○寺田熊雄君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、中曽根
総理に
質問をいたします。
総理の
所信を問う第一段階として、私は、
首相の在職が三年になんなんとする今日、まず
中曽根内閣の
世界平和と民主主義の
発展に対する貢献度を
考えてみたいのであります。
総理は、一九八二年十二月、就任に際して「私の
政治目標の第一は、内外における平和の
維持と民主主義の健全な
発展を図ることにあります。」と述べられるとともに、「平和の
維持にとって大切なのは、これを可能ならしめる国際環境をつくり出すことであります。この現代の至高かつ緊急な
課題を実現すべく
努力することにより、恒久的な
世界の平和の
確保のために貢献したいと念じております。」と、国会においてこのように公約されたのでありました。あなたはこれはお認めになると思いますが、いかがでしょう。しかし、
中曽根内閣の今日までの足跡を見てみますと、外は東西の軍事的対立を深め、国際緊張を激化せしめる一方、内は次第に民主主義的
原則を
後退せしめつつあるのであります。
総理、あなたは昨日もこの本
会議において、そして一昨日は
衆議院において、
世界平和は抑止と均衡、すなわち
米ソ軍事力の均衡と
アメリカの核抑止力によって守られる旨を力説され、就任時第一の公約たる平和
維持に必要な国際環境の醸成についてはついに一言も語られるところがなかったのであります。
総理が一九八三年一月、
アメリカ訪問に際して、ワシントン・ポストを通じて内外に、バックファイアの浸透に対して
日本を不沈空母とする、ソビエトの艦艇を通過させないよう完全に三海峡をコントロールする、いわゆる一千海里シーレーンを
確保するという軍事的抱負をぶち上げたのも、まさに
我が国会における就任時の公約とは正反対のものでありました。
右に述べたあなたの軍事的抱負は、
アメリカが対ソ戦を想定して
我が国に期待する任務分担そのものであります。あなたの発言に対しては、中国その他から懸念の表明があったほか、ソ連からは手厳しい反応がありました。あなたの発言は、平和的国際環境の醸成どころか、逆に国際緊張の激化を招いたのでありますが、あなたはそれを否定されますか。
次いであなたは、
アメリカの要請にこたえ、
歴代内閣が慎重に扱ってまいりました武器技術の供与に踏み切られました。さらにあなたは、
防衛費に関する
GNP一%枠の
撤廃に非常な熱意を示し、いろいろと陳弁せられております。しかし、大切なことは、この枠の持つ機能であります。それは
国民にとっても極めてわかりやすい
原則である上に、軍事費の膨張に対して実に
効果的な働きを示してきたものでありました。あなたのとられたこれら一連の
措置は、
アメリカの強い期待にこたえたもので、
日本に対する
アメリカの
政治支配が着々と進行しつつあることを象徴しております。
総理、あなたは、去る百二国会で、
日本が戦場になる場合の考察として、ある一国から突然に攻撃される蓋然性は極めて少なく、欧州その他の
地域に発生した
戦争が波及して
日本がそれに巻き込まれる場合であることを認められました。これは
アメリカ軍部高官の一致して指摘するところでもあり、正しい認識とは思います。ただ、その波及が徐々に及ぶか、急速に及ぶかは議論の分かれるところであります。しかし、その経路はともかくとして、
日本がそうした第三次大戦に巻き込まれた場合にいかに大きな被害を受けるか、あなたはお
考えになったことがおありでしょうか。そうした
戦争が核
戦争に
発展しないという保証はないのでありますし、その場合には、
国民の一切の幸せや子供たちの将来は完全に失われると言っても過言ではありません。
この数年間に公表された
アメリカの
外交機密文書は、第二次大戦後、
アメリカが幾たびか核兵器を使用すべきか否かの選択を迫られたことを証明しております。また、本年四月、読売新聞社とギャラップ社との共同調査によれば、二十一
世紀までに
世界大戦の起きる可能性について、
アメリカ人の過半数がほぼこれを肯定しているようでありますし、
日本でも三五%の肯定説があると伝えられております。一方、
内閣広報室は、
昭和五十九年版の
