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1983-03-09 第98回国会 参議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年三月九日(水曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  二月二日     辞任         補欠選任      伊江 朝雄君     大島 友治君      仲川 幸男君     板垣  正君      宮澤  弘君     林  寛子君      小西 博行君     伊藤 郁男君  二月七日     辞任         補欠選任      前島英三郎君     秦   豊君  二月八日     辞任         補欠選任      下田 京子君     近藤 忠孝君  二月十四日     辞任         補欠選任      田渕 哲也君     井上  計君  二月二十一日     辞任         補欠選任      藏内 修治君     北  修二君  二月二十六日     辞任         補欠選任      井上  計君     田渕 哲也君  二月二十八日     辞任         補欠選任      北  修二君     藏内 修治君  三月一日     辞任         補欠選任      秦   豊君     前島英三郎君  三月四日     辞任         補欠選任      中西 一郎君     嶋崎  均君  三月八日     辞任         補欠選任      藏内 修治君     村上 正邦君      源田  実君     田沢 智治君      対馬 孝且君     和田 静夫君      田渕 哲也君     井上  計君  三月九日     辞任         補欠選任      木村 睦男君     原 文兵衛君      田沢 智治君     梶原  清君      植木 光教君     大坪健一郎君      井上  計君     田渕 哲也君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         土屋 義彦君     理 事                 嶋崎  均君                 関口 恵造君                 長谷川 信君                 藤井 裕久君                 赤桐  操君                 矢田部 理君                 大川 清幸君                 立木  洋君                 伊藤 郁男君     委 員                 井上 吉夫君                 岩動 道行君                 板垣  正君                 岩崎 純三君                 植木 光教君                 大島 友治君                 大坪健一郎君                 長田 裕二君                 梶原  清君                 亀長 友義君                 古賀雷四郎君                 後藤 正夫君                 坂元 親男君                 田代由紀男君                 田中 正巳君                 谷川 寛三君                 林  寛子君                 原 文兵衛君                 藤井 孝男君                 村上 正邦君                 八木 一郎君                 粕谷 照美君                 勝又 武一君                 瀬谷 英行君                 寺田 熊雄君                 山田  譲君                 吉田 正雄君                 和田 静夫君                 太田 淳夫君                 桑名 義治君                 塩出 啓典君                 中野 鉄造君                 近藤 忠孝君                 田渕 哲也君                 前島英三郎君                 江田 五月君    国務大臣        内閣総理大臣   中曽根康弘君        法 務 大 臣  秦野  章君        外 務 大 臣  安倍晋太郎君        大 蔵 大 臣  竹下  登君        文 部 大 臣  瀬戸山三男君        厚 生 大 臣  林  義郎君        農林水産大臣   金子 岩三君        通商産業大臣   山中 貞則君        運 輸 大 臣  長谷川 峻君        郵 政 大 臣  桧垣徳太郎君        労 働 大 臣  大野  明君        建 設 大 臣  内海 英男君        自 治 大 臣        国 務 大 臣        (国家公安委員        会委員長)    山本 幸雄君        国 務 大 臣        (内閣官房長官) 後藤田正晴君        国 務 大 臣        (総理府総務長        官)        (沖縄開発庁長        官)       丹羽 兵助君        国 務 大 臣        (行政管理庁長        官)       齋藤 邦吉君        国 務 大 臣        (北海道開発庁        長官)        (国土庁長官)  加藤 六月君        国 務 大 臣        (防衛庁長官)  谷川 和穗君        国 務 大 臣        (経済企画庁長        官)       塩崎  潤君        国 務 大 臣        (科学技術庁長        官)       安田 隆明君        国 務 大 臣        (環境庁長官)  梶木 又三君    政府委員        内閣審議官    林  淳司君        内閣法制局長官  角田禮次郎君        内閣法制局第一        部長       味村  治君        人事院総裁    藤井 貞夫君        人事院事務総局        給与局長     斧 誠之助君        総理府人事局長  藤井 良二君        総理府統計局長  永山 貞則君        臨時行政調査会        事務局次長    佐々木晴夫君        警察庁警備局長  山田 英雄君        行政管理庁行政        管理局長     佐倉  尚君        防衛庁参事官   新井 弘一君        防衛庁参事官   西廣 整輝君        防衛庁参事官   友藤 一隆君        防衛庁参事官   冨田  泉君        防衛庁長官官房        長        佐々 淳行君        防衛庁防衛局長  夏目 晴雄君        防衛庁人事教育        局長       上野 隆史君        防衛庁衛生局長  島田  晋君        防衛庁経理局長  矢崎 新二君        防衛庁装備局長  木下 博生君        防衛施設庁長官  塩田  章君        防衛施設庁総務        部長       伊藤 参午君        防衛施設庁施設        部長       千秋  健君        経済企画庁調整        局長       田中誠一郎君        経済企画庁総合        計画局長     谷村 昭一君        経済企画庁調査        局長       廣江 運弘君        環境庁長官官房        長        加藤 陸美君        国土庁長官官房        長        宮繁  護君        国土庁長官官房        審議官      荒井 紀雄君        国土庁長官官房        会計課長     金湖 恒隆君        法務省刑事局長  前田  宏君        外務省アジア局        長        橋本  恕君        外務省北米局長  北村  汎君        外務省欧亜局長  加藤 吉弥君        外務省経済協力        局長       柳  健一君        外務省条約局長  栗山 尚一君        外務省国際連合        局長       門田 省三君        大蔵大臣官房審        議官       吉田 正輝君        大蔵大臣官房審        議官       岡崎  洋君        大蔵省主計局長  山口 光秀君        大蔵省主税局長  梅澤 節男君        大蔵省理財局長  加藤 隆司君        大蔵省銀行局長  宮本 保孝君        大蔵省国際金融        局長       大場 智満君        国税庁次長    酒井 健三君        文部大臣官房長  高石 邦男君        厚生大臣官房総        務審議官     小林 功典君        厚生大臣官房会        計課長      坂本 龍彦君        厚生省公衆衛生        局長       三浦 大助君        厚生省社会局長  金田 一郎君        厚生省年金局長  山口新一郎君        農林水産大臣官        房長       角道 謙一君        農林水産省農蚕        園芸局長     小島 和義君        農林水産省畜産        局長       石川  弘君        食糧庁長官    渡邊 五郎君        通商産業大臣官        房審議官     斎藤 成雄君        通商産業省貿易        局長       福川 伸次君        資源エネルギー        庁長官      豊島  格君        中小企業庁長官  神谷 和男君        運輸省鉄道監督        局長       永光 洋一君        労働省労政局長  関  英夫君        労働省労働基準        局長       松井 達郎君        労働省職業安定        局長       谷口 隆志君        建設大臣官房長  豊蔵  一君        建設大臣官房会        計課長      牧野  徹君        建設省住宅局長  松谷蒼一郎君        自治省財政局長  石原 信雄君        自治省税務局長  関根 則之君    事務局側        常任委員会専門        員        桐澤  猛君    参考人        日本銀行総裁   前川 春雄君     ─────────────   本日の会議に付した案件理事補欠選任の件 ○公聴会開会承認要求に関する件 ○参考人出席要求に関する件 ○昭和五十八年度一般会計予算内閣提出衆議院送付) ○昭和五十八年度特別会計予算内閣提出衆議院送付) ○昭和五十八年度政府関係機関予算内閣提出衆議院送付) ○派遣委員報告     ─────────────
  2. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 予算委員会開会いたします。  まず、理事補欠選任についてお諮りをいたします。  委員異動に伴い、現在理事が二名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事嶋崎均君、伊藤郁男君を指名いたします。     ─────────────
  4. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 昭和五十八年度一般会計予算昭和五十八年度特別会計予算昭和五十八年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。     ─────────────
  5. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) まず、公聴会開会承認要求に関する件についてお諮りをいたします。  昭和五十八年度総予算案審査のため、来る三月二十二日に公聴会開会いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認めます。  つきましては、公述人の数及び選定等は、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  8. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 次に、総括質疑に関する理事会協議決定事項について御報告をいたします。  総括質疑は七日間分とすること、質疑割り当て時間は九百八十一分とし、各会派への割り当て時間は、自由民主党・自由国民会議及び日本社会党それぞれ三百四分、公明党・国民会議百六十九分、日本共産党及び民社党・国民連合それぞれ六十八分、無党派クラブ及び新政クラブそれぞれ三十四分とすること、質疑順位及び質疑者等につきましてはお手元の質疑通告表のとおりとすること、以上でございます。  右、理事会決定のとおり取り運ぶことに御異語ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  9. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  10. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 次に、参考人出席要求に関する件についてお諮りをいたします。  昭和五十八年度総予算審査のため、本日の委員会日本銀行総裁前川春雄君を参考人として出席を求めることに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  11. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認めます。  なお、出席時刻等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  12. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  13. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) それでは、これより総括質疑を行います。矢田部理君。
  14. 矢田部理

    矢田部理君 私は社会党を代表して、総理を中心に関係大臣にさまざまな課題についてお尋ねをしていきたいと思いますが、最初に総理政治姿勢に関連をいたしまして二点ほどお尋ねをしたいと思います。  その一つは、ロッキード疑獄に対する総理姿勢であります。  ロッキード疑獄は、政、財、官の癒着が生んだ構造汚職だという特徴があっただけではなしに、総理大臣の犯罪ということで、いわば政治行政の信が根源的に問われた疑獄でもありました。この一大疑獄事件国民にも大変な衝撃を与えたわけでありますけれども、総理としてはどんな受けとめ方をされておるでしょうか。まず、その点から伺っていきたいと思います。
  15. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) このような事件が起きましたことははなはだ遺憾なことでございまして、日本の政界のためにも深く悲しむものでございます。  事件が起こりました当初におきまして、国会におきましても、衆議院参議院おのおのにおきまして、この真相解明のための努力をなされ、議長さん等の御協力もいただきまして、与野党の一致した方針がとられたと記憶しております。その中において、政治倫理の問題、これらの問題が強く叫ばれ、政治的、道義的責任を明らかにするという方向も示されまして、国会におきましても特別委員会等が設けられまして、その究明に当たっておられたとおりでございます。その過程におきまして、刑事事件としてこの問題が登場いたしまして、自来裁判が係属されまして、裁判所においてもこれが審議されておると、こういう状況になっております。  いずれにいたしましても、このような事件が起きましたことははなはだ遺憾なことでございまして、政治倫理の問題につきましては深くわれわれも思いをいたし、みずからを戒め、国民の模範になるように努力していかなければならないと考えておる次第でございます。
  16. 矢田部理

    矢田部理君 そこで責任論を少しく展開をしてみたいと思うのでありますが、総理からもお話がありましたように、これは刑事事件に発願をいたしました。いま裁判係属中であります。そこでは、当然のことながら、刑事責任有無、あるいは重さが問われることになるわけでありますが、政治家の場合には、刑事責任などの法律的な責任だけではなくて、政治的、道義的責任が問われることがあることは総理自身認めになりますか。
  17. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 法律的責任のほかに政治的、道義的責任の問題も入ってくると思います。
  18. 矢田部理

    矢田部理君 刑事責任ほど重大でない場合でも、あるいはまた刑事責任が問われる場合でも、政治家の場合には道義的な責任政治的な責任があることはお認めになるわけでありますが、どんな場合が想定をされるでしょうか。
  19. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) いずれにしましても、国会議員国民を代表する重大な職責を持っておるのでございまして、かかる意味におきまして、民主政治を運用していくについては、国民信頼感というものが基礎になければ民主政治は運用できません。そういう意味におきましても、議員みずからが政治倫理のことに思いをいたしまして国民信頼感をつなぐように努力していくという点も、また一面において大事なことであると思っております。
  20. 矢田部理

    矢田部理君 そこで田中総理ロッキード問題に対する責任について伺っていきたいと思うのでありますが、総理自身も言っておられるように、いまこれは裁判係属中でありますから、私は総理から刑事責任有無司法にかかわる総理考え方などを伺うつもりは毛頭ありません。刑事責任の問題ではなくて、政治的、道義的責任にかかわる問題としてお尋ねをしたいのでありますが、田中さんのロッキードに対するかかわり方、総理大臣の職務を利用して五億円という巨額の賄賂を受け取って、日本政治を曲げていった、航空政策をゆがめていった、こういう事件にかかわったこと、これは政治的な、道義的な責任が当然問われなきゃならぬと思うのですが、総理はいかがお考えでしょうか。
  21. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 事件内容がいずれであるか、検事側の申すこと、あるいは弁護団の申すこと、いずれが真実なりやということは裁判官判断することでございまして、いまそういう意味におきましては攻撃、防御が続行中であり、また裁判官判断を待つという段階にきておると思いますので、内容に立ち入ることは私は慎まなければならぬと思っておりますし、裁判自体につきましても、三権分立のたてまえから、行政府の最高責任者裁判に介入するがごとき印象、あるいはおそれのある発言をすることは慎まなければならぬと思います。  しかし、いずれにせよ、こういうような事件が起きたというこの事実の存在に対しましては、はなはだ遺憾で残念であると思っております。
  22. 矢田部理

    矢田部理君 私は、刑事責任司法にかかわって何か発言を求めているのではないのです。政治家として刑事責任が問われるだけではなくて、道義的な、政治的な責任を問われる場合がある。田中さんの場合にはまさにそれに当たるのではないかと、それについて総理見解を伺っているわけであります。事実、田中さん自身裁判の冒頭でこう言っているのですね。起訴事実の有無にかかわらず、いやしくも総理大臣在職中の汚職の容疑で逮捕、起訴に至ったことは、それだけで総理大臣の栄誉を汚し、日本国の名誉を損なったことになる、万死に値すると。まさにそのことが道義的、政治的に責任を問われなければならぬと私は思うのですが、いかがでしょうか。
  23. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 御本人がそのように申されたとしまするならば、これは御本人心境としてわれわれは素直に受け取るべきものであると思います。
  24. 矢田部理

    矢田部理君 田中さんの心境を受けとめているかどうかというふうに聞いているんじゃないのです。本人すらそこまで言っているのですから、当然のことながら、政治的、道義的責任ありと考えるのが筋ではありませんかと聞いているんです。いかがですか。
  25. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この問題は、いま衆議院におきましても辞職勧告決議案という形で政治案件になっておりまして、いま議院運営委員会等におきまして審議が継続中でございます。各党おのおの判断のもとに、この案件を処理すべくいま進められておるところでございますので、私は、各党間のこの扱いの推移を見守りたいと思っておる次第でございます。
  26. 矢田部理

    矢田部理君 自民党総裁としてはどう思っておられますか。
  27. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) こういう事件が起きたことははなはだ遺憾とする次第でございますけれども、この案件、つまり辞職勧告という具体的な行為に関する判定という問題になりますと、これは憲法や、国会法や、あるいは代議政治の本質等々もよく考えなければならぬところでございます。  先般、議院運営委員会におきましては、自民党の職員が自民党側見解を発表いたしました。これは党を代表しての発言でございまして、自民党総裁としてもそういう発言を了承しておるものでございます。
  28. 矢田部理

    矢田部理君 そうしますと、その態度で臨まれることを総裁自身総理自身御指示なされたわけですか。
  29. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 自民党を代表しての公式の委員会における発言でございますから、私の了承のもとに行われたものでございます。
  30. 矢田部理

    矢田部理君 態度はともかくとして、それならばそれに基づいて審議を進め、結論を出すべきではありませんか。その点はいかがですか。
  31. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点は同感でございます。
  32. 矢田部理

    矢田部理君 ところが、現実には審議を進めず、結論を導くことに不熱心なのではありませんか。あるいはそれを妨害しているのではありませんか。
  33. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 別に自民党側が妨害しているとか、審議を遅延せしめておるということは聞いておりません。各党各派いろいろ話し合いをしながら御審議を進めていただいておるものと考えております。
  34. 矢田部理

    矢田部理君 そこで、前後いたしましたが、総理衆議院の答弁の中で、政治家政治的、道義的責任ありとされた場合に、その責任のとり方については、本人が辞職するか、選挙民が落選させるかが基本であると、それ以外に第三者選挙民との関係を切断する場合にはよほど大きな事由が必要だと、合理的なものでなければならないというふうにも言われておって、言うならば、第三者が切断する場合があり得ることを述べておられるわけでありますが、よほど大きな事由、合理的なものでなければならぬというのはどんなことをお考えになっているのでしょうか。田中総理の場合にはまさにこれに当たるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  35. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 自民党議員が代表して議院運営委員会で述べました内容は、私が本委員会や、あるいは衆議院におきまして、行政管理庁長官のころから申し述べてきた論理の筋と同じ筋のことを言っておるわけであります。したがいまして、自民党議員が申されたあの内容自民党考え方であり、また、私が了承した私の考え方を代弁していると、そのようにお考えいただいて結構でございます。よほど重大なことという点については、まだいまのところ具体的にどういうケースであるか想定できませんけれども、将来そういう可能性がなきにしもあらずという意味におきまして留保しておいたのでございます。
  36. 矢田部理

    矢田部理君 これは同じことの行ったり来たりの議論になるのは恐縮なんでありますが、自民党としてどう考えているのか、もう一度あなたが指示した内容を述べていただきたいのが一つ。総理大臣が史上空前の巨額の金をもらって、日本の航空行政を職権を利用してそれを曲げていった。また、そのかどで逮捕され、起訴され、裁判に付される。これほど大きな事由は私はないんじゃないかと思うんです。そしてまた、それについては最終的には刑事責任としては裁判の確定を待たなければなりません。田中被告自身が言っているように、万死に値するほど重いものだと言っているわけでありますから、これが当たらずしてほかが当たるなどということはちょっと想定しにくいのでありますが、もう一度答弁を求めたいと思います。
  37. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 自民党が申されておる内容というものは、もし御必要があればその速記録を後でお届けしても結構でございます。その考え方の上に、私の場合は内閣総理大臣という別のまた立場がございます。自民党総裁という政党の首班という立場のほかに、内閣の首班という立場がございまして、その面におきましては立法、司法行政の三権というものを考えなければならぬ立場もまた別にございます。私が申し上げまして、また、党が申されました見解の一つの重要部分というものは、代議政治の基本的な部面につながるものでございます。つまり、国家の主権、統治権というものは立法、司法行政の三権からできておりますけれども、その中でも国会は、国権の最高機関と言われておる重要な機関でございます。その主権を構成する大事な機能である国会は、国会議員によって構成され、機能が行われております。その国会議員を選出するということは選挙によって行われております。それが主権を構成する大事な手段になっておるわけでございます。そういう大事な職務を行い、また、その機能というものを考えてみます場合に、その国会議員の地位を剥奪する、そういうことに関係するような重大な行為を行うという場合には、やはり選挙民の意思、あるいは本人の意思というものを相当考えなくてはいかぬのではないであろうか。憲法、国会法等を見れば、議員の身分というのは非常に重要に保障されております。国会内における言論については外で責めを負うこともないとか、あるいは懲罰動議等で除名に付するという場合、選挙争訟等によりまして同じように籍を外すという場合には三分の二の多数でなければこれができないという形になっております。そういうような手厚い手続を行っているというのは、国会議員の職責が主権を形成するという非常に大事な責任ある地位であるからであると、そう考えるわけでございます。  そういう大事な機能を持つ者は、選挙民との選挙という過程を通じて出てきておる者でございますから、第三者がその本人の意思にかかわらず、これを、選挙民との関係を切断するというような行為を果たして二分の一という多数によって行っていいのであろうかと。勧告ということであって、それはすぐやめろということではないという議論が成り立ちますが、しかし決議というものが成立するという場合には相当重いものであるというふうに考えざるを得ません。そういう面からいたしまして、この選挙民との関係を切断するということを第三者が行うというようなことは、よほど慎重でなければならぬと考えておると、かかるような趣旨のことも申してきたわけでございます。
  38. 矢田部理

    矢田部理君 いま日本政治に問われているのは、田中総理政治的、道義的責任だけではないんですね。あれだけのことをやりながら、これだけ国民が困ったものだと思っていながら、そういう田中さんが依然として日本政治に影響力を行使し、日本政治を陰から操作している、こういう忌まわしい事態を何としても断ち切らなければならぬ。その意味では、田中個人の責任だけではなくて、それを始末できない、その影響力を排除できないわれわれの政治全体の責任が問われているんじゃないでしょうか。それはまさに、この政党政治が自浄作用があるのかどうか、みずからを清める力があるのかどうかが同時に問われているんじゃないでしょうか。司法の問題はさておくとしまして、三権分立だから国会の問題だというような逃げ方で、あるいは国会制度の一般論で問題をすりかえるというのは、事の本質を見誤ることになりはしませんか。もう一度総理の答弁を求めたいと思います。
  39. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 矢田部さんが政治倫理の問題を非常に重要視なさいまして、毎回御発言いただいていることは私も肝に銘じて承っておるところでございます。ただ、議員の進退の問題というような問題につきましては、それは御本人のお考えや、あるいは各党各党がおのおのまた独自の民主主義、あるいは議会政治に対する見解を持っておるわけでございます。自民党の問題につきましては自民党において処理さしていただきたいと、自民党独自の考えで党が運営されているということを御理解いただきたいと思うのでございます。
  40. 矢田部理

    矢田部理君 すでに衆議院では、先ほどお話がありました田中議員辞職勧告決議案が出されておりますが、自民党としてもその審議に積極的に参加をし、これを促進し、いずれにしたってこれは早期にけじめをつけるべきだと思いますが、総裁としていかがでしょうか。  それからもう一点、灰色高官の証人喚問問題でありますが、これは前の国会から懸案事項になっておりました。自民党は議院証言法の改正を盾にして、逆にこの証人喚問を実現させないと、こういう挙にも出ているわけでありますが、証人喚問の実現についても総裁として指導性を発揮すべきではないか、この二点を再度伺っておきたいと思います。
  41. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 辞職勧告決議案の処理並びに証人喚問問題等につきましては、自民党といたしましても協力するように、私から党の幹部に対して申し伝えたいと思います。
  42. 矢田部理

    矢田部理君 次に憲法問題に移りたいと思いますが、総理は現行憲法はやはり改正すべきであるという見解を今日もお持ちでしょうか。
  43. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この点は十二月の国会でも、ここで御答弁申し上げましたが、その問題については内閣総理大臣としてお答えすることは適当でないと、ただ申し上げたいのは、私が申し上げていることでわりあいにその点が等閑視されている点があるんです。それはいまの憲法の歴史的評価の問題でございます。戦争前の日本と戦後の日本と比べてみた場合に、戦後は格段いい日本になっておると、それはなぜであるかと言えば、この現行憲法が果たした役割りは非常に大きいのだということを申し上げておるのであります。それは私の実感で申し上げておるわけであります。それは平和主義、基本的人権の尊重、あるいは民主主義、あるいは福祉国家の理念、あるいは国際協調主義、こういう点におきまして、新しい時代が訪れまして、戦前の時代から比べれば非常に明るい、そして伸びやかな社会が現出して、いわゆる市民社会の岩盤が厳然として発達してきておると、そして中産階層を中心にした貧富の差のない世の中が出てきておるし、また中央と地方との文化の格差が非常に減ってまいりました。そういうような面からいたしまして、戦前と比べれば非常にいい世の中が出てきておるんだと、これは憲法の力に負うところが非常に大きいと、それをわれわれは正直に認めなければならぬということも実は申しておるのであります。これは私の信念でもありまして、そういう意味におきまして、この憲法のよさ、いいところというものは私なりによく評価をしておるということも申し添えたいと思うのであります。
  44. 矢田部理

    矢田部理君 総理は憲法問題も含めてタブーを認めない、タブーに挑戦をすると御自分で言ってこられたのでありますが、そうだとすれば、もっと率直に憲法について総理自身が語っていいのではないでしょうか。みずからは語らず人をして語らしめるということでは議論は発展しないのではないでしょうか。  そこで、関連して伺っておきたいのでありますが、総理の改憲論、改憲論者だと言っておられた時期もあるし、現にそう思っておるわけでありますが、これは憲法の制定権力そのものを問題にしているのでしょうか。出生の秘密があるとか、誕生に問題があったとかというようなことも言われている向きがあるようでありますが、そこに問題の焦点を置いておられるのでしょうか。あるいは憲法の内容についてでありましょうか。
  45. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は民主主義社会にあってはタブーはあってはならない、そういうことを申して、それは私の考えでもあります。したがいまして、あらゆる問題につきまして国民が自由に論議をする、恐れおののかないで自由に活発な論議が行われる社会が正しい民主主義社会であると思っておるのであります。そういう意味におきまして、法律の問題も憲法の問題も、あるいは社会や教育の問題も、国民の皆さんが御自由に御論議なすって、よりよきものへ進めていくという立場をとることは正しい立場でありまして、そういう意味におきましても国民の皆さんが勉強し検討し、あるいは国民の皆さんが見直すと、そういう中には憲法も当然入ってしかるべきであると、そういうふうに考えておるのであります。これは民主主義の基本的な原理、原則であると思って、それはよりよきものへ前進するための大事なよすがであると、こう考えておるわけであります。しかし、具体的に内閣総理大臣といたしまして、その憲法の内容にわたりまして是非を論ずるということは、誤解を与えますので慎ませていただきますと申し上げておる次第なのであります。
  46. 矢田部理

    矢田部理君 だれも誤解しないと思うんですね。総理はかねてから改憲論者であり、さまざまな改憲案を世に提示をしたり、意見を述べられてきたわけでありますから、いまさら黙ってみたっていかんともしがたいほどいままで述べてこられておるわけでありますから、率直にここで語ってみたらどうでしょうか。
  47. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 中曽根康弘は依然として中曽根康弘でございまして、また国会議員であることも昭和二十三年から国会議員でございますが、しかし、そのときそのときによって役目が違います。特に公的地位にあるという場合になりますと、一議員におるときとは影響力も違います。そういう意味におきまして、公的地位についたときには地位にふさわしいような言動をするのが慎みであると思いますし、また、わきまえなければならぬところであると、そう考えまして差し控えさしていただいておるということでございます。
  48. 矢田部理

    矢田部理君 総理としては差し控えるが、文部大臣は語ってもよろしいということになっているのでしょうか。その点はいかがですか。
  49. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 文部大臣としても余り語らない方がよさそうであります。
  50. 矢田部理

    矢田部理君 衆議院で事実語ってきたのではありませんか。どんな話をされたんでしょうか。
  51. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私が衆議院で語りましたのは、予算委員会委員の方から憲法と教育基本法についてのお尋ねであります。御承知のとおり、教育基本法は日本国憲法の精神を教育の基本とすると、憲法の思想、内容を教育において徹底させると、こういうことが書いてあります、言葉で言いますと。私は非常にすばらしいことを決めてあると、ただ、そのすばらしいことを決めてありますけれども、もし憲法のあのすばらしい精神を教育において徹底しておったらば、いまのようにいろんな問題が、社会が混乱しないんじゃなかろうか、ここに疑問があるということを私は申し上げておるわけであります。
  52. 矢田部理

