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参考人(遠藤晃君) 御
紹介をいただきました立命館大学の遠藤でございます。
私は、ただいまの館
先生の御趣旨とはかなり逆の見解を御披露申し上げなければなりません。
今回の
補助金等特例
法案につきましては、私は二つの点で大変大きな
基本的な問題が含まれているように一考えているわけでございます。
一つは、我が国の社会保障、社会福祉の根幹を揺るがすような、そういう後退が仮にこの
法案が通過をいたしますと生じてくるんではないかということであります。二つ目は、これは
地方自治の問題でございますが、やはりこの
法案が通過をいたしますと、
地方自治を
財政面からゆがめる結果、
自治体の
行政機能を大変弱める結果をつくり出しまして、結果として、ここでも
住民福祉の阻害が起こるんではないかということを危惧いたしておりまして、できますならば参議院の良識をもって、この
法案については否決をしていただきたいということを心から
お願いを申し上げたいと思っております。
その理由を二点から申し上げますが、まず社会保障の
基本的な性格にかかわる点であります。
前
年度の特例法を含めまして、御
案内のとおり、いわゆる
補助率カットの主要な対象が厚生省所管の社会保障、社会福祉の領域に向けられているわけでありますけれ
ども、実はこの
法案が「
補助金等」という表現が使われておりまして、新聞紙上等でもしばしば高率補助が
カットをされるというふうな言い方がされているということがあります。しかし、厚生省所管の対象
事業のほとんどの部分は、これはいわゆる補助ではなくて国の
責任に属する
事務を機関委任の形で
地方公共団体の長に執行させる、その
経費の
負担金、あえて申し上げますならば義務的な
負担、これをいわば一方的に
カットするというのが前年の特例法であり、今御
審議いただいておりますところの特例法の
内容であります。
社会保障における国の
責任について、改めて多くのことを申し上げるまでもありませんけれ
ども、例えば
生活保護法の第一条では、「国が」という主語を明確に用いまして、
国民の「
最低限度の生活を保障する」役割を負わせておりますし、さらに第二条では、これの適用については「無差別平等」でなくてはならないということを掲げ、加えて第五条では、この
法律の具体的な「解釈」、「運用」はすべてそういった第一条、第二条等の原理に基づいて行われなければならないということを念を押しております。
同じことは、
児童福祉法におきましても、「すべて児童は、ひとしくその生活を保障」されなければならないということを挙げておるわけでありまして、このことは
地方によって、つまりその
住民が住んでいる
地方自治体ごとにその
措置、処遇に差があってはならないということ、そして、そのことを国が
責任を負わねばならないということを明確にしているところであります。
ここで、私は
行政と
財政の
関係ということを御提起を申し上げたいと思うわけですけれ
ども、これはいわば目的と手段の
関係にある事柄でありまして、一定の
行政効果を目的として据えて、それを支えるのが
財政であります。この目的と手段の
関係が転倒されてならないということは、もう多くを申し上げるまでもないかと思いますけれ
ども、そのことがとりわけてこういった社会保障、社会福祉の領域では、例えばそういった領域の
経費につきまして義務的
経費という言い方、あるいは当然増
経費というふうな言い方等に象徴をされておりますように、そのときどきの
財政の都合によって左右されてはならないということが、これはもう原則の問題であります。
ですから、そういう
立場から考えてまいりますと、今度の
法案をお決めいただきました
政府の
補助金問題関係閣僚会議の決定でありますけれ
ども、その中で、その決定の趣旨は
補助金問題検討会の
報告を最大限に尊重をするということでありましたが、その
補助金問題検討会の御議論の立て方について幾つも疑念を差し挟まざるを得ないというふうに思っているところであります。例えば
見直しを行う根拠として二つのことを挙げておられます。一つは社会経済情勢の推移ということでありますけれ
ども、これは社会経済の現実というものを見てまいりますと、こういった社会保障、社会福祉の領域における
行政需要というのは一層拡大されてきているというのが現実でございます。
私、幾つもの
自治体の
財政の分析を現在行っておりますけれ
ども、ほんの一例として、私の諭旨に都合のいいような
自治体ではなくて、具体的には兵庫県の西宮市、関西では有数の文教住宅都市で高額所得者が多い、そういう
自治体でありますけれ
ども、そこで、例えば
生活保護率の推移でございますが、これを見ますと、
昭和五十二年はまだ五%に達しない四・九%から、五十九年には九・一%、実人員では二千十二名から三千八百三十一名という、こういう増大ぶりが示されているわけであります。そういう事情を反映いたしまして西宮市の福祉局の
