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1987-08-31 第109回国会 衆議院 社会労働委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年八月三十一日(月曜日)     午後一時二分開議 出席委員   委員長 堀内 光雄君    理事 長野 祐也君 理事 丹羽 雄哉君    理事 池端 清一君 理事 沼川 洋一君    理事 田中 慶秋君       粟屋 敏信君    小沢 辰男君       片岡 武司君    古賀  誠君       中山 成彬君    三原 朝彦君       持永 和見君    河野  正君       村山 富市君   平石磨作太郎君       吉井 光照君    塚田 延充君       児玉 健次君    田中美智子君  委員外出席者        参  考  人        (日本経営者団         体連盟専務理         事)      小川 泰一君        参  考  人        (日本商工会議         所労働委員会委         員長)     郷 良太郎君        参  考  人        (全日本労働総         同盟調査局次         長)      佐藤 幸一君        参  考  人        (中央大学法学         部教授)    角田 邦重君        参  考  人        (日本弁護士連         合会女性権利          に関する委員会         委員長)    中島 通子君        社会労働委員会        調査室長     石川 正暉君     ――――――――――――― 八月三十一日  育児休業法案糸久八重子君外六名提出参法  第三号)(予) 同月二十八日  保育所国庫負担等に関する請願井上一成君  紹介)(第六六一号)  同(近江巳記夫紹介)(第七二四号)  同(中野寛成紹介)(第七八三号)  同(原田憲紹介)(第七八四号)  国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法  律案反対等に関する請願川俣健二郎紹介)  (第六六二号)  同(小林恒人紹介)(第六六三号)  同(沢藤礼次郎紹介)(第六六四号)  同外五件(嶋崎譲紹介)(第六六五号)  同外一件(前島秀行紹介)(第六六六号)  同(村山富市紹介)(第六六七号)  同外一件(安藤巖紹介)(第七一六号)  同(川俣健二郎紹介)(第七一七号)  同外一件(小林恒人紹介)(第七一八号)  同外一件(竹内猛紹介)(第七一九号)  同外五件(永井孝信紹介)(第七二〇号)  同外二件(水田稔紹介)(第七二一号)  同(村山富市紹介)(第七二二号)  同外一件(小川国彦紹介)(第七七五号)  同(小澤克介紹介)(第七七六号)  同外二件(川端達夫紹介)(第七七七号)  同(川俣健二郎紹介)(第七七八号)  同外四件(田中慶秋紹介)(第七七九号)  同(田中美智子紹介)(第七八〇号)  同外二件(永井孝信紹介)(第七八一号)  労働基準法の一部を改正する法律案反対に関  する請願村山富市紹介)(第六六八号)  国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法  律案反対等に関する請願外五件(吉井光照君  紹介)(第六六九号)  労働基準法改正案反対等に関する請願川崎寛  治君紹介)(第七一三号)  同(城地豊司紹介)(第七一四号)  不況地域雇用確保に関する請願福島譲二君  紹介)(第七一五号)  高齢者就労対策の充実に関する請願広瀬秀  吉君紹介)(第七二三号)  労働基準法の一部を改正する法律案撤回等に関  する請願安藤厳紹介)(第七四六号)  同(石井郁子紹介)(第七四七号)  同(岩佐恵美紹介)(第七四八号)  同(浦井洋紹介)(第七四九号)  同(岡崎万寿秀紹介)(第七五〇号)  同(金子満広紹介)(第七五一号)  同(経塚幸夫紹介)(第七五二号)  同(工藤晃紹介)(第七五三号)  同(児玉健次紹介)(第七五四号)  同(佐藤祐弘紹介)(第七五五号)  同(柴田睦夫紹介)(第七五六号)  同(瀨長亀次郎紹介)(第七五七号)  同(田中美智子紹介)(第七五八号)  同(辻第一君紹介)(第七五九号)  同(寺前巖紹介)(第七六〇号)  同(中路雅弘紹介)(第七六一号)  同(中島武敏紹介)(第七六二号)  同(野間友一紹介)(第七六三号)  同(東中光雄紹介)(第七六四号)  同(不破哲三紹介)(第七六五号)  同(藤田スミ紹介)(第七六六号)  同(藤原ひろ子紹介)(第七六七号)  同(正森成二君紹介)(第七六八号)  同(松本善明紹介)(第七六九号)  同(村上弘紹介)(第七七〇号)  同(矢島恒夫紹介)(第七七一号)  同(山原健二郎紹介)(第七七二号)  労働基準法改悪反対労働条件改善等に関す  る請願野間友一紹介)(第七七三号)  同(中路雅弘紹介)(第七七四号)  国立明石病院及び国立神戸病院統合計画中止  等に関する請願外一件(永井孝信紹介)(第  七八二号) 同月三十一日  労働基準法改悪反対労働条件改善の促進に  関する請願金子みつ紹介)(第八六六号)  同外二件(川崎寛治紹介)(第八六七号)  同外一件(永井孝信紹介)(第八六八号)  同外一件(水田稔紹介)(第八六九号)  同外三件(伊藤忠治紹介)(第九二八号)  同外六件(大原亨紹介)(第九二九号)  同(沢藤礼次郎紹介)(第九三〇号)  同外一件(山口鶴男紹介)(第九三一号)  同外五件(村山富市紹介)(第九五〇号)  労働基準法改正に関する請願中路雅弘紹介  )(第八七〇号)  同(田中慶秋紹介)(第九三二号)  同(伊藤茂紹介)(第九五一号)  労働基準法改正等に関する請願中路雅弘君  紹介)(第八七一号)  労働基準法改悪反対等に関する請願中島武  敏君紹介)(第八七二号)  国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法  律案反対等に関する請願外二件(大原亨紹介  )  (第八七三号)  同外三件(奥野一雄紹介)(第八七四号)  同(川俣健二郎紹介)(第八七五号)  同外一件(小林恒人紹介)(第八七六号)  同(沢藤礼次郎紹介)(第八七七号)  同(関山信之紹介)(第八七八号)  同外二件(土井たか子紹介)(第八七九号)  同(藤原ひろ子紹介)(第八八〇号)  同外二件(水田稔紹介)(第八八一号)  同(村山富市紹介)(第八八二号)  同外一件(伊藤茂紹介)(第九二三号)  同(川端達夫紹介)(第九二四号)  同(川俣健二郎紹介)(第九二五号)  同外一件(関山信之紹介)(第九二六号)  同外一件(竹内猛紹介)(第九二七号)  同(村山富市紹介)(第九四九号)  国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法  律案廃案等に関する請願(有島重武君紹介)  (第八八三号)  国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法  律案反対等に関する請願外一件(新井彬之君  紹介)(第八八四号)  同外二件(市川雄一紹介)(第八八五号)  同外一件(坂井弘一紹介)(第八八六号)  労働時間週四十時間制の早期実現等に関する請  願(山口鶴男紹介)(第九二二号)  労働基準法改悪反対最低基準大幅引き上  げ等に関する請願上田卓三紹介)(第九四  八号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  労働基準法の一部を改正する法律案内閣提出  、第百八回国会閣法第五七号)      ――――◇―――――
  2. 堀内光雄

    堀内委員長 これより会議を開きます。  第百八回国会内閣提出労働基準法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、本案審査のため、参考人から意見を聴取することに。いたしております。  御出席を願っております参考人方々は、日本経営者団体連盟専務理事小川泰一君、日本商工会議所労働委員会委員長郷良太郎君、全日本労働同盟調査局次長佐藤幸一君、中央大学法学部教授角田邦重君、日本弁護士連合会女性権利に関する委員会委員長中島通子君、以上でございます。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案につきまして、忌憚のない御意見をお述べ願いたいと思います。  なお、議事の順序は、初めに参考人方々から御意見を十五分程度お述べいただき、次に委員諸君からの質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、まず小川参考人お願いをいたします。
  3. 小川泰一

    小川参考人 小川でございます。本日は、労働基準法の一部を改正する法律案につきまして意見を申し述べる機会を与えていただき、厚く御礼を申し上げます。  労働時間を中心労働基準法が四十年ぶりに改正されるべく審議されることにつきましては、経営責任を担うとともに法律の遵守を義務づけられる当事者といたしまして、改めて事柄の重大さと責任の重さを感ずる次第でございます。と申しますのは、御高承のとおり、企業を取り巻く環境は殊のほか厳しゅうございまして、今や企業従業員との関係において、多くの経営者に与えられた最大の課題は、健全な経営を確保しつつ、雇用をいかに保持するかということでございまして、その中で労働条件維持向上をどうやって実現するかということになってきているからでございます。  このような中で、いずれの事業主も下回ってはならない労働基準について、新たな枠組みが設定されることにつきましては、それに到達するために、今まで以上に大変な経営努力が必要になると存じております。特に昨今の円高産業構造調整の波を一挙にこうむっております中小零細企業にとりましては、法定労働時間の短縮など改正案にこたえていくために、経営費用の増大の吸収中心に、まことに厳しい対応を覚悟しなければならないと存じます。  御承知のとおり、経営労働時間短縮賃金引き上げと同様の効果をもたらすことでございまして、賃金をそのままにして労働時間を短縮する場合、それはストレートなコストアップにつながるわけでございます。  ところで、我が国企業賃金は、パートタイマー等を除きまして、一般的に、日建て月建てで計算されておりまして、いわゆる日給月給制、あるいは月給制として支払われております。したがいまして、賃金と時間とが極めて密接な関係を有していること、つまり労働時間が短縮された場合に賃金が据え置かれるとすれば、その分はすなわち労働生産性低下につながるということについての認識が残念ながら薄いのでございます。  企業といたしましては、今般の労働基準法改正企業競争力低下を意図したものでないということについてはよく理解しているところでございますが、申し上げましたように、従業員雇用維持ということを基本的に念頭に置く以上、結果的にその競争力を失わせることとなりかねない時間短縮にはなかなか耐えられないところでございます。  さりとて、短縮された分賃金を引き下げるということは、理屈の上では当然でございましても、実際の問題になりますと、従業員の理解が得られにくく、結局時間短縮は直接のコスト増となってしまうという深い悩みに直面しておる次第でございます。  一口に経営費用吸収と申しましても、なかなか難しいことを御理解いただきたいと存じます。  もとより経営者といたしましては、労働時間短縮の方向につきましては、生産性向上成果配分の一方法として、労使間の十分な話し合いにより今後積極的に進めていくことが大切な課題でありますことをよく承知いたしております。  しかしながら、罰則背景にする労働基準法に基づく法定労働時間の改定につきましては、生産性成果配分による自主的な時間短縮とは別個の視点から対応しなければならないものでございます。  繰り返すようでございますが、今回の改正法案我が国労働時間問題全般に与える役割を否定するものではございません。しかしながら経営責任を担う当事者、特に中小零細企業にとりましては、法の内容をクリアしていくには非常に厳しいものがあると受けとめている現実をどうか御理解いただきたいと思います。  ところで、本法律案が上程されるまでには、政府を初め労使その他関係者の大変な御努力がございましたが、特に中央労働基準審議会におきます公益側労働者側事業主側委員各位の終始御熱心な討議は、昨年三月以降延べ三十一回に及んだと伺っております。その結果、昨年十二月十日、「労働時間法制等整備について」の建議としてまとめられ、改正法案枠組みがつくられたところでございます。  この建議づくりに際しましては、公労使三者ともにそれぞれ多くの意見を持ち、互いに相入れない部分幾つかございましたと伺っております。しかしながら、各位の御努力により集約することができ、この合意が今回の改正法案に結実したわけでございます。私どもといたしましては、既に申し上げましたように、さまざまな経営上の困難はありますものの、このような経過を尊重いたしますがゆえに、これからの法案審議につきましては、どうか建議趣旨を踏まえて行っていただき、原案のとおり成立させていただくことをあえてお願いする次第でございます。  労働時間の実態は、昨年三月の労働省調査で見ますと、週所定労働時間が四十六時間を超えている事業場が、従業員規模百人ないし三百人未満で二四・八%、三十人ないし九十九人規模では四〇・九%、一人ないし二十九人規模では五六・九%あり、特に規模が小さくなるほど週四十六時間を超える事業場の割合が多くなっています。  改正法案はこの実態を踏まえ、法定労働時間の目標を週四十時間に置き、当面は四十六時間として、経過措置を講じつつ段階的に短縮する方法をとっておりますが、これは中小零細企業経営実態から見て耐え得るぎりぎりの線であると存しております。  ところが最近になりまして、この当面週四十六時間を四十四時間にし、かつ四十時間制への移行を速やかにすべきであるとの御意見を聞いております。  しかしながら、前に御紹介いたしました調査により、週所定労働時間が四十四時間を超える事業場実態を見ますと、従業員規模百人ないし三百人未満で三七・三%、三十人ないし九十九人規模では五五・四%、一人ないし二十九人規模では七〇・八%でございます。また規模計で見ましても、六九・七%であり、調査対象事業場を母集団に直してこのことを見ますと、約三百六万一千事業場の中で約二百十三万四千事業場所定労働時間を早急に短縮しなければならないということになるのでございまして、四十六時間からスタートする場合に比べ約四十三万事業場がさらに対象として追加されることになります。  労働基準法が、その基準に満たないものに対しては罰則をもって厳しく処していることを考えますと、最低労働基準の性急な切り上げは、このような中小零細企業労働時間の実態からして一挙に多くの法違反事業場を出すということにもなりかねません。かつ、そのような事態は経営者労働時間問題への積極的な取り組みの意欲をかえってそぐおそれのあることもお考え合わせの上、ここはぜひとも現実を直視していただき、最低基準法定労働時間を週四十六時間からスタートし、同様に中小企業等については経過措置等を設けることによって、ぜひその方針を堅持していただきたく、お願い申し上げる次第でございます。  次に、目標である週四十時間への移行につきましては、その早期実現のため具体的期限をあらかじめ決めるべきだとの御議論がございますが、この点につきましても、個別企業労使が四十六時間を基準にそれぞれの状況を踏まえて努力した結果や、将来にわたる全般的な経営環境についての明確な状況判断が得られないまま、あらかじめ移行時期を予定することは適切でないと考えておりますので、慎重に御対応お願いいたします。  さらに、労働時間制度運用上の弾力化の問題でございますが、産業構造は第二次産業中心から第三次産業への移行が進み、また同一産業企業内におきましてもサービス化ソフト化情報化への取り組みが要請されております。消費者、顧客のニーズも極めて多様化しており、業態によっては業務の繁閑が極めてはっきりと出るところもございます。したがって、企業労働時間制度につきましても、これらの変化にこたえる工夫が迫られているところでございます。  改正法案では、この状況を御勘案いただき、各種労働時間の弾力的な措置が設定されているところであります。この弾力的措置につきましては、さまざまな御議論があることは承知いたしておりますが、経営者としましては、労働時間を現実的な労働態様に沿って設定することにより、経営効率維持しつつ、結果として年間総実労働時間の短縮が可能であると考えております。  具体的には、例えば三カ月以内の変形労働時間制の場合に、経営の恣意による長時間労働が行われるだろうといった御意見もあるようでありますが、法案は例えば三百人を超える事業場では平均週所定労働時間を四十時間に短縮することが要件とされており、かつその内容について労働組合あるいは労働者代表との書面による協定が必要になるなど、企業だけの思惑で進められるようにはなっておりません。  また、実際の運用では、特定の日、特定の週の労働時間を常識に反して極端に長時間に設定するということは、その仕組み自体が長続きするものではないと思っております。半面、この制度運用の仕方によっては、特定の週が法定労働時間の四十六時間を超えることになっても、他の週で休日の増加につながるようなことも期待できます。どうか実際の運用労使の良識にお任せいただくよう御配慮お願いしたいと存じます。  フレックスタイム制につきましては、企業にとって業務態様に適合した有効な勤務が期待できるようになることはもちろん、対象従業員が出退勤の時刻を自主的に決定していくものでありますので、朝夕のラッシュアワーを避けたいとか、始業前、終業後を個人的な生活事情に合わせて自由に設定できる専従業員自身にとっても大きなメリットがあると思っております。  このように、今般の労働時間制度弾力化に関する改正法案については、その趣旨に沿って労働組合従業員代表とよく相談しながら、適切な方法を研究し、実施に移すことがぜひとも必要であると考えておりますので、原案による成立を重ねてお願い申し上げます。  また、年次有給休暇についてでございますが、その最低付与日数引き上げや、所定労働日数の短い労働者への措置等につきましては、法定労働時間の短縮同様、直ちにコスト増の要因となりますので、中小企業への経過措置はどうしても必要だと考えております。  終わりに、これからの問題としましては、同法案に掲げられているような新規制度、あるいは既存制度改正等と取り組むに際し、労使自治原則が貫かれ、その中から時間短縮の実が上がるよう、政省令整備がされますことをお願い申し上げる次第でございます。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  4. 堀内光雄