    矢田部理君 憲法九条についていろいろ述べられたんではありませんか。もう少しそこのところを説明してください。
  53. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) それも、先ほど総理がお話しになりましたように、私は文部大臣に就任する前、御存じだと思いますけれども、自由民主党の憲法調査会長を命ぜられまして、憲法にいろんな議論がありますから、どういうところをどうあるべきかということを調査会で検討しております。どうあるべきだという結論をまだ出しておりません、率直に言って。そう簡単に出せるものではありません。国民の皆さんに、いろいろ憲法の問題点があっちこっちから指摘されておりますから、その点を知ってもらって、いかにあるべきかということをぜひ考えていただきたいと。言うまでもなく、私は憲法というものは国民の魂であると思っておりますから、魂でならなければ本物にならないと、こういうふうに私は考えております。いまやいわゆる主権在民の時代であります。そういう時代でありますから、みずからの憲法をみずからで考えるというように研究してもらったらどうかという意味の本を書いたのであり、その本についてお問いになりましたから、その本に書いてあるようなことを申し上げたと、こういうことでございます。
  54. 矢田部理

    矢田部理君 どうも何を言っておられるのかよくわからぬですが、私どもが聞いている限りでは、憲法九条を争いのないように改めた方がいいと、こういう発言をなさったのじゃありませんか。
  55. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 憲法九条の、戦争は絶対日本の国はしてはならない、いわゆる平和主義とそれは言われておりますが、すばらしい精神であります。ただ、これにいろんな議論がありますから、こういう根本問題について議論のないような定め方はできないものかということを、いま申し上げましたように私が書いた本に書いてありますから、そのことを申し上げたわけでございます。
  56. 矢田部理

    矢田部理君 憲法九条の解釈をめぐっていろんな争いがある、意見があるから、それをなくするように改めた方がいいという発言をなさったのではありませんか。
  57. 瀬戸山三男

    国務大臣瀬戸山三男君) 私は、先ほど申し上げましたように、申し上げるまでもなく日本国の憲法は日本の国の政治の基本でありますと同時に、国民の生活の基準である、こう考えておりますから、その基本である憲法に根本的な解釈といいますか、扱い方に争いがあるということは不幸なことだと思っております、率直に言って。土台でありますから、土台が常に争われておるということは不幸でありますから、どうあるべきかということを国民に全部相談をしてもらって、その根本を争わないでも国の土台はちゃんとしていけるような方法はないか、そういうことを根本的に考えております。でありますから、第九条についても非常に争われておるのは、私が申し上げるまでもなく御存じのとおり。そういうことでないような憲法をつくることが望ましいということを本に書いてあるんです。本をと言われますから、本によって答えたと、こういうことでございます。
  58. 矢田部理

    矢田部理君 どうも本の中に逃げ込むようでありますが、いま瀬戸山文部大臣が述べられたような論議はやってよろしいということでしょうか。
  59. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 瀬戸山さんの速記録、私拝見いたしましたが、瀬戸山さんが御著述になりました「改憲論語」という本について、文章を引用しながらいろいろ御質問があったのでございます。その中で、いまのような憲法九条に関する御質問がございまして、その文章に基づいていろいろ御質問がありましたから、瀬戸山文部大臣は、自分が書いた本ですから、それはそのとおりでありますから、その書いたということはお認めになった。しかし、国務大臣として、いま内閣にある者としては非常に注意深い発言を実はしておりました。そういう点におきまして、文部大臣は誤解を与えないように努力はされた答弁はしておりますけれども、しかし、後で考えてみますと、若干誤解を与える点なきにしもあらずというおそれがございましたので、そこで私は個々の条文等について閣僚が言及することは好ましくないと、私自体がそういうことをやっておるのであるから、各閣僚も私と同じようにやってもらいたい、慎重を期せられたい、そういうふうに申し上げておるのであります。
  60. 矢田部理

    矢田部理君 個々の条文について言及するのは好ましくないと言っても、現に本の問題にかこつけて瀬戸山さんは個々の問題について語っておられる。その語っておられる内容は、総理自身も前から持論として展開をされておる。憲法九条みたいにいろんな意見があるやつは、解釈を確定する意味でも、争いをなくする意味でも、国民に問うた方がいい、あるいは解釈を国民投票にかけた方がいいとまで総理はおっしゃっておられるわけでありますが、その考え方はいま瀬戸山さんがおっしゃられたことと同じでしょうか。
  61. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) そういう個々の条文の内容に関しましては一切発言するのを控えておると、こういうことでございますから、御了承をお願いいたしたいと思います。
  62. 矢田部理

    矢田部理君 総理自身は、一番憲法で問題になります憲法九条について、改正すべきだとお考えですか。いまのままでいい、改正しなくていいとお考えでしょうか。
  63. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 先ほどから申し上げますように、憲法改正という問題は現内閣におきましては政治日程にのせない、そういうことを申し上げておるのでございまして、そういうことに誤解を与えるようなおそれがあるということで、個々の条文、どういうふうにこれを改正するとかしないとか、そういうようなことについては一切慎んでおるのでございまして、その点は御了承いただきたいと思っております。
  64. 矢田部理

    矢田部理君 総理自身、しかしながら衆議院予算委員会で徴兵制問題の論議がありました。徴兵制については言及して述べておられるのではないでしょうか。憲法九条で徴兵制が採用できない、今後とも憲法改正の中で徴兵制を導入するつもりはないという議事録があるんですが、その点はやっぱり個々の問題に総理自身が言及されたことになりませんか。
  65. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点は、非常に古い昭和二十年代か三十年の初めごろの私の本の中にそういう徴兵制に言及したところがあるんです。それは、しろというのではなくして、その当時の書物によりますれば、これは国民の意思によって検討すべき問題である、そういうふうにその当時は書いてありました。やれと書いてあるんではないんです。  しかし、それがあたかも徴兵制を肯定したというように書かれてあり、その後憲法の解釈におきまして、徴兵制は憲法上できない、そういうことが明定されて、一応法制局から示されたわけです。それがあたかも私が徴兵制度を肯定しているような間違った印象を与えておりますから、憲法で禁止されていることが肯定されているような重大な誤解を与える点がございましたから、そういうことはない、徴兵制は禁止されている、そういうことを明らかにした次第でございます。
  66. 矢田部理

    矢田部理君 その当時の本を私も読ましていただいておりますが、即徴兵制を採用すべしという議論ではないにしても、徴兵制も国民の意向によってはやり得るようにしておいた方がよいということを将来の憲法改正の方向、中身の一つとして主張されたのではありませんか。
  67. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) それは昭和二十年代の末か三十年の初めごろに書いた――ここで申し上げましたが、古い着物でございます、古着でございますと、そういうことを申し上げましたが、そのときにそういう勉強をしたということでございます。しかし、その後法制局等によりましていまのようなことが確定されたと見ていいと周います。したがいまして、その点をはっきりさしたのでございます。
  68. 矢田部理

    矢田部理君 古い着物か新しい着物かは別として、こういう主張をやっぱり総理が持っておる。それが事実として残っておるわけでありますから、そういうことを含めて総理考えを示し、国民と憲法論議をするという姿勢をとったっておかしくないのではありませんか。事実自民党の中では、憲法改正作業が先ほど瀬戸山さんがおっしゃったように進んでおるわけでありますが、やがてこれも総裁として取りまとめられることになろうかと思うのでありますが、その扱いはどうされるおつもりでしょうか。
  69. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 徴兵制は認められないという憲法の解釈をはっきり申し上げた、そういうことでございます。自民党の中におきましてこの憲法調査会がどういう仕上げにまとめていくか、これは自民党自体が全員で決める問題でございまして、私はその論議がどういうふうに進んでいくか、いま見守っておるという状態で、いつそれがまとまるかもいまのところは決まっていないという状態であります。
  70. 矢田部理

    矢田部理君 ワシントン・ポストで総理は、これもしばしば問題にされているところでありますが、憲法問題はきわめて微妙な問題と言いたい、私は胸の中に長期的な時間表を持っているが、それは日本国会でも言わないことにしていると、外でこういうことをしゃべっているんですね。どうして国会でこれからの改憲の手順や考え方、中身を含めた総理の憲法についての対応をおっしゃることができないのでしょうか。
  71. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) その点は国会でも私御答弁申し上げまして、そのときの発言の頭にあったのは明治十四年の政変のことでありますと。あのときは大隈さん一派の自由民権派が内閣を飛び出して非常に政局が揺れたときでございましたが、そのときに日本の先輩たちの知恵によって長期的、あるいは中期的な軌道設定をやって、国民的コンセンサスをつくった。明治十八年に太政官制度をやめて内閣制度に移る、二十一年に憲法を制定する、二十二年から議会政治を実施する、そういう長期的あるいは中期的路線について国民的合意ができた、そのためにその後国政の進展が非常にみごとに行われた。そういうようなことを申し上げまして、憲法問題についても与野党がそういう方法について合意を形成していく、そういう意味の中・長期的プログラム、そういうものが望ましい、そういう意味であるということを申し上げたのであります。
  72. 矢田部理

    矢田部理君 そのお話も伺いました。どうも総理は史実のとらえ方が正確でない。あそこで国民的コンセンサスができたなどというのは評価としても間違っていると思いますが、その議論はさておきまして、総理としてはそうしますと憲法改正とか、憲法論議を政治日程にのせることはしない、あるいは選挙の争点にすることもしないということになるのでしょうか。
  73. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 憲法改正問題を中曽根内閣は政治日程にのせませんということはかねて明言していることであり、また憲法改正問題、どういうふうに改正するとか、いつ改正するとか、そういうような問題を選挙の項目にしようとは考えておりません。
  74. 矢田部理

    矢田部理君 そこがどうも私は総理に対する不信の一つなのでありますが、総理になる前には盛んにあなたはそういうことを言っておられるんですよ。  これはある雑誌の総理発言でありますが、出生の秘密やら解釈やら、いろいろな関係があるからどうも憲法問題がすっきりしない、これを国民に問う最高の場は解散、総選挙である。解散、総選挙のときに現憲法は是か非か、これを主題として問うた選挙はいままで一回たりともない、ばかやろう解散だとか、パンダ解散などというみんなぼやけた選挙になっている、だから違憲論がまだあるんですよ。これは瀬戸山さんと同じような話ですね。そこで国民投票でこの憲法は賛成か反対か、直すのならどういうように直すべきか、一義的に国民の意思をストレートに聞く場が選挙として欲しい、私はやりますよ、最大の仕事、最大の事業として取り組むと、こう力んでいるんですが、こんな話はうたかたもなく消えてしまったんでしょうか。
  75. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) それは違憲判決について裁判所が示された見解について、私が昔考えており、またあるいは書いた点もあると思いますが、そういうことを言ったのでございます。  ということは、裁判所におきましては違憲訴訟についていまの自衛隊自体が合憲であるか違憲であるかという点については、少なくとも違憲ではないということは言っているけれども、合憲であるという積極的なところまでは示されていないように思われる、これは統治行為であるから裁判になじまないということを言っておられる。裁判所が扱う仕事じゃないというふうに一応解されますが、じゃ、どこで扱うのか、違憲訴訟が出ておるのにというと、裁判所がないとすれば、あるいは行政府か立法府かという形になります。行政府、立法府が裁判所がそう言われているのにほうっておいていいものであろうか、何か考えなくちゃいかぬじゃないか、そういう考えを当時持ちました。そういう意味においてこの問題を扱うについて与野党あるいは国民的コンセンサスをもってその統治行為論に対する処理をすることは適当ではないのか、そういう考えを当時持ったわけであります。そういう意味で当時叙述したのであります。
  76. 矢田部理

    矢田部理君 どういう意味で叙述したかは別として、私はやりますよ、解散、総選挙をぼやかさないためにこれで勝負しますよと大変力んでおられたのですが、その見解は今度は変えたのですか、政治日程にのせないとか、選挙の争点にしないとかということは。
  77. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 中曽根内閣といたしましては、憲法改正問題を政治日程にのせないということを決めておるのでございまして、それをそのとおり遵守してまいるつもりでおります。
  78. 矢田部理

    矢田部理君 どうも総理の癖なのかもしれませんが、大変勇ましい発言を一方でするかと思うと、それがまた抵抗があると豹変するといいますか、君子なのかもしれませんが、同じことが先般のアメリカにおける発言についても言えるのではないでしょうか。日本列島を不沈空母にして、ソ連のバックファイアの侵入に対する巨大な防壁を築くなどもその一つでしょう。日本列島四つの海峡を完全に封鎖、支配し、ソ連の潜水艦を通過させない、あたかも戦争前夜のごとき刺激的な発言をする、公然とソ連を名指しで対決する姿勢を明らかにする、これはきわめて危険な発言と言わざるを得ません。今日の国際的な状況から見れば愚劣な発言ですらあると私は受けとめているのであります。しかもその後では、その意味はこうであるとか弁解を重ねる、一部は修正を加える。どういうことになっているのかということで、まさに皆さんから総理自身の信が問われていることになっているのではないでしょうか。いまこれらの一連の発言についてどんな心境、どんな御見解なのか、続いて伺ってみたいと思います。
  79. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) それはこの前の国会でも申し上げましたように、一つの比喩であり、形容詞であるというふうにおとり願いたいと申し上げたとおりであります。そのワシントン・ポストの朝飯会におきましても、私は日本の防衛の基本政策については、いままでのように専守防衛、憲法の枠内においてこれを行う、そして非核三原則を守っていく、そういうことをはっきり言っているんです。それはしかし新聞には載せなかったわけです。そういう意味において、私の真意はいままでの日本の防衛の基本的な姿勢というものをいささかも崩しておるものではない。  そのとき申し上げたのも、要するに防空問題、あるいは海峡防備能力の問題、あるいは周辺海域の防衛問題等々について申し上げたのでありまして、要するに日本列島防衛というものを行うために、これこれのことはわれわれは考えておるのだ、そういうことを申し上げた。自分の国は自分で守るんだということが第一原理でございまして、そういう自分の国を自分で守るんだということをはっきり日本国民が考え、実行しなければ、安保条約を結んでおっても、相手のアメリカがそういうぐらぐらしている国民をいざというときに救うかどうかわからないということも心配しなけりゃならぬと思っておったわけです。したがいまして、自分で自分の国は守るという第一原理をまず実行して、そして安保条約を最も有効に活用する、アメリカをして日本防衛のために誠心誠意努力してもらう、そういう効果を考えてそういう発言もしたということでございます。
  80. 矢田部理

    矢田部理君 単なる比喩や形容詞として受けとめたくないのでありますが、あなたにとって一体ソ連は何なのでしょうか。一国の総理が名指しでソ連のバックファイアの防壁に日本をする、ソ連の潜水艦は通さない、何かもう戦争状態にでも入ったような話じゃありませんか。どういう国際情勢の認識に立っているんですか。ここが私はわからないんです。
  81. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本の防衛という問題につきまして、先ほど申し上げましたような基本的立場を明らかにした、要するに防空問題あるいは海峡について十分に防備能力を持つということ、あるいは周辺海域の問題等々についてそういう考え方を述べた、そういうふうに御理解をしていただきたいと思うんです。現在の日本をめぐる情勢というものについては、ソ連は仮想敵国ではございません。そして、要するに侵略の意思と能力が結合した場合にこれは危険な存在になりますが、現在のソ連がそういう存在であるとは思っておりません。
  82. 矢田部理

    矢田部理君 とすれば、なぜこんな名指しで、いかにも戦争をやっているようなお話になるんでしょうか。そうしますと、ソ連のバックファイアの防壁にする、ソ連の潜水艦は通さないという発言は取り消しますか。
  83. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) いままで自衛隊の飛行機がスクランブルで触接しているのは大体ソ連機が多いことは御存じのとおりであります。この間もバックファイアは能登半島の沖まで参りまして、小松の自衛隊からスクランブルをかけた、日本の航空自衛隊の飛行機がこれを入れないように、あるいは見守った、そういうこともございますし、あるいはバジャーとか、ベアとか、ソ連の飛行機が北海道の周辺に参りますと千歳の航空自衛隊が舞い立って同じように守って事故を起こさないようにさしておるわけでございます。そういうことが頭にありまして、日本の防空問題については一朝有事の際に外国の飛行機を入れさせない、そういう意味で申し上げたのでございます。しかし、それが不必要な誤解を与えたとすればいけないと思いまして、反省もいたしております。
  84. 矢田部理

    矢田部理君 したがって、取り消すということになるわけですか、その発言は。
  85. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 無用な誤解を与えたとすれば、これは余分なことであったと反省しているということであります。
  86. 矢田部理

    矢田部理君 武器技術供与問題に入りたいと思いますが、日本政治国会が長いこと議論をして、武器に関していろんな原則や方針を政府自身も決めてきた、国会の決議にまで高めてきた。この意味、趣旨はどういうふうに総理として理解をされておりますか。
  87. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 武器輸出、あるいは武器技術の輸出等の問題につきましては長い間国会でも御論議があり、また御決議があったことも承知しております。しかし内外の情勢にかんがみまして、日本が防衛を担当してまいりましたときはまだはなはだ微弱でございました。ほとんどアメリカ軍の兵器をもらったり、借りたりしてやってきたわけでございますが、そのころと状況が最近変わりまして、日本もかなりの高度の技術力を持ってきた。こういうことでアメリカ側から、一昨年大村長官がアメリカへ参りましたときに、ワインバーガー長官から、もう一方的にアメリカだけが技術や武器を出すのじゃなくて、日本の方も相互性を持ってもらいたいという要望がありまして、大村長官は基本的には了承して帰ってきたわけです。自来この問題は内閣の懸案事項としてあったわけでございます。そこで、いろいろ検討いたしまして、国会の御決議に反しない範囲内におきまして政府の政策変更を行いまして、日米安保条約下における相互関係のためにこれを調整したと、こういうことをやらしていただいたのでございます。
  88. 矢田部理

    矢田部理君 これは私からも繰り返すまでもありませんが、何といったってこの武器原則を確立した経過と中身というのは、平和憲法の平和理念だったと思うんですね。つまり平和に対する考え方をどう持つかが、抽象的にではなくて具体的にかかっているのが、この原則の守るか守らないかの一番ポイントになるところじゃないかと思うんです。第二次大戦のあの惨禍、日本のとった態度を反省して、再び日本は死の商人にはならないという誓いを込めた方針がこの武器原則だったのではないかと私は受けとめているわけであります。いかがでしょう。
  89. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 従来、政府が武器輸出に関する三原則あるいは統一見解等をもちまして自己抑制をしてまいりましたことも憲法の平和主義の精神にのっとってやってきているものだと思います。また、日米安保条約におきましても国連憲章の尊重とか、そういう意味において平和のための作業として安保条約というものもわれわれは肯定しておるわけでございます。そういうような関係におきまして、この武器に関する今回の政府の決定というものは、これは国連憲章の精神に沿い平和主義の精神に沿ってこれは行おうと、こういう考えであることを御理解いただきたいと思います。
  90. 矢田部理

    矢田部理君 そこで政府の見解を確認的に伺っておきたいんでありますが、国会決議を政府自身が勝手に解釈するというのはいかにもけしからぬ、あなたは三権分立をわきまえておらないというふうに思うわけでありますが、その国会決議の文言が「武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもつて対処」すべきであると、こういう表現で、禁止になっていないから対米武器技術供与ができるのだ、こういう理解なんでしょうか。
  91. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) この点につきましては関係大臣から答弁をいたさせます。
  92. 角田禮次郎

    政府委員角田禮次郎君) 御質問の点につきましては、すでに政府の統一見解として衆議院において官房長官から読み上げたものがございますので、それを申し上げたいと思います。その一部でございますが、   昭和五十六年三月の武器輸出問題等に関する国会決議は、従来、武器輸出三原則等に基づき武器輸出について慎重に対処してきたにもかかわらず、違反事例が生じたことを遺憾とし、「武器輸出について厳正かつ慎重な態度をもつて対処する」こと等を政府に求めたものであつて、同決議は、国会の御承認を得ている安保条約等に基づく日米安保体制の効果的運用上必要な限度での武器輸出三原則等の調整までも禁じているものではないと理解している。   以上述べたとおり、今般の政府の決定は武器輸出三原則等の適用につき一部政策の変更を伴うものではあるが、政府としては、同決議に反するものではなく、そのよつて立つ平和国家としての基本理念を十分尊重したものであると考えており、いわんや日米安保体制が同決議に優先するとうような考え方に基づいて行ったものでは全くない。  以上でございます。
  93. 矢田部理

    矢田部理君 私が伺ったことの答えになっておりませんね。私が申し上げたのは、国会決議は「厳正かつ慎重な態度をもつて対処」すべきでああると書いてあるだけで、慎重にやりさえすれば決議違反とならない、禁止となっていないからやれるのだということでおやりになったのですかと、こう伺っております。解釈じゃないんです、内閣の。
  94. 角田禮次郎

    政府委員角田禮次郎君) 政府としては、もとより国会決議の御趣旨を尊重しまして慎重に検討を重ねてまいったということでございます。
  95. 矢田部理

    矢田部理君 全然答えになってない。
  96. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  97. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記を起こして。
  98. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 国会決議との関係について私が御答弁するのもちょっと問題があると思いますが、しかし国会決議との関係においてこの武器技術を三原則によらない、アメリカに供与する場合によらないという決定に私ももちろん責任者としてかかわったわけでございますからその間のいきさつを申し上げるわけでありますが、この武器技術を三原則によらないこととするということについて政府間で十分討議をいたしたわけでございます。その間にもちろん国会決議との間の関係はどうだということについてもいろいろの角度から検討をいたしました。  御承知のような国会決議、いまお話しのように慎重に厳正に対処するということになっておるわけでございますから、この国会決議がわれわれの政府としての解釈、これは最終的にはこの国会決議の解釈というものはこれは有権的にやはり国会自体でやられることが最終的な問題であろうと思うわけですが、政府が、政府自体のこれに対する解釈としては、この武器技術を外すということについてはやはり安保条約というのがあります。安保条約の効果的な運用、すなわち安保条約というのは日本の平和と安全を図るという目的をもって日米両国で結ばれた条約でございますが、この安保条約を効果的に運用するというこの調整までもこの決議が縛っておるものではないであろう、こういう考え方に立ちまして安保条約の効果的運用を図る、そうして日米間のこの安保条約の有効な適用を図っていく、そして平和と安全を図っていくというためには、武器技術の相互交流を認めるということは決して国会決議の趣旨に反するものではない、わが国の平和理念というものについてこれを損うものではない、こういうわれわれは解釈に立ちまして、そして武器技術についての相互交流を三原則によらないものとする、こういうことに決定をいたしたわけであります。
  99. 矢田部理

    矢田部理君 そういう一方的な解釈がけしからぬというと同時に、私が伺っている質問はそれと違うんですよ。国会決議の中身、文言に即して質問をしているわけでありますね。「厳正かつ慎重な態度をもつて対処」すべきであると書いてあるだけで禁止と書いてないからできると判断したのですかと、こう聞いている。そうかどうかだけ答えてもらえばいいんです。
  100. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはいわゆる「厳正かつ慎重な態度をもつて対処すると共に制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべき」ことを政府に求めているわけですが、これについてはわれわれの解釈としては三原則自体にいかなる例外も設けてはならない、こういう趣旨ではない。すなわち国会の決議は三原則そのものを国会の決議にしたものではない、運用について厳正にそして慎重にやるべきである、こういうふうにわれわれは理解をいたしておるわけでございます。したがって、日米安保条約の効果的運用という立場からの調整までもこの決議は妨げるものではないというのが私たちの判断でございます。その判断に基づきまして武器技術を三原則から外したといいますか、三原則によらないものとする、こういうことにいたした次第であります。
  101. 矢田部理

    矢田部理君 そうすると、国会決議が全面禁止にはなっていない、厳正かつ慎重にやりさえすれば例外を設けられるという理解に立って走った、こういうふうに受けとめていいわけですね。  そうだとすれば、そういう解釈をとるに当たって、参議院もこれは決議しているわけでありますが、参議院の議長なり参議院自身に対して、この解釈、この決議の意味はどういうことですかと事前に尋ねたことがあるでしょうか。あるいは参議院としてその見解を示したことがあるでしょうか。
  102. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 政府関係閣僚で寄りまして、いろいろと国会決議との関係について十分話し合ったことは事実であります。その結果の結論として、政府としては、政府の解釈としては先ほど申し上げましたように、三原則自体にいかなる例外も認めてはならない、こういうことにはならないだろう、同時にまた安保条約の効果的運用という観点に立っての調整までもこの決議は妨げるものではない、こういうふうな判断に立ったわけでございます。したがって、これはもちろん政府の解釈でございまして、国会自体の行われた決議でございますから、国会自体がその決議に対して有権的に最終的な判断を下されるのはこれはまた国会の問題であろうと、こういうふうに思うわけでございます。政府としてそういう判断に立って武器技術を三原則によらないこととした、こういうことでございます。
  103. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国会につきましては、政府はそういう解釈を決定いたしまして国会決議に政府としては違反しない、そういう見解を持ちました。そこで、事後でございますけれども、衆議院、参議院の議長さんに対しまして、私からこういう解釈をとることにいたしましたと御通知を申し上げた次第でございます。
  104. 矢田部理

    矢田部理君 一方的に政府が解釈をする、おかしいじゃありませんか。この決議は国会の決議ですから、参議院の決議でありますから、その有権解釈は国会そのものにあるということはお認めになりますね。いかがですか。
  105. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国会の御決議は国会自体が御解釈になるということであるだろうと思います。その国会の中におきまして、まあ一部でございますが、自由民主党という政党も大きな構成員の一人でございますが、自由民主党の幹部とも相談をいたしまして、自由民主党側もそういう解釈でよろしい、そういう自由民主党側の考え方もいただきまして政府としてはそういう解釈をとったという次第でございます。
  106. 矢田部理

    矢田部理君 大変な話じゃありませんか。国会自民党だけで構成しているのではありませんよ。政党を超えた国の最高機関として存在をし機能をしているわけです。自民党がいいと言ったからなどという話だと、これは断じて私たちは認めるわけにはいきません。  総理は、ロッキード事件の私の質問のときにもそうでしたが、これは司法の問題、これは立法の問題だと言って、大変三権分立のたてまえを尊重しているかのようなことを一方では強調しながら、これほど三権分立を無視し、国会を軽視したやり方はないではありませんか。どうしても国会決議に抵触するような、あるいは国会決議についてどういうふうに理解をしたらいいのかどうかということに迷ったような場合には国会自身に尋ねるべきではありませんか。国会から意見を聞くべきではありませんか。どうしてそれをおやりにならなかったのですか。
  107. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) それも一つの御見識であると思います。行政権を担当している政府といたしまして、国会側のいろいろなお考えもよく調査もし勉強もいたしました。そして法制当局ともいろいろ検討をし、相談もいたしました。その結果、政府側の解釈といたしましてはいま申し上げましたような見地に立ちましたので、政府の責任においてそういう解釈を政府としてはとらしていただく、そういうことでお願いをし、かつ両院議長のお二方につきましては政府のそういう見解をお伝え申し上げたという次第なのでございます。
  108. 矢田部理

