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1984-02-01 第101回国会 参議院 国民生活・経済に関する調査特別委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年二月一日(水曜日)    午前十時七分開会     ―――――――――――――    委員異動  十二月二十七日    辞任          補欠選任     上田  稔君      斎藤 十朗君  一月十七日    辞任          補欠選任     斎藤 十朗君      梶木 又三君  二月一日    辞任          補欠選任     糸久八重子君      大森  昭君     稲村 稔夫君      浜本 万三君     刈田 貞子君      塩出 啓典君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         寺田 熊雄君     理 事                 梶木 又三君                 内藤  健君                 太田 淳夫君                 橋本  敦君                 藤井 恒男君     委 員                 海江田鶴造君                 佐々木 満君                 坂野 重信君                 杉元 恒雄君                 松岡満寿男君                 水谷  力君                 山内 一郎君                 大森  昭君                 竹田 四郎君                 浜本 万三君                 桑名 義治君                 塩出 啓典君                 抜山 映子君                 青木  茂君    事務局側        常任委員会専門        員        桐澤  猛君    参考人        日本長期信用銀        行常務取締役調        査部長      竹内  宏君        経済評論家    高原須美子君        東北大学教授   大内 秀明君        国民生活セン        ター理事長    小島 英敏君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○委員派遣承認要求に関する件 ○国民生活経済に関する調査  (経済現状及び将来と国民生活に関する件)     ―――――――――――――
  2. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ただいまから国民生活経済に関する調査特別委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る十二月二十七日、上田稔君が委員辞任され、その補欠として斎藤十朗君が選任せられました。  また、去る一月十七日、斎藤十朗君が委員辞任され、その補欠として梶木又三君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 小委員長選任について御報告いたします。  委員異動に伴い欠員となっておりました技術革新に伴う産業雇用構造検討小委員長につきましては、去る一月二十五日、梶木又三君を選任いたしました。     ―――――――――――――
  4. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事梶木又三君を指名いたします。     ―――――――――――――
  6. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 委員派遣承認要求に関する件についてお諮りいたします。  国民生活経済に関する調査のため、委員派遣を行いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 御異議ないと認めます。  つきましては、派遣委員派遣地派遣期間等の決定は、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ―――――――――――――
  9. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 国民生活経済に関する調査を議題とし、経済現状及び将来と国民生活について参考人から意見を聴取いたします。  本日は、お手元に配付の参考人名簿のとおり四名の方々に順次御出席をいただいております。  まず、日本長期信用銀行常務取締役調査部長竹内宏君から意見を聴取いたします。  この際、竹内参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本委員会に御出席をいただきましてありがとうございました。本日は経済現状及び将来と国民生活につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、二十分程度委員の質疑に対しお答えをいただく方法で進めてまいりたいと存じます。これはそれほど厳格には要求いたしませんが、これを基準にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。  それでは、竹内参考人にお願いいたします。
  10. 竹内宏

    参考人竹内宏君) 竹内でございます。  お役に立つような御報告できかねますけれども、日本経済の問題とそれから将来のことにつきまして御報告申し上げたいと思います。  日本経済の最大の問題の一つは、現在投資不足であるということでございます。平たく申し上げれば現在のところ、昨年でも経常収支の黒字が二百億ドルぐらいございます。これは当然輸出の方が輸入よりも多いということでございますけれども、日本であり余る物がありながら日本の国で使い切れないので海外に余分に出している、こういうことになるわけでございます。つまり、日本で必要としているものよりも生産しているものが多いので海外に出している。  それから第二番目に長期資本流出が約同じ額ございます。つまり、日本ではお金があり余って国内では使い切れないのでこれを海外に出している、こういう寸法になるわけでございます。つまり現在の経済現状で申し上げれば、日本は物も金もあり余っているということでございます。しかしそれを使い切れないということだろうと思われます。つまりそれを成長に、あるいは国民生活の向上に使い切れないというふうに考えていいのではなかろうかと思われます。  行っている先というのは、最近になりますとアメリカが主たるものでございます。つまり、われわれは日本よりもはるかに豊かな国に対して物も金も出して、豊かな国の成長に寄与している、こう言って差し支えないかと思うわけでございます。  現在、日本資本が流山している先はアメリカで、主としてアメリカ南部でございます。御承知のとおりアメリカの北と南を分けますと、南は目覚ましい高度成長を遂げている、こういうことでございます。日本の現在の成長力よりも高いわけでございますけれども、北でございますとマイナス二%、南でございますとプラス六%以上の成長を遂げている、こういうことでございます。この地域は言うまでもなく賃金も高くない、地価が低い、こういうことでございますし、いろいろな州政府の援助もございますので、日本企業はいわば日本を捨てて出ていっている、極端な言い方をいたしますとそういう企業もある。つまり日本地価が高い、賃金水準も低くない、それからマーケットもそれほど大きくない。ここに大工場を建設するとしますと反対が多い、こういうことでございます。  アメリカ南部では壮大な飛行場が次々にできておりますし、高速道路の建設が進んでおりますし、多くの州で大工場団地ができ上がっている、こういうことでございます。つまりアメリカ南部は躍動しているわけでございまして、ここに世界から、資本もそれから生産物も吸い取って壮大なスクラップ・アンド・ビルドを行っている。つまり北を捨てて南に壮大なハイテクを中心とした工場地帯を建設しつつある、こう言っても差し支えないのではなかろうかというふうに思われるわけでございます。  しかも世界から頭脳を集めている、こういうことでございます。たとえば、台湾で一番優秀な大学は国立の台北大学だそうでございますけれども、ここの卒業生の九〇%はアメリカに留学し、そのうちの九〇%はアメリカに永住するということでございます。つまり、世界の中進国途上国、さらにヨーロッパ諸国から頭脳を集め、世界から物と金を集めまして壮大な開発が行われている、こういうことでございます。  これに対しまして、日本は金も物もあり余っておりますけれども、国内で使えるようなメカニズムがないということでございますので、本来でございますと、もっともっと成長し、国民が豊かになるべきところを、豊かになれるようなメカニズムがないというようなことで、大変惜しいことでございますけれども、貯蓄を――物の形の貯蓄も、あるいはお金の形の貯蓄海外に流している、こういうことでございます。それが第一番目の問題ではなかろうかと思われるわけでございます。  それから第二番目の問題は、御案内のとおり、日本も、貯蓄過剰とうらはらの関係になりますけれども、財政が赤字でございます。その結果、長期金利が上がっておりますので、日本名目成長率よりも長期金利の方が高いというような不自然な姿になっております。と申しますことは、企業売上高名目成長率に比例して伸びる、それから利益率も比例して伸びる、こういうことでございます。そのような名目成長率といいますか、利益伸び率よりも名目金利の方が高ければ、名目的な長期金利の方が高ければ、企業生産活動を拡大するよりも、金融資産長期金融資産、たとえば国債を買った方が安定的な収益が得られる、こういうことでございますから、本来ならば投資に向けられるべきものが金融資産購入に向かっているというようなことでございます。これは大変不自然な姿ではなかろうかと思われるわけでございます。  これをやはり画しますには、金融自由化を進め、それから国債を多様化し、それからさらに短期金利自由化していくというような幅広い国債の受け皿をつくって長期金利を下げなければならない、こういうことでございますけれども、さしあたってはこういう不自然な問題がございます。  いま申し上げました、日本でなぜ投資が不足しているか、こういうことでございますけれども、これはもういろいろな理由がございまして、どうも一挙には解決できない、こういうむずかしい問題がございます。たとえば土地問題もそれでございまして、これだけ地価が高いところでございますと、なかなか収益が上げにくいという点もございます。  それから、もっと根本的な問題には技術進歩が低迷しているということでございます。ちょうど高度成長期のように、たとえば合成繊維という新しい製品ができて、それでナイロンとかポリエステルが急速に売れて膨大なマーケットが形成される。こういうことになりますと、企業はこぞって合成繊維工場を建てる。合成繊維工場を建てれば石油化学工場が要る。石油精製工場が要る。港を大拡大しなければならない。大型タンカーマンモスタンカーが入ってくる。マンモスタンカー造船所が必要である。それらのものをつくるために鉄鋼一貫工場が必要だ、こういうことで壮大な、投資投資を生むような発展を遂げることができた、こういうことでございましょうし、その結果、雇用が増大し、労働需要が通道いたしますので賃金上昇してまいりますけれども、生産性が高まっておりますので賃金上昇十分生産性上昇でカバーできる。賃金上昇しますとそこに壮大な耐久消費財マーケットが形成され、自動車工場テレビ工場等発達する、こういうようなことで、重化学工業における技術進歩によって日本はみごとに高度成長を遂げ、国民生活は豊かになった、こういうことでございます。  ところが、現在でございますと、御案内のとおり軽薄短小でございますから設備投資額がそれほど大きくなくても済む、こういうことであります。たとえばコンピューターを生産いたしますのに、半分ぐらいはプログラムを書くことでございますから、プログラムは多分、事務所と机とちょっとしたコンピューターがあれば書けるわけでございますし、そこから出てきた製品は非常に小型でございます。たとえば、六十四キロビットのLSIを旅行かばんいっぱい詰めますと十億でございますから、従来の長大な製品でございますと、その十億分を運ぶにはトラック何百台が要ったわけでございますけれども、現在はごく小型な乗用車で運んでしまえる、こういうことでございますし、道路も傷まないということでございますので、道路改修工事も起きないわけでございますけれども、いずれにいたしましても、そのように技術進歩方向が変わり、しかも現在の技術進歩は、雇用を増大するよりも減少させる方向に働きそうだ、このような技術進歩方向が変わってまいりましたので、どうしても投資が誘発されにくい、こういうようなことが第一番目の理由だろうと思われます。  それから第二番目は、御案内のとおり、世界経済が変わりまして、いままでのように輸入経済をリードするといいますか、経済成長が鈍化したときに輸入を伸ばすことによってそれを防ぐというようなことができなくなった、こんな点も御案内のとおりあるわけでございます。  それからさらに、三番目には、経済が著しくサービス化した、こういうことであります。技術進歩が低迷いたしますと、かつてのテレビとか電気冷蔵庫のように、目の前にわれわれの物欲をそそるような新しい生産物が出てこない、こういうことでございます。現在もわれわれは多くの耐久消費財を持っているわけでございますので、いままででございますと、たとえば所得が上がるといたしますと、われわれはこぞって自動車を買った。自動車を買いますと自動車産業稼働率が上がり、自動車産業は薄板を買う、あるいは自動車タイヤを部品として買う。そうすると、自動車タイヤ工業需要が伸び、それから鉄鋼業需要が伸び、それらのところで残業手当がふえれば、それらの人々自動車購入に向かう、このような循環が働いて、耐久消費財需要の増大は、新しい耐久消費財需要を生みながら製造業全体を持ち上げていく、このような力が働いたわけでございますけれども、現在は、それらのものはわれわれは持っておりますので、極端な言い方をいたしますと、われわれは所得が上がればカラオケに行く。カラオケのバーテンの方とかオーナーの方の所得が上がれば彼らはゴルフに行くだろう。ゴルフのキャディーさんやオーナーの方の所得が上がると彼らはカラオケに行くだろうというようなことで、カラオケゴルフの間でお金が行き来しているというような面が経済サービス化の一側面である、こういうふうに思われるわけでございます。  現在、いま申し上げましたように、目の前に物欲をそそるようなものが出てこない、こういうことになりますと、どういたしましてもサービス購入に向かわざるを得ないわけでございますけれども、もう一つは、経済成長率が鈍化いたしますと、人々の気持ちが、何といいますか、保守的になるといいますか、あるいは希望を失うといいますか、そういう色彩が出てくるだろうと思われます。高度成長期のときでございますと、十年たちますと日本経済は約二・五倍に拡大した。二・五倍に拡大するということは、どの企業も多分二・五倍ふえますでしょうし、会社の数も二・五倍ふえた、こういうことであります。  ある学者ヨーロッパ学者でございますけれども、財の中を特権財民主財に分けた考え方がございます。民主財というのは、だれでもお金を出せば買えるものが民主財でございまして、自動車とかテレビはそれでございます。特権財というのは、だれかが占めれば他の人がそれを得ることができないというのが特権財でございます。議員さんのポストなんていうのはまさに特権財である、こういうことになるわけでございます。  特権財の中で最もアトラクティブなものはリーダー財でございます。リーダー財というのは、議員さんのポストであるとか、あるいは社長であるとか部長であるとか課長であるとか、そういうもののポスト一種リーダー財と考えられます。高度成長のときには十年たちますとリーダー財は二・五倍ふえた、こういうことであります。つまり、会社の規模が二・五倍ふえますから、工場長の数も二・五倍になり、部長の数も二・五倍になる、こういうことでございますから、プロモーションが非常に容易であった、こういうことでございますけれども、成長率が鈍化いたしますと、ほとんどこのポストリーダー財供給力がない、供給量はふえない。こういうことでございます。その上、一方三十六歳以下には団塊の世代がつかえておりますから、特権財――リーダー財需給関係は圧倒的に供給力不足になっている、こういうことになるわけでございます。  こうなりますと、人々はどうしてもサービス購入、充実したサービス購入といいますか、あるいは個人生活の充実であるとか、あるいはサービス財の中でリーダー財を発見しなければならないというような感じがいたすわけでございます。つまり、彼はゴルフが一番うまいとか、カラオケがうまいとか、そのためにはカラオケを自分の家に帰って歌うとか、俳句がうまいとか、いろんなサービスの中でリーダー財を発見していくというようなことにならざるを得ない、こういうふうに考えられるわけでございます。そういうような意味で、ちょうどかつて経済が低迷した大正中期から昭和の初めにかけてこういうサービス財発達といいますか、サービス産業発達したように、同じような事態の中で経済サービス化が同じような原因で進んでいる、こういうふうに思われるわけでございます。  このような経済サービス化が進みますと、当然のことながら、カラオケバーの店がりっぱになる、あるいは百貨店もあるいは新宿も皆りっぱになる、こういうような動きが出て、高度成長が終わりまして、昭和四十年代の後半から日本設備投資をリードいたしましたのはサービス産業設備投資でございます。高度成長期には民間設備投資総額の中で流通サービス業中小企業が占める比率は一〇%でございましたけれども、昨今になりますとこれが四〇%にはね上がっております。つまり、製造業の大企業投資額よりも流通サービス業中小企業投資額の方がはるかに大きい、こういうことであります。  これは具体的に言えば、チェーンストア方々に進出したりいたしまして、どこの市街地も変わり、隣の町との競争のために新しい市街地づくりができていく、こういうことで、東京で言えば銀座も新宿も六本木もあるいは池袋も、皆すばらしくきれいになった、こういうことでございますけれども、そろそろここではこれ以上投資すると収益が上がらなくなってきたということであります。たとえばチェーンストア、スーパーさんは津々浦々にまで店を出しまして、現在新たに出店いたしますと収益が上がらなくなってきた、こういうことであります。つまり流通サービス業投資はかなり進みまして、設備がやや過剰ぎみかなということであります。  設備が過剰になってきますと、当然、どの産業でも同じでありますけれども、設備投資をやめようじゃないかというような業界間の相談ができ上がるということであります。つまり設備投資調整カルテルができ上がる。この流通サービス業でも大型店舗法というような、設備投資調整カルテルができ上がった、こういうことでございますので、この面で躍動的な設備投資を期待できなくなってしまった、こういうふうに思われるわけでございます。  それから、サービスとの関係でございますけれども、将来を展望いたしますと、現在のサービス化の中に含まれている動向の中でもう一つのむずかしい問題があるような感じがいたします。  現在でございますと、引っ越し業であるとか主婦代行業、つまり掃除をするとか、あるいは洗濯してくれるとか、あるいは買い物をしてくれるとか、このような主婦代行業とかあるいはファーストフードレストランチェーンとか、そういうような主婦の、女性にかかわるサービス業発達しております。つまり現在は女性社会進出が非常に急ピッチでございます。御案内のとおり、四十歳における女性の方でも半分以上が勤められている、こういうことでございます。  そうなりますと家庭あり方が変わってまいりまして、この家庭あり方の、何といいますか、女性の方が社会進出いたしまして、その結果家庭の仕事に穴があくところをこれらのサービス業が埋めている、こういうことになるわけでございますので、これらの新しく出てきたサービス産業というのは、よくすき間産業などと言われておりますけれども、これはどうも夫婦の間に生まれた心理的なすき間を埋めるような産業がなと、こういう言い方もできるかと思われるわけでございます。  そのように女性社会進出していくときには、ある意味ではすばらしいことではございますけれども、いま申し上げましたように、これによります家庭あり方変化というようなことをサービス産業が埋めているということでございますし、これは別の言葉で言いますと離婚率の急速な上・昇、それとこのようなサービス産業発達によって離婚率の一層の上昇がカバーされている、こういうふうなことで、家庭――一夫一妻制といいますか、伝統的な終身雇用的といいますか、ずっと同じ人といる一夫一妻制というようなことが、あるいは家庭の電化とか、あるいはお子さんの数が少なくなったとか、あるいは平均寿命が延びだとか、そんなようなことと同時に関連いたしまして、そういう家庭変化と、その家庭変化に伴うそれを埋めますサービス業が目覚ましく発展している、こういうことになるわけでございまして、その意味では日本家族制度の長い歴史的な一種転換点が始まっているのかな、こういうふうな感じがいたすわけでございます。  いま申し上げましたように、技術進歩が低迷して経済サービス化が進んでいる、こういうことでございますけれども、同じように経済成長率が鈍化いたしますと、人々変化を嫌うようになるというようなことでございます。これは、たとえばもう現在は高度成長のときにでき上がった非常に大きな物を持っております。  一つの具体的な例を挙げさしていただきますと、やや極端な例でございますけれども、熱海という町がございます。この熱海は毎年お客が一%ずつ減っている、こういうことでございますから、熱海全体では何とかしなければならないというふうに思っていることは確かでございますし、実際もそうでございます。ところが、熱海はなぜお客が減っているかということになりますと、高度成長期にでき上がった旅館群がある、コンクリートで固まった旅館群がある。この旅館の中は、大きなメーカーさんが代理店方々を連れてこられて、そして大広間でどんちゃん騒ぎをして、そして一つの部屋に五、六人押し込むというのにはふさわしいレイアウトになっているということでありますし、海岸には広い道路ができ上がっているということでありますけれども、現在はそれがはやらないわけでございます。海岸は美しい砂浜が要りますし、それからそういう諦め込み式レイアウトである旅館は嫌われる。こういうことで、その結果毎年入り込み客は一%ずつ減っているというふうに思われますけれども、ただ、旅館の方にしてみますと、高度成長のとき建てたものでございますから、すでに償却が進んでいる、こういうことでございまして、それから借入金の返済も進んでいるということでありますから、固定費は毎年下がっているということであります。ですからお客が減ってきましても収益的には成り立つ、こういうふうな構造になっているわけだろうと思われます。これはどの地方の都市でも、あるいは日本経済全体についても言えるのではなかろうかなというような感じがするわけでございます。  先ほど申し上げましたように、企業設備投資をやらない――やらないといいますか、余りおやりにならない、当然マーケットが拡大しておりませんので設備投資をおやりにならない。ですけれども、償却済みの資産をお持ちになっておりますから、固定費負担がどんどん減っているということであります。つまり操薬率が低くても採算に乗っているということであります。これをジャーナリスティックな言 を使えば減量経営が進み、その結果企業体質は軽くなり、企業体質は強くなった、こういうことでございます。  そうなりますと 何も大きな危険をやらなくても、大投資をやらなくても、そこそこやっていける、こういうことになるわけでございますし、先ほど申し上げましたように、地方の中小都市、たとえば熱海をとりましても、熱海は毎年お客が減っていっても何とか採算はとれていくということでありますから、何とかしなければならないと思いながら何もできないということではなかろうかと思われるわけでございます。  最初に申し上げましたような、設備投資が不足して貯蓄が過剰になっているということでありますけれども、どこでもだれでも何かをしなければならないと思いながら、まあそこそこ現在の生活で成り立っている。現在の経営で成り立っているということでありますから、できるだけ軽い、身軽な企業体質にしていく。まあ減価償却費も、できるだけ減価償却済みの資産を、償却を早くして、金利負担も軽くして身軽にしておいて、そして低い成長率のところでバランスした経営をしたいと、こういうことだろうと思いますし、実際のいま申し上げましたような、どの地方都市でも同じようなことで、何とも動かないと、まあこういうようなことではなかろうかと思われるわけでございます。  変化を嫌うというのは、そのように、いままで持っていた資産がかなり償却が進んでしまって、新たに何かやろうとすると失敗するかもしれない、そのような危惧がございますので、現在のまま――これは将来の発展性はないかもしれないけども、現在のまま何とかやっていければその方がいいだろうというような選択になるというような感じがいたすわけでございます。そのようなことが現在の設備投資の不足を生んでいるのではなかろうかと思われるわけでございます。  こうして考えてみますと、日本経済成長力を高めるといいますか、自分の国でつくった物は自分の国で使う、自分の国の国民生活を胸上させるために使い切ってしまうというようなメカニズムはどうもなかなかできにくいような感じがするわけでございます。このためにはいろいろな壮大な思い切ったことが必要であろうというふうに思われるわけでございます。  御案内のとおり、東京の中でも百二十万世帯ぐらいの方はまだまだ木賃アパートに住んでおられるわけでございますので、このような木賃アパートに住んでいる方が大変多い、にもかかわらずわれわれは物が余り過ぎて外に輸出している、こういうことでございますから、具体的に考えますと、ここで新しい住宅であるとかそういうもの、あるいは四国のように高速道路も全くないというようなところで、ここに道路さえ敷けば将来の成長は可能であるというようなところでございましても、それがなかなか、敷くとかあるいは大都市の再開発を進めるというようなことはどうしてもコンセンサスが得られないようになっているというようなことでございますので、このあたりの思い切った政策というのは、どういたしましてもこれは経済の力ではないような感じがするわけであります。  経済の力から言いますと、先ほど申し上げましたように低位に安定してまあ満足しているというようなことでございましょうし、それからわれわれも長時間働くとか、あるいは勤勉に働くというようなことは、現在の風潮でいきますとやぼなことでございますので、低いところでバランスし、豊かなゆとりある生活、というのは具体的に言えば多分大きな家を建てるとか、周りをりっぱにするとか、そういうことではなくて、家の中で熱帯魚を飼ってみたり、あるいは家の中でいろんな植物をぶら下げてみたり、そういうようなことの中で、あるいは俳句を習ったりあるいは音楽を聞いたり、そういうことが生活の向上である、質的な向上だということで、どうも外部を変えるというようなことは今様ではない、まあこういうようなところだろうと思われます。それが先ほど申し上げましたような、熱海がこれじゃあだめだと思いながらどうしようもないというのと全く同じような原因に基づくものではなかろうか、こういうふうに思われるわけでございます。  それから、先ほどちょっと家庭生活が崩壊しつつあると、こういうふうなことを申し上げましたのですけれども、同じようなどうしようもない問題は、御案内のとおり日本の人口構成の高年齢化でございましょうし、それから女性社会進出とともに若年層の人口が減り出していると、こういうことでございます。これも大変深刻な問題でございまして、後三十年ぐらいたちますと、二十五歳から三十五歳の働き盛りの人の人数は約三〇%以上減る、こういうことでございましょうし、それから長期的に計算してみますと、現在の女性の産む子供の数が一・七四人ということで、延長してやりますと千二百年後の日本の人口はわずか二千人になるというような、非常な急スピードで減っている、こういうことでございますので、まあそういうことはないかと思いますけれども、このままのスピードでまいりますと、日本経済長期的に見ますと大変なことになる、こういうことになるわけでございます。しかも、これはある意味でいきますと、豊かなゆとりある生活、つまり髪を振り乱したようなそのような家庭よりも、豊かなゆとりある生活を求めていきますと、どうしても人口が減っていくというような危険性はどうも多分にあるような感じがするわけでございます。  そのような意味で、長期的に見ますと家庭とか人口とか、そのような深刻な問題があるというふうに思われるわけでございますし、中期的にといいますか、十年とかその程度のスケールで見ますと、アメリカは膨大な投資が進んでいるということでございますけれども、日本はほとんど投資が使い切れない、こういうようなことで、どうしようもなくて低成長になっているというような感じでございますし、ちょうど現在でいきますと高成長――もう少し成長率を高めるなんといいますとこれは今様ではないというようなことで、そのようにダイナミックに変化するというのを嫌うようになってしまったというふうに思われるわけでございます。ちょうど高度成長期のときでございますと、非常にダイナミックでございました。  私、前にハーバード大学のジャパノロジストに聞かれたことがございましたけれども、日本高度成長の前までは、変な話で恐縮でございますけれども、人が亡くなったときに土葬にした。二三%の世帯は土葬にした。高度成長が終わってみますとすべて火葬になった。これは、もし法律や行政指導でやったとしたら、宗教の自由をうたってある憲法違反だ、なぜこんなことができたんだと、こういうような御質問を受けまして、私の答えは、考えたこともなかったと。こういうような答えでございますと、向こうの方は、なぜそんな人間にとって最も重要なことをお前たち考えずに生きてこられたのかと、こういうふうな御質問でございます。  そうなりますと答えは楽でございます。それが高度成長である、それが技術革新であるということであります。生きざまが軽く変わるということ、意識すらしないで、そして平気で対応していった、こういうのがすさまじい技術革新でございますけれども、現在はそんなような気風もなくなっている、こういうことでございますから、当分の間、成長率が低いままいってわれわれは貯蓄過剰に苦しむと、こういうことではなかろうか。つまりアメリカにしてみると、自分たちが日本から物とお金を買ったり借りたりしていながら、貿易摩擦が、対米批判が強まっておりますけれども、それはまさに日本貯蓄過剰といいますか、投資不足経済に原因がある、こういうことでございますけれども、これはどうも当分変わりそうもない、こういうような感じでございます。  以上、簡単でございますけれども、御報告を終わります。
  11. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 大変興味のあるお話、ありがとうございました。  以上で竹内参考人からの意見聴取は終わりました。     ―――――――――――――
  12. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) この際、委員異動について御報告いたします。  本日、刈田貞子君が委員辞任され、その補欠として塩出啓典君が選任されました。     ―――――――――――――
  13. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  14. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 竹内先生、ありがとうございました。  竹内先生の問題の立て方というのが、私なんかと非常に違っているような気がいたしますから、私の申し上げることがそのままの形で御理解いただけるかどうかわかりませんけれども、先生のお話をちょっと聞いておりまして、ソフトウエア、まあ先生の強調されたのはレジャーを楽しむというところにソフトウエアの重点がある、経済サービス化といいますか、そういうところがあるようでありますけれども、最近あちらこちらでよく新聞社なんかがやっているカルチュアセンター、ああいうものは主婦の遊びだという感じすらするような御説のように感じまして、経済というのはやっぱりハードを担当すべきじゃないかと。物をつくり、建設工事をやり、そういうところで仕事をつくっていって、そういう仕事に従事していく、そういう政治経済といいますか、そういうのが何か善であると、まあ善だというお言葉は使っておりませんけれども、聞いていてどうもそっちの方が善であるということで、どうもなまっちょろいことというのは、経済の成熟過程を経て衰えていく原因ではないだろうかというふうに伺ったわけでありますけれども、まあこの第一次、第二次の石油ショックというものがやっぱり非常に大きな教訓というものを私は与えたように思うわけでありますが、そういう意味では省資源、省エネというようなことが技術の中でもかなりそういう研究がされてきたし、またあの経験というものが物離れという問題を国民の中に引き起こしてきた。そして物の豊かさよりも心の豊かさを求めようではないかという方向で、経済サービス化方向も私はそういう方向に進んだと思うんですけれども、確かにそういうことによって投資が減少したり、貯蓄が多くなったりするということはあり得るだろうと思うんですけれども、どうもその辺が、経済の構造が大きく世界的に変わりつつあるんだというふうに思うんですけれども、先生がいまおっしゃられた具体的な高度成長型の、住宅をうんとふやせとかあるいは四国に高速道路をつくったらどうかというお説のように承ったわけでありますけれども、どうもその辺、先生はどっちに重点を置くことによって減速化したといいますか、あるいは成熟し過ぎてきたというか、そういう日本経済の発展というものをお考えになっているのか。その込もう少し踏み込んでお話をいただけたらいいんじゃないか、日本経済方向はどっちへ行くべきなんだと。  確かに、先生の「エコノミスト」の最近の論説を見せていただきましても、アメリカでは何かその経済の変わり方が同じ一つの国のアメリカ合衆国の中で、フローズンベルト、サンベルトの中で起きているわけでありますけれども、経済というものは、一国の中で、あるときにはやっぱりぐんと栄えるけれども、それはやがて成熟化の過程を経て他の競争に負けていくというようなのがやっぱり経済というものの歴史的な推移じゃないだろうかというふうに私は思うんですけれども、どうもその付近、どうしたらいいのかということが必ずしもいま私どもでも明確でないから、こういう委員会で先生の御意見を承っているゆえんだろうと思うんですけれども、その辺先生からもう一歩踏み込んでひとつお伺いしたいと思います。
  15. 竹内宏

