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1987-07-31 第109回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年七月三十一日(金曜日)     午前九時三十分開議 出席委員   委員長 大塚 雄司君    理事 井出 正一君 理事 今枝 敬雄君    理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君    理事 保岡 興治君 理事 坂上 富男君    理事 中村  巖君 理事 安倍 基雄君       逢沢 一郎君    赤城 宗徳君       上村千一郎君    佐藤 敬夫君       塩崎  潤君    官里 松正君       稲葉 誠一君    小澤 克介君       橋本 文彦君    安藤  巖君  委員外出席者         参  考  人          (東京大学名誉         教授)     三ケ月 章君         参  考  人         (一橋大学教授竹下 守夫君         参  考  人         (元日本弁護士         連合会事務総         長)      落合 修二君         参  考  人         (日本司法書士         会連合会会長 )牧野 忠明君         法務委員会調査         室長      末永 秀夫君     ――――――――――――― 七月三十日  刑事施設法案の廃案に関する請願中島武敏君  紹介)(第六九号)  同(経塚幸夫紹介)(第九九号)  刑事施設法案早期成立に関する請願柿澤弘  治君紹介)(第一二五号)  同(塚原俊平紹介)(第一二六号)  同外五件(原田憲紹介)(第一二七号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 七月三十一日  前原簡易裁判所廃止反対に関する陳情書  (第七号)  司法制度近代化に関する陳情書  (第八号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の  一部を改正する法律案内閣提出、第百八回国  会閣法第五二号)      ――――◇―――――
  2. 大塚雄司

    大塚委員長 これより会議を開きます。  内閣提出下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案議題といたします。  本日は、本案審査のため、参考人として東京大学名誉教授三ケ月章君、一橋大学教授竹下守夫君、元日本弁護士連合会事務総長落合修二君、日本司法書士会連合会会長牧野忠明君、以上四名の方々に御出席いただいております。  参考人各位には、御多用中のところ、本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本案について、参考人各位には、忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。御意見開陳は、三ケ月参考人竹下参考人落合参考人牧野参考人順序で、お一人十分以内に取りまとめてお述べいただき、次に、委員からの質問に対しお答えいただきたいと存じます。  それでは、まず三ケ月参考人にお願いいたします。
  3. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいま御紹介をいただきました三ケ月章でございます。  本日議題となっておりますところの簡易裁判所適正配置をめぐる問題につきましては、私、それの答申を取りまとめました法制審議会審議に関与した者でございますし、何よりも私はかなり長い間大学におきまして裁判所制度及び民事訴訟研究に携わってきた者でございまして、本日議題となっておりますような問題につきまして多少思いめぐらしてきたところがあるわけでございます。したがいまして、そういう立場から、今回の簡易裁判所適正配置法律案につきまして私の感想なり私の考え方を述べさしていただきたいと存じます。  先ほど申し上げました法制審議会は、昨年の三月に法務大臣から簡易裁判所適正配置の問題についての諮問をいただきまして、それ以後、司法制度部会という法制審議会部会におきまして、前後八回にわたって討議が行われたのでございます。私は、この司法制度部会部会長といたしまして審議の整理に当たらしていただいたわけでございます。  この法制審議会司法制度部会というものは、これは実は法制審議会の他の部会に比べまして非常に特異な例と申し上げていいかと思うのでございますが、それはなぜかと申しますと、直接司法制度の根幹に触れる問題を取り扱う、いわば国民利害に直結する、こういうふうな問題を扱うものでございますから、通常法制審議会の他の部会におきましてはいわゆる法曹三者、裁判官、検察官、弁護士及び法律学者というふうなものが構成の主体をなすのが通常でございますけれども、この司法制度部会におきましては、今申し上げましたような問題の特異性がございますために、その構成につきまして大変珍しい構成がとられていたということを申し上げておきたいのでございます。  それはどういうことかと申しますと、そういう問題を審議するものでございますから、狭い法律家意見だけがそこに出てくるというのでは適当であるまい、いろいろと予算にもかかわりますし、地方のいろいろな実情というふうなものも十分しんしゃくしなければなりませんし、また、いろいろ法律家以外の識者の声もそこに反映させなければならないというふうなこともございましたので、関係官庁代表者はもちろん入るわけでございますけれども中央官庁はもちろんよくこういう審議会に入るわけでございますが、地方公共団体代表、しかも、これも県単位あるいは都会あるいは町村というふうな各単位代表、さらには言論界方々実業界方々、こういうような方も委員に加わりまして、そうしていわば非常に幅広い観点から極めて熱心な討議を行われたのでございます。私も法制審議会に関与するようになりましてからかなり長いのでございますが、いろいろ各方面意見、まことに忌憚のない意見で傾聴すべき意見がこれほどいろいろなところから熱心に表明されたという経験は比較的少ないのでございまして、部会長といたしまして非常に大きな感銘を受けたわけでございます。そういうふうなことをまず冒頭に申し上げさしていただきたいと存じます。  さて、問題の本体でございます簡易裁判所というふうなものがどういうふうな法制上の位置づけが与えられてしかるべきであるか、今日までそれはどういうふうな役割を果たしてきたのだろうか、あるいは今後どのような期待を担っていくべきであるかというふうな点が非常に重要な問題になるわけでございますが、そういうふうな問題につきましては、恐らく御専門で立派な著書もお書きになっておられます竹下参考人の方から詳しい御説明があるかと思われます。したがいまして、私はもう少し、背景と申しますか、大所高所のところからこの法案につきましての私の感想を申し上げるわけでございます。  私どもが取りまとめました法制審議会答申の主な内容は、大きく二点に要約できるかと思うのでございます。いわば二極化と申しますか、正反対方向からの改革要望というふうなものにいかにこたえるかということが課題であったわけでございます。  まず第一は、やはり非常に事件の減少が目立つ、地方にばらまかれております小規模な裁判所、しかもそれが本庁等々に、裁判所に併置されることなしに独立に置かれている裁判所独立小規模の簡易裁判所というふうなものにある程度問題が集中して出てまいりますので、それを解決いたしますために近隣の他の簡易裁判所に統合する、こういう方向司法全体のエネルギーというものの合理的な活用を図る、いわばそういう小規模裁判所に対する対策というのが一つの柱になるわけでございます。  第二は、これとちょっと正反対でございますが、東京とか大阪、名古屋、北九州というふうな大都市には全く別な問題があらわれてまいります。そこで、それぞれの都市部に散在いたします複数の簡易裁判所をできる限り少数の簡易裁判所に集約いたしまして、その背景には言うまでもなく交通網の整備というふうな問題があるわけでございますが、それを集約いたしまして、いわば集積の利益ともいうべきものを最大限に発揮して、そして大都市住民のニーズにこたえようとする、こういう面でございます。  こういうふうな面で、非常に小規模の裁判所の問題、非常に大規模の都市における裁判所の問題、両方の問題を解決しようとしたのがこのたびの改正でございまして、戦後の我が国司法制度の流れを見てまいりますと、非常に画期的な改革であるというのが私の偽らざる印象でございます。言葉をかえて申しますならば、戦後新しい憲法ができまして司法制度の再編成がなされましてから、いわば最初になされた本格的な司法改革のはしりである、こういうふうな感じがするわけでございます。したがって、それだけ大きな改革でございますだけに、そうした内容答申であるにもかかわらず、先ほど述べました司法制度部会というふうな幅の広い組織を持つ法制審議会で、全員一致でということでございます。すなわち、一人の反対もないままこの法律案のもとになりました答申が作成されたわけでございます。  そういうふうな事態を考えてみますと、それは、現在の時点におきましては、従来終戦直後に発足いたしました簡易裁判所配置社会事情の変動というふうなものとの間にギャップを露呈して、かなり不合理な形のものになっているということ、したがいまして、それをできるだけ是正いたしまして機能の充実を図っていくということが国民の側の要望に的確にこたえるし、また、司法というふうなもののエネルギーを合理的に配分していくという上でいかに必要であるかということを、ある意味では疑問の余地のない形で明白に物語っているのではないかというのが私の率直な印象でございます。これは何も私一人の印象ではございませんで、この法制審議会司法制度部会に参与されました法曹以外の方々の中から、なぜ今までこういうふうな問題があるのにこれを放置しておいたのか、我々の社会ではこういう問題が露呈してきたならばもっと速やかに手が打たれていたはずであるのにというふうな声も聞かれたということを御紹介しておきたいのでございます。  そういうふうなことと並びまして、もう一つこのたびの法制審議会審議に関して指摘させていただきたいのは、ここでの討議が単に抽象論の次元にとどまることなしに、現実的な配置の見直しということを、個々の裁判所レベルまでかなり問題を掘り下げました上で議論がなされたということでございます。とかく制度改革の問題になりますと、総論賛成各論反対になりがちなことでございまして、特にこういう地方利害に直結する面のあります問題につきましては、抽象的な命題合意を得ることは必ずしも難しいことではないのでございますが、それだけでは非常に現実性のない改革となるおそれがあり、各論の局面に入りますとまた大きな揺り戻しに直面するということは免れないものでございます。  司法制度部会におきましてはこういう点につきまして十分に配慮いたしまして、私も特にその点は気をつけたつもりでございますが、一方においては、あるべき姿をも踏まえたいわば全国的に見た公平な客観的基準というふうなものを設けることに努力いたしましたが、他面におきましては、やはり具体性と申しますか、地元自治体なり弁護士会等関係機関意見を十分聴取して、いわば個別事情をその中にできる限り盛り込む余地を認めようと努力した次第でございまして、現実的な問題にもかなり十分な配慮がなされているということを指摘させていただきたいのでございます。  仄聞するところによりますと、私ども答申をまとめましてから、裁判所及び法務省の当局は、この答申の趣旨に沿いまして、各地元自治体を初め弁護士会司法書士会調停協会など多くの関係者と粘り強い折衝を重ねられまして、そうしてその結果、それらの意見も十分盛り込んで、答申とは多少異なる点も含みながら今回の法案を作成されたように伺うわけでございます。答申はもちろん、先ほど申しましたように、個別性の契機を尊重するとは申しながら、やはり重点が、一つの基本的な考え方を示すというところにもあったわけでございます。したがいまして、その答申の中におきまして、今後またこの実施の段階におきましては十分地元のそういう個別要望にこたえるということを考慮してほしいということが、事実、答申の中にも盛り込まれておりました。特に、後で述べられる落合参考人の方の弁護士会の方からそういう要望が出ましたので、それが本文の中にも取り込まれているわけでございますが、そういういきさつもありますだけに、そういう粘り強い努力の結果としてそういうふうなことに現実に対応いたしました形で法案の形にまとめられたことは、やはり部会長といたしまして非常に喜んでいる次第でございます。  最後に、裁判制度につきまして多少研究を続けてまいりました者から、今回の改革評価というべきものを申し上げさせていただきたいと存じます。  我が国司法制度は、何と申しますか、外圧がありますとまことに見事な対応をする。しかしながら、一たび外圧が去りますと、ほうっておきますと停滞しがちである。これは、私が裁判法学という学問を提唱して以来ずっと述べてまいりました命題でございます。裏から申しますと、ほうっておきますととかく停滞しがちな面でございまして、本来ならば法律家というのはもっと合理的な思考を持つべきものでございますので、どんどん時代の要請に対応して改正していかなければならないのでございますけれども、今言いましたような隠された特徴があることはやはり事実だと思うのでございます。そういう感じを持ってきた私でございますだけに、このたびのこれだけ大きな司法改革が全くの外圧なしに、いわば日本人の自主的なイニシアチブに基づいて取り組みが試みられ、そしていろいろな各方面折衝の結果こういう形でまとめられてきたということは、我が国司法制度の将来の手直しということを考える上において非常に貴重な前例となるのではないかという点が一つでございます。  それから、今の点と関連いたしますが、全員一致ということをちょっと申しましたが、法曹三者が何といいましても利害中心でございますが、その方たちの御意見がここの一つのところにまとまりまして、そしてこの答申ができ上がったということも、これも日本の過去の司法制度改革から見ますと特筆していいことではないかと思うわけでございます。とかく法曹三者間のいろいろな意見の食い違いによりまして、そして改革が阻まれてきたというのが、率直に言って私の印象でありますだけに、このたびのように小異を捨てて大同につく、こういう形での改革の積み重ねということは、今後の日本司法制度にとりまして非常に好ましいことであり、そういう好ましい傾向は、例えば昨年私もまたこの法務委員会で述べさせていただきました外国人弁護士の受け入れ問題であるとか、それからまた、このたびのこういう簡裁適正配置問題等で形が見られるようになってくるということは、まことに喜ばしいことだと思うのでございます。  ちょっと、同じような問題でございますが、今から何十年になりますか、二十数年前に臨時司法制度調査会という犬がかり組織司法制度改革が試みられました際に、やはりこの簡易裁判所適正配置というふうな問題も一つのポイントであったわけでございますが、当時は法曹三者の間の合意の形成が難しくて、ついに何らの成果も上げることもなしに流産してしまったということを私は思い起こすわけでございまして、この二十年以上の間に、やはり同じ問題でありながらこういう形で今国改正のめどが立ってきたということを非常に心強く思う次第でございます。  結論といたしまして、そういう背景を持ち、そういうふうな形で審議を尽くしてまいりました法案でございますので、速やかにこれが立法として実現されますことを強く期待いたしまして、私の意見開陳を終えさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
  4. 大塚雄司

