、そういうものが幾ら変わっても何も変わらない、通常兵力による限定的な侵略というものに今せっせと対応するのだと。ただそれだけでいけば、よくこれはしばしばこの調査会でもやるんですが、ソビエトが艦隊を仕立てて何もない我が国へやってくるという事情なんかさらさらありません、あるとすれば米ソが腹ぐあいの悪くなったときだ、こういう話なんです。どうもその辺のつじつまが合わない話になるんですが、それと海の核、これをどのように見ておられるんでしょうか。
  42. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) まず最初に先生御質問のSS20について、防衛庁はこれを脅威の理由として大いにあおっておったんじゃないか、唱えておったんじゃないかということでございますが、この点については御承知のとおりでございますが、SS20は我が国や中国などを射程内におさめておりまして、発射後十数分内には我が国に到達できる性能を有している兵器だということで、当然のことながら潜在的脅威の一側面として考えておったわけでございます。  そういう意味で、SS20がこれから将来にわたって廃棄されていくということになれば、そのような役割を果たし得る軍事能力はその部分減じてきたということは事実でございますが、ただ先ほどから申し上げておりますように、INFミサイルというものは全地球上の弾頭のうちからいえば数%にすぎないものであるということ。それから私どもが極東ソ連軍の潜在的脅威ということを申し上げておりますのは何もSS20だけじゃなく、それを含めますところの質、量両面にわたる増強に対して、それからまた、その活動が非常に活発化しているということを踏まえて、全体としてそのように申し上げてきたということでございます。
  43. 志苫裕

    志苫裕君 海の核は。
  44. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) それから、それじゃ核のことをどう考えているのかということについては、先生おっしゃられましたとおり、我が国としては非核による通常の局地戦に対するものとして考えておりまして、核の問題につきましては米軍の核抑止力に依存するという考え方でございます。
  45. 志苫裕

    志苫裕君 先ほど国連の事務次長は、いろいろと先のことを考えれば不安定要因もあるかもしらぬが、そういうことを予見できるのであれば署名はしなかっただろうというお話もあったし、私はこれから紆余曲折もあるだろうしさまざまなこともあると思いますが、とにかくいい雰囲気で少なくとも世界のトップクラスがテーブルについておるということが一番大きい平和の保障だと思うのです。そういう意味ではさまざまなレベルでそういう努力を続けていかなきゃならぬものだろう。  それでは日本は何もやることはないのかという意味で、そういうさまざまな場を提供する、雰囲気をよくするという意味で、先ほど信頼醸成措置の話が国連会議でありましたが、例えば日本の防衛当局にしても信頼醸成措置の一環としてやることはないのか。こういうところで軍事演習をしますよ、例えばそういう情報交換だけだって相当の私は信頼醸成措置になると思います。ただ、そういう発想は日本の防衛当局というのは全く持たないものなんでしょうか。防衛庁、どうですか。
  46. 伊藤康成

    説明員(伊藤康成君) ただいまの信頼醸成措置で、例えば演習の通報というような御質問でございますが、確かに欧州の方におきましてはそのような措置がとられておるということは承知しております。  NATO並びにワルシャワ条約機構正面におきましては、御承知のとおり、地続きのところでございまして、それぞれの演習についてかなりの通報の体制が整っておるわけでございます。先ほど外務省の方からも御説明ありましたけれども、極東正面におきましては、特に日本におきましては、これは海を隔てておるというような事情もございますし、いまたそのような環境にはないのではないかというふうに判断をしておる次第でございます。
  47. 志苫裕

    志苫裕君 いやいや、全体が少しでも緊張緩和に向かえば向かうなりに日本の防衛当局だって何か緊張緩和へ努力すべきなんであって、軍備を縮小するというわけでもなし、世の中の動き貢献することは何もないじゃないかという話になってしまうのでちょっと聞いてみたんですが、それは結構です。  最後でいいのですが、先ほど室長、INF署名以外に顕著な進展一つもなかったと。マスコミ情報しか私たちは得るところはないのですが、若干失望したようなマスコミの論評もないわけでもなかったんです。もうちょっと何かその辺、国連の事務次長でもいいし外務省でもいいのですが、INF署名以外のほかの問題で、これだけが東西問題でもないわけですから、何かその辺でもうちょっとコメントがありましたら……。
  48. 森本敏

    説明員(森本敏君) 先生の御指摘は、今回の米ソ会談において我が方から大きな進展が必ずしも見られなかったという答弁に対して、それ以外の、つまりINF条約署名以外に何か進展が見られなかったのかという御質問の趣旨であろうと理解しております。  今回の米ソ会談では、INF条約署名以外にその他の軍備管理問題、特に戦略核兵器削減交渉及び地域問題、人権問題及び米ソ二国間問題という四つの分野について交渉が行われたわけでございますが、今御指摘のとおり、戦略核兵器削減交渉につきましては若干新しい要素が見られたわけでございます。  一つは、双方の戦略核兵器を五〇%削減するということ及びその五〇%の削減の中で弾頭数を六千、運搬手段を千六百にするということについては従来米ソ交渉の中で既に原則的には合意されていたものでございますが、これを今回新たに増したということなんですが、今申し上げました弾頭六千という総数枠の中で弾道ミサイル、すなわちICBMとSLBMの合計を四千九百弾頭とすることを含む戦略的安定のための措置というものが戦略核兵器交渉の中で新しい要素であろうと思います。それ以外にもちろん細かく申し上げれば幾つかあるわけでございますが、今申し上げましたように、戦略核兵器削減交渉については若干の新しい要素が見られたわけでございます。  その他の地域問題及び人権問題につきましては、双方で相当広範囲にわたる問題が取り上げられて双方の意見交換が行われたようでございますが、共同声明に見る限り、例えば人権問題につきましては、人権、人道的問題につき徹底的かつ率直に討議した、地域問題については、アフガン、イラン・イラク紛争その他の問題につき広範かつ率直な討議を実施した、米ソ間には大きな相違があるものの、定期的な意見交換重要性につき合意したと述べられているだけで、我々としても本件米ソ会談の内容につき米側から説明を受けておりますが、国連局長より冒頭に御説明いたしましたとおり、レーガン大統領が当初に実質的な進展があることを希望すると述べられていた、それほどの実質的な進展が見られなかったということは先ほど申し上げましたとおりでございます。
  49. 明石康

