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中島参考人 日本弁護士連合会の
中島でございます。私
ども日弁連は、
労働時間の問題に関して、これは人権の問題であるという観点から、これまで
幾つかの
意見書を
提出し、さらに人権擁護大会で決議な
ども行ってまいりました。そのような私
ども日弁連に、本日、
意見を述べさせていただく
機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
さて、日弁連の
労働時間に関する基本的な立場は、昨年の人権擁護大会で決議いたしましたとおり、
労働時間に関する
改正は、女子差別撤廃条約の
趣旨と国際公正
労働基準を踏まえ、国民に健康で文化的な生活を営む
権利を保障する憲法にのっとり、
労働者と家族の人権を真に保障する
内容とすべきである、このように考えております。
このような立場に立ちますと、最も重視されるべき
原則は、一日八時間の
原則をいかに守り抜くかということでございます。ところが、今回御審議中の
法案につきまして申し上げるならば、四十時間制の明文化など評価すべき点もございますけれ
ども、しかし、残念ながら、私
どもが求めてまいりました
原則からしますと、非常に多くの問題点を含んでおります。これについては
意見書を
提出しておりますので、詳しくは述べませんけれ
ども、四十時間制に関しては
早期実現を図るべきであること、先ほど
角田参考人の方から述べられましたように、大変複雑な規定になることによって、憲法二十七条違反の疑いがあるということ、さらに
労基法を変質させるのではないかなどの懸念を持っております。さらに一日八時間
労働の
原則を崩す
弾力化の拡大については、このままでは賛成することができません。さらに年休につきましては、いまだ国際
基準から大きくおくれ、しかも自由取得の範囲を狭めること、あるいは年休取得による不利益取り扱いの禁止条項などがないことなど多くの問題点を含んでいると思います。しかし、本日は時間の
関係もございますし、他の
参考人が述べられましたので、それと重複しない範囲で、特に女性の立場から
意見を述べさせていただきたいと思います。
私
ども女性としましては、今回の
労働基準法の
労働時間に関する
改正について、大変切実な関心を抱いてまいりました。なぜならば、一昨年の均等法審議において最も問題になった争点が、これは保護か平等かの論争でした。つまり女性が平等に働きたいというなら保護を外すべきではないか、残業規制などさまざまな保護をそのままにしておいて平等というのはおかしいではないかと言われました。しかし、現在の男性の働き過ぎに合わせて女性が同じように働くということになればどうなるだろうか、これは女性が働き続けることはできません。
したがいまして、ここで私
どもが最も切望し、しかも国会審議の過程で政府委員の方も
原則として同意してくださいましたのは、単に女性の保護を外すのではなくて、男性の
労働時間の
短縮によって男女が平等の基盤で働けるようになること、そのための
労働時間の
短縮、より高い水準で男女が同じ
労働条件で働けるようにすることが望ましいと御答弁いただきました。この立場から私
どもは今回の
労働基準法の
改正が、政府の答弁されましたような、私たちが願っているような形での
労働時間の新しいあり方、男女がともに家庭
責任と職業での
責任を両立し、かつ平等に働けるような、そういう
労働条件を確立するために
労働基準法が
改正されることを切望してまいりました。
ところが、残念ながら今回の
法案は私たちの願いから大きく隔たっております。その中で最も大きな問題を含んでいるのが
労働時間の
弾力化でございます。この
労働時間が
弾力化されて一日八時間
労働の
原則が崩されるならば、私たち女性にとって大変深刻な影響をもたらさずにはおれません。
まず、妊産婦の保護、これは前回の均等法国会で
労働基準法の一部
改正として、妊産婦については時間外
労働、休日
労働あるいは深夜業を本人が請求した場合にはさせてはいけないという禁止規定が設けられました。しかし、これらが
弾力化によって全く死文化してしまいます。
さらに、前回の均等法国会では、女性の残業規制について、これは
幾つかの種類に分けられましたけれ
ども、
一定の歯どめがかけられまして、最も多い女性が適用されるのが四週間で二十四時間という制限が加えられたわけです。ところが、この
弾力化によって、この最低の歯どめさえもなくなってしまうのではないか、これも大変心配しているところでございます。
