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高梨参考人 信州大学経済学部の
高梨でございます。
私は、この
政府提案の
労働者派遣事業法の立案に当たりまして、
労働省に設置されております中央職業安定審議会の
労働者派遣事業等小
委員会の座長を務めまして、審議会としての
意見の取りまとめの
責任を負ってまいりました。こういう
立場から、この
政府提案の
法案の中身は審議会の
意見をほぼ生かしているという点で総括的には賛成の
立場で私の御
意見を申し述べたいと思います。
まず、中央職業安定審議会での審議の経過と審議の方法でございますけれども、御承知かと思いますが、昨年の二月に
労働者派遣事業問題
調査会の報告が
政府に
提出されまして、それを受けまして中央職業安定審議会の中に
労働者派遣事業等小
委員会が昨年の三月発足いたしました。これは中央職業安定審議会の労、使、公益それぞれ三名ずつの代表から構成された
委員会でございます。都合十六回にわたりまして小
委員会での審議を経て、昨年十一月に安定審議会の総会に小
委員会報告を
提出いたしました。審議会総会でそれが了承されて
労働大臣に
提出されるという、こういうような運びでございました。
さて、問題はこの小
委員会の審議でございますが、
派遣事業につきましてはさまざまな御
意見がございます。強く反対される御
意見も一方にございますと同時に、また早急にこの
派遣事業法で
派遣契約形態の事業についての何がしかのルール規制をしていただきたい、こういうような御希望もございます。そういうようなことで、果たして小
委員会で短時日のうちにうまく労使の
方々のさまざまな賛成、反対の御
意見を集約できるかどうか、正直なところ、私も発足当初にはまだ自信もございませんでした。
まず、そういう実情でございますので、現在日本の産業構造が大きく転換している中で、さまざまな
労働力需給システムがございますが、こういうような
労働力需給システムというものは実情はどういうような
状況になっているのかという、この
実態の把握の作業を進めました。とりわけ、
派遣的
契約形態で行われると思われます事業分野につきましては、関係業界の
方々、また
派遣社員を活用されているユーザーの
方々、またそこで働く
派遣社員の
方々から、この小
委員会で事情聴取を行い、同時に関係資料の
提出を求めました。
こういうような作業を積み重ねまして、
実態として存在する各種の
労働力需給システム、これのタイプ分けを行いました。その中から、現行職業安定法四十四条で禁止される
労働者供給事業というのはどういう需給システムを想定しているのか。また職安法
施行規則四条一項で定めます
請負契約事業というのはどういうような需給システムを前提にしているのか。また、とりわけオイルショックの後、企業の
雇用調整策ということでできるだけ余剰人員を失業者として投げ出さないように企業が
雇用を抱えるために、出向
契約事業というものがかなり普及いたしました。
政府もこれらの出向
契約については
助成金を
給付してできるだけ解雇しないように努めてきたところでありますが、この出向
契約事業、このシステムはどうなっているのか。
それからまた
雇用契約に基づく
職業紹介という需給システムがございますけれども、この
実態はどうなっているのか。それと、新たに
労働者派遣契約事業というものは需給システムでどういう
実態的な
状況にあるのか、こういうような
実態把握に努めました。その中で
労働者派遣契約事業、こういうものの特徴を浮かび上がらせる、こういう作業を一方でいたしました。
それからもう一方では、これもさまざまな御
意見があるところでございますけれども、現行の
法律制度、とりわけ職業安定法と
労働基準法が問題でございますけれども、これらの
法律並びに政令、省令、それから
行政通達がいろいろございますけれども、これらを整理、分析し、検討を加えた上で、法制上これらの各種の需給システムはどのように取り扱われているのか、このことを整理いたしました。
こういうような二つの作業を進めまして、この両者を関連づける。その中から浮かび上がってまいりましたのが、
労働者派遣契約というのは、
派遣元がみずから
労働者を
雇用し、
派遣先での指揮命令系統下で働く、こういう