全国世論調査報告により毎日新聞社の行った調査結果を紹介しておりますが、それによりますと、
国民の七二%が
日本が
戦争や国際紛争に巻き込まれるのではないかという不安を持っておることを明らかにしております。
総理、あなたは、今回の施政
方針演説において、
国民生活の安心と安全の
確保が
政治の原点であると言われました。それは私も同感でありますが、この
国民の
戦争への懸念についてはどう思われるのでしょうか。あなたはそういう懸念や心配が払拭されるよう最善の
努力を払うべきであります。あなた自身もお認めになりますように、一国が突然
日本に侵略するというありもしない想定をもとに
国民の対ソ敵がい心をあおるのではなくして、断固として第三次大戦を防止する
決意を内外に披瀝し、国際緊張の
緩和、平和的国際環境の醸成というあなたの第一の公約の実現に最大のエネルギーを注ぐべきであると思いますが、いかがでしょうか。
総理、勉強家であるあなたは御存じと思いますが、今
世紀最大の哲学者の一人でありましたハートランド・ラッセル卿は、水爆の開発せられた現在、人類最大の
課題は
世界戦争、第三次大戦の阻止であるという結論に達し、有名なラッセル、アインシュタイン声明によってこれを全
世界に訴えました。
日本の運命を決する地位にある
政治家として、あなたはこの哲学者に学ぶべきだと思いますが、いかがでしょうか。すなわち、あなたは、
レーガン大統領との最初の
会談で、
日本と
アメリカとは運命共同体であるという信念を語ったと言われますが、あなたはむしろ、今や全人類が運命共同体であると語るべきであったと思いますが、いかがでしょうか。
次に、
靖国神社問題に入りますが、
靖国神社は二百四十万を超える
戦没者を祭神としてその神徳を広め、祭神の
遺族その他崇敬者を教化することを
目的とする一
宗教法人であります。その祭神の中には、東条元
首相のように、あなた御自身も認められた、起こしてはならぬ
戦争を引き起こし、全
世界の人々から断罪された
戦争犯罪人が含まれております。それらの人々は、その思想及び行動からして、
軍国主義者であったということは間違いありません。また、靖国懇ですら、
靖国神社が戦前
軍国主義に利用せられていたことは否定できないと言っておるのでありますから、かかる
軍国主義者の祭神に拝礼して
哀悼の意を表することは、宗教の立場でこそ許されるとしても、
政治の立場からは絶対に許されるものではありません。
言うまでもなく、
軍国主義は民主主義とも対立し、我が
憲法の平和主義とも相入れないものであります。あなたは、昨日の本
会議で久保議員の
質問に答え、戦犯を祭ったのは
靖国神社のしたことで自分にはかかわりはないというような
趣旨の
答弁をしておりますが、無責任も甚だしいと言わなければなりません。それでもなおかつ、あなたは、御自分のなさったことを善なりと主張なさるのか、お
伺いをいたしたい。
次に、近年
アメリカの極秘
外交文書が公開せられ、過去幾たびか
我が国の命運を決するような事態が生じ、そのたびごとに我が
政府当局者が苦悩を重ねたことを知って驚くのであります。
日本有事の際、米軍が、自衛隊の前身である保安隊との統合指揮権を持つよう求めたとか、
アメリカが対ソ戦の場合に、同盟国内の基地を核報復攻撃基地として、場合によっては同盟国の同意が得られないまま核使用に踏み切ることを
考えたりしたことがあるという驚くべき事実が報ぜられているのであります。
恐らく、国際情勢が緊迫すれば、今後もこのような事態が起こらないという保証はございません。そうした場合に、それらの事項が
政府や官僚によって秘密にされるであろうことは確かであると
考えます。何となれば、現在でも米軍と自衛隊との有事共同作戦のシナリオや作戦
計画づくりのような国家の大事が我々国
会議員にすら全く秘密にされていることからも、それは容易に推察され得るのであります。
それにもかかわらず、
政府は、ただいま
総理、あなた御自身が国会における防衛問題の審議こそシビリアンコントロールの最たるものであると言われるのでありますが、国
会議員に事実を知らさずして、どうして実のある
論議が行われ得るでありましょうか。今日、野党の国会活動は、かかる
