○中山太郎君 私は、自由民主党・自由
国民会議を代表し、
総理の施政方針
演説に対し、
日本が選択すべき内外の重要政策について
総理並びに
関係閣僚にお尋ねをいたします。
まず第一に、外交についてお尋ねいたします。
我が国の外交の基軸は、自由民主党
政府が続く限り
日米友好
関係の維持
発展にあることは言うまでもありません。しかし、アジアの動向が
我が国の平和と安全に深いかかわり合いを持つこともまた事実であります。
そこで、まず中ソ和解への動きについてでありますが、両国
関係の本格的な復元への道はいまだ険しいとはいえ、
貿易、
文化、人的
交流の面で逐次改善が見られているのも事実であり、先日、ソ連の大型使節団の北京訪問が十数年ぶりに行われることが報道されています。他方、趙紫陽首相は、先般
アメリカ訪問の際、
アメリカとともに反ソ
共同戦略を築くことは不可能だと言い切っております。これらの点から見て、今後、中ソ両国が和解へと大きく前進する
可能性も全くないとは言い切れないのであります。
我が国としては、既に日中平和友好
条約を締結し、平和友好の法的
基盤は確立しているとはいえ、こうした場合に備えての対応を十分外交的に
考えておく必要があるのではないでしょうか。
政府にお
考えをただしたいのであります。
さきに北朝鮮側から米韓両国との三者会談が提案され、これを受けて
米国からは、
中国をも加えた四者会談、さらに
日本、ソ連を加えた六者会談の構想が打ち出されておりますが、朝鮮半島の緊張緩和と平和的南北統一へ向けての基本的な対話の促進が重要なことは明らかであります。北朝鮮が三者会談を提案したねらいをそのまま受け入れることはできませんが、この機会をとらえ、
政府としても
米国と
協力し、また、三月に
中国を訪問される
総理がその機会を生かして、南北朝鮮の対話促進のための国際環境づくりに積極的に
努力すべきだと存じますが、お
考えはいかがでしょうか、御
所見を承りたいと存じます。
次に、インドシナ半島の状況についてお尋ねいたします。
インドシナ半島の軍事情勢は、
日本にとってもASEAN諸国にとっても極めて重要であります。私は、去る二月一日、国連
社会経済
委員会の主催する
技術移転と多国籍
企業の
会議に招かれてバンコクを訪問いたしましたが、一夕、インドシナ和平実現のためにベトナムを訪問され、ベトナム
政府要人と懇談され帰国された
ばかりのクリアンサック前首相と数時間にわたって懇談し、ベトナム事情を伺う機会を得ました。クリアンサック前首相は、ベトナムへの経済制裁は余り効果を上げていないと自分は感じた、経済は比較的安定しており、一般市場には二十種類に及ぶ
日本の商品も見られた、また大型ダムも完成している、インドシナの平和はベトナム、カンボジア、ラオス三国の協議が基本であり、ASEAN各国とベトナムとの和平協議というものは、タイとベトナムの間に非武装地帯を設置するとかいろいろの問題を含めても相当な時間が必要だろうと
考えていると言われておりました。
日本政府はいかなる方針でASEAN各国とこのインドシナ半島問題を協議されるのか、また、ラオスへの無償援助をどのような方針で臨まれるのか、この際外交方針を伺いたいと存ずる次第であります。
また、中東の
政治的安定が
日本の死活的利益に深いつながりがあることは言うまでもありません。先日、西ベイルートの
日本大使館が
政府軍と民兵との兵火によって炎上いたしました。レバノンの情勢は一層混迷の度を加え、イラン・イラク戦争も解決の兆しも見えず、クウェートにおける米仏大使館の同時爆破事件等、テロが頻発し、サウジアラビアが湾岸防衛網の充実を目指して軍事力強化を急速に進め、これに対してイスラエルが過敏な反応を示しております。
政府は、複雑な諸要素をあわせ持つ中東地域の諸問題解決、この環境づくりに関してどのような
考え方をお持ちでしょうか。
一方、欧州では、
米国のクルージングミサイルのNATO諸国の配備をめぐって
米ソ関係は極めて激しく対立をしております。その中で、サッチャーイギリス首相は近くポーランド、ハンガリー等の訪問に出かけるわけでありますが、東欧各国は
貿易の不振、西側金融機関からの借り入れ累積債務の問題の処理をめぐって大変苦難な状況にあり、西側金融機関もその債務の返済をめぐっては不信感を抱いておるというのが
