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1987-03-03 第108回国会 衆議院 予算委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年三月三日(火曜日)     午後一時三分開議 出席委員   委員長 砂田 重民君    理事 今井  勇君 理事 野田  毅君    理事 浜田 幸一君 理事 林  義郎君    理事 吹田  愰君 理事 上田  哲君    理事 川俣健二郎君 理事 池田 克也君    理事 吉田 之久君       相沢 英之君    愛野興一郎君       伊藤宗一郎君    上村千一郎君      小此木彦三郎君    小渕 恵三君       越智 通雄君    大野 功統君       海部 俊樹君    小坂徳三郎君       左藤  恵君    桜井  新君       志賀  節君    椎名 素夫君       園田 博之君    武村 正義君       西岡 武夫君    原田  憲君       福島 譲二君    細田 吉藏君       武藤 嘉文君    村田敬次郎君       村山 達雄君    山下 元利君       井上 一成君    井上 普方君       稲葉 誠一君    川崎 寛治君       菅  直人君    嶋崎  譲君       細谷 治嘉君    坂口  力君       水谷  弘君    宮地 正介君       森田 景一君    木下敬之助君       楢崎弥之助君    金子 満広君       柴田 睦夫君    寺前  巖君  出席国務大臣         内閣総理大臣  中曽根康弘君         国 務 大 臣 金丸  信君         法 務 大 臣 遠藤  要君         外 務 大 臣 倉成  正君         大 蔵 大 臣 宮澤 喜一君         文 部 大 臣 塩川正十郎君         厚 生 大 臣 斎藤 十朗君         農林水産大臣  加藤 六月君         通商産業大臣  田村  元君         運 輸 大 臣 橋本龍太郎君         郵 政 大 臣 唐沢俊二郎君         労 働 大 臣 平井 卓志君         建 設 大 臣 天野 光晴君         自 治 大 臣         国家公安委員会         委員長     葉梨 信行君         国 務 大 臣         (内閣官房長官後藤田正晴君         国 務 大 臣         (総務庁長官) 山下 徳夫君         国 務 大 臣         (北海道開発庁         長官)         (沖縄開発庁長         官)         (国土庁長官) 綿貫 民輔君         国 務 大 臣         (防衛庁長官) 栗原 祐幸君         国 務 大 臣         (経済企画庁長         官)      近藤 鉄雄君         国 務 大 臣         (科学技術庁長         官)     三ッ林弥太郎君         国 務 大 臣         (環境庁長官) 稲村 利幸君  出席政府委員         内閣官房長官 渡辺 秀央君         内閣法制局長官 味村  治君         内閣法制局第一         部長      関   守君         公正取引委員会         委員長     高橋  元君         公正取引委員会         事務局経済部長 厚谷 襄児君         総務庁長官官房         審議官             兼内閣審議官  勝又 博明君         防衛庁参事官  瀬木 博基君         防衛庁参事官  古川 武温君         防衛庁参事官  児玉 良雄君         防衛庁参事官  筒井 良三君         防衛庁長官官房         長       友藤 一隆君         防衛庁防衛局長 西廣 整輝君         防衛庁教育訓練         局長      依田 智治君         防衛庁人事局長 松本 宗和君         防衛庁経理局長 池田 久克君         防衛庁装備局長 鎌田 吉郎君         防衛施設庁長官 宍倉 宗夫君         防衛施設庁労務         部長      西村 宣昭君         経済上画庁調整         局長      川崎  弘君         経済企画庁物価         局長      海野 恒男君         経済企画庁総合         計画局長    及川 昭伍君         経済企画庁調査         局長      勝村 坦郎君         国土庁長官官房         長       清水 達雄君         国土庁長官官房         会計課長    佐々木 徹君         外務省北米局長 藤井 宏昭君         外務省経済局次         長       池田 廸彦君         外務省条約局長 斉藤 邦彦君         外務省情報調査         局長      新井 弘一君         大蔵大臣官房総         務審議官    足立 和基君         大蔵省主計局長 西垣  昭君         大蔵省主税局長 水野  勝君         国税庁次長   冨尾 一郎君         厚生省保健医療         局長      仲村 英一君         農林水産大臣官         房長      甕   滋君         農林水産大臣官         房長      上野 博史君         通商産業省産業         政策局長    杉山  弘君         中小企業庁長官 岩崎 八男君         郵政省貯金局長 中村 泰三君         労働大臣官房長 岡部 晃三君         労働省職業安定         局長      白井晋太郎君         建設大臣官房長 高橋  進君         建設大臣官房会         計課長     市川 一朗君         自治省税務局長 津田  正君  委員外出席者         予算委員会調査         室長      右田健次郎君     ――――――――――――― 委員の異動 三月三日  辞任         補欠選任   宇野 宗佑君     大野 功統君   奥野 誠亮君     武村 正義君   田中 龍夫君     園田 博之君   松野 幸泰君     椎名 素夫君   大久保直彦君     森田 景一君   不破 哲三君     柴田 睦夫君 同日  辞任         補欠選任   大野 功統君     宇野 宗佑君   椎名 素夫君     松野 幸泰君   園田 博之君     田中 龍夫君   武村 正義君     奥野 誠亮君   森田 景一君     大久保直彦君     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和六十二年度一般会計予算  昭和六十二年度特別会計予算  昭和六十二年度政府関係機関予算      ――――◇―――――
  2. 砂田重民

    砂田委員長 これより会議を開きます。  昭和六十二年度一般会計予算昭和六十二年度特別会計予算昭和六十二年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、総括質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、これを許します。山下元利君。
  3. 山下元利

    山下(元)委員 私は、昭和六十二年度予算総括質疑に当たりまして、自由民主党を代表いたしまして、中曽根総理大臣初め閣僚皆様に御質問をいたしたいと存じます。  きょうの閣議で、完全失業率が三%を超えた、今までそうしたことは初めでだと思います。ことしの初めから大変な円高円高不況、非常に国民皆さん心配は多いのであります。そして、その問題はやはり雇用問題に関係すると思われるときに、昭和六十二年度予算を早く審議して、その成立を期することは私たち責任であると思います。きょうは、そうしたことで、この六十二年度予算審議を非常に待望せられた国民皆さんの前で、総理大臣初め閣僚皆様の御所見を伺いたいと思うのであります。  まず最初に、中曽根総理大臣は今国会施政方針演説において、私は、内閣総理大臣就任以来、政治の見直しと新しい政治建設のために「戦後政治の総決算」を唱えてまいりましたと言われました。ところで、戦後の我が国政治は、我が国の独立と経済再建を達成された吉田茂元首相に始まる流れによっております。そしてまた、岸信介総理は、日米安保条約の改定を敢然と実現することにより、日米関係を強固なものに安定させたのであります。  翻りまして、中曽根総理は、戦後、昭和二十二年の総選挙で初めて当選されまして以来、歴代内閣でいろいろ御苦労になったわけでございますが、四年前に政権の座につかれたのであります。そして、この四年有余の間に、中曽根総理は目覚ましい働きをされたと存じます。  まず第一は外交であります。国際社会における日本の位置づけ、国際社会の中において日本はどうあらねばならないかということをはっきりされました。そして、世界の平和と繁栄のために日本として果たすべき役割は何か、その役割を果たすという道を実行されてまいったのであります。そのためには、米国との関係を再調整されました。そしてまた、近隣諸国、特に韓国との関係を安定したものにされたのであります。  そのように外交面における大きな御功績がありますが、国内政治の面におきまして申し上げますと、自由民主党が結党されましたのは昭和三十孝年であります。その保守合同による政局の安定を図られた後、経済的には高度成長時代を迎えたのであります。その高度成長時代は十四年前の石油ショックとともに終わりました。民間は、大企業中小企業も、まさに血のにじむような努力をして新しい安定への道をまさぐってこられたのであります。  しかしながら、この民間努力に対して国の行政財政はどうであったか。率直に言って、大きく立ちおくれた面があると私は思います。石油ショック後のこの苦しい状況を乗り越えるために、やむを得ず赤字公債の発行に踏み切ったのでありますけれども公債全体としては百五十二兆円という残高を迎えようとしておる。そのうち、建設公債のほかの赤字公債、これは全くの赤字の、借金であります。この赤字公債国民一人当たりにすると五十六万円になるというふうな状態であります。これは、そのまま次の世代への大きな借金となって重荷になろうとしているのであります。  中曽根総理は、これではいけないということで、鈴木前内閣のとき以来、精いっぱいの行財政改革を進めてこられたのであります。この点について後ほどお伺いしたいと思いますが、具体的には政府予算一般歳出を五年間連続して伸び率ゼロに抑えられました。また、専売公社電電公社国鉄民営化実現されたのでありますが、特に国鉄改革はまさに歴史的なことと申さねばなりません。  総理施政方針演説においで、こう申しておられます。国民皆様の御協力により、行財政改革国鉄社会保障教育等の分野における諸改革は一歩一歩実現を見てきていると存じますと言われました。まさに行財政改革は一歩一歩実現を見てきております。  さらに、今国会においては税制抜本的改革案と諸法案について御審議願うことになっておりますが、日本国憲法施行四十年の記念すべき年に当たり、戦後民主政治全般について検討と建設的討議を行いたいと申し述べておられるのであります。まさに税制改革という最後の、そして最大改革について、この国会具体案を示して、国民理解のもとに改革実現を果たそうとしておられるのであります。  総理総理が今申し述べましたように果たしてこられました内外の改革は、やがて来るべき二十一世紀に向かって日本がもう一つ前進、ジャンプするための基本的な条件と申しますか、それを整備するものでありまして、これらを実現することがとりもなおさず政権を担当する我々の責任であります。保守政治であります。  今国会予算審議状況は容易ならぬ状況でございますが、この予算審議冒頭に当たりまして、改めて中曽根総理の総決算あるいは改革についての基本的なお考えを承りたいと存じます。そして、税制改革を問われようとしておりますが、ともすれば、行政改革努力はもっと続けねばならないのではないか。私どもは、今まで申し述べましたように、今まで随分行政改革についての努力はされましたけれども、その御労苦に対しては心から敬意を表しますとともに、その行政改革についてのお考えもあわせてお伺いしたいと存じます。
  4. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 私は、国民皆さんの御支援をいただき、御指導をいただきまして、在任五年目になりますけれども、なすことも少なくお恥ずかしい限りであると思います。仮に多少でもなすことがあったとすれば、それは国民皆さんの御支援たまものであり、かつ自由民主党の党員の皆さんの熱烈な御支援たまものであり、かつ野党の皆様方の御理解をいただいた結果であると考えております。  「戦後政治の総決算」と申し上げましたのは、私は戦後四十年間、昭和二十二年から国政に携わりまして、戦後の日本歴史と功罪をともに分かち合ってきたものでございますが、戦前の経験もございます。そういう意味で、日本戦争前、戦争後というものも比べ、これから二十一世紀に向かって日本が進む道を考えまして、そして、ここでこれをやらなければいけない、そういう考えに立って総決算という言葉を申し上げたのでございます。  私は、戦後の四十年間、日本のこの歩みというものはすばらしい時代をつくったと思っております。よく申し上げているとおり、これは世界歴史においてもほとんど並ぶことのないぐらいなすばらしい四十年間を日本人はつくり上げたと思っております。特に、民主主義が岩盤をしっかりと構築いたしました。そして、人権が尊重され、平和は続き、それから婦人参政権を認められるとか、婦人の地位が著しく向上もし、それから中央と地方の格差が非常に減ってまいりました。それから国民の富が、余り大尽もいなければ貧しい方もいないという、中堅層に固まったちょうちん型の社会日本はなってきまして、アメリカあたりは貧しい人と富んだ人の差が一対九ですが、日本は一対三であります。  これはいかに日本社会というものはほかの国に比べて公平、公正に近いかということを示して、これはぜひとも堅持していかなければならぬと思いますし、あるいは戦後の文化あるいは教育等を見ましても、子供たちを見ましても非常に伸び伸びとしておりますし、人権は保障され、言論の自由は確保され、国民皆さんは好きなことを言える時代になりまして、この成果は我々はさらに持続していかなければならぬと思っております。  しかしまた、一面見ますというと、この四十年間にさまざまな病理的現象も出てきております。それは、いじめであるとか、そのほか教育問題にも出てきておりますし、あるいは官庁が肥大化いたしまして、ややもすれば税金が重くなるという心配国民皆さんはお持ちでございます。そういう面のほかに、今や国民重税感、特にサラリーマン皆さん減税してくれ、家庭主婦皆さん減税せよ、そういう御注文が非常に強くなってまいりまして、不公平税制に対する指摘も強いのです。  そういう意味におきまして、ここで四十年間の税制を再検討いたしまして、みんなが気持ちよく、これは国民でありますから、出せる人は税金を負担願うのは当然でございます。身分に応じ、力に応じて適切な税金を御負担していただいて、みんなに公平に、まあお国のためだから出しましょう、そういう税の体系にここで転換する必要がある。そういう意味において、行政改革財政改革、それから教育改革、それから税制改革ということを申し上げまして、逐次実行し、今税制改革の大問題に、ここに来ておるところでございますが、これは二十一世紀日本を見ますとどうしてもやらなければならぬときに来ていると思います。  と申しますのは、今の税制体系で見ますと所得税法人税、お酒の税金、これが中心です。大体所得税で十六兆、それから法人税で約十二兆ぐらいですか。個人の所得税は四兆ぐらい、自主申告のもので事業所得など。そのほかお酒の税金で約二兆円ぐらいいただいておる。これが税金中心でありまして、あとは相続税とかあるいは物品税とか、そのほかで約十一兆円ぐらいいただいておる。  そうすると、これからの日本考えますと、所得税を減らさなければいけない、法人税外国並みに減らさなければいけない。これを減らしていくというと、国のお金をどこから持ってくるかという問題になります。しかも、外国はどんどん法人税所得税も下げております。そうすると、日本が国際的にも競争力を持っていくためには外国並み所得税法人税も下げなければ、これは競争できません。今、もうそういうときに来ておるわけです。その上に国民皆さん重税感不公平感があって、サラリーマン家庭主婦皆さんからいつも我々は言われているわけですから、そういうひずみを是正して、そして正常な、国民がまあまあと言って協力してくださる税の体系に変える、そういうときになった。  それで、所得税法人税を下げなければいかぬというのに、では何でそれを補うかという問題が出ます。そうなると、もしそこに手をつけないでこのまま行ったら、所得税法人税減税していかなければならぬでしょう。そうなると税というものは、赤字公債に頼るわけにはまいりません。どこかで求めなければならぬ。そういう意味で、税制調査会等におきまして、今回の売上税あるいは利子課税という問題でこの問題を解決しようとしたわけでございます。これについて今いろいろ御意見が出ていることをよく承知しておりますが、よく御理解願う必要があると思っています。  このまま行ったら国の財政は萎縮してまいりまして、そうして結局縮小再生産に日本経済は入っていきましょう。これは景気を上げるという力と反対の方向に参ります。それから、地方財政は今の所得税法人税、酒税の三二%を交付税でもらっているわけですから、これが減っていけば地方財政も非常に厳しくなる。それから、公共事業費ももう縮小に入っていかざるを得ない。そういうことで、国全体がこのまま放てきしておいたら、これはますます萎縮して小さくなっていく。  それから大事な点は、いよいよ福祉社会長寿社会が参ります。現在は、人口で見ますと、二十以上から六十まであるいは六十五までと言われますが、その働く人と、それから老人になった、援護を受けている、老人として扱われている方との比率は、今六人で一人養っています。しかし、二十一世紀、もう十年ぐらいたつというと三人で一人を養わなければならぬぐらいに老人がふえてまいります。そうなると、その老人を三人で養わなければならぬということになれば、養う方は税金が高くなったり、あるいは社会保険料が高くなったりせざるを得ません。そういう将来を考えてみると、日本社会保障制度を健全に維持していくためにも、将来そういうものに耐え得るような国の財政構造に合しておかなければいけない。  そういうような考えに立ちまして今回の税の改革をお願いしておるのでございまして、国民皆さんに十分御説明申し上げたいと思っておるところでございます。
  5. 山下元利