    参考人竹内宏君) 御指摘の問題はまさに基本的な問題でございます。  やや極端な言い方をさしていただきますと、ソフトが非常に発達して文化的な水準が非常に高い国になった、その典型はたとえばオーストリアであるとか、あるいは非常に極端な例はハワイであるとか、こういうことだろうと思われます。たとえばオーストリアでございますと、音楽を世界から聞きにやってくる、こういうことでございますと、非箱にシンプルな形で言いますと、オーストリアの通貨価値が上がります。外貨が入りますから通貨価値が上がる。そうなりますと製造業の輸出は困難になります。製造業輸入され、文化を輸出し、ますますその国は文化中心になってすばらしい、美しい国になっていくに違いないと思われるわけでございます。ただその際は製造業はぐんぐん衰退している、こういうことでございまして、そのように豊かな文化が築かれて製造業のウエートが非常に低い国と、ある程度製造業を抱えていた国とどちらが国の安全であるかというようなことが一つの、何といいますか哲学の問題だろうと思われるわけでございます。  それから第二番目の問題は、いま先生御指摘のように、カルチュアセンターなんかに行かれる方も多うございますし、それから主婦とかあるいは一般の人々の、たとえば新聞の俳句なんか見ましても、レベルがぐんぐん上がっているということで、充実した生活は送られているということでございます。  ただ残念なことに、住宅とか生活環境はアメリカヨーロッパなんかと比べると特に大都市は圧倒的に低い、こういうことであります。地方にいきますと相当高うございますけれども、東京とか大阪はまさにウサギ小屋と言われても仕方がないことではなかろうかと思われるわけでございます。  現在のところはそのような、つまり生活の質的な向上が意識されまして、量的な向上といいますか、物質的な生活環境の豊かさというものよりも心の充実が重要だ、こういうことで、これは大変日本的な結構なことではないかということでございますけれども、そうなりますと、どうもわれわれの物質的な生活環境はよくならなくて、心だけ豊かになるというような方向に走っていくのではなかろうかというふうに思われるわけでございます。これもどちらがいいかというのは、まさに哲学の問題であるというふうに思われるわけでございます。  それから、先ほど御指摘のように、日本経済が減速いたしますと、人々は、何といいますか、雇用機会もなくなる、プロモーションの機会もない、賃金も上がらない、こういうことになりますので、非常に俗な言葉で言いますと白けてくる、こういうことであります。この白けてきた結果、サービス業がその白けに応じて成長してくる、こういうことでございますから、サービス産業、現在の経済サービス化といいますか、物離れというのは、経済の減速に伴う国民の不安を吸収するためには非常に重要な産業だというふうに思われるわけでございます。これは、減速に伴う国民の不安を吸収するコストがサービス産業発達でございましょうし、それは別の言葉で言えば、それが文化の発達だと、こういうことになるのではなかろうかと思われるわけでございます。つまり、文化が発達する国は、常に高成長の後成長率が急激に低下いたしますと、――現在の日本でいつでも文化、文政、元禄、いずれもそうでございますけれども、そのようなときに文化が開化していく、こういうことでございます。  それで、現在の問題は、まあ私の感じでございますと、そのように文化が栄えていくということは非常に結構で、まさに望ましいことでございますけれども、一方では製造業のウエートがそれによって低まっていくといいますか、そういう事態になりますと、日本のセキュリティーといいますか、全体のセキュリティーは、やはり強大な製造業を持つことによってセキュリティーが守られるのではなかろうか。こういうようなことから考えまして、製造業の特に必要だということを申し上げているわけでございましょうし、それから何と申しましても、心の豊かさは物質的な豊かさによって達成されるに違いない、こういうふうに思うわけで、そうなりますと、物質的な豊かさを達成させるだけの物は十分持っているということでございますから、この物を生活の豊かさに使っていけないのかなあというふうに思われるわけでございます。  それから最後でございますけれども、御指摘のように、どの民族も成長し、成熟し、衰退し、歴史上から去っていくわけでございまして、一度歴史上から去った民族は二度と登場しない、こういうようなことが普通でございます。でございますけれども、どうも現在のところ日本全体を見ますと、成熟期に達して、そろそろ衰退かなあと思われるわけであります。その衰退の基本的なことは、若年層の人口が減り出したと。これは歴史的な衰退国の共通な現象でございます。衰退していくというのは、非常にこれも変な言い方で恐縮でございますけれども、甘美な衰退でございます。人々が文化を楽しみ、子供の数を減らし、質的な生活を充実し、生きがいを持ちながら、それでそれらの方向が善であるとして、国民全体がそちらの方に動いていく、そちらが正しいと思って動いていくと衰退する。これが歴史的な衰退で、いやいやながらの衰退ではないというような感じがするわけでございます。そうなりますと、私も昭和一けたでございますのでやや古風でございますけれども、そのような長い衰退過程に入っていきつつあるのかなあというような感じでございます。  一方アメリカはどうもリバイバルしそうだ。ソ連は成長率が、まあいろいろ計算がございましょうけれども、昨年でも四・五ぐらいいっていそうだ。日本よりも成長率が高い、中国も高い、こういうことでございまして、日本は現在ごく並みの、ヨーロッパ並みの経済成長力になった、こういうことでございますので、そうなりますと、どうも東洋の一角の黄色人種の国でそれでやっていけるかなというような感じがいたすわけでございまして、特にアメリカのリバイバルを見ますと、日本アメリカに先端産業や社会資本における格差が拡大しつつあるというようなことで、これでいいのかなというような感じがややいたしている、こういうことでございます。
  16. 抜山映子

    ○抜山映子君 企業のハード企業とソフト企業で、アメリカではソフト企業の方がもう七〇%と。伝え聞くところによりますと、世界全体が企業がソフト化しつつある、アメリカでは企業のソフト化が七〇%に達したというようなことも本で読んだことがあるんですが、日本企業のソフト化が現在どれぐらい進んでいるのか。そして、そのソフト化が私たちの将来の生活の展望にどういう影響を及ぼしていくのか、そこらあたりをちょっと御説明いただきたいんです。
  17. 竹内宏

    参考人竹内宏君) アメリカ企業が、産業がソフトが大きいというのはいろいろございます。その第一番目には軍隊が大きい。これも統計上でいきますとソフトに入ります。それから、地方分権が、――非常に地方分権の国でございますから、お役人の数が日本よりも国民の比率に対して高い。こういうのが第二の原因であるだろうと思います。  それから第三番目の原因として、日本企業は全部自分の中で抱えてしまいます。たとえば、大きな会社になりますと会社の中に病院があり、会社の中に食堂があり、会社の中に床屋がある。これらの人々会社の従業員でございますから、これは第三次産業に入っていないということでございますし、それからアメリカですとシンクタンクなんかございますけれども、日本ではほとんどの企業は企画調査部を持っている。こういうようなことで、企業体質の差もあるというように思われるわけでございます。そういうことを考慮いたしましても、アメリカの方が発達している国でございますから、ソフトといいますか、第三次産業のウエートは日本よりも高いことは確かでございます。  ですから、経済が発展いたしますと、どうしてもソフトの産業が、といいますか、三次産業が栄える、こういうことでございますけれども、これを政策的に栄えさせる必要はないんじゃないか。これは何か仕方がなく伸びていくものではないか。仕方がなくというか、自然に伸びていくものではなかろうかということでありますし、先ほど申し上げましたように、ソフト産業経済に対するインパクトが製造業ほど高くないということでありますから、ソフト産業のウエートが高まりますと、経済成長率は鈍化し、国民の物質的な生活の豊かさの豊かになるスピードは低くなる。つまり、何か自分たち、現在の人々が豊かなゆとりある生活をすれば、将来の人の成長のといいますか、物質的な豊かさがそれだけ欠けていくのではないかというような感じがするわけであります。つまり、経済現象はほとんどすべてそうでございますけれども、いいことがあれば必ず悪いことがあるということでありまして、どっちをとるかというような問題ではなかろうかというふうに思っているわけでございます。
  18. 松岡滿壽男

    松岡満寿男君 大変結構なお話を伺ったんですけれども、やはり私どもは経済の安定というものがないと福祉の充実というものはあり得ないであろうというように思っておるんですが、そういう中から見ますると、先ほどお話しのアメリカ経済南部を中心にリバイバルしておると。特に今後わが国の状況を考えますると、中央から地方への分散というものが経済面でも考えていかなければいけない問題でありまして、自治省とかあるいは通産省のテクノポリスの問題とか、それぞれの各省庁がいろいろな角度から取り組んでおるということにもこれは若干問題ありまするが、当面本年度からテクノポリス構想というものが出てまいってきております。  アメリカの場合をお伺いしますると、やはり地価の問題あるいは低賃金の問題というものがバックグラウンドにあるわけでありますけれども、日本経済の地域分散――ハイテクを中心といたしまして、そういうテクノポリス構想というものにつきましてこれが成功する問題、いろいろな条件があるだろうと思うんですけれども、そういう条件等について、たとえば空港の整備とかがございますけれども、そういうものについて若干お話を伺いたいと思います。  もう一点は公共投資の問題であります。  私も地域で市長を十二年近く務めさしていただきましたが、盛んに社会資本の充実ということが言われておりますけれども、高度経済成長の中でそれぞれの地域の中で、文化的な施設でありますとか学校はほとんど建てかわりましたし、かなりの部分でそういう充実が行われておるわけでありますけれども、これから景気回復という一つのインパクトを与えるときに公共投資の占める役割りは大きいんですけれども、さっき御指摘にありましたようなハイウエーとか空港程度のものでございましょうか、これからの公共投資の充実というものは。そういうものについてのお考えをちょっとお伺いをいたしたいと思います。  もう一点は主婦の問題でありまするが、サービス化が非常に進んできている、そういう中におきまして私自身いろいろな体験から考えまするが、いままでどちらかというと地方においては、高齢化がどんどん進んでいくという中において、親子同居を推進していくという政策をわれわれとってまいったわけでありますけれども、主婦が働きに出るということになると、そういう老人問題にも非常に大きな影響が出てくる。さらに子供をほったらかしにするという問題が出てまいるわけでありまして、そういう家庭の中でのさまざまな問題がこのサービス業の発展に伴って出てくる。  サービス業につきましては諸外国ではどういう展開をしておるのか。それと同じパターンをわが国がたどりつつあるのか。その場合にやはり家族制度につきましても、外国と日本というのは基本的に違うわけでありますから、それにどのように対応していけばいいのかというのがまさにこの国民生活経済に関する特別委員会の大きな一つの重要な問題ではないかと思うんですけれども、そういう点につきまして簡単に御意見を伺いたいと思います。
  19. 竹内宏

    参考人竹内宏君) 第一番目には、これから情報産業といいますか経済の情報化が進んでいきますと、どうも黙っていますと地方と中央との格差はさらに拡大するというように思うわけでございます。これはもう別の面からいきまして、財政の問題からいきまして、地方交付金が減っていくとか伸びないとか、あるいは米価がそんなに上がらないとか、いろいろな問題があるわけでございますけれども、何と申しましても東京には強大な情報の集積があるということでございます。  ですから、東京に住んでいますと、ちょうど代議士さんに御面会しようと思うと食えますし、東大の先生と会おうと思ったら食えますし、そういうようなことで、ごくあたりに、情報のかたまりみたいな人が至るところにいるということでございまして、この情報のかたまりと議論する過程で新たなアイデアが出てくる、こういうことでございます。  現在、地方にいろいろなハイテクの工場が出ておりますけれども、それはやはり地方に出ていっている工場は付加価値率が低い工場であるというような感じがするわけでございまして、最も付加価値率が高い設計の分野とかデザインの分野は東京である、こういうことでございますので、そういう意味で地方分散は何か政策的には強力な手段がないとなかなか進まない。  そういう意味でテクノポリスというのはいいことだろうと思われますけれども、ここでアメリカなんかと比べますと最大の問題は、日本のいろいろな産業の中で最も国際競争力が劣っている産業大学産業でございます。アメリカのテクノポリスとかアメリカの技術開発の中心の役割りをとっておりますのは大学でございますし、その大学は産学協同によって技術レベルを上げているということでございますけれども、日本大学はどうも教育でございまして、研究の機関ではない、こういうことでございますので、どうも地方の中で世界的な技術を蓄積しているような機関がない。こういうことでございますから、この点は地方分散ということを考えると、大学の機能というのは基本的に考え直すか、あるいは現在のままでいいか、これはいろいろ御意見、哲学の問題でございますので、そんなようなことで大学の機能、研究所の機能が非常に重要になってくるというふうに思われるわけでございます。  それから第二番目に公共投資でございますけれども、これからの公共投資というのは、ごく抽象的なことでございますけれども、人々が大変住みよい環境に、すぐれた能力を持った人が住みたがりますし、日本に非常にすぐれた環境ができ上がっておりますと、外人の一流な人も喜んで住む、こういうことになって、そこで世界頭脳を集められる、こういうようなことであります。現在でもやや問題なことは、日本からアメリカに対して研究所も流出しているというようなことで、これは非常に問題でございますけれども、そんなような全体の環境といいますか、住みやすい環境と住みやすい物理的な環境を整えるような投資が必要ではなかろうか、こういうふうに思われるわけでございます。  それから第三番目の問題でございますけれども、どうも先ほど、現在は何か女性が背のように返れということになるんじゃないかという、そういうような意見かということでちょっと言いにくかったわけでございますけれども、現在まさに御承知のとおり、女性の労働力化、社会進出が非常に進んでいくとともに、重要な問題は、非行主婦がふえるとか、非行老年がふえるとか、それに比例するかのように非行少年がふえていく、こういうようなことでございます。  この問題の解決は、先ほど申し上げましたようにいろいろなサービス産業――主婦代行業とか、それが栄えるという方法か、もう一つは三世代同居によって解決されるということではなかろうかと思われるわけでございますけれども、この面につきましても、日本産業のレベルの高さというのは何かといいますと、どうも主婦が一対一で子供をトレーニングした、そのトレーニングというのは学問というか勉強ではなくて、しつけをした、こういうことではなかろうかと思います。  ですから、ちょっと曲がっていても気持ちが悪いとか、こうなっていても気持ちが悪いとか、こういうような気持ちの悪さみたいなことのしつけによって最高の品質を生むような、世界最高の品質の製品をつくり上げた、つまり不良率が非常に低い、こういうようなものができ上がっていたということでございますので、そのような品質のよさの背景を支えておりました、そういうような精神的といいますか、モラルといいますか、気持ちといいますか、そんなものが減退していく可能性があるということでございましょうし、もう一つは、何と申しましてもこれからの最大の問題の一つは、四十歳ぐらいになられた、あるいは四十歳を越した方々が寝たきり老人を抱えられる、こういうことでございますので、人口が減って、しかも若年層の人口が減って老齢化が進みますと、ここにもう一つの悲惨な問題が待っているということでございますので、何となく女性の問題というのは、どうも最大の問題は四十歳以上の女性方々が四人の両親を抱えられてどうされるのか、こういう点がもう一つこれからの非常に深刻な問題だというふうに思っているわけでございます。
  20. 松岡滿壽男

    松岡満寿男君 ありがとうございました。
  21. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 他に御発言、御質問の方はいらっしゃいますか。――それじゃ桑名君ただお一人だけにします、時間の関係で。
  22. 桑名義治

    ○桑名義治君 先ほどから先生の御説を伺ったわけでございますが、いわゆる日本経済というものがいよいよ成熟、爛熟期に入っているように思われる。したがって、他国の例を見ますと、いわゆるイギリスもそういう一つの過程を経ながら現在のように衰退をしてしまった。しかしながら、アメリカ日本の爛熟度というものを比較した場合には、先生の御説の中ではむしろ日本よりもアメリカの方が爛熟期に入っているんだと。しかしアメリカは、いまや南を中心にしながらスクラップ・アンド・ビルドを壮大な構想のもとに進めている。こういうような御説でございます。  そこで、日本のいわゆる現在の爛熟期に入っている様相というものをいろいろるるお話になりました。たとえばいまから先、日本がスクラップ・アンド・ビルドという形でリバイバルを望むとしてもいわゆる地代がかかる、あるいは土地が狭い、狭小である。あるいは大学の競争力が非常に弱い、あるいはまた人口の減少の問題あるいはまたいわゆる低成長におけるサービス業発達というものは保守化を招いている、あるいはまた賃金が非常に高い、こういったさまざまな問題を提起をさせながら先生の御意見がずっと展開をされたわけでございますが、だとするならば、今後の日本経済というものがどういうところに最大の視点を置きながら大きく発展をさしていかなければならないか、ここら辺が私にはどうしてもまだ理解ができないわけでございます。その点をひとつ御説をお伺いをしておきたい、こういうふうに思っている次第でございます。
  23. 竹内宏