    堀内委員長 ありがとうございました。  次に、郷参考人お願いをいたします。
  5. 郷良太郎

    郷参考人 郷でございます。このたびの労基法改正意見の開陳の機会をお与えいただきまして、ありがとうございました。  私が労基法改正について申し上げますその背景についてちょっと御説明させていただきたいと思います。  日本労働時間が非常に長いということを言われております。これは幾つかの理由がございます。日本は御承知のように、終身雇用制度でございまして、レイオフという制度がございません。ということは、経営者といたしましては、不況時に必要な人を雇っておいて、そして好況時には残業でこれを補うというのが今までの行き方でございます。そういう意味でどうしても労働時間が長くなるという一つの面がございます。それから、それの側面といたしましては、日本では有給休暇取得率が非常に低い、あるいは無断欠勤が少ない、あるいはストライキによる損失日数が非常に少ないということが言われております。しかしながら、ここで注目しなければなりませんのは、規模別労働時間を見てみますと、年間の総労働時間を短くしようという中にありまして、五百人以上の規模におきましては、六十年度でございますけれども年間の総労働時間が二千八十一時間、そのうちの時間外が二百十一時間でございます。規模を小さくいたしまして、三十人から九十九人というところを見ますと、年間の総労働時間は二千百二十二時間、時間外は百五十時間でございます。この両者の差を見てみますと、年間で四十一時間の差でございます。ということは、一カ月二十三日にもし直してみたとすれば、一日九分しか違いません。今日本は大企業でも中小企業でも、実態としては働いている時間数というのは同じだということに御注目をいただきたいと思います。  それから、日本の今までの産業界というのは二次産業中心でございました。それが近来三次産業の伸びが非常に大きくなりまして、三次産業従業員数は六四%に達しております。と申しますことは、現在の労基法工場法をもとにいたしましてつくられておりますので、二次産業には対応いたしておる部分が大半でございます。しかしながら三次産業あるいは二次産業の中でも、非常に企業の中が分業化されてまいりまして、ある業務につきましては、これに対応できない大きな乖離があらわれているというのが現在の労働基準法の問題でございます。そこで今度の改正に着手されたというように私は見ております。  と申しますのは、二次産業というのは物をつくりまして、ストックをすることができます。必要に応じて出荷いたします。ということは、積極的な時間管理ができるということでございます。しかしながら三次産業は、お得意様なりお客様が見えない限りサービスの提供はできません。ということは、サービスストックができない。消極的な労働時間管理しかできないという性質を持っております。そういう意味で、三次産業一定場所でもって仕事をしない。二次産業ならば一定場所で画一的な労働時間の管理をしながら、全部が一斉に働き、一斉にやめるということができます。しかし、三次産業、特にある場所から離れて働く場合、例えばコンピューターをつくる会社は労働時間管理が積極的にできます。しかし、その中のサービス部門あるいはメンテナンス部門というのは、それを送った先、その企業場所でない別の場所で働かなければならない、そういう問題を多く抱えております。そういう意味で、この労働時間というものに非常に弾力的な要素を持ってこないと、これからの労働時間問題についてはなかなか対応ができないというように私どもは見ているわけでございます。  そこで、今度の改正につきましては、今までの掛け算式から割り算あるいはマイナス式という形になったと思います。今までは一日八時間、そして一週間が六日だから四十八時間という考え方でございます。しかし、今度の改正では、原則として一日八時間というのは残っておりますけれども、週あるいは月というものを単位にして、その中で一日の労働時間については労使の間で協議をして決めなさい、しかしその枠はこうですよというような決め方になっているわけでございます。これは今までのように、二次産業が今までの労働基準法対応できたところと、三次産業のように対応しにくかったところ、そこに対しての配慮であろうというふうに私は見ているわけでございます。  そういう中で、今度の改正についてでございますが、先ほど小川参考人からもお話がございましたが、四十六時間というのを四十四時間からにしたらどうかという御意見もあるようでございますが、例えば製造業で見ますと、中小企業というのは製造業の中の九九・五%ございます。しかもその中の六五・五%は下請あるいは外注の工場でございます。と申しますのは、親企業の都合によってその工場というのは動いております。例えば所定内労働時間には暇であるけれども、親会社の都合で徹夜でもやらなければならない。所定労働時間外に全部これをつくって納めることもあります。そういうような企業中小企業には非常に多いということをどうぞ先生方も御理解いただきたい。  四十四時間あるいは四十六時間から始めるということは、今の週で考えますと、四時間減らすか二時間減らすかということでございます。しかし、四時間減らすということは、年間でもって約二百十時間ございます。先ほど申し上げましたように、大企業中小企業の間でも、今年間四十時間しか差がございません。それを一挙に二百時間も減らすということでは、中小企業として対応ができないのではないか。私どもは審議会の席上でも、四十六時間から始めてもらうのなら、この対応の仕方というものも随分あると思うけれども、これを四十四時間から始められたのでは、今申し上げましたように、二百時間という大きな時間でございます。この分が全部時間外になりますので、コストにすべてはね返ってくる、そういう状況にあるということで、ぜひ四十六時間からお始めいただきたいというように思っているわけでございます。  また三次産業も、東京都の調査によりますと、営業時間の長さ、売り場面積の広さというのは、売上高に正比例をいたしております。ですから、この三次産業というのは営業時間を短くすることはなかなか難しいと思います。しかしながら、そこで働く労働者労働時間をいかに短くしていくかというのは非常に大事な問題だと思います。その方法というのが、我々が考えてつくっていかなければならない方法だというように私どもは考えているわけでございます。  その中で、先ほども申し上げましたように、三次産業あるいは三次産業に類する業務に対しての変形労働時間という考え方が入ってまいりました。現在は違法でございますフレックスタイムあるいは三カ月の変形労働時間あるいは一週間による非定型の労働時間、非常に幅の広い労働時間というものに対する考え方が入ってまいりました。私どもは、労働時間というものについて、過去の画一的な一定場所管理できる労働時間から、個人が管理をしなければならない労働時間というものも非常に多くなっているという面に着目いたしまして、それをどうやってやったらいいかという考え方が出てまいりますと、この弾力的な考え方というものには大変賛成をいたしているわけでございます。  また同時に、先ほど申し上げました有給休暇取得率が低いという問題につきましては、計画的な取得をするという条項が今度入っております。これは私どもは大変いい考え方だというふうに考えているわけでございます。  最初に申し上げましたように、製造業、特に物をつくるという場におきましては、現在の労基法で十分対応できております。それから労働時間のある程度の短縮というものもできていくと思います。しかしながら、今申し上げました三次産業への対応というのは、今度の労基法によって十二分に賄えるのではないか、またそういうことによって自然に労働時間は短縮されてくるであろうというふうに見ております。  と申しますのは、御高承のように、昭和五十年まではほとんど労働時間というのは毎年減ってきております。五十年を境にして横ばいになっております。労働省におかれましても、五十五年から以降労働時間の短縮ということに取り組んでおられまして、四十条の特例の廃止あるいは三六協定の上限の目安等々いろいろな施策をしてこられました。しかし、それでも対応できなかった部分というのが今度の改正案になっているというように私どもは見ているわけでございます。  私ども商工会議所は、労働時間を短縮することには賛成でございます。しかし、その短縮する方法というのは、単に法律で何時間に決めたらすぐできるという問題ではないという立場をとっております。  そういうことで、ぜひこの法案原案のとおり御成立さしていただくことをお願い申し上げまして、意見の陳述にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
  6. 堀内光雄

    堀内委員長 ありがとうございました。  次に、佐藤参考人お願いをいたします。
  7. 佐藤幸一

    佐藤参考人 私は同盟本部の佐藤でございます。労働団体をカバーする立場で、そしてまた労働者の大部分を代弁する立場で意見を述べさせていただきたいと思うわけでございます。  現在我が国は、円高不況、そしてまたこれが必然的にもたらしました産業構造の転換という取り組みの中で、労働者は大変厳しい環境の中での労働を強いられておるわけでございます。特に雇用情勢が日々悪化をするという状況の中で、円高不況の脱出と、そしてまた雇用の改善に対する有効な政策の発動というものを強く要請しておるところでございます。  円高は、我が国の経済というものが自由世界ナンバーツー、世界第二位の経済力を持ったというあかしの現象でもございます。どうかこの状況の中で、我が国経済の方向性というものを、世界経済との調和のある持続的な発展を目指す方向にぜひとも方向転換をしていただきたいものだ、このように考えるところでございます。  このような立場から、我が国の外需依存型体質というものを内需型に転換せしめる、そしてまた内需型経済政策の展開に当たりましては、当然のこととして勤労国民の生活の質というものをより重視した経済政策に転換していただかなければならない、このように思うわけでございます。このような道筋の中で、内需を拡大し、そしてまた個人消費の拡大を通じて景気の着実な回復と雇用機会の拡大、そしてまた輸出立国であると同時に輸入大国であるという均衡のとれた我が国経済体質を確立することが大変重要であるというふうに認識をいたしておるところでございます。  このような観点から、我が国労働時間の実態を見ました場合に、余りにも長過ぎる実態に愕然とするものがあるわけでございます。先進諸国との国際比較においては、我が国年間労働時間の実態が二千百時間、これに対してアメリカ、イギリスでは千九百時間、西ドイツ、フランスでは千六百時間というデータがございます。イギリス、アメリカに比べて二百時間、フランス、西ドイツに比べて年間五百時間も長いというこの労働時間の実態に対して、諸外国から働き中毒日本という批判、そしてまた国際的な経済関係の中で日本はアンフェアである、公平でない、このような批判がとみに強まっておるわけでございます。  幸いにして、本年の四月七日に国際協調のための経済構造調整研究会、いわゆる新前川レポートが発表されたところでございます。この中で労働時間の短縮を内需拡大の柱と位置づけていただき、労働時間の短縮による自由時間の増加を図るとともに、有給休暇の集中的活用を促進する、欧米先進国並みの年間労働時間の実現と週休二日制の早期完全実施を図るということがうたわれたところでございます。そしてまた、これを受けてその具体的展開といたしまして、二〇〇〇年に向けてできるだけ早期に年間労働時間千八百時間程度を目指す、この千八百時間は完全週休二日制の実施と年次有給休暇二十日間の完全消化に対応する、このように具体的に指摘がなされたわけでございます。  我々は、労働組合の立場からも、この新前川レポートを評価しながら、これにうたわれました諸方策の実現が我が国経済の経済政策の転換、構造転換、そしてまた国民生活の質的向上の上に必須の条件である、このような受けとめをいたしたところでございます。政府はもとより我々労働団体、そしてまた今お二人の参考人意見陳述されました経営側の方々におかれましても、労働時間の短縮は、もう既に論議の段階を終えていかに実践するかという段階に至っておる、このような立場から最大限の努力を傾注すべきではないか、このように思うわけでございます。  さらにまた、ここで強調しておきたいことは、我が国が週四十時間法制に移行すること、そしてまた年間労働時間を欧米先進国並みに短縮する、その数字は千八百時間であるというこの内容につきましては、中曽根総理が訪米の折に明確に約束をしてまいった、さらにはOECD等の場で閣僚がそういう国際会議出席し発言してきた、このような意味合いでは、まさに国際的な公約である、このように我々も受けとめておるところでございます。ここまで言いますと、国会並びに政府に対しまして大変失礼ではございますけれども、国際公約がその場を取り繕うだけの口約束で済むはずがございません。労働時間短縮目標の誠実な履行が国内外から求められておる、また強く期待されておるということをしみじみ痛感するわけでございます。  さて、私たち労働団体は、我が国のこの過長な労働時間の実態に対しまして、この労働時間を構成する諸要素の中で三点について強い問題意識を持っております。  一つは、我が国においていまだ週休二日制の導入が進まないという実態でございます。  確かに、月一回の週休二日制を含め、何らかの形で週休二日制が適用されている労働者の割合は七八%に及んでおります。しかしこの反面、完全週休二日制適用労働者の割合は二八・二%、二八%にとどまっておるということ。さらにこれを企業規模ごとに見ますと、百人未満の小規模零細企業にあっては、週休一日制、すなわち全く完全週休二日制の適用を受けていない、このような労働者割合が五二・九%、過半数を占めるという実態でございます。大企業中小企業との労働者労働条件の格差というものが今日までいろいろなテーマで語られてまいりました。今日我々は、まさに中小零細企業労働者労働条件格差の問題として、この労働時間の問題を大きくとらまえなければならない、このように思うわけでございます。  なぜこういう状態であるのか。それは断定的に申し上げれば、現在の労働基準法が制定され、今日まで四十年間、世界の趨勢が週四十時間、完全週休二日に移行したにもかかわらず、我が国においては一日八時間、週四十八時間制をとり続けてきたこと、これが最大の原因であったというふうに考えるわけでございます。  二つ目には、年次有給休暇の平均付与日数が諸外国に比べて大変少のうございます。そしてまた、これの取得率も大変低いという実態にございます。  一つは、現在の労働基準法がその最低付与日数として六日を規定いたしており、最低付与日数六日という水準は、まさに世界のワースト・ナンバーワンのレベルでございます。そしてまた、取得率の低さの問題につきましては、計画的な休暇取得の習慣というものがまだ定着していないという問題、そしてまたこれらの休暇を活用するためのリゾート基地等の社会資本整備がまだまだ未整備であるということ、さらには有給休暇を取得すれば不利益な取り扱い、昇進昇格に響く、このような非常に残念な慣習が少なからず残っておることを指摘せざるを得ないわけでございます。  そして三つ目が時間外労働の問題でございます。  労働省のデータによりますと、我が国年間の所定外労働時間が二百二十九時間、諸外国に比べますと五十時間から百五十時間も長い時間外労働をしておるということでございます。確かに、レイオフ制度を持ってない、簡単に首切りはしないというよき労使慣行の中で、時間外労働雇用調整のある種の調整弁を果たしてきたということまで我々は否定するものではございません。しかしながら、その実態を見ますと、恒常的な時間外、そしてまた余りにも長過ぎる時間外の実態がそこにあるわけでございます。これらにつきましては、ぜひとも必要な規制措置を講じなければならない、このように思うわけでございます。労働基準法第三十六条は、本来、臨時的例外的に超過労働を認めるという立場であったはずでございます。現状が余りにもこの立法趣旨に照らしてかけ離れたものになっておる。ぜひとも有効な措置を講ずる中で是正していただきたいものだ、このように思うわけでございます。  このような問題意識を持つ中で、労働基準法の一部を改正する法案を見ますれば、確かに現行の週四十八時間法制を四十時間法制とする、こういうことが明記されております。このことにつきましては、労働団体として高く評価をいたしておるところでございますけれども、しかし、この四十時間制につきましても、いつ四十時間に到達するのだ、どういうプロセスで到達するのだということが明らかにされておらないという問題、そしてまた、その他の幾つかの問題点があるわけでございます。もう少し中身を濃くしてほしいな、物足りないなというところが我々労働団体の正直な気持ちであるわけでございます。  我々労働団体は、今次の労働基準法改正に当たりましては、現在労働環境、そしてまた生活環境というものが大きく変化をしておる、このような変化に対応した新しい観点に立った労働者保護の確立というものを望みたい、このように考えておるわけでございます。そしてまた労働時間の短縮という問題につきましては、国際的な公正労働基準の確立、経済構造の転換への対応、さらには内需拡大、現在の日々悪化する雇用情勢を改善するためのワークシェアリングという発想に立った雇用創出、このような観点から、我々は完全週休二日制の早期実現、さらには年次有給休暇の平均付与日数の引き上げと一〇〇%取得、三つ目には恒常的な時間外労働の撤廃、これをまず何よりも柱にすべきだ、このように考えておるところでございます。  このような我々として重点としております問題に照らして、個々の具体的な法案内容を見てまいりますと、一つは法定労働時間についてでございますが、先ほど申し上げましたように、週四十時間への移行時期というものと、そのプロセスが明らかにされておりません。確かに労働基準法罰則法規でございますから、労働基準法改正に当たり、現実労働時間実態を考慮して、段階的に法定労働時間を短縮しようとすることにつきましては理解しておるところでございます。しかし、当面の法定労働時間として四十六時間が予定されておる。果たして四十六時間で、この改正法案労働時間短縮の実効性を持つのであろうか、このような疑問をどうしてもぬぐい去ることができないわけでございます。我々労働団体は、ぜひとも当面の法定労働時間につきましては、四十四時間からスタートしていただきたい、そしてまた四十時間に到達するその年度について明らかにしていただきたいという強い希望を持っておるところでございます。そしてまた新前川レポートで示されました「二〇〇〇年に向けてできるだけ早期に」という文言の解釈として、我々は一九九五年までの可能な限り早い段階で四十時間制に到達、これが譲れる最低の線であろう、このようにも受け取めをいたしておるところでございます。  第二点は、法定労働時間の適用を猶予する事業所の範囲の問題でございますが、三百人未満というところで線を引こうとされております。この三百人未満の事業所で線を引きますと、ほとんどの事業所が適用猶予を受ける事業所になってしまいます。そのように考えてまいりますと、猶予対象範囲というものをできる限り縮小して、業種ごとの実態を加味した上で、零細小規模事業所に限定すべきであろう、このように考えるわけでございます。  最後に、新たに導入される変形労働時間制の問題についてでございますが、変形労働時間制の導入につきましては、季節的な繁閑差の大きい特定の業種にありまして週休二日制の導入、労働時間の短縮、こういうものを進めようとした場合、繁忙期の対応がネックとなり時短が進まないケース、このようなものを想定して、時短を進めるために業種の特殊性に応じた合理的労働時間配分を可能とするもの、このように我々理解をいたしておるところでございます。  このように理解をいたしましても、無制限に変形労働時間制を拡大するという考え方につきましては、そもそも変形制というものが法定労働時間の例外措置であり、労働者の家庭、職業生活の両面から労働者に過度の負担を強いることのないよう十分な配慮が加えられて当然である。このような基本的な立場に立って、労使協定の締結、一日の上限時間を十時間とする、そしてまた一週間及び連続して労働する日数の上限を定める、労使協定内容の届け出、さらには一週単位の変形制にあっては本人の同意、このような規制要件を最低限付すべきであるというふうに考えておるところでございます。  あわせまして、年次有給休暇の問題につきましては、先ほど言いましたように、六日というのは余りにも少な過ぎる。ILO基準は既に十五日でございます。三労働週という考え方でございます。それだけに六日から十日に引き上げるということにつきましては、近い将来国際労働基準への到達が可能になる道筋をつけていただきたいというふうに強く切望するところでございます。  最後に、今次法改正労働時間法制について中心課題になりました。その他の多くの労働基準法にまつわる労働契約、就業規則の問題等々がまだまだ残されておるというふうに労働団体としては受けとめております。これについても、今後さらに真剣なる御研究、御検討をいただき、よりよい方向での改正を最後にお願いをいたしまして、意見にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
  8. 堀内光雄