    山下(元)委員 私が申し述べましたように、行財政改革等を進める、だが税制改革という、この最後最大改革について審議を求められるお立場をお伺いしましたところ、極めて明快なお話を伺いました。  ところで、今もお話ございましたように、今国会で大きな問題と言われるのは、まさに総理の申されました不公平税制を解消するための税制改革であると存じます。ところが、きょうこうしてこの予算委員会が開会されて国民の前で審議が進められるわけでございますが、現在までの議論を見ておりますのに、何か税制改革はあるいは金持ち優遇ではないか、貧乏人いじめではないかというふうな言葉が広がっておるのであります。  私ども自由民主党から言わせていただくならば、そのようなことだけで、何か言葉だけがひとり歩きしているという状態はまことに憂えられてならないのであります。総理が今申されましたように、二十一世紀のために、国民のためにしっかりとした税制改革を御提案されておるわけでありますから、これからの審議を通じまして十分皆さんの前ではっきりしていただきたいと存じます。  おかげさまで昨年の衆参同日選挙で私ども自由民主党は圧倒的な国民の支持をいただきました。私どもはその責任を感じて、本当に国民のために一生懸命やらねばならないと存じます。その自民党が、金持ちだけを大事にして貧乏人いじめるとか、そのようなことがあるわけがございません。私どもはあくまで国民皆様を不幸にする政策を進めるわけはないのでありまして、もっともっと自由民主党を信頼していただきたいと存じます。  税制改革は、言葉キャッチフレーズだけでは片づけてならない問題であります。まさに国民皆様が、税というのは一番基本的なものであります。考えてみると、議会というものは税から始まったと存じます。いかに国民が税を負担するかということを議会において審議することが始まりであります。それほどの大事な問題であります。私は、今度の国会でもう一つ大きな問題は、防衛費の問題があると思います。税制改革防衛の問題、この大事な二つの問題でありますが、この防衛の問題については同僚の椎名議員にお願いしたいと存じますが、税制改革については、ただいまのように、私はぜひとも具体的な審議を続けて、問題点国民皆さんに明らかにしていく、そうして結論を得るということにぜひお願いしたいのであります。この言葉だけで、キャッチフレーズだけで論議されることなく、真剣に審議していただきたいと思いますが、これについての総理の御所見をお伺いしたいと思います。
  6. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま、このたびの税制改正がいわゆる金持ち優遇ではないかということについて御指摘がございましたが、事実はまさにそのとおりではなく、いわゆる勤労者中心にいたしまして、そういう人々に対しての減税が一番大きい、そういうことをねらいにいたしました税制改正を御提案をいたしております。  すなわち、このたびの税制改正によりますと、平年度では勤労者のいわゆる標準世帯でございますと、大体四百三十万円程度まで一番低い軽減税率一〇%の適用になります。現在はそのところに一〇・五、一二というような税率がございますが、全部一〇%になりまして、それから四百三十三万円から八百八十万円余りのところまでは一五%一本になります。したがいまして、いわば会社に入られまして、社会に出られまして、そのコースをほとんど終わるに近いところまでの方が、勤労者にしますと一〇%あるいは一五%、それ以上の税率はないということになりまして、現行の課税と比較をいたしますと、階層によりまして違いますが、ほほ二けた、三〇%に近い減税のところまでがございまして、したがいまして、国民の一番中軸であります勤労者にとっての減税が非常に大きいということになります。  もとより、それとの関連におきまして最高税率も、ただいま申し上げましたのは住民税所得税合わせましてのことでございますが、最高税率も引き下げましたけれども、しかし、それでもなお我が国最高税率、今度、合わせますと六五になるわけでございますが、それでも世界でやはり一番高い最高税率でございますし、しかも、このたびの改正にあわせましてキャピタルゲインでありますとかあるいは土地の重課というようなこともお願いをいたしておりますので、そういう人々にとりましてはなおかなりきつい税制になっております。  繰り返して申しますと、まず課税最低限を二百五十九万円に上げまして、しかも勤労者にとってはほとんど生涯を一五%までの税率で過ごせるといったような税制考えたわけでございます。  なお、続きまして、いわゆる非課税貯蓄についての扱いが場合によっては金持ち優遇ではないかという御批判があるのを耳にいたしますが、現在の個人貯蓄の七割ぐらいまでがこの非課税貯蓄によっておるところを見ますと、それは、いわゆる零細な方々もこの制度は御利用でございますけれども、七割となりますと、これは自然、所得の大きな人が余計利用しておられることは間違いがございません。そこで、これを老人でありますとかあるいは身体障害者でありますとか母子家庭でありますとかいう方々のためには全く免税にする、現在の制度をそういう方々のために適用することにいたしまして、その方々以外のためには二〇%の一本の税率をお願いをする。  これをいわゆる富裕な方々がこの制度を今まで利用しておられた形態から考えますと、御承知のように一人につきまして三百万円の三倍、九百万円の利用が可能でございますから、標準世帯でございますと三千六百万円の利用が可能であったと思われます。それがこのたびは全部課税になるわけでございますし、おまけにこの方々はその上になお例えば割引債券も使っておられたと思いますので、実はこの非課税貯蓄を改めますことは、本当に援助の手を差し伸べるべき人々のためには非課税の制度を置く、それ以外の方々にはひとつ納税をお願いしたい、こういうことでございますので、実際の負担は所得の大きい人の方が余計になるということは恐らく間違いないことだというふうに考えております。
  7. 山下元利

    山下(元)委員 税制の問題につきましては、そのうち間接税等につきましてもお伺いしたいと存じますが、さて、私も議員歴二十年をつい先日迎えたのであります。この前の自民党大会で、総裁である中曽根総理大臣から表彰いただきまして、ありがとうございました。  その二十年を迎えまして、つらつら思いますのに、我々議員の使命は何であるか、また一議員として在籍し、そして国家国民に対する責任とは何かということをいつも考えるのであります。それは、常に先んじて未来を見据えて、国際社会において日本が迎えておりますところのあらゆる難局、難関を先頭に立って志を持って切り開いていくことであると思います。洞察力と判断力、決断力を持ってあらゆる局面に勇気を奮って対処することであると存じます。  我が国国内におきましては安定しているように見える状況でも、いざ一歩外へ出ますならば国際情勢という熾烈な嵐が吹いているのであります。昨年のことはことしの参考にならない、それが現下の国際情勢でありますし、特に国際経済情勢は厳しい局面を迎えているのであります。ことしになってからの急激な円高、それによるところの不況、そして雇用の不安、こうしたことを考えますときに、私どもはこの国際経済の難局に処するために全力を尽くさねばならないと思います。  一国の総理としての御苦労も並み並みなことではないと存じますが、あえて私が常々心配していることを申し上げますならば、最も我が国が友好関係にあらねばならない米国におきますところの財政赤字であります。  宮澤大蔵大臣、この前はG7で大変御苦労さまでございました。それらについてもお伺いしたいと思いますけれども、米国の財政の悪化というものと、その産業の空洞化であります。財政赤字と空洞化という問題は我が国にとって無縁なものでございましょうか。私は、近来我が国におきましても、油断するならばそれに類似する状況になるのでないかという危惧を持つのであります。ぜひともこれらの問題について真剣に考えなければならない。そして、一たび産業が空洞化いたしますと、それを立て直すことは実に容易でないのであります。  実は私、きのう私の地元のある奥様から手紙をいただきました。途中でございますが、ちょっとそれを読み上げてまいりたいと思います。この奥さんは、私の足もあなたと同じ大学の法学部で学んだ、その三年の秋、第一回の学徒出陣で出征し戦死いたしました、出征の際の東京駅頭のにぎわい、そしてまた戦死公報の悲しみを鮮やかに覚えているのでございますが、同じ大学に同じころ学んだあなたを大変身近に感じておるというふうなお立場で手紙をいただいたのです。  その方が、「私達は、今、充分に幸わせな――との国に比べても幸わせな毎日を送れるのは、祖国日本に住むからです。何年後、何十年後、空洞化した日本で」、この奥さんが「空洞化した日本」ということを言われる。まさに空洞化ということをこれほど国民皆さんが広く心配している。その「空洞化した日本で孫や子が苦しむことのないよう、国の方針に随うのが国民の義務と思います。」こう書いておられます。  まさに私は今後の空洞化を排し、そしてそのことによって予想されますところの円高の倒産であるとか失業ということを防止するようにせねばなりません。これはよく考えますと、規模としてはアメリカほどではございませんが、先ほども申しましたように、日本財政がだんだん悪くなりつつある、赤字公債に依存する体質を持っている、それをこれ以上進行させていいのかどうかということを考えるのであります。  財政の強力な基盤の上に立つ政策展開なくしては国際経済に対処していくことはできませんし、今、奥さんが心配されたことのように、将来ともに責任ある国民経済運営を図り、私たちの子供や孫に未解決のツケを回すなどということは、我々の責務として避けなければならないと思います。また、まさにそのところにこそ総理のお進めになってこられた行財政改革があったのではないかと私は理解するのであります。  今後は国際経済のいかなる状況にも対処し得るためにも、何としても国の財政の立て直しと強化が大事であると思います。急務でございます。もう、二、三年先まで待っていいという問題じゃないと思うのであります。財政を立て直し、そのことによって内需拡大を図り、産業の空洞化と失業を防ぐことが必要であると存じます。この前のG7におきましても、この貿易黒字減らし、そして内需の拡大は、まさに国際公約になっております。  総理大臣施政方針演説において、円高の進展に対し、雇用の安定や地域経済の活性化を図り、世界経済活性化へ積極的貢献を行っていくためには、内需を拡大し景気を活気づけるべく、最大限の努力を傾注しなければなりませんと言われております。いかにして内需を拡大するのでありますか。内需拡大、内需拡大ということは、言葉は通ります。しかし、そのために私どもは景気を活気づけるための方策をとらねばならないと思います。そこにこそまさに財政の作用があると思うのであります。  ここに、実はこの前大蔵大臣が御苦労になりました先進主要国大蔵大臣・中央銀行総裁会議の共同声明がございます。これはやはり国民心配しておりました点でありますが、「為替レートを当面の水準の周辺に安定させるために緊密に協力することが約された。」私は、大変これはよかったと思います。どうぞひとつこのことを、国民皆さんに安心してもらうために国際間の協力をお願いいたします。しかし、それで、この合意だけでいいかというと、私は決してそうじゃないと思うのであります。冒頭申しましたように、国際経済情勢というのは非常に厳しいのであります。  ところで、ここで、「日本国政府は、内需の拡大を図り、それにより対外黒字の縮小に寄与するような財政金融政策を続ける。」こう言われております。その中に、「今国会に提出した税制全般にわたる抜本的見直しは、日本経済の活力の維持・増進に資するものである。」今度の税制改正は「日本経済の活力の維持・増進に資するものである。」と言われておる。  私は、先ほど申しましたように、空洞化、企業倒産あるいは失業の不安等に対処するためには、やはり日本経済の活力を増進しなければならないと思います。まさに日本経済の急務であります。税制改正をこうした観点から見まするときに、これについての御所見をお伺いしたいと存じます。
  8. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 所得税減税につきましては先ほど申し上げたところでございますが、このような大きな減税がございますことによりまして国民の可処分所得が非常にふえるということになろうと存じます。したがいまして、売上税の創設は消費に対しては一応それ自身マイナスの作用を及ぼすということは申し上げざるを得ませんけれども、しかし、それによって可処分所得が増加することによります消費の増加というものは、十分それを相殺し得るものであるというふうに考えております。  それからまた、法人税減税につきましては、先ほど総理が言われましたように、いわば世界的な規模で考えませんと、法人の立地というようなものは最近まことに国際的に自由でございますから、そういう意味でも法人税減税の必要があったと存じます。  あわせまして、個人所得税減税による勤労意欲、法人減税による企業意欲、両方相まちまして、このたびの総合的な税制改正は、歳入といたしましては歳入中立的でございますけれども、間接税にウエートを移すことにより直接税の減税を図って、いわば経済の成長、企業意欲、勤労意欲を刺激するものである。したがいまして、それはこの声明にございますように、「日本経済の活力の維持・増進に資する」という認識に立っておるわけでございます。
  9. 山下元利

    山下(元)委員 ところで、冒頭申しましたように、このたび完全失業率が三%を超えた、これは私どもは大変心配いたしております。  この点について、これはまさにこの円高による不況でありますが、このために、現在雇用の問題についてどのように考えておられるか。いろいろ三十万人雇用開発プログラム等もある。そのためにもぜひとも予算審議を進めていただきたいと思いますが、今後の雇用問題に対する御所見を労働大臣からお伺いしたいと思います。
  10. 平井卓志

    ○平井国務大臣 昨年来、経済構造の調整、さらには産業構造の転換等言われておりまして、そのことと雇用問題というのはまさしく表裏一体でございまして、そういう観点から申し上げますと、ただいま当面する日本経済最大の課題は雇用問題じゃなかろうかというふうに考えております。  ただいまの御指摘でございますが、ちょうど一月の統計で失業率が三%に届いたわけでございます。実数は百八十二万。昨年十二月は二・九でございますが、私らの理解では〇・一上がったということだけではなくて、まさしく今後の高失業時代に入らんとするまことに大きい警鐘ではなかろうかというふうに理解いたしております。したがって、この雇用問題につきましては、これは当然のことではございますが、まず一番に為替が安定しなければならぬ。今また委員指摘のように、持続的な内需の拡大を中心にした景気浮揚、これはもう一つのベースとして不可欠でございます。そういう中で、労働省といたしましては雇用対策、新法も含めまして、いろいろ本国会にお願いをしなければならぬと考えております。  かいつまんで申し上げますと、六十二年度の雇用対策におきましては、一番に、今就業が非常に高度化、多様化いたしておりますので、不況業種に対する職業訓練、これはもう不可欠でございますので、相当な思い切った助成制度も創設する。さらには、民間主導でございますが、非常に難しいと言われております労働力の移動を円滑ならしめるために、産業雇用安定センターというものが既に設立総会を終わりましたけれども、運営費その他の補助、さらには全国の安定局を挙げて、総力をもって御支援していきたいというふうに考えております。  昨年来、さらには雇用調整助成金制度の拡充、指定基準の緩和、助成率のアップということをやってまいりましたが、このことをさらに強化して、失業の予防に努めてまいりたい。  もう一つは、この不況問題、失業問題といいますのは、かなり特定の業種、地域に集中をいたしておりますので、それらに対する抜本的な、従来の枠組みを超えた対策が必要であろうかということで、雇用開発のための助成制度、これも新しく創設いたしまして、総合的な地域雇用対策を図ってまいりたい。そういう中で、先ほどお話にございましたような三十万人雇用開発プログラム、これも三十万人とは書いてございますけれども、今後つつがなく予算が執行できましたら、やはり追加予算ということもその当時の状況に応じて考えなければなりませんし、四十万、五十万の人数にも対応できる政策であるというふうに考えております。いずれにいたしましても、今申し上げたようなことを総合的に強力に進めて、かつ予算並びに関連法律案をひとつ通していただきまして、機動的に推進してまいらなければならぬ。  なお、一言申し上げますと、この雇用問題はまさしく国民生活そのものでございまして、この問題につきましては、私見でございますが、与野党の壁はございませんで、一日も早い執行ということが非常に重要ではなかろうか。特段の御理解を賜りたいと思うわけであります。
  11. 山下元利