    大塚委員長 三ケ月参考人ありがとうございました。  次に、竹下参考人にお願いいたします。
  5. 竹下守夫

    竹下参考人 ただいま御紹介いただきました参考人竹下でございます。私も、ただいまの三ケ月参考人と同じように大学民事訴訟法及び裁判法研究をし、講義をしている者でございます。そういう立場から、今回の簡易裁判所適正配置と申しますか、統廃合問題を内容といたしております下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部改正法案について、私の意見を述べさせていただきたいと思います。  意見順序でございますが、まず最初に、今回の簡易裁判所の再配置問題の背景と申しますか、そういうことについて私の認識するところを申し上げ、それから次いで、簡易裁判所機能と申しますか、性格をどういうふうに考えるかという問題、それから三番目に、そのような簡易裁判所性格なり機能なりから見た今回の再配置評価と申しますか、そういうことを申し上げて、最後結論を述べさせていただきたいと思います。その際、今回の改正はとりわけ刑事事件との関係よりは民事事件との関係がより重要だというふうに思いますし、それから私の専門民事訴訟法であるということもございますので、民事事件中心として私の意見を述べさせていただきたいと思います。  簡易裁判所は、御承知のとおり昭和二十二年に第二次大戦後の司法改革に際しまして旧制度区裁判所を改めまして、刑事事件につきましては、違警罪即決例廃止それから令状主義の採用に伴いまして、警察署の身近に違警罪裁判所的な軽微な犯罪を処理する裁判所が必要であるということになったこと、それから民事事件につきましては、アメリカ少額裁判所というのを一つのモデルにいたしまして、少額事件を簡易迅速に裁判する民衆に親しみやすい裁判所をつくる、そういう理念のもとにでき上がったわけでございます。その後四十年間、簡易裁判所は、全面的にとは言えないまでも、ある程度の範囲におきましては立法当初の期待にこたえてその機能を果たしてきたというふうに申し上げることができるのではないかと思います。  しかしながら、この四十年間における我が国社会事情の変化には著しいものがございまして、それが簡易裁判所配置の再検討を迫っているように思われるわけでございます。申し上げるまでもなく、とりわけ人口の移動による都市過密化とその反対農村地帯過疎化という現象が一つであり、それからいま一つは、都市における消費経済の発展によって都市部簡易裁判所における事件が激増してきた、そういうことが今回の再配置問題の背景にあるかと思うわけでございます。このように、一方で都市部簡易裁判所における事件の激増があると対照的に、地方の、ただいま三ケ月参考人もおっしゃいました独立小規模簡易裁判所と申しますか、そういうところでは事件が著しく減少してきている、そういう状況があるわけでございます。  特に民事事件につきましては、これは国民が利用する簡易裁判所でございますので、裁判所の方から見ますと国民司法サービス提供するということになるわけでございますが、その司法サービス提供という観点から見ますと、全国的に公平な司法サービス提供を確保することが難しくなってきたというふうに言えるのではないかと思います。それといま一つ大都市簡易裁判所におきましては、昭和五十年代からいわゆる消費者信用というものが爆発的に増加したことに伴いまして、事件数が急激にふえております。十年前に比べますと三倍以上というような数になっておりますので、このまま放置したのでは大都市簡易裁判所機能麻痺に陥る、そういう背景があったと思うのでございます。  こういった事情から、簡易裁判所配置が一体現在の社会状況に合うのかどうかということを改めて検討する必要が出てきた、これが今回の問題の背景であるというふうに私は認識いたしております。  そこで、そういう背景を伴った一種の必然性を持った簡易裁判所配置の再検討であるといたしましても、果たしてそれが、簡易裁判所というものが我が国司法制度の中で持っている役割といいますか、あるいは簡易裁判所性格というものから見て、今回の改正法案のような形で再配置をすることが妥当なのかどうかということを考えなければならないわけでございますが、そのためにはまず前提といたしまして、それでは簡易裁判所は一体現在の我が国司法制度のもとでどういう役割を担っているのかという問題について私の意見を述べてみたいと思います。  この簡易裁判所性格あるいは機能というものにつきましては、簡易裁判所は確かに旧制度のもとでの区裁判所というものとは理念を異にしておりますけれども、そうかといって、アメリカ少額裁判所というふうに呼ばれている、そういう裁判所意味での純然たる少額裁判所という性格を与えられているわけでもない、いわばその双方といいますか、旧制度における区裁判所的な役割とそれから少額裁判所としての役割、この両方役割を担うように位置づけられているのではないかというのがかねてからの私の考え方でございます。  確かに、先ほど申し上げましたように、現在の司法制度発足当時、簡易裁判所がその理念といたしまして少額裁判所機能を果たす裁判所であることを期待されていたということは疑いございません。しかし、現在の司法制度全体の仕組みの中に簡易裁判所というものを置いてみますと、果たして純粋に少額裁判所たることだけが簡易裁判所期待されていたというふうに言えるかは疑わしいと思うわけでございます。  純粋な少額裁判所と申しますと、私どもすぐにアメリカ少額裁判所を思い出すわけでございます。アメリカ少額裁判所ではごくささいな、よく引き合いに出されます例では、クリーニング屋に衣類を出したところ汚れが落ちていないとか、あるいは逆にかえってしみがついてしまったとかいうような、そういう争いであるとか、あるいは自動車のごく軽微なちょっとした接触事故であるとか、そういうような争いを文字どおり簡易迅速に、いわば速戦即決的に解決をしてくれる、そういう裁判所というものを思い出すわけでございます。つまり、民衆の日常的な争いをそれこそ短時間に裁判所が公平の理念に従って裁判をしてくれる、そういうのが少額裁判所、こういうふうに考えるわけでございます。  簡易裁判所をこのような意味での純粋な少額裁判所というふうに性格づける考え方からいたしますと、現在の簡易裁判所状況は、今申し上げましたような意味での民衆の日常的な事件というものを簡易迅速に処理しているわけではないのではないか、したがって、このような簡易裁判所の現状というのは本来の簡裁理念に反しているのではないか、すべからく当初の理念に立ち返るべきであるというような声が聞かれるわけでございまして、それはそれなりに一応もっともだというふうに思われるわけでございます。  しかしながら、現在の司法制度全体の構造というものは、簡易裁判所をこのような意味での純然たる少額裁判所とする仕組みにはなっていないように私には思えるわけでございます。  第一に、現在の司法制度発足当時、もし簡易裁判所がそれまでは裁判所にあらわれることのなかったような民衆の日常的な事件のみを取り扱う裁判所として位置づけられたのだといたしますと、当然これまで区裁判所で処理されてきたような事件というものも新制度のもとではすべて地方裁判所が引き受けるということになるわけでございますので、地方裁判所が旧制度よりは著しく強化されなければならないということになるわけでございますが、裁判所の数の上でも、また裁判官定員数の上でもそれほどの強化がなされたというふうには言えないのではないかと思うわけでございます。と申しますのは、簡易裁判所が、従来の区裁判所と同じではないけれども、その機能の一部を新制度のもとでも担い続けるということが予定されていたのではないかということでございます。  それからまた第二に、最高裁判所機能確保という問題との関係から見ましても、簡易裁判所は、ある程度旧制度区裁判所と同じように通常裁判所として地方裁判所と第一審の管轄を分担する、そういう裁判所としての性格があったというふうに考えざるを得ないわけでございます。と申しますのは、御承知のとおり地方裁判所が第一審の事件は最高裁判所を上告審裁判所といたしますわけでございますが、今まで旧制度のもとで区裁判所地方裁判所それぞれが担当していた事件がすべて地方裁判所を第一審とするようになれば、最高裁判所の上告審裁判所としての負担は著しく過重になるわけでございまして、それでは新しい制度のもとでの最高裁判所に与えられた非常に崇高な任務を果たすのに十分その任にたえないということになるのではないかと思われます。  それからさらには、もし純然たる少額裁判所ということになりますと、これはどうも我々の裁判に対する従来の既成の観念をかなり変更しないとならないように思うわけでございます。証拠に基づいて事実を厳格に認定いたしまして、それに法を適用して権利があるかないかの判断を下す、そういう構造をとろうといたしますと、先ほど申しましたような両方の当事者の言い分を聞いて数時間の間に結論を出すというような形の裁判にはとてもなりにくいわけでございます。しかし、現在の簡易裁判所がそういった既成の裁判の観念というものを変更した裁判所という役割のみを担わされているというふうには思えないわけでございます。  以上を要するに、簡易裁判所というものはその発足当時から、一方においては少額裁判所機能を果たすことを期待されていたとともに、他方では、地方裁判所といわば同質の裁判所といたしまして、第一審の管轄を分担する裁判所であるということを予定されていたということに考えられるわけでございます。  そこで、そのような簡易裁判所性格づけのもとで、今回の再配置というものがどう評価さるべきかということを考えてみたいと思うわけでございます。  今回の改正法案が実現しようとしております簡易裁判所の再配置は、これまでも簡易裁判所に持ち込まれてきた規模あるいは類型の事件というものを前提として考えますと、今回の改正は、これらの事件の解決を求める当事者のために、先ほど申しましたように全国的に公平な、そして効率のよい司法サービス提供しよう、そのことを制度的に確保できるようにしよう、そういう改正だというふうに考えるわけでございます。  このことは特に地方の小規模な独立簡易裁判所について当てはまるわけでございますが、大都市簡易裁判所の統合も、同様にいわゆるスケールメリットというものを生かしまして、大都市にある、従来分散していた簡易裁判所を可能な限り一カ所に統合いたしまして、裁判官、書記官その他人的スタッフの面でスケールを大きくいたしまして、そのスケールのメリットというものを生かして専門化あるいはOA化を図ろうというわけでございますので、やはり国民に対する効率のよいサービスを実現しようということを目的としているというふうに考えられるわけでございます。このことを別の角度から見ますと、先ほど申しました簡易裁判所の二重の性格のうち第一の地方裁判所と同質の裁判所として第一審の管轄を分担する、そういう役割から見ますと、今回の改正というものは広く合理性の認められるものというふうに考えられるわけでございます。  問題は、これまで民事調停を除きますとむしろ必ずしも裁判所にあらわれてこなかったような、したがってまた量的には十分な司法的救済が与えられていたとは言いにくいような、より一層小規模な紛争あるいは民衆事件であるとかあるいは庶民の権利、さらに最近では消費者の権利というふうに呼ばれているような、そういう権利にかかわる小さな事件、こういう事件簡易裁判所役割との関係から見て今回の改正がどういう意味を持つかという点でございます言いかえれば、簡易裁判所少額裁判所機能から見て今回の再配置がどういう意味を持つかという点でございます。殊に近年では、いわゆる消費者問題との関係で、簡易裁判所少額裁判所機能のより一層の発揮を期待する声が多いように思うわけでございます。  そのように見ますと、今ここで地方簡易裁判所あるいは大都市簡易裁判所というものを統合してしまうと、確かに現在裁判所に出ている事件を処理するという観点から見れば合理的かもしれないけれども、将来に禍根を残すようなことにはならないかという問題が出てくるわけでございます。確かに、これまでは身近にあった簡易裁判所がなくなって、これから自分が裁判所へ行って権利の救済をしてほしいというふうに当事者が考えるといたしますと、今度は隣接のいわゆる受け入れ庁まで出かけなければならないということになりますと、その分だけ不便が生ずるということは間違いありません。  しかし、他方では、先ほど来申しておりますように、現に大都市裁判所では事件が集中している。そのためにその大都市裁判所を利用する国民からすると、ほかの地方裁判所を利用する国民と同程度の迅速な事件の解決あるいは権利の救済というものが得にくくなっている、そういう状況があるわけでございますから、どうしても問題の公平な解決あるいは公正な解決というものを考えるためには、統合される簡易裁判所の周辺の住民の不便さというものが、少額事件のために裁判所を利用することの障害になる、あるいはそれゆえに住民の裁判を受ける権利の保障を実質的に奪うことになってしまうのではないか、そういうふうに考えられるのであれば、これは再配置の必要性が一方で認められるとしても、かなりその規模を縮小するなりあるいは別の方策を合わせるなりして、さしあたりの改正の規模というものを考え直さなければいけないということになるかもしれません。  しかし、そのような観点から見ますと、今回の改正案では、小規模独立簡易裁判所の統合について申しますと、年間の事件数が百件以下の簡易裁判所のみが対象とされまして、それから年間事件数が六十件以下のものについては、受け入れ庁までの所要時間が百二十分のところもございますけれども、大部分は受け入れ庁までの所要時間が六十分以内ということでございますので、そうだといたしますと、統合される簡易裁判所の周辺の国民にとりまして不便であるには違いないが、この程度の不便さは何とか我慢ができるのではないか、受忍を求めてもそれによって裁判所の利用を妨げるとまでは言えないのではないかと思うわけでございます。例外的には受け入れ庁までの所要時間が百五十分のところもあるようでございますけれども、これは年間事件数が十件以下の簡易裁判所ということでありますので、やむを得ないのではないかというふうに思うのでございます。それから、法制審議会答申で定めました一般的な基準に該当いたしましても、今回の改正案では統合の対象から除外されているという裁判所が五十庁近くございます。これは、個別の事情をきめ細かく考慮されたためというふうに考えられるわけでございます。  しかし、今回の再配置簡易裁判所少額裁判所機能に対して持つ意味というのは、以上のように、統合しても別に周辺住民の裁判を受ける権利を奪うことにはならない、そういう消極的なものにとどまるわけではないと思うわけでございます。大都市簡易裁判所の統合では、それによって事件専門的処理が可能となりますし、また最高裁判所、法務省の御説明によりましても、これによって受け付け態勢というものを一層整備して、国民が利用しやすいような、そういう簡易裁判所をつくっていこうということでございます。特に専門部制というものが採用されまして、例えば少額請求部であるとかあるいは本人訴訟部というようなものができて、代理人を伴わない本人訴訟というものについて現在以上にきめ細かい配慮がなされるということになりますと、少額裁判所としての機能というものが一層現在よりもなお十分に発揮できるということになるわけでございまして、そういうような形で簡易裁判所少額裁判所機能というものの実績が積み重ねられるということの意義は大変大きいというふうに私は考えているわけでございます。  簡易裁判所少額裁判所としての機能を発揮させるということは、確かに我々の理想でございます。しかし、この理想を実現する道というのは、単に簡易裁判所配置の現状を守るということではなくて、新しい時代環境の中でそれにふさわしい方策をとること、例えば国の施策として法律扶助制度を充実させるというようなこともその中に入ると思うのでございますが、そういう方策をとることでありまして、それからまた、一つ一つ実績を積み重ねて広く一般の理解を得ることであるというふうに考えるわけでございます。  最後に、結論といたしまして、このような観点から見ますと、今回の改正法案というものは新しい時代環境に適した簡易裁判所の再配置を目指しており、また、少額裁判所としての機能を一層充実強化する足がかりをつくり出すものというふうに考えることができると思うのでございまして、私といたしましてはこの改正案が法律として実現されることを望むものでございます。  以上でございます。(拍手)
  6. 大塚雄司

