○森田景一君 私は、公明党・
国民会議を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明の行われました
老人保健法等の一部を
改正する
法律案につきまして、
総理並びに関係大臣に若干の質問を行うものであります。
人生八十年時代を迎え、超スピードで
高齢化社会が進行している中で、
昭和四十八
年度から発足していた
老人医療費公費
負担制度、いわゆる
老人医療無料
制度は、
老人の方々に大変喜ばれましたが、
医療費の支払い側や診療の受け方等をめぐりさまざまな問題が生じたために、疾病の予防、治療、
機能訓練等を一貫した総合的
保健事業を実施することを条件として、
医療費の一部
負担が導入された
老人保健法が
昭和五十七年に
創設されました。
創設当時は、予防、治療、リハビリテーションの一貫体系の
老人保健法は、画期的なものと評価されたものでありましたが、
法律施行後におきましても、
保健事業の総合的実施は遅々として
計画どおりに進まず、その対策の強化が問題視されておりました。
そこで我が党は、昨年、
老人対策緊急百億円プランと銘打ち、その強化を図ってきたところであります。すなわち、一、専門
保健福祉施設の
整備のため、
特別養護老人ホームの
施設整備を追加すること。二、
寝たきり老人訪問
保健指導の徹底。三、在宅
介護支援体制の強化、すなわちホームヘルプ
サービスの
改善、ショートステイ、デイ
サービス実施箇所数の
増加等。四、在宅
寝たきり老人介護控除
制度の
創設。五、ひとり暮らし
老人などのための住宅対策の確立。六、
老人問題に関する総合研究機関の設立等を提唱したのでありますが、幸いこのプランは、各党の御理解をいただきまして、六十一
年度予算に大きく反映され、その実現の運びとなりました。しかしながら、
政府の
老人福祉サービスは、なお公的
施策の立ちおくれが目立ち、社会保障
制度審議会からも、「在宅
福祉の在り方について」との指摘を受けているところであります。
我が党は、こうした状況を一日も早く打開するため、本年も健康アップ緊急百五十億円プランの提案を行い、予算の
修正要求に盛り込んだところであります。
その
内容は、一、家庭婦人等の健康診査体制の拡充
整備。二、がん予防検診の充実。三、健康増進対策の充実拡大。四、エイズ対策の推進。五、中毒一一〇番体制の
整備充実。六、
中間施設整備促進。七、独居
老人健康コール
システムの確立などでありますが、これも是が非でも実現せしめ、
福祉の後退に歯どめをかけなければならないものであります。
以下、順次質問に入りたいと思います。
まず質問の第一は、
中間施設についてであります。
中間施設の
整備については、関係各方面から強い要望のあるところでありますが、本
改正法案にも、
老人保健施設として、この
中間施設を
創設することが提案されております。本
年度は、
病院併設八カ所、
特別養護老人ホーム併設二カ所の合計十カ所をモデル実施する
計画であります。
施設の
内容は、現行の
老人病院と
特別養護老人ホームとの両方の
機能を同時に備えた
中間施設を
考えているようでありますが、
政府も定義が必ずしも定着していないと答弁しておりますとおり、この
中間施設についてはなお性格があいまいであります。
いずれにせよ、これらの
中間施設は、
地域のニーズに合わせて弾力的につくられなければなりません。したがって、国が画一的に定型を押しつけることも避けなければなりませんし、当然、本
年度予算における十カ所のモデル
中間施設では不十分であります。各種タイプのモデル
中間施設をもっとつくるべきでありましょう。健康アップ緊急百五十億円プランでも、
中間施設整備の
国庫補助を増額し、特養
老人ホーム、
病院の
中間施設化及び新設
施設を含め、モデル実施箇所を大幅にふやし、速やかに
制度化を図るよう要望しているところであります。
総理、大蔵、厚生各大臣の御所見を承りたい。
質問の第二は、中毒一一〇番についてであります。
筑波大学の中毒一一〇番が資金難により廃止されましてから、もう一年を
経過しております。この間、中毒一一〇番の復活を求める声は大きく、増岡前
厚生大臣は昨年秋までには復活させると約束されましたが、約束が実現しないまま辞任されてしまいました。しかし、関係者の方々は、大変な努力を重ねられまして、中毒一一〇番を財団法人中毒情報センターとして復活させる寸前まで参りましたが、財団法人設立にあと一歩のところで足踏みしている状態です。電力、ガス会社では一兆円に上る
円高差益を消費者に還元することを決めましたが、
円高差益のほんの一部、一億円か二億円をこの財団設立資金に寄附してもらえればすぐ発足できるのです。生命尊重の立場に立てば、これは直ちに解決すべき問題であります。それがスタートできないでいるのは、中曽根内閣が生命を軽視しているからだと言われても仕方がないでありましょう。本来、中毒一一〇番のような重要な仕事は、国の責任で対処すべきものであります。
総理はどう対処されるおつもりであるか、明確な答弁を求めるものであります。
質問の第三は、
老人医療費一部
負担金の大幅
引き上げについてであります。
本
改正案では、
外来自己
負担が、現在一月四百円であるのを一月千円に
引き上げ、
入院自己
負担については、現在一日三百円を二カ月間だけ支払えばよいものを、今度は
