○
参考人(小島英敏君)
国民生活センターの小島でございます。
きょう与えられましたテーマが、
国民生活の展望という大変広範かつむずかしいテーマでございまして、お役に立つようなお話ができるかどうか、はなはだ疑問でございますけれども、与えられました時間しばらくお話し申し上げたいと思います。
国民生活の全体像を数字の上で見るということは大変むずかしいことでございます。大別いたしますと、主観的といいますか、
国民の意識
調査の面からアプローチする方法と、それから意識とか心理とかというものを離れた客観的なデータの集積によってアプローチする方法と、二つの方法が考えられるわけでございます。
主観面からのアプローチといたしまして、きょうお手元にお配りしてございます最初の図の1というのがございますが、これは、御存じの方も多いと思いますけれども、毎年総理府でやっております「
国民生活に関する世論
調査」、つまり
国民の意識
調査でございます。これによって九割弱が中流意識を持っているということがよく言われております。
最近の動きも、図の1でごらんいただきますように、「暮らしに対する満足度」というものは、四十九年にかなり満足が減り、不満がふえましたが、これは御存じの第一次オイルショックの後でございます。これがおさまりましてからはだんだんに満足の人がふえ、不満の人が少しずつ減るということできておりまして、ところが、五十五年になりましてからまたちょっと逆転しておりますが、これが二次のオイルショックの後でございます。二次のオイルショックは五十三年から始まりましたけれども、物価等に影響してまいりましたのが五十四年でございまして、むしろ五十四年に入ってから後半かなり上がったということがあって、この
調査の上では五十五年にそういう現象があらわれているということでございます。その後またなだらかにいい
方向に向かっている。
ただ、ごく最近、五十八年の数字が若干下がっておりますが、この満足という方は六五%の人が十分満足しているということではございませんで、十分満足している人と一応まあまあ満足しているという者を含めております。それから不満の方も、きわめて不満な人と、まだまだ不満だという、プラスの方もマイナスの方もまだまだとか一応とかいうのが非常に多いんですけれども、それを含めましたものでございます。
それから第二表、図の2は「
生活の充実感」でございまして、これは満足。不満というのもかなり主観的なものでございますけれども、充実感の方になりますと、一層ある
意味では主観的で、
生活一般についてはどうも不満が多いけれども、たとえばある人は仕事について非常に充実感を持っているというような場合は、こちらの方はプラスの方に出るケースもございます。恐らくそういうことだろうと思いますが、充実感の方の充実しているという水準の方が、図の1の満足の水準よりもやや高く出ているのは恐らくそういうことじゃないかと思います。
こちらは五十八年の数字がかなり急激に、これも十分充実しているという人とまあまあ充実しているというのを含めた数字ですけれども、三ポイントほどマイナスになっておりまして、これは原因
調査によりますと、家族との団らんという項目が七ポイントほどマイナスになっている。それが非常に効いていろということでございます。これは、まだ一年だけの動きでございますから軽々に断ぜられませんけれども、やはり最近の家族問題に対する
一つの問題点を示唆しているんじゃないかという
感じがいたします。それから、今後もどうなるかという感触を聞いておりますけれども、六割弱の人は今後も大体同じようなものじゃないかという
意見が非常に多いということでございます。
それからもう一方の、客観的なアプローチの方は、図の3以下にございます、これは企画庁でやっております社会指標というものでございます。これは金額表示の統計だけでなく、いわゆる非貨幣的と申しますか、金額表示でない実物的な統計指標等も集めて、全部で二百本以上の指標を組み合わせでこういう組み立てをやっておりまして、この組み立てがどうなっているかというのが、この一番最後に表の1というのがあると思いますけれども、Aの「健康」に始まってJの「階層と社会移動」というのに至るまでちょうど十本の柱が立っております。この十本を総合したものが前にございます図の3の「
国民の福祉の推移」ということでございます。
これで見ますと、四十年代から四十五年にかけまして若干下がって、それからは五十年にかけ、さらに五十五年にかけてかなり上がって、五十六年は少し上がり方が鈍っております。これは、この指標は