    矢田部理君 自民党と相談して、自民党がいいと言ったから走ったとか、国会には事後に連絡をしましたということで済むような性質の問題ではありませんよ、これは。特にさきの国会でわが党の赤桐議員がこの問題の危険を感じて、武器技術協力などをやるような場合には、これも問題のある発言でありますが、国会に対して国会決議の修正変更を求めるようなことを含めて考えている、そういうことをしなければやらぬというたしか答弁をしていたと思うんであります。事実この内閣方針を決定した後でも閣内で国会決議の修正を求めなけりゃならぬ、変更をお願いするという発言なども飛び出しているわけでありまして、単純に抵触しないなどと説明できる性質のものではない。政府の独断専行、国会軽視という点ではこれは許しがたい態度だと思うのですが、いかがでしょうか。
  109. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) 私の官房長官談話についての御質疑のようでございますからお答えをいたしておきたいと思います。  今回の、アメリカに限り、しかも武器技術に限ってアメリカに対しては供与しようと、こういう決定をしたわけでございますが、これは従来の政府が言っておりました武器輸出三原則、あるいは政府方針というものの上から見ますと、従来はアメリカも含む、技術もこれに準ずる、こういう扱いをしておりましたので、その限りにおいては安保条約の有効な運用を確保するという観点から政府としてはその限度での政策の一部変更を行ったと、こういうことでございます。  問題は、国会決議との関係にあると思います。国会の決議というものは政府としては最大限に尊重しなければならぬと、これは申すまでもございません。それだけに、政府としては政府の従来の政策を一部変更したことは間違いありませんけれども、さてそこで、その決定をするのに当たっては、私どもとしてはそれなりに厳正慎重な検討の上こういう決定を行った。そこで、国会の決議そのものは、私どもとしては安保条約の効果的運用まで禁止をしておるというふうには理解しておりません。そういうようなことで、厳正慎重な配慮をした上での決定でございまするので、国会決議に違反しているとは私どもは思っておりませんし、また今回の決定がありましても国会決議を尊重していくという従来からの政府の方針にいささかも私は変わりはないと、かように考えておるわけでございます。  ただ、申し上げるまでもありませんけれども、これは国会の御決議でございますから、私ども政府はそういう慎重厳正に扱い、国会決議に違反してないという立場をとっておりますが、国会決議そのものの有権解釈ということになりますと、これは政府が勝手に決めるわけにはまいりません。したがって、私ども衆議院でも申し上げておるんですが、国会でひとつお決めをいただきたい。国会の中ではいろいろ御議論が今日まであったことは事実でございますが、先ほど総理が申し上げましたように、各党の中にも違反してないという御見解もあれば、これは違反しておるじゃないかと、こういう御見解もある。これは最終的には国会の御判断にお任せをする。ただ、私どもとしては、国会に対しては政府のこういう政策の変更、そしてまた国会決議に対する私どもの考え方については皆さん方にぜひとも御理解を賜りたい、これが私どもの考え方でございます。
  110. 矢田部理

    矢田部理君 官房長官、ちょっと席を外されておったので論議の経過がわからぬまま大演説をされておるわけでありますが、いま論議の焦点は、この決議の解釈は国会が有権解釈権を持っておる、ですから、それにかかわるような政策変更をやる場合には少なくとも事前に国会に解釈なり考え方を聞くべきではないか、議長や国会にそれをどうしてやらなかったのかというのが第一点。  二点目は、それに対して中曽根総理の答えが、自民党国会の構成員だ、自民党に聞いたからあたかもよさそうな向きの御返事をなされたから、これはしかし自民党国会ではありません、国会自民党を超えた存在だ、そんなことで国会決議が無視をされるということになったらこれは大変なことだ、自民党だけ相手にしたらいいということで国会を軽視するのは許しがたい、どうするんですかという話をしているんです。
  111. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) 政府としては、いま私がお答えしたように、この国会決議に違反をしてないと、こういうことでございましたので、事前に各党に御理解を求めるということはしなかったわけでございます。しかしながら、政府はそういう見解ではあるけれども、事柄の性質上これはやはり事後ではあっても、両院議長様に総理から御連絡をするのが筋ではないかと、こういうことで総理は御連絡を申し上げたと、こういうことだと思います。私どもは、したがって違反してないという立場に立っておるわけですから、その点御理解願いたいと思います。
  112. 矢田部理

    矢田部理君 同じ議論を繰り返すのはなにでありますが、私が言っているのは、国会の決議なんでありますから、それに抵触するかしないか、反するか反しないかということで問題があるようなケースについて政府が方針変更する場合には、事前に国会に相談してしかるべきではないか、あるいはこの解釈について事前に少なくとも議長なり国会はやっぱり意見を聞くべきではないか、どうしてそれをやらなかったのかということが一つです。後から通告したかどうかを聞いているのではない。それが中曽根さんの言う三権分立論のたてまえの議論じゃありませんか。  もう一つは、自民党に相談したんだからいいんだ、自民党国会の構成員だという総理発言は、これはいかにも国会を軽視している。自民党国会ということで政治考えられたらこれは大変なことになる。その点については、少なくとも僕は重大な間違いだと思いますから、取り消してもらうか。二つの問題を含んでいるので、もう一度答弁を求めます。
  113. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) いま申し上げましたように、私どもとしては、事柄が重大であるというだけに慎重厳正に扱って、しかもその立場に立っても国会の決議には違反はしてないと、こういう立場なんですから。しかし、やはり事柄から見て、国会の決議もあるんだから事後であっても両院議長さんには御連絡を申し上げるというのが筋道ではないのかと、こういうことをやったわけですからね。初めからこれどうもおかしいなと、こう思えばそれはあれかもしれませんけれども、私どもとしては厳正慎重にやったんですから。そして違反してないと、こういう私どもの政府の見解でございますから今日までのような措置をとったわけでございます。
  114. 矢田部理

    矢田部理君 ちょっと了解できません。
  115. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記をとめてください。    〔速記中止〕
  116. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記を起こして。
  117. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 先ほど私が自民党の意見を聞いたというくだりは、これは議院内閣制下におきまする政府・与党の内部手続の問題でございまして、国会というもっと大きな広い部面の問題とは次元が違う問題であるというふうに自覚しております。そのように考えて申し上げたということをつけ加えさしていただきます。
  118. 矢田部理

    矢田部理君 きわめて問題な発言だということであり、かつ取り消されたというふうにも理解をしますから、先に進めますが、いずれにしてもこの問題は勝手に政府が解釈していい性質のものではない。事実、後藤田さん自身国会に変更を求める必要がありはしないかという発言までされたと伝えられているわけでありまして、そんな明快なものじゃないはずだ。だからこそ鈴木内閣以来いろいろ悩んでもこられたわけでありまして、いずれにいたしましても、これは国会自身が有権解釈をすべき問題でありますから、国会で有権解釈が確定するまで対米関係は凍結してしかるべきじゃありませんか。いかがでしょうか。
  119. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) こういった対外関係は政府が取り扱うということになっておりますので、政府としては先ほど申したように、違反してないという立場でございまするので、凍結をするというわけにはまいりません。
  120. 矢田部理

    矢田部理君 これだけ重大な問題について、いろんな経過の中から国会決議にまで高められた中身について、政府が一方的に解釈をして、国会決議に反していない、アメリカとの約束だから進めますという話では、私どもは結構ですと言うわけにはまいらぬのです。この問題は少なくとも国会で決着がつくまで、国会見解が明らかになるまで対米技術協力は凍結すべしという強い主張を私申し上げておきます。いかがですか。
  121. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) 矢田部議員の御意見として承っておきたいと思います。
  122. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国会決議の解釈という問題は国会がおやりになるものであるとわれわれも考えております。しかるところ、行政権側におきまする政府といたしまして、外交権というものは行政権の一部で、政府が責任持ってやることになっておりますが、政府は国会決議を厳正かつ慎重に考えまして、いろいろ検討した末、国会決議には違反しないと、そういう認識のもとに外交権を行使してやってきたものでございます。したがいまして、これをアメリカに対して取り消すということは考えておりません。  しかしながら、この国会決議が国内的に、特に国会の内部におきましてどういうふうな解釈がとられるであろうかという問題は、確かに矢田部さんおっしゃるとおり問題として残り得る問題であるだろうと思います。しかし、われわれといたしましては、政府といたしましていろいろ検討をし、かつ相当長期間にわたりまして慎重かつ厳正に考慮もして検討してきたものでございますので、政府側のそのような見解につきましてはぜひ御了承いただきたいと思っておる次第なのでございます。
  123. 矢田部理

    矢田部理君 いまの総理の答弁に私は了解をするわけにはまいりません。これはやっぱり国会と内閣との関係、立法と行政との重要な関係にかかわる問題でありますから、問題は後に残して、つまり留保して次の質問に移りたいと思いますが、明確にこれはどこかでけじめをつけなければならぬ問題だというふうに考えておりますので、したがってまた政府の……
  124. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  125. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記を起こして。
  126. 矢田部理

    矢田部理君 この問題は、先ほどから繰り返し申し上げておりますように、国会行政府の基本にかかわる問題でありますから、私がここでいいとか悪いとかと言って片のつけられる問題ではございません。したがって、私自身も留保をいたしますが、同時に、この問題は理事会でも十分に御審議いただくと。そして、対政府関係はやっぱりけじめをつけるということで、ひとつ理事会預かりにしてほしいと思うのですが、いかがでしょうか。
  127. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 矢田部君の御発言の問題につきましては、後刻理事会におきまして協議をさせていただきたいと思います。
  128. 矢田部理

    矢田部理君 そういうことになりましたから、それを前提にする議論は私は率直に言ってしたくないんでありますけれども、あわせて、政府は国会決議に反しただけではなくて、政府の従来とってきた方針をも変更することになりました。  ここで幾つかの問題点が出てまいります。まとめて三点ほどまず伺っておきたいと思いますが、一つは、紛争当事国には武器輸出をしないということになっておったのに、アメリカが紛争当事国の場合はこれまた例外として取り扱うということになったように聞いておるのですが、その辺をどう考えておるのかが第一点です。  それから二番目に、アメリカとの関係の武器技術協力は、日米相互防衛援助協定に基づいて、その枠組みのもとでやるということになっております。この第一条を読んでみますと、日米が合意をすれば第三国への援助を可能とするような文言になっているわけであります。つまり日本の提供した技術が、あるいはそれを使った武器がアメリカを通して第三国に流れる可能性が非常に強まっている。こうなると、日本の武器が世界の市場に流れて人殺しの道具に使われることがあってはならないというもともとのやっぱりこの原則をつくってきた趣旨が大きく崩れる危険を高めているわけでありますが、この点どうお考えになっているか。  それから三点目は、武器技術協力だけはするけれども、武器本体の協力はしない、輸出はしない、これは山中さん大変な見識だと思ったわけであります。永久にしないんだと山中さんはおっしゃったが、その後外務省の巻き返しに遭って、中曽根内閣の間はやらないと、きわめて限定的なものになってしまったという経過もあるようでありますが、この辺のところが一体どうなっているのか。  以上三点を伺っておきたいと思います。
  129. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 武器技術をアメリカに供与する場合において、いわゆる武器輸出三原則によらないこととする、こういうことで相互交流を進めるわけでございますから、三原則の一つである紛争当事国になった場合といえども、武器技術に関しては、これはアメリカに対して供与する場合もあり得るということでございます。  それから、いわゆる相互援助協定に基づいて武器技術の供与をアメリカに対してのみ行うわけでございますが、これはいわゆるMDAの協定で、お互いに、日米双方でこれまでもアメリカから武器あるいは武器技術について日本に供与を受けております。それに基づいて細目取り決め等が行われておるわけでございますが、その基本としては、やはり第一条、いわゆるMDA協定の第一条に書かれておりますように、国連憲章、いわゆる自衛権の範囲内においてしかこれは使えないとか、あるいは第三国に供与する場合には同意がなければできないとか、そういうことがいわゆるMDAの権利義務として発生するわけでございますから、このMDAを通じて行う武器技術について、第三国にアメリカがこの武器技術を供与するに当たっては、これはもちろん日本の同意がなければできないことは当然でございますし、その場合においては細目協定その他につきまして、いわゆるMDAの原則というものがその基本になるわけでございまして、そういう見地に立って、日本としてもアメリカが第三国に供与する場合に当たっては、この同意については厳重に、慎重に行おうというのがわれわれの方針であります。  それから、武器そのものについてはどうかということにつきましては、これは官房長官談話で発表いたしましたように、われわれ政府といたしましては、この武器技術のみをアメリカとの相互交流にいたしたわけでありまして、武器についてはこれを一切考えてないというのが中曽根内閣の基本的な方向、方針であります。
  130. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) いまも外務大臣が答弁したとおりでありますが、私は中曽根内閣の通産大臣でありますから、中曽根内閣の間は武器輸出はしないということを守るということでありますから、それに従ったということであります。
  131. 矢田部理

    矢田部理君 衆議院の山中さんの答弁をお聞きしますと、もっと威勢がよかったような感じだったのですが、あなたはやっぱり永久にやるべきでないという考え方は持っておられるわけですか。
  132. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 私のあの答弁に対して、いろいろと陰の声といいますか、余りにもかっこよ過ぎるじゃないでしょうかというようなテレビ解説等も自分で見ましたが、私はかっこいいとか悪いとか、与党とか野党とか、全くそういうことを超越して、自分自身が生涯を生き抜いていく哲学と信念を持っているわけです。それは変わりません。息を引き取ってもなおこの世に残したいぐらいです。しかし、そのことは、いま私は通産大臣でありますから、妥協していないでしょう、武器は含まない。しかし期間を――期間というのはおかしいですが、中曽根内閣において決定するのだから、山中君の信念はわかったし、そうまた国会決議を踏まえてするつもりだし、武器は出さないし、応じないのだから、あくまでも技術だけなんだからという、総理から言われれば、じゃ私は何だといったら、中曽根さんの総理大臣のもとの通産大臣です。それは、そこのところは総理大臣に従わないで私の信念を貫こうといったって、通産大臣の地位を私が去って、そして個人の政治家として行動する以外に道はありませんが、しかし去ってそれが可能であるかといったって可能ではないと思うのですよ。したがって、私は通産大臣になりたくてなったわけでもないし、(笑声)――余りこういうまじめな話に笑わぬでもらえませんか、まじめな話しているんですよ。だから未練も何もないです。私の基本的な信念とどうしても相入れないならば、みずから去ります。しかし、中曽根内閣の通産大臣だから、総理がこうしてもらいたいと言われた場合に、それに従わなければならぬのがいけないのかと。私は、長年の、三十年余りの親友としていまの総理から言われた場合に、私のわがままを申し上げることはできない間柄でございます。したがって、私自身は変わりません。終生変わりませんか、その方針としての中曽根内閣においてはという言葉については、何ら不服も異存もないわけでございます。
  133. 矢田部理

    矢田部理君 紛争当事国に武器輸出はしない、もちろん技術供与もしないというのが従来の政府方針だったわけですね。それは、紛争当事国の一方に武器を輸出したり技術を与えたりして援助することは、紛争に巻き込まれるおそれがある、一方に加担することになるということから、非常に慎重な態度をとってきたのだと思うんですね。アメリカに限ってそれまで許してしまうというのはどうでしょうか。  それから二番目は、第三国への移転は私は少なくとも断るべきだと思う。もともとこの相互防衛援助協定ができたのは昭和二十九年なんですね。かなり古いものなんですよ。その後日本ではいるんな武器原則が確立をされてきたわけでありますから、少なくともその第三国移転に対しては断るという態度をとるのが日本政府の態度ではなかろうかと。特に技術の場合にはこれは普遍的なものでありますから、技術というのは。生の武器と違ってどんどん外に流れる可能性が非常に強いわけであります。また、それに対する歯どめが非常にむずかしいわけでありますから、ここで例外を設けるとか、ケース・バイ・ケースなどという言い方をしておったのでは、これはもう世界に日本の技術が、あるいはそれを使った武器が流れてしまう。その点でMDAの運用については拒否の態度を明らかにすべきであるということを私は強く申し上げておきたいのですが、いかがでしょうか。
  134. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アメリカが紛争当事国になった場合も、MDAを通じての武器技術の供与につきましては、いわゆる日本自身が政策の変更をしたわけでございますから、三原則によらないという変更をしたわけでございますから、これはできるわけでございますが、しかし、もちろんMDAを通じての供与でございます。MDAの権利義務の規定としてはっきり書いてあるわけですが、日米両国とも自衛の目的以外にはこれを使わないということがはっきりこの条約上の義務として明定をされておるわけでございますから、この武器技術の輸出によって紛争を助長するというものにはならないというふうに私どもは判断をいたしております。  それから第三国への輸出については、まさに歯どめとして日本政府の同意がなければこれは輸出できないわけでございます。したがって私どもとしては、第三国への輸出についてはわが国の三原則の立場というものももちろんあります。それから今回の武器技術を供与するに至った趣旨、すなわち武器技術の輸出については日米安保条約を効果的に運用するという趣旨があるわけでございますから、そういう立場というものを踏まえて、日本政府としては第三国への供与に対しては厳正に、厳重に、慎重にこれに対応していくというのがわれわれの考えでございまして、いたずらに第三国に武器が流れるということは条約上、協定上もあり得ないし、また細目取り決め等において、そういう点については日米両国間で十分相談をして、そういうことがないと、第三国へいたずらに流れることがないような仕組みに今後持っていかなければならない、こういうふうに考えておりますが、アメリカ自体が武器技術を要請してきております。これに対してわれわれがイエスと答えたわけでありますけれども、いまはまだ何ら、どういう武器技術をそれじゃ欲しいとかという点についてはまだ何らの要請があるわけではないので、アメリカ自体からそういう点について具体的な要請があった時点で、いま私が申し上げましたような条約上の義務、われわれの基本的な態度姿勢というものを踏まえてこれに対応してまいりたいと、こういうふうに思っております。
  135. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 午前の質疑はこれまでとし、午後一時委員会を再開し、矢田部君の質疑を続けます。  これにて休憩いたします。    午前十一時五十四分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  136. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 予算委員会を再開いたします。  昭和五十八年度総予算三案を一括して議題とし、休憩前に引き続き、矢田部理君の質疑を続けます。矢田部君。
  137. 矢田部理

    矢田部理君 武器技術協力問題、幾つかの答弁をいただきましたが、いずれも納得できるものではありません。が、後日また議論を深めることにいたしまして、シーレーン防衛に関連して二、三の点を伺っていきたいと思います。  端的に申し上げますが、シーレーンの防衛というのは、外国からいろいろ日本が物を運んでくる、食糧や資源を持ってくる、これを守ることを中心に考えているかのような説明があるわけでありますが、同時に、日本に物を運んでくるのは外国船が相当あるわけです。その割合はどのぐらいか、その外国船を守ることはするのかどうか、伺いたいと思います。
  138. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) シーレーン防衛というのは、御承知のように、わが国は食糧、エネルギー資源、その他大半を海外に依存しているということから、わが国の生存のためにきわめて重要である。そういう意味合いから、海上交通の安全を確保するために行うということがいわゆるシーレーン防衛でございまして、これはあくまでも、わが国に対する武力攻撃があった場合を前提としての話でございます。  それから、ただいま御指摘の日本船の貨物の積み取り比率、たしか四〇%程度が邦船の積み取り比率であるというふうに理解しております。
  139. 矢田部理

    矢田部理君 外国船を守るのかどうか。
  140. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) あくまでもわが国の船を守るというのが目的でございます。
  141. 矢田部理

    矢田部理君 そうしますと、日本籍の船は守るが、外国船については、国籍が外国にあるわけでありますから、日本向けの積み荷を運んでくる場合でもこれは守らぬということは明快ですね。
  142. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) わが国有事の場合というのはいろんな場合が想定されまして、その対応を一概に申し上げるのはなかなかむずかしいと思いますが、当該船舶が外国船であるということであれば、その船舶に対する攻撃に対する責任といいますか、自衛手段を講ずべきはその船の船籍国、旗国の責任であろうかというふうに理解しております。
  143. 矢田部理

    矢田部理君 したがって、日本はやりませんね。
  144. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 第一義的には当該船舶の旗国、船籍を持つ国が行うべきであるというふうに理解しております。
  145. 矢田部理

    矢田部理君 これは大事なことなんですよね。日本の防衛とは何かということになれば、日本の独立とか主権を守るんだと。主権にかかわりのない外国のまで守るということになりますと、これは日本の防衛の範囲を大きく逸脱することになる。第一義的には守るという議論、第二義的にはどうなのかとまた聞きたくなるわけでありますが、その点はいかがですか。
  146. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 先ほども申し上げたように、そういう事態は千差万別でございまして、いろいろな場合があろうかと思いますが、いま私どもは、こういう仮定の問題につきまして一々、その前提条件、そのときの態様というものがいろいろ万差万別でございます。そういう場合を総合して一般的に申し上げるのはなかなかむずかしいものであるということで、いま原則のお話を申し上げたわけでございます。
  147. 矢田部理

    矢田部理君 いろいろな場合が想定できるではなくて、私が問題にしているのは、日本有事の場合で、外国船籍の船が日本に積み荷を持って入りてくるのを守るのか。一義的には守りませんという話ですが、二義的、三義的にはどうなのか、そこを明快にしてほしい、こういうことです。
  148. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) それがわが国の防衛のために必要であるかどうかという判断、認定があろうかと思います。それが、どういう場合にそういう認定をされるであろうかということを一概に申し上げるのはなかなかむずかしいのではないかというふうに申し上げているわけでございます。
  149. 矢田部理

    矢田部理君 そうすると、外国船も守ることがあるという前提ですか。
  150. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) そのときのわが国に対する武力攻撃の態様によって考えられるべき問題であろうというふうに思っております。
  151. 矢田部理

    矢田部理君 全く納得できません、そんなあいまいな答弁では。これは重大なことでありますから。  わが国の防衛の範囲がどこまで及ぶのか及ばないのか、やるのかやらぬのか。これはシーレーン防衛そのものも大変な問題でありますが、なかんずく、外国船まで守る、外国が主権を行使すべき船まで日本の防衛の範囲に入るというふうなことになりますと、これは理論上も実際上も大変なことになるというふうに思うわけでありまして、その点はいまの答弁では全く納得できませんので、再度、これは防衛庁長官あるいは総理、はっきりさせていただきたいと思いますね。
  152. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) ただいま政府委員から答弁させていただいたことに尽きるのでございますが、私どもといたしましては幾つかの前提を持っておりまして、まずそのうちの一つは、広い海洋、海域を、海域分担の発想は持たない、とらない。これは集団的自衛権の中へ立ち入るということがございますものですから、そういうものを一つ持つ。  もう一つは、わが国が攻撃を受けているときに、積み荷がわが国の積み荷であり、また目的港をわが国に向かって来るというだけで直ちにその外国船を守らねばならないかどうかという問題については、先ほど答弁を申し上げさせていただきましたように、いろいろな状況が考えられるものですから、直ちにそうとはならないという形で、第一義的にはこの手の問題につきましてはあくまでも旗国船主義、攻撃を受けている国の自衛の範囲の中にある、それから先の問題につきましてはどういう状況になってどうなるかということによって判断が変わってくる、こう申し上げているわけでございます。
  153. 矢田部理

    矢田部理君 そのときの状況判断だ、どういうケースになるかわからぬから言えないということでは困るのであります、これは重要なことでありますから。その判断の基準を明確にしてほしい、守るというのであるならば。守らないなら守らないと、これまた明確にしてほしい。
  154. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) まことにくどいようで恐縮でございますが、現時点において私の答弁できますことは、先ほど答弁させていただきましたように、さまざまな態様、さまざまな状況が考えられるもんですから、第一義的には旗国、その船の属している国の自衛権の中に入るものであると。それから後、次に、わが国としてどういうような判断を示すかは、そのときの状態になりませんと何ともここではお答えができない、こういうことでございます。
  155. 矢田部理

    矢田部理君 答えができないなら、どういうふうに指示するのか、問題になったら。ちょっと納得できません。
  156. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 再三御答弁申し上げているように、わが国の自衛隊というのは個別的自衛権の範囲内で行動するわけでございまして、起こり得べき仮定の問題、いろいろな問題についての判断をここでもって一言で言うのはなかなかできかねると思います。それはそのときの状況によって判断をしていただくと、こういうことだろうと思います。
  157. 矢田部理

    矢田部理君 総理日本に物を運んでくる割合は、外国籍船が六割だというんでしょう。これに依拠している部分が非常に大きいわけですね、日本の資源とかエネルギーとかも含めて。そこで、シーレーン防衛を一方ではやると。そのシーレーン防衛というのは海上交通路の確保だと。とりわけ商船の出入りを確保していくということに主眼があるんだとあなた方は説明しておられる。そこで、六割を占める外国船を守るのか守らぬのか。第一義的にはその籍のある国で守るんだと。二義的にはいろんな場合があるからわからぬ、基準を示せぬということでは、これは何のためにシーレーン防衛をやるんですか。何のためにそこに大変なお金を注ぎ込むんですか。何のために大変な軍備をつくるんですか。わからぬことになるじゃありませんか。
  158. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 夏目局長及び防衛庁長官がお答えしたとおりでございまして、第一義的に、それは船籍国の問題であると、そういうことであると思います。それで恐らく局長は、いろんな事態がどう出るかということをおもんばかって慎重な発言をしているのだろうと私は想像いたします。しかし、やはり国際法上船籍国の方に責任が生じてきて、また権利も生じてくると。われわれの方はどっちかというとお客さんのはずでありますから、そういう責任はないと思うのであります。  ただ、恐らく、この問題は少し勉強させていただきたいと思うんです。と申しますのは、どういうケースがあり得るかということをもっといろいろ詰めてみたらどうだろうかと。それで、原則的には、第一義的には、それは船籍国がやるという原則はもうはっきりしておるんですけれども、わが国に対する武力攻撃が現に起こっておって、そして物資が非常に欠乏してきているというような状態で、そしてたとえばこの間の大戦のときのように、油も欲しい、食糧も欲しい、飢餓状態にでもなるという、そういう場合もないとも言えない。それが目の前で、房総半島の沖でやられるとかなんとかという場合が起きた場合に、国民世論がどうなるだろうか、あるいは議会筋の意見がどうなるだろうかと、そういうことも、やはり民主政治ということを考えてみますと、検討を要する問題が出てくるかもしれぬ。そういうことも一つの想定としてはあり得る、理論的想定としては。そういうような、その事態におけるわが国の独立と安全を保持して、そして憲法を守って個別的自衛権の範囲内で物を処するという原則は厳然としてこれは守らなきゃなりませんが、そういう、ほとんどないと思われるけれども、理論的可能性としては、考えてみれば仮定としてはあり得るような問題もなきにしもあらずであります。というのは、日本に物資が非常に欠乏して、国民の声がもう翕然として起こるという場合もないとも限りません。そういうようなこともないとは言えないので、この問題はそういう詰め方が政府側において具体的にまだ私は十分できてないように思うんです、正直に申し上げて。それで、しばらく勉強させていただきたいと思います。
  159. 矢田部理

