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1984-07-26 第101回国会 参議院 法務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年七月二十六日(木曜日)    午前十時開会     ―――――――――――――    委員異動  五月十八日     辞任         補欠選任      浦田  勝君     中西 一郎君      内藤  健君     岩動 道行君      沢田 一精君     徳永 正利君      林  ゆう君     園田 清充君      安武 洋子君     宮本 顕治君  五月十九日     辞任         補欠選任      中西 一郎君     安井  謙君  六月二十日     辞任         補欠選任      山田  譲君     菅野 久光君  六月二十五日     辞任         補欠選任      菅野 久光君     山田  譲君      橋本  敦君     小笠原貞子君  六月二十六日     辞任         補欠選任      小笠原貞子君     橋本  敦君  七月十一日     辞任         補欠選任      寺田 熊雄君     小山 一平君  七月十二日     辞任         補欠選任      山田  譲君     小柳  勇君  七月十三日     辞任         補欠選任      小柳  勇君     山田  譲君  七月十六日     辞任         補欠選任      橋本  敦君     内藤  功君  七月二十四日     辞任         補欠選任      小山 一平君     寺田 熊雄君  七月二十五日     辞任         補欠選任      宮本 顕治君     安武 洋子君  七月二十六日     辞任         補欠選任      園田 清充君     志村 哲良君      藤田 正明君     佐藤栄佐久君      安井  謙君     松岡満寿男君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         大川 清幸君     理 事                 前田 勲男君                 山田  譲君                 飯田 忠雄君     委 員                 海江田鶴造君                 佐藤栄佐久君                 志村 哲良君                 土屋 義彦君                 名尾 良孝君                 松岡満寿男君                 寺田 熊雄君                 安武 洋子君                 柳澤 錬造君                 中山 千夏君    委員以外の議員        発  議  者  橋本  敦君    国務大臣        法 務 大 臣  住  栄作君    政府委員        内閣法制局総務        主幹       大森 政輔君        内閣法制局第一        部長       前田 正道君        内閣法制局第二        部長       関   守君        宮内庁次長    山本  悟君        総務庁長官官房        審議官      佐々木晴夫君        法務大臣官房長  根岸 重治君        法務省民事局長  枇杷田泰助君        法務省刑事局長  筧  榮一君        法務省矯正局長  石山  陽君        法務省保護局長  吉田 淳一君        法務省人権擁護        局長       鈴木  弘君        法務省入国管理        局長       田中 常雄君        外務大臣官房審        議官       有馬 龍夫君        自治大臣官房審        議官       石山  努君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局総務局長   山口  繁君        最高裁判所事務        総局刑事局長   小野 幹雄君        最高裁判所事務        総局家庭局長   猪瀬愼一郎君    事務局側        常任委員会専門        員        奥村 俊光君    説明員        総務庁行政管理        局管理官     新野  博君        外務大臣官房儀        典官       甲斐 紀武君        大蔵省主計局主        計官       吉本 修二君        運輸省運輸政策        局環境課長    染谷 昭夫君        海上保安庁警備        救難部海上公害        課長       堀尾 重雄君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (全斗煥韓国大統領訪日に関する件)  (入国管理に関する件)  (法務省関係予算のシーリングに関する件)  (ロッキード判決嘱託尋問あり方等に関す  る件)  (憲法罰則規定関係に関する件)  (再犯事件矯正政策に関する件)  (刑務作業の民営に及ぼす影響に関する件)  (法秩序あり方に関する件)  (受刑者の医療問題に関する件)  (少年犯罪とその防止対策に関する件) ○刑事訴訟法の一部を改正する法律案橋本敦君  外一名発議)     ―――――――――――――
  2. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る五月十八日、浦田勝君、内藤健君、沢田一精君及び林ゆう君が委員辞任され、その補欠として中西一郎君、岩動道行君、徳永正利君及び園田清充君が選任されました。  また、去る五月十九日、中西一郎君が委員辞任され、その補欠として安井謙君が選任されました。  また、去る十六日、橋本敦君が委員辞任され、その補欠として内藤功君が選任されました。  また、本日、園田清充君、藤田正明君及び安井謙君が委員辞任され、その補欠として志村哲良君、佐藤栄佐久君及び松岡満寿男君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い、現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 異議ないと認めます。  それでは、理事山田譲君を指名いたします。     ―――――――――――――
  5. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 次に、検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  6. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ことしの九月に全斗煥大統領が来日するという予定のようであります。これは昨年の一月、中曽根総理韓国を訪問なさった際に、全大統領訪日を招請し、全大統領がこれを受諾したという一連手続に基づくものでしょうか。外務省の方にまずお伺いしたい。
  7. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) お答え申し上げます。  本年秋においでいただくということで今外交ルートを通じて詰めておるところでございます。
  8. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私がお尋ねしたのは、来られるということはわかったのですが、これは昨年の一月に中曽根さんが行かれましたね。そうして全斗煥氏を招請した、全斗煥氏の方はこれを受諾した、こういう一連手続に基づくものでしょうかと言ってお尋ねしたんです。
  9. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) さようでございます。
  10. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ごく最近のことですが、この訪日について韓国李源京外務大臣日本人記者団との会見に応じて、大統領訪日の際、天皇陛下との会見について「両国関係の将来にかんがみ、日本側が適切な対応を検討してくれると信じている」というふうに述べたという新聞報道がありますが、これは大体そういうふうに外務省でも事実を把握をしておられますか。
  11. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) そのような趣旨発言があったというふうに承知しております。
  12. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この理解の仕方ですが、これは一般的には天皇日本統治時代反省言葉を述べることを期待したと言われておりますが、外務省理解もやはりそういうことでしょうか。
  13. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) これは韓国におきまして天皇陛下のお言葉について関心が高いことは承知しておりますけれども、これは韓国政府と話し合うべき筋合いのものではまずないと思っております。それで、そのことは韓国側もよく理解してくれているものと承知しております。
  14. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私がお尋ねをしましたのは、韓国天皇のお言葉関心が深い、これはあなた方も理解していらっしゃる。その関心というものの内容なんですが、天皇のお言葉についての期待ということである以上は、その内容が全く無内容ということはありませんね。ですから、やはり日本の戦前の朝鮮に対する植民地統治についての反省を求めるといいますか、あるいはさらにさかのぼって明治四十二年の日韓併合条約について云々されることを期待しているのか、どちらかだと思うんですが、そういうふうに一般には理解されているようですが、私がお尋ねしているのは外務省理解の仕方はどうなのかということなんです。
  15. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) 今先生がおっしゃられたような趣旨は、外交ルートを通じて我が国の方に伝えられているというふうなことはございません。
  16. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 オフィシャルな外交ルートを通じてそれを要求するということは大変失礼なことで、私はそういうことはないと思うが、今あなたのおっしゃった李源京外相がそういう趣旨発言をしたということのその内容についての外務省理解を聞いているんですよ。あなた方はどういうふうに理解されているのかということをお尋ねしています。
  17. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) これが最初に李源京外務部長官発言との絡みで御質問でございますので、お答え申し上げますれば、私どもとしては今の段階でいろいろと推測することにつながるようなことは申し上げるのを差し控えさせていただきたいと存じます。
  18. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ、あなた方が無内容に聞き流すということはないわけですね。そうでしょう。あなた方のような聡明な方がそれを何にも内容について考えないということはないでしょう。だから、どういうふうにあなた方が理解していらっしゃるのか。これはあとでお尋ねするけれども、それについて宮内庁の方に日韓に関するさまざまな資料を提示することになっているということだから、これは外務委員会でもそういう話があったのだから、なぜそういうことをなさるのか。それは当然李源京外務部長官ですか、それのそういう要望について一定の理解をあなた方がなさっておるからでしょう。その理解なるものはどういうものであるかということをお尋ねします。
  19. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) 今私ども準備いたしておりますさまざまな資料等は今まさにさまざまなことを念頭に置きながら準備しているということでございますけれども、まさに準備しているということでございまして、ここでどういうことかと言うふうにはひとつまだなり切っていないということについて御理解いただければと思います。
  20. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなた方のお立場もありますから、余り私が同情しちゃっては国会質問になりませんが、ですからお答えやすいようにお尋ねしますと、巷間言われておるような過去における日本朝鮮に対する植民地当時に対する反省であるとか謝罪であるとか、そういうものもあなた方のさまざまな考慮の中には入っておりますか、入っておりませんか。
  21. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) お答え申し上げます。  韓国外務部長官が言われたことは、日本側新聞記者の方々の質問お答えになってということでございまして、私どもその真意をそんたくする場立にはございませんけれども一般論として申しますれば、我が国の対朝鮮半島政策においては、朝鮮半島との特別な歴史的関係を常に念頭に置く必要があるというふうには考えております。
  22. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 日本朝鮮との長い歴史的な関係の中には、当然過去の日本植民地当時のことも入っておる、これは間違いないでしょうな。
  23. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) その特別な歴史的関係の中には、どのような言葉にいたしたら正確なのかでございますが、さまざまなことがあったと認識いたしております。
  24. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 やっぱりあなた、国会質問だから言葉巧みにごまかすと言っちゃ失礼だけれども、逃げちゃいけません。常識上、当然理解できることを言い逃れしようとしても、それはだめなことなんです。日本の過去の朝鮮に対する植民地当時の問題がさまざまな問題の中に入っておることは当然でしょう。はっきりおっしゃってくださいよ。長いことこのことだけにかかってもしようがない。
  25. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) お答え申し上げます。  朝鮮との特別な歴史的な関係の中にそのようなところがあったというふうに認識いたしております。
  26. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから、外務省のお考えをお伺いしたいんだが、明治四十三年の日韓併合条約、あれは合法的なものだというふうに考えていらっしゃいますか。
  27. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) 申しわけございません。今資料を見ております。――昭和四十年の日韓国交正常化の際に、韓国との間で締結されました基本関係条約の中に、第二条でございますけれども、「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認され」たというふうに記されてございまして、これは韓国我が国との共通理解でございます。
  28. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今のいわゆる日韓基本関係条約第二条、「もはや無効であることが確認される。」、その文言私ももちろん知っておりますが、これはやはりもともとから無効のものであったのではない。つまり日本が武力を背景にして無理やりに韓国を併合した、韓国の方が自由意思で結んだ条約ではないという主張があるんですね。韓国自身はやはり国際法上これは合法的なものだと認めておるんでしょうか。そしてこの日韓基本条約第二条になったんでしょうか。韓国対応なり理解をまずあなた方にお伺いしたいと思うんですが、それから朝鮮民主主義人民共和国の方は、これはもともとから非合法なものだ、合法的でないと見ているようですね。これは御存じですか。
  29. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) いわゆる北朝鮮につきまして、そのようなことが言われているということは承知いたしております。  それから、韓国関係で申しますれば、基本関係条約が締結されているわけでございまして、この中で盛られていることがまさに現在の共通認識であって、我が国はこの条約は対等の立場で、また自由意思で締結された、かように思っている次第でございます。
  30. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 韓国はどう考えているんでしょう。
  31. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) 我が国韓国についてこれらのことについてどのように認識しているかをそんたくするのはいかがかと思いますので、お許しいただければと思います。
  32. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そして天皇のお言葉ということに対する期待があるというこのことは、韓国にそういう期待があるということは認識しておるという御答弁でしたが、それでさまざまな資料宮内庁に提供しておる、その資料はいまだ宮内庁には届いていないという外務委員会答弁でしたが、これは今でもそうなんでしょうか。
  33. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) さようでございます。
  34. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 外務大臣外務委員会で、この天皇のお言葉なるものは憲法第七条に言う国事行為ではないけれども象徴としての天皇公的行為である、私的な行為ではない、内閣がすべての責任を負うという答弁をしておられるわけですけれども、これは天皇のお言葉については外務省資料は提供するけれども、直接にはそのお言葉を起案するとか、あるいは天皇のお言葉について外務省がその作成に何らかの意味で関与するというようなことはないんでしょうね。これは専ら宮内庁の方でやられるのでしょうね。
  35. 甲斐紀武

    説明員甲斐紀武君) お答えいたします。  内部手続の詳細にかかわります問題につきましては御答弁を差し控えたいと思いますが、通常外務省天皇陛下のお言葉に資することとなりますようなさまざまな資料宮内庁に提出いたしまして、これら資料を基礎として必要に応じ調整が行われます。そしてその調整の行われました上で天皇陛下のお言葉となるというふうに理解しております。
  36. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それで、宮内庁お方にお伺いするわけですけれども、今外務省儀典官の方が、資料を提供して宮内庁の方で作成するけれども、我々もやはり調整の労はとるというような答弁でした。端的にお伺いしますけれども天皇のお言葉の場合、そのやっぱり原案というものは宮内庁でおつくりになるのでしょう。
  37. 山本悟

    政府委員山本悟君) ただいま外務省から御答弁がございましたように、通常国賓をお迎えいたしました際の天皇陛下のお言葉でございますが、外務省がいろいろ資料を提供してくれます。それに基づきまして宮内庁原案をつくります。またしかしながら、当然にこれは外交に関することにかかわるわけでございますので、外務省十分協議をいたします。それがただいま外務省におかれましては調整という言葉で言われたわけでありまして、その間に両者の意思が一致するようにいろいろとまさに調整作業をいたすというような段階を経て決定されていくというように存じます。
  38. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この日韓併合という歴史的な事実そのもの、あるいはその後の植民地統治につきまして、私は謝罪するとかいうような問題は、これは非常に高度の政治的な問題だと思うのですが、外務省もそういう理解をしておられますか。
  39. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) お答え申し上げます。  何をもって政治的なことであるというのは大変難しいことだと思います。
  40. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 難しいけれども、これはやはり我々としては――ちょっとあなたは、はたから盛んに耳打ちしておるようですが、審議官のやはり独自の考えてお聞かせいただけばいいんですよ。  もちろん何をもって政治的というかというのは難しい問題ではあるけれども、やはり一国の外交についてあなた方重要な地位を占めていらっしゃるお方ですから、これが高度の政治的なものなりや否やということについて、あなたがそういう点の御理解を持たないという道理はないわけでしょう。そこでお伺いしたんですよ。あなたはどう考えていらっしゃるのか。
  41. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) もしも先生の御質問が行く行く天皇陛下のお言葉ということとのかかわり合いでありますれば、これは天皇陛下国賓等に対する御会見等におかれて国政に関与されることはございません。
  42. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、一般論でいいんです。あなた方はやはりいろいろな責任の問題をお考え答弁に非常に慎重になっていらっしゃるようですけれども一般論として、一国と一国との従来の政治的な関係日韓併合条約などというものはこれはもうすぐれて政治的な問題なんですが、それからそれに基づく植民地統治などというものも、これはもう申すまでもなく高度に政治的な問題です。それについて、それが誤りであったか正しいものであったかというようなことについての判断を示すということは、これは高度の政治性を持つ問題であると私は理解しているわけです。一般論ですよ。あなたは一般論としてそれを是認なさいますか。
  43. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) 先ほども申し上げましたように日本朝鮮半島との間には特別な関係があったわけでございまして、今先生が御指摘になられましたような問題を念頭に置きながら、すべての準備を進めているということでございます。
  44. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、御準備をなさっていらっしゃることはよくわかりますが、私のお尋ねしておる内容はおわかりでしょう。これはもうすぐれて政治的な問題だというふうに私は思うんですよ。あなたは韓国日本ということをまず念頭に置いて、天皇のお言葉というようなことを念頭に置いていらっしゃるから答えにくいのかもしれません。一国と一国との関係を抽象的にお考えください。一国が一国を過去において併合した、そのことの是非であるとか、一国が一国を植民地統治をしてきた、それについてそれが誤りであった、謝罪するというようなことがもしありとすれば、それは大変に政治的な意味合いのものではないかと一般論としてお尋ねしているんですよ。
  45. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) そのような御指摘をも念頭に置きながら、先ほど、我が国の対朝鮮半島政策において朝鮮半島との特別な歴史的関係がございまして、それを念頭に置いていると申し上げたわけでございます。
  46. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の問題は宮内庁次長はどういうふうにお考えでしょうか。
  47. 山本悟

    政府委員山本悟君) 宮内庁立場といたしまして、ただいま御質問のございましたことにお答えを申し上げることは避けさしていただきたいと存じます。やはり外務省のお考えといったようなことのもとにいろいろなことが行われてまいるわけでございますので、ただいまこの時点におきましてどうこうということを私の立場から申し上げるのは御容赦を賜りたいと存じます。
  48. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私がお尋ねしましたのは、やはり事がそういう事柄なものですから、あなた方の一般的な認識についてお尋ねをしないと、余り具体的なことについてお尋ねすると答弁をお避けになるから、今も一般論としてお尋ねしたわけですよ。だから一般論ならお答えいただけるでしょう。
  49. 山本悟

    政府委員山本悟君) まさに一般論ならということでございますが、一般論に基づきましてただいまこういう場でもっと御質問がなされているというぐあいに存ずるわけでありまして、やはり全体として判断さしていただきますと御容赦を賜りたいと存じます。
  50. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これはもう何というか、水かけ論になって、いつまでも延々と続くかもしれないね。これはだから一応問題を分けて考えますが、法制局第一部長お尋ねしますが、天皇国事行為国家機関としてお仕事の中に入っていますね。それから象徴としての私的な行為、公的な行為というのがある。これは憲法学上、大体学者は皆一致して認めておるようですが、問題は今回の韓国期待しておる天皇のお言葉というのですが、これはお言葉内容が儀礼的なものであれば天皇地位に決して抵触するということは私ないと思うんですよ。今までフォード大統領、それから鄧小平さんが来られたとき、いずれも晩さん会でそういうお言葉をおっしゃっておられます。ただ、余り突っ込んだ政治的なものになりますと、天皇国政に対する権能を持たないという憲法上の立場にやっぱり触れてくるのじゃないかという、そういう考えを私持つのですが、法制局としてはどんなふうにお考えでしょうか。
  51. 前田正道

    政府委員前田正道君) あくまで一般論としてお答え申し上げます。  ただいま先生からお話もございましたように、国賓として来日されました外国元首天皇がお会いになりましてお言葉を交されるということは、これまでにもしばしばあったところでございます。ただ、天皇は、ただいまお話にもございましたように、憲法上「国政に関する権能を有しない。」ということとされておりますから、これまでも内閣といたしましては、天皇国賓として来日された外国元首接遇されるに際しましては、国政に関与されることになることのないように十分配慮されてきたところであると考えております。したがいまして、今問題になっております韓国大統領国賓としての来日の際における接遇につきましてもこのような配慮は十分なされるべきものであるというふうに考えております。
  52. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法制局のお考え、非常に明快によくわかりましたが、私は、こういう植民地当時にさかのぼって国家として反省していくということは、これはもちろん当然必要なことでありますし、日韓併合条約までさかのぼり、それが果たして自由意志に基づく両国の平等な立場に立っての条約であったかどうか、そのことまでさかのぼって反省していくということ、これは大変国家の道義的な立場にかんがみて必要なことだと思うんです。ただ、非常に政治的な意味合いを持ちますので、本来そういう贖罪的な言葉を出すというその当事者は当然一国の政治の最高責任者である総理大臣でなければならないと私は思うんです。ところが、中曽根さんは、この間韓国にもいらっしゃったんですが、そういう明快な贖罪の言葉というのはまだおっしゃっておられないんじゃないでしょうか。いかがでしょう。
  53. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) お答え申し上げます。  昨年の一月十一日の全斗煥大統領の主催晩さん会において中曽根総理は、その答辞の中で次の趣旨を話しておられます。「日韓両国の間には、遺憾ながら過去において不幸な歴史があったことは事実であり、我々はこれを厳粛に受けとめなければならない。過去の反省の上に立って、我が国の先達は、その英知と努力とによってひとつひとつ新しい日韓関係の礎を築いて来られました。」。
  54. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の中曽根総理大臣の晩さん会の際の言葉というのは私ももちろん存じております。それがやはり政治的な意味合いを持った一国の政治の責任者としての過去の反省に立った言葉としてはぎりぎりのものなんでしょうか。それがぎりぎりのものであると考えるならば、またおのずから天皇のお言葉についてもその限界というのを示されると思うんですよ。それがやはり一国の総理として、一国を代表して過去の罪をわびるということのぎりぎりの意思表示と考えていいんでしょうか。
  55. 有馬龍夫

    政府委員有馬龍夫君) これがぎりぎりのものかどうかという御質問についてはお答えが大変難しゅうございますけれども、いずれにいたしましても、今この段階で全大統領が来られた際に日本側がいかなることを申すかということは、まだ検討しているというところでございます。
  56. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは外務省宮内庁、それから法制局、三者いずれの方々がお答えいただいてもいいんですが、一国の政治の責任者が、過去の植民地当時あるいは日韓併合を含むのでしょうか、そういう過去の両国の関係について、相手方の国家の代表者に対して意思表示をなさった、それよりさらに高度の贖罪の意味を込めた意思表示というものを天皇に求めるということ自体が私は大変誤りじゃないだろうか、それは天皇に対する、国政に関する権能を持たないという天皇のお立場理解しない者の考え方ではないだろうかと、私はそういうふうに考えるんですが、これは宮内庁次長でも法制局の第一部長でも結構ですから、私の考え誤りでしょうかどうか、お答えいただきたいと思います。
  57. 山本悟

    政府委員山本悟君) 大変難しいお話でございますが、率直な感じを申し上げれば、天皇は現行の日本憲法において政治的権能を有しないという大前提があるわけでありますから、その大前提のもとにすべて物事は考えられる、これはもう先ほど法制局も申し上げましたように大原則であるわけであります。その上での判断ということになるわけでございますので、ただいま先生のお述べになりましたようなことを十分念頭に置いて実際にはいろいろなことが考えられてくるというように存ずるわけでございまして、ただいまはこの程度の御答弁で御容赦を賜りたいと存じます。
  58. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今宮内庁の御答弁をいただいたのですが、法制局の方も、やはり一国の政治の責任者である内閣総理大臣の他国の元首に対する過去のさまざまな歴史的な関係について述べた意思表示以上に、さらに政治的なものをプラスしたようなものを天皇のお言葉に求めるということは、これは憲法上もいけませんね。私そう思いますが、私の考え、間違いでしょうか。
  59. 前田正道

    政府委員前田正道君) ただいま宮内庁からもお答えがございましたように、私どもといたしましても、天皇憲法の精神に反しまして国政に関与されることになるようなお言葉を述べられることはないものと確信しております。
  60. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから、過日の外務委員会外務大臣お答えになった、そういうお言葉についても内閣責任を持つという答弁があったようですが、これはどういう理由で責任を持つのでしょうか。国事行為については助言と承認が必要である、ですから、すべて天皇国事行為には内閣は助言と承認をしなければいけません。ところが、この天皇のお言葉についてはやはりあなた方が助言と承認を、まあ承認というのも何だが、調整とあなたはおっしゃったが、それには助言を含むのか、あるいは承認というような意味も含むのか、それはそれならそれでまた理解できますが、内閣責任を持つ法的な根拠というのはどこにあるんでしょうか。
  61. 前田正道

    政府委員前田正道君) ただいまもお話がございましたとおり、天皇国賓として来日されます外国元首接遇されます行為憲法の定める国事行為ではございませんけれども天皇象徴たる地位に基づいて行われるものと解されますので、いわゆる公的行為に当たるものと考えます。その意味におきまして御指摘内閣の助言と承認というものは必要といたしませんけれども公的行為につきましての事務というものは憲法第七十三条で規定しております一般行政事務に当たるわけでございますので、これにつきましての内閣責任というものは憲法第六十五条の規定によりまして行政権の主体である内閣が負う、こういう筋道になると思います。
  62. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ちょっと理解が非常に困難で、もう一遍お尋ねするんですが、つまり天皇象徴として公的行為をなさる、そのことに関しては一般的に内閣の行政権とどういうかかわりを持つというのでしょうか。
  63. 前田正道

    政府委員前田正道君) 天皇公的行為につきましては直接憲法上規定があるわけではございません。しかしながら、憲法第一条が天皇につきまして日本国の象徴としての地位を認めておりますので、この日本国の象徴という地位に基づいて認められるものが公的行為というものであるというふうに考えます。そうしました場合に、公的行為に関連して行われます事務、こういうものは簡単に申しますと行政の事務である、行政である、行政であるとするならば、その行政権の主体はどこであるかと申しますならば、憲法六十五条が行政権の主体は内閣であると定めておりますので、内閣公的行為に関連する事務についての責任を負うということで先ほどの御答弁を申し上げた次第でございます。
  64. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法制局のお考えというのはそれでよくわかりましたけれども、ただ、あなたは先ほど公的行為については内閣の助言も必要でない、承認も必要でないとおっしゃったのですね。およそ責任なるものは、何らかそれに関与しませんと責任の生ずる余地がないというのが我々の法理学的な常識だと思うんですね。それで、旧憲法などは「国務大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」というのがありましたね、一般規定が。この場合は憲法上には何らの規定はないんだ、ただ天皇公的行為というものの下にある下僚の行為が行政権に属するからして、それについては内閣責任を持つんだと、こういうお言葉のようでしたね。今おっしゃるのはそういうふうに理解したんですが、その天皇のお言葉の、天皇の下にあっていろいろと準備をするというのはやっぱり内閣なんですか、宮内庁なんですか。それによって結論が違ってくると思うんですが。
  65. 前田正道