ヨーロッパの各国がつくっておりますし、OECDでも最近国際的に集まるたけ集めてこういう指標をやろうということで、現在作業中と聞いておりますが、なかなかやはりむずかしい点は、
生活の各部門をどういうウエートで総合したらいいのかというところに非常にむずかしい問題がございます。この
経済企画庁の指標も、そういう
意味では十本の指標
一つ一つの動きはかなりその
意味で、まあ正確と言うと語弊がございますが、
一つの傾向をあらわしておりますけれども、この十本を単純算術平均しているわけでございます。
そこにやはり難点がございまして、たとえばほかの指標が全部前の期と変わらなくても、
一つだけ、たとえばEのところにございますように、
所得や消費の伸びが一割伸びたといたします。その反面交通事故とか盗難その他の犯罪が一割ぐらいふえるというようなことがありますと、両方の指数がちょうど相殺されてしまって平均は変わらないということになるわけで、その十本の柱のウエートというものが実は非常に問題なんですけれども、そこはいまのところ解決されていないわけでございます。したがって、この総合指標が一ポイント上がった、下がったといって余り気にするのはむしろ誤解を招く
感じがいたします。大ざっぱな感触として受け取っていただきたいということと、それから、この十本の指標の中はかなりやはりいろいろな問題を含んで示唆しているわけでございます。
その図の4をごらんいただきますと、ここに真中のところに一本の線で「
上昇率」というグラフがございます。これはどういうことかというと、前の図の3で、この指数の中で五年間の上がり方を年率換算したものがこの
上昇率でございます。だから非常に線が鋭角的に出ているわけなんですけれども、五十-五十五年にかけては非常に上がりまして、それがその次はずっと下がっておりますけれども、これはその指数自身が下がったのではなくて、
上昇率がこれだけ鈍化したという
意味でございます。
では、この
上昇率はどうやって出るのかと申しますと、ここにゼロの線を境にして上の方と下の方に柱が立っておりまして、ゼロより上にあるプラスのところの柱の高さとマイナスの方の柱の高さとの差額がこの
上昇率になる仕組みになっております。ですから、四十-四十五年のところはちょうど上の方と下の方が同じぐらいの長さで、やや下の方がマイナスが大きいものですから
上昇率がマイナス〇・一%ということになるわけですが、そういうことで内訳を見てまいりますと、なぜこのころこんなに――FとGというのが指標を下げた二本柱になるんですけれども、Fの方は御存じの公害問題、環境問題が非常にこの時期に悪化したわけでございます。それからGというのは個人の安全とか法の執行ということで、これは実は交通事故が非常にふえた時期でございます。その二つが効いて、
上昇率をむしろマイナスにしてしまったということでございます。
その次の五年間では、交通事故が非常に急減したのです。そのためにGの方が上に上がりまして、公害の方は四十年代の後半、四十七、八年ごろに恐らく非常に精力的。に立法化されましたので、その効果はその翌朝まで持ち越されております。
五十-五十五年にかけての三本目の柱を見ていただきますと、このFというのが上の方の柱のプラスの方に変わりまして、これが非常に大きな面積を占めております。そういうことで、
国民生活全体を見たときに、どういう時期にどういう面の対策が進んで効果が上がったかということが比較的わかりやすく示されている図ではないかというふうに思います。
それから、五十五年から五十六年にかけては、またこれは一年だけの動きでございますので五年ぐらいたちませんと前とは正確に比較できないのですけれども、ごく最近はやはり景気の芳しくないということもありまして、Cはこの図では
雇用と勤労
生活の質ということでございますけれども、この辺がマイナスになったり、それからHというのは、一番左の柱の一番下に小さくありますが、家族がHでございまして、やっぱり少年非行の問題とか、家族
関係、離婚がふえるというようなことで、Hが非常にマイナスになって出ております。そういうこともあって、Gあたりはかなりプラスの方に働いておりますから、全体として
上昇率がかなり鈍ってきているという状況でございます。
それから、このレジュメに戻りまして、以上が「
国民生活の
現状評価」をざっと見たところでございます。
「今後の
変化を促す要因」というのがその次でございますが、一昨年、
経済審議会の中に
長期展望
委員会という
