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1985-11-26 第103回国会 参議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十年十一月二十六日(火曜日)    午前十時五分開会     ―――――――――――――    委員異動  十一月十五日     辞任         補欠選任      竹山  裕君     石本  茂君      出口 廣光君     安井  謙君      松岡満寿男君     河本嘉久蔵君  十一月十八日     辞任         補欠選任      橋本  敦君     神谷信之助君  十一月十九日     辞任         補欠選任      神谷信之助君     橋本  敦君  十一月二十日     辞任         補欠選任      橋本  敦君     市川 正一君  十一月二十一日     辞任         補欠選任      市川 正一君     橋本  敦君  十一月二十六日     辞任         補欠選任      石本  茂君     岡野  裕君      河本嘉久蔵君     石井 道子君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         二宮 文造君     理 事                 海江田鶴造君                 小島 静馬君                 寺田 熊雄君                 飯田 忠雄君     委 員                 石井 道子君                 岡野  裕君                 土屋 義彦君                 徳永 正利君                 安永 英雄君                 橋本  敦君                 柳澤 錬造君                 中山 千夏君    国務大臣        法 務 大 臣  嶋崎  均君    政府委員        内閣法制局長官  茂串  俊君        内閣法制局第一        部長       工藤 敦夫君        法務大臣官房長  岡村 泰孝君        法務大臣官房司        法法制調査部長  井嶋 一友君        法務省民事局長  枇杷田泰助君        法務省刑事局長  筧  榮一君        法務省矯正局長  石山  陽君        法務省人権擁護        局長       野崎 幸雄君        法務省入国管理        局長       小林 俊二君        外務省アジア局        長        後藤 利雄君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局刑事局長   吉丸  眞君        最高裁判所事務        総局家庭局長   猪瀬愼一郎君    事務局側        常任委員会専門        員        片岡 定彦君    説明員        警察庁警務局教        養課長      加美山利弘君        警察庁刑事局捜        査第一課長    藤原  享君        警察庁刑事局保        安部防犯課長   石瀬  博君        警察庁刑事局保        安部保安課長   伊藤 一実君        大蔵省国税庁間        税部酒税課長   宗田 勝博君        文部省初等中等        教育局中学校課          長        林田 英樹君        文部省高等教育        局医学教育課長  佐藤 國雄君        厚生省保健医療        局結核難病感染          症課長      草刈  隆君        厚生省保健医療        局精神保健課長  小林 秀資君        厚生省薬務局監        視指導課長    大木 知明君        厚生省薬務局生        物製剤課長    松村 明仁君        農林水産省農蚕        園芸局農薬対策          室長       田中 良明君        郵政省放送行政        局業務課長    岡田 吉宏君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○検察及び裁判運営等に関する調査     ―――――――――――――
  2. 二宮文造

    委員長二宮文造君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る十一月十五日、竹山裕君、松岡満寿男君及び出口廣光君が委員辞任され、その補欠として石本茂君、河本嘉久蔵君及び安井謙君がそれぞれ選任されました。     ―――――――――――――
  3. 二宮文造

    委員長二宮文造君) 検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  4. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最初に、外務省アジア局長が御出席になりましたが、外交官との会見予定していらっしゃるようですから、先にお尋ねをしたいと思います。  外国人登録の問題では、従来法務大臣外務大臣のこの問題に対処するお考えに若干の相違があるのではなかろうかというような感じを持ったことがあります。外務大臣予算委員会における答弁、日韓閣僚会議後の記者会見の場における御発言等を見ますと、法務大臣よりはやや前向きの点でニュアンスの差を感ずるのでありますけれども、何らか外務省におかれましては韓国側の要望を踏まえてこの問題を前向きに対処する、つまり直截に申しますと指紋押捺の問題、この制度的な改正を望んでおられるのではないかと思われるのですが、この点いかがでしょうか。
  5. 後藤利雄

    政府委員後藤利雄君) お答えいたします。  今法務大臣外務大臣の間にこの問題につきまして何か意見の違いがあるのではないだろうかという御質問でございますけれども、私ども外務大臣は当然外務省という立場に立ちますので、対外的な韓国との関係というものを、主としてですが、考えた場合での御発言法務大臣は、もちろんそれも含めましてですけれども、本件の主管大臣というお立場から、非常に広い面からこの問題をお考えになっておられるということでございますが、結論を先に申し上げますと、法務大臣外務大臣との間においてこの問題の今後の対処ぶりについて基本的な意見不一致があるということは私は全くないと思っております。  もう少し具体的に申し上げますと、この問題につきまして外務大臣は八月の閣僚会議におきまして先方外務部長官ともお話しいたしました。それからその後、法務次官が訪韓されまして韓国側にもこの問題を説明したわけでございますけれども、この問題につきましては、本年五月の改善措置政府として当面とり得る最大の措置であるということ、今後につきましては長期的視点に立って自主的に研究、検討していくというのが政府基本的立場でございますので、どの大臣がどうであるということでは全くございません。この問題は外務大臣あるいは法務次官先方に、特に韓国側が関心がありますこの問題につきましては将来長きにわたる日韓関係の安定あるいは日本社会国際化という中で考えていく問題であり、今後ともこのような認識に立ちまして、制度の問題を含めて引き続き誠意を持って努力していきたいと、こういうことにつきましては法務省及び外務省において何ら見解の不一致はないとはっきり申し上げることができると思います。
  6. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 長期的視野に立って検討をしてこの問題の解決を図るという、そのいわば目標みたいなものはあるのでしょうか。つまり指紋押捺の問題、この制度の緩和を図るというのでしょうか、それとも現行の制度をあくまでも維持するというのでしょうか。その点はどうなんでしょう。
  7. 後藤利雄

    政府委員後藤利雄君) この問題は、先ほども申し上げましたように今後検討、研究していくということでございますが、その中にはいろいろな問題を含めて考える必要があるのだろうと思います。  先ほど触れましたように、制度の問題も含め考えるということでございますが、現時点において、いつまでにとかあるいはどういう問題についてどう考えるかということは、むしろ主管省庁であります法務省を中心に外務省その他の関係省庁とじっくりと検討していくべき筋合いのものであろうかと考えております。
  8. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それでは、局長に対してはこの問題はその程度にとどめたいと思います。  次の問題は靖国の問題なんですが、靖国神社に対する総理以下閣僚公式参拝の問題が中国その他アジア諸国から大変不快感を持って迎えられたようでありますけれども、この問題について外務省は何らがこの公式参拝について意見内閣の方から求められたというようなことがありましたでしょうか。
  9. 後藤利雄

    政府委員後藤利雄君) 私の都合で、まとめて私に御質問いただきまして恐縮でございます。  ただいまの御質問靖国神社公式参拝でございますが、これは八月十四日の官房長官談話の中にもございますように、閣僚靖国神社参拝問題に関する懇談会報告書を参考として内閣が慎重に検討をされた結果、公式参拝というものが決定されたわけでございます。その過程におきまして、特にこの官房長官談話をつくる場合等におきまして、外務省としても必要に応じまして政府部内での意見調整には参画はいたしております。
  10. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうしますと、あの官房長官談話の中に外国との調整の点が触れられておりますね。外務省としては、そういう意見を求められた段階で、やはりアジア諸国から反発を受けるおそれがあるということはあらかじめ予想しておられたわけですか、事前に。
  11. 後藤利雄

    政府委員後藤利雄君) この官房長官談話の中にありますところの、特に寺田委員のただいま御指摘のありました点、いわゆる国際面での言及がございます。この点は、特に外務省といたしまして、政府意見調整を行う過程において、むしろ外務省の方から強く対外的な関係、このような過去のあれは二度と繰り返さないという決意と反省、それから公式参拝を行うにしてもその姿勢にはいささかも変化はないという点について諸外国理解を得るように努力してまいりたいという認識外務省自身も有しておりまして、それをこの官房長官談話に触れていただいた、こういうことでございます。  遺憾ながら、その後特に中国においては人民の心情を害するものではないかというような懸念も表明されました。韓国におきましては一般的には事実関係報道でございましたけれども、たまたま日本から参りました日本新聞記者質問に答えて、先方外務部長官である李源京氏がそれなりのまたコメントをされておるということは先生も御案内のとおりでございます。私どもは、その時点において最大限、関係国に対して説明をいたすように努力してまいりましたし、まだ努力が足りない部分があるとすれば今後ともいろいろな意見調整を行って先方理解を求めてまいりたい、かように考えておる次第でございます。
  12. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ちょっとくどいようですが、今の局長の御説明を伺いますと、やはり中国なり韓国反発を受ける懸念といいますか、それはお感じになって、かつ内閣の方にもそういう外務省懸念ということはあらかじめお伝えになっておられたわけですね。
  13. 後藤利雄

