○三橋
参考人 三橋でございます。
私は、
豊田商事被害対策大阪弁護団の
団長を務めておりまして、また、その
関係で
全国の弁護団連絡
会議の代表の一員を務めさせていただいているものでございます。
私は、私たちの弁護団に寄せられております
被害者の手記を取りまとめ、御紹介するということを中心といたしまして、
意見の開陳をさせていただきたいと思います。
まず
最初に、ちょっと
被害の概要を申し上げておきたいと思いますけれども、既に新聞紙上等で御
承知のとおり、債権の
届け出の行われました
被害者数が八月末現在、
全国で二万五千三百七十二人でございます。その
被害総額は一千百十七億、平均
被害額は四百四十万ということになっておりまして、南は沖縄から北は北海道まで、文字どおり
全国津々浦々に
被害が発生しておるわけでございます。たしか高知県だけが
被害者が出ておらない、それ以外はすべての都道府県において
被害者が発生しておるという現状でございます。
私たち大阪の方から
届け出ました者も約一千名、平均
被害額が五百二十万、そして、年齢、性別の比率を見てまいりますと、六十歳未満の男性はわずかに一三%でございまして、いかにお年寄りと女性とがねらわれたかということが歴然としております。
そこで次に、
被害者の手記によります本件
豊田商事詐欺商法の
被害の
実態と特色でございます。
先ほど
岩本参考人あるいは
北野参考人から申されましたとおり、この
豊田商事由法と申しますのは、どうも
最初から真っ赤な
詐欺商法でございます。そのことを
前提といたしまして、
被害者の手記にうかがわれる特色を申し述べたいと思います。
まず第一に、
被害者は長年こつこつと働いてきたというタイプの方が多く、その汗と涙の結晶ともいうべきとらの子の蓄えが
被害に遭っておるということでございます。
この手記は
被害者の息子さんが書かれたものでございますけれども、「私の父は十五歳のときから中卒の無学、油まみれにただまじめに働き退職金とわずかな貯金を得たのです。年老いて行くところもなくなった今一瞬にして一生の蓄えを豊田の連中にむしり取られてしまったのです。見る見る真っ白になった頭、目は落ちくぼみアフリカの土人のように腹ばかり膨れた姿は到底正視できるものではありません。」
それからいま
一つ、女性の手記でございます。「私は八十一歳の老婆でございます。戦後北鮮から身
一つで引き揚げてまいりました。それからは昼は工場へ、夜は仕立て物と自分で感心するほどよく働きました。一生のうちで二度もこんな思いをするのは前世で何か悪いことでもしたのかと思います。主人には十四年前に先立たれ、一人の娘を嫁入りさせましてどうやら子供の世話にもならず静かに暮らしてまいりましたのに。」
それから第二番目に、
被害者は人のよい、人の話を断りにくい、こういう性格の方が多いように思われます。社会の根底を支えてきた善良な庶民の
方々であると思います。
それから第三番目に、お年寄りの夫婦、ひとり住まいの御老人、それから母子家庭、身体が不自由な方など、何らかの意味で社会的なハンディキャップを負った方が多いということでございます。言葉の不自由な中国からの帰国家庭や被爆者が
被害に遭ったという例は、この
委員会でも既に報告されているとおりかと存じます。
それから次に、第四番目でございますが、これからは本件
詐欺商法の手口の特色でございますけれども、まずいわゆるテレホンレディーによる無差別の電話勧誘、これによって目星をつけて、そこへセールスマンが押しかけていくということでございます。非常に多数のテレホンレディーによる無差別の電話勧誘をやりましてそして押しかけていくというこの手口は、非常に大事な問題点だろうと思います。
被害者はこれを悪魔のささやきであったというふうに述懐いたしております。
五番目に、人情というものを臆面もなく完全に手段として使っておるということでございます。最も大事にすべき人情というものを何のためらいもなく金をだまし取り、奪い取るためのテクニックとして使っておるのでございます。例えばおばあちゃんの孫だから自分が
老後を見てやるとか、お母さん、僕を息子と思って安心してくださいと言って手を握る、こういうふうなことを気の毒な