現状であります。ソ連経済の停滞とともに、ソビエト連邦と東ヨーロッパの共産圏諸国との
関係が今後どのような展開を見せるのか、
政府の
考え方を伺いたいと思うのであります。
次に、安全保障について伺いたいと思います。
今回の
予算案では、野党の方々から、あるいは一部のマスコミから防衛
予算の突出が強く
指摘されています。
日本を取り巻く国際軍事情勢の中で、果たして自由民主党
政府の
防衛計画で
責任を持って全
国民の自由と生命、財産が守れるのかどうか、私どもはこの点に重大な関心を持っているのであります。いかなる
国家も占領されれば政党活動は禁止され、そして言論の自由が封圧されることは
世界の敗戦国の
歴史がそれを証明しております。
ソ連と北の国境を接する
日本にとって、シベリアにある中距離戦域核SS20百三十五基の存在、地上戦力五十二個師団、また航空戦力としてマッハ二以上の速度で四千二百キロメートルの行動半径を有し、射程三百キロメートルのAS4ミサイル搭載のバックファイア七十機の存在、また空母ミンスク及び北上中のノボロシスクは、まさに我々一億一千六百万の
日本国民にとっては大きな潜在的脅威と言わざるを得ないのであります。このような大きな軍事力配備というものが一体どういう意図で行われているのでありましょうか、我々はこれに大きな関心を持たざるを得ないのであります。
ソ連が先般大韓航空の
民間旅客機をミサイルで撃墜したのも昨年の九月一日のことであります。これに対し
日米両国が対ソ経済制裁を発表した直後、ソ連は最新鋭のバックファイア爆撃機三機を
日本上空に接近飛来させたほか、十一月十五日には爆撃機バジャーを含む九機は対馬海峡を南下し、うち三機は
日本領空を侵犯して、ベトナムのカムラン湾基地に配備されています。これらのソ連の
政治的意図、これに対する我々のあり方、これが日ソのこれからの問題解決にとって不可欠の解決しなければならない問題であろうと
考えております。
日本は
貿易で生きていく国であります。経営者も働く
人たちもその家族
たちも、すべて
貿易による利潤の配分によって我々は
生存をしているのであります。輸出総額三十四兆円、輸入三十兆円、これだけのいわゆる
貿易をやる
国家、その
国家の政策というものは、自分の国の周辺及び
世界が平和であって初めて
日本は生産された商品の輸出が可能であり、その商品をつくるための原材料の輸入が実現するのでありまして、野党の方々からは
自民党がいかにも軍備拡大を好み、戦争を求めるかのように攻撃されていますけれども、一番平和を望み、平和のために最大限の
努力をし、戦後三十八年間安全な
国家として維持してきた今日までの自由民主党の
政府のあり方というものは、戦後の一貫した姿であったと私は
考えているのであります。万一周辺国に戦乱が起こったときでも、海上輸送路の安全確保をして、我々一億の
国民がその原材料、
食糧を輸入しながら
生存を守らなければならないというのが自由民主党の基本的な政策であることをこの機会に申し上げておかなければなりません。
この周辺海域の航行の安全を保障するために、いろいろとシーレーンの問題が先般来
予算委員会、本
会議等で議論をされておりますけれども、我々は最も安い投資で最も高い効果を上げるような防衛
制度を整備する必要があるのではなかろうか。そういう
意味で、攻撃力を全然持たない海上偵察衛星というものを
政府は打ち上げる計画はあるのか、ないのか。また、そういうことを検討する意思があるのか、ないのかということをお尋ねいたしたいと思います。
米ソ超大国は、今や本格的な宇宙核戦略本部を設けております。まさに我々の目の届かないところで核戦争の準備が進行しているわけであります。私どもは
世界で唯一の原爆被爆国であり、我々はあらゆる機会を通じて、増大する
世界の核の制限のために全力を尽くして
人類の平和を維持するべきであろうと
考えております。
総理は近くサミットにも御出席のようでありますが、どうかサミットを通じてこの核軍縮というものを、
総理はかねてバランスのとれた軍事力の中で初めて平和の
会議が開かれるであろうとおっしゃいましたけれども、我々
