○
中曽根内閣総理大臣 私は前にも部分的に申し上げましたが、ゴルバチョフ
政権は前のチェルネンコ
政権等々、あるいはその前の
政権等々とかなり変わってきている気配があると思っております。その
実力といいますか、政策を推進する一番大事な体制固めというのが今回の党大会ではないか。就任以来かなり思い切った人事の刷新を行ってきておりますけれ
ども、問題は中央
委員会の構成でありますから、それが今度の党大会でどういうふうな変化が出てくるかという点を
世界じゅうも関心を持って見ておるだろう、こう思うのです。
私は、前にも申し上げましたように、ゴルバチョフ氏に会いましていろいろ応答もしてみて、そして非常に感じましたことは、既に相当クレムリンの
内部を掌握しているなということをまず感知しました。そのときはチェルネンコ氏の葬式の直後ですから、まだほやほやのときであったわけですけれ
ども、そばにいたグロムイコ
外務大臣のゴルバチョフ書記長に対する
態度を見るというと、やはり非常に丁重な扱いと
態度をとっておられました。それは、私にとっては非常に意想外ぐらいのことであった。そういう面を見まして、チェルネンコさんが病気の間も既に相当実権を握っておったなという気が私はしておったのであります。その後の行為を見ますと、そういう人事の刷新等もかなりてきぱきやっておるのを見まして、やはり相当力を持ってきておったのだなということがわかります。
その上に、やはり私があの人の
立場になって考えてみますというと、ともかく
ソ連の
外交、内政というものは相当行き詰まってきておった。
世界政策においても、各地において行き詰まりが来ておった。内政においても、農業問題を初め、そのほか規律の問題あるいは生産性の問題その他でも相当行き詰まりが来ておる。だから、スターリン氏が書記長になってずっと今まで、レーニン、スターリンに続いてやってきた共産主義の体系というものがここで非常にもうある限界点に達してきている、今までの
考え方ではだめだ、新しい内政、
外交に関するイノベーション、革新を必要とするときに来た、彼はそう見ておることだろう、そう思ったのです。ゴルバチョフ氏はまだ五十代ですから、二十年の持ち時間を持っておると思うのです。だから、短期、中期、長期の
世界政策あるいは国内政策の展開のスケジュールを彼はこのチェルネンコ氏の間ずっと練ってきておるだろう、こう思っておるのです。それで、そういう
意味で、今までよりも非常に西欧的なアプローチを持って、そして特に中国の自由化の政策をよく見て、その中国の自由化が生産性においてかなり成功しつつある、それのインパクトを相当受けておる、そう見ておるのであります。したがって、内政においても、党大会以後はどういうような内政が展開してくるか、かなり中国も考えた政策が出てこやしないかということを私は見ております。
また、
世界政策においても時間が必要であります。それだけの大きなイノベーションをやろうと思ったら、平和と時間が必要なことは当たり前で、財政的にも厳しい
状況でもあるわけですから、そこで
アメリカとの
デタントという方向に出ている。時間が必要であるということで来ている。
また
アジアにおいては、今まで
日本に対して、ややもすると
ソ連は
日本の
実力を認識しないような
態度であったのではないかと思います。それが修正された、グロムイコ路線というものが。やはり
日本の
実力というもの、
日本の影響力というもの、最近の
日本の
実力や国際社会における
地位というものを正当に認識し直して、そしてこの
日本といかに共存していくかということが
アジア太平洋における
ソ連の影響力を今後つくっていく非常に大きな決め手になると考えているのではないかと思われる節があります。中国について非常に注目していると同時に、また、
日本についてもそういうふうに注目しているのではないか、そう見ておる。
そういうことを頭に置きつつ、党大会以後
ソ連が
世界政策及び国内改革についてどういうふうに出てくるか。それが本当に実りのある、事実をもって証明されるような真の平和や真の
友好、真の軍縮、そういうものが出てくるか出てこないか。そういう点についても私
たちは冷静に観察もし、相手の出方によっては我々もやはり平和と軍縮のためにやることはやっていく、そういう
態度で虚心坦懐にいきたいと思っております。