被害者を相手にして平気でいたしておるのでございます。
それから六番目に、どんどん家に上がり込んでまいりまして帰らない、長時間、深夜に及ぶまで粘るといったようなやり方。まことにしつこてく、強引で、時にはすごむようなこともあるようでございます。一種の催眠状態に追い込むところまでやっている例が少なくございません。これも大変重要な特徴であると思います。
それから七番目の特色といたしまして、
被害者たちの
老後不安、先行き不安、
預貯金の目減り不安、こういったものにうまく乗じておるということでございます。
例えばこのような手記がございます。「お母さん国債どんなん持ってるの、と言い出し、国債より金の方が値打があるのよ、と言い、私が年金
生活ですので、これからは年金もパンク、銀行利息も四分になる、
老後どうして食べてゆくの」こういうふうなことを言いながら、新聞記事に朱線を引いたようなものを示しましてしつこく説得していく、こういうふうなことでございます。
それから八番目に、大きなビルの立派な部屋、家具調度、こういったいわゆる
詐欺の大道具に惜しげもなく金を注ぎ込んでおる。あるいは
詐欺の小道具でありますところのパンフレットなど実に立派なものをつくって
被害者を欺いておる。これに湯水のごとく金を使っておるということでございます。
それから九番目に、大きなうそを徹底して並べるということでございます。国がついておりますとか通産省の認可を得ています、こういったことも言っておるのでございます。
それから十番目に指摘されますのは、一たんねらった獲物はとことん逃がさないという悪らつさであります。
最初は根負けさせて少し契約させまして、そこから切り込んで次々と買わせる、あるいは
最初から取れるというふうに見込みをつければ、通帳、印鑑を奪い取って自分で預金をおろしてきて取ってしまう、こういうやり方であります。
それから
最後の十一番目でございますけれども、本件の
被害が単なる財産的
被害にとどまらずして、深刻な精神的
被害、健康、生命の
被害にも及んでいるということを訴えたいと思います。
大事なとらの子をだまし取られたということで、まず
被害者は自責の念を持ちます。みずからを責めるわけであります。それからまた、悔しさの念に責められます。そして不眠に陥って生きる気力も失って、心身ともに健康状態が悪化していく。これは恐らくすべての
被害者に共通した現象であろうと思います。また、お年寄りの場合に、本件のショックで痴呆状態に陥って入院された例とか、あるいは本件が原因で死亡されたと推定される例もございます。自殺の例があることは既に皆様も御
承知のとおりでございます。それから家庭不和に陥っている例も数多くございます。もし今後、
被害救済が不十分であるというようなことでさらに絶望感が広がるといたしますと、取り返しのつかない事態が多数出てくるのではないか、こういうことを大変心配しておる次第であります。また、絶対にそのようなことにしてはならないと存ずる次第でございます。
手記の中から
一つだけ読み上げさせていただきますと、「このごろではショックも重なり、体を悪くして寝たきりになりおばあさんに世話をしてもらっています。今の状態では死ぬこともできないと話しています。どうか助けてください。年老いた妻のためにもどうか少しでも返してください。」こういうふうに訴えておられます。
以上が
実態と特色でございますが、次に、手記によりますと、本件に関する
行政当局、捜査当局の無為無策とあえて申し上げさせていただきますけれども、これを
豊田商事が逆手にとりまして
被害者を説得しておるということがございます。例えば、絶対に大丈夫です。その証拠にあれだけマスコミからたたかれても国から何とも注意も指導も受けておりません。本当に
詐欺だったら国がぼっとくわけがないでしょう。マスコミやテレビで何と騒ごうと国が認めているのだから、国を信じておれば間違いはない、国が信じられなくて何が信じられますか。彼らはこういうふうなことを
被害者に堂々と言っておるのでございます。
最後に、本件
被害の
救済とこういった同種の