    政府委員後藤利雄君) 今の先生懸念ということの意味でございますけれども、私どもは万一にも今度の公式参拝によって諸外国において何らかの誤解等が生ずることがあってはならないということを考えまして官房長官談話にあのような文言を入れていただき、かつ私どもとしてはその時点あるいはその後においても関係各国の足らざるところの理解については今後努力してまいりたいと、こういうことでございます。
  14. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それじゃ大体わかりましたので、局長何か御用事があるそうですから、結構です。  次は外国法弁護士の問題についてお尋ねをしたいんですが、この問題はちょっと今デリケートな段階にあるので、内容の点についてのお尋ねは遠慮したいと思うわけですが、この外周をめぐる問題について一、二お尋ねをしたいわけです。  この問題は、法律家の間にはかなり注目を集めておる問題であります。そして私ども理解としては、アメリカであるとかECであるとかの要求に基づくものであるというふうに聞いております。アメリカEC要求貿易摩擦解消一環としてのサービス業自由化を論拠にしておるというように理解をしておるのでありますが、私どもとしては、これは司法制度一環を主要な舞台としておると、ある意味では弁護士制度の変革を伴う面があるというふうに考えておるわけでありますが、この点いかがでしょうか。
  15. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 外国弁護士の受け入れ問題につきましては、委員指摘のとおり、貿易摩擦の問題ということでアプローチがあったわけでございます。すなわち、一番当初は昭和四十九年にさかのぼるわけでございますけれども、ニューヨーク州の弁護士会から我が国日弁連に対しまして、弁護士資格相互に交流し合う、つまり門戸を開き合おうじゃないかという申し入れがあったことに端を発しておるわけでございますが、日米両者においていろいろな話し合いが行われてまいりましたけれども昭和五十二年に一応、日弁連としては消極であるという回答をいたしたわけでございます。  その後時が経過いたしまして、昭和五十七年三月に至りましてアメリカ側が、この問題を通商代表部を窓口といたしまして日米貿易委員会等の場面で、貿易摩擦の問題ということで受け入れ問題を提起いたしまして、自来、御指摘のようにサービス自由化の問題、ひいては国際取引の促進という観点から、これが政府間レベルの問題ということで協議されることとなったわけでございます。同じころ、やはりECからも対日要求リストの中にサービス業一つとして弁護士問題の自由化という問題が提起されたわけでございます。  政府といたしましては、この問題は、御指摘のとおり我が国弁護士制度あり方に直接影響する事柄でございますし、また国民の法律生活の安定にとって深いかかわり合いを持つ問題でございまして、広い意味で御指摘のように司法制度一環をなす問題であるということから、単に問題の提起が経済的観点からなされましたけれども、それのみで処理すべき問題ではない、つまり司法制度一環として処理すべきであるというのが基本的認識でございまして、自来そのように考え対処してまいっておるわけでございます。  こういった観点から、国際交流が活発化しております今日の社会を見ますときに、結局法律サービス業務自由化国際化というものの必要性がますます高まりつつあるというような観点から、 国際化する社会に対応して我が国弁護士制度あり方検討し、開いていくという方向で処理すべきである、すなわち、その問題はそういった意味で避けて通れない問題であるというのが従来の考え方でございます。しかしながら、若干先走りますけれども、この問題は御承知のとおり広範なる自治権を持っております日弁連弁護士の問題ということでございますので、そういった観点から、日弁連自主的意見の尊重ということを基本といたしまして対処してまいってきておるわけでございます。  先生も御案内のとおり、そういった観点から、政府は累次の閣議決定その他でそういったことを内外に表明してきておるわけでございますが、最終的にはこの七月のアクションプログラムにおきましてそこを明記したわけでございます。他方、日弁連の方も、日弁連自治もとに入れる、相互主義原則を貫くという二本の基本方針もとに受け入れを認めましたので、自来検討を続けまして、本年九月に日弁連が第一次試案を提出いたしました。現在、これをもとに十二月九日の臨時総会に向けて、海外の合意を取りつけつつあるという微妙な段階に至っておるというのが現状でございます。
  16. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の御説明で大体わかりましたが、そうしますと、日弁連の完全な了解を得て大体通常国会に法案が提出されるというふうに予想してよろしいでしょうか。
  17. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 日弁連の自主的な意見検討が、日弁連スケジュールといたしまして大体この秋、十月でございましたが、十月ごろをめどに結論を出すということでございましたので、そういった日弁連内の検討スケジュールを前提といたしまして、本年七月に策定されましたアクションプログラムの中では、「日本弁護士連合会自主性を尊重しつつ、次期通常国会における法律改正目途に、国内的にも国際的にも妥当とされる解決を図る。」ということを明記したわけでございます。日弁連検討スケジュールがその後若干ずれまして、十月の予定だったものが、先ほど申し上げましたように、十二月九日の臨時総会というところへずれ込んでおりますけれども、なお私ども日弁連も、次期通常国会における法律改正目途といたしまして作業を続けていこうという認識で一致しておるわけでございます。
  18. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それでは、調査部長、もう大体わかりましたから、結構です。  次は、外国人登録に係る指紋押捺制度の問題でお尋ねをします。  法務省は五月一日、十二、十四日、それから六月十一日と都道府県知事にいろいろな指示を出しておられますね。その間、回転指紋平面指紋に改めるという法改正もなさっておられるわけですが、それにもかかわらず依然指紋押捺拒否している人々があるようであります。この指紋押捺拒否者というのは現在どのくらいの数に達しておるんでしょうか。また、全体の何%ぐらいなんでしょうか。
  19. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) お答え申し上げます。  当局では、市区町村から個人別押捺状況についての報告を受けております。この個人別の資料を累計いたしておるわけでございますが、その累計の結果によりますと、十一月二十二日現在で押捺拒否者は千八百十一名となっております。また、先生ただいま御言及のございました五月十四日の通達に基づくいわゆる説得期間中の者――押捺について留保の意向を表明して、そのままいまだ説得期間が経過していない者が三千六百三十四名おります。ただ、これにつきまして一言御説明いたしますと、一度意向表明して留保した後に、説得期間中に押捺を行った者が四千七百六名おります。そして一方、説得期間を徒過いたしまして結局押捺拒否という状況に立ち至った者が三十七名おるわけでございます。したがって、現にその押捺義務を有しながらいまだ押捺に至っていないという登録対象者の数は約五千数百名ということになるわけでございます。  これらの人員が全体の押捺義務者のうち何%になるかは、正確な押捺者の数が必ずしも集計されておりませんので明確には数を持っておりませんけれども、私たちの感じといたしましては約四、五%ということになろうかと思います。もちろん、拒否者だけに限ればさらにその数は減るわけでございますけれども、そういう感じでございます。
  20. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大体新聞紙上で私ども感じたわけなんですが、法務省通達が当初はなかなか守られていなかったようでありますが、最近はこれを守るような雰囲気になっておるというふうに承知しておるんですが、今は大体あなた方の指示というものは守られておると見ていいのでしょうか。
  21. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) この問題につきます中心的な通達は五月十四日の通達でございました。その五月十四日の通達の中核をなす点は、不押捺指紋を押さないという意向を表明した者に対して、直ちにそのまま登録証明書を交付することなく、説得をもって当たるということでございました。そして、その説得期間中は交付予定期間指定書を交付することとして、市区町村を通じて説得を行うという点にあったのであります。  この点につきましての実施は、都道府県あるいは市区町村における若干のばらつき、時期的なずれはございましたけれども、特に都道府県による市区町村に対する指導の徹底とともに、通達どおり実施されるようになって今日に至っております。ただ、一部の市区町村におきましては、左翼系過激派集団といったようなグループのほとんど暴力的とも思える抗議行動あるいは要請行動によりまして、その実施にかなりの阻害を来したという事例もございましたけれども、現在までのところ、ほぼ全国的に通達はこの点において実施されるに至っておるというふうに承知いたしております。
  22. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 前も局長は、職務執行命令を発する点については極めて慎重でなきゃならぬというふうにおっしゃっておられましたね。そうすると、今はそういうような命令を発する必要性というものもないと見ていいわけですね。
  23. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 全体の姿からすれば、職務執行命令をもって当たらなければ事態の収拾が困難というような状況にあるという認識はございません。もちろん、その職務執行命令とは別に、拒否者につきましては刑事手続という、現状に対する是正と申しますか、対処は残るわけでございますけれども行政の全般的な処理の方法といたしまして、現在、職務執行命令の発動が非常に近い将来の問題として、当面の問題として検討されておるということはございません。
  24. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今、局長から拒否者に対する刑事訴追の問題がちょっと出ましたが、これは刑事局長お尋ねをするわけですが、拒否者に対してはやはり刑事訴追をするというような方針でもあるのでしょうか。この点はどうなっておるのでしょうか。
  25. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 指紋押捺拒否事件につきましては、ほかの一般の刑事事件と同様に、それぞれ個々の事案内容及び諸般の事情を考慮いたしまして、その事案内容に応じて適切な処理を図ってまいったというのが従来からの方針でございます。今回の通達につきましても、指紋押捺刑事事件としての性格等については何らの変更はないということで、今申し上げました従来の方針が続けられていくものと承知いたしております。
  26. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 指紋押捺拒否者に対して再入国許可を与えるかどうかという点について非常に消極的なような方針であるというような報道がなされております。それから、最近はまた在留期間の延長について何か基準を定めるというような報道もなされておりますね。これらの点、どうなんでしょうか、ちょっと御説明いただきたいと思います。
  27. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 再入国許可につきましては、既に昭和五十七年以降一貫して、これを原則として拒否者については与えないという方針で今日まで至っております。したがいまして、最近に至ってこの点について何らか別の考慮、あるいはさらに厳しくするとかあるいはさらに緩和するとかということが問題となったことはございません。  最近、報道の面にあらわれましたのは、有期滞在者である押捺拒否者に対する滞在期間更新の問題でございます。滞在期間更新につきましては、従来からその本人の在留目的状況、すなわち在留目的の達成あるいは継続の状況等、もう一つ在留状況等考慮の上、検討処理してまいったわけでございます。その在留状況一つ要件として、この押捺拒否といったことについても念頭と申しますか、検討対象といたしてはまいったのでありますけれども、最近における状況、すなわち五月以降この押捺についての心理的な負担を軽減する措置がとられたそれに伴って、拒否意向表明とともに直ちに押捺拒否という状況をつくり出さないで、三カ月内外説得期間を設けてこれに臨むといった処置がとられて今日に至っておる。それにもかかわらず、先ほど申しましたように、二千名足らずの押捺拒否者が生じておるという現在の状況もとにおいて、この在留状況の一要件としての押捺拒否という違法状態をどう評価すべきかということについて改めて考え直す必要があるのではないかということから、現在当局におきましては、この点についての評価はいかにあるべきか、いかにあらしめるべきかということから検討を行っておるということでございます。  その点が新聞報道にあらわれた最近の動きでございまして、この点につきましてはいまだ明確な結論には達しておりませんけれども、近日中に結論を得て明らかにしたいと存じておる次第でございます。
  28. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ちょっと私の聞き落としなのかもしれませんが、そうしますと、従来から指紋押捺拒否者に対しては再入国許可を与えないというのが原則的な方針だったわけですか。その点が一つと、それから今最後におっしゃった在留期間の延長を許可するかどうかという点では一つの参考資料とは見るけれども、必ずしも指紋押捺拒否者に対して延長を認めないというわけではなかったのだけれども、この問題についても今結論は得てないが検討を進めているんだということ、そういうふうに理解していいですか。
  29. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 再入国許可につきましては、五十七年十月以降、原則としてこれを許可しないという方針をとってまいりました。その結果、実際に申請を許可とした対象となった人員が今日まで三十六名あるわけでございます。また、在留期間更新につきましては、先生ただいま御指摘のとおりでございまして、全体の在留状況評価の上の一つの要因としていかにあるべきかという点を現在鋭意改めて検討中であるということでございます。
  30. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 では、入国管理局長に対するお尋ねは終わりました。  次は、民事局長お尋ねをしますが、特別養子制度の中間試案が発表されましたね。それで、朝日の「論壇」に菊田昇医師が寄稿しておられるのですが、これはもちろん局長お読みになったでしょうが、母が嬰児を殺してでも出産の事実を隠そうとするような場合を考慮すると、子供の命を救うという必要のためには実母の戸籍に出産の事実を記載しないことに踏み切るべきだという趣旨の提言をしておるようです。これは近親結婚防止という点でどういうおそれを生ずるか、そういう点の問題があると思いますが、法務省はこの点をどんなふうに考えておられるのですか。何か朝日ジャーナルに米倉教授は、養子縁組後のものと別に秘扱いの戸籍簿をつくれというような提案をしておられるようですが、そういう点、ちょっと説明していただけますか。
  31. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 特別養子制度を設けました場合に、戸籍の上でそれをどのようにあらわしていくかということは非常に議論のあるところでございます。で、私どももまだ、どのようにしたらいいかという結論を持っておるわけではございませんで、このたびの中間試案の発表に際しましても、特別養子の効果をあらわす記載方法を考慮するということをあらわしているだけでございまして、具体的にどうしたらいいかということは、この中間試案に対する各方面からの御意見を伺った上で慎重に考えてまいりたいという立場でございます。  と申しますのは、菊田医師も「論壇」に書いておられるように、特別養子の場合には戸籍の上では全く実親子の関係が、実母との関係があらわれてこないようにする。言いかえれば戸籍隠しというふうに私ども簡単に申しておりますけれども、戸籍の上から養子であるとかあるいは実母がだれであるとかということのつながりを持つようなものは一切隠してしまうということが子供の福祉のためにいいんだ、あるいは実母のためにもいいんだというような考え方があることは確かでございます。  菊田医師もそのような主張をしておられるわけでございますが、一方では、そのようなことはかえっておかしい、これは中国残留孤児の問題でもそうでございますけれども、子供というのは実親というものを必ず捜したがる、それを求めたがるという気持ちがあるのだ、だからそれを隠してしまうということはむしろおかしいので、ある一定の年齢に達したときにはそのことをむしろはっきりと伝えた方がいいのだというような考え方もあるわけでございます。  したがいまして、戸籍の上で特段の手当てをする必要もないのだということと菊田医師のような戸籍の上で隠してしまうというのと両極端あるわけでございます。その中で、この中間試案といたしましては、戸籍の上では簡単には養子であるということあるいは実母がだれであるかということはわからないというふうにする工夫はしても、完全にわからないようにするとか極めて捜すのに困難だというふうなところにまで踏み切っていいかどうかということが一つの問題点だという指摘をいたしまして、その上で各方面からの御意見を伺って慎重に対処したいという立場でございます。したがいまして、私どもといたしますと、完全に戸籍隠しをするということはどうかなという感じはございますけれども、まだ結論を出しておるというわけではございません。
  32. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから、最近人工受精による出産がいろいろ現実に出てきておるようです。これはバイオケミストリーの発達によってだんだん現実の問題となろうとしておるわけでございます。この場合、戸籍上父の記載は精子供給者になるのが現実には合うんでしょうね。だけども、民法七百七十二条ですか、あれは一応、婚姻中妻の懐胎によって生まれた子はその妻の夫が父親であるという推定を受けています。やはり推定が現実のものとして生きてしまうんですか。それとも戸籍というものはそもそも現実を正確に反映すべきものなのかどうか。今局長のおっしゃった、実親の記載を消してしまうというのは、ただ隠すわけで、虚偽を記載するわけじゃない。ところが、この精子の場合は、見方によっては虚偽が真実のごとく戸籍の上にあらわれるということになりますね。その場合は、局長としては戸籍はどっちを実親として記載すべきだと思われますか。
  33. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 人工受精もいろんな形があるようでございますけれども、ともかく夫婦がおりまして、その妻が懐胎をして分娩をして子供が生まれるということでその子供の出生届が出されるわけでございますが、その場合には、ただいま御指摘のように民法の上で嫡出推定の規定がございます。したがいまして、法律的にはそれは夫の子である。要するに、その夫婦の間でできた子供であるという推定が働くわけでございますので、実体法的にそういう推定が働く状態でございますから、それを夫婦の子として戸籍に記載をいたしましても、それは法律的な意味での虚偽には当たらないというふうに考えます。  もちろん、嫡出否認というものはあるわけでございまして、夫の方で、これは自分の子ではないんだと、要するに自分の精子による子供ではないんだということを理由にして嫡出否認の訴えを起 こしまして、そこでもしその否認が認められますと、その際には推定がもちろん覆って親子関係がないということになりますから、戸籍の上ではそれに従った処理をするということになるわけでございます。  ただ、人工受精の場合には、これは医師の倫理の問題にも絡むわけでございますが、通常これは夫の同意というものがなければしないという扱いになっているわけでございまして、その同意があった場合に嫡出否認の訴えが成り立つものかどうかということについてはこれは争いがあるところでございますが、少なくとも戸籍の上では出生届が出されました場合には、これはまだ否認も何もない状態でございますから、推定規定によりまして夫婦の間の子供であるとして戸籍に記載をいたします。これは、法律的な意味では神様だけが知っている父親とは違うかもしれません。それも父親と法律的に言えるかどうかはわからないのですけれども、血がつながっていないという、父親が変わることになるかもしれませんけれども、それは法律的には間違っているとは言えないというふうに考えておるわけでございます。
  34. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 同じような問題が最近、新聞でも局長ごらんになったでしょうが、他人の腹を借りて出産させるというようなこともぼつぼつ出てきたようです。この場合は出産した婦人がお母さんですか、それとも排卵に精子を受精させて、そしてその体を貸した人に受精卵を供給したその婦人がお母さんですか、どっちですか。
  35. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) いわゆる借り腹の問題につきましては、日本ではそういう例がないと言われておりますので、実例として検討されたことはございませんけれども外国ではそのような例もあるというふうに言われておりまして、学者の間、また我々の間でも若干の議論はいたしております。その場合に、よく使われる言葉でございますけれども、借り腹の貸した方の母親といいますか、女性は、これを子宮の母と申しております。それから、卵子を提供した方の女性をいわば卵の母というふうに私ども呼んでおるわけでございます。その場合に、法律的に言った場合に子宮の母が母なのか、それとも卵の母が母なのかという、それがただいまの寺田委員の御質問がと思いますが、これは医学的には、あるいは卵子の方の母親が遺伝学的にも母親なんだということが言えるのかもしれませんが、少なくとも現在の民法の考え方といたしますと、分娩という事実を中心にして母子関係というものを考える、そういう前提で成り立っております。  したがいまして、現在の民法の考え方からいたしますと、分娩によって母子関係が発生するというふうに考えざるを得ないと思います。したがいまして、先ほどの言葉で申しますと、子宮の母をもって母とする。したがって、戸籍の扱いでもそういうことが起きました場合には、分娩の事実があったその女性の子供として戸籍に記載をする。それについて、いわば精子を提供した側の方が、これが自分の精子に絡む子供であるということになりますと、そこで認知の問題とかというようなことがあるいは生じてこようかとは思います。あるいはそういう場合には、今の民法の手続でいえば、養子縁組をするとかということによって法律上の親子関係をつくるとかというふうなことで処理されていく事柄になろうかと思います。まだ実例もないいわば観念的な議論をしておる段階でございますが、一応分娩の事実ということを母子関係の重要なメルクマールとしてとらえるべきであろうというふうに考えております。
  36. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 確かに日本ではまだ現実的な問題になっていないようですが、外国では取り合いになったということさえも報ぜられておるわけです。分娩によってこの世に生まれた子供は我が子であると、分娩した方が取りたがる。一方、受精卵を供給した女性は、いやこれは私の子だといって両者が取り合いを演ずるというようなことも報道せられておるようであります。そうしますと、やはりこれは必ずしも日本でも観念的な問題とばかりも言い得ないので、将来そういう事態を生じないとも限らないわけでありますから、これはやはり法務省としては何らかの考え方を決めておかれる必要があるんじゃないかと思います。これはもう最終的には法律で決めるか裁判所が判断するかどちらかになると思うんですが、倫理的な問題もあるでしょうし、生理学的な問題もあるでしょうし、非常に難しいのでありますが、やはり検討はしておかれた方がいいように思います。これは大臣としてどうお考えになりますか。局長でもいいですよ。
  37. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) もちろん私ども検討すべき問題だとは思っておりますが、先ほど申し上げましたように、現在のところは分娩というものを中心に考えるべきだろうという考え方でございます。それからまた、医学の上での倫理の問題にも実は絡んでまいります。そういうふうな事柄との兼ね合いもありまして、余り民法サイドで先走ってといいますか、そういう立法をすべき事柄でもないのじゃないかというふうにも考えておりますので、将来そういう医学的な動向なども考慮に入れながら一つの問題として、外国の立法例あるいは裁判所の判断例なども注目しながら、研究だけは継続していくべき事柄だというふうに理解をいたしております。
  38. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大体民事局長のお答えで私も結構だと思うんですが、大臣、この問題は倫理的な問題と生理学的な問題と法律的な問題といろいろ絡み合っていますね。これはやはり一応関心を持って、だんだん現実的な問題になりつつありますから、用意なさっておかれる方がいいように思いますが、どうでしょうか、大臣として。
  39. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) どうもこういう問題になりますと、現在のいろんな法律的な規制なり、あるいはその前提になっておる社会的な物の考え方が急激に変化をしてきておるということが前提にあるのだろうと思うのでございます。したがいまして、どうも我々の立場から見まして、そういう急激な変化に追随し切っていないところがもちろんあろうというふうに思うのでございます。これらの問題については、今御指摘になりましたように非常に倫理的な問題が重なっておる問題でありましょうし、またこういう問題についての国民一般の考え方というのが、必ずしも私は成熟してきておる段階ではないというふうに思うのでございます。  したがいまして、そういう事態というものをよく踏まえまして、特に外国でそういうようなものをどういうように考えていくか、しかもその考えていくかというのには、基本的にそのもとになる物の考え方というのがベースにあるはずでございますから、そういうこともひとつ十分踏まえて事柄を判断をしていかなきゃならぬ性格のものであるというふうに思っておるわけでございます。したがいまして、今民事局長からも発言がありましたように、諸外国の具体的な取り扱いあるいはその具体的な取り扱いの前提になる物の考え方、ベースになる思想というんですか、そういうようなものも十分理解をして研究をしておくべき性格のものではないか。具体的にそれをどういうぐあいに扱うかというようなことに踏み切る段階ではないというふうに思っております。
  40. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 借地・借家法の問題をお尋ねしますが、これは法制審に今諮問された段階で、まだまだこれから整備していかれるのだろうと思うんですけれども、この改正を意図するに至ったのはどういう動機からですか。
  41. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 実は法制審議会の民法部会の中に財産法小委員会と身分法小委員会と二つ分かれておりますが、この身分法小委員会の方は、ただいま御指摘がありました特別養子、養子制度関係をしておりまして、財産法小委員会は例の区分所有法、マンション法と言われましたあの改正を従来やっておりまして、それがおかげさまで成立をして施行になったわけでございます。その次に何を取り上げるかということがかねがね問題になっておったわけです。ところが、財産法関係につきましては、問題の提起をされております課題というものがたくさんございます。公益法人の問題もございますし、それから変則担保の問題もありますし、その他たくさんあるわけです。その中でどういうものを手がけていくべきかということを財産法小委員会の主要なメンバーの間と私どもの方とでいろいろ話し合いをしたわけでございますけれども、その結果、借地・借家法の見直しをすべきではないかというような考え方が一応まとまったわけです。  と申しますのは、御承知のとおり借地・借家法は大正十年に成立をいたしまして、昭和十六年に改正がされ、その後、戦後も改正がされておりますけれども、抜本的な改正というものが余りなされずに今日に及んできておるわけでございますが、戦後の異常に極端な住宅難の状況が経過をいたしまして、最近ではかなり住宅難というものも緩和してきた。住宅につきましては、絶対戸数はもう世帯数を上回るというふうなことも言われておうわけでございます。それから、いろんな地価の暴騰とかいうふうなことで、借地借家関係の背景となります社会情勢、経済情勢というものが大分変わってきております。そういう中で借地・借家法というものを見直したらどうだという、いろんな方面から声が上がっておるわけです。  法務省といたしましても、実は御承知かと思いますが、昭和三十五年に既に借地・借家法の全面見直しのための改正要綱案というものをまとめておるわけでございます。ところが、これはまた貸し主の方と借り主の方とはかなり利害が対立する問題でございますので、その要綱試案につきましてはなかなかいろんな情勢から実現はしなかったわけでございますけれども、そのときから私どもとすれば問題を温めておったという状態にあります。そこへ先ほど申し上げましたようないろんな社会情勢、経済情勢の変化がございまして、またいろんな方面から借地・借家法の見直しの声も上がってきたということがございます。  そういうことで、私どもの方としてはかねがねの懸案である借地・借家法をひとつ取り上げてみてはどうかということで考えたわけでございますけれども、それも非常に、先ほど申しましたように難しい問題がございますので、ともかく昭和三十五年の要綱試案にも盛られていたような問題点、あるいは現在各方面から提起されている問題点、そういうものを整理をして、まずその問題点について各界の御意見を伺おう、そしてその審議に入ろうというふうな考え方で、過日問題点をまとめましてそれを公表し、各方面に御意見を紹介するということで出発をいたした次第でございます。
  42. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その経緯はよくわかりましたが、これは改正の方向としては借り手の立場の擁護に主眼を置かれますか、それとも貸し手の立場を重んじようとなさるのか、そういう方向は決まっていますか。
  43. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) ただいま申し上げましたように、いろいろ提起されている問題を整理をして各方面の御意見を伺うという段階でございますので、改正の方向というものを私どもが持っているわけではございません。むしろ御意見を伺った上で大体の方向性をつかんでいかなくちゃいけないだろうという立場でございます。  この問題点として提起されているものには、これは借り主側に利益といえば利益、あるいは反対の利益というふうなものも、それはいろいろまざっておるわけでございます。それを結局いかにして調整をすべきかということでございますが、私どもはいろんな情勢の変化はございますけれども、具体的な改正の方向というものは出しておりませんが、借地借家関係というのは非常に生活に絡む法律関係である。しかも、性質上長期に安定的な法律関係でなければいけないということが借地・借家法の基本線であろうということは考えておるわけです。その基本線を踏まえながら、現在の社会情勢、経済情勢に合うような形での改正といいますか、両者の利害調整というものがどう図られるべきかというふうな視点で今後この問題点を検討してまいりたいという立場でございます。
  44. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大体わかりましたが、これはいつごろまでに法制審の答申を得て立法化に着手するというような、そういう時期的なめどはどうでしょうか。
  45. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 問題点に対する回答をお寄せいただくのを来年の四月ごろというふうにお願いをいたしておりますので、それから本格的な審議が始まるわけでございますので、審議が始まってから、問題が問題でございますので、早くても二年、遅ければ三年ぐらいはかかる、そういう問題だろうと思っております。
  46. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大変長らくお待たせしたんですが、法制局長官にお尋ねをしたいと思うんです。  先般、さまざまな批判、論議がありまして、結局、中曽根首相が靖国神社に対する公式参拝に踏み切られたわけです。それはやはりすぐれて憲法的な問題でありますので、法制局長官のこの問題に関する御意見というものが非常に重要であるということはも三言うまでもない。また、あなたの御意見を参酌した上での決定であったであろうことも間違いないですね。  それで従来、内閣委員会、それから衆参の予算委員会等でこの問題が厳しく論議せられております。私、その審議録を詳細に読んだ結果でお尋ねをするわけですが、どうしても長官の御答弁を拝見して納得のいかない点が一つある。それは、あなたが、この問題は国民意識と深くかかわり合っておる、したがって法理の一点から結論を出すことはできないということを言っておられるわけです。これは間違いないですね。  ところが長官、この問題は確かに国民意識はどうだろうかという社会学的な問題もあります。社会心理学的な問題もある。宗教的な問題もある。しかし、問題は違憲か合憲かという憲法問題を問われておるわけですよ。その憲法問題を問われておるときに、法理の一点からは結論は出し得ない、これは国民意識の問題だと言って判断をされぬのは、問題の核心を避けた、法学者としてのとるべき態度ではないと私は考えるのだけれども、この点はどういうふうにお考えになるんでしょう。
  47. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) ただいま御指摘がありましたように、従来、私の答弁の中でこの靖国神社公式参拝の問題、すなわち憲法二十条の解釈の問題に絡むわけでございますが、これにつきましては事柄が宗教の問題であり、国民意識に深くかかわる問題であって、法理の一点のみでは結論が出ない問題であるというような御答弁を申し上げたことは事実でございます。  また、ついでに申し上げますと、私ども、この問題につきましては既に昭和四十年代からいろいろと問題が出てまいっておりますわけでございまして、いろいろと内部的にも検討をしてまいりました。しかしながら、今申し上げたような理由によってなかなか結論が出なかったということは、これは率直に言って事実でございます。  特に昭和五十二年七月の津の地鎮祭に関する最高裁判決を踏まえて考えてみましても、これは委員御承知のとおり、この地鎮祭判決の内容といいますものは、いわゆる目的効果論と申しますか、憲法二十条三項の解釈のいわば基本をなす考え方だと思うのでございますが、この目的効果論におきましても、おる特定の宗教にかかわりのある国の行為が、目的において宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長等になるような行為をいうものとするということのこの行為に当たるかどうかということにつきましては、諸般の事情を考慮して、そして社会通念に従って客観的に判断すべきである、こう言っているわけでございます。  ここで言うところのいわゆる社会通念とは何かという点につきましても、これはまさにこの最高裁の判決を読みましても、一般人の意識とか一般人の見解とか、あるいは今申し上げた社会通念とかというような言葉を使いまして、そうして広い意味で言いますと、一般的に申しますと、いわゆる国民意識にかかわる問題であるという前提のもとでこの判決も下されているのだと思います。  すなわち、法理諭としましてはあくまでも目的効果論、これは法理論でございます。それをただ具体的な社会事象に当てはめる場合にこのような社会通念を使って、そして結論を導くというよう な考え方に立って我々は対処してまいっておるわけでございます。
  48. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 目的効果論についてはまだ後ほどお尋ねしますけれども、最高裁の判決が社会通念を言いますのは、法理論的な解釈をする上での一つの参考資料ですね。そうでしょう。あくまでも法理論は法理論で、法理論としての結論を出す場合に社会通念で部分的な判断をするということは言うまでもないけれども、ただ国民意識の問題だから法理論からは結論は出せないというそのあなたのお考えがどうしても理解できない。それは、何か社会学的な実態があれば法理論としての結論を放棄しても差し支えないというような間違った考えにもいかざるを得ないのじゃないだろうか。国民意識というのは結局、あなたは国民の大多数が靖国神社公式参拝を望んでおるということを意味しておられるんですか。それとも国民の大部分がこれを合憲だと解釈しておるということを考えての御発言ですか、どちらですか。
  49. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 国民意識という言葉が非常にあいまいであるというような御指摘、御批判であろうかと思うんでございますが、我々従来使っております国民意識と申しますのは、国民一般の認識というようなことを意味するものでございまして、いわば社会通念という言葉と隣り合わせと申しますか、大体同じような意味合いで我々は使っておるつもりでございます。まあ、どっちかと言いますと、社会通念よりは漢としたと申しますか、一般的な表現ではあろうかと思いますけれども、おおむねこの問題に即して申しますれば、社会通念という言葉と同じような意味で使っておったつもりでございます。
  50. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 わかりましたけれども、あなたの国民意識の問題だと言う、社会通念の問題だと言うその社会通念というのは、内容はどうなんです。つまり、国民の大多数が靖国の公式参拝を支持しているというその社会通念ですか。それとも合憲だと考えているという、そういう認識の上での社会通念ですか、どちらですか。
  51. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 社会通念というのは非常に一般的な用語でございまして、使われている場所によっていろいろな意味合いがあろうかと思いますが、要するにこの津の地鎮祭に関する最高裁判決に使われておりますところの社会通念と申しますのは、端的に申しますと、国の特定の行為がその目的において宗教的意義を有するかどうかとか、その効果の面で宗教に対する援助、助長等になるかどうかという点につきましての世の中一般の受けとめ方、判断を意味するものと我々は考えておるのでございます。
  52. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 どうもよくわからない。国民意識とのかかわりがあるから法理論の見地からは結論が出せないとあなたがおっしゃっておるその国民意識というものはどういう内容を指しているかということをお尋ねしているんですよ。この場合の国民意識。
  53. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 先ほど申し上げた御答弁の繰り返しになりますけれども、このいわゆる法論理と申しますものは、あくまで私どもも現在は津の地鎮祭に関する最高裁判決でいわゆる目的効果論、これに徹しておるわけでございまして、これがいわゆる法理論でございます。それを具体的な事象に当てはめる場合には、先ほど申し上げましたように、この判決でも述べておるような、社会通念に従って客観的に判断をすべきであるというような判旨に従いまして、我々としましても、具体的な国の特定の行為、国の宗教にかかわり合いのある行為、これが果たして先ほど申し上げました、目的において宗教的意義を有するかどうか、あるいはその効果の面で援助、助長的な効果を有するかどうかという点の見きわめをつける、その場合に世の中一般の受けとめ方、判断としてどのような判断をするであろうということを我々としても推認いたしまして、そして結論づけておる、かような次第でございます。
  54. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 何かそれは法理論と別個に存在する社会心理学的な実態というようなもののようにあなたは考えていらっしゃるのだろうか。それによって法理上の判断を出すという、どうもちょっと法律家としてはおかしいという感じを持たざるを得ないんだけれども、あなたの言う目的効果論がういう社会通念というのは、そうすると、具体的に言いますとどういうことになりますか。目的効果論からいう社会通念というのは何を指しているんですか。
  55. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 先ほど申し上げましたように、津の地鎮祭最高裁判決に述べられておりますところの目的効果論、これに即して社会通念は何かということを申し上げますと、先ほども申し上げましたが、国の特定の行為がその目的において宗教的意義を有するかどうか、それからその効果の面で宗教に対する援助、助長となるかどうかという点につきましての世の中一般の受けとめ方、判断、これがこの判決に即した社会通念の意味合いである、かように考えておるわけでございます。
  56. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなたの御説明を伺いますと、その行為が宗教的な意義を持つか、それとも宗教団体に対する援助的な効果を持つかということについて社会一般はどう考えているかということなんで、ということになりますと、あなたは社会一般が考えていることに従って法理論的な結論を出すということなんですか。社会一般が考えていることが憲法解釈の基準だ、そういうことになりますね。
  57. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) それは、津の地鎮祭最高裁判決を熟読いたしました場合にも、先ほど申し上げましたように、繰り返しになりますが、国のある特定の宗教にかかわりのある行為について憲法二十条三項の宗教的活動に当たるかどうかという判断をいたします場合には、当該行為の外形的側面とかあるいはその行われる場所とか、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事青を考慮して、社会通念に従って客観的に判断しなければならないと述べられておるわけでございまして、ここで言うところの社会通念、これは私先ほど申し上げましたような内容として考えておるわけでございまして、今回のいわゆる靖国神社公式参拝の問題、その具体的な問題につきましてもこのような判決の趣旨にのっとって判断をしたと、かような次第でございます。
  58. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、あなたの先ほどの答弁に従って私はお尋ねしておる。あなたは、社会通念なり国民意識というのは、この目的効果論に従ってこの行為が宗教的な意義を持つかどうか、それから宗教団体に対する援助の効果を生ずるかということについての国民の考え方だということをおっしゃったから、そうすると、そういう国民の考え方に従ってあなたは憲法上の結論を出すのかどうかと言っているんです。あなた御自身がこの憲法判断をするに当たって、そういう国民多数の考え方が右であれば右と言うのか、左であれば左と言うのか、そういうふうにお尋ねしているんですよ。
  59. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 津の地鎮祭判決のいわゆる地鎮祭に対する多数意見の態度でございますが、これは委員に対しては釈迦に説法でございますけれども、地鎮祭に対する一般人の評価と申しますか、あるいは意識と申しますか、そういった一般人の見解として、地鎮祭はいわゆる世俗的な行事であると見ているのではないかというようなことをとらえ、また特に地鎮祭の場合には工事の無事、安全等を願う工事関係者にとっては地鎮祭という行為が欠くことのできない行事とされていると一般の人が見ているといったような、いわゆる一般人の意識、見解というものを前提にして、またそれを基礎にして立論を進めておるわけでございまして、その点につきましては、いわゆる社会通念あるいは一般人の見解、こういうものがもとになってこの津地鎮祭の判決の結論が出ておるというふうに我々は理解しているわけでございまして、我々今回の公式参拝につきましての判断におきましてもこれと同じような考え方、基礎に立って結論を出しておる、かように我々としては考えておる次第でございます。
  60. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは全然違うんだ。あの場合はつまり神主が主宰しておる、それから神主の指導する方式に従って式が行われておるという形式はあっても、体育館という世俗的な場所で行われたる行事である、それから目的も工事の安全を願うという非常に世俗的な目的なんだ、だから世間は地鎮祭なんというものを宗教的行事と考えるよりは世俗的な行事と考えているんだよということが前提になっている。この場合は何も公式参拝が宗教的な行事かどうかなんということを世間が考えているわけじゃないし、いわんや憲法に違反するかどうかなんということを世間が考えているわけじゃない。だから、判決の言う社会通念なんというものをここに急に持ってきたのは、まさにそれは判決を誤用するというか、全然問題が別個のものを持ってきたことになる。  それじゃ、あなたが社会通念と言っても、この場合の社会通念というのは国民一般が公式参拝を宗教的な行為でないと見ておるそういう社会通念があると、こう言うのですか。そうなんですか。
  61. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 津の地鎮祭に関する最高裁判決におきましては、これは地鎮祭という、今委員も言われましたようにいわば宗教家が主宰する、しかも順序作法においては宗教の定める方式にのっとっているといったような点がまさにこの一つの問題の最大の問題でございまして、その点につきまして、先ほど申し上げましたような一般的な一般人の評価と申しますか、そういったことから、それは世俗的な行事として判断されるであろうというような立論をなしておるわけでございます。  もちろん、今回の公式参拝につきましては、これは地鎮祭とは違う、全く性格の違った事柄でございます。したがいまして、私ども目的効果論を援用いたします場合にも、あくまでもこの公式参拝という事柄の性格に即してこの目的効果論を展開しているつもりでございまして、地鎮祭と全く同じような立論で結論が出るといったようなふうには考えていないわけでございます。すなわち、先ほども申し上げましたように、目的効果論と申しますのは、要するにいろいろな事情を考慮した上で社会通念に従って客観的に判断すべきだということでございまして、そのような基本的な考え方の基礎に立って、我々としては公式参拝の性格に応じてこの目的効果論を当てはめた上で結論を出しておる、かような次第でございます。
  62. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうじゃない。この場合の社会通念というのを、あなたは目的効果論に則して具体的に言うと何が社会通念だと言われるかとお尋ねしている。
  63. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 先ほどから申し上げておりますように、社会通念というのは、我々としましては今回の公式参拝は、目的効果論に則しまして、目的において宗教的意義を有しない、また効果の面でいわゆる援助、助長的な効果を持っていないというふうな判断をいたしまして、したがってこれは合憲である、憲法二十条三項が禁止する宗教的活動には当たらず、合憲であるというような結論を出しておるわけでございます。
  64. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 じゃ、この公式参拝が宗教的な行事に当たらないという社会通念があるというのは、どういう調査の結果、あなたはそういう結論に到達されたのですか。単なる靖国懇の答申に基づいてですか。何か特別なあなたの調査研究の結果そういう結論に到達されたんですか。
  65. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) その点につきましては、経過的に申しましても、我々といたしましては、五十五年十一月のいわゆる政府統一見解におきましては、先ほど申し上げましたような理由によりまして、まだなかなかいわゆる公式参拝について合憲であるか違憲であるかという判断がつきかねるというようなことであのような見解を示したわけでございます。  もちろん、あの見解の前提となりますものは、主として従来行われておりますいわゆる参拝の方式の面では靖国神社が定める正式参拝、これを頭に置いて、念頭に置いての我々の検討ではございました。その面におきましてはやはりいろいろ問題があるということで公式参拝は差し控えるというのが従来からの一貫した方針であるということを統一見解でお示ししたわけでございまして、その後におきまして、このような一体参拝につきましてどのような形で実施すればこれが合憲になるかということにつきましても、内々我々としても検討を進めておったわけでございますが、先般のいわゆる靖国懇の報告書内容をも参考として今回慎重に検討いたしました結果、去る八月十五日の総理等の靖国神社公式参拝は、諸般の事情を考慮して客観的に判断すれば、憲法二十条三項の禁じる宗教的活動には該当しないという判断に立ち至った次第でございます。
  66. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなたの御答弁によると、社会通念じゃなくて参拝の形式で合憲、違憲を決定するということにならざるを得ないでしょう。あなたは社会通念だ国民意識だということを盛んに今強調されていたが、今のあなたの御答弁によるとそうじゃない、参拝の形式が問題なんだということにならざるを得ない。まるで逆じゃないか。
  67. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) これは決して参拝の形式だけにとらわれて申し上げておるわけでございません。津の地鎮祭の最高裁判決によりましても、国のある行為が憲法の禁じる国の宗教的活動に当たるかどうかということを検討するに当たりましては、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式にのっとったものであるかどうかということなど、当該行為の外形的側面をも考慮すべきであるとされていると考えられまして、その意味では総理の靖国神社公式参拝につきましても、その参拝の方式がどうでああかということは考慮を要するファクターであることは言うまでもないところでございますが、もとより参拝の方式のいかんだけで公式参拝が合憲になったり違憲になったりするものではないわけでございまして、その合憲性を判断するに際しましては、参拝の目的その他の事情を総合的に考慮して行うべきであるという見地に立って結論を出した次第でございます。
  68. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなたは、最初は外形的側面にとらわれないで広く社会通念に従って解釈しなければいかぬという地鎮祭の判決によって社会通念が問題だというふうに述べられた。今は逆に、また外形的な問題が大事なんだと、だから参拝の形式が問題なんだと言われた。首尾一貫しないこと甚だしいじゃないですか。これはどちらなんです。形式が問題なのか、どうなんです。
  69. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 今も申し上げましたとおり、参拝の方式、形式、これももとよりいわゆる目的効果論に当てはめまして憲法適合性を判断する場合の重要なファクターであるということを申し上げたわけでございますが、もちろんいわゆる参拝の方式、形式だけで結論づけたわけではございませんで、その他のいろいろな要素を勘案した上で結論を出したわけでございます。この方式ももとより重要なファクターではあるということは申し上げたわけでございますが、これだけで、方式さえ変われば途端に憲法の面で問題がなくなるということを決して申し上げているわけではございません。
  70. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この目的についてあなたは、これは戦没者を追悼する行為というのは宗教的行為に当たらないということを言っておられますね。その結論は、だからその目的を持って行けば参拝が宗教的行事に当たらないということをあなたは強調されておりますが、それは今でも変わりませんか。
  71. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) その点は変わっておりません。
  72. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ところが、五十三年十月十七日の政府統一見解によれば、「神社、仏閣等への参拝は、宗教心の表れとして、すぐれて私的な性格を有するもの」だという、そういう政府統一見解を出していますね。これはあなたも関与しておられるんじゃないですか。
  73. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) ただいま御指摘のありました昭和五十三年十月の当時の安倍内閣官房長官がお読み上げになりました政府統一見解にはそのとおりの記述がございます。私もその当時は法制局におりまして関与いたしております。
  74. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 すぐれて宗教心のあらわれとしての参拝で、そして宗教施設である靖国神社に行って、そして社殿に上がって、そして祭神を拝礼するということがどうして世俗的な行為になって宗教的行為にならないんだろう。言わずして明らかだと思うけれども、あなたはそれでもなおかつ宗教的行為でないとおっしゃるんだろうか。
  75. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) ただいま申し上げました昭和五十三年十月の政府統一見解の趣旨でございますが、これはいわゆる総理の靖国神社に参拝する場合の公私の区別、これについて記述した統一見解でございます。したがいまして、通常例えば総理にしろあるいはその他の閣僚にしろ、何らの意思の表明もなく、また何らのそういった特別な配慮もなくして、そうして、ただ行っていわゆる正式参拝を従来行っておるというようなことでございますから、そういったものにつきましては、これは「すぐれて私的な性格を有するもの」として、私的な行為であるであろうというようないわゆるメルクマールを述べておるわけでございます。  それから、今回の総理の公式参拝が目的において宗教的意義を有しないとする根拠はいかんということでございますが、これは去る八月十五日の靖国神社公式参拝の目的というものが専ら戦没者の追悼にあるわけでございまして、しかもそれを政府がそのようにただ思っているというだけではなくて、このことは国民や遺族の多くが靖国神社を戦没者追悼の中心的施設であるとしているといったような事情を踏まえ、また、その参拝に先立ちまして、戦没者の追悼がその目的であるということを公にしておるわけでございます。また、追悼の方式といたしましては、いわゆる神道儀式を一切排除いたしまして、そうして追悼にふさわしい方式によって参拝が行われたということなどからも客観的に明らかにされているものというふうに私は考えておるわけでございます。
  76. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 どうもあなたのおっしゃることは首尾一貫しないような印象で、何をおっしゃっているのかさっばりわからないんですよ。じゃ、私的参拝は宗教心のあらわれだが公的な参拝は宗教心のあらわれでないという結論が出るのかどうか。そんなことはないでしょう。参拝という事実に関しては、私的であろうと、公的な資格で参拝するというだけであって、参拝という行為には少しも変わりはないでしょう。しかも、むしろ最高裁判所の地鎮祭の判決は、そういう拝礼の方式とかいうような外形的事実にとらわれることなく考えるということを言っている、神社の前で二洋二拍手一礼するか、単に一礼するかと。宮中の祭式では一礼なんですよ。また、戦前は首相も、それから陸海軍の大臣も全部靖国神社で戦没者を追悼する礼は一礼だったんですよ、公式に参拝しても。そういう外形的な事実によって憲法の判断が左右されるなんということはあり得べくもない。あなたはどう考えるんですか。じゃ、戦前の公式参拝というのは、あれは私的だったと言われるのか。一礼だったんです。
  77. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 先ほども申し上げましたが、現在の靖国神社に定められておりますところの参拝の方式というものは、総理が例えば参拝に行かれるというような場合でございますと、いわゆる手水の儀から始まりまして、修祓の儀、玉ぐし奉奠、そうして二礼二拍手一礼というような正式の方式を踏んで参拝されるのが通常でございます。また、現に今までのいわゆる私的参拝として総理が行っておられた参拝の方式もこのような正式な参拝にのっとって行われたわけでございます。  それで、このような地位にある人が今申し上げたような参拝をする場合には正式参拝というのが通常であるわけでございますが、今回はいろいろ憲法上の問題があるということでいろいろ検討をいたしました結果といたしまして、そのような一切の神道儀式を行わずに、追悼行為としてふさわしい方式で参拝を行った。それからまた、それだけではなくて、先ほど申し上げましたように、あらかじめ今回の参拝は追悼を目的とするということを中外に周知した上で行ったわけでございます。しかも、その前提といたしまして、多くの国民、遺族の心として、靖国神社をいわゆる戦没者の追悼の中心的施設であるというふうに見て、その場所で総理や閣僚が参拝してほしい、追悼の意を表してほしいということを強く願っておるというようなことを踏まえました上での今回の参拝でございます。  そういったいろいろな状況を勘案した上で考えますれば、いわゆる今回の公式参拝というものが憲法二十条三項の「宗教的活動」には当たらないという判断を下してしかるべきであるというふうに私どもとしては考えておるわけでございます。
  78. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなたの今の御説明を伺うと、信者や遺族がそういう参拝を希望しているからあえて公式参拝に踏み切ったのだということを今おっしゃったのですね。それが憲法の解釈とどういう関係があるだろうか。ともかく、あなたは戦没者を追悼するとおっしゃったが、これはもう明らかに靖国神社に祭られているのは戦没者の霊なんですよ。これはあなたもお認めになるでしょう。戦没者といっても戦没者の霊なんです。これは戦前でも神霊の加護といって非常に宗教的な意味を持っている言葉だった。祭神なんだ。霊を祭神として祭っているんです。戦没者という肉体に対して拝礼をしたのじゃないんです。霊に対して拝礼したんです、しかもそれを悼んで。それは明らかにもう宗教的な、かつて政府統一見解が言っているように「宗教心の表れ」と見るべきだ。宗教施設に行って、そうして宗教的な存在である霊に対して拝礼をして、どうしてそれが宗教的行為にならないのか。  そのことと、それから最後に、もう時間がないのでもう一つお尋ねをしておくが、前の法制局長官の林修三氏が「ジュリスト」の中で言っておられるのだけれども社会通念上妥当な金額であれば公的な負担によって賄っても差し支えないという、またそこで「社会通念」などというようなものが乱用されておる。金額が少なければこの玉ぐしだって政府が負担をしたって財政的な支出にならぬということになる。あなた方の社会通念というものは次第に憲法を破壊するものに用いられている。それでは、一体あなたは林修三氏の意見を支持されるのですか、どうなんですか。
  79. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 林修三先生が「ジュリスト」の特集号におきまして、「公式参拝である以上、そしてそれが憲法に違反しない形で行われる以上、」、玉ぐし料を「社会通念上妥当と考える金額の範囲で公費で支弁することは憲法第八九条からも問題にならないと考え」たと書いておられるわけでございますが、この点につきましては、玉ぐし料という言葉をどのように一体考えておられるかということを林先生にも私まだ伺っておりません。  一般論といたしましては、玉ぐし料というのは神に対する供え物とかあるいは宗教儀式の準備のためのものという性格を有しておるわけでございまして、今回のいわゆる総理の靖国神社公式参拝につきましては、これはそのような趣旨ではなくて、あくまでも戦没者追悼という目的で行っておるわけでございまして、そのような意味の玉ぐし料を公費から支出するということは、これはなじまないものであると我々は考えておる次第でございます。
  80. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 初めにお尋ねした点はどうなんですか。つまり、戦没者というその肉体に対して拝礼をするのじゃないんだ、宗教的な意味を持つ神霊に対しての参拝なんだ、したがって宗教施設にもうでて、そういう神霊に対して拝礼するというふうなことがどうして宗教的行為にならないだろうかと言ってお尋ねしているんです。その点のまだお答えがないでしょう。
  81. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 先ほど御質問がありましたのに答弁を漏らしまして恐縮でござました。  その点につきましては、私どもは、先般の総理の靖国神社公式参拝というものはあくまでも専ら戦没者追悼を目的としておるわけでございまして、靖国神社が宗教的施設であるということに着目するのではなくて、むしろ多くの国民や遺族が靖国神社を戦没者追悼の中心的施設であるとしておるところに着目して、専らそのような追悼の目的ということに目的を限定いたしまして、そうして拝礼をしたということでございまして、ちょうど武道館で同じ八月十五日にいわゆる全国戦没者追悼式がございましたが、そこにおける拝礼というのと同じ意味であるというふうに我々は考えておるわけでございます。
  82. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今あなたは国民一般が戦没者の中心的な追悼施設だと考えておると言っても、それはあくまでも靖国神社と重なり合っているわけでしょう。何も追悼施設というのが靖国神社の中に別個に存在してあるわけじゃないんで、靖国神社そのものなんですよ。ただ、そのものであるものを特にあなた方は何か追悼施設というものが別個に存在するというふうに世間が考えているというふうに論理をもてあそんでいるわけだ。しかし、それはそうじゃない。あくまでも国民一般が靖国神社というその宗教施設の中にそういう面があることを認めておるかどうか、その点も怪しいものだ。むしろ政府がそれを強調するだけであって、国民一般はやはり神社というもの、しかも戦前からの伝統を持つ神社というものに帰依をし、それを尊崇し、そしてそれに参詣しておる。何もそういう特色が別個に存在するわけじゃない。あなた方の考えは非常に恣意的だと思うが、どうでしょうか。これを最後にお尋ねをして終わります。
  83. 茂串俊