    参考人竹内宏君) 私はどうも多分それが不可能だというふうに考えますので、爛熟期に入り、爛熟のモラルみたいなもの、質的な向上であるとか、それから何か物理的にいろいろなものをやる必要はないとか、豊かなゆとりある生活とか、そのようなことを人々がすべて希望していってますます爛熟期に入っている、こういうことでございましょうけれども、これを何か変えますには、たとえばその土地に住んでいる九〇%の人が賛成したら土地収用権が発動できるというようなことであるとか、これからアメリカがまさにやっておりますように、設備投資につきましては大幅な減税をするというようなことで、もういままでのように黙っていたら設備投資が出るような時代といいますか、技術や時代ではございませんので、そんなようなことをするとか、ですけれども、事態は逆で、一番取りやすいところからというんで法人税から取られていくわけでございまして、これはまさに設備投資減税をやって刺激すべきである。  それから、先ほど申し上げましたように、思い切って金利の自由化をして金利水準を下げてやるとか、長期金利の水準を下げてやるとか、こういうようなことも必要ではなかろうかと思われるわけでございますし、日本もある意味でいけば土地はあり余るほどの土地があるわけでございます。地方にもありますし、東京でございましても幹線、たとえば鉄道網がもっともっと充実いたしますと、東京の周辺の土地があり余るほどまだあるわけでございます。これは多分交通投資といいますか、交通手段に対する投資が不足しているから。なぜ不足しているか、交通料金が政策的に決まっているとか、こういうようなところでなかなか採算に乗らないということでございます。それからいろいろな政府の介入が多過ぎるとか、いろいろございますけれども、どうも全体でいま申し上げましたような手段はとても現在のところはとりにくいということであります。とりにくいながら、とりにくいのでとれなくて、そのままじくじくと低迷していくということが民主主義のコストではなかろうかというふうに思っているわけでございます。
  24. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 以上で竹内参考人に対する質疑は終わりました。  竹内参考人には、お忙しい中を御出席いただきまして大変ありがとうございました。大変興味のあるお話を承りました。ただいまお述べいただいた御意見等は、今後の本委員会調査参考にさせていただきます。竹内参考人に対しまして委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)     ―――――――――――――
  25. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 次に、経済評論家高原須美子君から意見を聴取いたします。  この際、高原参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本委員会に御出席をいただきましてありがとうございました。本日は経済現状及び将来と国民生活につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  議事の進め方といたしましては、まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、二十分程度委員の質疑に対してお答えをいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、高原参考人にお願いいたします。
  26. 高原須美子

    参考人高原須美子君) 御紹介いただきました高原でございます。  この委員会意見を述べるようにと言われましたのが大分前でございまして、そのときは気楽にお引き受けしたんですけれど、だんだん日が迫るにつれまして、こんなごりっぱな先生方に意見を言わなきゃならないなんて、どうしようかと思いまして、雪でも降って中止になってくれるといいなあなんて思っておりましたら、雪だけは降ってくれたんですけれど、中止にならずにきょう意見を述べなければならなくて、何かどきどきしながらやってきたわけでございます。  そこで、経済国民生活についての意見を申し上げなきゃならないわけなんですけれど、私の場合はむしろ家計のサイドから日本経済現状と将来を見るというような形で、暮らし、家計というふうなところに中心をしぼってお話を進めたいと思います。  と申しますのは、日本経済を見ます場合に、その国民総支出の六割近くを占める個人消費支出といいますのが今後の経済の動向を考える上で非常に重要だと思うわけなんです。高度成長期におきましては、個人消費支出といいますのは何でもほうっておけば伸びるということで、いつもただ伸びる伸びると見通しを立てていれば当たったわけですので、大変個人消費支出というものは軽視されてきたわけなんです。ところが、低成長期に入りましてからは、大変個人消費支出というものに目が向けられてきてはいるんですけれど、毎月の、たとえばきのうの家計調査を見ては、伸びるらしいとか伸びないらしいとか一喜一憂しているだけで、基本的に個人消費支出の動向がどうなのかということを判断していないのではないかと思うわけなんです。  そこで、私は個人消費支出の場である家計というものをもうちょっと重視して、そこでの動向をつかまないと日本経済全体の動向の判断ができないんではないかと思いまして、暮らしの場あるいは個人消費支出を行う場である家計というものに目を向けたいと思うわけなんです。  そこで、詳しく細かいことをお話します前に、その底にあります私の考え方、つまり経済と家計との関係について私が考えている一番底辺にある考え方を最初に申し述べておきたいと思うわけです。  私は、経済の発展段階につれまして家計の暮らしの目標というのは変わっていく、そしてその暮らしの目標が変わることがまた経済に影響を与えるというふうな形で循環をしているんではないかと思っているわけです。  たとえば経済の発展の段階を大きく三つに分けまして、発展途上、成長、成熟というふうに分けてみますと、発展途上の段階での家計の目標というのは、飢えず凍えずに生きていければいいという非常に消極的なものであり、それが与えられたときにもう満足感、充実感を感じると思うわけなんです。ところが、だんだん経済が発展いたしまして、そしてそれぞれの家計の収入がふえるという段階になってまいりますと、次の成長の段階に入るわけですけれど、そこでは家計の目標は物質的な豊かさを追い求めるという形に変わっていく。そして、家計が物質的な豊かさを追い求めてどんどん物を買えば、またそれが経済全体、マクロの経済成長に拍車をかけるというような形で循環していく。ところがある段階まで参りますと、もう物だけかというような形になりまして成熟の段階に入り、そこでは暮らしの目標というのはもっと心の面に目標が来て、精神的な豊かさ、精神的な生活水準の向上というのを求めるようになってくるんではないか。そうしますと、そこでは物離れが起こりまして、また経済の方は低成長に陥る、そして成熟が進んでいくという形になるんではないかと思うわけです。  基本的に私は、もう日本は成熟の段階に入って、家計の目標はむしろ心の豊かさを求めるということに変わってきている。したがって、国民総支出の六〇%近くを占める個人消費支出は、そう物を買わなくなって、したがって経済は低成長になる。低成長になるとまた収入も入らないというような、低成長の循環に陥ってきているというふうに思っているわけです。今後もう一度日本が何らかの成長をしようとすれば、やはりもう一遍家計が物の豊かさに狂って求めるというような段階が来ないと、経済と家計の循環というのは大きな成長の循環に再び戻らないんではないかと思うわけです。  それじゃもう一度物を求めるようになるかといいますと、私はいま進んでいる情報化社会という、これがどれだけ物とかかわり合ってくるかによるんではないかと思うわけです。たとえばパソコンとかワープロとかキャプテンとか、いろいろ出てくる物を家計がもう二度喜んで買い求めていく。そうすると、その生産がGNPをふやすというような循環になっていくかどうかというふうに思っているわけです。そういたしますと、考えてみますと、少なくともここ十年ぐらいというのは、もう一度追いかける物というものがその情報化と伴って出てくるかどうか考えますと、十年間ほどは余りは出てこないんではないかというような形で、基本的にはしばらくは低成長というか、安定成長というか、低い成長が続いていくんではないかと思っているわけです。そういう家計と経済との循環の関係から見ると、当分は低成長というような形を考えざるを得ないんではないかと思うわけです。  そこで、今度はミクロの家計のレベルにおりまして、そういう安定成長の中で家計がどういう営みをしていて、それがまた経済にどういう反響を与えているのかということを考えてみたいと思うわけなんです。そうしますと、家計の最近の動きで見てまいりますと、一つは収入面で対応が出てきているわけなんです。低成長になりますと一世帯一家計当たりの収入というのは大変伸び悩んできております。家計調査を見ましても、五十五、五十六はマイナスないし横ばいですし、五十七年に多少物価安定もあって実質でプラスになってきているということが統計上出ているわけです。その中で家計がとっている収入面の対策というのは、私はいままで一つの財布が中心であったのを、外国流で言いますとダブルポケットといいますか、日本で言いますと、二つの財布に収入源をふやすことによって暮らしの向上を図ろうとしているということが言えるんじゃないかと思うわけです。安定成長の中で収入伸び悩み、その中で何らかの形で生活向上を図ろうとすると、一つとしてはやはり何らかの収入の増加を図らなければいけない。しかし、それは一つの財布に頼っていてはなかなか不可能であるということがこの数年の経験でわかってきた結果、二つの財布という方向に動いてきていると言えると思うんです。  これは具体的にはどういうことかと言いますと、妻の就労が非常にふえてきて、妻の収入が家計の中での生活向上に使われているという形になってきていると思うんです。家計調査を見ましても、たとえば五十七年では妻の収入というのは二けたの伸びを実質で示しているわけです。そのほかにもいろいろ労働統計を見ましても、主婦の就労、特に雇用というような形が非常に大きくふえてきている。これは二つの財布による収入増加で生活向上を図ろうとしているということが言えるんではないかと思うわけなんです。  その二つの財布によって得た収入をどこへ同すかということを調査などで見ますと、生活向上という形がはっきり出てきているわけなんです。つまり一つの財布でも生活は維持できるかという闘いに対しまして、維持はできるというふうに答えている人が九割を占めるわけなんです。つまり、二つ目の財布でより豊かな生活をということを考えているんではないかと思うわけです。特に最近この傾向は中高所得者にも及んできているわけです。従来、二つ目の財布――妻が働くというのを家計の方から要求されるのは低所得者であったわけですけれど、最近では、五分位階層で見まして三分位、四分位という中高所得で非常に妻の就労がふえてきて、妻の収入が占める割合というのは高まってきているということがいえると思います。  そういう形で、収入面でひとつ生活向上を何らかの形で果たそうという傾向があると同時に、もう一つ、支出面でも低成長に合わせて家計が営みを変えてきているということがいえると思うんです。これは同じ収入であっても、つまり収入が余り伸びなくても、価値観とか支出の組み合わせをかえることによって生活向上を図ろうという努力が行われていると言っていいと思うんです。  たしかJ・S・ミルだったと思うんですけれど、経済全体が成長、発展しなくても、その組み合わせのかえ方によって生活のレベルアップを図れるんだということを――もっとむずかしくなんですけれども、言っているわけで、私なりに解釈いたしますと、日本の現在の家計というのは収入伸び悩み、まあマクロの経済全体も伸び悩んでいる中で、価値観とか組み合わせをかえることによって生活を向上しているということが言えるんではないかと思うわけです。  それじゃ、どういうふうに生活の支出の組み合わせをかえているか、あるいはその基礎にある価値観を変えているかと言いますか、私は三つの方向によって行っていると思うわけなんです。  一つは、物の面で所有というところに意義を感じていたのを、使用というところ、使うというところに意義を変えることによって支出を抑える。そして二番目に、その物の面で抑えた支出を心の面、つまり物離れに向けているということ。そして三番目に、全体の現在の暮らしはそこそこに、いまの物の面で抑え込んだことによって抑え込んで、将来の生活安定へ振り向けているという、この三つの傾向が出てきていると思うわけ、なんです。  たとえば、一の物の面では、所有から使用へという価値観を変えることによって物への支出は非常に抑え込んできております。たとえば、家計調査によりまして実質消費水準というのを見ますと、食費に関しては、ちょうど石油ショックにぶつかって低成長に入る前、高度成長期の最後である四十八年を一〇〇といたしまして、十年後の五十七年も完全に一〇〇であるわけなんです。つまり食費に対する実費支出というのはふやさずに来ているといえるわけです。まあ食費というのはもうかなりの水準に達したので、そこは抑え込んでいる。被服及び履物費というものに至りましては、昭和四十八年を一〇〇といたしまして五十七年の水準は九〇であるわけです。被服、履物というのはかなりもうそろってきておりますので、そこは抑え込むということが行われている。それから、家具、什器といった家電製品などを含んだそういう耐久消費財への支出も一〇〇を切って抑え込んでいるということがいえるわけです。  これもたとえば大型耐久消費財が住宅に占めるスペースを見てみますと、五十年代半ばには住居スペース――住まいのスペースの二割を占めるまでになっております。細かく計算したのがあるんですけれど、一世帯当たり十六平米で住まいのスペースの二割を占めている。これが昭和四十年代にはその半分以下で、占めるスペースも一〇%ぐらいであったのがもう二割も占めるまでになってきている。その辺は抑えようじゃないかというような形に変わって、現実に家計の面で衣食住――住まいの箱ではなくて住まいの中にある耐久消費財などを含めて、ここら辺は非常に抑え込んできていると思うわけです。これはいま申し上げた耐久消費財などにもわかるように、物はもうかなりそろってきている。物がそろう段階のさっき申し上げた物の豊かさを追い求めている段階では、やはりかなり持つというところに意義があったと思うんです。  たとえば自動車も、もちろん乗るわけですけれど、持つことに意義があったと思うわけです。ですから、当時はやったコマーシャルで、「隣の車が小さく見えます」というようなコマーシャルで、持つというところに意義を持たせてきたことが、非常に高級化、高額化を進めると同時に、非常にデモ効果を発揮して、どこのうちでも持つんだという、隣が持ったもうちも。みんなが持っているのにうちもなければ恥ずかしいというような形でどんどん高度成長が進んできたわけですけれど、一たんある程度そろってみると、物というのはやはり使うんだということで、物本来の居的に変わる。それによって支出を抑えるという方向に向かっていると思うんです。ですから、最近では大型車も売れておりますけれど、中心はリッターカーといったもの、あるいは軽乗用車、軽自動車というのが、もう戦後最高の四十年代の半ばのピークを越して、いまや五十七年で三百三十万台ですか、非常にたくさん売れるようになってきている。そういうのはもう使うという価値観でいったならば、大型でなくても便利な、あるいは燃費の少ない、駐車のスペースも狭いところの方がいいんだというような形で変わってきている。そうすると、そこで高級車から普通車あるいは軽乗用車というような形で支出も抑え込まれるというようなことも言えると思うんです。そういうふうに非常に所有から使用へという価値観というか、考え方を変えることによって支出を抑えてきていると思うんです。  ですから、その収入伸び悩みの中で、もちろん買いたい物があって買えないという要素もあるでしょうけれど、歯を食いしばって物を買わないでいるんではなくて、ちゃんとある程度物を買ってそれを使っていく。逆に言うと、使う物は買っているんだというような形で、この物への支出を抑え込んできているということが言えると思うんです。そしてその抑え込んだ物への支出、そこでさっき言ったように、食費は一〇〇それから被服及び履物費は九〇と抑え込んでいる。それじゃ全体の消費水準は十年間にどれぐらい伸びているかというと一割近くは伸びているわけなんです。つまり家計の消費支出全体は一割ぐらい伸びている。ところが、食費とか被服費は抑え込んでいるとすれば、どこかほかへ移っているということが言えると思うんです。それがさっき言った精神的な支出――精神的な生活水準の向上という方に向けられてきているわけです。  ですから、また同じく家計調査を見ますと、教養娯楽費というのは四十八年を一〇〇として五十七年には二七、交際費は二五という形で消費支出の伸びを上回る伸びを示してきている。したがいまして、家計全体に占める比率というのは、被服費よりも教養娯楽費とか交際費とかあるいは交通通信費といった面への支出の方がウエートを高めてきているわけです。たとえば教養娯楽費、交際費、交通通信費はそれぞれ消費支出の中で八ないし九%を占めているわけです。ところが、被服及び履物費というのは七%台しか占めていないというような形に変わりまして、この教養娯楽、交際といった精神的な支出へウエートを移してきているわけなんです。  ですから、最近のデパートの売れ行きを見ましても、ほとんど前年比横ばいないし二%ぐらいの増加というようなことが続いているわけなんです。それはデパートというのは百貨店ですから、物を売っているところであるから、さっき申し上げたような被服費なんかに影響して伸び悩んでいる。ところが、そのデパートへ行ってみますと、ただ一つ、にぎわっているどころか、もう押すな押すなの盛況のところがあるわけです。それは何を売っているところかというと、物を売っているんではなくて、カルチュアといいますか、文化を売っているところ、つまり展覧会場であるわけなんです。  私は先週の土曜日に東京の高島屋で開かれています後期印象派展というのを見に行きました。これはもう本当に押すな押すなで、入ったはいいんですけれども全然見られないで、これは絵を見る雰囲気ではないと思って途中から出てきてしまったわけなんです。それから、一昨日は横浜の方へ参りましたので、横浜高島屋で井上端展というのをやっているのでそこへ夕方入りました。そこも本当にいっぱい入っているわけなんです。これ六百円ないし千円ぐらいの入場料を払って皆見ている。そういう形で、文化を売っているところは押すな押すなであるわけですけれど、百貨店はその帰りに物を買ってもらいたいと思って展覧会場は高いところに置いているんですけれど、なかなか帰りにおりながら物を買ってくれないということで、期待するほど物への影響はないというふうに言われているわけなんです。それぐらい私たちの暮らしのウエートというのは物離れして精神的な面へ向かってきていると言っていいと思うんです。  最近、家計を担当する主婦でとんでいる主婦と言われているのはカキクケコ夫人と言われるそうです。カがカルチュアで、キが金利で、クがクッキング、ケが健康、コが交際ということになっておりまして、私がいま申し上げたカルチュア、教養娯楽費に入りますし、交際費が一一五にも伸びているというような形で、こちらへ家計のウエートが大きく移ってきていると言っていいんではないかと思うわけなんです。  そこで、この面での家計の消費行動というのは、私はまだ余り賢くなっておらずに、この辺はかなりつっつくと非常にむだな支出も行っているんではないかなと思うわけなんです。つまり、高度成長期に隣が買えばとかいって買ったり、あるいは衝動的に買ったりしていた消費行動というのがこの物離れした面に移ってきている。したがって、たとえばみんなが展覧会に行けば展覧会に行く、子供たちみんなが塾に行けば塾にやる、あるいは交際費というのは結婚式なんかが年々はでになってきているというようなことがこの分野で言える。そういうデモ効果も加わった支出増加も絡めて、精神的な分野への支出というのが大きく伸びてきていると言っていいんではないかと思うわけです。  そういうふうに、物と物離れ両方合わせた消費支出というのは十年間に一〇%ぐらい伸びてきているわけです。そして、その消費に回した残りが貯蓄に回っているわけなんですけれど、この貯蓄率、昭和四十九年の狂乱物価のときに非常に高まった後、徐々に下がってきてはいるんですけれど、ここ二、三年、全体の収入の中から税金、保険料を抜きました可処分所得の中に占める貯蓄の割合というのは大体二割で、横ばいになってきているということが家計調査にはっきり出ているわけなんです。収入が伸び悩みで苦しい苦しいと言うのであれば、そんなに貯蓄に回さないで消費に回してもいいんではないかと思うわけです。本当に苦しくて物が欲しかったら貯蓄をおろしてもと思うわけなんですけれど、大体二割というような貯蓄率が続いてきているということが家計調査からはっきり言えるわけであると思うんです。  したがいまして、さっき申し上げたカキクケコの二番目が金利ということで、非常に最近の家計を担当する主婦貯蓄、保険、金利というようなものに対する関心は高まってきております。むしろ消費に対するよりも貯蓄に対して非常に熱心であるというようなことが言えると思うんです。私などが講演会をいたしましても、従来は貯蓄とか保険とか生活設計なんというと非常に人が集まりにくかったのが、最近ではそれこそ非常にたくさん集りまして、皆さん目の色を変えて勉強している。従来、別に女性をばかにするわけではないんですけれど、経済というと女は弱いとか、女性の方も経済というと頭が痛くなる。ましてや数字が出てくるといやだと言っていた人たちが大変貯蓄に熱心になって、金利の一%、二%の差を問題にするようになってきているということがはっきり出てきており、それが貯蓄の割合を維持しているんではないかと思うわけなんです。  つまり、現在の暮らしはそこそこどうやらやっていけるとすれば、将来へ備えておくというようなことも必要であるということで、現在の生活安定とあわせて将来の生活安定も考えるということで、貯蓄の維持というのが続いているんではないかと私は考えているわけなんです。そうすると、貯蓄というのが将来の生活安定ですと。将来の生活不安がやはり大きいということが言えるんではないかと思うんです。幾ら将来に備えるといいましても、不安がなければ備えないで、宵越しの金を持たずに使ってしまってもいいわけなんですけれど、やはり将来への不安がある。そうすると、なるべく頭を使って、現在の支出はそこそこに抑え込んで将来へ振り向けようという形になってくると思うんです。  将来への不安が大きいという場合に何が大きいのかと言いますと、やはり一番大きいのは高齢化の進行ということで老後への不安だと思うわけなんです。私が非常に驚きを持って見ておりますのは、老後の不安が四十代後半、五十になって老後が近づいてきて老後不安というのが起こるのならあたりまえだと思うんですけれど、生命保険文化センターが調べました老後の意識調査というのを見ますと、老後生活に対して一番不安感が大きいというのが三十代の後半であるわけなんです。つまり、もう三十代後半で老後不安を持って老後の対策を考えようというようなことになりますと、これはかなり貯蓄の方へ振り向けていく。三十代後半から子供にも使わなきゃならない、子供の教育費もかかる。さっき言った物離れの教育費もかかるときに、老後の不安を持っているというのは非常に経済への前途にも大きな問題ですし、日本の社会全体にとっても、この三十代後半が老後不安を持っているなんていうのはちょっとおかしいことではないかなと思うわけなんです。  三十代後半がなぜ不安を持っているのかというのを調べてみますと、ここは団塊の世代ですので、自分たちの量をもって高齢化社会を支えていくけれど、自分たちが高齢になったときには下を支えてくれる次の世代がいないというようなことから不安が大きくなってきているんではないかと思って見ております。  そういうふうに三十代の後半が非常に不安が大きいということですと、四十代ぐらいになりますと、老後への蓄えというようなことで老後資金、つまり貯蓄というものがここで非常に重要になってきているということが言えると思います。そういう私たちの貯蓄志向に対しまして金融市場の方も対応してきているわけなんです。五十六年ぐらいから大変に貯蓄商品、保険商品というのが多様化してきております。郵貯に対して期日指定定期、ビッグ、ワイドというのが出まして、最近では国債定期口座とか、非常に多様な商品が出て、全部それが高金利をねらうということになっている。そうすると、家計の担当者はより有利な商品をということで、いまやデパートでいろいろ衣料品を選ぶと同じ熱心さ、あるいはもっと熱心さを持って貯蓄商品を選ぶんではないかということが言えると思うわけなんです。  そういたしますと、この貯蓄へのフローで二割ぐらいを回すという熱心さと、フローの結果たまったストックをいかに有利に運用していくかという熱心さが加わって、いま大変貯蓄に熱心であるわけなんです。そういたしますと、これは当然さっき申し上げました消費支出と貯蓄を合わせたものが家計の所得を使う方法になるわけですので、貯蓄がウエートをある程度維持している限りは消費の方へはなかなか振り向かないというような形で、これも消費不振に影響を与えているんじゃないかと思うわけです。  以上、ミクロの家計――ミクロの家計といいましても、低所得から高所得までいろいろあると思うんですけれど、その辺の平均的な姿をとってみますと、いま申し上げたような三つの組み合わせを変化させることによって生活を維持、向上させているということが言えると思うわけなんです。物の面ではもうある程度そろっているので、そこは現在を維持する。そして別に精神的な生活水準の方を向上させて生活の向上を図る。そして将来の生活安定ということで将来まで考えているということが家計の態度として言えるんではないかと思うわけでございます。  そういたしますと、これがミクロの家計が集まるとマクロの個人消費支出になるわけですけれど、これを見たところ、どうしてもやはり個人消費支出が大きく今後ふえていくという要因は少ないわけなんです。やはり個人消費支出が大きくふくらむというのは、物への支出というのが大きく伸びない限り迫力がないわけでございますけれど、物への支出というのは、いま言ったように、非常に抑え込んできている。つまり、十年見ましても、ふえるどころか伸び悩みあるいはマイナスになってきているわけですので、この物への支出というのは非常にマクロとしても伸び悩んできている。そして、かわりにどこで個人消費支出をふやしていくのかというと、これは物離れの面で教育支出あるいは教養娯楽費の支出というような形で個人消費支出をふくらます方向、多少でも個人消費支出が伸びるような方向に働きを示していると思うんです。ただ、これが経済全体の効果がどうなのかといいますと、やはり物が売れて個人消費支出が伸びているときには、たとえば自動車一台つくるには鉄鋼からタイヤまで非常にすそ野が広く広がって経済全体に活気を与えるわけですけれど、教養娯楽費とか教育費が伸びている場合には、そのものは個人消費支出を伸ばすでしょうけれど、たとえば設備投資を刺激して一層経済の伸びに拍車をかけるというようなことはないんではないかと思うわけなんです。たとえばデパートの展覧会に大ぜい人が入ったとすれば、その分の個人消費支出は伸びるでしょう。六百円なり千円払った分は伸びるでしょうけれど、それじゃそれが設備投資につながっていくかといいますと、まあデパートの展覧会場で、古くからある絵を持ってきて並べればいいわけですからそこでおしまいになってしまう。教育についても、一つ校舎、学校をつくればそれで終わるというようなことになってくる。まあこの文化的な面が伸びることは雇用に対してはかなり第三次産業がふえるという形でプラスの影響を与えるとは思うんですけれど、設備投資にはそんな影響はほとんど与えないということになると、これは経済の活力を増すという面ではそう大きな働きはしていないと思うわけなんです。  それから、さっき申し上げましたように、貯蓄に熱心であるという傾向が続く限りは、収入マイナス貯蓄が消費に回るというような形も考えられるわけで、消費にはこれは大きく伸ばさない要因になっているというようなことが言えると思うんです。したがいまして、家計から見る限りは、私はここ当分個人消費支出を伸ばすという方向には余りプラスにならないんではないかというふうに見ているわけなんです。もちろんたとえば減税あるいはベースアップで収入が伸びる。そうすると、収入伸び悩みの中で組み合わせを変えようとしているわけですから、収入が伸びれば私は多少はそれは消費に回るとは思うんです。でも、それがまるまる消費に回って、すごく経済に活気を与えるかというと、それほど大きな効果は期待できないんではないかというふうに見ているわけなんです。  ですから、むしろこれから収入増加の面でどうなっていくのかということを見る場合には、この二つ目の財布がどういう使われ方をしていくかというところに一つの焦点があるんではないかと思うわけです。すでにこの二つ目の財布に目をつけた企業もありまして、いろいろ働く女性向きの商品を売り出しているというようなことも見聞しているわけなんです。ですから、二つ目の財布の行方の方がむしろ私としては将来の個人消費支出、さらには経済の動向に影響を与えるんではないかということが言えると思うんです。  そこで結論として申し上げたいのは、家計の方から経済現状と将来を見通しますと、やはり経済の成熟化という中で、家庭の暮らしの目標は精神的な豊かさの方にウエートを移してきておりますので、やはり今後家計の方から経済の発展にプラスになって、経済を伸ばすということは言えないのではないかと思うわけです。したがいまして、ここ五年ないし十年の長さをとってみますと、やはり安定的な成長というような形になっていくんではないか。そこへもしどうしても欲しいというような物、たとえば情報化社会に絡んで幾つかの物が次々にあらわれてきたとすれば、それに手を出して、またそのために働いて、またそれが経済を大きくするというような形でプラスになっていくとは思いますけれど、その力も私は高度成長期にいろいろと物を求めたよりは弱いんではないか。だからそういうことがたとえ五年あるいは十年先に出てきても、高度成長というところまでの力はないんではないかと思っております。  それからもう一つ申し上げたいのは、やはり二つ目の財布というものをこれからどう見ていくのかということが個人消費支出を見た経済への影響からも大事であると思いますし、二つ目の財布を求めてどんどん職場に出ていく女子労働者の雇用をどうするかという、その労働市場の面からも問題をここは投げかけていくんではないかと思っております。  やはり女性の場合、ライフサイクルが変わって自由期間が長くなったということで、従来はカルチュア志向というのが強うございまして、カルチュアスクールに行くというような傾向が非常に強かったんですけれど、ここ三、四年の傾向を見てみますと、非常にお金を稼ぐんだという方向にウエートを移しかえてきているわけです。いろいろカルチュアやってみても、やはり最後はお金を取るプロにならなき、おもしろくもないでしょうし、やはり自分の自由になるお金が入るということがその自由期間の生き方として大事だというようなこともありまして、収入をふやして生活を向上というのと、女の生き方としてやはりお金の稼げる職場がいいんだというような二つが重なり合って女性の職場進出という、むしろ主婦の職場進出というのは非常に大きくなってきておりますので、この辺をマクロの経済がどう生かして、その収入をまたどう経済に結びつけていくのかというあたりもひとつ今後の大きなポイントになってくるんではないかと思っております。  大体以上で話は終わらせていただきまして、また質問をということでございますので、答えさせていただきます。
  27. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ありがとうございました。  以上で高原参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  28. 坂野重信