    矢田部理君 大事なことなんですね。シーレーン防衛というのは一体何から何を守るのか。基本的な問題でもあるわけですよ。その守るべきものが定まらない。これから勉強だと言っておる。軍備だけふやしていく。これじゃ論理が逆じゃありませんか。この点は明確な基準を緊急に私は政府は出すべきだと思うんですよ。そうでなきゃ論議が進められないじゃありませんか。
  160. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) おっしゃることはよくわかりますし、完全と言えるぐらいにそういう体系ができていなければならぬということもおっしゃるとおりでございますけれども、しかし、いろんな情勢変化に応じていろいろもう少し具体的に各省との間にも詰めをやる問題が私はあり得ると思います。もちろんこれは仮定の問題で、起こり得ない状態のものが多いと思いますけれども、しかし国会で御答弁申し上げるという場合には、やはり各省間で整合性を持ったしっかりとした御答弁を申し上げなけりゃならない。しかし、先ほど申し上げましたように、個別的自衛権の範囲内で、憲法の範囲内で、しかも武力攻撃が起きている状態で、そういう状態のもとに何があり得るかという点をもう少し詰めさせていただきたいと思います。
  161. 矢田部理

    矢田部理君 シーレーン防衛のための大変な予算も軍事予算として組んでいるわけですね。P3Cの購入もその一つでしょう。護衛艦もたくさんつくることになっている。そこが先行して中身は何も決まってないじゃ話にならぬじゃありませんか。しかも、外国籍の船を防衛するかどうかというのは、集団自衛権と一つのものになってくる可能性を含んでいるわけです。だから政府は方針を出せないんじゃありませんか。方針を出さないで論議せいと言ったって無理じゃありませんか。方針を緊急に出してくれませんか。
  162. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) ただいまここで議論が続きました日本に向けての積み荷を持った外国籍船に対する有事のときの防衛問題につきましては、いま総理からの御発言もございましたので、私も担当大臣の一人として至急これを詰めさせていただこうと思います。
  163. 矢田部理

    矢田部理君 相談してくださいよ、これ。こんな大事なことが決まってないというのじゃ困ります。
  164. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 御発言の中で、決まっていないという御発言もございました。これ御質問でございませんでしたので私は答弁いたしませんでしたが、公海上におきまする日本有事の場合における防衛につきましては、わが国の自衛の範囲の中で行う態様につきましてはすでに確定をいたしております。ただ、ただいまここで議論が出ましたように、日本向け積み荷を持った外国籍の船に対する問題については御質問のとおりでございまして、これはただいままで累次政府が答弁をいたしております答弁をここで繰り返させていただいたわけでございます。
  165. 矢田部理

    矢田部理君 委員長、同じことを時間があれですからやりたくないんですが、六割の積み荷が外国難船で運ばれてくるわけでしょう。これをどうするか。全然決まってないと。第一義的には籍のある国でやる。しかし、第二義的以降はどうするのかが詰まってないで何がシーレーン防衛ですか。それはここで出してください、方針を。
  166. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 先ほど来答弁させていただいておりますように、第一義的にはまさにこれはその国の、その船を持っている国の自衛の範囲の中の問題でございます。
  167. 矢田部理

    矢田部理君 委員長、私は二義的な以下の問題を聞いているので、一義的な答弁だけではだめなのです。同じ答弁繰り返すのじゃ納得できませんから、これは委員長からも指示してください、答弁を。
  168. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 一義的という言葉を使わせていただいたので二義的という言葉が出ましたが、二義的という言葉で答弁をさしていただくのがよろしいかどうかわかりませんが、先ほどの総理の指示に基づきまして、私も担当大臣としてこの問題について政府部内で詰めさせていただこうと、こういうふうに答弁さしていただいた次第でございます。
  169. 矢田部理

    矢田部理君 それじゃ次の質問ができないじゃありませんか。
  170. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 再三御答弁申し上げているように、原則的には旗国、船籍国が守る、こういうたてまえでございますが、具体的なケースについての場合はこれから研究するということでございますが、それがなければシーレーン防衛というものは必要ないかどうかということとは別問題でございますし、われわれとしては、この問題はわが国を防衛するためにきわめて重要な問題であるということは、いまの問題の検討とは別にあると思っておりますので、御理解をいただきたいと思います。
  171. 矢田部理

    矢田部理君 検討ということはないでしょう。同じ答弁ですよ。
  172. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記をとめてください。    〔午後一時二十二分速記中止〕    〔午後一時三十六分速記開始〕
  173. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 速記を起こして。
  174. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) ただいま御指摘の件につきましては、予想される事態というのはきわめて千差万別で、困難ではあると思いますが、御趣旨に沿いましてできるだけ早く、今週程度にまとめたいというふうに思っております。
  175. 矢田部理

    矢田部理君 今週中に勉強して、基準や内容を出すということでありますから、それにかかわる質問は留保をしまして、次にいきたいと思います。  次は海峡封鎖問題であります。  総理もワシントンで三海峡、四つと言ったそうでありますが、を封鎖する、ソ連の潜水艦の通峡を阻止すると。大変これは威勢のいいお話があったわけでありますが、海峡でありますから、当然のことながら相手国があります。韓国や、宗谷海峡で言えば、ソビエトの領海もあなたは封鎖をするという考えで、この封鎖論を展開しておられるのでしょうか。
  176. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私がアメリカとの会議で申しましたのは、十分にコントロールするという言葉を使ったのでございます。コントロールという言葉がどういうふうに日本語に訳されるか、人によって違いますが、大きな影響力を持つとも言えるし、あるいは支配力を持つとも言えるし、いろいろ訳は可能であるだろうと思います。もちろんこれは有事の際、日本が武力攻撃を受けているという際に、自衛権の発動として行う範囲である、このように考えております。
  177. 矢田部理

    矢田部理君 コントロールでも封鎖でもいいわけでありますが、相手の領海まで踏み込んでおやりになるというお考えですかと聞いているんです。
  178. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) たびたび答弁さしていただいてまいったわけなのでございますが、本参議院予算委員会で御答弁さしていただくのは、今回はこの時点では初めてでございますので、ちょっとつけ加えさしていただきますが、私どもは、まず第一に、海峡封鎖という言葉はできるだけ使わないように、通峡阻止とか、あるいは海峡防衛という言葉を使わさしていただいております。  それから、この海峡防衛を行う場合には、ただいま総理の御答弁にございましたがごとく、わが国が攻撃を受けましたときに、わが国防衛の必要最小限度の範囲の中でこれを行うこともあり得べしということでございますが、その作戦は、何も機雷をもって封鎖するという作戦だけではございません。航空機も、艦艇も、それぞれの総合的な累積効果をねらって各般の作戦を行うわけでございます。  なお、海峡封鎖という言葉は非常に強く響く言葉でございますので、私どもはそういう意味でも使っておりませんが、仮に機雷をもって通峡を阻止するというようなことでも作戦としてとるにしても、とるかとらないかはそのときの状況によりますのですが、とるにしても、沿岸国並びにそこを通峡するであろう第三国に与える影響がきわめて大きいものでありますので、    〔委員長退席、理事嶋崎均君着席〕 慎重の上にも慎重に判断をしてこの作戦をとると、こういうことを累次答弁をさせてきていただいております。
  179. 矢田部理

    矢田部理君 答弁端的にしてくれませんか。  相手国の領海も、封鎖でもコントロールでもいいんですが、踏み込んでやるつもりかと、こう言っているんです。
  180. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 技術的な問題もございますので、後ほど政府委員から答弁をいたさせますが、海峡の通峡阻止につきましては、わが国が攻撃を受けておるという状態では、ただいま御質問のありましたような問題まで含めまして、これはまさに交戦状態に入っているわけでございますので、あろうかとも存じます。ただし、相手国と言われた意味が、わが国に対して攻撃をしかけておるという意味でお使いになったと存じまして、その場合であればそうでございますが、もし相手国という意味合いが別の意味合いまで含んだ意味合いでありますと、なおこれにつきましては別の御答弁を用意させていただかなければならぬと、こういうことになると思います。
  181. 矢田部理

    矢田部理君 ちょっと論旨不明だね。
  182. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) わが国の自衛隊の行動というのは、当然のことながら、個別的自衛権の範囲内、憲法の制約の中で行うわけでございますので、この行動の範囲というのは、わが方の領海にとどまらず、必要に応じて必要な自衛権の範囲内において公海に及ぶという意味で、わが方の領海と公海において行動する。通峡阻止の作戦においても同一でございます。
  183. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 先ほどの私の答弁を訂正させておいていただきます。  ただいま局長が答弁をいたしましたとおりでございます。
  184. 矢田部理

    矢田部理君 局長も事の半分しかまだ言っていないんですがね。  海峡というのは、わが国の領海、公海、相手国の領海と、三つあるわけですね。ここを支配したり、封鎖したり、通峡阻止したりするためには全部ふさがなきゃならぬ、あるいはふさぐ以外の方法もいろいろあるでしょうが、その場合に相手国の領海まで踏み込んでやるのですかというのが私の質問なんで、それに答えてほしいのですよ。
  185. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 御質問のポイントは二つあろうかと思います。  一つは、相手国の領海にわたって行動するかしないか。これについては、先ほど申し上げたとおり、自衛隊の行動というのはわが方の領海と公海の分に限られるということが第一点でございます。  第二点は、それではしり抜けになるではないかと、こういう御指摘だろうと思いますが、通峡阻止というのは各種の作戦を組み合わした累積効果によるものでございまして、一部分あいているということが決定的なマイナス要因ではない。こういった作戦をとることによって、相手の行動というものをある程度制約することが、抑止なりその後の相手の潜水艦の行動というものを減殺するに寄与し得るものであるという意味で効果的なものであるというふうに信じております。
  186. 矢田部理

    矢田部理君 もうちょっと具体的に聞きましょうか。  宗谷海峡は、距離はどのぐらいありますか。そのうち、日本の領海、ソビエトの領海、公海どのぐらいずつありますか。
  187. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 宗谷海峡は、宗谷岬と二丈岩の間が二十海里。うち日本の領海が三海里、ソ連の領海が十海里、したがって、公海部分は七海里と、こういうことになっております。
  188. 矢田部理

    矢田部理君 しり抜けになるかどうかなんということを私はまだ言うつもりはないんですが、ソビエトは領海十海里なんですね。あれは十二海里じゃなかったんかな……、十海里。そうして日本は三海里ですか。宗谷海峡のごときは圧倒的にソビエトの海なんですよ、領海的に言えば。この海まで踏み込んでやることはないんですね、そうすると。
  189. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) あくまでも自衛の範囲ということでございますから、わが方の領海と公海の部分であるということでございます。
  190. 矢田部理

    矢田部理君 わが国は相手国の領海に踏み込んで封鎖したりコントロールしたりすることはしない。アメリカがやった場合、日本はどういう対応をとりますか。
  191. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) この問題については、衆議院予算委員会の方でも政府から御答弁を申し上げておりますが、いまの御質問は、アメリカがやった場合と、アメリカが一方的にやった場合ということの御質問だろうと思いますが、その点につきましては、安保条約に基づく日米間の緊密な協力関係、それから一般国際法の法理というものに照らしても、アメリカがわが国の同意と申しますか、了解なくしてそういう一方的な軍事行動を海峡においてとることはあり得ないということを申し上げております。
  192. 矢田部理

    矢田部理君 アメリカは自国の自衛のためにも海峡封鎖をやるというような話もしているわけですよ。日本の了解なしにやるはずはないというお話では答弁にならぬのでありまして、やった場合日本はどうしますかと、こういう話をしている。
  193. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) まず、前提は先ほど申し上げたとおりでございますが、仮に非常に理論的な可能性の問題として、アメリカがそういう海峡においてみずからの自衛権行使の一環として、いわゆる通峡阻止のための実力行使、軍事行動というものをとるということについて、わが国の了解を求めてきた場合にどう対応するかという御質問がございまして、これに対しまして三月の八日に政府側から、「いわゆる通峡阻止問題についての政府の統一見解」というものをお出ししておりますが、そこの中で御説明さしていただいておりますところは、一番のポイントのところだけを申し上げますと、理論的な可能性、原則としてはそのような要請を拒否すると。    〔理事嶋崎均君退席、委員長着席〕 「しかし、理論的な可能性の問題として、我が国に対する武力攻撃は発生していないが、我が国の船舶が国籍不明の艦船等により甚大な被害を受けている場合等我が国に対する武力攻撃が非常に緊迫性をもっている場合において、そのような米側の要請に応ずることが我が国自身の安全の確保のため是非共必要と判断されるような可能性も完全には排除されないので、そのような例外的な場合にはそのような事情を考慮に入れるべきであることは当然である。」ということを政府の見解として申し述べております。
  194. 矢田部理

    矢田部理君 いまの前提は極東有事の場合ですか。極東有事でない、たとえば中東有事でもアメリカはやりかねない見解を示しておるのですが、そういう場合も含んだ見解でしょうか。
  195. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) わが国の安全と直接関係がない非常な遠隔な地域での紛争との関連で、アメリカがそのような要請を行ってくるということはあり得ないことでございますが、そういうような場合に、理論的な問題として仮にあった場合には、それはもちろん拒否するという原則の範囲内のことであるということは、総理から衆議院の方で御答弁になっておられます。したがいまして、先ほど私が読み上げました統一見解の中にもございますように、「我が国に対する武力攻撃が非常に緊迫性をもっている場合」ということでございますから、いま委員の方から極東有事の場合かという御質問がございましたが、そういう、まさにそういう枠内の問題であろうというふうに考えます。
  196. 矢田部理

    矢田部理君 いまの統一見解に私は了解を与えるわけではありませんが、幾つかまた問題があるわけでありますが、日本は、この封鎖は自分の領海と公海まで、相手間の領海には及ばないということでありますが、アメリカは及ぶ可能性があるわけですね。そのときに日本はどうするのか。その際アメリカの艦艇等の防衛も日本の自衛隊は引き受ける可能性を持っているのかどうか等も含めて答えてくれませんか。
  197. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) ただいまの御質問は、アメリカが日本の領海の中でそういう行動をとるということを想定しての御質問でございますか。
  198. 矢田部理

    矢田部理君 相手の領海の場合にどうするか。
  199. 栗山尚一

    政府委員(栗山尚一君) 相手国の領海の問題というのは、これはその相手国とアメリカとの関係の問題でございますので、わが国の問題ではございません。
  200. 矢田部理

    矢田部理君 質問よく聞いてください。  わが国の領海、公の海、相手の領海と三つあるけれども、日本の自衛隊は相手国の領海には踏み込まないというんでしょう。しかし、アメリカは踏み込む可能性がある。あり得るわけですね。そのときに日本の自衛隊は、米艦の護衛などで一緒に行動することがあり得るのか、あるいは救出に出かけるようなことがあり得るのかと、こう聞いている。
  201. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) いま御議論の中心点は、わが国に対する武力攻撃がないとき、いわゆる日本有事でない場合にアメリカが機雷封鎖をするというふうなことの前提でありますれば、わが方はわが方の有事ではございません。したがって、自衛隊が行動することはあり得ない。
  202. 矢田部理

    矢田部理君 わが方有事の場合は。
  203. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) わが方有事の場合にはアメリカとわが方とは共同対処をとることになっております。そのときの作戦の対応というものは、一概には言えませんけれども、一般的に共同作戦をとることは大いにあり得ることだと思います。
  204. 矢田部理

    矢田部理君 ちょっとお待ちください。これは重大な発言なんですね。  相手国の領海で共同行動をとることがあるということですか。
  205. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) どうも議論が複雑でございましたので混乱しておりますが、自衛隊と米軍はわが方の有事の際に共同作戦、共同対処をすることがありますが、それはあくまでも公海とわが方の領海の中、こういうことでございます。
  206. 矢田部理

    矢田部理君 いま私が前から聞いているのは、相手国の領海でどういう行動をとるか、とれるのかということを聞いているのに、別な話ばかりさっきからしているから変なことになるんですよ。  いずれにしましても、相手国の領海を含む海峡でありますから、この問題はやっぱり大変な問題を含んでいる。場合によっては集団自衛権の問題にまたここでもかかわってくるわけでありますが、一点だけ、もう一つつけ加えておきたいのは、日韓議連で対馬海峡、とりわけ西水道の封鎖問題について、近々相談をするという運びになっている。これはいろいろ資料を調べてみますと、堀江さんという自民党議員――参議院議員でありますが、先般韓国に提起をした。で、韓国から答えが返ってきて、その内容を一々読み上げるのは省略いたしますが、今度はその相談をすることに決まったわけでありますが、こういうことを政府は容認しているのでしょうか。また、韓国との関係をこういうことで進めようとしているのでしょうか。韓国側は全斗煥大統領に近い筋が動いているわけでありますが、私の調査によれば了解済みで対応をしているとも伝えられておるわけでありますが、その点いかがですか。
  207. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは日韓議連で何を相談されようと、それは日韓議連の問題でありまして、政府としてはこれに関知するものではありません。
  208. 矢田部理

    矢田部理君 相手国は、これは経歴とか、全斗煥とのかかわりとか、いろいろ指摘できるわけでありますが、了解して出てくる。こちらも議員でありますから、政府ではありませんけれどもね、具体的にその問題について相談に入るというのは、日本の外交政策としてどうなんですか。それは議員だからということで済むことなのでしょうか。
  209. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはもう議連の問題でして、日本国会議員と向こうの国会議員がどういう相談とかあるいは勉強されようと、それは議連の内部、議連同士の問題であって、政府がこれに何か関係しているということになれば政府の立場もありますけれども、政府は一切関知してないということであれば、その限りにおいて何ら、政府としてこれに対して何らの措置をとるとか、あるいは態度をとるとか、そういう必要のあるものではないと、私はこういうふうに思います。
  210. 矢田部理

    矢田部理君 少なくとも政府としては、あるいは政府のたてまえとしては、韓国と共同であそこの封鎖を検討するとか、相談するという立場はとらないわけでしょう。それはいかがですか。
  211. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) わが政府として、韓国政府との間で安全保障の問題とか、海峡の封鎖の問題とか、そういう点について相談したこともありませんし、今後とも相談することもあり得ないわけです。
  212. 矢田部理

    矢田部理君 という政府の方針に沿っていないことだけは明確ですね。そういうことを議連だからといって、特に対外関係でありますから、進めるということになると、これは問題残りませんか。
  213. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) この問題、いま矢田部さんから初めて議連でそういうことを取り上げるとか取り上げないとかいう話を聞いたわけでありますけれども、私は何にも聞いておりませんし、日韓議連の内部で、日韓議連間でいろいろと日韓問題について勉強されるということについてまで、政府が何だかんだ言う筋合いのものじゃないと私は思います。
  214. 矢田部理

    矢田部理君 これはシーレーン防衛問題、いまの問題も含めて、特に相手国があるわけですから、非常に重要な問題を含んでおりますので、これはいずれまた、きょうのところは次の論議に入りたいと思いますからこの程度でやめますが、議論をしてみたい。いまの答弁で了解をするというわけにはいかないということだけ申し上げておきたいと思います。  そこで、経済問題でありますが、経企庁、いま日本の経済の現状についてどんな認識をされておるか。また見通し等について、どういう見通しを持っておられるか、その点から入りたいと思います。
  215. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 昭和五十六年の秋から、御案内のように、世界の経済の同時不況の影響を受けておりますのが日本の経済の現状だと思います。しかしながら、最近は在庫調整もだんだん進んでまいりました。さらにまた、御案内のように、円高傾向の定着も見られるようになったところでございます。このような過程、さらにまた御案内のように、アメリカがまずインフレ対策に大体の成功をおさめたと思われるところでございますが、アメリカの金利の低下に応じて、日本の円高傾向が定着しつつあるような傾向がある。さらにまた、金利の低下も期待されるような状況でございます。世界各国このような失業――これからはインフレ対策よりもだんだんと失業対策に向かうような情勢と考えられます。このような好影響と相まちまして、さらにまた昨今は、原油価格の低下もいま当面見られるような状況でございます。こんなような傾向から、私どもは五十八年度は実質で三・四%、この成長は達成できるというふうに見ておるところでございます。戦後、政府の見通しで、三%台の成長を出しましたのはわずか三回しかございませんが、私どもは堅実に見積もった三・四%でございますし、この程度はぜひともまた達成しなければならない、こんなふうに考えておるところでございます。
  216. 矢田部理

    矢田部理君 従来に比して政府が控え目な見積もりをしたことは私も認めないわけではありませんが、それにしても民間の見方よりは依然として楽観的である。特に、当初は渋く、あるいは厳しいが、後半よくなるとか、年末には薄日が差すとかということを毎年繰り返している。よくなったためしがない。いつでも下方修正している。それでも追いつかないということを繰り返してきたわけでありますが、私が民間の調査、二十社の平均を出してみますと、成長率が二・九なんですね。それから、つい最近、経団連が輸出が不振である、内需も停滞している、二・六という数値を出しておりますが、政府が三・四と、この民間の平均値なり、経団連などの数字から少しく高い数字を出している。どこに押し上げ要因があると見ているのか、この辺もう少し説明していただけませんか。
  217. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 矢田部委員御案内のように、貿易摩擦その他の世界の現況を考えてみますと、やはり私どもの経済政策の中心は内需の拡大でいかなければならないと思っているところでございます。御案内のように、まず個人消費支出で三・九%、そして民間住宅投資で二・六%、民間企業設備で二・九%、内需で二・八%というふうに見積もり、外需で〇・六%、こんなふうに見積もって、三・四%の成長を内需中心でやっていこうとしているところでございます。
  218. 矢田部理

    矢田部理君 たとえば設備投資などを見ても民間平均で一・八、政府は二・九見込んでおるんですよ。中小企業は非常に悪いわけです。大企業も電力などことしはかなり落ちると見なきゃなりません。どうしたってこんなに伸びるという可能性は薄いというのが状況じゃないかと思うんですが、日銀がつい最近、企業短期経済観測調査――日銀短観と言われるものを出されましたが、日銀としてはどんなふうに見ておられますか。
  219. 前川春雄

    参考人前川春雄君) 去る二月にいわゆる短観と申しますか、企業からのアンケートをいただきました。これは毎三カ月ごとにやっておるわけでございます。それによりまして五十八年度の設備投資の計画をちょうだいしました。企業は大体二月ぐらいはまだ来年度の設備投資計画について余りはっきりした見通しを持っておりませんので、いまのところ企業が頭にある設備投資計画だけが出ておるわけでございますが、これは若干のマイナスになっております。五十七年度も多少のプラスでございますけれども、一ころよりもやっぱり設備投資の意欲というのは少し鈍ってきているということはあると思います。来年度の経済見通し、まだ来年度に入っておりませんので、いろいろ海外の状況その他に影響されますからはっきりしたことは申せませんが、三・四%、今年度三・一仮にいくといたしまして、三・四%、なかなかそう容易ではないというふうに思います。思いますけれども、達成できない数字ではないというふうに考えております。いろいろまだ海外の状況、国内の状況、油の状況、為替相場等不定の、不安定の要素がございますので、はっきりしたことを申せませんけれども、いまの段階ではそういうふうに考えております。
  220. 矢田部理

    矢田部理君 これは経企庁でもいいと思うんでありますが、どうもオイルショック後緩やかな回復過程に入ったのに、アメリカの経済の悪さが足を引っ張った。ところが、ことしはアメリカがとりわけ後半よくなるであろうという期待を込めている向きがあるようでありますが、私はそう簡単によくならないだろう。失業率は非常に高いし、金利も下げどまりになっている。一月の指標などは、一月雪がなくて暖冬だったために少し高い数値が出ておりますけれども、これだって三月から五月になってみなければどうなるものかわからぬという状況なんで、しかも輸出などは、もう自動車はすでに決まっちゃっているわけですね。景気の動向によって伸びたり縮んだりということにはならないということでありますから、アメリカがよくなるから日本もおのずとよくなるに違いないというのは、少しくこれまた楽観論ではないかと思うのですが、いかがですか。
  221. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) 私も楽観しているわけでございません。なかなか厳しい状況でございます。しかし、アメリカでも御案内のように、慎重であるけれども楽観論が定着しつつある状態というふうに言われてきているところでございます。そしてまた、財政赤字が大きな制約になっておりますけれども、金利の低下の傾向も見られるようなところがある。こんなことを考えてみますと、私どもは去年と違った新しい明るい要素ではないか、そしてまたそれが直ちに円レートにはね返ってきまして、国内の企業の収支にいい影響を与えたことも御案内のとおりでございます。時間はかかりましょうけれども、私は後半日本の経済に対して世界経済の回復過程が好影響をもたらすと信じているところでございます。
  222. 矢田部理

    矢田部理君 これは通産省に伺った方がいいのかもしれませんが、中でも中小企業の状況がきわめて厳しい。とりわけ内需の不振、輸出の停滞は底のあたりに来ているというふうにも受け取られるわけでありますが、実態や問題点をどんなふうにつかんでおられるでしょうか。
  223. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 大変中小企業も含めて経済環境全体がよくないわけでありますが、なかんずく中小企業というのが設備投資から、あるいは商工中金その他金融公庫等の金融借入率、あるいは申し込み件数、あるいは倒産件数、若干一月あたりから一千二百ぐらいに落ちてはきましたけれども、しかし、そういう全体を見て大変先行き明るさを、なかなか行政的にも、政治的にも、あるいは受け取る国民の側からも見出せないでいる。そういう考えというものがどうしても打破できないで苦慮しておりますが、せめてその中で、財政事情の苦しい中で中小企業投資促進税制とか、あるいは承継に係る税制とか、中小企業中心に一応大蔵省の最大の理解を得て、予算でひとつ明るく、せめてこれ以上暗くならないというものをつくってみたんですが、かといって、経済指標の中に中小企業がぐぐっと活力を持って貢献してくるとなると、それはまだまだである。  そこで、これから御議論になるんでしょうが、今夜の七時ごろロンドン会議、OPECの会議が再開されるということでありますが、そのことが結果的にはどう合意されるにしても、油が下がるという、値段が下がるという結果は多分間違いないだろうと思うんですね。その下げ幅について一定の前提を置きながら、先週、先々週と二回、これは通産省前例のないことでありますが、全局長、外局の長、事務次官、官房長まで入れまして、私が主宰をして、この天恵、私たちがつくり出したものでない、私たちの力が、声が届いたものでもない、ただOPECのカルテルが、もう理由は言いませんが、崩壊したことに伴うわれわれがいただく天の恵み、これを日本の産業全体の活性化、そして日本国民の新しい未来への前進という温かいものにぜひこの契機にしなくてはいかぬということで一生懸命やっておりますが、何しろ向こう様が幾らに決めてくださるのか、その結果で全然違うものでありますから、しかし中・長期的に見てどこまで続くかがこれもわかりませんが、日本にとって久々の経済に活気を与える一つの要素が生まれてくる。これ絶対のわが方としてはチャンスですから、これをつかまえて日本経済全体を明るい方向に向けていく。そして、経済の底辺を支えている中小企業というものに活力を与える、やろうという意欲を持たせるということに全力を産業行政として展開してまいりたいと作業中でございます。
  224. 矢田部理