    政府委員(茂串俊君) 繰り返しになりますが、確かに場所は靖国神社における拝礼でございますが、あくまでも先ほどから申し上げておりますように、国民、遺族の多くが戦没者追悼の中心的施設であるというふうにあの場所を見ておるわけでございまして、その最もふさわしい場所において総理、閣僚がいわゆる専ら追悼の目的で拝礼をするということはあり得てしかるべきであるというふうに考えまして、その意味からすれば憲法上の問題はないというふうに我々は割り切っておるわけでございます。  もちろん、ただそれだけではなくて、先ほどからるる申し上げておりますように、いろいろな面で配慮をしました上での公式参拝でございます。そういう意味で、いわゆる目的効果論の総合判断の結果としまして憲法上の問題はないというふうな結論を下しておる次第でございます。
  84. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私は、当委員会で一昨年から、マスコミ、特にテレビの取材活動を通じて人権が損なわれているのではないかということで何回も質問を行ってきました。その際、たしか昨年だったと思いますが、法務省に対して、そういう人権保護の立場からマスコミの取材活動に対しても何らかの措置をとるべきではないか、こう申し上げましたら、法務省の方では、マスコミとプライバシーということでいろいろな一般の学識経験者も交えてシンポジウムを開く、そこの結論等をもってマスコミの方にもいろいろ働きかけて自浄作用を期待するのだ、こういうお話でございましたが、法務省の人権擁護局の方で、そういうプライバシーとマスコミというシンポジウム、またそれに基づく検討結果について、マスコミに対してどういう措置をとられたのか、ちょっとお伺いをまずいたします。
  85. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 御指摘のとおり、全国人権擁護委員連合会におきましては、この問題に深い関心を持ちまして、昨年六月九日、東京のサンケイホールにおきまして、マスコミとプライバシーをテーマにシンポジウムを開催いたしました。  このシンポジウムは、一部マスコミによる行き過ぎた取材活動や報道に対する国民の批判がある一方、このことから報道の自由や表現の自由が制約されることがあってはならない、情報の送り手、受け手及び情報提供者の間の相互理解を深めて、より健全な方向への発展の道を考えるということのために開催されたものでございまして、司会者に東京大学名誉教授の加藤一郎先生、講師に日本雑誌協会倫理委員の赤塚一氏、青山学院法学部教授の清水英夫氏、フジテレビ取締役報道局長の藤村部苗氏、それから読売新聞社の新聞監査委員である前沢猛氏が出席されまして、いろいろな方面から意見の交換がなされたと聞いております。  このシンポジウムでは、プライバシーと名誉とはどこが違うのか、あるいは公人と私人はどういうふうに分けるのか、そして公人の場合に果たしてプライバシーというものが制約されるのかどうか、どんな場合にプライバシーを放棄したというふうに言われるのか、マスコミはなぜ実名報道にこだわるのか、そしてまた、マスコミ界においては各種の自主規制機構が設けられておるのでありますが、それがどのように働いておるかといったようなことについていろいろ述べられた後、各先生方の意見が出まして、一応最後に司会者がそれを取りまとめておられるのでありますけれども、その結果では、行き過ぎた取材や報道による人権の侵害に対しては、国民の立場からは、被害を受けたときは自分の権利を強く主張する必要があるのじゃないか、それが大切なのではないかという指摘、しかしそういう場合にマスコミが単に萎縮してしまってはいけないので、やはりみずから規制を守りつつ言論の自由のためにいろいろな主張をマスコミ自体もしていかなければならない、しかしこれらの行き過ぎた活動があるときにはマスコミ全体の信頼ということが損なわれる、その結果は、言論の自由という民主主義の基盤そのものが崩壊していくことにもなるので、マスコミ界自体としては何としても人権侵害の批判を受けないような報道に徹するために自主規制というものを徹底していく必要があるということ、そうして双方がそういう主張をぶつけ合うことによっておのずから妥当な線が出てくるのであって、これを外部から力でもって規制していくということは避けるべきではないかといった意見が出され、それが大方の意見であったというふうに聞いております。  私どもといたしましては、こういったシンポジウムの結果をマスコミ倫理懇談会の方にも伝えましたし、またその後の私どもの人権擁護活動の指針としておるのであります。
  86. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私も、報道の自由の立場からは、関係団体が自主的に守っていくということが一番好ましいと思うけれども、どうも日本現状はそうではない。しかし、政府等がこれに介入することは私も反対であります。ただ、やはりそういう自主規制の機関に対していろいろ申し入れをしていくということは必要ではないか、私はこのように考えます。  ちょうど本年の四月二日の当委員会で私は、腎臓移植について、生体腎の問題で、これはその医学的な問題を取り上げたというよりは、むしろそれの報道を取り上げました。  昨年の十一月からテレビで六回、また新聞でも週刊誌でも相当取り上げられまして、生きている人の生体腎を脅迫してその生体腎を買い上げて、それで腎臓を欲しがっている人たちにやる商売があるんだ、何十億もうかったとかいうような報道がテレビで堂々となされた。私はそれについて厚生省、警察庁に実情を問いただしましたけれども、実際には何もそういう事実は一つ報告されておりませんと、こういうことであったので、私は、それならそれで調査を遂げたらやはり政府として、腎臓に困っておる、お医者さんも腎臓移植学会も大変困っておる、そういう人たちに対して、あの報道はうそでしたよと、そういうことはありませんということを公表する義務があるんではないか、こう私要望したんですが、厚生省、ことしの四月の委員会のときの私への御説明について、その後状況が変わっているのか、その後さらに調査が進んだのか、その点について御報告をいただきたいと思います。
  87. 草刈隆

    説明員(草刈隆君) 昨年末一部で報道されました生体腎の売買あっせんの問題につきましては、厚生省から都道府県に対し事実の把握を指示し、万一そのような事実があれば厚生省に報告するよう求めているところでございますが、現在までのところそのような報告は得られておらず、またこれとあわせて日本移植学会等の関係者の方々からも種々お話を伺ってまいっておりますが、また日本移植学会のこの問題に対する対応の仕方などを総合してみますと、指摘されたような生体腎の売買による移植は事実として存在しなかったのではないかと考えております。
  88. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私は当時から、私の議事録を見ていただけばわかりますが、これはやらせではないか、恐らく関係者の間でもこれは事実じゃないと。ただ非常にセンセーショナルに報道されましたが、そういうものに対して当局は割合に慎重でございまして、余り積極的な手は打たれていなかったと私は思います。  ところが、ことしの八月三日に東京の福生市の多摩川のほとりでの、例のテレビディレクターらによる暴力行為教唆事件というものが起こりまして、そしてこれが警察に検挙され、それによって大きく報道されました。そういう事件の検挙があると、そういうショックでマスコミの方もあるいはいろいろ言われておるようでございます。とりあえず八月三日のこの事件について警察庁からちょっと概要とその後始末がどうなったかということを御報告をいただきたい。
  89. 伊藤一実

    説明員(伊藤一実君) お答えいたします。  御指摘事案は、去る九月の四日でございますけれども、八月二十日のテレビのアフターヌーンショーで福生市内の中学生がリンチを受けているシーンが放映されたけれども、警察でも事実関係調査してほしいというような申告が警視庁の福生警察署の方に出されたことから事案を認知いたしました。  同署におきましては、被害児童やあるいは関係者から事情聴取を行いましたところ、八月三日の夜、福生市内の多摩川河川敷で開かれましたバーベキュー大会におきまして、少女二名が女子中学生五名に対しましてリンチを加えた事実を確認いたしました。これに基づきまして、実行行為者二名を十月一日に暴力行為容疑で逮捕いたしました。  その後、本事案の背景の解明に努めました結果、この事案が実は同番組を制作いたしましたテレビ局のディレクターら三人が当該少女二名を教唆して、いわゆるやらせた事案であるということが判明いたしまして、この三名を十月七日以降、暴力行為教唆容疑で順次逮捕するとともに、その全貌を解明したところであります。  なお、このディレクターに対しましては罰金十万円、他の二名に対しては罰金五万円という処置がなされたというふうに承知をしております。
  90. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 これは警察の捜査というものを待って初めてやらせということがはっきりしたわけであります。当初はテレビ会社もそうではないようなことを言っておったようでございますけれども、ただ、その後のいろんな報道等を見ておりますと、これはどうもやらせというのは相当あるのじゃないか。ということは、ワイドショーとなると、これは報道だけではない、報道と娯楽が結びついているのだ、そういう報道と娯楽が結びつけば今後こういうやらせは必ずあるのだと、こういうようなふうに報道している面がございます。  私はいろんな面で見ておって、やらせは決してこれだけではないのじゃないか、この機会にテレビ関係の人たちが皆さんよく反省をしていただいてよくなればいいのですけれども、なかなかそうなるかどうか。その点、監督官庁は郵政省だそうでございますけれども、郵政省でこのやらせ事件の発覚した後に警告というか、申し入れられたと承っておりますけれども、その状況はいかがでしょうか。
  91. 岡田吉宏

    説明員(岡田吉宏君) 御指摘のテレビ朝日の問題につきましては、郵政省といたしましても、言論報道機関であります放送事業者の社会的責任にかんがみますとまことに遺憾であるということでございまして、去る十一月の一日、放送局の一斉の再免許に当たりまして、郵政大臣からテレビ朝日の社長に対しまして文書をもちまして、今後こういったことがないようにということで厳重注意を行ったところでございます。また、放送番組の適正化の問題につきましてはテレビ朝日だけの問題ではないということでございまして、そのほかの一般放送事業者全社に対しまして、放送番組の適正化、それから放送番組審議会の活性化等につきまして要望を行ったところでございます。
  92. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 新聞にはもう既にプレスコード、倫理綱領というのがあったり、内部的に倫理の自主組織があると聞いておりますが、テレビについてそういうしっかりした内部的な組織ができておるのかどうか、この点はいかがですか。
  93. 岡田吉宏

    説明員(岡田吉宏君) 放送番組につきましては放送事業者が自主的に編集する放送番組の編集の自由が認められているわけでございますが、放送事業者は放送はもちろんのこと、みずから定めました放送番組基準、これは人権であるとかプライバシーとかいろいろうたっておるのでございますが、こうした放送番組基準を遵守いたしまして放送を行うというふうにされておるところでございます。郵政省といたしましては、放送事業者はこうした社会的責任を自覚して番組の適正化、向上に努力を傾けるべきであると考えておりまして、いろんな機会にその旨要望いたしておるところでございます。
  94. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 先ほど私が申し上げました生体腎の報道、これは実に六回にわたって行われております。大変ひどいものでございましたが、厚生省は、これは事実ではない、そういう事実はない、このように言っておられるんですが、将来こういうものが報道されて、そしてそれを先ほど申し上げたように報道と娯楽に結びつけて、いかにも事実らしく報道してそれが事実でないということで、しかも社会的に問題があるという場合には、今後郵政省はこのテレビ朝日と同じように厳重注意というものをされる方針ですか。その点お伺いしておきたいと思います。
  95. 岡田吉宏

    説明員(岡田吉宏君) 今回の腎臓売買に関する具体的な放送番組につきましては郵政省としてはつまびらかにしていないわけでございますが、御承知のように、放送番組の編集につきましては放送法上、放送事業者にその編集の自由が認められておるということでございまして、郵政省といたしまして放送番組を検閲するということはできませんし、それから放送番組に関して報告を求めるという権限も与えられていないということでございまして、その事実関係の確認を行うというのが非常に難しいという事情を御理解賜りたいと思うわけでございますが、テレビ朝日につきましてはたまたま刑事事件ということ、それからテレビ朝日自体がそうした事実でなかったことを認めて訂正放送を行うということで事実関係が明らかになったものでございますが、放送番組の内容が放送法等に違反しているかどうかにつきましての事実関係の確認を行うことが極めて困難であるという事情を御理解いただきたいと思います。
  96. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 事実関係はほかの担当者がやるでしょう。そのときにはまた、場合によったら郵政省の方へお願いをして、郵政省の方で厳重注意をやっていただきたい、私はこのように希望をいたしておきます。  次に、昨年来大変問題になりましたグリコ・森永事件についてお伺いをしたいと思いますが、この事件も、昨年の三月十八日にグリコの社長が監禁されて、それから実にもう一年八カ月たつわけであります。マスコミを過剰に利用して世の中を沸かせ、また非常に世の中の人々の関心を集めた事件でございまして、国民はぜひ一日も早く犯人検挙してほしい、こういう強い要望を持っておったわけであります。途中滋賀県の警察本部長が責任をとって自殺するというようなことまでありました。この問題について一部の新聞、週刊誌あたりは、最近は熱が冷めましたけれども、もう犯人検挙は近い、これは恐らく全国民の期待だろうと思いますが、このグリコ・森永事件についての現在の捜査状況、そしてこれからの犯人検挙について率直な御意見と見通しをお教えいただきたいと思います。
  97. 藤原享

    説明員(藤原享君) グリコ・森永事件の関係でございますが、犯人グループの最近の動きといたしましては、この八月十二日に在阪のマスコミ各社に対し「くいもんの 会社 いびるの もおやめや」という犯行中止を示唆する内容の二十五回目の挑戦状を郵送をしてきましたのを最後に、その後企業に対する脅迫など具体的な犯行の発生は見ていないところでございます。  御質問のこれまでの捜査の状況でございますが、大阪、兵庫、京都の各府県警察を中心に、聞き込み捜査などから浮かび上がりました不審人物あるいはタイプライター、車両などの物に対する調査などを初め、公開しております犯人の声やまた似顔絵の男の割り出しなどの捜査を強力に進めているところでございますが、いずれにいたしましても、こういった物等につきましても非常に量産、量販のもので大変捜査が膨大になる、また聞き込みの地域にいたしましても非常に匿名性の強い人口過密の都市圏の中でございまして、非常にこれまた困難性を伴うということで、そういった中で捜査を進めておりますが、具体的には例えばタイプライターの捜査では犯人が脅迫文に使用しております活字の特徴を割り出しまして、過去に販売されました数千面余りの九ポの盤面の中から、タイプライターの活字盤が昭和五十八年の一月下旬、千代田区神田の事務機器店から販売されたことを突きとめまして、その購入者等について追跡捜査を行っているといったような捜査を現在行っておるところでございます。  また、見通しというお話でございますが、警察といたしましては必ず検挙するという気構えで、引き続き当面の最重要課題といたしましてそれらの捜査をさらに推進してまいる所存でございます。
  98. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私あの事案を見ておって、大変マスコミを非常にうまく利用しておる、だから犯罪の形といったらひょっとしたら大した犯罪じゃないんじゃないか。しかし、非常にうまくマスコミを利用して、先ほどお話があったように、脅迫状、特に警察をやゆする挑戦状というものが新聞でもテレビでも大きく出て、一部の国民の中には快哉を叫んだ者もおったかもしれないけれども、とにかく新聞社一社に脅迫状が来れば全部で報道するということで、マスコミも犯人に協力したようなというか、そのような形もちょっと私は見受けたわけでありますが、こういう犯罪に対して日本の警察はちょっと対応の仕方でおくれているのじゃないか、もうちょっと別な方法があるのじゃないかということがよく国民の間でも言われます。特に今度のこのグリコ・森永事件についてはああいう脅迫状、挑戦状というものをあんなに出さない方が、マスコミに頼んで出さない方がずっといいのじゃないか、かえって不安をあおるだけじゃないか、このように思っておるわけです。  それは後でちょっと触れますが、例のドリンク事件、毒物混入事件、これは実は私後でちょっと確かめますけれども、十二、三名死んでいるはずです。グリコでは一人も死んでいない。ところが、あれは脅迫状、挑戦状を出さないから、それを新聞報道しないものだから余り騒がない。私はこういうのこそもう少しマスコミにも協力を得て、早く検挙しなくちゃいかぬ。死んでいるんですよ。ところが、一方のグリコではだれも死んでおらぬ。しかし、とにかく日本じゅう挙げて至るところであの報道ばかりでしょう。こういうものに対する対応というのがちょっと足りないんじゃないか。特に少年事件については名前を伏せるとか誘拐については事件を伏せてもらうとかいうことで、グリコ事件のときも当初はたしかそういうことで報道が伏せられておったと私は承知しておりますけれども、もう少し努力して、マスコミの協力を得て報道について自主的に捜査に協力してもらう、国民の生命と福祉のために協力してももうというような配慮はあってしかるべきではないか。大変難しいと思いますけれども、この点いかがでしょうか。
  99. 藤原享

    説明員(藤原享君) 本事件の犯人グループがマスコミを最大限に利用しておるが、警察としても積極的にマスコミの協力を得るような努力を検討すべきではないかという御示唆でございますが、これらの点については、いろいろ日ごろ警察といたしましてはそういった積極的なマスコミへの働きかけを行いまして、例えば犯人の声の公開とかあるいはビデオの公開等についてもマスコミに格段の御配慮をお願いしておりますほか、被害の防止などについてもマスコミ側からの適切な御協力を得ているところでございます。  また、昨年十一月に企業に対する恐喝の際にマスコミが異例の報道協定を行いましたが、これは本来こういった協定というものはないわけでございまして、ただ、現在身の代金目的の誘拐事件、こういったものにはマスコミが報道協定を行う場合がございますが、それ以外にそういった例はございませんが、この事件の悪質特異な恐喝事件という立場から、マスコミが警察の申し入れにいろいろと議論を重ねまして、こういった誘拐報道協定の精神にのっとって異例の協定が締結された例がございますが、こういったものも、やはり警察としてこういった事態に対処してぎりぎりの段階でのマスコミの御協力をいただいておるという一つの例でございまして、そういった点について今後ともいろいろ状況に応じてよく考えてまいりたいというふうに考えております。
  100. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私も、聞くところでは昨年の十二月ごろからマスコミの報道のいろいろ態度がかなり協力的になってきたというふうに承って喜んでおります。どうかひとつ今後とも努力して協力を得て、国民のためですから、そういう意味で御努力を願いたいと思います。  そこで、これに関連して、たしかきのうも一人埼玉県で女子高校生がドリンクを飲んで死んでおりますね。何か昨年来もう五十件ぐらいになったとかいうことですが、このドリンク事件について、簡潔でいいから、一体どれぐらい発生しているのか、そしてどれぐらい死んでいるのか、ちょっと教えていただきたい。
  101. 藤原享

    説明員(藤原享君) いわゆる毒入り事件の関係でございますが、特に本年に入りまして四月以降、全国的にドリンク物等に農薬等の毒物を混入する事犯が目立ってまいったわけでございます。そういった毒物を自動販売機その他の場所に放置するといったようなことで多発いたしておりますが、昨日十一月二十五日現在、全国で五十一件が発生しておるという状況にございます。また、この五十一件の中で三十一人がこの毒物を嚥下いたしまして十三人が死亡、三人がいまだ入院加療中という被害が生じております。以上でございます。
  102. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私は、何かグリコ・森永よりもうちょっとこれの方が、犯罪の動機はいたずらか思いつきか、変質者がすね者か、そういうものだと思うのですが、非常に被害が大きいですね。これに対する防止策としてはどういうことを今警察庁は考えておるか。
  103. 藤原享

    説明員(藤原享君) 防止策と申しますと、これは大きく分けまして、部外に対する啓発活動の強化、それから自動販売機管理者に対する指導あるいは毒物劇物取扱業者に対する指導などが大きな柱になろうかと思います。そういった意味で、警察庁といたしましては、未然防止対策ということで、去る九月末に各都道府県警察に対しましてそういった内容を骨子といたします通達を行いまして、関係業界に対する自主防犯活動の促進ということをそれぞれ推進するよう指示いたしたところでございまして、また各県警察におきましてもそういった通達を受けまして関係機関、団体等にお集まりいただいて、この趣旨のそれぞれの地域、団体についての具体的な浸透、徹底を図っておるというどころでございます。
  104. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私は、今テレビのコマーシャルで清涼飲料水のおいしいとかすかっとするとかいうコマーシャルの放送がなされておりますが、メーカーにその点協力を申し入れて、あの放送の後で、毒入りのいたずらが今はやっているから買ったときは必ず前に一つ入ってなかったかどうかを確かめるようにと、これは確かめさえすれば完全に防げるのですから、それぐらいの放送の協力を求めていいのじゃないか。それから、内閣の広報室に頼んで、政府広報としてもそういうことをやってもらったらいいだろう。そして、とにかく買ったとき前に一つ入っておったら余計なものを飲むなということを、特に自販機の場合にはそれを徹底するようにしたらどうですか。それこそ、これだけ報道の時代、テレビの時代だから、ほとんど八割ぐらいの人はみんなテレビを見ているんだから、そういうことをしてみたらどうですか。いかがですか。
  105. 藤原享