委員会が設けられまして、「二〇〇〇年の
日本」という作業が行われました。私も
委員として
関係いたしましたが、二〇〇〇年の
日本を展望して条件
変化の三つの柱を打ち上げておりまして、
一つは国際化、
一つは高齢化、
一つは成熟化と、この三本でございます。先行き不透明と申しますか、視界ゼロの
世界情勢、
日本の情勢で、いま先行きのことを余り明確にオールオーバーで青写真を描くことは大変むずかしいことは言うまでもないわけでございます。
そういうことで、「二〇〇〇年の
日本」の作業も、二〇〇〇年時の
日本のあらゆる部面の数字を明確に打ち出すというようなことは初めから考えておりませんで、むしろ二〇〇〇年に至るこれからの十年、二十年の間にどういう問題が起きるか、どんな
方向に
経済なり
生活が動いていって、その過程でどんな問題が起き、どんな対策が必要になるだろうかというところに主要な作業の目的があったわけでございます。したがって、数字についてはごく部分的にしか出ていないわけでございます。
この間発表されました「一九八〇年代
経済社会の展望と指針」というものも、昔の
経済計画ですと、何年か先の
経済や
生活の動きをかなりビビッドに青写真をかくことが例だったのですけれども、これもこういう状況なものですからそこまでは踏み込まないで、展望と指針という抽象的なところにとどめざるを得なかったようでございますが、そういう状況でございますので、きょう
国民生活の展望という大変りっぱなテーマでお話をするにいたしましても、内容的に、たとえば十年後、二十年後の
国民生活のオールオーバーの青写真をとても示すような用意もないわけでございますので、大体そういう趣旨で、特に
国民生活という視点にしぼって、どういう姿で動きそうか、どういう問題が起きそうかというようなことをお話するわけでございますが、多少この「二〇〇〇年の
日本」の三本柱と違いまして、
国民生活にしぼるという視点で整理をいたしますと、レジュメに示しましたように、私なりに整理いたしましたのがこの六本でございます。
この六本は、実は初めの(1)、(2)、(3)というのは現在すでにかなり進みつつあるもの、進みつつある傾向、
国民生活にとって進みつつある
方向でございます。これは今後もやはり続くわけでございます。それから、(4)から(6)までは、ものによっては始まっておりますけれども、むしろ今後テンポが速まる、今後にピークが来るというような
感じ。しかもこれは早くピークの来る順序、――(4)と(5)はそうも言えないかもしれませんけれども、(4)の方は比較的早く始まる。それから、(6)の高齢化に至っては、実は来世紀、二〇二〇年ぐらいが実はピークでございます。そういう
意味で、いまじわじわと始まり、非常に
長期にわたって、しかも後ろに行けば行くほどテンポが速くなる、そういうような順序になっております。
まず、「既に進みつつあるもの」のグループの第一は、
所得制約の強まりということでございます。昔は、いわゆる高
成長時代は、実質
成長率一〇%以上というようなことでございましたが、その後どんどん
成長率が鈍ってきて、最近は三年続けて三%台というようなことでございます。当然一人当たりの
所得の伸びが鈍化しております。
しかも、昨年の
国民生活白書でも、実質任意可処分
所得というような新しい概念を打ち出しておりますが、どういうことかと申しますと、一人当たりの名目
所得というものは実は物価騰貴によって実質化する必要がある、本当の購買力を図るには実質
所得というものがむしろ問題である。これは当然なことなのですが、それに加えて最近特に、今後にかけても、税金とか社会保険料負担というものは強制的にこれは取られる部分でございますから、これを差し引いたものが実はいわゆる可処分
所得――個人的に処分し得る
所得という
意味で可処分
所得と言われるわけでございます。
その中で、この間の白書が言っておりますのは、さらにまた個人や世帯の自由にならない部分が相当ふえてきているということで、たとえばローンの支払いとか、月賦の支払いとか、任意の保険料の支払いとか、過去においては、確かに自分がローンを借りて何か買うというのは自分の任意の行為で選択の結果ではあるんですけれども、一回選択をしてしまうと、後の支払いというものはこれは強制的に取られるのと同じことで、任意でなくなってしまう。そういう部分が非常にふえてきて、それらを差し引くと、実質任意可処分
所得というものはほとんどふえていないというのがこの間の白書の分析で、それがやはり最近の