形態でございます。これと類似は在籍出向
契約がそうでございます。こういうような、
派遣労働者を含めれば三者の
法律上また指揮命令系統上の関係がございます。こういうようなタイプの
契約形態であるということを、このことを私も小
委員会で初めて明らかにいたしました。
その上で、そうなればこの
労働者派遣契約に基づく事業に対する公的規制の実効ある方法はどういうものか、これを
法律案にうたった場合にはどういうように具体化できるか、こういうような作業を進めました。
あわせて、当然
派遣契約事業を見直して法的に位置づける場合には、現行法でもございます
労働組合のみ例外的に許可されて行える
労働者供給事業というものがございます。これについてもさまざまな問題がございます。私などは、
労働組合がもっと熱心に
労働者供給事業活動をしていただきたいとかねがね
労働組合の
方々にも申し上げたところでございますが、どうも現行の
法律や政省令でそれが活動しにくい、こういう部面もございますので、
労働者供給事業活動を
労働組合がもう少しスムーズに行えるようにこの辺の改定を考えたらどうかということ。それからまた、民営企業が行います有料の
職業紹介事業がございますけれども、現在二十八職業ですけれども、これらについてももう少し活性力を持って需給システムとして大いに役に立てるように位置づけたい、こういうようなことで、この検討作業と現行法の
整備の問題も検討いたしました。
以上のような作業を小
委員会で続けてまいりまして、最終的には十一月に小
委員会報告をまとめた次第でございます。
なお、この小
委員会の審議を進めるに当たりまして、当然さまざまな御
意見もございますので、審議の中途でそれぞれ区切りに応じて安定審議会の総会に御報告申し上げ、そこでの全体の公労使の
方々の御
意見を伺い、また必要に応じて労使各側の
方々にはそれぞれ組織にお持ち帰り願って、そこで御検討いただき、その検討を踏まえながら小
委員会の次のステップの議論に進む、こういうようなことで、可能な限り労使双方の
方々の合意を図れるように私は努め、そういうような審議を進めてまいりました。そこで、最終的には大筋の合意を得られて小
委員会報告としてまとめられた次第でございます。
なお、もちろん労使の各側の
方々からさまざまな御
意見がございます。これは立法政策上、
法律というのは制度的には少なくとも論理的首尾一貫性が必要でございます、そうしなければ
法律としてなかなか有効に機能しないという問題もございますので。その筋道に抵触しない限り、それぞれの御
意見は最大限私は取り入れてまとめた、こういうように考えておる次第でございます。もちろん、まだ若干の異論が残されておりますけれども、おおむね妥当という、こういうことで労使の同意を得られた次第でございます。
なお、この
派遣契約事業とか出向
契約事業につきましては、三者の
法律関係でございます。
派遣元の
雇用主
責任、包括的な
使用者責任は
派遣元でございますが、指揮命令という部分的
責任が
派遣先に移ります。こういうような三者の
法律関係は、当然
労働基準法上の問題も呼び起こしますので、
労働基準法研究会にも研究、検討を御依頼申し上げ、その基準法研究会の御
意見も踏まえてここで
派遣事業法なるものの仕組みを考えた次第でございます。
以上が私どもの小
委員会での審議の進め方でございますが、そういうようなことも経まして昨年十一月に安定審議会から
労働大臣に報告書を
提出し、それに従いまして今年一月、
政府は
法案要綱を作成し、再度安定審議会に諮問をいたしました。安定審議会でもまた小
委員会を開いて
政府提案の
法案要綱、またその
法律案なるものを検討いたしました。これについても、その
派遣事業等小
委員会の報告の筋に従って
政府案が起案されている、こういうことでおおむね妥当という
意見をまとめた次第でございます。したがって、今回の
政府提案立法につきましては、安定審議会の意向を十分反映した立法である、私はこういうように判断している次第でございます。その意味で、この
法案について賛成、こういう御
意見を申し上げたい。
それからなお、時間もございませんから、もう一つ、先ほど
小野参考人、
阿島参考人からも
意見が申し述べられましたけれども、一つだけ最後に補足しておきたい論点がございます。
こういうような
派遣事業法を必要とする