    堀内委員長 ありがとうございました。  次に、角田参考人お願いをいたします。
  9. 角田邦重

    角田参考人 御紹介にあずかりました角田でございます。中央大学で労働法を担当しております。  労基法が制定されましたのは昭和二十二年ですから、四十年目の労働時間という労働条件の中で最も基本的な条項についての初めての本格的な法改正ということを迎えておるわけでございますので、我々労働法の研究者としても非常に関心を持って見守っております。  私は今回の法改正の主たる要因というのは三つあろうかと思います。高度成長の過程を経て日本の経済規模は非常に拡大をいたしました。言いかえますと、日本労働者がこの期間、非常に勤勉に効率的な働き方をしてきた。そして同時に、そのことは裏返しますと、家庭生活あるいは私的生活のゆとりも十分見出せないような、企業労働の中に非常に生活全体としてのバランスを崩すような労働のやり方をやってきた。それが、いろいろな参考人の方から出ましたように、国際貿易摩擦という事態を生み出して、痛みを伴う日本経済の構造調整という事態を迎えておる。これはとりもなおさず今までの労働のあり方、痛みを伴った見直しを要求されていることだ、これが第一点だと思います。  第二点目は、労働者の生活の意識というものも非常に見直しを要求されている。貿易摩擦がある意味では文化摩擦だというふうに言われますけれども、私的生活と労働というもののバランスが決定的に崩れてきたというあり方を見直さなければ、就業構造の転換とか内需経済への転換という事態もまたスムーズに進行し得ない、こういう要請だろうと思います。  第三点は、後に控えていらっしゃいます中島先生の方から主としてあるのではないかと思いますから、私は多くを費やしませんけれども、この前の男女雇用機会均等法でいわば積み残されてきた男子の労働者労働時間をもう少し制限してもらわなければ、女子は対等に職場に働き続けることができない。これを今回の法改正は宿題として残しているのではなかろうか。  この三つだと思いますけれども、それを踏まえまして、今回の法律案の中で出ている問題点を労働法学者としての立場から三点ほど指摘をさせていただきたいと思います。  まず第一点は、労働時間の政策が一体今度の法改正とどのような目的合理性といいますか、時間政策を実現していくために、どういう形で今回の法律案の中に具体化されているかという問題でございます。  言うまでもなく、日本労働時間を一九九〇年代の前半には西欧並みにしなければならないという政策課題が出されております。それを実現していくという目的合理性、これを今回の法律案というものはどれだけ踏まえているだろうか、こういう点から見てまいりますと、労働時間の短縮を促進するためにどのように働くかというふうに考えることができるだろうと思います。そしてこれは主として法定労働時間の短縮、残業の規制、年休を含む休日の拡大、この三つの方法というものがそのために寄与すべき内容になります。  第一の法定労働時間の短縮という点から考えますと、労働基準法の本則で週四十時間というふうに真正面からうたわれることになる。これは政策的な目的合理性という観点から見ると非常に画期的であり、最大に評価をしなければならない点だろうと私は思います。しかし、具体的な法律の実施という観点から見ますと、附則の中でまず週四十六時間から始めるというふうになっておりますし、そして一定規模並びに特定の業種については、一定の期間適用を猶予するという規定が用意をされております。聞くところによりますと、三百人以下の中小企業については三年間という猶予期間が設けられるというふうに伺っておりますけれども、考えてみますと、三百人以下の事業所というのは、全体の事業所の数でいいますと、優に九〇%を超えておりますし、そして労働者の数から見ましても八五%前後だろうと思われます。そしてまた三百人以上の事業所について見ますと、大体四十六時間という時間は超えておりまして、多くのところでは四十四時間あるいは四十時間を超えるような所定内労働時間のところはたくさんございます。こう考えますと、法律案は三年間は何もしないと言ったら少し語弊があるかもしれませんけれども、少なくとも三年間については、現状についてインパクトを与えることを差し控えて、その間は行政指導によって行うという姿勢をとっているのではないかという疑問を持ちます。  それからもう一つは、この附則の中で、当面の労働時間については命令にゆだねるという規定が置かれていることです。  これは従来から労働基準法の四十条で特例を施行規則にゆだねるという規定がございましたけれども、しかし労働時間の一番基本的な全体としての時間を命令に白紙委任するというのは、憲法二十七条二項が労働条件については法律でこれを定めるという規定を明確に置いていることから考えますと、法律上は疑問の余地があるというふうに思います。そうは言いましても、いきなり四十時間を全面的に適用することは事実上困難であることについては、これは客観的に見て争いがないところであろうと思います。そういう観点から考えますと、例えば五年後に四十時間に移行するとか、あるいは三百人以下というのは、何としても猶予期間としては大き過ぎると思いますけれども、例えば三十人未満については、三年間はこれの適用を猶予するとか、こういう明確な規定を附則の中で置くということの方が、法律的な疑問を避けるためには賢明な方法ではあるまいかというふうに私は思います。  それから二つ目は、残業の規制を抜きにしては、実際的な実労働時間の短縮には結びつかないだろうという問題でございます。  労働省の行政指導も、既に五十三年の時点から残業時間の行政指導による恒常的な残業規制という方法が実施されてまいりました。しかし、思ったようには進んでいないのではないか。そして行政指導というのは、法律上の強制力がございませんものですから、その点でも不十分である。いきなり法律上で何時間という枠を設けることが困難であるならば、少なくとも通常の業務によって予定し得ないような事態が発生したときに、命令の定める範囲内で残業をすることができるという規定を置いて、施行規則の中で残業を規制していくという法的な手段がとられてもよかったはずではなかろうかというふうに思っております。  それから三つ目は、年休の問題でございます。  今回、パートタイマーについて年休の比例付与が設けられたということは、労働の多様化に伴う公正を確保しなければならないという要請から見て非常にメリットであろうというふうに思っております。しかし、年休の付与の基準が十日、そしてこれまた一定規模以下については猶予期間を置いて、そして八日、十日というふうに三段階で横並びにするという規定になっておりますけれども、これもILOの基準から見ますと、三労働週、そしてそのうちの二労働週については一括付与という内容になっておりますから、この辺ももう少し何とかしていただけないものか。あるいはこういうことを言いますと、日本の年休の消化率が低いという現実を無視して、法律上の非常にすぐれた内容だけ見ても、それはあだ花に終わってしまうという批判がございます。事実、消化率は五十何%というところでとどまっております。そうでしたら、その原因を除去するための規定を同時に置くべきではなかろうか。例えば病気のために年休をとっておかなければならないというのでしたら、そのための特別の休暇制度を設けるという措置もあるでしょうし、あるいは年休をとると労働条件不利益の取り扱いを受けるということについては、それを禁止する規定を置くというような措置が同時にとられてもいいのではあるまいかというふうに思っております。  第二点目は、労働時間の弾力化の問題でございます。  労働時間の弾力化という中にはいろいろな意味があると思います。一つは、時間短縮を耐えられない企業に対するソフトランディングの意味だ。もっと極端に言いますと、残業手当を節約できるのじゃないか。今回の法改正はこういう趣旨ではなかろうし、そういう内容運用をされてはいけないのではないかと思います。それから二つ目は、今回の法律提案の理由の中に書いておられますけれどもサービス経済化に伴って従来のような硬直的規制ができなくなった。そして三つ目は、労働時間短縮を進めていきやすいような多様な枠を設けて各企業の時間短縮に資する、これにインセンティブを与えるための弾力化、後者の二つの意味で理解をしてみますと、同時に弾力化というものは、労働者の私的生活設計というものを狂わしてしまうという問題もございます。  労働基準法研究会の報告書の中でも、私的生活設計に留意をしながら弾力化を進める、そういう文章になっておりました。今回のものを見てまいりますと、その辺の歯どめが十分ないのではないかというふうに思います。例えば一日の労働時間の上限を決める、例えば十時間にする、あるいは三カ月という弾力化が入っておりますから、これについては三十五条二項にあります変形週休制の適用を認めない、こういったようなさまざまな私的生活の設計のための歯どめというものが同時に置かれていかなければならないのではないかと思います。  三番目に労使協定の問題というものを申し上げたいと思いますけれども労使協定に非常に重要な役割が与えられております。従来からも、例えば三六協定に見られますように労使協定がございました。しかし、これは届け出であり、かつ免罰規定であると考えられておりました。今回の労使協定を見ておりますと、届け出が必要ない、そして同時に、労使協定に対して、私的に効力を与えると申しますか、例えば計画年休のような場合ですと、労使協定が結ばれると、それに拘束されるというふうに読まれるような規定になっております。こういう労働者の個人の自由というものと、それから労使協定との関係は一体どうなのかという問題を出してくることになるだろうと思います。御承知のように、現在の労働者代表の選出について十分な保障措置といいますか、歯どめというものが行われておりません。労使協定がこれほど重要になりますと、これについて法制度でもっと考える余地があるだろうと思っております。  以上、三点申し上げましたけれども労働政策というのは、実際実施されてみますと思わぬ効果を生むことがございます。その意味では余り遠くない機会にぜひ見直しの機会を設けるということを法律の条項としてうたっておいた方が賢明なのではないかと考えております。(拍手)
  10. 堀内光雄

    堀内委員長 ありがとうございました。  次に、中島参考人お願いいたします。
  11. 中島通子

    中島参考人 日本弁護士連合会の中島でございます。私ども日弁連は、労働時間の問題に関して、これは人権の問題であるという観点から、これまで幾つかの意見書を提出し、さらに人権擁護大会で決議なども行ってまいりました。そのような私ども日弁連に、本日、意見を述べさせていただく機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。  さて、日弁連の労働時間に関する基本的な立場は、昨年の人権擁護大会で決議いたしましたとおり、労働時間に関する改正は、女子差別撤廃条約の趣旨と国際公正労働基準を踏まえ、国民に健康で文化的な生活を営む権利を保障する憲法にのっとり、労働者と家族の人権を真に保障する内容とすべきである、このように考えております。  このような立場に立ちますと、最も重視されるべき原則は、一日八時間の原則をいかに守り抜くかということでございます。ところが、今回御審議中の法案につきまして申し上げるならば、四十時間制の明文化など評価すべき点もございますけれども、しかし、残念ながら、私どもが求めてまいりました原則からしますと、非常に多くの問題点を含んでおります。これについては意見書を提出しておりますので、詳しくは述べませんけれども、四十時間制に関しては早期実現を図るべきであること、先ほど角田参考人の方から述べられましたように、大変複雑な規定になることによって、憲法二十七条違反の疑いがあるということ、さらに労基法を変質させるのではないかなどの懸念を持っております。さらに一日八時間労働原則を崩す弾力化の拡大については、このままでは賛成することができません。さらに年休につきましては、いまだ国際基準から大きくおくれ、しかも自由取得の範囲を狭めること、あるいは年休取得による不利益取り扱いの禁止条項などがないことなど多くの問題点を含んでいると思います。しかし、本日は時間の関係もございますし、他の参考人が述べられましたので、それと重複しない範囲で、特に女性の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。  私ども女性としましては、今回の労働基準法労働時間に関する改正について、大変切実な関心を抱いてまいりました。なぜならば、一昨年の均等法審議において最も問題になった争点が、これは保護か平等かの論争でした。つまり女性が平等に働きたいというなら保護を外すべきではないか、残業規制などさまざまな保護をそのままにしておいて平等というのはおかしいではないかと言われました。しかし、現在の男性の働き過ぎに合わせて女性が同じように働くということになればどうなるだろうか、これは女性が働き続けることはできません。  したがいまして、ここで私どもが最も切望し、しかも国会審議の過程で政府委員の方も原則として同意してくださいましたのは、単に女性の保護を外すのではなくて、男性の労働時間の短縮によって男女が平等の基盤で働けるようになること、そのための労働時間の短縮、より高い水準で男女が同じ労働条件で働けるようにすることが望ましいと御答弁いただきました。この立場から私どもは今回の労働基準法改正が、政府の答弁されましたような、私たちが願っているような形での労働時間の新しいあり方、男女がともに家庭責任と職業での責任を両立し、かつ平等に働けるような、そういう労働条件を確立するために労働基準法改正されることを切望してまいりました。  ところが、残念ながら今回の法案は私たちの願いから大きく隔たっております。その中で最も大きな問題を含んでいるのが労働時間の弾力化でございます。この労働時間が弾力化されて一日八時間労働原則が崩されるならば、私たち女性にとって大変深刻な影響をもたらさずにはおれません。  まず、妊産婦の保護、これは前回の均等法国会で労働基準法の一部改正として、妊産婦については時間外労働、休日労働あるいは深夜業を本人が請求した場合にはさせてはいけないという禁止規定が設けられました。しかし、これらが弾力化によって全く死文化してしまいます。  さらに、前回の均等法国会では、女性の残業規制について、これは幾つかの種類に分けられましたけれども一定の歯どめがかけられまして、最も多い女性が適用されるのが四週間で二十四時間という制限が加えられたわけです。ところが、この弾力化によって、この最低の歯どめさえもなくなってしまうのではないか、これも大変心配しているところでございます。  均等法が施行された後、既にこれらの影響はあらわれております。残業規制が緩和されて働きにくくなってやめざるを得ない女性あるいは働き続けながら子供を産めなくなってやめざるを得ない女性がふえております。これは労働省の統計をごらんいただければわかるように、働きながら子供を産んだ女性が減ってきている。昭和六十年までは毎年毎年やめなくなって退職者が減っていたわけですけれども、六十年の調査では一転して妊娠した女性が退職する割合がふえております。このような事態がこの弾力化によってさらに増加するということを大変懸念しております。  もう一つ、残業できないという女性に対して、現在コース別雇用だとかさまざまな方法によって事実上差別が固定化されております。均等法によって差別がかえって拡大し、固定化されるというこの元凶、一番の原因というのは何かというと、これが労働時間の問題にほかならないわけなのです。このような事態をさらに一層深刻にする。その結果、妊産婦以外の女性にとっても、職場と家庭の二重労働によって母性機能と健康が破壊される、あるいは父親不在に加えて母親も夕食時に帰宅できないということになれば、家庭はどうなるでしょうか。子供たちはどうなるでしょうか。これを避けようと思う女性はやめざるを得ません。やめてパートにならざるを得ない。これによって差別が拡大し、固定化されております。  今回の弾力化の拡大によって、このような事態が大変懸念されるということを、私はこのところあちこちで主張してまいりました。これに対して労働省の側はどのようにお答えになっているかといいますと、ここにおいでになります野崎審議官が新聞でお答えくださいましたけれども、現在既に四週単位の変形労働制が採用されているけれども、特に私が申し上げたような心配はないのだ、だから大丈夫なんだ、心配し過ぎだというようなお答えでした。しかし、これでは私どもは到底納得できません。なぜならば、現在確かに四週単位の変形労働があります。しかし、これを採用している企業はどの程度でしょうか。これは後で正確な資料を提出して、それをもとに御議論いただきたいと思いますけれども、私が伺っているところによりますと、全事業所のわずか一・六%にすぎない。その中で最も多く採用しているところが運輸関係であって、これでも二十数%である。そのほかの事業所ではほとんど数%ないし一%にも満たない事業所しか現在四週間単位の変形労働を採用しておりません。その中でも特に女性が働いている職場で変形制が導入されているところといいますと、これは病院と旅館業などを中心とする交代制勤務を必要とする職場、これもまたさらに極めてわずかと言えると思います。しかも、これらの事業所で働く女性は、その職場というのは、看護婦さんが典型ですけれども、不規則な労働であるということをあらかじめ了承した上で、その態勢を考えて就職するのであります。したがいまして、これが今回拡大されようとしているものとは大きく違うのだということを指摘しておかなければならないと思います。さらにこのようなあらかじめ覚悟して入った職場であっても、実際にそこで子供を産んで子供を育て、家族の世話をしながら働き続けるということは極めて困難であって、大部分がやめざるを得ないというのが現実でございます。現在の変形制の中で特に心配になるような事態が起きていないという労働省の御指摘は大変残念です。現実労働者の現場について、もっとお調べいただきたいと思います。特に女性の現実についてお調べいただいた上で、今回の審議を尽くしていただきたいと心からお願いいたします。  時間が余りなくなりましたので、少し急がしていただきますけれども、そのようなことで弾力化ということは大変心配なのです。その中でも特に三カ月単位の弾力化は深刻です。しかし、今まで三カ月単位の弾力化についてはかなり議論をされてきておりまして、先週この委員会での審議を伺っておりましても、ある程度の修正の御用意もなきにしもあらずというふうに私ども聞いておりまして感じました。  そこで、私がきょうここで強調して、今後の審議の中で十分御審議いただきたいと思うことは、一カ月単位の変形制とフレックスタイムです。  一カ月単位の変形制というのは、今まで四週間単位のがあったから、それをちょっぴり延ばすだけだから大して問題がないというふうにお考えになっているかもしれません。しかし、これは全く違います。なぜならば、我が国企業というのは大体事業の繁閑は一カ月を単位にして回ってきますね、サイクルは。月末が忙しい、月初めが忙しい、あるいは五、十の日が忙しいという形で一カ月単位です。ところが今までの四週間単位の変形制というのは、サイクルが四週間ですから、四週間と一カ月ではサイクルが合わないんですね。したがって、これは十分に使えなかった。交代制勤務を採用しているところでは使えるけれども、そうでない企業では余り使えなかった。  ところが、今回一カ月単位になることによって、ほとんどの企業でこれを使うことができるのではないでしょうか。月末忙しいときに、これを残業としてではなくて所定内労働として働かせて、暇なときに休みをとらせるということがどこの企業でもできるようになるのじゃないでしょうか。これもとっても心配です。しかもこの一カ月単位は時間短縮さえ行われないのですね。労使協定も行われません。このようなところで大部分企業がこのようなものを利用するようになったらどうなるでしょうか。これも心配です。  それからフレックスタイム、これについても大変心配です。これは特定性というものがないだけに大変心配です。しかし時間がないので、後で補足的に説明させていただければ大変幸いです。  いずれにしろ、三カ月単位が深刻ではありますけれども、それ以外の一カ月単位、フレックスタイム、さらには非定型の変形制、これはいずれも大変心配でございます。  それで、これらいずれに対しても、上限規制とかそれから連続就業の規制、その他十分な歯どめなしにこのまま採用されるということが決してないように心からお願いしたいと思います。  第二に、年休の問題でございます。  年休については、水準の問題、不利益禁止の問題、いろいろございますけれども、ここで女性の立場からぜひ申し上げておきたいことは、計画的付与です。確かに男性の方々がみんなと一緒でなければ休めないということがあるかもしれません。しかし、今女性は年休をどのように使っているでしょうか。これは本来の趣旨ではありませんけれども、子供が病気になったときに年休を使わざるを得ないんですね。これは五日では絶対的に足りません。子供が病気になると、保育所から、すぐに迎えに来るように電話がかかります。これは五日なんかでは全然足りないんです。これに対して計画年休をとらなければ、もう年休をとってはいけない、欠勤なんだと言われたらどうなるでしょうか。これらについて、計画年休を採用するとしても、それに加わらない、拒否することができる権利というものを何とか設けていただきたいというふうに心からお願いします。  第三に、労使協定の問題です。  これについては角田参考人の方から述べられましたけれども、私が申し上げたいことは、女性は組合がほとんどないところで働いております。そこで今まで労使協定については代表者の選出方法については行政指導するなどと言われております。しかし、その内容については全くこれまで議論されていないんですね。代表者を一度選んでしまえば、どのような労使協定を結ぶか、女性にとっては大変困るような労使協定を結ぶとしても、それらの意見を聞くことは何ら義務づけられていない。行政指導についてさえ言及されていない。その議論さえ行われていないというのは、私は大変残念に思います。これらについてもぜひ御議論ください。  最後になりますが、今私は人権という立場から、しかも女性という立場からだけ申し上げてきました。しかし、これは決して女性だけの問題ではありません。男性労働者の問題、さらに子供の人権の問題として考えていただきたいのです。  先週のこの委員会の御議論の中では、しきりに生活の質の向上ということが語られておりました。生活の質の向上とは何でしょうか。家族が一緒に夕食をとり、夫婦親子がゆとりを持って語り合い、ともに遊び、社会的な活動をするということこそ生活の質の向上ではないでしょうか。日本経済の立場からいろいろな御議論もあります。しかし、今日本にとって、日本経済にとって求められているのは何でしょうか。今貿易国家として国際社会の中で生きていかなければならない日本としては、単に働き過ぎで諸外国から非難されるということによって失うものがいかに多いことか。一生懸命汗水流して働いて経済成長をかち取ったけれども、これによって諸外国から批判され制裁され、しかも円高不況という形で、今までの労働が無になるという事態に私たちは立たされております。このような現実を見るならば、今こそ私たちは本当に生活の質の向上のための労働時間の短縮、そのためには、生活のリズムに合わせた一日の労働時間をできる限り守り抜くという、この基本こそ最も要求されていることではないかと思います。ありがとうございました。(拍手)
  12. 堀内光雄