    参考人明石康君) INF協定が事実上合意に達したということを除きましては、今、安保室長から御説明のあったとおり、戦略核兵器に関するいろんな突っ込んだ話し合いがあった。恐らくこれは、ABM条約の取り扱いの問題さえ解決すれば次期モスクワ会談で恐らく合意可能性の最も大きな問題じゃないかと思います。そういう意味では、今回のワシントンにおけるレーガン・ゴルバチョフ会談の大きな山は、INFについてはもう事前にシュルツ・シェワルナゼ両大臣の間でほとんど詰められておったわけでございますが、この戦略核の問題は一番大きな問題でありましたし、今後一番期待の持てる問題ではないかというふうに考えております。  それから地域問題、人権の問題はほかの主要な問題でございましたけれども、軍縮に関しましても、例えば地下核実験の問題については、お互いにそれぞれの国の実験場において合同の査察を行おうじゃないかというところまで話が進んでおりますし、それから拡散防止に関しましても話が行われております。それから核実験停止、禁止協定については、私の冒頭の話でも申し上げましたとおりジュネーブ軍縮会議において話が相当進んでおりまして、七割から八割方もう合意ができております。こういう場合、残っておる二割ないし三割というのは一番難しいことなんですけれども、うまくいきますとこれは来年の来ないしは再来年までにできるものであります。現在あります大量殺りく兵器の中では、それはやっぱり毒ガスその他の化学兵器の問題は非常に大きな問題でございますので、これについて現在国連としては非常な重要性を置きまして、鋭意交渉しておるわけでございます。  そのほかに、米ソの間では核危機管理センターというものをつくって、誤解とか偶発的な形で核戦争が起きないようにということで双方のコミュニケーションをよくするということをやっております。  それから先ほど話も出ましたけれども、通常兵器、これはINF以上に米ソ核軍縮をやろうとしますと、何としてもヨーロッパにおけるワルシャワ条約諸国の北大西洋条約諸国に対する通常兵器における優位の問題が出てくるわけでございます。それについてはソ連もよく承知している様子でございまして、兵力においてはほぼ等しいかもしれませんけれども、戦車の数においては約二倍、大砲その他の数においては約三倍というふうにワルシャワ条約諸国の優勢が伝えられておりますし、その半面、戦闘機とかヘリコプターの数では北大西洋条約諸国の方が多いということです。  私も、ソ連軍縮を担当しております。ある大使に、おまえのところ何でそんなに戦車をやたらに持つんだ、そのことでNATO諸国に不信感を持たれてもしょうがないじゃないかと言いましたら、その大使は非常に率直に、いや明石、おまえの言うとおりなんだ、ところがおれのところの軍人さんたちはやっぱり第二次大戦のことばかり考えておる、第二次大戦のときにドイツの戦車にソ連がじゅうりんされたということがこびりついておって、そういう戦車に固執するんだということを言っておりました。そういう意味では相互均衡のなさということについては認識がございまして、できれば相互のそういう不均衡を、弱体な方の戦力を上げる形じゃなくて、持っている優勢な方の国の兵力を下げるという形でシンメトリー、均衡状態をつくらなくちゃいかぬ、それが本当の軍縮であるということを軍縮のプロであるソ連外交官は十分に認識しているように見受けられます。  そういう意味では、通常兵器の問題はこれから大きな一つの山になるであろう。それがまた第二期におけるより広範な核軍縮にまで持っていく一つのきっかけになるだろう。そういう意味ではいろんな兵器、いろんな核体系がお互いに絡み合いながら軍縮の状態につながっていくという感じがいたします。
  50. 矢田部理

    ○矢田部理君 二、三問だけ伺います。  最初に一つは、先ほどINF条約が妥結に至った米ソ両国の政治的、軍事的、経済的背景などについて御説明をいただきましたが、国際世論の動向といいますか、ヨーロッパを初め各国の反核運動とか民衆の声とかというものが果たした役割について明石参考人はどんなふうにお考えでしょうか。
  51. 明石康

    参考人明石康君) 国際世論というものは非常に計量しがたいものでございますから、そういう世論が軍縮というものについてどれだけの影響力を持ったかということはみだりに言いがたいのでありますけれども、やはり、特に民主国家にとっては世論の重要性というのは疑いもないところでございますし、INF廃棄というものについては、ヨーロッパの世論がやはり一つ影響力を持ったであろうということは言えると思います。
  52. 矢田部理

    ○矢田部理君 防衛庁の先ほどの志苫委員に対する答弁にも関連するんですが、防衛白書などを見ますと、極東ソ連軍の潜在的脅威ということを盛んに言われ、少なくとも、それはすべてではないにしても、重要な内容としてSS20の極東配備、ここで百七十基と言っております。少しく過大見積もりでもあるわけですが、先ほどの百六十二に比べますと。少なくとも重要な内容にしてきたのではないかと思われるわけです。それが全廃をされるということになると脅威が相当程度減殺されるということは、これは紛れもない事実なんであります。もともと東西の軍事力の均衡はおおむね均等というふうに見てこられたし、それからアジアもそういう評価だったと私は思うのですが、そうだとすれば、少なくともその分だけ減るということになると、アジアの軍事情勢は一定の変化が出てきているというふうに見ていいのではないでしょうか。基本的に変化がない、軍事情勢に変わりはないということを余り強調し過ぎることはいかがかという感じが一つはいたします。その点についてどう考えられるか。  それから、もう一点追加して関連して申し上げますと、このINFの全廃に引き続き今度は戦略核の半減という状況が出てくる可能性があるわけです。先ほども話がありましたが、戦略核はもともとアメリカ本土をねらっているんだから、日本は直接関係がないという言い方もできるのかもしれませんが、こういう半減の状況などが出てくることになれば大きく世界の軍事情勢は変わり、かつ、日本を初めとするアジアにおける軍事情勢にも変化が出てくるのではないかと思われますが、この辺も含めて防衛庁としてはどんな認識に立つのか。外務省にも答弁をいただきますが、両者からお答えをいただいて私の質問を終わります。
  53. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) ただいまの御質問でございますが、先般来申し上げておりますとおり、INFにつきましては、極東に私ども当時約百七十基と申し上げておったわけでございますが、配備されておったわけでございまして、これは当然のことながらソ連側にのみ配備されており、自由国側と申しますか、についてはこれが配備されておらなかった、非対称の状態にあったものでございまして、これが廃棄されたからといって直ちに全体の均衡状態に変化が生ずるというものではないというふうに認識しています。  それから、戦略核が半減する方向に進むのではないかというような御質問でございますが、これについてはINFの推移いかんというようなことがまず先行すべき問題ではないか、デタントは直ちにそのような方向に進むかどうかは慎重に見きわめた上で判断すべきではなかろうかというふうに考えています。
  54. 森本敏

    説明員(森本敏君) 今の御質問の件につきましては、まず今回のINF条約によって撤廃されるいわゆる中距離核ミサイルというのは、累次御説明申し上げているとおり、一〇%に満たない数でありまして、さらに現在世界が持っておる核兵器総数というのは人類を数回以上殺りくできるというぐらい、いわゆるオーバーキルの状態になっております。そういう核兵器の現状というものに照らしまして、今回INF条約によって総弾頭数の数%が撤廃されることによっても、東西の核バランスというものは基本的に大きな変化があるとは考えておりません。  また、戦略核兵器削減につきましては、先ほどから累次御説明しているとおり、これは米ソが双方に持っておる戦略攻撃核戦力を五〇%削減するという極めて大幅な削減でありまして、これが全体として核の、いわゆる米国が申し上げているような戦略的安定というものが達成できるものであるというふうに考えております。
  55. 矢田部理

    ○矢田部理君 時間がないから、別の機会にまた質問します。
  56. 和田教美

    ○和田教美君 まず、明石国連事務次長にお尋ねいたします。  明石さんが先ほど指摘されましたように。今度のINF全廃条約の調印ということは、私はやっぱり歴史的な合意だというふうに考えます。既に御指摘になりましたように、なるほど五万発以上もあると言われる核弾頭の、核のまあ約数%という、量はそうでございますけれども、しかし初めてのとにかく軍縮条約である、今までの軍備管理条約というものではなくて質的に違ったものだというふうに私は認識いたしております。  しかし、日本を取り巻くアジアの周辺ということを考えますと、今度の調印された条約は中距離核についても陸上核であって、最近日本で非常に問題になっております海上杉、水中核という問題は中距離核についても除外されておるわけです。今度の米ソ共同声明を見ますと、SLCMについても、つまり巡航ミサイルについても保有上限を設けるとか、あるいは効果的な検証方法検討するという点について合意をしたということが書いてありますから、全く合意がなかったということではございませんけれども、この問題はまだ全くこれからだというふうに感じるわけです。ですから、このままほうっておくと、悪くいけば、全般に緊張緩和の状況が進むにしても、アジアにおいては海の核というものを中心に非常に緊張状態が続くという危険性もあるわけで、現に日本のトマホークの問題、それに対抗してソ連SSNX21というのを今開発試験中だという報道がございますね。ですから、この海の核というものをアジアの周辺からなるべく減らしていくということは、我々にとって当面の一つの目標だと思うのですけれども、これについてどういうお考えなのかということが第一点です。  それから先ほど、それとも関連ございますけれども、明石さんの説明でも、国連の第一委員会で、新しい分野のいわゆる軍縮の問題、非核分野軍縮通常兵器軍縮という問題とか信頼醸成措置のガイドラインをつくるという問題とか、そういう問題が討議されているというお話を聞きまして大変興味を持ったんです。さらに、来年の軍縮特別総会で今のような問題のほかに、地域軍縮の問題を取り上げるというお話がございましたので、これは非常に結構なことだと思うのです。  それと関連してお尋ねしたいのは、こういう状況の中で日本として一体何ができるか、つまり地域軍縮という問題についてもっと日本としてイニシアチブをとらなきゃいかぬのじゃないかということを非常に切実に感じるわけです。ヨーロッパにおいてはとにもかくにも軍縮問題についてのパイプがいろんな形でできておるわけだし、現に先ほども議論がありましたように、信頼醸成措置についての一応の合意もできておるという状況ですけれども、アジアにおいては全くそういうものがないわけです。これは防衛庁も指摘されておることなんですけれども、そういう状態のままでいいのか。今すぐアジアの海を、アジアを非核地帯化するということは、これは非常に実現困難だとしても、何かやるべきことがあるんではないか、日本がイニシアチブをとって。国連においても、例えばアジアにおいて軍縮センターみたいなものをつくるとか、そういうこともお考えにないのかどうかという問題も含めて、日本としてこれから地域軍縮を進める手がないかどうか。その二つについてお尋ねをしたいと思います。
  57. 明石康

