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参考人(
山本宗平君)
労働省産業医学総合研究所労働保健研究部長の
山本宗平でございます。
専門は労働生理学でございますが、現在中央労働災害防止協会で組織しておりますOA化などに伴う労働衛生対策
研究委員会の座長を務めております。そういった
関係で、昨年の十二月より
パイロットシステムの
評価委員会に参加しております。きょう申し上げることは、まずVDT
作業に伴う
作業者の健康管理上の問題一般についてお話しいたしまして、その後
パイロットシステム評価に
関係する衛生管理の面について触れたいと思います。
一般にオフィスの
業務の
内容を見てみますと、文書の作成でありますとか、
計算でありますとか、あるいは文献検索といったものが多く占められております。そして、こういった
作業の
内容のところにVDT
作業が急速に導入されてきているわけでございます。このVDT
作業と言っております
作業の形態を簡単に申しますと、ブラウン管の画面を見ながら行う
作業であると言うことができると思います。そしてこれに
コンピューターが接続されておりますので、例えば
計算のような
作業をする場合にはその
計算の
過程をブラウン管の画面に表示させることができるわけでございます。そのようにしまして
作業過程のミスのチェックといったこともできるわけでございます。
さて、こういったVDT
作業が
日本に導入され始めたのが
昭和四十六年ごろからでございますけれども、
昭和五十年ごろに至りまして急激に多くの事業所で導入を始めております。私どもが昨年私どもの
研究所で行いました調査を見まして気のついたことでございますけれども、設置場所のところを見ますと、一般事務室に非常に多く設置されておりますけれども、それ以外にも非常に設置場所が多岐にわたっているということに気がついております。例えば
作業場でありますとか、場合によっては倉庫といったところに設置されておるわけでございます。こういった状況から
判断しまして、やはり導入のスピードが急速である、そういったことからまだ設置場所の整備が完全にできていない、そういった状況のところに導入されているといったことも推測できるわけでございます。
このようにいたしましてVDT
作業者の数も急速にふえてきたわけでございますけれども、昨年に至りまして大型のアンケート調査が実施されております。VDT
作業者の間でいろいろな身体上の自覚的な症状が報告されてきたからでございます。例えば労働省でも調査をしておりますし、また総評あるいは電機労連といったところでも調査をしております。さらに私たちの
研究所でも調査をしております。このような調査結果を見てみますと、おおよそその身体的な症状が三つほどのグループに整理できると思います。
一つが目の疲れに
関係するものでございまして、調査によりまして若干の数値の違いがございますけれども、ほぼ七〇%から八〇%の
作業者に目の疲れの訴えがあるという結果が出ております。それから第二番目に多い自覚症状としましては、首、肩、腕の凝りあるいは痛み、そういった症状でございまして、ほぼ四〇%から七〇%の
作業者にこういった訴えがあらわれておるようでございます。第三番目の症状としましては、精神的な疲労に
関係するものでございまして、十数%から五〇%近くの
作業者が訴えているという結果が出ております。例えばいらいらでありますとか不安、あるいは抑うつ
状態、そういった症状が見られると言われております。
このような現状を踏まえまして、それでは労働衛生対策をどのように進めていくかといったことが問題になるわけでございますが、こういった面につきまして専門の学者もそれぞれの立場から
研究をしております。
日本の場合どのような学会がこれに関与しておるかと申しますと、例えば
人間工学会という学会がございます。それから産業衛生学会という学会もございます。私もこの産業衛生学会の会員になっておりますけれども、ここでVDT
作業に関する
研究発表の数が非常に多くなってきております。
昭和五十八年には八題ございましたが、五十九年には十五題にふえております。そして六十年には十八題といった形にふえてきております。また、照明学会でも大変な関心を寄せまして、照明学会独自で文書を作成しております。
一方、外国の事情でございますけれども、外国の方ではこういった
研究がやや先行しておりまして、一九七五年、
昭和五十年ごろでございますけれども、スウェーデンの学者が
最初にディスプレー
作業の健康に与える影響を指摘しておりますが、その後、五年たちまして一九八〇年にミラノでワークショップが開かれております。このミラノのワークショップには世界各国から
関係のある学者が集まりまして、いろいろな角度からこの問題を
検討しております。三十九題ほど報告されております。ここで、このVDT
作業に
関係する問題点のおおよその要因が出そろっていると解釈してよかろうかと思います。
それでは、どのような問題点がそこで指摘されているかということでございますけれども、第一の問題点が視覚的要因でございます。目に
関係する要因でございます。このVDT
作業といいますのは、先ほど申しましたように、特徴がブラウン管の画面を見る
作業でございます。非常に見る
対象が特殊でございます。そこで、このブラウン管画面に表示する
文字でございますけれども、ドットで構成されております。したがって、輪郭がぼけているという欠点があるわけでございます。それからまた室内の照明も大きく
関係してくるわけでございます。発光体を見ておりますので、普通の文書ですと室内照明を上げていきますと見やすくなるということがわかっておりますけれども、テレビを見ると同じような状況でございまして、室内照明を上げますとかえって
文字あるいは図形が見にくくなるといった特徴があるわけでございます。それ以外にも、反射の問題でありますとか、あるいはグレアの問題でありますとか、あるいは点滅、フリッカーの問題でありますとか、そういった目に負担を与える要因が幾つか考えられるわけでございます。
第二番目の問題点が姿勢要因と言われておりますけれども、