    山下(元)委員 そして、この雇用問題は地域におきまして大変深刻な不安を呼んでおると思いますが、その地域における雇用の安定の対応策についてお伺いしたいと思います。
  12. 平井卓志

    ○平井国務大臣 地域対策につきましては、先ほども触れましたけれども、やはり第三セクターに対する支援問題、さらには新法と申し上げましたが、地域雇用開発等の促進法案というものを新法としてこの中に相当強力に盛り込んでおりまして、参考までに申し上げますと、雇用対策費につきましては、昨年の当初予算に比べて失業給付費も入れまして約二千二百億、これだけの予算を上積みいたしておるわけでございまして、このことがおくれますると、先ほど御指摘ございました失業率が今後さらに加速的にふえることを非常に危惧いたしておるわけでございます。
  13. 山下元利

    山下(元)委員 私が雇用問題を伺いましたのは、やはりこの税制改正につきましてもいろいろ論議をこれから進めてまいりたいと存じますが、まず所得を得る源である雇用に不安のないようにするのが政治の一番の任務である。そのために我々は何をするか。予算の早期成立もそうでございます。そしてまた、積極的な内需拡大等の政策を展開するためにも財政を健全にしなければならない。財政の健全化は、もういまや赤字公債によらずして、いかに我々の努力で子孫にツケを回さないようなしっかりとした財政制度を打ち立てるか、現在の雇用問題を見るにつけましても我々の責任は大きいと存じます。  ところで、我が国は既に長寿社会を迎えたと言われております。我が国は今後急速に高齢化してまいると存じます。先ほど総理大臣からお話もございましたが、税収入の七〇%以上を直接税に依存している税体系をそのままに保持していけば、高齢化社会の進展とともに働き盛りの人たちは相対的に減るわけであります。したがって、やがては働き盛りの人と、あるいは一部の法人が想像もつかないような重い負担を負わなければならないのであります。現在の福祉水準を守るためには、そうなるのは当然であります。そのことは社会の活力を衰えさせることになる。我が国が今後ますます国際化していくことを考えますときに、そのような社会の中核となるべき働き盛りの人や企業日本離れというふうなことになりますと、これはゆゆしき事態になります。日本社会は崩壊してしまいます。  この長寿化社会を迎えました我が国においては、今のうちに、直接税に偏り過ぎた、私はあえて偏り過ぎたと申し上げたい、偏り過ぎた税体系を改めていかねばならないと思います。そのためには、税の負担を特定の階層だけに求めるのではなくて、広く薄く負担を求めるという体系にしなければならないと思います。私は、現在、雇用不安のために内需拡大をせねばならない、そして長寿化社会を迎えたときにそれに対応するための税負担を考えねばならない、このことを考えていかねばならないのでありますが、それで、この際、かつて経験したことのない高齢化社会が到来するのでありますが、今後の社会保障のあり方について大臣の御所見を承りたいと存じます。
  14. 山下徳夫

    山下国務大臣 老人対策の調整の立場から、所管いたしておりますので申し上げたいと思います。  我が国における人口の高齢化が非常に速いということは、先ほど総理も数字を挙げてお示しになったとおりでございます。したがいまして、二十一世紀には本格的な高齢化社会を迎えるわけでございまして、これに対しまして政府はあらゆる施策を総合的に講じていかなきゃならぬ。そこで、政府があらゆる施策を講じるに当たって、まずお年寄りは何を望んでおられるかということを考慮に入れながら推進していく。  せんじ詰めますと三つの問題だと思います。それはまず医療、それから年金、それからもう一つは生きがい対策と申しましょうか。  医療につきましては、六十五歳以上のお年寄りの方々で疾病あるいは何らかの痛みを訴えられる方が大体四割を超している。こういう方々がいつでもどこでも医療を受けられるという体制を確立する。ほぼ、これはもう確立されております。  年金につきましても、昭和三十六年の国民皆年金以来、これはますます充実しつつあります。  もう一つの問題は生きがい対策でございまして、この中でお年寄りが一番望んでおられるのは何かと申しますと、これはお年寄りの調査の結果も明らかにあらわれておりますが、仕事をしたい、働きたいということでございますから、このことに対しまして、就職の相談、職業の相談であるとか、あるいはまた職業の訓練、あっせん、あるいはまた職場の開拓とか発見、こういうことに努め、同時にまた、家庭における家内的な軽作業等まで懇切にひとつ指導をしていくということであります。  同時にまた、物の面だけでなくて、やはり心の面でもお年寄りに対して親切にしてあげなければならぬ。現在、統計的に見ますと、最後の子供さんが結婚されてから新婚当時に返る、いわゆる夫婦だけの二人の生活をされる期間というものは平均十五年でございます。さらに今度は、御主人が亡くなられた寡婦、これが平均七年半でございます。こういう方々に対する心からの一つのいたわりその他の施策というものが大切である。  先般、若い人の世論調査をとりましたある何かに出ておりましたけれども、結婚したらお父さん、お母さんと、両親と一緒に暮らしたいかと言ったら、別がいいと言ったのが八〇%ある。それじゃあなた方が年とったら子供と一緒に暮らしたいかと言ったら、暮らしたいと言う者が八〇%ある。こういう一つの風潮というのはいかがなものか。そこまであわせて物心両面から政府としては老人対策を進めていかなければならぬと思います。そのために、昨年の六月に長寿社会対策大綱というものを関係各省庁、その前からずっと作業をいたしまして取りまとめて、これを基準といたしましてあらゆる分野においてこれらの問題を着々と進めておる、こういう現状でございます。
  15. 山下元利

    山下(元)委員 私は、いよいよ税制改正の話に入りたいと思います。  ところで、先ほどもお伺いしましたように、まず何としても内需拡大を図り雇用の安定を期する、そしてまた、今お話のございました高齢化社会に対応するための費用の負担をせねばならない、そのためにはどうしても財政を立て直さねばならないのであります。私は、税制改正をこの観点から真剣に考えていかねばならないと存じます。何としても、不公平税制の是正、直間比率の見直しというための税制改正でありますけれども、その基盤にはそうしたことを考えていかねばならない。  ところで、実はある新聞の投書を読み上げさしていただきたいと思います。二月十七日、朝日新聞に出ていた投書であります。これは全部読ましていただきます。   合わせて国税の約七〇%を占めるという所得税法人税世界で西独に次ぐ高率といわれる法人税所得税法人税は国税の七〇%を占めている。法人税は西ドイツの次に世界で二番だという。そして、  国際化の進む中で、日本の人口も税率の低い海外へ流出しかねない。 レーガン大統領は、この大きな減税をしております。  また高齢化がすすむにつれ、相対的に人口の減少する中堅サラリーマン層や一部法人の税負担率はますます高くなり、このままでは重税感と税の不公平感はさらに拡大する。そして今後さらに進む高齢化社会に対応するための福祉財源も増大する。 先ほど来私がいろいろとお伺いし、申し上げておるところであります。   これら中堅サラリーマン、法人の減税や福祉財源は、税負担率の高い所得税の負担を軽くし、その分を間接税に求める直間比率の見直しは当を得ていると思う。またクロヨンに代表される税の不公平感も、所得の種類により捕捉率に決定的な差の出る直接税中心の税体系より、 これは、もうこの投書は言っておられます。  所得の種類により捕捉率に決定的な差の出る直接税中心の税体系より、薄く広くバランスよく課税できる間接税の方が、是正がより可能だと思われる。  これらを考えた時、政府自民党の唱える間接税(売上税)を導入し、直間税比率を見直す改革案は理にかなっている。大きな改革には多少の痛みは伴う。目先の利害にとらわれず、長期展望のもとに税改革をすべきである。政府自民党も売上税論議の前に改革の全体像をまず国民に示し、説明して納得を求めるべきである。 これは朝日新聞の投書でございます。  私は、この投書を見て感じたのであります。まさにこの税制改正についてのお考えがここに言われておる。今日の税に対する不満の最も大きいものはクロヨンに示される課税の不公平でございます。本来、脱税というものは民主主義社会において自己否定的な行為であると言われております。そうしたときに脱税が大きな利益を生まないように私ども税制考えていかねばならないと思うのであります。実質的な課税の公平が問題になってまいりまして、私はこのためにも、今の投書にもございますが、所得税減税、そして広く薄い売上税の導入というのは大きな効果を持つと考えるのであります。  今度の税制改革の基本的な考えについては冒頭お話もございましたけれども、今私が非常に残念だと思いますのは、この投書にもございますように、政府・自民党も売上税論議の前に改革の全体像を国民に示すべきである。今、改革の全体像が示されておりません。総理大臣は初めに、今最大最後改革である税制改革を世に問うというのは、そのときにもおっしゃいましたが、まさにこの全体像を十分に説明した上で後、売上税の論議を進めていただきたい。  どうも今、売上税だけが過度に焦点が当てられておる。私は、今度の税制改正は四本の柱である。一つ所得税減税法人税減税、これは昨年の選挙のときの公約でございます。そしてそのときに既に、秋になったら一体とした財源措置を講ずる、これもはっきりいたしておったわけであります。そのときに、もう赤字公債によらない、財源をみずから求める。その中に、先ほどの投書にもございますように、所得税中心主義ではだめだ、何としても広く薄く負担を求めることがこれからの長寿社会に向けても適当であるということは、投書にもあるじゃございませんか。これは新聞の投書だよ。まさに私はそうした意味で、この税制については全体像を議論すべきであると存じます。  その点にただいまの焦点を当てますならば、今度の所得税減税不公平感重税感を解消しておる、法人税減税は国際競争力の強化に役立っておるのであります。実はそこは大体各党も御賛成のようであります。ただ、財源措置についていろいろ意見が異なるのであります。私たち自由民主党は先ほどの観点に立ちまして、昨年、税制改正大綱を責任を持って決めたのであります。そして、この利子の課税の見直しと売上税の創設に決まったわけでございます。利子課税についてのお話は先ほど大蔵大臣から伺いましたが、私はここで、そうした全体像の中で売上税の問題についてお伺いしてまいりたいと存じます。  ところで、さきの奥さんの手紙であります。ここに総理売上税の論議に入ります前に、この奥さんの手紙をそのまま読みます。というのは、先ほど、祖国日本に住むから幸せだと言われた。売上税は、日本に住み、恩恵を受けている私たちは、絶対必要と思っております。しかし、売上税は大型間接税なのですかということを言っておるのであります。  そこで、私たちはこの売上税を検討するときに、確かにこれは初めての税である。したがって、これはなれていただくことが大変難しい。だから、中小の方々にはもう課税の業者になっていただかない。したがって、一年の商いが一億円以下の方々は非課税業者になっていただく。そういう案でございますが、政府もそういうようにお決めになりました。  それから、例えば私たちが飲み食べる飲食科費、これは国民生活で大事なものであります。それから、お医者さんにかかる費用とか教育にかかる費用あるいは社会福祉の事業、これはやはり非課税にした方がいいという観点に立ちました。それを政府としてはいろいろとお決めになりました。     〔委員長退席、野田委員長代理着席〕 そうしたことをいたしまして、これは間接税の中にはいろいろある。お酒やたばこのような個別的な間接税。お酒の間接税とたばこをのむ方の間接税と違って、もういろいろなものにサービスでも何でも物にでも広く薄くかかる税は一般的間接税であります。私は、非課税業者が九〇%もあって、まあ一三%ぐらいの方々が納税事務を持っていただく、あるいは消費者物価を決めるときの国民生活に関係する項目のうち六五%は非課税になっておる、これは大型ではないと思います。  それと、ちょっと、私はこういう数字を申し上げますと、国税と地方税と合わせまして随分いろいろな税金があるのであります。その税金の納税者の数と、それからそれの全体の歳入のうちに占める比率を見ました。所得税は四千四百二万人、法人は百六十六万者、そうしたのでありますが、それの税収のウエートは三五・三%あるいは三〇・一%となっております。この売上税は八十万者、そしてその全体の比重は四・三%となっておる、こういう数字で私は大型間接税でないと思います。今の奥さんの手紙の中で、これは大型間接税じゃないだろうかと言われておりますが、この点については総理、ぜひともお考えをお伺いしたいと思います。
  16. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 この間接税が大型間接税ではないかという御質問をいただいて、野党からその点でいろいろ私は責められておるわけでありますが、率直に申して、そういうふうにお責めになるのは私の真意ではないのであります。  まず、議会で、この予算委員会の席上におきまして、大型間接税とは何だと矢野当時の書記長さん、それから大内書記長さんから大型間接税の定義を求められまして、私は政府の統一見解として、普遍的、網羅的あるいは縦横十文字に投網でばさっとかけるような、そういう一般的な消費税、これは大型間接税であると思います、そういうものはやりたくありません、やりません、そうお答えして、これが国会における政府の統一見解なんですね。ですから、その点は非常によく注意しまして、投網でばさっと全部がかるようなものはいけない、そうでないものにしてほしい、そういうことで、政府税制調査会に諮問するときもその点はよく注意してくださいと。それから、選挙が終わりまして政府税調が最終仕上げをやるときも、わざわざ、選挙でこういう公約をし、こう言っておりますから、それにかからないようにつくってくださいと。また、党の税調の山下さんや山中さんにもお会いしたときに、あなたはお覚えでしょうけれども、公約にかからないように注意してやってくださいとお願いして、それであなた方がお考えになったのが、これは一億円以下はもう取らない。そうすると、六百数十万の事業所の中でわずかかかるのは八十万ぐらいである、そうすればこれは大型ではないだろう、大体八七%はかからない。小売に至っては九〇%かからない。それから、食料とか薬とかあるいは教科書であるとか教育関係、あるいは一般の交通、運輸関係、そういう国民生活の基礎である大事なもの、それはかからない、かけない。それで外した結果が六五%の、大体消費者物価を計算するときの基礎の材料六五%はかからない。これだけの大きな配慮をしていただきまして、そのほか売上税をやるにしても税率をうんと安くした。外国は一五%とか一八%ですが、日本の場合は五%という、こういうようないろいろな配慮をなすった結果、大型ではない。  よく国会の外の人は、そう言ってもよくわからぬよ、そう言われます。私も、それは確かそうだと思います。国会議員の皆さんはここで聞いていらっしゃいますから、なるほど政府が定義した大型間接税というのはこういうものだな。しかし、国民皆さんは全部これを聞いているわけじゃありません。新聞を全部読んでいるものじゃありません。ですから、端的に言えば、投網でばっさり全部かけてしまうというようなものを大型間接税であると俗に言っていいと思いますが、その点は国民皆さんも、かなり広くかかるんだから大型じゃないかというふうにお考えになるのも無理ない点もある。私も、全知全能の神様じゃないですから、国民に誤解のないように全部言い尽くす力はありませんでした。そういう点は私の力不足で申しわけないところであると思いますし、国民皆さんにそういうお考えを持っている方があるとすれば私の説明不足で、それは大変恐縮でございますと申し上げます。  政治評論家がよく議論しているのを聞きますと、あれは大型じゃないけれども中型だ、そういうことを言っていらっしゃる方もある。私も、そんなところかなと思うのです。というのは、山下さん以下がそういうふうに思い切って例外をうんとおつくりいただいたから、これは大型じゃないが中型になるかもしれぬ、そういうふうには思うのです。その点は、私らの説明不足の点が国民一般の皆様方にはありまして、議会皆さんはこの論議をみんな知っておりますからよく御存じなんです。国民皆さんには説明不足の点がありまして、これは申しわけない点もある、そう思っております。しかし、そういういきさつでございますので、よく御理解をお願いいたしたいと申し上げる次第です。
  17. 山下元利