    参考人明石康君) 和田先生のお話、非常に興味深く拝聴させていただきました。  海の軍縮の問題は、ここ数年の間に国連に新しい軍縮議題として出されておりまして、特にスウェーデンとインドネシアがこの問題で非常に熱心に動いております。しかしながら、やはり基本的な問題は、海と安全保障に関しましては、ソ連という国が基本的にランドパワーである、陸上大国であるという事実、それに反しましてアメリカは圧倒的にやはりシーパワーである、海を背景に安全保障を確保しなくちゃいかぬという基本的な事実がございまして、国連軍縮委員会における海の軍縮の問題に関する作業委員会に昨年アメリカは出席しておりません。そういう意味で、この海の軍縮の問題をどうとらえるかというのは緒についたばかりなものですから、国連としてもまだ十分な話し合いが進んでおらないという状況にございます。しかし、これから非常に大きな問題になるであろうということは、先生のおっしゃるとおりであるんじゃないかと思います。  それから、国連軍縮の非常に間口が広くなったということは事実でございまして、確かに核は最重要の問題でございますけれども、核以外の兵器というものも大量殺りくの兵器でございまして、どの兵器で殺されるにしろ殺される身にとっては同じということであります。第二次大戦を終わってから四十二年の間に百五十を超える戦争が起きておりますけれども、これは全部通常兵器による戦争でございます。それによって二千万人以上の人間が死んでおります。これも全部通常兵器による死者でございます。そういう意味で我々は核を避けて通らぬ、同時に通常兵器軍縮の問題も真剣に取り上げるべき時期に達しておるんだと思います。  それから、私が冒頭の話で申し上げましたけれども、軍備というのは国際緊張の結果であって、必ずしもその原因ではないということなんでございますけれども、そういう意味では軍縮を可能にさせるような周囲の条件をつくる必要がある、そういう意味では信頼醸成措置というのは極めて重要性を持ってくるわけでございます。  それで、先ほど防衛庁の方からも指摘がありましたけれども、ヨーロッパではもうアメリカの軍人がソ連の軍隊の演習にオブザーバーとして出席する、ソ連の軍人がNATO諸国のそういう軍事訓練にオブザーバーを派遣するというところまで来ております。しかし、残念ながらアジア、アフリカ、ラテンアメリカに関してはそこまで来ておらないわけなんです。そういう意味では、ストックホルム条約その他の教訓をいかにして世界のほかの地域にまで広めていくかというのは一つの新しい課題になってきておるんじゃないかと思います。それは、ヨーロッパのように国境がはっきり画定された地域と違いまして、特にアジアの場合、問題は難しいわけでございますけれども、そういう信頼醸成措置について真剣に考えていく一足飛びに軍縮という状況はなかなか来ないわけでありますから、その前提条件をみんなで懸命に考えるということが大事ではないかと思います。  それから、和田先生がまたいみじくも指摘された地域軍縮は私も非常に重視しておりまして、ここで一つニュースを申し上げますと、この秋の国連総会で、アジア地域平和軍縮センターというのをネパールにつくることが決まりました。昨年はラテンアメリカに同種のセンターをつくる、ペルーの首都のリマにつくることが決まりまして、一昨年にはアフリカの地域センターをトーゴという国につくることが決まりました。アジアのセンターといいましても、これは国連の通常予算からは金が全く出ないわけでございまして、そういう意味では、こういうセンターをつくり、中国とソ連とインドないしはパキスタンというかなり大きな国に囲まれておる小さな中立国であるネパールの、そういう平和を実現しようという悲願をいかにしてかなえてやるか、また、そういう平和の念をアジア諸国にまでいかにして及ぼすかということについて、あるいは我が国貢献し得ることがいろいろあるかもしれませんし、そういう意味では、そういう事態を醸成していくということも平和に対するそんなにドラマチックなものではございませんけれども、具体的な一つの道ではあろうかというふうに考えております。
  58. 和田教美

    ○和田教美君 次に、外務省にお尋ねしますけれども、今度の条約、それから米ソ首脳会談の経過を見ておりまして、私は、戦略的安定というのがキーワードの一つではないかという感じがするんです。これは先ほど明石さんも触れられましたけれども、条約の前文にも出てきますし、米ソ共同声明にも「戦略的安定」という言葉が出てくるわけです。一体この戦略的安定というのはどういう意味なのかということです。  先ほどの明石さんの説明ですと、より低いレベルでの均衡ある軍縮をやって安定するという意味にとれるような発言があったんですけれども、日本の論評なんかを見ておりましても、この戦略的安定というのを、いわゆるMAD、相互確証破壊戦略、これを再確認しているんだという見方もあるし、あるいはまた、INFというものが核の敷居を低くする、非常にそういう危険性があったから、まずINFを全廃することによって、再び核の敷居を高くするというねらいがあるんだという意味にとっている人もおる。そういう見解からいけば、当然一番問題なのは戦術核をどうするかという問題が出てくるわけです。そういう問題いろんな論評があるわけですけれども、それをどう考えておるかという問題が一つです。  それからもう一つ、それと関連して、先ほど日本政府としては核抑止論はあくまで堅持するような見解でございましたけれども、ソ連の一連の発言、先ほど堀江さんの発言がありましたように、ゴルバチョフのことしの春の発言などから見て、ソ連はこの核抑止論というものに対する一定の批判を展開をしている。それはあるいは多分に宣伝的な意味があるのかもしれませんけれども、しかしどうも私は、ソ連の新しい新思想といいますか、そういう考え方からいって、今までのような、要するに抑止論絶対信仰というものから転換しつつあるんではないかという感じがするわけで、その点を外務省はどう考えておられるのか、その二点です。
  59. 森本敏

    説明員(森本敏君) いわゆる戦略的安定という問題は、米ソ双方が核の抑止力によって安全を維持しているという基本的な考えに立つ戦略でございます。したがって、今御指摘のとおり、米ソが双方に核兵器を持ち、しかも相手から攻撃をされないように核兵器によって抑止をすることによって安全が保たれているという考え方があるわけでございます。  今御指摘のとおりなんでございますが、その核兵器の中で、特に戦略核兵器というものは双方にとって極めて致命的な打撃を与えるという意味で、はるかに戦術核その他の核兵器よりも安全保障上重大な意味を持つということについては十分御承知のとおりであろうと思いますが、そういう双方の戦略核兵器をより低いレベルで、かつ均衡された状態で削減していくということは、双方が持つ核報復力というものをより低いレベルにするということで、今申し上げた双方の戦略核、攻撃戦力レベルを低いレベルにすることによって、双方の抑止力をさらに安定させるということが、ここで述べている戦略的安定という意味でございます。  御存じのとおり、米国としては現有核戦力の近代化を図りつつ、核の抑止を維持していく一方で、戦略の重点を将来次第にSDIというものに移行していき、いわゆる非核の防御手段によって抑止を高めるということに最終的な目標を置いているわけでございますが、現在の米ソ核兵器のシステムというものは、今申し上げました戦略的抑止力というものに双方の安全保障を依存している限り、今回のINF条約によって双方の核戦略というものが変更するものではないというふうに我々は理解をしておる次第でございます。
  60. 和田教美