入院全期間にわたって一日五百円にしようというものであります。これは通院の場合では、月二・五倍の大幅値上げであります。
入院の場合は、さらに厳しく、一カ月目の
入院費が現行九千円であるのに、これが一万五千円になります。しかも、二カ月の限度期間が撤廃されると、一年間の
入院生活では、現在の一万八千円から約十八万円と、一挙に十倍に
負担がふえることになります。
入院の場合は、このほかに基準外支出の差額ベッド料や付添
看護料があります。全国の
老人団体や東京都の付添
看護料
調査で、月額十万円以上の
負担をしている人が百十二人中五十人を超えております。お
年寄りは、年金受給額も少なく、
退職老齢年金の受給額も低い。そうした中で、このように大幅な
負担金引き上げは、弱者切り捨ての暴挙であると言わざるを得ません。
老人保健法は、本来、健やかに老い行くための壮年期からの健康対策立法であり、疾病予防の充実、
老人医療の質の向上が柱であり目的であるにもかかわらず、その本質を忘れ、単に
保険財政の収支のつじつま合わせの
医療費収集法に変質させているとしか言いようがありません。
老人に
負担増を求める前に、多額の差額ベッド代、紙おむつ代、寝具代等の
保険外
負担等を解消するか、軽減を図るべきでありましょう。
総理及び大蔵、厚生各大臣の答弁を求めるものであります。
質問の第四は、
加入者按分率の
引き上げについてであります。
老人保健制度では、
老人医療費の各
保険制度からの
拠出金については、全体の五〇%を
医療費の実績額、すなわち
医療費按分、五〇%は、
老人加入率を全加入
保険者平均に置きかえて計算し加入者調整した額、すなわち加入者按分との合計額となっております。今回の
改正案では、
加入者按分率を六十一年六月から八〇%、六十二
年度以降を一〇〇%にしようとするものであります。
老人の
医療費を
国民全体で公平に
負担するとの
趣旨そのものは理解されるものの、
加入者按分率や一部
負担金などの
引き上げには理論と実態とのギャップがあり、通常、激変緩和
措置がとられなければなりません。それをあえて急激に大幅
引き上げを強行しようとしている背景には、中曽根内閣の
福祉切り捨て政策が強く影響しているからだと言わざるを得ないのであります。
すなわち、
昭和六十一
年度の厚生省予算要求案では、
国庫負担ベースで一兆五千億円の当然増が予定されていたにもかかわらず、例外的増枠経費が四千億円ほど認められただけで、結局、差し引き一兆一千億円を削減しなければならなかったと伝えられております。この一兆一千億円を削減するために、
老人保健法から一千九百億円ひねり出そうというわけであります。そこで、
加入者按分率を八〇%に
引き上げれば、
国民健康
保険の
拠出金が二千九百億円減少し、それに伴って
国庫負担は一千九百億円減少して、ちょうどそろばんが合う勘定になります。激変緩和
措置も何もあったものではありません。
福祉切り捨て政策そのものと言っても過言ではないでありましょう。
加入者按分率の
引き上げを急ぐ前に、おくれている
保健事業の
計画達成やリハビリ、すなわち
福祉施設の充実強化こそ肝心であります。また、
人口高齢化に伴う
医療費や年金等の社会保障関係費は、大幅な当然増が見込まれていることから、別枠予算にして
福祉の後退をとめるべきであるとの議論が盛んになっておりますが、
政府としてはどのように対処されるお
考えであるか、あわせて答弁をお願いしたいものであります。
質問の第五は、
老人問題総合研究機関の設立についてであります。
我が国の
高齢化は、平均寿命の伸長と出生率の低下によりまして、確実に進行しております。総
人口に占める六十五歳以上の
人口比率、すなわち
高齢化率は、五十九年には九・九%に至りましたが、七十五年には一五・六%に達すると推定されております。老年
人口は毎年三ないし四%ずつふえておりまして、八十五年ごろから年少
人口を上回ると見られております。
高齢化の進展に伴い、寝たきり及び
痴呆性老人の発現が問題になってまいります。高齢者が病気がちになることも避けられません。しかし、老化とは何か、なぜ老化するのか等々、そのプロセスは解明されておりません。
今後、医学的老化研究は、生理的老化と病的老化の二つの側面から推進する必要があるとされております。しかし、
我が国における老化研究はかなりおくれておりまして、現在、全国レベルで研究の総合的役割を果たす機関はありません。老化研究機関としても、東京都
老人総合研究所、日本医科大学
老人病研究所、その他東大、京大などの
老人教室、国立精神衛生研究所、国立理化学研究所などが挙げられる程度であります。米国、ソ連を初め諸外国は、老化研究専門の国立研究機関を
設置しております。
我が国でも、早急に研究体制を確立する必要がありますが、
総理の決意のほどをお聞かせいただきたい。
最後に、悪質な国保
保険料滞納者には、被
保険者証を返還させ、
給付を一時差しとめることができるように
改正されるわけでありますが、これが拡大解釈され、乱用されることのないよう、また、
保険料の徴収については、当事者の市町村が格段の企業努力をすべきであります。
いろいろと申し上げましたが、いずれにいたしましても、本
改正法案は問題が山積しており、この際、廃案として出直すべきことを主張して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣中曽根康弘君
登壇〕