○五十嵐広三君
日本社会党・
護憲共同を代表して、ただいま上程された
地方自治法の一部を改正する
法律案について、総理並びに
関係各大臣に御質問申し上げたいと思います。
現行
地方自治法は、新憲法と施行日をともにする唯一の
法律で、
我が国の戦後民主主義の基盤をなしてきたものであり、私どもはその重要性を忘れてはならないのであります。しかるに、このたびの自治法一部改正案による
機関委任事務の
職務執行命令訴訟制度の
見直しは、その最も大切な地方自治の基本ルールを崩そうとするものであります。本改正案の裁判抜き代執行に
反対し、先日全く自発的に、五百人を超える公法学者などの学者、研究者が、憲法理念に反するとして要望書に連署し、政府に提出したのも、この
制度見直しが地方自治を後退させるものであることを強く懸念したためにほかなりません。
機関委任事務というのは、まことに疑問の多い
制度であります。
地方自治法の
規定を全部ひっくり返しましても、
機関委任事務という文字は出てこないのであります。先日も、内閣法制局のある幹部のお方がお書きになった論文の中で、「
現行法制上、国の機関とする
規定もなく、任命行為もないのに、単に
事務を
処理する権能が
法律等により与えられただけで国の機関になるということは、およそ考えられないことである。都道府県
知事が任命制であった戦前の地方
制度をそのまま引き継いで
制度をつくったことによる、一種の錯覚ではないだろうか」と述べているのであります。(
拍手)今日では、単に地方団体
関係者や学者だけでなくて、この方のように広く中央官僚の中にも、
機関委任事務への否定的な
意見が多いのであります。
そこで、自治大臣にまずお聞きいたしますが、
機関委任事務というのは一体何なんですか。その根拠は一体どこから来ているのでありますか。正確には何件あるのでありますか。あるいは、地方の
事務総体のうち、どれほどの割合を
機関委任事務が占めているのか、お調べになったことがございますか。このわけのわからない
機関委任事務なるものは、
法律、
政令などで一方的に
事務を押しつけて、上級行政庁として
知事、市町村長らを
命令、指揮監督しながら、財源の付与は不十分で、常に超過負担、別に任命されたわけでもなく、もちろん給与の支給もない。しかも、
知事や市町村長たちが、めったにないことですが、例えば人権擁護上、政府と
意見の対立をして協力できない
事務が生じますと、怠ったとして、代執行と罷免の
制度まで用意されているのであります。
このたびの改正案の中心は、この職務執行
命令制度が、これまでは二度の裁判を経た上でなければ国は代執行できなかったものを、今度は、裁判に時間がかかるというので、司法の判断抜きにして、行政だけの判断で実施するように改めようとするものであります。現行代執行
制度は、生まれてから四十年近くたっているのでありますが、この間、実際に代執行が発動されることになりまして、それに対する裁判の判決が出されたのはただ一度、
昭和三十五年のいわゆる砂川事件の最高裁判決があるのみでありますが、このときの判決は、現行
制度の
趣旨を明快に説いているのであります。
すなわち、
機関委任事務の
関係における
地方公共団体の長に対する国の指揮監督を、役所内部の上意下達のように行うのは、地方自治体の本来の自主独立性を害するものであり、憲法で定めた地方自治の本旨にもとるおそれがある。そこで、
知事や市町村長の本来の地位の自主独立性を尊重するということと、一方、国側の委任
事務を
処理するための指揮監督の実効性を確保することとの間にどうしても調和を図るために、職務執行
命令の訴訟の
制度を採用したものだ、およそこのように述べているわけであります。そして、この条文によって裁判所が関与するのは、国と自治体の長の間に
意見が対立したときなどに、裁判所がその中に立って、国の指揮
命令が適法であるかどうかを判断し、適法と認めたときに初めて代執行権が行使できるようにして、その調和を図ったものであることを明らかにしているのであります。
自治大臣、以上の判決の
趣旨に照らしても、司法の関与を抜き取る今回の代執行
制度見直しは、肝心の地方自治との調和を欠き、憲法の
趣旨にも背くことであろうと思うのでありますが、いかがですか。(
拍手)
このたびの改正案で、地方自治体の長の罷免
制度が廃止され、
機関委任事務への地方
議会及び
監査委員の関与を認めようとすることにつきましては、これはむしろ遅きに失したとはいえ、評価をいたしたいと思います。もともと住民から公選された長が、中央政府から罷免されることがあったなどということは、
国民にとっては信じがたい、驚くべきことなのであります。また、
機関委任事務への
議会の関与や
監査委員の
監査にいたしましても、今日、各地方自治体は事実上、何の差別もなく取り扱っているのが実態でありまして、いずれもこの改正の部分は当然のことであろうと思います。
この改正案では、「他の方法で是正を図ることが困難で、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかである場合」に代執行するのだとされているのでありますが、どうもその