    ○和田教美君 それから、もう一つソ連のゴルバチョフなんかの一連の発言及び新思想といわれる考え方は、抑止論をある程度批判し、否定しているものではないかという質問はどうですか。
  61. 森本敏

    説明員(森本敏君) これは、ソ連の方が最近になって主張していることの背景そのものを必ずしも十分に我々として理解していないわけですが、いずれにしろ、ソ連核戦力というものが米国の核攻撃戦力に比べて質的にやや劣勢な部分があるということと、科学技術力その他の問題もありましょうが、米国が進めておるいわゆるSDIというものに非常に脅威を感じておるということで、まさにアメリカがSDIを進めている際に、アメリカの今御指摘のMADというものが本来的に排除し切れない不確実性があるのではないかという一般の議論に対して対応する考え方でありまして、今御指摘の、ソ連の方の発言がそのままソ連の核戦略というものを規定しているものではないというふうに考えております。
  62. 和田教美

    ○和田教美君 基本的にはMADの考え方に立っているということですか。
  63. 森本敏

    説明員(森本敏君) そのとおりでございます。
  64. 和田教美

    ○和田教美君 次に、もう時間もなくなりましたから防衛庁にお尋ねしたいのですけれども、私も先ほどの答弁を聞いておりまして、防衛庁の考え方というのは、全く古びたレコードをそのまま何回も何回もかけているというふうな印象を持つわけです。端的にとにかく申し上げますと、SS20の脅威ということを防衛白書などでも盛んに強調されたわけで、もちろんSS20だけではなくて、バックファイア、これも脅威を強調されたということもあるんです。先ほどの発言を聞いておりますと、SS20がなくなっても通常戦力の増強だとかそういうこと、あるいはバックファイア八十五機というものを総合的に考えると潜在的脅威は増大をしているという発言さえあったわけですけれども、増大しつつある、これからも増大するであろうという認識なのか。その点は少なくとも脅威は、先ほど別の質問ございましたけれども、SS20が全廃される、あるいはまたざらに戦略核の半減というものが行われ、通常兵器削減交渉というものがとにもかくにも軌道に乗るという将来図を見た場合に、それは増大するのではなくてむしろ減少するというふうに考えるのか、その辺の判断をどういうふうに考えておるかということが一つです。  それともう一つ、先ほどからこれも出ておりますけれども、今度のINF条約の調印という背景には、やっぱり経済的要因が大変私は大きな意味を持つというふうに思うのです。アメリカは御承知のとおり双子の赤字で、カールッチ新国防長官さえ国防費の削減ということを言明せざるを得なくなってきているような状況。それからソ連も最近の石油の値下がりで国際収支が非常に悪くなってきて、相当対西側に対する債務もふえておるという状況が報ぜられておる。ここでやっぱりどうしてもペレストロイカで軍備削減というものをやらなきゃいかぬ必然性があるというふうに思うのです。そういう経済的な要因というものがあるわけで、先ほど外務省でしたか、ソ連の経済的要因というものについては触れられましたけれども、より我々の目から見るとアメリカの方が深刻ではないかというふうに思うのです。ドルの暴落、それから今言ったようなとにかく世界一の純債務国になってしまったというような現状です。そういう状況から見ると、今言ったようにアメリカとしてはアメリカ自身の軍事費を減らしていかなきゃいかぬわけです。そのしわを、日本なりその他の同盟国に負担を増大させるという問題が当然出てくるだろうと思うのです。  現に今、今度の予算の問題として米軍の駐留経費の負担増という問題がクローズアップされてきているわけですけれども、そういうアメリカの肩がわりという問題について政府として一体これからどう対応していくのか。今までと同じように、なるべく防衛費をふやして、アメリカの要求もなるべくのんでいくという姿勢のままでいいのかどうか。その辺のところの問題についてどう認識しているか、この点をお尋ねしたいのです。
  65. 村田直昭

    説明員(村田直昭君) 先生の御質問にお答えするわけでございますが、先ほど来申し上げておりますのは、私どもとしてはSS20のみをもってソ連の潜在的脅威ということを申し上げているわけじゃございませんで、これは一九七〇年代末の戦域司令部の設置でありますとか、それから先生御指摘のバックファイア爆撃機の配備とか、陸、海、空通常戦力の質、量両面にわたる増強、あるいはこれらに伴う航空機の活動の活発等、全般的に判断してこのように申し上げておるということで、SS20の増強の一事をもって潜在的脅威の増大としてきたわけじゃございません。  そこで、SS20が今般、将来にわたって廃棄されるということについて言えば、そのこと自体はそのものによる脅威というものがなくなってくるということは申し上げられると思いますけれども、全般的に判断すれば、なお膨大な量の極東ソ連軍というようなことを考えれば、将来の動向をよく見なければ直ちに脅威が減るというような判断をすることはできないのじゃないかというふうに判断しております。  それから、我が国の防衛力整備については、当初から申し上げておりますとおり、通常兵器による限定的かつ小規模な侵略に有効に対処し得る防衛力の整備を目標として、現時点においてはその過程にございまして、その達成をまだ見ておらないわけでございまして、これは平時における最小限度の防衛力の保有を目指しておるものでございます。したがいまして、それに達するに至るまではなお鋭意防衛力の整備に努めていかなければいかぬということで、決してアメリカの防衛費の減少に伴うものを肩がわりしていくというような性格のものではないと考えております。
  66. 和田教美

    ○和田教美君 まだあと二、三分ありますから外務省にお尋ねしたいのです。  SDIの問題、アメリカからいろいろ情報をとっているだろうと思うのでお答えを願いたいのですけれども、この問題はやっぱり今後の戦略兵器五〇%削減交渉に非常に密接に絡む問題だというふうに私は思うわけです。それと関連していわゆるABM制限条約の問題について、一体今度の首脳会談でどの程度進展があったか、あるいは進展がなかったのか。ABM条約については、アメリカは広義の解釈、それからソ連は厳密な狭義の解釈ということで今まで対立をしてきておったわけですけれども、共同声明を見る限りは、七二年の調印時のままに解釈する、それを確認するということが書いてあるだけですね。七二年の調印時のままに解釈するというのは一体どういう意味なのか。全体としては私はABMの問題、SDIの問題というのは先送りになったと思うのですけれども、今後、これが非常にネックになって、戦略兵器削減交渉がだめになるという可能性もあるのか、その辺をどう見通しておられますか。
  67. 遠藤實

    説明員遠藤實君) 防御・宇宙兵器につきましては、今回の米ソ会談で両国が非常に突っ込んだ意見交換をしたと承知しておりまして、結果といたしましては、ABM条約等に関しましてジュネーブ米ソ両国交渉団に対して合意を作成しろという指示を与えることになったと承知しております。したがいまして、ジュネーブにおける交渉の推移を見守りたいと思っております。  ABM条約の解釈につきましては、いろんな解釈があったことは事実でございますけれども、ソ連のSDIに対する立場というのが実は種々変化しておりまして、今後、首脳会談における話し合いを踏まえてソ連側がジュネーブ交渉の場においてどういう態度をとるかということを見守っていきたいというふうに考えております。
  68. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 明石さんにお伺いしたいのですが、明石さん、この三月から国連軍縮担当の次長になられたそうで、新聞を拝見すると、これまで中立国スウェーデンがこのポストをとっていた、スウェーデンでは、なぜこの重要ポストを日本に明け渡したのかと国会で問題になったということが書かれていて、ソ連などは、日本人だからアメリカの傘のもとに立つのではないかという危惧もあるということです。我が外務省防衛庁は、きょうの発言を聞いていてもかなりコンサーバティブで、ときにアナクロニズムの臭いも発散しておりますので、私は、知識がないのですけれども、非常に重要なポストでお仕事される際、日本政府との関係はどうなっているのか、また、どういうお立場でこの非常に重要なポストのお仕事をされようとされるのか、まずお伺いしたいのです。
  69. 明石康