    説明員(藤原享君) 御指摘のメーカーに対する協力の申し入れとかあるいは政府広報の活用、こういった問題については、それぞれそういった問題について一応検討を重ね、そういう機会があればぜひそういう方向で進めてまいりたいというふうに考えます。  また、自販機そのものに対する一つの警告ということでございますが、これについては、今までの例から見ますと自販機に百円なら百円硬貨を入れまして例えばコカコーラ等を出す、そうするとそこに大体先に一本そういった毒入りが置かれておるわけでございますが、そういったものを二本持って帰ってそれを飲むことによって被害にかかるというのがこの一つの典型的なケースになっているわけでございますが、そういう意味からやはり自販機への警告ということが一番肝心であろうということで、それぞれメーカーの関係にもお願いをし、あるいは警察の防犯協会等がそれぞれステッカーを作成いたしまして、それぞれの自販機等にステッカーを張りつけておるというような今現在実態でそういう対策を進めておるところでございます。
  106. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 とにかくこれからの世の中、本当にああいうような出来心やいたずらで大変重大な結果を招くようなものが相当出てくると思うんですよ。こういうこれからの情報化時代では一番大事なことは、やはりマスコミに御苦労願って一般に周知徹底を図るということが一番大事だから、私は人命を預かる警察もそういう点によく着目してやっていただきたい、このように思います。  次に、今問題になっております戸塚ヨットスクールの問題についてちょっとお尋ねをいたしますが、たしかことしの三月の文芸春秋ですか、またたしか五月の現代等で石原慎太郎衆議院議員が書いておられるし、また衆議院の法務委員会でもこの問題が取り上げられておりますし、また近く戸塚氏の著書が出版される、あるいはもうされたのかもしれませんが、と聞いております。私のところにもいろいろなものが参りますし、そういう点でこの参議院の法務委員会でも一応この問題についてお尋ねをして、そしてやはり政府側あるいは最高裁の、最高裁はなかなか言えないと思いますけれども、お考えを国民に一応言っておいていただく必要があるんじゃないか、このように思います。  このヨットスクール事件は、どうもこれは最初五十五年の十一月に吉川君というのが死んで、それから一つ問題が上がった。実際には五十七年の十二月に小川君という少年が暴行を受けて死亡したということで、そしてやや本格的に取り上げられました。その後五十八年になって両親から告訴があった。そして、その後すぐに、五十八年の四月だったですか、暴走族が深夜走り回っておったのを戸塚ヨットスクールのコーチらが見つけてリンチを加えた、これでたしか警察に逮捕されたのだと私は記憶しておりますが、それを受けて戸塚氏が逮捕されたのが五十八年の六月十三日でございます。それから既に二十四回ですか、公判が行われ、また保釈の申請も十三回ぐらい出されておると私は聞いております。逮捕されてから現在まで二年半近くになるわけでありますが、法的な問題を含めて、この点については法務省でしょうか、最高裁でしょうか、なぜ保釈が許されないのか、なぜ長く勾留されているのか、この点についてお答えをいただきたいと思います。
  107. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 先生指摘のとおり、現在公判係属中の事件でございますので、その内容に余り立ち至って申し上げることは差し控えたいと思います。  それから、最初に申し上げておきたいと思いますが、保釈、勾留の点は裁判所の決定でなされておりますので、その当否について私どもからとやかく申し上げることも差し控えたいと思います。ただ、私どもで承知しております事実関係等につきまして簡単に御説明をいたしたいと思います。  現在七人勾留されておると思いますが、主犯と言われております戸塚に対する関係で申し上げますと、戸塚につきましては二名に対する傷害致死事件、これが二件、それから二名に対する監禁致死事件、これが一件、合計三件。被害者青少年四名が死に至ったわけでございますが、この事件が勾留の事実でございますが、そのほかにこれも含めまして合計十三件の訴因で起訴され、現在公判中でございます。  それで、戸塚宏につきましては、当初刑事訴訟法六十条二号及び三号の理由で裁判所の勾留状で勾留されております。その後、現在まで十四回にわたって保釈請求がなされましたが、裁判所は刑事訴訟法の八十九条一号、これは「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したものであるとき。」という一号の要件及び同条四号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」という四号の要件、この二号を理由として、保釈申請は現在まで十四回とも却下されておるわけでございます。  先ほど申し上げましたように、その裁判所の判断の当否についてコメントする立場には私どもはございませんけれども、公判の経過等を眺めてまいりますと、まず今申し上げましたように十三にわたる訴因であり、しかもそのうち三件は傷害致死あるいは監禁致死といういわば重罪であります。四名の青少年が命をなくしておるという結果を伴った案件でございます。  それからもう一点は、この公判におきまして戸塚を含みます被告側の方は、当初この傷害致死、監禁致死についての審理をまず初めに行っておるわけでございますけれども、事件の認否につきまして、これは認めておりませんし、ほとんど意見を述べておらないわけでございます。したがいまして、この審理に際しましては書証についての同意もございません。したがいまして、すべてと申しますか、ほとんど主要点は証人をもって立証しなければならないということで、現在まで次々と当時の訓練生とかコーチとか、その他の者が証人として喚問されて審理が続けられておるわけでございます。そういう法廷の推移から見まして、重要な証人が終わるまでは保釈を許可しない、これは裁判所の御判断ですので私どもが何とも言えませんけれども、ということがあるのではないかというふうに思われます。  それからもう一点、これはつけ加えて申し上げますならば、現在まで月一回の開廷が続けられております。これにつきましても、裁判所あるいは検察側の方ではもっと開廷日数をふやしてほしいという要望をしておるわけですが、弁護人の方、いろんな事情があろうかとは思いますけれども、それ以上は無理だということで月一回の開廷、そこで証人を次々調べるという経過をたどっております。そういうことがありまして現在まで勾留中のままで本件審理が続けられておるということ、これも今申し上げましたような公判の経過あるいは起訴されておる事実の内容その他から考えまして、私どもとしては不当に長い勾留ではない、やむを得ない勾留であるという裁判所の御判断があるというふうに理解しておるわけでございます。
  108. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 よく事情はわかりますけれども、巷間いろいろな意見が言われております。特に、戸塚ヨットスクールは情緒障害児に対する教育施設という面を持っておりますから、一部の人たちは、裁判所を含めて、場合によったら警察、検察も教育効果がないと見ているんだというような見方もしておりますが、私はそうじゃないと思うんです。教育効果のある人もあれば、このケースについては教育効果というよりはむしろ非常にひどいという立場で処置されておると思う。これは私はその点は認めるんですが、ただ憲法の規定あるいは刑事訴訟法の規定からして、余り長い勾留はすべきではないというのが憲法並びに刑事訴訟法の基本的な精神です。そういう点で、裁判所の方で例えば傷害致死あるいは監禁致死というようなことで大体勾留がこの今の二年半近くというのがそうおかしくはないのだ、よくあり得るのだということは言えるんですか、どうですか。
  109. 吉丸眞

    最高裁判所長官代理者(吉丸眞君) 傷害致死事件につきまして二年半という勾留が通常あり得るかという御質問でございますが、通常の傷害致死事件でございますと審理自体にそれほどの期間を要しないのがほとんどでございます。そのようなことで、通常それほど長く勾留をするというようなことはそう例があることではございません。ただ、この問題の事件につきましては、先ほど法務省の方から御説明もございましたとおり、いわば事件の特殊性がございます。そのような関係から勾留期間が長くなっているというふうに理解されるのではないかと考えます。
  110. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 やや法律的な問題でちょっと刑事局長にお聞きをしたいんですが、先ほど刑事訴訟法八十九条を引用されましたけれども、刑事訴訟法の九十一条、この勾留が「不当に長くなったときは、」こという条文がございますね。これは、例えば憲法の三十八条とか刑事訴訟法の三百十九条とかいうような規定から見ても、やはり勾留というのは余り長くなっちゃいかぬぞという考えだと思うんです。しかし、ケース・バイ・ケース、これはもちろん必要なことはありましょう。ただ、ここに「不当に長くなったときは、」こという条文がありますが、これが一部の我が仲間の中でも、裁判官の判断によるんだ、ケース・バイ・ケース、判断によるんだということですが、余りに裁判官の判断だけではやはりちょっと問題があると私は思うんです。  だから、これは刑事訴訟法九十一条の「勾留による拘禁が不当に長くなったときは、」この不当に長いとはおおむねどの程度をいうのか。それは事柄によってはだけれども、不当に長くなったというのはおおむねどのことをいうのか。大体の解釈というものがなければならぬと私は思うんです。ある人に言わせれば、これはひょっとしたら条文が不適当だから刑事訴訟法を改正して、ある程度ここで判断の幅を狭くしなくちゃいかぬ、こういうような意見もあります。この点について、最高裁ちょっと答えにくいだろうから、法務省の方からどうでしょう。
  111. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 海江田先生指摘のとおり、まさしくケース・バイ・ケースとしか申し上げようがないかと思います。「勾留による拘禁が不当に長くなったとき」という点の解釈をめぐりましては、何回も裁判で争われた事例がございます。その中には一年のものもございますし、二年のものもあるいは三年のものも、いろんなケースがあったわけでございますが、この点につきまして判例では、この「不当に長く」というのは単なる時間的観念ではなく、事案の性質、態様、審判の難易等、諸般の状況から総合的に判断さるべきものと解するというのが一貫した解釈でございまして、何年が長く何年が不当であるというような時間的な観念はちょっと入れにくいのではないかと考えております。
  112. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 ただ、若干これは先ほど同僚委員との話しで社会通念と法理論という話がありましたけれども、やはり法理論だけじゃなくて、社会通念上はある程度の限界があってもいいのじゃないかなと私は思っております。これはこの程度でやめておきます。  最後に、私実は九月にアメリカへ視察に参議院から参りまして、その過程で、アメリカでAIDSという病気について大変大きく報道され、大変な関心でございました。それで、向こうでの新聞も持ってきましたし、そして日本に帰ってきてからもずっと新聞記事を集めておりまして、勉強さしていただいておるわけで、将来また何らかの機会に社労があるいは予算委員会等でもいろいろ対策をただしていきたいと思っております。  きょうはもう簡単にちょっとお尋ねしますけれどもアメリカでニューヨークに行ったとき、ニューヨークの小学校で私視察から出てきたら、プラカード持ってデモをやっている。十五、六人でした。何だと言ったら、AIDSの子供を学校に入れるなと、こう言う。サンフランシスコに行ったら、AIDSの新聞記事のほかに例の、ホモといわぬのだそうですが、同性愛というんですか、男子同性愛何とかという、そういう連中がたむろしているところがありますが、そこでホモを禁止する条例なんか絶対反対というようなこともあって、新聞等にはサンフランシスコ市はそういう男子の同性愛を禁止する考えはないというような新聞記事が非常に大きく出ておりました。日本の記事まで出ておりました。  それで、アメリカにあるやつはすぐ日本にやってきますから、私は日本も早く対策を立てにゃいかぬなと。いろいろ聞いておりますと、できれば献血を全部、AIDSというか、抗体検査をやってほしい、しかしこれは大変なことだ。しかし、少なくとも日本に血友病患者というのがいる。これに与えられる血漿、血液製剤というのはほとんど九五%アメリカから輸入されておる、これだけはびしっとしてもらわにゃいかぬだろうという意見がありました。何か東京都も、ことしからですか、AIDSの検査には公費でやってあげるという決定をしたようでございますが、この血友病患者に対してAIDSから防ぐ。たしか五名おるそうですね、血友病患者の中で既に。そういうことについて厚生省はどういうふうに考えておられるか。どういう措置をとっておられるのか。ちょっとお伺いしたいと思います。
  113. 松村明仁

    説明員(松村明仁君) 現在血友病患者の方々が使用されております血液製剤は、御指摘のとおり、その大部分が輸入により賄われております。  まず、輸入されます原料血漿につきましては、国内で改めて加熱処理がされることが明らかな一部の血漿を除きまして、輸出先国におきましてAIDSウイルスによる汚染のない旨の証明があったもののみを輸入させることとしております。現在これに証明書の添付がなされておるところでございます。  それから、一方使うばかりになりました血液製剤につきましては、AIDSウイルスによる汚染のない原料を使った旨の証明書が添付されております。  そのほかに、御承知のことだと思いますけれども、血友病患者には大きく分けまして二種類ございますが、その血友病のAの方々がお使いになります第Ⅷ因子製剤、これは既に国内で加熱処理をすること、それから輸入のものは加熱をしたものを輸入しておると、こういうことでございます。  また、血友病Bの方がお使いいただきます第Ⅸ因子製剤というのがございますが、これにつきましては現在加熱品の承認申請が行われております。これはまた優先的に審査手続を進めることにしております。それで、本年中には承認を与えることができる見込みと、こういうことで血友病の方々のAIDS対策というのは一応整うと、このように考えております。
  114. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 血友病の方にそこまでの措置をとっていただければその点は非常に助かるわけですけれども、あと献血は、これは大変ですけれども、これから何年かかけてとにかくやってもらわなきゃいかぬ。それから、男性同性愛というものが大きな感染源になっている。これを禁止することはこれはなかなかできないと思うんですが、何らかこれにも措置をとっていかなきゃいかぬし、それから売春からもということもありますから、こういう問題についてこれからまたいろいろ御検討いただいて、現代の一番の悪魔の病気だと言われるAIDSから日本を何とか守っていかなくちゃならぬと真剣に考えております。これからの厚生省の一層の御研究をお願いをいたしまして、私の質問を終わります。
  115. 二宮文造

    委員長二宮文造君) 午前は質疑をこの程度とし、午後一時四十分まで休憩いたします。    午後零時三十九分休憩      ―――――・―――――    午後一時四十一分開会
  116. 二宮文造

    委員長二宮文造君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  委員異動について御報告いたします。  本日、石本茂君及び河本嘉久蔵君が委員辞任され、その補欠として岡野裕君及び石井道子君が選任されました。     ―――――――――――――
  117. 二宮文造

    委員長二宮文造君) 休憩前に引き続き、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は、順次御発言願います。
  118. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 午前中に同僚委員から御質問ございました飲料製品毒物混入事件につきまして、法的な方面から御質問を申し上げたいと思います。  まず最初に、飲料の毒物混入に関する事件でございますが、この事態をどうとらえているかという問題につきましては、先ほどの御質問の御答弁がございました。  そこで、飲料に毒物を混入するというこの行為、この行為は我が刑罰法規上との犯罪に該当しておりますかという問題と、それからその行為をするに当たりましても、いたずらで行う場合とかあるいは故意で行う場合とかでいろいろ事態が違うであろうと思います。  そこで、こういう問題について警察庁では各県で捜査体制をしいておられると思いますが、どのような捜査体制をおとりになっておるのか。予算あるいは人員等に関連をいたしまして御質問いたします。
  119. 石瀬博

    説明員(石瀬博君) 最近パラコート除草剤を使用しました事件が連日報道されておりまして、先生方にも非常に御心配をおかけしているわけでございますが、これがどういう犯罪に該当するかということにつきましては、事犯の内容によりましていろいろな判断があろうかというふうに考えております。人を殺すというような目的でパラコート農薬を清涼飲料水に混入するというようなことであれば殺人の予備になるという場合もあろうかと思うわけでございます。いたずらによって、あるいは故意によってということについてでございますけれども、いずれも人を殺す目的でそういうふうなものを清涼飲料水等に入れた場合には殺人の予備に当たる場合があるであろう。それが現実に人の飲用に供される場所に置かれまして、それを飲んで人が死亡した、あるいはまた、飲んだけれども吐き出したということによって殺人の既遂なり未遂なりという形になるであろう、こういうふうに考えておるわけであります。  いずれにいたしましても、国民に大変な不安を与えている問題でございますので、現在この七カ月ぐらいの間に二十三の都府県で同種の事犯が発生しております。それぞれの関係警察では捜査本部を設ける等、鋭意捜査に当たっておるところでございます。
  120. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、ただいまの御答弁では、こうした意見は一般の殺人とか傷害のような一般刑法犯として理解すると、こういう御説明であったように思います。  そこでお尋ねいたしますが、同じ刑法でも水道に毒を入れるという場合、こういう場合については、これは法律があったと思います。つまり、毒物を飲料に入れるという問題について、ある場合には特別に刑法に規定し、ある場合には規定しないで一般の殺人、傷害で処理すると、こういう体制をおとりになっておるのはどういうわけか。これは法務省にお伺いいたします。
  121. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 現行刑法、明治四十年にできたものでございますが、刑法におきましては、御承知のように、水道毒物混入は刑法の百四十六条でございます。その他、人の飲料に供する浄水を汚染したというような関係で、「飲料水ニ関スル罪」というのが第十五章で規定されているところでございます。これは申すまでもございませんが、水道が自動的に多数の人の飲料に供せられる。したがって、これを汚染し、あるいは毒物等を混入した場合の被害が大きいというところから特に規定されたもので、一般のコカ・コーラとかそういうものとはその行為の重大性に差があるというところからそのような差が生じたものと理解いたしております。
  122. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ただいまお示しになりました条文でございますが、「人ノ飲料ニ供スル浄水ヲ」云々とあります。この「浄水」というのは、文字で見ますと清らかな水と書いてあるんですね。清らかな水ということは必ずしも水道水を意味しない。「飲料ニ供スル浄水」と、こうあるわけです。  そうしますと、例えばほかの物をまぜた水はきれいな水でも浄水じゃないのか。例えばいろいろ飲み物を売っておりますが、そういう解釈についてはいかがでございますか。
  123. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 突然のお尋ねで、正確には申し上げかねると思いますが、やはり「人ノ飲料ニ供スル浄水」というのは、井戸でありますとか一般の人が自由にこれを利用するという関係の浄水であろうかと思います。したがいまして、今の特定の瓶に入れてこれを販売するというようなものとはその性質を異にしているというふうに考えております。
  124. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 百四十三条によりますと、水道汚穢罪というのがございます。水道を汚した場合には特別の罪としてつくっておるわけです。そうしますと、水道というのは井戸なども水道の一種ではないかと解釈できるわけなんですが、そういう水道を汚したり水源を汚したり、あるいは飲料に供する用水を汚したりするということについては特別規定があるわけなんですが、百四十二条と百四十四条を見ますと、これは必ずしも「水道ニ由リ」という言葉は書いてないんです。「人ノ飲料ニ供スル浄水」と、こうあります。そうしますと、人が飲むようになっておる清らかな水と、こういうわけですから、浄水の意味が物をまぜてない水という意味なのか、あるいはまぜてあっても飲むに値する水という意味なのか、これは解釈の問題だと思います。  従来の、これは刑法ができた当時の解釈はどうか知りませんよ、それは明治時代だから、現在生きておる現行法としては、現憲法下におけるこれは法律ですから、できた当時の解釈は通用しないと思うんです。それで、現段階においてこの解釈をどう理解しておられるかと、こういう問題ですが、どうでしょう。水道を汚したとかあるいは水道に毒物混入というのは百四十六条に水道毒物混入罪というのが決めてあるわけです。一般的な浄水毒物混入とは区別しておるのですが、こういう点についてどう御理解でしょうか。
  125. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 「水道ニ由リ」という場合には、先ほど申し上げましたように、多数人に一定の水路でもって飲料が供給されるという設備を持ったものを言うわけであろうかと思います。これに対しまして、百四十二条の「人ノ飲料ニ供スル浄水」というのは、例えば判例にございますのは、他人の飲料に供する井戸水にひそかに紅を溶かした水を注ぎ込んで変色させたとか、そういうような事案でございますので、おのずから水道とその他の一般の人の飲料に供する浄水というのには差があろうかと思います。
  126. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 局長の御答弁でいいと思いますけれども、ただ私がここで申し上げたいのは、浄水を汚すということあるいは水道に毒物を混入するという場合に刑罰法規が決められておるが、今日の段階では、水道に毒物を入れるということばかりでなしに、最も頻繁に起こる犯罪はいわゆる飲み物に毒物を入れるという事件でございます。水道と限らず、こうした飲料に毒物を混入する事件が頻発しておる今日におきまして、この刑法の規定はもう少し範囲を広げたふうに改正すべきではないかという疑念が持たれるわけでございます。あるいは特別法をつくるとか、あるいは刑法改正でいくか、それは自由ですが、そういうはっきりと飲料に毒物を混入する罪というものを特に認める必要はないだろうかということです。  なぜそんなことを申しますかというと、「飲料水ニ関スル罪」という章を設けております。飲料水ですから、飲む水ということであって、それは必ずしも水道の水とか井戸水だけには限らない、飲む水であれば全部飲料水になるはずであります。そこで、そうした措置がなぜ考えられないのだろうか。そういう措置考えない理由があればお聞かせ願いたい、こういうわけです。
  127. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 一つの例を申し上げますと、今回改正作業を行っております刑法の改正草案におきましては、飲食物毒物混入罪、三年以下の刑でございましたかの刑を新設しておるところでございます。この点は。今、飯田先生指摘の趣旨を考えてそういう規定の新設が考慮されているというふうに理解いたしております。
  128. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 刑法改正は余り先の見通しが明るくないのではありませんか。早くできそうですか。どうでしょう。
  129. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 現在、鋭意改正作業を進めておるところでございます。
  130. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 そこで、警察庁にお尋ねをいたしますが、先ほど同僚委員のお話でいろいろの御説明がございましたので、その点は了解いたしました。ところで、こういう事件のこの種の犯罪の解決をするためには予防措置が要るのだということも先ほど御答弁ございましたが、それならばその予防措置はどういう法的根拠に基づいて、どの範囲でできるものであるかという点についてお聞かせを願います。
  131. 石瀬博

    説明員(石瀬博君) 今回の問題につきましては、私ども警察庁におきまして九月二十八日付で各都道府県警察に通達を発しておりまして、関係業界に対する自主防犯活動の促進とか、あるいはまた一般市民に対する広報啓発活動とか、あるいは自動販売機周辺の整理整とんとか、あるいは毒劇物取扱業者に対する指導とか、非常に多面的な対応をいたしておるわけでございますが、この法律的な根拠といいますと、警察法の二条に「警察の責務」という規定がございまして、その規定で、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、」云々と書かれてあるわけでございますが、この規定に基づきまして幅広く防犯活動を実施しているというふうに御理解いただきたいと思います。
  132. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 そこで、一般的なそういう規定でおやりになっているということはわかりましたが、具体的に申しますと、そうしたドリンクなどを販売しておる自動販売機というものがございますが、そこで売られるのを予防するというのが、先ほどの同僚委員に対する御説明では、中身をよく検査して一個か二個か調べてとるようにするというお話もございましたが、それはそうとして、もっと根本的な解決方法というものがあろうかと思います。  このドリンク剤の監督官庁はどちらでございましょうか。その監督官庁から御答弁いただきたいんですが、そういういわゆる自動販売機、これの管理あるいは監督はどうしておられますか。これはどこでしょうか、厚生省ですか、それとも通産省ですか。厚生省の方でわかりませんか。――それじゃ、時間が来ますし、問題が難しいようですから変えます。  この予防措置につきまして、法務省では現在の法体系で可能な範囲というものを御理解しておられるでしょうか。それとも、これは予防措置だから警察のものだということで警察に任しておいででしょうか、いかがでしょう。
  133. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) ただいまの現に発生しております事件につきましては、先ほど警察庁から御答弁のありましたとおりであろうかと思います。現在、警察庁で鋭意捜査を続けておられるということでございますので、検察当局におきましても関心を持ってその捜査を見守っているという状況でございます。
  134. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 農水省の方にお尋ねいたしますが、農薬の製造、販売の管理はどのようにしておられるでしょうか。
  135. 田中良明

    説明員(田中良明君) 農薬の製造、販売の管理につきまして御説明申し上げます。  農薬につきましては、農薬取締法に基づきまして、製造業者が製造いたします場合には、その農薬につきまして農林水産大臣の登録を受けなければこれを販売できないというふうになってございます。しかも、その農薬の登録検査に当たりましては、農薬の見本だとか各種の毒性試験等の成績に基づきましてその安全性を十分に検査しております。そして、そのように農薬としての安全性の確認を行いましたもののみ販売さしておるという状況でございます。  また、農林水産省におります農薬取り締まりの職員が、製造され、販売されております農薬を収集いたしまして、これの検査を行うというようなことをやっておりまして、それらの検査におきましては、登録申請されております農薬の見本と同一の品質であるかどうか、そういうようなことを十分確認します一方、農薬工場への立入検査も行いまして、製造面からも品質等の確保につきまして十分な指導を行っているところでございます。  一方、農薬の販売についてでございますが、農薬取締法の規定に基づきまして、農薬の販売業者は都道府県知事に届け出をすることが義務づけられておるわけでございます。そしてまた、農薬の販売に当たりましては帳簿を備えつけて、これに農薬の種類ごとに譲り受けた数量でございますとか譲り渡した数量などを正確に記載して三年間は帳簿を保存するというようなことも義務づけられておるわけでございます。また、毒物に指定されておりますような農薬につきましては、毒物及び劇物取締法におきましても、関係省庁によりまして流通管理が行われていると、そういうふうに理解いたしております。
  136. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、これもやはり農水省の方にお尋ねするわけですが、十月二十四日付の東京新聞を見ますと、十月下旬に長野県で農村医学会が開かれまして、そこで、パラコートを特定毒物に指定するように、こういう議決がなされておりまして、それを厚生省や農林水産省の方へ問題提起しておるようですが、こういうことは実際にございましたか。
  137. 田中良明

    説明員(田中良明君) お答え申し上げます。  本年十月下旬に開催されました農村医学会でパラコートを特定毒物に指定すべきであるといった決議がなされたと聞いてはおりますが、そのことにつきまして、現在のところ、私どもの省に対しまして具体的な要請は参ってないというふうに承知しております。  以上でございます。
  138. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 要請はないという御答弁でしたが、こういうことがあったという事実は御存じだということになりますと、この事実に対して、この問題を取り上げて対処なさるのが通常ではないかと思いますが、そういうこともなかったでしょうか。
  139. 田中良明

    説明員(田中良明君) お答え申し上げます。  私どもの方にはそういう要請は参っておりませんけれども、そういう決議がなされたというふうには承知しております。  この問題について農林水産省としてどう対応するつもりかということでございますので、私どもの方としまして、特定毒物に指定せよというようなお話が参りました際には、現在のところ次のように考えておるところでございます。  すなわち、パラコート除草剤は、畑地でございますとか田地などにおきまして非常に幅広く利用されております。その特徴といたしまして、使用方法が大変簡便でございます。そして速効性があるということでございます。例えば散布俊二、三日ぐらいで雑草が枯れるというような速効性がある農薬でございます。また、直接散布されました雑草のみが枯れまして、後の農作物の植えつけにも影響がないと、そういうようなすぐれた点がございます。また、お値段の点におきましても比較的廉価であるという、そういったような特性を有しておるわけでございまして、除草作業というのは農作業におきまして大変重労働でございますので、そういった農作物の栽培におきます省力化に大変寄与しておるというふうに考えておりまして、農業生産上必要不可欠なものである、そんなふうに理解しております。  パラコート剤が特定毒物に指定されるということになりますと、その使用者、用途、使用方法などが厳しく制限されまして、非常に厳格な規制を受けるということになってまいります。したがいまして、実質的に個人の使用ができなくなりまして、農家は他の高い除草剤を求めざるを得なくなるなど、農業生産上相当の影響を受けるものであろう、そういうふうに憂慮しております。  したがいまして、農水省といたしましては、現行の制度もとで販売業者に対しまして、販売する際に購入者に例えば身分証明書であるとか運転免許証といったようなものの提示を求めるなどいたしまして身元を確認するとか、あるいは使用目的の確認、そういったものを励行させまして、そのほかに保管管理の徹底指導とか、それから立入検査の実施等によりまして事故や犯罪の防止に万全を期していきたい、そういうふうに考えているところでございます。
  140. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 その点よくわかりました。それでは、パラコート系の薬品でいろいろ人身事故が起こっておりますが、こうした人身事故が起こるのは、その薬品を皆農民が使っておるので犯人は皆農民として考えておるんだと、こういうことなんでしょうか。それとも、農民以外の者でもパラコート系の薬品を購入できる体制になっているのかどうか。これを購入できる、手に入れることの自由さはどのように御理解ですか。これはどこですか、厚生省か農水省が。
  141. 大木知明

    説明員(大木知明君) お答えいたします。  パラコート剤につきましては、毒物及び劇物取締法上の毒物ということで現在指定されております。したがいまして、毒物劇物取締法上は農業用以外の使用ということもあり得る、そういうふうに考えております。特に毒物劇物取締法上、農業用の使用以外は禁止する、そういうことはできないという形になっております。
  142. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、重ねてお尋ねしますが、パラコート系の薬品を農薬以外に一般人が使って効力のある場合というのはどういう場合でしょうか。
  143. 大木知明