日本の
国民としてはあらゆる機会に核軍縮というものを強く訴えてやってまいらなければならない、そういう
意味で
総理のお
考えを伺いたいのであります。
次に、国際収支と外交でありますが、昨年の経常収支は二百十億二千四百万ドル、
貿易収支は三百十六億四千九百万ドルと発表しております。輸出の好調、輸入原油価格の低落がこの
日本の大きな黒字の原因と見られます。これが一方では、
日本の市場開放を求める欧米各国の批判の火に油を注ぐ結果に相なるわけであります。
今般、安倍
外務大臣が
アメリカを訪問され、
農産物交渉を初め困難な外交懸案に対処された御苦労に深い敬意を表するものであります。しかし、
アメリカ側は通信衛星の購入問題で依然として強硬な態度をとり、また付加価値通信網VANへの外資参入問題やコンピューターのソフトウエア保護問題に関し、
日本側の規制立法の動きに深い懸念を示しているのも事実であります。
通信衛星購入問題については、
我が国の宇宙開発政策との調整、配慮すべき点が多いと
考えておりますが、VANについては、
電電公社改革関連の電気通信事業法案において相互主義のもとに外資
企業の参入規制の例外を設け、
米国側の要請を実質的に満たし得るものにしようとするのに対し、米側は依然として不満の意をあらわしております。
ソフトウエア保護問題については、
米国では著作権としてその権利を保護しているのに対し、通産省が
考えておるプログラム権法案では、特許権的なものとして取り扱おうとしております。米側から開発者の利益保護が不十分だと
指摘されておりますが、この点の整合性について
政府はどのように
考えておられるのでありましょうか、お尋ねをいたしたいと思うのであります。
このように経済摩擦の焦点が、
農産物交渉をめぐっては
日本政府の強い姿勢によって一定
限度以上の
農産物の輸入は国の
食糧安全保障の観点から認めない、こういう姿勢を一貫して貫いてまいりましたが、これから先、先端
技術産業、金融、証券あるいはサービス
産業分野の市場開放、こういうものが
日米間の大きな外交交渉となって登場してくるわけであります。
今年十一月、
米国大統領選挙を控えて、
米国政府また
米国議会は、我々と同様に
アメリカ人の利益を代表する
国会議員が、鉄鋼、自動車、繊維の議員協議会を
中心に、この
アメリカの記録的な
貿易赤字解消のために極めて強い姿勢で
日本に迫ってくると私どもは
考えざるを得ません。
海外に対しては輸出国である
日本は絶えず自由
貿易の
原則を主張しておりますが、
政府はこの
アメリカあるいはヨーロッパ各国からの
日本に対する要請に対してどのように対応していこうと
考えておられるのか、
国民諸君にわかりやすく御解説を願いたいと思うのであります。
次に、国際経済に関連した問題についてさらにお尋ねをいたしたいと思います。
我が国としては、金融・資本市場の開放は中長期的な観点から取り組まざるを得ない問題であり、
総理もこの問題が六月のサミットで議題になると
考えて既に検討を指示されております。
政府は、
政府保証債の発行等も
海外市場で行う、こういうことを
考えておられるようでありますが、どのようにその方針を立てておられるのか、その点についてお伺いをいたしたいと思います。
続いて、
財政再建問題について伺います。
五十九年度
予算のいわゆる増
減税抱き合わせの方式が採用されたことで、
中曽根内閣の
財政改革に対する熱意を
国民は疑問の目をもって見ていると私どもは感じております。今後とも、増税なき
財政再建の方針のもとに歳出歳入構造の合理化、適正化の
財政改革を強力に進めていくことを期待するものでありますが、
総理の見解をお伺いいたします。
第二は、赤字国債の借りかえであります。竹下大蔵
大臣は先日の
演説において、赤字国債を六十年度から借りかえるとの方針を明らかにされました。赤字国債発行の歯どめとも言うべき償還期限十年の全額現金償還方式を建設国債と同様の償還期限六十年の借りかえ方式に移行することは、従来の方式を支持してきた
国民にとって重大な
政府の政策転換であります。変更の理由を詳細に明らかにするとともに、今回の
