○
薮仲委員 これは私は前にも
指摘したのですけれ
ども、私は決して大蔵省の肩を持つわけじゃないのです。昨年の九月の
総合経済対策というのは、いわゆる国が主導的にやりましょうという公共投資が三兆円です。その他がざっと、
民間活力であるとかいろいろございますけれ
ども、開銀だ、
中小企業対策だ等々をトータルして三兆六千億というような数字を出した。この中で主導は三兆円ですし、実際国費を出動したのは千三百三十億円程度である。ですから、今度行う五兆円規模の
緊急経済対策はしっかりとした
予算を組んでやるんだ、
政府主導でやるんだ、こういうことはわかるわけですけれ
ども、ただこうやって通関統計の上に黒字がどんどん出てくる。我々は一年間以上Jカーブということを聞きました。私は、そんなことだめだよということはこの
委員会で言ったはずです。為替のレートを変えたって変わらないよと私は主張しました。結果はやはりそういう結果に落ちついているわけですけれ
ども、ただ私が心配しますのは、こういうことが続いていますと、公共投資が貿易不均衡是正に役に立たないという大蔵省を喜ばせる——喜ばせるというとよくないですけれ
ども、大蔵省だって
社会資本の整備とかは大事だということですけれ
ども、ここでこういう言い方をしているのです。「
内需が
拡大しても輸入の著しい増加には結び付かず、貿易黒字の縮小にはそれほど役立たないと
考えられること(一兆円の公共投資をしても輸入増加は十億ドルにも満たない)」こういう言われ方をするわけです。
私は決して大蔵省の立場に立って物を
考え、言っているわけじゃございませんけれ
ども、やはり先ほ
ども長官は教育施設とか等を言われました。いわゆる用地費にかからない公共投資をやろう。これは我が党もかねてから主張していることであり、それはやらなければならない当然なことだと思います。しかし、私はきょうここでもう一度
長官と、しっかり
考えておいていただかなければならないことを何点がお話ししたいと思うのです。
今まで行財政改革という話がありました。国民は痛みを分かち合い、国も地方も痛みを分かち合って頑張ろう、そうすれば明るい未来が開けるんだというようなことで、行財政改革、どんどん切り込まれました。でも結果としてどうなってきたか。やはり国民生活は豊かになったのか。私はこの点が非常に大事だと思うのです。
内需拡大といっても、大事なのは、国は貿易黒字で超大国だ、ところが国民生活は果たして豊かなのか、強いのか。国は確かに強い。
経済力も強い。どんどんと品物をつくっていく。でも、国民生活は果たして豊かであるかどうかの点について、今
政府の行ってきた財政運営が本当に国民の方を向いてきたのか。
確かに戦後
日本の国は、あの敗戦の荒野から立ち上がろう、追いつけ追い越せで重厚長大のいわゆる工業
社会というものを築いてきた。ですから確かに高度成長期を迎えた。でも、そこでどうしてもやっておかなければならないことを忘れたのではないか。国民生活にもっと目を向けるべきではなかったか。先ほど来
指摘がありましたけれ
ども、
GNPの六割を支えている国民消費、国民が本当に生活が豊かなのか、この点を経企
庁長官はしっかりと見きわめて、欠けている点は何だろう、国民に視点を当てた
政策を欠落したところに大きな欠点がある、私はこう言わざるを得ないと思うのです。
きょうは具体的に、私も
内需拡大とは何だろうといろいろ読ませていただきました。その中でちょうど経企
庁長官がお出しになった国民生活白書、これを使った論文があるのです。これは御自分の手元にある白書でございますから、これを通じて何が問題かを私は
指摘したいと思うのです。これは月刊誌の「国民生活」という冊子の中から、なるほどなと思った論文をちょっと読ませていただきます。その
先生の名誉のためにお名前を発表しますと、横浜国立大学
経済学部教授岸本
先生の論文でございますが、「
経済大国の国民生活の実態は」。というところでございます。
冒頭にこういうことが書いてあるのです。「
日本は、国は豊かなのに、どうしてわたしたちの暮らしは、楽にならないのでしょうね」これがいろいろな講演のときによく
先生が聞かれる言葉です。そのときにいつも
先生が直接思うのは、自分が学んだ
経済学の中で、
経済学の創始者の一人、十八
世紀のフランス人、重農主義の祖、ケネーの言葉である。「百姓貧しくして王国貧し。王国賓しければ王また貧し」、これが本来
経済の原則であるはずだ。ところが今日の
日本はケネーの言葉とは全く逆だ。「民貧しくして国は豊かなり」「国は豊かにして民貧し」、これはどこかちぐはぐだよ、こういう
指摘があるのです。私はこれはある意味では当たっていると思うのです。