    大塚委員長 竹下参考人ありがとうございました。  次に、落合参考人にお願いいたします。
  7. 落合修二

    落合参考人 先ほど御紹介いただきました元日本弁護士連合会事務総長の弁護士である落合修二でございます。私は、日本弁護士連合会の選出による法曹三者協議員といたしまして簡易裁判所適正配置問題に携わってまいりましたし、また、先ほど来お話のございました法制審議会委員といたしまして、この問題について審議に参加いたしていろいろ論議をしてまいりました関係でございますので、そういう協議ないしは審議における論議を通じまして、今回のこの法律案についてどのように考えるかについて私の意見を述べさせていただきたいと思います。  今回出されております法律案の主な内容は、多くの簡易裁判所廃止してこれを統合するということ、それから簡易裁判所を必要な場所に新設すること、それから管轄区域を見直しするというあたりが主な内容でございます。しかし、いずれも簡易裁判所の本質にかかわる重要な問題を含んでおるわけでございまして、この問題を論ずるに当たりましては、今日存在する、あるいは法律上制定されておる簡易裁判所というものが一体何なのかということを十分に理解した上で、あるいはそれをわきまえた上でなければ論じられない問題だ、こんなふうに私どもは考えておるわけでございます。  簡易裁判所は、御承知のとおり昭和二十二年に戦後の新しい司法制度の一環として創設されたものでございます。当時全国に五百五十七カ所、国会審議等における言葉をかりれば全国津々浦々に存在させよう、こういうことが強く打ち出されておったわけでございます。後に十八カ所ほど新設されまして、法制上は今日五百七十五庁ということになっておるわけでございます。先ほど竹下先生のお話がありました戦前の区裁判所の数のほぼ倍に相当する数でございます。  簡易裁判所は、いろいろな見方がございますけれども、私ども弁護士としてあるいは在野法曹として実務に携わりながら考えるところによりますと、比較的少額、軽微な事件を簡易な手続によって迅速に処理していくということを目的として設置されたものだ、こんなふうに考えておりますが、ただ、その根本的な理念といたしましては、区裁判所性格とは全く異なる別個な裁判所、こんなふうに考えなければならない性質のものだと思うわけでございます。理念的に申し上げますと、一般国民にとって身近なものとして親しみやすく、そして国民のだれでもが気軽に利用できる、こういう裁判所、言うなれば民衆裁判所あるいはよく言われます駆け込み裁判所、こういった性格理念のもとに創設されたのだと思います。また、このことは法律制定の過程において多くの関係者から極めて強く主張されておるところでございます。またそして、これが戦後の司法の民主化に寄与できるのだということが望まれ、そのために先ほど言いましたようなたくさんの箇所に裁判所が設置された。  この裁判所が今日まで本来の理念どおりに運営されておるかどうかという点につきましては、先ほど竹下先生のお話にありますように、必ずしもその理念どおりに今日運営されているということは、残念ながら私どもはそれを認めるわけにはまいりません。かなり小型地裁的な様相を呈しておるということも否めないわけでございます。しかしその反面、このような多数の箇所に、そして特に民事調停とかあるいは本人訴訟等によって、専門的な知識を持たなくても、また代理人を立てなくても、みずからが気軽に利用できるという裁判所として大きく機能しておるという一面も、決してこれは忘れてはならないところでございます。私どもは今回の簡易裁判所適正配置につきまして、このような理念に基づいてその実現を少しでもできるようにという観点で対処してまいったわけでございます。  以下、これから、先ほど申しました三者協議あるいは法制審議会審議等を通じて私どもが考えてきた点をもう少し御紹介したいと思います。  最高裁判所は、この問題につきまして、昭和五十九年一月に法曹三者協議の議題とするように提案してまいりました。ここでちょっと三者協議というものを簡単に御紹介しておきますけれども、これは昭和四十五年の参議院、四十六年の衆議院におきまして、法案制定の過程におきまして、最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会、この法曹三者は司法の改善問題について十分協議をしてできるだけ意見の一致を見るよう努力すべきである、こういう趣旨の附帯決議がなされておるわけでございますが、裁判所も私どももこの附帯決議にのっとり、そしてまた、これを契機に法曹三者で司法の重要問題を十分協議するようということで、昭和五十年以来三者協議会を設けて多くの問題を論議してきたわけでございます。  今回のこの問題につきましても、三年前、昭和五十九年に提案がなされて、最近まで実に三十五回にわたって私どもは真摯な論議を積み重ねてきたわけでございます。その経過を全部申し上げますと大変な時間を要しますので、詳細な点は省略いたしますが、要するにこの法曹三者によって、簡易裁判所配置が今日このような状態で適正と言えるのかどうか、適正でないとすればどのように配置を見直したらいいかというようなところから始まったわけでございますが、果たしてこれを今日の段階で論議することがいいかどうか、つまり議題にするかどうかということを含めまして、激しい論議を重ねてきたわけでございます。戦後四十年における社会情勢あるいは交通事情、もろもろの情勢が著しく変化した今日、四十年前の状態そのままでいいのかどうかという点は、これはやはり深刻に受けとめなければなりませんし、私どもも今日的な状況に合った配置をするべきことは当然これは考えなければならないわけでございまして、何でもかんでも裁判所廃止するということには反対だというわけにはまいりませんし、できるだけ簡易裁判所の本質を損なわないようにし、かつまた一般国民の利用に甚だしく支障を来すようなことのないような方法を三者で十分協議して考えようではないか、こういう視点で私どももこの協議にこの議題を取り上げて加わったわけでございます。  裁判所の方では、一定の事件数あるいは交通事情の変化による所要時間が少ないというようなところについては廃止していくということでいろいろな基準が出されましたけれども、私どもはやはりその地域に密着した存在であり、そしてそれがまた国民裁判を受ける権利に深くかかわるものであるとするならば、このようにたとえ全国的に公平を期するというメリットはあるにしても、一定の事件数あるいは所要時間によって指標を立て、その基準で画一的にこれを全国に当てはめるというのは余りにも形式的な平等ではないか、もっともっと実質的な観点から、公平を期しながら、かつ今言ったような要請にこたえていく方法を考えるべきであるということで、先ほど言いましたように三年余、そして三十五回にわたってかんかんがくがく意見を交換し合い、そして提言をしながら論議をしてきたわけでございます。  この三者協議の経過の途中で、ある程度論議が尽くされつつあるときに法制審議会にこの問題が諮問されたわけでございます。昨年の二月でございます。その後は三者協議を続けながら、あわせて法制審議会審議に私どもは加わっておったわけでございます。そういう中で、画一基準による統廃合ということは極力避けるべきである、そして各地域の実情あるいは意見等も十分これを考慮して実質的な適正配置、真に適正な配置をすべきであるということを論議いたしまして、法案の資料についております答申が昨年の九月になされたわけでございます。  その要点あるいは経過については先ほどの三ケ月先生のお話で詳しく述べられておりますので、重ねて申し上げませんが、その中で、各地域の実情を十分に勘案するという点や、あるいは大都市簡裁問題について四大都市を画一的に一庁にするというような機械的な統廃合は避けるべきであるという趣旨のことも理念として盛られておりますし、何よりも行政改革的な統廃合ではなくて、簡易裁判所機能を充実強化するためのものでなければならない、これは答申の中に明確に打ち出されております。こういったことも私どもは三者協議におきまして他の二者といろいろ議論を重ね、そしてまたこのことも法制審議会においても強調いたし、ごらんのような答申がなされたわけでございます。そういう意味におきまして、私どもも三者協議の経過に照らして私どもとほぼ考え方が一致するということで答申に賛成したわけでございます。  答申は、具体的にどこの裁判所をどうするということは本来法制審議会ではなじまない事柄だと思いますが、少なくとも基準的なものあるいは基本方針だけは決めようということで、三ケ月部会長のもとで全員一致であの答申がつくられたわけでございます。ただ、問題は、今言ったように答申は一定の基準を示すだけでございまして、具体的にどの裁判所をどのようにするかということになりますと、これは答申を踏まえて現実にその後の法案策定作業の過程で考えていかなければならない問題として課題は残されたわけでございます。  法制審議会としてはそれで終わったわけでございますが、私どもは、この法制審議会答申を踏まえてといいながら、それを本当に踏まえられた法律案がつくられるのかどうか、これは実務家としては大変関心の高い、また軽視できない重要問題であるということで、その後も引き続いて協議会を精力的に持ってきたわけでございます。特に私どもが一番痛感いたしますのは、その地域の方方の利便はもちろん大事でありますけれども、どういう考え方を持っておるか、そして中央ではなかなか把握できない地方地方の特殊な事情があるであろう、これを的確に吸い上げるには地方単位関係者が十分協議ないしは意見の交換をして具体的に妥当な方策を立てるべきではないか、こういうことを強く打ち出しまして、少なくとも弁護士会関係では、地方裁判所所長を中心とする裁判所側、弁護士会の会長を中心とする弁護士会側、これが関係都道府県におきまして、全国で昨年の十月から十二月にかけ実に精力的に、また真摯に各地で意見交換が行われたわけでございます。裁判所もそういう意見交換の中で出された弁護士会その他の意見の重要なものをかなり取り上げられまして、百四十九庁を検討対象にしておりながら、その中で四十八庁を存続させる、地方小規模簡裁についてはそういう結論になりました。  しかし、これについては私どもでは、まだ各地に裁判所をなくされては困るという地域があるのではないだろうか、あるいはそういう不満もないわけではないというふうに聞いております。しかし、だからといって、この百一庁を廃止することについて絶対反対だということは私どもは申し上げるわけにはいきません。それには一定の条件といいますか、この適正配置によって今後の裁判所のあり方をどういうふうにしていくかという別な問題が絡んでおるからでございます。この別な問題がもし実現するならば、あるいは対応できるならば、今回の小規模独簡の百一庁の統廃合、これは決して国民のためにならないものではないというふうに思うからでございます。  その問題と申しますのは、いろいろございますけれども、三つに一応限定して申し上げますと、今回の改正による措置が簡易裁判所の設置当初の理念を損なうことのないように、裁判所の建物の構造、レイアウト、人的配置、その他の諸設備、こういったいわゆるハード面、それからまた裁判所の運営に関するもろもろのソフト的な面、こういった両面において一層充実を期して、国民裁判を受ける権利を失わしめることのないように努めなければならないという、一つの強い要請がございます。  また、今後の事件数の増加や人口の増加等によってその地域に裁判所を新たに設置する必要がある場合には、関係者意見を十分聞いてこれを実現していくということ。今回の法案の中にも、埼玉県所沢、東京都かの町田に新しく設置するというのが一つの重要なことだと思います。そういったことをこれからも全国的に考えていくということ。  三番目には、この法案の中にも出てまいりますが、裁判所の設置を事務移転等の形によって、実質的に法律によらない裁判所の統廃合に通ずるような措置が出されてきております。二十カ所ほどあるようでございますが、名目的に法律裁判所として残っているだけ、こういったものも今度法律上消すということになるわけでございますが、そういう国会の審議を経た法律改正によらないで裁判所の統廃合につながるようなことをされては困るということを強く裁判所に申し上げ、裁判所もその点については了解されておるようでございますが、私どもはこういった点を強調し、そしてこれが実現するように期待するわけでございます。そしてこれが期待できるならば、この小規模独簡についての法案についてあえて反対するものではございません。  時間がございませんのではしょりますが、あと大きな柱としては、大都市簡裁の集約問題でございます。  これは、小規模独簡の場合とちょっと面が違うわけで、同一には論じられないわけでございます。近代社会に即応する裁判所の合理化という点で一定の評価はできるわけでございますが、例えば、東京二十三区十二の裁判所を一挙に一個にしてしまう、どうもこれは少し極端ではないかということは言えるわけでございまして、これについて、東京、大阪あるいは名古屋で弁護士会とも十分今日まで協議を重ねてきております。その中に、各都市についての実情に応じた対策も立てていくということを前提に私どもしておりますし、また、協議を続けていくことについては裁判所当局も了解されておりますので、今後この集約についていろいろな面でまた協議すべきことがございますので、これを継続するということを前提に、今回のこの法案を制定することについてやむを得ない措置だろう、こういうふうに考えております。  なお、そのほかに、新設とか管轄区域の見直し等非常に細かく法案の中に載っておりますけれども、これらについては、新設については積極的に評価したいと思いますし、その他の区域の見直し等の法案部分については特に反対する理由がございませんので賛成をしたい、こんなふうに結論的に考えております。  時間の関係で十分意を尽くしたお話ができませんが、審議の経過を振り返りながら、そして、その中で言われた問題を織り込みながら、簡単でございますけれども、私の意見とさせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
  8. 大塚雄司

    大塚委員長 落合参考人ありがとうございました。  次に、牧野参考人にお願いいたします。
  9. 牧野忠明

    牧野参考人 ただいま委員長より御指名いただきました日本司法書士会連合会の会長の牧野忠明でございます。本日は、参考人として意見を申し述べる機会を与えていただきましたことについて、心から感謝を申し上げます。  既に御高承のとおり、我々司法書士は、司法書士法第二条に定められておりますとおり、「裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成すること。」をその業務の一部とする法律実務に携わっております職能集団であります。全国の会員数は、昭和六十一年四月一日現在で一万五千四百六十四名を数えるに至っております。これらの会員は、それぞれ全国五十の司法書士会に所属し、全都道府県市町村にくまなく存在いたしまして、法所定の業務を通じて地域住民の基本的人権の擁護と財産権の保全に寄与すべく、日夜精励をいたしております。  特に裁判事務に関しましては、全国会員によって昭和六十一年度中に約十九万三千件の事件が処理されております。内訳を申し上げますと、訴状、答弁書、準備書面あるいは督促手続申し立て書、民事執行事件申し立て書などの文案を要する書類の作成が約九万三千件、弁論期日変更申し立て書、訴えの取り下げ書、執行文付与申請書等、文案を要しない書類の作成が約十万件となっております。司法書士は、主として簡易裁判所管轄の民事事件に関しまして、嘱託人の相談に応じ、本人の陳述される事実関係法律的に整序判断して所要の書類を作成するという業務を通し、本人訴訟の手助けをするという形で簡易裁判所の事務に深くかかわっていると申し上げても過言ではないと存じます。  このような事情から、このたびの独立簡易裁判所適正配置問題に関しまして、全国司法書士会並びに会員間においてもつとにその関心が高くなりまして、日司連はこれらの会員の意向を受けまして、既に昭和六十年三月十六日、全国の訟務担当者会議を開催し、その席上、最高裁御当局から独立簡易裁判所適正配置に関する概括的なお話を承るなど、この問題への取り組みを開始いたしました。  その後、裁判所当局のこの問題に関します構想の煮詰まりぐあいと並行して、連合会は、全国五十の司法書士会に対して昭和六十年十一月十八日、廃止予定庁に関する意見の照会をいたしました。その結果、四十四会から回答が参りまして、反対三十一、一部反対五、こういう厳しい答えが返ってまいりました。その理由の主なものは、まず時間的、経済的負担が増大するということ、それから廃止庁の地域は人口の増加があり、将来事件数の増加が見込める、そういった種類のものでありました。  たまたま六十一年一月三十一日に日司連の臨時総会がございまして、この総会におきましても、簡易裁判所の統廃合について建議を求める決議案が採択をされました。その趣旨の一つは、簡易裁判所の整理統合に当たっては簡易裁判所が果たしている民衆裁判所としての機能を失わせることがないよう、地域住民の持つ裁判を受ける権利を損なわないよう十分配慮してもらうこと、二つ目は、事務の効率性のみを追いその存在理念を失わせることがあってはならないので、簡易裁判所の駆け込み裁判所として地域ごとに存在すること自体の意義を再確認し、現在の簡易裁判所の人的、物的設備の充実を図ること、この趣旨を御当局に意見を申し上げろ、こういう趣旨の総会の決定がありました。連合会はこの一連の動きを踏まえまして、昭和六十一年二月十五日最高裁判所あてに、今回の簡裁配置の見直しについては当連合会としては直ちに賛成できかねますので、ひとつ早急に協議の場を設けていただきたい、こういう旨の申し入れを行った次第であります。  最高裁判所におかれましても、この趣旨を了とされ、昭和六十一年四月二十五日を初回といたしまして、昭和六十二年一月二十六日までの間、都合七回にわたって協議の場を設けていただきました。また、これと並行して、各地方裁判所を通して全国五十の司法書士会に対しても、簡易裁判所適正配置に関する法制審議会答申の趣旨を踏まえ、その御説明をいただき、各単位会のきめ細かな意見を吸い上げていただきました。さらに日司連もこの間、六十一年八月二十二日、第二回目の全国単位会の意見の集約を行い、その意向を当局にお伝えするなど、両者間において一年余にわたってきめ細かな協議を継続してまいりました。  この結果、昭和六十二年一月二十六日の最終協議におきまして、御当局から、司法書士会廃止反対されている東京の簡裁を除く二十一庁については、十七庁は存置することで法案をまとめていきたい、四庁については諸般の事情から整理統合せざるを得ない、こういう旨の御説明をいただきました。連合会は、これまでの長期にわたります協議を踏まえ司法書士会意見を大幅にそんたくしていただいた、そういう評価のもとに、昭和六十二年一月二十七日、理事会の決議をもちまして次のとおり最高裁判所長官あてに簡易裁判所適正配置問題に対する最終の意見を申し述べた次第であります。  一、簡裁適正配置については、法制審議会答申は合理性をもち理解できる面が多分にあり、全国の司法書士会の意向を総合的に集約した結果も、一定範囲の簡裁を対象とすることにはあえて否定するまでもなく、ほぼ賛成である。したがって、法制審議会答申に基づく簡裁適正配置は、現実的対応としては、やむを得ない。ただし、廃止地域における廃止後の住民サービスの充実を期せられたい。  二、しかしながら、各個別具体的な庁の取扱いについて各司法書士会の指摘する問題点及び大都市簡裁の集約上の問題については、各司法書士会要望が充分尊重されるよう今後とも協議の継続を希望する。  三、一方、司法書士の裁判事務に関しては、将来にわたって、当連合会と最高裁事務総局との継続的協議の場が設定されたので、今後、司法書士の裁判事務の改善について、同局と   協議を進める。ことについて配慮願いたい、  これに対しまして、昭和六十二年三月十七日、最高裁判所から次のような御回答をいただいております。   本年一月二十七日、貴連合会が寄せられた「簡易裁判所適正配置問題に対する日本司法書士会連合会の意見」の中で、貴連合会は司法書士の裁判事務の改善について裁判所との継続的な協議を要望しておられます。司法書士の裁判事務については、貴連合会はもとより、裁判所においても関心を持ってきたところであり、その改善を図ることは、司法制度の円滑な運営により一層寄与するという観点から、今後とも従前にも増して努力すべきものと思われます。今回のご要望は上記の趣旨によるものと考えられますので、当局としても今後とも協議の中で改善のため幅広く検討を続けて行きたいと存じます。 そういう御回答をいただいたところであります。  次に、大都市簡裁適正配置に関します問題の中で特に問題が多かった東京地域についての問題でございますけれども、この件につきましても、東京司法書士会と東京地方裁判所の間で鋭意協議が継続されまして、昭和六十二年二月十七日、東京司法書士会会長から東京地方裁判所長あてに次のような最終意見が申し述べられました。  一、用地確保のために、霞が関に相当規模の簡易裁判所を設置することは否定しない。  二、しかしながら、都民の利便を損うことのないように、少なくとも数ケ所に、民事紛争事件の処理を含め、現に存する簡易裁判所が有する機能に相当する機能を存置することとし、その具体的な規模・内容については第四項の協議による。  三、地方自治体の協力を得て、都民に対する司法サービスを強化する。  四、東京簡易裁判所設立準備委員会に東京司法書士会代表委員として参加させ、今後の簡易裁判所の規模・内容等につき、協議を行う。  五、東京地方裁判所と東京司法書士会は、司法制度につき、継続的に協議する場を設ける。  これに対しまして、昭和六十二年二月十九日、東京地方裁判所長から東京司法書士会会長あてに次のように措置する旨の御回答をいただいております。  一 別記二及び三については、新たな簡裁のもとで充実した司法サービス提供するという見地から今後継続的に検討すること。  二 同四及び五については、新庁舎のあり方、事務処理の形態等について関係方面と協議するため委員会を設け、貴会の代表委員として加わっていただくこと。また、貴会と当庁とが司法書士業務に関連する裁判事務処理の問題等につき継続的に協議する場を設けること。  以上申し述べましたような当局との長期にわたる協議の経過を踏まえまして、日本司法書士会連合会といたしましては、それぞれ文書でもって取り交わしました約束事が今後継続的に、しかも現実的に履行されるであろうことを確信し、さらにまた今後裁判所御当局におかれて簡易裁判所のそもそもの設置の趣旨である民衆のための駆け込み裁判所としての機能を保持すべくさらに十分にきめ細かく配慮いただくであろうことを確信し、今次国会において審議賜ります下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案については特段の異議がない旨を申し述べ、参考人としての意見とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
  10. 大塚雄司

