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参考人(
吉牟田勲君)
日本大学の
吉牟田でございます。
所得税法等の一部を
改正する
法律案及びその
衆議院における修正を含めまして、私の
意見を簡単に申し上げたいと思います。
先ほど
小倉税制調査会長がお話しになりましたように、今回の
税制改正は、六十年以来非常に根本的な検討が行われまして、全体的に人口の高齢化とかソフト産業化あるいは
経済・
金融の
国際化といったことに対応する根本的
改正案として出されたわけでございますけれ
ども、御
承知のような経緯を経まして、
通常国会ではその全部が示されていたわけですけれ
ども、今回はその第一年度ということで全体像が示されない格好で出されているわけでございます。例えば、
所得税の最高税率の五〇%への引き下げとか法人税率の三七・五%への引き下げとかといったことは、
国民の勤労意欲や
経済の活性化という観点からはこれを明らかに示した方が本当は効果があるように思われますけれ
ども、これは今回の経緯の結果やむを得ないことだと思います。
そういうことで、今回の
改正は基本的
改正の第一歩だというふうに考えてみますと、以下細かい点を少し申し述べますけれ
ども、細かい点につきましては私
意見を異にする
部分もございますけれ
ども、全体としては基本的
改正の第一歩として今回の
改正は妥当なものだと思いますし、今回第一歩として
改正されることには賛成でございます。
それでは、一つ一つについて
意見を申し述べさしていただきます。
まず第一は、
所得税法の一部
改正についてでございます。
その一番目は、先ほ
どもお話のありました
所得税率の
改正でございます。
学者の中には、
通常国会に出された
法案と申しますか、それよりも、その前の
法案と出された
法案との間でございますが、主として百二十万と二百万円の間の税率をめぐりまして、それまで一〇・五%であったものが出される前の案では一一%に上がるという問題がございまして、その下の
改正と一緒にしますと、実は増税になるということではなかったのですけれ
ども、その階層だけを見ますと若干そこだけが増加するというので問題にされておりました。けれ
ども、これは今回出された
政府の当初案で既に是正され、さらに今回の
衆議院の修正では全く問題がない形に修正されまして、そういう点では今回の修正後の
所得税率の
改正は極めて妥当であるというふうに考えております。
それから第二番目には、
給与所得者の例の
特定支出の控除でございます。
この実額控除の選択制自体は妥当なことだと思います。ただ、現在のこの
改正法案では五つの費用、通勤費、転居費、研修費、資格取得費、単身赴任者の帰宅旅費といった五項目が実額控除の対象になっております、いろいろ税務行政上の問題もありますのでそう簡単にいかないかとは思いますけれ
ども、この実施の
状況を見て、この実額控除の
制度が効果があるようにその中身についてはなお将来充実の
方向で検討されることを
期待したいというふうに考えております。
それから第三番目が、
配偶者特別控除の創設でございます。
先ほど
小倉会長は賛成だとおっしゃいましたが、この点につきましては私は少し
意見を異にしておりまして、先ほどおっしゃいました共稼ぎと片稼ぎ、それから片稼ぎもアルバイト的片稼ぎと本当の片稼ぎ、それから離婚した後の子連れ片親と申しますか、そういういろいろな
課税単位の
負担関係ということを考えますと、二分二乗の
方向で検討された結果そこまでいかないで今回の
特別控除ができたやに伺っておりますけれ
ども、
余りこれについては賛成できないというふうな気持ちを持っております。
ただ、この
制度の中で非常に私興味を持っておりますのは、いわゆるバニシングエグザンプションという、
所得がだんだん高くなれば控除額が低くなってなくなっていく、いわば消えていくという
所得控除の
制度をとっております。これは評価しておりますけれ
ども、この
制度は、基礎控除や
配偶者控除あるいは扶養控除についても、
所得五億や十億の方にはこの控除はなくてもいいという
方向で将来考えていっていいんじゃないかというふうに思っております。
それから、その次にお話をしたいのは、年金
課税の
改正でございます。
今回の
税制調査会で、年金
課税についてはかなり大きいテーマとして、特に老齢化社会の進展に伴いまして公的年金の頭打ちというような問題と絡みまして、自助
努力年金ということをどう
税制が対処するかあるいは公的年金と私的年金の
課税バランスといった点から、かなり力を入れて検討されたと思いますし、また今回の
課税もそれなりにその
方向に即していると思います。
と申しますのは、今回公的年金等控除という
制度が設けられまして、六十五歳以上の者等につきましては従来の
給与所得控除等よりも有利になっているわけでございますけれ
ども、そういう点、「公的年金等」というので、何か私の申しました公的年金、私的年金というふうに言った場合に公的年金をやはり優遇したのかというふうにお考えになるかもしれませんが、よく読んでみますと「公的年金等」というものの定義につきましては非常に広く書いてあります。例えば、過去の勤務に基づいて使用者であった者から支給される年金というのはいわば普通の企業の自己管理の年金ですが、これも「公的年金等」に入っておりまして、言ってみますと、給付を受け取る段階の
課税は公的年金も私的年金も同等の
負担に非常に近づいております。先ほど申しましたように、自助
努力年金という観点からはこれは非常に望ましい