    政府委員前田正道君) 助言と承認を必要としないと申し上げましたのは、助言と承認という一般的な用語の意味ではございませんで、憲法上求められている国事行為についての助言と承認というものは必要としないというふうに申し上げたつもりでございます。  それから、ただいま御指摘の、下僚の責任云々ということで責任を負うのかという御指摘でございますけれども、そもそもその事務が内閣に属しなければ下僚にその仕事をさせるということはできないわけでございます。そういたしました場合に、先ほどから申し上げておりますように、公的行為に関連いたします事務が行政に属する事務である、したがいまして、その事務は内閣責任を負うのだ、そういたしました場合に憲法六十五条、七十三条の規定を受けまして内閣法が定められております。内閣法に基づきましてまた国家行政組織法が定められているわけでございます。国家行政組織法に基づきまして総理府が定められ、総理府の外局として宮内庁が定められておりまして、宮内庁におきましては皇室関係の国家事務をつかさどる、こういうふうに第一条で定められておりますので、現実の事務といたしましては第一次的には宮内庁がお使いになるということであろうと思いますけれども、その責任というのは、その行政の性質からいたしまして最終的には憲法六十五条で分配をされました内閣が負うということで申し上げたつもりでございます。
  66. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の天皇のお言葉について大体私のお尋ねすることは以上で終わりました。大変御苦労さまでした。  それじゃ、入管の問題でお尋ねをしたいのですが、先般各マスコミ機関で発表になったことなんですが、不法入国者の梁泳鎬という大村入国収容所内に収監されております韓国人ですね。これが法務大臣から強制退去処分を受けて、その取り消しを求める行政訴訟を提起しておりましたところ、七月十九日に大阪地裁でその法務大臣の処分を取り消す判決があったという報道がございました。私、今最高裁にその判決の写しを求めておるのですが、まだ届きません。これについて入管の局長お尋ねをするわけですが、不法入国者に対する強制退去処分取り消し判決は今回が初めてであるという報道がなされておりますが、これは事実でしょうか。
  67. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) お答えいたします。  過去十年間の不法入国者で裁判になったケースのうち、国が敗訴したケースは一件ございます。しかしながら、この案件は控訴した結果、国が勝訴ということになっております。
  68. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうすると二度目というわけですね。判決原本なり写しを見ていないのでお尋ねをするわけですが、これは結論としては法務大臣の裁量権の限界を超えている、つまりやっぱり権利乱用の理論であなた方が敗れたのでしょうか。その点をお伺いしたいんですが。
  69. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) お答えいたします。  判決の要旨を一言で申し上げますと、これは法務大臣の裁量を逸脱していて違法であるということでございますが、法務大臣の裁量権は非常に広範なものでございまして、この判決はどちらかというと、その裁量権のうちの、ここからここまではだめであると言われているような感じがいたしまして意外な感を持っております。実は割合に似たようなケースの裁判が五十年代に数件あるわけでございますが、それはことごとく国側が勝訴になっている次第でございます。
  70. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 裁量権の範囲を超えているというのは結局やっぱり権利乱用の理論ということになるのでしょうね。  ここで入管の局長にも大臣にもお考えをお伺いしたいわけですが、不法入国者のその入国をした事情にどのような同情すべき点があり、また現在入国してから何年間の期間の経過があり、その間に善良な市民生活を営んでおる、そういう事実関係が一方にある。それからまた特別在留を許可しても、そのこと自体は別段国家生活に何らの危害を与えるものではないというような客観的な事情がありましても、どうしてもやはりその出発点が違法であれば在留許可は与えないという方針ですか。それともやはりケース・バイ・ケースでさまざまなそうした事情がある場合には例外として在留許可を認めてもいいというお立場ですか。そのことをお伺いしたいんです。
  71. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) お答えいたします。  入管法第二十四条によりますと、不法入国者は退去強制することができることになっております。これは大原則でございます。それでは、実際問題として不法入国した人が全員退去強制されているかというと、これはまた事態は違うのでございまして、そこで五十条の大臣の裁決の特例というものがあるわけでございます。そして、この裁決をするに当たりましてはその人の不法入国の目的、それからその人が所属していた国における生活環境、日本に入ってきてから何をしていたのだろう、それからどういう親族がいるのだろう、その後どういう素行を今日まで重ねてきたのだろうと、いろいろな問題について我々配慮いたします。だから、今委員が御指摘のように、例えば何年いたらいいのだろうということも、これは実はいろいろの問題を配慮するときの要素の一つにはなりますが、何年日本に不法入国し潜在していたからいい悪いということではなくて、すべて問題は総合的に配慮され、そしてまたそこにおいて人道的配慮も加味されるということでございます。
  72. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうすると、あなたの御答弁をお伺いしますと、不法入国者という出発点で違法状態が存在すれば、もう一切特別在留許可を認めないということはありません、これはできるという規定でやりますし、五十条では特別な事情があれば在留許可を認めてもいいという、そういう権限が法務大臣にある、したがってケース・バイ・ケースで決し得るんだ、したがってケース・バイ・ケースで決しますという、そういう方針をとっていらっしゃるわけですね。
  73. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) 不法入国が発覚した場合には退去強制が大原則である点は先ほど申し上げたとおりであります。しかしながら、そのケース・バイ・ケースというお言葉でございますけれども、その不法入国者についてのありとあらゆる事情をすべて総合的に勘案した上ケース・バイ・ケースで判断する、そういうことでございます。
  74. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 結局ケース・バイ・ケースで決するということなんでしょうね。  そういたしますと、かなりその不法入国者が不法入国したときの同情すべき事情、これはその事情というのは、例えば難民の問題なんかもあらわれていますね。難民なんかもやっぱり不法入国したときの事情にいろいろ同情すべきものがあるから、ああいう難民認定法みたいなものができたわけでしょう。そうすると、かなり入国するに至ったときの情状といいますか、その事情、それから何年たったかというのはもちろん基準はないでしょうけれども、長い間それが発覚せずに平穏な市民生活を営んでいる、そういう事情ももちろんよく考慮なさるわけでしょう。全然考慮の外に置くということはあり得ないでしょうね。
  75. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) まず難民の問題についてお答えいたしますと、条約難民と認定された人については退却強制し得る事情は非常に限定されております。これは難民条約にのっとって我々として非常に気をつけなければならないわけでございます。じゃ、なぜ非常に限定されているかというと、もともとその逃げてくる国において迫害が生じたということを我々は考慮しなければならない。そういう意味において委員が御指摘のように入国したときの状況と申しますか目的、それについては十分な配慮がなされるということは事実でございます。  それから、日本へ入ってきてからは素行善良であった、いい生活をしていたということなんでございますが、実は不法入国者というのは摘発されないように潜伏しているわけでございます。そうしますと、何か突拍子もないことを起こせば必ず発覚しちゃうわけでございます。だから今日まで潜伏している人は非常に皆静かな生活を送っていたというのが事実じゃないかと考えております。
  76. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 案外取り締まり当局的解釈をなさるんですな、局長は。  なるほどそれはそうでしょう。見つかったら大変だからね。ひっそりと生活することはそうだろうけれども、過ちないように善良な市民生活を送るという、その事実は原因がどうあれこれは間違いないんでしょう。だからそのことをやはり考慮しなければいかぬのじゃないかと思いますよ。余りそういう点厳しいとらえ方をしますと、やっぱり常識に反するという結果を生じて、この判決のような結果になるんじゃないでしょうか。  そこで、外国の立法令、余り私よく知らないんだけれども、先般マスコミに報道されたところによると、アメリカの移民法ですね。これは戦前は日本と非常に関係があったが、このごろは中南米と専ら関係があるということで、移民法が改正になって、一九八一年一月一日以前から継続してアメリカに居住していたことを証明できる不法滞在者に対しては特赦として永住権を与える、これはことしの六月二十二日に下院を通過したという、そういう報道がありますね。もっともその後いろいろ厳しい条件がついておるようだが、やっぱり一定の事実関係を基礎にして考えるという一つの思想がこの立法にあらわれていると思うんです。  法務大臣にお尋ねしますが、今入管局長が非常に詳しい御説明をなさったんですが、結局はあなたの非常に広範な権限なのでお尋ねするわけですが、この判決などを見ますと、やはり不法入国した際の事情であるとか、その後の生活関係であるとか、それからもう一つは、強制退去を命ずることによって当該の不法入国者にどんな過酷な運命が待ち受けているか、それが生命に関係するかも知れません。あるいは生涯を通じて拘禁されるというような問題、それから、この判決がうたっているように親子生き別れになるというような関係、そういう点を考慮する、つまりやっぱりあなたのその裁量権には人道的な要素を加味すべきであると私は考えるのですが、大臣としてはどんなようにお考えでしょうか。
  77. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 大変裁量権の幅が広いというように制度的になっておるようでございますけれども、私はそういう制度であるがゆえにその権限の行使というものは慎重でなければならない。一般的にどうということではなくて、ケース・バイ・ケースで妥当な判断が下せるかどうか、それだけにその判断の材料となる資料、状況、こういうものを総合的に見た上で措置をすべきじゃないか、こういうように考えておるわけでございますが、今も答弁いたしましたように、密入国の動機あるいは入国後の状況、そういうようなものいろいろあると思うのでございます。  それともう一つは、今もちょっと御指摘ございましたけれども、相手国との関係もこれなかなか大事だと思うのです。簡単に密入国を全部認めてしまうことによって、これはやっぱり外国の方でございますので、その当該国がどう考えるか、こういうようなことも、それは国によって違うでございましょうけれども、そういうことも考慮をしなければならないというようにも考えておるわけでございます。
  78. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣のお立場なりお考えというものはよくわかりましたけれども、最後にお尋ねした不法入国者に対して退去強制を命ずる場合に、大臣は相手国の立場考えなければいかぬということをおっしゃったんですが、その当該の不法入国者にどんな過酷なあるいは残酷な運命が待ち受けているかというようなことも考えて、人道的な配慮というものも大きくそれに取り入れて考えなければいけないと私は思うんですが、その点はどんなふうにお考えですか。これは大臣のお考えを伺いたい。
  79. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) もちろんそういうことも考えないといけないと思うのでございますが、それは結局不法出国の状況がどうであったか、不法出国の状況が非常にその国にとって大変なことであれば、そういうことを全部度外視して、政治亡命、日本は認めておりませんけれども、そういうような関係もこれはやっぱり十分考慮の中に入れなければならぬのじゃないか。その上での人道的な配慮と、こういうことになると思うのでございますが、一つのケースが全般的に国際関係を非常に悪くする場合も考えられないこともございませんし、やっぱりそこらあたり慎重な判断も必要とされるのじゃないか、こう思います。
  80. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の問題はかなり国会でも論議がございまして、政治犯の亡命はもう認めるべきである、認めなくてはならないという私どもは主張を今までしてまいりました。大臣のそういう点に注目してのお考えというのは極めて私妥当だと思いますが、それはそのとおりだと思います。  それからもう一つは、この判決がうたっているように、もともと日本に生まれたんだ、しかしおやじが母親と離婚をした、したがっておやじに連れられて朝鮮に渡ったんだけれども、おやじが死んだので母親のところへ戻った、母親と平穏な生活をしておったんだけれども、強制退去すればもう二度と来れない、親子が生き別れになる、これはやっぱり余りにもかわいそうじゃないか、そういう意味の人道的精神といいますか、それがこの判決にはかなりにじみ出ているように思いますが、そういう点もやはりお考えとしては取り入れられますかということをお尋ねしたんです。これは大臣のお考えを伺ったんですが。
  81. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私はこのケースについていろいろコメントするのはどうかと思うのでございますけれども日韓関係から考えてみましても、それじゃ、そういう正規の出国、あるいは正規の入国、本当にそれは不可能であったのかどうなのかというようなことも、ひとつこれは原点に帰って考えてみる必要があるという問題が一つあると思うんです。  それから、平穏に十年近くも日本において生活をしておった、これも考慮していかなければならない。しかも、それは親子ひそやかにと、こういうことでございますから、その場合、それじゃ一年でもいいのか、五年でもいいのか、十年でもいいのか。今度の場合は十年ですから、そこらあたり非常に人道的な配慮が出てきておるのだろうと思うのでございますが、そこらあたりの裁量といいますか、そういう判断というのは、私が先ほど申し上げましたように、裁量権の幅が広ければ広いだけに、このケースは別としまして、やっぱり慎重にやっていかないといかぬ、そういうように考えております。
  82. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 入管局長、先ほどお手をお挙げになったんですが、特に今の大臣の御答弁に付加して何かお述べになるようなことがありますか。
  83. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) 大臣のお言葉で尽きていると思います。
  84. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の入管の問題はこれで終わります。  今国家財政が非常に窮迫しておりますので、財政再建の要請から一般会計予算の総枠を抑制する、そういうためにゼロシーリング、最近はマイナスシーリングというような編成方針がとられておりますね。昨年は一律一◯%のマイナスシーリング方式がとられた。これに対しては景気浮揚であるとか、社会資本の充実の必要から一〇%のマイナスシーリングに対する反発がなされております。大蔵省も公共事業は五%というようなシーリングを設定しているようでありますが、ただ一律にマイナス一〇%というような上限を置きますと、そういうことになりますと、事業官庁と人件費が予算の大部分を占める非事業官庁とでは大変不公平な結果を生ずるのではないだろうかと私は考えるんですが、これは大蔵省の主計官としてはどんなふうにお考えでしょうか。
  85. 吉本修二

    説明員(吉本修二君) 御説明申し上げます。  現在六十年度の予算編成に向けてのスタートラインのところのいろいろ作業をやっておるわけでございますが、まず前提といたしまして、現在財政が非常に大変な状態である、それで特例公債の依存体質からの脱却、公債依存度の引き下げというような方針のもとに行財政改革を最大限行うというのが今現在政府が取り組んでおるところでございます。そのため歳出面においては聖域を設けることなく、臨調による改革方策とかいろいろな努力を行いまして歳出の徹底した削減合理化を行うということで、そういう方針でやっておるところであります。そういうことのためには、まず何よりもやはり各省庁からの概算要求の時点で厳しい方針で臨まざるを得ないということで、六十年度の概算要求につきましても昨年並みの方針のもとに厳しい概算要求基準を設定する、そういう方向で現在鋭意調整中でございます。  御指摘のございましたような人件費等が中心になります非事業官庁、そういうところとほかのところとの調整という問題も確かにおっしゃるとおりでございますが、その面につきましてはその経費の性格というものに十分考慮して、そういう点に配慮しながら適切なる概算要求基準を設定する、そういうことでいきたいというふうに考えておる次第でございます。なお、その要求基準額が設定されましたら、その範囲内で、各省庁いろいろ事情ございますが、その苦しい事情の中でできるだけの知恵を絞っていただいて、経費の合理化、効率化を図っていただいてその基準額の中で概算要求をやっていただく、そういうことで御協力をお願いしたいという方向で現在やっておるところでございます。
  86. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大体あなた方のお考えがわかりましたけれども、これは日銀総裁なども一律に削るというのは必ずしも公平でないというようなお考えを述べておられたようですが、私ども法務関係の行政の実情をずっと見ておりますと、余りにも予算を締め過ぎるためのいろいろなひずみというものを非常に強く感じるわけですね。  そのひずみはどこに一番端的にあらわれるかというと、職員が家に仕事を持って帰るというような問題がある。例えばサラ金の事件なんというものは非常に多いですね。これはあなた大蔵関係でいらっしゃるからよくおわかりだと思うんですが、そうすると簡易裁判所の書記官などはどうしても家に仕事を持って帰らないと処理ができない。それから、一番よく昔からこれは言われておる法務局の登記事務、これなどもどうも登記に日数がかかり過ぎる。一生懸命やってくれてはおるのだろうけれども、事務量が非常にふえてきておるのでかかり過ぎる。私自身も裁判で従事したのですけれども、法務局に備えつけてある切り図というものが、何か大きな鏡でもってそれを閲覧しておる人間を一人の人間が見て過ちなきを監督しているというのですが、便所にでも行ったときにはもう監督できない、改ざんされる。そうすると自分の土地がとんでもないところへ行っている、それで自分の土地が他人の土地のように表示されておる、したがって訴訟が起きて大混乱になる。すったもんだの末、結局正しい者が勝つことは勝ちましたけれども、それはまあ一つの例ですね。職員が足りないものだから、そういう改ざんが行われる。  刑務所の職員の不足というようなものから、検察官が被告人を呼び出す、しかし拘置監に置きますとすぐに連れてこれない、また早く帰さなければいかぬ、したがってどうしても捜査に差しさわりができるから代用監獄に置く、そうするといろいろ人権じゅうりんの問題が起きて誤判が生ずる。それはいろいろな問題が起きてくる。この間は何か検察官が家に書類を持って帰るときに交通事故を起こして、検察官が警察官に調べられるということが起きたというようなことが新聞報道にありましたね。いろいろな問題が起きてきております。  だから、あなたがさっきおっしゃいましたいろいろその具体的な実情に即して合理的な判断をするという、これは非常に私どももそうあってもらいたいと思っておりますが、よくそういう点の配慮もお考えをいただきたい。最高裁判所の人員の問題については行管のらち外であなた方が御判断になるようですね。そういうことを聞いていますが、そういういろいろな具体的な事情を十分勘案して国家財政の切り盛りをお願いしたい、こう思います。いかがでしょう。
  87. 吉本修二

    説明員(吉本修二君) 実はただいまお話がございましたような個別の省庁の非常に個々の悩みといいますか、実情というものがあるということはお伺いしておりますし、実はそれは法務省、裁判所だけでなくて、各省庁全部いろいろそれなりに実情があるわけでございます。そういう中で厳しい財政状況の中でどうやって財政再建をやっていくかという方針で今臨んでおるわけでございまして、そういう中では結局各省庁がいろいろな御努力を行っていただくし、場合によっては国民にいろいろな受益者負担をお願いしたり、あるいは国民に対するサービスを切り下げていただいたりというようなことまで含めて、制度の基本までさかのぼってそのあたりを改革しようという方針で臨んでおるわけでございます。  なお、例えば今法務省、裁判所の中の個々の話ございましたけれども、私どもの申し上げております概算要求基準というのは、そういう個々の問題ではなくて、その経費の性格に着目した個々の配慮はいたしますが、一たび決まりましたその枠の中におけるどういうところに重点的に配分するか、どういうところに細かな配慮をするかという問題は各省庁のお立場考えていただくことでございまして、そういう枠の中で一律に全部厳しく削ってくださいということじゃなく、大事なところには重点配分してください、そうでないところは大幅に合理化してくださいということで御努力いただきたい、知恵を出していただきたいということでございます。
  88. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それ以上の大きいところで法務省、最高裁の予算の余りにも貧弱な点をカバーしなさいというようなことをあなたに求めるのは無理だろうと思いますが、よく実情を考慮して切り盛りをお願いしたい、こういうことでもう結構です。  それから、行管の方にお尋ねをしますが、今主計官の方にいろいろ要望をし意見を伺ったわけですが、法務省のいろいろな職員の問題というのは直接に治安につながりますからね。これは私は荒舩さんが行管庁長官のときに弾劾裁判所で一緒に仕事をしておったものだから、荒舩さんにもよく事情を説明し、登記官の不足などについてはかなりいろいろな注文をした覚えがあります。あの人は頭の非常にいい人で、かなりよく理解をしてくれたと思っておりますが、やはりあなた方も何でもかんでも人員縮減だというのではないと思いますけれども、よく実情をお考えの上でお仕事をとっていただきたいと思います。いかがでしょう。
  89. 佐々木晴夫

    政府委員佐々木晴夫君) おっしゃいますように、国家公務員の定員の管理につきましては、これ歴代内閣、簡素にして効率的な政府をつくるために真にやむを得ない定員につきましては、この業務量あるいは仕事の特殊性に応じましてこれを増員し、それからまた一方で業務の合理化を図るために各年度に割り当てましてある程度の削減をお願いいたしておる、その増員削減の相乗効果によって簡素にして効率的な政府をつくるというふうなことで今の定員管理の仕組みが成り立っておるわけであります。  御承知の臨調の答申、あるいは御承知の昨日出ました行革審の意見でも、国家公務員の定員の削減はこれは改めて強く求められておるわけであります。その意味で現在定員のいわば事情というのは先生御承知のように非常に厳しくなっておるわけであります。しかしながら、もとよりこれ一律に各省とも同じような形でもって削減をしたり、切るというふうなことではございませんで、非常に厳しい中にも業務の特殊性あるいは業務量の増、こうしたものを見ながら各省庁と御議論をし、定員の毎年の審査をいたしておるわけでありまして、例えば今の法務省の関係でも、この厳しい段階、例えば昨年は全国家公務員の中で三千九百五十三の削減を一応したわけであります。純減をしたわけでありますが、法務省の例えば今言われました登記関係あるいは刑務所の関係、こうしたものにつきましては純増になっておるという事実がございます。数字を申し上げますと、登記所の職員では本年度三十八人、それから刑務所等の職員では二十四人の純増を査定いたしておるということであります。  そういうことでもって、先生おっしゃいますような非常に厳しい事情のもとではありますけれども、法務省の業務の特殊性も私ども十分認識しておるわけでありまして、できるだけの配慮をいたしているわけであります。もちろんこれが社会情勢の変化いろいろございますから、法務省御当局にもいろいろと業務の合理化をお願いいたしておる、事務の機械化その他合理化をお願いいたしておるわけでありまして、そうした合理化を期待するとともに、その業務の状況を見ながらこの定員の審査に臨んでおるわけでございます。そのあたりの事情を御理解いただきたいと存じます。
  90. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 じゃ、結構です。  大臣、法律扶助協会というものがありますのを御存じでしょうか。これは歴代の法務大臣に私お願いをして、この法律扶助協会の補助金についての御理解を要請しておるわけです。過去において割合タカ派と言われた奥野さんがよく御理解くださって予算の増額にも御努力くださったようです。それから坂田法務大臣、これは大変関心を寄せていただいたんですが、これについては大臣はどういう御認識でいらっしゃいますか。法律扶助協会。
  91. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 大変大事な私は仕事をしている法人だと考えております。いろいろ過去の経緯等も私なりに承知をしておるわけでございます。今補助金を出して協会の業務の援助をいたしておりますが、いずれにいたしましても補助金ということになりますと、一割カットだとかなんとかということは随分、最近特にゼロシーリング、マイナスシーリングということになりますと、一般論として聖域がないわけでございまして厳しいのでございますが、財政当局の方もそういう点理解していただいておりまして、とにかく実質的には従来の補助金のベースを維持、どうにかやっておるということでございまして、本当に協会の仕事から考えますと、なかなか苦しい運営もやっておられるようだし、まだまだやりたい、またやらせたいなと、こういう面も多いのでございますが、現状ではそういうことになっておりまして、私どもとにかく少なくとも現在の水準は何とかして維持して、欲を言えば切りがございませんが、そういうようなことで臨んでおる次第でございます。
  92. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは大体諸外国のことも大臣御存じだと思いますけれども、大体諸外国では法律扶助というのは渡しきりでありますが、日本では立てかえでやって勝訴の場合に回収するという方針をとっておりますね。その額も、これは五十五年の当時の私の調査なんですが、国庫補助の額がアメリカは二百六十四億円、当時日本の場合は補助金が七千万円台でありました。二百六十四億に対して七千万から八千万。イギリスは国選弁護を含めて日本の円に換算して百十億円、そのうち国選弁護を除いた八十八億円が民事事件の法律扶助に対する補助金である。スウェーデンが五十七億円、オーストラリアが四十九億円、当時の我が国の七千四百万という補助の何十倍という、これは民事的な法律秩序といいますか、これを非常に大切にしておる。  これは市民生活が平穏に公正に行われ、基本的人権の侵害などというものがないようにという点の配慮がそこになされておるわけで、日本の場合はどうしてこんなに配慮が少ないのだろうかと疑問を抱かざるを得ないわけなんですが、これは恐らくまだまだ日本の場合は法の支配の尊重度といいますか、そういうものが非常に低いのだと理解せざるを得ないわけですが、したがって、大臣も御承知でしょうが、今諸外国と比較して余りにも日本の場合は国家のそれに対する貢献度が少ないという点はぜひ他の大臣方にもこれは啓蒙していただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
  93. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私もそういう点でよくそれだけの金でやっているなという気は率直に申しまして持っております。恐らく各大臣、まあ大臣一年でかわりますが、それから恐らく国会議員の皆さんにもそういうようなことの実情なり必要性というものを、これやっぱりよく理解していただく、こういう気持ちでこれからも考えていきたいと思っております。
  94. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最高裁の刑事局長お尋ねしますが、今ちょうど法律扶助の問題が出ましたので、今これはイギリスのちょっと予算を思い出して、これはもう本当に急にお尋ねするわけですが、六十年度の予算にもやはり国選弁護の増額の予算要求はなさいますか。これちょっとお尋ねします。
  95. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 国選弁護の報酬でございますが、私どもといたしましては裁判の適正のためには国選弁護が資するところが非常に大きいというふうに考えておりますし、弁護人に活躍していただくためには報酬の方も何とか充実したいと日ごろ考えているわけでございます。昨今の厳しい財政事情ということがありまして、一昨年は据え置き、昨年は二・八%というわずかな増額でございました。ことしも非常に厳しいようでございますけれども、私どもといたしましては何とか少しでも増額したいということで現在考慮中でございます。
  96. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは法務省の刑事局長内閣委員会に今出ていらっしゃるようですが、これ、いずれ帰られたらお尋ねをすることになると思うんですが、最高裁の刑事局長にもお尋ねをしたいと思うんですが、先般小佐野賢治に対する議院証言法違反の判決、これは東京高裁の判決がおりましたね。これは最高裁の方から判決書の写しをいただいて、見ますと、弁護人が我が現行刑法は我が国裁判所または裁判官が外国裁判所または裁判官に対して証人尋問を嘱託する権限を認めていない、したがってこの事件の一審の東京地裁の行ったアメリカの裁判所に対する証人尋問の嘱託手続は違法であるという主張をしておる。  高等裁判所はこの主張を排斥するためになかなか微に入り細をうがった詳細な理論的主張で判断をしておられるようであります。私は結論においてはこの判決の判断を正当であると考えるものでありますけれども、確かに現在のように国際間の交通が頻繁になり、経済の交流も盛んになりますと、犯罪もしたがって国際的となる可能性がありますね。裁判所が外国に証拠調べの手続を嘱託する必要も今後は増加してくるのではないかと考えられる。そうといたしますと、現行の刑事訴訟法裁判所が外国裁判所に証拠調べの嘱託をする、なし得るという明文の規定がないということは、やはりそういう点の論争を引き起こす原因となるように思うんですが、これはどうでしょうか。  裁判所の判断は、外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法の諸規定を見ると、これは当然嘱託があり得ることを予定している、刑事訴訟法の百六十三条の合理的解釈からも嘱託権限がある、それから民訴法の二百六十四条は外国裁判所に嘱託する権限があることを当然の前提として、その行使の方法を規定したにすぎないというような論拠で今の嘱託を肯定してるわけですね。相互主義の点は、これはあの当時の鹽野法務次官がアメリカに行きまして「ロッキード・エアクラフト社問題に関する法執行についての相互援助のための手続」という協定をあちらの司法省と結んでおる。これは相互主義の原則も充足されだというような、非常に詳細な理論を展開しておられる。  こういう点の疑いを避けるにはやっぱり明文の規定を刑事訴訟法に置いた方がいいんじゃないかと私は思うんですが、最高裁の刑事局長としてはどうお考えですか。
  97. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 外国裁判所に対する証拠調べの嘱託の可否につきましては、ただいまお話がございましたように、現在いわゆるロッキード事件におきまして争点の一つとなっているところでございます。その論点の中心は今御指摘のとおり現行の刑事訴訟法にそれができるという明文がないということで、それをめぐっての論議であるようでございます。確かにこれ、明文があればそういう論議は起きないということは言えようかと思いますが、ただ、この立法の是非ということになりますと、これは私どもとしては意見を差し控えさしていただきたいというふうに存じます。
  98. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 刑事局長、お帰りになって早々で何ですが、今聞いていらっしゃったですか。外国裁判所に対する我が国裁判所の証拠調べ手続の嘱託、これは小佐野の東京高裁判決で詳細にその理論が展開されていますね。これはひとつあなた方がお考えになって、刑事訴訟法に明文の規定を置かれた方がいいんじゃないかと私は思うんですが、どうでしょう。
  99. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今寺田委員からいろいろ御意見ございまして、いろいろ資料等も御説明になったようでございますが、私ども大体同じことでございまして、このロッキードに関しましては、やはり外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法あるいは民訴法等を比べてみましても、その前提には刑事手続について我が国裁判官が外国裁判所等に証人尋問等の嘱託を行う権限を有する、それを売然の前提としているというふうに理解しております。したがいまして、今御指摘のように地裁あるいは高裁の各種の決定あるいは判決等におきましても、そういうことで嘱託尋問調書の適法性ということが判断されておるわけでございます。  先生指摘のように、民訴にあって刑訴にない、その理由は、民訴の方が方式を定めたもので、刑訴はその必要がないから定めていないというふうに理解しておるわけでございます。確かに法律にある方が明確であるという御趣旨はよくわかるわけでございますが、現状ではやはり現行法で十分対処できるというふうに考えておりますので、すぐこれを立法しなければならない、あるいは立法した方が特にいいというところまでは考えておらないわけでございます。
  100. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは現行法でもこういう判例が出ましたから賄えるとは思いますけれども、疑いを避ける意味でちょっとこれは民事訴訟法にあって刑事訴訟法にないというのも何だし、外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法なんというのは明治三十八年の法律でしょう。こういう古い法律を、何というか、合理的に解釈したり、それから日本裁判所間の嘱託による証拠調べの手続をもとに外国にまでできるという、合理的な解釈をするというのは少し無理なように思うんだけれども、これ、もうちょっと考えていただいた方がいいんじゃないですか。面倒ですか、立法でやるというのは。余り面倒には思わないんだけれども
  101. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 寺田委員かねがね御指摘の犯罪の国際化と申しますか、それに対処するためにはロッキード事件以後もいろいろ検討を加えたわけでございまして、寺田委員御承知の、一つは逃亡犯罪人引き渡し条約で対象罪名の拡大、贈収賄を加えたというようなこと、あるいは昭和五十五年でございましたか国際捜査共助法によりまして、これは捜査機関同士による共助の国内法としての手続を完備したというところでいろいろな措置を講じてきたわけでございます。  御指摘の証人尋問の嘱託に関係する規定を置くかどうかということについても、そういう指摘が前からなされておるところでございますが、先ほど申し上げましたように、現行法で十分対処し得るという前提で立法等はまだ現在講じられておらないわけでございますけれども、今寺田委員指摘の御見解はそれとして十分検討させていただきたいと思います。
  102. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 面倒くさがらずにやはりこれは検討してもらいたいと思いますね。  それから、民事局長がいらっしゃるのでお尋ねをしますが、前から司法書士会、行政書士会の方で、公共嘱託登記を受託する組織が今曲がりなりにもあるわげです。これを公益法人として法人化するという問題についての要望があるようであります。これは行政書士会の方は一致して推進を希望しておるようですね。ところが、司法書士会の方で一部反乱軍があったというようなことでありましたが、それもようやく最近になって意思統一ができたようであります。そういう点を考えますと、これはもうそろそろ法人化の方に踏み切ってしかるべきではないかと私は考えておるのですが、民事局長はどういうふうにお考えでしょうか。
  103. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 現在におきましても、ただいま御指摘ございましたように、公共嘱託登記につきまして業界の中に委員会というものを設けまして、事実上地方公共団体等からの受託を受けてやっておるというふうなことを進めておりますけれども、法人格がありませんために会計事務等で問題が出てまいります。したがいまして、これに法人格を与えてほしいというような要望がかねがねございまして、私どもも方向としてはそれは結構ではないかという態度を従前から示しております。  ただ、その法人をどういう形でつくっていったらいいのかということにつきましては、むしろ両会の方でひとつ意見をまとめてほしいということを言っておりまして、ただいま御指摘ありましたように両会の方でそれぞれ検討を進めておりますが、調査士会の方は一応前向きにやるので執行部の方に委任するというふうな形になっておりますが、司法書士会の方はもう少し検討してみたいというようなこともございますので、私どもとしては成り行きを見守っておるところでございますが、両会の方でこういう形でやってほしいというような案がまとまりましたならば私ども十分打ち合わせをしまして、合理的なものであるならばできるだけ早期に法案にまとめて、司法書士法あるいは土地家屋調査士法の改正ということも考えたいというふうに思っております。
  104. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 矯正局と保護局との間の統合の問題が論議されておるとか、あるいは各それぞれの地方機関の統合も同じように主張するものがあるというようなことを聞いておるのですが、私どもとしてばそれぞれの分野のそれぞれの職責があり、これ余りそういう点を財政上の考慮だけで考えていくと大変治安の点で憂慮すべき事態が生ずるのではないかということを恐れておりますが、そういう点についてはこれは大臣はどういうふうにお考えでしょうか。大臣のお考えを伺いたいと思います。
  105. 根岸重治