    堀内委員長 ありがとうございました。  以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。     ―――――――――――――
  13. 堀内光雄

    堀内委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。持永和見君。
  14. 持永和見

    ○持永委員 参考人の諸先生方には大変お忙しいところを御出席をいただきまして、また大変貴重な御意見をそれぞれいただきましたことを心から御礼を申し上げる次第でございます。私に与えられた時間が大変短うございますので、参考人の先生方皆さんに御質問ができないかと思いますが、どうかひとつお許しをいただきたいと思います。     〔委員長退席、丹羽(雄)委員長代理着席〕  まず、小川参考人にお伺いいたしたいと思います。  今日の日本の置かれたいろいろな事情を考えてみますと、昭和二十二年法律ができまして以来今日まで至っております労働時間につきまして、これを週四十時間というのを目標にして、その短縮を図っていくということは、これは時代の要請ではないかと思っております。その点については経営者としての立場からも御理解をいただいているというふうに拝察をいたしましたけれども、この短縮を図る際に必要なことは、やはり実現可能性のある道を選択して、段階的に円滑に、この移行をできるだけ早くしていく、そのために労使が互いに努力をしていく、こういうことではないかと思っております。今回の改正法案につきましては、我が国労働の動向だとかあるいは企業実態配慮した、いろいろなそういった配慮が行われておりますけれども、こういった点につきまして、小川参考人はどういうふうに考えておられるのか、また使用者としての立場から、これから労働時間の短縮に向けてどういうような御意見をお持ちなのか、お伺いをしたいと思います。
  15. 小川泰一

    小川参考人 お答えをさせていただきます。  私は、全体の経営者を代表して意見を申し上げる立場ではございませんが、せっかくでございますので、若干の意見をまとめて申し上げてみたいと思います。  現在、日経連は、社会経済の変化を、あるいは時代の変化を背景にいたしまして、労働時間問題については総合的に検討しておる最中でございます。そういう事情を背景にいたしまして申し上げてみたいと思います。  法律改正の役割を私は軽んずるものではございませんが、何と申しましても時間短縮の決め手は労使の自主交渉であろうかと思います。それも新前川レポートに書いてありますとおり、それは生産性向上成果配分の一つの方法でございます。したがいまして、賃金賃金労働時間は労働時間という別個の交渉をするのではなくて、一つのパイの配分といたしまして、労使による選択の問題としてこれから交渉していくことが一番大事ではないかというのが第一点でございます。  二番目は、労働時間の短縮目標は、やはり総労働時間の短縮に置くべきであるというふうに考えております。したがいまして、少し言葉は言い過ぎるかもしれませんが、所定労働時間は短縮したが、残業はふえたというような労働時間短縮では困るのではないかというふうに思っております。  三番目は、私ども経営効率の確保を前提といたしまして、日常の働き方につきましていま少し工夫する余地はないかという道を模索することが必要ではないかと思っております。工場労働につきましては、かなり労使の詰めが進んでおりまして、大変効率的な働き方が定着をいたしておりますが、今後ますますふえるでありましょうオフィス労働あるいはそれに準じた労働、第三次産業中心とする労働については、私はまだいろいろ合理化あるいは考えるべき余地があると思っております。具体的には申し上げられませんけれども、私は、それは働き方のけじめと、いま一つは働き方に対する弾力的な物の考え方であろうと思っております。今回の基準改正、いろいろ御議論はございますが、そういう方向に一つの道を広げていただいたと考えております。  四番目は、これは労働時間を考える上にとっては大変困難な問題ではありますが、雇用とのかかわりというのを重視していかなければならぬと思っております。いい悪いは別にいたしまして、日本企業といたしましては、不況になりましても、なるたけ雇用に手をつけたくないということから、残業あるいは一時帰休という格好で、ある意味では日本的な一つのワークシェアリングという格好で雇用調整に対して歯どめをかけてきたわけであります。これを時間短縮の潮流の中でどう考えるかというのが一つ大きな課題ではないかと思っております。  それから最後に、これは時間短縮問題について経営者責任を回避するものではございませんが、労働時間か賃金がというような交渉を今後詰めてまいります過程で、全般的な国民の生活の安定というのが条件であろうかと思います。物価安定、とりわけ勤労者にとって負担になっております土地の問題あるいはお米の値段の問題、こういった問題が解決されて安定していくことが大きな意味では時短につながるのではないか、私どもは、この辺を一つの着眼点としまして、経営者なりに責任を果たしてまいりたいと思っております。
  16. 持永和見

    ○持永委員 もう一つ小川参考人にお伺いを申し上げたいと思いますが、今回の改正法案の大きな論点の一つが、先ほど来いろいろ御議論がございました三カ月単位の変形労働時間制の採用ではないかと思っております。  第三次産業の比重が非常にふえてまいった今日、現実労働態様に沿いまして、総体としての労働時間の短縮、そういったものを前提としながら、労働時間の法的規制について、こういった弾力的な措置をとるというのも、これまた必要なことではないかと思います。しかし、一部、先ほど来いろいろ御議論がございましたように、この変形労働時間制の採用が過度な労働を強いられるのではないか、あるいは女子の方々にとっては大変問題があるのじゃないかというような御心配が強くある向きもあるようでございますけれども、この変形労働時間制の採用は、労使の話し合いが前提となるものでございますから、そういった意味で、私はそこは余り心配ないと思いますが、使用者側の立場から、実際の運用に当たってどういうふうにこの問題をお取り扱いになるつもりか、ひとつ御意見をお伺いいたしたいと思います。
  17. 小川泰一

    小川参考人 お答えをさせていただきます。  今お話がございましたように、この制度には週四十時間に短縮をするという大前提がございますし、いろいろ御議論はございますが、職場の方々あるいは労働組合と話し合って決めることでございますから、私はこれは大きな歯どめになると考えております。また日常、職場を管理する者といたしまして、従業員の方の家庭の御事情あるいは健康の御事情、これは男女を問わずでございますが、その辺を頭に入れて、労働時間の配分あるいはいろいろな仕事をやってもらうための手配をするのは、健全なる使用者であれば常識でございます。したがいまして、今回の法改正、これはやってみなければわからない点も多々ございましょうけれども、私は、時世にかなった、大変結構な、スムーズな運営が期待されるのではないかと考えております。
  18. 持永和見

    ○持永委員 次に、佐藤さんにお伺いを申し上げたいと思います。  先ほどの御意見で、今回の労働基準法改正、週四十時間の目標を設定したことは大変評価するけれども、実際に週四十時間制への移行の時期がはっきりしていない、あるいはその変形労働時間について少し要件が緩過ぎるのではないかというような問題点を御指摘いただきました。  労働時間の短縮というのは、現実におきます企業実態あるいは労働態様を踏まえながら、それぞれ週四十時間制を目標としてお互いが着実な努力を重ねていくということが必要なことだと思っておりますけれども、実は、今回の労働基準法改正は、御案内のとおり、公労使から構成されております中央労働基準審議会の昨年十二月の建議を踏まえて、この趣旨に沿ってつくられたものというふうに理解いたしておりますけれども、こういったことで今回労働基準法改正を少なくとも実現して、そういった形で将来に向かっての目標設定あるいは将来に向かって現実日本の経済、社会に即応した労働時間あるいはフレックスタイム制といったようなものの採用を図ることは、これまた一つの前進ではないかと思うのですけれども、そういう点でのお考えをお伺いしたいと思います。
  19. 佐藤幸一

    佐藤参考人 私自身現在中基審の委員をいたしております関係で、今回のこの改正法案が中基審における建議を踏まえておるということに対して、中基審委員であって労働側委員として、そこに織り込まれた四十六時間に対して四十四時間からスタートせよという意見を開陳したのに対しての御質問がというふうに思うわけでございますが、労働側は、この中基審の場におきましても、まず四十時間法制というものが明確になったということにつきましては高く評価しながらも、その労働時間の実効性の面から、私が申し上げました四十四時間からスタートすることがベターではないか、好ましいのではないかという主張につきましては、中基審の場でも強く主張してまいったところでございます。しかしながら、先生方も御存じのように、中基審は政労使公益側のそれぞれの構成の中でぎりぎりの妥協点といいますか合意点を見出していく大変厳しい審議に相なったわけでございます。そういう中で我々は、まず何としても、この労働基準法改正法案が早期に改正されるということを期待する立場の中で、建議についておおむね妥当というふうな見解をとったところでございます。しかしそれ以降、先ほど申し上げましたように、新前川レポートが提出されました。中基審の審議の過程を通じて、その段階から、なお一層国際的な経済摩擦というものが激化いたしております。そういう立場に立ちますと、ますます労働時間短縮の重要性というものが中基審審議の段階よりも今日の状況の方が増しておる。このような立場からも、言うならば四十時間からスタートできないものかということをお願いした次第でございます。
  20. 持永和見

    ○持永委員 郷参考人にちょっとお伺いいたしますが、今日、日本円高中小企業経営環境は非常に厳しいと思います。そういったことで、中小企業経営方々にとっては、今回の労働基準法改正はある意味では厳しい面もあるかと思います。しかし一方、労働者方々のことを考えますと、できるだけこういった労働時間の短縮の線に沿って中小企業経営者方々といえども努力いただく必要があるのではないかと考えておりますが、その点についてどういった条件なり政策が必要だとお考えか、お伺いをいたします。
  21. 郷良太郎

    郷参考人 ただいま御質問ございましたように、中小企業といえども労働時間の短縮という問題については取り組まなければならない問題であるということは、私ども商工会議所はもう十数年前から言っております。ただ、その方法があるであろうという問題が一つございます。  それからもう一つは、先ほど申し上げましたように、今までの労基法では対応できない部分が相当にある。それが今度の弾力条項あるいはその他の改正によりまして、中小企業としても対応していく部門がたくさんある。私どもといたしましては、そういうものを受けとめまして、それを上手に入れていくという考え方がございます。  ただ問題は、できるだけ早く労働時間短縮というのは私どもも望んでおりますけれども、週四十四時間という御議論もありましたけれども、四十六時間からにしてほしいと申し上げましたのは、先ほど御説明いたしましたように、年に直せば二百十時間でございます。先ほど申し上げましたように、五百人規模以上と三百人以下のところで見まして、現在で四十時間しか差がない。それを一挙に二百時間という短縮は、中小企業としてはとても受け入れられない。しかしながら、法改正に際しましては、四十六時間から始めていただくなら、これは十分受け入れてやっていくべきであります。またそういうことによりまして、中小企業も、日本というのは、法が決まりますと非常に守るという国民性がございますので、弾力条項その他いわゆる企業の体質に合ったやり方で労働時間を短縮していくことはできるというふうに確信いたしております。
  22. 持永和見

    ○持永委員 どうもありがとうございました。これで終わります。
  23. 丹羽雄哉

    ○丹羽(雄)委員長代理 池端清一君。
  24. 池端清一

    ○池端委員 本日は、参考人の皆さん方、大変御多用中御出席を賜りまして、貴重な御意見をいただきまして、厚くお礼を申し上げる次第でございます。  早速いろいろな点についてお尋ねを申し上げたいと思うのでありますが、まず角田参考人にお尋ねを申し上げます。  今回の政府原案の重大な問題点の一つ、私に言わせると問題点ではなくて欠陥の一つだ、このように考えておるのでありますが、週四十時間への移行過程と到達時期が明らかにされていない点、この点にあるのではないか、こう思うわけでございます。したがいまして、私たち社会党といたしましては、これに対して当面四十四時間からスタートをし、改正施行三年以内を目途に週四十時間制に移行すべきである、こういうふうに主張をし、要求をしておるわけでございますが、この私たちの主張並びに要求に対して、角田参考人はどのようにお考えになっておられるか、ひとつ御所見を承りたいと思うわけでございます。  また、政府原案では、当面の法定労働時間や移行過程は「命令で定める」、こうされておるわけでございます。私は、この週四十時間制の到達年限も含めて、これらは本来最低基準を定めている労働基準法で法文上明確にする必要があるのではないかと考えますが、この点についても角田参考人の御意見を承りたいと思います。     〔丹羽(雄)委員長代理退席、委員長着席〕
  25. 角田邦重