    矢田部理君 もう一点だけ実態把握についてお聞きをしたいのは――これは総理府になりますか、昨日、雇用の問題で、失業者は急増しているというデータが報告をされましたが、その状況と問題点等についてお話しください。
  225. 永山貞則

    政府委員(永山貞則君) お答えいたします。  昨日発表いたしました労働力調査の一月分の完全失業率は二・八%でございます。  従来の傾向からしまして若干高く出ております。統計調査でございますので、どうしても毎月の若干のぶれは避けられない点もございますので、この数字がそのまま実態かどうかは今後少し、数カ月の傾向を見て判断をしたいと思います。ただいまそう考えております。
  226. 矢田部理

    矢田部理君 これは官房長官に伺った方がいいのかもしれませんが、この調査結果が出たことをめぐっていろいろ閣内に議論があった。特に私どもから見ますと、百六十二万という失業者というのは大変な数なんですね。大変深刻な問題を含んでいると見るんですが、政府部内では、とりわけ別な意見があるんですか。
  227. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) 昨日の閣議に総理府の方から労働の需給関係の調査の表が出たわけですけれども、それを見ますと、就業人口はやはり相当ふえているんです。ところが非労働人口、これが二十九万ですか、減っておる。ところが、完全失業者が三十一万ふえておる。つまり、失業者の数の増加と非労働人口の減少、これがほぼ並行しておる。その中の完全失業率だけを見ると二・八ということで、十二月よりは〇・四ですか、その程度急激に一カ月間でふえた。  ところが、他方、労働省の求人倍率あるいは毎勤統計、こういうものを見ますと、これは変わってないんです、横ばいなんですね。そこで、関係の閣僚からは、一カ月の間にこんなに変化するというのは一体どういうわけだという当然の疑問が出たわけでございます。  そこで、いろいろ議論の過程でわかったことは、総理府の統計というものが十月から国勢調査の関係で調査方法が変わったわけですね。従来三万の調査から四万に数がふえた。数がふえただけなら、まだより正確になったんかなと、こういう見方もできるわけなんですけれども、調査する地域が変わっておる。しかし、これも本来、近代の統計学から言えば、失業の多い地域のところに調査が集中すれば、これは当然失業率が高くなるんですけれども、統計学でそこらは必ず調整するはずですね。そうすると、やはり総理府の調査もこれは正確ではないか、こういう議論が出る。ところが、労働省の方もやはり同じような科学的な調査をやっているわけですから、そこでいろいろ議論が出まして、やはり急激にこういうようなのは常識的におかしいじゃないか。ならば、調査の方法が変わった以上は、やはり従来のやり方でやればどの程度のあれになるんだと、新しい調査方法でこうなったんだということで、新旧合わせて評価をしないと、労働の需給関係全体の判断を誤る、これは非常に重要な問題でありますから、そういうようなことで、かれこれ議論があって、総理府としてもそれらを踏まえて調査の結果、やはり一カ月だけではいかぬので、数カ月の期間を見て判断をしたい、こういうことで締めくくっておるわけでございます。
  228. 矢田部理

    矢田部理君 これ私も総理府にきのう当たったんですがね、調査対象をふやしたりしたので、むしろ精度は高くなったというのが総理府の考え、意見なんですね。だから、余りの数の多さに衝撃を受けてやり直すということではなくて、問題は事態を深刻に受けとめて、今後の景気対策になり、雇用対策に意を尽くすということに持っていかなきゃならぬというふうに私は思っているんでありますが、いまずっとお聞きをしてもわかりますように、依然として日本経済は不透明感が高いというふうに言わざるを得ないわけでありますが、その中で特にそれを高めている、あるいは不安定感が出ている一つに、中曽根総理に私は責任があるんじゃないかと思うんですね。あなたは経済の方針を示さないんですよ、見通しを言わないんです。特に鈴木総理時代に五カ年計画をつくるべしということで去年の七月に頼んでおって、この一月には中間報告、四月には今後五カ年計画が出ることになっておったんですが、これつぶしちゃたでしょう。いま日本の経済は見通しなしに、羅針盤なしに動いているんですよ。なぜこんなことをしてしまったんですか。
  229. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) いま失業の問題がまず御質問ございましたが、私も矢田部さんと同じように、これは率直に受けとめて、深甚なる注意を持ってよく見守る必要があると思っております。  私は、この数字どういうもんだろうかと思いまして、失業保険の受給者数を実は調べてみました。これならばわりあいに、失業保険現に受給しているわけですから、一番的確な離職者の数になります。これを見ると変わっていないんです。しかし、多少ふえております、一月分は。それで、このふえている傾向が二月、三月にかけてまたふえていくという形になると、総理府の統計というものは当たっているかもしれない。つまり、先行的指標という意味があるだろう。失業保険の場合は手続に時間もかかりますから、おくれぎみですけれども、それでも多少ふえる傾向を見ておりますから、そういう意味では注意を要する、こう見ておる。矢田部さんが注意をしろという仰せでございますから、私もそういう点は注意しなきゃいかぬと思っております。  それから、経済の問題は実にむずかしい問題で、恐らくいま世界で自分の国の経済はこうするとか、世界経済はこうなるという予言できる人はほとんどいないだろうと思うんです。日本のいわゆるエコノミストという人の予言もほとんどいままで崩れてきておって、当たったのは珍しいというぐらいの情勢であります。それぐらい世界経済というものに変動要因が多い。  それで、いままでいわゆる社会経済七カ年計画があり、さらにそれを五カ年計画に変えようという考えで進んでまいりましたが、私は日本のような場合に、いわゆる計画経済的色彩を持ったものが適当であるかどうか、疑問に思っておったわけであります。特にいままでの傾向から見ますと、わりあいに経済成長志向という形で物の面に非常に力が注がれているが、資金計画の裏づけがないわけです。これは恐らく日本の経済計画を担当する方が、戦時中の物動の延長や影響を受けた人が多い。したがって、物の数量のかげんばかり考えて資金の裏づけがない。戦時中は臨時軍事費でお金を印刷すればどんどん出てきたわけですから、物ばかり中心に考えていたという癖が残っておったと思うんです。しかし、それは高度経済成長のときはうまく当たりました。しかし、安定成長の時代になると六兆円に及ぶ歳入欠陥が出てくる、そういうことが出てまいりまして、もう実態に合わなくなってきた。どっちかといえば、ケインジアンが非常に多いんですね。しかし、マネタリストとか、世界経済全般が、いま各国ともみんな安定を求めて模索しているときでありますから、日本の経済政策の基礎を考える方々も、アメリカやヨーロッパのようにバラエティーに富んだバランスのとれた形の方が望ましいと、そう思っておったんです。  そこで、日本のような場合には計画経済に余り向かない。まず第一に、いま申し上げた物の面にいままで偏重したような感じで資金の裏づけがないということと、日本のような国は資源の自給率がほとんどありません。したがって、ドイツ、フランスとか、あるいはソ連とか、あるいは中国のように自給自足ができないんですから、オータルキーができない。したがって、計画性の確実な指標というのは非常にないわけです。それで、円が上がったり下がったりするだけで会社の収益ががらっと変わるし、景気にも影響する。油の値段が移動することによって日本航空の収入が、たしか一円動くと七億円ぐらいの収入が違う、利潤が違うと、そう言われているぐらい非常に変動要因が多いわけであります。それを外国流の計画経済の考えでいくというと、これはよくないぞと。むしろ非常に弾力性を持たした考え方で経済のガイドラインという形に考えを直して毎年毎年これを修正していく。その方が正しいのではないだろうか。  初めほとんどアプリオリと申しますか、前提条件ぱちっと先に決めてしまって、それで百九十二兆とか二百四十兆とか、公共事業費を決めて、それで空港五カ年計画、やれ港湾五カ年計画と、びしっとこう決められていきますと、それにとらわれてしまって、成長率を高目に持っていかぬというと経済計画合わぬし、予算が組めないというような傾向が出ないとも限りません。そういう弊害を直す必要もある。そういう意味からいままでの発想をある程度変えていただいて、五カ年計画というのはより長期的に変える必要があろう。それから経済指標とか、あるいは経済展望という形にして、より弾力性を持たした考え方に変えてもらう必要があろう。それから資金的裏づけの問題もさらに重視していただく必要があろう。その中においては行革の問題も今度も出てまいりますし、あるいは給与やそのほかの変動の問題も出てまいりましょうし、そういういろんな要素を入れまして、そしてガイドライン的なものに変えていただきたいというのが私の念願でございまして、その方が実態に近いものが出てくるのではないかと、そう思っておるわけであります。
  230. 矢田部理

    矢田部理君 総理が従来七カ年計画とか、また五カ年計画というのは社会主義的なイメージだと。これは別に社会主義で計画組んでいるんじゃないんですね。少しイデオロギー過剰なんじゃないんですか、受けとめ方が。  それはそれとして、いまの総理発言、私は必ずしも了解し切れないんですよ。これをつぶすのには大蔵省も責任があるんですね。どうも財政計画、再建がうまくいかぬ。五カ年計画など出されてしまうとそこにはめ込まれてしまう。あるいは増税路線を敷こうとしているのに、租税負担率などということで基準をつくられてしまうと動きがとれぬ。だからつぶせと言って、動いたのは大蔵省だと言われているんですが、いかがですか。
  231. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは別に大蔵省がつぶしたわけでもございませんし、いまお述べになりました総理の経済政策の指針というものに従って経済審議会で御審議をいただくことになっておると、こういうふうに承っております。  私どもといたしまして、確かに財政計画ということになりますと、たびたび国会でも議論いたしましたが、現実、それこそ前提を置いてぴしっとしたものはなかなか出せません。しかし、その中においても、国会の問答を通じながら、それの要求に応ずるような資料を精いっぱい出しておるわけでありますが、それそのものがあるから出せないと、まあこういう性格のものではございませんので、いま総理からお話のありました経済政策の路線というもので、私どもにとってもそれは、そういう展望なり指針が出て、それがまた財政というもののその中に対する役割りというものを検討する大きなよすがともなるであろうというふうに考えております。
  232. 矢田部理

    矢田部理君 まあそこら辺の問題はそれとしまして、やはりこれから大事なのは、大変中小企業を含めて深刻であります、不況、不景気が。また失業等もふえる傾向にあるということも見逃すわけにはいかぬのでありまして、それならば、どういう対策でこの経済を底上げしていくのかということをもう一点考えていかなきゃならぬと思うんでありますが、そちらに論議の焦点を移していきたいと思いますが、まず、日銀総裁お見えになっておりますので、公定歩合の関係を含めてお話しをいただきたいわけでありますが、円の状況はどうなるか、あるいはアメリカの金利動向がどう動くかということとの兼ね合いで、公定歩合を下げるかどうか、あるいは下げるタイミングなどをにらんでいようかと思うのでありますが、そういう国際的な経済の状況、動き等も含めて、金利、金融問題についてどういう考え方をとろうとされておるのか。そこを伺ってみたいと思います。
  233. 前川春雄

    参考人前川春雄君) 先ほど来お話が出ておりまするように、景気の状況は停滞傾向を若干強めておるのではないかというふうに私どもも判断しております。そういう中で物価も安定しておるわけでございまするので、こういう状況に対応して金融政策をどういうふうに持っていくかということでございますが、私どもは基本的には金融緩和政策をずっととっておるわけでございます。量的には、かなり緩和された状態にあるというふうに思っております。  マネーサプライというもので大体そういうものを見ておるわけでございまするけれども、マネーサプライの前年比の上昇率は、最近は七%―七・六%というようなところまで来ておるわけです。最近の名目成長率はどのくらいになっておりますか、五%前後であろうかというふうに思いますので、そういう点から考えますれば、マネーサプライが七%ぐらいの上昇になっておるということは、金融的には十分緩和した状態にあるというふうに思っております。  金利の問題につきまして、もちろん私ども金融政策の運営をいたしてまいります上において、機動的に対処してまいるつもりでおります。従来もそのつもりで、そういうふうにやってきたわけでございますが、これからもそういうふうにしたいと思います。  ただ、これを考えてまいります条件がいろいろあるわけでございますが、そういう条件の一つにいまお話しの円相場があるわけでございます。円相場は、昨年、御案内のように大変円安の方に振れる、また大きく変動する、それが事業活動にも大きな障害になったわけでございます。これを安定して、円高の方向に安定さしていくということが日本経済にとっても、物価にとっても、あらゆる面でいいというふうに考えておるわけでございます。  ただ、昨年のああいうふうな大幅な変動の背景の大きな要素になりましたのは、金利の問題、アメリカの金利でございます。アメリカの金利がなかなか下がらない。日本の金利が安いために金利差があることが円安の方に大きく振れた一つの大きな要因でございます。  そういう意味で、アメリカの金利が下がることを期待しておるわけでございますが、ここのところ、年が明けましてからちょっと下げ渋っておることは事実でございます。アメリカ自身のマネーサプライがわりあい高い、あるいはアメリカ財政の赤字がなかなか減らないということが一つの背景になっておるわけでございますが、アメリカの物価自身は非常におさまってまいりました。いま三・六%ぐらいでございましょう。そういう点から申しますると、当然金利の下がることが期待できるわけでございます。そういう状態でありながらなかなか下がらないというところに一つの大きな問題がございます。  私ども金利政策をやってまいりまする上におきましても、これが円相場に、円安に振れるというようなことがありましては、日本経済全体にとってもマイナスになりまするので、その辺は十分慎重に判断しながら対応してまいる必要があるというふうに考えております。そういう点で、円相場だけではございませんけれども、円相場は一つの大きな要素でございまするので、日本が世界の中で置かれている地位、あるいは日本の経済力が持つ海外との関係等から判断いたしまして、円相場を円高の方に定着させるということをまず第一に考えてまいる必要があると考えております。
  234. 矢田部理

    矢田部理君 もう少し円高にならないとという条件が一つ。それからアメリカの金利動向が一つなんですが、財政赤字が軍拡その他で深刻ですから、またちょっと金利政策を変えることによってインフレの懸念も、まだそう定着したとは私は見ておりませんので、多いということで、なかなかこの金利が下がるということにはならないんじゃないか。下げどまり説などもあるわけであります。ということで、日本の場合にもその金利を下げる、あるいは金融政策を機動的にということはそう簡単にいくのかどうか、非常に選択の幅が狭くなっているんじゃないかとも思うんですが、その点だけもう一点伺って終わります。
  235. 前川春雄

    参考人前川春雄君) 政策選択の幅が非常に狭いことはお話しのとおりでございます。その狭いところを通っていかなければならぬ。どこの国もいまそういうふうな選択の幅の非常に狭いところに追い込まれておるわけでございます。私ども、そういう意味におきまして、選択の幅を少しでも広げるということから円相場が安定するということが第一であるというふうに思っておるわけでございます。円相場が円安の方に振れておるようでございますると、なかなか金利政策もとりにくいわけでございまして、内外金利差をこれ以上広げるということが、円相場にどういうふうに影響するかという点を十分判断いたしまして対応してまいりたいというふうに考えております。
  236. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 前川総裁、ありがとうございました。どうぞ御退席願います。
  237. 矢田部理

    矢田部理君 そこで、金融政策がなかなか簡単に動かしがたいということになりますと、またもう一点輸出がそんなに伸びるかということになりますと、これもそう期待できないのではないか。仮にアメリカの景気がよくなったといたしましても、タイムラグがあります、あるいは貿易摩擦などもあるわけですから、そう次年度伸びるということは期待できない。そうなってまいりますと、どうしてもやっぱり内需主導型といいますか、中心の景気対策なり、不況克服策を講じていかなきゃならぬわけでありますが、これまた財政がそう役割りを担えないということになっている中でいかがしようとしているのか、経企庁あたりを中心に御説明をいただきたいと思います。
  238. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) ただいま日銀総裁が、金融政策にも大変幅が狭くなっているというようなお話がございました。金融政策のみならず、財政政策の上においても選択の幅が狭まっている今日でございます。しかし、その中でも私どもは、たとえば民間住宅投資、これによって二・六%の成長を期待いたしておりますが、御案内のように、住宅金融公庫の公的資金によるところの住宅建設を推進していく。そのためには貸出条件の緩和をしていく。さらにまた、住宅貯蓄控除を五万円から十五万円に上げるというような、本当にかつてのような大きな財政上の援助ではない、誘引措置ではないわけでございますけれども、こんな措置を講じますとともに、先ほど通産大臣が言われましたが、民間企業設備投資についても、中小企業の投資税額控除を認めるというような方策で、私ども極力内需の拡大を図っていきたいと思っているところでございます。  さらにまた、いま金利のお話が出ました。私は、確かにいまの金利の問題、選択の幅は少ないんですけれども、いま一番不自然な姿は金利の問題にあると考えているのでございます。  御案内のように、名目成長率が五十八年度は五・六%、ところが金利が、この間の国債が事業債よりも高い七・八%とか、こんなような姿はどうも不自然である。ドーマーという経済学者の理論を逆にとれば、このような名目成長率よりも高い利子率、そしてまた、御案内のように中期試算を見ましても、六・六%という税収の増加で八%の国債を賄っていくようなことはとうてい私は不自然でできない相談。やはり何か機会をつかまえまして金利の低下をもたらして、そうしてやっぱり内需の拡大を図っていくことが今後の大きな目標であり、私どもが力を入れなきゃならぬ点だと思っております。
  239. 矢田部理

    矢田部理君 なかなか説得力があるというふうには受けとめないわけでありますが、やっぱり内需停滞を克服する一番柱になるのは、個人消費が落ち込んでいるわけであります、この個人消費をどう高めていくか。そのためには勤労者の実質可処分所得をどうふやしていくのかというための施策が講じられなきゃならぬと私は思っております。  そこで減税の問題が出てくるわけでありますが、大蔵大臣、今国会の大きな焦点であります減税、これはいつやるんですか、どのぐらいの規模でお考えなんですか、財源などはどう検討されようとしているんでしょうか、まず御説明をいただきたいと思います。
  240. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) まず、いま五十八年度予算を政府一体の責任において、これが現状において最善のものとして御審議をいただいておるその過程にあるわけでございます。したがって、予算の修正なり、あるいは補正予算なり等を伴うものに対しての発言はこれはできる相談ではございません。  しかし、政治的な観点から、各党の代表者の方がお出になりまして、減税に対する合意に達せられ、そしてそれが、衆議院ではございますが、議長見解の裏打ちを持って出され、それに対して官房長官見解を発表をしております。そういうことになりますならば、当然のこととしてこういう与野党の合意を尊重して、そうして減税実施のための真剣な検討をこれから進めていかなければなりません。  ただ、この税収動向についての見きわめや、そうして国会の議論を通じた税制調査会における検討等が必要でございますので、時期、規模、これを明示する段階ではない。あくまでも代表者の方が合意せられましたその大筋の、まあ概念的に合意されたと思うんでありますが、それをよく承知しておるという立場に立って、これから検討をすることであるというふうに御理解をいただきたいと思います。
  241. 矢田部理

    矢田部理君 まだ内容を言う段階でないということでありますが、これは非常に重要な関心を勤労者を初め国民は持っているわけですね。いつごろをめどに、どの程度の規模でということがポイントの一つです。  それから、地方税の減税もやるのかどうか。規模は一兆円程度と、あるいはそれ以上というふうに受けとめられているわけでありますが、そんな気分になっているかどうか。
  242. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これはあくまでも現在、衆議院議長からお示しになったものを政府に対して御伝達いただいた。そうして政府としましては、議長見解に従いまして減税の実現のための最大限の努力をいたしますということを申し上げております。  そうして、なおつけ加えまして、与野党代表者の方々の会議においての、自由民主党幹事長からの、確約がありましたことは承知しておりますという表現でもってお答えしておるわけでございますので、いわばこの検討を始める時期として、常識的に、一般論として考えられますのは、やはり七月になりますととにかく五十七年度の税収が確定をいたします、そのときがやはり一つの節目になることであるというふうに考えております。作業の段階における一つの節目になるというふうに考えております。  そして地方税というものは、その合意に、所得税、地方税というような言葉がございますので、それはその中で検討されるべき包含した課題であるというふうに考えております。  額につきましても、まさに各党の合意でありますこの概念的におっしゃいました言葉というものを念頭に置いて作業をすべきであって、いま額について申し上げる段階ではないというふうに考えております。
  243. 矢田部理

    矢田部理君 規模の関係で言うと、景気浮揚に意味があるという表現でしたが、規模の限度と、こう言っているわけですが、これは二、三千億じゃとてもそんなことにはならぬと思うのですが、どのぐらいの幅で問題を受けとめておられますか。
  244. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは非常にそこのところがやっぱり各党を代表したお方の、そのことが現実問題具体的な数字でもって表現することができないほど、事ほどさように重要だから概念的にそういうお言葉をお使いになったと、そこに重みがあるというふうに私は考えております。
  245. 和田静夫

    和田静夫君 関連。
  246. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 和田静夫君の関連質疑を許します。和田君。
  247. 和田静夫

    和田静夫君 一つは中曽根総理、午前中の徴兵制論議との関連で一言聞きたいのですが、一九七〇年十一月五日参議院決算委員会防衛庁長官のあなたと私とで徴兵制論議をやりました。それはもう御記憶にあるところでしょう。そこで、けさ来の答弁を一応了解をするとすれば、今度は新しい防衛白書に徴兵を行わないと明記をすべきだという指導をあなたはなされるか。あのときは、防衛白書原案の中には日本国憲法との対応において徴兵制はしけないと、こうあったのを、防衛庁長官であったあなたはそれを消したんですから。
  248. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) これは防衛庁長官とよく相談してみなきゃわかりませんが、徴兵はしないと書いても結構であります。
  249. 和田静夫

    和田静夫君 後藤田官房長官、あなたは二月九日の記者会見で、大型間接税については検討していない、導入するかどうかも決めていない、そういうふうに述べられた。そこで、その真意は五十九年度実施は白紙であるとおっしゃったのか、あるいは五十九年度実施は見合わせるとおっしゃったのか、どちらですか。
  250. 後藤田正晴

    国務大臣後藤田正晴君) 私はそういう何年度にどうこうするといったようなことが頭にあって申し上げたのではございません。あの当時新聞でいかにもそういったものが政府で検討せられておるといったような記事がございましたので、そういう事実はない、政府においていま大型間接税を導入するといったような具体的な検討をしているわけではないんだ。いまわれわれは行政改革、財政再建、これに取り組んでおる。このやり方としましては、やはりまず最初に行財政の守備範囲、この確定から入って、守備範囲を決めなきゃならないんだ、そういう観点に立って全体の改革にこれから乗り出そうとしておる。この仕事はなかなか容易な仕事ではない、口で言うほどやさしいものではないんだ、そういった時期に増税の論議ということはこれはいかがなものであろうか、やはり何よりも既定経費の見直し、削減、これが第一歩でなければならぬのではないのか。したがって、そういう御点で考えた場合にやはり増税なき財政の再建、この物の考え方、基本というものは堅持していかなければこの困難な仕事はうまくいかない、具体的な計画のない段階で大型間接税云云ということは早過ぎる、こういう意味合いで申し上げたわけでございます。
  251. 和田静夫

    和田静夫君 そこで、大蔵大臣、あなたはこの大型間接税の導入をしきりににおわされました。これは近い将来導入するということなのですか。それは五十九年度には実施をしたいということで検討を進める、EC型付加価値税であろうが何であろうが、そういうことでしょうか。
  252. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは率直に申しまして、大型間接税という表現を使っての御質問等についてお答えしておるのでありますが、大型間接税というものについて確かに私は明確な定義があるというわけではないと思っております。いわゆるいままでに指摘されております一般的に課税ベースの広い間接税で、ある程度まとまった税収の得られるものを意味するというふうに考え得られます。  しかし、では広いとは何ぞや、それから相当な規模とは何ぞやということになりますと、それまた一定の基準があるわけではございません。したがって、いま官房長官からもお答え申し上げましたように、大型間接税の導入について具体的に検討しておる事実もございませんし、また、総理から御指示を受けたことももとよりございません。やはり、昭和五十四年十二月の国会決議にございますいわゆる一般消費税(仮称)、これは十分国民の理解が得られなかった。これによらず財政再建を進めることとされたことを踏まえながら、これから、それこそまずは歳出構造の見直しをやり、そしてこういう国会の問答を通じたり、また、税制調査会等々各般の意見を聞きながら対応すべきものでありまして、いま、いつから導入しようとかという考え方は私の念頭にはございません。
  253. 和田静夫

    和田静夫君 どうも政府は参議院選挙が終わるまではのらりくらり答弁をしていって、選挙が終わったら大型間接税を導入をする、そういうシナリオがあるのではないだろうかということをいろいろ皆さんの発言を聞いておりながら思うのです。大蔵省が要調整額という数字だけをぽんと出されました。この要調整額をどのように埋め合わせるのかを明らかにしていないわけですよ。そこで総理予算の編成権というのはこれは内閣にあるわけですから、したがって、この要調整額をどう処理するのかを明らかにする義務があるわけです、総理、どうですか。
  254. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これはまず私から最初に答えるべきことでございますが、いままで、振り返ってみますと、私が前回大蔵大臣をしておりましたときは、ここで和田委員と財政収支試算、そしてその後は財政の中期展望、それからこのたびいろいろ工夫をいたしまして財政の中期試算というものを御提示申し上げて、予算審議の手がかり、足がかりにしていただいておるわけでございます。それをいわゆる等率、等差で仮定をいたしてみましたのがこの中期試算になるわけでございます。そこで不足として出るものが要調整額、これは申すまでもないところでございます。そこでその要調整額というものを一体どうして埋めていくかというようなことこそ、こうした国会の問答等を通じながら、将来、もういずれ五十九年度予算の編成にもかからなきゃならぬわけでございますから、それこそこの要調整額をどういう手段で埋めていくかということがこれからの問答等において大変な大事なことであって、いま具体的に三分の一ずつかくかくしかじかにいたしますとかいう性格のものではない。この要調整額がわれわれを努力せしめるところの大きなまたてこにもなる、こういうふうに御理解をいただければ幸いであります。
  255. 和田静夫

    和田静夫君 そこで総理一言だけ答弁いただきたいんですが、大蔵省は、「今後の財政改革に当たっての基本的考え方」、この中に「公平、適正な税制の在り方について今後とも検討を行う。」、公平、適正とはどんな税制でしょうか。
  256. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 政府がいま考えておりますことは、増税なき財政再建、それを完遂することであると考えております。したがいまして、増税というようなことは考えておりません。増税なき財政再建を実現したい、そう考えておるところでございます。  いまの税制の内容についての御質問は、どういう関連においてそういう言葉が書いてあるか私知悉しておりませんが、いま申し上げましたように、増税なき財政再建を堅持するということで御答弁申し上げたいと思います。
  257. 和田静夫