    説明員(大木知明君) お答えいたします。  農業用以外には、パラコート剤につきましては除草効果がございますので、一般のそれぞれ草木の生えているところの雑草の除草、そういう形での使用ということが考えられるところでございます。
  144. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 農業で使う場合はやむを得ないといたしましても、農業以外でこうした危険なものを自由に使うことができるような、そういう法律体制に置いておるということ自体が問題ではないでしょうか。  元来、こういう危険なものが一般人の手に入るのが問題なのです。農民の場合には、農薬として使う場合にはそれなりの管理ができると思いますが、そういう点についての区別、法体制の整備というものをお考えにならないでしょうか。
  145. 田中良明

    説明員(田中良明君) お答え申し上げます。  毒物に指定されましたような農薬の保管管理につきましては、農薬取締法に基づきます指導に加えまして、毒物及び劇物取締法によりまして、例えぱかぎのかかる場所への保管等が義務づけられているというふうに承知しております。  私どもは、毒物に指定されました農薬につきましては、特にパラコートに限りませんが、農薬取締法に基づきまして、安全性の確保という点からその販売、使用につきましては、農薬の登録検査を通じまして適正な保管管理方法を定め、それを例えばラベルなどの表示をいたしまして一定の規制を課しております。そしてまた、毎年被害防止運動というものを実施いたしまして、保管管理の徹底について指導しておる、そういうことでございます。  したがいまして、こういったような毒物に指定されました農薬の保管管理につきましての遵守徹底につきましては、これから従来以上に関係省庁とも連絡をとりながら保管管理の徹底について指導を強めていきたい、そういうように思っております。
  146. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ただいまの御説明ですと、特定毒物に指定しないで現在のままで管理をしていくという前提のもとの御答弁だったと思いますが、特定毒物にすると大変管理が厳重になるので困る、前にそういうお話でした。  農民が農薬として使う際に厳重な管理のもとにおいて農薬を使うからといってそれほど不便ではないように思われますが、なぜ不便なのか。不便でないなら特定毒物に指定すればいいわけです。それが不便だがらできないとおっしゃるのなら、どういう点でなぜ不便なのか、その点を御説明願います。
  147. 田中良明

    説明員(田中良明君) お答え申し上げます。  先ほども若干触れさしていただきましたけれども、特定毒物に指定されますと、特にこれは毒物及び劇物取締法に基づく規制を受けるわけでございまして、特に使用者が、これまででありますとこの剤が雑草の防除に利用されるということで、個人で使用することが可能であったわけでございますが、法律の規制によりまして「政令で指定する者」のみが使用できるというふうになります。例えば地方公共団体でありますとかそれから協同組合であるといったような都道府県知事の指定を受けた者のみが使用できるというような形で、著しくその使用者が制限されてまいります。それからまた、その使用場所と申しますか。途と申しますか、こういったものも同じく規制を受けるわけでございまして、具体的に言えば作物の栽培時の雑草防除でございますけれども、どういった作物に繁茂する雑草の防除である、そういうふうに用途が規定されてくるというふうになります。それからまた、使用方法につきましても例えば都道府県知事の指定を受けた者の指導もとに防除を行うとか、それから使用される場所とか日時といったようなものの届け出の義務も出てまいりまして随時の使用ができない、そんなような形で、少なくとも現状の毒物に指定されている段階での使用状況からいたしますと、農業者にとりましては特定毒物に指定されますと大変な使用上の制限を受けてくる、こういうふうになってまいるわけでございます。
  148. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 どうもあなたの御説明を承っていましても、何のことかさっぱり要領を得ません、私の質問から外れた御答弁なので。  私の質問は、特定毒物に指定しても農薬であれば農民は自由に使えましょう、農民は自由に使える、農民でない者は使えなくなる、こういうことにするとなぜ不都合なのかと、こういう質問をしたのですよ。
  149. 田中良明

    説明員(田中良明君) お答え申し上げます。  私どもは、自由に使えるというお話でございますけれども、事実上使えることには違いないのでございますが、今申し上げましたようなさまざまな規制がなされてまいりますので、実質的に使用ができないような状態になる、そういうふうに考えておりますので今のように申し上げたわけでございます。
  150. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 答弁しにくいようですから、この問題はこの程度にしておきますが、特定毒物に指定しましても使いにくくなるということはないので、それは法律を改めたらいいんです。特定毒物に指定して農民が使いやすいようにすればいいことであって、そういう問題の解決はもっとまじめにひとつ検討してください。  この問題はまだこの次の機会に質問することにして、次の問題に入ります。  最近、精神障害者によるところの犯罪が非常に多いわけです。この精神障害者による犯罪につきまして、従来、精神障害者の認定が実は困難なのでやむを得ぬという御議論が多かったわけです。精神病院に入りまして、精神病者が私はもう治ったと、こう言うと、それをあえて引きとめて、そうではないと言うだけの理由がない。だから、外へ出す、通院させるあるいは退院させるといったようなことを行っておるわけなんですが、この精神障害者の認定というものは医学上それほど困難なのかどうか、全然これは難しくてどうにも判定できないものなのかどうか、そういう点につきまして厚生省の方の御見解を承りたいと思います。
  151. 小林秀資

    説明員小林秀資君) お答えいたします。  精神障害者であるかどうかの判断は、精神科医が本人の生育歴、家族歴、生活歴、それから既往歴、過去の病気及び現在の病気について本人または家族から意見を聴取し、また本人に対する視診、見て診察する、それから問診、さらに必要に応じては心理学的検査、身体的検査を実施し、精神症状の有無を確認して、そして精神医学的診断の手順を踏んだ上で精神科医が総合的に判断をいたしております。それで、精神科医による精神障害者であるかどうかの判断は以上の医学的手順を踏むことにより十分可能であると考えられ、また実際の判断に当たり正確を期すように最善が尽くされておるものと考えております。  ただ、精神障害者が将来犯罪を起こすか否かという判断について医学上どの程度可能かということになりますのですが、その点に関しましては、精神障害者が将来自傷他害を起こすか否かの判断は、ごく少数であるが、適切な精神医学的診断を踏むことによっても困難な場合があると言わざるを得ないということは申し添えておきたいと思います。
  152. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 最近の週刊誌などによりますと、これは持っておりますけれども余り時間がないから簡単に申しますが、その中に刑法学者の御意見が書いてあるんです。その刑法学者の御意見によりますと、これは精神医学者が十分その職責を果たさないでおるから生ずる問題だから、もし入院しておる者を退院させたりあるいは通院にさせたりしたために、精神異常者がいわゆる人を殺すなりの犯罪を犯した場合は精神医学者の過失責任であると当然解すべきだというふうに有名な刑法学者が言っておられます。こういう点について厚生省ではそれはよくないとか悪くないとかお考えでしょうが、どういう御見解でしょうか。
  153. 小林秀資

    説明員小林秀資君) 先生が今お話しに出された学者の先生方の意見、そういう意見があることも承知をしております。ただ、厚生省では、最近のこういう精神障害者による犯罪がいろいろ起きたものですから、公衆衛生審議会の精神衛生部会の委員の皆様方に御意見を徴しました。その委員先生方の御意見によりますれば、通院中の精神障害者が事件を起こしたという場合その医師に責任をとらせるということは、精神医療の場合、ポシビリティーですか、可能性を考えますると、そういたしますとすべての方をより拘禁へ拘禁へと動いてしまいまして、実際の精神医療がよくならない。そのこと自体は決して患者さんの人権上よくないことであるということから、責任をとるということについては公衆衛生審議会の精神衛生部会の先生方も大変否定的であった。厚生省も今そのように考えておるところでございます。
  154. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 精神障害者が精神障害者であるかどうかということは医学的に認定は可能であるという先ほど御答弁ございましたね。医学的に認定が可能ならば、いろいろな手段がありましょうが、その認定をして、精神障害者である間はこれは危険性があるということで病院に置くべきではないでしょうか。そして、これは精神障害者ではなくなったと医者が確信を持って初めてこれを退院させるというのであれば、事故は起こりませんね。それで起こった事故はもう医者の責任じゃありませんね。そういう点についてどうお考えでしょうか。
  155. 小林秀資

    説明員小林秀資君) 精神障害者の大部分の方は自傷他害を起こすということはないわけでございます。一部の方にそういう事例が起きてくる場合があります。したがいまして、その可能性が少しでもあればそれを閉鎖病棟に入れて拘禁をしていくということは、私ども人権上大いに問題があると考えております。したがいまして、ドクター、医師が診察の結果、自傷他害が予測される、それはある意味では蓋然性を持って考える必要があろうかと思いますけれども、蓋然性が高い患者さんについては措置入院ということで継続して病院に入っていただく。そうでなくて、もうこの人はほぼ自傷他害を起こす可能性がない、そして、もうこれは病院内に置くことが必要ではないとなった場合は、当然私は通院医療で患者さんをケアしていく方がより適切だと、こう考えております。
  156. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 精神医学者が判断をして、精神障害の程度が軽くなったので通院でも差し支えない、それはそれで、そういう判断でいいです。そういう判断をしたところが、それが殺人を犯したということになりますと精神障害の程度が軽いという判断そのものが間違っておったということになるでしょう。これは、人権保障ということを先ほどおっしゃいましたが、憲法で人権保障をする場合は限定があるんです。「公共の福祉に反しない限り」です。公共の福祉に反する場合は人権保障というものは制限される、これは憲法の大原則です。そういう原則を常日ごろになると忘れてしまって、何でもかんでも人権問題だということでおやりになる傾向が精神医学者には強い。  これは余談ですが、前に刑法学会をやったんです。そこへ精神医学者が団体を組んで、これは暴力行為的に入ってこられて会議ができなくなったことがあります。そのくらい精神医学者の方々は、何かちょっと異常なほど精神障害者の人権問題ということを絶対的なものとしてお考えになっておるようではないか、こう思いますが、これは私がここで言うだけじゃないんですよ。ある週刊誌で、偉い学者だとかそれから精神病院の院長さんがそれを言っている。だから、証拠を示せとおっしゃればここにありますが、どうですか、こういう問題は。
  157. 小林秀資

    説明員小林秀資君) 精神障害者の方による事件に巻き込まれた被害者の方も、私は人権上大変大事な問題があると思っております。また一方、精神障害者の人権も私は重要だと考えております。現在、その両方のバランスをどうとるかということは大変難しい問題でございまして、厚生省でもその問題を非常に真剣に考えておるところでございます。もう一遍言いますと、その精神障害者の方の被害に遭ってしまわれた方々というのもできるだけ減らして、なくしていくということが肝要だ、私はこのように考えております。
  158. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題は、今の問題とそれから自由の問題との重要さの程度の問題に関連します。憲法の十三条によれば明らかに生命権というものは認められておりまして、国民の生命、自由及び幸福追求に関する権利はとはっきり書いてある。それは公共の福祉に反しない限り最大の尊重を必要とする、この問題は、これは政府義務なんですよ。  それで、精神異常者が今まで精神病棟におりまして、それを外へ出したところが命を奪う事故を起こすということになりますと、これは精神医学者の責任じゃないでしょうか。現在、そういう人のために小学生や中学生が殺されているんです。つい最近まで、もう十四、五件あるでしょう、そういう事件が。これは大変なことだと思いますよ、ことしになってからの問題ですからね。人の命を奪うという危険性がある、そういう状態を、一方の人権保障というのはただ絶対的な自由がないというだけの話でしょう、そういうことで一体取引していいかという問題があるんです。こういう点についてどうお考えですか。
  159. 小林秀資

    説明員小林秀資君) また繰り返しになろうかと思いますけれども、精神障害者の方の起こされる事件に巻き込まれた被害者の方の人権保護も大変重要だと考えておりますので、今の先生の御意見、今後の行政の参考にさせていただいて大いに検討していきたいと思います。
  160. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 法務省お尋ねをいたしますが、従来、心神喪失で無罪となった人が相当ありますね。こういう心神喪失で無罪となった人の事後措置はどうなさっておるでしょうか。これは、例えばこの心神喪失が精神病者であるという場合に精神病院に入院をさしておられるのか、それともそのまま社会に放任されておるのか、その点はいかがなっておりましょうか。
  161. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 無罪の場合もそうでございますが、心神喪失によって不起訴処分に付した場合、それから裁判の結果、精神障害を理由に心神喪失で無罪となった場合には当該都道府県知事に通報をいたしておるところでございます。知事の方では、この通報を受けて措置入院の措置をとるかどうかを審議決定されておるところでございます。
  162. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 少なくとも裁判をやる以上は、これは犯罪を犯しているんです。人を殺すなり何なりしているのですから、そうした危険性があるということは十分証明されておる人ですよ。それを、実際上は今後の危険性が十分ある人を、法律上無罪になったという理由だけで、都道府県に通知して都道府県の判断に任せて措置入院がどうか決める、こういうことでは余りにも無責任ではないかと思われます。つまり、犯罪を犯した後の処置の問題だから、犯罪を犯さない予防措置の問題じゃありませんよ。これは犯罪を犯すかもしれぬから病院に入れるというなら、これはいささか行き過ぎだと私は思います。犯罪を犯しても現在精神障害だから無罪になるのでしょう、それをどうするかという問題なんです。これは正確にひとつ追跡調査をしていただきたい。一体都道府県ではどうしているのか、そしてそれはその後犯罪を繰り返しているかいないか、そういう問題がございますが、こういう点調査なさったことがあるでしょうか。
  163. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 過去三年間でございますが、検察官が精神衛生法二十五条に基づきまして通報したもの、これは今申し上げましたように不起訴処分にした場合、無罪になった場合の両方を含めておるかと思いますが、その通報したものの数及び措置入院に付された者の数でございますが、昭和五十七年には通報件数が千百六十九件で、措置入院になりました者の数が四百九人。それから五十八年が通報件数が千百件、措置入院数は四百二名。それから五十九年は通報件数が千九十件、措置入院数は三百八十八名となっております。
  164. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、法務省お尋ねしますが、従来、精神異常者の犯罪につきましては裁判上は無罪でしょうが、しかしその精神異常者の犯罪についての保護責任者の責任というものはあるはずです。それから管理責任者の責任もあるはずなんですが、精神異常者の保護責任あるいは管理責任について刑事責任を問うたことはございますか。
  165. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 今先生指摘のように、一つは精神障害者が精神病院から退院後に殺人等の犯罪を犯したような場合、それから保護義務者がその保護の措置の監督不十分のためにその精神障害者が犯罪を犯したような場合でございますけれども、その場合、そのお医者等の病院管理者の判断に誤りがあった場合に、場合によっては刑法二百十一条の過失責任というものが問題となり得るわけでございますし、また保護義務者につきましても精神衛生法には監督する義務があるというふうに定められておるところでございまして、その保護義務者の監督が不十分で過失があれば過失傷害あるいは過失致死という問題が起こり得るわけでございます。しかし、私ども承知しておりますところでは、現在までそういう意味での過失責任、刑事責任が問われたという事例は承知いたしておりません。
  166. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この保護者責任とか管理者責任というのは、私は重要だと思うんです。例えば心神喪失で無罪になった場合に都道府県に通知して措置入院をさせるかどうかをやらせる、こういう問題が先ほどございましたが、これは都道府県知事が管理責任を負うているんです。そうすると、もし適当なことをしたために犯罪を犯した場合にその都道府県知事の管理責任、これは刑事、民事の責任ですが、これは当然問うべきではないかと思われますが、いかがでしょうか。
  167. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) ケースによって具体的に判断をしなければならぬところだろうと思いますけれども、医師あるいは病院の管理者が、当該患者が退院した場合には他人に害を加えるという蓋然性がかなり高い場合において漫然とそれを退院させてしまった、その結果退院した者が他人を殺傷というような場合には、これはおっしゃるように民事上の損害賠償責任を負うということが出てくる余地は十分にあろうかと思います。そのような観点での事件が具体的にも出ておりまして、請求が認められたというようなケースも承知いたしております。
  168. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 先ほどから精神医学者の問題をとらえておりますが、結局これは医学の知識だけでは解決できない問題ではないか。医学の知識以外に人間そのものを考える力、社会そのものを考える力の教育が必要だと思われるんですが、こういう点につきまして医学者に対する教育上そのような教育をやっておられるかどうか、これは文部省の方どうですか。
  169. 佐藤國雄

    説明員(佐藤國雄君) 大学の医学教育におきましては、最小必要な知識と技術というものは体得させるということは当然でございますけれども、同時に、すぐれた指導者である医師のもとで厳しい訓練を経て人間の生命の尊厳に対する自覚を培い、また医師としての人格の陶冶に努めるということが何よりも大切であるというふうに私ども考えておるわけでございます。そういう意味で、教育全般にわたりまして倫理観の涵養に努めるべきだというふうに思うわけでございますが、各大学におかれましてもそのような考え方に立って、特に入学者の選抜の時点から卒前卒後全体にわたりましての教育において医師としての倫理観の確立を目指していくというようなことを努力しているわけでございます。  例えば医学概論という講義を開設している大学がたくさんございます。この医学概論の講義の中では、まず医学とは何かという命題を一年時から思索をしておくということが極めて重要であるという認識を持った幾つかの大学がございますが、生命の科学あるいは人間の生と死あるいは病気についての科学、医学の実践にかかわる医の倫理、あるいは医療と社会との関係、こういった問題につきましても思考する機会を与えるよう講義等で配慮をしてきているところでございます。
  170. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、次に大蔵省にまた別の問題でお尋ねいたしますが、未成年者飲酒禁止法という法律があるわけですが、この法律は実際は余り守られておらぬ法律でございます。ところが、最近公衆衛生審議会というのが厚生大臣に提出しました意見書があるように聞いております。十月九日に提出した「アルコール関連問題対策に関する意見」、こういう意見書が出ておりまして、未成年者に重点を置いた酒害の啓蒙や酒類の自動販売機の規制、これを進めるように、こういう提言をいたしておるわけです。酒類の自動販売機の規制という問題の提言ですが、大蔵省はこれについてどのような処置をお考えでしょうか。
  171. 宗田勝博

    説明員宗田勝博君) 自動販売機によります深夜に及ぶ酒類の無秩序な販売につきましては、未成年者の飲酒、それに加えまして自動車運転者の飲酒等、社会秩序の観点から見ましてもいろいろ問題があると私ども考えておりまして、当庁といたしましても、このたび公衆衛生審議会から先生おっしゃいました答申を受け取りまして、この答申につきましてまことに厳しく受けとめております。  本件につきましては、従来から酒類の小売業界に対しまして重ねて自粛等の指導をしてきておったわけでございますけれども、改めまして十一月一日付で全国小売酒販組合中央会に対しまして、深夜販売の自粛、それから未成年者、自動車運転者の飲酒禁止というぐあいにステッカーを張るようになっておりますけれども、それを厳しく励行すること、それから販売時間等についてもこれをきちんと守ること、こういうことを徹底させるためにまず早急に実態調査をやってほしい、それから違反している販売者に対しましては警告書を発して厳守を促してほしい、さらに警告に従わない者に対しましては、公正競争規約という形で業界が自主的な約束をつくっておるわけでございますけれども、それに基づきまして厳正な措置をとる、こういうぐあいに具体的に要請をいたしました。さらに、全国の国税局、税務署に対しましても、酒販組合と密接な連絡をとって違反者を直接指導するようにというぐあいに、従来よりも踏み込んだ積極的な指導をするようにということで対処しておるところでございます。
  172. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 時間が来ましたので、次の質問はこの次にいたしたいと思います。きょうお尋ねしようと思いましたことは、自動販売機による酒類の販売、これを少年が買った場合に刑事事件としてどういうふうに扱うか、没収、廃棄処分はどうするか、こういう問題、それから酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律の運用についての質問、それから省令による罰則が憲法三十一条に違反するのではないかという問題、こういう問題についてお尋ねをするために関係の各省から御足労願いましたが、本日は時間の関係でできませんので、この次の機会にいたしたいと思います。どうも御苦労さまでした。終わります。
  173. 橋本敦

    橋本敦君 きょうは、私は検察庁のなされた処分に関連をしてお尋ねをしたいと思います。  まず一つの問題は、御存じのとおり、五十七年二月に羽田沖で日航機の墜落事故がありまして二十四名のとうとい命が失われ、百四十二名の方が重傷を負われるという痛ましい事件でありました。これについて検察庁は、警察が刑事責任を追及する捜査を行い、その送検を受けて検討した結果不起訴の処分をしたわけでありますが、この不起訴処分についてつい先ごろ、十月二十八日に東京第一検察審査会は、検察官のした処分を認めない、むしろ起訴すべきである、あるいは不起訴が不相当であるという議決をいたしております。これは非常に重要な問題であります。  また、もう一つ検察官がした処分として私も納得できないのは、五十九年三月十二日に横浜市鶴見区東寺尾の路上で、Xという青年の運転するライトバンが下校途中の高校生に突っ込んで四人の高校生をはねて一人を死亡させ、惜しい青春の命を亡くしてしまう、他の三人には人事不省になるという重傷を負わせるという、これも大変な事件を起こしたのでありますが、これについて横浜地検が七月十四日に不起訴処分にしている、この問題について私はこれからお伺いをしたいわけであります。  日航機の事故は五十七年二月、今お話ししたような羽田沖事故が起こりまして、検察庁がこれについて昨年の十一月に刑事責任を問わない不起訴処分をしたのでありますが、それで日航の安全管理が本当によくなったというなら別ですが、逆に、続いてことしの八月にはあの日航ジャンボ機の大事故が起こって、それこそ航空史上最大とも言っていい五百名を超える国民の命が失われるという事態になってしまったわけであります。こういう一連の重大な事件について、私はもちろん一つは日航機の事故については政府並びに日航本社の安全体制と管理に重大な責任があったというように思いますし、検察官の処分が事故の原因などとは決して思いませんけれども、しかし国民全体から見て、今日の航空機の大量輸送時代に、かかる大事故を起こしたことについて一切刑事責任なしというようなことで安易に許されるのかどうかという重大な問題があるという面は否定できません。  そこで、まず検察庁に伺いますが、あの羽田沖事件で事もあろうに機長が絶対にやっちゃならないエンジンを逆噴射させる、こういうことで飛行機を墜落さして乗客を死傷さしたという、言ってみれば、まともならば過失どころか故意の殺人罪に問われかねないようなこの問題について機長の刑事責任は結局どうなったのでしょうか。
  174. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) お尋ねの羽田沖墜落事故に関しまして、まず機長につきましては、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律違反につき捜査を行いました結果、本件犯行当時心神喪失の状態にあったと認められましたために昭和五十七年九月十七日に不起訴処分に付した、こういうわけでございます。そのほかには、今橋本委員指摘のとおり日航の運行乗員企画部長外五名に対する業務上過失致死傷事件がございますが、昭和五十九年十一月九日に不起訴処分にいたしております。
  175. 橋本敦

    橋本敦君 機長が心神喪失状態であったから責任能力がないとして刑事責任が問えない、もしあの機長が、降下したあの高度でなくて、最高高度を飛んでいるそのときにああいう行為をやったとしたら、私は完全に全乗客が墜落の犠牲になっていたかもしれぬと思いますとぞっとするんですが、それだけに、機長が心神喪失状態であったというように判断をして刑事責任を問えないという問題は、これは本当に大変なことだと思います。  そこで、そういう飛行中に心神喪失状態になるという機長が平然と通常のとおりに勤務を許されていたというここの問題は、これは本当に日航の安全管理義務、安全保持義務社会通念上も法律上も考えられる安全保持義務に重大な違反があるのではないかと考えるのは当然じゃないかと思うのです。したがって、その点で刑事責任の追及も業務上過失致死傷罪ということで、この安全管理義務違反があったのではないかという点に絞って厳しく追及されてしかるべきであると思いますが、考え方としては間違いありませんか。
  176. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 橋本委員指摘のとおりの観点から鋭意捜査を遂げた結果でございます。
  177. 橋本敦

    橋本敦君 機長が心神喪失だったということは、最終的にはだれの判断を検察庁としては採用されたんですか、専門医ですか。
  178. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 小田晋外一名作成に係る精神状態鑑定書、この鑑定書の結果に基づいたものと考えております。
  179. 橋本敦

    橋本敦君 鑑定はそれ一つですか、ほかにもやっていますか。
  180. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 記録で見ました限りでは、その外一名、二名の方の鑑定だけだと思います。
  181. 橋本敦

    橋本敦君 私は、その問題についてはさらに重ねた鑑定あるいは専門的な検討を当然必要とすると思うのです。飛行機がまず出発するときに、機長は責任を持って航空気象状況を会社から連絡を受け、そして航路状況を判断し、それからその飛行機に伴う諸般の状況を責任を持って判断する立場として乗務をして、初めからしまいまでまさに全責任を持って安全運航に努めなきゃならぬ。その機長がその日乗務するについて全く異常な状況をだれもがチェックできなかったということは、これは一つには安全管理上の問題に重大な欠陥があるのではないかということを推測させるし、もう一つの問題としては、突然心神喪失というようなことがその一つの鑑定結果から信用できるのかどうか、他に鑑定をしてみなければ、その日の行動記録から見て、軽々しく心神喪失だとして刑事責任なしとしてよいのかどうかという面からの検討も要る。こういう重大な問題です。  私はきょうはここでこの問題を問いませんけれども、そういう機長が機長としての日常の業務に従事することを漫然と許していた日航側の問題が、今寛刑事局長は私が指摘をした観点から厳しく審査したんだと、こうおっしゃるけれども、果たしてその審査が妥当であったかどうかということについて次に話題を移したいのですが、審査した結果不起訴にした理由は、そうするとどういうところですか、結論的に言えば。
  182. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 本件不起訴理由の骨子でございますが、関係証拠によれば、被疑者らに機長が精神分裂病に罹患していたことについての予見可能性があったと認定することは困難であり、したがって本件航空機の墜落及び本件死傷の結果につき予見が可能であったと認めることはできないということでございます。
  183. 橋本敦

    橋本敦君 ところが検察庁が、心神喪失になるなどとは予見できなかったという理由で、運航乗員健康管理室の医師あるいは精神科医師、あるいは運航乗員部長あるいは同副部長、また国内南回り欧州路線室長、こういった人たちを不起訴にしたんですけれども、この検察審査会の議決書からも明らかなように、この機長は一年余にわたって精神科に通院をして経過観察中であったという事実が指摘されていますが、この事実は捜査の過程で当然明らかになっていたでしょうね。
  184. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 片桐機長のそれまでの病歴あるいはどういう状況で治療なら治療を受けておったか、すべて詳細に捜査されたところでございます。
  185. 橋本敦