    角田参考人 出発点が四十四時間でなければならないか、それとも四十六時間でなければならないかということは、別に法理論上どっちが正しいかという形で決まる問題ではございません。私が先ほど申し上げましたのは、政府の方針として、少なくとも一九九〇年代の前半には千八百時間、先進国並みの時間短縮を進めていかなければならない。恐らく週四十時間というものを本文の中にうたうということは、それを意識して置かれたのだろうと思います。そういうふうに考えますと、政策目標達成という観点から見て、一体整合性があるのだろうか、こういう形から問題にしたわけでございます。  先ほど来、確かに日本現実を考えますと、企業規模の格差というものがございますから、四十時間労働制を直ちに実施するということが現実的に可能なのかというふうに言われますと、これは労働基準法最低基準を刑罰でもって保障するということから見てとても無理ではあるまいか。このことについては私もそういうふうに思っております。しかし、一定規模以下の企業特定の業種については、猶予期間を置くという附則が置かれることになっております。聞くところによりますと、三年間、三百人以下ということが考えられているようでございますけれども、それを念頭に置いて考えますと、三年後に出発点を四十四時間に置くことが本当にそれほどできないのか。日本経済の構造調整という必要性が痛みを伴うものであるということを前提として恐らく議論が出発しているのだろうと思います。その点から考えますと、私は四十四時間からでもいいのではなかろうかという希望を持っております。  それからもう一つは、労働時間の明記を規則の中で命令にゆだねるという形で明文化しないという、これは法理論上の問題点でございます。  労働時間という、労働条件の中で賃金と並んで最も重要な労働条件、これは先ほども申し上げましたように、憲法二十七条第二項で法律によって定めるという規定が置かれております。これを白紙条項的に命令にゆだねてしまってもいいのだろうか、こういう疑問を申し上げたわけでございます。その意味で、直ちに実施をするということが不可能である、現実的に無理だろうという観点を踏まえますと、せめて附則の中で、五年後――先ほど三年後という意見を社会党が出しておるというふうにおっしゃいましたけれども、何年後にはそちらに移行するという明確な規定を置いておくべきではなかろうかというふうに考えております。
  26. 池端清一

    ○池端委員 重ねて角田参考人に特例問題についてお尋ねをしたいと思います。  現行法の第四十条は、一日八時間、週四十八時間制の特例として、例えば九人未満の商業・サービス業等では一日九時間、週五十四時間、これが許容されております。私たちはこの特例が長時間労働を温存するものであるということで今日まで厳しく批判をしてきたわけでございます。このたびの法改正に当たって労働省は、この法第四十条の条文は改正をしない、命令によって個々に換算制度の導入というものを予定していると言われております。  そこで、いわゆる換算制度についてどのような問題点を持っておると先生はお考えになっておられるか、また現行第四十条、特例のままでいくとすれば、どのような問題を生ずるというふうにお考えになっておられるか、その点御意見をお聞かせいただきたいと思います。
  27. 角田邦重

    角田参考人 ただいま御質問に出ました換算制の問題は、これは中基審の段階では出ておりました、書かれておりましたけれども、今回の法律案からはなくなっておりましたので、私はもしかしたら換算制の導入ということはないことになったのかというふうに思っておりましたのですけれども、施行規則、命令の中で、これを現在の四十条の特例取り扱いに生かすという趣旨のようでございます。御承知のとおり、五人から九人までの商業・サービスの分野については、来年の三月三十一日で従来から行われてまいりました九時間、週五十四時間という特例を廃止をする、そして一人から四人までの同じ零細企業につきましては、その時点で改めて考える、こういうことになっております。昭和二十二年につくられました労働基準法の八時間の原則が、四十条で暫定的にと言われながら現在までずっと継続をしてきた。基本的には企業間格差ということが言われておりますけれども、暫定的と言うには余りにも長過ぎたというふうに考えております。  ところで、今度換算制が導入をされますと、一体どういうことになるのだろうかということは、私も実ははっきり明確にこうだろうという根拠を持っておりません。しかし、恐らく五人から九人の零細企業につきましては、来年の三月三十一日で廃止になるわけですから、その時点でいずれにしましても三年間猶予期間がございますから、そのときまでは四十八時間のままでいくことになるのだろうというふうに思っております。  三年先に、今度猶予期間が過ぎましたときに四十八時間が四十六時間ということになりますと、そういう換算を受けるのではあるまいか。そして、それから先に、何年先がよくわかりませんけれども、四十四時間に移行するというふうに言われておりますが、そうしますと、四十八分の四十四、これを四十八時間に掛けますと四十五時間五十五分になると思いますけれども、ざっと四十六時間というふうになるのではなかろうか。そして四十時間に最終的に移行した段階で、今度はまた四十四分の四十を掛ける、こういう形になるのかなというふうに思っております。  同じような計算を一人から四人について考えてまいりますと、三年の暫定期間が切れた段階で、今度は三年間は五十四時間はそのまま四十八時間というふうに読みかえられる。そして三年間が切れた段階で、今度は四十八分の四十六を五十四に掛けますと五十一時間四十五分になる。そして四十四時間に移行しますと、今度は四十六分の四十四を掛けますと四十九時間三十分という時間になる。こうやって規模間格差というものが猶予期間を過ぎた後でもそのままずっと続いていくことになりはしないか。これはもともと労働基準法最低基準という性格を考えますと、やはりおかしいではなかろうかというふうに思っております。  それからもう一つは、換算制の問題というのは、現在四十一条に置かれております監視、断続労働については、労働基準法の適用が外されております。密度が薄いからだという理由でございますけれども、これに類似のものが換算制という形で小規模企業に適用されるということになりはしないか。これは規模間格差と性格の違った取り扱いというものがこの段階にまじってしまうことになりはしないか。確かに手持ち時間が長いということが一つの理由とされておりますけれども、手持ち時間といえども労働時間であるということについては間違いがございません。判例で挙がってまいりました事例に、手持ち時間、すし屋さんのケースでございますけれども、お客さんが来ないで待機をしている時間を休憩時間として取り扱ってくれと言って、それは認められないという判決が出ております。使用者の指揮命令下に置かれている時間は実労働時間であることに間違いがない。そこからどういう成果を得るか、あるいはまた場合によってはだれも客が来なかった、それを労働者労働時間換算の問題として転化をするという、この両者の今までの違った問題が結局同じ次元へ混入するということになりはしないか、この点から疑問を持っております。
  28. 池端清一

    ○池端委員 次に、中島参考人にお尋ねをしたいと思いますが、変形労働時間制の問題でございます。  先ほど参考人も触れられておりましたが、今回の改正では変形労働時間制の拡大と新規導入が大きなねらいとなっております。この変形労働時間制の導入というものは、労働時間を不規則にし、労働者の生活設計を損なわせる可能性が非常に大きい、したがって、導入に際しては、一日、一週の最長時間、連続労働日等の規制に加えて、労働者の合意を得る労使協定の締結が不可欠である、このように私どもは考えておるわけでございます。三カ月単位の変形労働時間制については、先般の委員会では政府側も多少弾力的に対応するというような姿勢を示しておるわけでありますが、先生先ほど指摘されたように、一カ月のこの変形労働時間制については、現行法の四週間を単に一カ月に改めるにすぎないんだ、こういうことで労使協定というものも考えておらぬ、現行のまま就業規則その他これに準ずるものにとどめている、こういうふうにうかがい知ることができるわけでありまして、先ほど先生触れられたように、この点大変不十分であり問題点ではないか、こういうふうに私は思っておるわけでありますが、重ねてひとつこの辺の見解を承りたい、こう思います。  それから、先ほどはちょっと時間がなくてフレックスタイム制のことについてお触れになれなかったようでありますが、この問題点についても御指摘をいただきたいと思います。
  29. 中島通子

    中島参考人 補足させていただきます。  今御質問のとおり、変形労働時間制に関しては、三カ月単位の変形制が専ら議論対象になっておりました。これは最も影響の大きいものであるだけに当然といえば当然であるわけです。しかしその反面、その影に隠れて一カ月単位とフレックスタイムについては余り議論されなかったというところについて本日強調させていただきたいわけです。  一カ月単位は非常に問題であるということについては先ほど述べました。それに加えてもう一つつけ加えたいのは、これまでの四週間単位の変形制は専ら交代制勤務の採用されているところで導入されておりましたけれども、今回は一カ月の業務の繁閑に差があるところに適用される以外に、週休二日制の実施に伴い、この一カ月単位の変形労働の導入が強調されております。こうなってきますと、土曜日をお休みにするために、一日の労働時間を八時間から八時間半あるいは九時間労働にすることも可能になってくるわけですね。こうなりますと、家庭責任を持つ女性、特に保育所に子供を預けている女性にとっては大変深刻な問題になるわけです。この点からいっても、この一カ月単位については、やはり三カ月単位と同じように上限規制をぜひしていただきたいということと同時に、上限規制、これはともかく不可欠ではありますけれども、これによってすべて弊害がカバーされることはありません。今申し上げましたように、保育所に子供を預けている場合には、たとえ三十分の時間延長であっても、これは働き続けられるかどうかの深刻な事態に立ち至らされるわけでございます。そういうことからいいますと、妊産婦に関する適用除外というものは当然としまして、それ以外の労働者にとっても、家庭責任を持っている、小さな子供を持っている、あるいは老人介護の責任を持っている労働者に関しては、同じように適用除外あるいは本人がそれを断ることができる権利というものを何らかの形で確保していただく必要がどうしてもあるわけなんです。  これにつきましては、どのような形で規定することが望ましいかといいますと、同意条項を労基法上に入れていただくことが一番望ましいわけです。これに関しては、例えば通達に定めて、これに基づく行政指導を行うというようなことが仮に行われたとしても、通達に基づく行政指導というのは、大変残念ですけれども、これまでのところ有効な力を発揮しておりません。つまり強制力がない行政指導というものは、これに従わなくても使用者が特に罰則を受けるわけではない、何らの制裁も受けることがないというようなことで大変不十分ですので、これらの点については本当に弊害が避けられるような措置をぜひとっていただきたいと思います。  それから、さらにここでつけ加えさせていただきたいと思いますのは、このような形で家庭責任を持つ労働者に関して特別の配慮を行うということは、これはどうしても必要なことでございますけれども、しかし反面、そのことが女性だけを対象にして行われることによって、これが差別の根拠とされることが考えられます。これは均等法のガイドラインの中にも、労基法その他で特別の保護がある者に関しては均等扱いの適用除外とされております。そのような意味で、今ともかく現在の段階で暫定的にそういう家庭責任を持っている女性に対する特別措置という形をとることはやむを得ないと思いますけれども、しかし、真の意味での男女平等のためには、これは女性だけのものに限らないということがぜひ必要であると思います。ちょっとお答えがずれて大変失礼いたしました。今この機会にぜひ申し上げたかったものですから。  それで御質問のフレックスタイムの問題ですけれども、フレックスタイムは労働者の自主的な決定ということが一応前提になっておりますので、いかにも女性みずからが決定するように思われます。しかし、これが仮に一日の労働時間が決まっておりまして、始業時間と終業時間をその範囲でみずから選択できるというようなフレックスタイムであれば、これは比較的弊害は少ないと思います。場合によっては父親と母親が早い時間と遅い時間を交代にフレックスタイムでとることによって家庭と職業を両立させることも可能であります。しかし、今回のフレックスタイムというものは、一カ月以内の清算期間と総労働時間を定めるだけでありまして、そのほか何一つ規制がございません。したがいまして、その範囲内であれば一日それこそ十何時間でも働いて構わないということになります。しかもフレックスタイムが導入された職場の労働者というものは、フレックスタイムをとるかとらないかについての自由な決定権は法律上認められないわけですね。そうしますと、その職場の労働者は全部フレックスタイムが適用されることになるわけですけれども、そこで非常に仕事が忙しくて、例えば納期に追われている、そのためにほかの労働者がみんな夜遅くまで自主的という形で残って仕事をしている場合に、一人だけが自主的に早く帰るということが果たしてできるでしょうか。これはもう著しく困難と言わざるを得ません。その意味であらかじめ特定のないフレックスタイム、しかも何の限定もないフレックスタイムというものの弊害は大変大きいので、この点に関しても、やはり三カ月単位、その他と同様の規制をぜひ設けていただきたいと思います。
  30. 池端清一

    ○池端委員 ありがとうございました。  また、角田参考人にお尋ねをしたいのでありますが、労使協定の問題でございます。  今回の法改正では現行法と比較して労使協定が著しく拡大をしておる、これが大きな特徴点ではないか、私はこう思うのであります。これについてはどういうふうにお考えになっておられますか。  また、このような労使協定が拡大をし、重要な役割を果たす傾向に対応して、それにふさわしいあり方というものが必要になってきているのではないかと思うのであります。例えば労働者の代表制の問題、その選出方法、何らかの法令上の定めをしておくべきではないか、また労使協定と個人の選択の自由、こういう関係をどういうふうに考えていったらいいのか、こういう問題がいろいろあるように思うのでありますが、この点について承りたいと思います。
  31. 角田邦重

    角田参考人 御指摘のように、今回の法改正の中で労使協定の占める役割というものが非常に大きくなってきております。一般的には就業規則は使用者が一方的に定めて、あとは業務命令に従わなければならない。これに対して労使協定は、事業所の労働者代表が関与することになるから弊害は少ないんじゃないかというふうに、何となく問題が見過ごされているような危惧を抱いておりますものですから、あえて問題にしなければいけないだろうと考えた次第でございます。  今回の法律案の中を見てまいりますと、例えばフレックスがそうですし、三カ月の変形労働時間もそうですし、一週間の非定型についてもそうですし、年次有給休暇の計画年休制、それから事業場労働のみなし時間、研究開発その他裁量的労働についての労使協定というふうにいろいろなところで出てまいります。中には届け出を必要としているものもありますし、届け出を必要としないで、労使協定でやればそれにゆだねるという性格のものもございます。そう考えますと、今までこの労使協定という、これは三六協定を念頭に置いてみますと、残業あるいは休日労働に関して労働基準法の適用をこの三六協定があれば適用しないという緩和規定という性格を持たされておりました。そしてもちろん届け出が必要である。三六協定から直接個人に対して業務命令権といいますか残業しなければならないという義務づけが出てくるんだろうか。これは戦後早い段階ではいろいろ疑問はございましたけれども、しかし、その後今日では、三六協定は公法上の免罰規定である、刑罰が課されないという意味以上のものを持たないということについてはほぼ定説になっていると私は理解をしております。その上で、三六協定の範囲内での残業義務はというふうに考えますと、これは就業規則上の残業に関する契約あるいはこれとは別個に労働協約が結ばれておれば、そこからは出てくるのかどうか、こういう形で議論いたしておりました。  ところが、今回のように届け出る必要がない、そして当事者間で結ばれた協定というものが、それ以外の一般の労働者に対してどういう拘束力を持つのだろうかということを考えてみますと、計画年休制の場合に、年休の割り当てが決まりますと、それ以外のときに一体労働者が時季を指定することができるのだろうか。先ほど中島先生の方から、これは非常に問題であるというお話がございましたけれども、もしこの協定が個々の労働者を拘束する効力が認められるという解釈がとられるといたしますと、これは従来の協定と性格が違ったものが出てくるということになりはしないか、こういうふうに思っております。もともと現在の労働者代表という選出の仕方、あるいは選出された労働者がどういう形で事業所の労働者の意向を聞かなければならないかということについての直接的な法律の規制がございません。これも中島先生がおっしゃいましたけれども、女子労働者の意向を聞くか聞かないか、あるいは裁量労働事業場労働のような場合でも、事業場労働、裁量労働に携わる人たちの意見労働者代表は聞いた上で協定を結ばなければならないのかどうかという点についても、ちゃんとした規定がございません。  そういうことを考えますと、協定に重要性が増せば増すだけ選出方法についてちゃんとした規定を設けることが必要ではないかと思います。これは例えばドイツの場合ですと、五人以上の労働者がいるところでは経営協議会、直接無記名選挙によって、企業規模に応じて一人、二人、五人、十人というように従業員代表委員会をつくる、そういう機関を選出しなければならないという規定がございます。協定に重要な役割が与えられれば、方向としてはそういうことを考えていかなければならないのではあるまいか。それから選出をされた労働者代表は、研究開発労働者についての協定を結ぶという場合には、少なくともその人たちの意見を聞かなければならない、こういった当事者意見を聞くということを同時に義務づけるべきではなかろうか。  それから、先ほど年休の話をしましたけれども、計画年休の従業員代表との協定が、もしそれは嫌だという労働者も拘束するということになりますと、これは解釈論上あるいは問題が出てくるかもしれません。そういう効力が場合によっては出てくるという解釈が出されることも考えられます。そういたしますと、むしろ計画年休を安易に協定でというよりも、協定を結ぶ際に、少なくとも使用者は労働者にいつ休みたいかという意見を聴取する義務を負わなければならない。これは以前は労働基準法の施行規則の中に、二年目から年休を初めてもらえるようになった労働者に対して、いつ休むかということについての意見を聞かなければならないという規定が置かれておりました。少なくともこういう規定を置いた方が年休の完全消化のためには非常に促進効果はあるに違いない。そして労働者代表と協定を結ぶ場合にも、労働者代表は個人の意向を聞き、その希望を調整するという手続を同時に義務づけることが非常に重要ではなかろうかと考えております。
  32. 池端清一