措置によって国債価格の下落や借換債が増大する等今後の国債管理政策に支障を来すおそれがあるかないか、その点を明らかに願いたいと思うのであります。
税に関して、私は、今日三十五歳から五十五歳のいわゆる働き盛りのサラリーマンの方々の家族、サラリーマン約二千万人、この
人たちが
日本の
社会の中枢をなしているわけであります。一例を四十代にとれば、住宅取得で平均六百三十六万円の借金を抱えている。ローンの返済に平均月六万円、子供の学習塾、予備校の費用など家庭
教育費は二万から三万円以上、
税負担の公平化が叫ばれている中で所得は完全に捕捉、税金、
社会保険料は高い
負担となり、長寿国となって生きている両親の面倒も見なければならない三十五歳から五十五歳の世代。また、その
人たちは同時に子供
たちの
教育の
負担を最も多く受けている世代であります。このようなサラリーマン家庭、働く
人たちの子供
たちの
教育費に対する
減税の意思はあるのかないのか、それについてお伺いをいたしたいと思います。
次に、
教育問題であります。
近年、過度の受験競争、校内・家庭暴力、非行問題、いろいろと
教育のあり方が問われております。戦後行われた
教育改革から既に三十八年を過ごした今日、新しい
教育の
条件と環境の確立を図ることが極めて肝要であろうと思います。今日全国の家庭では、子供が適齢期、幼稚園に入る年ごろになると、どの幼稚園を選ぶか、またどの小学校へ行かすのか、どの中学へ入学させたいか、どこの高校へ行くのか、どこの大学に入れるか、これが親と子の共通の悩みであります。このような試験地獄とも言われる子供
たちの
社会、子を持つ親の悩みというものを解決するために、
総理は思い切った
教育改革をやろうと
考えておられるようでありますが、どのような
考え方で今後取り組んでいかれるのか。一文部省ではなしに、
政府全体が二十一
世紀の国づくりのためのお
考えをお持ちであればお示しを願いたいと思います。
次に、
社会保障について伺います。
経済の低成長化、人口構造の急速な高齢化に伴い、今後各般の厳しい対応がやってくるでしょう。我々が目指した欧米の
福祉国家は、今高い税金、行き過ぎた
福祉、高い
社会保険料、
国民の
政府依存体質、労働意欲の低下、いわゆる
先進国病があらわれています。これを
国民所得に占める租
税負担及び
社会保障費の
負担の割合で見ると、スウェーデンは六七・八%、イギリス、フランス、西ドイツは五〇%台、
我が国は三三・六%で今日まで経過してまいりましたが、これからやってくる
高齢化社会では、
社会保険給付費の膨張と
負担は避けもれないと思います。
医療保険制度の大
改革が行われるのは将来の
高齢化社会に対処するものでありますが、
政府は、この給付と
負担の適正な
関係はどうあるべきか、この点を明らかに願いたいと思います。
次は、
国民の
医療の問題について触れてみたいと思います。
国民医療費は、年々一兆円
程度の増加を来しております。この原因は、人口の増加、人口の高齢化、疾病構造の変化、医学の進歩、患者
負担の減少などが
医療費増大の原因であります。現在
医療費は対
国民所得の六・三四%でありますが、
昭和七十五年、いわゆる二十一
世紀初頭には、欧米
先進国のように一〇%になろうと計算されています。対
国民所得との
関係で適正な
医療費の規模をどういうふうに
政府は見ておられるのでございましょうか、御答弁を願いたいと思います。
今回の
予算編成で決定を見ました
健康保険の本人給付率九割を初め、薬価基準一六・六%引き下げ、さらにこれに伴う診療報酬の二・七九%の引き上げ等は、いずれも
財政危機下の
医療費の抑制政策でありますが、そこにあるのは、
医療費適正化
対策という名のもとに
医療費六千二百億円の
削減という帳じり合わせであると
考えざるを得ないのであります。
医療保険制度を将来とも安定させるには、
医療の実態、背景、これを十分踏まえて、計画的、長期的な
対策を実施していかなければならないと
考えております。一挙に
改革を進めれば
国民は戸惑います。
医療というものは、診療を受ける
国民と診療を行う診療側の理解がなければうまくまいりません。
政府は、今後に残された
医療費適正化
対策にはどういう事項、内容のものがあり、どういうふうにやっていくか、手順を示されたいと思うのであります。
