○上原康助君 私は、ただいま
提案されました
安全保障会議設置法案について、
日本社会党・
護憲共同を代表し、総理並びに関係閣僚に若干の質問をいたします。
法案に関する具体的質問に入る前に、中曽根首相誕生以降の政治姿勢と、その政治手法の欺瞞性を指摘してみたいと思います。
総理、あなたは、八三年一月二十四日、この本
会議場で行った初の施政方針演説で、日本が戦後史の大きな転換期に立っていることをひしひしと感じるとして、従来の基本的な制度や仕組み等についても、タブーを設けることなく、新しい目で見直していくと述べられたのであります。総理、それが、あなたが華々しくぶち上げた「戦後政治の総決算」であったし、この三年有半、その政治路線に沿って国政を担当してこられたと言えましょう。総理初め側近グループは、内閣の支持率が比較的高いことに喜色ばみ、なお総決算路線をばく進していくかのように見えますが、この三年有半の中曽根政治を冷静、かつ、まともに検証した場合、その政治言動はもとより、諸政策遂行の基調は、ことごとく戦後の平和憲法体制を突き崩す実質的改憲路線でしかなかったことは明白であります。(
拍手)
総理、自他ともに改憲論者のチャンピオンと任ずるあなたが、最近憲法
改正の必要性を口にしなくなりましたが、あなたの胸中には、常に現行憲法の
改正を目標にした時間表がセットされているのではありませんか。ここで改めて、総理が目指す「戦後政治の総決算」とは、具体的にどういうことなのか、現行憲法に対する認識とあわせてお聞かせ願いたいのであります。
次に指摘しておきたいことは、この
法案との関連も深いわけでございますが、行革に名をかりた、詐術的とも思われるほど、公的、私的の諮問機関型政治を進めてきたことであります。このことは、総理が八五年七月、自民党の軽井沢セミナーで語ったように、あなたが戦後政治で締まりとまとまりをつけたいと考えている政治
課題ごとに、公的、私的の諮問機関を乱造して、しかも、これらの諮問機関には、思想的にも人間的関係でも、首相と極めて親密とされる一群の学者、文化人、財界人が、必ずその中心に座るブレーン政治に徹してきたのであります。したがって、首相と同質的な集団を核とする各種諮問機関が出すであろう
結論は、首相の意向が色濃くにじみ出たものとなるのは、けだし当然と言えましょう。
このことは、行革審、臨教審などの公的諮問機関は言うに及ばず、平和問題研究会、靖国懇、文化と教育に関する懇談会、経済政策研究会などを乱造多用化することによって、これら諮問機関の各種答申または提言が、あたかも国民の多数
意見であるかのように世論を誘導、形成して、中曽根政治を宣伝する武器として活用してきたではありませんか。その結果、国家行政組織法を改悪して国会の
審議権を制約したり、軍事費を著しく突出させ、防衛費の実質一%枠突破、靖国公式参拝など、軍拡、戦前への回帰、いわゆる新国家主義志向にこれらのことが色濃くあらわれているのであります。
特に、国会
審議でもしばしば問題となってきた国家行政組織法の改悪は、国会の
審議権を剥奪する結果を招いたし、また、各種一括法のごときは、法の上に法をつくるものであり、戦後の民主政治並びに行政の仕組みを否定しようとする何物でもないのであります。総理、あなたは今、私が指摘をした諮問機関型政治の弊害をどのようにお考えか、所見を承りたいのであります。
さて、次に、
法案と関連させてお尋ねいたします。
この安全保障
会議構想は、行革審の内閣機能等分科会の提言を受けて、昨年七月二十二日の行革審の「行政改革の
推進方策に関する答申」に基づいたものでありましょう。そもそも、行革審設置の本来の目的は、八三年三月の臨調最終答申のお目付役として、政府が行政の簡素化で「小さい政府」、「増税なき
財政再建」を着実に
推進するかどうかを見守るためのものだったはずであります。ところが、中曽根、後藤田のコンビが強くなるにつれ、中曽根ブレーンの暗躍とリードによって、中曽根政治を支え、それを権威づける行革審へと大きな変質を来してしまいました。これは、昨年七月の行革審答申が、内閣の中枢機能の強化を図って、官邸に権力を集中させ、トップダウン方式で首相権限を大幅に強化することを夢見ていた中曽根首相本来の持論を取り入れたものであったことからも明らかであります。
総理、あなたがいかにロン・ヤスと呼び合える仲だからといって、
我が国と米国とでは、政治の形態、行政の仕組みが著しく異なっていることを百も承知であろうあなたが、あえてアメリカ大統領型の首相を目指そうとするその真意は、一体那辺にあるのか、明確に答えてもらいたいものであります。(
拍手)強調するまでもなく、民主政治にとって重要なことは、政策決定へのプロセスであります。総理、あなたが連発してきた諮問機関型政治によって国会
審議の形骸化を招きつつあるのと同様に、行革審答申を金科玉条にして巨大な首相官邸づくりをしようとすることは、行政改革にも逆行するばかりか、首相官邸への権力の集中化によって、議会制民主主義が一段とゆがめられ、行政運営の面でも独善性、秘密性のおそれなしとしないのであります。
次に、この
法案の問題点の中心は、重大緊急事態の内容であります。
重大緊急事態を、「国防に関する重要事項としてその対処
措置につき諮るべき事態以外の緊急事態であって、
我が国の安全に重大な影響を及ぼすおそれがあるもののうち、通常の緊急事態対処体制によっては適切に対処することが困難な事態をいう。」と定義づけております。この定義は、極めて抽象的であり、あいまいであり、一体、国防と通常の緊急事態以外に、
我が国の安全に重大な影響を及ぼすおそれのある緊急事態とは、いかなる事態なのか、明確にしていただきたいのであります。もし