    ○坂野重信君 大変貴重な御意見を伺ったんですが、住宅政策問題ですね。  先生は住宅問題について関心おありかどうか知りませんけれども、いま余りこの中では具体的なそういう問題、話は出なかったんですけれども、まあ住宅も確かに充足をしているとは言いながら、やはり質的な面では相当な不満が各界各地にあるわけですね。そういう意味で、住宅問題についてだんだん老齢化していく自分自身の問題と、それから自分の子や孫のことを考えた場合に、そういった将来に対する不安といいますか、そういう問題があると思うのですよ。  御承知のとおりに、この間新聞、テレビで報道されたように、自民党では、夫婦の間では一千万の住宅控除があるんですけれども、生前贈与ですね、今度親子の場合に五百万を何とかしようということで、結果的にはちょっと中間的な措置になりましたけれども、そういうことを考えて、一つの住宅が何とか充足できるようなことはないかといういろいろな政策を考えているわけですけれども、先生の方から見た住宅に対する考え方、そういう問題についてどういうようなお考えをお持ちになっているか、何かお考え方があればお聞かせをいただきたいと思います。
  29. 高原須美子

    参考人高原須美子君) いまは個人消費支出ということを中心にお話しいたしましたので、国民消費支出の中には、その中に民間住宅投資という項目があるわけで、それも最近は沈滞してきているわけです。ですから、もちろんその辺も考えなければいけないと思ってはおります。  でも私は、基本的には住宅は、数はいまおっしゃったように足りてきていると思うんです。質のこれから改善というところへ移っていくと思うんです。ただその場合、この問題は日本一からげに言えなくて、私は住宅の質の問題に悩んでいるのは首都圏の一部とそれから近畿圏の一部であるということであると思うんです。地方へ参りますと、私は住宅というのはかなり充足されて、非常に広い家に住んでいると思っております。ですから、この住宅対策というのは首都圏ないし近畿圏の問題になると思います。そういたしますと、この首都圏、近畿圏というのは、土地がもう高くなってしまっているので手の打ちようがないんではないかというふうに思っておりまして、その程度ぐらいしか考えていないわけなんです。
  30. 松岡滿壽男

    松岡満寿男君 カキクケコ夫人ということで、カルチュア、それからマネーゲーム、大変私はこれは結構だと思うわけでございますけれども、こういう夫人の方々社会進出をされるということによりまして、国民生活、特に家庭生活の中でのさまざまなメリットとデメリットが出てくると思うんですよね。特に、私は、男女の役割りというのはお互いにかわって果たせない役割りがそれぞれあるだろうと思うんです。老人が今度は同居の場合は、まずほったらかされるという問題が出てまいりますし、子供に対するしつけの問題もあろうと思います。そういうさまざまな問題につきまして、ひとつお考えを伺いたいと思います。  それからもう一つは、二つ目の財布の問題ですけれども、一つ目の財布の段階では、女性の方が大体七〇%ぐらい意思決定をしてやっておられるということになりますけれども、二つ目になると、今度は逆に男性の方の主導権というのが出てくる可能性があるんじゃないかという感じもするんですが、その辺もちょっとお考えがありましたらひとつお願いしたいと思います。
  31. 高原須美子

    参考人高原須美子君) いま、二つ目の財布を申し上げたんですけれど、そこで、働く主婦の場合、日本ではまだかなり堅実でございまして、パートという分野が非常に多いわけです。女子雇用者を見ましても、もう女子雇用者の二割以上がパートで、そのほとんどが主婦であるということなんです。パートの主婦に対してフルタイムにかわりたいかといいますと、パートでいい、そして勤め先が近いところがいいという形で、家庭との両立を非常に図ろうとしているということが言えると思うんです。したがいまして、これからは、パートをどう処遇していくかということが労働行政の方からは大きな問題になってくるんではないかと思うわけです。  それから、二つ目に、この点で申し上げたいのは、私も、男性と女性というのは本質的に違うからいろいろ違う点があると思うんですけれど、女性社会進出していくと同時に、もうちょっと男性が家庭参加してもいいんではないかという気がするわけなんです。  特に、いま同居問題おっしゃいましたけれど、これからの高齢化社会を考えていく場合に、日本型福祉ということで、非常に同居の見直しが言われているわけなんです。そうすると、同居の見直しも結構なんですけれど、これが結局は最後に主婦の肩、女の肩へ重荷をしょわせて高齢化社会を乗り切っていくことになってしまうんではないかという不安も持っておりますので、ぜひ男性にも家庭参加をしていただいて、家庭のいろいろな実情というものも知っていただきたいというふうに思うわけなんです。  それから、もう一つの、二つ目の財布の使い方なんですけれど、一つ目の財布――夫の財布は、いまおっしゃったように七割ないし八割が主婦が意思決定をしております。ところが、二つ目の財布もこれ主婦が今度は一〇〇%意思決定をしているというのが現状であるわけです。ですから、かなり二つ目の財布は自分自身のための支出というものに使ってきているわけです。ですから、さっき言った被服費なんか伸び悩んでいるわけなんですけれど、その中で婦人物なんかは、非常に婦人関連支出というのは伸びてきているわけなんです。ですから、男性やなんかのあんまりあれは買わないで、婦人の方のを買って伸びてきているという要素がございまして、私は、その二つ目の財布はかなり奥さん自身がまた意思決定をしているんじゃないかということで、ますます個人消費支出は女性の決定権というものが強まってまいりますので、ぜひ経済政策をお立てになる上でも、主婦がどう動くかということが大事になるんじゃないか、主婦の動向を見ていないと、ちょっと個人消費支出がどうなるか、そしてしたがって経済がどうなるかということは言えないんじゃないかなという気を強めております。
  32. 青木茂

    ○青木茂君 いまこの場で家庭参加をしている唯一の男性は僕かもしれませんから聞きますけれども、二つ目の財布ですね。これがこれからの日本経済を刺激さしていこうとすれば、おっしゃるように二つ目の財布を充実させるよりしょうがないわけなんです。そうすると、今度は政策課題として二つ目の財布を充実させるための方向はどういうことなのかという問題が一つございますわね。これが何かいいアイデアがないかということが一つ。  それからもう一つは、竹内先生のお話とも共通するんですけれども、日本経済貯蓄過剰経済だということですよね。そうすると、これからの日本経済方向として貯蓄を消費に呼び戻す方法が正しいのか、あるいは貯蓄過剰をそのまま前提としてしまって、その過剰貯蓄をマクロな意味投資方向に持っていくという形が正しいのか、ここら辺の判断がこれからむずかしい問題になってくるんじゃないかと思うわけなんですよね。そこら辺の御意見をちょっと聞かしていただきたいと思います。
  33. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ちょっと関連で竹田君。
  34. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 いまの青木先生の貯蓄率の問題というのは、私は最近非常に大きな問題だと思うんですね。  一つは、貯蓄率が高いということはどうも最近いいことなのかあるいは悪いことなのか、こういう点で率直に言って悩んでいるというのが私の立場です。たとえば貯蓄率がある程度高いから、国の方の財政も貯蓄率が高いんだから国債をもっと出してもいいんだよという論理が片方で出てくるわけですし、それから貯蓄率が高いから、たとえば投資が、先ほどの竹内先生おっしゃったように、アメリカなり海外へどんどん出ていって、そのことのために円、ドルの円安を招いている、ドル高を生んでいるという問題があるでしょうし、また、貯蓄率が高いということは、私はやっぱり日本のコストというものを考えてみるとそれだけコストを高くしている問題でもあると思うんですね。  そうしますと、最近多国籍企業というような問題が出てきているということになると、やっぱり安い労働力を求めて企業というのはそちらへ投資していく可能性が非常に強いと思いますよね。そうすると、やっぱりその辺で何らかの形でコストを安くするということを考えてみると、あんまり貯蓄率を高くしておけばコストはどうしたって高くなってくるという意味で、前の福田総理みたいに貯蓄することはいいことだということを盛んに宣伝をされていたわけですけれども、私は最近の日本貯蓄率というものをどうすべきかということをもう少し真剣に考えてみないと、これからの国際経済の中で日本経済がどう立ち行っていくのか、あるいは国の財政問題も絡めてその辺の問題が非常に重要だと思うんですけれども、先生どんなふうにその辺をお考えになっているか、いま青木先生のお話と関連して。
  35. 高原須美子

    参考人高原須美子君) それでは、最初の青木先生の二つ目の財布をどうこれから生かしていけばいいのかということなんですけれど、いま具体的に政策として各党が挙げていらっしゃるのは、パートをどうするかという、パートの税金の優遇の問題だけじゃないかと思うんです。  私、前回の選挙のときに各党の政策拝見したんですけれど、どこの党もと言っていいほどパートの税金を優遇すると書いているわけなんです。ところが、私も税制調査会の委員でございますけれど、パートの税制だけを優遇するということは不可能じゃないかと思うんですね。今度もパートの非課税の部分が八十八万円まで上がりましたけれども、あれは結局基礎控除とかその他の配偶者控除との結果あそこまで上がったわけで、パートのために何か税制を変えたということではないわけなんですね。  そうすると、私はできないことはできないとしておいて、何か別の方向を考えるべきではないかというふうに思っているわけなんです。あんまりパートの税制優遇します、優遇しますと言うと、本当に優遇できるんではないかという非常に期待感を抱かしてしまうわけですけれど、現実にはよっぽど税制を大きくいじらない限りは不可能だというふうに思っているわけです。ですから、あんまり実現できないようなことで期待感を抱かせないで、もっと別の具体的な働きやすいような対策を考えるということが大事になってくると思うわけなんです。  そうしますと、やはりこれからは私はもっと女の人がどんどん出ていく。そうしますと、当然男性の職場、男性の労働市場を荒らしていくということになっていくわけですので、具体的に私はもっとワークシェアリングみたいな形で、家庭に男の人も参加してもらうけれど、職場の方でも女性も参加して、男女がそこを分け合っていくというような形が一つ方向じゃないかと思うわけです。ただ、その場合には二つ目の財布のふえ方というのはそう大きくはならないんではないかなと思うわけなんです。でも、じわじわとそういう形でふやしていくのが一つの方策ではないかというふうに考えております。  それから、貯蓄率の方の問題なんですけれど、私、家計の方から見ていると、この貯蓄率の問題というのは非常に皮肉だと思うんですね。といいますのは、貯蓄増強中央委員会というのができましたのがたしか昭和二十八年ぐらいで、三十年ぐらいたっていると思うんです。国の方が貯蓄増強、貯蓄増強ということで盛んに働きかけてきて、あの非課税貯蓄も出てきたわけなんです。そのときは、一体だれのために貯蓄増強を考えてくださったのかと思ったら、決して家計のためじゃないんですよね。日本経済がまず復興するためであり、次に高度成長のために貯蓄が必要だから貯蓄増強ということを言ってきたと思うわけなんです。そのときには高度成長もありまして、家計の方はそれほど貯蓄は熱心ではなかったわけです。残るものを貯蓄していけば、ある程度貯蓄がふえていったということで、主体的、自発的な貯蓄というのは、その当時は少なかったと思うんです。  ところが、いま本当に家計が落ちついて、貯蓄をしようと思っていたら、思い始めて熱心になったら、経済の方は余り貯蓄率は高くちゃ困るよということで、余り必要ないというような皆さん方の御意見になって、非課税貯蓄のマル優枠ももう要らないんじゃないかというようなことが言われている。そうすると、家計の貯蓄というものがあくまでも何か経済の側からだけ考えられ過ぎているんではないかなというのがいまの御質問に対する一つの印象であるわけです。だから、非常に発計の側から見ると皮肉だなという感じがしております。  それでは、このまま貯蓄率が高くていいのかといえば、私は一つはもうちょっと欲しいものが出てきたら下げていくと思いますので、やはりそういう欲しいものをもっと出してくるということが大事だと思うんです。たとえば、さっきから情報化社会の話を申し上げているんですけれど、いまパソコンとかなんか出てきていますけれど、あれ家庭にまで入らない限りは情報化が進まないし、パソコンの生産量もふえないわけなんですけれど、いまのパソコン、あれ家庭に入っても本当にどうしようもないんですよね。たとえばゲームだけの程度の小型のものなら家庭に入ってゲームできるけれど、ちょっと大型のを買ったらもう動かしようがわかりませんし、たとえば百万円かけても何のプラスにもならないというようなことですので、ああいうものをどんどん家庭に入るように改良していって、家庭が本当に欲しいんだというものを出してくるということが消費をふやす一つ方向だと思うんです。  それから、もう一つ方向は、私はこれは政治家の方々にお願いしたいんですけれど、高齢化社会がどうなるのかということをもうちょっと青写真をかくべきだと思うんです。  たとえば、今度も医療費の一割負担、健康保険の一割負担が出てきましたけれど、あれも何だか一割負担を急にさせられて、一体将来どうなるのかということもわからない。それから年金もいま改革案が出ていますけれど、この改革案が出れば、また少しはよくなるとは思うんですけれど、いまの場合はどうも年金はパンクしそうだ、パンクしそうだ、国は頼りにならないというような不安ばかりがふくらんできているわけなんです。  ですから私は、高齢化社会というのは大変なんだけれど、日本の力をもってすれば乗り切れるし、国としてはここまでは必ず保障するんだというような青写真をはっきりかいた上で、この際、この部分だけは国民の負担なんだということをはっきりすると、高齢化社会の不安感も少しは落ちついてきて、貯蓄熱も低まるんではないかと思うわけなんです。  ですから、私ももうちょっと消費に振り向けて、日本経済の発展の方向に向かってもいいんじゃないかと思うんですけれど、いまの場合は家計の方の必要性から、どうしても不安があれば貯蓄が高くならざるを得ない。そして周りを見回せば、それほど欲しいものもないということは、貯蓄に向かっていってしまうわけです。ですから、国の経済として貯蓄率を低めるということが必要であれば、やはりその何か対策というものを消費の面あるいは将来の不安の面で打ち出すことが必要なんじゃないかなという感じがしております。お答えになったかどうかわかりませんけれど……。
  36. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 ありがとうございました。
  37. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 他に御発言ございませんですか。
  38. 坂野重信

    ○坂野重信君 端的な質問なんですけれども、一兆円減税とか二兆円減税と言っておりますけれども、そういうことをやることによって、家計に減税の効果がどういうぐあいに貯蓄と支出の方に響いていきそうかという先生の端的な御意見を伺います。
  39. 高原須美子

    参考人高原須美子君) 減税がありますと、確かにゆとりができた気分がいたしますので、多少は消費に向かうと思うのですけれど、いろいろな主婦に対する調査なんかを見ますと、第一順位は貯蓄になっておりますので、やはり相当部分、むしろ消費よりも貯蓄へ向かうウエートの方が大きいんじゃないかなという気が私はしております。  ですから、うんと大型の減税があって、そして景気が明るくて、将来、大分残業手当とかボーナスもよさそうだよということになりますと、それじゃ大型のビデオでもというような気にもなると思うんですけれど、ことし程度の規模の減税で、しかも一方で税の増収を図っておりますので、ちょっとこれが消費を刺激するということは無理ではないかと思います。
  40. 抜山映子

    ○抜山映子君 先ほど、先生の前に講演くださった竹内先生は、女性が社会に進出すると、いま主婦代理業などというものができて、すき間産業と呼ばれていると。主婦が進出すると、子供の非行とかそういう問題もできて余り好ましくないというニュアンスの発言をされたんですけれども、私自体は、これから高齢化の社会に向かって、二十一世紀には高齢人口、六十五歳以上の老齢人口が二〇%に達してしまう。世界に類を見ない高齢化に向かう。そうすると、その高齢者を支える若年層に働いてもらわなくちゃいけない要請は非常に強まるだろう。そういうときに女性はむしろ職場進出して、納税者になってもらわなくちゃいけない時代が来るんじゃないかと思うんですが、その点先生の御意見はいかがでしょう。
  41. 高原須美子