「一方では、
日本は、
世界中から袋たたきに会う程の貿易黒字をあげている。八五
年度には六百十億ドル。今
年度は、九百億ドルを突破する勢いである。」これは昨年の論文ですから計数がちょっと違います。「そして、さまざまに報道されている
企業の「カネ余り現象」。しかるに、他方では、いわゆる
円高不況がある。」そして、それを乗り切ろうとして
企業が非常に苦労しておる。と同時に失業に見舞われたり家計が苦しい、そこまで追い込まれておるわけで、あすは我が身かなという不安があります。
要点だけしゃべっていきますからね。これを見てみますと、どういうことかというと、片や貿易黒字でたたかれて、片や個々の暮らしは非常に大変だ。
日本の国全体の
状況と個々の人の暮らしの間に大きなギャップがある。ここで我々が間違えちゃいけないのは、黒字はイコール
企業の黒字だ、こんな短絡的な
考えは持っておりません。これはこのとおりです。例えば貿易黒字の額をそのままイコール
企業の黒字額と誤認などはしておりません。
その上に立って中間にいろいろ大事な話があるのですが、きょうは飛ばします。白書のところにいきます。この白書です。白書のちょうど百六十ページ前後に出てくるところでございますけれ
ども、こう書いてあります。
「白書は、「めざましい
経済成長の成果をうけて、国民生活の諸領域の中で最も顕著な向上をみたのが所得と消費の面である。」と述べたうえで、「国民一人当たり国民所得」と「一時間当たり平均賃金」の数字をあけている。いずれも一昨年、すなわち一九八四年についてのものであり、「昨年秋口以降急騰した
為替レート表示」と、もうひとつ「購買力平価表示」とのふたつが示されている。」ここに、百六十ページに示されています。
「それによれば、「国民一人当たり国民所得」を「GDP購買力平価」で見ると、アメリカの一万二千三百七十六ドルに対し、
日本は九千八百四十二ドルと、アメリカの八〇%に当たる。「アメリカ、スウェーデン、西ドイツに次ぐ水準で、西側先進国の中では中位の水準にある」」これでは相当高いわけです、中位といっても。
「他方、「一時間当たり平均賃金」を「個人消費の購買力平価表示」で見たものではどうか。アメリカの九・四六ドルを最高に、オーストラリア、スウェーデンと続き、西ドイツ(六・九八ドル)、イギリス(六・五五ドル)のあとに、
日本が六。四七ドルとくる。アメリカに対し、六八%の水準ということになる。」片一方は八〇%ですよ、片や六八%。
「アメリカとの開きで見て、「一人当たり国民所得」の場合よりも「一時間当たり平均賃金」のほうがずっと大きいことが明らかである。このことについて白書は何も言わない」確かに言ってません、読んでみました。ところがマクロ、
日本経済全体の所得の伸び方、
日本経済の所得はこんなに伸びている。ミクロ、個々の家計の所得。「マクロの伸び方とミクロの伸び方とに、大きな乖離が生じていることを示すものだと、見なければなるまい。
日本経済の持てる力はそれにふさわしいだけミクロを強めることになっていない」、マクロは伸びたかもしれないけれ
ども、個々の一人の人の所得の増に、はなっていない。
ここに果たして
日本は強いのか。「「強い
日本」に対してハンディをつけるのが
円高である。しかし、本当に
日本は強いのかと、問い直すべきである」。結論はここに書いてあります。「労働の成果を賃金や労働時間などの面で労働者に還元することを怠った上で成立する競争力は、そのような競争力であるがゆえに、
円高を招き寄せて、みずから競争力を喪失する羽目に立ち至っている。」
一番最後には、「今回の
円高不況、
円高デフレは、ミクロを強くしないで」個々の生活ですよ、国民生活を強くしないで「保持してきたマクロの強さの破綻を示している。ほんとうは強くないくせに」本当は強くないのですよ、我々はリッチじゃないのですから。「強くないくせに強ぶってきたために、強者に相応のハンディを背負わされてあわてている姿と言えるだろう。
日本経済のカ、
企業の力、労働のカを、いまこそ暮らしの
基盤の強化に振り向けなければならない。収入を増やし、個人資産を増やし、
社会資本を増強する
方向に集中しなければならない。」私はこの諭理になるほどなと思ったのです。
長官もなるほどなと思うでしょう、白書にそのとおりあるし。
と同時に、これを読んでみたのです。これは
長官のところの
経済企画庁総合計画局の「
内需拡大と成果配分」、これを読んでみたら同じことが書いてあるのです。さっき質問の中でさらっと過ぎたかもしれませんけれ
ども、
内需拡大で一番大事なのは労働分配率を上げること、時間を短縮すること、これが本当の意味での