    政府委員(根岸重治君) 両局にまたがることでもございますので、とりあえず私からお答えさせていただきますが、今御質問のありました点は二つの問題に分かれると思うわけでございまして、まず第一が法務本省にあります矯正局と保護局が一本化できないかという問題が一つあると思うわけです。もう一つは、保護局と矯正局の地方支分部局を一本にできないかという二つの問題に分かれるかと思うのでございますが、まず法務本省の矯正局と保護局の組織を一本化できないかという問題は、いわゆる臨時行政調査会、臨調で一つの議論の対象になったことは事実でございます。ただその発端は、例えば法務省は人権擁護局とか保護局とかいう非常に小人数の局がある、それを一つの局として存在をそのまま認めるのはいかがであろうかという議論の一つとして出された問題でございます。ただ私どもといたしましては、現行法のように矯正局と保護局はそれぞれ、言葉は悪いのですが独立の世帯を張っておくことがぜひ必要なんだということをるる御説明申し上げまして、これは臨調においても御納得いただいたというふうに理解しておりまして、答申にも盛られておりません。  次に出ました問題が、法務省ではいわゆるブロック機関と申しますか、例えて言いますと、裁判所で言いますと八高裁がございますが、と同じようにいろいろなブロック機関が多過ぎるじゃないか、例えば高等検察庁というものがあるでしょう、入管の出先もあるでしょう、公安庁の出先もあるでしょう、と同時に矯正局では矯正管区がある、保護局では地方更生保護委員会がある、これをどれか減らすことができないだろうかということが議論になりまして、とどのつまりは矯正管区と地方更生保護委員会を再編成して新たな局をつくって、出先をつくって、地方更生保護委員会はその新しい地方局の所轄のもとに置かれるものとするというふうにしたらどうかという臨調の勧告があったことは事実でございます。  しかしながら、この矯正管区の果たしている役割と地方更生保護委員会が果たしている役割、例えて言いますと、仮出国につきまして、いわば施設側の立場と、そういう仮出国を許可するかどうかという審判する立場はちょっと違うじゃないか、例えは悪いのですが、いわば検事側と裁判所が同じ組織の中に入ってしまうというのもいかがだろうか等々、あるいは行政組織が複雑化するじゃないかというような理由がございまして、結局のところ臨調の方針の精神にはのっとりまして、矯正管区と地方更生保護委員会のおのおの八つのブロックがございますが、その中のそれぞれ一つの課をつぶしまして行政改革の要請にこたえるという形をもって、臨調答申そのものではございませんけれども、そういう形でこの問題を処理するということで既にこれは実施しております。  したがいまして、現在法務省といたしましては、本省の両局の統合及び今言いました地方のブロック機関の統合ということにつきましては、これでもって一応の処理は終わったというふうに理解しておるわけでございます。
  106. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは大変結構なことで、大分、地方ではその問題についてまじめな関係者が非常に心配しておりましたから、あなた方努力して、何でもかんでも官庁をくっつけたらいい、減らしたらいいというようなあの臨調のやり方、あれはやっぱりあなた方が頑張って排除していってしかるべきであると私も考えておりましたので、大変結構なことです。  この際特に官房長もおられるし、これは最高裁の人事局長に来ていただいたらよかったのだけれども、来年のたしか三月で定年関係の法規が実施されますね。これはかなり職員でやめる者が出てきますか。これちょっと最高裁の刑事局長お尋ねするのも何だが、もし御存じなら官房長と局長お尋ねしたいと思います。
  107. 根岸重治

    政府委員(根岸重治君) 法務省におきましては従来からもいわば勧奨退職の形で高年齢者の退職をしてきた事情もございますけれども、それはそれとして、やはり定年制施行に伴う退職者が相当数出るということは事実でございまして、予算の面におきましてもそのための退職手当のいわば手当てをするということも現在用意しておるわけでございます。
  108. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 私承知しておりませんので、恐縮でございますが、お許し願いたいと思います。
  109. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務省の方はそういう退職手当まで用意していらっしゃるということですが、人員の補充については何か特別な計画でもありますか。
  110. 根岸重治

    政府委員(根岸重治君) 先ほどもちょっと触れましたけれども、従来勧奨退職等の活用によりまして、いわばかなりなだらかな人員の調整と申しますかは行ってきたことは事実でございます。問題はちょっとずれるかもしれませんが、六十年度におきましても四百四十三名といういわゆる計画削減を行わなければなりません。これに対しまして私どもは必要な増員を確保したいということから別途増員要求をいたすわけでございますが、いずれにいたしましても、このようないわば枠内におきましてそれぞれ処理をしたいというふうに考えておるわけでございます。
  111. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 刑事局長、人事局長に今の定年制の問題で一時に退職者が出た場合の人員の補充についてどういう方針か、ちょっとやっぱり非公式に説明していただきたいということをおっしゃっておいてくれませんか。  じゃ、終わります。
  112. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時十五分まで休憩いたします。    午前十一時五十七分休憩      ―――――・―――――    午後一時十七分開会
  113. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  114. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 きょうはロッキード事件について最高裁並びに法務省にちょっとお聞きをいたしたいのでございます。  昨年十月十二日のロッキード丸紅ルートの第一審判決がありまして、特にこの二月に判決の全文の公表がありましてから、いろいろな批判、意見等が出されておりますが、特に最近弁護士さん、学者というようなそういう専門家の方々からいろいろな意見や批判が出ております。中には検察庁、裁判所等の判決について立法府がもう少しよく確かめるべきではないかというような意見もあるようでございまして、そういう立場からきょうはお聞きをしたいと思うのでございます。  いろいろ与党の立場でもございますので考えたのですが、やはり判決の内容ではなくて、特に法手続、デュープロセスという立場から、あるいは確かめておかないと将来の司法の運営に禍根を残すことがあるのではないかという心配も一部にあるようでございます。私はこの判決について、特にその内容について、あるいはその中でも現金授受の事実関係とか、あるいは総理大臣の職務権限、こういうものについてもいろいろな批判がありますけれども、そういうものについてはこれはきょうは触れません。ただ、このロッキードの捜査を通じて、公判を通じて、いろいろデュープロセスという立場から、あるいはいろいろ意見の出ていることにつきまして当局の御意見、御判断を伺いたいと思うのでございます。  最初に、今度のロッキード事件というのは元総理大臣の犯罪ということで非常に特異な事件でございまして、我が国の世論あるいはマスコミ等が異常な高まりを見せた。そういう中で捜査並びに公判が行われたということで、いろいろ裁判所、検察双方とも極めて熱心に取り組まれたわけでありますが、ただ我が国の国民性というものが、私はよく言うのですが、風にそよぐといいますか、非常にワッショイワッショイのおみこしに担がれやすい国民性であります。特にマスコミにおいてはそういう傾向が強いようでありますが、そういうものに特に司法は流されないということが大事で、冷静で極めて公正、国民の信頼をつなぐために公正ということでいかなくてはならない、そういうふうに考えておりますが、今度のロッキードの捜査、裁判を通じて、ややマスコミ、世論の高まりに当局が影響されているんではないかという見方が非常に強いわけですけれども、この点についてまず法務省の方並びに最高裁の方から、今度の判決を適じて、捜査を通じて、裁判を通じて、そういうことについての世論の批判、一部の批判についてのお考えをまずお伺いしたい。
  115. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) ロッキードの捜査につきましては、事実を解明するために検察当局として最善の努力を尽くしたものと考えております。その間、先生指摘のマスコミあるいはその他部外の風潮に流される、そういうことは決してなかったというふうに考えております。
  116. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 申すまでもないことでございますが、憲法は司法権の独立を保障しておりますし、また裁判の独立も保障しているところでございます。「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」、こう書いておるわけでございまして、裁判官が世論に惑わされるというようなことはあってはならないということで、日々自戒して職務に精励しているところでございまして、そういう世論に惑わされるというようなことは一切ないというふうに確信しております。
  117. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 けさほど同僚委員から御質問がありましたけれども検察官の要請に基づいて東京地裁が、あれはカリフォルニアですかロサンゼルスですか、あそこの連邦地裁に対してコーチャンら三人の証人尋問を嘱託したということについて、刑事訴訟法には明文の規定がないわけでありますが、これについては第一審判決でも、またたしか五十二年でしたか、いわゆる東京地裁の岡田決定というものでもそういうことはできるんだという判断が示されておるわけでございますが、けさほどの質問にもありましたけれども日本の刑法の専門家の申には我が刑事訴訟法では嘱託尋問なる制度は日本裁判官に対する嘱託しかないんだと、こういう解釈もあるわけでございまして、たしか数年前の我がこの参議院のロッキード特別委員会並びに予算委員会等での委員質問に対しての御当局のお答えの中にもちょっと触れられておりますけれども、積極説と消極説がある、こういうことでございますが、私一つの裁判所の判断あるいは最高裁の判断というもの、判例というものは極めて大事でありますけれども、けさほどの寺田委員の御質問もあったように、非常に争いが、学説上の意見の分かれが、現に極めて有力な学者等がこれについて、日本裁判官に対する嘱託しかないんだと、こういうような判断もあるわけでございますが、こういう点について最高裁の方でどちらが多数説なのか、そういう解釈をしてもちっともおかしくないということなのか、そういう点についてまずお伺いをいたしたいと思います。
  118. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) ただいまの点でございますが、確かに積極、消極両説が学説上はあります。外国裁判所に対する証拠調べの嘱託は明文の規定がなければできないという解釈をとっている学説がかなりたくさんあるようでございます。これができるという説もあるようでございますが、ただいまお話がありましたように、このロッキード関係の担当した裁判所の判断、これは東京地裁では刑事一部と十二部と二十五部、それから最近では東京高等裁判所の第一刑事部と四つ今までに出ておりますが、これはいずれも積極説をとっているということでございます。で、それがどうであるかということにつきましては、これはまさに進行中のものでございますので、私どもの方から意見を述べるということは差し控えさせていただきたいと思います。
  119. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 けさの御質問の中にもあって法務省のお答えがあったわけですが、私はやはり日本のこういう専門家の間で意見の分かれておる場合に、やはり明文で、特に我が刑事訴訟法は極めて手続規定を厳格に解するわけでございますから、明文ではっきりうたった方がいいではないか。特にこれからもう非常に世界が狭くなって犯罪が国際化するのが常態になってくる、そういうときに学説の違いをそのままにして判例だけで、あるいは裁判所の判断だけでいくのはどうか。この点について私ども立法府としてもいろいろ考えなくてはならぬ問題もあるわけですが、法務省としてはそういう違いのままで、当分裁判所の解釈でいくのだということでいいのかどうか、もう一回法務省のお考えをお聞きしたいと思います。
  120. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 午前中申し上げましたように、現行法の解釈として外国裁判所に対する証人尋問の嘱託は可能である、それを前提として当該ロッキード事件でも行われたというふうに理解いたしておりますので、その点については現行法で十分であり、直ちに立法措置を講ずる必要はないというのが現在の考えでございます。ただ、民訴にあって刑訴にないということで、明文上明らかにした方がいいという寺田委員のお考えはそれなりに理解はできるところでございますので、なお検討させていただきたいというふうに申し上げたわけでございます。
  121. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 証人尋問を嘱託した理由について、これは岡田決定でしたね。いろいろ四つの理由か何か挙げておられますが、その外国に対する嘱託尋問をやった法的根拠は裁判所の訴訟指揮権である、こういうふうに言っておられますね。これについていろいろここにある雑誌その他では専門家の間で訴訟指揮権をそういうふうに広く解すべきではないというふうな意見が相当強い。特に岡田決定の中にあります法に明文の規定がない場合であっても法の目的ないし構造に適合する限り、あるいはむしろ積極的にその目的を実現するために、その権限を行使して法の空白を埋める訴訟行為、こういうことについては行き過ぎではないかと、こういう意見があるんです。そういう点について、訴訟指揮権でいくことについて、最高裁としてそういう批判に対してどういうふうにお考えかをお聞かせ願いたいと思います。
  122. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) このいわゆる嘱託尋問が訴訟指揮権に基づくものだという点につきましては、これはただいま仰せのようにいろいろな意見もございますし、また、現に係属しております各ロッキード事件の中でも弁護人の方から主張されて、例えば東京高裁でこの間ありました判決の中にもそういう主張が出て、裁判所の見解が出ているところでございますので、この事件に関します事柄につきましては意見を述べることは差し控えさせていただきたいと思います。  ただ、一般的に訴訟指揮権ということでございますが、これは教科書などによりますと、訴訟指揮というのは訴訟進行を秩序づけ、審理の円滑を図る裁判所の合目的的活動である、この訴訟指揮権というのは司法権に内在する本質的な権限、すなわち裁判所固有の包括的な権限であるというように言われているようでございます。また、このような訴訟指揮権の性格からいたしまして、訴訟指揮の内容というものを逐一条文化する、決めておくというようなことは事実上困難である、結局はそういう訴訟の主宰者としての裁判所に、訴訟の具体的な状況に照らしまして必要かつ妥当と認められる場合には明文の根拠がなくてもこれが行使できるのだというふうに言われているように思うのでございます。  この点につきまして、最高裁判所の第二小法廷の昭和四十四年四月二十五日の、これはいわゆる証拠開示に関する有名な決定でございますが、その中に「裁判所は、その訴訟上の地位にかんがみ、法規の明文ないし訴訟の基本構造に違背しないかぎり、適切な裁量により公正な訴訟指揮を行ない、訴訟の合目的的進行をはかるべき権限と職責を有するものである」という判示をいたしまして、従来は明文の根拠がないということで認められておりませんでした証拠開示というものを、一定の条件のもとに訴訟指揮権の行使として証拠開示を命じることができると、こういう決定をしているわけでございます。
  123. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私、全体的に判決の批判はできませんけれども、判決等を読んでおりまして、法律の明文の規定がない、あるいは解釈としては一生懸命無理して解釈すればそれは可能であろうかとは思いますが、そういう非常に解釈の分かれるようなものについて裁判所が判断あるいは判例というものでやっていく、その辺の限度というものがどうあっていいのか。これは立法と司法との立場でございますから、余り法の規定が明文化されていないような問題について裁判所が判断をしていく場合に、これは私ども反省でございますけれども、司法にその点を任せないで立法府がやっぱり明文をつくっていくべきではないか、あるいは政府はそういう点について明文をつくっていくべきではないかというような気がするんですが、どうもこの点は私も実はよくわかりません。ただ、これも最高裁にお聞きすることではないかもしれませんけれども、そういう点について解釈、判例というものでどこまでこれをやっていくのか、この点についてもしお考えがあればちょっとお聞かせ願いたい。
  124. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 立法に関しますことは私ども意見は差し控えさせていただきますが、どの程度そういう解釈で補えるかということでございますが、これは非常に難しいことだと思います。ただ、先ほど申しました最高裁判所の決定の中でも述べておりますように「法規の明文ないし訴訟の基本構造に違背しないかぎり」という枠は設けているわけでございます。まさにその訴訟の基本構造に反するというようなことになりますと、これはもう完全な立法でございますので、そういうものでなくて、まさに合目的的な範囲内で必要なものは埋めざるを得ないというものがある、その範囲内においてそれを合理的に解釈していくのだと、こういうことであろうかと思っております。抽象的でありますが、一応そういうふうに考えております。
  125. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 ちょっと細かい問題に入りますけれども嘱託尋問調書は、これはまあ判決によりますが、先ほどの法務省の刑事局長の御答弁にもありましたように刑事訴訟法に基づいて合法的にやったんだと、こういうことなんですね。そういうことから言いますと、ややちょっと判決の内容を引用して申しわけありませんが、あのコーチャンらに対する嘱託尋問調書について検察官は刑事訴訟法三百二十一条の一項一号、裁判官の面前における調書としておられるのに対しまして、あれは岡田決定の方でしたかはこれを三百二十一条一項三号の書面だと、こう言っておられるわけですが、刑事訴訟法に基づいてこの嘱託尋問が正当になされたという判断に立つならば、あれカリフォルニア地裁と言うんですか、ロサンゼルス地裁と言うんですか、あそこで行われたチャントリーとかいう、これは退職判事だそうですけれども、このチャントリーという人はこの刑事訴訟法二百二十八条に言う裁判官と同じだと、こういうふうに判断をしていいんでしょうか。この点をお伺いをいたしたいと思います。
  126. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) これは先ほど申し上げました東京地裁のロッキードを担当しました各三部、それから東京高等裁判所、いずれもこれは三百二十一条の一項三号の書面というふうに解した、要するに三百二十一条一項一号の裁判官には当たらないという判断をしているというように承知しております。
  127. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 そうすると、今の刑事訴訟法によれば、尋問を嘱託した場合には、そうしたチャントリーというのは裁判官ではないという判断に立っておるわけですね。
  128. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 事件の内容でございますので、ここに書かれていることしかわかりませんが、これは要するに三百二十一条一項一号に言う裁判官、これは日本裁判官である、それはまさに日本裁判官の場合にだけこういうことになるので、日本裁判官ではないから裁判官には当たらない。ただ、外国に嘱託できるかどうかということは、これは別の問題である、外国裁判所に嘱託ができるというのは、これはまだこの規定とは全く別の解釈でございます。
  129. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 わかりました。  次に、東京地検検事正、また最高検の検事総長のいわゆる刑事免責のあれは宣明書ですか宣明ですか、これについてちょっとお伺いをいたしたいのでございますが、たしか五十一年八月の参議院ロッキード特別委員会で稻葉法務大臣が、検事総長の免責の宣明は「真相解明のために必要とされるコーチャンらの証言を確保するためにとられた特段の措置」と、こういうふうに言っておられます。私も捜査のために何とかして証言を得たいという検察当局の大変な熱意のあらわれと一応評価しておるわけでございますが、アメリカでは刑事免責という制度が一般化されておると伺っております。  しかし、この刑事免責制度というのは、これは実質的には利益誘導によって自白ないし証言を得ようとするものではないか、このように見られておるわけですが、そういう立場からアメリカでは、おとり捜査あるいは先般の産業スパイでしたか、ああいうものでも割合に広くそういう免責制度がとられておるようでございますけれども、それと同じことをアメリカの連邦地裁が日本に求めたのではないか。  それに対して日本がこたえたのが刑事訴訟法二百四十八条による、いわゆる私どもが申し上げておる起訴便宜主義という立場で刑事免責が行われたように見ておるわけですけれども、刑事免責制度というものが、刑事訴訟法二百四十八条によって米国のような刑事免責が行われたということから見ると、私は、先ほどの法務大臣の答弁のように、これは一回きりとられた特段の異例な措置だ、このように思うわけでございますけれども、後々のこともありますからちょっとお聞きをしたいのでありますけれども、刑訴法二百四十八条は刑事免責の制度ではない、このように承知してよろしいのかどうか、あるいは場合によったらアメリカの刑事免責制度をも包含するものである、このようなお考えか、この点を法務省にお伺いをいたしたいと思います。
  130. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) お尋ねの点につきましては先ほどから最高裁の刑事局長も申し上げておるとおり、現在高等裁判所あるいは最高裁で係属中の事件、それのまた検察側と被告弁護人側との争点の重要な一つになっておる事柄でございます。したがいまして、公判の過程で今先生指摘の点も双方から意見が出され、裁判所の判断もなされる、その結果を待ちたいと考えておりますので、立ち入った論評ないし意見は差し控えさしていただきたいと思います。  ただ、今の点につきましては、ロッキード公判を通じまして検察当局としましては、あくまでこれは刑訴二百四十八条の起訴猶予といいますか、起訴便宜主義の裁量権の範囲内であるという立場を貫いておるわけでございまして、ちょっと長くなりますが、その要旨だけ申し上げますと、ロッキード事件の嘱託証人尋問の申し立てに当たり、重要な事件関係人であるコーチャン氏らがあらかじめ刑事訴追を免除しない限り証言を拒否し、ロッキード事件の真相解明ができないこと、あるいはコーチャン氏らの来日の可能性は乏しく、また当時の日米間の逃亡犯罪人引き渡し条約には外為法違反あるいは贈収賄罪等には適用がなかったことなどから、もともと日本国においてコーチャン氏らを刑事訴追する可能性は事実上あり得ず、同氏らを起訴猶予に付すことにより失われる公益が少ないのに反し、一方、これにより同氏から真相を聴取することができるならば、得られる公益ははるかに前者を上回ることは明らかである、そういうことなどから、このような場合における起訴猶予権限の行使は合理的な裁量権の行使であって、二百四十八条に違反するものではないという二百四十八条の解釈を主張いたしておるわけでございます。  この点につきましては東京地裁におきます三つの決定、あるいは先般の控訴審の小佐野関係判決におきましても、その道行きに若干考え方のニュアンスの違いはありますものの、結論においては、刑訴法二百四十八条に基づく検察官の適正な裁量権の範囲内であるという結論は一致されているところでございます。したがいまして、今海江田先生指摘の一回こっきりと言えるかどうか、それは断言するわけにはまいりませんが、今申し上げましたような特殊なといいますか、特異な事情下において二百四十八条の裁量権の範囲内であるということで検察官は主張しておるわけでございます。
  131. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 よく趣旨理解できるわけでありますが、今後国際的なスパイ事件とか、それからいろいろ国際的な密輸事件、そういうものやら、今後犯罪が非常に国際化してまいりますと、アメリカにおけるような刑事免責制度というものがこのときになされたということで、あるいは二百四十八条によって刑事免責というか、免責をして捜査をするというようなことが今後あり得るのではないかという心配があるわけでございまして、ちょっと私そういうものについてはやっぱり刑事法制上の何らかの手が打たれないといけないのではないか、このような心配をいたしておりまして、私の気持ちとしてはやはり何らかの解釈の中で、あるいは法務省当局の決断の中で歯どめ的なものが一つあってしかるべきではないか、このように考えておるわけです。そういう意味で、これはこの点について申し上げたわけでございますので、これは答弁は要りませんけれども、やはり何らかの歯どめが必要ではないか、このように考える次第でございます。  なお、ちょっとこれは聞きにくいのですけれども、検事総長が今後自分の後継者をもこの自分の宣明は拘束するんだと、こういうことを言っておられることについて、学者、専門家の間でいろいろ批判があるようでございます。ただ私は、多分あれはたしか裁判官の判決の中にも、あれはどっちでしたか、岡田決定でしたかの中でも言っているように、これは法律的には効果があるかないかちょっと疑わしいというようなことを言っておられて、ただ事実行為としてというような判断があったようでございますが、ちょっと私ああいう異常な事態での宣明でございますから、それと、コーチャン証言をぜひ入手したい、捜査を効果的にやりたいというお立場からのことであろうと思いますが、「この意思決定は当職及び東京地検の検事正の後継者を拘束するものであることを宣言している」と、こういうような言葉がありますので、この点についてのいわゆる専門家の批判というものについて法務省の方ではどうお考えか、これだけをお聞きしたいと思います。
  132. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 先ほど申し上げました趣旨におきまして、詳しくその法的効力等について立ち入ることは差し控えさしていただきたいと思います。  今御指摘のように検事総長あるいは検事正の宣明でございますが、我が国検察権の行使の最高責任者である検事総長及びその命を受けた地検検事正がその正当な権限に基づいてなされたものであるというふうに理解いたしております。そしてさらに公判の途中で、検察官いろいろ公判で釈明しておりますが、その一つで申し上げておりますことは、検事総長ないし検事正の宣明の法的性格、その拘束力を持つかどうかという点につきましては、単に検事総長の宣明がなされたということでもって当然に後継者を拘束するというものではございませんで、その確約がなされ、その検事総長及びその命を受けた検事正がその正当な権限に基づいて国家意思の表明としてなされたものであるということ、そしてそれが外交ルートを経由いたしましてカリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に伝達され、さらに嘱託尋問手続を円滑に遂行させる権限を有する我が国の最高裁判所が検事総長から右不起訴の確約を確認した上、その趣旨を宣明して右の連邦地方裁判所に伝達する、同裁判所において不起訴の確約によってコーチャン氏ら証人が我が国において刑事訴追を受けるおそれがなく、証言義務があると裁定されたというその一連の経緯に徴しますれば、我が国は、アメリカ合衆国に対しみずから表明した国家意思である不起訴の確約を将来にわたって遵守しなければならないいわば国際信義上と申しますか、国際的な義務を負うということになるわけであります。  したがって、右確約を取り消しあるいは撤回することは許されないと言わなければならない。そういう意味で法的にも確定力を有し、検事総長及び検事正の右の確約は後継者を拘束するものであるという趣旨を法廷で釈明いたしておりますので、その趣旨に御理解をいただきたいと思います。
  133. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 この検事総長の免責の宣明に対して、また最高裁がいろいろなお立場から免責の宣明書を出しておられるわけですが、これについて、一部の人たちの中に、検察庁の検事総長の免責の宣明はまだ理解できるけれども、最高裁がこれをさらに認めるというか補強するような宣明を最高裁の裁判官会議で決議したということについては、これは行き過ぎではないか、特に捜査に手をかしたのではないかということをいろいろな学者その他が申しておりますが、これについて最高裁のお考えをお伺いしたい。
  134. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) この最高裁判所の宣明書は、ただいまも出ましたが、東京地裁の裁判官が証人尋問をアメリカ合衆国の裁判所に嘱託いたしましたところ、これを受けました中部カリフォルニア合衆国連邦地裁のファーガソン判事が、証人らが日本国内において起訴されるという可能性は事実上極めて小さいと思われるが、証人らが証言をした結果として起訴されることがない旨を明確にした日本国最高裁の決定または規則を提出するまで嘱託に基づく証言を伝達してはならないことを特に指示すると、こういう決定を、裁定をしたわけでございます。  それで、最高裁判所といたしましては、こういう決定または規則というようなことはやりようがない、いわば東京地裁の裁判官が必要性を認めて裁判権の行使として嘱託したわけでございますが、それがそういう裁定によって目的を達しない状態にある、これは裁判権の行使を円滑ならしめるために何らかの措置をとる必要があるということでいろいろ接触をし、感触を得たところによりまして、こういう宣明書というようなものを出すことによって、その目的といいますか、嘱託尋問の結果をこちらに引き渡してもらえる、要するに日本裁判官がいたしました裁判権の行使としての嘱託尋問の目的は達成することができると、こういうことになったわけでございます。  それで、この司法行政といいますのは、一般に広義の司法裁判権の行使や裁判制度の運営を適正かつ円滑に行わせるとともに、裁判官その他の裁判所に属する職員を監督するために必要な一切の行政作用を言う、こう定義されているようでございますが、最高裁といたしましては、今何度も申しましたように裁判官が行った証人尋問嘱託という、そういう目的を達成する、こういう裁判権の行使を円滑に行わせるという司法行政作用の一環であるというふうに考えて宣明書を発したものでございます。したがいまして、この宣明書の末尾には、この司法行政権に関します規定でございますけれども裁判所法十二条の規定に基づくということが明記されているわけでございます。  なお、これが捜査に手をかすとかなんとかということでございますが、この裁判所の宣明書の持ちます意味とか効果というようなこともまた現に係属中の事件で争われておりますので、この点は差し控えさせていただきたいと思いますが、ただ、この地方裁判所の裁判官がいたしました尋問の嘱託でございますが、これは刑事訴訟法の二百二十六条によるものでございます。  この二百二十六条と申しますのは、「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、」二百二十三条一項の規定、これは要するに検察官、捜査官の取り調べでございますが、それに対して「出頭又は供述を拒んだ場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。」と、こう規定しているわけでございまして、この規定の文言からも明らかなように、これは捜査官による任意処分による取り調べでは目的が達せられない、要するに参考人等が捜査に非協力であるために捜査の目的が達成できない場合にこういう裁判所に対して証人尋問によることを認めた規定でございまして、これはいわば裁判所のためじゃなくて、これは捜査の目的、これは被告人に有利不利を問いませんが、捜査の目的のために設けられた規定でございまして、これも一つの裁判所の仕事でございます。この規定自体はまさにそういう意味では捜査に資するものであるということは、この規定の性質からそういうことは言えるかと思います。
  135. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 もう時間がないので、ちょっともう一つだけ聞きますが、この反対尋問について、憲法三十七条ですか、反対尋問の機会を与えられなかったということについては憲法違反ではないかと、こういう批判が出されておりますが、この点についてはいかがでしょうか。
  136. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) この点も、まさに各裁判所の決定、判決、あるしはこの間の高等裁判所の判決においても争われて残っておるところでございますので、この点についての意見も差し控えさしていただきたいと思います。
  137. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 先ほどの免責の最高裁の宣明につきまして、そういうアメリカの、あれはファーガソンという判事でしたかからの強い要請があった場合でも、やはりそういう宣明を出される過程では将来の反対尋問を保障させる約束を取りつけておくべきではなかったか、こういう非常な専門家の意見がありますが、これについてはいかがでしょうか。
  138. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) そういう意見のあることは承知いたしておりますが、現実にはそういうことはしてなかったということのようでございます。
  139. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 本日は二つの問題を論題にいたしたいと思いますが、まず第一は、罰則を命令に委任することについての憲法上の限界の問題でございます。それが第一の論題でございます。それから第二の論題は、先ほど同僚議員からもお話がございましたロッキード疑獄事件における第一審判決の中にあらわれました法律上の疑問点の問題でございます。  この二つについてお尋ねをするわけですが、その前に私の立場を少しお話をしておきませんと混乱いたしますのでお話をいたしますが、私は公明党・国民会議に属しておりますが、本日質問をいたします立場は国民会議の所属員としての立場質問をするわけでございます。つまり学者グループの議員としての質問だという点で御承知を願いたいのでございまして、このようなことを申し上げますのは、なぜこういうことを申し上げるかといいますと、「諸君!」という雑誌に山本七平という方が論文を書いておられますが、その中で権力の源泉の問題を提起しておりまして、権力の源泉には個人的資質と財力と組織と三つのものがあるんだ、そしてその権力を行使する手段として威嚇と報償と条件づけがある、このように述べておられます。そして従来第三者からの立場から見ますというと、権力といえば威嚇権力と報償権力とこの二つだったんだが、もう一つ条件づけ権力というものを新しく考えなければならぬ、このように言うておるわけです。これは仮名がつけてありますが、コンディションド・パワーと、こう仮名がつけてあります。恐らくそういう英語の翻訳で条件づけ権力と言うたのだと思いますが、そういうことを述べております。この条件づけ権力というものの私は恐しさを痛切に感ずるわけでございます。  私ごとの例を挙げて申しわけないんですが、私は今から七年前に初めて国会議員になりまして、法務委員会に所属しまして法務委員会の会議録を丹念に読ましていただきました。そしてその中で灰色高官という言葉を使って、灰色高官に対するいろいろな御処置の問題が書かれておりました。学者として今まで刑事訴訟法と刑法ばかり大学で講義をし、大学院で学生指導をしてきた目から見ますと余りにも異様な状態であったわけです。一体こんなことでいいのかと思いました。これは人権侵害も甚だしいではないかということを考えまして、実は今から考えますと大変大人げない話でございますが、人権保障の問題として二時間にわたって質問を行いました。  当時の私の感覚からいきますと十時間にわたってやってもまだ足らないと思ったのですが、結局二時間やりましたところが、その明くる日の新聞、これは名前を出しても事実ですからいいと思いますが、朝日新聞の第二面に大きなスペースをとりまして名指しで非難の記事が載りました。そしてその非難の記事を受けていろいろの雑誌あるいは政党の機関紙で私に対する個人的攻撃、それからひいては公明党に対する攻撃がなされたわけでございます。そのために公明党はびっくりしまして、私にもう質問するのはやめろ、これから質問する場合は必ず国対の許可を受けてやれと、こういうおしかりをこうむったわけであります。それ以来、議員としての国会における私の発言は極めて制限されることになったのです。  憲法の五十一条をごらんになりますと、これはどなたでもおわかりになると思いますが、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と書いてありますが、ところが実際は院外で責任を問われました。私が自宅へ帰りますと国鉄の労働組合の幹部の方がわんさと押しかけてきて、何事を君はやるのだというおしかりでございます。私は私の議事録を出して読みました。それを読みましたところが、そういうことならそう文句を言いに来るんではなかったと、こういうわけですね。しかし組織の上からとにかくあそこへ行ってゆすってこいという命令を受けたので来ましたもので、まあ御了承くださいと言うてお帰りになった。これが実情なんですよ。こういうような実情で一体議員の院外における無答責というものが存在し得るかということでございます。  今回、きょう実はなぜこのことを申しますかといいますと、今から私が行います質問は政府の御意向に反する質問であります。したがいまして、この条件づけパワーによって弾圧を受けるおそれが多分にある、こう考えまして、あらかじめ予防線を張ってそういうことのないようにお願いをしておく次第であります。  まず、そういう問題をお願いをいたしまして問題点に入りますが、第一の問題の罰則を命令に委任する憲法上の限界の問題でございます。  私は実は先般の湖沼法の立法のときの審議におきまして、この湖沼法の草案の中に憲法に違反する部分があるということを感じまして、その部分の訂正を要求しました。しかしこれは通りませんでしたが、したがいまして修正案を提出しました。これも一蹴されてしまいました。この修正案が一蹴すべき内容であるかどうかを皆さん方にちょっと御披露いたしたいのです。     湖沼水質保全特別措置法案に対する修正案  湖沼水質保全特別措置法案の一部を次のように修正する。  第三十条中「及び経過措置に関する罰則」を削り、同条に次の一項を加える。  二項を設けまして、これはこのように変えてくれという要求なんですが、  2 前項の規定に基づく命令には、その命令に違反した者を十万円以下の罰金又は科料に処する旨の規定及び法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関してその命令の違反行為をしたときはその行為者を罰するほかその法人又は人に対して各本条の罰金又は科料を科する旨の規定並びにその命令に違反した者を十万円以下の過料に処する旨の規定を設けることができる。こういう条文に直したらどうだということを提案したんです。  原文は括弧して括弧の中に「経過措置に関する罰則」と書いてあるだけなんです。それを命令に委任できると書いてある。こういう書き方ですと明らかに包括委任であります。  最高裁の過去における判例を見ますと、包括委任は許されないということに読み取れる議論がございます。これはもう皆さん御承知だと思いますが、条例に罰則をつけることは憲法に違反するのではないかという訴えがございました。それに対して最高裁の御判断は、包括的な一般的な抽象的な委任であればもちろんこれは憲法三十一条に違反するおそれがある、しかし問題になっている条例、これは大阪府条例ですが、条例の罰則は、地方自治法の十四条に条例に規定し得る内容を箇条書きに掲げておる、その次に条例に付し得る罰則の範囲を明確に決めておる、こういうわけでございます。  正確な言葉で申しますと、この点は一致した意見は「ただ法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであってならないことは、いうまでもない。」、こういう全員の意見を書きまして、それを補足された奥野裁判官の補足意見がございます。補足意見というのは内容をもっと細かく言うただけのものですが、それでいきますと、どう言うているかといいますと「条例を以って規定することができる事項は地方自治法によって限定されており、また同条は罰則の限度を二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑に限定しておるのであるから、」憲法違反ではないと、こう言うているんですよ。それならば私もわかるのです、最高裁のおっしゃることは。  もちろん最高裁の判例は、学者としての意見から言うならば極めて非常に緩やかな御態度での判断である、できるだけ行政の実態を救済しようという配慮からされたものであるということはそう思います。もっと厳格に言うならまだまだ厳格に言うべきものだと思いますが、まあそれでいいといたしましょう。  ところが、この湖沼法の審議の際にそのことを私申しました。一般的な抽象的な方法で委任するならばそれは憲法に違反する、憲法に違反するような立法を立法府が行っていいかどうか、これは立法府の見識の問題である、行政官がおつくりになったからという問題ではない、政府提案だから政府の責任だとは言い得ない、つくるのはこれからの国会議員がつくるのですからその責任であるということをくどく申しましたが、結局通らなかったわけであります。この問題は重大な問題だと思うんです。私は社会党は非常に偉いと思いましたのは、社会党がおつくりになった対案があったんですが、その対案も同じく私が指摘した憲法違反というものがあったんです。対案を引っ込められましたんですよ。わざわざ引っ込めて修正案をお出しになった。私は立派な態度だと思いますが、その後、社会党の修正案も否決されたのでやむを得ませんが、これは要らぬことですが、そういう状態です。  そこで、私は実はこの問題について明らかにしなければ基本的人権の保障上重大な問題であると考えたわけでございます。いろいろ法律を、六法全書をわたりまして罰則の命令への委任についての規定の仕方はどういうものがあるかということを調べてみました。そうしますと四つに分類できるんです。  まず第一の方法は、例えば漁業法の六十五条、あるいは地方自治法の十四条に見られますように、命令に規定すべき内容を箇条書きに書いて、この範囲内でなけれぱいけないよということを明らかにいたしまして、その上付し得る刑罰の範囲を明確に決めておるわけです。こういうのが第一の類型でございます。これでいけば憲法違反になるおそれはまずないと私は思いますが、そういう類型がございます。  それから第二の類型は、大気汚染防止法の三十条の二、それから消費生活用製品安全法の九十四条の類型でございます。これはどういうのかといいますと、所要の経過措置を命令に委任するという条文ですが、その「所要の経過措置」という下に括弧をしまして、そして罰則の経過措置を含むと書いてあるんです。罰則の経過措置ですね。これはいいと思うんですよ。罰則は既に法律に掲げてありますから、それの経過措置ですから一向に差し支えないと思いますが、そういう形で決めたのが第二の類型であります。  それから第三の類型は、公害健康被害補償法附則十八条に決められておるものですが、これはどういうのかといいますと、こういうふうに書いてあるんですね。「この法律の施行前にした行為及びこの法律の附則においてなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。」こういうのです。つまり法律を出した、法律の施行後に行ったところの行為に対する罰則を適用しなければならぬ場合は従前の例による、つまり経過措置ですから、急に重い刑罰を科したのじゃ悪いので、経過措置の場合にはもう前の例によって軽い方の例で罰してもいい、こういうようなことになるわけですが、こういう類型があるわけです。  それから第四の類型はどういうのかといいますと、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律というのがございまして、それの五十四条でございます。これは所要の経過措置を命令に委任するという規定の「所要の経過措置」という下に括弧をしまして、そして罰則の経過措置及び経過措置の罰則を含むと、こう書いてあるんです。経過措置の罰則を含むとこういうふうに書いてあります。これは海洋汚染防止法の規定の仕方ですが、この例でいきますと明らかに私は一括委任であると思うわけですね。そして、そういう恐らく憲法違反のおそれのある決め方をしたのは海洋汚染防止法だと考えるわけですが、その前例に倣って湖沼法はつくられたわけです。ほかにもっと憲法に合致する方法が幾らでもあるのに、そういう前例があるのに殊さらにそれに目をつぶって、湖沼法では憲法違反のおそれがあるような方式でつくられた、これもだれも指摘してないのならともかく、私が口やかましく指摘したのですよ。なお討論のときにも、賛成討論においてこういう問題を大分述べた後に湖沼法に賛成する賛成討論をしたんです。そういうようなことがございました。  そこでお尋ねをするわけなんですが、こういう罰則の経過措置というのならいいけれども、経過措置の罰則を命令に委任する、そういう書き方をした場合にこれはどういう内容についてどういう刑罰を付するということが全然明示されておりません。私の方で提案しました修正案なら明示されておるわけです。これはちょっと誤解があるといけませんので申しますが、私もと言いましたが、実はこの修正案を書いてくださったのは参議院の法制局であります。だから私が書いたのではありませんので、この点は明確にしておきます。  この参議院修正案の案は第五番目の類型に属するものです。明確に箇条書きに条項は書かないけれども、ひっくるんで命令に違反する行為はという行為にして、そのかわり刑罰は明確にあらわす、こういう第五番目の類型もあるわけですが、これならば私は憲法に違反しないと思うんです。参議院の法制局の大変な御努力を私は感謝するわけですが、これが法文に入れられなかったという点を残念に思うわけであります。これは余分のことでございますが。  こういう憲法三十一条に違反するようなおそれのある条文、こういう条文に出会われて検察官は命令が決めた罰則を根拠にして起訴されるのかどうか、こういう問題があるんです。そのことをお尋ねしようとするわけですが、その前に、実は運輸省の方に来ていただいておると思いますのでお尋ねをいたしますが、海洋汚染防止法の五十四条が成立しましたその間の事情についてまずお尋ねをいたします。
  140. 染谷昭夫