均等法が施行された後、既にこれらの影響はあらわれております。残業規制が緩和されて働きにくくなってやめざるを得ない女性あるいは働き続けながら子供を産めなくなってやめざるを得ない女性がふえております。これは
労働省の統計をごらんいただければわかるように、働きながら子供を産んだ女性が減ってきている。昭和六十年までは毎年毎年やめなくなって退職者が減っていたわけですけれ
ども、六十年の
調査では一転して妊娠した女性が退職する割合がふえております。このような事態がこの
弾力化によってさらに増加するということを大変懸念しております。
もう一つ、残業できないという女性に対して、現在コース別
雇用だとかさまざまな
方法によって事実上差別が固定化されております。均等法によって差別がかえって拡大し、固定化されるというこの元凶、一番の原因というのは何かというと、これが
労働時間の問題にほかならないわけなのです。このような事態をさらに一層深刻にする。その結果、妊産婦以外の女性にとっても、職場と家庭の二重
労働によって母性機能と健康が破壊される、あるいは父親不在に加えて母親も夕食時に帰宅できないということになれば、家庭はどうなるでしょうか。子供たちはどうなるでしょうか。これを避けようと思う女性はやめざるを得ません。やめてパートにならざるを得ない。これによって差別が拡大し、固定化されております。
今回の
弾力化の拡大によって、このような事態が大変懸念されるということを、私はこのところあちこちで主張してまいりました。これに対して
労働省の側はどのようにお答えになっているかといいますと、ここにおいでになります野崎審議官が新聞でお答えくださいましたけれ
ども、現在既に四週単位の
変形労働制が採用されているけれ
ども、特に私が申し上げたような心配はないのだ、だから大丈夫なんだ、心配し過ぎだというようなお答えでした。しかし、これでは私
どもは到底納得できません。なぜならば、現在確かに四週単位の
変形労働があります。しかし、これを採用している
企業はどの程度でしょうか。これは後で正確な資料を
提出して、それをもとに御
議論いただきたいと思いますけれ
ども、私が伺っているところによりますと、全事業所のわずか一・六%にすぎない。その中で最も多く採用しているところが運輸
関係であって、これでも二十数%である。そのほかの事業所ではほとんど数%ないし一%にも満たない事業所しか現在四週間単位の
変形労働を採用しておりません。その中でも特に女性が働いている職場で変形制が導入されているところといいますと、これは病院と旅館業などを
中心とする交代制勤務を必要とする職場、これもまたさらに極めてわずかと言えると思います。しかも、これらの事業所で働く女性は、その職場というのは、看護婦さんが典型ですけれ
ども、不規則な
労働であるということをあらかじめ了承した上で、その態勢を考えて就職するのであります。したがいまして、これが今回拡大されようとしているものとは大きく違うのだということを指摘しておかなければならないと思います。さらにこのようなあらかじめ覚悟して入った職場であっても、実際にそこで子供を産んで子供を育て、家族の世話をしながら働き続けるということは極めて困難であって、大
部分がやめざるを得ないというのが
現実でございます。現在の変形制の中で特に心配になるような事態が起きていないという
労働省の御指摘は大変残念です。
現実の
労働者の現場について、もっとお調べいただきたいと思います。特に女性の
現実についてお調べいただいた上で、今回の審議を尽くしていただきたいと心から
お願いいたします。
時間が余りなくなりましたので、少し急がしていただきますけれ
ども、そのようなことで
弾力化ということは大変心配なのです。その中でも特に三カ月単位の
弾力化は深刻です。しかし、今まで三カ月単位の
弾力化についてはかなり
議論をされてきておりまして、先週この
委員会での審議を伺っておりましても、ある程度の修正の御用意もなきにしもあらずというふうに私
ども聞いておりまして感じました。
そこで、私がきょうここで強調して、今後の審議の中で十分御審議いただきたいと思うことは、一カ月単位の変形制とフレックスタイムです。
一カ月単位の変形制というのは、今まで四週間単位のがあったから、それをちょっぴり延ばすだけだから大して問題がないというふうにお考えになっているかもしれません。しかし、これは全く違います。なぜならば、
我が国の