    大塚委員長 牧野参考人ありがとうございました。  以上で参考人の御意見開陳は終わりました。     —————————————
  11. 大塚雄司

    大塚委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。逢沢一郎君。
  12. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 自民党の逢沢一郎でございます。本日は、参考人の先生方には大変お忙しいところ御出席をいただきまして本当にありがとうございました。時間も限られておりますので、私どもからは三ケ月先生そして竹下先生、両参考人に絞りましてお尋ねを申し上げたいと思います。  まず最初に、三ケ月先生にお尋ねを申し上げます。  本案に関します法制審の答申におきましては、当初百四十九庁の小規模簡裁をいわゆる統廃合の対象にしようということになっておったわけでございますが、御承知のように改正案におきましては百一庁が最終的にその対象となるということで、いわば四十八庁が助かったという言葉は適当かどうかわかりませんけれども、事実上そういう格好になっておるわけでございます。答申の趣旨からいたしますと、深くこの法制審にもおかかわりを持っていらっしゃる先生からすればそれなりに御不満な点もあるのではないかと御拝察申し上げるわけでございますけれども、この件につきましてぜひ御意見を賜れればというふうに思います。
  13. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいまの御指摘でございます。確かに法制審議会におきましては、恐らく先生方の審議資料に行ったかと思いますが、縦軸と横軸とでこうやりまして、そして事件数の多寡と通勤時間と言ってはいけませんが、登庁時間の相関関係から一定の基準を見出すように努力したわけでございまして、そういうことをいたしますと大体この線がというのが、今御指摘のありました百五十前後の数でございました。ただ審議の過程で、先ほども落合参考人からも意見開陳がございましたように、抽象的な基準は一方で非常に大事なことでございまして、これをゆるがせにして余りぐらぐらいたしますと、こういう地方利害に直結する面のある問題につきましてはどうしてもプレッシャーに負けてしまって改革が絵にかいたもちになるというおそれがありますので、一方でやはり基準は基準らしくしっかり守らなければならないが、さりとてやはり生きた制度としてこれを運用してまいりますためには、多少の地方の実情に応じたきめ細かさというのも必要であろう。それで先ほど落合参考人の言われましたような形での要望もこれに盛り込まれたわけでございます。  率直に申しまして、今私の気持ちをそんたくしていただいたわけでございますが、初めに私が述べましたように、このたびの改正は、日本の戦後の司法制度の中では自発的な、また影響を及ぼすところの大きいという点ではまことに画期的な改革でございまして、その画期的な画期性というものを本当に大きくするには多少大きな改革の方がいい面もあるわけでございますが、しかし、さりとてこれをごり押しにするのはどうであろうかという気持ちもございます。ただ、法制審議会という場面は、そういう現場のいろいろな苦情を一々吸い上げるというのには決して適当な機関ではございませんので、その点は十分に各弁護士会裁判所、検察庁、司法書士会、さらにはいろいろと地方の有識者たちの御意見も吸い上げるようなところでやっていただいて、そしてなおかつ一番妥当な線を求めていただくということ自身は法制審議会答申の枠内に入って、初めから入れておいたというふうに御理解いただいてもいいのではないだろうかと思います。  先ほど司法書士会及び弁護士会代表者の方からの御説明がございまして、この答申が出てから後の裁判所及び弁護士会司法書士会の御苦心の跡を逐一伺うことができました。率直に申しまして、私はこういう詳しい御報告を、答申後の法案に持ってくるまでのこういうことにつきまして承ってはいなかったのでございますが、そのプロセスにおきまして裁判所側も弁護士会側も司法書士側もそれぞれ言いたいことは言いながら、しかし十分相手方の意見も今後尊重するという立場で、これは、改めましてこのたびの改革での関係方面の御努力と、それがまことにそれぞれプロフェッションとしての立派な応対をなされたものだということに非常に感銘を受けながら承ってございます。私も、象徴的な意味で三けたが二けたになりましたならばちょっと納得いたしかねるという声を上げたいのでございますけれども、これもまことの名人芸的な調整と申しますか、十分両方立場、建前を立てながら、しかも将来についての一応の約束事までも立派に文書で交わしながら、まあ三けたの大台にとどまっていただけたということでありますならば、やはりこれは評価すべきであろうと思いますし、私自身百五十前後のものをしながら、百一、三分の二に削られたのは大変心外であるとは申さないことにいたします。
  14. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 大変ありがとうございました。  それでは、時間もございませんので、竹下先生に御質問申し上げます。  御承知のように、国民の多くの皆様方の間には、一般に裁判には非常に時間と費用がかかるという強い声がございます。特に、簡易裁判所で扱いますようないわゆる少額、軽微な事件につきましては、もっと簡単な手続で安く早くやってくれないかといったような声があるわけでございまして、裁判の審理に生産性という言葉、概念を持ってくるのは適当かどうか私にもよくわかりませんけれども国民の偽らざる心情といたしましてはそういうことがあるわけでございまして、今回の改正といわゆる審理の迅速化という関係につきまして、特に専門の先生のお立場から御意見がございましたらぜひお聞かせをいただきたいと思います。
  15. 竹下守夫

    竹下参考人 それでは御質問にお答えして、私の意見を申し上げたいと思います。  今先生御指摘のとおり、裁判に時間と費用がかかったのでは、仮に権利が救済されてもそれは十分な救済とは言いがたいということは昔から言われているわけでございます。特に、現代のように非常に変化の激しい時代におきましては、時間というものの持っている意味は昔とは比べ物にならないというふうに思います。その点では全く御指摘のとおりだと思うわけでございますが、これも私から申し上げるまでもないと思いますけれども裁判のもう一つの生命は適正ということでございまして、判断内容の正確さといいますか、正しさというものを抜きにしては裁判は語れないわけでございます。先ほども申し上げましたように、我が国の伝統的な裁判に対するイメージと申しますのは、事実は証拠に基づいて判定をして、それにいわゆる実体法といいますか、どういう場合に国民がどういう権利を取得し、あるいはどういう義務を負うかということを定めた法律を適用して結論を引き出す、そういう仕組み裁判というふうに観念しているものでございますので、その仕組みの上での適正さというものを考えますと、どうしてもある程度の時間がかかるということにならざるを得ないわけでございます。  しかし、だからといって時間がかかってもやむを得ないというだけではやはり済まされないと思うわけでございまして、これは本日問題の簡易裁判所の問題ではございませんけれども、私の伺っておりますところでは、ことしの四月に最高裁判所から、東京と大阪の地方裁判所が一応まず先行的なモデルとして審理の充実並びに実質的には促進も図るというような方策が発表されているようでございます。私といたしましては、この機会に、地方裁判所だけではなくてさらに簡易裁判所についてはより一層迅速性が、その扱う事件の少額なるがゆえに尊重されなければならないと考えておりますので、簡易裁判所についても同じような方策が順次考えられまして、先生のおっしゃる時間と費用のかからない裁判が実現されるように希望しているところでございます。  以上でございます。
  16. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 どうも大変ありがとうございました。  以上で質問を終わります。
  17. 大塚雄司

    大塚委員長 稲葉誠一君。
  18. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 社会党の稲葉誠一でございます。  まず、三ケ月先生、この前、外国人弁護士のときに先生の大変御明快なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。あれは役人では話せない御答弁でして、私も大変得るところが多かったわけです。  きょうのお話をお聞きしておりまして、最初に、今度の評価される中で外圧なしにやられたというお話がございましたが、外圧というのはどういう意味かちょっとよくわかりませんが、しかし聞きますと、実際は法制審議会なりなんなりの中に大蔵省が参加しているわけですね。ということは、結局大蔵サイドの物の考え方で、事件が減って、そして金のかかるところはやめて合理化しろということを中心とした考え方、結局大蔵サイドの主導といいますか、合理化といいますか、そういうふうな形でこれができ上がっていったのではないかというふうに思われるのですが、そこら辺のところはどういうふうにお考えなんでしょうか。
  19. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいまの御質問は、実態は全くそういうことはございませんと私は申し上げていいのではないかと思います。確かに予算の面というふうなものがかかわりますものですから、それは大蔵省の関係官を抜きにしてやって後でそれが官庁同士の折衝になってつぶされるのはまずいので、あらかじめとにかく大蔵省の方にも引導を渡しておいた方がいいというので入っていただいたというのが本来の趣旨でございましょうし、私も審議をやってまいりますときにはそういうふうなことは念頭に置きましたし、大蔵省の方もかつて一度たりとも大蔵省ベースでこの裁判所審議をするというのではなしに、今回の改正のイニシアチブはあくまでも、先ほど来各参考人が述べておりますように、時代の推移と制度との客観的なずれが、専門家、すなわち大蔵省サイドではなしに専門家たる法律家立場から見てももはや放置し得ないところに来ているというのが問題提起の実態でございますし、逆に実業界言論界の方たちの方はむしろそういうことを激励するような形でこの審議会というものが運営されたというのが率直なところでございます。  これは議事録公開というわけにはまいりませんけれども、議事録には全部残っておるわけでございます。その意味で、このたびの制度改革というものが、専ら何か行政改革のように予算の側からの制約というふうなものがあったという発言は、大蔵省の方も一度もなさらなかったと私は記憶いたしますし、ほとんどなさらなかった。ただ、もちろん廃止する場合の後始末はどうなるのだ、国有財産的なものの払い下げはどうするかというような問題が一部出たことはございますが、これはできるだけ地方の方に還元する、こういうような形で、何も予算を節減するというような形での問題でこれが進められたことはないと、部会長としては申し上げてはばからないところでございます。
  20. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 先生のお話の中に、ずっと法制審議会なりなんなりの中で事件が非常に減少をしておるというふうな話があって、だからということで大体進んでくるわけなんですが、そのときに、では一体簡易裁判所をどうやって充実強化をさせていくべきかということについて、具体策なりなんなりについていろいろお話が出たことだと思うのですが、そこら辺はいかがなんでしょうか。
  21. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 いかに充実強化していくかということの問題のあらわれ方が二つございますね。  先ほど私も申しましたように、まず大都市における、いわば最近の経済情勢を反映したものに対する簡易裁判所の対応の仕方、これに対する対応の仕方は、私は非常に簡明だろうと思うのでございます。それはできるだけとにかく集積の利益を上げて、受付もできるだけ民衆の近寄りやすいような形にいたしますし、それから専門化というふうな、専門的な役割を分担して、流れ作業的にとにかくあれもやるこれもやると一人の裁判官が振り回されるよりは、やはり経験が集積でき、お互いの切磋琢磨ができるような形での事件と人的側面の対応を考える。それからまた、OA化と申しますか、現在の非常にいろいろ進歩した技術というふうなものを裁判事務に反映させるのにも、こういう大都会の裁判所であるならば予算的な裏打ちも得やすいし、予算の効率も上がるという意味で、大都会の方はそういう点で非常に——これはおわかりだろうと思います。  それから、今むしろそれと対極現象にあります、過疎地と言っては失礼でございますけれども事件がどんどん減少傾向にある場所、これは果たしてそういうふうな場所に置いておいてしりをひっぱたいて便利にすることだけが行き方であろうか。例えばそういうような場合、一月に十件しかないとかというところは、単に設備なりなんなりが悪いからというだけではなしに、やはりそれはそれだけまだまだ国民裁判所というものの間の距離が大きいということでございまして、そういうものならばむしろその距離をいかにして縮めるかと言えば、これは行ってみたけれども裁判官が常駐していないとか、行ってみたところでも職員は非常に少ないし、建物は非常に汚くなっているというところよりは、多少時間的な点では遠くなるかもしれませんけれども、やはり複数の裁判官なり職員なりがおり、そこに行くのにも最近のモータリゼーションなどを考えればそれほど大きな負担を感じないというところに行きまして、そして便宜を図っていきながらやっていくということを期待する方が——ただ現在の場所に置いておいて、そして四十年の間になかなかニーズも必ずしも形成されていないところに、これは駆け込み裁判所だ、駆け込め駆け込めと言ったところで、これはもはや解決しない局面があるのではないだろうか、私どもはそう考えるわけでございます。  むしろ独立簡裁そのままの状態というものは予算の制約もあり、人員の制約もあり、やはり機能的には非常に大都市あるいは人数の充実したところに比べると落ちている。これは制度として当然のことでございまして、それを上げるためにはもう少しその同じエネルギーを有効に配分する、それが国民の側から見て耐えられない制約になるかならないか、こういうようなところになるのではないだろうか。そういうふうな形でやっていきまして、国民の意識が徐々にそういう裁判による紛争の解決というふうなところに成長していくということがむしろ望ましいので、それにはやはり裁判所の方も体制を整えてサービスの迅速化を図ることが必要なんでありましょうし、現状のままではむしろそういう意識の変革はなかなか出てこないし、出てこなかったから四十年の間にこういうふうな低落現象があったのだというのが私の基本的な認識でございます。
  22. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 確かに国民裁判所全体との間に距離があることは事実なんですね。しかし、これは日本人の、いわゆる法というものに対する考え方あるいはなじみ方といいますか、物事を契約というか法によって解決しないで別なものによって解決するという日本人の生き方といいますか、そういうふうなものにも大きな原因があると思うのです。  今お話がありましたように、確かに距離があるのですが、行ってみたけれども裁判官が常駐してないからというのならば、その裁判所裁判官が常駐するような方向に持っていけばいいのじゃないか、こう思うのです。持っていけばいいのじゃないかということは全くネグレクトしてしまって、そしてただ統合するという方向に進んでいっているように考えられてならないのです。  それが一つと、それからもう一つ、そこに絡んでくるのは、やはり簡易裁判所の場合、簡裁裁判官の任命の方法なりなんなりというものが全くわからないのですよ。我々には全くわからない。全くオープンでないですね。だから、どういうふうにしてやられておるのか、ちゃんと公募してやっておるのやら、募集して試験をしてやっておるのやらわけがわからない簡易裁判所裁判官が誕生して、そして率直に言えば、余り言うと悪いのですけれども、とにかく民事の場合は、ここに落合さんおられるけれども、とにかく早く裁判をしてくれよ、あとは控訴してやるからということが、弁護士仲間で大体みんな言われているわけですよ。  ですから、簡易裁判所裁判官の資質というか、資質と言ってはぐあいが悪いかな、養成の方法といいますか、勉強の方法といいますか、そうしたものをもっとしっかり考えなければいけないのじゃないか、こう思うのですが、そこら辺についてはいかがでしょうか。
  23. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 私も司法制度を専攻する者といたしまして、司法が充実することは何事でも望ましいことであり、日本司法予算が諸外国の水準に決して追いついてないことはもう何十年も声を大にして叫び続けてきたことでございまして、今先生から、もっと司法予算をふやすべきである、こういう御意見を伺いますと私は非常に心強い感じがいたしまして、国会レベルでぜひその実現ができるようにしていただきますならば、司法のために非常によろしいのではないだろうかと感ずるわけでございます。  それから簡易裁判所の人的な面の選考の問題、率直に申しましてこれも具体的に私が選考にタッチしているわけではございませんけれども裁判所発足理念と申しますのは、必ずしも法曹資格者というふうなものにも限られないで、長年司法事務に慣熟した者の中から、やはりこういうふうな人に征してもいいというところを選考によって任用していくということでございまして、それは先生方のように法曹の資格を持ち、法律ばりばりの専門家から見ますと、多少はやはり心細いなとかという評価も出るのかもしれませんけれども、全体の外国の素人裁判官のレベルなどというものをドイツなりアメリカなりに行って散見するといたしますと、日本簡易裁判所の判事は総体といたしましては、そういうふうにピックアップしていただいたことに対して非常に使命感を持ち、一生懸命勉強し、むしろ法曹資格を持つ者に倣い過ぎる気味さえあるくらい努力しているのではなかろうか。  この選考の任用をどうしたらもっとよくなるかということは、この法案審議のプロセスにおきまして裁判所の方の人事関係の方からもう少し具体的にお聞きいただければありがたいのでございまして、部外者の私が口を差し挟むところではございませんが、私の印象はどうかと言われますと、私は、日本簡易裁判所の判事は、法曹資格がない方に限って申しますと、もちろんある方が定年後やることもございますが、諸外国の第一審の裁判官法律的な識見というものに比べてまさると言う気もございませんが、決して見劣りはしないのではないか、これが私の比較司法制度の勉強の一つ結論でございます。
  24. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 竹下先生のお話を承りまして、私も非常に啓蒙されるところが多いのですが、お話の中にありましたアメリカ少額裁判所、これの内容というか、その構成というか、選出というか、私どもお聞きしておるのは、例えば巡回裁判所をやるとか、休日にやるとか、夜間にやるとか、いろいろな方法をとったりなんかしておりますね。選出方法がアメリカの場合と日本の場合とは全くと言っていいくらい違うわけですね。ですから、日本の場合は法曹資格がないのにあるというか、そういう方面に力点を置いてしまっていることにも絡むかもわかりませんけれども少額裁判所的なものがなぜ日本でできないかということですね。  だから、アメリカ少額裁判所というものは具体的にどういうものなのかというお話と同時に、一体なぜこれが日本ではできないのだろうか。私は、どうもそこに問題があるような気がしてならないものですから、ちょっと御意見をお聞かせ願いたい、こういうふうに思うわけです。
  25. 竹下守夫