    和田静夫君 最後ですが、昨日発表されました一月末の租税・印紙収入実績、これで補正後の税収見積もりが達成できるのかどうか、これはわからないということになると思うんですが、このような税収状況の中で、いかに五十九年度以降の予算を組むのですか、いわゆる増税なしに組むことができますか。
  258. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 確かに、発表いたしましたことはいま御指摘のとおり、私どもも非常に厳しい状態にあるという認識でもって、そしてまた、期待感を持って眺めておるわけであります。したがって、五十九年度以降の予算ということになりますと、要するに、総理から言われておる財政改革というものは、従来のものをすべて見直しをして、いわば現状の政策手段をそのまま継続した場合の考え方に基づけば、要調整額というものは当然出てくるわけでございますので、完全に歳出構造の見直しをまずやってという考え方に立って、そして、いまお答えありましたいわゆる増税なき財政再建をてことしながら、予算編成にも臨んでいかなければならぬ、こういうふうに考えております。
  259. 矢田部理

    矢田部理君 景気対策の方から財政問題の方に行ってしまったわけでありますが、中小企業まあ深刻だということでありますが、中小企業対策としてたとえば企業城下町法であるとか、設備投資減税などを考えておるようでありますが、これだけではとても中小企業浮かばれないということでありまして、この辺で、大臣、何か考えておられますか。
  260. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 先ほどもちょっと御答弁申し上げた中にも触れたんですが、いまの質疑応答にもありましたように、大変厳しい財政環境の中で、大蔵省にとっては、これは歳入の予測せざる減収ということになるわけでありますから、確かに、税額控除とか特償との併用とか選択とか、あるいはまた、当初予定いたしておりました建物とかリースとか、そういうもの等が中小企業投資減税から特償一本になってしまったということはありますけれども、それだけでも大蔵省が予定していた歳入に三百億を下らざる範囲で食い込んでしまったと私は思っています。  したがって、これのもたらす効果は、いままでの過去五年に投資したものよりか上に乗っかる分でありますから、この三角になる部門が大体千百億ぐらいの効果はあるであろうと。でありますから、当初に比べては、まあ当初やれば二千六百億も財源が要ったわけですから。しかし、それが曲がりなりにも何とか芽を出したということが中小企業の気力を投資に向かわせるというその誘引材になればという願いを込めたものであります。ということは、昨年にエネルギー関係のみについて投資減税やってみたわけですね。ところが、それを過去五年間の投資にずっと引っ張っていって横へ持っていきますと、やっぱりその投資減税を認めた年度です、去年ですね、ぐっとこうやっぱり出てます。そこのところはそういう効果は確かにある。  そこで、税額か特別償却か、どっちにしようかと考えたときに、エネルギーの方の去年の実績を見てみますと、税額控除をとっている方は大企業ですね。そして、特別償却を選択している方が実は中小企業が圧倒的に多い。そこで、今回選択の末、特別償却一本でまずやってみようという、一に国家財政の窮乏の中でとってもらった唯一の措置ということで、私は、これをてこにして一生懸命がんばってみたいと思っています。
  261. 矢田部理

    矢田部理君 これは官公需の発注を中小向けにもう少しやっぱり重点的に展開をするとか、いろいろあるわけでありますが、去年は公共事業の前倒しというのをやりましたね。あの功罪がまたいろいろあるわけでありますが、ことしはこの辺はどういうふうに考えておりますか。
  262. 内海英男

    国務大臣(内海英男君) 五十七年度でございますか、五十八年度……
  263. 矢田部理

    矢田部理君 五十八年。
  264. 内海英男

    国務大臣(内海英男君) 五十八年度は、現在予算を御審議中でございますので、まだ私から前倒しをやるとかやらないとか申し上げる段階ではない、こう思います。
  265. 矢田部理

    矢田部理君 そういう議論になるんじゃ、これから先の話はできないことになる。
  266. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは、やっぱりいま予算審議していただいておる場合でございますので、まあ本院で予算委の御審議をお始めいただいたばっかりのときに、憲法六十条で見れば、それは異なった議決とかいろんなこともあり得るわけでございますので、やはりそういうときにどう執行するかを言及するというのは、余りにも審議を始めたばかりでございますので、適当を欠くんじゃないかなと思います。  ただ、経済情勢にはいろいろな要素が混在しておりますが、十分そういう推移を見ながら、一般論として言えば対応すべき事柄であるというふうに考えます。
  267. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) けさのある新聞に、私の、企画庁における指示としまして、前倒しの記事が出ておりました。私どもは、このような問題に対処いたしましても、企画庁でございますから、検討する義務があると考えているところでございます。  御案内のように、五十二年、五十三年、五十六年、五十七年、いずれも前倒しをしてまいりました。そのときの経済情勢といまの経済情勢がどこが違うか、こんなようなところをいま検討をしているところでございますが、それが早目に新聞に出てあのような記事になったと思っております。
  268. 矢田部理

    矢田部理君 まあ予算がまだ決まらないうちというのも一つの見識でありますが、しかし、全体の経済問題をどうするかということになれば、やっぱり予算をひとつにらみながらいろんなことをいま議論しているわけでありますからね、予算が決まらないうちは予算委は議論できないんだということでは必ずしもないというように私は思っております。  いずれにしましても、全体的なやっぱり景気対策を本気にやりませんと、また、政府のやる役割りというのはお金がないわけですから非常にこれまた小さくなっているわけでありますが、大変な事態になっているということで、私は楽観を戒めておきたいと思うわけであります。  もう一点人事院勧告、年度末になってもいまだ動かず、凍結のままということは、まことにこれまた厳しい限りであります。これは生活と権利の課題であるだけでなくて、景気対策の上からもきわめて問題が多いし、あるいはまた年金等にも波及をしているわけでありまして大変な事態だと思うんですが、総裁お見えになっておりますので、どんなふうにお考えになっておられますか。
  269. 藤井貞夫

    政府委員藤井貞夫君) 給与に関する人事院勧告につきましては、制度的な重みなり趣旨なりについては、皆さん方先刻御承知のとおりでございますので、私から繰り返し申し上げることは差し控えますが、昨年の勧告というものが、政府の財政状況非常に厳しいという事態は私としてもわからないわけではありませんけれども、勧告の持つ意味、従来の実績等から見まして、これはやはり完全に実施していただかなければ困るというのが人事院としての基本的な立場でございます。  そういうことで、いままでもるる申し上げてまいりましたが、この勧告は、ほかならず、内閣のみならず国会に対してもお願いをいたしておるところでございますので、なお時期が切迫はいたしておりますが、全くその機会がなくなったわけではございません。私としてはぎりぎりのところまで、できるだけひとつ適切な御判断結論を出していただきたいというのが私の切なる念願でございます。
  270. 矢田部理

    矢田部理君 先般、ILOからも勧告が出されました。遺憾だと言っているんですね。しかも、今後はやっぱり完全実施しなさいとも言っているわけですが、これはどういうふうに総理考えますか。
  271. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 先ほど前倒しの話が出ましたが、まだ予算が成立前ですから皆さん慎んだ御発言をしていますが、失業の状況とか、景気の状況を見まして、予算の運用については弾力的、機動的措置をとることは十分考えていくべきであると、そう思っております。  それから、人事院勧告の問題については、ILOの先般の勧告は、これは五十七年度について政府がとりました措置を覆すという内容であるとは考えておりません。しかし人事院制度による労働権の保障というこのやり方は十分尊重すべきであると、そういう御趣旨は盛られていると思います。  政府といたしましては、五十七年度については各党間でお話し合いを願っておるところでございますが、年度が終わるまではよくそれを見守っていくというのがわれわれの態度でございます。  五十八年度につきましては、先般の各党の申し合わせの線に沿いまして、誠実にこれを尊重するという態度でまいりたいと思っております。
  272. 矢田部理

    矢田部理君 何といいますか、五十七年度……。
  273. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 矢田部君、時間が参りました。
  274. 矢田部理

    矢田部理君 わかりました。これで終わります。  五十七年度については、もうぎりぎりのところに来ているわけです。特に退職金や年金にも影響が出てくる。公平さを欠くことになるわけですね。給与が上がらないためにそこにも響いてくる。これはやっぱり凍結解除とあわせて何とかすべきではないのかというのが一つ。  それからILOは単に尊重し、実施しろと言っているんじゃなくて、完全にやりなさいと言っている。来年度は完全にやりますぐらいの約束はしてしかるべきではないのか。そのことをやっぱり強く要求しておきたいと思うんですが、最後にその答弁を求めて私の質問を終わらせていただきたいと思います。
  275. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 五十八年度はつきましては、各党申し合わせの線に沿いまして、これを尊重してまいる覚悟でございます。
  276. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 以上で矢田部理君の質疑は終了いたしました。(拍手)     ─────────────
  277. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 次に、嶋崎均君の総括質疑を行います。嶋崎均君。
  278. 嶋崎均

    嶋崎均君 私は、自由民主党・自由国民会議を代表いたしまして、中曽根総理を初め、閣僚の皆さんに対しまして予算委員会の総括質問を行いたいと思います。  時間的な制約ももちろんあるわけでございますし、なるべく簡潔にお答え願いたいと思うのでございますけれども、せっかくテレビが入っておるときでございますので、できるだけ国民の皆さん方にわかりやすく、また政府の考えていることをよく理解していただくようなお気持ちでお答えしていただくことを心からお願いを申し上げる次第でございます。  中曽根内閣が成立しましてから補正予算の編成を含む臨時国会が行われ、またそれに引き続いて予算の編成が行われたわけでございます。しかもその間に、非常に大きな財政問題の解決、あるいは人事院勧告の問題等を含めた問題の処理が行われて今日までまいっておるわけでございます。また対外的な交渉その他で、いろんな面で御苦心をされて、予算編成をされ、また臨時国会の中でも御苦労を願ったわけでございます。  越えまして十一日は日韓の首脳会談が行われ、そして十八日から御承知のように日米の会談に臨まれたわけでございます。非常に短い期間の中でもありますけれども、その間非常に汗を流して努力する内閣だというようなことを看板で今日までやってこられたわけでございます。ようやく予算もいろいろな経緯がありましたけれども、参議院にまで送られてまいったわけでございます。われわれもせっかくこういう機会でございますから、予算委員会の中でなるべく充実した審議をやりたい、与野党でそういうことを申し合わせておるような次第でございます。どうかそういう意味で、本日のやりとりも先ほど申しましたようなお気持ちでお願いを申し上げたいと思うのでございます。  こういう機会でございますから、まず最初に憲法の問題についてお伺いをいたしたいと思うのでございます。  日本国の憲法については、もう御承知のとおり第九十六条にその改正について手続の規定があるわけでございまして、憲法自身がみずから改正をされるということを予定をしておるわけでございます。また、自由民主党の中におきましては、御承知のように憲法調査会というものも設定をされておりますし、種々の議論が行われて今日までまいったことも御承知のとおりでございます。また、そういうことを背景に、中曽根総理もこれを踏まえての議論をいままでやってこられたというふうに私たちは受け取っておるわけでございます。しかし、他方翻って考えてみますと、憲法は国家の基本法であるわけでございます。したがいまして、その改正を口にするということはなかなか慎重でなければならないというふうに私たちは受け取っておるわけでございます。特に、現行の憲法の基本理念、先ほど矢田部さんへの御答弁の中にもお話がありましたけれども、平和主義、あるいは民主主義、あるいは人権の擁護問題、あるいは福祉国家をねらっている、国際協調の問題というようなことを取り上げられたわけでございますけれども、これらに対しては国民の強い支持があることは現実であるというふうに私たちは思っておるわけでございます。以上の点にかんがみまして、まず総理は、日本国憲法の理念、あるいはそれに掲げるところの基本原則に対するいろいろな歴史的な評価、あるいは憲法に対する国民の感情等について、どのようにお考えになっているかお伺いをいたしたいと思います。  また、中曽根内閣の憲法改正問題に対処する考え方国民の皆さん方にも明確におわかりいただけるようにお話を願いたいと思います。総理からよろしくお願いします。
  279. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 現在の日本国憲法が歴史的に果たしている役割りにつきましては、先ほども午前中申し上げたとおりでございます。  私も戦前、戦後を生き抜いてまいりまして、戦前の社会と戦後の社会を比べて見ると、戦後の方がはるかに明るく伸びやかな、いい社会になっております。その上に、ほとんどの子供たちが高校へ入る、あるいは三十何%が大学へも進むという、非常に普遍性を持った世の中が生まれて、中産階層が充実した世の中になっておりますし、また東京の銀座でジーパンを女性がはけばすぐ札幌でももうはくというように、文化の普遍性というものがテレビ等を通じても出てきております。戦後のこういういろいろな現象を見ると、自由で伸びやかで明るい世の中が出てきたということについては、やはりいまの日本国憲法の存在というものが大きな役割りを果たしていると前から私は申し上げておるのであります。もちろん、戦前の日本には戦前の日本の固有の価値もあり、日本人としての生きざまもあったわけでありまして、それはそれなりに日本の歴史の上においても意味のあった点もなきにしもあらずでございますけれども、その両者を生き抜いた私の感じから申し上げますならば、やはりいまの日本国憲法が果たしている大きな役割りというものに目をつむるわけにはまいらない。事実は事実として承認して、またいいところはこれを伸ばしていくべきである、そういうふうに考えておるわけでございます。  私は昔、憲法改正という問題を大分論じましたけれども、しかし、いろいろ経験をしまして非常に感じ入ったことが一つあるのであります。  それはどういうことかと言いますと、私のような者は戦争へ行きまして、それから帰ってきてすぐ国会議員になりました。戦争中は士官という立場にありましたし、戦後は国会議員をやらしていただいておりますが、政治をする者の立場というものと選挙をする方々の立場というものをよくこれ見分けないといかぬなと。私たち政治をする者はマッカーサー司令部といろいろ交渉をしたり、あるいは法律をつくるについてマッカーサー司令部の許可がなければできなかったり、いまの憲法ですらもつくるとき、直すときについては、一々マッカーサー司令部の許可がなければできなかったというのが現実であります。そういう点についてやや衝動的にいろいろ言論も行ってきたと思います。しかし、この憲法自体が果たしている役割りというものは、戦後国民の皆様方の中にかなり厳然としみついてきておると思うのであります。そして、基本的人権の尊重とか、自由とか、民主主義とか、あるいは国際協調主義とか、平和主義とか、こういうものは国民の皆様方に謳歌され、しみついてきていると思います。そういう意味においては市民社会の岩盤が厳然としてここに、戦後の日本に出てきている、特に若い人たちの間にはそれはもう疑いもなく出てきてかたく固まっていると、そういうふうに思うのです。私たち戦前派、あるいは戦中派がいろいろないきさつとか、あるいはマッカーサーに統治された当時の衝動的な気分等々もありまして、それにはそれ相当の理由もまたあったわけでありますけれども、やった経過を自分で静かに反省してみますと、やはり一たん獲得した自由、人権、あるいは福祉国家の理念というものは、こんりんざい放したくないという強い熾烈な要望がこの市民社会の中にある、特に御婦人の皆様方にある。そういうものはわれわれの、昔憲法問題を考えた者の善意にかかわらず、われわれはそういうものまで直そうとかなんとかということは毛頭考えていませんけれども、憲法の「け」の字を口にすると、それまでまた奪い取られるのではないかという憂え、心配をその方々が持ってきたのではないかと思うのです。そういう点についてわれわれのやり方が多少無神経ではなかったろうかという反省も実はしておる。そういう反省の上に立っていまの人たちの気持ちを大事にしながら、しかもわれわれは何をすべきかという点についてさらに思いを深くこらした考え方に立って、こういう問題は考えていくべきであると、そういうことを私はしみじみ感じておりまして、ですから、この問題については国民的コンセンサスが必要である。自民党だけで独自で独善的にやってやれるものではない。それをはっきりわれわれは銘記すべきである。国民全体のコンセンサスをいかにつくっていくか。それについてはまず方法論においてどういうやり方でこの問題をこなしていったらいいかという点について、各党各派でよく話し合って、方法をまず見つけ合おうと。そういう意味において明治十四年の政変のお話を私はしておるので、あのとき峻厳に対立した民選議員派大隈一派と、それから伊藤博文さんやそのほかの一派とが渾然と手を握って、日本の再建について内閣制度をつくり、憲法をつくり、議会政治を始めるという長期路線をしいたわけです。それであの輝かしい明治の発展が行われた。現代われわれがその明治の人たちの故知を学ばないという愚劣なことはない。われわれの先輩はそれだけの大きな考え方、思慮の深さを持ってやっているんだから、現代のわれわれもそういう思慮の深さを持ってやろうと。特にわれわれ自民党員の中においてはそういう自由を獲得した、戦前は、ある場合には人権が損なわれ、戦中は食糧難に追われて、戦争のために痛めつけられた方々の気持ちというものをよくおもんばかって、そしてわれわれの善意が誤解されないように受け取られる、そういう配慮が必要だ。そしてあくまで一たん獲得した自由や、人権や、明るさというものを失うまいという必死の市民の念願というものは一〇〇%尊重し、そして盛り育てながら、この問題を解決していく、そういう真摯な態度が必要であるということをここで申し上げたいと思うのであります。
  280. 嶋崎均

    嶋崎均君 それでは、中曽根内閣としてこの憲法の改正に対してどういうスタンスを持って考えておられるかということをもう一度明確に。
  281. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 戦後、新憲法によってわれわれが獲得した自由と民主主義というものは、戦前のような検閲を許しません。これは完全に人権に基づいて自由を保障しようということで、その中には言論の自由もあれば、学問の自由もあれば、労働権もありますし、信教の自由もございます。その自由の中で一番大事なポイントはタブーを設けないということであります。そういう意味におきまして、法律であろうが、憲法であろうが、何であろうが、タブーを設けてはいけない。自由にみんなで心ゆくまで論議をして、みんなで方法を見つけ合うという態度で進むべきであると、こう考えておるのであります。したがいまして、憲法につきましても国民の皆様方が自由に勉強し、討議し、そしてある者はこれの改正を唱え、ある者はそれに対する擁護を唱える。しかし暴力を用いないで、言論の自由を重んじながらみんなでそれを論議し合うということは奨励さるべきである。したがって勉強し、討議し、あるいは見直しを行うということは私は民主主義の世界に照らして当然あり得べきことであると思っております。しかし、われわれは憲法の条章に基づいて内閣総理大臣になり、内閣を組織し、国政を行っておるものでございまして、そのよって立つ基礎の憲法を守るということはこれは憲法にも明記されておるとおり、当然のことなのであります。しかし一面において、社会の進歩のためにこの憲法を改正するという用意も憲法自体はしておるわけでございます。そういう意味におきましては完全に自由、民主主義の憲法でそのような運用が望ましいと思います。しかし、われわれは擁護の義務が内閣としてはございますから、その点について誤解を与えるようなことは慎んだ方がいいと思いまして、そしてその上にさらに現内閣におきましては憲法改正問題を日程にはのせない。それは国民的コンセンサスその他も考え、以上のようなことを申し上げたその背景に立ってそういうことを私は申し上げておるのであります。
  282. 嶋崎均

    嶋崎均君 中曽根内閣としては、この憲法問題につきましては政治日程にのせないということを非常に確実な考え方として持っておられるわけでございます。そういうことを前提にして、今後与党の中でもこの問題についてのいろんな論議を考えていきたいというふうに思っておるわけでございます。  ところで、日本国の憲法はその前文で、日本国民は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」というように述べておるわけでございます。当時は国連ができてすぐ直後でございます。非常に国際的政治情勢というのが安定をしていたのが事実であろうというふうに思うのでございます。しかるに、その後の世界の動向をいろいろ見ますと、国連の掲げた理想とは相当ほど遠い形に相なっておることを認めなければならないと思うのでございます。現実の世界は米ソ超大国の核バランスを基本に、東西間の力の均衡によってその平和と安定が保たれているのが冷厳な現実であるというふうに思うのでございます。かつまた地域的にも紛争はいろいろとあるのが現実であるわけでございます。わが国としてはこのような現実を踏まえまして外交を展開していかなければならないというふうに思うのでございますが、総理の現下の国際情勢に対する基本的な認識をお伺いをいたしたいと思います。
  283. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 国際情勢はまだ厳しい冬のような中にあると思います。それは米ソを中心にする対立というものが氷が雪解けという状態にはまだ至っておりません。アフガニスタンの問題にいたしましても、ポーランドの問題にいたしましても、事態が前進しているというところには至っておりません。あるいは戦略兵器削減交渉にいたしましても、INFにいたしましても、雪解けが見られるという状態には至っておりません。したがって、国際情勢は昨年来の情勢で推移していると、そのように判定せざるを得ません。しかしながら、最近の情勢を見ますと、ブレジネフ書記長がお亡くなりになりましてアンドロポフ新政権が出現をいたしまして、いま政策形成期にあると思っております。一方、アメリカのレーガン政椎の側におきましても、かなりの財政赤字という問題が国会の注目を引いてきておるという情勢でもございます。  私は、レーガン大統領にお会いいたしましたときに、自分はこう思う、あなたは軍事費をかなり強化し、また防衛力、軍事力を強化して一生懸命おやりになって、アメリカの立て直しをお考えになっておるが、それはソ連との均衡を回復して、それによってソ連と妥協する、つまりでき得べくんばトップ会談でも開いて、そしてソ連とアメリカの間に防衛、軍事問題について和解、妥協を行う、そして軍縮へ持っていく、そういうようなチャンスをつかむ、そういう意味においてあなたは一生懸命おやりになっているんじゃないんだろうか、自分はそう推察する、そうすれば、いまアンドロポフ新政権がここへ出現したということは、政権が交代するというときは外交政策が転換するチャンスにもなるのであります。そういうことも考えてみて、これは情勢によってアンドロポフさんとレーガンさんの巨頭会談というものを考えていいんではないかと自分は思っておる、そういう時期がいつ来るかどうかは当事者でなければわからぬけれども、一般的方法として、両方がトップ会談を開いて、そして軍縮問題について前進させ、世界を安定させるということはきわめて望ましいと思う、あなたはそれをおやりになりませんかという話を私、したんです。そうしたらレーガンさんは、実は自分もそれは考えていいと思っているんだ、しかし、ソ連との話し合いという場合には着実な証拠が欲しい、そういう意味においてジュネーブにおける話し合い、あるいはSTART、戦略兵器削減交渉の進展ぐあい、こういうものを見ながら、ソ連がどの程度実のある態度で出てくるかを見て、その上で外相会談をやらしたい、その上でサミット、両者の米ソ巨頭会談といものも考えていいんだ、こういうことを私に答えたのであります。  私はその話を聞きまして、これはいい話を聞いたと思ったので、レーガン大統領に対して、私はあなたの考えに全く同感である。軍縮をやるにしても、それは着実に、堅実に、確信を持ってやれるような情勢のもとにやる必要があるでしょう、つまり検証制度というような、そういうものが必要でしょう、自分はあなたを支持をしたい、勇気を持ってそういう方向に打開してくれることを私は希望する、そういうことを申し上げたんであります。これは私の考え方であります。
  284. 嶋崎均

    嶋崎均君 いま総理のお話を承りますと、レーガン大統領との会談の中でそういうお話があったということを聞きまして、実はこの十九日の日の、何というか記者会見の中の文章を私読んでおるわけでございますが、この中で、どこまでも戦争を回避し、平和を維持するための抑止力をつけなければならないということに努力をし合っているということをおっしゃられて、こういう意味のことを大統領にお話しになったところ、「大統領は平和と、意外に軍縮に熱心だった。」というお言葉を使って話をされておるわけでございます。  いま、後からもお話を申し上げたいと思うんですが、STARTというようなことが行われておるわけでございますし、またそれに対しても大変な熱意を持ってその解決のために努力をしていこうというようなお気持ちだったというようなこともその会談の中にあるようでございます。その点についてどういうような御感触でありましたか、お伺いしたいと思います。
  285. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) やはり世界の最高首脳部の方になると、核兵器というものを背後にいたしまして、ボタンを押すか押すまいかということは非常に大きな恐怖だろうと思うんです。  現に私、昔アメリカの軍縮代表をしておったアレクシス・ジョンソンさんと長い間ワシントンで話したことがあります。そのとき彼は私に、米ソ両方の兵器、アメリカ側が見ている数量、図表を私に示しまして、そして彼は、一点一画おろそかにしないように向こうと交渉し合っている、そしてやるについては本当にこれが実るようにという祈るようなつもりで実はやっているんだと。それはもうみんな、あの殺人的な巨大な核兵器というものを背景に交渉をしている人たちは、人類の運命や米ソ両国民の運命をかけてやっておるのでありますから、本当にこれ、命がけでやっている感じがいたしました。われわれが安眠して、何にも知らないで寝ている間でも、米ソの核兵器の交渉をやっている人たちは人類の運命をかけて真剣にやっているんだなあという、非常に厳粛な気持ちに私打たれたことがあります。それが実際、人間の姿だろうと思うんです。  それで、レーガン大統領にしても、アンドロポフさんにいたしましても、核兵器に手をつけようなんという気持ちはない、恐らく世界の政治指導者で核兵器のボタンを押したいなんと思っている人は一人もいない。そんな愚劣なことはぜひやらないようにしたいとみんな祈っているのだろうと思います。  ただ、ああいう兵器は業の兵器でありまして、広島に一発落とされたらそれが増殖していく、片っ方が持てば片っ方も持たざるを得ない、言いかえれば必要悪みたいな形で、そして増殖していく。一たん出てしまったら、それを背負わされて業の道を歩かにゃならぬというのがアメリカやソ連や、そのほか核兵器を持っている国の宿命みたいなものになっておるんですね。われわれはそういうものを持たないからわりあいに気がせいせいしていますけれども、しかし、持っている方は非常に大きな苦悩を抱えてやっておる。そしてこれをいかにして使わないで、しかも相手に劣勢を感じさせないで平和を維持していくかという意味においては、ある意味においてはポーカーゲームをやっているのでしょう。ある意味においてはそういうゲームをやっておるんですね。しかし、そのゲームといえども運命をかけたゲームをやっておると私思います。  そういう中で、アメリカとソ連がやっているということをよく認識しながら、現実的に具体的にそれをいかに実らせていくかという点について、われわれはやはり現実的に考えていかなきゃならぬ、そう思っておるんです。  日本に関しましては、やはり憲法の範囲内で、自分で自分の国を守って、そしてできるだけ人に迷惑をかけない、そういう国になっていく、そしていまのような日本の状態では、憲法のもとに、安全保障条約を最大限に活用して抑止力をつくり、日本に手がかからないように、日本を戦場にしないようにしていくということが日本としての安上がりの戦略ではないか、そう思っておる次第であります。
  286. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話を承ったように、なかなか世界の情勢は厳しい姿になっておるように思うのでございます。米ソの軍事バランスが世界の平和を維持する上で非常に重要な役割りを持っておるということは、否定し得ない現実であろうというふうに私たちは思っておるわけでございます。  ところで、この米ソ間のバランス問題につきまして、アメリカのレーガン大統領はバランスがすでにソ連の方に有利になっておるんだというような発言をされたり、あるいはソ連が現在、両者は均衡している旨の発言をしたりというようなことで、いろいろそれぞれのお立場を考えながらの発言をやっておられるんだろうというふうに思うのでございます。しかし、政府として、この米ソの軍事力のバランス、特に極東におけるバランスの状況というようなことについて、どういうぐあいにお考えになっているのか、外務大臣からお伺いいたしたいと思います。
  287. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 御承知のように、ソ連は十数年来、一貫して軍事力の増強を行っておるわけでありまして、米ソ間の軍事バランスというものは、このまま放置すればソ連が優位に立つであろうという、そういう情勢であると私たちは認識をいたしております。  しかし、軍事バランスの評価は、これは軍事力の量だけではなくて、その質であるとか、各戦力の構成であるとか、訓練度であるとか、士気、さらには同盟国との関係等、種々の要素を総合して考慮すべき問題でありますし、一概に答えることはむずかしい。  しかし、いずれにしても、先ほど申し上げましたように、十数年来のソ連の軍備増強というのが続いておりますので、私はやはりこのままではこのバランスが壊れる可能性は非常に高い、このままでいけばそういうふうな感じを強く持っております。また、極東においては、ソ連は特に軍事力を強化しております。これはもう陸海空にわたっての顕著な増強を行っておるわけでございまして、われわれはこうした極東におけるソ連の軍事力増強というものについて非常に注目をし、そしてなおかつ脅威を感じざるを得ない、そういうふうに思うわけであります。
  288. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話承ったのですけれども、極東における状態というのが御答弁がなかったような感じがするのですが、その点についてあわせて御答弁願いたいと思います。
  289. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 少し細目にわたるかもしれませんが、現在ソ連が極東に持っておりまする兵力について政府委員から答弁いたさせます。
  290. 新井弘一