    参考人明石康君) 私は国際公務員でございますから、日本政府の訓令のもとに仕事をするのではなくて、国連事務総長によって任命され、事務総長の指示に従って中立的な立場から仕事をするということになっております。国連加盟国は百五十九カ国ございますので、そのすべての加盟国の意を体しながら、できるだけ中立不覊な立場から仕事をするというのが我々の職務だというふうに考えております。  しかしながら、国連の現在の事務総長デクエヤルさんが特に日本出身の人間に軍縮を担当させたということは、事務総長によりますと、日本の増大する国際的な発言力と役割、平和に対する貢献、それからやはり広島、長崎というものの洗礼を経た日本というものの平和に対して持つ非常に深い信念というものにかんがみて任命したんだということをおっしゃっておられます。そういうことですから、私は問題によっては、軍縮問題について日本政府のとるすべての問題に関してすべてを同意する必要はないと思いますし、しかしながら、国連全体の総意に基づきながら仕事をすべきだというふうに考えております。  日本国連における軍縮に対するスタンスを眺めますと、やはり日本もいろいろ気をつけて軍縮を大事にしながら行動しておりますから、そういう意味では日本人として自分の肩身が狭くなるような場面には幸いにして今まで遭っておりませんし、その点、自分の国籍と仕事が非常に矛盾するという状態には現在なっておらないというふうに申し上げてよろしいかと思います。
  70. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 矛盾が生まれたときには、ひとつ勇気を持って仕事をしていただきたいと思います。  我々は、今度のINF条約は二つの側面があると思っています。  一つは、戦後初めての一つ分野での核兵器を廃絶する核軍縮だという点で、これは非常に積極的に評価します。  もう一つの側面は、しかし必ずしも核兵器全廃にはまだつながっていない。特にレーガン政権は、去年の十一月十七日のシカゴ大学でのシュルツ国務長官の演説、これは非常に重要なものだと思うのですけれども、それを見ても、簡単に言うと、ソ連が追いついてきて非常に不安定になった分野は大幅に削減したりやめたりしよう、西側が優位に立っている航空機、またクルーズミサイル分野に力を入れていこうという態度表明をしておりますので、まだまだ多くの問題を持っているというふうに見ているのです。  和田委員も指摘しましたが、今度の条約の冒頭にはこう書いてある。「核戦争が全人類に破滅的結果をもたらすことを強く念頭に置き 戦略的安定の強化という目的をもって」と、二つ書いてあるんです。私はこれは形容詞じゃないと思うのです。共同声明にも「両首脳は、核戦争に勝利者はなく、決して起こしてはならないという厳粛な確信」ということにも触れております。だから私は、米ソの間でまだまだ大きな意見の違いはあるけれども、少なくともこういう核戦争は防ぐ、それから勝利者はない、戦略的安定を強化しなきゃならぬという点では一致点ができて、これがINF条約戦略核の五〇%削減、さらには全廃までいくかどうかわかりませんけれども、そういう目標がレイキャビクでも合意されたのではないかというふうに思うのです。  私が見たものの中で非常におもしろかったのは、シュルツ長官のもおもしろいのですけれども、ソ連のノーボスチ通信社のファーリン社長が、SS20の配備というのは政治的に最善の形の行動じゃなかったという多少反省的な言葉を述べたと。しかし、それが最善じゃなかつたからこうなったというのじゃなくて、やっぱり「核の冬」、ニュークリアウインターが地球の壊滅の可能性を証明したことがソ連がこういう態度に変わった原因なんだということを述べている点です。これは非常に重要だと思うのです。  それで、シュルツ国務長官も、抑止が失敗したら人類全体にとってこの上なく破滅的になるということも述べていますし、先ほどMADの話も出ましたけれども、MAD、相互確証破壊戦略に基づく、三十分でICBMを撃ち合えば本当に人類壊滅というような非常に不安定化した状況から、やっぱり米ソ両国とも抜け出す必要があるという認識が生まれたということじゃないかと思うのです。シュルツ演説を読みますと、とにかく先制攻撃用の迅速殺りく能力を取り除く、第一撃でお互いに破壊し合うというのは取り除くことを考えて言っているのです。ここら辺になってくると、言い分をそのまま信じられるかどうかは別として、国連軍縮担当としてごらんになっていて、抑止力理論のある変化が米ソ両国あるいは国連の中で強まりつつあり、今は転期の時期ではないかというふうに思うのですけれども、そこら辺どうごらんになっていらっしゃいますか。
  71. 明石康

    参考人明石康君) 私は、ジュネーブとレイキャビクでレーガン大統領ゴルバチョフ書記長の、核戦争に勝者はない、したがって核戦争を戦ってはいけないという言葉は、非常に玩味させられる言葉でありますけれども、あの言葉の前文は不必要ではないかと思うのです。勝者があったら、じゃ戦っていいのかということになりますと、決してそうではないので、核戦争は戦ってはいけないということが一番の命題ではないかと思うのでございます。  ゴルバチョフ書記長がしきりに言っておりますのは、世界が非常に相互依存の時代になったということなんでございますね。それで、安全保障の面でもそうであるし、経済面でもそうであるし、それからエコロジカルな生態系の意味でもそうであるということを言っております。私は、ソ連のペトロフスキーという外務次官と中曽根総理が国連でこの秋演説された直後に会ったんですけれども、中曽根総理がグローバルビレッジ、地球的な村に世界がなってしまったという言葉を言われたんです。ペトロフスキー外務次官は非常にいい言葉だと感心しておりまして、そういう世界が小さくなったという意識をやっぱり相当強く持っておるんじゃないかと思うのです。  それから、さっき軍事的、経済的な必要が米ソともにあって今度のINF協定になったという話がありまして、私も全くそれには同感でございますけれども、ソ連にとっては近代化の要請というのが非常に強い動機じゃないかというふうに思うのです。今のままでいくと、ソ連社会がもうにっちもさっちもいかなくなるという危機感があって、やはりそういう軍備費の縮小、それから国際緊張の緩和ということが、どうしても全くみずからのセルフインタレストとして出てきているんじゃないかという感じが強くするわけでございます。  それから「核の冬」でございますが、これに関しましては、「核の冬」というのはややジャーナリスチックな言葉でありますけれども、昨年の秋から国連の中に我々は専門家委員会をつくりまして、日本の学者も一人その中に入っております。この委員会に来年の春、最終的な報告書を出すことにしてもらっておりますけれども、「核の冬」に関する科学者間のいろんな意見の総合的な、最も客観的な結論を国連立場から出したいと思っております。  それから、核抑止政策というものの行き詰まりを感じたからこういう事態になったんじゃないかという御指摘であります。ある意味で言えば全くそれはそのとおりでございますけれども、私はさっきから、そういう抑止理論は正しいか間違っておるかということについては、それは言葉の問題ではないかという感じをちょっと持っております。  実は、国連の中にまた一つ、抑止の問題についての専門家委員会をつくりまして、その報告書が去年出たわけでございます。残念ながらこの抑止の問題については一つの係結論が出ませんで、結局、西側の専門家、社会主義圏の専門家、それから非同盟の国の専門家の三者の三論併記の形になって終わってしまいました。その三論の中で社会主義圏の専門家の言葉を引用さしていただきたいと思うのですけれども、それを読みますと、西側の国が抑止と言っているものとそんなに違わないという感じも持つわけでございます。  ちょっと引用させていただきますと、「ワルシャワ条約機構の国々は核抑止の政策は追求しておらないが、そういう条約機構が非常に強力な防衛力を持っておるということが敵側にとって抑止力と見られているということは事実である。それで、軍事的な均衡というものが現在の状況では平和を維持するファクターになっているということは必要である。」ということを一つ言っております。それから、これも社会主義圏の専門家の言っておることなんでございますけれども、現在の平和というものは戦略的平衡、イクイリブリアムですね、バランスによって保たれておる、第一義的には軍事的な対立を大幅に減少することがどうしても必要である、それで、現在の世界においては、本当の平等な安全というものは決して最高のレベルの軍事的な平等によって保たれるんじゃなくて、最も低いレベルの軍事的なパリティによって保たれなくちゃいかぬのだと。そのパリティからは核その他の大量殺りく兵器は除外されなくちゃいかぬということでございます。  ですから、核の危険性については十分に認識しておるわけなんでございますけれども、軍事的な均衡とかバランスという事実は否定しないわけでございます。そういう意味では、西側の言っておることと東側の言っておることはそんなに違わない。方法論的にはどちらも均衡状態をより低い、より安定した均衡に持っていこうという考え方に基づいているという意味では、共通の基盤があるというふうにも考えてよろしいかと思います。
  72. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 外務省に、もう時間が余りございませんので一問だけ。  先ほど言いましたように、シュルツ国務長官は、核のより少ない世界というのは核抑止力の終わりを意味しない、航空機と巡航ミサイルを多数維持することで、それで強力な核能力を持ち続けるということを言っているんですね。それで先ほどからも話になっておりますように、日本周辺は核積載の航空機とトマホークの巣みたいになっているわけです。三沢のF16もそうだし、ミッドウェーもそうだし、トマホーク積載の原子力潜水艦もそうですね、攻撃艦だけじゃなく。  そこで、今度共同声明で、SLCMについて上限を設けようという一致点が書き込まれたわけです。この中には、SLCMを将来上限を設けようとする際に、国家技術手段の行使や協力手段、現地査察などを含めて検証方法を探求するということになっているんです。そうなりますと、私の非常に気になるのは、アジアで日本はこのSLCMの最前線の基地になっている。十月、十一月にはトマホーク発射実験をやったギタロという攻撃型原潜がもう既に横須賀に二回入っているというような状況です。もし現地査察を含む検証ということになると、日本の横須賀に入ってきているスタージョンクラスとか、そういう攻撃型原潜も査察検証をやることになるわけですな。  そうすると、日本政府は非核三原則でないということで、大体事前協議が来ないから日本には核兵器は持ってきておりませんという態度を、国会じゃそういうことをずっと言っているんですけれども、これは国際的には私は通用しないペテンだと思うのです。それを、いや日本にはない、ミッドウェーにもないし、攻撃型原潜、トマホーク積載のこれもないということで、検証査察を拒否しかねないという危険を私はずっと感じているんです。六月にアメリカへ行ったときも、国務省でこの問題を私は聞いたことがあるんだけれども、どうですか外務省、そういう際、現地査察日本のトマホーク積載の攻撃型原潜、SLCM、あるいはミッドウェーもそうですけれども、あれなどが国際的に問題になってきたとき、SLCMの現地査察なんか受け入れるんですか、拒否するんですか。
  73. 森本敏