    竹下参考人 ただいま御質問のアメリカ少額裁判所がどういうものかということと、そういうものがなぜ日本ではできないかという点でございます。  アメリカ少額裁判所、私も自分で一、二見てまいりましたし、それからあとは文献等で研究をしている程度でございますが、それによりますと、先生今御指摘のとおり、これは場所によっていろいろなようでございますけれども、夜間に開廷をしたり、あるいは私が実際に見た例では、むしろ朝早く八時半ぐらいから開廷をしたりというようなことで、一般の勤め人等も利用しやすいような形で行われている。  それから、事件は先ほども例に挙げましたような、本当に一般の国民の日常的な争い事というようなものを持ち出してきて、多くの場合にはその日のうちに両方の当事者から言い分を聞いて、必要な証拠等があればみんな持ってきなさいということを事前に指示をいたしまして、そこで両方の言い分を聞いて、ほとんど即決的に、こちら側の言い分が正当だからあなたの方から何ドル支払えというような形で裁判をする。  一般に、手続は無方式と申しますか、特にアメリカでよく言われますいわゆる訴答、日本で言うと準備書面に類似したような、両方の当事者の言い分をそれぞれが相手方に送ってどこに争点があるかというのを詰める、そういう手続であるとか、それから御承知のとおり英米では証拠法が大変厳格でございますけれども、そういった証拠法のルールというものは一切適用しない、そういうような形で、通常事件に比べますと非常に手続が無方式、弾力的になっている、そういうところで裁判が行われる。  それから、特に私として重要だと思いますのは不服申し立てとの関係でございまして、これは州によって上級審に対する不服申し立てを制限するところもあるというふうにも聞いておりますが、制限しない場合でも、上級審へ行ったらいわば一からやり直しという考え方でやっている。したがって、少額裁判所裁判をしている裁判官は、一々上級審へ行って自分のやっている手続なりあるいは判断の論理構成がどうかというようなことを審査されるということを考慮しないでやれる、それこそ自由に手続を運用して結論の正しさというものだけを考えればいい、そういうような裁判所のようでございます。  問題は、一体なぜアメリカでできて我が国でできないかという点なんでございますが、これは私はどうも基本的には、伝統的に日本裁判に対するイメージが、やはり裁判というものは厳格に事実認定をやって、それに実体法を適用して権利があるかないかということを判断する、そういう仕組みのものだという観念が非常に強いのではないかと思うのですね。ですからどうしても、民法なら民法でどういう事実があったらどういう権利が発生する、こう書いてあるのだから、したがって、その前提となる事実があるかないかということをまず確かめなければいけない。  さらには、もう先生御承知のとおり、いわゆる弁論主義と呼ばれる、当事者の主張した事実をもとにして裁判所裁判をするということになっておりますので、一体当事者のそういった事実についての陳述が法の予定しているどういうことに該当するのかというようなことをチェックしながら裁判をやっていく、そういう考え方が強いものですから、そうなりますと、どうしても簡易裁判所裁判官といえども地方裁判所以上の裁判官と基本的には変わらないような審理のやり方にならざるを得ないということになってしまうのではないかと思うわけです。  ですから、もし日本少額裁判所のようなものを本当に実現しようと思うと、まずそういった我が国で伝統的にある裁判考え方というものをかなり大幅に改めないと難しいだろう。それから具体的には、ちょうどアメリカの例のように手続などもそう厳格なものでなくていい、当事者の、両方の言い分は聞かなきゃいけないのは当然でございますけれども、それ以外は裁判所の自由裁量に任せるというぐらいのことにし、さらには上訴との関係では、簡易裁判所でやった判決に対して上級審に不服申し立てがなされたら上級審では一からやり直しというぐらいのことにしないと難しいのではないか、そういうふうに考えているわけでございます。     〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
  26. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 先生がさっきお話しになりました中で、第一審というものを地裁と簡裁とで分割をしておるというお話ですね。これは私もわかっているといえばわかっているのですけれども、余り気がつかなかったところでもあるのです。  そこで出てまいりますのは、結局、地裁に簡裁が従属しているというか、例えば裁判官会議というものは年に何回かやるのだと思うのです。そのときには簡裁裁判官も入るのかもわかりませんけれども、常置委員会というものでほとんどやっているわけです。ところが、常置委員会には簡裁裁判官は入らないわけですね。そこですべてが決まってしまう、こういうことですね。それで予算から何から全部地裁が握っているわけですね。例えば、この独立簡裁廃止統合になることによってどういうふうに予算が変化するのかということを経理局長に聞きましても、私が聞いたのじゃないのですけれども、別な人が聞いたのですが、これは全部地裁が持っているので、簡裁独立したというような、裁判事務に関連する予算かもわかりませんが、そう思うのですが、これはよくわからないというか計算できない、こういうふうなことですね。  だから、そういうふうな意味で言うと、予算面あるいは人事面、その他の面において簡易裁判所というものが全く地裁に従属していて独立性がないというところに、私は、日本裁判制度の持つ一つの問題点があるのじゃないか、あるいは初めからそういうことをねらっていて、簡易裁判所制度をつくるときにその点を完全に分離というか独立させるとまずいからというので、そこら辺のところをどうも残しておいたのじゃないかと思うのですがね。  これは三ケ月先生もぜひお答え願いたいのですが、その点、どうも私、疑問に思うものですから、その点について両先生のお話といいますか、お聞きしたいと思うのです。
  27. 竹下守夫

    竹下参考人 それでは、私から先にお答え申し上げたいと思います。  地方裁判所簡易裁判所との関係でございますけれども、これは裁判事務の点は、先ほど申し上げましたとおり、簡易裁判所少額裁判所としての役割と、地方裁判所と同じようなレベルでの第一審の管轄の分担という役割を持っている。今先生が御指摘になられましたのは主として司法行政上の問題だと思うわけでございますけれども、これは確かに法律の建前上といいますか、法律仕組みの上では、簡易裁判所というのはどうも司法行政的には地方裁判所の監督を受けるということになっておりまして、そういう意味では、簡易裁判所は所長というものも御承知のとおりおりませんし、複数の簡易裁判所裁判官がいるところでは、そのうちの一人が事務総括をする、そういうことになっているだけでございます。なぜそういう仕組みになったのかということについて、私ちょっと今まで資料等に当たって研究したことがないものですから確実なことは申し上げられませんけれども、今考えますところでは、やはり簡易裁判所というのは人の構成の面でも地方裁判所以上の裁判官とは資格が違っているというようなこともございまして、司法行政的な面では地方裁判所がこれを握るという考え方になったのではないかというふうに思います。ただ、それが先生御指摘のように、予算その他を握って、地方裁判所裁判事務の面でも簡易裁判所をコントロールできるようにということであるかどうか、あるいは先生の御趣旨はそうでないのかもしれませんが、そういうことではなかったのではないかというふうに思います。  以上でございます。
  28. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 既に竹下参考人のお話に出てまいりましたが、裁判制度というふうなものは、一面で、裁判活動の独立性というところで、これは下級裁判所といえども絶対に最高裁判所の命令だってけっ飛ばしてしかるべきであるという一面がございます。しかし同時に、やはり一つ組織体でございますので、司法行政の系列というようなことで、これは何も簡易裁判所だけが地方裁判所のあれを受けているわけじゃなし、地方裁判所もまた高等裁判所司法行政のもとに立ち、高等裁判所もまた最高裁判所司法行政の系列に立ち、そういうような形で、予算であるとか人事だとかというふうなものが余りにも個別ばらばらになるよりは、全国できるだけ公正かつ平等な司法のサービスが受けられるように、司法行政の究極の責任者、これは最高裁判所でございますけれども、そういうような形の系列ができているわけでございます。これは日本だけでなしに、ドイツ、アメリカ、フランス等私ども司法制度の範となりました大陸法制諸国は、もっと司法行政権が強いと言ってもよろしい。今の日本裁判所の方は、最高裁判所を頂点とする、むしろ行政からの独立というのが非常に強いし、司法行政についても非常に抑制的であるというふうに私は見ておるわけでございます。  したがいまして、簡易裁判所、今までは五百ございましたが、五百の一つ一つについて、もっと予算的な自治権であるとか人事的な自治権を認めた方がいいかどうか。これは、連邦制みたいなところで非常に小さなところでしたならば、地域に密着した裁判官、地域に密着した予算の使用ということがございますが、日本のような国でございますと、そういうことよりはやはり全国的に見た公平あるいは質の格差がないようにする、司法の平等を確保する、こういうようなところから、やはり司法行政にはおのずから系列というのができてくるのが自然ではなかろうか。ただ問題は、これが司法行政権をかさに着て、そして裁判事務というふうなものに何らかの圧力を及ぼすようになるとすれば、これはまさに先生のおっしゃる弊害というものが顕在化するわけでございますが、日本裁判所はそこは非常に抑制的である、先ほど申しましたような私の印象でございます。  ただ、やはり地方裁判所の行政のやり方といたしましては、これはむしろ先生の方から直接その司法行政の担当者にお聞きになっていただければ結構かと私思うのでございます。地方裁判所なら地方裁判所は管内の簡易裁判所のいろいろな問題点を吸い上げるためにどういうふうな工夫をしておるかということにつきましては、むしろ担当の方からお聞きしていただいて、私は、単なる部外の印象といたしましては、やはり司法行政というふうなものもまた裁判活動と違いまして大事なものであり、それにはまた別な論理があるのだというようなことをちょっと申し上げさせていただきたいと思います。
  29. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 私は、司法権の独立のことは、もうそれは当然のことですから、そのことを言っているのじゃありませんで、司法行政の問題なんですが、司法行政というのは最高裁を頂点として非常にこう、だんだん強くなりつつあるという認識を私は持っているわけなんです。そのことを申し上げたつもりなんですが。  もう一つ竹下先生にお伺いいたしたいのは、これは専門部制ですね、簡裁を充実強化するというわけですね。そうすると、具体的に何をどういうふうにするかということが法制審議会なりに話があって、最高裁当局なりからは、そういうふうにちゃんとやっていくためにはこういうふうにするんだ、こういうふうな話まではちゃんと出ているわけなんでしょうか。具体的内容はどんなものなんでしょうか。
  30. 竹下守夫

    竹下参考人 実際に最高裁判所がどのようなことを考えているかというのは、あるいは最高裁判所の担当の方に伺っていただいた方がよろしいのかもしれませんが、私どもが今まで法制審議会の過程等で伺い、それから、一部は法制審議会答申とかその他の文書にも、あるいは最高裁関係の方が書かれたような文書にも出ているかと思いますが、具体的に申しますと、現在の簡易裁判所は御承知のとおり訴訟事件もあれば調停もやっているわけでございますし、それから、そのほかに督促事件というふうに通常言われております支払い命令に関する事件というものもあるわけでございます。まず第一義的には、そういうものを訴訟事件、民事調停、それから督促手続というものに分けられるというふうに考えられますし、それから訴訟事件につきましても、これは必ずしもはっきり文書に書いたものとしては出ていないと思いますが、一部の裁判所関係の御発言の中には、先ほど私がちょっと申しましたような本人訴訟部ないし少額請求部というようなものも考えられないことはないというようなことがあったように記憶しております。  さしあたりはそういうことでございますが、専門部制そのものではございませんけれども、そのほかに、先ほど三ケ月参考人のお話にも出てきました受け付け態勢の整備というようなこともその一環として考えられているようでございます。  以上でございます。
  31. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 日弁連の前の事務総長をやっておられた落合さんにお伺いをしたいのですが、弁護士制度の問題についてこの前三ケ月先生がおいでになりまして、あのときに先生からいろいろな御意見を承りまして、私の意見も申し上げたつもりなんです。私は、外国人弁護士というのは、外国の弁護士日本へ来て法廷にどんどん出ていいという意見なんですよ。そのかわり、日本語でやれという意見なんですから。そして、日本弁護士は相互主義で外国へ行って外国語で、その国の本国語でやれ、そういうふうに時代は進んでくるのだろう、そんなことに何でこだわるのだろうかという意見が私の意見だったので、日弁連も、いや、そういう意見はどうもなんであのときに言っておられたですね。  私はそういう意見なんですが、だから弁護士というのはどんどん国際化してくると思うのですよ。国際化してくる中で、それで新しい分野、例えば渉外事件であるとか特許とか保険の問題とか、いろいろなのがありますね。そういう方面をどんどん開拓していかないといけないんだ、こう私は思うので、そういう努力が弁護士は足りないのですよ。自分の城を守っていて、極めて保守的なところ、保守的と言うと言葉は悪いんだけれども、健全と言えば健全なのかもわからぬけれども、そういう点があるのですね。だから、そういう中で刑事事件は国選がどんどんふえていくわけですよね。今七割ぐらいが国選でしょう。六割、七割でしょう。支部へ行くと八割ぐらいのところもありますよね。国選がどんどんふえていく。それから、民事は少額事件については本人訴訟がどんどんふえていきますよ。本人訴訟がふえていく、その中で、本人訴訟に裁判所としてはどういうふうに対処するかということが今後の大きな課題になってくる、こういうふうに思うのですよね。  それにも関連するのですけれども落合さんから考えたというか、あるいは日弁連から考えたというのか、そこから見た理想としての簡易裁判所というものですね。さっき民衆裁判所という話がありましたけれども、これとの関連その他で、日弁連から見たと言えるのか、あるいは落合さんから見たというのか、理想としての簡易裁判所というのはどういうものなのか、それをまた実現を阻害しているものは一体何なのかということについてお話し願えれば、こう思うのですが。
  32. 落合修二

    落合参考人 簡易裁判所問題につきましては、私ども、かつての臨司問題あるいはそれ以前、昭和二十年代から簡易裁判所の事物管轄の引き上げ問題に関して非常に強い関心と、また研究をしてきたわけでございます。私どもの考えでおる簡易裁判所は、抽象的に言えば先ほど申し上げたようなこと、もっと平たく言えば、弁護士に頼んでそして堂々と四つに組んで争訟をしていくという事件も中にはありますけれども、それは本来簡易裁判所で扱わなくて地方裁判所というような形でやるべき事件だろう。簡易裁判所というのはそういうものを予定するのではなくて、本人が法律的な素養がなくても、裁判所に行けばいろいろ手とり足とり教えてもらって法律的な解決ができるところだ。もっと平たく言うならば、買い物に例えては少し語弊がありますけれども、近所のスーパーに行って物を買うという用を足す。これと比較することは語弊があることは承知の上で申し上げますが、やはり一流のデパートにおめかしして行くというよりも、げた履きあるいはエプロンをかけてでも裁判所に行って法律的な悩みを解決してもらうということが、制度的にもあるいはまた運用の面でも本来戦後の簡易裁判所として描かれたイメージではなかったのだろうか。  もちろん、これは今日第一審としての通常裁判所、争訟普通事件の第一審の形にはなっておりますので、全部そういうもので貯えとは言い切れませんけれども、やはりそういう性格、仮に本訴であっても、これは形式的にやかましいフォームなど一々弁護士あるいは司法書士さんに書いてもらって持っていかなければ受け付けられないというものではなくて、自分がこういう点で今法律的に悩んでいるのだ、これをどう解決したらいいかという、言うなれば相談窓口ぐらいもどんどんやってもいいだろう。こういう事件についてはこういう手続がいいじゃないかということを教えていただき、また訴訟になれば若干特別規則がございまして、特則の点がありますけれども、もっともっとそういうものを広げて、法律的に素養がなくあるいは無知であっても一通り裁判所のお世話になって事件が解決できるようなところだ、こういうふうにあってしかるべきものではないだろうかというふうに私ども思っておるわけです。  ところが、争訟になりますと、どうしても対立当事者ですから裁判所としても原告なり被告なりに一方的に詳しく方法、内容を教えることには限界があろうかと思うのですけれども、その点、家庭裁判所ではかなり相談業務というものが充実して、また、多くの国民からかなり利便を評価されておるわけでございます。あれに近いようなことぐらいはできるのではないだろうかというふうに思うのです。ところが、手続的にもかなり形式性があるし、また裁判所は何となく出入りしにくいというようなイメージがやはりまだ今日あるのではないだろうか。したがって、今回の適正配置に絡んでも私どもが一番重点として強調しておったのは、そういう親しみやすいというか利用しやすい、だれでもがそう一肩を張らずに裁判所に行ける、こういう裁判所であってほしいということを人的、物的あるいは運用の面で大いに改善をしていただきたいというふうに願っているのもそこにあるわけでございます。ところが、どうしても小型地裁化というふうに私どもの目からは映りやすいわけでございます。  ちょっと話はそれますけれども、先般国会のお世話で事物管轄の引き上げ問題がございました。これなども、三十万円を九十万円に引き上げるのは小型地裁化につながるのではないかというような御指摘も随分受けました。しかしあの中で、私どもは、土地事件とかあるいは家屋事件、これこそまさにそんな安易な手続ではなかなか解決できる問題ではございません。特に境界問題なんというような、訴額が数万円の事件がたくさんございます。こういった難しい事件簡易裁判所で扱ってもいいけれども、当事者が望むならばたとえ一万円の事件でも境界事件だったら地方裁判所に持っていけるというふうに改善していただいたわけでございます。あくまでもそういう専門弁護士を委任しなくてもできるような体制をとっていただきたい。  相談あるいは訴訟の様式の備えつけ、そういったところも、細かい点でございますけれども、きめ細かく設備あるいは運用の中でやっていただきたいと私は思っております。そうすれば少額事件でも本人で十分やれるし、そのことがまた同時に暴力団とか町の有力者とかいったところ、あるいは弁護士でない非弁活動の温床にもならなくて済むのであろうというふうに思っておるわけです。そういうことです。     〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
  33. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今のお話を聞くと、例えば東京で二十三区が一カ所に集まって霞が関にでかいのができちゃって、そうなってくるとそう気軽に一般の人が入りづらくなっちゃうのじゃないですか。最高裁より立派——最高裁より立派にはならないけれども、隣の東京高裁や地裁より立派になっちゃうかもわからぬ。立派になったって親しみやすいところは親しみやすいのでしょうけれども、その辺になかなか問題がある。確かに今言った小型地裁化というのは、日本のはなぜそういうふうになっているか。問題は、そこからなぜ脱却できないかというところですよ。これは非常に大きな問題だと思うのです。  牧野参考人にちょっとお伺いいたしたいのは、これは統廃合の問題がありますね。この次に何が出てくるかという問題だろうと思うのです。そうすると、出てまいりますのは、恐らく法務局の統廃合ということが私は起きてくるに違いないと思うのです。今までも一人庁、二人庁が随分廃止になりましたね。あの場合いろいろなあれがありましたけれども、それが起きてくる可能性が、連動しながら今後出てくる可能性があるのじゃないかと思うのです。それは非常に大きな問題ですね。それから、来年の不動産登記法の改正、これはえらい問題ですよ。それはきょうのあれではありませんけれども、今後法務局の出張所や何か統廃合の問題が起きてくる可能性がある。それに対してあなたの方でどう対処していくのか、それをちょっとお聞かせ願いたいと思います。
  34. 牧野忠明