    参考人高原須美子君) 私も大体同じように考えております。  やはり女性も働いて、この高齢化社会を支えていくということが国の経済全体のためにも、あるいは女性の長い老後のためにも、あるいは長い子育て後の自由期間のためにも必要になっていくというふうに思っております。  そして、大体女性が働くことに対する反対というのは、親を見ないんじゃないかということと、それから子供が非行に走るんじゃないかということであるわけなんですけれど、親を見るというのも、これは今後高齢化社会となってくると大変なことなんですけれど、とりあえず非行の問題を申し上げますと、私は女親が働くことと非行というのは関係ないというふうに思っております。むしろ、これだけ子供の数が少なくなってきた場合には、母親がつきっ切りで過保護でいる方が大きいわけなんですね。  最近も警察庁で法改正なんかを風俗営業法に関して出しておりますけれど、あのときにもいろいろ警察庁の方等にも聞きましたら、結局子供が非行に走るのは克己心というか、耐える心がないということが一番大きくて、その原因は過保護であるということのようなんです。そうしますと、母親が家にずっといて過保護であるよりも、母親が働くということも大事なんじゃないか。ただ、それがちょっとパートにいって稼いでなんということじゃなくて、もうちょっと毅然として働く姿勢を見せなければいけないとは思いますけれど、私は働くことが非常に大事になってくると思うんです。  すき間産業的な母親代行業、主婦代行業のようなものも当然出てくるとは思うんですけれど、私自身がパートに出た女性を対象にした調査を見ますと、ほとんどそういうのを利用していないんですね。むしろ、いいこととして、家事の能率が上がったということと、子供が手伝ってくれるようになったというような答えが出ておりまして、意外と働く女の入って――私は日本女性ってすごくかわいらしいと思うんだけれど、働きに出ていくことによってちょっと家族にひけ目が起きる。そうすると、家事も一生懸命やろう、ただ働く時間を出さなきゃいけないので能率的にやる、子供にもちょっと手伝ってもらうというような形で解決しているケースが非常に多いわけです。  ですから、私は、女が働くと、女が買うのはさっき申し上げた洋服とか買っているんですけれど、いろいろ家事代行業とかというのが出てくるんじゃないかとよく言われておりますけれど、もちろん多少は出てくるでしょうけれど、そう基本的な方向にはならないんじゃないかと思います。
  42. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 以上で高原参考人に対する質疑は終わりました。  高原参考人には、お忙しい中を御出席いただきまして有益なお話をありがとうございました。ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の本委員会調査参考にいたしたいと存じます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)  午前の調査はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時十一分休憩      ―――――・―――――    午後一時三十三分開会
  43. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ただいまから国民生活経済に関する調査特別委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、国民生活経済に関する調査を議題とし、経済現状及び将来と国民生活について参考人から意見を聴取いたします。  まず、東北大学教授大内秀明君から意見を聴取いたします。  この際、大内参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本委員会に御出席いただきましてありがとうございました。本日は経済現状及び将来と国民生活につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、二十分程度委員の質疑に対してお答えをいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、大内参考人にお願いいたします。
  44. 大内秀明

    参考人(大内秀明君) 私からお話しすべき点は、大体四点ほど申し上げてみたいと思います。  一つは、最近の国民生活についての意識、考え方といいますか、この特徴をちょっと申し上げて、第二に日本経済国民経済の不均衡の所在をめぐりまして、いろいろその解決の可能性をめぐって意見がございますが、それを少し整理しながら、私なりの検討を加えてみたい。  それから第三は、この種の不均衡の根底にある問題、これをどう考えるかということで私見を述べさせていただきたい。  それから最後に、解決の方向に関しまして少し補足をさせていただく、こういった順序で意見を述べさせていただきます。  まず、第一の生活の意識でございますが、改めて申すまでもなく、昨年の春、戦後最も長い不況、三年に及びます不況から日本経済は回復を始めました。大変長い不況でありますので、確かにいろいろ意識調査などをやりましても、生活への不満が少し高まっていることは高まっております。また、高度成長の中で次第に定着しております国民の中流意識、これも若干低下しているという感じでございます。  しかし、いずれにしましても、そんなに生活の不満が直ちに爆発するとか、あるいは窮乏感が満ちあふれるというような状況にはないということも確かでございます。  それに対しまして、国民の間に広がっている生活意識として非常に注目しなければならないのは、たとえばこれからの世の中がどうなるかわからないという、こういう内容の余り特定しないといいましょうか、それほど具体的にはっきりしない、失業でありますとかあるいは給与でありますとか、あるいは福祉でありますとか、そういうふうに余り特定しない形で、漠然とした不安というものがきわめて強いし、高い、こういう点が問題かと思います。  実は私ども、昨年宮城県下の労働組合の意識調査をやってみたんでございますが、これも総評傘下の組合員でございますが、やはり個別の生活への不安よりも漠然とした不安が大体三割以上の率を占めまして最大でございます。それに対しまして、ついでに申し上げますと、自助努力でこの不安に対応したいというのが二五%ぐらいでありまして、労働組合を頼りにするというのは、特に低かったのが公務員の女子でありまして、わずかに一・八%。いかに労働組合に対する組合員の信頼の度合いが低下しているかということは特に公務員の女子が顕著でございます。男子の場合は一割ぐらいの率がございましたけれども、そんなぐあいでございます。  それで、景気は回復する、それから石油ショックの乗り切りによって、ある意味では世界経済日本経済、再びある程度成長の再開の可能性を感じながら、なおかつこの種の不安が拡大している、ここにやはり今日私ども考えなければならない大きな問題があるように思います。  では、どうしてこういう漠然とした不安があるのかということでございますが、これはやはり景気がよくなりつつあるにもかかわらず、いま日本経済の中にいろいろな不均衡が、インバランスが拡大しているということではないか。中でもやはり内外の不均衡といいましょうか、貿易収支の不均衡、最近発表になりましたけれども、アメリカの対日貿易赤字二百十六億ドル、まあ史上最高であるといったようなこと。それから、これから国会の論議に入るわけでございますが、政府の予算案でも公債費、防衛費もそうかもしれませんが、むしろ公債費が突出するというような形で財政収支のインバランス。きのうでございましたか、新聞に出ておりましたが、失業率が最高の二・六%という、これもございますが、私はどちらかと申しますと貿易収支という形の内外の不均衡、財政収支のインバランス、この辺が非常に大きいということであります。  それから、そういう不均衡を抱えているということの上で、次に将来の生活とかあるいは社会のあり方についてのビジョンが非常にあいまいになってしまった。これは昭和三十年代あるいは四十年代と比べて非常にビジョンのない時代になってきてしまっている。生活水準はかなり質的にも向上をしてきたわけでありますが、ではこれからどういうふうに生活を高めていくのかという点で、きわめて将来に対して明るい目標が出てこない。こんなところがやはり生活意識、将来への漠然たる不安という形になっているのではないかと思います。  将来についての問題はともかくといたしまして、次に、特に貿易収支、内外の不均衡、財政収支の不均衡という形の日本経済の内部にある不均衡、これについていろいろな方々がいろいろな意見を述べておられる、書いておられるので、その辺を少し整理しながら私なりの考えを申し述べさせていただきたいと思います。  一つは、特に貿易の不均衡ということで申しますと、いまや内需を拡大しようというのは、いわば国民的合意がすでに形成されている。与野党一致してそういう方向で進もうということになっております。しかし、内需拡大がどのような形で可能なのかということになりますと、いろいろ意見が分かれているのが実態かと思います。  まず一つは、昨年秋の「国民所得統計」によりますと、個人消費でありますとかあるいは国内の民間の投資あるいは住宅建設なども若干伸びてまいりまして、これが内需拡大という形で貿易に依存する日本の景気回復、その形を変えて内需主導型に切りかわっていくだろう、こういうニュースがございました。ということであれば、内需拡大はややタイムラグはあったけれども、外需に続いて自然に拡大するわけでございますから、少し待っていればいいという考え方になります。しかし私はこれは少し甘い考え方ではないか。つまり、今日統計上内需が確かに回復してまいったといっても、それは外需、輸出に関連して波及効果が出てきているということにすぎないように思います。  私は東北に住んでおりますが、東北は輸出部品の生産、非常に農村部まで拡大しておりますが、ICの関連部品など生産が足りなくて、このところ急速に設備を拡張しております。あるいはそれに伴ってパートなどの雇用も拡大している。それによって投資とか、雇用に伴う賃金の支払い、消費拡大というのがあるわけですが、これはやはり外需への依存にすぎないということでありまして、私は決して内需が主導するような経済に向かうということは直ちに期待できないと思います。したがいまして、そこに新たに経済の自動的な動きではなしに、政策の必要性が出てまいります。その政策の必要性ということでいろいろ言われるのが自由化を進めるべきである。とりわけ輸入の拡大、今日非常に大きな課題になっておりますのが言うまでもなくオレンジとか牛肉などの輸入をふやす、農産物による食料の輸入拡大あるいは防衛費をふやして兵器を輸入するといったような問題かと思います。私ももちろん輸入拡大できるものはしたらいいと思いますが、しかし、今日食料、農産物の輸入拡大でどこまで摩擦が解消できるかというと、これはもう非常に限界がございまして、いま仮に日本輸入のうちの一割にすぎない食料品の輸入、これを仮に倍にふやしましても、これはアメリカとの貿易赤字二百十六億ドルの半分程度しか赤字の解消には役立たない。オレンジとか牛肉とかと特定しますと、確かにこれ、大きくクローズアップされますけれども、今日、日本では食料品に関連して輸入が非常に多いわけでございまして、よく言われることですが、てんぷらそばでございますか、てんぷらそばを見ると、国内で自給されているのは水だけとかお湯だけという笑い話がございますが、そういう状態で、私はできることはやったらいいと思いますが、しかしこれにすべてをかけるというのは、これは焼け石に水もいいところであるというふうに考えざるを得ません。  それから、資本輸入などもありますけれども、証券投資などはかなりもう進んでおりますし、直接投資ということになりますと、やはりこれ、外国の企業日本に入れるというのはかなり日本の社会、日本生活そのものを国際化しませんとなかなかむずかしいことでございまして、そう急には役に立たないという感じがいたします。自由化について、私は、限界がまずある。  それから、よく言われるのが内需拡大策、もう少し別の角度から、内需拡大策を積極的に進めていないから、それを進めたらどうかということでございますが、それには幾つかいろいろ考え方があるのですが、従来型の通常の内需拡大策で、特に今日のように、ここで財政面での不均衡という問題が絡んでまいりますけれども、こういう財政の赤字を抱えている状況のもとで政策を行っても、その内需拡大、通常の手だけでは非常に無理があるということを率直に申し上げたいと思います。  内需拡大策ということになりますと、従来は公共投資あるいは所得減税でございます。しかし、今度の政府予算でも公共投資はマイナスになる。所得減税も非常に少ない上に、むしろ減税分を増税で賄うということになっておりまして、特にこの増税に関しましては物品税が非常に多いということになりますと、これは日本国民生活にとって非常に問題があるだけではなしに、ヨーロッパなどは物品税を上げられると、ヨーロッパから日本に輸出をするその輸出する物が売れなくなるから、むしろ日本国民、消費者が反対する前にヨーロッパの方から反対の声が上がってしまう。ということは、ますます貿易摩擦を激化するというような皮肉な事態もあるわけでございます。  そういうことで、どうも財政再建のめどの立たない枠の中でやりましても、つまり従来型の内需拡大の政策の選択の幅は非常に限られているというふうに考えます。  それじゃもう一つ、政策とは別に、賃上げによって――特にこれから春闘が始まりますので、賃上げによって内需拡大というのが果たして可能なんだろうかということでございますが、率直に申し上げて私はこれにも非常に大きな限界があると考えております。  確かに春闘の賃上げの幅も最近低いことは御存じのとおりでございますし、あるいは人勧の凍結問題、したがってそういった点から、特に内需の中の最大の比率を占める国民総支出に対しましては大体五二%ぐらいでございましょうか、個人消費支出でございますが、これが非常に冷え込んでいるということはこれは否定できない事実でございます。しかし、この消費の冷え込みとのかかわりで申しますと、単に賃上げが少ないというだけではなくて、実質増税が続いてきて、そして可処分所得を圧迫するということももちろんここにございます。ですから、ちょっとぐらい賃上げしましても実質増税だと、税金を納めるために賃上げをやるということで、何のための賃上げなのかわからないという実態がございます。  そういった点をもちろん改善しない限り消費の拡大、内需拡大というところには結びつかないと思いますが、しかしそれ以上に私、非常に重要な問題は、いまのまま賃金を上げましても、仮にまた減税をある程度行ったとしても、大幅な賃上げの結果がすぐ消費拡大につながらないんじゃないかという点でございます。総評の最近の調査ですと、貯蓄を取り崩して消費に回している傾向が強く出てきて、そしてそれにもかかわらず、賃上げが低いから消費が冷えているんだという、こういう調査結果が出たようであります。新聞で見た限りではそういう結果が出ておりますが、しかし私にはどうもちょっとそれは、私などがやっております調査との関連で申しますと、さあどうだろうかという疑問がございます。  昨年八月に、私ども仙台市の消費者の主婦といいますか、消費者の中の主婦ですね、千四百世帯で、大体三十歳代の主婦が三割以上、四十歳代の主婦が二割以上で、大体六割ぐらいが三十代、四十代の主婦、この辺が一番主婦の中でも不満の強い層でございます。この意識調査をいたしまして、一カ月当たり貯蓄高――幾らくらい貯蓄をしているかということを聞きますと、二万円から三万円台、そこがまあ一番比率が高いわけですが、同じ調査を五年前にやったのでございますが、その調査と比べてむしろその上のクラス、四万円から五万円台、これが非常に大きく伸びている。それからこのアンケート、質問の項目をずっと間に入れまして、そして少し離れた個所に今度は主な収入と支出の項目を設けまして、そこで今度は聞いてみたわけでございますが、この家計の収支の項目の中で貯蓄のところを入れますと、単独に貯蓄幾らかと聞いたときには二、三万円台だったんですが、まあここが主婦のへそくり分が入るのか入らないのかよくわかりませんが、そこにまいりますと今度は四万円から五万円台が最高の比率になりまして、これが全体の二割強ということでございます。いかにやはり貯蓄に向いてしまっているかということでございます。  それから、最近生活がよくなった点、どういう点でよくなっているかということを聞いてみたんですが、これ五年前の調査と比べて――五年前、やはり最近生活の面でどういう点がよくなったかという質問をしている。これと比較してみたんですが、たとえば夕御飯に肉や魚の料理がふんだんに食べられるようになったとか、あるいは住宅事情がよくなったとか、あるいは余暇が改善されたとか、そういった質問に対する回答は減っております。比率が減ってきております。そして逆に、おしゃれができるようになったとか、それから町に出かける点でとてもよくなったとか、それからレジャーですね、そういう比率が非常に高まってきておりまして、貯蓄とかあるいは消費との関連で言いましても、なかなかこれは、まあいわゆる物離れと申し上げていいと思いますけれども、そうすぐ物の売れるような形の消費の拡大につながらないのが実態ではないか。  したがいまして、私も労働組合とのおつきあいもいろいろございますので申し上げているんですが、大幅賃上げと合理化反対という形の時代はもう終わってしまって、むしろヨーロッパなんかの労働運動でもいろいろいま新しい模索が始まっておりますけれども、むしろ貯蓄をいかに安定させるか。安定的な貯蓄、そして貯蓄をいかに国民生活と結びついた方向投資に回すか、投資のコントロール。それから、雇用の安定的拡大、貯蓄投資雇用、そういう回路にもう少し目を向けていかなければ、やはり内需拡大といいましても、ただ賃上げと消費という非常に従来型の回路では内需拡大にならないんではないだろうかということを一生懸命申し上げております。もちろんこれには反対の声もございますけれども、私はそういうことを申し上げております。  そう考えますと、第三に申し上げたかったことでございますが、どうも従来型の政策パターンでは貿易摩擦を解消するような形で内需拡大、そして財政の不均衡もここに絡んでいるわけでございますが、そういったいろいろな諸問題の解決にはつながってこないというのが、どうも私としてはそういった結論にならざるを得ないということでございます。  それで、やはり不均衡の最大のポイントは、いまずっと申し上げてきたことから、私はやはり貿易摩擦――内外不均衡でございますが、これの根源、根底にある問題というのは一体何なのかということを私なりに考えてみるわけでございますが、もちろんいろいろ原因を挙げればたくさんございます。アメリカの高金利あるいはアメリカのドルが弱い、それを強める努力をしない、あるいはヨーロッパ、イギリス病と言われるような経済運営、いろいろあるわけでございますが、私はやはりここまでまいりますと、日本昭和三十年代つまり輸出振興、昭和四十年代に入りますとベトナム特需と結びついた輸出の急増、そして、その後オイルショック乗り切りの中で強化されてきている日本の輸出競争力が非常に強い、特にオイルショック乗り切りの中でこの輸出競争力が非常に強まってしまった。確かに輸出競争力が弱いよりも強いのがいいに決まっているわけでございますが、しかし、率直に言ってやはり強過ぎるという問題。  そして強過ぎる場合、私も一昨年ロンドンに十カ月ほど生活しておりましたけれども、日本の商社の方々などは、貿易摩擦も激化している中で、どうもなかなか商売がしにくいので、いろいろ私どもにも苦情を訴えるわけなんですが、安くていいものを輸出してどうして悪いんだということをしきりに言っておられる。確かにそれは安くていいものはイギリスの消費者にも役に立つんですが、しかし安くていいものを輸出しているというのがそう簡単によくない、むしろ悪くなっているということ、つまり強者の論理が通用しなくなってしまっているという現実、これをひとつ大きく考えなければならないと思うんです。  もう一つ問題なのは、変動相場制にある程度うまい調節のメカニズムが働けばよろしいんですが、最近変動相場制が、強者と弱者のその不均衡を調整するメカニズムが極度に働かなくなった、硬直化してきているというふうに申し上げていいんじゃないかと思うんですが、たとえば変動相場制がノーマルに働けば、まあもともとそんなにノーマルに働かないとは思いますけれども、少しでもうまく働くのならば、日本のように輸出競争力が強くて史上最高の黒字、こういう場合には当然円高ドル安になりまして、そしてその面から競争力がある程度抑制されるわけでございます。ところが、それが全然働かないというのが現実じゃないでしょうか。  実は私、雪の関係もありましたものでけさではなくてきのうの夜東京に出てまいりまして泊まったのでございますが、けさちょっと新聞を見まして、朝日新聞でございますが、ついでにちょっと切り抜きました。「五十八年」昨年の「国際収支の黒字最高」、そして貿易の黒字が戦後最大になったということが書いてあります。同時に「国際収支の黒字最高」という見出しのすぐ下に「円相場は〝超安定〟」という、全然動かないという、ここをやっぱり考えなきゃならない。  本来、これは、たとえは必ずしも適切でないかもしれませんが、やはり国際市場における輸出とか輸入、貿易、これは自由な競争でやるわけですが、競争というのはある種のゲームでございます。そうして、余り強過ぎる者と余り弱過ぎる者とがいた場合には、必ずそこにハンディをつけないと競争は成り立たない。ゴルフでもそうでございます。囲碁でも何目か置く。将棋でも角や飛車を落とす。こうしませんとこれはゲームにならない、おもしろくもないわけでございます。  変動相場制の調整のメカニズムというのは、日本のように強過ぎる場合には、当然、黒字がうんと上がって強過ぎたら、一ドル二百三十四、五円でしたらそれが二百円とか百八十円とか、これは極端かもしれませんが、そこまで円高になりまして、その間ハンディをつけて、そうして一ドル百八十円とか二百円でもって競争するからゲームが成り立つ、おもしろくなる。ところが、それが働かない現状では、もうヨーロッパアメリカ日本とプレーをやるのは嫌だということになりつつあるのが、これが私は貿易摩擦ではないかと思います。勝手に、では一人で――まあ一人ではプレーが成り立たないというのが現実でございますが、そういうところへ来てしまっております。  それではこの辺をどういうふうに解決するかということなんですが、私は、やはりもしそうだとすれば、ある程度一緒に国際市場でできるだけ自由な競争――自由がどうかはともかく、競争によって競争社会の中でともに生きていくためには、やはりプレーに参加しなきゃならない。参加するためにはやはりみずからハンディをつける。変動相場制のもとでハンディがつけられなければハンディをつけるという努力をすべきではないだろうか。そのハンディなるものはどうしてつけるかということになりますと、私はこれはいろいろ疑問を聞かされておりますけれども、私としては時限的なもの、あくまでも一時的なものでありますし、それから幅もかなり弾力的に考えなければならないと思いますけれども、輸出課徴金のようなもの、あるいは金利平衡税のようなもの、こういう形でハイディをつけまして、そうしてプレーに参加をするというぐらいの思い切った手が必要ではないだろうかと思います。  これは、実はもうすでに通産省の方の通商白書でもいろいろデータが上がっておりますけれども、余り細かい点は私調べておりませんけれども、やはり日本に対して、世界的に見ますと、各地で日本の輸出に対して、もちろんいろいろ輸入制限の措置はとられているのは御存じのとおりですが、輸入課徴金もふえております。つまり、日本で輸出する側からハイディをつけなければ向こう側でハンディがついてしまって、こちら側でハンディをつければ、それは言うまでもありませんけれども、課徴金によって税収になります。私の簡単な計算でございますが、一割程度の課徴金で三兆強から四兆ぐらい、金利平衡税で一、二兆ということになれば六、七兆上がるわけですが、これでやはり内需主導のために内需関連の投資に関連して投資減税を大幅にやる、そうして雇用の安定的拡大を図る、そうして消費拡大に結びつける、そうして先ほど申し上げました貯蓄投資雇用のこの回路に安定の手当てを加えるということ、あるいはそういう形での財政的裏づけによって摩擦解消に役立つ海外援助をふやすというような手もあわせて行うべきではないだろうか。  この種の問題につきましては技術的に非常にむずかしい面もある。たとえば、日本産業の中にも輸出競争力の弱いところがある。あるいは相手、どこに対しての課徴金にするとか、タイミングのとり方だとか、非常にむずかしい面があろうかと思います。私も行政面にタッチしておりませんから、その種の技術的な問題についてはどういうふうにするのかと言われれば、私にはすぐそういった技術的な問題にお答えする準備はないんですが、まあしかし、こういう仕事はやはり行政のベテランがたくさんいらっしゃるわけで、いろいろお考えいただきたいと思うわけでございます。  この考え方に対しまして、むしろ日本でそういう輸出課徴金とか金利平衡税といったようなラジカルな政策を打ち出すことによって外国の保護主義を強めることにはならないか、そして自由貿易、競争の原則を崩すことにならないか、こういう反対の御意見を私も聞いております。  しかし、これはいま私がずっと申し上げてきたことからおわかりいただけると思うんですが、むしろ変動相場制でうまくハイディがついてくれるのなら、それによって自由競争、自由な競争の原則が働くわけですが、これが働かない。働かないから、だからみずからハンディをつけることによって自由な競争を維持しようという考え方がございまして、したがって課徴金や金利平衡税という、一見かなり強い政策手段ではございますけれども、しかしそれはむしろ今日の国際通貨体制あるいは各国間の競争力の不均衡というものに対して、そういう場でもって国際的な貿易秩序、ルール、これを何とか守るために必要な手である。したがって、決して保護主義に手をかすものではないというふうに私は考えるわけでございます。やはりそういう形で思い切った手を打ちながら、国民生活あるいはこれからの社会に一つの将来的なビジョンを明確に打ち出していただきたい。  私は、最近民間の活力でありますとか、あるいは自助努力ということがしきりに言われておりますけれども、民間活力も自助努力も大切ですが、行政、政治が将来の生活、社会のビジョンを打ち出すという点では、やはり今日行政、政治の意義というのは高まることはあってもいささかも低下してない。むしろ以上申し上げたような形で不均衡解決のためのかなり思い切った決断、そして政治、行政の国民生活に対する方向づけ、これを私は期待しているわけでございます。  そういう意味で多少ともお役に立つことがあればと思いますが、以上私なりの考えを率直に申し述べさしていただきました。  以上でございます。
  45. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ありがとうございました。  以上で大内参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  46. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 どうも、立って御質問申し上げるのがいつものくせなものですから、この方がちょっと話しいいものですから立たせていただきます。  先ほど、午前中、竹内宏先生のお話を実は承りまして、やっぱり第二次産業製造業ですね、これを盛んにしていくことが非常に必要だし、それを盛んにすることが国のセキュリティーを確保するゆえんにもなるんだと。経済サービス化とかいうようなものはやがて歴史的にその国の経済が欄熟して堕落していくゆえんのものだと。こういうことで製造業にウエートを置いたお話が実はあったわけでありますけれども、私は製造業にこれから投資をしても、実はこれからの投資というものを考えてみると、むしろ先進国同士の競争を一層激しくする。そういう要素こそ強くして、果たして国のセキュリティーを求めることができるのかというと、この辺非常に怪しいような気が実はするわけでありまして、私自体は、また後で申し上げたいと思うんですが、やはり日本の市場の多角化というものをもう一回考えてみる必要がもっとあるんじゃないだろうかということも私の頭の中にあります。  いま先生のお話の中で、輸出課徴金をかけてそれによって自由競争の維持を求める、こういうお話ですけれども、いま資本自由化なども行われているし、日本の国へ外国の企業を呼ぶというのはわりあい少ないですが、日本企業が外国に出ていって多国籍企業化するという情勢というのは、これからうんと強まっていくんじゃないだろうかということを考えてみますと、いま先生のおっしゃった輸出課徴金制度というものが、果たして国内経済を盛んにしていけるのかどうなのか。むしろ、国内経済が外国に投資するその果実を国内が得ていくという、かつてのイギリス的な、そういう海外資本収益で食っていくような、そういうものに転化していく可能性がある、あり過ぎるんじゃないだろうか、こんな感じが私はするんですが、もしそういう形になりますと、一体国内の今度は雇用の問題とか生産の問題というのが非常に大きな問題になってくるんではないだろうか、こういうふうに考えるんですが、その辺はいかがでしょうか。  それから、いまおっしゃられた、自由競争をやるための利子平衡税であり輸出課徴金であると。確かにそのとおりだと思うんですけれども、しかし世界の貿易問題というのが、案外そういう理屈だけでどうも通っていくような世界でないのが現状のような気がするんですよ。こちらはそう考えたって、それは日本もそういうことをやるならわれわれもやろうじゃないかという、こういう雰囲気を出してきているような気がするんですね。日米の農産物の自由化の問題なんてまさに理屈じゃなくて感情の問題と言って私はよかろうと、こんなふうに思うんですが、どうもその辺が必ずしも、先生のおっしゃられるような自由貿易の土台を本当につくれるのか。お考え方としては私も十分理解するわけですけれども、いまの国際情勢の中で果たしてそう理屈が素直に通っていくんだろうかという気が非常にするんですが、どうなんでしょうか、その辺。
  47. 大内秀明