また、各地方自治体では、独自で老人
医療費とかあるいは家族
負担の一部の補てんをいたしております。
政府が一割の本人の
自己負担というものをやってまいりました場合に、家族のいわゆる地方自治体からの補てんによって、本人は九割給付、家族は十割というような矛盾が起こってくる
可能性もあるわけでありまして、この点について
政府はどのような
行政指導をやっていくのか、その点も明らかにしていただきたいと思います。
これから起こってくる問題の
一つに、医師の過剰問題があります。
昭和四十四年、
自民党は六十年までに人口十万に対して医者は百五十人
程度にすべきという方針を出してまいりました。
昭和四十四年私立医大の新設が認められ、地域
対策として一県一医大の設置が進められてまいりました。
昨年十一月、厚生省は五十七年末現在の医師、歯科医師、薬剤師の状況を発表いたしました。届け出医師数は十六万七千九百五十二人、人口十万に対する医師数は百四十一・五人、しかし無届けの医師が八千人余りいるので、これを加えると医師数は十七万六千人と相なります。そうすると、十万に対して医師数は既に百四十九を示しています。厚生省が当面
目標とした
昭和六十年に人口十万に対し百五十人を達成することが明らかになってまいりました。毎年、一年間に国公立、私立の医学部の入学の学生数は八千三百六十人であります。医師過剰
時代に備えて、
政府は一体どのような
考え方でこれから医学部の学生の応募に対する方針を立てていくのか、その点を明らかにしていただきたいと思います。
次に、経済援助と
技術移転について伺います。
我が国のアジア諸国への経済
協力は、二国間援助のうち七割を占めています。とりわけ
中国、
韓国、ASEAN諸国に対する円借款供与は五十七年度末で約二兆七千五百億円に達しております。こうした経済
協力は、アジアの
発展途上国の工業化と中進工業国への成長を助ける効果があったと思いますが、既にブーメラン効果が起こっております。ブーメラン効果というのは、オーストラリアの
人たちが使う遊戯のおもちゃでありまして、一度それを投げたら必ず輪をかいて自分のところへ返ってくる。これをブーメランの遊びと申しておりますが、こういうふうな効果が既にあらわれ始めた。最近
米国からは
韓国の第二浦項製鉄所に対する
日本の援助は鉄鋼製品の
世界的な設備過剰を招くとの批判を呼ぶなど、避けがたい問題点を内蔵していることも事実であります。我々はここで、
技術移転と
産業構造の変化について
日本も含めて深い配慮をせなければいけないと
考えざるを得ません。
我々の国を振り返ってみても、明治
時代は
農業国家でありました。そうして大正、
昭和の軽工業
国家へ、そうして今や大工業
国家に
発展し、さらにコンピューターが導入されて
情報化が進み、
総理は高度
情報化
社会へ
日本は向かうだろうと話をされておられます。一九八一年の国際比較では、
日本は一兆千四百十億ドルの
GNPを示しています。
世界百六十六カ国全体の一割を占め、
アメリカ、ソ連に次いで
世界第三位の
国家であります。また、
貿易の面でも
昭和三十五年のそれを二倍以上も伸ばしています。
こうした
我が国の
世界への日覚ましい輸出の成果は、必然的にこれまであった
日本の
産業構造、輸出構造を大きく変革させました。戦前の主要な輸出品であった生糸、絹織物、綿製品、真珠、緑茶、これが今日、自動車、VTR、超LSI、海水淡水化装置、つまり付加価値の高い工業商品の輸出が
海外に稲妻のように出ていって、これが
相手国の
企業を倒産させ、失業者をふやし、今日の国際
貿易摩擦の原因をなしているのであります。つまり、
世界市場二兆ドルというパイの中で、
日本は平和を維持し、国内の労働市場等の
条件整備が比較的うまく行われてまいりました。労働賃金もずっと上がってきました。
しかし、これから先、どのように
日本政府はパイを
考えていくのか。今日、
米国の失業率は八・二%、失業者九百二十万人、EC各国の失業者は約千三百万人に及んでおります。この背景を検討すれば、第一に我々の
民族の優秀性、明治以来の
教育制度、
国民の勤勉性とともに、忘れてならないのが欧米諸国から導入された
技術であります。