    政府委員(新井弘一君) 御答弁申し上げます。  まず、核、非核双方につきましてどの程度の兵力をソ連が極東に維持しているかといいますと、大ざっぱに言いまして約三分の一から四分の一というふうに評価しております。他方、これをキューバ危機のころ、約二十年前に比べますと、当時は約八分の一であったわけでございます。そういう意味において、先ほど安倍大臣から御説明になったように、近年非常に極東におけるソ連の配備が量的にも質的にも増大したということが言えるかと思います。  若干簡単に述べますと、陸上兵力につきましては、現在三十九個師団、三十六万人。それから海軍力につきましては、これも約百六十万トン、八百十隻。それから航空機につきましては二千百二十機、かなりの量を保持しております。他方核戦力のうち、特にSS20につきましては約百基、またバックファイアについては約七十機極東地域に配備しておる、そういうふうにわれわれは判断しております。
  291. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまのような状況でございまして、力の均衡によって世界の平和が非常に厳しい中で維持をされておるということでございますけれども、基本的に大事なことは、どこまでも軍縮なり軍備管理なりというものを通じまして力の均衡水準をできる限り低いものにしていくということが基本的に大切なことであるというふうに私たちは考えておるわけでございます。このような見地から、現在米ソの間で行われている中距離核の戦力制限交渉、INFというやつでございます、及びこの戦略兵器削減交渉、STARTの推移は全世界が注目をしているところであると思うのでございます。わが国としても、これらの交渉につきましていろんなことがありまして非常に心配をしている向きもあるわけでございますけれども、いまこの中距離核戦力制限交渉は現在第四ラウンドを迎えて交渉が行われておるというふうに聞いておるわけでございます。また、レーガン大統領がゼロオプション提案を行い、それに対してソ連が種種の逆提案をしておるというのが現実であります。これらの現状あるいは対立点等につきまして御説明を願いたいと思います。
  292. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いまこの米ソ間で戦略核また中距離核兵器についての交渉が行われているわけでございますが、いずれにしてもこれらSTARTであるとかINF交渉ははかばかしい進展を見てないというのが現実の情勢であります。特にこの中距離核戦力の制限交渉につきましては、世界じゅうが大変な注目をいたしております。わが国もこの極東にソ連のSS20が百基も配置をされておるという関係から、この中距離核戦力制限交渉については大変な関心を持たざるを得ないわけでありますが、御承知のようにアメリカがこのSS20のソ連全土における配置、すなわちまあ三百四十ぐらい、ヨーロッパ方面に二百四十、極東に百ということになっておりまして、これらの核兵器についてこれが全廃を主張しております。これを全廃すれば、この秋以後アメリカがドイツであるとかイギリス、ベルギー、イタリー等にパーシングIIであるとか、あるいは巡航ミサイルという中距離兵器を配置をするという計画を持っておりますが、これもやらないということで、いわゆるゼロ・ゼロオプションというものを主張しておりまして、ブッシュ副大統領等もそうしたアメリカのこの考え方を踏まえて、先般もヨーロッパ等を歴遊いたしたわけでございますし、また、ヨーロッパ諸国もこのゼロ・ゼロオプションを支持しておる。日本の場合もこのゼロ・ゼロオプションを支持しておるというのが基本的な姿勢でございますが、現在ソ連はこれに同調しないで、いわゆるアンドロポフ提案というものを主張をいたしておるわけでありまして、これはヨーロッパにおけるソ連の配置しているSS20を削減をしようと、そのことによってアメリカが配置をしようというパーシングIIであるとか、あるいはまた巡航ミサイルの配置をストップしろと、こういうことでございますが、これには全くバランスがとれないということでヨーロッパも反対をし、あるいはアメリカも反対をいたしておりまして、いまのところは真っ向から対立をしたまま推移をいたしておりまして、このままでいけばやはりソ連のみが中距離核戦力を全土に持つということでありますから、やはり力のバランスということによって平和は保たれておる、抑止力をやはり強化をしなければならぬということで秋以降はヨーロッパにおいてもアメリカの中距離核兵器を配置をせざるを得ない。  先般も西ドイツの選挙が行われましたが、これなんかもINF交渉、パーシングIIの配置をめぐって大変な大論争が行われたわけでございますが、私どもとしてはアメリカの主張する、いわゆるゼロオプションというものによってこの中距離核兵器がソ連全土、全土的に全廃をされると、それに伴ってアメリカのパーシングIIであるとか、あるいは巡航ミサイルであるとかそうした核兵器、中距離核兵器の配置もストップすると、こういうことになることが最も望ましいことである、そういうふうに考えております。ヨーロッパも目下そういう考えでございまして、そういう方向でこの交渉が進められるべきであると、こういうふうにわれわれは考えておるわけであります。
  293. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまINF交渉が行われておるわけでございますけれども、さきの六日の日に行われました西独の選挙の結果四党というような姿になりましたけれども、キリスト教民主・社会同盟の勝利に終わった形に相なっておるわけでございます。これがどういうような影響を持っておるか。かつまた、ヨーロッパ諸国がINF交渉に対してどういう考え方を持っておるか、そういう点について御説明願いたいと思います。
  294. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 先般の西ドイツの総選挙は、いまのINF交渉の今後を見る場合において大変な大きな意味を持った選挙だということで、われわれももちろん注目をしたわけでございますが、コール・キリスト教民主・社会同盟総裁の率いる党が勝ったわけでございまして、継続してコール政権と、そういうことになりまして、ゼロオプションをコール首相も主張しております。そして、ソ連がこのINF交渉におきましていまの主張を譲らない限りはドイツにパーシングIIを配置するという決意を持って準備を進めておるわけでございますので、アメリカとしてもこうした総選挙の結果というものには非常にほっとしたといいますか、力強さを覚えたんじゃないだろうかと思っておりまして、いままでアメリカ、ヨーロッパが一緒になって進めてまいりましたいわゆるこのINF交渉の路線というものを変えずにこれはやっていけるという自信が出てきたのじゃないか、そういうふうに私は考えております。  また、その他の諸国もドイツのこの総選挙の結果を見守っておりまして、コール政権が敗れれば、恐らくアメリカの主張するゼロオプションあるいはまた米ソ間のこうした交渉が大きく後退をするおそれがある、ヨーロッパの団結あるいはアメリカとヨーロッパの結束というものが乱れて、そうした核交渉には非常に悪い影響が出るのじゃないかというふうな心配をしておっただけに、その他のヨーロッパの諸国も、まあこの選挙の結果というものには一応安堵をしたのではないだろうかと思っておりますし、日本といたしましてもこのコール政権の勝利というものが、いわゆる西側が一体となって進めておるところの中距離ミサイル、いわゆるINF交渉が今後これまでの路線を引き続いて続けていける。そしてまたソ連全土的な立場でのいわゆる中距離ミサイルの撤廃という方向にやはり一歩を踏み出したものであると、こういうふうにわれわれは感じておるわけであります。
  295. 嶋崎均

    嶋崎均君 先ほどお話がありましたけれども、ソ連のSS20ミサイルは、欧州だけじゃなしに極東、シベリア方面でも約百基、まあ九十九とかいうような話も聞きますけれども、約百基配置されておるというふうに聞いておるわけでございます。また、ソ連ではまた新しい基地をつくりつつあるというようなことが報じられたり、かつまた、SS20の配置問題につきまして、アンドロポフあるいはグロムイコといったソ連の首脳が、欧州のSS20を極東に配置したらどうだろうかというような示唆をしたということも新聞で承知をしておるわけでございます。御承知のようにわが国は非核三原則というのを国是としてやっておるわけでございます。しかし、ミサイルというのは非常に正確で、ほとんど日本全土が完全にその射程距離の中に入るというような状況であるというふうに聞いておるわけでございます。日本にとって非常にゆゆしい大事であるというふうに考えなければならないと思うのでございます。しかも、そういうように極東に別に配置、移転をしようかというような話があります。ある意味では日本に対する政治的な恫喝ではないかというふうに思ってもいいのではないかと思うのでございます。こういった点から、SS20をめぐる中距離の戦力交渉は極東にとってもきわめて重要な意味を持っておるというふうに思うのでございます。この点につきまして総理はどういうぐあいにお考えなのか、御意見を承りたいと思います。
  296. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) ヨーロッパにおきますSS20問題の解決のために日本やアジアが犠牲になることは真っ平御免であります。日本やアジアの犠牲においてそういうものの解決がなされることをわれわれは断じて認めることはできません。
  297. 嶋崎均

    嶋崎均君 そういう点から考えますと、今後これらの交渉については、十二分のひとつ考え方を持って、自由圏の中での問題の処理について考え方をきちっと整理していただくことが必要なのではないかと思うのでございます。  それからもう一つ重要な戦略兵器削減交渉についても、先ほど申しましたとおり軍縮、特に核軍縮は今日のわが国の直面する最大の課題であり、米ソ両国が全世界の期待にこたえてこの交渉の実質的な進展に努力することが強く求められているところであると思うのでございます。私は米ソ両国がそれぞれ抱える国内事情、御承知のようにアメリカも大変な失業を抱えておる、非常に困難な経済状況にあるというふうに聞いておりますし、ソ連の経済も容易でないというような様子を伺っておるわけでございます。そういうような点から考えましても、この交渉がうまく進展をするということを心から望んでおるわけでございますが、この戦略兵器交渉の現状につきまして、どういうような認識をされておるか外務大臣から伺いたいと思います。
  298. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) まずこのINFにつきましては、日本の立場は先ほど総理が申し上げましたように、アジアあるいは日本が巻き添えを食うのは真っ平御免であるということでありまして、いまわれわれが主張をして、特に私もヨーロッパに参りましたときにヨーロッパの首脳等に強く訴えました。あるいはまたシュルツ国務長官が来られたときにこの点について強く訴えたのは、このINF交渉によりましてソ連とヨーロッパの間に話がついて、そしてソ連がヨーロッパに配置しておるところの二百四十のSS20というものを削減をして、その削減をした分を極東に回すということになりましたら、日本にとっては大変な脅威であるわけでございます。したがって、そうした交渉もやはりソ連全土という立場で交渉してもらわなければならぬ、グローバルな立場で交渉してもらわなければならぬので、削減するとすればヨーロッパも極東も同時に削減をする、あるいは撤廃をすれば同時に撤廃をするということでなければ、これはもう世界の平和といいますか、真の軍縮交渉は実らない、こういうことで、強くこれは主張し続けてまいりました。ヨーロッパ諸国も、また同時にアメリカ自身も、この日本の立場というものは十分踏まえて、その立場に立って今後ともこの交渉を進めていくということを明言いたしておるわけでございます。  同時にまた、この戦略核兵器の交渉の現状とか問題点、見通しはどうかということですが、先ほど申し上げましたように、見通しがついてないということがいまの結論でありますが、この戦略核兵器の交渉は、レーガン大統領の交渉開始の呼びかけにブレジネフ書記長がこたえる形で八二年六月二十九日からジュネーブで開催をされまして、その後十二月二日より休会に入っておったわけでありますが、本年二月二日から再開をされております。  本件の交渉につきましては、米国は、最大の不安定要因となっている地上発射弾道ミサイルを大幅に削減することによって抑止力を強化をし、軍備のバランスを安定させるため、まず弾道ミサイル数及び弾頭数を制限し、その後投射重量を制限するといういわば段階的な削減をこの交渉において目指しておるわけですが、これに対してソ連は、ソ連及び米国の現有戦略核兵器全体についての数量的な凍結を実施し、次いで削減すること、及び同時に戦略核兵器の近代化の制限を実施するとの主張を行っておりまして、これは相当な隔たりがこの間にはあるわけでございます。したがって、話し合いは遅々として進んでいないわけでありますが、この戦略核の交渉につきましては、日本としてもやはりバランスのとれた軍縮が同時に実行されるという立場で、この成功あるいは実効ある会談の進展というものを心から祈っておるわけであります。
  299. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話がありましたように、非常に厳しい何というか世界的な平和へ向けての核戦力の縮減のための交渉というものが行われておるというのが実態であるわけでございます。先ほど中曽根総理は、この「新しい保守の論理」の中で、各国が武力を増強したりあるいは武力接触を深めて力で対決するような方向に行かないように、日本は国際機関、たとえば軍縮会議等で懸命の努力をするべきであるというようなことをお述べになりました。先ほど御答弁にありましたように、このジョンソン氏とお会いになったときのお気持ちを整理をしてお書きになっておるわけでございます。本当に人命にかかわるような重要な問題での削減交渉が行われておるわけでございます。そして、その当局者は本当に命をかけた厳しい交渉をやっておられるのだろうというふうに思うのでございますが、それではわが国としましてどういうような考え方で今後軍縮あるいは軍側管理、それを通じての核兵器の縮減交渉というようなものに臨まれようとしておられるのか、総理の御意見を承りたいと思います。
  300. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 私は、核兵器というものは地上から絶滅すべきものであるとかたく信じております。私自体が終戦の八月十五日に香川県におりまして、広島の原爆雲をはるかに臨み見てきた一人であります。火薬庫が爆発したのかと思いましたが、後で聞いたらそれは原子爆弾であったということでありました。その白い煙がまだ眼底に焼きついております。そういうことからいたしましても、ああいう残虐な大量報復兵器というものは地上から絶滅させなければならぬと、そう思っております。そういうような関係からも、私は、その本にも書いてありますが、われわれの理想は人類武装、民族非武装だと、それがわれわれの理想だと。ちょうど幕末、あのころ国民国家ができるころ、中央政府がみんな常備兵をつくって、そして鉄砲とか大砲をほとんど独占して集中した、あるいは都市計画が行われて迷路がなくなったと、そういうことで内乱ができなくなって、そして中央集権国家ができてきた。日本でも西南戦争で西郷さんがはかまはいた兵隊さん、武士を率いて、百姓出の鉄砲を持った兵隊に負けた、あれで国民国家が成立する一つの過程でもあったのだろうと思いますが、それと同じように、やはりああいう巨大な実力というものはどこかに集中管理して、そして、各民族は非武装で平和を享受する、そういうのが理想だと。ちょうどそういう国民国家成立の過程みたいな過程が人類社会に出てくるのかなという感じが原爆を見ましてそう思ったわけなのであります。しかし、現実はそういうところまでは一挙にいきません。したがって、各国家別に自分で自分の国を守るなり、あるいは連合して守るなりして、戦争を起こさない抑止力を維持して戦場になるのを防ぎ、戦争を起こさないように努力しているというのが現在の人類の姿であります。それは現実としてわれわれは肯定して、その中で最善を尽くしていかなきゃなりませんし、われわれのその理想の灯を消してはならぬと思うのであります。そういう意味において、核軍縮について米ソ巨大国及び各国が真剣に努力をしていただきたいと思っておりますし、われわれが側面において、そういう面でできることはまた誠意を持って努力していくべきであると、そのように考えておる次第でございます。
  301. 嶋崎均

    嶋崎均君 ただいま総理の軍縮なり、あるいは軍備管理についての考え方を伺ったわけでございます。わが国は御承知のように、日米安保体制を基軸に戦後の安定と平和を享受して繁栄を続けて今日までまいったわけでございます。今後ともこの体制を持続して、自由主義国家群の一員として安全保障の信頼性を高めていくということが必要であろうというふうに思うのでございます。今後とも、そういう意味で、核兵器の削減その他軍備管理の面につきまして十二分の御配慮を続けて御努力を願いたいと思うのでございます。  ところで、総理はレーガン大統領とお会いをされたわけでございますが、一昨年の五月鈴木・レーガン間の日米共同声明でうたわれました同盟関係は今回の訪米時においても確認されたと受けとめてよいのかどうかというようなことを確認をいたしたいと思うのでございます。というのは、とかく新聞の紙面によりますと、どうも軍拡、軍拡というような言葉が盛んに使われているというような現実を見まして、私たちは非常に心配をしておるわけでございますけれども、少なくともいまから何というか、防衛問題について話を進めてまいるにつきまして、その点についてきちっと確認をされてきたのかどうかということをまず最初にお伺いいたしたい。
  302. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 鈴木・レーガン共同声明は日本国総理大臣とアメリカ合衆国大統領の間の合意でございまして、しかも文書による合意でございます。したがいまして、これは国際約束でございますから、鈴木政権を引き継いだ私の内閣におきましても誠実にこれを履行する、こういう考えをはっきり持ち、かつ先方に対してもそれを意思表示してきた次第でございます。これは独立国家として誠実に国際社会に生きていく上について約束を守るということは当然のことであると思っています。
  303. 嶋崎均

    嶋崎均君 先ほどちょっと触れましたけれども、今回の総理訪米時における運命共同体あるいは不沈空母あるいは三海峡封鎖発言等についての報道についてはいささか言葉だけがひとり歩きをしておるというような感じ、印象がなされておるのではないかというような気持ちが私はするわけでございます。これらの発言はあくまでも従来からのわが国の基本的な防衛政策を踏まえた上で行われたものであり、また総理としてわが国の防衛努力は今後とも憲法及び基本的な防衛政策に基づいて行われるものであることを確認していただきたいと思うのでございます。その点について総理の御意見を承りたい。
  304. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 不沈空母以下の発言は形容詞であり比喩であるとお考え願いたいと思います。私は大正の中期生まれでございまして、どうも頭の中に入っている言葉が少ない人間で、引き出しの中にある言葉が少ないと思うのです。しかも、それも古い言葉ばかり多いと。もっとも社会党の飛鳥田さんでも壮烈な戦死という言葉を使ったり、あるいは大東亜戦争という言葉をお使いになったりする。これはやっぱりそういう時代に生まれた人間の証明なのであって、これはもう焼き場に行かなきゃ直らないものじゃないかというような感じもしておるのです。しかし、現代に合うように、また人間は進歩していかなきゃなりませんから、そういう努力はいたしますが、そういう大正中期生まれの人間のそういうしぐさであると、そういうふうにお考えを願って、自由民主党がかねて考え、歴代の内閣が考えてきた専守防衛、憲法を守り、そして軍事大国にはならない、そういう節度ある防衛力を持った、しかも日本が世界に貢献する道は、それは発展途上国に対する協力にあるのであって、軍事力ではない、それははっきり私たちは考えて言いたいと思っておるところでございます。
  305. 嶋崎均

    嶋崎均君 午前中からもいろいろ話がありましたわけでございますが、海峡防衛能力の整備についての政府の考え方をひとつ明らかにしていただきたいと思うのでございます。  これらの問題がしばしば議論になるのは、まず第一に、アメリカの要請によって通峡阻止作戦が行われるのではないか、その結果日本は戦争に巻き込まれるのではないかと、そういう不安がどうも一般の人が受けておられる心配ではないかというふうに思うのでございます。また、二番目には、対馬西海道のように他国と隣接しておるものについて自衛の範囲がどうなるのかといったような点に問題があるのではないかというふうに思うのでございます。これらの点を明確にして国民の不安を除去すべきであると私たちは思っておるわけでございます。  そこで、この問題につきまして防衛庁長官総理からお答えを願いたいと思います。
  306. 谷川和穗

    国務大臣谷川和穗君) 日本は周りが海に取り囲まれた国でございますので、いついかなるときにおきましても海の防衛の問題は常に大変大事な問題として考えておかなきゃならぬと、こう考えております。  その中で、海峡に関しての問題でございますが、私どもは、日本の防衛のために、あるいは海峡というものに対しての防衛の手だてを考えなきゃならぬことがあるかもしれぬ、こういうことを考えておりまして、その場合におきましてはできるだけ海峡封鎖というような言葉を使わないで、通峡の阻止とかあるいは海峡防衛とかいう言葉で表現をいたしておりますが、この一事をもって見ましてもおわかりいただけますように、いろいろな手だてをもってこの海峡の通峡については、日本防衛のために必要とあれば通峡を阻止したり、これを防衛していかなきゃならぬということを考えております。  その手だてといたしましては、航空機を使うこともありましょうし、潜水艦を使うこともありましょうし、水上艦艇を使うこともありましょうし、あるいは必要があれば、領海とそれから公海部分については機雷をもって通峡を阻止するということもあるいはあるかもしれない。ただし、それはそこを通峡いたします第三国だとかあるいは沿岸国に与える影響が非常に大きいものでございますから、日本が武力攻撃を受けたら直ちに海峡が封鎖されるとか、こういうものではございません。そういう作戦をいついかなる状態でとるかというのは、そういう状態が起こってきたときに判断をするべき問題でございます。  それからなお、巻き込まれるのではないかとか、あるいは仮にそれをやるとすればどのくらいの能力があるのだろうかとか、こういう問題につきましては政府委員からまとめて答弁をいたさせます。
  307. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本の防衛に関して、二つの有力な考えがいまあると思うのです。  一つの考えは、非同盟中立あるいは非武装中立という考え方です。同盟をしないで中立を守ろう、あるいは自分で自分の国を守らない、武装もしない、それで中立を守ろう、これが一つの考え方である。これはまあ一つの見識のある考え方であると思います。有力野党のお考えだと思います。  もう一つあるのは自由民主党の考え方で、自分で自分の国は守るべきだ、必要最小限の防衛力は持つべきだそうして戦争を起こさないためには起こさないだけの抑止力が必要である。相手が手出しができないだけの力をこっちが持っていなければ危ないから、手出しをさせないような範囲内の力を持とう。それは抑止力という考えで、それがある程度必要最小限の防衛力という考え。これが自民党考えです。  ところが、原爆を持ったり、航空母艦を持ったり、あるいは重爆撃機を持ったり、そんな人の国を攻撃するほどのものを持ってはいけない。これは日本国憲法の示すところであります。ですから、われわれは、自衛隊というやり方によって、航空母艦も持たない、爆撃機も持たない、あるいは長距離ミサイルも持たない、そういう日本列島防衛の範囲内の必要最小限の節度ある防衛力を持とうと、こういう考えをわれわれは持って、自衛隊をつくっているわけです。  しかし、それでも不安だ、相手が膨大なものをある程度持っておる。そこでアメリカと提携して、足りない部分はアメリカの力をかりよう。そうして相手が手を出すのを引っ込めさせる力を持っておろう。これが日米安保条約というもので、それで、日米安保条約によって、万一日本が侵略されるという場合には、アメリカは航空母艦も使うし、あるいは爆撃機も使うし、日本を守るためにはアメリカは全力を尽くすと言っているわけです。その中には核兵器による抑止力も入っているわけです。われわれはアメリカの核兵器のその傘の中にあって、相手の核兵器が日本に害を及ぼさないように抑止力をつくっている。これも安保条約の効能で、したがって、日本のような憲法を持っておる国の防衛としては、そういうアメリカとの提携による仕組みというものが有効であり、かつ一番安上がりだ。自分でそんな大きなものまで持つ、憲法を改正してソ連に対抗するような大きなものまで持つということになれば膨大なお金がかかるわけですから、そういうことはしません。われわれは現在の憲法の枠内において、そういう大きなものはアメリカに頼って、そのかわり日米関係うまくやっていこう。そういう意味で、日本は盾であってアメリカはやりである。そういう考えができるわけです。  私が同心円ということを言ったのは、盾ですから、円の中心の小さい方。やりですから、もう一回り大きいのがやりという形。だから同心円ということを言っておるんです。これは最も安上がりなやり方であると私は思っておるし、日本はうまいことをやっているとアメリカは腹の中では思っているし、ヨーロッパの国も思っておると思うのです。しかし、アメリカもそのために相当疲れてきて、相当お金がかかって、しかも相当お金がもう足りなくなってきた。財政上赤字がうんと出てきたから日本ももう少し考えてくださいよというのが最近のアメリカの情勢で、日本予算の範囲内で、憲法の範囲内で国民の御了承をいただいてある程度はやりましょうというのでつくったのが防衛計画の大綱というもので、日本人みずからこういうやり方で守るというのをつくって、これを実行いたしますと言ってきているわけですね。だから、それを誠実に実行して、しかも膨大な軍備や膨大なお金をかけない範囲内で安全を全うしていこうというのが私の考えであり、いままでの歴代の内閣や自民党考え方で、この考えは私の場合でも鈴木さんの場合でも変わっておりません。だから、私が突出したとか私が軍拡論者だと言うのは、本当に私の言っていることを聞かない方の言うことではないかと、そう思うのであります。  そういう意味におきまして、先ほど来いろいろ申し上げましたように、自由民主党やわれわれが考えていることは、いかに日本を戦場にしないか。もう戦争はこりごりだ。特に、戦争に行ったわれわれぐらい戦争の悲惨を知っている者はないし、あんな愚劣なものはない。われわれが生きている間再び日本を戦場にしてはならぬ。そう肝に銘じておるものなのでありまして、そういう点はぜひ御理解をいただきたいと思っておるところであります。
  308. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 総理大臣がすべてを言い尽くされたので……。
  309. 嶋崎均

    嶋崎均君 それでは、米艦艇の護衛問題について、政府は、自衛隊の行動の結果として米艦艇の護衛をするということはあり得るというのが従来の答弁であったように思うのでございますが、この二月四日の総理答弁と従来の答弁との間の関係がいろいろぎすぎすした議論になっておるというふうに思っておるわけでございます。この問題は、集団的な自衛権の行使につながるおそれもある論議としてマスコミ等の注目を浴びている問題であろうと思うのでございます。そういう意味で政府の立場を明確にしてもらいたいと思う次第でございます。  ついては、この場合に、集団的自衛権の行使とは何かという点もあわせて御答弁を願いたいと思う次第でございます。
  310. 夏目晴雄