    牧野参考人 現在法務局におきましては、特に不動産登記の電算化という百年来の大きな改正時期に当たりまして、それなりに庁舎の物理的な面も充実しなければいけないという面もございましょうし、そういったことで統廃合の問題も逐次進んでいる状況であります。したがって、一番密着しております司法書士職能集団としては、非常に細かな、そのケースケースに応じた意見があるわけでございます。したがって、そういう地元意見を十分吸い上げまして、法務省御当局にもお伝えして、無理のいかない統廃合の形で進められますように特にお願いをしていきたいという考え方に立っております。
  35. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 時間が多少残っておりますけれども、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
  36. 大塚雄司

    大塚委員長 中村巖君。
  37. 中村巖

    ○中村(巖)委員 公明党の中村巖でございます。参考人方々には、本日はお忙しいところを御出席をいただきまして大変にありがとうございます。  今回の法案については、参考人の先生方は妥当ではないかという御意見でございますけれども、世上ではやはりこれに反対であるという意見も見られるところでございまして、そういう論議の出発点をなしているのは簡易裁判所性格機能というものをどういうふうに見るかということではなかろうかと思っております。  先ほど落合参考人も、簡易裁判所性格についてこういうふうに考えているのだというお話がございました。弁護士会としては大体そんなような方向で物の考え方が固まっているというように、私も弁護士でありますからそう思っております。しかし一方では竹下参考人のお話で、実際そういう理念で創設をされたのかもしれないけれども現実に果たしている機能あるいはまた制度的な性格というようなものはそれとはちょっと違うのではないかというようなお話、精緻な分析があったわけでありますけれども、まず、三ケ月先生にこの簡易裁判所性格論というようなものをどういうふうにお考えになっておるのか、それをお伺い申し上げたいと思います。
  38. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 率直に申しまして、簡易裁判所というふうなものをどう位置づけをするかというと、日本司法制度は先生御承知のようにドイツ型で、一番最末端の裁判所区裁判所というものがございました。それはあくまでも職業裁判官が入っておる裁判所でございまして、訴訟手続の面でも地方裁判所とそんなに格差がない。ところが、戦後の司法改革になりますと、一つには、むしろ刑事訴訟法の面から令状主義というふうなことに対応するというので、二つの警察署一つ簡易裁判所が欲しいのだ、むしろ私は簡易裁判所はそういうふうな憲法上の要請というようなものが直接出てきて、せっかくそういうのをつくるなら、民事の方にももっとばらまくならばもっと民衆的な裁判所ができるのではないかというふうな形が出てきたとは思いますが、結局それに徹底し切れないで、やはり区裁判所所在地には全部簡易裁判所を置く、区裁判所のちょっと遠いところに独立簡裁配置したけれども、そのイメージはあくまでも昔の区裁判所の何がしかを引き継いでいたというのが率直なところじゃないかと私は思うのですね。  そうすると、アメリカ型と全然違ったタイプの地方裁判所のイメージが混在している。竹下参考人はこれをいみじくも、一つ性格ではくくり切れないので、区裁判所のしっぽというものを持っている面と区裁判所の中からは生まれないであろうような一つの新しい少額裁判所的なものをミックスしたようなものだと言われましたけれども、学問的に分析すれば大体その辺のところになるのではないのだろうかと思うのでございますね。そして、先ほど申し上げましたように、それぞれのことは司法行政上の必要もございますし、司法の効率的な運営ということもございますし、司法の全地方的に見たレベルの均一化の要請もございますし、なかなか難しくて、どうしても裁判所といいながらある意味では規格化していかざるを得ない面があり得るのだろうと思うのです。ただ、簡易裁判所はそれでいいのか、小型の地裁になっていいのかといいますと、やはりそうはいきませんで、新しい時代に即応してせっかく新しい面を盛り込んだならばもうちょっと気軽に飛び込めるというか、本当に国民のニーズがあるならばそういう形に持っていくという面も忘れてはならぬ。率直に申しまして、二兎を追う面があり、それぞれそのときそのときにおける財政状態なり国民の法意識の進展なり地方の置かれたいろいろな気風なり、こういうのに応じてその辺のバランスがとられていくということ以外にはちょっと一律にこれでなければならぬというふうには言いにくいものだろうと思うのです。  ただ、本日の今までの議論で出てきていなかった問題があると私は思います。それは国民との接近といいますか、駆け込み的な要素、素人的な要素、それは簡易裁判所もタッチしておりますし、地方裁判所もタッチしておりますし、家庭裁判所もタッチしておりますが、やはり日本にはそういう要請にこたえるものとして、諸外国に絶対見られない調停制度というふうなものが非常に組織化されておる。これはある意味で、外国における駆け込み裁判所的な要請の何がしかをそれが吸収している。非常に素人性があり、それから無方式と申しますか、非常に方式が自由である。非常にお金が安いし、余り肩ひじ張らないでやる。実は外国は調停で処理するようなものもみんな裁判で、訴訟で処理しなければならぬわけでございます。そういたしますと、どうしてもそこのところに少額や何かの問題につきましては一般のものと違った個性を認めろということになるのですが、日本はそこのところで制度になれておりますから、そういう要素はある程度そちらの方に吸収される。  そうすると、いかに簡易裁判所であれ、訴訟になって出てきた場合にはもはや駆け込み的な要素が大きいのか、それとも先ほど来竹下参考人が言われておりますように、やはり黒白をしっかりと手続と内容と両面において、法から見て文句を言われないような御裁判をいただきたいという志向が強いのかということになりますと、これは調停制度などというものの全く存在しない、ほとんど全くと言ってもいいのですが、そういうふうなところとは違った日本簡易裁判所性格というのが鋳出されてくるのもしようがあるまい。ですから、日本民衆司法との接近の度合いというのをはかるためには、単に簡易裁判所だけを訴訟の面から比べてみて外国の少額裁判所とどうだこうだということのほかに、非常に整備され、しかも国民もまた非常にサポートしております、そういうふうなものがやはりあるのだ。そして、それをトータルとして身近なものと司法との関連というものも考えていく必要があるのじゃないかということを感じておるということだけ申し上げさしていただきます。
  39. 中村巖

    ○中村(巖)委員 先ほど落合参考人は、簡易裁判所性格についてお話があったわけでありますけれども、そういうようなお話からいたしますると、司法というものは効率性を追求をすべきものでない、殊に簡易裁判所に関してはそうだ。したがって、そういうような性格論からすれば、より多くの、たくさんの数の裁判所があった方がいいのではないか、こういうことになってこようかと思うのでございます。しかし一面では、今回の統廃合に対してはやむを得ないというお考えでございました。その辺、数を減らすということについてやむを得ないというお考えが出てくるゆえんのものはどこにあるのかということをちょっとお伺いをしたいと思います。
  40. 落合修二

    落合参考人 これは私ども先ほど申し上げましたように、法律上でございますけれども、全国に五百七十五という非常に大量な、多数個所にあったわけですね。裁判所が身近に存在するということが国民にとっては大変身近さを感ずるはずです。物理的な接近ということが同時に社会的な距離を縮めているということは、人間、心理的に否めないところでございまして、戦後膨大な裁判所ができたということについては、私どももその理念の発露である、こんなふうに考えているわけです。そういたしますと、今度この法案によりますと地方独立簡裁が百一カ所なくなる、こういう原案になっておりますし、東京においては十一の簡易裁判所が一個の東京簡易裁判所になってしまう、こういうことになっている。その点に関しては、私どもは初めから統廃合する数はできるだけ少ない方がよろしい、存在すること自体が身近なんだ、こういう原理に基づいてやってきておるわけでございます。  ところが、いろいろ論議している中で、裁判所があっても裁判官がいない。事務移転では裁判所すらないというのがあるわけですね。法律上は裁判所があって、実態はない、こういうのがあります。全国で私ども裁判所からお聞きした最近の数字では、全国に簡易裁判所裁判官のおらない裁判所が実に百四十庁余りある、こういうふうに聞いているわけです。私ども日常法律事務をやっておりまして、裁判所あれど裁判官なしというのは一体どういうことだろう。いろいろ今回の協議でも論議されましたけれども、結局司法予算というものも当然絡んでくるし、あるいは事件数のアンバラで忙しいところは忙しい、したがってそこへ裁判官を持っていかなければならない。そのために比較的事件数の少ないところには裁判官を置けない。百四十もある。ですから、ある人の例ですけれども、本庁所在地から裁判官、刑事の場合だったら検察官も含め弁護士、民事なら原被告双方の弁護士が同じ交通機関を使って遠い簡易裁判所へ行って、そこで本訴をやって、また同じ列車で戻ってくるというような奇異な現象まで幾らでもあるというのですね。  ですから、私どもできるだけ多くに裁判所を残し、そして全裁判所裁判官を常駐してほしい、これはやはり本来の簡易裁判所のあり方であろう。しかし、今日の諸情勢、特に財政その他の問題もあるのだろうと思いますが、裁判官の増員も私どもは常にお願いしておりますけれども、それはなかなか実現しない。だとすれば、今回比較的事件の少ないところを統廃合して少しでも非常駐庁をなくしていくということであるならば、これも一つのやむを得ない方策ではないだろうか。そしてまた、ある程度集約することによってそこにおける裁判機能を高めてもらえれば、かえって裁判を受ける権利にも資するのではないだろうか。書記官と事務官が二人しかいないところに行って何かいろいろ手続をするといったって、そう簡単には教えてもらえないかもしれません。あるいはまた、忙しいところではそんなに余裕もないかもしれません。適正に配置されてくるならば、今までできなかったようなこととしてやってもらいたいようなことも相当できるようになるのではないだろうかというようなことを考えて、小規模独立簡裁については百庁に余る庁がなくなることになるわけですけれども、彼此総合いたしまして、そういう裁判所の運営についての改善策がとられるならば、今回その程度の統廃合も今日の社会的実情に照らしてやむを得ないのではないか、こういうふうに申し上げたわけでございます。  大都市簡裁についてはまだ少し観点が違いますけれども、非常に交通網の発達した、そしてほとんど素人でもやれるような裁判所であるべきだというようなことからすれば、各部門について精通した裁判官配置することは不可能であるし、またそれは本来必要としないはずなんですが、しかし、一人の裁判官で民事、刑事、そして民事の中でも不動産関係から労働関係あるいは金銭関係、ありとあらゆるものをオールラウンドでやっている、これで果たして本当に的確な裁判事務がとれるだろうか。やはりある程度集合することによって、不動産なら不動産専門あるいは労働関係なら労働関係専門というものをつくり、また本人訴訟が非常に多いわけですけれども、この本人訴訟と代理人のついた比較的煩瑣な、あるいは困難な事件とごっちゃにやっていますと、やはりどうしてもそこに、促進的な意味からいって期日がなかなか入らなかったりして、また、本人訴訟に十分に手を差し伸べてあけられないというようなことも現状あるわけでございます。ですから、本人訴訟あるいは代理人のついている訴訟、こういったものを別々の担当官によって処理していくというようなことも、東京のようなところである程度の集約をした場合にはメリットがあるのではないだろうか。  機械化についても、これは集約のメリットはあるわけですが、余り裁判事務に機械化機械化というのは私どもはちょっと抵抗を感ずるのです。即決和解の進行状況とか調停の受理そして進行状況あるいは成立件数とかいったものを統計的にやる場合にはOA機器の威力が発揮できますけれども、コンピューターで裁判されたのじゃ困るわけで、やはり裁判はどんな事件でも全く同一裁判というのはあり得ない、その固有の人間と人間に絡む事件でございますので、克明に、生きた人間が、生きた裁判官が直接十分にこれを審理して、それに即応した適切な裁判をしてもらいたい。したがって、ある部門ではOA化に親しむし、ある部門ではOA化が逆に裁判の本質を阻害するのではないかという点がありますので、そういったものを峻別しながらやっていってもらいたい。  そしてまた、先ほど稲葉先生から東京を一カ所にして今の高等裁判所のような、ああいういかめしい建物になったら余計だれも行きたがらないじゃないかという御指摘がございまして、これはごもっともで、私どもとすれば非常に心配しておったのです。現在ある高等裁判所地方裁判所簡易裁判所の入っておる大変立派な建物ですけれども、一般の国民から見ますとなかなか入りづらい感じを持つのではないだろうか。私どもも、三十年余り弁護士をやっておっても何となく締めつけられるような感じは否めないわけです。ああいう形で簡易裁判所をつくられたのでは、みんな来なくなってしまう。それで一つの例として、先ほど運用面で申し上げたのですが、家庭裁判所のようなものであれば、これは東京に一カ所しかない。そして、一カ所しかないことをそれほど国民が不平をかこっているわけではございません。  したがって、建物の構造、レイアウト、先ほど言った窓口相談部門といったものを設けることによって比較的気楽に、先ほど言いましたように、草履がけあるいはげた履きというわけにはいかないかもしれません。霞が関に行くには多少格好を整えて行かなければならないかもしれませんが、少なくとも気持ちの上ではそんなに肩ひじを張らなくても行けるようなレイアウト等も十分考慮してくれ、これについては弁護士会とも十分協議を重ねながらいい裁判所づくりを一緒にやりましょう、こういう御意見もちょうだいしておるものですから、それならそういう協議を重ねることを前提に、法律上一庁でもやむを得ないのじゃないか。  ただし、先ほど司法書士の先生から申されたように、じゃ実務をやるところを一カ所にすべてしなければならないわけではない。墨田における交通裁判所的なものは残ると思うのです。また、ある箇所には調停だけやるところとか、あるいは本裁判もやるところを分室か出張所のような形で置くことによって、名実ともに完全に一庁にすることには限らないはずです。そういったところをこれから私どもも十分研究し、また裁判所と相談しながら、あらゆる角度における協議を重ねつつやっていくことを前提に、この法案に賛成したわけでございます。数との関係におきましてはそういう趣旨でございますので、御理解いただきたいと思います。
  41. 中村巖

    ○中村(巖)委員 次に、竹下参考人にお伺いをいたしますけれども、小規模独立簡裁の中には利用度の大変に少ない裁判所がある、事件の件数の少ない裁判所があることは事実であります。どうしてそういう現象が起きるのかという原因として、過疎過密の問題があるということは否めない事実でございますけれども、一面においては、先ほど来のお話の中に出てまいりますように、簡易裁判所が従来余り充実をしておらなかったという面がある。例えば裁判官が常駐しておらないということで、過疎地の裁判所においては事件が少ないからと言えばそうかもしれませんけれども裁判官はよその裁判所からてん補で月に一回来る、あるいは月に二回、週一回というところもありますけれども、そういうふうに来る。職員が非常に少ないというような状況の中で、物的にも人的にも充実しておらないし、あるいはまた裁判所自体のPRが足りないというようなこともある。その結果として、事件数が大変に少なくなってしまったという側面もあるのではないか。今度こうやって統廃合をしてしまうと、ますますそういった意味で不便になるわけでありますから、当然、利用者がより減ってしまって、結果的に国民裁判所との距離がさらに広がってしまうというおそれがあると思うわけでありますけれども、このような状況を打開していくにはどういうふうにすべきなんだろうかということを考えていかなければならぬと思うわけでございます。その点についての御意見を伺いたいと思います。
  42. 竹下守夫