戦後、
我が国の立ちおくれた
技術水準のレベルアップを短期間に図るために、
外国の先進
技術を積極的に導入することが
日本の焦眉の急務でありました。この問題を解決するために、
昭和二十四年、
外国為替及び
外国貿易管理法、これが制定された。
昭和二十五年の外資に関する法律、これも制定をされた。この法律の裏づけによって
外国からの
技術が導入され、その
技術料の長期にわたる支払い、
海外送金というものを
政府が保証した結果であります。
我々は、導入した
技術を利用して、できる限り
外国の商品に負けないような優秀な商品の生産に労使一体となって働いたわけであります。そして、輸入された
技術をさらに改良して、もとの
国家のつくった商品よりもさらに優秀な商品となって自動車、テレビ、VTR、あるいは海水淡水化装置が現在
世界各国に輸出されているのであります。これが今日の
日本の繁栄の原因であります。
しかし、各国はどのように批判しているか。
日本が自分の手で
外国の
技術を利用して完成品をつくっていく。こういうことで各国の
貿易を見ると、完成品の輸入率が
日本は三四%、
米国は五七・四%、西ドイツは五八%、英国は六五%、フランスは六〇%となっております。このために
日本の非関税障壁の排除というものを
アメリカ、ヨーロッパ各国が
共同して迫ってきたのが昨年来の大きな問題であったのであります。
こういう現象を
考えてまいりますと、私どもは、
政治と経済と
科学技術の絡まりというものを無視してこれからの
日本の政策を立てるわけにはまいりません。我々の
技術というものは、一体どの
程度に輸入、輸出されているのか。
昭和五十六年度の
民間会社等の
技術輸出入の実態は、輸入件数七千二百七件、金額二千五百九十六億円に至っています。
技術を輸出している件数は四千八百七十七件、金額は千七百五十一億円であります。主として
アメリカ、シンガポール、インドネシア、
韓国、ブラジル、これが輸出国であります。
技術を導入している国は、
アメリカが一番多い。それに次いで西ドイツであります。我々が
発展途上国に
協力する
技術と資金、これはやがて労働賃金の安い各国で
日本の機械と
技術によって生産された物件が
日本の市場に迫ってくることは明らかであります。
私は、一昨年、江崎調査会のメンバーとしてヨーロッパ、
アメリカ、ASEAN各国の首脳と懇談をいたしましたが、その際に各国の
産業界の
人たちの
意見の中に、ぜひとも
日本の輸入承認
制度の改善をしてほしい、そして
日本の工業規格をぜひ我々の
国家の中にある工場に認めてほしいというのが大方の要望であったのであります。これは単に経営者側だけの問題でなく、働く
人たちの
生活にもかかった大きな問題だと私どもは
考えておりますが、こういうことに関する
政府の
考え方はどのようにこれから
考えていかれるのか。また、その影響をもろに受ける
日本の中小
企業が、どのようにこれからの
貿易摩擦や国際的な生産過剰の中で生きていけるように
政府は指導されるのか、その点を明らかにしていただきたいと思うのであります。
我が国のこの繁栄の基礎は、今申し上げたように
科学技術の振興とそれの改良であります。
科学技術関係予算は、
昭和五十年度から五十八年度までの間に実に十兆四百億円投入されております。五十九年度の
科学技術振興費は、超緊縮
予算の中で前年度比三・二%の増となっております。
総理府統計局の
科学技術研究調査報告によれば、
日本の
研究費は昨年度五兆八千八百十五億円、うち
国家と地方
公共団体が一兆三千八百八十八億円で二三・六%、
民間が四兆四千八百六十億円で七六・三%
負担しています。
しかし、
研究投資とその効果を評価する
制度というものが、
民間と
国家では大きく差のあることは事実であります。
民間企業においては、
研究投資が一定期間成果を上げなければこれを切り捨てるわけであります。しかし、
日本の
政府機関においては、そのような評価をするきちっとした機関がないと言わざるを得ないのが
現状であります。あえて言えば、衆参両院の我々
国会にもその調査機能はきわめて弱いと言わざるを得ません。これは与野党共通の課題であろうと思います。
科学技術政策の