生活のなかなか余裕が生じないという、窮乏感と言うのもやや言葉が強過ぎますけれども、さっぱり余裕が生じない
生活の実感というものをかなり正確に数字の上であらわしたんじゃないかという
感じがいたします。
今後につきましては、いままで
参考人の方からお話があったかと思いますけれども、まだまだ
日本の
経済の潜在
成長力というものはそう諸外国に比べて低いとは思われません。したがって、政策よろしきを得れば、これは「二〇〇〇年の
日本」の作業もそうでございますけれども、波があっても平均すると四%ぐらいの
成長は十分可能であるし、しなければならないということなんですけれども、それにしても、やはり税金なり社会保険料負担というものは中
長期的にふえていかざるを得ない。したがって、ゼロ・サム社会とは言いませんけれども、従来とはかなり違った少ないプラスをみんなで分け合う、分け合わざるを得ない
経済社会というものが当分続かざるを得ないんじゃないかということでございます。
それから、二番目が
女性の職場進出ということでございます。
女子の就業者というのは、農業や商業を含めましたいわゆる自営業の家族労働者もございますけれども、主力はやはり
雇用者でございます。いわゆるサラリーマンとしての
女性でございます。最近非常に女子の
雇用者がふえておりまして、五十七年の数字では一千四百万人ということになっておりまして、これは約二十年前、ちょうど
日本の
高度成長が始まる直前、三十五年ごろは七百四十万だったそうでございますから、ほとんど倍になっております。しかも、最近の動きとして中高年が非常にふえている。
主婦が六割と言われております。それからもう
一つの特徴としてパートが非常に多い。パートというのは、統計上は週で三十五時間未満の労働を言うのだそうですが、これは二十年間、三十五年から五十七年の間に五倍にふえている。やはり
賃金が安いし、女子のパートとしての職場が非常にふえてきたということがあると思いますけれども、そういうことで非常にやはり
女性の職場進出というものが顕著に進んでおります。今後も恐らく
女性の職場進出は続くだろうと思います。大
企業では、なかなか四年制の
大学女子の卒業生が就職で苦戦しておりますけれども、そういう事情はあるにしても、全体を通して見ますとやはり
女性の職場進出というものは今後もさらに続くということは衆目の一致するところでございます。
その
理由は幾つかございますが、
一つはやはり
女性向きの職種、職場がふえるということ、これはいわゆるいままでの商業、
サービス業はもともと、特に
サービス業は
女性向きの職場も多いわけでございますけれども、それも今後はますますかたかな職種という、近ごろはかたかな職業というのがよくもてておりますけれども、かたかな職業というのはわりに
女性に向いた職場でございまして、そういうのがますますふえるということもございます。これは
一つはやはり
サービス化、情報化の影響でもございます。
それから二番目の要因としては、家事の省力化、
家庭労働というものが今後情報化時代を迎えることによって一層進むだろう。掃除、洗濯、料理等がさらに自動化される面がふえてくるというようなこともございます。さらにリモコン化が可能になって、職場に行って外に出ていても、そういうものがリモコンによって自分のうちの機器を動かしたりとめたりすることができるようになるというようなことがございます。それから、省力化によってもちろん外に出ていく余裕が生ずるということがございます。
それから三つ目のファクターは、
生活水準の維持向上欲求と申しますか、一番最初に申しましたように、
所得制約が強まるとなりますと、一方において欲望水準というものは無限にふえる。周りが買うとどうも自分のうちも買いたくなるというようなことでございまして、やはり多少つらくても一緒に共働きで職場に出ていきたい。それから、今後年金などもございまして、やっぱり二人で勤めていると将来非常に有利であるというような計算が当然出てくると思います。そういうことで、この辺の収入面の問題、それから将来に対する不安感を少なくするというようなことも含めて、この辺が第三番目のファクターかと思います。
それから四番目には、いままでは
女性というものは一時就職しましても結婚をするときにやめたり、あるいは子供が生まれるときにやめてしまうというのが非常に多かったんですけれども、今後はやはり子供が生まれて育児のある段階までは仕事をしないでいても、その後手がすいてくるとまた勤めるというケースが相当ふえてくるだろうということです。