    山下(元)委員 私は、一年の御商売が一億円以下という人が本当に大部分なんです。だから、全部納税業者になるような議論が行われておりますけれども、その点をもっと政府もPRしてもらわなければならぬと思います。  実は私、先週沖縄へ行ってまいりました。そのときにこういうことを言われたのです。沖縄のある島で、ある政党、どの政党だか私わかりませんが、その宣伝車が来て、こういうことを言っている。この売上税というのは、製造者から出るときに五%、税率は五%ですね。それで卸屋さんでまた五%、小売屋さんで五%、合わせて一五%の税金がかかるのだというふうにして宣伝されておるのです。これはもうどなたも、それはすぐにおかしいとおわかりだと思います。あくまでこれは最終の段階で五%で、製造、仕入れの段階では、仕入れのときに払われた税金は売り上げのときの税金から引いて納める。最後が五%なんですね。それをそういう宣伝をされている。したがって、売上税というのは大変な税だというふうな御認識があるのです。  このように、この仕組みというものは、初めてなものですからおわかりにくい点がある。したがって、政府の原案も、本当ならば法律というのは成立しますと施行はすぐにでもやるのですが、この売上税法については来年の一月から実施する。それまでの間十分いろいろと準備をしてもらうということでありますけれども、今の段階ではそのような誤解のあることも実は残念なことでございます。したがって我々は、この売上税については、一億円以下の人は全然課税の対象にならないのだということをもっともっと政府としてもPRしていただきたいと思います。  ところで、そうは言いながらも、この売上税についてはいろいろな問題がございます。それは、この景気の状況のときにおいて、これは景気に差し支えないかとか、あるいは物価について影響はないかとか、しかし、物価が上がると言いながら、同時に転嫁がしにくいという矛盾した議論も行われておりますが、私が今一番すぐにお伺いしたいのは、転嫁の問題についてお伺いしたいと思います。  この税は、今も申しましたように、製造業者、卸屋さん、小売屋さんと、ずっと段階を追いますけれども、最終の消費者に負担してもらう税金であるといいますと、その間においてこの税を転嫁することができるかどうか、非常に危惧されている面があるのであります。売上税導入について最も不安に思っておられる問題は、この税額の価格への転嫁の問題と思われます。  売上税は消費者に転嫁されて、そして消費者の負担になる。これは消費者の負担になりますけれども、この点についてはまたお尋ねしますけれども、まず負担となってこそ、初めて直間比率の是正の趣旨も生かされるのであります。本問題については独禁法との関係考えねばなりませんが、実際に大半の納税事業者を所管される大臣、通産大臣の御見解を承りたいと思います。
  18. 田村元

    ○田村国務大臣 今おっしゃったように、この売上税は、取引の相手方に対する転嫁を通じて最終的に消費者に転嫁されるというものであることは御指摘のとおりでございます。このためにいろいろな施策を講ずることが必要と考えておりますが、具体的な対策を通産省としても十分に検討するように、幅広く検討するようにということを指示いたしております。結論はまだ出ておりませんけれども、例えて言うなれば、景気が低迷している中では、売上税が円滑に転嫁されていくことからも、消費の拡大など内需の拡大に思い切った措置を講ずることも必要であろう。それから、最終価格への転嫁について国民の認識を得るためのPRといいますか、これも十分やらなければいかぬ。率直に言って、先ほど御指摘のようにPR不足ということは言えると思います。この点十分に周知徹底するようにしなければなるまい。  それから、先ほどの独禁法上の問題につきましては、弾力的にこれが実情に応じて運用されますように十分の話し合いを既に事務方同士で始めております。我々の納得のいく姿になるであろうと期待をいたしております。     〔野田委員長代理退席、委員長着席〕
  19. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 売上税というものが売り上げが課税標準であって五%の税率だというふうに言われますと、お店をやっていらっしゃる方は、自分の売り上げから五%取られてしまうのか、そういうふうに当初考えられた向きがあったように思いますけれども山下委員が言われましたように、まず仕入れが八割であればその二〇にかかるわけでございますから、実際は一%ということになる。しかもそれは、御商売をやっていらっしゃる方が身銭をお切りになるわけではなくて、消費者の値段に転嫁されていくわけでございますから、いわゆる納税義務者といってもその方々は自分の身銭を切って何かをされるわけではない。しかも、そういうふうにかかわられる方の数が、山下委員の言われましたとおりせいぜい八十万でございますので、数も限られておる。そういう問題が一つ。  もう一つの問題は、ですから、これを本当にしょわれるのはいわば一般消費者でございます。それも食料品や医療や薬を除いてございますから随分滅っておりますけれども、結局消費者が負担をされる、そのことには間違いはございません。また、実際そうでなければ途中の方が負担をされるということになって、これは税の本旨ではございませんので、消費者に最終的に負担をしていただく。それは申しわけないことではありますけれども経済企画庁の算術でもせいぜい平年度で一・六%ぐらい消費者物価を上げるか、これは免税品目が多うございますからそうなりますが、しかし今、消費者物価は現に前年比でマイナスでございますから、そういう意味ではそれだけ消費者物価が上がるということですら実はないであろうと思うのでございます。  そういう意味では、これをしょっていただくのは消費者であるわけですが、実はその消費者が、先ほど山下委員がしばしば言われますとおり所得税減税を受けておるということがあるものでございますから、消費者のお立場からいえば、これは結局ネットで損にはならない、こういう御判断になっているのだと私は思いますので、今事業をやっていらっしゃる方がいろいろ御反対になっておられるのは、ひょっとして御自分がしょうと思っていらっしゃるのではないか。それでございましたらそうではないということと、あるいは、それはわかっておるが事務が煩雑ではないかとおっしゃるのならば、それはもう極めて簡単な仕組みにしてございます、こういうことであろうと思います。
  20. 山下元利

    山下(元)委員 この点については公取委員長にお伺いしたいが、その前に、これは転嫁が行われたとした場合に、当然それは物価の問題に及ぶわけでございます。物価については、今おっしゃったように五%だけれどもそれは一・六%だと言われましたけれども、確かに物価は上がりますね。ところでその中でよく言われますのは、一物二価になるのではないかというふうなことを言われることがありますが、これについて大蔵大臣の御所見を伺いたいと思います。
  21. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 それは例えば一番いい例で申しますと、私鉄のターミナルあたりに商店街がございまして、この店の方はその周辺の方に物やサービスを売っていらっしゃる、最終消費者を相手に売っていらっしゃる。この方々は免税でございますから、そういう意味では安くお売れになれます。そこの近くの仮にスーパーに比べましたら安くお売りになれるか、あるいは自分のマージンをそれだけ余計にお取りになれるか、これは免税者の特典でございます。そういう意味での一物二価ということは、そもそも我々の市場経済では、あそこのコーヒーがうまいとかあの店は安いとかいうことはもうしょっちゅうあることであって、それが市場経済のいいところである。今のような形で零細な方々が免税者として多少の特典を得られるということは、その方々にとっても消費者にとっても私は決して悪いことではない、こう思います。
  22. 山下元利

    山下(元)委員 先ほど通産大臣からお伺いしましたが、ちょうど公取委員長おいででございますが、結局価格転嫁ということはこの税にとって大変大事なことででございますが、現実にはこの売上税、初めてのことでございます。一体価格転嫁、どうすればいいのだろうか、お得意さんにどういうふうにして話したらいいだろうかとやはり心配はしておられると思うのです。この点について、そうですね、同じような業界で山下商会が浜田商会と、一体どんなふうになっているのだろうかと相談する、おたくの様子はどうですかと聞くというのは、こういうことがあるとすれば、これは一体、今独禁法がありますけれども、そうした相談するとか話を聞くなんということは、これは独禁法に違反するのですかね。  それともう一つ、私は非常に心配なのは、今度の税法でも選択ということがある。一億円以下であるけれども、どうも親会社とか百貨店とか何かどの関係で、非課税業者であるよりも課税業者になりたいと言われる方がある。それは法案としては便法を講じてあります、税額の計算とか納期を四回を二回にするとかありますけれども、ただ、そうしたときに、納入業者、下請事業者に対して例えば仕入れ代金とか下請代金の買いたたきなど行われるのじゃないかという懸念があるわけです。私は、こうしたことは確かにあって、課税業者になるように事実上強制されるようなことがあってはならないと思いますが、下請防止法というのもあるわけですが、以上申したことについて、独禁法とか下請法について公正取引委員長の御見解をお聞きしたいと思います。
  23. 高橋元

    高橋(元)政府委員 今お話のございましたように、売上税は各事業者によって転嫁されることを前提とした間接税であるというふうに私どもは承知しておるわけであります。  売上税は導入時に商品またはサービスの価格を一様に引き上げる性質のものであるし、他方各業界において導入に際しての一時的な混乱も懸念されないことはない、したがってその軽減、回避が課題であろうというふうに存じております。  こういう点につきまして独禁法の観点から申し上げますと、事業者団体において各構成員、事業者団体の構成員でありますが、その公正自由な事業活動が正常に遂行されるように売上税分の転嫁の仕方、新価格の表示の方法などに限りまして話し合いをすることは独禁法上問題とならないと考えております。  ただ、売上税の転嫁に便乗して事業者間で商品、サービスの対価を決定してしまったり、そういうことをいたしますと独禁法上の問題となることは当然だというふうに考えます。  また、事業者団体が構成員に対して売上税関係する資料、情報、こういうものを提供いたしましたり、売上税の制度の仕組みを説明いたしましたり、関係官庁からの協力依頼に基づいて各種の要請を行うとか、構成員に対しまして売上税制施行に伴って生ずる事業経営上の諸問題について指導いたしますとか、さらには、構成員の取引先等に対しまして売上税の導入に伴う業界の実情等について理解を求める旨の要請を行いますとか、そういうことも独禁法上の問題とならないというふうに存じております。  いずれにいたしましても、売上税制導入に際しまして、独禁法上の問題について各事業者が無用の不安を招いたり混乱を生じたりすることのないように関係の各省庁とも連絡を密にいたしますとともに、各業界の実態を十分に踏まえて独禁法の適切な運用に努めでまいりたいというふうに存じます。  その次に、下請法または独禁法関連の御質問がございました。どういう事態が違法であるかということは個々のケースに即して具体的に判断を要することでございますが、一般論でお答えさせていただきます。  第一に、スーパーとか百貨店、こういったところが、取引上の地位が相手方に優越しておるというのが通常でありますから、自己の取引上の地位が相手方に優越しておるということを利用いたしまして、納入業者に対して著しく低い対価で納入させるように強制をする、それによって不当に不利益を与える場合に、不公正な取引の方法として独禁法違反になるおそれが多分にございます。  また、下請に対する取引において、親事業者が既に決められた下請代金を減額してしまったり仕入れの買いたたきを行うという場合に下請法の違反になる、これまたそういうケースが多かろうと思います。  また、お尋ねのありましたように、スーパー、百貨店なり下請の親事業者などが、自分の取引上の地位が相手方に優越しておるのが通常でございますから、その優越的地位を利用いたしまして、非課税事業者たる納入事業者、または非課税事業者たる下請事業者に対して課税事業者になるように強制をする、それに応じない事業者は取引からオミットをする、また差別的な取り扱いをやる、こういうことによって不当に不利益を与える場合には、不公正な取引方法として独禁法の違反になるおそれがあります。  私どもといたしましては、売上税の導入に伴ってこういう違反行為が生じませんように、スーパー、百貨店、親事業者に対して独禁法、下請法の周知に努め、監視をしてまいりたいと存じております。
  24. 山下元利

    山下(元)委員 私は、残された時間がもうわずかになってまいりまして、売上税についていろいろ聞きたいことがございますが、あと二点ほど伺いたい。  同時に、やはりこれは新税でございますから、政府では本当に趣旨の徹底に当たっていただきたい。先ほどのようなことでも、恐らく私は、沖縄のあの方々は聞いて安心されたと思います。ですから、その仕組みというものをもっともっと誠心誠意を持って徹底していただきたいと思います。  私はあと二点伺いますのは、課税業者になる人が、納税コストがかかるんじゃないか、大きなコストがかかるんじゃないか、これを心配しておられます。この点についで、申告書とか、それからまた税額票番号というのは、あれはどうなんだ、あれでは国民背番号みたいになるのじゃないかという心配もあります。そうした納税コスト、納税事務についてお伺いしたい。  さらには、例えば今度はコンピューターソフト、これに随分お金がかかるんじゃないか、これは一回だけでも初めはやってもらわねばならぬとしたときに、その費用をどうするかというふうないろいろな問題がありますが、納税コスト等についてひとつぜひともわかりやすくお伺いしたいと思うのですが、大蔵大臣。
  25. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 この点は総理大臣から特別に私どもに御注意もございまして、まず申告の問題でございますけれども、私どもは申告書のフォームを今つくっておりまして、できるだけ簡素なものにいたしたい。大体B五判ぐらいの一枚紙にいたしまして、それで仕入れと売り上げと税額といったようなものを書いていただいて、そしてあと細かいことになりますと、いろいろ返品とか貸し倒れとかいうのがございますが、それは一般にあることじゃございませんから、そこへ税額票の番号を書いていただく。できるだけ簡単なものにいたしたいと思います。  それで、税額票の番号は、いわゆるグリーンカードのときに議論になりましたような番号ということではございませんで、ただいま利子の課税のときに銀行の支店に銀行の番号を差し上げてございますけれども、そのようなものを考えております。税額票が偽造、変造されないための考え方でございまして、これでもって納税者をどうとかするといういわゆる背番号という観念ではございません。それが一つでございます。  それから、この税金のために新しいプログラムが要るかどうかということでございますが、いいプログラムを持っておられるところはそんなに問題がないと私は思いますけれども、新しいプログラムをこのために注文される、あるいは市販のものを買われるということがございましたら、普通でございますとそれはいわば資産になって五年間の償却になるわけでございましょうけれども、この際は、こういう税金のためでございますから、一遍に損金で処理をしていただいていいのではないかと私は考えでおりまして、それは事務当局にそういうふうに考えるように申しております。  それから徴税の側の立場でございますけれども、先ほど御指摘のように国税、地方税合わせますと入税がなくなりますので、そういう意味で転用し得る人間が相当にございます。また事務の簡素化等も図りまして、できるだけそういう意味でのコストもかからないようにというふうに考えております。
  26. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 今大蔵大臣から御答弁しました課税の申告ですね。とれは私、国税局に命じて、国税局が今どういう案を考えているか、大体考えがまとまったら持ってきなさいと言ったら、きのう持ってまいりまして、この一枚紙で申告すればいいんです。  それで、この一枚紙の内容は、まず第一に納税地、氏名、それから電話番号とか、それに内容としては「課税売上金額」「売上税額」、それから「売上税額に加算すべき金額」「仕入れに係る売上税額」「対価の返還等に係る売上税額」、これは返品の場合の問題ですね。これはまけてくれるというわけです。「貸倒れに係る売上税額」、これも面倒見てくれるというのです。それから「納付税額」が幾らになる、「還付税額」が幾ら。あとは注意事項というので、自分のいろいろな問題について、こうしてもらいたいとかなんとかというふうに書く。それで、還付を受けようとする銀行または郵便局名で、あとは税理士が関係した場合には税理士さんの名前、これだけで結構だと。  ですから、所得税法人税の申告から見れば非常にこれは簡単なものです。所得税だけでもお互い、これはもう扶養家族とか健康保険とか面倒くさいですね。こういうのを、これでいくと言ってきましたからね。私は、皆様方もああこれで大分簡単になるんだなと御理解いただければありがたいと思います。
  27. 山下元利