    説明員(染谷昭夫君) お答え申し上げます。  海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律五十四条の規定のうち経過措置に関する罰則、そういう項についてのお尋ねというふうに理解いたしますが、この部分につきましては昭和四十五年のこの法律制定時に設けられたものでございます。この四十五年に制定されました海洋汚染防止法といいますのは、五十一年に現在の題名に改称をしておりますけれども、これは新たに海洋施設についてその設置の届け出を義務づけるとともに、海洋施設の具体的な範囲は政令で定めることといたしたものでございますが、政令で海洋施設を定め、またはその改正を行う場合には、例えば既に設置されている海洋施設、これが問題でございますけれども、既に設置されている海洋施設について政令の施行後一定の期間内に届け出をすべきこととするなど所要の経過措置を定める必要がございます。また、そのような経過措置といたしましての届け出義務等につきましては、法律の本則の規定による届け出義務違反との関係から見まして、罰則をもって担保することが必要となる場合があるという、こういうようなことからこのような規定が設けられるに至ったものでございます。  なお、その後の法律改正、これ五十五年でございますが、同様の経過措置を必要とする事項が幾つか追加されましたので、その他の若干の事項とあわせまして法律の改正をしたものでございますが、この経過措置に関する罰則については昭和四十五年の当時のままでございます。
  141. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この海洋汚染防止法五十四条に基づく命令としてはどういう命令が出されてどういう罰則がつけられましたか。
  142. 染谷昭夫

    説明員(染谷昭夫君) 具体的な罰則について申し上げます。  二つございまして、一つは海洋汚染防止法施行令の一部を改正する政令、昭和四十七年二月十四日、政令第十六号附則第五項というのがございます。これは内容といたしましては、そのまま読んでまいりますが、「附則第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、三万円以下の過料に処する。」というものでございます。  もう一つ省令がございます。海洋汚染防止設備等に関する技術上の基準を定める省令、昭和五十八年八月二十四日、運輸省令第三十八号附則第六条の規定でございまして、これもそのまま読んでまいりますが、「附則第四条第十項から第十二項までの規定に違反した者は、二十万円以下の罰金に処する。」と、こういう内容のものでございます。
  143. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 その罰則を適用して有罪の判決になった例はございますか。
  144. 堀尾重雄

    説明員(堀尾重雄君) お答えします。  御質問の件に関しましては過去に違反事例はなく、いかなる処分もなされておりません。
  145. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 どうぞ済みましたので運輸省の方、結構です。どうもありがとうございました。  海洋汚染防止法に関しましては、幸いにして罰則はあるけれども、適用した、行った裁判は持っていないわけでございますのでいいのですが、一般論としましてお尋ねをいたしますが、この海洋汚染防止法とか湖沼法に決められました命令への罰則の委任方法、これは単に「経過措置に関する罰則」とだけ書いて委任をしておりますが、こういう委任の仕方は包括委任になるのではないでしょうか、政府の御見解をお尋ねいたします。
  146. 関守

    政府委員(関守君) 私どもは「経過措置に関する罰則」というのを、所要の経過措置を合理的な範囲内で定めるという規定を設ける際にこれを含ませるということにつきましては、それは包括的、抽象的な委任ではないと考えておりまして、その点につきましてはまず第一に経過措置に関する罰則でございますから、これはもともと法律の個々の条項によりまして命令を定めることになっております。その命令の制定、改廃の内容になる事項に関して経過措置が必要になることがあろう、そういう場合に設けるものでございます。したがいまして、非常に特定した事項につきまして、それが特定の事項につきましての規定の改廃に伴いますいわば付随的なものでございまして、しかも法案あるいは法律の上で「合理的に必要と判断される範囲内に」というふうに限定してございますので、その可罰事項の面でこれが抽象的、包括的なもので白紙委任であるということはないというふうに考えております。  それから、罰則に関するその罰の限度の問題でございますけれども、これにつきましても「合理的に必要と判断される範囲内」ということでございますので、湖沼法の場合で申しますと湖沼法の各罰則の条文がございますけれども、そういう湖沼法の各条文の規定で具体的に定めております罰則がございますが、それに当たりますその当該経過措置を必要といたします本来の措置、それの罰の上限を超えることはできないというのは、これ合理的な判断として当然であろうというふうに考えられますから、特に明文をもって確かに御指摘のようにこの海洋汚染防止法にしても湖沼法にいたしましても書いてございませんけれども、それらの「合理的に必要と判断される」というのは、むしろそういう個々の経過措置について罰則の上限を十分超えられないようなものとして決めてある規定であるというふうに考えられますので、これが憲法三十一条に反するところの委任の、何と申しますか、抽象的な委任とか包括的な委任による罰則であるというふうには考えていないわけでございます。
  147. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 大変回りくどい御説明でちょっと理解しかねたんですが、あの条文を見ますと、罰則の経過措置という言葉を書いて、その次に及び経過措置の罰則と書いてあるんです。罰則の経過措置でありますならば、多分本条でいろいろ禁止規定を置きまして、その禁止規定については罰則を「罰則」というところで決めております。その罰則を法律が変わったときに急に変えるというと不公平、バランスを欠くというようなことがありますので、経過措置で罰則の低いところで調整がとれるようにするというのでありまするならば、法律の本則の申で罰則が書いてあって、その範囲内で命令で決めることですから、それは憲法三十一条に反しないと私は思いますよ。  しかし、罰則の経過措置、その次に及び経過措置の罰則というところに来ますと、これは本法に書いてある内容のことではないのですよ。いろいろのことができる。行政上できる。できることにつきまして具体的の場合に同じことをいつまでもやっておるわけにはいかぬので、時間がたつに従って措置を変えていかなければならぬ。いろいろの行政措置が変わっていくんですね。行政措置が変わっていくその経過措置なんですが、その経過措置について罰則を決めよう、経過措置は行政に一括して一任してしまう。一括して法律が命令に委任しました、どうぞ命令で自由に決めてくれ、こう言うて一括したんです。一括して委任したんですね。そしてそれにつける罰則も任せるよと、こう言うているんです。経過措置を全部ひっくるめて命令に委任した、これはいいですよ、罰則の問題はないから。ついでにそれにつける罰則も自由に決めてくれよと、こう言うて委任したんですよ。  そういうことになりますと、明らかにこれは包括的委任であります。最高裁の大法廷の判決はそういうものはいけないと言うているんですよ。条例の罰則が憲法違反でないのは地方自治法に罰則が明記してある。地方自治法に罰則が明記してあるんだから、その範囲内で条例で決めるんだからいいんだよと、こう言うているんですよ。ところが、この海洋汚染防止法とか湖沼法はそうじゃないでしょう。いろいろ行政行為は法律で一々決めるわけにいかぬから命令に委任する、どうぞ省令なり総理府令なりで決めてくださいよと、こういうわけですね。それについて、もし言うことを聞かぬものがあったら構わぬから命令でどんどん罰しなさい、これも委任するよと、こういうことなんです。  これなら明らかに包括委任じゃありませんか。そういう包括委任だとだれが考えても思われることを理屈をつけてそうじゃないと頑張るのは私はよろしくないと思うんです。この問題は基本的人権の問題ですからね。この命令で決められた罰則に従ってもし検察官が起訴し、裁判官がそれをもとにして有罪の判決をいたしましたときには、命令が決めた刑罰でしょう。命令が決めた刑罰で罰することになる。そうすれば法律の手続によるものじゃないでしょう。憲法の三十一条は刑罰を科する場合は法律に定める手続によらなければいかぬ、法律に定める手続によるのでなければ何人も刑罰を科せられない、こうなっているんですよ。  そういう点からいきますと、明らかに憲法違反、三十一条の違反になるようなことを検察官なり裁判官に強要する法律じゃありませんか。検察官とか裁判官は法律に従って事を処理なさいますから、法律で書いてあれば、例え憲法違反だと思っても、それには目をつぶっておやりになることが多いのではないかと私は思いますよ。本当は裁判官はそうであってはいけないんです。裁判官は憲法違反であるかないかを十分判断をして、憲法違反と思われるならばそういう命令には従う義務がありません。憲法では明らかに、この憲法と法律だけに拘束されるということが書いてあります。それなのに、なお検察官とか裁判官を困らせるような内容の法律をわかっておりながら立法府がつくるということは私は立法府の極めて怠慢であり、遺憾な行為だと思いますが、これは政府に言うているんじゃありませんよ。  政府はこれは立法府のやることを手伝っていただいただけです。法制局の方も手伝っていただいただけである。だから、その憲法違反の法律をつくった責任は私は立法府にあると思います。だから、そのことを申し上げるのですが、しかし今私どもは立法府に対して憲法違反だから改めよと言うて改めさせる手段がないんです。結局原案をおつくりになった政府にそれを述べて要求して改めてもらう以外に方法がない。基本的人権を守るということが今日の国会の任務である、裁判官の任務である、私どもはそう考えるからこの問題を提起しておるんですよ。私は、法制局の御答弁は無理からぬ、お立場としてはそういうふうにおっしゃらざるを得ない立場であろうと思いまして、これ以上答弁をけしからぬとかどうとかというような言い方で追及はいたしませんが、この点についてぜひお考えを願いたい。  それで、法務省に私はお尋ねをいたすのですが、このような憲法に違反すると思われるような命令の罰則、そういうものの違反があった場合に、これをもとにして起訴をするように検察官一体の法則で御指導になっておるのかどうか、その点をお尋ねいたします。
  148. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 前提といたしまして、ただいま御議論のあります湖沼法あるいは海洋汚染防止法でございますか、その条文につきましては私どもも、今法制局から御答弁のありましたように、憲法違反ではないというふうに理解いたしておるわけでございます。  なお、一般論といたしまして、違憲と思われる条例の違反が送致された場合、その当該検察官は憲法違反ではないかという疑いを持てば、上司に相談するとか、自分の疑問を晴らすべく最大の研究をし努力をし、しかるべき措置がとられるものと考えております。
  149. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 きょうはここで議論をいたしましても、お立場上本当の意見は出てこないと思いますので、この程度でこの問題はやめることにいたします。  そこで、これに関連しましてお尋ねをいたしたいんですが、行政組織法の十二条四項というのがございます。これによりますと、行政庁に対して罰則をつけることを委任しておる規定がございますね。この規定はどういう意味を持つのか。つまり大臣なり委員会、委員長なりに権限を与えた規定なのか、あるいはそうでなしに、ほかの法律でいろいろ委任事項がありますので、そういうことができるということを一般的に注意した注意規定であるのか、その点について御見解をお尋ねいたします。これはどなたでもいいですよ。総務庁の方からでもいいし、どちらからでもいいですが。
  150. 新野博

    説明員(新野博君) 国家行政組織法十二条四項のお尋ねでございますが、十二条四項は御案内のとおり「第一項の命令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」と、こう書かれておりまして、その第一項では「各大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基いて、それぞれその機関の命令(総理府令又は省令)を発することができる。」と、こういうことでございます。  それで、お尋ねの件が、この意味という場合に、その法律の委任が包括的なものであってもよいのかという点であるとすれば、これは先ほどの御議論のようなことで、十二条四項の趣旨といたしましては、各大臣が主任の事務について法律もしくは政令を施行するため、または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて総理府令または省令を発するに当たりまして、その罰則を設け、または義務を課す、もしくは国民の権利を制限する規定を設ける、こういう場合に法律の委任が必要であるということを言っておるものでございます。したがいまして、法律がその委任事項につきまして一定の範囲を特定し、または限定を付するという形で授権するのでなければ命令に罰則を設けることができないという意味であると理解いたしております。
  151. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 今のお話で大変私はよくわかりましたが、罰則をつける場合には罰の範囲を明示しておかなければならない、こういう御見解であったと思います。その点私もそう考えるわけでございますが、従来必ずしもそういう方向で立法府が立法しておりませんので特にお尋ねした次第です。  その次は、行政組織法というのはこれはもう注意規定であるということで理解できるわけですが、条例の制定権というのがございますね。これは憲法の九十四条に根拠を持っておりますが、「条例を制定することができる。」と、こういうわけですが、その条例に罰則をつけるという問題、これも先ほどの最高裁の御解釈で、不満足ですが了解することにいたします。  しかし、一つだけどうしてもわからない点は、政令でないところの命令です。政令でない命令。各大臣がお出しになる命令ですが、この命令をつくる権限というものの憲法上の根拠はあるかという問題です。行政組織法にはなるほどありますね。今おっしゃったような行政組織法にありますが、そのもっともとになる憲法の規定、憲法上の根拠は何だろうかという点に私どもは疑問を持つわけであります。行政行為だけの問題なら、これは基本的人権の侵害、殊に憲法三十一条の問題には余り関係がありませんので大目に見ることができますけれども、罰則ということになりますと三十一条の問題がもろに出てきますので、したがいましてお尋ねするわけです。いかがでございますか。この政令以外の命令、総理府令とかあるいは省令とか、そういうものを決めることができる憲法上の根拠、お尋ねします。これ総務庁でもいいし、どなたでも構いませんが。
  152. 関守

    政府委員(関守君) 憲法の条文の中で、例えば八十一条では「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」というような規定がございまして、あるいは九十八条にも「命令」という言葉が出てまいりますけれども、したがいまして、憲法では政令だけでない行政機関のいわゆる府令、省令という命令の形式を各行政機関が制定するということを前提としてそういう規定を設けているというふうに考えております。
  153. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 もうちょっとわかるように御説明願えませんか、どうも意味がわからなかったんですが。
  154. 関守