    ○池端委員 それでは小川参考人郷参考人にお尋ねをいたします。  先ほどもお話がありましたように、政府の対外公約ともいうべき新前川リポートでは、構造調整の期間は一九九〇年代の前半というふうになっておりまして、労働時間についても年間千八百時間程度を目指す、こういうふうにうたわれておるわけでございます。この年間千八百時間というのは、労働時間の水準は週四十時間、完全週休二日制、時間外労働時間は年間百五十時間以内、年次有給休暇平均二十日以上の取得等を実施しなければ、この年間千八百時間というものは達成できない、こういう計算になるわけであります。私どもが週法定四十時間を早急に実施すべきであると主張しております根拠には、御案内のように、時間外労働が極めて法的規制がなくて、長時間労働が長期間放置されておる、あるいは年次有給休暇も現在年間平均十五日と極めて低い実態となっている。こういう実態から考えるならば、やはり週の法定労働時間を短縮する、そして完全週休二日制を先行させる、これなくしては一九九〇年代の前半に千八百時間を達成することは不可能だ。こういう前川リポートについてはいろいろ御評価はあるようでございますけれども、そういう前川リポートの立場に立っても、これは不可能である、こういう観点から私どもはいろいろ言っておるわけでございまして、この点についても経営者の皆さん方の御所見を承りたい、こう思うのであります。
  33. 小川泰一

    小川参考人 お答えいたします。  新前川レポートにつきましては、私どもも一つの長期目標としてしかと受けとめております。新前川レポートは、御承知のように、出発点におきましては、労働時間の短縮賃金と同様、生産性向上の配分であると言われております。その辺については全く異存はございません。その上で千八百時間という長期目標であるというふうに受けとめておりますが、この目標企業並びに日本経済が健全であるという前提でございます。その保証なくしては、労働時間の目標だけ先行するということは全く不可能でございます。  私どもは、目標としては十分承知いたしておりますが、それに至るプロセスにつきましては、生きた経済、生きた経営実態を踏まえながら、それぞれの段階を追って時間短縮をやるべきだと考えております。
  34. 郷良太郎

    郷参考人 今のお話の千八百時間でございますけれども小川参考人からも申し上げましたように、一つの目標として行うべきだということは、私どもも同じような受けとり方をいたしております。  ただ、先ほども申し上げましたように、今までの現状を見てみますと、二次産業は、これを受けとめて進めていく上におきまして、やっていく方向づけがつけられると思います。しかしながら非常に複雑な就業形態をとっております三次産業におきましては、このたびの弾力条項、先ほど御批判のございました三カ月あるいは一カ月単位というような弾力条項がつくことによって、これは可能になっていくのではないかと受けとめております。
  35. 池端清一

    ○池端委員 最後に、郷参考人に重ねてお尋ねをいたします。  中小企業の置かれている現状、非常に厳しいものがあることは十分承知をしておるわけでございまして、そういう厳しい状況の中で経営者の皆さんあるいは労働者の皆さん、皆歯を食いしばって頑張っておられるわけでございます。そういう厳しい状況の中で、時間を短縮するということは、経営がなかなか厳しい状況に追い込まれるということも十分承知はいたしますが、六十年度の「労働経済の分析」でも、労働時間を一%短縮することによって労働生産性はむしろ〇・九%上昇するのだ、こういうような白書の指摘もあるわけでございまして、競争力低下するとかコスト増だとかいう要因ばかり強調されるのもいかがなものかと考えるわけでございます。むしろ労働時間短縮企業の立場からも積極的に行ってしかるべきではないか、私はこの白書等の見解からいってそう思うわけでございますが、この点についての御所見を承りたいし、また中小企業に対して政府が雇用創出の観点と結びつけて、経済的な援助、財政的な援助措置ということも積極的に講ずるべきである、こう思うわけでありますが、この点についても御意見を承りたいと思います。  以上です。
  36. 郷良太郎

    郷参考人 先生が中小企業について大変よく御承知になっており、またいろいろお考えいただいているということに対して、最初にお礼を申し上げたいと思います。  しかしながら、労働時間の短縮というのは、先ほども何度も申し上げておりますように、生産性向上による配分と申しますのは、生産業におきましては非常にやりやすいことでございます。しかしながら三次産業サービス業という労働集約型の産業におきましては大変やりにくいという差がございます。  先ほど申し上げましたように、二次産業対応していくことができるであろうけれども、三次産業に関しては、今度の弾力条項等々がつくことによって対応できていくのではないかと申し上げたのはそこにあるわけでございます。これは中小企業といえども企業といえども同じだと私は思っております。  先ほど、初めに申し上げましたように、五百人以上規模あるいは三百人以下の規模のところを比較いたしましても、一年間の働いている労働時間というのは四十時間しか差がないという事実がございます。これを中小企業だけがある意味で猶予規定その他をつくりまして、徐々に大企業並みに持っていくということによって中小企業もこれに対応できるというふうには思いますけれども、特にその中で今就業人員が六四%にもふえております三次産業での対応というのは、今度の改正によって十分になし得るのではないか、またなし得るようにすべきであると私は考えております。
  37. 池端清一

    ○池端委員 どうもありがとうございました。終わります。
  38. 堀内光雄

    堀内委員長 沼川洋一君。
  39. 沼川洋一

    ○沼川委員 本日は、参考人の皆様には大変お忙しい中御出席を賜りまして、先ほど貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。非常に限られた短い時間でございますけれども、何点かにわたりまして御質問をいたしたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。  まず最初に、小川参考人にお尋ねをいたしたいと思います。お話の中で、時短につきましては、生産性成果配分ということで決して否定はしない、ただ、時短となりますと、これはもうストレートにコストアップにつながるだけに、現在の中小企業の置かれておる立場、いろいろとデータを引いてお述べになって、そういうことを考えると、法律には四十時間とうたったものの、やはり政府が考えております当面は四十六時間でスタートするこの原案に賛成である、こういう意見をお述べになったわけでございます。  確かに、現在中小零細企業において長時間の営業、労働経営雇用維持してきたという現実がございます。したがって、いろいろな方々から円高不況の中で時短どころではない、こういうお話も聞きますし、それはそれとして決して私も理解できないわけではございませんけれども、特に我が国労働者の一人平均の週所定労働時間が四十四時間を切っておるわけです。正確には四十三時間五十七分、このように承知いたしております。また三百人以上の企業では、もう平均三十九時間五十分、こういう数字も出ております。三十人以上の企業でも四十二時間以下、こういうデータもございます。さらに三百人以下のところを四十六時間ということで見てみますと、百人から二百九十九人のところが七六・二%、三十人から九十九人が六〇%、一人から二十九人が四四・八%。言ってみれば、もう週四十六時間以下を現実ははるかにクリアしているわけです。  そういう現実を踏まえていきますと、これはたしか経済企画庁の委託による二〇〇〇年の就業研究会の報告であったと思いますけれども、この中に、「もはや、中小企業だからという理由で、労働時間短縮ができないというのは、ほとんど根拠を持たなくなっている」こういう指摘もございます。したがいまして、中小零細事業所に対して限定した経過措置を考慮するというならば、当面の週法定労働時間を四十四時間からスタートさせるということは可能ではないか。原案で見ますと、中身に全然前進がありません。むしろ現状の方が原案よりも進んでいる、こういうことで果たして時短と言える内容だろうか、非常にそういう面を思うわけでございますが、御意見をお聞かせいただきたいと思います。
  40. 小川泰一

    小川参考人 平均値で論ぜられる点がございますが、私は、こういう場合、平均値よりも平均値以下でどの程度の事業所が存在するか、その事業所がもしもう少し進んだ形と申しますか、そういった形で時短をされた場合に、どういう影響を受けるかというような思考が一番実態に適しているのではないかというふうに考えております。  そういう観点から申し上げますと、平均値としては、確かに全体的な前進に物足りない点があるというお考えもございましょうが、私はやはり平均値ではなくて、何%が未達であるか、その企業の苦しさというものを推察していただくのが至当ではないかというふうに考えます。  それから、いまひとつの御質問の点でございますが、中小企業といえども時短に対する弁解は聞かないというお話でございますが、確かに長期的にはそうあるべきだと思います。現実を見てみますと、賃金につきましても労働時間につきましても、率直に言って格差がございます。その原因を私どもいろいろ調べてみますと、諸般の情勢から見まして、生産性という観点から中小企業がまだまだ低いというのが最大の原因になっております。  私どもといたしましては、大企業中小企業が力を合わせて、そういう体質改善をしながら、労働時間につきましても、中小企業の処遇につきましても、無理なく前進させていくのが一番オーソドックスな考えではないかというふうに思っております。
  41. 沼川洋一

    ○沼川委員 郷参考人にお尋ねしたいと思います。  今回、この四十六時間に政府がこだわる理由の一つとして、こういう指摘があるわけです。結局、今まで振り返ってみますと、国の中小企業対策が全くなされてなかった、極論しますと。例えば税制面の考慮とか、あるいは融資の問題あるいは下請強化の問題、そういった、極端に言うと、何にもやってこなかったしりぬぐいをするために四十六時間にこだわっているんだ、こういう批判がございますが、どのようにお考えになりますか。  それから、重ねてもう一点。この時短という問題は、労働省だけでできる問題じゃないと私は思うわけです。やはり国を挙げてやらなきゃとてもできない問題だと考えております。したがって、いつまでも中小企業経営が大変だからできないできないと言っておったのでは、とてもじゃないけれども、何十年先になるか非常に心配するわけです。  その一例が、十年間で行政指導で何とか時短を試みましたけれども、十年たっても一時間も短縮されない、一分も短縮されていない、むしろふえている。こういう現状を考えますと、やはりある程度のインパクトを与えなければ、ただ労使交渉だけに任せる、あるいは行政指導ということでは、これは到底不可能ではないか、そういう気がいたします。したがいまして、中小企業に対しては、先ほど私が申し上げました政府の金融対策あるいは中小企業に対する税制面あるいは下請の強化、それと並行してやるということを強化していくならば、時短ができるのではないか、そう思うのですが、いかがでしょう。
  42. 郷良太郎

    郷参考人 御質問の趣旨に真っ向から反対をするような形になって大変申しわけございませんけれども中小企業が政府のそういう施策を受け入れて、労働時間が短くなるかといえば、なりません。そういうものがあったとしても、絶対ございません。  例えば、労働省がいたしました幾つかの施策の中に、勤務延長あるいは定年の延長というような幾つもの中小企業に対する施策がございます。しかし、それがあるから勤務延長をする、あるいは高齢者雇用するという考えは、中小企業にはございません。中小企業経営者というのは自主独立という非常に強い気構えを持っております。そういう意味からは、今までに政府のそういう施策がなかったということで、中小企業が政府を責めるということは全然考えておりません。また今後も、特にそういうことがあって、できるかということは、私はないというふうに踏んでおります。  一つの例で申し上げますと、昨年の十月から六十歳定年の法制化がされました。これももちろん労働省がつくりました。しかしながら、この六十歳定年に持っていくためには一体どうするのか。確かに成功事例集は幾つもございます。しかし、中小企業がどこで何のために伸びないのか、それを研究したり、あるいはその問題についてこうしたらどうですかというようなものがございません。私はこれが法律経営実態との乖離だというふうに思っております。  そういう意味で、ぜひこれから政府としても、また各党の先生方におかれましても、それを実行するのはこういうふうな方法があるんだというような御指示をいただいて、御明示をいただくことによって、我々がまたそれに対応していくことができるのではないかというふうに考えております。  先生の御質問に対するお答えになったかどうかわかりません。大変申しわけありませんが、そういうふうに考えているということを申し述べさせていただきます。
  43. 沼川洋一

    ○沼川委員 時間がありませんので、次に進みたいと思います。  角田先生にお伺いしたいと思います。  先ほど中島参考人からもお話がるるございましたけれども、今回の弾力化によって、一日八時間の原則がなし崩しにされていくという問題から、この原則をいかにして守るかということが大事だ、こういう陳述がございました。もう先生よく御案内のように、八時間労働制というのは、労働者の人間としての尊厳をかけた長い闘い、血と涙と汗の歴史によって確立されたものでございますが、八時間制は、言ってみれば、労働者保護の原点でもあるわけです。また労働者権利の出発点である、このようにも私どもは理解いたしております。  ところが、今回の法改正で、現行法では一日八時間週四十八時間と一つにまとめてあったのが、今度は二項に分かれまして、週四十時間、一日八時間、これは一つの発想の転換であろうかと思いますが、一日を労働時間規制の単位にしない、そういうふうに受けとめております。  こういう点で、実際、私どもの生活を考えてみますと、起床、食事、通勤、労働、帰宅、余暇、睡眠、結局人間の生活というのは、一日の積み重ねであるわけですから、八時間働いて八時間眠る、これは長い間の原則でございます。これが私は人たるに値する生活だ、このように考えておりますが、このような一日単位の労働時間の規制の原則があいまいになっていくということについて、先生どのようにお考えになりますか、お聞かせいただきたいと思います。
  44. 角田邦重

    角田参考人 御指摘のように、一日八時間労働というのは、ILOの第一号条約で定められておりますし、あるいはもっと古くから、第一回のメーデーで要求された事項でございました。  一番最初に労働省に設けられました労働基準法研究会の報告書の中に、週四十五時間、一日九時間という項目がございましたけれども、一日八時間労働制というものの持っておる歴史上の重みということを考えまして、一日九時間という提案が、結局一日八時間というものに戻ったというふうに理解をしております。その上で、今回の法案が、今度は週四十時間というものを先に書きまして、一日八時間というものをこの配分の基準というふうに立場を逆転させた、こういうものがあらわれているわけです。  一体、これはけしからぬのかどうなのかというふうに言われてみますと、確かに一日八時間という原則は重要ですけれども、だからといって弾力化というものを一切考えなくてもいいのかといいますと、ILOのレベルでも八時間を破ってはいけないというふうに言っているわけではございません。  その意味で、何が何でも八時間をという考え方をとることについては単純には同意できないわけですけれども、しかし、おっしゃいましたように、人間の生活のリズムというのは二十四時間ですから、これをそうないがしろにしてはいけない。弾力化を考えるときにも、一日の上限というものを決めておかなければならない、あるいは一週間の上限というものも考えておかなければならない。世界各国を見ましても、弾力化の方向というものは出ておりますけれども、しかし同時に、上限を書いた国というものはないと思います。  その意味で、先ほどから三カ月の上限が出そうだという話が出ておりましたけれども、私は一カ月という変形の原則の場合にも同じように考えなければならないだろうと思います。もともと三十二条の二項の変形が出てきましたときに、今のようなサービス経済化というものがなかったのだろうと思います。  もっと安直にと言ったら語弊があるかもしれませんけれども、例えば天候とかあるいは停電とかいうことによって労働が一日八時間というだけでは済まない、あるいは特殊勤務制のようなものがございますから、そういう場合のために設けられた規定だったのだろうと思います。ところが今日のように夜間活動時間が長くなったりサービス経済に比重が移りますと、売り上げは営業時間と売り場面積によって決まるという、こういった経済的な流れというのが出てまいりますと、それだけに一日の生活のリズムをどうやって守るかという、改めてそのことが時間的に問題にされなければならない時代に入ってきた。決して経済の理屈だけで人間の生活全体を考えてはいけないということが非常に重要な問題だと思います。
  45. 沼川洋一

    ○沼川委員 中島参考人にお尋ねいたします。  ちょっと珍しいので持ってきたのですが、これはニューヨーク・タイムズの広告なんです。これには日本の新聞労連あるいは民放労連などの人たちが、今国会で審議されております労基法についてアメリカの国民にいろいろとアピールしている内容がございますが、さっきちょっと先生がお触れになった年次休暇のことでこういうふうに書かれております。   こんな短い日本の休暇を見て、あなた方の中に「コストを軽減するうまいやり方だ。日本経営者にこれからも特典をエンジョイさせながら競争力を一層強化させてやろう」って方いますか。  年次有給休暇の最低日数を、現行法の六日から十日に増加することも改善のように見えます。しかしここにもごまかしがあります。年次有給休暇労働者賃金を失わないで、自己都合で消化できるのは、ただの五日に短縮されます。残りの「休暇」は、使用者の都合で決めることができるようになります。こういうことから始まって、決して日本労働者は働くことが好きで働いているのじゃありません、何か働き中毒みたいなことを言われておりますが、日本法律がそうなっているんですといろいろとうたってあります。これが八月二十日の記事ですが、相当アメリカで反響を呼んでおる、このように実は聞いております。  そこでお尋ねしたいのですが、特にこの年次有給休暇の場合、日本の場合は、休日のほかに、例えば冠婚葬祭とかだれか家庭で病人が出たとかいう場合の特別な休暇がありませんので、いろいろな方に聞きますと、どうしてもそういうときの用意のために、大体五日ぐらいはとっておかなければならぬ、こういうお話を聞くわけです。特に女性の場合、最近高齢化社会で寝たきりのお年寄りを介護されている方、女性が一番多いと聞いています。また子供の授業参観に行くにも、そういう時間をとっていらっしゃる。そうなりますと、六日が十日にふえても、結局五日間は会社の方の都合で休みをとらなければならぬとなりますと、本来この年休というのは、労働者一定期間仕事から完全に解放されて、自分の好みの目的のために余暇を楽しむ、これをいわば保障しようとするもので、そういう本質から考えますと、リフレッシュするどころか、何か日本有給休暇はストレスがたまるような休暇で、とても休暇と言えるようなものじゃない。長さにおいても問題があると思いますが、そういう問題がございますが、先生は弁護士でもあり、また女性の立場から、この問題をどのようにお考えになりますか、お聞かせください。
  46. 中島通子