企業サイドから見ましても、やっぱり前勤めていたという人は
一種の親近感もありますし、仕事の内容も知っているし、信用もできるというようなことがありますから、恐らくそういう形で前の
企業に勤めるというようなシステムが整備されていくだろう。それから、前の
企業と限らなくても新しい仕事であっても、やっぱり育児が済んだ後でもう一回勤めようというような人もふえてくる。
そういうような幾つかの要因が重なって、やはり今後とも
女性の職場進出というものは相当進むであろうというふうに考えられます。これはやはり今後の
国民生活あるいは
家庭生活を考えます場合に、非常に大きなファクターであろうというふうに思います。
それから、三つ目は
サービス化でございまして、この辺は、午前中に高原さんからも、消費の内容等につきましては、消費や
貯蓄のお話いろいろあったというふうに伺いましたので、時間もございませんので詳細は省略いたしますけれども、この「二〇〇〇年の
日本」の
産業別の就業者数の割合で見ましても、一次
産業というものは、一九七〇年一七%であったものが一九八〇年は一〇%に、七%も減っております。これが二十年先の二〇〇〇年には五%という数字、絶対数はこれはいまよりも減るということでは必ずしもないんですけれども、全体の人口がふえますから割合としては半減するという数字を出しております。二次
産業というのはこれは三五%ぐらいでずっときて、二〇〇〇年でも三三%で、若干は減る
程度でございまして、もっぱらふえるのは三次
産業、一九七〇年が四七%で、八〇年が五五%、これが二〇〇〇年には六二%ということで非常に大幅にふえる。つまり一次から三次に主としてウエートの移動が起こるということでございます。
この場合の三次というのは、統計上は実は電気、ガス等も入っておりますが、これは目には見えませんけれども、
一種の物の生産、販売でございますから、販売の部分は別とすれば本当の
サービス業じゃございません。いずれにしてもしかしこれはウエートがごくわずかなので、この三次
産業の就業者の伸び、ウエートの増加というものは、大体そのまま
サービス産業、広い
意味の
サービス産業のウエート増加と考えていいかと思います。
しかも、この中で、広い
意味の
サービス産業の中で狭義の
サービスというものが特に最近ふえているわけでございます。広い
意味の
サービス産業は、たとえば
金融、保険あるいは不動産、運輸、通信、卸小売業というようなものが広い
意味の
サービス産業に入りますけれども、そのほかにこの狭い
意味の
サービス産業というものがございまして、これがやはり今後むしろ非常にウエートを増していくと思われる業種でございます。
これは
一つは、やはり
経済の発展段階、
経済が発展するに応じて
所得水準が上がりますと、消費者の
需要が物から
サービスに移る、これはもう午前中にお話があったかと思いますが、そういう動き。それから、
企業の減量のためにある部分について外部化する、外の
会社に頼むというようないわゆる外部化の動き。それから、同じく
家庭においても家事
サービスの外部化、共働きの人があるいは老人がふえますと、外食がふえたり、あるいは食事も外から運んでもらうというような
産業が出ておりますけれども、そういう家事
サービスの外部化ということもございます。それから四番目には情報化、いわゆる
コンピューターソフト――
コンピューターのハードの方は当然その製造は
製造業でございますけれども、ソフトの方は
サービス業でございます。したがって、情報化によって
サービスのウエートがふえるということでございます。こういうふうな要因で今後もやはり
サービス化というものは進むということは間違いないわけでございます。
「二〇〇〇年の
日本」の中で今後
成長性の高い
サービス業といたしまして、たとえば
一つは、対個人
サービスとしてはスポーツ、文化等のレジャー
関係の
サービス、それから家事代行
サービスを挙げております。それから対事業所
サービス、
会社等に対する
サービスとしては情報処理
サービス、それからエンジニアリング、それから対公共
サービス――対公共というのもちょっとおかしいんですが、要するに公共的な
サービスとして医療、教育、社会福祉
関係、これらの
産業を挙げております。非常にこの辺がやはり
成長性の高い
産業で、その結果
サービス産業のウエートが高まるということでございます。
それからその次に、「今後更にテンポの早まるもの」といたしましては、情報化という言葉が出ております。これは現在すでに
