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栗林卓司君
サミットと通貨問題を
考えますと、その下敷きになっていたのがG5ではなかろうかという感じがするんです。
両者踏まえましてちょっと私の感じを申し上げてみたいんですが、あの
サミットの
経済宣言を拝見しますと、非常に印象にとまりますのは、こう書いてあるんです。「
経済の基礎的諸条件をよりよく反映するような
為替レートの顕著な変化があった。」と書いてあるんです。したがって、ここで書いてある意味というのは、最近の
為替レートの変化というのは、基礎的諸条件をよりよく反映しているという意味では評価し得る変化である、そういう感触でこの文章が書いてあるんです。ちょうど
サミットの前後というのは一ドル百七十円前後でしょうか、ちょっとそれじゃいかにもと言っておったんですが、しかし、
サミットに集まった欧米の人たちの目から見ると、いやいいところではないか、結構いい線いっておるよ、こういったぐあいにここは読めるんです。
いい線いっているよといって読めるその人たちが、G5でどういうコミュニケを採択したか読んでみますと、そのコミュニケの中で、「
為替レートが対外インバランスを調整する上で役割を果たすべきであることに合意した。」これはいささか問題のあるコミュニケでして、インバランスを解消するためにいわば道具立てとして
為替レートを使うべきなんだというコンセンサスが本当にあったかどうか知りません。しかしコミュニケを拝見しますと、いわば
日本の
貿易黒字とまさにつながった格好で、あれが
円高に結びつくよ、それが結果して
日本の
貿易黒字をやがて縮小させる方向にいくのではあるまいか、こういう印象をG5のコミュニケは外部に与えるんです。しかも、全般としてG5でどういったことを
考えたかといいますと、
為替レートというのは、「ファンダメンタルズを一層改善するよう実施され強化されるべきであり」としながら、実はアメリカのドルとの
関係を見たところ、いささか問題ありではないか。
そこで、今文章読むんじゃなくて私は記憶をたどって申し上げますけれ
ども、非ドル通貨はむしろ強くなるべきではないのか、そういった形でG5の合意が成り立った。これがG5の後一斉にドル安、
円高、マルク高、これが広がっていった私は原因だと思うんです。当時
日本では、あのドル高状態ではにっちもさっちもいかぬわいという気持ちがあったものですから、G5以降の変化はそうけげんな思いもなしに受けとめてまいりましたし、当時
大蔵大臣が、一ドル百九十円ぐらいであればまあいいところであるとおっしゃっても、だれもおかしいとは思わなかった。その後で
円高が加速されてきて、加速された姿そのものを実はとらえて、基礎的な諸条件を反映するような非常に顕著な変化があった、こう言われますと、今の
円高というのはお墨つきであるかのような印象を与えかねなかったんではないんだろうか。
もっと一番注目すべきことは、こういう通貨の変化がありますと、
協調介入でしのいでいこうではないか、こういった話になるんですが、
協調介入といった場合に、それを受けるような条件が欧米にあるんだろうか。そこで、もし有用であれば介入をいたしますということを書いてありますけれ
ども、問題は、もし有用であれば、有益であればと言っている言葉の
真意なんです。非ドル通貨は強く、そういった方向はこれは有益な変化である、そのためには介入もあり得る、これがG5と東京
サミットの
経済宣言を通して基本的に底に流れている私は発想みたいな気がするんです。そこで、
日本がこれはとても高くなってしようがないから
協調介入してくれと言っても、いやそれは話は別だ、それはいたしません。いたしませんということをどう書いてあるかといいますと、「ウィリアムズバーグ・
サミットにおける約束を再認識しつつ、是正
努力は、何よりも基礎となる
政策要因に焦点をあてるよう勧告する。」まさにここに今次東京
サミットの一つのハイライトがあったと思うんです。
サーベーランスというのは実はG5のころからやっておりましたし、別に新しいことじゃないんだけれ
ども、それにはっきりと脚光が当たってきたというのが今度の東京
サミットの特徴だと思うんです。そのときに、円が高くなった、
日本は悲鳴を上げている、何とかしてくれというときに、じゃここで
協調介入に乗り出そうかといって、ではそれができるような政治的な条件がアメリカに、あるだろうか、あるいはヨーロッパにあるだろうか。特にアメリカということを
考えますと、そんな
協調介入するような政治的な条件というのはとてもないと私には思えてならないんです。そうすると、基礎的な諸要因に焦点を当てるよう勧告する、そこでおまえさんどうするんだというように向こうから言ってくるに決まっている。では一体我々として基礎的な
政策要因のどこをどう変えようとするんだろうか。またそうしないと、このままいきますと、今日銀も一生懸命介入しているんだろうと思うんですが、
為替市場で動いている資金量というのは日銀の単独介入でどうなるほどちっちゃなけたではないようでありますから、やはりG5なりG7なり、それら主要国が、よしこの際は
為替レートのレベルはこうするんだという意思を見せない限り、とてもこれは私は動いてこないんではあるまいか。しかも、
協調介入というのはなかなかしてくれるような政治的な背景はない。
日本ではどうするかということになりますと、これからが実は一つの判断として承りたいのでありまして、