作業姿勢が大変大事であるといった指摘でございます。つまり
作業の
対象がブラウン管の画面を見るということと、それ以外に文書を見ます。それからキー操作もいたします。そういった
関係で
作業の
対象が三つほどございますので、
見方によりましてはその姿勢の拘束が大きいということになるわけでございます。そこで、机の高さでありますとか、あるいはいすの高さでありますとか、そういったことが重要な衛生管理上の問題点になってくるわけであります。
第三番目が環境要因でございますが、空調でありますとか、あるいは騒音でありますとか、あるいは静電気の問題、そういったことも問題点として指摘されております。
次がワークデザイン要因でございます。これは
作業時間と休憩のとり方の問題でございます。
作業時間と休憩のとり方が適切かどうかということによりまして
作業者に与える疲労に大きく影響するということがわかっております。
それから
最後に、五番目の要因としましてパーソナル要因が挙げられておりますが、これは
作業者が高齢者の場合はどうであるかとか、あるいは
作業者の視力が極端に低下しているといった場合にはどのような影響があるかといった問題から始まりまして、モチベーションも疲労に大きく
関係してくるというようなことが指摘されているわけでございます。
このワークデザインの問題は大切だと思いますので、もう少し追加させていただきたいと思いますけれども、これに
関係する要素としまして幾つか指摘することができると思います。
一つは、その
作業内容の多様性ということを考えていく必要があると思います。例えば私たちも幾つかの事業場を回りまして
作業内容を整理してみたわけでございますけれども、原簿を見ながら数字を入力するといった銀行などで行われている
作業がございます。それからまた
プログラムを作成するといった
作業もございます。また図表の作成、修正といった
作業もあるわけでございます。このような
作業を負荷、負担という面から見ますと、
作業のペースがある
作業は
機械によって規制されております。しかしまたある
作業は
作業者自身によって自律的に調節できるといった面がございます。
作業のペースによって負荷が大きく違ってくると思われます。
作業姿勢につきましても大
部分は座位で
作業をしておりますけれども、場合によっては立位で
作業をしておるという場合もございます。
それから次に問題になりますことは、他の
作業との組み合わせの問題でございますが、ローテーションという問題でございますけれども、私どもの調査によりますと、専任のVDT
作業者というものが意外と少なくて、大
部分は兼任の
作業者でございます。つまりいろいろな
作業の組み合わせの中の
一つとしてそのVDT
作業を行っているということがわかってきております。外国の方でもこの
作業の分類について幾つかの報告がございますけれども、例えば視線を固定した
作業というものと視線を移動させる
作業といった区別をしている学者もありますし、また入力型
作業と対話型
作業といった区別をしている学者もあります。この分類は割合と普及しているようでございます。
このように、
作業のタイプが違いますので負担の
内容も大きく違ってまいります。幾つかの報告がございますけれども、例えばある報告を見ますと、ブラウン管のスクリーンを見る時間が長くなりますと眼精疲労が多くなってくるといった報告がございます。そしてこの場合には職業上の圧力といいますか、プレッシャー、それは余り
関係ないといったことを報告しております。また、ある学者は
作業ペースが
機械によって規定されておる場合には精神的なストレスが多くなってくるといったことを報告しているわけでございます。
さて、こういった状況の中で、現実にどのような形で労働衛生管理を進めていったらよろしいかということになるわけでございますけれども、これは各国で勧告なりあるいは指導要領を出しております。アメリカ、西ドイツ、スウェーデンなどで出しておりますが、
日本の場合にも、昨年の二月、ガイドラインを出しております。労働省でガイドラインを発表しております。それ以外にも電機労連あるいは同盟、あるいは目黒区などで基準あるいは指針といったものを出しております。
さて、労働省で指針を出しましてから現在まで一年ちょっとたっているわけでございますけれども、その後また幾つかの問題点が指摘されてきております。例えば精神的なストレスの問題でありますとか、また先ほども言いましたけれども、照明学会の方でも新時代における照明の調査
研究といったドキュメントを出しております。国際照明学会でも文書を発表しております。そして学会の方でも多くの発表がなされているわけでございます。
そこで、この
パイロットシステムの
評価に当たりましてはガイドラインとその後出された幾つかの問題点、そういったものを総合的に含めまして
評価していったわけでございます。この
パイロットシステムの
評価委員会が発足したのが五十八年三月でございますので、二年ほど経過しておるわけでございます。この二年間という期間は大変重要な期間であったと私は思います。この期間に健康診断が行われておりますし、またガイドラインに沿った環境基準の
評価といったものもなされております。そしてまた職員の研修が六回ほどなされております。健康教育もなされております。これは試行期間といった
意味で大事な問題だと思います。また
登記事務の方は受付、調査、記入、校合といった一連の工程でございまして、これはある種のローテーションでございます。したがってペースを規定された単純
作業ではないといった特徴があると思います。
それからさらに大事なことだと思いますけれども、プログラミングをする際に現場で
プログラムをしておりますけれども、このときに
作業の経験を非常に生かしながら
プログラムをしております。こういったことは現在ME化が進行する中で
人間の疎外といったことが問題にされてきておるわけでございますけれども、
作業者の経験を生かすということでストレスの解消に大きく役立つであろうと思いますし、また、こういった一連の系統的な事務
作業の
コンピューター化のパイオニア的な
仕事として非常に大きな
意義を持った
仕事であろうかと思います。
以上で終わらせていただきます。