    政府委員(関守君) 繰り返しになって恐縮でございますが、憲法の八十一条で、あるいは九十八条第一項におきまして「命令」という言葉を用いてございます。この命令というのは、行政機関が発する府令、省令という意味合いの命令であるというふうに考えられますので、そういうものを前提とした規定が憲法の中にあるということでございますので、そういうものを制定するということが可能であるということを前提にしているものと考えているわけでございます。
  155. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 憲法八十一条というのは最高裁のこれは規定でしょう。法令審査権の問題でしょうが。これは各行政庁が命令を出し得る根拠だということは、ちょっと普通の人にはそうは読めないんですが、私どもは七十三条の「内閣の職務」のところに根拠を求めるのが普通だと思いますが、その点はどうですか。
  156. 関守

    政府委員(関守君) 御指摘のように、憲法七十三条第六号におきまして政令の制定について規定をしてございます。しかし、この「政令を制定すること。」というふうに書いてございますということが各内閣に属します行政機関が命令を設けることができないということを意味して規定したものであるとは考えておらないわけでございまして、この規定がそういう政令以外の命令を規定することを認めないということではなくて、憲法としては命令という言葉が今お示しの最高裁判所の法令審査権の条文にございますわけでございまして、その法令の例と申しますか、「法律、命令」という、その「命令」というのは行政機関が発するそういう一つの法形式であるというふうに考えておるわけでございます。
  157. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 どうも御説明がはっきりしませんが、憲法七十三条の一号を見てください。その前に「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。」と書きまして、一般の行政事務は内閣の仕事ですから大臣がやりますね。その次に一号に「法律を誠実に執行し、」とありましょう。法律を誠実に執行する仕事というものは、これは内閣に属するところの国務大臣が行うでしょう。国務大臣の担当しておる各省の長としての資格で行うでしょう。法律を誠実に執行するためにいろいろの命令を出すのですよ。それはそれでいいんですよ。命令を出すのは構いませんが、罰則をつけるという点になると、三十一条との関係で問題が起こるわけです。  憲法の三十一条を見ますと「何人も、法律の定める手続によらなければ、」「その他の刑罰を科せられない。」、どんな刑罰でも科せられない、こう書いてあるんですよ。もちろんこの刑罰という言葉の解釈いろいろありますよ。普通の刑法に書いてある刑罰ばかりじゃなくて不利益なことは全部含むということもありますけれども、そんなことは今私は言うているんじゃなくて、私が申し上げるのは、とにかく刑罰を科することができないと書いてあるのに、命令で刑罰を科すことができるような、そういうふうに考えて命令に罰則をお決めになるのは憲法に違反するではないかということなんですよ。  この問題は、今ここで言いましても皆さん方の立場があって、御検討がまだなされていないのでお答えになるのは難しいと思いますので、これ以上追及しませんが、これは研究しておいてくださいよ。これは重大な問題で、今後立法される上において常に問題になる点でありますので、御検討をお願いしておきます。これは検討するのもいやだということだと困りますが、こういう点どうでしょうか。大臣、質問に私は往生しておるんですが、大臣のお言葉をひとつくださるようにお願いします。
  158. 関守

    政府委員(関守君) ただいまの点につきましてはちょっと言葉が足りませんでしたけれども、私どもは、この七十二条六号におきまして、「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」というふうに書いてございますけれども、この理は政令以外の命令にも同一の理が働くのではないかというふうに考えているわけでございます。そうしまして、現に先ほど御指摘の漁業法六十五条におきましては省令あるいは規則で罰則を設けることができるということも規定しているわけでございまして、それにつきまして最高裁判所も憲法に違反するということではないというふうに判決をしているわけでございますので、この点は政令について七十二条六号で規定しているからそれ以外についてはできないのだというふうには考えられないのではないかというふうに思うわけでございます。
  159. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ちょっと整理して申しますが、私は今までに漁業法の問題が憲法違反と言うたことはないのです。漁業法に書いてあるようなやり方ていけば憲法違反にならないのだから、なぜ湖沼法とか何かのときにそういう方法を倣わなかったかということを問題にしておるだけでして、海洋汚染防止法とか湖沼法、この二つの法律だけが憲法に違反するおそれがある。あとはないんですよ。まあ最高裁の広い寛大な御解釈に私ども従っておるわけだ。その点はひとつ誤解のないようにしていただきたいと思います。  この問題はまた将来の問題として残しまして次に移りますが、私の見解からいきますと、政令には罰則を委任することができる、これは憲法にはっきり根拠があります。だからそれはいいと思いますよ。そこで、省令とかあるいは総理府令に罰則をつける場合は、本当いうとこれは憲法の根拠はないんです。ないけれども、ないから、厳密に言いますと私は政令で罰則を決めるべきだと思うんですよ。例えば省令を出しまして、それに罰則をつけたい場合は同時に並行して政令を出すという形ですね。例えば省令第何号第何条についての罰則という名前の政令を出して罰則を決めるのが一番合憲的だと思います。この点も御研究願いたいんですが、そこまで私はもう今要求をすると失礼に当たるかもしれませんので、この点はこの程度にしておきます。  それで、もう時間が大分なくなってきましたんで、次の問題に入りますが、これは私はロッキード判決の判決文自体は判例時報に載っておるのだけで見ました。この判例時報に載っておるこれを全部読みまして検討いたした上の語ですから、もしこの判例時報に載っておるのが違っているということでありましたならば御了解をいただきたいのであります。また、その点をお教え願いたいのであります。  まず、いろいろのルートがありますが、丸紅ルートの問題につきまして法律的な疑念というものを、これは刑法学者、刑事訴訟法学者としての立場からお尋ねをするわけですが、政策的な意味とか政治的意味は何もありません。ただいちずに法律的な問題としてお尋ねをするわけですので、その点を御了解をいただきたいのであります。  この判決、第一審判決文を読みまして極めて奇異に感じますることは、証明の仕方が非常に偏っておるということです。普通から見れば、こんなことをやかましく言わぬでもいいと思うことを詳しくやって、やらねばならぬことが省略されておるという点であります。それで、そういう点はこれからずっと聞いてまいりますが、まず最初にコーチャンが政府の閣僚らにわいろを提供した、こうなっておりますね。丸紅を通しましてわいろを提供したことになっておる。コーチャンはその旨をるる述べておるわけですね。で、コーチャンから直接被告人である田中に渡したわけではないが、丸紅を通じて丸紅の要求によって丸紅に金を送ってそして届けた、こうなっておるわけですが、そうしますと、このコーチャンと丸紅の桧山ほかのいわゆる被告人、こういう者等は贈賄行為の共同正犯ではないかというふうに私どもには解釈できるわけです。これは刑法学者としての立場からの解釈ですよ。解釈できるわけです。  そこで、そういう共同正犯、この共同正犯の一部に対して特別の取り扱いをしていったという形になりますので問題にするわけですが、まず最初にお尋ねするのは、共同正犯と私は理解するんだが、法務省では共同正犯とはお考えにならないのですか、それともお考えになるのですか。この点お尋ねをいたします。
  160. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) お尋ねの丸紅関係の事件でございますが、御承知のように、検察官が起訴いたしました際の公訴事実の中におきましても、被告人桧山等々は「いずれも右在任中、ロッキード社社長アーチボルド・カール・コーチャンと共謀のうえ」云々で贈賄しという公訴事実になっております。また東京地裁におきます第一審の判決におきましてもそのように認定がなされておるところでございます。したがいまして、共謀による共同正犯ということになろうかと思います。
  161. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 贈賄罪における共同正犯ですが、その共同正犯の一人を免責して、ほかの者を有罪にしたというふうに読めるんです、この判決理由書を見ますと。しかも共犯者の一部の者、つまりコーチャンらに免責を約束いたしまして、そして他の共犯者の犯罪事実を自白させる。証言と言うておるけれども、実際は自白なんですね。自白させる。みずからの犯罪を自白すると同時に共犯者のことも証言する、こういう形をとっていくわけなんですが、こういう手続をしてもいいという一体根拠になる法律はあるかどうかということですね。つまり共犯者の一部を免責するということで他の者を有罪にしてもいいという、そういうことを許す刑事訴訟法上の根拠があるでしょうか、お尋ねいたします。
  162. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 午前中来申し上げておりますように、現在この丸紅ルートも控訴されまして東京高裁で審理中でございます。御指摘の点を含めましていろいろ争点があるわけでございますが、お尋ねのコーチャンの嘱託尋問調書等をめぐる点につきましては当事者双方で今後大きな争点になろうかと思います。したがいまして、裁判の経過を見守る上におきましても私どもとしてこれについての見解を述べることは差し控えさせていただきたいと思います。  ただ、先ほど午前中も簡単に申し上げましたように、免責の上云々という点でございますが、この点につきましては検察当局としては刑事訴訟法二百四十八条におきます起訴、不起訴の裁量権の範囲内で、その裁量権を行使して行ったものであり、何ら刑事訴訟法に反するものではないというふうな主張をいたしておるところでございます。
  163. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 これは捜査手続としておやりになったということはよくわかります。こういう捜査手続をとらざるを得なかったという点はそれは事実問題として理解できるんですが、そこで刑事免責というのは一体我が国刑事訴訟法上どういう意味を持つのか。つまり刑事免責というものの訴訟法上の本来の意義というものについてお尋ねするわけなんですが、これはこの判決文を読む限りでは重大な証拠を収集する手段だと、こういうふうに読めるわけですね。憲法三十八条が保障しておる黙秘権、そういうものを使われたんでは困るので、まあ君だけは起訴しないから本当のこと言えよと、こういうわけで言わさしたということになりますと、甘言をもって黙秘権を奪ったのではないかということを言われるわけですね。そういうふうに言うておる人がおるんですよ、いろいろな雑誌なんかで。そういうことを言われるようなことでは困るのではないかと思いますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか、お尋ねをいたします。特に刑事免責をしてもいいという判例があるのか、あるいは刑事免責をしてはいけないんだという判例があるのかという点について、判例にも触れて御説明を願えればありがたいと思いますが、いかがでしょうか。
  164. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今回、まあ今回といいますか、このロッキード・丸紅事件等についてとられました措置につきましては余り従来も例のなかったことでございますので、その点に直接の判例はなかろうかと思います。先ほども申し上げましたように、検察当局としては刑事訴訟法の二百四十八条の起訴便宜主義に基づく裁量権を行使したということで、違法ではないという主張をいたしておるところでございます。
  165. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 検察官の起訴裁量権というものがありますことは私も承知しておりますが、それに基づいて不起訴にするということは、私はそれはそれでいいと思いますよ。例えば同じ共犯でありましても、一方の人は頑固でなかなか本当のことを言わずに我を張る、ところが共犯で片方の人は従順ですぐ本当のことを言うたんで罰するまでもない、こう考えてその者を不起訴にしたということもそれはあり得ると思いますよ。あり得ると思いますが、それは犯罪の内容の問題に関係してくると私は思いますね。  それはそうとしまして、今起訴猶予権に基づいて行ったんだということでございました。これはあくまでも私は刑事訴訟法の問題として言うておるんですから、田中さんを保護するとかという考えは全然ないので、訴訟法だけの問題で言っておりますので誤解のないようにいたしたいんですが、訴訟法を守るということが基本的人権を守ることになるから、だからお尋ねをしておるわけですから誤解ないようにお願いいたします。  そこで、訴追裁量権に基づいて起訴猶予の意思を表明された、将来ともこの措置を守るということは変わらない、だれが後で検事総長になられても変わらないという宣明書でございますが、それはそれとして、検察官の方針としてそれはいいと思います。そうお決めになるのはそれでいいと思いますが、決めたからそれが法的効力を持つかどうかという問題は別だというふうに考えられるわけですね。これも実はこの丸紅ルートの決定書を見ましたら、裁判官もそういう意見ですよ。ですから、余り効果がないことだから構わぬじゃないかというふうに裁判官言うてますから、まあそうだろうと思うんですが、最高裁判所に対してそういうことを確約したと、こういうことが書いてあります。  最高裁判所に対して起訴しないよということを確約するというようなこと、これは大変疑惑を招くと思いますよ。裁判所と検察庁というものは対立しておって、あらかじめ相談をするなんてことはあり得ないんだということが我が刑事訴訟法の建前でありますから、旧刑訴であるならばこれは相談ができたんですが、今は相談してはいかぬ。だから建物も検察庁と裁判所は別の建物にしろというほどまで配慮しておる今日の段階なんですが、こういう段階でこういう問題を最高裁に対して約束したなんて、なぜそんな約束をしなければならぬのか。これはもうすべての刑事訴訟法学者が疑っているんです。こういうことで日本裁判は一体公平を保たれるかという疑いを持っております。こういう点についていかがでございますか。
  166. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) その点も今飯田委員指摘のように、いろいろ一部で学者の方その他に論議のあるということは十分承知いたしております。また、それでありまして、これから公判でいろいろ論議がなされるわけでございますので、この点につきましても立ち入って私どもの意見を申し上げることは差し控えたいと思います。  ただ、今委員指摘の、裁判所に対し検察庁が確約したということではなくて、今申し上げました刑訴の二百四十八条につきます訴追の裁量権を持っておる国家機関の最高権威者といいますか、最高権限者である検事総長並びにその命を受けた当の所管の東京の検事正が不起訴を宣明したということでございまして、これは国家意思の表明ということになるわけでございます。裁判所等の間に内々に約束したとか、裁判所に対し確約したとかということではなかろうと思っております。
  167. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それじゃ、次の問題に入りますが、外国におるところの証人を尋問する場合に、こちらから人が行けないから反対尋問は要らないんだといったような趣旨の決定内容を書いてございますが、どうもその点が刑事訴訟法学者としては納得できかねるんです。憲法の三十七条二項の問題があるから、この反対尋問をする権利はすべての被告人に保障されておる。それから、国の費用でもって証人の出廷を求める権利も書いてあるわけですよ。  今日この交通の便利なときに、アメリカにおるから呼べないということはこれは理由にならないので、呼べないのではなくて相手が来ないのではないかと私ども考えるんです。呼んでも来ない。しかもアメリカは外国であるから日本の国家権力を行使することができない。そのために事実上できないのでありまして、ということは逆に言えばコーチャンらの証人は突っ込まれたら困ることを証言しているんだというふうに疑われてもしようがないんですね、つまり反対尋問に耐え得ないから行きたくないんだ、行けばひどい目に遭うから行きたくない、こういうわけで日本裁判所に出てくるのを拒否しておるのではないか。言いかえれば、よく彼の言うておることは真実を述べておるかどうかわからないのではないかという疑いを普通の刑事訴訟法学者は持つんですよ。そういう点についてはどのようにお考えでしょうか。
  168. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) そのコーチャンがなぜ来ないかということ、これもその事件の内容にかかわりますので差し控えたいと思いますが、一応コーチャンを取り調べる意思を通じたところ、これをコーチャン等は拒否したということから本件の嘱託証人尋問等の手続が始まったというふうに理解しております。コーチャンがどういう意図で、反対尋問が困るから行かないと言ったかどうか、その辺は差し控えさしていただきたいと思います。  ただ、反対尋問権を奪ったのではないかというお尋ねに関しましては、本件の手続はあくまで刑事訴訟法の二百二十六条に基づきなされたものでございまして、二百二十六条に基づきます場合には、二百二十八条によって、その証人尋問には被疑者、被告人、弁護人の立ち会いを認めるか否かは裁判官の裁量に属するということになっておるわけでございます。
  169. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 刑事訴訟法の規定は憲法の規定を受けたものですから、憲法の精神を生かすように刑事訴訟法は私は運用すべきだと思いますよ。それはそれでいいですが、今私が論じておりますのは、何回も言いますが、今の刑事被告人を保護するためじゃないのです。日本の刑事裁判を最も合憲法にやってほしいという要求ですから、その点は誤解のないようにお願いしますよ。  それで、このロッキードの丸紅ルートの第一審判決を詳しく読みますと、どうも非常に不審に思われる点は、事実関係の認定に偏向がどうも見られるように思われるんですよ。きょうは時間がありませんので詳しく述べるわけにいきませんが、一つの例を挙げますと、例えばこれは新聞に載っておったので皆さん御存じだと思いますが、榎本被告が後になって全部総額で五億円は受け取った、一回一回は違うんだけれども、それは政治献金としてロッキードとは関係ない時期にもらったものがたまたま総額が五億円になっておるにすぎないんだといったようなことを、言うているんです。  そうしますと、こういうことがたとえ訴訟法外でも、この法廷外で言われたといたしましても、私は真実発見を求める日本刑事訴訟法立場では裁判官はこの問題を取り上げなければいかぬと思うんですよ。法廷で言うたんじゃなくて法廷外で言うたんだから、そんなものは知らぬ、法廷で言うたものだけを採るというのは、そういう採証の仕方は、これは余りにも形式的であって、民事訴訟法のやり方じゃありませんか。民事訴訟法では法廷に出てきた証拠だけでやればいい。しかし刑事の場合は真実発見の問題ですからね。真実発見のためにはこういう問題も職権でもって証拠調べをすべきではなかったかということを思います。そうすることによって、これがだめだというふうになっていって初めて裁判の正当性が保障される。こういうものを取り上げたんじゃ自分の裁判がおかしくなるからということがもし少しでも裁判官の心の底にあるとすると、これは問題だと思います。  それで、こういう問題について伺うわけですが、運搬状況が普通の状況として考えるのには余りにも不自然なんですね。途中でダンボールに入った札束を自動車に積みかえて、何回も積みかえて運んだのだと。普通の状況ならそのまま真っすぐ運び込むのが普通じゃないかというふうに思いますが、そういう点でも余りにも非常識なことをそうだというように書かれておりますので疑いを持たれる、こう思うんですよ。五億円が渡ったか渡らぬかという問題の証明に当たってわざわざそれを否定するような方向で証明する必要はないではないかというふうに私は考えるわけですが、そういう問題が一つあるんです。  それからもう一つ問題点がありますのは、時間がないからついでに言うてしまいますが、収賄行為というものが成立する場合に、贈賄行為が成立したからその反対の収賄も成立するということにはならないのです。これは刑法学者としての立場で申しますよ。そういう贈賄が成立したから収賄も成立するということにはならない。贈賄と収賄とは別の行為です。そこで収賄が成立したというためには収賄の故意があったという証明が必要なんです。こういう収賄事件の捜査は、皆さん方はもう専門家だから十分御存じだと思いますが、収賄事件を捜査する場合には必ず収賄に使われた道具の金がどうなったということは詳細に追及すべきものであるわけです。  詳細に追及して。そして有無を言わさぬところまで追及しないといけないのに、このロッキード丸紅ルートの第一審判決を見ますと、そういうことをした形跡が全く見られないんですよ。こういう雑な裁判理由で有罪判決をするというところに刑法学者とか刑事訴訟法学者は疑問を持つんです。一般の人は疑問持ちませんよ。何もそういう法律手続御存じない人はもう快哉を叫ぶだけなんですが、刑法とか刑事訴訟法学者というのは常に基本的人権というものを頭に置いて、基本的人権を侵害するようなことになるやり方では困る、もうたとえ本当は有罪であっても、証明できなければ無罪なんだという考え方でおりますからね。そういう立場からいきますと、どうも裁判のやり方がずさんだ、それからこの犯罪証明の仕方に何か物足らぬところがある、こういうふうに思われるわけです。  刑法の三十八条によりますと、犯罪成立要件としては故意がなければ罰しないとなっている。収賄の故意がなければ罰しないんですよ。ですから、収賄の故意があるような立証をしなければいかぬわけなんですが、その立証がどうも不十分です。この点は控訴審でも私は問題になると思います。殊にある雑誌でそういうことを指摘した雑誌があるんです。それで私は特に御注意を申し上げるんですが、せっかくの真実追求をしようとなさっておる検察当局の御努力がちょっと見通しを誤ったために無罪になってしまう、そういうことじゃ困るのではないかと思いますね。  それでそういう立証を一体今後ともやっておいでになるのかないのかという点ですね。つまり収賄の行為が行われたというためには故意がなければならぬ、しかもその収賄に使われた金がどうなったという結末を明らかにしなければならぬ。窃盗事件でも金を取られたというだけじゃいかぬので、取られた金が出てこなければ窃盗事件、これはもう訴訟にならぬのですよ。そういう点も私は問題にしたいんですよ。つまり収賄だ収賄だというだけで、それじゃ五億円五億円というだけでその金はどこにあるんだ、どうなったんだ、使ってしまったのか、銀行に貯金してあるのか、みんなに配っちゃったのか、何もわからぬじゃ、こんなことで一体収賄罪があったと言えるかという問題です。これは捜査の不十分を私申し上げているんですよ。そういう点について御見解はいかがですか。
  170. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 再々申し上げますように、現在審理中の事件でございます。その審理中の事件の個々の証拠関係については答弁は差し控えさしていただきたいと思います。  ただ、検察当局といたしましても捜査の段階で真実発見のために種々最善の努力を尽くしたものと考えております。委員指摘の収賄、もちろん故意がなければ成立しないわけでございます。収賄の故意の点につきましても、その他金員の授受の関係につきましても可能な限りの立証を尽くしたものと思いますし、東京地裁におきます第一審判決におきましても収賄、贈賄ともに故意を認定して贈収賄罪の成立を認定しておるところでございます。現在上訴審で審理中でございますが、委員指摘の点も含めまして検察当局としては真実を確定するという見地からさらに努力を続けるものというふうに考えております。
  171. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 その点はぜひお願いをいたしておきます。  憲法三十一条の明文が明らかに「法律の定める手続によらなければ、」「刑罰を科せられない。」、こう規定しておりますが、外国裁判所に対する証人尋問の嘱託というのは、先ほども同僚委員から御質問がございましたが、重ねて御質問を申し上げますが、刑事訴訟法百六十三条が規定する裁判所の裁判官への証人尋問嘱託と同一にし得るかどうかという点について、どうも明確な私ども理解できるお話が聞けないのでもう一度お伺いするわけです。刑事訴訟法上の法定手続の中に含まれておるのかどうか、そういう点についてもう一度詳しく納得がいく御答弁を得たいわけです。
  172. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 午前中も申し上げましたように、外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法というものがございまして、これにつきましても刑事手続について我が国裁判官が外国裁判官に取り調べ等の嘱託を行う権限の有することを当然の前提としているというところから、刑訴法二百二十六条に基づく証人尋問の申し立てを行ったものでございまして、本件嘱託証人尋問が法的根拠を欠くものはないということを検察当局は第一審以来主張しているところでございます。
  173. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 今度の場合は、捜査の手段として行われたということは法律家の立場からしてはそう認めざるを得ぬわけですが、この刑事訴訟法に書いてないことを類推解釈をして、そうして訴訟手続を行うということは、どうもこれは法手続に従ったというふうには言いがたいわけですね。法手続に従ったのだというなら、やはり刑事訴訟法に書いてある文言どおりその範囲内でやっていただくことが必要だと思いますよ。それでどうしてもこれは立法していただきたいんです。それがもう今日では飛行機がありますから、自由に飛んでいけるんですから、そういう立法をなさってもいいと思いますね。現在の刑事訴訟法をつくった当時は飛行機に乗って外国に行くなんでいうことは大変なことでしたから難しかったでしょう。  だから、これはもうただ研究しておくというだけでは困るので、明確な訴訟法の改正をお願いしておくわけです。この点についてもう一回御当局の考えておられるところをお伺いいたします。
  174. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 私どもといたしましては現行法の規定で十分可能であるというふうに考えておりますが、飯田委員の御意見は御意見として承りまして、今後の研究課題といたしたいと思います。
  175. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 現行法の解釈でいいという、そういうことでおっていい問題がどうか疑問だと思いますよ。  これはなぜかといいますと、今度の場合でもコーチャンに対する尋問をアメリカの裁判所に嘱託しましたね。とてろが、この場合あくまでもそれは日本の国家権力としての行為ではない。向こうでやっているところの尋問は刑事訴訟法立場からいけば日本国家が行っている尋問ではないわけです。日本裁判所が行っている尋問ではない。これはもう明らかなんですね。しかも免責して尋問しているんです。これは利益誘導のやり方でしょう。何か言えば罪にしないよ、こう言って言わしたこと、そういうことをもし日本の国内でやって、それをもとに証拠として裁判をした場合にどういうふうに言われるでしょうか。これはもうとても通らないでしょう。日本裁判そんなことやったら、ごうごうたる非難が起こるでしょう。  現在は、率直に申しますと、私は先ほども一番最初に申しましたが、傾向ですね。条件づけ権力というものがあって、とにかくあの政敵である田中角榮憎らしい、あれをたたいてしまえ、こういう人たちの考え方がどうもあるように思われるわけですね。そして、それが条件づけ権力と結びついて行っておる。だから公平に行えばいい裁判が大変疑惑を持たれる方向で裁判が行われる。これは困ったことだと思いますよ。そういうことでなくて、刑事訴訟法の原則はこれはもう疑しきは罰せずですからね。もうちょっと公平な方法をとることができなかったかという問題です。  どうしても外国裁判所の証人尋問が必要なら、これ、今までのことはいいとして、これからも必要なことが多くなるんだから立法されて、一体反対尋問はどうするのか、外国裁判所も日本裁判所と同じように認めるそういう規定にするのかどうかということをお決めになる必要が私はあると思いますよ。現在は外国裁判所は日本裁判所ではない。しかし法律の決め方によっては日本裁判所になるんです。だから、そういう点を御質問申し上げているわけですが、いかがでしょうか。
  176. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 飯田委員の御意見は御意見として承りまして検討いたしたいと思います。
  177. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 飯田君、時間です。
  178. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 わかりました。もう時間が来ましたので、この辺でやめます。  きょう申しましたことは、どうか、あれがばかなこと言うておるから、まあ適当にあしらっておけと、こういうような考えじゃなくて、もっと真剣に取り上げていただきたいと思いますよ。これは本当に裁判あり方の問題というのは我々基本的人権が守れるかどうかの根本問題ですから、基本的人権の一番根本は裁判でしょう。外国の、例えば中国の文化革命当時のあの状態から免れるために中国は刑法と警視庁を真っ先につくったんです。そうして基本的人権を守らねばならぬということを彼らは身をもって知ってやったことでしょう。こういう問題は私は日本においても同じだと思いますよ。どうかひとつその点をお考えくださいましてお願いいたします。きょうは大臣は何も私の質問に対しては答えてくださらなかったけれども、よろしくお願いします。  これで終わります。
  179. 安武洋子

    安武洋子君 最近でございますが、刑務所での服役を終えまして出所した、社会に復帰をした、こういう直後に凶悪犯罪を起こす者が続いて、こういう事件が続いて起こっております。  六月二十五日には女流俳人の柴田白葉女さんが千葉刑務所を出所したばかりの安田という男に殺害をされております。また七月八日には、これも強盗殺人事件で死刑の判決を受けましたけれども後に減刑をされまして出所した杉山という男が女子中学生に重傷を負わせる、こういう事件が起きております。こういう特殊な事件を一般化するわけではございませんけれども、こういう事件が続きますと刑務所での矯正の効果にも疑問が出てくるというふうに思います。  その辺でどうかということをお尋ねいたしとうございますけれども、第一点のこの安田の場合でございます。これは出所後すぐに凶悪犯罪を起こしているわけです。出所後に柴田さんを訪ねて行っておりまして、私どもといたしましては出所後すぐにこんな凶悪犯罪を起こすということは刑務所の教育に問題があったのではなかろうかというふうに思いますし、第二点の杉山のケースと申しますのは、死刑から無期に減刑をされて、そして後に仮出所をするというふうな経過をたどっております。その判断に誤りがなかったのかどうかという点で大変疑問を持っておりますので、その点お答えをいただきます。
  180. 石山陽