経済的、社会的背景の問題でございますが、私は三つの点に注目したいと思います。
今日、産業構造、就業構造が非常に高度化してまいりました。第三次産業化とかサービス
経済化とか、こういうような産業構造の変動が急激に起きております。これを進めておりますのは、ME技術を中心といたします新しい技術的進歩でございまして、これが日本の
経済の活性力を維持し、また
経済成長率を高めていく大変な起動因になっておるわけでございますけれども、この過程で職業が大変専門的に分化してまいりました。こういうような専門的、技術的職業の
需要が急速にふえてきたということでございます。これをいかに活用するかということは、日本の
経済にとって大変重要な問題でございます。そのような専門的、技術的職業、これを中核にして誕生したのが
派遣事業
形態だと私は思います。私は、これは一種の新しいタイプの対事業所サービス業、こういうような業態であると考えます。これが第一点でございます。
第二点は、企業経営は絶えず効率性を維持し、企業としての活性力を維持することが、まさに企業社会としての、企業人としての最大の使命でございます。この過程で、それぞれ企業が本体事業で抱え込むべき事業分野、業務分野と、そうでない間接業務分野とがございます。これらの間接業務分野はそれぞれ専門の業者に外注、委託した方がはるかに
経済効率なり経営効率が高まります。こういうような外注、委託
形態の一つとして
派遣形態が進んできたということでございます。
また、直接的な事務管理部門にいたしましても、臨時的に仕事がふえる場合がございます。こういうような臨時的、突発的にふえる、例えばプログラム開発とか技術の開発とか、こういう際にプロジェクトチームをつくりますけれども、こういうようなところに専門、技術職を
派遣していただく、こういうようなことも企業の活性力、またコストの増加を防ぐ一つの有力な手段でございます。そういうようなことから、
派遣契約事業が成長してくる基盤が与えられているということでございます。
経済学の言葉で申しますと、まさに社会的分業の利益がこれによって発揮される、こういうことでございます。
それから第三番目は、最後でございますが、今日パート
形態で働く
方々、また短時間就業の
方々がふえております。これらのパートとか短時間就業を希望する女性の
方々が大変ふえているという
実態がございます。それからまた、高老齢で、フルタイムの
労働でなしにパートタイムで働きたいという、こういうような御希望の
方々も大変多うございます。
ところが、これらの
方々の
雇用機会は、
現状で十分に提供されているかというと、そうではございません。御承知のように、日本の企業は、とりわけ大企業とか公務員が典型的にそうでありますけれども、新規学卒者を新規に採用し、その以後それぞれ企業の中で熟練技能、職業的知識を身につけて昇進昇格していくという、こういう終身
雇用、年功賃金制の労使関係がございます。この
雇用慣行は私は堅持すべきだと思いますけれども、この
雇用慣行のもとでは中途入職は大変困難でございます。
ところが、
派遣事業
形態というのはこれらの中途入職の機会を提供している。とりわけ、子育てを終わって再度職業戦線に出てきたいという女性がどんどんふえているわけでございますけれども、これらの女性の
方々の就業意欲を生かせる
雇用機会は必ずしも広うございません。これに十分な機会を提供しているのが、私は
派遣事業
形態だと思っております。
それから同時に高齢者対策、これは大変重要な問題でございますけれども、高齢者の受け皿会社を各企業はできるだけ失業者として高齢者を投げ出さないために工夫、
改善されているところでございますけれども、これらの高齢者に対する
雇用機会もこれらの
派遣事業が提供している。こういうプラスの面を私は大いに評価する必要があるのではないか。そのためには、これらの事業のルールが必要でございますので、今回、そのルールを定め、
派遣元、
派遣先が負うべき
責任、それから
派遣社員の賃金、
労働条件の維持
改善、これに役立つようなルールづくりを私は考えた次第でございます。
以上で、私は、
政府提案の立法について総括的に賛成ということで
参考人の陳述を終わりたいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)