最高意思決定機関である
科学技術会議も実は形骸化していると言わざるを得ません。
研究目標が設定されて調査費がつき、官庁に担当窓口ができると、パーキンソンの法則によって
予算と人員は膨張の
方向をたどるのが今日の姿であります。いかなる
研究も
予算は単年度方式で、次の年の
予算をもらうために
研究者
たちはその書類づくりに追われているのが、今日の大学を含めた各
研究所の実態であります。
科学技術庁の調整局には、各省の
予算を調整する力はあっても、決定をする権限は与えられていない、そこに大きな問題点があるわけであります。こういう点を
考えると、我々の
国家にとって一体何が今欠けているのか、何が必要かということが御理解いただけると思います。
これはただ
日本だけの問題ではございません。
アメリカにも同様なことがかつてございました。
米国には、しかし、全米
科学財団や
科学アカデミー、あるいは大統領
科学顧問というスタッフがおりまして、投資と効果の評価を極めて厳しくやっておるのが実態であります。その
一つに、
日本と
アメリカと西ドイツの石炭液化プロジェクトが、石油価格の下落とともに打ち切られたということを見ても明らかであります。
米国では、
科学技術の変貌、膨張あるいはその影響あるいは公害問題も含めたいろいろな問題が大きな
社会問題として登場したときに、この問題を予期し、あるいは理解し、それに対応する政策あるいは機関が必要として、
米国議会は一九七二年、テクノロジー・アセスメント法を承認して、議会を補助する機関として七四年一月、上院、下院両院議員からなる
技術評価局を
国会の中に設置いたしたのであります。ちなみに、今年度の
予算は邦貨に直して約三十億円、
専門家百三十名を
米国議会は擁しているということを我々
日本の議会も忘れるわけにはまいりません。
科学技術立国を国是とする
我が国にとって、当然私どもは衆参にもこのような
努力が必要と思いますけれども、
政府におかれても、
政府の投資をする
研究に対して一定期間厳しい評価を行うところの
制度を制定する御意思があるのかないのか、明らかにしていただきたい。
日本では、
科学技術会議も、
日本学術
会議も、
日本学士院も、
科学技術庁もそれぞれ
努力をされておりますが、
政府の意思というものが明確にならなければ、このような評価というものはなかなかできないということも事実でありまして、ぜひこの点明らかにしていただきたいのであります。
産業、経済、
国民の
生活水準の上昇の
基盤をなすものが、そのあらわれとして
GNPという形であらわれております。
昭和五十年から
昭和五十四年までの
GNPの成長寄与率、これは
日本の場合でありますが、資本力、労働力、
技術の進歩、この
三つの分野で計算をする方式がございます。その三分野で見ると、資本は五二・二%、労働は一・二%、
技術進歩は四六・六%の数値を示しております。
昭和五十八年度の年次経済報告によると、過去四カ年の
技術進歩の対
GNP成長寄与率は、資本や労働といった他の要因による寄与率を上回って四三・二%を示しておるのであります。
二十一
世紀に向かう
日本の経済
発展のために、
科学技術の投資の重要性というものがこれで明らかに裏づけされているわけでありますが、我々が迎えようとする
高齢化社会を維持するためにはどの
程度の
GNPの
伸び率が最低必要であろうか。
試算によると、最低三%の
GNPの
伸び率が毎年必要となってくるのであります。その一%は、
現状よりも低いような形での、失業者を完全雇用のような形での姿に維持するための
GNPの
伸び率が最低一%、また高齢者のための給与の費用が一%、あるいは後進国への経済
協力のために一%が必要と言われております。
科学技術の
研究費の
予算というものは、単年度で見るとさほど大きなものではありません。しかし、
一つの大きなプロジェクト、例えば当院に議席を持たれる伏見康治先生が
努力をされた核融合の
研究等、
研究開始から成功まで二十一
世紀に向かって行うわけでありますから、実に莫大な投資金額であります。あるいは他に、これから始まるバイオテクノロジー、ライフサイエンスあるいはファインセラミック、新
素材、いろいろな