    中島参考人 先ほどもちょっと触れましたけれども、年休がたった五日しか自由にとれなくなるということは、女性が働き続ける上で大変深刻な問題を生じさせます。先ほどお話のように、子供の病気のために休まざるを得ない、そのためには五日でも足りないのだ、現在の年休、それぞれの職場でいろいろありますけれども、十日あっても足りないというのが現状です。年休の趣旨からいいますと、子供が病気であるあるいは自分が病気である、家族が病気であるというときのために年休をとるということは、本来の年休の趣旨にそぐわないおかしなことではございます。しかし、我が国には、ヨーロッパ諸国にあるように、病気休暇だとか子供、家族の病気のための看護休暇だとか、そのようなものが全くありません。このような状況でやむなく、ともかく働き続けるためには、このような場合に備えて年休を確保しておかなければならないという現状です。  そういうことを考えますならば、例えば、先ほど角田参考人から、計画年休をする場合には、本人の意向、希望をよく聞くべきであるという御意見がありましたが、確かにそうではありますが、あらかじめ希望を聞いて、それではあなたは八月の何日から何日まで休みをとりたいならとりなさいというふうに決められても、子供が病気になる、熱が出るというのは、いっそのような状態になるかわからないわけですね。したがいまして、今のように本当に貧しい労働時間、休暇の現状においては、それすらも困る。たとえ希望を聞いていただいても、あらかじめ年休の取得日を決められるということでは大変困るわけです。  したがいまして、年休の計画的付与ということを導入するためには、絶対条件として、病気休暇、看護休暇というものが完備されること、それからさらに年休が国際水準まで引き上げられること、これらの条件が整えられた上で、しかもそのうちの多くの部分を個人の自由に残した上での計画年休でなければならないと考えます。現在のような状況で計画年休を導入なさるのでしたら、これはあくまでもその計画年休の中には入らないという本人の自由を絶対的に確保していただかなければならないと私は思います。  それからもう一つ、恐れ入りますが、労使協定があるから労使自治によって歯どめがかけられるという御意見が述べられておりますけれども労使協定というのは、率直に申し上げまして、労働組合がある場合でさえ完全に個々の労働者の利益を代表しているとは言えません。特に女性についてはそうです。これまでの若年定年制、差別定年制、結婚退職制などというものが、実は労使協定、労働組合と使用者の労働協約によって設定されてきたという歴史があります。このようなことを考えますならば、労働組合があるところも含めて、労使協定を結ぶ場合には、対象となるグループ、女性なら女性の意見を十分に聞いた上で、そのグループが賛成しない限り労使協定を結ぶことができないというような何らかの歯どめをぜひとも設けていただきたい、強く要望いたします。
  47. 沼川洋一

    ○沼川委員 佐藤参考人にお尋ねいたします。  今回、法律事項で四十時間が決められておるものの、当分は四十六時間、しかも適用除外、当分の間経過措置がとられる企業の一つの単位として三百人以下、こういう線がいろいろと言われております。私が先ほども申し上げましたように、三百人以下が適用されるのだったら、これは時短とは名ばかりであって、全く現状よりも悪い。むしろ後退している。したがって、これはできるだけ限定すべきである。確かにこれは国会答弁の中で局長もできるだけ限定しますとはおっしゃるのですが、この範囲を業種あるいは規模別で大体どれくらいが一番妥当とお考えになっていらっしゃいますか、お聞かせください。
  48. 佐藤幸一

    佐藤参考人 中基審審議の中で出されましたデータを見ますと、非常に機械的に四十六時間で線を引き、そしてまた三百人以下ということで線を引きますと、今回の労働基準法改正の恩恵に浴する労働者の数が五・三%、これは非常に機械的な数字でございます。決してこうならないだろうと思いますけれども、そういう数字も出てまいります。  そういうふうに考えてまいりますと、我々としては三百人以下という線引きは余りにもその範囲が広過ぎると考えております。しかし同時に、事業所規模だけではなしに、業種ごとに労働時間実態というものは相当な違いがあるのじゃないか、このようにも考えておるところでございます。同じ百人の事業所でございましても、サービス産業の事業所の実態製造業実態というものを比べた場合に、相当な差があるのじゃないか。そうなりますと、縦横といいますか、業種と規模の組み合わせの中でもう少し詳細な実態分析をした上で、どこで線を引くかということについて検討が進められるべきであろう、このように考えております。そういう中で、ある業種では百人という数字が出てくるかもしれません。ある業種では三十人未満という数字が出てくるかもしれません。そういうものをシビアに検討したいということでございます。
  49. 沼川洋一

    ○沼川委員 それでは、最後に一問だけ簡単にお答えいただきたいと思いますが、中島参考人にお尋ねします。  先ほど弾力化変形労働時間制がいろいろ問題になっておりました。今度初めて出てきます非定型変形労働時間制でございますが、この種の変形制の必要性が果たしてあるのだろうか、今まで余り特段に問題にされてきたことはございませんが、その必要性。  それから、この中で特に気になりますのが、前週の末、場合によっては前日でも労働時間を指定できるわけですね。この点について「あらかじめ、」という言葉がありますが、期間が何もありません。こういう点も働く方にとって、特に女性の場合非常に御心配な点ではなかろうかと思いますが、簡単にお答えをいただきたいと思います。
  50. 中島通子

    中島参考人 おっしゃるとおり大変心配な点でございます。どのような場合にこれを適用するのかという御説明の中では、例えば旅館などで直前にキャンセルが入ったあるいは急に注文が入った、こういうような場合だということを伺っておりますので、そうなると、本来であれば給料を払わなければならない時間を給料を払わないで早く帰して、別の日に長く働かせるというような形になります。これは使用者にとっては大変都合のいいものではないかと思いますけれども、働く者にとっては大変困る制度でございます。特にこれはちょっと条文上大変疑問な点があるのですが、それはともかくとして、伝え聞くところによりますと、三十人未満一定の業種ということになっております。これらの業種あるいは規模の中で働いている労働者というのは女性が非常に多い。特に中高年、既婚女性が大変多いということがデータで明らかになっております。そうしますと、直前になってあした十時間働け、きょうは早く帰っていいと言われるということは、本当に働き続けることができなくなりますので、これらについては、必ず事前、かなり長い時間、少なくとも一週間前の事前通告及び本人の同意というものを法文上明確にしていただきたいと思います。本来ならばこのような制度には反対なんですけれども、どうしても導入するという場合には、今のような条件をぜひ欠くことはできないのではないかと思います。
  51. 沼川洋一

    ○沼川委員 どうも大変ありがとうございました。
  52. 堀内光雄

  53. 田中慶秋

    田中(慶)委員 参考人の皆さん、大変御苦労さまでございます。私は、限られた時間でございますけれども、できるだけ皆さんの御意見を聞かせていただきたいと思っております。  まず小川参考人にお伺いしたいと思います。  日本の今日の経済状態、まさしく国際国家として世界のGNP一割国家として評価をされているのではないか、こんなふうに思います。しかし、その反面、労働時間、労働環境というものは、現実に今アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、こういうふうに比較してみますと、二百時間、五百時間というような格差がある。こういう点では経済摩擦やお互いの友好関係が、現時点においてはココムやいろいろな形で見られるように、一つ一ついろいろな形で相当な圧力が来ておりますけれども労働時間に対する圧力というのもそう遠くない時点で来るのではないか、こんな心配をしておりますけれども、率直な感想をお伺いしたいと思います。
  54. 小川泰一

    小川参考人 我が国に対する経済上の評価はそのとおりだと思います。また労働時間が全般的に長いということも率直に認めざるを得ません。したがいまして、新前川レポート初め各種の経済政策その他におきまして、構造変革を求めるという政策が打ち出されております。それに現在適応しつつある状況でございますが、ここで申し上げたいのは、一点は、企業がいかなる形にせよ、健全な経営というものを失うならば、それによって確保されている雇用というのを失うという半面を持っております。したがいまして、ここはつらくとも変革するという半面を持つと同時に、健全な経営を求めて漸進的にいかねばならぬという二つの側面を持っております。そのジレンマに大変悩んでいるわけでございますが、私ども雇用を確保しつつ世界の大勢に順応していきたいというふうに考えております。  いま一つは、我が国の経済は、大変進んだ部分と、率直に申し上げましておくれた部分がある。この二面性がさまざまな勤労者の生活、労働時間の問題、経済実態にゆがみをもたらしている。その辺の調和を先生方の御努力によりもたらしていただくのも一つの大事な方策であろうか、そんな感想を持っております。
  55. 田中慶秋

    田中(慶)委員 そこでお伺いしたいのは、今回の新前川レポートすなわちこれは国際公約ではないか、こんなふうに思うのですけれども、いかがでしよう。
  56. 小川泰一

    小川参考人 私は海外で大変評価をされているというふうに聞いておりますので、国際的にいろいろ受けとめられている一種の経済政策の一つだと思います。したがいまして、先ほど申し上げましたとおり、労働時間に限定して申し上げますならば、出発点でございます生産性向上成果配分という、その点については何ら異存はないし、今後ともその方向で努力をしていく。目標につきましては、これは一つの目標として受けとめていく。それを実現していく過程は、これは繰り返すようでありますが、生きておる経済、生きておる経営といったものを基盤としながら、雇用なり日本経済の活力を失わない範囲におきまして、お互いに努力をしつつ実現にたどりつくということではなかろうかというふうに思っております。
  57. 田中慶秋

    田中(慶)委員 ありがとうございました。  そこで、郷さんにお伺いしたいのですが、企業は人なりということをよく言われます。特に私は今日の労働環境や経済環境を考えてみますと、中小零細企業、まさしく世間並みの賃金、世間並みの労働時間、こういうことをクリアしないと優秀な人材が集まらないのではないか、こんなふうに思いますけれども、いかがでしょう。
  58. 郷良太郎

    郷参考人 今先生のおっしゃったとおりだと思います。しかしながら、企業は人なりと申しましても、中小企業の場合、大企業と違いますのは、企業経営者というのは自分のそれこそ財産まで企業に出して経営をいたしております。ですから、私どもは、例えば会社がつぶれれば失業保険ももらえませんし、どこかで雇ってもらえるかといってもなかなかそうはいかない。ですから、大変必死に経営をいたしております。  同時に、先ほどから何度がお話に出ておりますように、日本の場合に個々の労働者との間に雇用契約がございません。そこで中小企業の場合には、使用者と労働者の間で信頼関係に結ばれた経営が行われている。大変あいまいな経営でございます、そういう意味で申しますと。しかしながら、それがまた企業の活力の一つでもあるというような状況でございます。ですから、今先生の御指摘のありましたように、中小企業といえども労働時間、労働条件についてよくしていかなければ、人が集まらないということは経営者自信が身をもって知っておりますし、またそういう方向で進んでいるものというふうに考えております。
  59. 田中慶秋

    田中(慶)委員 そこでお伺いしたいのは、今回のこの経過措置として、中小企業のランク別の問題でありますけれども、三百人以下という形になっております。私はこの三百人以下というのは大変大づかみではないかと思います。今おっしゃられるように、営業所や事業所、商店等で三百人といったら大企業じゃないかと思います。この辺については、それぞれ今心配されている皆さん方が生きるためにも、特例措置あるいは猶予措置を考えるならば、もっと業種別にきめの細かい形でやった方がいいのではなかろうかと思いますけれども、どのように、お考えでしょう。
  60. 郷良太郎

    郷参考人 三百人規模というのがこの中基審の中で出てまいりました。初めは中小企業と書かれておりました。ところが中小企業の定義は各省庁によって大変な違いがございます。例えば税務署で言う中小企業と通産省で言う中小企業、あるいは労働省で言うのは非常に違いがあるので、一体これは何人ぐらいを言うのかという質問をいたしましたところ、三百人以下の規模であるという話でございました。我々中小企業の人間にとって何人以下かということがはっきりしていないと、自分は中小企業の人間なのか大企業に属させられているのかわからない、そこで聞いたのが三百人という数字でございます。  しかしながら実態としては、労働基準局の監督署が各事業場を監督いたします。そうしますと、各地区にございます支店が例えば三百人以下でも、全国規模で見たときは一万人以上であるかもしれません。そういうものが入ってしまうのではないかという心配を皆さんお持ちでございます。しかし、そういうような規模のところは本社で決めてやっております。ですから、それが三百人規模以下だからどれもこれも中小企業並みになってしまうというようには私は考えません。少なくとも労働組合がしっかりしてやっているならば、全国規模が十人のところであっても三百人以上のところであっても同じ条件であろう。私どもは、それよりも、そういうことのないところに焦点を合わせて考えるとなれば、当分は三百人規模でいくべきじゃないか。  なお、先ほど佐藤参考人が言われましたように、業種あるいは人数というきめ細かい研究をして、その上で時間を決めていくことが必要なのではないかということについては、それを今いたしまして、この改正が二年先、三年先になるよりも、とにかく第一歩を踏み出していただきたいという考えでございまして、三百人規模がいいとか悪いとかいう意味ではなく、まず第一歩を踏み出すためには、三百人規模というのも一つの目安ではないかと考えております。
  61. 田中慶秋

    田中(慶)委員 そこで佐藤参考人にお伺いしたいと思います。  先ほど来、この新前川レポートについて、小川先生も国際公約だと言われているわけであります。労働時間の千八百時間への短縮というのは、諸外国から見て国際公約だと私どもも受けとめてあります。しかし、労働組合の立場として、これらの問題、特に一九九三年度年間総実労働時間が千八百時間を一つの運動の目標として掲げられて、具体的に今日まで時短に対するビジョンとして取り組んでこられたわけであります。この新前川レポートを含めて、その実現に努力された経過労働環境等を含めて、佐藤参考人はこれらに対してどのように評価し取り組まれているのか、お伺いしたいと思います。     〔委員長退席、長野委員長代理着席〕
  62. 佐藤幸一

    佐藤参考人 この新前川レポートの国際公約の問題につきましては、日本政府が約束した、また一閣僚が約束したというレベルの受けとめじゃなしに、まさに日本が諸外国に約束したことだというふうに労働団体も真剣に受けとめて、我々労働組合のみずからの闘争目標としても、千八百時間への労働時間短縮に向けての闘いを仕組んでまいりたいと考えておるところでございます。  具体的に申し上げますと、我々としては、中期目標として一九九三年度に年間労働時間千八百時間への短縮を目指した取り組みを進めてまいりたい、その一つがこの労働基準法改正取り組みであり、もう一つの大きな柱が公務員、金融機関等での週休二日制の導入の促進の問題であり、学校における土曜休日の導入の問題である、このような位置づけ、そしてまた労働基準法改正というのは、あくまでも最低基準改正でございますから、これを上回る労働条件の獲得を目指して、すべての労働組合が一致団結して取り組みを強化してまいりたいと考えております。
  63. 田中慶秋

    田中(慶)委員 そこで、この労基法改正は、国際公約実現につながるために四十時間制への移行時期が現在不明確であります。当面、法定労働時間の四十六時間から経過措置としてスタートされるということで、今これにそれぞれ極めて不満の意を表明されておるわけでありますが、過日、平井労働大臣が労働組合の幹部と新前川レポートが四月に公表された後で懇談されたと思いますけれども、そのときに、新前川レポートの目標労基法改正を含む労働政策は全く同じ趣旨であるというふうに答えられたわけでありまして、これが新聞に報道されておるわけであります。こういう問題を含めて、今回の改正案は、国際的公約実現というものと、さらにまた今後の時短取り組み、すなわち労働時間とフレームワークをまとめておられる観点から、これらについての考え方をお聞かせいただきたいと思います。
  64. 佐藤幸一

    佐藤参考人 まず、同盟の田中書記長と平井労働大臣との会談の中身につきましては、六月三十日に、これは同盟だけではございませんで、同盟、総評、中立労連、新産別、全民労協の代表が会談をし、労働大臣に先ほど申し上げました一九九三年度に向けての千八百時間を目標とする実現方の要請に参った。この席で平井労働大臣は、新前川レポートでうたわれている到達目標と今次労働基準法改正法案は軌を一にするものだと明確に御答弁なさったわけでございます。  そういう観点に立ちまして、我々の考え方といたしましては、一九九五年よりか早い段階で千八百時間を到達しようとすれば、もう少し早く四十時間到達の目標というものを明確に打ち出すべきではないだろうか、それをやるためにも、当面四十四時間でスタートしなければ、その実現は危ういのではないかという危惧の念を抱いているということでございます。
  65. 田中慶秋

    田中(慶)委員 ありがとうございました。  そこで、角田先生にお伺いしたいと思うのです。  今日、日本雇用情勢は大変厳しくなっておるわけでありますが、ドイツ、フランスは時短を中心としてワークシェアリング政策というものを大きく打ち出されたわけでありまして、これが今日の労働時間の短縮、あるいはまた今日の日本と比較して五百時間もの差がある。しかし、経済においてはそれぞれの人たちが仕事を分け合うといいますか、こういう形で失業率も比較的解消されたということを承っておりますけれども、学者という立場でこのワークシェアリング政策をどのようにお考えでしょうか。     〔長野委員長代理退席、委員長着席〕
  66. 角田邦重