    橋本敦君 そういたしますと、精神科に通院して経過観察中であったということがわかっているということであれば、心神喪失に突然飛行機を操縦中になるというようなことは、これはもう予見すること自体がまことに恐ろしいことで、通常は予見し得ないところかあり得ないことということを考えるわけですから、そんなものが予見可能であるなどということは、これはもう通常乗務を許す限りあり得ないのです。それはそうでしょう。したがって、完全に運航の安全を確保するという立場に徹するならば、精神科医に通院して経過観察中であるというようなそういう人を、そのことを知りながら機長として職務につかせたというそのこと自体が業務上要請される必要な注意義務に違反していると、こう言っていいのではないかと思うのですが、この点はどうですか。  例えば業務上過失致死傷罪等について、業務者というのは通常人以上にその地位に基づいて広い範囲にわたって結果を予見することができ、かつまた事態の認識をすることができるというそういう立場にありますから、したがって業務者というのはそれだけ結果の発生についての責任も重いというのが、これが刑法上の通説であることは間違いない。  そういう点から考えますと、多数の乗客の人命を預かり、大量輸送の飛行機を飛ばすということを業としている日航がまさにその業務者としての社会通念上あるいは法律上要請される注意義務を本当に果たしておれば、精神科医に通院して経過を見ておるというような人を機長として通常の勤務につかせることを許すなどという、そのこと自体が業務者に当然要請される注意義務に重大な違反があるというのは明らかではないでしょうか。こういうものを不起訴処分にするということになれば、これはまさに検察としては、亡くなった人を含め、けがした人を含め、その人たちの人権の問題や、あるいは社会的に大量輸送時代の航空機の安全運航について厳しい法的責任をやはり持たせるという姿勢を貫く上で、こういう不起訴処分を納得できないとして検察審査会が異例の起訴相当あるいは不起訴不当の議決をしたのは十分に私は誠実に受けとめなくてはならぬ、検察庁としては真剣に考える必要があると思うのですが、どうですか。
  186. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 最後に御指摘のように、現在検察審査会から不起訴不当あるいは起訴相当ということの決定を受けており、現在東京地検において再捜査中でございますので、内容の詳細についてはここで申し上げることは差し控えたいと思いますが、当初の不起訴の段階で申し上げますれば、今先生指摘の精神科医に通院しておったというような事実も調べました上で、それぞれ六名の人、それぞれ立場は違いますけれども、その立場においてこの人を操縦させて大丈夫かどうかということをいろいろ確認いたしました上で支障がないという判断に立ち至った、そのときのいろいろな状況から見れば、その時点でこの結果を予見するということは不可能ではないか、可能ではないという結論に達したわけでございます。  もちろん、橋本委員指摘のように、完全にその危ないことをやめるということであれば、そういうことなら全部をやめるということも、それは一つ方針としては可能かと思いますが、刑事責任を追及する立場結論を出しますれば、今申し上げましたようにその時点で結果を予見する可能性がなかったと言わざるを得ないというのが不起訴処分の理由でございます。  なお、地検におきましてもいろいろな観点からさらにもう一回再捜査をいたしておるところでございますので、いずれ結論が出ようかと思っております。
  187. 橋本敦

    橋本敦君 刑事局長、それは最初にした処分がすぐ間違いだというふうにおっしゃらないというのは、それはそうでしょうよ。しかし、少なくとも検察審査会が、今私が指摘したような事実だけじゃないと思いますよ、判断に至った経過は。事件全体の記録を精査し、そして市民の立場で、法律の専門家ではないけれども、真剣に検討した結果、起訴相当の議決をするには十一人の委員のうち八名以上の賛成がなくちゃなりませんから、圧倒的多数の委員が本件については日本航空自体の安全保持義務違反、これは重大だということで起訴相当という、そういう議決をしているわけです。だから、今真剣に再捜査中であるということでありますけれども、検審がこのような議決をしたということについて、その後あの大事故が重ねて起こっているということも含めて、今の時点でもこの問題について検察庁としてはこの検審の議決の結果を誠実に受けとめて、まさに日航それ自体の刑事責任の有無があるのかないのかについては、私はこの検審の議決を一つの重大な問題点として受けとめて、真剣に考え検討するという姿勢でやるべきだと思いますが、いかがですか。
  188. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) もちろん検察審査会の議決でございますので、その内容を詳細に検討し、これを誠実に受けとめて、さらに再捜査がなされるものというふうに考えております。
  189. 橋本敦

    橋本敦君 その結果がどうなるか。残念ながら、検察審査会の議決はそれ自体法的拘束力がありません。これは、我が国制度自体が、起訴するかしないかはまさに検察官の専権処分に係らしめている、いわゆる起訴便宜主義をとっている立場からそうであります。法的拘束力がないからということだけで漫然と事件を処理することは許されない重大な問題なので、私は指摘をしたわけであります。今刑事局長が答弁されたように、まさに真剣にこれを受けとめて、鋭意再検討をされることをさらに強く要望するのであります。  検審が、「日航の安全確保社内体制の杜撰さが事故の誘発要因となっていた事態も浮きぼりにされたので、同社社長と首脳部の社会的責任は極めて大きいといわなければならない。」、こう言っていることは、これは真剣に受けとめるべきだということは言うまでもありません。  そこで、あの群馬で起こった日航ジャンボ機の大事故でありますが、これについては警察の方で、多くの新聞でも出ておりましたけれども、慎重な現場検証を含めて鋭意捜査を遂げられているようでありますが、その現状と結果は今の時点ではどうですか。
  190. 藤原享

    説明員(藤原享君) 日航機墜落事故の捜査状況でございますが、八月十二日、群馬県下で発生いたしましたこの事故につきましては、発生直後に現地に特別捜査本部を設置いたしまして、上野村の山中の現場におきまして遺体の収容、それから約七十四ヘクタールに及びます広大な地域の現場検証、こういったものを終了いたしまして、約千三百八十点に及ぶ機体の各部分の押収を行うとともに、こういった収容いたしました遺体につきましては藤岡市の体育館に移送いたしまして、遺体の検視、身元確認、遺族への引き渡しなどの一連の業務を終わったわけでございますが、この結果、御存じのように五百二十名の死亡者のうち五百十八名までの身元確認と遺族への引き渡しが終了いたしておるわけでございます。  この捜査の状況といたしましては、航空機事故調査委員会へ機体の主要部分の鑑定を嘱託いたしますとともに、専従の捜査体制をもちまして、この日航機の飛行状態の目撃者あるいは生存者及び日航関係者からの事情聴取などを現在進めておりますが、このほか機体の整備状況、運航状況などの捜査もあわせて進め、鑑定嘱託の結果とあわせまして事故原因の解明を図り、さらに関係者の刑事責任の有無の追及を今後進めていく予定でございます。
  191. 橋本敦

    橋本敦君 端的に言いますと、関係者の刑事責任の有無の追及というように今おっしゃたのは、それは罪名的に言えばどういう罪名で追及をしていくということになるのですか。
  192. 藤原享

    説明員(藤原享君) 主としては業務上過失致死傷罪、その他航空法違反等も含まれるかと、こういう推定のもとに現在捜査を進めておるところでございます。
  193. 橋本敦

    橋本敦君 端的に言って、あの事故が起こってから、しりもち事故の後の修理についてボーイングが隔壁の修理に重大なミスをしておったと、これはボーイングが認めた。その隔壁がその後十分な点検も経ずに、そのまま日航は修繕ができたものとこれをうのみにして、運輸省もまた十分な点検もしないで運航さしてきた。そして、途中で金属疲労等も発見するだけの十分な検査体制もとらなかった。その結果あの隔壁があの時点で破壊をされて、それが尾翼を吹っ飛ばすということにつながってあの事故になったんだと、こういうような一応の考え方ができ得るような状況もいろいろと出ているわけです。こうなりますと、ますます私は羽田沖に続いて日航の社内の安全保持体制そのものが重大な欠陥を持っていたというように言わざるを得ないと思うんです。だから、仮にあのしりもちをついた後の隔壁の修理がああいうずさんな状態であり、かつそれが事故を誘発するおそれがあったということは当然気づかなくちゃならぬのに、不十分な体制のためにこれに気づかないまま運航さして、それが事故誘発の重大な原因になったとすれば、それは会社首脳部において業務上過失致死傷罪の刑事責任を当然問われなくちゃならぬ重要な問題になってくるのではないか。法律解釈として私はそう思うのですが、刑事局長のお考えはいかがですか。
  194. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) まだ事実関係が明らかになっておりませんので何とも断定はできないかと思いますが、今、橋本委員指摘のようなもろもろの事実が明らかになれば、それぞれの段階で業務上過失の問題は生じてこようかと思っております。
  195. 橋本敦

    橋本敦君 警察はこれから慎重な検討をされて捜査を進められていくわけですが、今おっしゃったいろんな事故原因の究明も含め、それから社内の体制も含め、今私が指摘したような考え方も頭に入れて、全面的に刑事責任の追及をやっていくために全力を挙げるということはお約束していただけますか。
  196. 藤原享

    説明員(藤原享君) 先ほども説明申し上げておりますとおり、事故調査委員会の鑑定の嘱託、この結果及び関係の捜査の結果、こういうものを総合いたしまして、事故原因がいかなるところにあるのか、そういった事故原因が関係者の刑事責任の有無にいかにかかわってくるのか、こういったところを中心に今後捜査を進める所存でございます。
  197. 橋本敦

    橋本敦君 日本航空は、残念ながら、近年の政府の行革の方針を全く先取りするような形で経営の効率化を進めながら人員削減を進めてまいりまして、私の資料でも、七九年から八三年まで本社関係だけで二百七十一名人員を削減しておりますが、その半分以上、百三十八名が整備本部の人員削減、こういう状況です。世界の航空会社がそれぞれ年間経費のうち整備費にどれくらい費用を出しているか調べてみますと、大体一二%台を出しておるんですが、日航は整備関係の経費を切り詰めてわずか七・六%しか出していない、こういうような数字もありますし、これはまさに日本航空の一つの利益優先、経営効率優先の体質を示していると思うんですが、こういうことが大きくやはり背景にありながらこの重大事故が誘発されてきたということは、刑事責任の追及の背景的事実として、こういった問題についても目を背けてはならぬ問題だというように私は思うわけであります。そういう立場でこの刑事責任の追及はぜひとも徹底的にやっていただきたいということが一つと、それからこの捜査がいつごろ大体めどがつくのか。その捜査が大体めどがつけば、刑事責任の追及という立場で捜査を遂げた上で検察庁に送検をするという展望を持っておやりになっておるのかどうか。その点、警察の方のお考えを伺いたい。
  198. 藤原享

    説明員(藤原享君) 捜査のめどという御質問でございますが、これはやはり一番重要部分でございます事故調査委員会に嘱託しております鑑定の結果、これがいつ出るかということとも深くかかわってくる問題でございます。そういった嘱託いたしました鑑定結果がいつ出てくるかということが現在まだ明らかでございませんので、したがって私どもとしても、捜査のめどがいつごろどういう形で明確になるかということについては、今ここで具体的に申し上げるわけにはまいりませんので、ひとつ御理解を賜りたいというふうに考えております。
  199. 橋本敦

    橋本敦君 事件の処理方針
  200. 藤原享

    説明員(藤原享君) 事件の処理につきましても、そういった関係についてこの鑑定結果、それから先ほど来申し上げておりますもろもろの捜査の状況、こういったものを通じて、そこでこの責任の有無、こういうものが一応検討され、その上で事件として成立するのかどうかということになりますので、その捜査のめどとあわせて、そういった時期については今のところ明確にいたすわけにはいかない問題ではないかというふうに考えておるところでございます。
  201. 橋本敦

    橋本敦君 そこで、検察庁に一言申し上げたいんですが、この問題は、今私がお話しした背景を含めて刑事責任の有無は、これはなかなか追及する上では大事な課題であると同時に法律的な判断もあれこれ慎重を要する部分もあり、警察と検察庁が相ともに協力をして進めるという態勢を早くとるべきではないか、これが私の意見であります。  先ほどの羽田日航機事故についても、精神科医に通院して経過中の人を機長として平然と勤務させるという、それで安全義務違反にはならぬ、予見不可能だったから刑事責任なしというのは、これはもう絶対納得できぬです、国民側から見ても、亡くなった人から見ても。今度のあの日航ジャンボ機についても、この検察審査会が起訴相当だとしたということを受けて真剣に再捜査をやるということはおやりになるわけですが、こういう経験も踏まえて、今度の日航ジャンボ機事故の刑事責任の追及については、本当に私は今から真剣に取り組まなかったら、亡くなった五百二十人の人たちのそれこそ弔いができぬと思うのです。  今警察でお話しのように、鋭意捜査を遂げるということですが、検察庁も警察から送検をしてくるのを待つというのではなくて、この重大な事件の刑事責任の追及については、事故を今後根絶をするという決意と、それから同時に日航が、今私が指摘したような問題も含めて、本当に安全に徹するということを今後必ずやって、というのは飛行機は毎日飛ぶのですから、多くの国民が乗るのですから、そういう意味で日航に対して安全保持を徹底的にやらせるという、そういう社会的な責任を検察の場からも果たしてもらうということのためにも、私は今から検察庁と警察が随時鋭意協力をして刑事責任の究明に当たっていくという、こういう方針をとってやるべきだと、こう思うんです。この点について、これは法務大臣の御意見をお聞きしたいと思います。
  202. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 御承知のように、この問題につきましては運輸省の方でも事故調査委員会を設け、また警察当局においてもいろいろ調査をされておるわけでございまして、我々の基本的な考え方はそういうことを前提にして物を考えていきたいというふうに思っておるわけでございます。しかし、御承知のように、あの事故が起きてから日航の経営のあり方というようなことにつきましては、法的な責任論だけではなしに、もっと深くいろいろな問題が議論をされて今日に至っておるということは御承知のとおりでございます。したがいまして、何も今刑事的な手続のほかにも、我々がこの問題を考えていく場合には、もっといろんな面から重大にこの問題を考えていかなきゃならぬというふうに思っておることは当然のことでございます。  なお、今御指摘のような点につきましてはよく検察当局とも連絡をとっていきまして、どういう対処の仕方が適当であるかというようなことについては論議を詰めてみたいというふうに思っています。
  203. 橋本敦

    橋本敦君 この問題の最後に法務大臣の率直なお考えを聞きたいんです。  今私が何遍も言いますけれども、詳しい法律判断は別ですよ。全くの一国民の気持ちとして、精神科医に通院をして経過観察中である人が機長になって乗っている、しかもそれも乗って別に何も悪くないんだと平然と乗せておる、そういう日本航空がそれをやっているとなったら、国民は安全の信頼性持てるでしょうか。あるいはそういう人が機長でおって、突然心神喪失になってとんでもない操作をやって、飛行機を墜落さしてたくさんの人が死んだ。それで刑事責任は会社に一切ないと、これが一国民として納得できるでしょうか。私は納得できぬ。検察審査会の議決は、国民の感情の立場からしてこれは正当だというふうに見ざるを得ないというように私は思うんですが、この点、国民の立場大臣のお考えを聞きたいんです。
  204. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) この種の問題について、あるいは国民の立場でというような論評を言うこともどうだろうかというふうに思うのでございますけれども、御指摘のように、片桐機長につきましてはいろいろ過去に、そういう病歴があったということは事実であろうというふうに思います。しかし、そういうことに対処をしまして、少なくとも中では機長に復帰できるかどうかというようなことを随分審査をした上で乗務をさせていたというようなことがあったのだろうと私は思うのでございます。しかし、御承知のように非常に不幸な事件が起きて、しかもそのときの中身は心神喪失の状態であったというようなことでございます。そういう意味ではまことに遺憾千万な話であると思うのでございます。  そこで、一般論としてそういう状態にある人について刑事的な責任というものをどういうぐあいにとらすか、それが不可能な場合にどういう対応策を次に考うべきかというようなことにつきましては、法務省としましてもかねて、非常に評判が悪うございますけれども、保安処分とか治療処分とかいうような刑法改正の問題の中でもいろんな論議があった経過があるわけでございます。したがいまして、我々としましてもそういうような問題を考えていく場合にはやはり十分全体的な姿というものを考え対処をしていかなければならぬというふうに思っておるわけでございます。しかし、この問題もいろんな意味で、刑法改正をやるという場合でも問題点があることは事実であるわけでございまして、そういう点は十分注意してやらなきゃいかぬと思います。  なお、個別の判断の問題につきましては今検察当局の中で十分論議を詰めておるという段階であるわけでございまして、その点につきましてはそれらの結論を見て判断をしていかなきゃならぬ問題であるというふうに思っておる次第でございます。
  205. 橋本敦

    橋本敦君 大臣、端的に率直に伺いますが、私がきょういろいろお話をしたそういうことの上に立って、この羽田事故について検察審査会が出したこの議決は、これは真剣に受けとめるべき議決だというように大臣はお受けとめいただけますかどうかということを、それじゃ伺わせていただきます。
  206. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 検察審査会の方からそういう意見が出ておるわけでございますから、それを受けて的確に処理をしていかなきゃならぬ、判断をしていかなきゃならぬというふうに思っております。
  207. 橋本敦

    橋本敦君 この議決に拘束力が法的にはないけれども、私はきょうの議論を踏まえて日航の刑事責任の徹底究明を改めて全力を挙げてやっていただくことを要求して次に移ります。  さて、そこで検察官の処分についてもう一つ国民の立場から納得ができないということで私が提起をした横浜の事件でありますが、これについて、犯人Xと言いましょう、この犯人Xを検察庁は七月十四日に不起訴処分にしたわけでありますが、その理由を簡単にお述べいただけますか。
  208. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) この事件につきましては、昭和五十九年の三月十四日に横浜地検で業務上過失傷害、それから殺人未遂の罪によって身柄を受理したわけでございます。捜査を遂げました結果、同年の七万十四日、心神喪失を理由として不起訴処分にいたしております。
  209. 橋本敦

    橋本敦君 そこで、ここでもまた心神喪失ということが問題になるわけであります。  この事件は、本当に学校から楽しく帰ってきておった四人の若い高校生、ここに車を突っ込んではね飛ばした。しかもその上、おりていってさらにナイフで刺すという残虐そのものの犯行が行われたわけでありまして、井本君はかわいそうに亡くなってしまいました。難波君、小川君、玉川君はそれぞれ頭部強打あるいは脳挫傷、左頭骸骨骨折等、大変な重傷を負ったわけであります。本当に許しがたい犯罪行為が行われたと言わねばなりません。  ところが、これだけの重大な被害を受けながら、犯人が心神喪失を理由に不起訴処分になったということは、これは被害者の皆さんだけではなくて、この事件を知る多くの人にとっても、社会的にも一つのやはり衝撃だったというように思うわけです。これが不起訴処分になったときには、亡くなった井本君のお母さんは、「息子があまりにかわいそうで、霊前にはとても報告できません」とおっしゃったと書いてありますが、その気持ちは本当によくわかります。「殺された人間は、これではまるで紙切れ一枚ほどの重みしかないようだ」と声を震わせられたというのもうなずけます。さらに、事件後、意識不明の重体が続いた小川君も、朝日新聞の記事によりますと、日本の法律は甘いんじゃないだろうか、犯人はまた退院して事故を起こすかもしれぬ、こんな事件で、こういうことで被害者になるのはもう私たちを最後にしてほしい。けなげにもこう言っておりますし、被害者の本人や御両親の気持ちはみんな同じだと思うんです。  そういう気持ちから野口幹世さんが「犯人を裁いて下さい」という本をお書きになって、私もこれを見て、この事件を取り巻く被害者と国民の感情をここからも十分に酌み取ることができたわけでありますが、さてこの心神喪失ということの判断で不起訴処分にするということが、検察あり方として、本当にこの件の場合妥当であっただろうかどうかということを重ねて問題にせざるを得ないのであります。これは、精神医の専門的鑑定の結果だと聞いておりますが、そうですか。
  210. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 二名の鑑定人に鑑定を依頼した結果でございます。
  211. 橋本敦

    橋本敦君 その二名の鑑定の結果というのは、私が知らしていただいたところ、一名は東大医学部の逸見武光教授、もうお一人は上智大学の福島章教授、こう伺っておりますが、そうですか。
  212. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) そのとおりでございます。
  213. 橋本敦

    橋本敦君 鑑定を一つだけではなく、二つおやりになった理由は何ですか。
  214. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 事案の重大性にかんがみ、慎重を期したということでございます。
  215. 橋本敦

    橋本敦君 その点はもっともだと思います。そして、その鑑定についての資料あるいは本人に対する鑑定のための処置等については大体どういうように行われたんでしょうか。
  216. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 昭和五十九年三月に事件が発生いたしておりますが、三月十四日に横浜地検で受理をいたしまして、二日後でございます三月十六日に第一回の鑑定嘱託を東大の逸見教授にいたしております。二十三日に鑑定留置状を得まして、鑑定処分許可状が発行されております。そして、四月二十八日に第二回の鑑定を上智大学の福島教授に嘱託いたしまして、鑑定留置期間をさらに延長をいたしました。七月六日まででございます。その間、五月に第一回鑑定結果が書面で報告されておりますし、七月六日ごろには第二回の福島教授の鑑定結果が提出されており、これを受けて七月十四日に不起訴処分にしたという経過でございます。
  217. 橋本敦

    橋本敦君 その鑑定資料には、それまでの警察の供述調書、録取書、そういった捜査資料は提供するんですか、しないんですか。
  218. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 必要な関係書類は、これを鑑定人に示しております。
  219. 橋本敦

    橋本敦君 そうしますと、本人の前歴等は、鑑定人はよくわかっているわけですか。
  220. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) そのとおりでございます。
  221. 橋本敦

    橋本敦君 そうなりますと、一つの問題として指摘をしたいのは、この事件を起こしたのは今御指摘いたしました昭和五十九年三月ですが、この加害者Xはその二年前、五十七年九月に運転免許証を取得していますね。しかも、この本でも書いていますが、非常に優秀な成績で運転免許証を取得しておる。もちろん、これは言うまでもありませんが、道交法によって免許の欠格事由で、精神病患者は運転免許は絶体許されません、したがって、二年前は堂々と運転免許を取り、それから日常生活の中で車をずっと運転してきておるということがあります。  それから、さらに本人が刑事事件を起こして捜査を受けた。これがこの事故の一年前の五十八年七月です。これは傷害事件を起こして、相手を殴って逮捕されておるわけですが、これで罰金刑を受けておるわけですが、全治十日間の傷害を負わせて罰金刑で、このときは責任能力ありとして当然刑事処分を受けている。まさに日常生活を見ましても、特別に近所の人やその他の証言から見ても、特段の異常あるいは心神喪失、精神分裂、だれが見ても明らかな症状はない。現にこの日の車の運転も、この本にも書いてますが、狭い道を運転をするということで正常に運転をしておる。こういうことを考えてみますと、果たしてこの犯行当時に精神分裂症によって心神喪失と言えるのかどうかということについては、かなり慎重に検討しなくちゃならぬという事情があると思われます。  この鑑定結果によりますと、二人の鑑定の内容ですけれども一つは、十年ぐらい前から精神分裂症にかかっておるという鑑定が渡っておる。これは、中三ないし高一のころ精神分裂病を発病して以来、十数年間病状が徐々に進行してきたという鑑定が出ている。それからもう一つの鑑定では、これも数年前から精神分裂病にかかっておるという鑑定が出ておる。そういうように鑑定が、かなり前から精神分裂病に罹病しておるという鑑定結果になっておることは間違いないですか。
  222. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 個人のプライバシーにかかわりますので詳細は申し上げられませんが、大体委員のおっしゃったとおりかと思います。
  223. 橋本敦

    橋本敦君 そこで、それにもかかわらず運転免許証が授与され、正常に運転をし、にもかかわらず傷害事件が起こって警察も検察庁も捜査をして、正常だ、責任能力ありとして罰金刑を傷害罪で一年前には科しておる。さらに、少年のころには家庭裁判所から家庭事件を起こして保護観察を受けておりますから、裁判所でもこの鑑定が言うように中学校のころから罹病しておればもっとわかるはずですが、そういうこともない。そういうように考えてまいりますと、この鑑定を私は全然間違いだとは言いません。言いませんけれども、この鑑定結果だけに頼るのではなくて、今私が指摘したような生活歴や犯行前後の事情や、そういったことを勘案いたしますと、犯行当時心神喪失だったというこの二つの鑑定が出たということであっても、これだけ重大な事件を起こした加害者の刑事責任を本当に真剣に考えるという立場に立つならば、この二つの鑑定だけではなくて、さらに調査を、あるいはもう一つの鑑定をやるという、それぐらいの配慮で検討をすべきではなかったかという思いが残るのですが、検察庁はどうお考えですか。
  224. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 先ほどお話しの運転免許あるいは傷害事件等につきましては、その当時見た限りでは異常な行動が認められなかったので精神鑑定等は行わなかったというのが実情であろうかと思います。  今回の二人の方の鑑定につきましては、先ほど申し上げましたように生活歴あるいは犯行前後の状況等、すべて必要な資料は提供いたし、それを参考にした上で二名の先生がほぼ同一の結論を出されており、両方とも心神喪失を裏づけるものとして十分であるという判断で不起訴処分にいたしたわけでございます。
  225. 橋本敦

    橋本敦君 その十分であるという判断ということが本当に妥当かどうかが、今私がここで指摘をして議論をしているところなんです。検察庁は、それは十分だということでおやりになったんでしょう。しかし、被害者やこの事件を知る人の気持ちから、考え方から、あるいは私自身も含めて、果たしてそれが妥当かどうかということにはまだまだ疑問が残るんです。例えば西ドイツなどでは、犯罪によっては起訴法定主義ということで、心神喪失かどうか、責任能力の有無は裁判所が公開の法廷で鑑定等も含めて検討した結果裁判所が決めるようにするという制度をとっておるように聞いておりますが、西ドイツだったらこういうことは当然起訴されて、法廷で心神喪失かどうかが決められるということになるのじゃないでしょうか。西ドイツの制度はどうですか。
  226. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 西ドイツの制度の詳細については私もよく承知いたしておりませんが、聞くところによりますと、起訴法定主義、我が国の起訴便宜主義とは違うわけでございます。したがいまして、場合によっては今橋本委員指摘のようなことになるのかもしれないかと思います。ただ、起訴法定主義をとるか起訴便宜主義をとるか、これは非常に重大な問題でございますし、現在の我が国では起訴便宜主義が正しいといいますか、妥当であるというふうに私ども考えておるところでございます。
  227. 橋本敦