    山下(元)委員 総理大臣がこのように、申告書にまでこのような御説明を伺って本当にどうもありがとうございます。いや確かに、やはり納税者の心配にこたえることが大事なんです。もう一つ大きな心配がございます。それは、売上税は確かに五%だ、しかし五%で導入したら来年にもすぐに上げるんだ、この制度を決めれば後はもう、できたら二%や三%上げるのはへのかっぱだという話があります。ところで、西ドイツやフランス、イギリスですね、初め一〇%だったけれども、今一四%になったり一五%になっておる。その心配があるのでございますが、この点については総理大臣ぜひお答えいただきたい。その点お願いいたしたいと思います。
  28. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 国によって違いますが、英国のような場合は、税率を上げるのは政府に委任されているのですね。国会を経ない。だからこう簡単に上げられる危険がある。まあしかし、日本の場合は租税法定主義で、大事な問題は全部国会で決めるという形で、これはもう我々としてはできるだけ上げないでいく、そういう考えでいる。もし上げる必要がある場合には、ちゃんと国会皆さんの前で議論をして、何の目的に使うか、どれぐらい上がるのか、そういうことを国会でぴしんと決めて、国会の決議の上でそれはやるべきものだ。もし、じゃ自然増収なんか出できた場合どうか。余計税金が入った場合、私は、これは減税に使うか社会福祉に使うべきだ。そういうような方向で政策的に政府は今決めておるところでございます。外国のように委任されておるのではない、国会で決めるということですから、その点は、上げるとか上げないとか、何の目的に使うとか、これは厳重に国会で監視してやれるだろう。と思います。
  29. 山下元利

    山下(元)委員 一年前の議論では減税不公平税制が盛んに言われておったのであります。所得税減税法人税減税、そして不公平を是正せよということが言われておったのです。私たちは今度の改革案がその二つにこたえていると思います。しかし、減税と不公平をなくするためだけの改革ではだめなんであります。財源を講じなければならない。したがって、自分の都合のいいところだけをつまみ食いする政策はおかしいと思います。  そこで、実はこの税制改正について、私たちは財源措置としてはいろいろ考えた。四兆五千億という所得税法人税減税をやりながらその財源措置について考えた。ところが、野党の税制改革案には、財源措置としてグリーンカード制の復活とかあるいは富裕税というような構想が設けられております。富裕税というのは戦後に行われて、大臣、富裕税のときもいろいろ御苦労されましたが、しかし、あの戦争直後に富裕税がありましたけれども、それは廃止されました。またグリーンカードについては皆さんの御承知のような経緯をたどっております。そうした財源措置として富裕税とかグリーンカード制というものを言われているようであります。こうしたものが果たして適当なものであるのかどうなのか。法人税所得税の四兆五千億の減税をそれて賄うことができるだろうか、あるいはそれは果たして合理的な根拠があるのかどうか、これはぜひとも総理大臣にお答え願いたいと思います。
  30. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 四兆五千億となると非常な大金でございますから、これは相当しっかりとした税でないと、とてもそれだけはカバーできないと思うのです。  それで、野党の皆さんの代案を我々の方でもいろいろ検討しましたけれども、ある党はグリーンカードと富裕税をやろう、あとは不公平税制とか、もっと税を厳しく取れというのもありますね。ある党はグリーンカードを復活しよう、ある党は富裕税をやろう、グリーンカードはやめよう、そういう案が我々の目の前につく。  その党のパンフレットを拝見していろいろ検討しましてみたところ、我々の方で試算をさしてみました。そうしますと、例えば横山町の場合を見ますと、ある党の案では百坪の住宅地はかけない、それ以外商店や何かにはかかる。そういう計算で、それで一%かけよう、あるいは二、三%かけよう、そういう案が幾つかあります。そういうものを中心にやってみますと、横山町で五十坪の店舗を持っておるものを見ますと、これでいろいろ計算してみて、それを今度は、相続税の実際の例がありましたから、それで検証してみたのです。  それで確かめてみた結果を見ますと、五十坪横山町で持っておる商店で見ますと、純財産が八億九千八百万というのが大体の例で出てくる。これで一億円の基礎控除をやって一%かけるとすると、七百九十八万毎年払わされる。それから、基礎控除を三億円にして税率を二%にした場合には千百九十六万払わせられる。  上野の場合を見ますと、同じようなケースで見ますと、九百四十一万あるいは千四百八十二万。それから心斎橋の場合を見ますと、これは千九十三万ないし千七百八十六万取られる。これは収益を生んできて取られるのじゃなくて、持っている財産から毎年毎年利益がなくても取られるという性格のものですから、これは大変な税金だ。とてもこれは、横山町の方でも上野の方でも心斎橋の方でも、これを知ったら大反対するのではないか、そう思いますね。  それからグリーンカードについては、あれはまあいいだろうといってやってみたのですけれども、結局国民総背番号制で、国家権力で人間を統制する形にいくであろう。それから、あれでみんな名寄せをやりますから、結局は国税庁の中央の大コンピューターに日本じゅうの人がみんなコンピューターへ入って、ある銀行へいく、ある郵便局へいくのがみんなこっちへ入ってきて、これはダブってないかというのを検査するわけです。それをやるとなると、結局日本人全部が背番号制で仕分けができて、国家権力がそれをつかむという危険性が出てくる。それから、そういうふうにして財産の関係がわかってきます。あっちへいった、こっちへいったというのもありますから。わかってくるから、これはもう財産がみんな逃げ出して、外国へいくとか土地や株式に移るとか、そういう危険も出てくるわけです。それで民社党の春日一幸さんなんかが非常に力強く反対を叫んで、我々もこれはやめた方がいいというのでやめたわけですね。  ですから、そういう面から見れば、グリーンカードとか富裕税でかわりをとろうというのは私は無理ではないかと思うのであります。結局、まあいろいろ議論がありますが、ここで野党の皆さんの御主張も承って、どれを一番国民が選ぶか、そういうことを国民の目の前で我々でいろいろ議論してみたい、そういうわけで野党の皆さんのお考えも聞かしていただきたいと思う次第でございます。
  31. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 今、富裕税についてお尋ねがございましたが、これはシャウプ勧告にございましたので、ちょうど山下委員もあのころ国税庁、国税局にもおいでになられましてよく御記憶でございますが、昭和二十五年、六年、七年と一遍実行いたしたわけでございます。しかしこれがうまくいきませんでしたのは、やはり銀行預金でありますとか株式でありますとかそういう金融資産の捕捉ができませんで、その結果として土地家屋がほとんど課税、見えるものが課税の対象になった。税収はもう予測をはるかに下回りまして、昭和二十五年がたしか五億円でございました。二十六年が十億円、二十七年が二十二億円であったと思います。歳入全体の〇・一%、〇・三%くらいで、結局その年でやめた記憶がございます。  今回の場合また考えましても、金融資産の捕捉は前回よりなおなお困難でございますから、結局土地家屋というようなことになって、今、総理が例を挙げられましたのは恐らくそういう趣旨で言われたものと思います。
  32. 山下元利

    山下(元)委員 私はだんだんに結論を言わなければなりませんが、やはり今度の改正は、今おっしゃったような財源措置を講じながら、何としてもこの不公平税制是正のための所得税減税をやったということでございます。  私どもは、まあよく言われますのは、学者グループの試算では六百三十万以下は実質増税になるじゃないかとかいうふうなことが言われております。ここではっきりと、所得については大体どれだけの減税になるのか、例えば六百万円の人はどれだけ、三百万円の人はどれだけ、そして八百万円の人は幾ら、そこらを国民皆さんにはっきりと言っていただきたいと思います。
  33. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 先ほど、政策研究フォーラムでございますかの案の中に六百万円くらいのところは増税になるという発表がいっときございまして、私どもこれをチェックいたしましたけれども、どういうモデルを使われたかがはっきりいたしませんでした。結局、売上税についての支出の推定であろうと思うのでございますけれども、しかし、ただ一つはっきり言えましたことは、この計算では法人税関係を全く無視しておられるものでございますから、法人税減税というものがどういう影響を持つかということはこれは議論はございますけれども、しかしどう考えましても、法人税減税というのは、株主に帰属するか消費者に帰属するか、つまり配当になるか製品価格になるかあるいは賃金になるか雇用になるか、その他の世界と無関係だということはあり得ないのでございますし、おまけに我が国の法人と申しますと、実は一億円未満の法人が法人数の九十何%でございますから、法人といっても実は我々の隣にいる人たちのことなんでありまして、新日鉄ばかりじゃないわけでございます。そういう意味で、法人の減税が我々の国民生活に関係がないなんということはあり得ないということだけを申し上げればよろしいかと思います。  それから、先ほどお話しの収入三百万円のところの減税はたしか三〇%でございます。九百万円のところで十九・何%かと思います。先刻申し上げましたように、すべてほとんど二けたの減税標準世帯としてはなります。
  34. 山下元利

    山下(元)委員 それではマル優についてお伺いしたいと思います。  今度マル優については二〇%の一律分離課税の導入をいたした、これは金持ち優遇ではないかという意見がございます。先ほど大蔵大臣からもお話がございましたが、やはりマル優の制度については、今までマル優とかあるいは郵便貯金非課税制度というのは国民に定着しておった、それを今度改正がされるので不安を抱いておられる方もおられると思います。この際、大蔵大臣並びに郵政大臣から、マル優並びに郵便貯金の問題について御所見を伺いたいと思います。
  35. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 いわゆる少額貯蓄非課税の問題につきましては、このたびの税制改正によりまして、これを母子家庭でありますとか身体障害者でありますとかあるいは御老人でありますとか、そのような救援の手を特に差し伸べるべき方々に限ってこの免税を認めよう、それ以外の方々には従来の制度を改めまして二〇%の課税にいたしたいというふうに考えておるわけでございます。  これがいわゆる貧者にきつく当たるということでありませんことは、先ほど申し上げかけたわけでございますが、すなわち、個人貯蓄の七割以上がこの制度によっておる、いわば隠れておると言っては語弊がございますが利用しておるということでございますから、しょせんそれは、低額所得者も利用しておられますが、高額所得者の利用率が高い。それで、標準世帯で仮に四人が法に従いましてこの制度を利用いたしますと、三千六百万円の非課税が可能でございます。これは今まで非課税でございます。このたび二〇%になりますと、仮に三千六百万円でそれが五分に回るといたしますと百八十万円でございますから、その二〇%は三十六万円でございます。それだけのネットの増税になる。これはしかし私はむしろ当然なことであろうと思いますので、したがいまして、今後は、いわゆる救援の手を差し伸べるべき方々、母子家庭あるいは身体障害者、老人等々、そういう方々に限りましてこの制度を残していきたい。それから財形については一〇%ということを考えておりますので、結局ゼロ、一〇、二〇、そういう形でやらしていただきたいと思っております。
  36. 唐沢俊二郎

    ○唐沢国務大臣 今、郵便貯金の利子非課税制度につきましてお尋ねがありましたが、実は、私は昨年、先生と若干考えを異にいたしまして、非課税制度存続に努めてまいりました。しかし、六十二年度の予算案では、先生お話しのようにこの非課税制度は改正をされることになりました。その意味で、期待されていらした方には遺憾と存じます。しかし、この決定も与党において長時間慎重に審議をされた結論でございますし、また、我々の願いをお聞き届けいただきまして、長寿社会を迎えて真に貯蓄を必要とされるお年寄りとか、また社会が温かく手を差し伸べなければいけない母子家庭、また身体障害者には依然として非課税制度が存続されることになりました。また、この税制の大改正では所得税減税される等々かんがみまして、大局的見地に立って決断をいたした次第でございます。  今お話しの、シフトが起こるのかあるいは財政投融資に影響が起きるのかどうかというお話でございますが、影響が全くないと言い切れるかどうか。ここは影響を及ぼすおそれがあるかもしれません。しかし、今回の抜本改正では、利子所得とされておりません金融類似商品につきましても利子課税と均衡のとれた課税制度が導入されますし、またキャピタルゲイン課税も強化をされる。このような大きな資金シフトが起きないように十分な配慮がなされております。かたがたまた、国民皆様から御要望のありました郵便貯金の預入限度額の引き上げとか、国債の窓販とか、また郵便貯金資金の自主運用制度も今度の政府原案では認められておりまして、これはいずれも預金者の利益の増進に大きくつながるものでございます。このようなシフトが起きないように、また郵便局離れが起きないように我々としては努めていかなければなりません。  いずれにいたしましても、時代は大きく変わろうといたしております。我々といたしましては、新しい時代に向かいまして装いを新たにいたしまして、商品面、サービス面で次々といろいろな施策を推進いたしまして、御期待にこたえてまいりたいと思います。
  37. 山下元利