大蔵大臣がこの種問題についてこういったことを言ったということはいささかもって
発言してはならないことでありますから、私の意見だけ申し上げます。
従前と違って、円安には反騰しないんではないか。この
円高がどこまで一本調子でいくかわかりませんが、かつては、ある日円安に反騰していったということがありましたけれ
ども、どうも今回は円安には反騰しないんではないか。適正な円ドルレートの水準がどの辺にあるのか、これはだれも知りません。知らないけれ
ども、我々はどうやら今の
円高と長く同居することになりそうだ。同居しないで円安にしようと思って
協調介入を求めようと思うと、基礎的な
政策諸要因に文句が言われて何かを直さなきゃいかぬ。端的に言えば、
日本の貯蓄率なら貯蓄率、それをこう直すんです、あるいは公共事業の額をこれだけふやすんですなどということを言わなきゃいかぬし、やらざるを得ないんです。そうしないとなかなかもって今の
円高基調というのは動かないんじゃないか。
以上、私の感じですから
お答えは要りません。
そこでお尋ねしたいのは、問題は、もし仮に一ドル百五十円台でしばらく居座りますと、これは
日本経済には相当深刻な打撃を与えることになる。そうなると、今御
提案の財確法と、またその前にある財政の中期展望にしたって、しょせん全部絵にかいたもちでありまして、そうすると我が
大蔵省として一体どういう
政策手段をもってこの苦境を乗り切っていくんだろうか。私がお尋ねしたいのは、仮定を含めての御
質問になるんですが、今
大臣も言われましたけれ
ども、どうもアメリカの
経済は思ったほどよくないらしい。この間までは結構アメリカは元気いっぱいやっているんだと言っておりましたが、どうやら中を見るとうまくいっていないらしい。これが
経済指標とともに明らかになりつつあります。そこでアメリカの連銀はどうするか。当然それは公定歩合の引き下げをしてでも景気浮揚策をとらざるを得ない。もし連銀が公定歩合の引き下げをした場合に
日本の中央銀行は黙って見ているか。とてもそれはできません。それは協調利下げをどうしてもせざるを得ない。そこで
日本銀行は公定歩合をさらに一段下げる。場合によってはさらに一段連銀は公定歩合を下げるかもしれない。
日本銀行はまた協調利下げをせざるを得ない。私がお尋ねしたいのは、そのときに預金金利を払う余地が残るんだろうか。
私はここで
大臣にお尋ねしたいんです。例えば少額利子優遇税制を撤廃するということがいろいろ言われているんですが、この議論にしても、
日本の貯蓄比率を何とかしろと海外からも非常に目くじら立てて言われている。この問題に手をつけていくと、零細な貯蓄者に対してその金利収入から税金を取るのかという話が反対論として出るんですけれ
ども、このままずっといきますと、まともな預貯金利子も払えないような低水準にとどのつまり預金者は追い込まれてくる。そうするとどの道を選ぶか。今、預貯金について少額利子優遇税制はこれはもう撤廃です、こういうドラスチックな変化を
日本政府がやったということをアピールすることによって、今の
円高基調の中にいる
日本を抜け出すような処置をしていくのか。私はこういったことをこれから
考えていかざるを得ないのではないか。
それからもう一つなんですが、どうやら相当低金利の時代に我々は住んでいるようでありまして、低金利ということになると、
国債の
発行についてもう少し
考え方を変え始めてみてもいいんではないだろうか。今
日本では社会資本の投下が急がれております。なかなかこれは民活といってもできません。だったら、せっかく利子が安くなったんですから、
特例債と四条債をごちゃごちゃにするわけにはいきませんから節度は必要ですが、公共事業については思い切ってふやしていったらどうなんだろうか。長期的に
考えますと、いずれ我々は大増税を覚悟せざるを得ません。ただこれは中期的には困難です。長期的には
考えていくとしても、中期的にはとにかく公共事業をふやしていく。片一方では預貯金利子に対する税制も変化をさせなきゃならぬ。外から見て、
日本というのは確かにこれはまじめにやり始めた、そういった印象を外為
市場の人たち、あるいはその
市場に参加しているのは世界の多数の市民でもあるわけですから、そういった人たちに周知徹底させることが今一番必要なんではないのか。
これだけの
円高でとても耐えられないと思いますが、それは
協調介入で抜け出そうと思ってもなかなか抜け出せないということを、東京
サミットもG5のコミュニケにしても、読めば読むほどそう書いてあると思うんです。
この間中曽根さんがアメリカに持っていった
経構研の構想にしたって、あれはいい作文ができたというんで置いていくわけにはとてもいかない。何かある大胆な一歩が私は必要な気がするんです。六十五年赤字
公債依存体質からの脱却、これは到底外すわけにはまいりません。とはいうものの、それと四条債は別だ、何かそんなことを
考えられないだろうか。しかも、四条債は、金利が上がったからどんどん出していいなどとは私は申しません。恐らく長期的には大増税を覚悟して設計をしていかざるを得ないんでしょうけれ
ども、中期的にはとても無理でありまして、しかも中期的にも、今の一ドル百五十円が仮に続いたとしたら、ちょっと
日本経済はへたってしまうと思うんです。したがって、この際はよほど腰を据えた大胆な
対策が急がれるように思えてならないんです。
以上勝手にこちらで申し上げましたが、御所見を承りたいと思います。