予算は、
昭和五十二年の四十九億から、六十一年、十年後には百二十四億という二倍を超える
増加を図らなければならないという、こういう現実が生まれているところであります。
念のために申しますと、その
予算の中で市の
一般財源の
負担というのは、五十二年にはちょうど五〇%の二十五億でございましたけれ
ども、今度の
補助率カットがもし実施されればということですが、百二十四億に対して八十六億、七〇%を
一般財源が
負担をしなければならないということも起こるわけであります。
そして、もとの
補助金問題検討会の
報告に戻りますと、いま一つの理由は、
事務事業が
自治体の
事務として同化、定着をしているということでありますけれ
ども、これは私はいささかも社会保障における国の
責任という原理を変えるものであるというふうには思っておりません。とりわけて私が奇異に思いましたのは、具体的な
見直しを行う基準でありますけれ
ども、この
報告では次のように述べられております。「国及び
地方公共団体が、双方で等しく
負担を分かち合う性格の
事業の
補助率は二分の一が適当であり、それをベースとして」上下という、こういうことでありますけれ
ども、この申し上げました部分、等しく
負担を分かち合う場合は二分の一というのは、これは当たり前のことでありまして、等しく分ければ二分の一という全く同義反覆のことを言っているわけでありまして、何ら私はこれは
見直しの基準になるような主張であるというふうには考えません。
したがいまして、この第一の理由についての結論を申し上げますと、社会保障、社会福祉の領域というのは、すぐれてナショナルミニマムの課題に属することであります。そして憲法あるいは
生活保護法にせよ、
児童福祉法にせよ、
老人福祉法にせよ、そういう
立場を明確に打ち出しているところでありまして、したがって、少なくともこの
措置と言われる諸
経費、これは
生活保護であれ、保育所入所であれ、養護老人ホームへの入所であれ、これはそういう趣旨からいいますと、もともとの十分の八自体が国の一〇〇%の
責任を貫徹していないということでありまして、本来は一〇〇%であるべきだというのが私の見解であります。そして、そういう上に立って
地方の
自主性というのは、例えば福祉の用語で申しますといわゆる情緒的なサービス等々、その地域の風土等々に見合ったそういうところについては、まさに
地方自治の
自主性というのが発揮をされるべきでありますけれ
ども、少なくとも
措置の領域については十分の八というこの間の原則というのは生かされるべきであるし、なお努力の方向としてはそれが十分の十のところに持っていかれるべきであるということであります。
それから第二の理由でありますけれ
ども、今回のいわゆる
補助金カットに伴いまして、
地方財源措置を講じたという言われ方がしております。時間の
関係で中身は省略いたしますけれ
ども、しかしこの場合、考え方の
基本に据えられるべきは
地方自治法第二百三十二条二項、それから
地方財政法十一条の二というところにあるというふうに私は思っておりまして、この
地方財政法の十一条の二は、そういった国の
事務事業にかかわって
地方が
負担を要する場合には、それは
地方交付税の基準
財政需要額に算入をしなければならないということを明確に挙げているところであります。しかしながら、今回の
措置はそういった部分はごくごくわずかなところにとどまりまして、多くの部分が
建設地方債でもって処理されるということでありますから、これはいわば
財政運営の
基本を規定した
地方財政法違反の疑いというものが十分にあるのではないかというふうに思っております。
もちろん私も、国家
財政の大変な赤字という
状況は
承知をしておりますけれ
ども、しかし考えてまいりますと、特例国債を含む膨大な国債の残というのは、もともとあの高度経済成長が終わりました後、専ら大型プロジェクト中心の
公共事業の拡大政策の中で生じてきたものであります。そして、ああいった政策によって今日大企業は史上空前と言われる繁栄を続けているわけでありまして、物の道理としてその始末は、今回提案されておりますような
国民とそれから
地方自治体に
負担を転嫁するという
あり方ではなくて、それによって今日の繁栄を保障され得た、そういったところが
負担をすべきであろうというふうに考えますし、また六十一
年度予算の中でのいわゆる突出部分、防衛費あるいは対外経済援助費等々、そういったところからも、こういった
措置をとらずに、国家
財政の再建の方向へ向けていくという可能性を含んでいるというふうに思っているところであります。
最後に重ねて、どうか
国民の福祉を守るという、こういう
立場からこの
法案について否決という方向をお出しいただくように
お願い申し上げまして、私の陳述を終わらせていただきたいと思います。