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森井議員 私は、ただいま
議題になりました
原子爆弾被爆者等援護法案につきまして、
日本社会党・
護憲共同、
公明党・
国民会議、
民社党・
国民連合及び
社会民主連合を代表いたしまして、その提案の理由を御
説明申し上げます。
昭和二十年八月六日、続いて九日、広島・長崎に投下された人類史上最初の原爆投下は、一瞬にして三十万人余の生命を奪い、両市を焦土と化したのであります。この原子爆弾による被害は、普通の爆弾と異なり、放射能と熱線と爆風の複合的な
効果により、大量無差別に破壊・殺傷するものであるだけに、その非人道性ははかり知れないものがあるのであります。たとえ一命を取りとめた
人たちも、この世の出来事とは思われない、焦熱地獄を身をもって体験し、生涯消えることのない傷痕と、原爆後遺症に苦しみ、病苦、貧困、孤独の三重苦に悩まされながら、今日までようやく生き続けてきたというのが実感であります。
昨年は被爆四十周年という節目の年でありましたが、国は原爆で亡くなられた方々やその遺族に一本のお線香代も出さず、全く弔意をあらわしておりません。一家の支柱を失い、途方に暮れる遺族に、一円の
生活援助もしておりません。ここに現行二法の最大の欠陥が
指摘できるのであります。国家補償に基づく被爆者援護法を求める広範な国民の不満は、なぜ軍人・軍属など軍
関係者のみを援護し、原爆の犠牲者を差別して処遇するのか、戦時諸法制から見て、全く納得がいかないという点であります。本法案
提出に当たり、私は、この際、まず国家補償法の必要性について明らかにしたいと存じます。
国家補償の原則に立つ援護法が必要な第一の理由は、アメリカの原爆投下は国際法で禁止された毒ガス、生物化学兵器以上の非人道的兵器による無差別爆撃であって、国際法違反の犯罪行為であるということであります。したがってたとえサンフランシスコ条約で、
日本が対米請求権を放棄したものであっても、被爆者の立場からすれば、請求権を放棄した
日本国
政府に対して国家補償を要求する当然の権利があるのであります。しかも、原爆投下を誘発したのは、
日本軍国主義
政府が起こした戦争なのであります。我々がこの史上最初の核爆発の熱線と爆風、そして放射能によるはかり知れない人命と健康被害に目をつぶることは、被爆国としての
日本が、恒久平和を口にする資格なしと言わなければなりません。
第二の理由は、この人類史上未曽有の惨禍をもたらした太平洋戦争を開始し、また終結することの権限と
責任が
日本国
政府にあったことは明白であるからであります。特にサイパン、沖縄陥落後の本土空襲、本土決戦の
段階では、旧国家総動員法は言うまでもなく、旧防空法や国民義勇隊による動員体制の
強化に見られるように、六十五歳以下の男子、四十五歳以下の女子、すなわち、ほとんど全国民が国家権力によってその任務につくことを強制されていたことは紛れもない事実であります。今日の世界平和が三十万人余の犠牲の上にあることからしても、再びこの悲劇を繰り返さないとの決意を、国の
責任による援護法によって明らかにすることは、当然のことと言わなければなりません。
第三の理由は、既に太平洋戦争を体験している年代も数少なくなり、ややもすれば戦争の悲惨さは忘れ去られようとしている現状であります。原爆が投下され、戦後既に四十一年たった今日、被爆者にとってはその心身の傷跡は永久に消えないとしても、その方々にとっては援護法が制定されることによって初めて戦後が終わるのであります。
私たちは、以上のような理由から、全被爆者とその遺族に対し、放射能被害の
特殊性を考慮しつつ、現行の軍属、準軍属に対する援護法に準じて、原爆被爆者等援護法を提案することといたしたのであります。
次に、この
法律の
内容の概要を御
説明申し上げます。
第一は、健康管理及び医療の給付であります。健康管理のため年間に定期二回、随時二回以上の健康診断や成人病検査、精密検査等を行うとともに、被爆者の負傷または疾病について医療の給付を行い、その医療費は、七十歳未満の被爆者については現行法どおりとするとともに、老人被爆者についても、
老人保健法にかかわらず、本人一部負担、地方自治体負担を、国の負担といたしました。なお、治療並びに施術に際しましては、放射能後遺症の
特殊性を考え、はり、きゅう、マッサージをもあわせて行い得るよう別途指針をつくることにいたしました。
第二は、医療手当及び介護手当の支給であります。被爆者の入院、通院、在宅療養を
対象として月額三万円の
範囲内で医療手当を支給する。また、被爆者が、安んじて医療を受けることができるよう月額十万円の
範囲内で介護手当を支給し、家族介護についても給付するよう
措置したのであります。
第三は、被爆二世または三世に対する
措置であります。被爆者の子または孫で希望者には健康診断の機会を与え、さらに放射能の影響により生ずる疑いがある疾病にかかった者に対して、被爆者とみなし、健康診断、医療の給付及び医療手当、介護手当の支給を行うことにしたのであります。
第四は、被爆者年金の支給であります。全被爆者に対して、政令で定める障害の程度に応じて、年額最低三十二万六千四百円から最高六百六十六万五百円までの
範囲内で年金を支給することにいたしました。
障害の程度を定めるに当たっては、被爆者が原爆の放射能を受けたことによる疾病の
特殊性を特に考慮すべきものとしたのであります。
第五は、被爆者年金等の年金額の自動的改定
措置、すなわち賃金自動スライド制を採用いたしました。
第六は、特別給付金の支給であります。本来なら死没者の遺族に対して弔意をあらわすため、弔慰金及び遺族年金を支給すべきでありますが、当面の
措置として、それにかわるものとして百二十万円の特別給付金とし、五年以内に償還すべき記各国債をもって交付することにいたしました。
第七は、被爆者が死亡した場合は、二十万円の葬祭料を、その葬祭を行う者に対して支給することにしたのであります、
第八は、被爆者が健康診断や治療のため国鉄を利用する場合には、本人及びその介護者の国鉄運賃は無料とすることにいたしました。
第九は、原爆孤老、病弱者、小頭症その他の保護、治療を要する者のために、国の
責任で、収容・保護施設を設置すること、被爆者のための相談所を都道府県が設置し、国は施設の設置・運営の補助をすることにいたしました。
第十は、
厚生大臣の諮問機関として、原爆被爆者等援護審議会を設け、その審議会に、被爆者の代表を
委員に加えることにしたのであります。
第十一は、放射線影響研究所の法的な位置づけを明確にするとともに必要な助成を行うことといたしました。
第十二は、
日本に居住する外国人被爆者に対しても本法を適用することにしたのであります。
第十三は、
厚生大臣は速やかにこの
法律に基づく援護を受けることのできる者の状況について
調査しなければならないことにいたしました。
なお、この
法律の施行は、昭和六十二年一月一日であります。
以上が、この
法律案の提案の理由及び
内容であります。
被爆後四十一年を経過し、老齢化する被爆者や遺族に、もう時間はないのであります。再び原爆による犠牲者を出すなという原水爆禁止の全国民の願いにこたえて、何とぞ、慎重御審議の上、速やかに可決されるようお願い申し上げます。