改正だというふうに思っております。ただ、この掛金拠出段階についてのそういった公私年金のバランスといった点からはなおもうちょっと検討の余地があるんじゃなかろうかというふうに考えておりますが、これはまた第二段階以降の
税制改正の際にぜひ御検討をいただきたいというふうに考えております。
それから第五番目は、この総
収入金額報告書の、先ほど
小倉先生のおっしゃいました五千万円超から三千万円超への引き下げですが、これは通則法の加算税の税率の五%引き下げ等と一緒になりまして、やはり何と申しますか、ちゃんと
申告書を出し
所得を把握するという
方向での妥当な
改正であろうというふうに考えております。
それから次が、かなり今までお話が出ました
非課税利子、
マル優の
改正の問題でございます。これはもう皆さんかなりお話しになりましたので、私は学者でなぜそれに賛成かという
意味で、この
改正に賛成の私の考える理由というものを少しだけお話ししておきます。
個人貯蓄の残高が四百兆に達するというふうに言われておりますし、それから実は今
余り考えておられないようですけれ
ども年金や保険や共済の保険料積立金の予定
利子という本来
利子に当たるものがございまして、こういうものを加えて考えますと、
国民の
所得のうちに占めるそういう
利子所得のウエートというのは非常に大きくなっております。勤労性
所得の
給与所得に対する
課税とのバランスという点から考えましても、この
利子所得に幾分かの
負担を求めるということは考えざるを得ないんじゃないかというふうに思います。
ただ、私も、理想はやはり総合
所得課税ということで、
利子所得も分離で終わらせることがいいのかという点につきましては総合
所得にやはり持っていくべきだというふうに考えております。そういうことからいいますと、グリーンカードの問題等も、短時日に二カ月や三カ月でこれを片づけてどうこうするというのは不可能な話と思いますが、なお長期をかけて総合
所得課税という
方向で検討を行う必要があるんじゃないかというふうに考えております。
それから第七番目が、有価証券の譲渡
所得課税の
関係でございます。
恐らく政令
改正でこの細かい点が
改正されるのだと思いますけれ
ども、そういう有価証券の譲渡
所得課税につきましては、コンピューターの進歩等に伴いまして、証券売買の把握についてさらにもう一歩検討を
期待したいというふうに思っております。
以上が
所得税で、次が法人税の
改正でございますが、実は法人税の
改正は、先ほ
ども申しましたように、今回の
改正にはほとんど入っていないわけでございまして、わずかに
所得税と一緒に
改正されております公益信託の
税制改正が
改正法案に入っております。
公益信託の
税制改正は、私はかなりそれは評価しておりまして、公益法人の現在のいろいろのことに対する
税制措置は事務所や常勤職員等を必要としないような研究助成の基金等につきまして十分公益信託の方が効率的に行えるというふうに考えますので、今後とも公益信託については公益法人と同等の
税制措置を、もちろん各官庁も厳正な監督を行って、事故が、公益法人で問題になるようなことが起こらないようにする必要はあろうかと思いますが、そういうふうに考えております。
なお、先ほどの法人税率の三七・五%への引き下げは、アメリカの法人税率が三四%、イギリスが三五%というような
状況になることを考えますと、やはり
国際化、国際競争という観点から考えざるを得ないんじゃないかというふうに思います。
それから、有価証券取引税の一部
改正が行われておりますが、このこと自体は現下の必要に応じた
改正だと思いますけれ
ども、先ほど申しました有価証券の譲渡
所得課税の進展に応じましては、またもう一回有価証券取引税については根本的にそれとの
関係で
改正検討が必要ではなかろうかというふうに考えております。
それから、租税特別
措置法の
改正の
関係は、一つは
利子課税の問題ですが、これは先ほど大体
意見を申しましたので、もう一つの
土地税制改正についてお話しをして終わりたいと思います。
土地税制改正については、超短期の特別重課あるいは長期の十年から五年への短縮という
改正が行われておりますが、前者につきましては私はかなりこれは
意味がある
改正だと思いますが、後者についてはそれほど
余り意味があるように思いにくいと考えております。
本来、現在起こっております
土地の高騰に対する
税制につきましては、やはり
現行税制の中の事業用
資産の買いかえあるいは居住用
資産の買いかえという
制度に非常に問題があるように思います。現在国土庁等から案が出されているようですけれ
ども、私見ておりまして一番の問題は、総額を全部使ってしまったら全く税金がかからないというところに問題がありまして、しかも事業用
資産については取得面積が五倍以内とか地域が限られるということがあるためにある限られた地域の限られた面積に全部の金を使うという
関係、あるいは居住用については地域や
金額は限られておりませんけれ
どもやはり全額を使うという傾向を来しておりますので、全額を使って
課税になるということをチェックするためには、恐らく単位当たり、例えば三・三平米当たりの
金額とかあるいは両方を通じまして総額的な制限とか、そういうことをやはり
改正の際には考えるべきではなかろうかと思います。
なお、これに関しましては、相続税の
改正も非常に重要だと思いまして、次回の
改正の際には現在の基礎控除の
改正あるいは二百平米までの居住用の七割評価という問題につきまして御検討いただきたいというふうに考えております。
以上いろいろお話ししましたが、今回の
改正、全体としては現段階では妥当だというふうに考えております。
大変貴重な時間ありがとうございました。