    橋本敦君 私も起訴法定主義を今すぐやれというのじゃなくて、そういう制度もあるということも踏まえて、被害者の感情や国民感情や諸般の事情を考慮して、検察庁の処分というものは起訴便宜主義だけれども、なされなくちゃならぬのじゃないかという意味指摘をしたわけです。  これはもうアメリカなどでも精神上障害、欠陥がある者の犯罪ということで悩んでおるようですが、アメリカでは精神障害者がレーガン大統領を狙撃するという事件が起こって、これを機に連邦法の改正があって、責任能力を広い範囲で認める、それで結論裁判所に任せる。例えばピストルを撃つということは社会的にどういう意味なのかということ、あるいはピストルを買いに行くということ、そういう行為能力があれば一応それは刑法的には是非善悪の弁別ができる責任能力が当然あるという、そういうようにとらえていかなくちゃならぬのじゃないかというような議論も随分なされたようであります。  そこで私は、日本検察庁の中でもいろいろこういう状況については真剣に考慮をされているというように思います。飯田委員指摘をされましたけれども、精神障害者を伴う者の犯罪ということのために被害を受けるということが毎年毎年起こってくるわけです。それをどう予防するかという、そういう一つの側面と、それからもう一つは、起こった事件についての適正な刑事責任の究明、これを国民と被害者の側、被害を受けた者の人権を守るという立場を含めて、まさに合理的にやっていくということで、どういうふうにやったらいいかということであります。  そこで、一つの問題としては、例えば今法務省がおっしゃった鑑定の結果が心神喪失と出ているのだ、だから不起訴なのだと、こう言われても、その鑑定自身は捜査という密室の、捜査の密行性、密室の中で行われている。被害者も告訴した者もわからないわけです。しかし、裁判所で鑑定を命ぜられれば当然裁判所で鑑定人は宣誓をした上で鑑定を行い、鑑定の資料も弁護人を通じ、法廷関係者は全部どういう資料でなされるかもわかり、鑑定の結果は証拠調べとしてやられ、鑑定人を必要であれば証人喚問をして尋問することが刑訴法上保障されている、これがまさに公開の法廷です。  したがって、こういうような事件については、検察庁は二回の鑑定で心神喪失と出た、こういうことだけれども、しかしその問題については社会的な影響力の大きさあるいは犯人とされるXの日常行動、運転免許も取った、あるいは刑事責任も一年前には追及してきた、日常行為もそんなに精神分裂症とだれが見てもわかるような状況でないということから、その行為のときだけ突然心神喪失であったかどうか、これはもう慎重に検討しなくちゃならぬというそういうことを踏まえまして、検察庁は捜査における精神鑑定の結果とは別にして、一応事案の重大さから起訴に踏み切って、そして裁判所が検察官の意見も聞き、被告人とされた者の意見も聞き、関係者の意見も聞いて裁判所が責任能力の有無を公正に判断をするということで、裁判所に任せるという意味で起訴するということも検討してよかったのではないか。  こうすれば被害者の方の納得も得られる可能性が一層深まりますし、そういうような判断も、起訴便宜主義を貫く上で、検察官の判断としてあり得ていいのではないか。今私が指摘した板倉日大教授などは、そういうことも納得できる一つの方法ではないかと言われておるんですが、私も同感です。法務省のお考えはいかがでしょうか。
  228. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 鑑定を本件の場合は二人行って同じ結論が出たわけでございます。  一般的に申し上げますと、その他の事件の場合に結論の異なる鑑定が出るというような場合もございます。そういう場合にはさらに三人目、四人目の鑑定を依頼するということはもちろんあるわけでございます。鑑定の結果が食い違っております場合にも、検察官としてこれは心神喪失ではないという判断に立ち至りました場合には当然に、事案によりけりでございますが、起訴をするということになるわけではございます。しかし、今先生指摘のように、検察官として慎重に鑑定を依頼し、鑑定の結果を見た結果、これは明らかに責任能力はない、心神喪失であるというふうな判断に立ち至った場合にも裁判所に任せるというか、裁判所に起訴するという点については、これを広げますと、またさらに有罪か無罪かわからないやつはどんどん起訴して裁判所に任せればいいじゃないかというようなことにもなりかねないわけでございます。やはり検察官としては起訴便宜主義、起訴独占主義を任されております以上、明らかに犯罪を構成する、責任があるというものについて起訴するというのが職責であろうかと思います。  御指摘のように、本件のような事案あるいはその他五分五分のような事案については裁判所に任せるという方針あるいはそういう制度をとるべきである、それが国民にわかりやすいといいますか、納得させる道であるというお考えがあるということは十分承知しておりますけれども、現段階で私どもはやはりそうではなくて、検察官としては尽くすべき捜査を慎重に尽くした上で判断し、起訴すべきでない、責任能力もないという場合には不起訴処分にするのが当然であるというふうに考えております。
  229. 橋本敦

    橋本敦君 もう時間がありませんから結論を急がなくちゃなりませんが、検察庁の処分が私はどんな場合でも常に粗雑だなどということを決して言っているわけじゃなし、さらにまた、疑わしきを起訴せよなどと言っているのでも決してありません。そのことはよくわかっていただきたいと思うんです。  問題は、やはり司法というものは刑事司法を含めて国民の理解と納得が得られ、しかも厳正に正義を貫くという立場を法的側面からも社会通念としても、また国民常識からしても貫いていかなくちゃならぬという非常に難しいところがある。そこのところで検察官の判断がいつでも絶対だというとそうではない。やはり国民の批判を受けるというそういう中でやっていかなくちゃならない。検察審査会はまさにその一つ制度であるというようにしっかり受けとめなくちゃならぬわけです。  そして、この件についても今検察審査会に申し立てられております。これについてはまだ結論は出ておりませんけれども、今加害者の方は措置入院で入院をしているようでありますから、この検察審査会の結果がどう出るかということも含めて、この件については検察庁としては、自分がやった処分は絶対だということにこだわらなくて、謙虚に検討していくという姿勢を貫いてもらいたい。そのために一つは今措置入院している入院先の医師にも必要とあらば公式に意見を聞いていただく、あるいは検察審査会に対する問い合わせについても率直な立場で答えていただく、そして今私がお話しした現在措置入院して医者がずっと経過担当しておられますから、その医師についても意見を聞くなどしながら、検察審査会が適正な判断ができるように積極的に協力すること、そして検察審査会から一定の結論が出れば真剣にそれを受けとめること、こういったことについてやってもらいたいと思うんですが、どうですか。
  230. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 検察審査会で今御審査中でございますので、その結果を見守りたいと思っております。もちろん、その間に協力すべきことがあれば協力をするのにやぶさかではございません。
  231. 橋本敦

    橋本敦君 それじゃ最後に一言だけ。  今協力ということの中で、私はそういう態度をとるべきだと思いますが、その一つとして、必要あらば現在の担当医にも意見を聞いてもらいたいことが一つと、それからこういう場合は被害者の皆さんになぜ不起訴にせざるを得ないかという、その処分と同時に納得できる説明を主権者である国民にしてあげる、これは制度的にはなかなか難しいのですが、そういうことも含めて検察が国民の納得を得て正しく進むように、被害者への十分な誠意ある説明も今後やる工夫をどうやっていくかということも含めて検討してもらいたいと思うんですが、これは最後の質問ですが、いかがですか。
  232. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 御指摘のように制度的な問題になりますと問題があろうかと思います。しかし、事案によりまして、被害者の方からあるいは関係者の方から不起訴理由を尋ねられました場合には、諸般の事情を考慮して、関係者の名誉、プライバシーを害しない範囲内においてその内容を何か説明をいたしまして、その理解を得るという努力は現に続けておるところでございます。
  233. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 最初に、この十月の初めだと思いましたが、東北三県にこの委員会で視察に参りました。そのときに私が感じたんですけれども政府の職員の中でも大蔵省だとか通産省のようなところで働いておられる人はこれは花形でもっていいけれども、法務行政なんかに携わっている人たちは大変だなということをつくづく感じたんです。特に、刑務所に行きまして、刑期の長い人たちの入っている刑務所なんというのは、聞きましても、もう家族もだれも面会に来ないと言うんですね。だから、そういう服役中の人たちを相手にして、そうして何とか改心をさせてというような形で努力をなさっているのだから大変なことであって、そういう点に立ちまして私がお聞きをしたいのは、大臣や次官は年にどのくらいそういう法務行政に携わっておる地方に出ていかれて視察をし、激励もしてあげているのかどうかということです。
  234. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 法務省の仕事というのは、ある意味で人目につかない非常に地味な仕事であるということは御指摘のとおりであろうというふうに思っております。したがいまして、我々もできるだけ現場も見たいし、またそういう機会をとらえて職員の皆さん方に我々の考えておることもお伝えをし、またある意味で激励もしたいというようなことを心得ておるつもりでございます。ただ、そう再々行くわけにもいきませんけれども、東京の近くのところはほとんど見せていただいておりますし、また選挙区の近いところも見せていただきますし、また先般五月には北海道へ行きまして見せていただいたし、また明日からもそういう企画を持って見せていただきたいというふうに思っておりまして、地味な人目につかない仕事をやっておるところだけに、できるだけ我々の目が行き届くように配慮をしていかなきゃならぬというふうに思っております。
  235. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 本当にぜひそうしてあげていただきたいと思います。  それで、昨年も九州の佐賀の麓という刑務所へやはり参りましたが、あそこなんか、見える範囲で塀はないし、それから非常に草木もたくさん植えてあるし、そういう環境もよろしいわけです。それで、特に私なんかは、じっとみんな働いているところを回って見せてもらったんですが、八割ぐらいの人たちというのは、どうしてこの人たちこんなところへ来て働いているのだろうかと思うほどなんです。それで、あるところに張り組してあり、今でも私忘れないんですけれども、全世界のことを知っておって自分自身を知らない人がいるということを書いて張ってあるんです。それで、そこの所長さんに後で、あれは刑務所の方でお張りになったのですかと言ったら、そうじゃないと言うんです。恐らくあそこでもって働いている囚人が自分で書いて張ったんだろう。私それ読んだときに、国会議員にでもこの言葉を見せたら非常にいいのじゃないかと思うくらいです。そういう点で、麓の刑務所なんかも非常に皆さんよくやっておられる。それで、あえて言えば多過ぎちゃって、大体もう四人ぐらいのところに五人ぐらいずつ入って、かなり定員オーバーで収容しているのです。ですから、そういう点から、またそれが余分のトラブルなんか起こすといけませんし、一生懸命やっているそういうものを法務省の方なんかも気を使って、できるだけ考えてあげてほしいと思いますが、そういう点はいかがです。
  236. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 今御指摘のとおりでございまして、我々もそういう気持ちで対処しなきゃならぬというふうに思っております。
  237. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 それからもう一つは、これは大臣、私いつも言っていることですけれども、法律というのは冷たいです。法務省のお仕事というのは、これは法の番人ですから、法に照らしていろんなことをおやりになるわけだけれども、余り法律に照らして物事を判断をしているとつい冷たい関係になってしまうので、受刑者といえども人間ですということだけお忘れにならないようにして対処をしていただきたい、扱っていただきい。それとあわせて、先ほどから大臣もかなりお回りになっていると言うのだけれども、できるだけそういうふうないわば目立たない地味な仕事をしておる立場の人たちを行って激励をしてあげていただきたいし、そういう点で、法務行政全般について一言で言えば、大臣の御見解というのはどういう見解を持っておやりになっているかという、その指導理念というようなものを簡単にお聞かせいただきたい。
  238. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 法務省の仕事といいますと、すぐ刑事事件が連想されるわけでございます。しかし、御承知のように刑事の関係でいろんな意味で捜査をされ、起訴され、裁判が実行されて答えが出て、それから後はどうしてこれらの人々の矯正、更生を図っていくかということが問われておるわけでございます。そんな意味で、法務省全体に勤めている者は五万人しかいませんけれども、そのほかに例えば保護司の皆さん方だけでも五万人おいでになる。人権擁護委員の皆さん方でも一万一千五百人おられる。振り返って我が方を考えますと、例えば人権関係の仕事をやっているのは二百二十人しかいない。そんなことで、随分民間のボランティアの人に支えられたりしまして法務行政というのは運行されておるし、刑事以外の部面でも、例えば法務省の窓口その他行ってごらんになればよくおわかりのとおり、非常にたくさんの法律に基づいて複雑な仕事をやっておるわけです。  しかし総じて見ますと、法務省関係の仕事というのは、先ほども申しましたように、非常に人目につかない地道な仕事であるという現実があるわけでございます。したがいまして、法の秩序を維持するあるいは国民の権利を保全をするという基本的な目的はともかくとして、それを支えていただいておるボランティアの皆さん方とか、あるいは非常に地味な姿の中で矯正、保護その他の仕事に携わっている人たちの気持ちというものをどうしてうまく法務行政の中に結集をしていくかということが非常に大切なことであると私は思っておるわけで、着任以来、そういうことを部内でも言い、外向けにも訴えて今日まで来ておるというのが実情でございます。
  239. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 法務省の方、あと時間があればお聞きしていきますけれども、次にいじめの問題で若干。  この十一月二十日に、東京の羽田中学の二年の女の生徒がマンションの十階から飛びおり自殺した、御存じのとおりです。前にも一度私取り上げてお聞きもしたんですけれども、そういう点からいってまず聞きたいことは、こういういじめが原因での自殺とか、そういうものがどの程度起きているというふうに把握なさっているか、その辺の点、ちょっとお聞かせいただきたいです。
  240. 林田英樹

    説明員(林田英樹君) お答え申し上げます。  ただいまの、いじめが原因と考えられます自殺の実態の把握の問題でございますけれども、私どもといたしましては、子供たちが自殺をする際の原因、背景というものにつきましては必ずしも確定しがたい面も問々あるわけでございますけれども、私どもといたしましては、いじめなどが絡みます問題行動によりまして児童生徒が自殺をしたというふうなケースにつきましては、都道府県教育委員会を通じましてできるだけ実態を把握するように努めてまいっておるわけでございます。本年度も既に何件か、いじめによると考えられるような事例の報告も上がってきておるわけでございますが、こういうものにつきましては、もし都道府県から上がってまいりませんですと私の方からも督促などいたしまして、できるだけ実態の把握に努めてまいっておるところでございます。
  241. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 都道府県から上がってこないからおわかりにならない、それは中央ではそのとおりだと思うんです。  しかし、私が非常に理解に苦しむのは、今度の羽田中学の女生徒の場合でもそうだけれども、担任の教師もそうだし、それから関係の教師も全部集めて、どうだったのだと話を聞いても、だれも、なぜそういうことになったのかと言って絶句をして、原因がわからぬというか何というか、答えているんです。それで、学校の同級の生徒やなんかにするならば、千春さんの悩みは学校も知っていたはずですと、ちゃんとこれは言っているわけです。しかも、きのうになりましたら、テレビで私もひょっと見ておったんですが、この学校では半年前にも、これもテレビが報道しているのだから名前を挙げてもと思いますけれども、佐藤美由樹さんという子が同じようにこれも飛びおり自殺をしている。わずか半年前なんです。しかもこの中学では、二十一日の日に警視庁の少年一課が調べてわかったことは、過去三年間に警察が補導に当たった、教師に対する生徒の暴力事件が計六件、生徒間同士の暴力事件も計四件発生していることがわかったというんです。この中には今言った自殺のそれはまだ入っていないわけだと思うんですね、これは暴力事件だけですから。  そういう点でもって、そういうことが起きているにもかかわらず把握ができないといって、これは文部省に責任あるとは私は何も思いませんよ。これは学校もそうだし、それから親もそうだし、みんな関係があると言えば責任ある形なんだけれども、具体的にそれじゃ、この千春さんの事件が起きて、こういうぐあいでもってクローズアップされてきたそういうものを知って、文部省としてはどういうお感じになり、どういう手を打たれたのかということになったら、どういう御返事が聞けますでしょうか。
  242. 林田英樹

    説明員(林田英樹君) 御指摘のように、学校においてもっと早期に実態を把握いたしまして適切な指導が行われなかったものであろうかというのは、こういう事故が起こるたびに確かに私ども感じるところでございます。実際この学校におきましては、先生指摘のように、従来生徒間の暴力でございますとか教師に対します暴力というものが何件か起きておったということは事実でございます。これを契機といたしまして、この学校におきましては数年前から学校全体において取り組み態勢を整え、かつPTAとも協力いたしまして、こういう問題行動に対します対応を学校本務といたしましても相当突っ込んでやってきているように私どもとしても聞いておるわけでございますけれども、今回のような事件が起きたことを考えてみますと、まだまだそういう点で十分じゃなかったのではなかろうかというふうな反省をいたしておるわけでございます。  御承知かと思いますけれども、文部省といたしましても特に最近、いじめの問題というものが非常に深刻な問題になっておると考えておるわけでございまして、先般来、文部省に設けました検討会議の提言等も受けまして、都道府県教育委員会、それから市町村教育委員会、学校におきます取り組みを総点検していただくような行政指導も現在いたしておりますし、関係機関と協力いたしまして、いじめの問題の取り組みを進めておるところでございますけれども、今後とも引き続き、こういうことが起きないように学校、教育委員会をバックアップするような施策をいろいろ進めてまいりたいと思っておるところでございます。
  243. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 それでいじめがなくなるのですか。これはもう文部省だけじゃなくて、関係のいろいろのところもあるのですけれども、いじめ一一〇番という電話が開かれているということは御存じだと思うんです。それで、この間の二十一日の朝日新聞にも「いじめ一一〇番空回り」といって、水戸市では、これもあの女子の中学生が自殺をして、それがきっかけでもって四月に「生徒指導相談室」を設けてやってきて、八月までに家庭からは百五十件あって、そのうちの子供からの直接の相談というのは極めて少ない。あるいは札幌なんかの場合でも、百十八件からあったけれども、六割が父母で子供というものは三割だ。山形県だとか横浜だとか、ずっと書いてあるわけです。  この間、東北へ参りましたところでも、どこだかでもって、いじめの相談を受ける電話というものをやっておるというようなことも聞きました。それで私が、時間を何時から何時まで電話についているのですかと聞いたら、勤務時間中だけだと。それで、電話が来ても住所氏名を聞いたり、学校がどこだと聞けば、すぐパタンと切っちゃうという。この朝日に出ている中でもそうなんです。  それで、そのときにも申し上げたんだけれども、大体そういう電話をかけるというのは、これはもう夜なんですから、せっかくいじめの電話というものの窓口を開いておやりになっていただくならば、二十四時間体制とは言わないけれども、せめて真夜中の十二時まではリリンと鳴ったらそこへすぐ出てやるということをしてやっていただきたいです。それから、そういう関係者にもぜひ言っていただきたいのですけれども、その学校の担任の先生のところへ相談に行けるならそんなところに電話するわけないんです。担任の先生にうっかり言うとまたいじめられるから、それも言え広い。親に言おうとしたって、うっかり言おうものなら、またそれがわかったらやられると言って、結局黙って自分がなにしているわけです。それで最後には、そうやって死ぬか生きるかというところまで考えて、思い詰めて電話をしてくるんです。  命の電話というのがあって、これもボランティアの人たちがやっているのですけれども、これなんかは、私が聞いたのでは、長いのは一時間以上もその電話で話をしているわけです。決して名前がどうだとか何だとか、そんなこと聞きはせぬのです。一生懸命になって相手の相談に乗って、そして何でも聞くからと言って、そうやってもう一時間以上もたち、それでいろいろなことが話せるようになったときに、あなた今どこにいるのと言って、どこそこしかじかの公衆電話、もうとてもなにだから、私がそこへ行くからそこにいなさいと言って、そうして夜のもう真夜中にそこへ駆けつけていって、それで車の中でまたさらに長いこと話をしたという。  そういうぐあいでもって、相手が信用してこそ初めでいろいろなことを話をしてくれるのであって、あなたの住所氏名は何なんだ、学校はどこなんだとそんなことをいきなり言ったら、それはもうしゃべるわけはないんです。だから、そういう点で相手が、言うならば生きるか死ぬかという瀬戸際に立って、そうして、せめてもといって最後の助けを求めてそういう電話をかけてくるのですから、やはり受ける方も命がけでもって応対をして、この人間の命が救えるかどうかなんだという。そうしたならば、担任の先生のところに相談にいけなんという、そういう答えは出てこないわけなんです。  ですから、そういうことについて本気でもってお取り組みをいただきたい。そして、このことはもう文部省だけじゃなくて、法務省や特に人権擁護局なんかも関係する方なんですけれども、御見解をお聞かせをいただければと思います。
  244. 林田英樹

    説明員(林田英樹君) 先生の御指摘のように、教育相談におきまして適切な組織づくりをし、適切な運用を図るということは私どもとしても極めて大切なことだと思っております。そういう観点で、従来ともすれば十分な教育相談の機会が設けられていないんではないかというような御指摘も非常に強かったわけでございますので、特にそういう点におきまして教育相談の機関をできるだけ多く設ける、相談しやすいような体制づくりをするということに重点を置きまして、現在努力をしておるところでございます。  先般、文部省で通知を出しました中でも、特に重点的な問題といたしまして、いじめによる悩みを持つ児童生徒や父母、教師がいつでも相談できる場の開設の必要性ということを申しまして、特にその地域の実態に応じた組織づくり、人材の配置、運用ということについて配慮をお願いをしたところでございます。おかげさまで、かなり多くの公共団体におきまして積極的な取り組みをいただいておるわけでございまして、かなり相談機関がたくさん設けられてくるようになっておりますのは、私どもといたしましても心強く思っておるわけでございます。  ただ、先生今御指摘のように、それぞれの運用が本当に子供たちなり父母の求めに応じるようなものになっているかどうかという点につきましては、まだ反省すべき点もあろうかというふうに思います。今後、相談機関の運営の実態を見ながら、今後とも御指摘のような線を踏まえまして、関係者にその改善を促してまいりたいと思っております。文部省といたしましても、特に相談の専門職員の能力ということにつきましては重要な問題と考えまして、文部省自身で各種のカウンセリングの講座などの研修会もやってまいっておりますし、それから都道府県が専門家を派遣いたしまして相談の関係者の相談に応じるというふうな、各種の人材の研修と申しますか、そういう点でも今後努力をしていかなければならないと思っておりますけれども、御指摘のような線を含めまして、今後改善に努めてまいりたいと思っております。
  245. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 これ以上言ったってしようがないので、六月末、文部省が通達をお出しになったでしょう。学校や教育委員会に相談窓口をせいと言って、それでやったものの、学校の先生によく相談しなさいというアドバイスをするくらいが精いっぱいだと言っているわけです、関係者は。で、さっきも言ったように、どこの何にしても、みんな勤務時間に配置についているだけなんです。ですから、私が先ほど申し上げたような、取り組む姿勢に基本的なこれは誤りがあるんです。ここで次々こうやってみんな自殺をしていったりなんかして、暴行事件やいろいろなことが起きているわけなんです。それを今のような御答弁をなさっておって、そしてこれだけのいじめの問題からそういう自殺者が出ることがなくなると思っているんですか。これはもう時間がなにですから、申しわけないけれども、もう一回、お帰りになって、そしてよく関係者の中で御相談をして、文書でよろしいですから、どういうぐあいでもってこういう事故がなくなるように私たちはこういう処置をいたしますということをいただきたいと思います。  次に、警察関係で警察庁の方にお聞きをしていきたいことは、警察庁のお仕事というのは、犯罪防止という、それは行って犯人をつかまえるという、もう一番の仕事があるわけだけれども、それだけじゃなしに、事故が起きないように未然に防ぐということでもっていろいろの手を打たれることをなさっていられると思うんです。それがどういう御指導をなさっているか。  といいますのは、これはもう数年前になるのですけれども、私、愛知県へ行って、名古屋からタクシーで長島温泉ですか、ずっと地図では南へ下っていくのだけれども、そこでなにしておったら、タクシーの運転手が、私が聞いたわけじゃないが、言うんです。交通整理をしていたお巡りさんがおったわけだけれども、それを指さして、この町には暴走族は一人もいませんと。なぜかというと、今あそこでやっておるあのお巡りさんが、オートバイで暴走族がやってくると、すぐひっつかまえて、その家へ行って親と本人と両方並べてそこでお説教するんだそうです。それから後も、勤務外の非番のときに毎日のようにその家に行っては、いわゆるお説教と言っては言葉が何だけれども、やって、それで改心をさせる。仕事がなければ就職の世話までしてやる。そういったことをお巡りさんがやっているので、とうとうこの町には暴走族は一人もいなくなりましたと。  私は、時々、お巡りさんが悪いことをしたと新聞にでかでか出るのだけれども、こういう立派なお巡りさんもいるのだし、そういうお巡りさんがおることが本当に警察庁の上へ上がってきているんだろうか。本来なら、当然表彰しなくちゃいけない。そういうものも私見てるしするから、警察庁自体がどういう御指導なさってますかということを簡潔でよろしいからお聞かせいただきたい。
  246. 加美山利弘

    説明員加美山利弘君) お答えいたします。  警察といたしましては、犯罪の検挙ばかりでなく、未然防止という観点からさまざまな活動をやっているわけでございますが、特に外勤の警察官につきましては、地域に根差した活動をやるようにということでやっております。国民とともにある警察を確立するということでやっておりますが、このためには国民の要望、意見等を十分に反映した活動を行うことが大切であり、また個々の職員が国民の要望等に即した民主的かつ能率的な対処ができるよう能力の向上を図る必要がございます。  このようなことから、各都道府県警察におきましては、平素から国民の要望等を把握して警察活動に反映するということはもちろんでございますが、公聴会を開催したり、あるいは広報重点といたしまして、地域住民の要望等の積極的な把握と的確な対応を定めまして、要望等を的確に吸い上げ、これを警察活動に反映さしておるところでございます。  本年の五月にそういう月間がございましたが、要望等の件数は約三十八万件余り寄せられております。その内容は、暴走族等を含めた交通指導取り締まりあるいはパトロールの強化あるいは一人暮らしの老人宅の訪問、少年補導の強化等でございます。警察としましては、これらの要望等を解決するなど的確に対応しております。さらに、犯罪等の防止の観点から、各種事件の検挙等のみならず、犯罪を犯した者に対する社会復帰のための指導助言等を行っているところでございます。  警察職員に対する教養につきましては、警察学校及び職場において教養を進めておりまして、奉仕の精神の醸成、職責の自覚、良識の酒養、執務能力の向上等を図っているところでございます。  さらに、このような国民に対する奉仕活動等で功労のあった警察職員に対しましては、それぞれの県の規定によりまして表彰等を行っているところでございまして、士気の高揚も図っているところでございます。
  247. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 そういう努力をしていただいておって、今度は具体的にお聞きするのだけれども、サラ金地獄、これは初め警察庁の方でも把握なさっておらなかったんですけれども、昨年のときにお調べをいただいて、それで五十八年の七月から十二月の半年間の調査で、サラ金が原因で自殺をした人が八百十三人、家出をした人が七千九百三十一人と大変な数字が出てきたわけなんです。私は、こういうぐあいで自殺をする人というのは、間接的な殺人でしょうと。それで、お金を借りた人が苦し紛れにサラ金貸したところへ行って殺したりなんかするのもいるのだけれども、そうすれば、それは殺人罪なり何なりで処分される。金借りてどうにもならず、苦し紛れに家出はする、あるいは自殺をするわということを単なる自殺で始末をするということが、それだけでよろしいのかどうかと前にも申し上げたんですが、この自殺や家出の数字というものは、最近の新しいところではどういうふうなことになってきたんですか。
  248. 伊藤一実

    説明員(伊藤一実君) お答えいたします。  ただいま先生指摘のとおり、私ども五十八年の七月から統計をとり始めたわけでありまして、その半年間の数字はただいま御指摘のとおりでございますが、昭和五十九年一年間では、自殺者が千百八十二人、家出人が一万四百六十七人、それから本年は一月から六月末までの半年間で自殺が二百八十八人、家出が二千九百七十四人という状況になっております。  なお、この六月末までの自殺、家出を前年同期と比較いたしますと、自殺につきましては四百三十一人、約六〇%、それから家出につきましては三千九十人、約五一%の減少という状況になっております。
  249. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 まだ多過ぎると思うけれども、それでも御努力の成果が出ていることだと思いますので、さらにそういう自殺や家出のなくなるようにやっていただきたいと思うんです。  次に、覚せい剤の方の事件。これも私が言わなくても皆さん方はおわかりだと思うんだけれども昭和五十年は検挙人員が八千二百十八人で、覚せい剤の押収量が三四・四キロ、それが五十五年には検挙人員が一万九千九百二十一人になって、押収量も百五十二・三キロにふえた。さらに昨年の五十九年になったら、検挙人員は二万四千二十二人、麻薬の押収量百九十七・六キロ、検挙されたのがこの十年間三倍になって、押収した覚せい剤の方は五・七倍と伸びているんです。こういうぐあいでもって急増していったらどうなりましょうか。少なくとも百九十七・六キロ持っていったら、末端価格で恐らくどうなんですか、私もよくわからないけれども、三百億やそこらは超えると思うんです。だから、それは押収したのがそれだけでもって、そのほかにまだ押収されないで流れているものもあるので、そういう点からいって、この覚せい剤の方はどういう状況になっているんですか。少しは御努力なさったさっきのあれみたいに成果がこれでは出てないんだけれども、最近の状況はどうでしょう。
  250. 伊藤一実