政府及び官僚の秘密主義との闘いであるといっても決して過言ではありません。
しかも、今回、自民党議員から提出されました国家秘密にかかるスパイ行為等防止法案は、このような国家の命運を決しかねない
外交、防衛に関する重大事項を探知し、把握せんとする
政治家やジャーナリストの行為を、スパイにも化すべき重大なる犯罪として処罰しかねない危険性を持つ法律であります。それは、国家の大事に関する情報を
政府高官が独占し、
国民には一切知らしめまいとするファッショ的な立法であり、民主主義の
後退これより甚だしきものはないのであります。
そもそも、
戦争放棄を宣言した
平和国家には敵国などがあり得べくもないし、軍隊を持たぬことを誓った平和
憲法のもとで、
国民を極刑にしてまで守ろうとする軍事秘密などがあり得る道理がないのであります。この道理は、戦後、
政府が刑法第八十五条の間諜罪の規定の削除を提案いたしました際に、
政府自身が説明したところなのであります。ひっきょうするに、この法案は、現行刑事特別法やMSA秘密
保護法と同じく、
アメリカの
要求によるものであり、非民主的軍事立法なのでありますが、
総理はあくまでもこの強行的な成立を欲しておられるかどうか、お
伺いをいたしたい。
次に、日ソ
平和条約の問題についてお尋ねをいたします。
御承知のように、一九五一年九月のサンフランシスコ平和
会議の際、
平和条約の立案者であった
アメリカのダレス全権は、
日本がすべての権利、権限及び請求権を放棄した千島列島の範囲について、歯舞諸島はこれに含まれないと説明し、国後、択捉の両島については何ら触れるところがありませんでした。また、
我が国の吉田全権は、
日本開国の当時、国後、択捉両島が
日本領であることについて帝政ロシアは何の異議も差し挟まなかったということは申しておりますが、放棄しないとか、あるいは権利を留保するとかいうような意思表示は一切なさっておられなかったのであります。
したがって、帰国後、この条約を審議する国会で、当時の吉田
首相も、外務省の草葉政務次官も、西村条約局長も、
国民感情の上からは残念千万だが、放棄した千島列島の中には国後、択捉は含まれるという
趣旨の
答弁をしておるのであります。こういう経過からすれば、
政治的主張としては是認され得ても、法律的主張としては
我が国がこれをソ連に
要求するのは無理があると
考えますが、いかがでしょう。
総理のお
考えを
伺いたい。
次に、ソ連が領土問題について強硬な態度をとるのは、私も一九八一年訪ソの際、ソ連共産党中央委員会国際部副部長でありましたコワレンコ氏と二時間ほど激しい議論をしてわかったのでありますが、ソ連は第二次大戦によって決定された国境線を守ることを
基本的な
政策とし、その一角を崩せば全体に波及することを恐れているのであります。それゆえ、
我が国が国後、択捉の返還を日ソ
平和条約締結の条件とする限り、恐らく半永久的に
平和条約は成立しないと思われますが、
総理はあえてこの道を選ぶもやむなしとお
考えなのか、お
伺いいたしたい。
私は、
日本の安全と
世界平和のためには
隣国ソ連との友好は極めて大切であるから、まずもって歯舞、色丹の返還を急ぎ、国後、択捉及び進んで全千島の返還については
平和条約後の交渉事項とする方向をとるのをよしとする
考え方を持つ者でありますが、
総理はいかにお
考えになるか、あわせてこの点の御意見をお
伺いしたい。
第三の
質問は、時間がありませんので、これを割愛することとし、最後に一つだけ
総理に要望しておきたいと思います。ハートランド・ラッセル卿は、古今東西の権力者は、よほどのことがない限り、権力を持たない人間の幸、不幸にはむとんちゃくであると言っておりますが、
国民の七〇%以上が
戦争に巻き込まれることを恐れているという事実を、
総理、決して忘れないでいただきたい。また、プラトンは、所有欲を離れ、公共心に燃えた哲人のみが初めてよく国政を処理し得ると言っておりますが、あなたの余りにも強い権力志向をできるだけ抑制し、もっともっと誠実さを身につけてほしいのであります。これを要望して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