    参考人(大内秀明君) 幾つか御質問の点がございましたので、私が理解できる限りでお答えいたしますが、一つ、午前中竹内先生が御意見をお述べになった点と関連するかと思います。  どういうお話をなさったか私直接聞いておりませんので、いま竹田先生がおっしゃった御質問との関連でのみ私の意見を述べるわけですが、私は社会といいましょうか、経済産業の進歩発展から申しますと、やはり次第に第三次産業のウエートが、つまりサービス化していくのが産業構造の高度化の自然の流れでございまして、サービスのウエートが高まるから経済が疲弊してだめになるというのはちょっと私としては納得できない。  それは、こんなところで大学の講義のようなことを申し上げても大変失礼かもしれませんが、経済学の上では生産的労働と不生産的労働という論争が昔からあるわけでございますね。たとえば重金主義、金を重視する、金が富であるというような時代には、これはやっぱり金にかかわる労働が生産的。それから重農主義という考え方が出てまいりまして、そうすると農業が生産的労働で、商業や工業は生産的でないわけでございますね。それがだんだん労働の――これは産業にかかわっているわけなんですが、生産的だというのがむしろ工業の方にウエートがかかってまいりました。依然として工業段階で考えておりますと、商業と申しましょうか、サービス関係は不生産的になるのでございますし、そういう考え方が伝統的な経済学の一部には強いんでございますけれども、しかし、生産的か不生産的かというのはやはり時代の変化によって変わってまいりまして、私はむしろ、もう一つ二十一世紀に向かって産業経済というのは、より高度化していく段階では、むしろサービスが不生産的な地位からより生産的な地位に上がっていくと思います。  そう考えるべきだと思っておりますので、むしろ今日構造不況業種と言われるようなところは、まあこれも余り一遍に整理をするというのはむずかしいかと思いますけれども、重くて厚い、そういう産業についてはこれはやはりだんだん整理をせざるを得ない。そしてよりサービス、ソフト化したところへ産業の構造が転換していく、これが当然の経済産業の進歩の順序といいましょうか、流れだと思っております。そう考えておりますので、ちょっと午前中の竹内先生のお話とは違う立場かもしれませんが、率直にそう申し上げておきます。  それから、いまのような形で貿易の黒字で海外投資を進めていくと、かつてのイギリス、アメリカもかなりそういう傾向が強いわけでございますが、そうなるおそれがあるだろうという点は私も同感でございまして、金利平衡税という、そういう問題を考えるのも、もちろん摩擦解消ということも一つありますが、と同時にまた、財政再建の手がかりにしたいということもありますけれども、やはり余り海外投資が行き過ぎると日本経済の構造としてはまずい。したがって、金利平衡税という形で、海外アメリカの高金利などを目指して出て行ってしまうというのにはしかるべき手を打って、資本の流れ、投資にある種のコントロールを加えていくということが必要かと思います。  そして、そういう政策運営を行うことによってできるだけ国内投資雇用の安定に向かっていくということが必要でして、課徴金とかあるいは利子平衡税ですね、これはある意味では国内投資、そして投資減税をし、国内雇用拡大、そのための財源をも確保して、そして内需拡大あるいは内需拡大によって投資を余り外に出ないようにうまく調整すると、こういうことでございます。それで申し上げているわけです。  それから最後の、貿易摩擦にはやっぱりカルチュアの問題があるという、そう理屈では割り切れないとおっしゃる、感情的な問題もある、これは私も確かにあるかと思います。  特に輸出や輸入の現場にいる方々ということになりますと、やはりなかなか、人間、感情の動物でございまして、先ほどちょっと、ロンドンで生活をしていたときに商社の方々といろいろ話をする、まあちょっとアルコールを入れながら話をしますと、イギリスから輸入を拡大して日本もたくさん買って、そして貿易の不均衡を是正する、イギリスの日本に対する赤字を解消するということを言われるけれども、しかしもうイギリスから買う物はない。ウイスキーこれ以上買ったって、もう日本人はアル中になっちゃう。カシミヤのマフラーだってもうそんなに首に何枚も巻けない。それで最後は、これは感情的な話になるんですが、イギリスからもうこれ以上買うといったらイギリスの失業者を日本輸入する以外にないんじゃないか。これはイギリスの人たちに聞かせたら本当に怒り出すような話なんですが、まあ一杯飲んで、日本人同士になりますとそういう話になるわけでございまして、なかなか理屈では割り切れない問題ということになれば私はたくさんあると思います。  ただ私は、やはりカルチュアの違いというのはあるし、とかくいろいろ話がむずかしくなりますと、すべてカルチュアの問題にみんな話がそちらへいって、これはしょうがないんだ、やはり日本のような神道や仏教、儒教の国とキリスト教の国とは違うんだというような話に、まあ学者でもそういうふうになってしまうんですが、それはそうかもしれませんけれども、まあ私は経済学を専攻しておりますので、余りカルチュアに話がいってしまいますと私どもの出番もなくなりますので、まあカルチュアの話にいくのは、最後のところカルチュアの話にしていただいて、その前にやるべきことをできるだけやり、詰めるべきところを詰めていただいた上で、最後はやっぱりカルチュアにしていただきたい。  やはりヨーロッパから日本を見ておりますと、これもどうも日本経済も政治もよくわからない。ですから、最後のところはやっぱりカルチュアになりまして、どうもやっぱり神道だとか儒教だとか、そういう話に向こうの人たちもなるわけなんでございますが、そういう話になってしまいますと、これはもうだめだということになりかねないので、それではやはり国際経済の秩序、そして世界の平和が私は維持できないので、そういう態度はお互いにできるだけ最後のところにするという努力が私は必要じゃないかと考えております。
  48. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 ありがとうございました。
  49. 松岡滿壽男

    松岡満寿男君 先生は、カルチュアのお話が余りお好きじゃないようでございますけれども、結局内需を拡大していく、主導型で景気を安定的に成長さしていくというようなお話だと思いますけれども、これは政府としても総合経済政策で内需の拡大というものに取り組んでいるわけですけれども、内需の中身でございますよね。まあ消費が大体六〇%近く占めておって、その中でサービス、いわゆるカルチュア部分というものが非常にふえてきておる。それが実際に本当に景気の拡大という面につながっていくだろうかという疑問が一つございまするし、同時に、いままでとおり公共投資主導型で、公共部門が果たす役割りが大きいというお話ございまするが、それは確かにそのとおりだと思いますけれども、やはり民間活力というものが非常に伸びてきておる。現在の日本経済の状況から見ますると、やはり私は、公的部分と民間部分との役割り分担、さらに言えば、国と地方との役割り分担、そして国と個人との分担というものを明確にしていかなければいけない時期に差しかかっていると思うわけでありますけれども、そういう問題につきましてどのようにお考えか。  それともう一点だけちょっとお伺いしたいんですけれども、集中から分散へという形の中で、現在テクノポリス構想が急速に、まあわれわれ地域の者としては非常に期待もいたしておるわけでありますけれども、これには午前中、竹内先生のお話では産学協同の大学というものが非常に地域の中に――先生は東北大学でやっておられるわけですけれども、その辺の問題はちょっと御指摘があったんですけれども、テクノポリス構想を成功させるためにいろいろな要因があるだろうと思うんです。アメリカ南部の場合は土地が安いとか、あるいは賃金日本のように東京と地方が余り格差がないという状況じゃなくて、いろいろな条件がある。それを成功させるための要件というものにつきましてお考えがあればひとつ御指導いただきたいと思うんですけれども。
  50. 大内秀明

    参考人(大内秀明君) 私も内需関連の投資、それに対してはかなり思い切った投資減税をやり、雇用拡大ということで進めるべきだということを申し上げて、中身に余り立ち入ることはできなかったわけですし、私もまだそれほど細かい点まで考えてございませんが、かなり確かにいまの生活のレベルあるいは生活の様式を前提にしますと、これ以上何を買ったらいいだろうかということについては、これはなかなか、一体どこまで消費需要というものは伸びるのかという問題がございます。これは先ほど申し上げたとおりです。  ただこれは、一部かなり言われておりますけれども、私など仙台に住んでおりますが、新幹線が開通し、いま地下鉄を掘っておりますけれども、そういったことで、やはり新しい町づくりという方向に向けては非常に投資の可能性が強い。これをその都市の開発、再開発と言ってもいいかと思いますが、そういった特に従来の下水とか道路とか、そういう形のインフラストラクチュアといいましょうか、そういった基礎的な都市基盤を中心とする町の整備から、もう少しより文化的なことを含めまして、あるいは都市の景観とか、そういった問題が非常に関心が高まってきている。したがいまして、都市の開発、再開発という問題は、これは今後新しい生活の高度化という点から言えば非常に重要だし、私も仙台のような都市におりまして非常に実感として感じておりますし、その市の町づくりのいろんな市民運動なんかのお手伝いをしておりまして十分可能性はあると思います。  それから、地方の問題で申しますと、特に私はこれはむしろ少しまとめて意見を申し上げたいぐらいなんですが、東北などを見ておりますと、最近またこの二、三年、数年の間に地域の格差が再拡大を始めた。人口の格差、それから所得の格差、それから消費自身もそうでございます。つまり、高度成長期の過疎や、あるいは貧乏という問題での格差とは違う。そして、オイルショックの十年間の低成長の格差、むしろそのとき格差が縮まったんでございますが、それとも違う。つまり、オイルショック乗り切りの過程でむしろ新しく格差ができてきて、一体これをどうしたらいいのかという問題があるわけでございますが、こういった問題を考えますと、やはり格差を是正するという形での投資拡大というのは非常に重要であります。いずれも確かにこれは公共投資と絡んでおりまして、公共投資の波及効果というのは昔と違って非常に小さくなったんだという説もございますけれども、それはやはり従来型の公共投資からできるだけ第三セクター、あるいは消費者や利用者まで一緒に入る第四セクターとか、いろいろ投資については従来のパターンと違う、そういう投資のパターンを新しく開発をしていくことによって進めることができるだろう。  それから土地の問題、地価の問題、これは非常に重要でありまして、やはり思い切った土地、地価対策が重要ですが、しかし、このオイルショックの不況の中で、低成長の中で従来のように地価の値上がりということがなくなりましたので、まあそんなに地価の値上がりを見込んで持っているということからしますと、もうこれ以上余りというムードが広がっておりますので、比較的地価抑制、そして土地対策がやりやすい条件も出てまいりますので、それをやはりうまくタイミングをつかんで思い切った土地、地価対策を進めていくべきではないのかと思います。  それからもう一つ、テクノポリスでございますが、これはやはり推進できるところはしていった方がいいと思います。テクノポリスに対して、いまは地場産業というのが他方であるわけですが、一村一品運動などありますけれども、地場産業による雇用とか所得の効果というのは非常に限られておりまして、私はどちらかと言えば、やはりテクノポリスでありますとか、誘致型の方が、特に東北などにおりまして、基本に据えるべきではないかと思っておりますが、そういう意味でテクノポリスの推進は必要かと思います。  ただ、言うまでもございませんけれども、やはり大学などの協力が必要だし、大学の協力というのも大事なんですが、ただ、大学もなかなか協力をするといいましても、そんなに、また余りへんぴなところだと大学に人が集まりにくいということもありまして、そこが、それは大学の人間のエゴだと言われればそれきりなんですが、やはりある程度大学の、人もうまく集めやすいし、それから研究の集積も進んでいるような、そういう大学との連携でないと、急に大学をつくったからといってすぐテクノポリスに利用できるような大学というわけにもなかなかいかない。  実は私きのう仙台を出かける前にも、仙台市内に半導体の研究所、これは東北大学関係者と、それから民間と半官半民でやっている研究所なんですが、これを手狭になったものですから移転するので、ちょうどお城の跡の非常に緑に恵まれたところを、ちょっと用地を確保しなければならない。建築審査会というのがございまして、そこで結論をひとつ出して、それで上京してまいりましたけれども、そういう形で、仙台などになりますと非常にうまくいくといいましょうか、やる気があればいくのですが、なかなか私正直に言って東北各地でそんなにやれるのだろうかという点で悲観的な面もございます。ですから、やはり条件のあるところからできるだけ広げていく努力を進めていくべきじゃないか。余りいい知恵がございませんけれども、そんなことをちょっと申し上げてお答えにかえさせていただきます。
  51. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 他に御質問はございませんか。橋本君。  これを最後にいたします。御質問は。
  52. 橋本敦

    ○橋本敦君 二点ばかり先生にお伺いしたいと思っておりますが、まず第一は、今日の事態の解決の長期的展望として、内需拡大ということがこれは国民的コンセンサスの一つだというふうにおっしゃっておられる。私も確かにそうだと思うんですが、その内需拡大の問題で、個人消費支出を伸ばす、可処分所得を増大させるということがこれが経済全体の動向からいっても重要だということを思うんですが、先生のお話ですと、これには一定の限界があって必ずしも期待できない。こういうお話の理由として、一つは最近の家計の動向での貯蓄志向ですね、これをおっしゃっておられる。確かにそうだと思うんですが、ここのところを分析してみますと、私が考えますのは、貯蓄志向が強くなっている背景には、それぞれの家庭生活を自己防衛していくという、そういうところが非常に強いのではないか。それは先生がおっしゃった漠然とした将来不安を持っているということとの関係で出てきておる。だからしたがって、政策的に国が、あるいは政治の場で、将来構想なり老後保障の問題も含めて、将来展望が年金その他で整備されていくという展望があれば、この部分がそういうインパクトがなくなって消費に回っていくという可能性があるのではないか。これが一つの問題ですね。  それからもう一つは、そういう貯蓄に回っていくということが物を買うという意欲よりも高金利に誘導されて金融関係への投資意欲を増大さしておるという問題がある。この問題について言うなら、確かに現在の長期金利の方が経済成長率より高くなっているというような傾向とか、あるいは国債をどんどん出して、国債消化のために嫌でも金利を高くしなきゃならぬ、こういうことに誘発されているのではないか。だからしたがって、この点は国の政策として国債を減らしていくという方向を強めていくということによっても適正に健全な誘導ができるのではないかというように思うんですが、この点いかがかというのが一つです。  それから、もう一つは、在来型の内需拡大の壁になっている問題として、先生の御指摘のように、一つは財政赤字で減税にしても公共投資にしても限界がある現状だから、ここにも余り期待できないではないかというお話もありましたが、確かにそういう限界がいまの財政事情にあるということはそうですが、逆に言うと、われわれの立場から言えば、新たな財政の硬直化で、一つは軍事費が縮まらないという問題、それからもう一つは、国債償還が迫ってまいりまして、国債費が八兆円、九兆円というようなことで予算全体の四分の一、三分の一を占めていく。そうしますと、その部分が所得の再配分機能を非常に後退をさせまして、それがまた一般消費不況を増大させていきながら不均衡を助長していくということで、新たな財政硬直化が軍事費と国債費の増大という二つの面から今後出てくるのではないか。それは政策的に解決していくということで、内需拡大に向けて政治の場で解決する責任があるのではないか、こんなふうに思うんですが、この二点についてお聞かせいただきたいと思います。
  53. 大内秀明

    参考人(大内秀明君) 手短にお答えさせていただきますが、順序をちょっと逆にいたしまして、後の御質問にお答えする方から始めます。  確かに、私も突出している防衛費あるいは国債費でございますね、これを確かに抑制できる限り抑制するように努力しなければならないと思いますけれども、防衛費に関して、私は防衛費を認める者ではございませんが、しかし、防衛費を削ってというのはかなり限度があるのではないか、その事のよしあしは別問題にしまして。防衛費の中のたとえば人件費でありますとか、あるいは中身を見ますと、かなり平和産業と結びついた、たとえば着る物とが食べる物とかそういうようなものをあれしますと、純粋に純軍需的、純防衛的な面というのはそんなに金額が多いわけじゃない。やはり自衛隊の方々だって人間でございますので、その生活は保障していく努力をしなければならない。そうすると、その手当てをするということになりますと、かなり金額は限られてくるんじゃないかというのが率直な私の考えでございます。  それから、公債費はやはりある意味で財政赤字の結果でございまして、抜本的に財政赤字を解決する方向を別途見出さないとだめなんでございまして、もちろんそれには行政改革などございますが、これもそんなに多くの金額がひねり出されるかどうかというのは私は率直に、自分が国家公務員だからということを申し上げるわけじゃありませんが、非常に疑問があるわけでございます。  したがって、やはり財源の面から言えば、さっきも申し上げたように、貿易摩擦と抱き合わせてその収支不均衡を解決できるような手となると、まあ何兆円ですね、五兆とか七、八兆とかということになると、輸出課徴金とか金利平衡税、こういうものもやっぱり大きくかけていく、そして摩擦解消で国民が不安を少なくともそういう面で解消できるということが必要じゃないかということです。  それから、その上で今度は第一の御質問にお答えしたいと思うんですが、確かに私も、貯蓄が多い、高貯蓄の原因に、福祉などが従来日本の場合非常に貧困であった、日本の福祉は社会福祉ではなくて企業内の会社福祉である、社会ではなくて会社福祉であるというような面があって、どうしても個人の貯蓄に内かざるを得ない、これはそうだと思います。  ただ、そういう面を従来からずっと持ちながら最近の高貯蓄という点は、必ずしも福祉の問題とか生活関連が余り住宅など不十分だったということとはそうすぐ直結しないですね。もうちょっとやっぱり将来生活に対する漠然とした不安、そういうことが多いし、逆にうまく投資雇用拡大とが結びついていかない過剰な貯蓄、そういう形で非常に投機化しているような面、つまりそれが金利選好を高めるということにもなると思うんですが、そういうところに手をつけなければならないわけで、そうなりますと、私は、やはり貯蓄を減らし、かつ安定させるためには、少し回り道をしまして、投資自身をもうちょっと内需に結びつける、そして投資減税あるいは雇用拡大、そういった回路を通して消費の拡大かつ貯蓄を安定的貯蓄に持っていくというふうな、そういう手が必要じゃないか。  いま非常に過剰な預金があって、そしてサラ金に回るような一生命保険のお金とか地方銀行がお金を集めたのがサラ金に回る、これは明らかに投機的過剰な資金になっちゃっているわけですから、これをどう健全化するかということが必要でありまして、それがないと、やはり貯蓄の不安定、そして投機化した預金というものの始末はつかないんじゃないかというふうに考えております。
  54. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 以上で参考人に対する質疑は終わりました。  大内参考人にはお忙しい中を御出席いただきましてありがとうございました。大変貴重な御意見をいただきまして、いまの御意見等につきましては、今後の本委員会調査参考にいたしたいと存じます。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)     ―――――――――――――
  55. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 次に、国民生活センター理事長小島英敏君から意見を聴取いたします。  この際、小島参考人に一言があいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本委員会に御出席いただきましてありがとうございました。本日は経済現状国民生活につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、二十分程度委員の質疑に対しお答えをいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、小島参考人にお願いいたします。
  56. 小島英敏