企業というのは大体事業の繁閑は一カ月を単位にして回ってきますね、サイクルは。月末が忙しい、月初めが忙しい、あるいは五、十の日が忙しいという形で一カ月単位です。ところが今までの四週間単位の変形制というのは、サイクルが四週間ですから、四週間と一カ月ではサイクルが合わないんですね。したがって、これは十分に使えなかった。交代制勤務を採用しているところでは使えるけれ
ども、そうでない
企業では余り使えなかった。
ところが、今回一カ月単位になることによって、ほとんどの
企業でこれを使うことができるのではないでしょうか。月末忙しいときに、これを残業としてではなくて所定内
労働として働かせて、暇なときに休みをとらせるということがどこの
企業でもできるようになるのじゃないでしょうか。これもとっても心配です。しかもこの一カ月単位は時間
短縮さえ行われないのですね。
労使協定も行われません。このようなところで大
部分の
企業がこのようなものを利用するようになったらどうなるでしょうか。これも心配です。
それからフレックスタイム、これについても大変心配です。これは
特定性というものがないだけに大変心配です。しかし時間がないので、後で補足的に説明させていただければ大変幸いです。
いずれにしろ、三カ月単位が深刻ではありますけれ
ども、それ以外の一カ月単位、フレックスタイム、さらには非定型の変形制、これはいずれも大変心配でございます。
それで、これらいずれに対しても、上限規制とかそれから連続就業の規制、その他十分な歯どめなしにこのまま採用されるということが決してないように心から
お願いしたいと思います。
第二に、年休の問題でございます。
年休については、水準の問題、不利益禁止の問題、いろいろございますけれ
ども、ここで女性の立場からぜひ申し上げておきたいことは、計画的付与です。確かに男性の
方々がみんなと一緒でなければ休めないということがあるかもしれません。しかし、今女性は年休をどのように使っているでしょうか。これは本来の
趣旨ではありませんけれ
ども、子供が病気になったときに年休を使わざるを得ないんですね。これは五日では絶対的に足りません。子供が病気になると、
保育所から、すぐに迎えに来るように電話がかかります。これは五日なんかでは全然足りないんです。これに対して計画年休をとらなければ、もう年休をとってはいけない、欠勤なんだと言われたらどうなるでしょうか。これらについて、計画年休を採用するとしても、それに加わらない、拒否することができる
権利というものを何とか設けていただきたいというふうに心から
お願いします。
第三に、
労使協定の問題です。
これについては
角田参考人の方から述べられましたけれ
ども、私が申し上げたいことは、女性は組合がほとんどないところで働いております。そこで今まで
労使協定については代表者の選出
方法については行政指導するなどと言われております。しかし、その
内容については全くこれまで
議論されていないんですね。代表者を一度選んでしまえば、どのような
労使協定を結ぶか、女性にとっては大変困るような
労使協定を結ぶとしても、それらの
意見を聞くことは何ら義務づけられていない。行政指導についてさえ言及されていない。その
議論さえ行われていないというのは、私は大変残念に思います。これらについてもぜひ御
議論ください。
最後になりますが、今私は人権という立場から、しかも女性という立場からだけ申し上げてきました。しかし、これは決して女性だけの問題ではありません。男性
労働者の問題、さらに子供の人権の問題として考えていただきたいのです。
先週のこの
委員会の御
議論の中では、しきりに生活の質の
向上ということが語られておりました。生活の質の
向上とは何でしょうか。家族が一緒に夕食をとり、夫婦親子がゆとりを持って語り合い、ともに遊び、社会的な活動をするということこそ生活の質の
向上ではないでしょうか。
日本経済の立場からいろいろな御
議論もあります。しかし、今
日本にとって、
日本経済にとって求められているのは何でしょうか。今貿易国家として国際社会の中で生きていかなければならない
日本としては、単に働き過ぎで諸外国から非難されるということによって失うものがいかに多いことか。一生懸命汗水流して働いて経済成長をかち取ったけれ
ども、これによって諸外国から批判され制裁され、しかも
円高不況という形で、今までの
労働が無になるという事態に私たちは立たされております。このような
現実を見るならば、今こそ私たちは本当に生活の質の
向上のための
労働時間の
短縮、そのためには、生活のリズムに合わせた一日の
労働時間をできる限り守り抜くという、この基本こそ最も要求されていることではないかと思います。ありがとうございました。(拍手)