日本はかなりの情報化時代でございまして、マスメディアとか広告その他の情報のはんらんの中で暮らしているといえるわけでございますけれども、どうしてそれじゃ情報化が特に最近強く言われるのかと申しますと二言うまでもなくまた違った
意味の情報化時代を迎えるということでございます。それはいわゆる俗に言うニューメディア時代ということでございまして、従来の情報化とどう違うのかということなんですけれども、やっぱり
コンピューターあるいは光ファイバーあるいは通信衛星、そういったものの利用によって情報の蓄積とか検索とか伝達とかいう、いわゆる情報処理が格段に大容量かつ高速に行われるようなるというところが新しい情報化という言葉の
意味ではないかというふうに思います。
最近、非常に新聞紙上等をにぎわしておりますが、キャプテンとか都市型のCATVとか、もう実験が始まりつつあり、キャプテンはことしの秋からでございますが、都市型
テレビにしても
会社がどんどんつくられているというふうな状況でございます。それからファクシミリ
サービスとかセキュリティーシステムというふうなものもこれはすでに一部実用化されておりまして、特にこのセキュリティーシステムというものは、御存じだと思いますけれども、家の中にセンサーを仕掛けておいて、防犯とか防火の何か異常が起きたときには中央のセンターにすぐに連絡が行くようになっているわけです。
それから東京都あたりでやっておりますように、ひとり暮らしの老人にペンダントを下げさしておいて、何か緊急のときにはそれを押しますと、すぐに駆けつけるような、そういう
一種の情報システム、こういうふうなものが一部実用化されておりますが、今後やっぱりこういうものが非常に全国的に広がっていくんじゃないかというふうに思います。
それからINSといいますか、高度情報通信システム、これも今秋実験開始されて、二十一世紀にかけて全国的にいま電電公社がネットワークを敷くべく準備をしているというような状況でございます。
こういう新しいいろいろなメディアあるいは機器によって一体
家庭生活にどんな
サービスが新しく加わるのかということをざっと整理してみますと、
一つは、やはりハウスコントロールでございます。家電機器とか住宅
設備機器等が自動化されあるいはリモコンされて、監視したり制御したりすることができるようになる。それから自動――自然についたり消したりすることもできるというふうなこと、それからエネルギー管理等もメーターが自動的に管理できる体制ができる。それからいま申しましたセキュリティー、これは警報とか異常個所を表示するとか何か起こったときにすぐにしかるべきところに連絡できるようなセキュリティーシステム、それからよく言われておりますホームショッピング、ホームバンキング、それから予約一般――交通機関とか宿泊、ホテル等の予約あるいは演劇、映画、音楽会等の予約等が自宅でできるようになる。
それから健康管理、いわゆる在宅検診、いろいろ自分の体についても自動的に計数がすぐにあらわれるような機器もできるかと思いますが、同時に、それをお医者さんのところにすぐに連絡して簡単な診断をしてもらうというふうなことができるようになる。
それから在宅就業といいますか、
会社に行かなくても自宅でいろいろ仕事ができるようになる。これはまあしかし一部の職種に限られると思いますが、同時に、自宅でなくても、よく言われておりますように、サテライトオフィスというようなことで、自分のうちの最寄りの駅の、たとえば私線と山手線が接続する駅のあたりに中央の
会社から離れたサテライトオフィスみたいのものができて、そこに通勤することによってかなり通勤時間が節約され、しかも
会社、ヒューマンリレーションというものもある
程度保たれるというようなことは相当進む可能性はございます。
それから在宅学習、学校でも一部
コンピューターいま取り入れられたところがございますけれども、これがさらに進みますと、自分のうちにいてもそういう勉強ができたり、学校教育はもちろん当然でございますけれども、それ以外にいろいろなプラスアルファの学習ができ、あるいは学校を卒業した後の生涯学習、成人が学習することもできる。その他知識の修得が可能になるということがございます。
それから娯楽面でも、
テレビゲーム等がこれは最近かなりはやってきておりますけれども、そういうものとか、あるいは
テレビ等で放映したスポーツなり映画なり演劇なりの再放送なんというのは、自由に自分の選択でできる。