    政府委員石山陽君) お答え申し上げます。  今個人の名前が、固有名詞が出ましたのですが、一応それを前提にして私Yという名前でお答え申し上げますが、このYさんという人のケースにつきまして、ただいまの御指摘のような事件が起きましたこと、私ども矯正をあずかる者としても大変遺憾だというふうに思っております。しかし、この人は実は刑の服役状況で申しますると、本年六月十八日に千葉刑務所から出所いたしましたが、最終刑が住居侵入、窃盗、建造物放火というようなかなり重い罪でございまして、懲役十二年の刑を言い渡され、満期で実は出所した人物であります。満期でありまして仮釈放では実はないので、私どもの矯正としてはこれ以上処遇し切れなかったという問題点がまずあるわけでございます。  それから、所内の行状等につきましては、やはり委員指摘のように、私ども矯正の上から見ましても矯正教育の効果は十分に上がったというふうには実は思っておらない人物でありました。そのために、また仮釈放ももらえず満期になって出たという人でありましで、もちろん私どもは施設に入りました被収容者につきましては新入時の教育から始めまして、生活指導あるいは教化教育に至るまでそれぞれ一生懸命やっておるわけでございますけれども、その効果が十分に受けとめられず、なお問題があるままに出さざるを得ないケースも間々あるわけでございまして、満期の者をさらに十分に行状が保証できないから延ばすという制度にもなっておりませんので、まことに残念でございますが、今回満期出所をさせ、その後このような事件が起きたというわけでございまして、まことにそのこと自体は申しわけなかったというふうに考えているところでございます。  一応経緯だけ最初に御報告します。
  181. 安武洋子

    安武洋子君 私、もう一人のケースについてもお伺いをいたしております。
  182. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) 第二の例についてでございますが、この者は御指摘のとおり死刑の判決を受けまして確定しました。ところが昭和二十七年の講和恩赦による減刑令によりまして無期に減刑されたわけであります。昭和二十七年四月二十八日が刑期の始まりだと思いますが、その後本人が仮出獄の許可を受けて出るのは昭和四十五年三月十二日でございます。  その仮出獄の許可について疎漏なかりしかというお尋ねでございますが、この者につきましては一度仮出獄の申請が出ましたが、その第一回目の申請のときにはいろいろ問題があるということで仮出獄は不許可の決定が一回出ております。その後第二回目に至りまして、約十八年になろうとする刑の執行を受けたわけでありますが、改俊の惰が認められるということで四十五年三月十二日に仮出獄をするに至ったわけであります。  自後、保護観察のもとにおきまして担当保護観察官と保護司の協力のもとに本人の自立を促したわけであります。本人は矯正施設の中で印刷の技術を覚えまして、印刷工として自立するに至りました。横浜市内における印刷会社におきまして印刷工として働いていたわけであります。その十数年の間、今度本件に至るまで保護司、保護観察官いろいろ本人を訪問し、また本人を観察所に呼びあるいは保護司宅に本人を呼ぶ等のいろいろな措置を講じまして指導してまいってきたわけであります。ところが、本件のような事件を引き起こすに至りまして、まことに私どもとしても残念なことであるというふうに思っております。  担当の観察所及び保護司等の様子を聞いてみますと、本人にかような問題を引き起こす懸念をどうも把握できなかったようでございまして、何とか落ち着いて、この者は独身でございますが、かなりの年配で独身でありますが、とにかく印刷工として曲がりなりにも今日までまじめにやってきたというふうに評価をしていたようでございます。しかしながら、ただいまのようなことになりましたので、私どもとしては保護観察の仕方としてさらにその遺漏なかりしかを十分検討いたしまして、こういうような事例が起きないようにできるだけの努力をしてまいりたいというふうに思っております。
  183. 安武洋子

    安武洋子君 新聞の声欄にも「この種の犯罪報道を見聞きするたびに思うのは、長い収監中、いったいどんな教育を施してきたのか、心に痛みを感じているのか、ということである。」というふうな投書もございます。こういう声はよく受けとめていただきまして、私は努力をしていただきたいというふうに思います。  次に移りますけれども、最近法務省の外郭団体でございます財団法人矯正協会、この中に刑務作業協力事業部、これを設けまして刑務作業で売れる商品をつくろうというふうな報道がございます。これはどういうことか御説明を願いとうございます。そして私は矯正局の御苦労にけちをつけるつもりは全くございませんけれども刑務作業でつくられる商品が民間でつくる物、一般の企業の製品と競合するというふうなことで、いやしくもそれを脅かすというふうなことになってはならないと思いますので、この点もあわせてお伺いをいたしておきます。
  184. 石山陽

    政府委員石山陽君) 安武委員指摘のように、昨年七月一日に私どもの外郭団体でございます矯正協会というところに刑務作業協力事業部というものが設けられることになりました。  この構想は、行財政改革の一環を担いまして、国から今まで法務省に支給されておりました原材料費その他の金を節約いたしまして、それを補助金といたしまして事業部に何カ年かの計画によって支給をし、それを原資として民間並みに資金回転をさせて、原材料の供給並びにできました製品の販売を協力事業部にやらせる、こういう構想でございます。私どもは今それに基づきまして、一生懸命原資をためるという形で何とか刑務作業を円滑に続けられるように努力をしておるわけでございますが、これから民間並みの企業に伍して何とかこの事業がうまく立ち行くようにということでありますので、もちろん今までのような官業によくありがちな非能率、非効率、あるいはサービスが悪い、こういう形ではいけないと思いまして、それに対するいろいろな販売態勢を整えることに一生懸命努力をしておる、これが現状でございます。  それから第二番目の、今おっしゃいましたように、これらの事業が民業圧迫にならないようにという点はまことにごもっともでございまして、当然私どももその点は十分配意をしておるつもりでございます。正直申しまして、今まで官業時代の刑務所のつくりました物は安い物でありまして、非常にまた丈夫ではございますけれども、デザインも悪いし、とても民間の最近のいわゆるイメージデザイン等に合うような商品がなかなかできておりません。それで、こういう物が出回ることによりまして、今の鉱工業生産の指数の中から考えましても直ちに民業を圧迫するという程度には生産量から言いましても販売額から言っても到底間に合わないものだとは思いますけれども、ただその中で手づくりのよさ、製品の堅牢さといったもののイメージを売り込み、これがかつは更生しようとする被収容者が努力によってこれだけ教育訓練を受けられれば職業的な成果を上げられる、こういうPRにいたしたいものと、それを本義としてこの作業を進めてまいりたいというふうに考えております。
  185. 安武洋子

    安武洋子君 民間企業に伍していこうという、そういう意気込みであるというふうなことでございますが、私はそのことが民業を圧迫するという事態も招致するのではないかというふうな危惧を持つものでございます。  現にそういう問題で私ども橋本議員が当委員会で三月二十七日に御質問を申し上げております。これは甲府の刑務所の刑務作業で青柳ネックレスの宝石研磨をやっておりますけれども、これが地元の宝石研磨協同組合の皆さんに重大な打撃を与えているということでございます。これは地場産業を守るという立場から、また民業を圧迫しないという面からも善処を御要求申し上げておりますけれども、これに対しまして「地元の業者の方々と共存共栄を図り、施設の作業に理解をいただくということは基本的方針でございますので、今後とも及ばずながら力を尽くしてまいる」というふうな御答弁をいただいております。しかし一向に今の事態は改善されておりません。それどころか事態はますます深刻化いたしております。一体どのような対応をその後なさったのでございましょうか、その点をお伺いいたします。
  186. 石山陽

    政府委員石山陽君) 今委員指摘のとおり、橋本議員から本年三月下旬でございましたが御質問いただきましたので、私できるだけ善処するということをお約束いたしました。私、その後にとりました措置は二つございます。  一つは、既に御質問の前に私どももそういう風評を耳にいたしましたので、地元の組合の方々と、当該賃仕事、いわゆる賃収作業を発注していただいた当該業者の方との話し合いを持ってほしいということを指示しておったわけであります。これは既に一遍開かれました。ただ話は平行線だったようであります。そこへ御質問がございましたので、私どもも及ばずながら努力すると申し上げましたので、その後再びお話し合いになる意思はないかどうか、あるいはないならば私どもの施設側と当該業者の話し合いで減産の措置はとれないかということを申し上げました。  結果でございますが、今安武委員は事態は少しも改善されないというふうに仰せになりましたが、これは私どもにとっては心外でございます。私の方からは既に指示をしまして、結局組合とのお話し合いはできませんでしたが、業者とのお話によりまして、それらの摩擦を生じました品目については現在大幅に減産をする措置を既にとっておるということでございます。  以上御報告いたします。
  187. 安武洋子

    安武洋子君 では具体的にその数量を、今までどれぐらいつくっていたのがどれぐらい減産されたのか、お知らせください。
  188. 石山陽

    政府委員石山陽君) 私は報告を受けておりますので申し上げてもよろしいのですが、これは業者と私どもの契約内容でございますので、いわば民間の企業秘密に相当しますので、当該業者の方と話をつけておりませんから、今のところは、つまり数量で申しますると大幅な物では四分の一程度に下がっておる、これでひとつ御勘弁いただきたいと思います。
  189. 安武洋子

    安武洋子君 それは水晶ネックレスでございましよう。
  190. 石山陽

    政府委員石山陽君) 水晶も含まれております。
  191. 安武洋子

    安武洋子君 含まれておりますということは、そのほかの品目も含めて四分の一に減産したと、そういうことでございますか。
  192. 石山陽

    政府委員石山陽君) 特定の品目については四分の一と申し上げましたので、全体が四分の一という意味ではございません。
  193. 安武洋子

    安武洋子君 後で申し上げてもよろしゅうございますけれども、それは水晶ネックレスについては多少の減産があるというふうには聞いておりますけれども、そのほかにトルコ石、アクアマリン、そういうネックレスの研磨もしているということでございまして、この点に伸びていきますと、同じネックレスですから打撃を与えるのはちっとも変わらないということで、私はこのやり方については減産ということにはならないということを申し上げておきとうございます。  後でさらに申し上げますけれども、なぜ変わっていないかということを申し上げとうございますが、その前に一点お伺いいたしておきます。刑務所の刑務作業の一日の賃収仕事でございますけれども、これを請け負ってやっている刑務所は一体幾ら受け取られまして、受刑者の賃金というのは幾らになりますのでしょうか。
  194. 石山陽

    政府委員石山陽君) 当該作業につきましての個々の契約の内容で、その結果幾ら向こうから賃収として賃金相当額をいただいておるかというようなことについては今まで公表しておりませんので、ひとつそれは御勘弁いただきたいと思います。
  195. 安武洋子

    安武洋子君 じゃ、刑務所が受け取った額と受刑者にいく賃金、これは差がございますね。一緒ですか。
  196. 石山陽

    政府委員石山陽君) 仰せのとおりでございまして、私どもは賃金を直接受刑者、つまり被収容者に払うという制度は今とっておりませんで、国から作業賞与金の形で別途に予算を組んだ金を出しておりますから、もちろん入った収入をそのまま民間賃金べースで被収容者に渡すという措置はとっておりません。
  197. 安武洋子

    安武洋子君 じゃ、その作業賞与金というのは一日幾らになるのですか。
  198. 石山陽

    政府委員石山陽君) 作業賞与金の仕組みと申しますると、例えば職種によっていろいろ違います。金属関係をやっている者とか木工をやっております者とか、それから印刷をやっております者とか、職種によりましてそれぞれ単価が違いますし、それからその中のいわゆる熟練度によりまして一級工に相当する者、二級工に相当する者というふうに決まっておりますので、ここで一概にこの作業の単価が幾らかというところまでは、現在資料も持ってきておりませんし、その詳細はちょっとわかりかねます。
  199. 安武洋子

    安武洋子君 では後で資料を出していただきとうございますが、よろしゅうございますか。
  200. 石山陽

    政府委員石山陽君) 先例を調べまして、出せるものでありましたら御協力したいと思います。もしできないときは御勘弁いただきます。
  201. 安武洋子

    安武洋子君 そんなものはできないことはないと思いますので、ぜひお出しいただきとうございます。  これは青柳ネックレスの作業を賃収するというときに、県や商工会議所にお願いして青柳商会の原石の切断研磨の仕事を持ち込んでもらった、こういういきさつを語っておられますけれども、これはどちらなんですか。県なんですか、それとも商工会議所の方からの話だったんですか。その点ちょっとはっきりしてください。
  202. 石山陽

    政府委員石山陽君) 各方面にお願いしたようでございます。前回その経緯につきましては橋本委員の御質問お答えいたしましたけれども、今甲府の刑務所に入っておりますいわゆる賃収仕事と申しまして、国が計画的に自前で製作をするのではなくて、民間の企業からいわば賃仕事をお引き受けしてやるという形でございますね。この作業が各種にわたり約二十社に及んでおります。
  203. 安武洋子

    安武洋子君 どことどこから話があったんですか、県の方からなのか。
  204. 石山陽

    政府委員石山陽君) 今だんだんとそこへ参ります。
  205. 安武洋子

    安武洋子君 だんだんでなくても、それだけでいいんです。
  206. 石山陽

    政府委員石山陽君) それで、その一社の有力なものが撤退をいたしましたので、後の賃仕事をつまり確保したいということから各方面にお願いをして歩いた、その中に今申しました県や商工会議所があったというふうに私は報告を受けております。
  207. 安武洋子

    安武洋子君 だからどちらなんですか。どちらのあっせんだったかということだけお答えいただきたい。県なのか商工会議所のあっせんだったのか、その点だけをお答えいただいたら結構です。
  208. 石山陽

    政府委員石山陽君) 私、実際その水晶をやっておりませんので、各方面にお願いした結果であるとしか聞いておりませんので、その点につきまして、もしそれが必要でございましたら後刻お知らせ申し上げます。
  209. 安武洋子

    安武洋子君 では調べて後刻必ず私のところにお知らせください。  これは一日がかりで夫婦で働きまして十本の水晶ネックレスを生産するのがやっとということなんです。このような零細企業で成り立っている業界でございます。刑務所では一日に二百本ほどのネックレスが製造されているというふうなことが言われております。この十年来韓国産の安いネックレスが出回っておりますけれども、その韓国産よりもさらに青柳ネックレスのネックレスが安いというふうなことですから、業界は二重のパンチを受けるわけです。  研磨宝飾界は、私調査しましたところ五十七年に比較をいたしまして五十八年に三十二件の調査が出ておりますけれども、軒並み全部なんですね。三十二件みんな減産しているんです。ひどいところでは三分の一以下から六分の一にも減少をいたしております。それで四カ所は製造をとめております。これは青柳ネックレスが刑務所作業を経て法外に安い品を出すというふうなことで、今までのお得意先から、もうそのネックレス今までのは要らないよというふうなことで仕入れを断られるというふうなことで扱い量が減少をしているわけです。水晶といいますのは夏物でございますから、六月から非常に売れるということなんですけれども、六月以降も売り上げがひどく減少しているというような事態がございます。  青柳ネックレスは昨年の七月以降に下請に対しまして工賃の切り下げ、発注の停止、こういうことを通告いたしております。青柳は昨年の四月からこの刑務所に仕事をしてもらうということになったわけですけれども、それが軌道に乗りました七月、この軌道に乗った途端にA工場に対しまして賃金の三〇%の切り下げ、これを通告いたしております。ここは御夫婦で月三十万から五十万の工賃だったということで、これはそれでしたら二十万から二十四万ぐらいになってしまう。必要経費を引きますと、請負費、これを引きますと十五万から二十万ですね。これじゃ暮らせないということでお二人とももう仕事を閉めて働きに行っておられる。こんな状況が出ております。それから、B工場では七月の上旬に仕事が暇だからと発注の停止を受けているわけです。刑務所の影響でこのようにして転廃業に追い込まれてしまう。今青柳の下請といいますのは刑務所でできないような部分的な仕事をしているわけでございます。  減産と言われましたけれども、先ほど私が申し上げたように刑務所の中でできない仕事は下請にやらせるけれども、下請はどんどん切っていく。そしてトルコ石とかアクアマリンとかというふうなネックレスを製造している。減産分はこちらで補うということで、ネックレス界全体にやはり大きな影響が出てくるわけなんです。こういう点で作業の実態は一体どうなっているのか、また法務省のやり方でこのような零細な業者が倒産していくとか転業していくとかというふうなことをどう受けとめておられるのか。その点をお伺いいたします。
  210. 石山陽

    政府委員石山陽君) 非常に詳細に御調査でございまして、私どもまだ報告聞いていないことも多々ありますようでございますけれども、先ほど来申し上げましたように、私どもは民業を圧迫していいなんということは少しも考えておりません。ですから、この前御質問ありました際に、私どもできる限りのことはするということで、直ちに業者に対しまして減産方についでお打ち合わせをしまして、その御協力を得て今各品目についてそれぞれ減産をさしてもらっていただいているわけであります。私ども立場からいいますると賃仕事を確保するというのも刑務作業のために非常に重要な仕事なわけでありますけれども、今のような御事情がおありになり、組合がお困りだということでありますので、それなりに私ども精いっぱい対処をしておる、この事情はひとつお認めいただきたいと思うわけであります。
  211. 安武洋子

    安武洋子君 努力をしていただくのは幾らやっていただいても結構なんです。しかしその結果がどうなっているかということが重大なわけで、今現状が改善されていない、より悪いということを申し上げているわけです。  お値段の点でも私申し上げますけれども、お土産店に一本四千二百円で白水晶のネックレスを卸していたCという卸の業者がございます。この卸業者は青柳ネックレスが同じ品を一本千八百円に値下げして納品したということで今までの品は全部返還させられてしまう、そしてその後は全く発注がない、こういう影響も出ているわけでございます。減産だ減産だとおっしゃいますけれども、じゃ、その実態は具体的に水晶でどうなっているのか、アクアマリンでどうなっているのか、何がどうなっているのか、企業秘密でおっしゃれないとおっしゃるわけでしょう。しかし業界の影響は出ているということになりますと、ただ努力しました、減産しております、そんなことは信頼できないわけなんですね。こういう点をはっきりと解決をしていただかなければ、刑務所が、政府が零細業者を圧迫して、民業を圧迫しないと言いながら民業を大いに圧迫している。  地場産業を守るというのは、これは政府の方針であるはずなんです。私は刑務作業がいけないなんて言っておりませんけれども刑務作業をやることによって、政府の不注意によってこういう零細業者がどんどん倒産していく、それで民業が圧迫されている。こういう状態についてこれでいいとお考えなんでしょうか。私はこの値段の点でも随分と問題がある、こういうふうに思いますが、いかがですか。
  212. 石山陽

    政府委員石山陽君) たびたび同じことを申し上げますが、そういうことがあっていかぬと思うから私どもは一生懸命やっておるわけでございまして、その結果として今景気も悪うございますし、それから先ほど委員指摘のように第三国関係の製品が大量に今日本に入っており、それが市場を圧迫しているというような業界の特殊事情もあるようでございます。そういう点も含めまして私どもは私どもなりに民業圧迫にならないようにという見地から努力をしているわけでございますので、一刑務所だけがそういうことで官を代表して民業圧迫に走っておるというふうな御批判だけはひとつお許しいただきたいと思います。
  213. 安武洋子

    安武洋子君 やっているから申し上げているので、私が事実でないことを申し上げているのなら、そういうおっしゃり方もそれは通るでしょう。でもおかしいじゃありませんか。景気が悪い、韓国から入ってきている、だからこの業界は長らく影響を受けて苦しんでいる、そこに刑務所が乗り込んでいってその下請をなさるからこういうことが起きたわけでしょう。そもそもの一番の根本は刑務所で刑務作業としてそういうことをやらせる、一商社に対して利益を与えるというふうなやり方が厳然とここにあるから業界全体が困難に陥っている。この現実をはっきり見ていただかなければいけないんじゃありませんか。私は、これに対してどう努力するのかということになるわけです。  ですから、私は申し上げたい。一番最初にこのお仕事をお引き受けになるときになぜ業界としっかりお話し合いにならないわけですか。そうすればこんな問題も起きない。そして今も私は業界と話し合った、減産をしたと言うけれども、その実が上がっていないなら、じゃ、どうなさいますか、どのように努力をしていただくのか、具体的にお答えください。
  214. 石山陽

    政府委員石山陽君) 業界の方と一々お話し合いをしてからやるというのは、輸入制度が我が国の実際の民間取引がございませんので、個々の業者からの委託発注によって製品を引き受けさしていただく、これが普通のやり方でございます。ただ、そういう問題が気がつきましたので、もちろん私どもは組合の方にも実情を説明申し上げ、両者の妥協の道はないかということで、その交渉のあっせんについても私どもがいろいろ仲介をいたしたわけであります。さらに、もし必要であれば組合の他の方でも賃仕事として安くつくりたいというならば御協力申し上げる、ほかからでも結構です、持ってきてくださいということまで実は申しているようであります。そういう点を考えていただきますと、私どもは特定の業者だけに利益を上げさせるつもりでこのようなことをするということは絶対いたしておるつもりはございません。
  215. 安武洋子

    安武洋子君 では、念押しをさせていただきますけれども、他から持っていったらその仕事を引き受ける、こうおっしゃいましたね。では、この青柳ネックレスが先行投資として機械を入れているからここのしかしないということはおっしゃらなくて、業界から、協同組合から仕事を全部引き受けるようにということになれば、ちゃんと引き受けられると、そういうことでございますか。
  216. 石山陽

    政府委員石山陽君) そういう円満な解決ができれば私どもは大歓迎でございます。ただ御存じのように、ああいう特殊な研磨機器というのは刑務所にはございませんので、こういう場合には業者が自前で機械設備を導入されまして、それを使わしていただいてやるという私ども形をとっておりますから、今問題の商会が他の組合員のためにその機械を使わせるという御了解があればもちろん結構でございますし、それがいやだとおっしゃれば新たに発注いただく方が同じように機械を持ち込んでいただければいつでも私どもは引き受ける用意はございます。
  217. 安武洋子

    安武洋子君 随分むだなこと。刑務所の中で今動いている機械は二十五台というふうに承っております。この機械のお値段というのは大したことがなくて二十五台で三百万から四百万ぐらいであろうということでございます。この機械を持ち込んでいるから、その業者がさきの業者はいやだと言えばうんと言わないというふうなことになれば、何も円満な解決にならない。  私はここでしっかりとやっぱり踏まえていただきたいのは、地場産業を育成するというのはこれは国の方針です。そして一企業にだけ利益を与えるというふうなことがあってはいけないということもはっきりしているわけです。それから、地元業者と協調しなければいけないとおっしゃっているわけですから、地元業者から敵視をされるような私は刑務作業あり方というものはこれは大問題であろうというふうに思うわけです。しかし、そういうふうに現実はなっている。御努力なさったと言いますけれども、私はもう一度きっちり調査をしていただいて、そして地元の影響を受けているそういう業者の組合ときっちりとお話をなさらないといけないわけです、そこが被害者ですから。ですからそことよくお話をなさって解決方法を十分見出して誠意を持ってこたえていただきたい。よろしゅうございますでしょうか。
  218. 石山陽

    政府委員石山陽君) 私ども仲介の労は既にとっておりますし、それを惜しむ気持ちは毛頭ございません。ただ、発注者とそれからその同業者の組合の方との生産計画に対するお話し合いでございますので、私どもは賃仕事をお引き受けする立場でございますから、業界に直接私どもから言うという問題ではなくて、本来は当該業者と同じ組合員でありますから組合の御指導の関係で御調整いただくべき問題ではないかと思うわけであります。
  219. 安武洋子

    安武洋子君 そこが違うんです。業者同士がみんな熾烈な競争をしているのに、話し合いをして円満に話がつく問題じゃなくて、そこに刑務作業が入って一業者だけにやらせて、そこの一業者に利益を保証するからこういう問題が起きた。非常に私はそういう点不注意であった、その点をはっきり反省なさらないと、仲介だ仲介だと、そうじゃないんですよ。種をまかれたのは御自分たちなんです。その点の私は御自覚がないからこの問題は解決しない。その点をはっきり踏まえていただかない限り、この問題は仲介だ仲介だという問題でないんですよ。自分たちがまいた種だから、そのまいた種でできた業者間の対立というものについては誠意を持って私はこれを解決していこう、それが政府の立場であってしかるべきだと、そういうふうに思いますけれども、大臣、先ほどからお聞きでございますが、いかがでございますか。国が地場産業を圧迫し零細業者を倒産させ、そしてこういうふうなことをやっていいものかどうかという点で私はもっと誠意を持って解決をしていただきたいと思います。御答弁をお願いいたします。
  220. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私はこの問題について詳しいことは存じませんので先ほど来矯正局長先生のやりとりを聞いておりました。ということで、一般論としては刑務所作業によって一般の業界が混乱する、こういうことは避けなければならない、これは当然のことと考えております。しかし刑務所の作業というものもやっぱり作業をしている以上、大なり小なりそれは業界に対する影響というのは私は必ずあると思うのでございますが、そこをどううまく考えながらやっていくかというところにも大変苦労があると思います。  今も伺っておりますと、刑務所へ仕事を出していただいておる業者も協同組合の組合員であるようでございますので、組合員としてどういう作業のやり方をやるのが激烈な競争に耐えていくかということで、いろいろ考えられた結果そういうことになったのだろうと、こういうこともちょっと感じたのでございますけれども、いずれにいたしましてもさらに努力をいたしまして、業界とうまくやっていけるようにひとつやらせるようにしたいと思います。効果があるかどうか、誠意を持ってしかしやらせたいと思っております。
  221. 安武洋子