    竹下参考人 ただいまの御質問の趣旨は、現在、簡易裁判所にいろいろ事件が出てきており、殊にここ数年来事件が非常に激増しているということはそのとおりだけれども、しかし、先ほど私の申し上げた言葉で言えば、要するに民衆の日常的な事件のようなものが裁判所に出てきてないではないか、そういったものが気軽に裁判所へ持ち出せるように、あるいは簡易な手続で迅速に救済を受けられるようにするにはどうしたらいいのだろうかという御趣旨というふうに承りました。  恐らく、今我が国司法制度が直面している最大の問題の一つは、先生今御指摘のとおり、そういった小さな事件、しかしそれは法律的に救済されてしかるべきそういう事件を一体どういうルートで解決をするのかという問題だと思うわけであります。もちろん、法律上の権利の救済の本筋は裁判所における司法的救済、こういうことになるわけですが、やはり非常に細かい事件ということになると、すべてがすべて裁判所へつなげるのがいいのか、あるいはそのほかの方法もとれるのではないか、ないしは同じ裁判所へ持ち込むにしても、先ほど三ケ月参考人からお話がありましたように、訴訟という形ではなくて調停というような形で扱うのがいいのか、そういういろいろな考え方があり得ると思うのですね。  一つ考え方としては、むしろ行政的な救済をもっと拡充していくべきだというような考え方もあると思いますし、私はそれはそれなりで十分根拠がある考え方だろうと思うわけです。ただ何といっても、しかし、行政だけに任せておいて裁判所の方はそういう細かい事件はもうこれ以上相手にしないというのは筋違いだろうと思うわけですから、その意味ではやはり裁判所で、とりわけ簡易裁判所でそういう事件をもっと大幅に扱えるような体制をとらなければいけないだろうというふうに私も考えるわけであります。  ただ、そう考えた場合でも、一体それでは現在のような配置を存続しておくというやり方しかないのか、それともあるいはもっと、先ほど私が最初意見陳述で申しましたように、法律扶助制度というようなものを、もう少し国がそういうものに取り組んでやっていただくという必要があるのではないか。御承知と思いますが、イギリスとかフランスとかスウェーデンなどでは、一定の所得以下の者に対しては一種の社会保険的に、そういう者が弁護士事務所へ行って相談を受ければその分は国が負担する、あるいは収入いかんによっては半額は国が負担する、そういう制度があるわけでございまして、もしそういうようなことができれば、直接裁判所ではないかもしれないけれども法律家である弁護士事務所へ行って相談を受け、それによって解決ができるという事件も多いのではないかというふうに思うわけです。  それで、裁判所自体ということになりますと、今のような状況で一体どういう方向に打開をしていったらいいのかということになると、結局実績を積むしか仕方がないのではないかという感じが私はしているわけでございます。やはり何といっても国民全体のコンセンサスとして、今のままの簡易裁判所ではいかぬのだ、もっと国の予算が必要になるかもしれないけれども、それだけの金を使っても十分意義のあるものなんだということの認識が広くなれば、これはやはり一つの力として実現の方向へ行くだろうと思うわけですが、どうも現状ではなかなかそういうコンセンサスが成立していないのではないか。これは先ほど稲葉先生の方からも、日本国民国民性といいますか、そういうような御指摘もございまして、そういうこととも関係しているかもしれません。しかし、とにかくそういう実績をつくっていけばやはり変わってくるんじゃないか。  その意味で、先ほどちょっと私の意見陳述では舌足らずのところがあったわけでございますけれども、今回の大都市簡易裁判所の統合というようなことで、本人訴訟あるいは簡易裁判所の管轄の中でもさらに特に小さい事件について特別に専門的に扱うような都なり係というようなものができて、そういうところで現行法の枠の中で、つまり現在の訴訟法の定めでは、どうも簡易裁判所の特則といっても、それほど大きな特則ではない、先ほどアメリカ少額裁判所の例で申し上げましたような弾力性のあるものではございませんので、そういう意味では法律の制約があるわけですけれども、その枠の中だけでもとにかく一定の実績を上げていくということになれば、これはやはり日本の国でもやればやれるんだし、それからそういう小さな事件裁判所で解決されるということが我々国民一般にとって非常に重要なことだということがわかっていただけるようになってくるのではないか。そうなると、それから次のステップとして、もっとほかの地域までそういう事件処理のやり方というのを広げていくための財政的な裏づけなりなんなりを得られるような、そういう方向への展望が開けてくるのではないかというふうに考えているわけでございます。
  43. 中村巖

    ○中村(巖)委員 最後牧野参考人にお伺いをいたしますけれども牧野先生も今回の統廃合についてはやむを得ないんだということでありますが、司法書士の先生方はやはり何といっても簡裁の近くで事務所を開いてやっておられる方もおるわけで、直接職業的利害に響いてくるわけであります。殊に仄聞するところによると、日司の中でも若い先生方の中には今回の法案反対であるという部分があるというようなことでございます。殊に大都市簡裁の統廃合についていろいろ御意見がおありのようでございますけれども、今の先生のお話では、この問題については今後とも、裁判所と話し合いをして、そして問題を解決をしていきたいということのようでございます。どういうようなことを今話し合いのテーマとして考えておられるのか、そのことをお伺いをいたします。
  44. 牧野忠明

    牧野参考人 この問題が発生しましてから、おっしゃるとおりさまざまな意見が、全国津々浦々に分散して所在しているということもありまして、出てまいりました。したがって、事情が許されますならば、現在ある身近な簡易裁判所はそのまま物的あるいは内容的にも機能が充実されて十分に対応していただくことが一番ベターであると思うのです。したがって、そういう観点から存置してほしいという非常に強い声が一部にあることも事実でございます。しかし、法制審議会等で御審議いただきました趣旨をつぶさに検討しまして、やはり現在の交通事情あるいは人口動態の変化、それからもろもろのことを考えますし、それから国家財政の効率的運用というようなことも考えますと、今のままそのままを充実しろという主張はやはり無理な点があるのではないか、したがって、できるだけ国民の利便を損なわない範囲での統廃合はやむを得ないのではないか、こういうような結論に達したわけであります。  しかし、ただ単に簡易裁判所の建物が立派になり、あるいは機械、設備が充実し、人的にも充実されましても、裁判所はあくまでも最終的に司法判断を公正な立場でしていただくところでございますので、そこで国民が抱えておりますいろいろな主張すべき権利を主張する。その前段に保おいて、やはり何ぼ簡易、軽微な事件といいましても、こういう今日のようにふくそうした権利関係の中では、だれかに相談をして自分が主張すべきことを正しく整理をして正しい主張をするという手助けをする専門職能というものはどうしても必要不可欠ではなかろうかと思うわけであります。幸い司法書士は全国津々浦々におりますし、そういう対応がしやすい。したがいまして、裁判事務につきましても、司法書士がせっかくつくった書類が裁判上有効に機能していくまでは我々の職務だと我々は思っておりますけれども、所によりましては、いや、これは本人の作成名義になっているから本人で補正、補完をしてもらわなければだめだとか、そういうぎくしゃくした対応がないわけではないわけでありまして、したがって、そういうことでは正しく国民の権利保全に機能していかないということで、司法書士の裁判事務についても十分改善をしていただく御配慮をいただく、そういうことと相まって、裁判所の物的、人的機能の充実とあわせまして、国民が本当に利用しやすい駆け込み裁判所的な機能の実質が担保されていくのではないか、こういうような観点に立って継続的に裁判事務の改善についても御協議いただきたい、こういうテーブルを持っていただいているところであります。  それから、大都市簡裁につきましては、おっしゃるとおりかなり論議が沸騰いたしました。そして最終的に、霞が関に東京簡易裁判所が設けられることについては反対はしないけれどもそれだけでは困るのであって、したがって、先ほど落合参考人がおっしゃいましたように、できるだけ支局あるいは出張所的なものを幾つか設けていただいてそこでも受け付け事務をしていただくとか、あるいは場合によっては出張の調停もしていただくとか、そういうような配慮を今後していただきたい、そういうことで東京司法書士会地方裁判所とその一つのメンバーに加わって御意見も申し上げ、改善方について要望していきたいというような御了解もいただいておりますので、そういう形で今後十分対応していきたいということで一応おさまったということでございます。
  45. 中村巖

    ○中村(巖)委員 どうもありがとうございました。
  46. 大塚雄司

    大塚委員長 安倍基雄君。
  47. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 参考人の諸先生方、お忙しいところ長時間にわたりまことにありがとうございます。  私は民社党でございますが、今まで同僚議員がいろいろなことを聞かれた後でございますから、余り論点も多くはないのでございますけれども、考えますのに、私も一時期アメリカで二年半ばかり生活した。そのときに、向こうの連中はすぐ権利を主張しまして争いに持ち込む。日本の場合には非常に少ないと言われておりますけれども、最近は大分出てきた。さっきのお話のとおりでございます。だから、簡単に申しますと、行ってすぐやってくれて、そしてすぐ処理してくれるならばどんどんと持っていくのだけれども、なかなか時間もかかり、今の簡裁の場合も遠いとかそんなことで手間がかかる。答申についていた一覧表なんか見ますと、一つの案件で随分時間がかかっている、数の少ないところについてはかかっているところもある。特に北海道あたりそうなっております。まあ、これは不便さもあると思いますけれども。  今までいろいろお話がございましたが、裁判官が足りないという話でございますけれども、こういう簡易裁判所的な裁判官には地裁とか高裁とかの裁判官に必要な資質、もちろん公平、公正な判断をしなければいけませんけれども裁判官の質を高めますとどうしても数が少なくなる。でございますから、駆け込み寺内な簡裁につきまして若干資格が緩やかと言っては悪いけれども、準裁判官と言っては言い方が悪いのですが、それに似たような制度も考えられるのではないか。うっかりした人を裁判官にしては困るということはありますけれども、公平であり良識があれば、若干そういった人間を使っていくというのも一つ考え方ではないかという点が第一点。これは三ケ月参考人にお聞きしたいのでございます。  それと今度は、私の持ち時間が少ないから一遍に伺いますが、例えば英法系だったらバリスターとかソリシターとかいうのがございますけれども、現在の弁護士の持っている職分、あるいは司法書士の持っている職分、その辺についてまた見直すことも可能ではないのか。例えば、金の方では公認会計士と税理士とございますね。これは大分中身も違うのですけれども、企業についてはその辺の分担区分がある。それを、弁護士司法書士のいわば機能といいますか、分野というものを、例えば司法書士の中でも弁護士に近いようなものを考えるとか、これは非常に思い切った言い方でございまして、法の基本にかかわるものでそう簡単にお答えできるかどうかわかりませんけれども、いずれにいたしましても、私もこの前暴力団の関係の質問をしたときに、結局手軽にぼっと頼みに行く場所がないとどうしてもそういうものがはびこる。ですから、暴力団の防止についても単に警察がたたくだけじゃなくて、いろいろの法務、警察あるいは厚生、労働、そういったところがまとまって大きな立場からいろいろ考えていかなきゃいかぬという話をしたのでございますけれども簡易裁判所の統合問題は、ある意味からいいますと駆け込み寺が非常に遠くなっちゃうとか、それはやはり裁判官が足りないからそうなるのだ。もともと簡裁をつくったころにはそれなりの裁判官配置してやるつもりだったろう。数が足りないのだったら、予算もあるかもしれぬけれども、一人一人の裁判官に非常に高い資質を要求して質に傾き過ぎるのじゃないか、もっと駆け込み寺内な裁判官もあっていいのじゃないか。それとの関連で、弁護士司法書士それぞれのいわば役割分担についてもうちょっと検討余地があるかどうか。この点につきまして三ケ月参考人、そして弁護士司法書士、また竹下先生も御意見がございますれば承りたいと思います。
  48. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいまの御指摘は、非常に重要な問題に触れておる点がございます。と申しますのは、裁判活動とかなんとか申しますのは、建物をつくり、法律さえつくっておけばそれでいいというのではなしに、やはり人間がそこに入りましていろいろと当事者の悩みも聞き、それを法律的に整理し、何が公平であるかを判断していく、常に人間の思惟活動というものなくしては進まないものなんです。私はずっと裁判法の講義のときにこういうことを言ってまいりました。結局法律制度の効果は何で違うのかというと、そういうふうに法律を動かすことに使命を感じている人の手の長さによって違うんだ。手が長ければ長いだけ国民に対する司法サービスが行き届くし、いかに立派な役所をつくり、いかに立派な法典をつくりましても、その手が短い以上はしょせんそれはお釈迦様の手の中から孫悟空が逃げ出せないような制約を受けるんだ、これが裁判というものだということを私はずっと説き続けてきたわけで、今おっしゃいましたことは、まさに法律家の手の長さというものが足りないのではないか。足りなければ、もう少しそれの再統合なりいろいろなことを考えて、手を長くして国民のために司法を身近にすることを考えるべきではないか、こういう御指摘に連なるわけでございまして、私が前から言っていることに一致するわけでございます。  ただ、これ以上のことをこの法律のあれで申しますと、ここに落合さんもいらっしゃるし、それから司法書士の方もいらっしゃるし、私はやはり前々から言っておりますのは、ちょっとこういうことを言っていいのかどうかわからないのでございますけれども、やはり日本弁護士さんの数が少な過ぎるし、地方的に偏在し過ぎておる。そして、すべて駆け込み寺といって裁判所に世話になろうなろうとする志向だけが先に出るのだけれども、むしろ外国の場合、こういう問題について見れば、そこに持っていく前には弁護士がある程度やって、そうしてどうにもならないときにやっていくにもかかわらず、その論点が剥落してしまっておるところに日本司法制度論議の大きな問題がある。  これは私は前から学問的に言っていることであるし、論文でも書いたことであるからいいのでございますが、本日そういう弁護士論を始め、司法書士論を始めるということになりますと、やはり落合さんもおっしゃりたいことがあるでしょうし、司法書士の方もおっしゃりたいことがあるでしょう。議論が錯綜いたしますのであれでございますが、私といたしましては、そういう問題があるのだ、それを含んででなければとても日本裁判所国民との距離は縮まらない。国民裁判所の距離を縮めるのに一番大事なことは、裁判所が努力をすることも大事だけれども、やはり国民の側に立ち、基本的人権の擁護と社会的正義の実現ということをうたっております弁護士が津々浦々そういうふうなことができるように整備されていかなければ、しょせんないものねだりになって、結局国家予算をねだることになる。国家予算だってそんなところならばだれも、もっと大事なことがあるといってつけてくれないといって、悪循環の中に巻き込まれる。そういうふうな点があるわけでございまして、おっしゃることはまさに司法改革論議の核心に触れた御指摘であると存じますが、それ以上触れますと多少この法律のあれよりも脱線するおそれがありますので、私のふだん考えていることだけ、全く大賛成だということだけ申し上げさせていただきます。
  49. 落合修二

    落合参考人 ただいまの御質問、本当に重大な問題を御指摘いただいておるところでございます。弁護士のあり方あるいは弁護士制度そのものについて今日的な状況はそれでいいのかどうかという点、これはいろいろ見方によって意見が分かれるところでございますけれども、私どもは現在全国に一万三千五百名弁護士がおりまして、弁護士法七十二条によって、報酬を得る目的で法律事務を行うことができる者は弁護士だけに限定されております。そういう意味では、国民法律問題についていわば法的に独占的な業務を与えられておる我々としては、本当に弁護士法一条に基づく使命に徹してやっていかなければならないということはみんなそういうふうに認識しておるわけでございますし、また弁護士会日本弁護士連合会も、そういうことで弁護士国民に対する責任を果たさなければならないということを強調しつつあるわけです。  しかし、絶対的な数が足りないのかどうか、あるいは大都市偏在というような現象もございます。先ほど私、裁判所の非常駐庁を百四十ぐらいと申し上げましたが、ちょっと今正確な数字はわかりませんが、簡裁の管内に弁護士のいない弁護士不在管轄区域というのはもっともっと多いものでございまして、果たしてこれでいいのだろうか。しかし、これはまた弁護士に、各簡裁に必ず人がおれというふうにはなかなか強制できない。やはり多少離れておっても、地域と密着しながらその不便さを弁護士が賄っていかなければならないという気持ちでおります。数の問題は今後私どもも十分検討して、現在司法制度問題、法曹行政問題、いろいろ論議されておるところでございますので、論議の上でいろいろ建設的な意見が出るのだろうと思います。ちょっと私見は差し控えさせていただきます。  ただ、裁判所がみずから国民に密着した、あるいは社会的距離を縮めていくということが必要でございますが、それにはどうしても裁判所だけでできない面があると思います。弁護士あるいはその他の関係業種というか、そういう方々の協力がなければいかぬと思います。ですから、私どもも観念的に裁判所が減るのはけしからぬというようなことを言っているわけではございません。また、統合した場合に、裁判所の充実をするのに弁護士は手をこまぬいて何もしないでいるんだと言うつもりは毛頭ありませんし、現に日本独特の調停制度、これが裁判所国民を最前線で結びつける大きな役割を果たしていると思います。私自身も現在簡易裁判所の調停委員をやっておりまして、毎月五、六件は処理しております。もう二十五年やっておりますが、そういう意味では本当に私ども裁判所から委嘱されて調停委員をやっておる中で常に裁判所とともにその接点を近づけていくということに努力しているわけでございます。  また、今回の簡易裁判所機能充実の中で、もし裁判所が窓口相談で十分その人的配置ができないというのであるならば、近くにある弁護士会でもそれに対応して協力するし、場合によっては裁判所に赴いて裁判所の相談業務のお手伝いをしてもよろしいということも、協議の中で私どもいつも申し上げているのです。こういうふうにして、我々も現在の弁護士制度の中で最大限の努力をして、国民法律サービスが行き届くように努力はしていきたいし、またしてきつつあるわけです。ただ、いろいろな制約があって必ずしもそのとおりにいっておりません。多くの御批判をいただくこともございますけれども、そういうことを一つの重要な課題として考えておるということだけひとつおわかりいただきたい、こんなふうに思います。
  50. 牧野忠明