    山下(元)委員 最後に、実は先ほどG7の共同声明について、税制改正のくだりについてはお伺いしたが、あれは四点ございました、税制改正等。それから何よりも六十二年度予算を早期成立するということでございます。それからもう一つ予算が成立したならばそのときの経済情勢に応じて積極的な経済運営をやるというくだりがございます。もう一つは公定歩合の引き下げであります。これは既に実施された。その点について、積極的な経済運営の問題について総理大臣並びに大蔵大臣の御所見を承りたいと思います。
  38. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 冒頭に山下委員が種々お述べになられましたとおり、我が国財政には実は非常にたくさん問題がございまして、財政再建ということを何とかなし遂げなければならない。しかもその道はまだ甚だ遠いという感じがいたしますから、急にその問題が好転をするとは考えられません。したがって、そういうことを頭に置きながら、この内外から我が国に寄せられております内需拡大、社会資本充実の期待にこたえなければならない、こういうことであろうと思います。  さしずめ、このたびの予算におきまして、公共事業あるいは先ほどお話のございました雇用開発三十万人の計画でありますとか、あるいは産業転換でございますとか住宅対策でありますとか、いろいろお願いをいたしておりまして、ぜひともこれは早急に成立をさせていただきまして執行いたしたいと思っておりますけれども、その際にさらに、内需あるいは社会資本を充実いたしますために新しいいわゆる経済刺激をどのようにして考えるかという命題が恐らくそのときにあるであろう。そのときの経済情勢にもよりますけれども、これはまたそれとして考えなければならない。ただ、そのためにもこの予算がまず成立、執行をできませんとその次の手が打てないということで、私ども実は非常に苦慮をいたしておりますので、よろしくどうぞお願い申し上げます。
  39. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 今の経済政策で、私、大事なのは三つあると思っております。一つは内需の振興、つまり景気の対策です。それからもう一つは為替の長期的、合理的な安定。それからもう一つは失業対策。この三つを最重点にして政策をやろうと思っております。  その内需の振興、失業対策で必要なのは、どうしても予算を早く成立させていただいて、そのお金を使わせてください。公共事業費でもお金がなきゃ仕事が始まりません。そういう意味で、予算の成立を速やかにお願いいたしたいと思っております。それで、予算が成立しましたらこれが執行につきましてかなり思い切った政策をやりたいと思っております。毎年、下期のものを繰り上げるとかいろんなことをやっておりますけれども、我々の予算財政の許す範囲内において、最大限の内需政策等を実行していきたいと思います。それによりまして失業問題にも十分貢献できるようにいたしたいと考えております。
  40. 山下元利

    山下(元)委員 いろいろとお伺いいたしましたが、新税は悪税なりと呼ばれます。これはどんなにいい税でも、税を負担する側からいたしますならば、いい税というものはないのであります。ましてや新しい税を設けるとなると、国民皆さんが漠然としたいろいろな不安感を抱かれるのは、これは当然であります。  しかし、以上述べましたように、今も総理も仰せになったが、失業対策もやる、いろいろなことを考えましたときに、先ほど申したように、これからの高齢化社会、そして国際化社会を乗り切っていくためには、所得税法人税に偏り過ぎた現行税制は改めなければなりません。税のひずみを直して、所得税減税をやれ、思い切ってやれと言われるのは、一年前のこの予算審議でも皆さんが強く言われていたことなんです。それを今具体案として提出されたわけでございます。マル優も、本当にマル優を必要とする人たちのためには制度が残されております。そして、言葉はきついけれども、マル優を悪用しているお金持ちにはもう悪用はやめてくださいと言っているのでございます。  私どもは政府と一緒になって、本当に正直に税金を納めてこられた方々、サラリーマンは源泉徴収によって一〇〇%所得税を把握されております。そして、今百六十万の法人のうち半分以上は赤字法人であります。私は、赤字法人もそれぞれの企業経営で御苦労されて、好きこのんで赤字法人になっておられるとは思いません。ただ、黒字法人として営々と努力して税を負担しておられる方々には、やはり何ともやりきれない気持ちが起こるんじゃないかと思うのです。正直者がばかを見てはいけないと思います。正直な人がばかを見ない、損をしない税制にしようとするのが今度の税制改正ではないでしょうか。  しかしながら、税というのは信頼関係がなければこれは成り立ちません。納める側といただく側との、いただく人との間に信頼がなくてはうまくいくものではありません。今度は以前より簡素なことを目指しました。先ほど総理大臣がみずから申告書の用紙をお示しになった、あれはテレビを通じて国民皆様にわかりましたよ。そういう簡単なものにしましたけれども、やはり税の仕組みは複雑です。したがって、政府や我々自民党の側で今まで十分な説明をしてきたかというと、決して十分ではないと思います。しかし、きょうから予算委員会審議が始まったんです。これはやはりどうしても審議をどんどん進めていって、この国会の場を通じてそうしたものを明らかにしていかねばならぬと思います。  先ほど複雑と言いましたけれども、仕組みは簡単なんです。これはもう算術です。所得税法人税のような、あの細かい会計原則や何かで計算しなくていいのです。したがって、そうしたことを言いますと、もっともっと誠心誠意の説明をするよう、これは総理大臣以下の努力をぜひともお願いいたしたいと思います。  最後に、この野党各党の共同見解について総理からもお話がいただけましたが、不公平の是正、二十一世紀を展望して、高齢化――失礼いたしました、社会党、公明党、民社党の政党の御見解を見まするに、不公平の是正とか、二十一世紀を展望して、高齢化、国際化に対応した税制の確立を目指すと言っておられます。これは我々と同じであります。しかし、改革の進め方は、三年ないし五年をかけて進むと言っておられます。  しかし、私たちは今や実行のときだと思うのです。もう完全失業率が三%を超えた。この計算の仕方は欧米と違うのであります。もしアメリカ式の計算をしたらどういう率になるか。いずれにしても、日本で初めて三%を超える事態になったときに、もう三年先、五年先でやってはいけない、今や実行の時期だと思うのであります。薄く広い税負担、正直者が損をすることのない新しい税制国民皆様にお示しして、国会審議をお願いするわけであります。予算案を成立させて、ことしの経済の先行きを明るくしなければなりません。マル優廃止と売上税ばかりが強調されておりますが、最後に言いましたように減税があるのです。思い切った減税をしておるのです。どうぞ国民の幸せのため、予算全体、税制全体を見た広い立場からの充実した審議が行われますように心から要望いたしまして、祈るような気持ちで要望するわけであります。どうぞお願いをいたしまして、私の質問を終わります。
  41. 砂田重民

    砂田委員長 政府に申し上げます。  先ほど総理が説明された富裕税に関する試算は、資料として当委員会に御提出いただきます。  この際、椎名素夫君より関連質疑の申し出があります。山下君の持ち時間の範囲内でこれを許します。椎名素夫君。
  42. 椎名素夫

    椎名委員 関連して、若干の質問をさせていただきます。  まず初めに、最近非常に注目を浴びておりますエイズの問題についてお伺いをいたします。  最近、ことしに入りましてから我が国で初めて女性の患者があらわれた。つい先日は母子感染のおそれのある例が発見されまして、非常に事態は深刻になったというふうに受けとめられているわけであります。これに応じまして我が自民党でも、政調会の中にエイズに関する小委員会というのをつくりまして、さらにエイズ問題対策本部をつくって早急に検討を始めたわけでございますが、政府においても、関係閣僚会議を設置されてその大綱案を決められたわけであります。  実は、余計なことでございますが、私、質問予定者にしていただきまして二月の初めから待っておりました。最初にはこの問題は全然予定に入っておらなかった。自民党で小委員会ができまして、この問題はぜひ政府の御所見を伺いたい、こう思っておりましたら、さらに待っておりますうちに閣僚会議ができ上がって大綱まで進んだ。国会が休んでおりますうちにどんどんと事態が進んだわけでありまして、そういう意味で、きょうはこうして予算委員会国民の前でいろいろとお伺いができるということは、議員の一人として大変うれしいことでございます。エイズの問題だけじゃございません。今もお話がありましたように、予算その他国民生活に非常に関連のある問題について、議員の一人として、この予算委員会において十分に議論が進行するように要望をしたいと思っております。  政府におきましては、先ほど申し上げましたように大綱を決められたわけでございますが、厚生大臣に伺いますけれども、最近のエイズの発生状況について、また、これについて非常に国民の中に、ある意味では社会的と言っていいほどの不安がある現状から、決められました大綱について、そしてそれに従ってのこれからの対策について御説明をいただきたいと思います。
  43. 斎藤十朗

    ○斉藤国務大臣 後天性免疫不全症候群、すなわちエイズにつきましては、欧米各国を初め世界じゅうにおきまして大変大きな、深刻な問題になっております。我が国におきましては、患者の発生数というものが幸いこれまでの累計で二十九名ということになっておるわけでございまして、世界各国の中では圧倒的に少ない数字であるわけでございます。     〔委員長退席、野田委員長代理着席〕 しかしながら、今椎名先生御指摘のように、最近におきましては、これまで主に感染をすると考えられておりました男性同性愛関係、また静脈注射等による麻薬等の薬物の乱用。こういったことが中心と思われておったわけでございまするけれども、このたびは異性間の性交渉と見られる女性患者の発生、また出産による母子感染の危険性というような、そういう新しい事態が出てまいりまして、日本におきましてもこれからの感染の拡大ということに、また一般への拡大ということについて非常に不安を持っておる時期でございます。  これに対しまして、政府といたしましては、先ほど申し上げましたように幸い患者発生数からいいますと非常にまだ少ない現段階において、この予防対策というものを強力に、しかも総合的に推進をいたしてまいるということによってこの感染の拡大を防止し、そして蔓延を未然に防止いたしてまいりたい、こういうことから、ただいまお話もございましたように二月の二十四日、エイズ対策関係閣僚会議というものを発足をいたしまして、そしてエイズ問題総合対策大綱というものを決定いたし、関係各省庁連携をして、そして総合的に緊急的に施策を進めてまいりたい、こういうことで取り組んでおるところでございます。  この進め方につきましては、何といいましても、プライバシーの保護や人権の保護ということに最大の力点を置いて基本的な取り組みをいたしてまいらなければならないというふうに認識をいたしておりますが、この総合対策大綱におきましては、大きく分けまして五つの柱を持っております。  その第一は、まず何といいましても、このエイズという新しい病気に対する正しい御理解というものを国民の全部の皆さんに持っていただくということが一番大事なことでありまして、そういう意味から正しい教育、また正しい知識の啓蒙、普及ということにまず第一の大きな力点を置いてまいりたいというふうに思っております。  第二番目には、患者や、また感染者と言われます抗体陽性者の方々を常に完全に把握をいたしてまいる。  そして、そういう方々やまた一般の方々も含めて、相談事業、また健康指導、そういったことを通じ二次感染の防止に全力を挙げていくということが第三番目であろうかと思います。     〔野田委員長代理退席、委員長着席〕  第四番目には、これは未解明の病気でありまして、研究開発の促進、そして諸外国、国際的な協力体制の確立というようなことを四番目に挙げさしていただいております。  そして第五番目には、これらの政策を実行していくために必要な部分についての予防の立法をいたそうということで、ただいま鋭意検討をいたしておりまして、できるだけ速やかに国会に御提出を申し上げ、御審議を煩わしたいと考えておるところでございます。  エイズといいますのは、もう先生も御承知のとおりでございますが、一たん発病をいたしますと大変高い致命率を持つでおりまして、これに対する有効な治療法がまだ確立をされていないということでありまして、まことに恐ろしい病気と言わざるを得ないと思います。しかしながら反面、これは空気や水によって伝染をするという性質のものではございませんし、このエイズウイルスというものも感染力が非常に弱いウイルスであると言われております。  そしてこの感染は、特殊な感染経路をたどって感染をするということでございますので、こういった点を十分御理解をいただいて、我々が日常の生活を、まあ言うならば普通の生活を普通にしていていただけば大丈夫である、こういうふうにも言われておるわけでございますので、国民各位がその本質を十分理解をいただき、正しい知識を持っていただいて、自覚をしていただくことによってみずから感染を予防するということが十分できる病気であるというふうに考えております。国民皆様方の正しい知識を持っていただくことによって必ずやこのエイズの蔓延防止が可能であるというふうに考えておりますので、国民皆様方にもよろしくお願いを申し上げたいと思っております。
  44. 椎名素夫

    椎名委員 ただいま厚生大臣からこれからの対策について御説明があったわけですが、日本は幸いまだまだ患者数も少ないし、あるいはウイルスを持っていらっしゃる方も少ないように聞いております。こういう時期に適切な対策をとっていただければ、他の地域のようなことにはならない。ぜひその点はお願いしたいのでありますけれども、その点でひとつぜひ御配慮をお願いしたいと思いますのは人権の問題でございまして、ただいま厚生大臣は普通の生活を普通にしていればかからぬ、こうおっしゃいましたが、そうすると、ウイルスを持っている方は普通の生活を普通にしていないというようなことにともすればなりまして、だれもなりたくてなったわけじゃございませんし、病気は我々一生懸命憎んで阻止をしなければいけないけれども、それを持っている人間に対して妙な差別であるとか、これはもう日本人だけでなしに、外国人に対しましてもその点の御配慮を十分にお願いするということが私は必要ではないかと思っております。  それかるまた同時に、まだ治療法が発見されてないというようなこと、これには取り組まなければなりませんが、ぜひともこれは国際的な協力も必要なのではないかと思っております。こういうことを全体踏まえまして、また今の厚生大臣の御説明を踏まえて、取り組みようによっては非常に重大な問題でありますこのエイズの問題についての政府の取り組みの姿勢につきまして、総理大臣に伺いたいと思います。
  45. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 幸いに日本列島はまだアフリカやあるいは先進諸国と比べるとエイズ患者も死亡率も非常に少ない、格段に少ない状態でありますので、この状態をあくまで維持できるように、全力を振るってこの島がエイズに汚染されないように政府は努力をするつもりでございます。  そのためには、何といっても国民皆さんにエイズの恐ろしさとその予防方法をよく知っていただいて、簡単なことなんですからその予防方法を守っていただく、そういうことが大事ではないか。それから長期的に見ますと、高校生やあるいは大学生の生理の教育のときにもそういう問題を教え込む、そういうことも今文部省側が指導的に手配をしておるところでございます。  それからやはり日本自体といたしましても、病原の発見、予防方法の発見ということに真剣に取り組まなければなりません。厚生省の専門家も既にアメリカヘ立たしてアメリカの専門家と研究をやらせようとしておりますし、我が自民党におきましても、小沢さんを団長にアメリカに対する調査団を派遣する等もやっておりまして、政府・党を挙げまして今全力を振るっておるところです。  エイズの菌というのは、学者の話によりますとウイルスだそうですけれども、そのエイズに感染した場合に、体に必ずエイズに闘う抗体が出てくるわけですが、その抗体からエイズを殺す免疫性の血清をとろうとしておるのだけれども、その抗体が人によって千差万別に変わるらしいのです。ですから、マラリアとかそういう場合には一定の抗体が出るからその中からとってくれば免疫ができるけれども、エイズの場合は人によって非常に変わる、そういうことで、つかまえどころがないというのが現状だそうです。その辺を今各国の学者が、懸命にこれに対応するいわゆる抗体の試験及びそれの血清をつくり出すということに努力しておるらしいのですが、我が国も全力を振るってやっていただくように手配をいたしたいと思います。
  46. 椎名素夫