    説明員(森本敏君) 先生の今御指摘のSLCMの問題につきましては、今回の米ソ会談で、米ソ両国は長距離核搭載のSLCMの配備の制限に関する問題について相互に受諾可能な解決策を見出すこととする。かかる制限は弾頭数六千、戦略攻撃兵器運搬手段千六百の制限内に今申し上げた長距離核搭載SLCMを数として含めないということを合意し、かつ米ソ両国はかかるミサイルの上限を設定し、かつかかる制限につき相互に受諾可能で効果的な検証方法を探求することにつきコミットした。検証方法は、今先生御指摘のとおり、NTM、いわゆる国家検証手段の使用、協力的な措置現地査察を含み得るものとするということを共同声明の中で述べておるわけですが、御承知のとおり、SLCMの検証という問題は技術的に非常に難しい面があり、我々としては、今後ジュネーブにおける米ソ交渉の成り行きを注目したいと思っております。  今申し上げましたように、SLCMの検証というのはどういう方法になるかということは、必ずしも米ソ双方ともまだ話し合っておるとは承知しておりませんで、技術的に非常に難しいものがあるということについては、先生御指摘のとおり我々としても承知しておるところでございます。
  74. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 もう時間があれですけれども、私が聞いたのは、これからやるんでしょうけれども、万一現地査察ということになって、横須賀のトマホーク積載のSLCMの現地査察ということになったらどうするんですかと言うのです。非核三原則があるからうちは要らないよという態度をとるのかどうかという質問なんです。
  75. 森本敏

    説明員(森本敏君) 現在米ソで行っております戦略兵器削減交渉につきましては、今私が御説明申し上げたとおり、まだこれから行われる問題でありますが、核の持ち込みにつきましては従来から政府で御説明しておるとおりでございます。
  76. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 終わります。
  77. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 きょうは外務省防衛庁からも来ておられますけれども、外務省防衛庁に対しては、質問したいこともありますけれども、いずれまた後の機会があると思いますので、きょうは忙しい中をわざわざ御列席いただきました明石参考人に対して専ら質問したいと思います。  私のちょっと聞き間違いかもしれませんけれども、明石参考人の言われたことの中に、非同盟諸国米ソ両国主導の軍縮交渉に反発をしているんだというふうなことを言われたように思うのです。核兵器軍縮交渉と言えば、やはり米ソ両国が超大国ですから、これが直接交渉するのは当たり前であって、そういう場に非同盟諸国が入っていくというのは、かえってその交渉のまとまるものもまとまらせないようにするんじゃないかということを考えるんですけれども、どういう点で反発をしているのかということが第一問でございます。  それから第二問は、日本外務省説明としまして、このINF交渉がまとまった、つまりソ連の方の立場が変更してきた、かなりソ連が譲歩してきた、その理由として一つは、一九八三年以来レーガンがヨーロッパにパーシングⅡであるとかクルーズミサイルであるとかそういうものを配備したということと、それから西側の結束がこの交渉成功させる原因であるというふうな説明をされましたけれども、国連筋と申しますか、あるいは明石さん自身はその解釈に同意されるかどうか。国連事務次長としてあるいはおっしゃりにくい点があるかもしれません。そのときにはお答えにならなくても結構ですけれども、可能な限りにおいてお答え願いたい。  それから第一二番目は、私はゴルバチョフになってから確かにソ連の態度に多くの変化が見られるように思うのですけれども、国連内部におけるソ連国連大使を初めソ連側の人々の態度に何か大きな変化が見られるかどうか、そのことが第三問。  それから第四問、これはINFと直接の関係はございませんけれども、日本がやはり国連強化していく上において、単に金を出すというだけの協力では不十分ではないか。やはり国連の平和維持機能なんかに対しても、単に機材の派遣だけではなしに、人員なんかも派遣していくことが国連の平和維持機能を助けることになるんじゃないか。もちろん国内法の制約がありますから、現在ではできないことはわかっております。しかし、日本としてもっと積極的に国連の平和維持機能なんかに寄与すべきではないかというふうに私は考えているんですけれども、明石さんとしてはいかがお考えでしょうか。  以上、四点御質問したいと思います。
  78. 明石康

    参考人明石康君) 今の関先生の第一問でございますけれども、私が申し上げた点は、ことしの秋の国連総会第一委員会軍縮討議におきまして、この第一委員会審議合理化、簡素化するための決議が採択されたわけでございます。そのときに西側諸国、それから社会主義圏の諸国がこれを支持したわけでございますけれども、非同盟諸国中有力な幾つかの国、インド、パキスタン、スリランカ、ブラジル、アルゼンチン、ユーゴスラビア、メキシコ、これらの国々が棄権に回りました。ちょっとびっくりしたんでございますけれども、どうしてそうなったかということを考えてみますと、合理化ということはそれ自体はいいのだけれども、やはり国連の全加盟国が審議に参加できる第一委員会を余りにも合理化するという名目のもとに、いろんな問題の審議が十分にできないままに大国中心に処理されてしまうと非常に困る、そういう大国外交、頭越し外交に対する不信感というものが非同盟諸国の中にあったんじゃないかと思うのです。  そういう意味で、国連世界の最高、最大の審議機関でございますけれども、審議機関はそういう大きな形で維持しておく必要がございますし、その一方、ジュネーブの四十カ国軍縮委員会我が国も参加しております軍縮委員会のようなものはやはり軍事的に、政治的に発言権のある国を中心交渉機関として維持しておく必要もあるわけでございます。そういう一般的な審議機関交渉機関とのバランスをはっきり維持しないと、その両者の役割があいまいになるわけでございます。そういう意味で非同盟諸国は、第一委員会は一般的審議機関として維持したい、余り合理化の名前において自分たちの口をふさぐような、そういう合理化だったらこれは困るという疑念が、不信感があったから棄権に回ったということが言えるんじゃないかと思います。  そういう意味で、国連米ソの意向、日本も含めたかなり大きな国の意向だけで動くんではなくて、小さな国の中にもいっぱい小じゅうとがおって、その人たち意見もそんたくし、そのことにおいて世界的な世論をつくっていく場であるということは念頭に置いておく必要があるんじゃないかと思います。
  79. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 ちょっと、それじゃよろしゅうございますか。つまり、国連合理化なんかによって軍縮第一委員会なんかが縮小されるということに対する不満であって、米ソ核兵器の直接交渉を我々の頭越しにやることに対する不満ではないわけですか。
  80. 明石康