    安武洋子君 ぜひ効果があるようにやらせてください。大臣の政治力に期待いたします。  私はもっと簡単に御答弁いただけると思いまして裁判所の再配置の問題について御質問するということで準備をしていたんですけれども、大変この問題難航いたしまして、矯正局長、もっとしっかりと頑張ってちゃんとやってくださいね。  私、これで残念ながらもう時間が来ましたので質問を終わります。
  222. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 きょう私がこれから御質問してまいりますことは、若干難しいかもわかりませんけれども日本が民主主義体制国家として生きていくためには法が守られて法治国家でなければならぬ、法治国家であるためには秩序が保たれなければ私は法治国家というものは存在ができないと思うんです。そういう点でいろいろのケースを申し上げて、立法、司法、行政の司法の立場にある皆さん方の御判断というものをお聞かせいただきたいと思うわけです。  第一にお聞きをしたいのは、これ相当昔のことなんですが、東京都のあの三多摩の玉川上水でもって小さい四つか五つの子供が川に落ちて死んだわけなんです。そうしたらその親御さんは、これは川にさくをしておかなかった東京都の責任だと言って裁判に訴えたわけなんです。そうしたら東京地裁はそれを認めて、金額は幾らか忘れましたけれども、損害賠償というものを認めたわけなんです。四つや五つの小さい子供をそういう危険な場所でひとり歩きさせたということについて私は親に責任がなかったのかどうか、その辺についてまず第一に御判断をお聞きしたいんです。
  223. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 私の直接所管ではございませんのでちょっとお答えが難しいかと思いますが、そういう訴訟の場合には、原告と申しますか、親の訴えた方の関係者の過失があるとすればその過失というものも十分しんしゃくされて、その金額はわかりませんが、比較権衡した上、やはり東京都の過失の方が大きいというようなことでそういう裁判がなされたものではないかと思います。
  224. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 きょうは問題が問題なんで、司法の立場からお答えくださいといって特定な方に名指しを私していないんです。所管でないからと言うならば、ちゃんと責任ある方が出てきておっていただかなければならないんであって、そういうこと言わないでお答えをいただきたいんですよ。  それで、今私が申し上げていることは、よくお考えいただきたいのは、玉川上水の川幅は広くないですけれども、流れが急なわけなんで、相当な距離があるわけです。もしその東京地裁の決定というものが正当だったというならば、また東京都はそれはお金払ったんですから、当然それならそこから先にあれ全部さくやらなければいかぬことになると思うんですよ。恐らくあのまま、あの大きな川のところに、そんなさくなんかできるわけないんだけれども。ですから、そういう点が果たしてそういうことでよろしいのかどうかということなんですね。  次に、ですから今度は例申し上げて、例といったってこれば事実あったことですけれども、相当これも昔になりますが、これは広島県、あそこ東海道線と道路がずっとほとんど高さも余り違わないところがあるんです。二人連れで大分お酒を召し上がって、もう本当に千鳥足でもってふらふらして腕を組んで、それで線路の横断のところだって、もちろんそういうところですから遮断機なんかありゃせぬわけです。何も線路の横断のところでなくてもどこでも通れるわけですから、面倒くさいからそこ通って、二人で肩を組みながら線路を横断しようとしたところへ急行が来て、一人がはねられて、もう即死でした。そしたら、これはもう奥さんの方にするならば、国鉄にはねられて死んだので損害賠償をと思っておったら、損害賠償どころではなくて、弁護士さんに相談するうちに、逆に国鉄の方から、そういうことでもって汽車もとまった、損害を受けたといって国鉄から損害賠償の請求が来たわけなんです。結果的にどうなったか、そこを私は聞いていないんですけれども、それについてはどういうお考えをお持ちですか。
  225. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私も具体的なケース、どういうように両者の責任が判定されておるのか、よく承知しないのにどうだこうだ申し上げるというのもいかがかと思います。しかし、その場合も恐らく急行をとめたことに対する損害賠償の請求であろうと思うのでございますが、その損害賠償額の算定等に当たって、両者の責任というものを公平に判断して、そして決めると。  私は、先ほど玉川上水の件でもそうでございますが、やはりそういう危険なものがあることに対しては、その子供なら子供の介護責任のある人、これは十分注意もしなければならぬと思いますし、それと同時に公共施設がそういう危険をはらんでおるということであれば、それはどの程度か、これまたいろいろあると思うのでございますが、やっぱりその必要な防護さくというようなものもこれは配慮していくのも、そういう公共施設の管理者としては当然の責任じゃないか。ただ、それがどこまでいかなければならないかということについては、具体的にそれは判断していくより仕方がないのじゃないかと、こういう感想を持っております。
  226. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 じゃ、それについて私の見解は言わないで、もう一つ。今度これは恐らくまだ二、三年しかたっていないから皆さん御記憶があると思うけれども、関西で私鉄の線路の上に小さな子供たちが石並べて遊んで、ぱちぱちいって鳴るからおもしろいぞといって、別に悪意があったわけではないけれどもやっていて、それで私鉄が走ってきて急停車してとまり、もちろん脱線までいかなかったのでよかったんですが、会社とするならば、癖になるからと言って、子供たちの親御さんに向かって損害賠償の請求を起こしたわけですね。これはどういう御判断になるんですか。
  227. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) これもまた大変感想で恐縮でございますけれども、私は親の責任は全然ない、こういうようには感じておりません。具体的にそれを金額にどう表示するかどうかは別問題として、やはりきちっとすべきものはしておく。いたずらであろうか、恐らく故意でもなかったのでしょう。まさしくいたずらだろうと思うのでございますが、昔というか、のんびりした時代であればまあまあいたずらで済んだようなものも、こういう複雑な社会になってきますと、非常にそれが重大な結果を起こすということもあるわけでございますから、そこらあたりは国民全部がそういう自覚をひとつ持ってやっていく、それがやっぱり複雑な社会に生きていくお互いの義務であるのじゃなかろうか、こういうようにも考えております。
  228. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 じゃ、これはもうもっと最近の事件になるんですから御記憶もあると思うんですけれども、ことしの三月十二日に横浜でもって帰宅途中の高校生四人が車ではねられて、車ではねた上に、さらにおりていって、そしてナイフでもって刺して、一人が死亡させられ三人が重傷を負ったという事件が起きた。それを調べておって、横浜地検では最終的にはその男は心神喪失だという理由でもって不起訴処分にいたしました。  私はそのことがいいか悪いかじゃないわけなんです。心神喪失でもって、これは正常な状態でなかったんだといって、一人は殺され三人が重傷を負うようなことをやった者に対して、そういう不起訴処分にしたというわけです。殺されたり重傷を負わされた親御さんは今度はどういうことになるんでしょう。しかも、そういう心神喪失のような状態にある者が一人でもって車を運転して走り回るようなことをさしておったその親というものの責任はないんですか。しかも病院へ通っていたというわけですよ。病院に来ておって、それを診断して、ですから正常でないことはその医者が承知の上であった。今度はこの事件がこういうことになったから早速もうすぐ入院さしちゃったというんです。それまでも病院には通って診察を受けていた。その医者はこの男はどういう状態がというのは百も承知でおったわけです。それをそうやって自由にさしておったわけなんです。その親御さんは車に乗って走り回るのを自由に認めておったわけです。  そして今のような事件が起きた。起きたについていろいろ取り調べをしていったならば、検察庁とするならば、これはもう正常ではない、心身喪失症だ一言って不起訴処分にしたんです。殺された親御さんや重傷を負わされたその親御さんたちはどうしたらいいんです。その辺についてはいかがですか。
  229. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今不起訴にした件は委員指摘のとおりかと思います。刑事責任を追及する上では、心身喪失である以上はこれはやむを得ないことかと思います。ただ、そうした場合に、じゃ、だれが責任を負うんだということになるわけでございますが、刑事上あるいは民事上の法律的な責任ということになりますと、事案にもよりますが、なかなか保護者とかあるいは医師の責任とかいう場合には難しい面があろうかと思います。むしろやはりそういう心身喪失であるような危険のある精神障害の人を自由に行動させるということを、社会を守る上と言えばオーバーになりますが、社会を守る上でどうすればいいかということはやはり国の政策なり制度の問題であろうかと思います。  そういう意味で精神障害者に対し、その人たちの人権を守りながら社会に対して害をなすことをどうすれば防げるかということでいろいろな制度が考えられるわけでございます。精神医療制度の改善、あるいは病院等で親元、保護者とも十分連絡をとって、危険な場合にはしかるべき措置をとる、端的に言えば入院させるというような機構を充実するということが第一の問題ではなかろうかと思います。個々の保護者なり医師の責任ということになるとちょっと難しいと思いますし、それで防ぎ切れるものでもないような感じがいたしております。
  230. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 今私聞いておったって、あなたは人ごとのような答弁なさるんですね。あなたのお子さんの、例えば高校生といったのがいらっしゃるかどうかはさておいて、あなたのお子さんがもしもそういうことに遭ったらどうお考えになるんですか。それは民事で損害賠償起こせと言えばそれも一つの道だとは思います。殺されちゃったんですよ。殺した相手がわかっているにもかかわらず、ああこれは心身喪失症だと言って不起訴処分。  先ほど例を挙げました広島県でなにした、これは私の知っている男だからいろいろその状況もよくいまだに覚えているんですけれども、それはどれだけの酒を飲んだって二人連れなんだから、そこまで言うといけませんけれども、それはいわゆるへべれけまでになって、もう正常な状態でなかったわけなんですね。それで、えい、面倒くさい、線路を渡って家へ帰ろうやと言って渡っていった。普通の正常ならそんなもの見えるんですから、汽車が走ってくれば、ぱっとよけるぐらい、そんなものだれだってできるのが、それができないほどの状態でもって、言うならば心身喪失とは違うけれども、もう酔っぱらって正常な状態でなくて、はねられたわけなんですね。それで損害賠償だと。  今のこの横浜の事件の場合のように、それだけの心身喪失だと言って不起訴処分にするような状態で、しかも医者が診ておったんだが、医者も判断ができてわかっていたはずだ。親御さんも正常じゃないぐらいわかっていたんじゃないですか。それを一人で車乗り回すようなことを何で許しておったんですか。そのことについての責任というものは何もないんですか。もう少しその辺のところを人間的な判断を下してお考え聞かしてくれませんか。
  231. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) また人ごとであるかのようにと言われるかもしれませんが、例えば私の子供がそういうことになった場合、非常に残念であり、あるいは民事の賠償請求を起こすかもしれませんし、あるいは刑事上何かの手続をとるかもしれません。ただ民事上、刑事上、事案に応じて非常に難しい面があろうかと思います。その場合に、やはり民事上、刑事上、そこで責任を追及してということと並んでか、あるいはそれ以上に、同じようなことが二度と起こらないような措置を心から望むというような心境になるのではなかろうかと思っております。
  232. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 それでは答弁になりませんので、改めてまた私がお聞きをしていることのお答えということについて大臣でもどなたでもしていただきたいと思います。  今度は次へ移っていって、後でまたその問題なにしていただくことにして、学園の自治ということがよく言われるわけです。最近大学も大分おとなしくなってそれほど騒ぎがないわけですけれども、あの学園の自治というのはどういうことなんですか。学校の中でもって暴力事件が起き、それから殺人事件も起きた。あれだけなにしておったって、それだと言ってあそこへ警察官が入っていこうとすると、学園の総長は入ってもらっちゃ困ると言って、その学園の自治を盾にとって警察官を入れない。学校の中が正常に秩序が保たれておってこそ、ここはみんな勉強するところだから、そういうお巡りさんのようなものは排除するというなら、これは私はわかる。しかし自分たちでもう秩序を保つだけの能力がなくなって、それで学校の中で学生が暴れて暴力事件を起こす。殺人事件を起こす。それをどうにもならない状態になっておるところへ警察官が来て、その警察官も入れないと言う。学園の自治というものはそういうものなのでしょうか。それともあそこのところというものはそういう治外法権が働くところなんですか。その点についての御見解をお聞きしたいのです。
  233. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) これは私の個人的な意見で恐縮でございますが、やはり学問の自由、学園の自治、それなりの沿革、歴史があって確立された秩序だと思います。基本的にはやっぱり学校はそれは自律的な機能は完全に果たす、こういう前提でそういう自治なり自由というものが認められておると思うのです。そこに学園の管理者なりの責任というものが私はあると思うのです。だからこそそういうことが許されておる。それがみずから自律的な機能が果たされないような状態であるならば、やっぱり個々の学生の身体生命というものを守るということであれば、私はそれはそういう自治を前提にした上で、学園の責任者が手に余るようなことがあれば、むしろよその他の力をかりてそういうことの起こらないような責任というものをとるべきだ、それをとらないようなことが起こってきますと、そもそも長年先輩の皆さんが確立してきた学園の自治だとか自由というものをみずから放てきするということになるわけでございますから、そこらあたりはやっぱりそれだけの責任の重さというものを私は痛感していただかなければならないと思います。
  234. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 大臣の御答弁、全くそれは私と同じ考え方なんで、それをどうやっていくかということをこれも後の方へ残しておいて、今度は国鉄の駅の構内も、あそこは警察官が自由に入れないんですね。  ある駅でもって暴力で駅の職員がかなり離れたところへ連れていかれて、それでぶん殴られて相当な大けがをした。だれかがそれを見て、すぐ警察へ電話をして、機動隊が出動してきたわけであります。そうすると、どういうことになるのですか。あの駅のそういう公安だかなんかの係の方に言って、その方から警察官の出動要請があればすぐ警察官は入ってこられるのだけれども、そうでないと入れないのだという。駅のそばまで来て、そうしてその公安の担当の方に電話をして確かめた。その公安担当の方は現場のところへ何百メーター歩いていってみたって、そこで大けがしてなにしているのが一人いるだけで、あと何もそこにないから、いいえ、別に異常がありませんと言う。機動隊はそのまま引き揚げたのですと。これはどういうことになるんですか。どうしてあの国鉄の中ではそういうふうな特定のだれかの許可がなければ入れないということになっているんだろうか。  私たちの家庭で、お巡りさんが通りを歩いておってみたら、もしも強盗が入って私の家内が出刃包丁で殺すぞとやられているところを見たときに、それはお巡りさんがすぐ飛び込んでいって捕まえるんじゃないんですか。それはできるんでしょう。そのときに、あ、これは大変だ、じゃ御主人のところへ電話をして御主人の許可を得てと言って、それでなければその家へ入っちゃいかぬということになるんですか。何であの国鉄の構内だけそういうことが許されているんですか。
  235. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私もその国鉄の構内と警察権あるいは検察との関係、法的にどうなっているのかよく知りませんけれども、現にそういう犯罪があるということがはっきりしておれば、私は一々許可を受けなくても警察権なり検察権というものがそこへ入って事態の解決に当たるということはできるような気がしますけれども、もしそれができないということになっておれば、まさしく学校、学園との関係と同じ関係でございまして、そういう意味で不安感を与えるという制度も国鉄自体は持っているんだろうと思うのでございますが、いずれにしても、それは管理者の責任のもとにきちっとした対応をとらなければ、社会の安全というか、一般の公衆の入るところですから、そういうものが守られることはない。そういうことはあってはいかぬのでございまして、そこはもう私は警察官が入っても差し支えない、別に権力の乱用でも何でもない、こういうように考えます。しかし制度のことは私よく知りませんので、正しいかどうかわかりません。
  236. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 詳細調べたわけではございませんが、感じといたしましては、御承知の鉄道職員が特別司法警察職員の権限を持っておりますので、そういう意味で鉄道地内で鉄道関係の公安官等が権限があることはありますけれども一般の警察官なら警察官が一般通常の場所におけると同じような権限を行使するのに支障はないはずでございます。ただ、実際上の問題として鉄道のそういう職員は普通と違っておりますので、その方が一次的に権限を行使するという場合はあろうかと思いますけれども、排除されて特別の地域になっているということはなかろうかと思います。
  237. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 私の言ったことは間違っているんじゃないんですから、そういうことであれば、国鉄の構内であろうがどこであろうが、不法な行為があったときはそこはもう警察官は自由に行って、そういうものを排除することについてはできるんだということで理解をしておきましょう。そうして今までそういうことのできなかったということについては、制度なり何なりのそういうことについての理解が不徹底だということで理解をさしていただいて、そういうものはきちっと直してください。  さっきも言ったとおり、我が家になにしたときに、お巡りさんがそれを見て、ああ、じゃ柳澤さんのところに電話をかけて、おたくへ今強盗入っています、これから捕まえます、よろしいですねなんて、そんなことをやったら、私の女房殺されちゃうじゃないですか。あなた、そうでしょう。そういうときはぱっと行って、そしてその強盗なら強盗を捕まえる。そのためにお巡りさんが存在しているんだし、私は飯を食わしているんだと思うんですよ。  だから、冒頭申し上げましたように、民主主義国家を維持するということは、やっぱり法はちゃんと守って、法治国家としての秩序が保たれなければだめなんですよ。そうしたならば、そういう法治国家としての秩序を保つために特にそれなりの役割を持っている警察官というものはそれだけのことをしてもらわなければ困る。だからといって、私は何もお巡りさんに過剰介入をして、一般の人が楽しんでいるところへ入り込んできて、ああこうせいなんていうことを言っているんではないんですけれども、そういうことについてもう少し秩序やルールをきちんとするように検討をしていただきたい。直すべきところは直していただきたい。  そういう点で、さらに今度角度を変えて、もうちょっとお聞きをしていくんですけれども、今私裁判官訴追委員もやっているんですよ。なかなか事件が多くて、しょっちゅう毎週のようにあれも開かれる。こういう事件があったんです。裁判所の書記官が配置転換か何か、ともかくいろいろ御本人とするならば不当な扱いを受けたということで、上司である裁判官をまくらを並べて全部なにして、そして訴追委員会に訴えてきたんです。どういうことですかと思う。  裁判官訴追委員会というのは、私もそれは素人だけれども、私なりの判断に言わしていただくならば、一般国民が何かで裁判になった、その裁判で不当な圧力なり不当な判決を受けたという人が私たちはこんな不当な判決を受けたんです、こういう裁判官はけしからぬから訴えます、弾劾してください、やめさしてください、罷免してくださいというために国会の中にそういう訴追委員会が設けられて、国民だれでもがそういう不当な扱いを受けたときにここへ持ち込んできてやってもらうためにあるんだと思うんですよ。裁判所の中で働いておる書記官が裁判官を訴えて、気に入らぬと言って、そうしてそんなもの持ってこられたらどういうことになるんですか。大臣、どうお考えになりますか。
  238. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 書記官が裁判官を弾劾する、しかも一人でなくて、そろえて弾劾する、ちょっと常識的にはあり得ないというか、考えられないことのような気がしますけれども、ある意味では、そうだとするならば、与えられたそれは権利の乱用というような気味の申し立てだというような感じもいたしますけれども、これは具体的なケースどうなっておるかわからぬわけでございますので、ただお聞きした限りにおいてそういう感じを持っておるということでございます。
  239. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 もう少し大臣はっきり物を言いなさい。  じゃ、次にもう一つ。この国会というのは国権の最高機関で、法律をつくるところですね。それなりにこの国会においてもたくさん職員の人たちがここでみんなそのために働いておるわけです。ここで働いている職員の方々というのは、それなりにたくさんおるんだから、自分たちの地位なり労働条件をと言って、それは一つの職員組合をつくることは、私はその自由はあると思う。しかし、いろいろここでつくられる法案について、あの法案について反対だという、そういう態度をしたりデモンストレーションをしたり意思表示をしたりという、その自由というものは私は制約されるものだと思うんです。国会でたくさんいろいろの法案がこうやってつくられていくわけだけれども、一億一千万国民というものは、その法案に、嫌いだろうが何だろうが、税金は何だったら税金取られるわけでしょう。おれは反対だ、こんな法に従うかと言ってそれをなにしているわけにはいかないでしょう、税金納めなかったら差し押さえ来ちゃうんだから。それを法律をつくるここで働いている職員は、こんなもの、こんな法案反対だどうだとやっておったんでは秩序が保てるんですか。それで国民に向かってこの法律を守れと、そういうことが言えるんですか。  物の一つのルールというか、秩序とか、そういう意味に立って先ほどの裁判所における書記官と同じように、国会において働いている職員には職員なりの一つのそういうふうな制約というものがあるんだけれども、その辺についてはどうお考えになりますか。
  240. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) それは、これもまた議論の余地の大いにある問題だと思うのですが、自分の職務に対する個々の職員の義務の問題と言論の自由なり思想の自由、そういうバランスの問題でもあるかと思うんです。しかもそれは勤務時間中と勤務時間外によってそこらあたりの判断も違ってまいるでしょうし、一概に反対したらどうなるかということについて結論は下せない。やっぱりそのケースケースによって判断をする。こういうことになるんじゃないかと思うんですけれども
  241. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 法務大臣もこれから生涯ずっと、まあ生涯というか、国会議員の間じゅう法務大臣をおやりになっているとすれば、今のような御答弁は私なさらぬと思うんです。どうせもうこの次のときには恐らくかわるだろうという気があるから、そういうようなことを申し上げているんだと思うんですけれども、だからその辺が大臣自体から今言ったような、今国会職員のことをどうこう私言っているんじゃないんです。いろいろの場合のケースについて、みんながそれぞれ責任を負うべき人が責任を負わないで適当にやっちゃっているようなことでおって、それで法治国家としての秩序が守られるんでしょうか。  端的に言って今の世の中というのは騒いだ者が得をするということでしょう。さっきもことしの横浜の例を挙げたように、精神異常者に殺された、けがを負わされた、あれでもってあのまま親御さんらが黙っておったら、自分の子供を殺されてそのまま泣き寝入りで終わっちゃうわけですよ。いろいろな点でもって騒いで、ああだこうだ、何だ、損害賠償よこせ、何をと言ってやれば、またそこで場合によると先ほどの玉川上水みたいに、私から言うならば四つや五つの小さい子供を一人で歩かさして、それで事故を起こして、それはけしからぬと言って損害賠償と言う親の方がどうなんですかと私は言いたくなるんですよ。だけれども裁判所はそうやっている。騒いただけに得であった。あれ、もししなかったらお金ももらえなかったということになってしまう。ですから、その辺が何だかんだ言ったって、まだまだ日本の国家がこういう状態にあるんですから、今のうちにそういう秩序がきちんと確立するように、いろいろのそういうものが、ルールがちゃんと働けるような、機能するような状態に考えていただかなければならないと思う。  そういう点でもって、総括をして今までいろいろのケースを取り上げてお聞きをしたことについて、よしわかった、じゃ、こういうことについてはこうするというふうな、何かまとめてやっぱり司法の立場に立っての御見解をお聞かせいただきたいです。
  242. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 私は柳澤先生のお考え方について私も個人として全く同じように考えております。余りにも何か権利主張ばかりして自分の立場を忘れておるというような風潮というものが強過ぎるんじゃないか。これはもちろんいろいろな政策、制度というものが必要だと思うのでございますが、どんな制度、政策をつくっても国民のやっぱり自覚というか、そういうものがなければ、そういった制度、政策も生きていかない。  先ほど例ございましたように、横浜の件につきましても、それから昔になりますけれども新宿のバスの放火、あるいは通り魔殺人事件、全く突然天から降ってくるようなそういう状態でございます。そういうことを、それじゃ、ほうっておくということについても、私も大変ジレンマを感じております。何とかすべきだと。先ほど刑事局長もちょっと申し上げておりましたけれども、それは精神衛生法を見直していくとか、あるいは治療処分をいろいろ考えていくとか、そういうようなことがいろいろ考えられるわけでございますけれども、私ども常に苦しむのは、やっぱり人権とのバランスをどうやっていくか、こういうことも常に念頭にあるわけでございます。ですから、そういうものの成熟を無視して制度、政策をつくっても必ずしもうまくいくものじゃない。  したがって、そういうものが両々相まって初めてうまくいくわけでございまして、私は政策、制度をさらに改善していく、これは常に努力をしなければならないと思いますと同時に、我々議員としてもそういう国民の心の持ち方、こういうことについても機会あるごとに説いていかなければならない、議論していかなければならない、こういうように考えておるわけでございまして、先生のおっしゃること痛いほどわかるだけに、なかなかそれを現実にそれじゃどう持っていくかということについて非常に難しさも感じておりますので、よく承ってひとつ今後の行政の指針にさしていただきたいと思います。
  243. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 大臣からそういう御答弁いただいて、本当にお礼を申し上げます。  前にも申し上げたことがあるんだけれども、今も大臣が人権をと言われた、そこのところだと思うんです。どうか司法の関係の皆さん方が六法全書を縦から読んだり横から読んだりして、そして自分の責任を問われないようなそういう法律だけをただ解釈して扱うのではなくて、もう少しやっぱり人間として血の通ったようなそういう司法のあり方はどうあるべきか、そういう意味でもって六法全書を見ていって、これは不ぐあいだと思ったらそれは直してください。それだけの勇気を持ってください。その気持ちになったら局長のさっきのようなあんな人ごとみたいな答弁なんか出てこないわけなんです。それでよく私は刑事局長なんてやっていられると思うんだ。その辺をよく大臣のさっき言ったのをもう少し徹底さしていただきたい。人間らしい血の通った気持ちでもって六法全書をお眺めいただいて扱っていただきたいということを申し上げて、終わります。
  244. 中山千夏

    ○中山千夏君 最近新聞の報道で、先月六月に新潟刑務所で心不全ということで何人かの受刑者が死んだという報道を読みました。その報道では詳細が大変不明確なんですね。新聞の書きぶりを見ましても、確かに短い期間に何人かの人が死んだということで、これはちょっと不審だという方向で書いてありまして、その上に不明確だと不審がなお募るという感じもありますので、ちょっと明らかにしていただきたいと思って取り上げました。  それで、先月の新潟刑務所での死亡をした受刑者の氏名、それからその死亡の日時、年齢、罪状、量刑、病歴、死亡に至る経緯、死因といったことをお話しいただければと思います。
  245. 石山陽

    政府委員石山陽君) まず冒頭に申し上げますけれども、六月七日以降短期間の間に四名の収容者が新潟刑務所で相次いで死亡するという、まことに不幸であり、亡くなられた方の遺族に対して、さぞ御心痛のことだと思います。それに対しましては慎みて施設側を代表しまして遺憾の意を表しておきたいと思います。  今御質問内容につきまして一応簡単に経過だけ報告いたします。  まず、六月七日に起きました第一例の急死された受刑者は二十六歳でありますが、午前四時半ごろに房内で突然うなり声を上げて、様子がおかしいという同房者の通報によりまして、直ちに救急車によりまして外部の病院に移送をいたしまして、外部病院で手当てを受けさせましたが、そのかいなく午前五時半ごろ死亡した、これが第一例でございます。  第二例の急死者は三十三歳の受刑者でありまして、同じ日の起床時に起きてこないということで同房者が揺り起こそうとしましたけれども返事がない、異常だということでありましたので、たまたま第一例で申し上げました病院の医師が救急車で外来病院に行って、手当てを終わって帰ってきたばかりでございましたので、朝早くでございましたが在庁でございましたために直ちに診療をし出し、手当てをいたしましたが、これもそのかいなく六時四十分ごろ死亡されました。  第三例の急死者は四十九歳の受刑者でありまして、六月九日の起床時に起床点呼の際にも起きてこないということで、不審に思いました職員が房の中に入りまして声をかけてみましたところ、既に何ら反応がないという状態でありまして、この方の場合はもう既に亡くなっていたという形で、その後直ちに登庁しました医師によって死亡が確認されたという事例であります。  それから、第四の急死者は三十五歳の受刑者でありまして、六月十二日午前二時二十分ごろ、やはり様子がおかしいという同房者の通報によりまして当直員が直ちに手当てを加えるとともに救急車で外部の病院に移送の手当てをとりましたけれども、同じく午前三時五分ごろ死亡したという事例でございます。  この四人の被収容者が相次いで亡くなったということでありますが、いずれも病院のとりあえずの所見では急性心不全によるものという診断結果でございましたけれども、いずれにしろ急死でございますために検察庁には通報いたしまして、四例とも司法検視をいたしました。外観的には何ら異常がないという形で、やはり医師の診断どおりの急性心不全によるものということで司法検視は終わっておりますけれども、その後の原因究明等につきましては後でまた詳細に御説明申し上げますが、それなりの私どものできる限りの措置をとるという体制で臨んでおります。なお、氏名につきましては、御遺族の感情もございますので、この場では公表は差し控えさしていただくことをお許しいただきたいと思います。
  246. 中山千夏

    ○中山千夏君 最初の方が刑期が一年ですね、懲役一年。それから二番目の方が二年、それから三番目の方が三年六カ月、四番目の方が二年六カ月、そして四人ともちょっと拝見したところ特に重要な病歴があったということでもないようですね。この四人の方は、かなり新潟刑務所には暴力団関係の人が多いと聞いているんですが、暴力団関係の方ですか、そうではないんですか。
  247. 石山陽

    政府委員石山陽君) 申しわけありません。その詳細は実はつまびらかにしておりませんけれども、一部含まれているというふうに報告を受けております。どの方がどうだったか、ちょっと私今資料持っておりませんのでお許しいただきます。
  248. 中山千夏

    ○中山千夏君 それからもう一つ、三例目の方が懲罰を受けていたときで一人の部屋に入っていたというふうに聞いているんですけれども、この懲罰の原因というんですか、わけというのはわかりますか。わかったらちょっと。
  249. 石山陽

    政府委員石山陽君) 遵守事項の反則による懲罰だったと聞いておりますけれども、具体的な態様までの報告は実は承知しておりません。
  250. 中山千夏

    ○中山千夏君 それから病理解剖というのですか、病理解剖にはかかっていますか。
  251. 石山陽

    政府委員石山陽君) 実は当初一日のうちに二人亡くなるという異常な事態が出ましたので私どもで心配をいたしましたが、一、二例はすぐ遺族の方がお引き取りになりましたために、病理解剖について御同意を得られませんでした。三例目のときに熱心にお願いしたんですが、これも御同意が得られませんでした。四例目に至りまして、これはぜひともお願いしたいということで強く遺族を説得申し上げましたところ、御同意が得られましたので、この四例目の方については病理解剖をいたしております。
  252. 中山千夏

    ○中山千夏君 その結果はまだですね。
  253. 石山陽

    政府委員石山陽君) まだでございます。これにつきましては施設の医師の方から大学病院等に調査について協力方を依頼しておりますので、もうしばらく臓器検査、血液検査その他を済ましてから報告が来ることになっております。ただ、解剖所見だけで申し上げますると、いわゆるポックリ病の典型的症状と申しましょうか、外部所見では何ら異常がないという形であったそうであります。
  254. 中山千夏

