○山原
委員 私は、
日本共産党・革新共同を代表して、
日本育英会法案に対する反対討論を行います。
言うまでもなく、
育英奨学事業は、
教育の
機会均等という戦後
教育の根本精神を
実現するための極めて重要な
施策であります。その
施策の根本にかかわる法
改正をしようとする場合、
国会での慎重な
審議が保障されるよう、かつまた、実際の業務にそこを来さぬよう十分の配慮を踏まえた形で
法案提出がなされるべきであることは言うまでもありません。しかるに、本
法案に関する
政府の姿勢は、こうした諸点を無視したものであるばかりか、
奨学金支給を期待する
学生生徒の窮状をいわば逆手にとる形で
法案の早期成立を図ったとも受け取れるものであり、法的にも道義的にも全く理不尽きわまるものと言わなければなりません。
こうした姿勢を
政府が直ちに改めるよう、反対討論の冒頭をかりまして、重ねて強く求めるものであります。
さて、最近の
教育費に関するもろもろの家計調査結果が端的に示すように、多くの家庭は増大する
教育費の重圧のもとでまさに悲鳴を上げているというのが実態です。こうした事態の中で、国の行う
奨学事業が量的にも質的にも本来的役割を十分果たし得ない現状にあることはまことに遺憾であります。
国際的に見ても、先進諸外国の公的
奨学事業が給与制を基本としているのに対し、我が国は貸与制であるなど、極めて低劣な状況にあることは
政府も認めているところであります。また、国際人権規約A規約が批准国に義務づけている適正な
奨学金制度の概念は、給与制と解釈されるものであって、少なくとも
奨学金とも呼べない有
利子制などを想定したものでないことは明らかであります。
こうした諸点を考慮すれば、
憲法、
教育基本法が
定める
教育の
機会均等の
実現に向かって
政府が今なすべきことは、現行無
利子貸与
制度の抜本的拡充であり、さらに給与制への発展という展望を指し示すことにあるはずであって、有
利子制度の導入など言語道断と言わなければなりません。
教育ローンともいうべき有
利子制度の導入は、
教育の見返りを個人の金銭的利益に求めようとする憂うべき風潮に国みずからが拍車をかけることにもなりかねないものであって、奨学
制度の変質にとどまらず、
教育全体にゆがみをもたらすものではないかと憂慮せざるを得ないのであります。
しかも、本
法案では、有
利子奨学金の利率は政令にゆだねられており、当初予定されている三%の利率が今後とも堅持される保障は、本日の
文部省答弁でも確固としたものとは言えません。さらに、
文部省は利率を法定することは法
制度上なじまない旨の答弁をしておりますが、住宅金融公庫法では利率の上限を法定しており、法技術上の問題でないことは明らかであります。利率をすべて政令にゆだねたこと
自体の中に財政当局との妥協の痕跡があらわに示されていると言って過言ではないはずであります。
また、無
利子貸与が奨学
制度の根幹として今後とも高い比重を占めていけるかどうかという極めて大事な点での歯どめもないのであります。歯どめがないところか、この有
利子制度について、
文部大臣は、補完的なものではなく無
利子制度と並立するものと御答弁をなさったのでありますが、この疑念は解消していません。いわば無
利子、有
利子、いずれも根幹ともいうべき地位を与えられた有
利子制度が、臨調路線や財政当局などの強力な後ろ盾のもとで、無
利子を押しのけて肥大化していく可能性があると見るのは、決して杞憂ではないと思うのであります。
加えて、有
利子奨学金の財源となる財政投融資そのものが、効率的運用の
観点から厳しく見直しを迫られているものであり、一般会計からの多額の
利子補給が将来にわたって担保されると見るのは、極めて甘い見方と言わざるを得ません。したがって、有
利子制導入を決めることは、必ずや後世に悔いを残すことになると声を大にして言わざるを得ないのであります。
同時に、
育英奨学事業の基本
理念を示した
目的規定にも重大な問題が含まれています。
法案第一条では、「
教育の
機会均等に寄与すること」とともに、「
国家及び社会に有為な人材の
育成に資する」ことを依然として
目的の主要な柱に据えています。これは、戦時中の
昭和十九年に制定された
現行法の「
国家有用ノ人材ヲ
育成」という
国家主義的
教育観を今日に引き継ぐものと言わなければなりません。また、同条で、
育英奨学金の支給
対象を「優れた
学生及び
生徒」に限定していることも、
教育基本法第三条が
規定する奨学の
理念から明確に逸脱するものであります。
以上、本
法案は、主要な
改正点において、
憲法、
教育基本法が指し示す
奨学事業のあり方と相入れないものであると断ぜざるを得ません。中曽根内閣が本気で
教育基本法の精神にのっとる
教育改革を目指すというならば、本
法案は撤回されるべきであることを申し述べまして、私の反対討論を終わります。(拍手)