    椎名委員 今、総理大臣から相当学術的にわたるお話まで伺いまして、それだけの御関心を持って取り組んでいただくのは非常に心強い限りであります。どうぞよろしくお取り組みをお願い申し上げます。  さて、次に防衛費の問題について伺います。  昨年の十二月に政府原案が決まったわけでありますが、防衛費は三兆五千百七十四億円、この伸び率昭和三十六年度以来最低の五・二というようなことでございますけれども、しかしながら、GNPとの関係では六十二年度の予測値を〇・〇〇四%上回るということになりました。続いて一月の二十四日に閣議決定が行われまして、昭和五十一年度の三木内閣の閣議決定の精神、すなわち、節度ある防衛力の整備という精神は受け継がれた。しかし、この決定によりまして防衛予算のいわゆる歯どめとしての一%以下というのはなくなったわけであります。  私は、この五十一年度一%が決まったときの事情を振り返ってみますと、当面、当分の間そういうことでいくという決定でありますが、当時の経済計画あるいは予測というものは、GNPの伸び率が年率一三%を超えるというような大きなものであった。たしかその二年後にまた見直しが行われましたが、それによっても一〇%以上ということであったわけであります。仮に当時の一三%というのを伸ばしてみますと、大体六百兆ぐらいに今なっているような計算になる。それがその後、低成長時代に入りまして、今では伸び率というのは非常に低くなってきた。  しかし一方、防衛計画の方を考えますと、五十一年度、この一%の決定が行われました前に「防衛計画の大綱」というものを決めたわけであります。これは我が国が平時において持つべき必要最低限の防衛力というのはどういうものであるかということに観点を置いた防衛計画でありまして、しかしながらそれがいまだに達成をされておらない。一昨年の中期防衛力整備計画、五年計画ですが、これはこの五十一年の防衛計画大綱の水準を達成しようというねらいでできている。この二年度目に当たるわけでありまして、私はこの一%を超えざるを得なかったということは当然のことであると思いますし、また、その後の閣議決定におけるいわゆる厳密な枠の撤廃というのは評価をいたします。いろいろ現実の不都合はございましたけれども、何よりも私は、この一%枠というものが健全な防衛論議、日本の安全を守るのに一体何をやればいいかということの議論を阻害して、防衛論といえば一%を守るか守らないか、あるいは守ってさえいればそれでよしというようなことで終始してきたということがまことに不健全な話ではなかったか。そういう意味で、今回の決定については評価をするものでありますが、この点についての総理の御見解を承りたいと思います。
  47. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 日本の平和と独立を守り、主権を維持するということは国政の重要な責任でございまして、防衛もそういう意味において大事であると考えております。ただ、この防衛を有効ならしむるためには、国民皆さんの御支持がないとそれは行われるものではありません。したがいまして、国民皆様方によく御認識をいただき、御支持をいただくように今後も全力を注ぐ必要があると思います。  そこで、防衛につきましては、今お話がありました「防衛保計画の大綱」をつくるときに、日本防衛計画の基本政策、あのとき当面の具体的な基本政策が決められました。言いかえれば、どういう防衛力をつくるかという場合については、限定的な小規模の侵略が日本にあった場合に独力でこれを排除するに足る非核の防衛力をつくろう、そういう考えで、それ以上のものについては安保条約の発動による米軍の力と共同で対処する、そういう範囲内の防衛力ということで決められておるわけです。  そこで、大綱の水準達成に努力するということで努力してまいりましたが、やはり今まで伝統的に日本が持ってきた防衛の諸原則、つまり非核三原則であるとかあるいは専守防衛であるとか、他国に脅威を与えるようなものにしないとか、十分節度のあるものにしていく云々という原則は今後もこれを堅持する。それから、今回はいわゆる中期防、中期計画というものを大体我々の整備のためのいわゆる歯どめというものにして、今やっておる五カ年計画、スタートし始めた五カ年計画の十八兆四千億円、これは六十年度価格であります。これで大体これ以上は金額はふやさない、そういう原則をつくりまして、そして各年度に予算請求のたびごとにそれを目安にしつつ予算請求を行う、これで歯どめというものは有効に作用していると思います。  それでは、この五カ年計画が終わったときどうするかという場合でありますが、今まで五カ年計画をやる場合には三年目ぐらいで次の防衛計画に移行するために見直しをやる、そして修正を行う可能性を認めておりましたけれども、今度はそういうことを認めておくと防衛費がまたふえるのではないかという誤解を与えますから、そういういわゆるリボルビングという見直しはやらない。五カ年計画は五カ年計画でこれを完遂する。それが終わる間際になったら、今度は次の計画をそのときに策定をする。しかし、その場合といえども三木内閣が五十一年に決めました一%云々というあの精神を尊重して、節度のある防衛力を引き続いてやっていく。そういう一貫した政策は変わっていないのであります。そういう考え方に立ちましてやっていきたいと思います。
  48. 椎名素夫

    椎名委員 ただいま総理から御説明がありましたが、今度の閣議決定の一つの大きな柱というのは中期防、中期防衛力整備計画である。これが六十年度価格で総額が十八兆四千億ということになっているわけでありますが、どうも一言に十八兆四千億で大丈夫ですと、こういう話でありますが、なかなかわかりにくいところがある。そこで、これが今までの閣議決定にいわば取りかえられたわけでございますから、この点についての御説明を十分にいただかなきゃいかぬと思うわけであります。  そこで、第一に、そもそも中期防というのは何を目的としてどういう内容であるのか、これをわかりやすく御説明を願いたい。  それから二番目に、十八兆四千億、こう言いますが、総額明示方式、ある期間のですね、これは今までにも経験があって、二次防から四次防までがそれぞれ次の計画に移るごとに金額が倍々になってきた。そういうようなおそれはないのかというような懸念もある。  それからもう一つは、防衛予算一つの特徴でありますが、発注してから物が入るまでに時間がかかるものがあるために、予算の中で後年度負担というのがあるわけであります。十八兆四千億で五年間終わったところで、そこで大量の注文をして、そのときまでの予算に入らずに、後に膨大なツケを残すということはないかというような懸念もある。この点につきましても御説明を願いたい。  それから、ただいま総理が三年目の見直しというのは今度はやめた、こうおっしゃいました。これはしかし、中期防に実は書いてあるわけでありますが、国際情勢それから技術の進展というのが進んでいる中で防衛力の中身を不断に検討し直していかなきゃいかぬという趣旨で、三年目の見直しというのが中期防の中に書いてある。それをやめてしまって防衛力整備について支障は生じないのかどうか。  それから、もうこの決めた中期防をそのまま機械的にやるということじゃいかぬのだろうと私は思うのです。やはりいろいろな意味での効率化というものをできるだけその中でも図っていく。一例を挙げますと、例えば三自衛隊の統合的な運用とかいろいろ問題があると思いますが、これをこの中期防の中でどういうふうにおやりになるか。  以上の三点をまとめまして防衛庁長官に伺いたいと思います。
  49. 栗原祐幸

    ○栗原国務大臣 まず中期防とは何ぞや、これは一口で言いますと、「防衛計画の大綱」に、限定かつ小規模の侵略に対応し得る、そういう防衛力の整備、これは防衛計画大綱の大きな柱でございますね、その大綱の水準を達成する、そしてそのためには正面と後方のバランスをとる、質の高い防衛力をやる、その計画を昭和六十一年度から昭和六十五年度までやりましょうというのがいわゆる中期防衛力整備計画、中期防である、こういうふうに認識をしております。  それから、これはいわゆる昔の二次防、三次防、四次防という年次防に返るんだから、あの当時は倍々計画でふえたじゃないか、今度もそういうことはないか。これは、そういうことはないと思います。  なぜかといいますと、二次防から四次防までの間は昭和三十七年から五十一年になるわけでございますが、このときは御案内のとおり高度経済成長でございまして、日本の国の国民総生産が十倍にふえる、国家予算も十倍にふえる、それに伴いましてそれぞれの経費というやつが膨らんだ。ちなみに申し上げますと、社会保障費は十六倍、それから文教及び科学振興費は十倍、公共事業費は八倍、防衛費は七倍というので、防衛費の伸びがこの時代では一番これらの中では少ないということでございますから、二次防、三次防、四次防のときにあったから今度そうなるだろうというのはこれは当たらない、こういうふうに思います。  それから、後年度負担で最後の段階で先送りをする、したがって防衛費がとめどもなくいくんじゃないか、こういう御疑問を持っている方がございますけれども、これも仕組みというものを十分に御理解いただけないんじゃないか。  後年度負担というのは、おっしゃったとおり、いわゆる装備品の中には航空機とか艦船というものがございまして、三年とか五年というような年月がかかる。したがいまして、これはどうしても後年度負担ということにならざるを得ないわけですね、制度的に。ただ、これが余りに多過ぎると次の予算を圧迫するということで、できるだけ少なくしなければならないということではございますが、しかし、後年度負担というのはある意味でやむを得ない。実は、今の中期防衛力整備計画の中でも、これは前の方から来ました後年度負担が正面装備で大体一兆七千億以上あると思いますよ。今の中期防の中で、六十六年度以降に繰り込むものが正面装備で二兆五千億程度だと思います。今の中期防というのは、この一兆七千億以上のものが来るということを承知の上で防衛力の整備計画をやっておる。したがって、六十六年度以降もこの二兆五千億というものは送られてくるということを承知の上で防衛計画を立てるわけでございますから、急に後になって送り込んでどさくさ紛れにやるなどということはできない問題でございます。  それから、今ローリングをやらない、それじゃ実際にいいのかということでございますが、いわゆるローリングをやるということになりますと、何となくいつもこの計画自体が安定しない、そういうことがございますからこれはやらない。やらないけれども防衛というものは絶えず、常時これでいいのかという目を光らせることは当然であります。したがって常時目を光らせていく。そして、できることならば、例えばの例でありますが、効率的な安くていいものができるというならば、そのときにはそれはそれに変えていくというのは当たり前であります。ただ、金額は御案内のとおり十八兆四千億という昭和六十年度価格のその枠の中でやるということでございます。  なお、この合理化改革の問題につきましては、昨年の五月に防衛改革委員会というのを防衛庁の中に設置しておりまして、ここで鋭意検討をしておるところでございます。お説のように、合理化は進めていかなければならぬ、こう考えております。
  50. 椎名素夫

    椎名委員 ただいまの御説明で六十五年度まではそういうことであるということでありますが、その後、少し総理からも御言及がありましたが、どうなるのかという問題があります。  今度の閣議決定では「「中期防衛力整備計画」終了後の昭和六十六年度以降の防衛関係経費の在り方については、同計画終了までに、改めて国際情勢及び経済財政事情等を勘案し、前記の平和国家としての我が国の基本方針の下で決定を行うこととする。」と書いてありまして、また同時に三木内閣の決定の「節度ある防衛力の整備を行うという精神は、引き続きこれを尊重する」と書いてあるわけであります。  このお話で、いわゆる大綱の水準というのが、計画どおりいけば六十五年度で達成される、できるということになるわけでありますが、今言ったことだけではどういうことになるのか余りはっきりしないところがあるのではないか。六十六年度以降も、いろいろお話を承っておりますとやはりこの中期計画のようなものをおつくりになるのではないかと考えておりますが、そのときの計画というのは一体どういうようなものになるのか、これについて御説明を願えればと思います。
  51. 栗原祐幸

    ○栗原国務大臣 六十六年度以降どうするかという問題につきまして今度の閣議決定であえて触れなかったのは、そのときの国際情勢、いろいろの事情等を見まして、そのときの内閣責任において決めるべきではないか、そのときの内閣の手を今の段階から練るべきでないという配慮があったように私としては受け取っております。それが一つ。  もう一つは、六十六年度以降の問題につきましてもただいま総理からお話がありましたとおり、三木内閣の閣議決定の精神、すなわち節度ある防衛力をもってやる、これはもう続いておる、そういうことであの決定になったものと承知をしております。  ただ、現実に「防衛計画の大綱」というものがございまして、その大綱に基づいていろいろと今整備しているわけであります。大綱が本当にでき上がるのは、昭和六十五年度ででき上がるかどうかということにつきましては、後年度負担等がございますから、これはもう若干延びることは当然でございます。そういうことも含めまして「防衛計画の大綱」に基づいてやっていかなきゃならない。ですから、特別の事情がない限り「防衛計画の大綱」水準の達成並びにその段階にはこれを維持していく、そういう作業が続くのではないか。私は、実務を担当する防衛庁長官としてはそういう意味合いで節度ある防衛力の整備を行っていきたい、こういうふうに考えております。
  52. 椎名素夫

    椎名委員 今お話があったように、そのときにならなければわからないという要素は随分あるかと思います。しかしこの問題は、やはり本当にどういうような中身、内容を持った防衛計画というものが、この中期防を終わり、そして大綱水準が達成されたという後必要であるかということについては、本当に深い議論を進めていかなければいかぬと思うわけであります。その点で、今当院には安全保障特別委員会というのがございますけれども、本当に今までのような一%上か下かというだけでない議論を深めるためにも、これを常任委員会に格上げをして十分に論議を進めるということを今から始めなければいけないと考えておりますが、総理のお考えはいかがでありますか。
  53. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 これは国会の構成の問題ですから各党で御相談願ってやるのが適当であると思いますが、やはり文民統制の中心国会であります。その国会において防衛問題を専門的に扱う常任委員会が設定されるということは非常に重要なことであり、私らは賛成でございます。さきに民社党の塚本委員長から代表質問の際にそういう御趣旨の質問があったと記憶しております。また、党首会談の際にもそういうお話、お申し込みがございました。私は、自民党総裁といたしましてそれには全く賛成です、そういう御提議をいただけば我々は賛成して一緒にやります、そういうことをお答え申し上げた記憶がございますが、常任委員会格上げは必要である、我々は賛成したい、このように申し上げます。
  54. 椎名素夫