    説明員(伊藤一実君) 昨年は、ただいま御指摘のとおりでございまして、三万七千二百六十七件の二万四千二十二人の検挙ということでございますけれども、前年と比較いたしますと、件数で二百三十四件、人員で七百二十一人の増加ということでございます。  それから、本年十月末現在では三万八百三十一件、一万九千九百五十人の検挙でございまして、前年同期に比べまして、件数、人員ともわずかに減少いたしましたけれども、押収量が二百五十四・九キログラムということでございまして、これは前年の三六・九%の増加という状況になっております。
  251. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 その数字はわかっているわけなんで、そうやってどんどんふえているのをどうやって食いとめるんですか。若い青少年がこうやってむしばまれていくのだから、それを何とか減らさにゃいかぬので、そういう点でどういう対策をおとりですかと、そこが知りたいんです。
  252. 伊藤一実

    説明員(伊藤一実君) お答えいたします。  ただいま申し上げたような現状でございますので、こうした現状を踏まえまして、まず私どもとしては三つの点に最大の重点を指向いたしまして取り締まりを展開しております。  まず第一は、密輸入事犯の水際での告発ということでございます。それから第二は、暴力団を中心とする密売組織の壊滅。三番目に末端乱用事犯の徹底検挙ということでありまして、全国警察が一体となりまして、あわせまして税関等関係機関とかあるいは外国捜査当局との連携を図りながら強力な取り締まりを推進しているところでありまして、特に取り締まりに当たりましては、供給地となっております関係諸国の捜査機関との協力が不可欠でございますので、情報交換や国際捜査協力の強化に努めているところでございまして、実は先週も私自身、韓国との定期協議会がございまして、出席してまいったところであります。  このほか、増大するこういったような乱用事犯に対しましては、関係機関とか団体等との連携を強化いたしまして、覚せい剤の恐ろしさを国民一人一人に周知徹底させるということで啓発活動を積極的に展開するということで、覚せい剤の乱用を拒絶する社会環境づくりに努めてまいるというようなところに重点を置いて努力しております。
  253. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 最後に大臣、覚せい剤の恐ろしさというのはもう私が言う必要ないと思うし、現実にその本人の体がむしばまれるだけでなしに、ときどき発作的な殺人とかそういう事故も起こすことだし、そういう点で本気になってお取り組みをいただきたいと思います。  それから、そのほかにも最近ふえているのはクレジットカードによる犯罪、キャッシュカードにおける犯罪、あるいは青少年のシンナー遊びなんというのも依然として減らないんです。ですから、そういうものがどんどんふえて非行がふえるばかりなんです。それでも国際比較で見ればまだまだ日本は非常にそういう犯罪が少ないというか、これはもうそちらの方がおわかりのとおり、殺人事件なんかでも犯罪率で見れば日本に対してイギリスが一・九倍、西ドイツでも三倍、フランスも三・三倍、アメリカなら五・五倍。日本が一番少ない。検挙率も非常にいい。それから、強盗なんかでも日本に対してアメリカなんか百十二倍というのですからもう大変な違いで、そしてイギリスでも二十三倍、西ドイツでも二十五倍、フランスは五十倍というような状態で、犯罪が少ないということはもうこれは国際的にも認められているんですけれども、今のような状態でいけば、やっぱり今申し上げたような外国みたいにだんだんなっちゃうと思うんです。  今まで警察官の皆さん方が一生懸命御努力しているそういう御労苦も歩といたします。それで、外国のようにならないように長期的展望を持っていろいろの対策を講じていただきたいと思います。そういう意味に立って、法務行政の最高の責任者である法務大臣としてどういうお考えを持ち、そしてどういうことをやらせようとしているかということをお聞かせをいただいて終わりたいと思うんです。
  254. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 御指摘のように、最近の犯罪の状態というものを見ますと、残念なことには、ひところのピークを少し落ちたというような感じがないわけではありませんけれども、なかなか高い水準にあることは事実であります。しかし、その内容検討してみますと、どちらかというと、非常に凶悪な犯罪は諸外国に比べて日本は相対的に低いというような状態になっておるわけでございます。しかし、考えてみますと、今御指摘になりましたように、だんだん若い層にそういう問題が及んでおるということでございますので、そういう意味での訓練というものをどうしてやっていくかということが一つ問われる問題だと思います。  それから二番目には、覚せい剤その他の問題というのは非常に多くなってきております。しかも、その背景には暴力団の組織というものがついて回っているという実態があるわけでございます。したがいまして、そういう面につきましては、これはもう非常に根気の要る仕事かもしれませんけれども、気を緩めることなく対処をしていかなければいけないというふうに思っておるわけでございます。  それからもう一つは、さきの豊田商事ではありませんけれども、そういう一般の射幸心をあおるというような感じ、あるいはクレジットカードその他、新しい時代に対応して出てきたそういうものについてまだなれ切ってない点が十分あるように思うのでございまして、そういう点につきましても、警察当局ともよく連絡をとって長期的な対策を講じていかなければいけない。  総じて見ますと、相対的には非常に日本が落ちついた状況にありますけれども、諸外国の実情ということを考えますと、予防的な考え方をよくとりながら十分な長期的な地道な政策というものを続けていくことが一番大切なことではないかというふうに思っている次第でございます。
  255. 中山千夏

    ○中山千夏君 私は、いわゆる少年の保護処分の再審事件についてお伺いしたいと思っています。  まず最初に、一九八三年九月五日、最高裁第三小法廷の決定というのがございまして、これは大変マスコミでも取り上げられまして、なかなか裁判のことは一般に伝わりにくいんですけれども、一般でもとても興味を持って見られた決定であったと思います。「少年、再審の道が開ける」というような大きな見出しを打って報道してあるところもございました。それから、判事さんたちの間でも非常に反響といいますか、いろいろ考えるところのあった決定であったというふうに聞いております。  この決定について一番最初に家庭裁判所ではどういうふうにこれを受けとめておられるかということをお伺いしたいんですが、まずこの決定の特色というのは大体二つあって、一つには大体、少年法には少年法の目的からして再審というようなことを定めたところがなかったのを、事実誤認のようなことで、本当は非行の事実がないのに間違って処分をされてしまったという少年を救わなくちゃいけないというので、裁判所の方でいろいろと工夫をなすって、そして実務上は少年法の第二十七条の二というのを解釈することによって保護処分を取り消せるというようなことをしていらした、それをこの小法廷の決定は支持したということが一つの特色である。それからもう一つには、この保護処分の決定に対してはこれこれの場合に抗告をすることができるという第三十二条がありますが、これを保護処分の決定に対してだけではなくて、保護処分の取り消しを決めたものに対しても抗告をすることができるというふうに解した。この二つの点が非常に画期的であったというふうに私は理解をしているんですが、そこら辺はそれでよろしいんでしょうか。
  256. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) 御指摘の最高裁の決定の趣旨につきましては、中山委員指摘のとおり、非行なしを理由にして保護処分を少年法二十七条の二の規定に基づきまして取り消せるという点が一つのポイントであると思います。この点につきましては、この最高裁の決定が出る以前から家庭裁判所におきまして、非行が認められない場合に少年法二十七条の二の「審判権がなかった」という条文に該当するものと解釈をしまして、この条文に基づきまして、既になされた保護処分を取り消すという運用が一般的に行われていたところでございまして、この家庭裁判所の実務をいわば最高裁が追認したというような意味合いになろうかと思います。  それから、もう一点の抗告、少年法二十七条の二に基づきまして保護処分の取り消しを申し立てた申し立てに対して保護処分を取り消さないという決定をした場合に、それに対して少年側が不服申し立てができるかという点につきましては、この二十七条の二の決定は、これは職権に基づいて行うというふうに従来一般的に解釈されておりまして、これに対しては抗告することはできない、つまり少年側に抗告権は認められないのだというのが実務の一般的な流れでございましたが、御指摘の最高裁の決定はこの点につきまして抗告できるという判断を示したもので、この点は実務に対して大きな影響を与えるものというふうに考えております。
  257. 中山千夏

    ○中山千夏君 その実務上の大きな影響といいますと、具体的にはどういうことになるのでしょうか。
  258. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) 従来の実務の一般的な取り扱いからいいますと、少年側が抗告を申し立てても、それは不適法な抗告であるということで抗告棄却ということになると思いますけれども、この最高裁の決定が出ましたので、これに沿った取り扱いをするということになろうかと思います。そうしますと、それは抗告が不適法ではなくて適法であるということになりまして、いわば実体審理に入って判断をするということになろうかと思います。
  259. 中山千夏

    ○中山千夏君 それから、この決定をもとにいろいろなケースに当てはまっていくことがあるかとも思うんですが、これは参考までにちょっとお伺いしたいんですけれども、審判不開始の決定、それから不処分の決定というのがありますね。それも、非行事実不存在を理由にして取り消すことができるというようなことをこの決定は含んでおりますでしょうか。
  260. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) その点につきましては、この五十八年九月五日の決定で明確に触れておりませんので、この決定をどういうふうに解釈するかということに係るのではなかろうかと思います。その点につきましては、私ども事務当局立場として、この決定の解釈についての意見を申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。
  261. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうしますと、例えば非行事実が一つじゃなくて幾つかあって、その一部に誤認があったというような場合についても、やはりこの決定では明確には触れられていないわけですよね。ですから、やはり今のお答えと同じことになってしまうのでしょうね。どうですか。
  262. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) その点につきましての意見は差し控えさしていただきたいと存じます。
  263. 中山千夏

    ○中山千夏君 それからこの決定では、今の二つお尋ねしたことと同じように裏返した感じでは触れられているかもしれませんが、この場合はこうだというふうには触れられていないことで後々影響が出てきた問題として、保護処分の期間が終わってしまった後にその処分は当たっていなかったのだということで取り消しを求める、それはできるのかできないのかというようなことは、この決定ではどういうふうに読み取れますか。
  264. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) この最高裁の決定では、非行事実の不存在が明らかにされた少年を将来に向かって保護処分から解放する手続をも規定したものとして運用する取り扱いがほぼ確立されており、こういう取り扱いは十分支持することができるというべきだ、こういうふうに述べておりまして、その点について直接明確な判断を示しているということは言えないわけでございます。  ただ、その後昭和五十九年の九月十八日の最高裁第三小法廷の決定では、保護処分の執行終了後に保護処分取り消しを申し立てた事案につきまして、次のように理由中で判断を示しております。すなわち、この決定の理由中におきまして、「少年法二七条の二第一項による保護処分の取消は、保護処分が現に継続中である場合に限り許されるのであって、右処分の執行が終了した後はこれを取り消す余地がないとした原審の判断は正当である。」、こう述べて、その点につきまして消極の判断を示しております。
  265. 中山千夏

    ○中山千夏君 というような状態が今の少年の再審についての現状だと思うのですけれども法務省の方ではこういう現状をどういうふうに考えていらっしゃいますか。
  266. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 先ほどの昭和五十八年九月五日の最高裁決定は、その趣旨を真剣に受けとめまして実務に反映させております。  それから、五十九年九月十八日、保護処分終了後の取り消し請求は認められないという点は、現行法の文理上当然のことであるというふうに考えております。
  267. 中山千夏

    ○中山千夏君 文理上当然のことだというのはわかるのですけれども、成人の刑事事件ですとか、それから少年の場合でもいわゆる十六歳以上で逆送致というのですか、になったような場合にはちゃんと執行が終わった後でも再審を請求できるというのと比べますと、少年であるが吠えに非常に不当な位置に置かれているという気がするのです。これは大変不備だと思うのですが、それはどうお考えですか。
  268. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 御指摘の御趣旨から考えましても、立法論としては十分検討に値するというふうに考えております。
  269. 中山千夏

    ○中山千夏君 これはもう立法で解決する以外にはないでしょうか。私よくわからないのですけれども、少年の名誉の回復を要する場合にのみその法二十七条の二の第一項を類推適用して、取り消しを認めるというふうにしてはどうかという意見もあるというふうに伺っているんです。これは無理ですか。
  270. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) この点につきましてもいろいろの御意見があることは承知いたしております。今、中山委員指摘意見も承知いたしております。  しかし、現行少年法の全体の構成からこの少年法二十七条の二を見ました場合に、やはりそういう解釈でなくて、現行少年法の解釈としてはそこまで広げて解釈するのは無理ではないかというふうに考えております。
  271. 中山千夏

    ○中山千夏君 裁判所はいかがでしょうか、今のと同じ質問です。
  272. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) その点に関連します意見は、現在最高裁に係属しておりますので、意見は差し控えさせていただきたいと思います。
  273. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうすると、立法によるしかないということなんですが、この議論自体は随分昔から、少年保護処分にも再審の道を開くべきだという議論や意見というものがたくさんあったというふうに聞いているんです。その一部もちょっと目にしたことがありますが、この長い間立法を妨げてきた何らかの法律上の問題点というようなものがあろうかと思うんですが、それをちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  274. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) これは中山委員御承知のとおりでございますが、少年法の改正作業がもう相当前から作業を進めておるわけでございますけれども、その過程におきましては今御指摘のような議論が一つなされておりまして、それを取り入れるような改正が妥当であるというような意見法務省としてもそのような意見を公にしたこともございますし、現在進めております少年法の改正作業においては、御指摘のような点を取り入れて立法を図るべきものというふうに考えておる次第でございます。
  275. 中山千夏

    ○中山千夏君 少年法の改正作業以前からそういう意見があったというふうに聞いているんですが、それは法務省の方では承知しておられませんでしたか、それが少年法改正の際にも出てきたということだろうと思うんですが。
  276. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 少年法の改正作業が具体的になりましたのはもう昭和四十年代の前半でございますので、その当時、既にそれまでになされておりました議論もしんしゃくして作業を進めているというふうに考えております。
  277. 中山千夏

    ○中山千夏君 少年法改正になるまで、四十年代前半といいますと、そうすると一九六〇年ですから、そのころまでに何らか手当てが施されていてもよかったような気がするんです。それは法律的には問題はなかったんですか。立法していく上でこういうところが難しいとか、こういうところが問題だとか、あるいはそれ以前にこだわりませんが、再審の条項をつくるについては、審議会の中でいろいろ議論が出たと思うんです。どういうところが問題点になったかということをちょっと聞かせていただきたいんです。
  278. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 一言で申し上げますれば、現行少年法の立て方といいますか内容一つ一つの理念を持って貫かれておるわけでございます。今御指摘の点をそこへ入れるということになりますと、ただ一条、二条を入れるというのではなくて、やはり少年法の構成といいますか、内容の大幅な改正が必要であるということから、少年法の全面改正作業の中で、その一つとして検討を続けてきたということでございます。
  279. 中山千夏

    ○中山千夏君 ちょっとよくわからないんですが、私なんか素人が考えますと、全部立て変えなければこれは解決しないというような問題ではなくて、もう少し再審ができるようにするということだけを定めるのはそんなに難しいことではなかろうというふうに見えるわけです。だから、どういう問題点がありましたかということをお伺いしているんで、ひとつ素人にもわかるようにお話し願えればと思います。
  280. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) ちょっと抽象的な表現になろうかと思いますが、よく言われておりますように、現行少年法は保護主義の建前から、審判手続につきましても、通常の刑事訴訟手続とは違いまして、極めて非定型的職権主義的な方式を採用いたしております。それから、事実認定に関する証拠調べにつきましても、通常の刑事訴訟手続では厳格な要件、手続が定められておりますけれども、それについても、少年法では非行事実の認定について証拠調べの手続はほとんど規定が置かれておりません。結局、家庭裁判所に大幅な裁量権が与えられておるということでございます。いわば国親的といいますか、保護、教育というものを表へ出して、裁判所の指導があって、その裁量で、一条の「目的」に書いてございますような少年の保護、教育を図るという見地で貫かれておるわけでございます。したがいまして、そこへ家庭裁判所の審判手続を全くそのままにして今の再審の制度というようなものを設けること、これは制度全体とのバランスを欠いて、法的安定性確保の面で問題があるということに尽きようかと思います。  例えて申し上げますならば、その非行事実がない場合の家庭裁判所の決定の主文は審判不開始か不処分になるわけですが、本来であれば、その非行事実は不存在という主文があってもしかるべき、その一事にあらわれますように、制度全体がそういう少年の権利保障とか厳格な事実認定という精神ではできておらないわけです。それはそれなりに理店があり、一つ考え方であろうかと思いますけれども、そういう点から一条、二条を置いて再審の点だけをそこへ規定するということは無理ではないか。しかし一面、今御指摘のように、少年の権利保障の強化あるいは事実認定の正確性を担保するための審判手続を整備するという両面からは、立法的に改善を図るべき必要性は認められるわけでございますので、そういう面で、少年法全体についてあるいは相当部分についての改正一つとして、あるいはその中で解決を図るということで今まで来たわけでございます。
  281. 中山千夏

    ○中山千夏君 家庭裁判所の職権が非常に強くなっていて刑事事件とは違う対応をとっているということの意味なんですが、それはやはり普通の犯罪と違って、少年たちの保護育成といいますか、そういうことに重点を置いたためにそういう形になっているわけだろうと思うんです。そうすると、例えば家庭裁判所にそういう職権があっても、その家庭裁判所がそういう職権を持っているから事実の認定がよくできないのだということにはならないような気がするんですが、それはいかがでしょうか。
  282. 筧榮一

    政府委員筧榮一君) 事実の認定がしっかりしていないとかいるとかということではございませんで、結局、今申し上げましたような精神から証拠調べの手続に関する規定もない、したがって事実認定について厳格な規定もないわけでございます。  もちろん、これは今後立法的に改正しましても、その家庭裁判所の主導権といいますか、それは何らかの形で当然維持されるべきものだと考えておりますけれども、とにかく現行の少年法の審判手続、それから事実認定の手続というものが全く家庭裁判所の裁量に任せられていて、どういう証拠でどういうふうに認定をするということが定められておらない。それから、一般の刑事手続のように公開ではございません、全く密室で行われる。それから、先ほど申し上げましたように、その主文でも、事実が不存在だというような主文がなされる建前にはなっていないわけでございます。あくまでその少年を保護し、教育するためにどういう措置が必要であるかということを裁判所が総合的に判断されるという手続でございますので、そこへ再審といいますと、厳格な事実認定をもとにしてその当否を争う権利保障という面が強く出てまいります。もしそういうことであるとすると、その審判手続についても通常の刑事訴訟手続と同じという必要はないと思いますけれども、やはりその前提となる証拠調べ手続といいますか、事実認定などの手続等も規定する必要がありますし、少年法の構成全体について検討を加える必要があるということでございます。
  283. 中山千夏

    ○中山千夏君 もともとそういう事実認定の手続などが余り規定されていなくて、裁判所の裁量に任されていたという部分は少年のいわゆる非行に対する一つの姿勢であったと思うんです。私が感じているところでは、だんだん現実の姿勢が逆に大人の犯罪を扱うのと変わりがなくなってきた。これは時代にもよるのかもしれませんが、私は詳しいことはちょっとわかりませんけれども、だんだんに扱いが大人の犯罪に対するものに近づいてきまして、保護処分にしましても、本当にこの少年にはこういう処分をした方が将来のためにいいのだという見方よりも、その少年がやった非行の重さといいますか、それに準じて割合機械的に処分を当てはめてしまうというような傾向がだんだん出てきた。それで、事実の誤認というようなこともそういうことに伴って問題化してきた。そこで、少年の再審というようなものが大きな問題になって最近浮かび上がってきたのではないかというふうに私は思っているんです。そういうふうに見えるんです。  だから、一番最初にこの少年法をつくったときの精神によって、子供の非行というものに対する姿勢は何とか変えないで1今のお話だと、今実際そうなってきつつある子供の非行を犯罪のように扱ってしまうというのをそのまま法律の中に取り入れてしまうような気がするわけなんです。だから、そちらの方へ行かないで、子供の非行というものに対するもともとの少年法が持っている姿勢というものはそのままにしておいて、例えば家庭裁判所の裁量というものの中でももっと事実の認定作業をきちんとやっていくようなことは可能ではないかと私は思うんです。家庭裁判所としてはいかがお考えになりますか。
  284. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) 現行少年法は、御指摘のとおり、細かないわば手続的な規制を設けておりませんで、幅広く家庭裁判所の裁量にゆだねているわけでございます。その根本の趣旨はやはり教育主義、保護主義の思想に立っておるということによるものと理解しております。ただ、保護処分を科する場合、保護処分も少年に対して強制的な処分の性格を持つわけでございますから、その要件一つとして、非行事実の存在の認定ということは重要な意味を持つわけでございます。したがって、非行事実の認定につきましては合理的なものでなければなりませんので、運用上、少年の権利の保障の趣旨に従ってできる限りの慎重な配慮がなされておるわけでございます。でありますから、現行法の少年法のもとにおきましても、運用上、事実の認定につきましては誤りがないような慎重な配慮がなされているものと考えるわけでございます。  しかし、これをすべて運用にゆだねるのが適当かどうかという立法論の問題になってまいりますと、ある程度事実の認定につきましても証拠法則のようなものを取り入れる余地は十分にあろうかと考えておるわけでございます。
  285. 中山千夏

    ○中山千夏君 処分取り消し事件というのが毎年少しずつあるようですね。裁判所の方からちょっと資料をいただいたんですが、この処分取り消し事件の新受件数、取り消し件数両方ですけれども、四十二年あたりからがたんと減っていますけれども、これはどういう理由なんですか。
  286. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) 保護処分取り消し事件の新受件数につきましては、昭和二十七年から統計がとってございまして、統計によりますと、昭和二十七年から昭和三十三年くらいまでは新受件数が約五百件ないし六百件台から百件台くらいまでに減ってきておりますが、この時期にはまだかなりの新受件数が見られるわけでございます。その後次第に新受件数が減少しまして、昭和四十二年には一けた台まで減少しておりまして、その後約二十年間、今日に至るまで大体二件ないし四、五件くらいのところで推移してきておりまして、ここ十年くらいの数字を見ますと、年に二、三件の新受件数と、こういう状況でございます。  二十七年から三十三年ころまでかなり多い数ございますが、これの理由につきましては、少年法の二十七条の二が昭和二十五年に新設されておりますが、その立法理由を見ますと、少年が年齢を偽って少年として家裁に送致され、さらに審判を受ける事例が相当多かったので、これを是正する必要があるということからこの条文が設けられたということのようでございまして、このことから推察いたしますと、こういった年齢詐称の事例が大部分を占めているのではなかろうかというふうに思われます。当時は戦災孤児と称する少年あるいは実際にも孤児が多かったかと思いますが、これらの少年の本籍が全然わからないというようなことから、年齢も判然しないというような特殊事情がかなりあったものというふうに見受けられます。
  287. 中山千夏

    ○中山千夏君 相手が子供であるだけに、私は普通の大人に対する再審よりも重要なんじゃないかと思うわけです。というのは、確かに保護処分はいろいろ裁判所の方で考えて、これが適当だと思われる適切な処分をもちろん考えられるんでしょうけれども、その根本が誤っていまして、処分は本当は要らない子供に何らかの処分をしてしまうというのは大変影響が大きいことですし、それからもう一つは、今ちょっと問題にしました、処分が終わってしまってからでも子供の名誉という問題はやはりあると思うんです。  事実上非公開で審判が進められる、それから新聞でも名前は出しませんけれども、少年院にいたというようなことは一生ついて回るわけですよ。だから、もしそれが無実であったら、ちゃんとその子供は罪を晴らしてもらわないと、一生ちょっとおかしくなってしまうという気がするんです。そんなことが一件でも二件でも国の力によってあってはならないと思うので、この再審という問題はよく考えていただきたいと思うんです。  ただし、それがどうしても少年法の改正というような問題と絡めて出てきますけれども、少年法の改正はもう世の中でもいろいろ話題になってきましたように、とても問題が多いと思うんです。なかなかこれは片づかない問題だろうと思うんです。反対もいっぱいありますし、それから、私自身もやはりどう説明を受けても、いろいろな政府の書類を読んでみたりしましても、どうしても一番少年の保護、育成ということを最初に置いているよりは刑罰の方へ傾いていっているという感じがするわけなんです。  それで、一つには現行法の中でも、家庭裁判所には人手も少なくて大変でしょうけれども、頑張っていただいて、とにかく間違った審判が行われないように、手続がないとかなんとかという方へ逃げるのではなくて、裁判所の裁量ということが決まっているということはそれだけ裁判所に対する期待も大きいわけなんですから、何とかひとつ頑張っていただきたいというお願いが一つです。  それから、もう一つ法務大臣にお願いしたいのは、今現在自分は無実だと叫んでいるような子がいるわけなんです。そうすると、少年法の改正みたいなことに絡めて問題の多いところを無理やりやっていくといつになるかわからない。何とかこの問題は、別にそう少年法の全体的な改正にこだわらなくても、今までの少年法の姿勢の中でやれるんじゃないか、立法上措置ができるんじゃないか、その辺のところをひとつ研究をしてみていただきたい。今現在そういう子供たちがいるわけですから研究をしてみていただきたい。これは法務大臣に対するお願いなんです。いかがでしょうか。
  288. 嶋崎均

    ○国務大臣(嶋崎均君) 先ほど来十分こちら側からも答弁をしておるところでございますけれども、少年法の改正の中で刑事裁判の再審に相当する制度を設けたらどうかというようなことが中でも議論をされている経緯があるわけでございます。しかし、少年法の改正自体ということになりますと、相当長い論議を積み重ねてきておりますけれども、なかなか難しい点もあるわけでございます。私もよく存じ上げておりませんけれども、例えば十八歳というようなところからどう考えるかというような問題が一番大きな問題になっているように思っておるわけでございます。  そこで、御承知のように、現在の少年法の考え方は、先ほど来説明申し上げておりますように、少年の健全な育成を期しまして非行のある少年に対しましてできるだけ矯正と環境の調整というものを十分進めていく、本質的には保護的、教育的な措置をとっていきたいという考え方を基本にとっておりまして、また、それに対応する形において家庭裁判所の中でいろんな証拠法手続等につきまして相当の裁量権も与えて処理をするという建前になっております。また、現行の法制下でも今御指摘にありました保護処分取り消しの制度がありまして、誤った裁判によるところの保護処分の執行から少年を将来に向かって解放するというような手続も実はあるわけでございます。  今御指摘になっていたのは、ごくまた限られた事例の限られた話でお話しになっているように思っております。しかし、先ほども申しましたような考え方が基礎にあるわけでございますから、我々としましても少年法の考え方全体を考える基礎的な部分と連なりのある部分もあるわけでございます。したがって、その部分だけ切って何か特別な措置というようなことはどうも考えにくいやり方ではないかというふうに思っておりますが、今後とも少年法の改正問題とあわせて研究をさしていただきたいと思っておる次第でございます。
  289. 中山千夏

    ○中山千夏君 家庭裁判所の御意見をお伺いして終わりたいと思います。
  290. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) 裁判所としましては、少年保護事件につきまして保護処分の基礎として非行事実の存否に関する判断は重要な意味を持っておりますので、この点について誤認があってはならないという姿勢で慎重に運用してまいってきておりますし、また今後も一層努力をする必要があるというふうに考えておるわけでございます。  それと同時に、保護処分の要件のもう一つ要件としての要保護性の判断がございます。これは、少年の教育、保護という目的に照らして、非常に少年保護事件においては重要な意味を持つものでございまして、少年の更生のためにどのような処分が適当、必要であるかということについては要保護性の判断にかかってくる面が非常に大きいわけでございます。そういう要保護性に応じた適切な処分がなされるよう従来から努力しているところでございまして、最近非行事実の種類、内容によって処分が決まる傾向があるんではないかという御指摘がございましたが、私どもはそのような傾向はないものと考えておるところでございます。この点についても適切に運用してまいるつもりでございます。
  291. 中山千夏

    ○中山千夏君 ありがとうございました。終わります。
  292. 二宮文造

    委員長二宮文造君) 本日の調査はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時七分散会      ―――――・―――――