    参考人(小島英敏君) 国民生活センターの小島でございます。  きょう与えられましたテーマが、国民生活の展望という大変広範かつむずかしいテーマでございまして、お役に立つようなお話ができるかどうか、はなはだ疑問でございますけれども、与えられました時間しばらくお話し申し上げたいと思います。  国民生活の全体像を数字の上で見るということは大変むずかしいことでございます。大別いたしますと、主観的といいますか、国民の意識調査の面からアプローチする方法と、それから意識とか心理とかというものを離れた客観的なデータの集積によってアプローチする方法と、二つの方法が考えられるわけでございます。  主観面からのアプローチといたしまして、きょうお手元にお配りしてございます最初の図の1というのがございますが、これは、御存じの方も多いと思いますけれども、毎年総理府でやっております「国民生活に関する世論調査」、つまり国民の意識調査でございます。これによって九割弱が中流意識を持っているということがよく言われております。  最近の動きも、図の1でごらんいただきますように、「暮らしに対する満足度」というものは、四十九年にかなり満足が減り、不満がふえましたが、これは御存じの第一次オイルショックの後でございます。これがおさまりましてからはだんだんに満足の人がふえ、不満の人が少しずつ減るということできておりまして、ところが、五十五年になりましてからまたちょっと逆転しておりますが、これが二次のオイルショックの後でございます。二次のオイルショックは五十三年から始まりましたけれども、物価等に影響してまいりましたのが五十四年でございまして、むしろ五十四年に入ってから後半かなり上がったということがあって、この調査の上では五十五年にそういう現象があらわれているということでございます。その後またなだらかにいい方向に向かっている。  ただ、ごく最近、五十八年の数字が若干下がっておりますが、この満足という方は六五%の人が十分満足しているということではございませんで、十分満足している人と一応まあまあ満足しているという者を含めております。それから不満の方も、きわめて不満な人と、まだまだ不満だという、プラスの方もマイナスの方もまだまだとか一応とかいうのが非常に多いんですけれども、それを含めましたものでございます。  それから第二表、図の2は「生活の充実感」でございまして、これは満足。不満というのもかなり主観的なものでございますけれども、充実感の方になりますと、一層ある意味では主観的で、生活一般についてはどうも不満が多いけれども、たとえばある人は仕事について非常に充実感を持っているというような場合は、こちらの方はプラスの方に出るケースもございます。恐らくそういうことだろうと思いますが、充実感の方の充実しているという水準の方が、図の1の満足の水準よりもやや高く出ているのは恐らくそういうことじゃないかと思います。  こちらは五十八年の数字がかなり急激に、これも十分充実しているという人とまあまあ充実しているというのを含めた数字ですけれども、三ポイントほどマイナスになっておりまして、これは原因調査によりますと、家族との団らんという項目が七ポイントほどマイナスになっている。それが非常に効いていろということでございます。これは、まだ一年だけの動きでございますから軽々に断ぜられませんけれども、やはり最近の家族問題に対する一つの問題点を示唆しているんじゃないかという感じがいたします。それから、今後もどうなるかという感触を聞いておりますけれども、六割弱の人は今後も大体同じようなものじゃないかという意見が非常に多いということでございます。  それからもう一方の、客観的なアプローチの方は、図の3以下にございます、これは企画庁でやっております社会指標というものでございます。これは金額表示の統計だけでなく、いわゆる非貨幣的と申しますか、金額表示でない実物的な統計指標等も集めて、全部で二百本以上の指標を組み合わせでこういう組み立てをやっておりまして、この組み立てがどうなっているかというのが、この一番最後に表の1というのがあると思いますけれども、Aの「健康」に始まってJの「階層と社会移動」というのに至るまでちょうど十本の柱が立っております。この十本を総合したものが前にございます図の3の「国民の福祉の推移」ということでございます。  これで見ますと、四十年代から四十五年にかけまして若干下がって、それからは五十年にかけ、さらに五十五年にかけてかなり上がって、五十六年は少し上がり方が鈍っております。これは、この指標はヨーロッパの各国がつくっておりますし、OECDでも最近国際的に集まるたけ集めてこういう指標をやろうということで、現在作業中と聞いておりますが、なかなかやはりむずかしい点は、生活の各部門をどういうウエートで総合したらいいのかというところに非常にむずかしい問題がございます。この経済企画庁の指標も、そういう意味では十本の指標一つ一つの動きはかなりその意味で、まあ正確と言うと語弊がございますが、一つの傾向をあらわしておりますけれども、この十本を単純算術平均しているわけでございます。  そこにやはり難点がございまして、たとえばほかの指標が全部前の期と変わらなくても、一つだけ、たとえばEのところにございますように、所得や消費の伸びが一割伸びたといたします。その反面交通事故とか盗難その他の犯罪が一割ぐらいふえるというようなことがありますと、両方の指数がちょうど相殺されてしまって平均は変わらないということになるわけで、その十本の柱のウエートというものが実は非常に問題なんですけれども、そこはいまのところ解決されていないわけでございます。したがって、この総合指標が一ポイント上がった、下がったといって余り気にするのはむしろ誤解を招く感じがいたします。大ざっぱな感触として受け取っていただきたいということと、それから、この十本の指標の中はかなりやはりいろいろな問題を含んで示唆しているわけでございます。  その図の4をごらんいただきますと、ここに真中のところに一本の線で「上昇率」というグラフがございます。これはどういうことかというと、前の図の3で、この指数の中で五年間の上がり方を年率換算したものがこの上昇率でございます。だから非常に線が鋭角的に出ているわけなんですけれども、五十-五十五年にかけては非常に上がりまして、それがその次はずっと下がっておりますけれども、これはその指数自身が下がったのではなくて、上昇率がこれだけ鈍化したという意味でございます。  では、この上昇率はどうやって出るのかと申しますと、ここにゼロの線を境にして上の方と下の方に柱が立っておりまして、ゼロより上にあるプラスのところの柱の高さとマイナスの方の柱の高さとの差額がこの上昇率になる仕組みになっております。ですから、四十-四十五年のところはちょうど上の方と下の方が同じぐらいの長さで、やや下の方がマイナスが大きいものですから上昇率がマイナス〇・一%ということになるわけですが、そういうことで内訳を見てまいりますと、なぜこのころこんなに――FとGというのが指標を下げた二本柱になるんですけれども、Fの方は御存じの公害問題、環境問題が非常にこの時期に悪化したわけでございます。それからGというのは個人の安全とか法の執行ということで、これは実は交通事故が非常にふえた時期でございます。その二つが効いて、上昇率をむしろマイナスにしてしまったということでございます。  その次の五年間では、交通事故が非常に急減したのです。そのためにGの方が上に上がりまして、公害の方は四十年代の後半、四十七、八年ごろに恐らく非常に精力的。に立法化されましたので、その効果はその翌朝まで持ち越されております。  五十-五十五年にかけての三本目の柱を見ていただきますと、このFというのが上の方の柱のプラスの方に変わりまして、これが非常に大きな面積を占めております。そういうことで、国民生活全体を見たときに、どういう時期にどういう面の対策が進んで効果が上がったかということが比較的わかりやすく示されている図ではないかというふうに思います。  それから、五十五年から五十六年にかけては、またこれは一年だけの動きでございますので五年ぐらいたちませんと前とは正確に比較できないのですけれども、ごく最近はやはり景気の芳しくないということもありまして、Cはこの図では雇用と勤労生活の質ということでございますけれども、この辺がマイナスになったり、それからHというのは、一番左の柱の一番下に小さくありますが、家族がHでございまして、やっぱり少年非行の問題とか、家族関係、離婚がふえるというようなことで、Hが非常にマイナスになって出ております。そういうこともあって、Gあたりはかなりプラスの方に働いておりますから、全体として上昇率がかなり鈍ってきているという状況でございます。  それから、このレジュメに戻りまして、以上が「国民生活現状評価」をざっと見たところでございます。  「今後の変化を促す要因」というのがその次でございますが、一昨年、経済審議会の中に長期展望委員会という委員会が設けられまして、「二〇〇〇年の日本」という作業が行われました。私も委員として関係いたしましたが、二〇〇〇年の日本を展望して条件変化の三つの柱を打ち上げておりまして、一つは国際化、一つは高齢化、一つは成熟化と、この三本でございます。先行き不透明と申しますか、視界ゼロの世界情勢、日本の情勢で、いま先行きのことを余り明確にオールオーバーで青写真を描くことは大変むずかしいことは言うまでもないわけでございます。  そういうことで、「二〇〇〇年の日本」の作業も、二〇〇〇年時の日本のあらゆる部面の数字を明確に打ち出すというようなことは初めから考えておりませんで、むしろ二〇〇〇年に至るこれからの十年、二十年の間にどういう問題が起きるか、どんな方向経済なり生活が動いていって、その過程でどんな問題が起き、どんな対策が必要になるだろうかというところに主要な作業の目的があったわけでございます。したがって、数字についてはごく部分的にしか出ていないわけでございます。  この間発表されました「一九八〇年代経済社会の展望と指針」というものも、昔の経済計画ですと、何年か先の経済生活の動きをかなりビビッドに青写真をかくことが例だったのですけれども、これもこういう状況なものですからそこまでは踏み込まないで、展望と指針という抽象的なところにとどめざるを得なかったようでございますが、そういう状況でございますので、きょう国民生活の展望という大変りっぱなテーマでお話をするにいたしましても、内容的に、たとえば十年後、二十年後の国民生活のオールオーバーの青写真をとても示すような用意もないわけでございますので、大体そういう趣旨で、特に国民生活という視点にしぼって、どういう姿で動きそうか、どういう問題が起きそうかというようなことをお話するわけでございますが、多少この「二〇〇〇年の日本」の三本柱と違いまして、国民生活にしぼるという視点で整理をいたしますと、レジュメに示しましたように、私なりに整理いたしましたのがこの六本でございます。  この六本は、実は初めの(1)、(2)、(3)というのは現在すでにかなり進みつつあるもの、進みつつある傾向、国民生活にとって進みつつある方向でございます。これは今後もやはり続くわけでございます。それから、(4)から(6)までは、ものによっては始まっておりますけれども、むしろ今後テンポが速まる、今後にピークが来るというような感じ。しかもこれは早くピークの来る順序、――(4)と(5)はそうも言えないかもしれませんけれども、(4)の方は比較的早く始まる。それから、(6)の高齢化に至っては、実は来世紀、二〇二〇年ぐらいが実はピークでございます。そういう意味で、いまじわじわと始まり、非常に長期にわたって、しかも後ろに行けば行くほどテンポが速くなる、そういうような順序になっております。  まず、「既に進みつつあるもの」のグループの第一は、所得制約の強まりということでございます。昔は、いわゆる高成長時代は、実質成長率一〇%以上というようなことでございましたが、その後どんどん成長率が鈍ってきて、最近は三年続けて三%台というようなことでございます。当然一人当たりの所得の伸びが鈍化しております。  しかも、昨年の国民生活白書でも、実質任意可処分所得というような新しい概念を打ち出しておりますが、どういうことかと申しますと、一人当たりの名目所得というものは実は物価騰貴によって実質化する必要がある、本当の購買力を図るには実質所得というものがむしろ問題である。これは当然なことなのですが、それに加えて最近特に、今後にかけても、税金とか社会保険料負担というものは強制的にこれは取られる部分でございますから、これを差し引いたものが実はいわゆる可処分所得――個人的に処分し得る所得という意味で可処分所得と言われるわけでございます。  その中で、この間の白書が言っておりますのは、さらにまた個人や世帯の自由にならない部分が相当ふえてきているということで、たとえばローンの支払いとか、月賦の支払いとか、任意の保険料の支払いとか、過去においては、確かに自分がローンを借りて何か買うというのは自分の任意の行為で選択の結果ではあるんですけれども、一回選択をしてしまうと、後の支払いというものはこれは強制的に取られるのと同じことで、任意でなくなってしまう。そういう部分が非常にふえてきて、それらを差し引くと、実質任意可処分所得というものはほとんどふえていないというのがこの間の白書の分析で、それがやはり最近の生活のなかなか余裕が生じないという、窮乏感と言うのもやや言葉が強過ぎますけれども、さっぱり余裕が生じない生活の実感というものをかなり正確に数字の上であらわしたんじゃないかという感じがいたします。  今後につきましては、いままで参考人の方からお話があったかと思いますけれども、まだまだ日本経済の潜在成長力というものはそう諸外国に比べて低いとは思われません。したがって、政策よろしきを得れば、これは「二〇〇〇年の日本」の作業もそうでございますけれども、波があっても平均すると四%ぐらいの成長は十分可能であるし、しなければならないということなんですけれども、それにしても、やはり税金なり社会保険料負担というものは中長期的にふえていかざるを得ない。したがって、ゼロ・サム社会とは言いませんけれども、従来とはかなり違った少ないプラスをみんなで分け合う、分け合わざるを得ない経済社会というものが当分続かざるを得ないんじゃないかということでございます。  それから、二番目が女性の職場進出ということでございます。  女子の就業者というのは、農業や商業を含めましたいわゆる自営業の家族労働者もございますけれども、主力はやはり雇用者でございます。いわゆるサラリーマンとしての女性でございます。最近非常に女子の雇用者がふえておりまして、五十七年の数字では一千四百万人ということになっておりまして、これは約二十年前、ちょうど日本高度成長が始まる直前、三十五年ごろは七百四十万だったそうでございますから、ほとんど倍になっております。しかも、最近の動きとして中高年が非常にふえている。主婦が六割と言われております。それからもう一つの特徴としてパートが非常に多い。パートというのは、統計上は週で三十五時間未満の労働を言うのだそうですが、これは二十年間、三十五年から五十七年の間に五倍にふえている。やはり賃金が安いし、女子のパートとしての職場が非常にふえてきたということがあると思いますけれども、そういうことで非常にやはり女性の職場進出というものが顕著に進んでおります。今後も恐らく女性の職場進出は続くだろうと思います。大企業では、なかなか四年制の大学女子の卒業生が就職で苦戦しておりますけれども、そういう事情はあるにしても、全体を通して見ますとやはり女性の職場進出というものは今後もさらに続くということは衆目の一致するところでございます。  その理由は幾つかございますが、一つはやはり女性向きの職種、職場がふえるということ、これはいわゆるいままでの商業、サービス業はもともと、特にサービス業女性向きの職場も多いわけでございますけれども、それも今後はますますかたかな職種という、近ごろはかたかな職業というのがよくもてておりますけれども、かたかな職業というのはわりに女性に向いた職場でございまして、そういうのがますますふえるということもございます。これは一つはやはりサービス化、情報化の影響でもございます。  それから二番目の要因としては、家事の省力化、家庭労働というものが今後情報化時代を迎えることによって一層進むだろう。掃除、洗濯、料理等がさらに自動化される面がふえてくるというようなこともございます。さらにリモコン化が可能になって、職場に行って外に出ていても、そういうものがリモコンによって自分のうちの機器を動かしたりとめたりすることができるようになるというようなことがございます。それから、省力化によってもちろん外に出ていく余裕が生ずるということがございます。  それから三つ目のファクターは、生活水準の維持向上欲求と申しますか、一番最初に申しましたように、所得制約が強まるとなりますと、一方において欲望水準というものは無限にふえる。周りが買うとどうも自分のうちも買いたくなるというようなことでございまして、やはり多少つらくても一緒に共働きで職場に出ていきたい。それから、今後年金などもございまして、やっぱり二人で勤めていると将来非常に有利であるというような計算が当然出てくると思います。そういうことで、この辺の収入面の問題、それから将来に対する不安感を少なくするというようなことも含めて、この辺が第三番目のファクターかと思います。  それから四番目には、いままでは女性というものは一時就職しましても結婚をするときにやめたり、あるいは子供が生まれるときにやめてしまうというのが非常に多かったんですけれども、今後はやはり子供が生まれて育児のある段階までは仕事をしないでいても、その後手がすいてくるとまた勤めるというケースが相当ふえてくるだろうということです。企業サイドから見ましても、やっぱり前勤めていたという人は一種の親近感もありますし、仕事の内容も知っているし、信用もできるというようなことがありますから、恐らくそういう形で前の企業に勤めるというようなシステムが整備されていくだろう。それから、前の企業と限らなくても新しい仕事であっても、やっぱり育児が済んだ後でもう一回勤めようというような人もふえてくる。  そういうような幾つかの要因が重なって、やはり今後とも女性の職場進出というものは相当進むであろうというふうに考えられます。これはやはり今後の国民生活あるいは家庭生活を考えます場合に、非常に大きなファクターであろうというふうに思います。  それから、三つ目はサービス化でございまして、この辺は、午前中に高原さんからも、消費の内容等につきましては、消費や貯蓄のお話いろいろあったというふうに伺いましたので、時間もございませんので詳細は省略いたしますけれども、この「二〇〇〇年の日本」の産業別の就業者数の割合で見ましても、一次産業というものは、一九七〇年一七%であったものが一九八〇年は一〇%に、七%も減っております。これが二十年先の二〇〇〇年には五%という数字、絶対数はこれはいまよりも減るということでは必ずしもないんですけれども、全体の人口がふえますから割合としては半減するという数字を出しております。二次産業というのはこれは三五%ぐらいでずっときて、二〇〇〇年でも三三%で、若干は減る程度でございまして、もっぱらふえるのは三次産業、一九七〇年が四七%で、八〇年が五五%、これが二〇〇〇年には六二%ということで非常に大幅にふえる。つまり一次から三次に主としてウエートの移動が起こるということでございます。  この場合の三次というのは、統計上は実は電気、ガス等も入っておりますが、これは目には見えませんけれども、一種の物の生産、販売でございますから、販売の部分は別とすれば本当のサービス業じゃございません。いずれにしてもしかしこれはウエートがごくわずかなので、この三次産業の就業者の伸び、ウエートの増加というものは、大体そのままサービス産業、広い意味サービス産業のウエート増加と考えていいかと思います。  しかも、この中で、広い意味サービス産業の中で狭義のサービスというものが特に最近ふえているわけでございます。広い意味サービス産業は、たとえば金融、保険あるいは不動産、運輸、通信、卸小売業というようなものが広い意味サービス産業に入りますけれども、そのほかにこの狭い意味サービス産業というものがございまして、これがやはり今後むしろ非常にウエートを増していくと思われる業種でございます。  これは一つは、やはり経済の発展段階、経済が発展するに応じて所得水準が上がりますと、消費者の需要が物からサービスに移る、これはもう午前中にお話があったかと思いますが、そういう動き。それから、企業の減量のためにある部分について外部化する、外の会社に頼むというようないわゆる外部化の動き。それから、同じく家庭においても家事サービスの外部化、共働きの人があるいは老人がふえますと、外食がふえたり、あるいは食事も外から運んでもらうというような産業が出ておりますけれども、そういう家事サービスの外部化ということもございます。それから四番目には情報化、いわゆるコンピューターソフト――コンピューターのハードの方は当然その製造は製造業でございますけれども、ソフトの方はサービス業でございます。したがって、情報化によってサービスのウエートがふえるということでございます。こういうふうな要因で今後もやはりサービス化というものは進むということは間違いないわけでございます。  「二〇〇〇年の日本」の中で今後成長性の高いサービス業といたしまして、たとえば一つは、対個人サービスとしてはスポーツ、文化等のレジャー関係サービス、それから家事代行サービスを挙げております。それから対事業所サービス会社等に対するサービスとしては情報処理サービス、それからエンジニアリング、それから対公共サービス――対公共というのもちょっとおかしいんですが、要するに公共的なサービスとして医療、教育、社会福祉関係、これらの産業を挙げております。非常にこの辺がやはり成長性の高い産業で、その結果サービス産業のウエートが高まるということでございます。  それからその次に、「今後更にテンポの早まるもの」といたしましては、情報化という言葉が出ております。これは現在すでに日本はかなりの情報化時代でございまして、マスメディアとか広告その他の情報のはんらんの中で暮らしているといえるわけでございますけれども、どうしてそれじゃ情報化が特に最近強く言われるのかと申しますと二言うまでもなくまた違った意味の情報化時代を迎えるということでございます。それはいわゆる俗に言うニューメディア時代ということでございまして、従来の情報化とどう違うのかということなんですけれども、やっぱりコンピューターあるいは光ファイバーあるいは通信衛星、そういったものの利用によって情報の蓄積とか検索とか伝達とかいう、いわゆる情報処理が格段に大容量かつ高速に行われるようなるというところが新しい情報化という言葉の意味ではないかというふうに思います。  最近、非常に新聞紙上等をにぎわしておりますが、キャプテンとか都市型のCATVとか、もう実験が始まりつつあり、キャプテンはことしの秋からでございますが、都市型テレビにしても会社がどんどんつくられているというふうな状況でございます。それからファクシミリサービスとかセキュリティーシステムというふうなものもこれはすでに一部実用化されておりまして、特にこのセキュリティーシステムというものは、御存じだと思いますけれども、家の中にセンサーを仕掛けておいて、防犯とか防火の何か異常が起きたときには中央のセンターにすぐに連絡が行くようになっているわけです。  それから東京都あたりでやっておりますように、ひとり暮らしの老人にペンダントを下げさしておいて、何か緊急のときにはそれを押しますと、すぐに駆けつけるような、そういう一種の情報システム、こういうふうなものが一部実用化されておりますが、今後やっぱりこういうものが非常に全国的に広がっていくんじゃないかというふうに思います。  それからINSといいますか、高度情報通信システム、これも今秋実験開始されて、二十一世紀にかけて全国的にいま電電公社がネットワークを敷くべく準備をしているというような状況でございます。  こういう新しいいろいろなメディアあるいは機器によって一体家庭生活にどんなサービスが新しく加わるのかということをざっと整理してみますと、一つは、やはりハウスコントロールでございます。家電機器とか住宅設備機器等が自動化されあるいはリモコンされて、監視したり制御したりすることができるようになる。それから自動――自然についたり消したりすることもできるというふうなこと、それからエネルギー管理等もメーターが自動的に管理できる体制ができる。それからいま申しましたセキュリティー、これは警報とか異常個所を表示するとか何か起こったときにすぐにしかるべきところに連絡できるようなセキュリティーシステム、それからよく言われておりますホームショッピング、ホームバンキング、それから予約一般――交通機関とか宿泊、ホテル等の予約あるいは演劇、映画、音楽会等の予約等が自宅でできるようになる。  それから健康管理、いわゆる在宅検診、いろいろ自分の体についても自動的に計数がすぐにあらわれるような機器もできるかと思いますが、同時に、それをお医者さんのところにすぐに連絡して簡単な診断をしてもらうというふうなことができるようになる。  それから在宅就業といいますか、会社に行かなくても自宅でいろいろ仕事ができるようになる。これはまあしかし一部の職種に限られると思いますが、同時に、自宅でなくても、よく言われておりますように、サテライトオフィスというようなことで、自分のうちの最寄りの駅の、たとえば私線と山手線が接続する駅のあたりに中央の会社から離れたサテライトオフィスみたいのものができて、そこに通勤することによってかなり通勤時間が節約され、しかも会社、ヒューマンリレーションというものもある程度保たれるというようなことは相当進む可能性はございます。  それから在宅学習、学校でも一部コンピューターいま取り入れられたところがございますけれども、これがさらに進みますと、自分のうちにいてもそういう勉強ができたり、学校教育はもちろん当然でございますけれども、それ以外にいろいろなプラスアルファの学習ができ、あるいは学校を卒業した後の生涯学習、成人が学習することもできる。その他知識の修得が可能になるということがございます。  それから娯楽面でも、テレビゲーム等がこれは最近かなりはやってきておりますけれども、そういうものとか、あるいはテレビ等で放映したスポーツなり映画なり演劇なりの再放送なんというのは、自由に自分の選択でできる。  それから、遠い将来は恐らく自動翻訳器というようなものもできて、それを持っていくと、どこの国へ行っても、一番望ましいのはやはり音声で入力して音声で出力するような翻訳器ができますと、私などは非常にこれはありがたいと思うんですけれども、何年先かわかりませんけれども、やっぱりそういうものがだんだんできてくるんじゃないかと思います。  それからコミュニケーション関係で、やはりテレビ電話というようなものは当然可能になりますし、それからいろいろコミュニティーのサービス、行政サービステレビ画面を通じてサービスしたり、あるいは地域団体の連絡、通知等が行われていることがございます。  それから情報サービスとして生活情報、消費者情報というようなものが、常に新しいものにテレビ画面等を通じて連絡、情報提供されるということがございます。  こういうような、いわゆる長い目で見ますと各種のサービスが可能になって、大変ユートピアみたいな絵がよく出ておりますけれども、一体消費者は本当にどういうところに一番期待しているかというところが問題でございまして、本当のニーズがどれだけあるかというところがかなり問題がございます。  これは五十八年に、やはり総理府で世論調査をいたしました結果によりますと、新しいサービスシステムができた場合に、利用したいものはどういうものかということで聞きましたところが、やはり一番多いのは在宅検診とかホームナースの機能、これは六三%ということで、やはり健康関係が非常に期待されているということです。その次はホームセキュリティー、先ほど申しました安全関係のホームセキュリティーとかホームコントロールの機能、これが五二%。それからホーム予約、これが四六%というようなことで、ホームショッピングとかバンキングとかというのは三割ちょっとということで、相対的にはわりに人気が低い。やっぱりショッピングというのは自分で行って、いろいろ歩き回って選択するというところに楽しみがございますから、特に日本の場合、アメリカなんかと違ってすぐ近くにいい店もあるというところが多いわけですから、通信販売なんかが非常に発達したアメリカとはかなり事情が違うんじゃないかという感じがいたします。  それにしてもはっきり言えますことは、老人とか身障者あるいは共稼ぎの奥さん、そういう人なんかにとっては、やはりこういういろんな手段でショッピングなんかができるということは非常にプラスであり、便利であるということは間違いないと思います。その反面、やはりそれだけそろえようと思いますと、かなり設備費がかかるということ、さらに経常費も当然ある程度かかるということ、それから信用販売が非常にふえて、信用情報というようなものがコントロールされますと、非常にやはりプライバシーの問題というようなところにマイナスが出てくる危険性がございます。  それから日本人、まあ外人もそうかもしれませんけれども、何となくコンピューター信仰みたいなものがありまして、いままでですと、コマーシャルで、はっきりこれはコマーシャルという意識のもとに見ていますからそうでないんですけれども、ああいう形でなくて、何となくこういうものを買いたいというと、どこかの百貨店なりどこかのメーカーのものがコンピューターなりテレビを通じて出てくると、非常に信用しやすいといいますか、何となく誘導されてしまう、そういう危険性というものもございます。それだけに、やはり正しい情報の伝達というものが非常に大事になるんじゃないかという感じがいたします。  それから、これは精神的なものになりますけれども、怠け者がふえるということは当然出てくる。何でも便利になり過ぎると怠け者がふえますし、それから個人主義といいますか、自分だけで閉じこもって楽しむというようなことになりますと、それだけ家族の間のコミュニケーションが減ったり、そういう精神的なマイナスというものが出てくる可能性が十分ございます。  それから五番目が国際化でございまして、これは実は消費者にとっては、私は国際化というのは非常にメリットの大きいものであるというふうに割り切っております。何といっても商品サービスに対する選択の幅が広がります。高級品が余り制限されておりませんからあれですけれども、一番問題はやはり安い商品なりサービスなりが日本人の消費者の手に入りやすくなるということ、それからもう一つは、同種の国産品の値下げを促すということ、その両面からやはり国際化なり自由化なりというものは基本的に消費者にとっては非常にプラスの大きいものであるということははっきり言えるのではないかと思います……
  57. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ちょっと参考人にお願いいたしますが、四十分の時間を大分もう超過しておりますので、あとはひとつ簡潔にお願いしたいと思います……
  58. 小島英敏