被害の根絶ということについて、若干
意見を申し述べたいと思います。
本件は、御
承知のとおり
破産管財人に鋭意努力をしていただいておるのでありますけれども、果たしてどれだけの配当ができるかということは極めて厳しい現状でございます。また、この
破産財団からの配当以外に、今のところ
被害者の
救済を図れるというめどのついておるものは何
一つございません。このことをまず
一つ訴えさせていただきたいと思います。
もしこのような
詐欺商法がこれを機会に根絶することもできず、また、こういった気の毒な
被害者の
方々に救援の手が差し伸べられずこれが見捨てられるというふうなことになりましたら、大変ゆゆしいことであると存じます。そのような社会あるいは国といいますものは恥ずべき社会であり国である、非文明の社会であり国であると言わざるを得ないのではないかと存じます。大変激しい表現で申し上げまして恐縮でございますけれども、この
被害者の手記を私読んでおりまして、どうしてもこういった激しい表現で皆様に訴えたいという気持ちを抑えることができないのであります。
今月の二十三日、これは二十四日に
破産債権者の集会がございますのでその前日でありますけれども、
全国各都道府県にできてきております
被害者と家族の会が大阪に集合いたしまして総会を持つことになっております。今後、こういった
被害者の会、それから消費者団体等
関係諸団体を含めまして、
被害救済とこういった同種
被害の根絶のための運動が展開されると存じます。抜本的な
被害根絶の方策、これは消費者に対する啓発教育活動、それから立法の問題、それから
救済につきましては、国の特別な救助的財政
措置の問題あるいは
救済基金の確立の問題等考えられると思いますけれども、この
委員会におかれましても、また
国会、
行政、各当局におかれましても、そのために全力を尽くしていただきたいというふうに切望いたします。
立法につきまして簡単に申し上げますが、
一つは訪問販売法の改正の問題があると存じます。
先ほども申し上げましたテレホンレディーによる無差別の勧誘
行為、もしこれがなければ、この
被害はこれほどもなかっただろう。それから二番目に、勝手に人の家に上がり込んで長時間、相手を催眠状態に陥れるまでセールスをやるという、こういうむちゃくちゃな訪問販売のあり方、こういったものを訪販法の改正によってこの際ぜひとも水際作戦で断ち切っていただきたいと思うのでございます。
それから二番目の方向は、アメリカの立法例にあるようでございますし、また日本でも石川県の消費者保護条例があるようでございますが、こういった欺瞞的な取引
行為の類型を幾つか掲げまして、こういったものを禁止する、そしてこれに対して強力な
一般的な差しとめ請求権を与える。これは、例えば
被害に遭った者は、自分が
被害に遭ったことでもってそういう
商法の差しとめの請求を訴えることができる。これまでの日本の法制から申しますと相当思い切ったことではあろうと思いますけれども、現代の日本の社会の情勢というのは、やはりそこまでひとつ思い切って踏み出していただかなければどうにもならないような状況を含んでおるということも言えるのではないかというふうに思います。
最後に、くどいようでございますけれども、もう
一つ被害者の手記をお聞き取りいただきたいと思います。
「今
豊田商事のものは全部私たちの
お金じゃないのですか、その私たちの
お金を国が一番に取るのであれば、私たちに言わせれば、国が第二の
豊田商事と
国民は言うでしょう。そんなことがあって日本の国と言えるのでしょうか。私たちは日本の国を愛しています。どうか
国民を裏切らないでください。」それから「生きる希望さえもともすれば失いかけている私どもに対し、どうか御理解ある御協力と御支援を心からお願い申し上げる次第でございます。」それからまた、「人を信じることのできない世の中にしたくありません。これからの子供たちのためにもあのような
悪徳商法がはびこらないように取り締まっていただきたいと思います。」
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)