内容が全くわからない。行革審の答申では、「万が一、生じた場合」などと述べているのでありますが、自治大臣、ぜひ発動する場合を具体的に、例えばこの
事務のこういう場合なのだと、
国民にわかりやすくこれを例示してほしいと思うのであります。
制度は、どんな
制度でも、一たん設けられますと生きて動き出し、地方自治体や
国民の権利義務に重大な影響を与えるのでありますから、
制度論というような抽象的なことではなくて、明快にお答えをいただきたいと思います。
六十
年度防衛白書にもありますように、防衛庁はかねてから、有事法制の研究を手がけて、有事に際して自衛隊の円滑な行動などを確保する上で法令上問題があると、各省庁にまたがる条文すべてについてチェックをして、これを明らかにしているのであります。例えば、部隊移動のためには
道路法第二十四条外二条。陣地構築のためには、海岸法第七条外二条、河川法第二十四条外六カ条、森林法第三十四条、自然公園法第十七条外六カ条などが挙げられています。また、建築物の利用のためには建築基準法第十八条外十一カ条。野戦病院のためには
医療法第七条外九カ条など。そして、戦死者の埋葬のためには墓地、埋葬等に関する
法律第四条、五条などに至るまでここに示されているのであります。もちろん、これらの
法律に基づく
事務は、国の
機関委任事務として地方が行うことにもなるものでありますが、防衛庁長官、これらの自衛隊の行動上問題があるとする
法律について検討なされている理由、今後どのようにこれに対応していくとお考えになっておられるか、この際、お伺いをしたいのであります。
また、ぜひお伺いをしておきたいのは、逗子、三宅島の問題であります。
逗子市では、米軍住宅建設に対する緑の保護をめぐってこの一年半、市長選と二つのリコール投票が行われた。これらの全体をあわせ考えますと、逗子市の市民たちが緑の保護を強く望んでいるということはよく理解できるのであります。三宅島のNLP、すなわち米軍艦載機の夜間発着訓練飛行場の建設問題では、村長や村
議会は強固にこれに
反対し、在島有権者の八五%が
反対の署名をしています。逗子の場合は、主婦を中心にした生活実感に基づく市民運動であり、三宅島の場合は、島民の生活をかけた、まさに全島ぐるみの住民運動であります。いずれも自分たちの住む地域の幸せを自分たちでつくっていこうということから生まれる運動であって、イデオロギー闘争とは別な次元のものなのであります。
防衛庁長官、逗子、三宅島問題について、従来の方針にこだわることなく、弾力的に、柔軟な発想で対応する考えはありませんか。あるいは、あくまで自治体の長や住民が
同意しないなら、住民の意思をけ散らしてでも国の意思を強行すると考えておられるのか。また、自治大臣はどのような思いでこれをごらんになっておられるのか、それぞれお答えいただきたいのであります。これに関連して、さきに小沢自治大臣のリコール
制度見直し発言が波紋を呼んでおりますので、この際、その点も真意を明らかにしていただきたいと思います。
今日、都道府県の総
事務量の実に八割、市町村の約五割は、国からの
機関委任事務と言われているのであります。この膨大な
機関委任事務には、さきに述べた各省庁の指揮
命令によって必ず中央政府の不要な干渉が存在している。このために、自治の侵害はもとより、国と地方の往復
事務は煩雑をきわめて、二重行政や二重監督の弊害は枚挙にいとまありません。行政効率の上から見ても、最も不合理かつ有害な存在であり、地方団体や
地方制度調査会などが言うように、自治分権の視座に立って、その廃止を目指して抜本的改革を行うことこそが、真の行政改革の本命と申すべきと思いますが、総理並びに自治大臣の御見解をいただきたいと思うのであります。
さて、総理、あなたは、今
国会に安全保障
会議設置法案を提出し、内閣の権限を集中強化しようとしています。さらに、政府・与党の首脳
会議の方針によれば、国家秘密法案を再び今
国会に提出する動きがあるようであります。そしてまた、この
機関委任事務の裁判抜き代執行
制度による中央権力の地方への貫徹が提案された。これら一連の
措置は、まさに危機管理体制の確立であって、そのための権限の一点集中と、これを阻害するものを排除するためのものであり、民主主義体制に逆行する中曽根政治の本質を示していると思うが、総理、いかがですか。また、国家秘密法案は再提出すべきでないと思いますが、与党総裁の立場も含めて、提出の意思があるのかどうかもお伺いしたいと思います。
今回の改正案に突然入ってきたものに、選挙管理委員の罷免
制度があります。行革審の答申にはない、
地方制度調査会の答申にも出てこない、しかし、にわかに思い出したように、
議会による選挙管理委員の罷免
制度が提出されてまいりました。世間では、タイミングから見て、一部地方選管が協力しない場合に備えたもので、どうも定数是正なし選挙の布石ではないかというような声もありますが、いかがですか。
最後に、最近の異常な円高対策など重要問題が山積する折から、まさかダブル選挙など行う余地もないというふうに思いますが、この際、総理の決意を伺って、私の質問を終えたいと思う次第であります。どうもありがとうございます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