我が国の有事以前の緊急事態に対処するものであるとするならば、いわゆる有事立法や民間防衛などを含む危機管理、戦時体制の常設化を目指そうとするものではないのか。さらには、緊急事態に名をかりて、行革審答申で言う「情報の秘匿」、つまり、国家秘密法制定の動きとあわせて、情報、言論表現の統制を一段と強化していくためのものではないのか、明確な答弁を求めるものであります。
鈴木前内閣も、八〇年十二月に閣議決定で総合安全保障関係閣僚
会議を設置したし、その際にも、国防
会議改組論や内閣の機能強化の
意見がなかったわけではありません。しかし、内閣
審議室が関係各省庁と協議検討の結果、法令に基づく機構を
新設しなければならない合理性、必要性、緊急性がないということで、閣議決定にとどめた経緯があったのであります。しかるに、なぜ今回は、
法律で安全保障
会議を設置しなければならないのか、また、総合安保関係閣僚
会議との任務分担はどうなるのか、明らかにしてもらいたいものであります。
次に、国防
会議の改組と文民統制、いわゆるシビリアンコントロールについてお尋ねいたします。
一体政府は、これまでの国防
会議が文民統制の実を上げ得なかった理由はどこにあったと思うのか。今回、国防
会議を改組し、国防と緊急事態を一つの機関で対処することによって、シビリアンコントロールの機能がますます軽視されていくことにならないか。また、この安保
会議が設置されることによって、国会を無視して、自衛隊法の第七十六条の発動や治安出動への道を容易にしたり、危機管理に名をかりた海外派兵をするなどの越権行為は、断じてあってはならないと考えるが、総理並びに加藤防衛庁長官の明確な答弁を求めるものであります。(
拍手)
さらに付言しておきたいことは、違憲の自衛隊も今や世界有数の軍隊に成長してしまった今日、文民統制の制度が実際にどのように機能しているかということは、極めて肝要であります。すなわち、軍人、軍隊に対する文民の統制、軍事、軍事力に対する政治の統制という原則であります。この原則こそは、現代の民主主義国家における軍事組織が備えるべき基本的な必要条件だと考えます。今、
我が国の政治にこのことが厳しく問われているのではないでしょうか。中曽根総理にこの原則確立を期待することは無理とも思われるが、総理並びに加藤防衛庁長官の決意のほどを伺っておきたいものであります。
次に、明らかにしてもらいたいことは、内閣官房に設置されようとする外政調整室、内政調整室、情報調査室等は、いかなる機能と役割を持たそうとするものなのか。特に、外政調整室と外務省の関係はどうなるのか。外務省は、行革審の答申で内閣官房に外政調整室を設けることが明らかにされた際、外交の一元化という建前から強く反対をしていたが、その後態度を変えたのはなぜか。内閣官房に外政調整室を置いて事務次官に準ずるクラスをキャップに据え、
貿易摩擦などを含む政府方針決定の場となる関係閣僚
会議の事務局となって各省庁間の
意見調整に当たるとのことだが、二元外交の危険なしとしないのか、
安倍外務大臣の明確な答弁を求めるものであります。(
拍手)
最後に、かつて基地の中に沖縄があるとか、太平洋のかなめ石と言われてきた沖縄だが、復帰満十四年を迎えようとする今日においても、その本質は変わっておりません。いや、むしろ米軍基地の再編強化、自衛隊の増強、アジア・太平洋地域へのトマホークの配備及びシーレーン防衛
計画等により、沖縄の基地群はその危険性を一層増している
状況にあります。
現在、沖縄における大きな
課題の一つに、米軍基地の二十年の強制使用問題があります。政府は、米軍に土地の提供を拒否している地主に、来年五月以降さらに二十年間、実に西暦二〇〇七年まで米軍用地収用特措法で強制収用しようとしているのであります。本土における同法の適用は、最高で二年五カ月であったのに対し、沖縄に対しては、前代未聞の二十年にわたる長期であります。政府がとろうとしている行為は、まさに法のもとの平等さえ認めようとしない、沖縄に対する明らかな差別政治だと断ぜざるを得ません。総理、実は、この二十年の強制土地取り上げは、総理みずからの指示によるものだとされますが、私は、ここに改めて、この二十年の土地強制収用の手続を即刻撤回することを強く要求するものであります。(
拍手)
また、政府は、逗子市民の選挙結果に基づく三たびの意思を十分尊重して、池子弾薬庫跡地の米軍
住宅の
建設を断念するか再検討すべきだと考えますが、総理並びに防衛庁長官の見解を求めるものであります。(
拍手)
以上、所見を交えながら、幾つかの点をただしてまいりましたが、この
法案は余りにも重要な内容が包含されており、内閣の総合調整機能等の充実化とか、重大緊急事態の対処体制の確立の必要性ということで片づけられる代物ではないのであります。国政の根幹にかかわる重大性をはらんだ
法案であり、政府に他意がないとするならば、潜在的な重大緊急事態への対処は、従来どおり、内閣全体の指導性をより発揮し、各省庁間の緊密な協議と責任において全うすることは可能だと考えます。
総理、あなたの任期は今年十月末まで、いや、五月の東京サミットが終わると、「五月雨や崩れは早し中曽根内閣」なのであります。これ以上、政権延命に恋々としたり、米大統領型首相を夢見ることなく、潔く本
法案を撤回し、せめて急激な円高で倒産、不況に追い込まれている中小企業を初めとする国民の生活不安を解消するための経済危機の緊急事態に迅速に対処することを強く求めて、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