それから、遠い将来は恐らく自動翻訳器というようなものもできて、それを持っていくと、どこの国へ行っても、一番望ましいのはやはり音声で入力して音声で出力するような翻訳器ができますと、私などは非常にこれはありがたいと思うんですけれども、何年先かわかりませんけれども、やっぱりそういうものがだんだんできてくるんじゃないかと思います。
それからコミュニケーション
関係で、やはり
テレビ電話というようなものは当然可能になりますし、それからいろいろコミュニティーの
サービス、行政
サービス等
テレビ画面を通じて
サービスしたり、あるいは地域団体の連絡、通知等が行われていることがございます。
それから情報
サービスとして
生活情報、消費者情報というようなものが、常に新しいものに
テレビ画面等を通じて連絡、情報提供されるということがございます。
こういうような、いわゆる長い目で見ますと各種の
サービスが可能になって、大変ユートピアみたいな絵がよく出ておりますけれども、一体消費者は本当にどういうところに一番期待しているかというところが問題でございまして、本当のニーズがどれだけあるかというところがかなり問題がございます。
これは五十八年に、やはり総理府で世論
調査をいたしました結果によりますと、新しい
サービスシステムができた場合に、利用したいものはどういうものかということで聞きましたところが、やはり一番多いのは在宅検診とかホームナースの機能、これは六三%ということで、やはり健康
関係が非常に期待されているということです。その次はホームセキュリティー、先ほど申しました安全
関係のホームセキュリティーとかホームコントロールの機能、これが五二%。それからホーム予約、これが四六%というようなことで、ホームショッピングとかバンキングとかというのは三割ちょっとということで、相対的にはわりに人気が低い。やっぱりショッピングというのは自分で行って、いろいろ歩き回って選択するというところに楽しみがございますから、特に
日本の場合、
アメリカなんかと違ってすぐ近くにいい店もあるというところが多いわけですから、通信販売なんかが非常に
発達した
アメリカとはかなり事情が違うんじゃないかという
感じがいたします。
それにしてもはっきり言えますことは、老人とか身障者あるいは共稼ぎの奥さん、そういう人なんかにとっては、やはりこういういろんな手段でショッピングなんかができるということは非常にプラスであり、便利であるということは間違いないと思います。その反面、やはりそれだけそろえようと思いますと、かなり
設備費がかかるということ、さらに経常費も当然ある
程度かかるということ、それから信用販売が非常にふえて、信用情報というようなものがコントロールされますと、非常にやはりプライバシーの問題というようなところにマイナスが出てくる危険性がございます。
それから
日本人、まあ外人もそうかもしれませんけれども、何となく
コンピューター信仰みたいなものがありまして、いままでですと、コマーシャルで、はっきりこれはコマーシャルという意識のもとに見ていますからそうでないんですけれども、ああいう形でなくて、何となくこういうものを買いたいというと、どこかの百貨店なりどこかのメーカーのものが
コンピューターなり
テレビを通じて出てくると、非常に信用しやすいといいますか、何となく誘導されてしまう、そういう危険性というものもございます。それだけに、やはり正しい情報の伝達というものが非常に大事になるんじゃないかという
感じがいたします。
それから、これは精神的なものになりますけれども、怠け者がふえるということは当然出てくる。何でも便利になり過ぎると怠け者がふえますし、それから個人主義といいますか、自分だけで閉じこもって楽しむというようなことになりますと、それだけ家族の間のコミュニケーションが減ったり、そういう精神的なマイナスというものが出てくる可能性が十分ございます。
それから五番目が国際化でございまして、これは実は消費者にとっては、私は国際化というのは非常にメリットの大きいものであるというふうに割り切っております。何といっても商品
サービスに対する選択の幅が広がります。高級品が余り制限されておりませんからあれですけれども、一番問題はやはり安い商品なり
サービスなりが
日本人の消費者の手に入りやすくなるということ、それからもう
一つは、同種の国産品の値下げを促すということ、その両面からやはり国際化なり
自由化なりというものは基本的に消費者にとっては非常にプラスの大きいものであるということははっきり言えるのではないかと思います……