    椎名委員 さてそこで、防衛問題の中身についての議論を少し続けさせていただきます。  六十六年度以降の問題についてはまだまだわからないことが多い。しかし、我々、防衛についてどういう基本的な姿勢でいかなければいかぬかということを今から議論することは極めて大事だと思っております。さっき総理も言われましたように、防衛というものはやはり国民の合意というものが必要である。しかし、今までの議論では、ともすればその国民の合意というものが、どれだけ使っていいか、あるいは使ってはいけないかという経費だけの問題に集中をされたという嫌いがあります。しかしながら、重要なのは防衛の中身でございまして、この中身というものをいかにして達成していくか、これが基本的な姿勢として考えなければいけないことではないかと考えるわけであります。国民の最も重要な関心は、幾ら金を使うかということだけでなしに、本当にそれだけのことで日本の安全は確保されるのかどうかということの関心というものとのバランスの上に本当の意味での国民の合意というものは立つべきであると考えるわけであります。  実は去年の一月号の文芸春秋に成蹊大学の竹内靖雄先生という方が書いておりますものがありまして、ちょっと引用させていただきますが、   防衛費のようなものは少なければ少ないほどよく、本来ゼロであるのが理想であると言う平和愛好主義者もいるかもしれない。しかし現時点で、あるいはここ数十年のこの地球上の話として、防衛費ゼロを考えるのは理想というより空想、妄想の類である。エコノミストの中には防衛費そのものが無駄であることを説き、軍事小国に徹して経済的繁栄を成功させた日本の生き方を範とするよう、全世界に呼びかけたいという人もいる。この種の議論は、親の金とコネで医学部に入った道楽息子が勉強なんか無駄だと説いてまわるようなもので、余りにも幼稚で無神経だと受けとられはしないか。  経済学の発想は何事も無駄を省き、節約することに関心を集中するが、それはコストをゼロにしようという立場ではなくて、  「一定の目的を達成するためのコストは少なければ少ないほどよい」ということであって、防衛に金をかけること自体が無駄だと決めてかかるのは、常識を外れた特殊な立場である。 こう書いておられる。私は全くこれに同感であります。  政府としても、また我々政治を担当しておる者としても、防衛費の上限を決めてこれ以上は使わないから安心してくださいと言っても、それだけでは国民は安心はできない。それで一体日本の安全は保たれるのかという不安はどこかに残っているわけであります。しかし同時に、必要以上の金を使う必要もないし、また、むだ遭いをしてはいけないということだろうと思います。ですから、国民的合意を得よう、こう言うのでしたら、ここまでしか使わないから安心してくれ、こういうことじゃない。また、これも足りない、あれも足りないというようなことでもない。そういうことをやりますと、一体どこまでつき合ったらいいのかという不安も生じてくる。日本の安全に一体どういうおそれがあるのかということを具体的に説明をして、そして、これだけのことをすれば最低限の安全というのは保たれるんだという形で防衛計画の理解国民に求めるということをやらなきゃいかぬ、こう思っているわけであります。  そこで、きょうは時間の許す限り、基本的な姿勢ということについて二、三お尋ねをいたしたいと思います。  防衛論というのはいろいろございますけれども日本だけ世界にあるんだったら、これは防衛ということは必要はありません。あくまでも対外的な関係があるために、防衛ということは考えなきゃいかぬ。ところが、我が国防衛論議の中で、しばしばいうか常に出てまいりますのはアメリカの圧力、こういうのが一つ出てきて、もう一つはアジア近隣諸国日本の軍国主義復活への懸念というのが出てくる。大体それだけであります。ソ連の要素というのは、国防論の中からよく聞かれるところでは余り出てこない。これは私は、まことに不思議なことであろうかと思います。  近年、ソ連の軍事力、特に一九七〇年代の最後のあたりからの極東地域、西太平洋地域での軍備増強というのは物すごい勢いで進んでおりまして、一つの潜在的脅威というものをなしていることは御承知のとおりです。我々西側の国には世論というものがありまして、いつでもこの防衛費なんかもチェックをされますけれども、向こう側はそういうことはありません。向こうの指導者がこうしようと決めれば、大体そのとおりに動くというようなことになっている。やはり周りにありますこの軍事的な潜在的脅威というものに対して、信頼性のある防衛戦略を持つということから始めませんといかぬのじゃないかと私は思うのです。  そこで、ソ連と言ってしまうと、一体、平和を求める日本が仮想敵国をつくるのかという話によくなるわけでありますけれども世界じゅうどこを見ましても、世界観が少し違い、そして、残念ながらいまだに本当の意味での平和共存ということを信じているように見えないソ連に対しては、西側の諸国というのは、みんな一つのはっきりした防衛戦略というものを持っておる。しかし、それは決して対ソ関係改善を求めたり、あるいは超大国の中でできるだけの我が国としての役割を、平和に向けての役割を果たすということとは一切矛盾をしないというのが現実の世界であります。  もっと防衛論議を深める中で、日本の周りに着々と増強をされておりますソ連の最近の軍事力増強について伺いたいと思うわけでありますが、きょうは時間もございませんので、今私が申し上げましたような現実に存在する軍事的な潜在的脅威ですか、これに対して信頼性のある防衛力計画をつくるということが、これから先我々が考えていく上での基本姿勢の一つだという点につきましで御所見を伺いたいと思うわけであります。これがなければ、何のために一体防衛力というものはつくらなければいかぬのかということになり、国民的合意を得るということでも、その議論が大変に空虚になってしまうと私は思っておりますが、総理の御所見を伺いたいと思います。
  55. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 我が国は仮想敵国を申さないということは椎名委員御発言のとおりで、我々はそういう考えでやっております。しかし脅威というようなものは、意思と能力が結合した場合に脅威は生まれる。そういう情勢から見ますと、日本侵略という面から見れば、両方は顕在的に結合しているという状態にはない、そういう考えに立ちまして、我々は今のような謙虚な態度をとっておるわけであります。  しかしながら、周囲の状況については深甚の関心を持ち、かつまた情勢の変化というものを把握していかなければ防衛は成り立ちません。したがいまして、日本列島周辺の状況あるいは兵器、科学技術の進歩等について深甚なる関心と注意を持ってこれを行い、また、同盟国であるアメリカとも緊密に連絡して共同対処に備えようとしておることは現実でございます。  具体的な諸般の問題につきましては防衛庁長官からお答え願いたいと思いますが、やはり今のような観点に立ちまして、日本防衛については防衛庁等を中心にしまして、国民皆様にいささかも不安を与えないような十全の措置を国務としてとっておく必要がある、また、そのために国民皆様に御理解をいただく最善の努力を我々はしなければならない、そのように考えておる次第でございます。  残余は長官から答弁いたします。
  56. 栗原祐幸

    ○栗原国務大臣 ソ連の問題につきましては、我々は潜在的脅威として認識している。これはもう終始言っているところでございます。しかし、日本といたしましては仮想敵国を持たないわけでございますから、それで日本の国を日本だけで守れないわけでございますから、そこで日米安保があるわけです。いかなる事態の侵略に対しましても日米安保でこれを抑える、これが基本でございます。そういうところで日米の共同対処、この実を上げるために御案内のとおり真剣な努力をしておる、そういうところでございます。
  57. 椎名素夫

    椎名委員 今の防衛庁長官お話の中に日米安保が出ましたので、私、このことも一つの基本的に重要なことであると思いますので伺いたいと思います。  私ども太平洋戦争に負けまして、その後、前後して国連ができた。これに平和維持の機構ができたというような感じを持ったわけでありますが、現実には世界はそういうふうに進行していない。この中で、私ども日本が置かれた位置あるいは立場ということからして、一体日本にはどういう自分の安全保障を維持していく選択肢があるかということを考えますと、余りたくさんないように思います。  大きく言えば三つしかない。今やっておりますように、自由陣営の一員としてアメリカと同盟関係を持つということ。あるいは逆に言いますと、ソ連との同盟関係というのも理論的にはあり得る選択肢であります。もう一つは中立というのがあります。中立というのも、実は二種類あるかと思うのですが、非武装の中立と武装中立、大体中立国というのはみんな武装中立をやっているようでありまして、しかし、この四つしか私はないだろうと思うのです。  現実の世界で、日本が単独で自分の国を守るという武装中立というのは不可能と言っていいと思いますし、また同時に、それこそまさに我々の近隣諸国に大変な恐れをばらまくものである。非武装中立というのは、これはもう国民の合意を得られるような話ではない。そうしますと、どうしても私どもが今やっておりますような日米安保の中での日本の安全を保つという選択肢が唯一の選択肢である。これを大事にしていくということが、私どもにとって非常に重要ではないかと思っております。  また、その中で我々がこの四十年の中に、先ほど政府が山下委員の御質問への答弁の中でも言われていましたように、大変にいい時代日本は迎えることができた、その間、日本の安全について心配をしないで済んだ、これは大変な安保条約の、安保体制のたまものである。また、これは単に軍事的なことだけでなしに、自由と民主主義を日米が共同して守るべき価値であるということが書いてある。また同時に、経済協力まで一緒にやっていこうというのが日米安保体制というものであります。そういうことで、昭和三十五年の例の六〇年安保と言われるときに相当な反対論があり、そして日本戦争に巻き込まれるというようなお話もありましたけれども、現実にはそういうことは全然起こっていない。私はこれは現在も、またこれからも、この日米安保体制の中で日本役割をきっちりと受け持ちながら防衛の体制をつくっていくということが一つの基本的な姿勢であると存じておりますが、総理の御所見を伺いたいと思います。
  58. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 日米安保体制というものは、日本防衛の重要なかなめであります。既に昭和二十七年以来、これは極めて有効に機能しているということは、平和が持続され、あるいはまたこのおかげで日本防衛費がかなり安上がりに上がって、経済発展の大きな一つの原因をなしたと外国か三言われておる、そういう面もかなりあると思うのであります。しかし、それにも増してやはり自由、民主主義を信奉する、同じ価値を共有する日本とアメリカの国民がこういう同盟条約で結ばれているということは、やはり日米間の最も良好な安定的な関係を象徴するものでございまして、そういう意味におきましても我々はこれをあくまでも堅持していく、大切にしていく、そういう考えに立ちまして今後も持続していきたいと考えておる次第でございます。
  59. 椎名素夫

    椎名委員 防衛費が一%を超えた、あるいは超えるというようなときにいろいろな危惧の念が聞かれまして、私はある程度無理はないところはあるのではないかと思います。この危惧の背景にありますのは、やはり戦前の軍国主義への復活のおそれ、大蔵大臣が軍に暗殺をされたりというようなことが起こったり、あるいは議会のチェックを受けずに軍事費がどんどん膨張した。事実、あの戦争が始まりましたときは、GNPの五〇%近く軍事費に使っていた。最後のころになると統計がはっきりいたしませんけれども、GNPの方も使った方もはっきりしないのでしょうが、ある統計によりますと、昭和十九年にはGNPの一五〇%を軍事費に使ったとかいう統計を見ましてびっくりしたわけであります。そういうようなことに対するおそれというのは、私は残っているのだろうと思う。  しかし、当時と今とは全くこれは違う。当時は、内閣の仕組みからいいましても、陸軍大臣なら陸軍大臣が辞職をして、陸軍からもう大臣を出さぬと言った途端に内閣が倒れる。あるいは統帥権の独立というものがありまして、臨時軍事費なんというものは国会の議論も経ないでどんどん使えるというような時代から、戦後の現在の状態というのは全く違う。  今、予算ができていく過程というようなものを見ていきますと、いろいろな難しい関所がありますが、最後には、この国会で十分の論議を経て決められるというものである。そういうことで、何となしに心理的に持っております軍国主義への復帰への懸念というものは、私どもは全く無用であるというふうに考えておりますが、しかしそう言っているだけではいけない。やはり、そういうことにならないようにするためには、我々一同が覚悟を決めてこれから臨んでいかなければならないと思うわけであります。  そういう点について、そういうことが起こらないようにするための政府の覚悟というか決意というか、そういうものにつきまして総理の御所見を伺いたいと思います。
  60. 中曽根康弘

    中曽根内閣総理大臣 やはり戦前の教訓を体しまして一番大事な点は、言論、出版等の表現の自由あるいは人権をあくまで厳守する、そういう民主主義の基本原則というものを尊重していかなければならない。今日の日本ぐらい、そういう意味において自由が確保されている国はないと思いますが、この自由を維持するという点は非常に大事であると思います。  それと同時に、今の憲法に従っている国の構造、特に最高機関としての国権の権威というものを保持していく、これがあくまで防衛というものを監視するという力を厳然として維持していくことは大事であると思います。  それと同時に、我々議員あるいは政党員というものが、防衛というものに関する認識をしっかり腹の中に固めて、そして信念的に堅持していくということが大事であります。  私は、戦後ややもすると戦前の反動で、日本の軍部が行き過ぎたことをやりましたために、戦後はマッカーサー元帥が進駐して、防衛はマッカーサー軍がやりましたから、防衛というような問題は外国人がやるものだ、ああいうようなことはダーティーな仕事であって、高尚な人間がやるものではないというような風潮が戦後一時漂ったことがあります。これは間違いでありまして、戦争の行き過ぎに対する反動として一時的にそういうことが起こり得るとは思いますけれども、いやしくも独立国家を維持して国際社会に伍していくためには、みずからの運命はみずからが開拓し守らなければ国家の独立は守れない、外国の干渉を招くということは必然である、そういうことであるのでありまして、正しい国家のあり方、防衛のあり方、行き過ぎもしないし行き足りないもしない、日本の国情に合って国民の気分を尊重したやり方の防衛、節度ある防衛のあり方というものを、政治家がしっかり把握して堅持していくことが大事であると考えております。
  61. 椎名素夫

    椎名委員 最後に、冒頭にも申しましたように一%を超え、そして新しい閣議決定ができたこの機会に、防衛庁長官、大蔵大臣そして外務大臣、このお三人に一言申し上げまして、私の質疑を終わりたいと思うわけであります。  まず防衛庁長官に申し上げますけれども、本日私が繰り返してお聞きいたしましたような、本当に日本防衛にとってどういう中身の防衛力というものが必要なのか、このことについて十分に吟味をしていただきたい。必要なものは何でもそろえなきゃいかぬからというようなことに走るようなことは、いささかでもあってはならないと私は思うわけであります。言ってみれば、今までは離れ座敷に防衛は入っておって、あの座敷から出てこない間はみんな安心をしておった。こういうことではなしに、今度は表座敷で本当に議論にたえるような、国民の合意が得られるような議論を展開していただかなければならない。そういう中で効率化というようなことも十分に進めていただきたいと思うわけであります。  大蔵大臣に申し上げたいことは、今まで一%ですということで、ある意味では予算づくりの作業も楽だった面が私はあるんじゃないかと思うのですが、もともとこれは不自然なことである。これからは本来の財政予算づくりという、本来の姿に戻るんだろうと思うのです。十分に大蔵省がお持ちになっております査定権を活用していただいて、国全体の財政の中で、そしてまたこの防衛というものに対する大きな目を持って毎年の予算を、国民の納得のいく予算をつくっていただくようにお願いをいたしたいと思うわけであります。  また、国の安全というのは防衛だけじゃございませんので、外務大臣にぜひお願いを申しておきますが、これまで百年間の日本外交、明治以来どういうような日本外交が軌跡をたどったか。これは、時にはそれたりというようなことも私はあったんじゃないかと思うのです。これを十分に振り返っていただいて、二度と日本戦争の危機に近づけないような外交努力というものを十分にやっていただきたい。日米安保体制というのはその中での私は基軸になるかと思いますけれども、それと同時にアジアに対する配慮、あるいはもう世界じゅうに目を配った外交というものをしっかりした目を持って展開をしていただきたいと申し上げまして、三大臣から特に御答弁を求めるつもりはございませんが、何か御所感があればおっしゃっていただきたいと思います。
  62. 栗原祐幸

    ○栗原国務大臣 御趣旨、よくわかりました。議員各位の活発な御議論をいただきまして、節度ある防衛力の整備に努めたいと思います。
  63. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 この問題につきましての椎名委員の従来からの御高見には敬意を払っておりますし、きょうのお話も関心を持って承りました。  大蔵大臣として一言つけ加えさしていただければ、先ほど雑誌の論文を引用されまして費用対効果ということについて言われました。この問題についての効果は、結局国の安全ということでありますが、国の安全というものはどれだけで一〇〇%かということが非常に難しい性格を持っておりますから、そういう意味では費用対効果というものの関連に大変に難しいところがある。そういう意味では、国の安全というものについてのやはり合意を持っていることが非常に大事だろうということを感じております。
  64. 倉成正

    ○倉成国務大臣 歴史の教訓に照らしまして、日本世界の中で絶対に孤立してはならない。陸奥宗光の言う蹇蹇の気持ち、薄氷の上を踏む気持ちで、いかなる小さなこともないがしろにせず、相手国の立場に立って日本外交を進めていくべきであると信じます。
  65. 椎名素夫

    椎名委員 終わります。
  66. 砂田重民

    砂田委員長 これにて山下君、椎名君の質疑は終了いたしました。  次回は、明四日午前十時より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時六分散会