    牧野参考人 積年我々が制度的にも抱えております問題点について御指摘いただいたわけでございますけれども弁護士法の解釈はさておきまして、司法書士法も業法としてその中に業務規定がございまして、法律事務の処理は弁護士法の規定にかかわらず違法性は阻却される、こういう司法判断をいただいております。したがいまして、その範囲内で日夜鋭意努力しているところでございます。  問題は、いかに国民に良質な、しかもきめ細かな法律サービスを提供するか、こういうことにかかっているだろうと思います。したがいまして、弁護士会司法書士会ともに今まで百年余の歴史を持っておりますけれども、その歴史的な慣行の中で確立されたお互いの職分を尊重しながら、お互いに協力提携をして国民に対する法律サービスの充実に努めていく、そういう姿が一番好ましいだろうと考えております。
  51. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 もう時間がないからあれですけれども、今の与えられた職分の中でやるというのはいいのですが、基本的にその辺の区分をある程度、例えば中間的なものを考えるとか、それからもう一つは、今話題に出ましたけれども簡裁廃止された後、調停委員的なものが簡単に抱え込んでいけるということも考えられるので、その点最後にちょっと竹下先生の御意見をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
  52. 竹下守夫

    竹下参考人 御質問の点につきましては、今までお三人の参考人方々からそれぞれ御意見の陳述がございまして、私も基本的にはお三人の参考人の方と同じでございますが、今最後に御指摘のありましたいろいろな既存の職業区分といいますか、そういうものにとらわれない考え方はないのかというような御指摘でございました。これも大変微妙な問題でございまして、なかなか一概には申し上げられないと思いますけれども国民法律問題を身近な法律家に相談できるようになっていなければ困るということだけは間違いないわけで、そういう点では恐らく日本弁護士連合会はもちろん、日本司法書士会連合会の方もいろいろ御苦心なさっておられることだろうと思います。  それで私、第三者として学問的な立場から見ておりますと、これまではどちらかというとそれぞれの職業の方々がそれぞれの仕事の分野を守ることに一生懸命というか、そちらに関心が向けられていたようでございますが、現行法の枠とかなんとかというものを全く離れて考えるということになれば、これから先生がおっしゃるような協力体制をつくってやっていくということも一つ考え方として十分あり得るのではないかというふうに考えております。その程度で、お答えになったかどうかわかりませんが……。
  53. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 終わります。
  54. 大塚雄司

    大塚委員長 安藤巖君。
  55. 安藤巖

    ○安藤委員 共産党の安藤巖でございます。きょうは参考人方々、お忙しいところをお出かけいただきましてありがとうございます。私も時間が制約されておりますので、簡単にお尋ねしたいと思うのですが、三ケ月先生には、司法試験の勉強のときに先生の御著書を大分勉強させていただきまして、新訴訟物理論というのは私の頭ではわかったようなわからぬようなことだったなと今思い出しているところでございます。  先ほど法制審議会司法制度部会での議論の一端を御紹介なさったのですが、そのときに、なぜ簡易裁判所をこれだけ事件が少なくなっておるのにそのままほうっておいたのか、こういう議論があったというような御紹介がありました。先ほどもいろいろ議論がありましたが、最初簡易裁判所をつくって裁判官が常駐しておった。ところが今回統廃合の対象になっております独立簡裁は、最初常駐しておったけれども裁判官が引き揚げちゃって、そして不在庁になっているわけですね。だから、そういうようなことで、裁判所に対する地域住民の皆さん方の要望はあるのだけれども、すぐ解決してもらえない、手間がかかる、裁判官がいないというようなことで、需要はあるのだけれども地元の有力者に頼むとか、事によれば事件屋に頼むとかいうようなことが潜在的にあって、それで事件が少なくなっている。その点についての最高裁判所の方の、裁判官を引き揚げるというようなこと、あるいは身近な駆け込み裁判所である簡易裁判所のアピールの仕方が足らなかったんだとかいうような御議論はなかったのだろうかなというふうに思っておるのです。  先ほど司法全体のエネルギーの合理的な配分だというふうにおっしゃったのですが、そういうことからすると、最高裁判所自身の御努力が欠落しておって、今回は裁判所サイドだけで事が運ばれているというような感じがするのですね。そうしますと、いわゆる国民裁判を受ける権利、それから民衆裁判所としての簡易裁判所のあり方、これは完全にネグレクトされてしまっているのではないかなと思うのですが、その点はいかがでございましょうか。
  56. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 どこのところに焦点を置いてお答えすればいいのか、ちょっと判断に苦しむのですが、要するに簡易裁判所がこうなったのについては努力が足りなかったんだという御指摘に重点を置いてお返事してよろしいのでございますか。——この辺のところは、私も時々物に書いたことがございます。日本裁判所は、やはりどちらかといいますと、小さな、少額な事件というふうなものについて割くエネルギーをもうちょっと努力してもよかったのではないか。それに対比されるのは、例えば家庭裁判所というものは同じ戦後につくられたのにかなり国民の間に定着してきたのに対して、その点でどんどん数が減っていくというふうな形になるのはどうだろうか。これは大きな問題でございますけれども、やはり家庭の問題と、それから先ほど私言いました、調停を抜きにいたしまして裁判でやるということとの間の身近さ、どんな小さな事件でも裁判に持っていく、そして訴訟で黒白を決する形に持っていくということになりますと、まだまだ日本人の現在の状況の中におきましてはこれに対するちゅうちょ感もやはりそれなりにあるのであろうというわけでございまして、努力したならば果たしてもっと簡易裁判所のあれが飛躍的に十倍にも二十倍にもふえたのだろうかなという点は、私は率直に言って疑問を持っております。  最高裁判所司法行政の責任者でございますから、全般的に限られた予算と限られた人員をどういうふうに配置していくかということについて、それはそれなりにお考えになってきたことだと私は思っておりますが、仮に日本司法予算があるいは何倍にもなり、諸外国が司法について割いている、総予算の中における司法予算と対応するくらいの予算が日本司法に注がれていたならば、これはもうちょっと違ってきたかもしれない。しかし、完全に外国どおりになるというふうにも思いませんけれども、違ってきたかもしれないという気は持つわけでございますが、これはいかんせん国政全般の予算の規模であるとか司法予算のあれであるとか、いろんな力関係とか、これは裁判所が努力しないと言っては悪いのであって、努力したけれども後援続かず、司法予算の面で、あるいは人員の統合の面で行われているのではないかというのがむしろ率直なところではないかと思います。  したがいまして、そういうふうな面でございますから、四十年たちまして、やはり今一つの庁舎を持ち、二人の人間がおりますけれども、一月に十件も来ないような裁判所を持っておりますと、光熱費もかかるし、それからいろいろ人件費もかかりますし、それからあれもかかる。一体こういうふうなところはもし会社であったならばどうするだろうかということを、やはり司法制度部会に出られた実業家の方々は考えるわけですね。やはりそこでは資本との効率ということを考えれば、十件程度のものにこれだけのことをしのぎながら四十年やっていて、それをそのままほっておいたというのではなくて、一度も問題とされたことがなかったのは何事であるか、こういう御指摘でございます。  御返事になっているかどうかよくわかりませんが、そんなところでよろしゅうございますか。
  57. 安藤巖

    ○安藤委員 事件数関係につきましてはいろいろ問題があるところでございますが、時間の制約がございますので、次に竹下参考人にお願いしたいと思うのです。  先ほど、今回のこの統廃合は利用しにくいとかそれから裁判を受ける権利云々の関係で不便ではあるけれども、我慢する限度じゃないかというお話がございましたが、先ほど家庭裁判所のお話がありましたけれども、今度の統廃合の対象になっておる独立簡裁に家庭裁判所の出張所が併設されているところがありますね。これは一つの例として申し上げますが、これは三十七庁も廃止されるわけです。そうすると、家庭裁判所の出張所も廃止される。ところが、対象になっておる、これは大都会でないところなんですが、審判が二百十二件あるし、調停三十三件、家事相談三百二十二件、これがもうすぽんとなくなっちゃうわけですね。そうしますと、やはりこれは遠くへ出かけるという不便、だれかに相談しようかということにもなって、先ほど申し上げましたような事件屋とかなんとかというところに相談をするというようなことになって、これは大問題になるのじゃないのかなというふうに思うのです。そうしますと、我慢する範囲内に入るのかな、これは疑問じゃないのかなというふうに思うのですが、いかがお考えでございましょう。
  58. 竹下守夫

    竹下参考人 ただいまの御質問の御趣旨は、結局、今回の統廃合の対象の範囲を画する基準といいますか、それが一つ事件数だったわけでございますけれども、その事件数を一体何を基準にしてといいますか、どういう事件検討対象の範囲を決めるのに取り上げるべきか、そういう御趣旨につながってくるのではないかというふうに考えます。  御承知のとおり、今回は民事訴訟と刑事訴訟とそれから民事調停でございますね、それを基準として考えた。先生御指摘の点は、これは確かに法制審議会の過程でも問題となった点でございますけれども、問題となったというか、問題として指摘があった点でございますが、現に家庭裁判所の出張所として簡易裁判所が指定されておって、そこで扱っておる事件というものの数を計算に入れなくていいかどうかということでございますね。確かにそういう考え方ももちろんあり得ると思うのでございますけれども、やはり簡易裁判所本来の事件数といいますか、それを基準に考えるというのが本筋であろうということに審議会の過程で、そういう意味で決定とかなんとかというところまでいったわけじゃございませんので、これは私の一個の考え方でございますけれども、やはりそういうものを基準に考えざるを得ないのではないか。家庭裁判所は、先ほど来お話が出ておりますように原則的には各都道府県に一庁ずつ本庁があって、支部が置かれているところはございますけれども、そういう形で家庭裁判所なりの対応をしているわけでございますので、そちらの方で賄うほかはないのではないか。必要であればこれは司法当局の責任で改めて出張所をどこかに設けるとか、そういう対応の仕方があり得るし、そう考えられるのではないか。  先生が具体的に御指摘になりました、今まで二百件を超えるような出張所の事件があったという庁が今回対象となっておるということでございますが、そういう点につきましては、家庭裁判所の問題として別途御考慮をいただくかするほかないのではないかと考えるわけでございます。この場合でも、あるいは家庭裁判所の本庁なり支部なりに行く時間がどのぐらいかかるのかというようなことはちょっと私わかりませんので、何とも申し上げられません。ただ、数の点だけから直ちにそういうところを廃止してしまうと、国民裁判を受ける権利の障害になるのではないかというふうには、私の現在持っております知識の範囲内ではどうもちょっとそうは考えられないということだけ申し上げておきたいと思います。
  59. 安藤巖

    ○安藤委員 残り時間が少なくなりましたので、落合参考人牧野参考人に、恐縮でございますが一緒にお尋ねします。  簡裁の不在庁の市町村には弁護士事務所が少ないというふうによく言われておるのです。これはどちらが先かということが一つ問題だと思うのですが、やはり私は、不在庁だからここへ出してもすぐ処理していただけない、特に仮処分とか何かでも、それから普通の訴訟でもそうだろうと思うのですが、だから隣の常駐してみえるところへ持っていこう、こういうこともあって、それなら事務所もそちらへ構えようということから考えれば、不在庁が原因ではないかなという感じがするのです。  そういたしますと、これは司法書士会連合会の方でも、先ほどお話がありました昭和六十一年一月三十一日の臨時総会の決議ですか、ここでも、不在庁でなくて裁判官常駐の裁判所というふうにかえって充実強化してほしいということを強く打ち出しておられたと思うのですが、この関係につきまして日本弁護士連合会、それぞれ単位会でも相当な御議論があると思うのです。だから、そちらの方へ相当力を入れていただくという、これまでもしてきておられたと思うのですが、やはりその辺のところをもっとしっかりやっていただけないものかなという気がするのですが、その辺のところは日弁連あるいは司法書士会連合会の方としてはどういうふうに考えておられるか、お尋ねします。
  60. 落合修二

    落合参考人 現在の裁判所の実態が、先ほど言いましたような不在庁があって、かなり変則的な運用をなされていることも事実でございます。事件も少ないということになれば、事件が少ない不在庁があるから、その関係がどちらが先かということは一概に言い切れませんが、少なくとも弁護士関係では、年間十件や二十件程度のところに弁護士事務所を構えて、そこでそのところを中心にやるということはなかなかできないと思います。やはり人口の多い、また事件の多いところに行って事務所を構えて、多くの方の法律サービスをしてあげるということにどうしてもならざるを得ないと思うのです。この点は、ある意味では当然の原理だと思うのです。  ただ、弁護士の場合には、先生当然御承知のように、事務所は持っておっても事務所以外で仕事をしてはならないわけではない、むしろ事務所以外での仕事も随分あるわけです。ですから、仮に裁判所がなくても、そこの自治体等に行って法律相談を受ける、あるいは巡回法律相談というのもやっておりますし、また無料法律相談もやっておる、これは皆弁護士がやっておるわけです。こうやって非常に機動性に富んでおるわけです。ある弁護士会では、法律相談だけやる場所を定期的に設けて、そこで皆さんの法律サービスをしましょうということをやっているところもある。その点では、非常に弾力的といいますか、機動性がある。ということで、裁判所がそこになくなっても、弁護士による法律サービスを提供するということが必ずしも裁判所ほどには減殺されるものではないことは自明の理だと思うのです。  そういう意味で、今回、裁判所もあり、そしてそこに弁護士がいれば一番いいのかもしれませんが、やはり人口あるいは事件数等によって必ずしもそれが合理的に実施できないというものであれば、私どもはある程度の統合もやむを得ない。そして、それは裁判所の本来の理念に沿ったものにしてもらう、そして弁護士裁判所のなくなった地域についてそこを見捨てるような、また足切りするような気持ちを持っては相ならぬ、私どもはどこへ行ってでも仕事ができるという利点があるものですから、大いにそういう点でその地域住民の利便におこたえしよう。最近、これは先生御承知のように、私ども弁護士はそれぞれ全国に散らばっておるわけですが、そこの自治体、市町村に至るまで非常に綿密に提携し合って、その地区の方々法律相談に応ずるということをやっておるのが現状でございます。  ですから、そういう意味で、私どもの努力によってもしその地区に裁判所がなくなったとしてもある程度のカバーはできるだろう、またしなければいけないだろう、こんなふうに考えておりますので、私ども一層の努力をし、またいい裁判所づくりに力を注ごう、こんなふうに考えておりますので、その点について御了解いただきたいと思います。
  61. 牧野忠明

    牧野参考人 司法書士は、冒頭申し上げましたように、全国の市町村にほとんど事務所を構えております。したがいまして、今度の簡裁の統廃合問題につきましても、各単位会に意見を照会しますと同時に、その地元に事務所を構えております司法書士に対しましても意見を照会し、集約をしたところであります。全国廃止百五十庁すべての簡裁地元に所在しております司法書士の意見もくみ上げたところであります。したがって、その中でどうしても諸般の事情から残していただきたいという希望がありましたのは二十一庁ということで、その中で十七庁は残る、こういうことになりまして、あと四庁だけはどうしても統廃合せざるを得ない、こういうようなことで、我々は我々の意見を十分に組み入れていただいた、こういう評価をしているところであります。  ただ、簡易裁判所の充実につきましては、先ほどからお話が出ておりますとおり、強化を図っていただかなければならないところでございますし、司法書士は恐らく統廃合されましたところにつきましてはその事務所で事件を受託し、草なりあるいは公共機関を使いまして簡易裁判所の窓口に運ぶ、こういうサービスの態様になっていかざるを得ないのではないか、こういうぐあいに考えております。したがいまして、そういう視点から今後も司法書士は十分に国民に対する法律サービスを、今度の法案が可決されました後におきましても提供していくことができるであろう、また、その辺の実態を酌んでいただいて法制度的にもお手当てをしていただきたい、こういうような希望を持っているところであります。
  62. 安藤巖

    ○安藤委員 終わります。ありがとうございました。
  63. 大塚雄司

    大塚委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  本日は、これにて散会いたします。     午後零時四十九分散会