研究がありますが、膨大な税金の投資が行われるわけであります。
こういう中で、私は
中曽根総理に申し上げたいことが
一つある。
中曽根総理は、
日本の
政治家の中で最初に
原子力の平和利用に目をつけた、極めて先を見通す力を持った
政治家であったわけであります。
昭和二十六年一月、まだ
日本の
独立して間もないころ、
アメリカの特使ダレスが
日本に来日した際、
日本の
原子力の
研究の自由を認めるように要請する文書をダレスに渡されたのが、今日の内閣
総理大臣中曽根康弘氏であります。
昭和二十九年三月、二十九年度
予算をめぐる改進、自由両党の
予算修正折衝の中で、議員としてのみずからの、何と申しますか、
責任あるいは洞察力をもって、この
予算の修正項目に原子炉の開発とウラン採鉱費二億五千万円の
予算をつけたのも、この
中曽根康弘氏であったわけであります。それに
協力されたのが川崎秀二、稻葉修、齋藤憲三の三代議士でありました。
昭和三十年八月、ジュネーブの第一回
原子力平和利用
会議、この国際
会議に出席したのは
中曽根康弘、前田正男、松前重義、志村茂治という各代議士であります。この各代議士は超党派の
原子力合同
委員会をつくり、
日本の
原子力法体系、
原子力体制の整備に尽力をされたのも
歴史が物語っているのであります。
この先覚者であった
政治家
中曽根康弘氏は、二度にわたり
科学技術庁長官を務められ、今日
総理として二十一
世紀への
日本の政策の確立をするべき
責任を負われておりますけれども、これからの
科学技術の開発と評価の
制度の創設にどのようなお
考えをお持ちなのか、
総理大臣としての御答弁をお願いしたいと思うのであります。
最後に、私は
政治倫理について一言触れてみたいと思います。
政治倫理の確立について
所見を申し上げる。その
所見も、私は、現代の
発展した近代
社会もまた古い
中国の
時代も、政に対しては同じものがあったということをつくづく痛感している一人であります。「民信なくんば立たず」、これは論語の一文であります。孔子は、
政治の要請は
食糧の充足、軍備の充足、人民が
政治家を
信頼する心を持つことこれにある、もしやむを得ずにどれからか捨てるという順番を問われたならば、第一に軍備を捨てる、第二に
食糧を捨てる、やむを得ず捨てざるを得ない場合にあっても、有限の
人生の
条件となる
信頼感、信義はどんな場合でも捨ててはならないと言っているのであります。
すなわち、政の原点は人民の信であり、これがなくんば存立をしないという説であります。まさに、
政治を支えるものは
国民の
信頼であります。
国民より政権を託された自由民主党は、いかなる政党にも増して一人一人が公私を厳しく峻別し、身を清潔に持し、
国民の心を
政治の心として誠実な
政治をやってまいらなければなりません。当院においては、昨年七月新しく導入された初の試みである全国区比例代表制の
制度で当選された新しい議員を迎え、衆議院においては
政治倫理をめぐる与野党間の激しい対立の中で長期間
国会がストップしたにもかかわらず、当院においては与野党一致して、
政治倫理の確立が何よりも急務であるとして、
政治倫理に関する協議会が全与野党一致のもとに設置された。そうして与野党で
国民の
信頼にこたえるためにまじめな論議を展開されたことも、参議院の特徴であったと私は
考えております。
中曽根総理、難しい
時代であります。アジア全体を見ても、共産主義国と自由主義国の間の対立、共産圏同士の対立、中近東の宗教をめぐる
民族間の対立、あるいはヨーロッパにおける東西両陣営の対立、これからの
日本の生きていく道、私はそれは安易な道ではないと
考えております。しかし我々は、完全に敗北をした廃墟の中から、
日本人の
英知と
努力によって今日の
日本を築き上げてまいったのであります。優秀な働く
人たちの力、自由経済市場、この二つがかみ合って今日の
日本ができたわけであります。これからの難しい
世界情勢の中で、
日本の
国民が安心して
政治を任していけるような
政治、どのような政策が必要なのか、この点を御答弁願って私の
質問を終わらせていただきたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