    参考人明石康君) おっしゃるとおりでございます。その証拠としまして、米ソINFに関しましては、これを歓迎するという決議が満場一致で採択されております。  先生の第二問でございますけれども、私は、INFがどうしてできたかということになりますと、原因、動機を究明しますと幾らでもあります。国内的な要因、国際的な要因、軍事的な要因、経済的な要因、いろいろあるんだと思いますけれども、やはりこれは時期が熟したとしか言いようがないので、米ソの国内における要因、特に先ほど申しましたソ連のペレストロイカというものに対するそういう近代化の欲求、これがやはり国際政局の安定なしには達成できないという計算がかなりあったのではないか。あったからこそ譲歩に次ぐ譲歩をソ連が重ねたということが相当あるのではないかというふうに考えます。アメリカの方としましても、カーターの時代に米ソの軍事的なそういう均衡西側に不利に崩れた。それに対して当初の段階においては、レーガン大統領はそれを均衡の状態に戻すということに懸命に努力して、それがある程度できた。そういう心理的な余裕からINFに応じるという姿勢に転じ得るきっかけが出てきたんじゃないかというふうに感じます。米ソともに軍事的な国内的な必要はございますけれども、私はソ連の方の必要がより大きいのではないかという感じが、全くこれは私見にすぎませんけれども、いたします。  それから、先生の第三問は、国連におけるソ連人の態度が変わったかどうかということでございますけれども、私の非常に限られた接触からいたしましても、これは最近とみに変わったという感じはいたします。非常にイデオロギー的なこちこちした態度の人たちが少なくなって、テクノクラートといいますか、非常に実務的な、当たりのやわらかい、問題についても相当造詣の深い専門家としてのソ連の人間がふえてきている。先ほど申しましたとおり、国内の事情についていろいろ率直に話してくれる人間も出てきておりますし、そういう意味では、対話の相手として不足のない人間が非常に出てきておるし、能力とが専門的な造詣からいっても相当よく勉強している人間がふえてきていもという感じがいたします。  それから、先生の最後の第四問でございますけれども、国連における日本のイメージでございます。日本国連では現在優等生でございまして、国連を支持してくれるし、会もきちんと出すし、そういう意味では期待が確かにございますけれども、特に日本の場合は、戦後日本の国の成り立ち方からいっても国連主義であり、国連を重視する、より強化された国連なしには日本の平和も経済的な繁栄もあり得ないという国是に立っておりますから、そういう意味では日本のイメージは確かに悪くはございませんし、また分担金が大きくなったということで日本に対する財政的な期待もございますけれども、決してそれだけではなくて、やはり平和のために大局的な見地に立っていろいろ政治的にも行動してほしいという気持ちは事務総長あたりにございますし、イラン・イラク問題なんかでの日本の調停のためのいろんな努力というものも非常に高く評価しております。  それから、在来日本がジャパン・アイテムともいうべき日本独自の提案を幾つかしてきております。国連大学をつくることもその一つのイニシアチブでございましたし、天然資源探査回転基金というものをつくる上でも、日本中心的な役割を果たしましたし、ごく最近では、自然災害救済のための国際的な調整を国連の手でやったらどうだという決議をやはり日本中心になってつくりましたし、こういったことは先進国にも途上国にも一様に歓迎されておることだと思います。  最後に、平和維持に関しましては、確かにお金を出すだけで、人も出さないし、機材も出してくれないしということでは、日本に対して注文があることは事実でございますけれども、日本の国内法上の制約とか心理的ないろんな要因、野党の態度なんかも国連側としても承知しておりますし、日本の世論が変わってくればもっと財政的以外にもやってくれるようになるだろうし、またそうなってほしいという期待はありますけれども、無理強いに日本に現在こういうふうにしろとか、そういう態度ではないと思います。
  81. 田英夫

    ○田英夫君 大変短い時間でありますので、若干感想、意見を最初に申し上げたいと思います。  先ほど矢田部さんの質問に明石さんがお答えになった国際世論ということの視点、これはぜひ国連軍縮担当というお立場から重視していただきたい。これは外務省防衛庁姿勢の中にはほとんどそういうものがゼロでありますが、今度なぜINFであったのかということを考えましても、もちろん明石さんの言われるとおりいろんな要因があって、ついにここに時期的に来たということでしょう。しかし、振り返ってみると、ソ連SS20をヨーロッパに配置していくという中でパージングーⅡあるいはトマホークということに対抗上なって、それに対して西ヨーロッパのいわゆる草の根の市民運動というものが猛烈な勢いで燃え上がって、二十万、三十万という集会が国を越えてあちこちで起こったという、その辺にさかのぼってみますと、これは一にかかって対象INFであったわけです。そこからINFというところに結びついてきたと私は思っています。したがって、この米ソ交渉の中で、INFが妥結したから延長線上に戦略核の五〇%はできても、ゼロではもちろんない。あるいはSLBMまで含めて、そういうものが削減から廃絶へとつながるかというと、私は大変悲観的に見ざるを得ない。  これはかつて、おととしですか、ニュージーランドに行きましたとき、オークランドの女性の市長が、米ソ交渉によって核が廃絶されるとは思わない、核を廃絶できるのは世界の草の根の市民の力しかないという言い方をされたのを私は覚えているんです。これは、女性の市長で表現が大変情緒的かもしれませんけれども、ある意味で真理をとらえているのではないか。米ソ自身今度、政治的、経済的、軍事的という言い方でさっき森本さんから説明がありましたとおり、利害が一致したわけです。そこであそこまで行った。しかし、核を完全に廃絶するということは、米ソ、しかもその指導者の側からは絶対に出てこないと思います。自分の右腕を自分で切り取ってしまうという人はいないという表現もそのときにその女性市長はしておりましたし、殺す側と殺される側という厳しい表現もありました。つまり、米ソの指導者は殺す側であって、我々は殺される側だ。したがって、殺される側の論理が優先しなければ核廃絶にはつながらないという言い方もありました。こういう点が私は今後非常に重要なことになると思います。  実は、明石さんは第二回国連軍縮特別総会のときにはまだ軍縮担当ではなかったと思いますけれども、日本鈴木総理の演説も大変立派でありましたが、むしろ国連本部の建物の中よりも、ニューヨークの町を埋めた、世界じゅうから集まった二百万の市民の動きの方がすさまじいものがあったということを、当時私も行って記憶に残っています。それから日本から軍縮議員連盟が行きまして、そのときに各国のそうした議員団と交流をして、そこに米ソ軍縮担当の大使を呼んで話を聞いたときに、米ソお互いにすさまじい勢いでなじり合ったわけです。これに対して、カナダの若い議員が突然手を挙げて発言を求めて、あなた方は一体何を考えているんだ、あなた方が核戦争をやれば我々の頭の上を核が通って、そしてそのおかげで我々全員が死ぬんだ、そういうことを考えたときに、こんなところで非難し合っているのはわからぬ、何を考えているんだとどなりまして、米ソが頭を下げたという光景がありました。我々も、明石さんが目冒頭に言われたとおり、国会議員というのは要するにそうした国民、市民の声を代表していると思いますので、そのとき見る限り、米ソ軍縮担当大使はみじめにもそのカナダの国民の批判の前に黙ってしまったという図式だったという気がいたします。こういう視点というのをぜひひとつ外務省防衛庁、行政府もそうですし、国連の場におられればもう御存じのことと思いますけれども、重視をしていただきたいというのが私の気持ちです。  そういう意味で、もう時間がありませんので大きな問題について御質問することはできませんが、第三回の軍縮特別総会が来年五月にある。第二回のときには、それと前後しまして世界の各地で地域会議国連主催でおやりになったという記憶があります。アジアのものは、前任者のスウェーデンの次長ですがおいでになって、バンコクで開かれて、日本からは軍縮議連と国連協会の中川さんが行かれ、大石武一さんと私と行ったんですが、そういうことをまたおやりになる計画があるのかどうか。そしてその場合、総会は残念ながらニューヨークということになっているようですが、以前から第三回は広島で開いてほしいということを広島市長などは要望しておられた。アジアでもし地域会議を開くとすれば、それを広島、長崎でやることができないか、そういうお考えはないかということを最初にまず伺いたいと思います。
  82. 明石康