    ○中山千夏君 私は割とミステリーなんか読むんですけれども、その読み過ぎのせいかもしれませんけれども、心不全と聞きますと一番何かあいまいで怪しい病名だという感じがするわけです。それがたった六日間の間に四つも重なったということになりますと、やっぱりちょっとびっくりするんですね。これは関係者の方たちとしてはどういう受けとめ方なんでしょうか。過去に何か似たようなケースがあってそんなに驚かなかったとか、それからやっぱりこれはどうしたことだろうと思ったとか、そういうことなんですが。
  255. 石山陽

    政府委員石山陽君) それは委員指摘のとおり私どももびっくりいたします。実は時々と言っては大変不謹慎な言い方になるかもしれませんけれども、施設内に収容されている人々が時期を限りまして突然急死なさるという例は今までにも絶無ではございません。かって二、三の刑務所でそれに似た状況が出たことがあります。  ポックリ病と先ほど申し上げましたので関連して申し上げますると、大体いわゆるポックリ病は年齢が三十代に一番多く、次に四十代、次に二十代という順番に起こるそうでありまして、時期は四月から六月にかけてが一番発症例が多いそうであります。私どもは、いずれにしましても急性心不全といいながら、きのうまでは特に医療を受けていた実績もなく、かつ自覚症状もない人たちが急に亡くなったことでありますので、それなりに何かほかの原因がないか、例えば風邪による疲労とか、あるいは集団食中毒とか、そういった原因がないかにつきましては一応直ちに調査を命じてやらせましたが、現在までのところそのような症候もございませんでした。
  256. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうすると、過去にあったという事例は今お話しになれますか。
  257. 石山陽

    政府委員石山陽君) 実は昨年の夏前だったと記憶いたしますけれども、三重の刑務所で集団風邪のような症状からいわゆる発熱、体の異常を訴えるという収容者が出まして、短期間に三名亡くなった、こういう事例がございまして、これはやはり病理解剖をさせていただき、この原因につきましては大学の方にお願いをしまして調査しました結果、風邪のビールスの一つであるコクサッキービールス、これによる罹患症状ではないかという結果がついことしになりましてから実は御回報をいただいたというのが一例ございます。  それから、もう既に十数年前になりますが、ほぼ一年の間に十数名の収容者並びに施設の職員が相次いで同一刑務所で亡くなったという事例、これもございました。
  258. 中山千夏

    ○中山千夏君 ポックリ病というのは世間でもあり得ることでして、それ自体は珍しいということではないと思うんですけれども、やはり同じところで同じように生活していた方たちが非常に時期を接して、これはまだはっきりしたことはわからないので、仮にそういう病気、ポックリ病と言われるようなものにしても、もしそういう事態があったとしたら、これやっぱり何かそこの場所、集団で生活している場所のありようというようなものに原因を求めざるを得ないような気がするんですね。  それで、医療体制はどうなんだろうかと私も考えてみたんですけれども、実際のところは拝見したことがありませんので私にはわかりかねるんですけれどもお話を伺ったところでは内科のお医者さんが専門医官として二人いらっしゃる、それで定期的には外部のお医者さん、歯医者さんが一人いらしてくださる、そのほかは必要に応じて外部の病院に運んでいくという形をとっていらっしゃるんですね。それから定期診察のあり方というものなんですけれども、個人の収容されているものの側から見ますと、工場別に週二回、それから歯については週に一回ですね。それからこれは指定された曜日に本人の申し出によって行うわけだから必ず週二回診てもらうというわけではないということになりますね。その一回当たりの時間は約二時間三十分、歯については約三時間三十分というふうに聞いているんですけれども、時々実際に、これは新潟刑務所についてではありませんけれども、いろいろ受刑経験のある人から話を聞きますと、なかなか頼んでも診てもらえないとか、医療についての不満というのをよく聞くんですね。  確かに法務委員会でも昔ちょっと取り上げられたことがあると思うんですが、医官の方がなかなかつかまえにくいというような問題もおありになるようですし、その医療体制そのものに問題があるんじゃないだろうかと思うんですけれども、その辺のところはどうお考えになりますか。
  259. 石山陽

    政府委員石山陽君) もとより行刑施設でございますので、民間の総合設備の整った大病院でいつでも随時に希望日に診察を受けられるという体制ではない、これは施設の特殊事情として特にお許しいただきたいわけでありますが、先ほど中山委員が御指摘のように、私どもとしてはそれなりの設備と、それから医師、看護婦等の陣容を持っておりますので、できるだけ被収容者のそのような申し出につきまして、もちろんこんなことをこういうところで言うのは不謹慎であるとおしかりを受けるかもしれませんが、収容者の中には工場を怠役、つまり怠けるという意味で、それをしたさに頭が痛い、あるいはおなかを壊したという不定愁訴をすることによって病室に行かしてくれというような人もいないわけではございません。  しかし、それはそれなりとして一応話をよく聞きまして、必要ある者につきましては、ただいまおっしゃいましたような形でできるだけ定期に診療を受けさせ、新潟の場合は専門医の関係以外のものは部外の病院へ移送してそこで診察を受けさせるという体制をやっておりますけれども、本件の結果を知りました後の調査によりましても、その前後の病室に対する入室患者の数でありますとか部外施設移送の例を見ますと、この程度の施設においては大体標準的な運用をなしでおると思いますので、特に医療体制の落ちこぼれがあったというふうには私どもは実は考えていないわけであります。
  260. 中山千夏

    ○中山千夏君 ちょうど今病室の話が出たんですけれども、この新潟刑務所の病舎の定員数というのを伺いましたら、これが十五名だそうですね。そして六月中の病舎の収容者数が七十四名、病名は、糖尿病、腎炎、高血圧症、心疾腎、痔核、腰痛症、風邪、じんま疹、外傷などというふうに聞いています。この七十四名というのは普通通常よりは大変多いんだそうですね。この理由は何なんですか。
  261. 石山陽

    政府委員石山陽君) おっしゃるとおりでありまして、ことしの正月、かえって寒いときはそれなりに気を引き締めるせいでございましょうか、案外施設によりましては北国の施設でございましても風邪引きの患者というのは数が少ないという現象がよくあるわけでございまして、新潟の場合も一月から三月まではほとんどございませんでした。四月、五月、六月と順次ふえております。そしてその六月の場合には、たまたま六月の当初にこのような急死例がありましたので、施設側も特に気を使いまして、その同じ舎房等におりました収容者につきまして臨時の健康診断を行うとか、その結果ちょっとでも異常のありそうな者は早目にひとつ手当てをしようという形で病室等に収容される例もふえましたので、通常の月より多くなったものと思われます。
  262. 中山千夏

    ○中山千夏君 先ほどちょっと怠けたいので病気だと言って入るような人がいるというお話で、ないとも思いませんけれども、例えばそういう人がいるという先入観で見ちゃって、本当にぐあいの悪い人を見逃してしまうというようなことも、これまたなきにしもあらずだと思うんですね。  そういうことと、それからこれは収容施設に限らず、日本全体の問題として、日本人というのは非常に働くのが好きで、労働時間も非常に長いそうです。そういうことからやっぱり収容施設の中でも、特に収容施設という特殊な条件もありますから、かなりきついカリキュラムが課せられているというようなこともあるんじゃないかしらという気がするんですね。そういうことがこういう一つの原因として考えられないかと思ってみたんですけれども、特にほかの施設と比べて収容状況だとか、それからカリキュラムなんかの点では問題ないんですか。
  263. 石山陽

    政府委員石山陽君) 私も、急性心不全という一応の診断ではございますけれども、四例も短期間に続くというのは非常に異常な事態だと考えましたので、これが平素の作業に出役しておりますけれども、その作業状態はどうかということもすぐ調査を命じました。ところが、これらの人々は、例えばさっき中山委員指摘のように、一人は懲罰中でございますので作業を全然やっておりませんから、肉体的疲労という条件はちょっと考えられません。それから、ある者はバレーボールの皮を張る皮革工の仕事をしていまして、作業の程度から言いますと軽作業的なものであります。ある者は紙箱張り程度でございまして、非常に重労働で心身に負担がかかるというような実は状況ではなかったわけであります。そうしますると、やはり私どもとしては肉体的労働作業を課するノルマのきつさによって心身の疲労が積み重なったという状況ともちょっと判断しかねる、これが実情でございます。
  264. 中山千夏

    ○中山千夏君 これは確認させていただきたいことなんですが、外傷はなかったとさっきおっしゃいましたね。何か暴力事件があって、私はどうしたらそんなことができるのか知りませんけれども、外から傷が見えないような痛め方というのは世の中にはあるそうです。そういうことは万々ないんでしょうね、この場合。
  265. 石山陽

    政府委員石山陽君) その点も注意して調べさせましたが、一切外傷等ございません。それから同房者間のトラブル等はないかという点も調査させましたが、それに関する報告も一切ございませんでした。
  266. 中山千夏

    ○中山千夏君 となりますと、全く不思議としか言いようがない事件なんですが、過去に二つ似たような例もあるということですし、また繰り返されるようなことがあってはやっぱりちょっと大変なわけなんで、何かつかみどころがなくても対策は必要なわけですね。大変お困りだろうと思うんですけれども、これ、対策はどうなさいますか。
  267. 石山陽

    政府委員石山陽君) 大変御同情いただきましてありがたい次第でありますけれども、実はもうこの期間中は施設長にとりましてみると地獄の十日間と言ってもよろしい時期だったわけでありまして、毎朝報告をして、きょうも収容所は無事かということだけで夜も寝られない思いだったというのが実は所長の報告でありました。そういう点御勘案いただきますれば、我が国のやっぱり矯正施設という一つの閉鎖社会でありまするけれども、その中の被収容者が罪の償いをするという目的ではありますけれども、それらの人々の健康を殊さらに損なうとか、十分な医療手段が講ぜられないまま放置してもよろしいとか、そういう考え方は私どもの組織にはないということをぜひ信じていただきたいと思うわけであります。  ただ、本件が起きましたので、とりあえずとりました具体的な策といたしましては、その急死されました四人の方が同一の舎房棟に固まっておったという事態がわかりましたので、そこの舎房棟に所属しておりました被収容者につきましては十日間にわたりまして刑務作業への出役をとりあえず中止をいたしました。それから時間を短縮する、それから風邪等が原因であってはなりませんので、集団集会的な行事を一時延期させる、こういうような措置をとりました。  それは当面の策でございますが、今後の対策といたしましては、これは実はいろいろ医学的な専門家にも伺ったのでありますけれども、どうしても医学的にわからぬので、まさにポックリ病としか言いようがないというのが現状なんだそうでありますけれども、それはそれといたしまして、そのような症状が先ほど申し上げました発症例等の調査によりまして起こりやすい時期に起きます作業の仕方でありまするとか、日課時間の定め方でありますとか、あるいはそのような症状らしき前駆症状があった場合の本人の取り扱い、こういったものにつきましては今後とも医学の専門家の意見を徴しまして研究を進めて、こういう事態がないように万全を期したいというふうに考えておるところでございます。
  268. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうですね。逆に同じ状況のところで短期間に起こったということから、こういう死に方の研究が進むというようなこともあるかもしれませんから、何よりも原因究明が大切だと思いますので、医者に協力をしてやっていただければと思います。  それともう一つ、これは角度の違った問題なんですけれども、こういう事件が世の中に知れましたときに報道が参りますね。そのときにはなるべくやましいところがない場合には率直にデータを出した方がいいんじゃないかと思うんです。それがあいまいな形でなされますと逆に何かあるんじゃないかという形に受けとられてもやむを得ないと思うんですね。不思議な事件であるだけに、関係者の方も対応に困るような事件であるだけにマスコミまでの対応は間に合わないのかもしれませんけれども、マスコミだけではなくて、例えば人権擁護の運動をしている方ですとか弁護士会の方ですとかが知りたいとお思いになったときには、きちんと状況をお話しになった方がいいと思うんですね。収容施設であるというようなことから、とかくガードが固いというのはわかるんですけれども、その辺は少し弾力性をもってお考えになった方がいいような気がするんです。いかがでしょうか。
  269. 石山陽

    政府委員石山陽君) 私も矯正局長に就任いたしましてから、所内の事故、例えば集団食中毒でありまするとか、数次にわたる集団風邪等で、いわゆる外部の保健所その他に届けなければならぬものについては隠す必要はないのであるから、速やかに届けて適切な防疫対策等とる必要があるから、関係機関に対する連絡協調を十分にやれということは指示しておるわけでございます。  ただ本件のような、例えば急死されました例となりますると、これは中山委員お察し願いたいのですが、施設といたしますると、まずその方が亡くなるまでに物すごい、つまり努力をいたしまして救命措置のために駆け回っておるわけでございます。それこそこの四件続きまして所長は三日徹夜したとか、あるいは看視に当たる職員が一週間寝なかったとか、こういう事態が起きます。さらに遺族の方に御連絡しなければいけません。それから病理解剖その他の関係がありますので、病院にも御連絡申し上げるとか、いろいろなことが、事務が実は殺到しておるわけでございます。そのさなかに来られますし、外部からすぐ調査をするという形ではちょっとお引き受けしないという場合がございます。  ただ、客観的な事実につきましては、今マスコミを例に挙げられましたけれども、一応事実関係をつかみましたときには遺族の名誉を保護する範囲内、プライバシーの保護ということにも被収容者の人権がございますから配慮しながら、マスコミには協力すべきことは協力するという姿勢でこれからもまいりたいと思いますし、それからおっしゃいますように、もし医療上の問題以外でまた何か識者の御意見承りまして今後の処遇の改善に資するような事項がありますならば、これまた虚心坦懐に受ける、この心構えは持っていきたいものだというふうに考えております。
  270. 中山千夏

    ○中山千夏君 では新潟の方の件はそれで終わります。ありがとうございました。  次に、最近犯罪白書が発表されまして、そこでも非常にまた少年犯罪がふえているというようなことを聞きました。それで、少年保護事件についていろいろお伺いをしたいんですけれども、冒頭に、大臣は少年犯罪が増加している中でそれに対してどういう姿勢を持っていかれるかということをお聞きしたいと思います。
  271. 住栄作

    ○国務大臣(住栄作君) 御承知のように、成年犯罪というのは横ばいないし下降ぎみなんでございますが、青少年犯罪というのは増加傾向を示しておる、しかもその中身はだんだん年齢の若い層あるいは女子がふえてきておるというような特徴を持っておるわけでございます。大変私どもはそういう事態に対して憂慮し、深刻に考えておるわけでございます。  こういうことにどうすればいいか、法務省の守備範囲から申し上げますと、やっぱり非行に陥った人を受け入れておるわけでございます。少年院等、そういう施設でいろいろ更生保護を図っておるわけでございますし、それからまた社会内で非行者が立ち直れるようにいろいろやっておるわけでございます。特に保護司の皆さん、それからボランティアで更生保護婦人会の皆さんも大変よくやっていただいておりますし、それからBBS運動、BBSの方にも随分お手数、御協力をいただいておりまして、再度非行に陥らないように本当にやっていただいておるわけでございます。特に七月はそういうことを考えて月間として運動を全国的に展開しておりますけれども、各県大変関心を示していただいておりまして、上からやってくださいということじゃなくて、そういうボランティアの皆さんを中心として盛り上げていただいておるわけでございますが、非常にそういう点で力強くやっていただいておるわけでございます。  それはそういうことでございますが、それから予防という面、これも本当にこれが一番大事なんでございまして、これは関係各省、学校のこともございますし、文部省だとか警察だとか各省にわたるものですから、それは総理府が、今は総務庁でございますけれども、中心になっていただいて、政府挙げてこういう問題について取り組んでおるわけでございまして、本当にそういう状況が改善されるように政府はもちろんでございますが、国民の皆さんの御協力をいただきまして頑張っていかなければならないと考えております。
  272. 中山千夏

    ○中山千夏君 今の内閣は非常に青少年の教育、健全育成ということに力を入れていらっしゃるというのはいろいろな場所で知ることができるわけなんですが、私もちょっとこういう世の中では大変だなということで、少年保護についていろいろ調べていたんです。そのときに「少年法改正に関する意見」という、これは最高裁判所が昭和四十一年にお出しになったものに行き当たりまして、大変立派なもので感心したんですが、昭和四十一年といいますと私はまだ十六歳で、ちょうど少年法を適用されるという年齢だったわけなんで、余りこのころのいきさつについてはよく知らないんですけれども、ちょうどこの四十一年五月に法務省の方で改正についての構想というようなものをお示しになった、それに対して最高裁がこれをお出しになったというふうに伺ってます。  それで、その中に「基本的意見」というものがありまして、そこがとても立派なのでちょっと読ましていただきたいと思うんですが、   少年の非行を防止しその健全な育成をはかるためには、教育、文化、労働、厚生の各分野にわたり、広い視野から幅広く、総合的な施策が講じられなければならないが、司法の領域における対策もまたその一環としてこれらの分野における諸施策と歩調をあわせたものでなければならない。  現行少年法が非行少年に対し性格の矯正、環境の調整に関する矯正的・教育的処遇を加えることによってその健全な育成をはかることを目的としているゆえんもまたそこにある。そして、現行少年法がすべての少年事件を家庭裁判所に送り、家庭裁判所に各種の処遇の選択および審判を行なわせることにしたのは、人権の保障を全うしつつ、少年の健全な育成と社会の安全との調和をはかるためには、それが最も適切かつ必要であると考えたからにほかならない。  現行少年法のこの基本構造は、過去一七年にわたる運営の実績に徴してもなんら変更すべきものとは考えられない。 と、こういうふうに書いてあります。それからまたさらに十八年たったわけなんですが、ここで言われている基本構造、何ら変更が必要とは考えられないと言われている基本構造については、今でもやはり最高裁判所はこういうお考えをお持ちなんでしょうね。どうでしょう。
  273. 猪瀬愼一郎

    最高裁判所長官代理者猪瀬愼一郎君) ただいま中山委員の御指摘の点でございますが、私どもは四十一年の最高裁判所の意見の基本的な考え方、これは現在においてもそれを維持しておるところでございます。そこで言っております現行少年法の基本的な構造というのは、一口で申しますと、少年保護事件については少年の健全育成という指導理念、これにふさわしい手続構造のもとで少年事件の処理を行うという考え方でございます。
  274. 中山千夏

    ○中山千夏君 その続きに、   しかしわが国においては、まず先に、少年法が制定され、これにあわせて短時日のうちに処理・処遇体制が用意されなければならなかった。進んだ制度と貧弱な処理・処遇体制という少年法の問題点はその出発点にすでに潜んでいたが、現在でも十分には解消されていない。また、制度的にも保護処分の種類の不足や決定と執行とが必要以上に分離しすぎている。これらが少年法の理念の実現をはばむ大きなあい路となっている。 という指摘があるんですね。それで、これは今の状態を見たり調べたり勉強したりしてみますと、あれから十八年たってもやはりこの問題は残っているんじゃないだろうかという気が非常にするわけなんです。  その一つとして、何か朗読ばかりしているようで恐縮なんですが、もう一つ「自由と正義」という日弁連が出している本の昭和五十六年のもの、一九八一年のものなんですが、その中に  審判は多くの場合、三〇~四〇分位のペ-スでせかせかとした雰囲気の中で進められ、事実認定についても、警察からの送致事実を、裁判官が、そのまま棒読みし、件数が多い場合には、その読み聞かせすら省略される。そして、裁判官の畳み掛けるような質問が、少年の答を予測されたかのような一つの結論に収斂して行く。少年のために弁護してくれる者は誰一人なく、国家権力という大きく冷たい壁の前に、少年が一人、悄然として頭を垂れて立っている。これが、私が見て来た少年審判の通常の光景である。 という記述があるんです。これは保護観察所の保護観察官の方が書いていらっしゃる文章の冒頭に出てくるものなんですが、これはやっぱりちょっと少年法の基本からして、もしこれが本当であるなら問題じゃないかなと思うんですね。  それで、人について、つまり裁判官の数が果たしてこうやって毎年毎年事件がふえていっているところで足りるだけあるんだろうか、これは定員法のときにもしょっちゅう出てくる問題ではありますけれども、もう一度少年というところから見直してみますと、これじゃ幾ら裁判官に立派な人がいて一生懸命やりたいというお気持ちはあっても、事実処理をしていくという上でかなり無理にならざるを得ない。そして事件を罪の重さという方から見て片づけてしまうというふうに偏りがちなんじゃないかと思うんですね。  年々非行少年と言われる子たちがふえてきて、そして事件がふえているにもかかわらず、裁判官の数というのは全然五十八年まで、私がもらった資料では四十九年から五十九年までいただいたんですが、ところが五十八年まで全然ふえてないんですね、事件はふえているのに。それから判事補もそうだし、それから大変保護処分の少年保護という分野では大切な役目を果たす調査官の数についても同じですね。やっとふえたと思ったら三人ふえて、三人ふえたぐらいではとても無理だろうと担当に当たられる方にも同情するし、それからそこで処理される少年たちについても大変同情せざるを得ないような状況なんですね。  こういうことから見て、これは昭和四十一年のさっき読んだ最高裁の意見書の中にも、一つの改善策として人的な整備が必要だということが書いてあったんですけれども、その状況はもう今でもちっとも変わらないと思うんです。この辺の面で何とか、何だか政府はなかなか人もふやさないお金も出さないという今苦しいところみたいですけれども、これから後の私たちの社会を担っていく子供たちについてのことですから、ちょっと特別に人をふやしていくというようなことはできないんでしょうか。そういう方向で努力はなすっていますか。
  275. 山口繁

    最高裁判所長官代理者(山口繁君) 中山委員指摘のとおり、少年事件が増加しております中で、裁判官それから家庭裁判調査官の増員を図りましたのは昭和五十八年度で各三名ずつという結果になっているわけでございます。確かにそういう状況でございますので、裁判官あるいは家庭裁判調査官の御負担はかなり高くなっているだろうとは思いますけれども、少年事件と申しましても時代の変遷によりまして内容的にも変わってくるわけでございます。  その事件に応じた処理方法を改善工夫しなければならないわけでございまして、現在の段階で申しますと、例えば万引きや自転車の遺失物横領などの非行事件がかなり多く見られるわけでございますが、これらはかなり一過性のものでございます。中には少年の資質や少年を取り巻く環境に多くの問題を持った複雑困難なケースもあるわけでございます。多種多様でございますので、家庭裁判所としましては、複雑困難な事件につきましては少年鑑別所における心身鑑別を活用するとか、あるいは試験観察、補導委託などを活用するなどいたしまして、綿密な事件処理を行います。他方、一過性の問題の少ない事件につきましては、早期に必要な手当てを加えまして、少年の心情を安定させて、早期的な治療を図るという、そういう基本的な方針に基づいて事件処理を行っているわけでございます。  このような教育的な配慮のもとに、合理的重点的に事件処理に努めているわけでございまして、事件増の中でいろいろな改善工夫を図っているわけでございます。そのほかに、例えば会同でございますとか協議会等を通じまして裁判官あるいは家庭裁判調査官が研究討議を行う、さらには能率器具の配付等いたしまして事件増に対処しているわけでございます。とは申しましても、やはり今後も事件の増加傾向が続こうかと思います。私どもといたしましては、そのような増加傾向にあるという状況を踏まえ、かたがた調査官なりあるいは裁判官なりの充員の可能性もにらみながら必要な増員はお願いしてまいりたいというように考えております。
  276. 中山千夏

    ○中山千夏君 絶対必要だと思います。必要な増員はしていくということで言えば、もう必要ぎりぎりのところに来ているんじゃないかと思うんですね。これは裁判所としては決まっている定員の申で合理的にやっていくしかないんでしょうけれども、合理化というものはとかく細かいところを落としてしまうようなことにならないように、そしてあとは定員をふやすということで言えば法務大臣にもこの辺のところはお願いしておかなければいけないことなんでしょうけれども、まだちょっと少年問題について聞きたいことがいっぱいあったんですけれども、時間が来ちゃったもんですから、次の機会にして、きょうはここまでにさせていただきます。
  277. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 本日の調査はこの程度にとどめます。     ―――――――――――――
  278. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(参第一七号)を議題といたします。  発議者橋本敦君から趣旨説明を聴取いたします。橋本君。
  279. 橋本敦

    委員以外の議員(橋本敦君) 刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。  去る七月十一日、松山事件の再審判決で斎藤元被告に対し、無罪の言い渡しがあったことは記憶に新しいところであります。報道によれば、昨日、検察側は控訴を断念いたしましたようで、この検察庁の処置はまことに妥当かつ結構であったと考えるところでございます。ごく最近に限ってみても、免田事件や財田川事件などの再審裁判があり、それぞれ無罪の判決がありました。そしてこれらの事件は、いずれも原審では、死刑が確定していたものであります。  従来、我が国では、一度確定した判決を覆すことは、裁判の権威を損ねるものだとして、そういった観念が大変強く、そのため再審を請求しましても、その開始決定に至るまでが困難をきわめ、再審の門はあかずの門とさえ言われてまいりました。しかし、無実の罪を晴らそうとする関係者の血のにじむような努力と世論の力に押されて、最高裁も一九七五年五月にいわゆる白鳥決定を下し、再審開始の要件の解釈、運用においてようやく若干の弾力性が見られるようになりましたが、まだ決して十分なものとは言えません。  そこでこのような事態を改善し、真摯に無実を主張する者にその証明の機会を与えるためには、法のそのものを改正すべきだとする機運が高まっています。  我が党は、冤罪事件を根絶するためには捜査の方法と態勢の見直し、代用監獄の廃止、一審での審理の充実など、刑事裁判制度の全体に検討を加える必要があると考えておりますが、今回はさしあたり緊急必要な措置として幾つかの改正を提案するものであります。  以下に要点を申し上げます。  第一に、そして最も重要な点でございますが、再審の開始の要件を緩和することであります。第四百三十五条の六号の無罪を言い渡すべき「明らかな証拠をあらたに発見したとき。」とあるのを無罪を言い渡すべき「重大な事実の誤認があると疑うに足りる証拠を新たに発見したとき。」と、こう改めます。  また、誤判の原因となった偽証等を検察官が不起訴処分にした場合でも、確定判決にかわる事実の証明をして再審請求をすることができるようにします。  第二は、死刑の執行及び拘置の停止であります。  死刑確定者について再審請求があったときは、裁判所も死刑の執行を停止することができることとして、さらに再審開始の決定が確定いたしますと、死刑の執行は自動的に停止されることとして、この場合には裁判所は死刑執行のための拘置を停止することができることといたしました。  これらの改正は、最近の一連の死刑再審事件の経験を十分に考慮したものであります。  第三は、再審請求手続において請求人の権利保障を強化するために幾つかの改正措置をとるものであります。すなわち、再審請求手続において、国選弁護人制度、弁護人の接見交通権及び訴訟記録の閲覧謄写権、訴訟記録及び証拠物の保存命令の請求権、審理の公開制、再審請求理由を陳述して、証拠の証明力を争う機会、事実取り調べの請求権、最終意見の陳述権等々を保障することといたします。  第四は、裁判官の除斥の制度を設けて、前審に関与した裁判官は再審から排除して審理の公正を期すことにいたしました。  第五は、検察官の立証及び即時抗告の制限であります。  検察官は再審請求審理におきまして新たな事実の取り調べを請求することができず、新証拠の証明力を争う機会を与えられるにとどまることにいたします。  また、再審開始の決定に対しては検察官の即時抗告を認めないことといたします。  第六は、再審請求費用の補償であります。  再審無罪判決が確定したときは、国はその再審請求裁判に要した費用を補償することといたします。  最後に、再審請求棄却決定に対する即時抗告の特例、経過措置等について所要の規定を設けることといたします。  以上がこの法律案趣旨でございますが、何とぞ慎重御審議の上、速やかに御賛同あらんことをお願い申し上げます。  ありがとうございました。
  280. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  本案に対する質疑は後日に譲ることといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十八分散会      ―――――・―――――