    参考人(小島英敏君) はい。  注意しなければいかぬ点は、添加物とか検疫問題で安全性がどうかということは、これは十分注意する必要がある。  それからもう一つは、最後に申します経済的安全保障との関係で、何でもかんでも自由化すればいいという経済合理主義だけで割り切れない点に十分注意する必要があるという二点でございます。  それからもう一つ、消費者としてはそうなんですけれども、生活者としてどうかという観点に立ちますと、国際化というものは非常に産業にとって――農業もそう、金融業もそうですが、流通業もそうだと思いますけれども、相当大きな産業成長、衰退の波にさらされるということなんですね。したがって、自分の家が何をやっているかということによって国際化というものが非常に大きくやはりプラスの人とマイナスの人が出てくる。消費者としてはプラスだけれども、生活者として収入のことを考え、あるいは雇用のことを考えると、非常にやはり大きな問題を含んでいるということでございます。  それから六番目が高齢化でございまして、これはあちらこちらでたくさん言われておりますので、時間もございませんから省略いたしますが、特にやもめ老人が非常にふえるということ、それから寝たきり老人が倍近くふえるというようなことが非常にやはり問題。それのための財政負担、もちろん家庭の負担もございますけれども、両方で分け合っていかなきゃいかぬということで、言うまでもなく年金問題も通じまして財政面に大きな問題を与えるということでございます。医療等もやはり老人は普通の人の四倍ぐらい一人当たり医療費がかかると言われておりますから、非常にやはりお金がかかるということでございます。  それから三番目が「国民生活の展望」でございますが、これは時間もございませんので、先ほどの表の1を見ていただいて、十項目が一体どんな感じで今後考えたらいいかということなんですけれども、かなり大胆かとも思いますけれども、私なりの感触を申し上げますと、健康というのが、これはやはりがん対策が相当今後五年、十年の間に進みますし、がん問題以外にもライフサイエンスの発達等によりまして、平均寿命がある程度延びると思いますから、これはやはり確実に上の方に、いい方に向かうということだと思います。  それから、教育、学習、文化のあたりは、これはいわゆる第二次の団塊の山代、いま十歳以上のあたりが第二次の団塊の世代で非常にふえているわけですが、それが大きくなるに従っていろいろ教育環境というものがある段階が悪くなり、それが過ぎると今度は、たとえば教師一人当たりで何人の生徒を持つかというような指標というものは、その団塊の世代が過ぎますと今度はよくなっていくということがございますから、いろいろこれはむずかしい問題があると思いますけれども、どうも学校教育についてはなかなかプラス、マイナス言いにくいんですけれども、学校教育以外の面は明らかにこれは情報化によって生涯教育その他の面を含めてプラスが出てまいると思いますので、これもやはり緩やかながら上昇ではないかと。  それから雇用、勤労生活、これは特に中高年者が非常に問題でございますので、なかなか明るい見通しがつきにくい面がございまして、横ばいかむしろ若干マイナスの可能性があるということでございます。  それから余暇の万は、これは間違いなくDの1というのもDの2というのも上昇でございますからプラスでございます。  それから五番目の所得。消費、Eの2というところ、これは所得とか資産格差の縮小という項目で、これは先ほど申しましたように、産業別によってあるいは企業別によって格差が拡大する可能性がかなりありますので、この部分はマイナスになる可能性がございますけれども、その他のところは大体なだらかな上昇と考えられますので、これも全体としては緩やかな上昇でございます。  それから、物的環境の方は、これはいわゆる社会資本という面は、これは全体は、マイナスシーリング等がしばらくございますけれども、生活関連の社会資本は明らかに伸びておりますから、生活環境としては、物的なハードの面は間違いなく少しずつよくなると思うんですけれども、一方環境の方はなかなかこれ問題が多うございまして、一時に比べるとずいぶんよくなりましたけれども、今後もどんどんよくなるかというとかなり問題で、むしろマイナスになる可能性もございます。過密列島でございますから、むしろ多少マイナスを見込んでおいた方が可能性が高いんじゃないかというような感じがいたします。結局、両方相殺いたしますと、物的環境は横ばいという感じでございます。  それから安全性は、これはどうもやはりいまよりも多少悪くなる。犯罪は、ある本によりますと十年後には日本は、いまニューヨークが犯罪都市ニューヨークと言われておりますのが、犯罪都市東京ということになるだろうと書いてございますけれども、私はそうは思わないんで、件数は若干ふえておりますけれども、内容は窃盗とか横領とかそういうものが多いんで、凶悪犯というものはむしろ減少傾向にございますから、今後楽観できませんけれども、そんなに犯罪都市東京というほど悪化するとはとうてい思えない。いまよりは多少やはり悪くなるんじゃないかと思います。  それから交通事故も、車がふえますし、お年寄りがふえますから、これもやはり若干のマイナスではないか。そうしますと、安全性のところはこれも若干下向きの傾向ではないかと思います。  それから家族につきましても、家族の機能に期待するところが非常に大きいんですけれども、実際問題としてはなかなか、離婚はこれはどうも相当な勢いでふえると見られていますし、家出なんかもふえそうですし、どうもこういう指標で見る限りやはり今後も若干のマイナスが続くんではないかという感じでございます。  それからコミュニティーや生活の質、これはやはり非常にいままで都市ではコミュニティー意識が低かったんですけれども、老人もふえ、CATV等の影響も少し出てまいるというようなこともございまして、少しずつやっぱり上向きになるんじゃないかという感じがいたします。  それから階層と社会移動のあたりは、やはり先ほど申しました国際化、自由化、情報化といったような問題に伴って相当企業間、産業間の波が大きく影響されると思いますので、格差が拡大する可能性があるという感じがいたします。ややマイナスではないかという感じでございます。  以上トータルいたしますと、やや上向きのものが五本でございまして、横ばいのものが一ないし二、下向きのものが三ないし四という感じで、トータルしますとやっぱりなだらかな上昇、政策よろしきを得ればなだらかな上昇が可能ではないかというふうに思います。  最後に「政策課題」でございますが、これは特に私きょう新しい政策課題、目新しいことを申し上げる内容でもございませんので、ただこういうポイントが非常に大事だと思うという項目だけ列挙させていただきたいと思いますが、やはりマクロ政策が非常に大事だということが一つでございます。  生活、狭い意味生活充実も大事でございますけれども、ある意味でそれ以上にやはり収入なり雇用の確保というものが非常に大事で、その意味で適正なマクロ政策、適正な成長によって雇用を維持していくということがきわめて大事であると思います。同時に、先ほど申しました産業間のいろいろな大問題を控えておりますから、それに対する個別の産業対策というものが適正に、――なかなかむずかしいことではございますけれども、激変を緩和しながらうまくやはり調整していくということが非常に大事であろうと思います。  それからもう一つ、マクロ政策としてやはり基本的に生活の基盤であるインフレの抑制、物価対策、長い意味での物価対策と申しますか、インフレ抑制というものが何といっても生活のもとである。特に老人がふえますと、これが大変ウエートが高くなると思います。  それからもう一つ経済的安全保障でございまして、企画庁でやりました識者に対するデルファイ調査でも、二〇〇〇年ごろに一体社会不安があるとすれば何が一番大きな問題かというと、答えはやはり食料とか生活物資の不足ということを挙げた人が一番多いんです。日本生活水準は非常に、私も二年ほど前にちょっと書いたことがございますけれども、生活水準は高いけれども、もろい。いま非常に高くなってきたけれども、非常にもろいところがあるというところにポイントがございまして、油もそうですが、食料も含めて、特に米あたりはやはり特別の感触で長期的な対策を考える必要があるんじゃないかというふうに思います。そういう意味の安全保障。  それから四番目が狭い意味生活対策でございまして、これはよく言われますように人生八十年型のライフスタイルに即応したシステムを早く整備するということ。最近、年金に対して非常に不安感と申しますか、もう年金はだめなんじゃないかというような不安感が蔓延しましたが、一つのかなり合理的な改革案が政府の中でまとまりつつあるようでございまして、早くやはりそういう意味で不安感を払拭する、年金にしろ医療にしろ。それから、特にライフスタイルとして統一的、整合的に考えるということが大事で、定年の問題とかあるいは女子の職場進出の問題等を含めましてシステマチックにそういう個別の対策を整備していくということが、非常に抽象的ではございますけれども、今後の生活政策としてのポイントではないかというふうに思います。  大変駆け足で申し上げましておわかりにくかったかと思いますけれども、あと御質問に応じて補足いたしたいと思います。どうもありがとうございました。
  59. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ありがとうございました。  以上で小島参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は委員長の許可を得て順次御発言を願います。  大分時間が超過しておりますので、御質問もお答えも簡潔にお願いをいたします。
  60. 抜山映子

    ○抜山映子君 先ほど先生が、年金が二人で働けば有利になるというので、女性の職場進出がふえるだろうということを言われました。実は午前中に、竹内先生が、いま出生率が一・七%ちょっと上回る程度で人口の非常に将来縮小することが日本の将来に非常に憂うべきことだということを言われたんですが、いま女性の年金が、働く女性の年金が、たとえば、よくある例ですが、夫婦共働きで学校の先生を両方しているという場合には、両方の年金を合わすと五十円万ぐらい入る例は珍しくないんですね。そうしますと、お隣に二十万円ぐらいのサラリーマンがいて、そして掛金は非常に高い、そして手取りは十五万ぐらいになると。片やお隣に夫婦共働きをして五十万円の年金を得て、もう住宅も手当ては済んだ、子供は巣立ったと。そういうときにやはり受益と負担のインバランスという問題が出てくる。ですから、女性はいま外に出て働いた方が子供を産むよりも老後の安泰につながるんだという意識を持っていらっしゃる方がかなり多い。そういう意味で、年金がつくられたときに、だんな様の年金で食べるのが日本の形態だというのが最近変わってきておるのに、年金がその実態に即応していないという面があると思うんですね。そこらあたり、先生、年金についての展望ありましたらお伺いしたいんですが。
  61. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) ちょっとお答えの前に、いまに関連した御質問がありますので――。  それでは、どうぞお答え願います。
  62. 小島英敏

    参考人(小島英敏君) 私も年金の専門家ではございませんので余り詳しい事情は存じないんですけれども、この間の新聞で見る限りは、私はかなりよくできた改革案ではないかという個人的な感触を持っておりますが、いままでおっしゃるように、どうも共稼ぎの場合に有利過ぎたということがあると思うんですね。この辺は、やはり今度の改革案というものはある程度合理化されていると思います。  しかも、いままでの形で気の毒なのは、離婚しちゃったような場合に、本当に奥さんの年金権が全くなかったというのはおかしな話で、国民年金に入っていれば別ですけれども、加入していないサラリーマンの人の奥さんは全く一文にもならないということになって、この辺も今度の改正で改善されますし、そういう意味ではいろいろなところがかなり合理化されたんではないかというふうに思います。
  63. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 先ほど先生が、「今後の変化を促す要因」の(4)の情報化のところで、いろいろたくさんな新しいニューメディアというようなもののお話がありましたんですが、こういうようなものが、スピードは速いか遅いかはあるにしても、いずれそういう時代になるだろうと思うんですが、問題は、そういうものを扱う労働者といいますか、従事者というのか、あるいはつくる人たちというんですか、最近のいろいろなああいうコンピューターとか、何かいろいろなニューメディアの話を聞きますと、それを扱う能力というんですかね、これがかなり早く衰えてしまう、若い人でないとそういうものは適応できないという話をよく聞くんですがね。そういう問題と先ほどの雇用の問題と、その辺が私は若干関係があるんじゃないかと言うんですが。  どうなんでしょうか、そういうニューメディア時代になって、この技術教育というのか、中高年の労働教育とか言ったらいいのかわかりませんけれども、そういうものとの関連というのはどんなふうに考えたらよろしゅうございますか。
  64. 小島英敏

    参考人(小島英敏君) 確かにプログラマーなんというのは、いま三十代でないと、――もう二十代、三十代が中心なんですね。四十代になると使いものにならないというくらい非常に陳腐化が早いわけなんですが、そういう意味では、確かにそういう問題というのは今後とも残っていくんじゃないかと思うんですね。  ただ、いわゆるコンピューター化、情報化というものが、今後も何十年もどんどんいくんではなくて、やはり今後十年とかせいぜい二十年とかいうところがピークだろうと思いますね。ですから、そうするとむしろ一々こうプログラマーがプログラムをつくっていかなくても、もっと簡単に、利用する上からは非常に簡単にできるわけですし、だから、ここしばらくはやはりそういう問題というのが続くと思うんですけれども、あるところまで行ってしまうと、またやはり別の情勢が出てくるんじゃないかというんですね。一般的に、ですから、管理職より事務職というものが中高年になると非常に供給過剰になることはまず間違いない。それをどう考えたらいいのかというのがやはり非常に大きな問題じゃないかというふうに思います。  それからもう一つは、実際にオペレートする人のやはり疲労度といいますかね、しょっちゅうテレビの画面を見て細かい数字なんかをやっている。あれも、いま黒いところに緑が出るのが多いんですけれども、色彩学から言うと、やはり黄色がいいんですね、緑でなくて。だから、恐らくこれは技術的な問題だと思いますけれども、何とかやはり技術的に一番疲れの少ない形で、しかもあんまりちらちらしない――これはだんだんよくなると思うんですけれどもね、そういうことでやはりコンピューター関係関係者の端末に携わる人を含めて、そういう人の疲労度をいかにミニマムにするかという努力が非常に大事じゃないかというふうに思います。
  65. 竹田四郎

    ○竹田四郎君 ありがとうございました。
  66. 松岡滿壽男

    松岡満寿男君 先ほどから、将来のいろいろな国民生活の変貌についてのお話を伺ったんですが、お伺いしておって確かに便利にはなるんだろうけれども、何かこう夢の持てないような話ばかりだという感じがするんです。片方でそういう便利にはなっているけれども、怠け者がふえる。あるいはいろいろとこれは個人主義的なものがどんどん増幅されていく。これはやはり過去においてわれわれの考え方というものが、そういうことを進めていけば損であるか得であるか、あるいは便利になるか便利にならないかという部分ばかり強調されてきて、そういう展望が出てきている。やはり人間本来のものをどこかに忘れてしまっているという感じがしないでもないわけなんですね。  それで、現状われわれの生活を見ていますと、過去の快適温度というものが御承知のように十七度であったものが二十五度に変わってきている。人間としての自然に対する適応能力というものも低下してきているんですね。いろいろ便利にはなってきているけれども。  そういう中で、先ほどぼけ老人の問題が出ておりましたけれども、過去それでは老人はおらなかったかといったら、おったわけです。ぼけ老人というもののウエートが非常に少なかったんですね。それはそれなりに、家族の中で家族に迷惑をかけてはいけないという意識がやはり老人を支えておった部分が私はあっただろうと思うんです。だから、そういう問題をいろいろ考えてみますると、こういう一種の人間としての退化現象というものがずうっとこう出てきて、それを助長する部分がありはしないかということを非常に危惧をするわけなんですけれども、やたら受け身の人間ばかりつくってしまっている。いわゆる過去のいろいろな価値観の中で、自己抑制であるとかそういうものがもう全然なくなっていっちゃっておるんじゃないか。これはやはり国民生活の面から見ると、国民生活センターの方ではそういうものについての歯どめというものを何かお考えになっておられるのかどうか。それがあればひとつお知らせをいただきたいと思うんですけれどもね、まあひとつお願いいたします。
  67. 小島英敏

    参考人(小島英敏君) きょうは時間もございませんので省略した非常に大きな問題というのは、いま御指摘のあった心の問題だと思うんですね。  最近のやはり意識調査なんか見ましても、今後の生活の何といいますか、ポイントというものを物的な豊かさから精神的な豊かさに置いていきたいというウエートがだんだんふえているわけです。やはり物的なものが、あるところまでいきますと、精神的な荒廃というもののマイナスが強く意識されて、そういう一種の転換が部分的に起こりつつあるということだと思うんですけれども、やっぱり私は教育だと思うんですね、そのポイントは。それで、心の問題に踏み入って、たとえば生きがいをどうするかということをこれ政府でも考えようかというような話が首あったこともございましたけれども、やはり生きがいをどう見つけるかというのは個人個人の問題ではないか。なかなか政策の中には入りにくい問題。  ただやはり、男も女も老後の自由時間というものが非常にふえることは間違いございませんから、広い意味のレジャーですね、自分のやはり教養を高めたりすることも含めて、そういうものに対するニーズというのは間違いなくこれはふえますから、そういうことに対して環境整備というものは国なり地方団体なりが相当力を入れなければいかぬと思いますけれども、精神的な内容については、やはり私は小さいときからの、いま幸いにして非常に教育のあり方というものが基本的に問われつつございますけれども、非常にいい機会で、やはりその辺から相当時間をかけてやらなければいけないんじゃないかということで、どうもいま国民生活センター、大変国民生活何でも受け持つような大変りっぱな名前はついておりますけれども、とても心の方までは手が及ばないという状況でございます。
  68. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 以上で小島参考人に対する質疑は終わりました。  小鳥参考人には、お忙しい中を御出席いただきまして大変緻密な内容の充実したお話をありがとうございました。  ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の本委員会調査参考にいたしたいと存じます。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)  速記をとめてください。    〔午後四時一分速記中止〕    〔午後四時四十六分速記開始〕
  69. 寺田熊雄

    委員長寺田熊雄君) 速記を起こして。  大変きょうは御熱心に勉強をしていただき、また御発言をいただいてありがとうございました。  本日の調査はこの程度にとどめて、これにて散会をいたします。    午後四時四十七分散会