    角田参考人 労働時間の短縮が経済学的な、特に雇用情勢という観点から見てどういうふうにとらえられるのかというのは非常に議論のあるところだと思います。ドイツの場合には三十八・五時間という協約、労働組合の方は、おっしゃいましたように、失業をワークシェアリングによって解決するということを前面に掲げました。そして今度は三年先に三十七時間というような協約を締結しまして、さらにこの方向を目指そうとしております。労働組合の方はそれによって、正確な数字は忘れましたけれども、三十万でしたか、そういう雇用の場が拡大したというふうに主張しておりますが、反対に使用者側は、そんなことはない、人件費に対するはね返りは、特に日本を念頭に置いているかと思いますけれども、経済的な競争で不利な立場を押しつけることになる。とりわけ労働時間短縮の組合の要求に対して、一体だれが喜んでいるでしょうか、という日の丸をかいたポスターをあちこちに張って反論をしたというふうに言われております。これは言ってみますと、非常に失業が多いときの緊急対策的なといいますか、ワークシェアリングという段階になりますと、これは一体役に立ったか立たなかったのか非常に議論が多いところでありまして、決してこれで役に立ったということが直接証明づけられているとは言いがたい状況にあろうかと思います。  我が国の場合に、諸外国と比べてこういう短期的など申しますか、せっぱ詰まったと申しますか、雇用の観点からのワークシェアリングというものが、それほど今回の労働時間短縮について切迫した目標として掲げられていないというのは、雇用状態の差からくるものではないかというふうに考えております。しかし、少し中期的、長期的という観点から考えてみますと、労働時間の短縮雇用の確保ということについて重要な役割を果たすことは、恐らく政府諸関係の報告を見ましても疑いのない事実だと思います。とりわけこれからの就業構造とか雇用構造というのは、第三次産業にシフトがかかっていくということは確実に予測をされておりますし、そういうところでの需要が見込まれるというためには、スムーズに移行できるというためには、それは労働時間の短縮を抜きにして消費の拡大、内需の拡大ということはあり得ないと思います。その意味で、現在の日本のようにせっぱ詰まってない段階だからこそこのワークシェアリングの視点ということが重要に自覚的にとらえられていかなければならないと思います。  それからもう一つ、むしろ非常に危惧をしておりますのは、これはヨーロッパの場合もそうですけれども、ワークシェアリングに対して、使用者側はジョブシェアリングと申しますか、日本的に言いますと、雇用形態の多様化と申しますか、正規の労働者の仕事をパートという形で短時間労働者に分け合うことによって失業者を克服していくという考え方が対抗して出されております。日本の場合にも雇用形態の多様化は進んでおりまして、とりわけパートタイマーの数がふえますと、一人当たりの平均労働時間というものは下がってまいる、統計的には下がってまいるというようなことになろうかと思います。こちらの方向に動いていくという危惧を感じておりまして、日本労働者労働にそれだけシフトがかかってバランスが非常に大きく崩れているという段階をそのままにして、雇用形態の多様化によってむしろ平均的な労働時間の地ならしが進められていくということがあってはいけないんじゃなかろうかというふうに考えております。
  67. 田中慶秋

    田中(慶)委員 時間が参りましたので、最後に中島先生にお伺いしたいのですが、変形労働時間、大変いろいろな形で心配をされ、また先生のきょうまでの活躍といいますか行動等々を含めて、私どももこの三カ月変形労働時間というものは、基本的には三カ月であっても、一日の積み重ねであり一週の積み重ねであり一カ月の積み重ね、すなわちそれぞれの上限規制が必要であろう、さらにはまたそれぞれの労使協定というものを義務づける必要があろう、こんなふうにも考えております。ましてや本人の意思の尊重ということも先ほど主張されている。さらにはまた妊産婦の適用除外の問題も話をされました。こういう問題は今回の変形労働時間における大変心配される面であったわけでありますけれども、私どももそれらの問題について皆さんの考え方を繰り返し繰り返し主張してきたところであります。前回もこれらに対してそれぞれの前向きな答弁があるわけでありますけれども、私ども変形労働時間というものを今申し上げたような形で処理をさせていただくならば、それでいいのかどうか、さらに問題点があるのかどうか、もしあったらお聞かせをいただきたいと思います。
  68. 中島通子

    中島参考人 今御指摘の上限規制、労使協定、それに届け出を要するということをつけ加えたいと思います。それから本人の同意、妊産婦の適用除外、これらはぜひすべての変形労働について実現していただきたくお願い申し上げます。  ところで、これだけのことがもし実現すれば、それで問題ないのかといいますと、やはりまだ問題は残ると思います。といいますのは、先ほどもちょっと触れましたけれども変形労働ができる人とできない人という振り分けがこれから生じることになります。多くの場合には家庭を持った女性が変形労働ができないグループに入っていくことになるかと思います。そうしますと、ここに新たな格差といいますか差別といいますか、これが生じてくる。これはもう非常に明確に均等法の適用除外の問題と結びついてくる。これは本人の同意条項だけでは適用除外にはならないかと思いますけれども、規定の仕方によっては適用除外の問題になる。直接適用除外にならないとしても、まず採用の段階で、あなたは変形労働をやりますかやりませんかと質問して、私は家庭がありますので変形労働はできませんと答えたら、そういう人は私の会社では要りません、もう採用いたしませんということになるのではないか。現に働いている人でも、本人の同意によって変形労働に入る人、入らない人の希望をとるという形をもし行うとすれば、変形労働ができない人は、どのような形になるかわかりませんけれども、例えば現在コース別雇用という形で残業あるいは転勤ができる人とできない人で大きく労働条件に差が設けられております。賃金、それから昇進昇格などで大きな差が設けられておりますが、それと同じような形で新たな格差がここに持ち込まれるということが大変心配されます。  したがいまして、これらの変形労働につきましては、一つは女性だけではなく、男性でも家庭責任を持っている労働者がこのような変形労働に組み込まれないということが当然になるということが一つでございますけれども、もう一つは、全体の前提条件、変形労働を導入する前提条件として、例えばフランス、西ドイツの例を見ましても、労働時間がそもそも短くなっておりますね。それから残業というものがそもそもほとんどない状態です。極めて例外的な場合のみ残業がある、そういうような前提条件が確立しまして、そのほかさまざまな休暇の制度も確立いたしまして、男性も女性も家庭と仕事が両立できて、しかも無理なく働けるような労働条件を目指してより前進するということがなければ、これは新たな格差を生じるばかりであるということを申し上げておきたいと思います。
  69. 田中慶秋

    田中(慶)委員 時間が参りましたので、以上で終わらしていただきます。ありがとうございました。
  70. 堀内光雄

  71. 児玉健次

    児玉委員 共産党の児玉と申します。きょうはどうも御苦労さまです。  最初に、小川参考人にお聞きしたいんですが、先ほど参考人の御意見の中で、日本賃金の仕組みは多くの場合、日建て月建てである、こういう御発言がありました。日建ての方はさておきまして、今回の労基法のいわゆる改正案の中で、変形労働時間制の問題が非常に大きなかかわりをこの後及ぼすだろう、もちろんその前提に一日八時間制が突き崩されていく、それがありますが、参考人に端的に二つ私お伺いしたいのです。  現行労基法の中に含まれている四週間の変形労働時間制、これは四週間です。そして一カ月というのは一カ月です。日数としてはそう多くの違いはありませんが、参考人のお話の中にあった賃金の仕組みが月建てであるということとの関連で、この四週間の変形労働時間制と一カ月の変形労働時間制は、経営者の側からすればどういう違いが出てくるか、ここをお聞きしたいのが第一の点です。  二つ目の点は、先日来の私どもの論議の中でも、変形労働時間制は第三次産業の要請だという議論が非常に多く出されております。しかし、就業規則の変更によって可能になる一カ月の変形労働時間制については、もしこの改正案が実施されるということになれば、一カ月の変形労働時間制を採用するのは第三次産業に限定されないだろう、非常に広範な企業がこれを採用する懸念があると私どもは考えているのですが、その点について小川参考人の御意見をまずお伺いいたします。
  72. 小川泰一

    小川参考人 実は、日本賃金はかなり時間という概念については大ざっぱな運用がされているのが通念でございまして、四週間サイクルで変形労働時間をとっておる場合、これは主として交代勤務制のところだろうと思います。これにつきましても、一般的には月給制のところが多うございまして、例えば欠勤をしたとか何か賃金を差し引くべきときは一カ月間の労働時間で割って差し引いたり足したりいたします。残業するときも、労使協定による労働時間によりまして、一時間当たりは例えば千分の何である、それに対して二割五分はどうである、大体こういう運用をやっておりますから、四週間の変形労働時間をとろうと一カ月の変形労働時間をとろうと、月建て月給制の場合は実務的にはほとんど差がないのじゃないか。それはケース・バイ・ケースでございますが、私の経験ではほとんど差がないのではないかというふうに考えます。  私の申し上げましたのは意識の問題でございまして、労働時間を短縮するというときに、本来ならば短縮した時間分、その分は生産性向上吸収できなければ賃金をカットしたいという気持ちを持つ経営者もおるかと思いますけれども、こういう意識がございますとなかなか御納得を得られない、そこが一つの問題だということを申し上げたいわけでございまして、賃金管理、時間の管理の上では、今申し上げたのが大方の実態だろうと思います。もっとも違うところもあるかもしれません。  それから、一カ月の変形制が導入されますと云々ということでございますが、これもちょっとまだ私は実際の実務家と詰めた話を一カ月についてはやっておりませんので、明確なお答えはできませんが、私の経験では、四週間の場合は、やはり交代勤務のサイクルが大体週間サイクルになっておりますから、これが多かったのではないかというふうに思っております。一カ月になりますと、一カ月サイクルでございますから、これはかなり一般的になろうかと思います。そういう意味では、御指摘のとおり、適用の範囲は多少広がるだろうと思います。ただ、勘としてはやはり第三次産業中心だろうと思います。これはもう少し実務家と話し合って詰めてみないと実態はわかりかねますので、御容赦をいただきたいと思います。
  73. 児玉健次

    児玉委員 角田参考人にお伺いしたいと思います。  先ほどの御陳述の中で、この後労働時間の弾力化が多様な道筋で進むことになりはしないかという御趣旨のお話がございました。私どもが研究者の方からお聞きしているところでは、ヨーロッパの現在の一日の労働時間がどうなっているか、そして一週当たりの時間が相当のところまで進んでいる、その点について私から述べるまでもありませんが、ヨーロッパでは、一日当たりの拘束労働時間を短縮せよ、これはもちろん労働者の側からのストレートな要求であって、変形労働時間制を採用したいというのは企業の側からのストレートな要求であって、そのぶつかり合いはかなり単純である。日本では、労働組合運動の一部に、この点では錯綜した関係もございますので、ヨーロッパのようにしかく単純ではないと思います。  それでお伺いしたいのですが、変形労働時間制が行われていくことになっていきますと、現在行われている時間外勤務、その多くの部分が所定内労働時間に食い込まれてしまうことになる。そこにこの変形労働時間制のねらいがあるのじゃないか。これは現場で働く労働者にとっては極めて深刻な問題である。もちろん私たちは賃下げなしの労働時間の短縮を一つの原則的な問題として提起をしておるわけですが、先日のこの委員会の質疑の中でも、日本で一年間に支払われる時間外勤務手当は年間約十兆六千億に及ぶ、一つの試算としてそのくらいになる、こういうことが労働省の側からも出されまして、その二分の一が失われるとしても五兆円以上ということになります。  先日の委員会でもちょっと私、取り上げたのですが、日経連の増田法制部長の言葉ですが、「残業手当の減少は当然である。暇なときのむだな拘束時間を繁忙期に回すことによって時間外労働時間を減らすという点で、変形労働時間制やフレックスタイム制は非常に合理的な制度である。」極めて率直にわかりやすくお述べになっております。このあたりについて角田参考人のお考えを聞かせていただきたいと思います。
  74. 角田邦重

    角田参考人 まず、前半におっしゃいました、ヨーロッパにおける弾力化の動きというものはどこから出てきているか、こういう問題でございますけれども、御指摘のように、四十時間を切るという時間短縮、これは企業側からとりますと、生産性維持していくあるいは外国との競争関係維持していくという観点から見まして非常に大きな負担を感じているわけでございます。労働者の方から見ますと、これをさらに三十五時間ということを目標にして要求していこうという、この両者のぶつかり合いの中から出てきた、時間短縮生産性維持というものをどうやって両立をさせていくかという対立の中の妥協の策として出てきたというふうに理解をしております。その意味で、我が国の場合に弾力化ということが議論されるのならば、少なくとも四十時間を、なかなかそこまでいくのに難しいと言われる現状の中から、それを達成していく時短の道筋としてということを踏まえておかないと、後段におっしゃいましたような残業手当のカットという問題だけで機能してしまうことにはならないかという危険は否定できないだろうと思います。  さて、この弾力化によって一体手当問題にどういう影響が及ぶかという問題になりますと、これも御指摘のように、運用の仕方によってそういう危険性が出てくることは避けられないのではないかというふうに思っております。例えば今回の三カ月単位の四十時間平均の労働時間弾力化の問題の中に、この法案の段階だと思いますけれども、週四十時間、一定規模以下の場合には四十四時間というふうに予定されているようですけれども、それを超える場合には割増し賃金を払わなければならない、こういう条項が出てまいりました。これは恐らくそういう食い逃げだけに終わってしまわないかという批判に対する歯どめとして出てきたのではないかというふうに理解をしております。  これも私、定かではございませんけれども、三カ月を平均して週四十時間を超えなければ割増し賃金を払わなくてもいいのか、それとも一週単位で計算をして四十時間あるいは一定規模以下の場合には四十四時間、これを超えれば、その段階で既に割増し賃金の義務が出てくるのか、これは法案内容からは定かではございません。私は、後者の意味で理解をしなければならない、その必要性は高い、こういうふうに思っております。  それから、もう一つ同じようなことを感じますのは、とりわけ、これに四十時間三カ月という厳しい条件を課せば課すほど時間短縮を本当は進めてもらいたい中小企業は利用できなくなる。そして既に四十時間を超えているような企業、ここで三カ月単位の弾力化だけを利用するという事態が起こらないのか。労使協定が果たしてこれに対する歯どめになり得るのか。これは一般的に従来の労働条件の不利益変更の問題としてとらえることになろうかと思いますけれども労使協定の歯どめというものが本当に効き得るのかどうかということについても若干の危惧を抱いております。
  75. 児玉健次

    児玉委員 中島参考人にお聞きしたいと思うのです。  先ほどの御意見の中で、労働法制の場合、一日八時間労働制の厳守が原則である、こういう御指摘がございまして、非常に重要な御指摘として承りました。今回の改正案の中で大規模変形労働時間制、フレックスタイム制などの導入、そしてしかもそれが現在の制度にあります変形休日制と結びついている。そういう中で女性労働者の生活と権利がどんな影響を受けるか。先ほどからお話がございましたが、参考人委員長をなさっております日弁連の女性の権利に関する委員会、その中でどのような御検討がなされたのか、その点を具体的にお聞かせいただきたいと思います。
  76. 中島通子

    中島参考人 私ども変形労働制と変形休日制が両方適用があるかどうかということについて大変懸念しておりました。ところが先週の当委員会の審議の中で、労働省側は両方適用があるという明確な御答弁がありましたので、懸念されていたことが的中したということで、私どもは深刻に受けとめております。この二つの変形制が両方適用されることになると、極めて長期間の連続就業が可能になることは「ジュリスト」の渡辺論文などでも具体的に指摘しているところでございます。  女性の場合に関して申しますと、この点について、私ども女性の権利委員会で具体的にこの点に限って検討して意見書をまとめるというところに至っておりませんけれども、現在考えて、大変心配すべき点は、御承知のとおり、均等法国会における女子保護の廃止ないし緩和によりまして、専門職とそれから極めて広い範囲の管理職の女性については休日労働の禁止が一切なくなりました。すべて廃止されて、男性と全く同じように休日労働をさせることができるということになりましたので、これがそのまま適用されるということになると、これまた大変長期間の連続就業ということが可能になって、これはもう家庭を持っている女性は到底働くことができない。それだけではなく、健康障害、母性機能の破壊ということが大変心配になります。その他の一部規制が残っている女子労働者に関しましても、これは緩和されておりますので、やはり同じような心配が当然現実のものになるということでありまして、この点に関しては、変形労働については私ども反対でございますけれども、どうしてもこれを導入するということであるならば、一日及び一週の上限規制と同時に、連続就業日の上限規制というものを絶対に設けていただかなければ大変困るということを強く申し上げておきたいと思います。
  77. 児玉健次

    児玉委員 もう時間が参りましたので、郷参考人佐藤参考人の御意見を承れなかったことをおわびしまして、私の質疑を終わります。ありがとうございました。
  78. 堀内光雄

    堀内委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  次回は、明九月一日火曜日午前九時四十五分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会をいたします。     午後四時二十五分散会