    参考人明石康君) 田先生とは随分長い間のおつき合いで、国際世論と軍縮との関係については先生の方がよく御承知のとおりだと思います。確かに軍縮協定を結ぶのは各国政府でございますけれども、それを背景から支えるのは、何と申しましても各国の草の根の民衆の要望、世論でございます。そういう意味では、第二回軍縮特総に劣らず第三回の軍縮特別総会におきましても、そういう世界じゅうの民衆の声というものが、直接的には各国の民間団体、非政府団体の代表の声を通じて特別総会に反映されるんではないかというふうに考えております。  私は、第二回特別総会はあんな二百万人の人間がニューヨークでデモ行進を行ったということは、それ自体大きなドラマチックなことであったと思いますけれども、それが持続しなかったということが非常に残念なことだったと思います。軍縮への熱意を情緒的にあらわすということも大事でございますけれども、米ソ立場をいかにして近づけるかとか、軍縮という目標においては一致しておるけれども、それをいかにして達成するかという方法論について、やはり民間の団体の方々にもよく研究していただいて、そういうより具体的な、より実際的な提案をどしどし出していただきたいということで、今度の第三回軍縮特総には、そういうNGOの方々にもお願いしてございますし、学界、科学者団体その他の方々にも、現在の段階では全く夢事にすぎないかもしらぬけれども、五年後、十年後の世界には現実のものになり得るような軍縮提案をどしどし考えていただきたい、そのために科学者の会議その他もぜひやってほしいというふうに言っております。そういう意味では量的な参加も大事でございますけれども、質的な参加、知的な参加というものを各国の民衆の人たちに求めたいというのが我々関係者一つの願いでございます。  それから、アジアでそういう軍縮特別総会ないしはそれに類するような会議ができないだろうかということでございますけれども、ことしの三月に北京でアジア地域の軍縮地域会議というのをやりまして、それが大変有意義なものでした。日本からも軍縮議連の議員さんが三人御出席いただいたわけですけれども、できればこれも軍縮特総の後であっても、ひとつ日本でやりたいということを軍縮議連の方々から私の方にも申し入れがございましたし、私はぜひこれはいつかやってほしいと思っております。  日本軍縮論議の非常に不幸な点は、一方の人たちがハト派という烙印を押され、もう一つ人たちがタカ派という烙印を押され、その両者の間に対話がない、本当の意味のかみ合った議論がないということではないかと思うのです。そういう意味ではこんなに不幸なことはないので、この両者の間の共通の広場というものをつくり、本当にかみ合った具体的な議論をする時期に今なりつつあるんじゃないか。そういう意味日本で外国人もいっぱい含めた、世界じゅうの軍縮の専門家を含めた大会をやる、その中に政治家の方々にも入っていただくし、民間団体、マスコミ、学界の方々にも入っていただく、そういうことで軍縮共通の広場をつくっていただければ、国連の場でも日本に対する漠然たる期待はあるわけなんですけれども、これを具体的な日本の提案に持っていくためにぜひかんかんがくがくとした議論を展開してほしいというふうに思っております。ですから、時期的には来年の後半部ないしは再来年あたりにそういったような会議を、場所についてもいろいろ議論があるかとも思います。広島でも長崎でも東京でも京都でもどこでもいいと思いますけれども、そういうことを考えていただければ国連側としても非常に幸せだと思っております。
  83. 田英夫

    ○田英夫君 ありがとうございました。
  84. 青島幸男

    ○青島幸男君 御出席いただきました皆さんのお話と各委員との間の質疑等で、私、かねがね疑念に感じておった部分もかなり消化いたしまして、理解も行き届いたと思って、出席したことに大変感謝をしている次第でございます。  今度のINFの全廃を見ましても、たったこれが数%にしか満たないということで、あとICBMだのSLBMだのというものの数の膨大さと、よくもこんなにたくさんのものをつくってきてしまったものだなというその量と力に愕然とした思いがしたんです。これはどなたもそういう認識はお持ちになっているだろうと思うのです。  それで、これが全廃になるということは大変すばらしいことだという認識で私もいるんです。あだをなすものはとにかく頭をつぶしておかなきゃいかぬ、殺しても生き返ってくるかもしれないからということなんですけれども、今度も全廃はする、しかもお互い査察もするんだけれども、そのロケット部分は地上で爆破さしたり、あるいはここの文書にも、発射によって廃棄するというようなことも言われております。弾頭部の部分の処置、これはそれが残っていりゃいつだってロケットなんかつくれるんじゃないか、一回話が壊れたらどうなるんだろうという恐ろしさもまたぬぐい切れなくあると思いますので、これはどなたにお聞きすればお答えいただけるのかちょっと私もわかりませんけれども、その弾頭部の処理についてはどのように双方の国ともこれを行っていくのか。それもどういう査察の仕方で、ただロケットが発射できる状態であるというのをお互いにやめにする、あるいはそういう状態をつくり出すことがないように査察するというのはわかるんですけれども、弾頭部分の処置についてはどういうふうに双方の国は考えておるのかというのが疑点として残るのです。どなたかおわかりいただける方がおいででしたら、その一点だけお答えいただければ、私の質問は終わりたいと思います。
  85. 遠藤實

    説明員遠藤實君) 実は詳細は私どもも必ずしも十分把握しておりませんけれども、弾頭部分は取り外しまして、つまり核弾頭、核物質が詰まっている部分、それから計器の部分、接合部分等がございまして、そのうち計器の部分は取り外す、それで接合部分はたしか破壊する、それから核物質の部分は別途の処理をする月これはむしろ核物質そのものをやたらにまき散らされても困るわけであります。したがってそのような手続をとるというふうにごく大ざっぱに理解しておりますけれども、詳細は、現在ちょっと手元に資料がございません。もし御入用でございましたら、さらにもう少し詳細調査いたしたものをお届けするなり何なりいたしたいと思います。
  86. 青島幸男

    ○青島幸男君 かなり難しい問題のようですね。つくるのは大変手間がかかる、破裂させれば一瞬のうちに終わってしまうのですけれども、これを安全な形でもとに戻す、あるいは安全な形で保存するということが大変に難しいということを私は聞いておりましたんで、その疑念はぬぐい去れないので今話題にしたわけです。今でなくても結構ですけれども、この疑念はどなたもお持ちかと思うので、わかる限り御調査になって、もし理解の行き届くような資料がいただければお願いしたいと思います。  終わります。
  87. 加藤武徳

    会長加藤武徳君) 以上で質疑は終了いたしました。  明石参考人に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  御多忙の中を長時間貴重な御意見をお出しいただきましてまことにありがとうございました。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  拝聴いたしました御意見は今後の調査参考にいたす所存でございます。  また、外務省防衛庁、御苦労さまでございました。厚く御礼を申し上げまして、ごあいさつといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時三分散会