内需拡大なんだ。クロの個々人の生活を強くしなげれば、
内需拡大など言っても消費の
拡大に結びつかない。これもこう
指摘しているのです。要点だけ改めて読んでみましょう。全く立派なことが書いてある。
「
GNPの約六割を占める個人消費の
拡大を通じた
内需主導型の均衡ある
経済成長を実現することが、国民生活の
充実という観点からも、当面の最重要課題とされている。」
長官のところでちゃんとこういうことを言ってあるのです。これをやらなければだめなんです。
それで、もっと大切なことが書いてある。
我が国の労働分配率を国際的に見ると、欧米諸国に比べて低い。このとおりここに表が出ているのです。これは新聞にも出ていましたね。ざっとグラフを読んでみますと、主要五カ国の労働分配率、パーセント、
日本六八・九、アメリカ七三・九、イギリス七五・三、西ドイツ六九・九、フランス七三・二。最下位です。この新聞の見出しは、やはり賃上げは進んでいません。労働分配率も低いです。いわゆる
国際社会において最低なんです。それは
長官もここでしっかり
指摘していらっしゃる。
さらに、ここにもっといいことが書いてあるのです。「マクロ的にみた労働分配率の水準は、様々な
経済主体のミクロレベルにおける意思決定の結果として事後的に決まるものであり、」これはそうですね。
企業と労働者の間で決まるものだ。それはだれしも逃げ言葉で使うのですが、これはそうじゃないというのです。「
政策的に直接コントロールできる変数ではないが、
内需主導型
経済成長を実現することが課題となっているような時期においては、労働分配率を引き上げ、個人消費の成大を通じたマクロ
経済の好循環を生み出していくという努力が必要である」。どういうことかというと、今
長官がやらなければならないのは、日経連に乗り込んでいって新しい会長に、どうなんだ、労働分配率を本当に
考えてみろ、
日本のミクロの強化のために協力せい、あるいは経団連に乗り込んでいってやるべきだ。こういうことを本当にやれば国民はみんな、そうだ、経企庁のやっていることは正しいんだと絶賛の拍手を与えると私は思うのです。
しかも、今度公共投資の中で住宅を目玉にするとここに書いてあるのです。「所得の伸び悩みに伴う住宅取得能力の低下や、所得上昇に対する
期待の低下による面が大きく作用している」、いわゆるこれは賃上げです。後で資料を出しますけれ
ども、今可処分所得がどんどん減っているのです。そうすると、家を建てようという意欲も少ないですよ、こうなってくるのです。
さらに、「
内需拡大は、経常収支の黒字を着実に縮小させる必要があるため、
GNP成長率を上回る伸びを実現しなければならない。すなわち、
円高等による対外不均衡の是正過程で生じるデフレ効果を緩和し、
経済構造調整を円滑に進めることが
内需拡大の目的である。しかし、
内需拡大は」ここから大事なんです。「単なる需要
拡大策ではなく、国民生活の
充実向上に資するものでなければならない。」やはり、ミクロの国民一人一人の生活に焦点を当てた
政策が本当の意味での
内需拡大だと経企
庁長官のところで結論を出しているのです。
「もとより、こうした需要項目を
中心に
内需拡大を図るためには、機動的な財政
金融政策の運営、各種規制の緩和、
民間活力の導入等が必要不可欠であるが、これまで
検討したように、成果配分としての賃上げ、労働時間の短縮は、適切な
経済運営とあいまって、マクロ的に悪
影響をもたらすことなく、
内需を
拡大させる一定の効果を有していると言えよう。ゆとりある豊かな国民生活の実現に向けて、
内需拡大→賃上げ、労働時間短縮→
内需拡大という好循環を作りだしていく努力が望まれる。」こう書いてある。
簡単に言い過ぎるかもしれませんけれ
ども、私は確かに公共投資、減税は大事だと思うのです。この
内需拡大の後ろには、さっき言ったように公共投資もある、減税もある。しかし、私がもつと経企
庁長官に
考えていただきたいのは、労働分配率あるいは時間短縮です。これは労働省の問題だとか
企業と労働者の間の個々の話し合いだ——確かにそうです。でも今国は、今まで関税障壁あるいは基準認証がどうのこうのと言われているかもしれませんけれ
ども、最もやらなければならないのは国民生活を豊かにして消費を
拡大させる
方向へ行くべきだというみずからのこの提言といいますか研究発表、私は先ほどの横浜国立大学の
先生の
指摘もこの
指摘も同じことだと思うのです。
そこで、私は
長官に、今度の
経済対策は非常に大事かもしれないが、本当の意味でミクロ、国民生活に焦点を当てた
内需拡大の
施策を本腰を入れて
経済閣僚としてやるべきだと思うのですけれ
ども、いかがでございますか。