    政府委員(夏目晴雄君) 一般的に国際法上使われている言葉だと思いますが、私から答えるのが果たして適当かどうかということは必ずしも定かではございませんが、便宜お答えをさしていただきます。  まず、集団的自衛権というのは、国際法においては、わが国に対する武力攻撃がないにもかかわらず、わが国と密接な関係のある国に武力攻撃があった場合にわが国に対する武力攻撃とみなして行動をすることを一般的に集団的自衛権というふうに言っていると、こういうふうに思います。  まず、そういうふうな形から集団的自衛権というものは定義されておりますが、私どもの自衛隊はあくまでも個別的な自衛権の範囲内でしか行動できない、そういうふうなことでございまして、たとえばわが国に対する武力攻撃があった場合に、わが国が米艦艇を護衛できるのは、まず大前提として、自衛隊と米軍が共同対処をしていることが第一の前提条件でございます。そうした中にありまして、米艦がわが国を防衛するために行動をしている。そうして、わが国はそれを守ることをもっぱら目的とすることではなく、個別的自衛権の範囲内で共同対処をしている中にあって、わが国を防衛するために行動をしている米艦を守ることはわが国の個別的自衛権の範囲内に入るだろうということで米艦の護衛ができる。先般の総理のお答えもそういった趣旨に基づくもので、これは、従来一貫して政府が御答弁申し上げている枠の中のお話であって、この点はいささかも変わっていないというふうに思っております。
  311. 嶋崎均

    嶋崎均君 武器供与の問題につきましては衆議院で十分論議がなされているところでありますので、ここで余り多くを聞くつもりはありません。ただ、政府は方針を変えたと言っておりますけれども、それがどう変わったのか。  それから、変わったにもかかわらず国会の決議の趣旨に沿うというのは、どうしてそう言えるのかということ。  さらに、日米相互防衛援助協定の枠組みの中で実施することによって歯どめがかけられておる、したがって平和国家としての理念は確保されているという説明をされておるのでございますけれども、その三つの点につきまして説明をいただきたいと思う次第でございます。
  312. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 国会決議との関係におきましては、先ほど官房長官からも答弁をいたしましたように、政府といたしましては、あの国会決議に違反をしていない。この武器技術をアメリカに供与する、いわゆる相互供与の道を開いたのは、安保条約の効果的運用という立場からこれを開いたのであって、その限りにおいては国会決議には違反していないというのが政府の立場でございます。  なお、武器技術をアメリカは供与するに当たりましては、いわゆる相互援助協定に基づいてこれを供与するということになるわけでございますが、相互援助協定は、御承知のように、国連憲章の精神を遵守しなきゃならぬ、すなわち、自衛権の範囲内でしか各国がこれを実施することができないということになっておりますし、同時にまた、第三国への供与等については、武器技術を供与した国の同意を必要とするということでもございます。同時にまた、武器技術を供与するに当たりましての、いわゆるそれに至る安保条約の効果的運用という立場、あるいは武器技術を供与するに至った、すなわち安保条約、日米の信頼関係というものを確立をして、抑止力を高めて、平和と安全を守っていく、こういうわが国の平和の立場というものを、これをより高めるという立場から武器技術を供与するに至っておるわけでございますし、MDA、相互援助協定によりましていろいろの歯どめをいたしておるわけでございますから、われわれとしては、この武器技術のいわゆる相互交流ということによって、わが国のよって立つところの平和理念、あるいはまた紛争の助長というものには決してつながるものではない。むしろ、平和を確保し、そしてまた紛争の助長を防ぐという意味においてこの措置は正しいものである、こういうふうに私たちは考えて決断をいたしたわけであります。
  313. 嶋崎均

    嶋崎均君 ちょっと官房長官がおいでになりませんから、前の二つにつきましては先ほどの矢田部先生の質問に対してお答えがありましたので省略をして、それでは次に進みたいと思うのでございます。  ここで、防衛費の問題についてお伺いいたしたいと思うのでございます。  五十八年度の予算編成につきまして、一般に防衛傾斜というようなことがしょっちゅう言われるわけでございます。しかし、この防衛費の問題につきましては、過去ずっと眺めてみましても、日本では非常に慎重過ぎるぐらい厳しい予算で経過をしておるような気持ちがするわけでございます。  そういう意味で、よその予算と対比をするというような意味で結構でございますけれども、たとえば社会保障の予算というのはどういうような推移をたどっておったか。また、防衛費の予算というのはどういうような推移をたどっておったかということを、たとえば昭和三十年、四十年、五十年あるいは五十八年というようなところで説明をして、総予算の中に占めるそれらの割合というものはどういう姿になっているかということについて御説明を願いたいと思います。
  314. 矢崎新二

    政府委員(矢崎新二君) お答え申し上げます。  御指摘の、まず防衛関係費でございますが、昭和三十年度の防衛関係費の総額が千三百四十九億円でございまして、これは一般会計歳出予算の中で一三・六%のシェアを占めております。それから、四十年度になりますと、防衛関係費が三千十四億でございまして、一般会計歳出総額三兆六千五百八十一億円の中で八・二%のシェアでございます。それから、五十年度になりますと、防衛関係費が一兆三千二百七十三億円でございまして、一般会計歳出総額二十一兆二千八百八十八億円に対して六・二%。五十八年度は、防衛関係費が二兆七千五百四十二億円で、一般会計歳出五十兆三千七百九十六億円の中で五・五%ということになっております。  これに対しまして社会保障関係費は、三十年度が千四十三億円でございまして、シェアは一〇・五%、四十年度が五千百八十三億円で一四・二%、五十年度は三兆九千二百八十二億円で一八・五%、五十八年度が九兆一千三百九十八億円で一八・一%というシェアを占めておるわけでございます。
  315. 嶋崎均

    嶋崎均君 ただいまのお答えで明らかなように、日本の防衛費というのは非常に慎重に取りわれて今日までまいったように思うのでございます。それだけに、その間、日本の経済の成長というのは非常に高かったわけでございますし、また、いまや世界の中で一〇%のウエートを占めるというような状況に相なっておるわけでございます。国際関係が非常に厳しくなって、ぎりぎりの自衛を保つために、ある程度の防衛費を増強していただきたいというような声が出てくるのは、ただいまの数字から見て理解できそうな気がするわけでございます。しかも、この間、非常に慎重に扱われてきたこと自体が、日本の自衛力というものをある程度進歩をおくらせたというようなこともないではないというふうに思うのでございます。われわれはもちろん防衛費が大きくなるということを決して望むわけではありません。  そこで、諸外国、特に、たとえば英、米、独三国ぐらいで結構でございますが、それらの防衛費の予算の実態というものがどういうことになっておるのか、防衛庁長官からお伺いしたいと思います。
  316. 矢崎新二

    政府委員(矢崎新二君) お答え申し上げます。  国防費につきまして国際的に比較する場合には、一般的に、イギリスの国際戦略研究所でつくっております「ミリタリー・バランス」という資料がございますので、それによりまして申し上げたいと思いますが、一番最新の資料で申しますと、一九八一年度の数字が出ておるわけでございまして、たとえばアメリカは一千七百六十一億ドルでございまして、GNPに対する比率が六・一%になっております。  それからイギリス、これは比較がドルベースに換算されておりますのでドル建てで申し上げますが、イギリスが二百四十二億ドル、GNP対比で五・四%、それから西ドイツが二百九十億ドルで、GNPに対します割合が四・三%ということでございます。この年の日本の数字をドルベースでミリ・バラで掲げてございます数字は百五億ドルでございまして、GNPに対する比率は〇・九%という数字になっております。
  317. 嶋崎均

    嶋崎均君 ただいまの答えから明らかなように、また先ほど来御説明申し上げたようなことでございますけれども、そういう実態できておりますけれども、どうも最近の予算、一般経費については、よそのものは行政改革その他を反映して縮減ムードにあるわけでございます。六・五%の伸びというのは実際はそう大幅な伸びではないはずでございますけれども、よその経費とのバランスから見ますと、非常に高いような印象を与えているというのが、私は実態ではなかろうかというふうに思うのでございます。  そういう点から考えますと、今後いろんな意味で防衛費の問題というのは大きな論議になっていくだろうと思います。予算査定におきまして、今後防衛費の扱いについて、聖域論というようなことがときどき言われるわけでございますけれども、そういう点についてどうお考えになっているのか、総理から簡単にお答え願いたいと思います。
  318. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 防衛費の問題につきましては、憲法の趣旨にもかんがみまして、必要にして最小限、しかも有効なものである、こういう考えに立って、効率のある査定をしていかなければならないと思っております。歴代の内閣はそういう精神でやってまいりましたが、中曽根内閣におきましてもそういう考えに立ってやっていきたいと思っています。
  319. 嶋崎均

    嶋崎均君 それでは、経済協力関係の問題に入りたいと思うのでございます。  安全保障政策を進めていくために、外交努力というものが非常に大きな役割りを示すということは当然のことであるわけでございますが、わが国の経済の力というのは、いまは、われわれ見ますと、非常に厳しい経済の姿ではありますけれども、一般的な情勢から判断しますと、日本は相当実力をつけた国だというふうに言われておるような状況になっておるわけでございます。そういう中で、日本は本当に外国から物を輸入し、輸出して、その差益の中で、いま享受しておるような相当高い生活水準を確保しているというのが実態であるというふうに思うのでございます。  そういう関係からしますと、資源とかエネルギーであるとか、あるいは食糧の問題というような問題につきましては、これを確実に確保していくということが必要であろうというふうに思うのでございますけれども、このGNPが約一割を占めるというようなわが国の状況から考えまして、発展途上国その他に対する経済協力というものは非常に大事な課題であるというふうに思うのでございます。したがって、日本の経済協力についての考え方につきまして、総理から答弁をお願いしたいと思います。
  320. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) わが国が平和国家として、また自由世界の第二位の大きな経済力を有する国としまして、世界経済の発展、さらにまた世界の平和と安定に貢献するという観点から経済協力を進める、こういうことにいたしておるわけでございますが、経済協力は南北関係を基調に進める。南北間に御案内のような非常に格差があります。そうした南北関係を基調にしてこれを進めるということでありまして、わが国は、この南北関係の根底にあるところの相互主義、相互依存あるいはまた人道的な考慮を二つの理念として経済協力というものを実施いたしておるわけでございます。  したがって、経済協力の目的は、開発途上国の経済社会開発、民生の安定あるいは福祉の向上を支援するということでございまして、あくまでも経済面あるいは福祉面、民生面が中心でありますから、軍事的な協力といったようなことは一切考えてないわけでございます。  これはわが国が、先ほど申し上げましたように、世界第二位の自由国家の経済的な力を持っておりますし、GNPも世界の一割という、それだけの力を持っておりますから、そうした国々に対する、特に開発途上国等に対する協力というものは、これは今後とも積極的に進めるべきである。ODAにいたしましても、過去五年を今後は倍増するということを国際的にも明らかにいたしまして、これを順次実施いたしておる段階であります。
  321. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話がありましたように、海外協力予算が重要であるということは御指摘になったとおりでございますけれども、どうも最近のこの予算、いろいろ努力はされておりますけれども、この経済協力の実績が残念ながら余り芳しい成績になっておらないというように数字的には見受けられるわけでございます。そういう意味から見まして、なぜこういうようにわが国の実績が減ることになったのかということをひとつあわせて検討していただいて、今後いかにしてその実績を充実させていくかというようなことにつきまして御説明を願いたい。
  322. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いまお話しのように、わが国の一九八一年のODAの実績は三十一億七千万ドルで、対前年比四・一%の減少となりました。その結果、わが国のGNPが名目で八・九%伸びたこともあり、ODAの対GNP比も〇・三二%から〇・二八%に低下をいたしたわけでございますが、これは二国間のODAが一五・三%と順調に伸びたのに対して、国際機関向けのODAが三二・三%減少になった、こういうこともその背景にあることを御理解をいただきたいと思うわけでございます。  この国際機関向け援助の減少は、国際開発金融機関への出資、拠出が、八〇年に前年比七八・二%という大きな伸びを示したことの反動もありまして、八一年においては前年比約四〇%減と大きく減少したことによるところが大きいわけでございます。これはいろいろの理由もあるわけでございますが、いま申し上げましたような、二国間は伸びた、しかし国際機関向けが減ったということで、こうした数字が出ておるわけでありますけれども、しかし、全体として見ればわが国の予算においてもそうでありますが、過去五年からこれから五年に対しては、これを倍増していくという基本方針にのっとって、予算が非常に厳しい中で、この予算については順調にこれを確保して進めておるわけであります。
  323. 嶋崎均

    嶋崎均君 今後ともそれらの国際機関との連絡も十分保ちながらその充実に努めていきたいと思います。
  324. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 原文兵衛君の関連質疑を許します。原君。
  325. 原文兵衛

    ○原文兵衛君 中曽根総理に一つだけお伺いいたします。  総理は、緑化運動とか湖沼対策など環境問題に意欲を持っておられるというふうに聞いておりますが、環境政策に関係の深い私としては大変ありがたいことだと思っております。  ところで、この地球の環境を考えますと、地球上の緑が失われつつあります。森林がおびただしく減りつつありまして、毎年千八百万から二千万ヘクタールの熱帯雨林が消滅する。このままいきますと、西暦二〇〇〇年には四〇%減少するのではないかと言われております。その反対に砂漠化が進みまして、毎年六百万ヘクタールが砂漠と化して、西暦二〇〇〇年には二〇%ぐらいふえるんじゃないかというふうにも言われておるのでございます。  これは一例でございますが、地球環境の悪化に対して世界の国々はいかに対応すべきか、また国際的にいかに協力すべきかを討議するために、昨年の五月、ナイロビで国連環境計画特別会議が開催されました。私はこの国際会議日本の首席代表として出席いたしまして、地球環境の現状と原因を、まだよく正確に把握されないところがございますものですから、この地球環境悪化の現状と原因を正確に把握し世界に向かってその対応策を提言してもらうための世界のトップレベルの人たち十数人による特別委員会の設置を提案いたしたのであります。この特別委員会の設置は、現在国連環境計画管理理事会におきまして継続審議になっておるのでございますが、だんだんと設置の方向で明るい見通しになってきていると聞いております。もしこの特別委員会が設置されることになれば、日本はその提案国でございますから、特別委員会への参加はもちろんでございますけれども、これが提案国として委員会運営に要する経費についてもその半額というような十分な負担を考えるべきだと思います。  このように人類共通の課題である地球環境の問題に日本が物心両面で積極的に貢献することは世界平和のためにもきわめてよいことであり、また日本のイメージのためにも大変よいことではないかと思うのでありますが、この点についての総理の御所見を承りたいと存じます。
  326. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 地球的規模におきまする環境の整備につきましては日本も重大な関心を持っております。特に地球上において砂漠化が進行しておる、アフリカにおいてそれが非常にはなはだしい現象であったのが最近アジアまで伸びてきているという話も聞いておりまして、非常に憂慮しておる状態でございます。日本といたしましても、二国間あるいは国際機関等を通じまして、この地球環境の保全については全面的に協力を申し上げる用意がございますし、努力もしておるところでございます。これは学問的研究の面もございましょうし、あるいは資金的援助という面もございましょう。ともかく地球全体の仕事として日本も相当程度の貢献をすべき責任があると考えております。  原さんが昨年五月十一日にナイロビにおきまして提案されました提案は、各国に対しても非常に印象を与えた由に承っておりまして、この特別の環境委員会設置というものはある程度前向きに検討されているように聞いております。ぜひこれをつくる方向にわれわれも外交機関その他を通じて積極的に努力してまいりたいと思っておりますし、またできました上は提案国といたしまして相当額の負担も考慮しなければいけない、そのように考えております。
  327. 原文兵衛

    ○原文兵衛君 どうぞよろしくお願いいたします。  関連質問を終わります。
  328. 嶋崎均

    嶋崎均君 お話によりますと、この四月の終わりから五月にかけてASEANを総理は訪問されるということを承っておるわけでございます。わが国がアジアの諸国との間に相互理解に基づく友好関係を発展させていくということは非常に重要なことであるというふうに思っております。また、アジアの一員としてわが国が積極的な外交を展開するための基盤をなす地域であるというふうに思っておるわけでございます。そういう意味で、来るべき総理のASEAN諸国訪問は、これらアジア諸国の関係強化を図る上で大変意義の深いものがあるというふうに思うのでございます。  そこで、まず総理はどういうようなお考えでASEANを訪問されるのか、そのお考えを承りたいと思います。
  329. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) ASEAN諸国と日本との関係は非常に重大な重視すべき関係にあると考えております。経済的にもあるいは文化的連帯関係におきましても、わが国とは密接不可分の関係にある友邦群でございまして、わが国の外交面におきましても最重点を置いておるところでございます。経済協力関係の費用を見ましても、大体七割がアジアでございますが、そのうち約三十数%以上はASEANの諸国にわれわれの協力が差し伸べられているという状況でございます。  私は、でき得べくんば、国会の御了承をいただきまして、四月から五月にかけてASEANの諸国を訪問いたしたいと思っておりますが、それは一つには、新任の日本国総理大臣としてごあいさつをいたしておきたい、それから現在の世界情勢、特にアジアの諸情勢の問題につきまして隔意なき懇談と意見交換をやっておきたい、それから日本と各国との相互にある諸般の問題につきまして話し合いをいたしまして、もしいろいろ問題点がございましたら、それを解決すべく努力してまいりたい、このような考えに立ちましてASEANを回り、またそれがサミット、ウィリアムズバーグのサミットに行きますにつきましていい勉強の材料になるということになれば、また望外の幸せであると考えておる次第でございます。
  330. 嶋崎均

    嶋崎均君 日本の地理的な位置から考えましても、このASEAN諸国との関連の重要性というのは非常に大きいと思うのでございまして、今後、日本の外交を進めていく場合に、ぜひとも十二分の配慮をしていかなければならないところであるというふうに思っておるわけでございます。このASEANの諸国の中には中進国も含まれており、また他の世界の発展途上諸国に比べまして、全体としては比較的良好な発展を遂げておるような気持ちもするわけでございます。  しかしながら、御承知のように、いま世界は同時不況というような厳しい姿の中にあるわけでございまして、これらの諸国においても例外なく、対外債務の問題とかあるいは貿易赤字の問題あるいは一次産品の市況の不況の問題というようなことに遭遇しておるというのが実態であるわけでございます。アジアの先進国、経済大国であるわが国に対する彼らの期待というのは、ある意味で非常に大きいものがあるように思うのでございます。それだけにある意味で大変な部面もあろうと思うのでございますけれども、このASEAN諸国の抱えるこれらの問題に対処していくお考えをお聞かせ願いたいと思う次第でございます。
  331. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) ASEAN諸国は、いまだ原料供給的な面の強い国々が多うございます。したがいまして、いわゆる一次産品等の問題については、世界不況の影響を受けまして財政的にもかなり苦労していらっしゃる国もあるやに承っております。あるいはインドネシア等におきましては、石油の値段の問題等につきましてまた御苦労していらっしゃるとやらに聞いております。そういうような経済問題を初めといたしまして、安全保障面におきましても、ベトナムの動向等についても、あるいはソ連や中国の動向等についても、ASEAN諸国は大きな関心を持っていらっしゃると聞いております。それらのいろんな問題につきまして隔意なき意見交換を行っていきたい。またわれわれが協力できる分野があれば、できるだけ誠意を尽くして協力申し上げたい、そのように考えております。
  332. 嶋崎均

    嶋崎均君 予算委員会でございますから、次に経済政策の問題について質疑を行いたいと思うわけでございます。  いま御承知のように、世界の経済状態というのは非常に厳しい姿になっておるわけでございます。先進諸国は二度にわたる石油ショックの後、厳しいスタグフレーションに陥って、物価問題あるいは成長率の低下の問題、異常な失業率の高さの問題あるいは金利高の問題、国際収支の問題というようなことで大変先進国も苦労しておるわけでございます。また産油国もいま盛んに議論がされておりますように、石油価格低下の問題をめぐって非常に厳しい姿の中にあるわけでございます。その他の開発途上国の中におきましても、御承知のように累積債務問題というものを抱え、それらに対応してそれぞれIMFなりガットなりというようなところに支えられてきたいままでの制度というものが大きく転換を遂げなきゃならないというような問題を抱えておるように思うのでございます。幸いにしてわが国の場合にはスタグフレーションに陥るというようなことはないわけでございますけれども、しかし周りの環境あらゆる経済的な指標の伸び率が非常に悪い、景気が底にあるというような実態にあるように思うのでございます。そういう意味で、これから世界全体の姿を考えてみましても、経済の伸展をどうして図っていくかということが重要な課題であるというふうに問われておるように思うのでございます。  そこで、まず第一番目に経済企画庁にお伺いをいたしたいのでございますけれども、いま世界の経済状態というのはどういう姿になっておるのか、またどんな問題があるか、これに対してどのような対策を講じようとしておるのか、そこまでなかなか議論はいかないと思いますけれども、少なくとも国際経済の現状、その問題点について御説明を願いたい。
  333. 塩崎潤

    国務大臣(塩崎潤君) もうすでに嶋崎委員が御指摘されたとおりの世界の経済状態だと思うわけでございます。先進工業国は御案内のように失業とインフレで苦しんでまいりました。しかしアメリカは真っ先にインフレ対策でまずまず成功をしたように見えるような状況でございますが、これから失業問題に取り組まなきゃならぬ。もう一つは財政赤字の問題に深刻に取り組まなければならないということで大変苦慮しているところでございます。したがいまして、利下げが思うようにならない、その影響が日本にあることも御案内のとおりでございます。  ヨーロッパ諸国はもう少しアメリカに比べて深刻であることはもう言うまでもございません。しかし、それでもイギリス、ドイツいずれもインフレの問題はもう四%から三%台に落ちてきて、私はこれから失業対策に乗り出すんではないか、こんなふうに見られるところでございます。学者の中には五十年前の世界経済恐慌は陥るのではないかというふうに構造的にいまの経済を見る人もいるようでございますが、これは私どもはとるべきではない。やはり第一次石油、第二次石油ショックを中心とする影響がいま循環的に世界先進国経済の中に忍び寄っているものであろう。これを克服するのはなかなかむずかしいのでございますが、一生懸命いま各国が努力しているところで、だんだん回復の方向に向かう、こういうふうに見るところでございます。  それの上に、また発展途上国の問題についてもいま嶋崎委員が言われましたとおり、産油国が石油の値下がりの問題で開発予算をどうするか、こんなような問題があることはもう御案内のとおりでございますし、非産油国は御案内のように累積債務で悩むところがある一方、第一次産品の値下がりで大変国際収支が悪くなるというようなことで苦労しているところでございます。しかし、何としても先進工業国が中心となって世界経済全体を回復過程に乗せるような、これはサミットで恐らくその問題が中心となりますが、協調した経済の回復並びに活性化の政策が望まれているように思われるところでございます。
  334. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話承ったけれども、どうもなかなか世界の情勢が厳しいという印象だけが残るような実はお話であったように思うのでございます。  しかし、いまどういう結論が出るのか、先ほどの通商産業大臣のお話によりますと、この七時ぐらいから会議が始まるという十三カ国の会議でございます。石油の価格問題というのが非常に大きな問題を投げかけております。いままで世界の経済をこういう姿にした大きな原因というのはいろいろあろうと思いますけれども、しかし、直接的なやっぱり契機をつくったのは、第一次及び第二次石油ショック、その影響であろうというふうに思うのでございます。そういうことから考えますと、少なくともこのカルテルによって価格をどんどん引き上げていくという姿がなくなりまして、これから価格の安定ということ、少なくとも引き下げということが問題になっておるというような事態を考えると、これを世界の経済を考えていく場合の重要なやっぱり一つのポイントとしてとらえていかなければいけないというふうに私は思っておるわけでございます。  そこで、なかなか御判断のしにくいところであろうと思いますけれども、石油問題の今日までの最近の動きにつきまして、通産大臣から御意見を承りたいと思います。
  335. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 動きというのは、最初それは英国が値下げをしたわけでありますから、北海原油を。それから後の経過は皆さん御承知のとおりであります。問題は、いま集まっている人たち、OPECに加盟していない石油輸出国であるメキシコも参加しているようでございますから、そこらのところ、債務超過等で苦しみ、あるいは採油のコストで差があるものですから、そこのところがなかなか一緒に入れてやって、新しい世界的な産油国の枠組み、すなわちOPECとは違ったものができ上がるかもしれない。しかしその場合には、お互いの、相互助け合いの問題等が中に入るでしょうが、私はそれもなかなかむずかしかろうと思いますし、問題は一斉に、それぞれの油種に応じての差はあっても、値下げが行われた場合に、わが国がそれをきっかけとして経済の活性化の方に全世界の経済を先進国の一員としても引っ張っていかなければならない。  でないと、どの国も保護貿易主義を排し自由貿易主義を堅持しようと言うのですけれども、実際にやる行動は、全部日本の自動車輸出を規制しろとか、ビデオテープを規制しろとか、そんなことばっかりで、実際は保護主義やっているわけですね。まあ日本についてこれないということが事実なんでしょうが、しかし、日本は資源買ってきて輸出をしなければ、自転車で走っている国ですからね、その行為をとめれば倒れてしまう国ですから、働きバチと言われようと何と言われようと、ウサギ小屋に住んでいると言われようと、われわれは働き過ぎであっても努力をしなければならない国民である、そのもとに今日の繁栄がある、そう思っております。  しかし、今日の現状は、やはりわれわれもプラント輸出等で考えておかなければならないことの教訓の一つですが、あなたも御指摘になったように、今回の真の原因は一次、二次石油ショックにあると言われた。そのことは産油国側から言うと、石油を戦略物資に使ったことによる、途中の世界経済の縮小とかなんとかというのは省略しますよ、ブーメランが自分たちの方に戻ってきて、そして少し売って高くすればいいという考え方に限度があることがわかったわけですね。それでいまどんどん上げていって、いつまで上げるんだろうという、そういうことに初めて自分たちがブレーキをかけなければやっていけない立場になったというそのブーメランの結果がみんなの値下げの方へと動いていくだろう、その原因になっているんじゃないか。恐らく今夜七時から集まられておやりになるでしょうが、結果は、イランは値下げに強硬に反対しておると言っておりますが、しかし、それが通るのか通らぬのか。そうすると、じゃ、三十ドルの大台を最後は踏ん張ってそうするのか、これはなかなかしかしむずかしい問題がある。一方においては、サウジアラビアのスポット物などは二十八ドルぐらいのものが現実にオファーしているような状態もありますからね、下がることは間違いないだろう。そして、下がっても三十ドルよりか上ということはないだろう。四ドルですね。もっと下がるのではないか。私どもの作業は、いまのところ六ドル下がった場合、代替エネルギーとの競合点である、接点と見られる二十五ドルになった場合というようなものを想定しながらやっておりますが、アメリカでは二十ドルを想定してシュルツ国務長官国会で言っておる。どこにその根拠があるのかよくわかりませんが、今回は人の不幸によっていま私たちが前途に光明を見出すたった一筋の光を、経済活性化の道を与えてもらったんですから、余り手の舞い足の踏むところを知らずということをしないで、相手国の痛みも感じながら、察してあげながら、経済再建の絶好の天啓をいただいたというつもりで受けとめたい、そう思っております。
  336. 嶋崎均

    嶋崎均君 事務当局からでも結構でございますが、ともかく三十ドルというようなところ、あるいはそれ以下のところか、まだ時間的な経過によっていろいろ動いてくると思うのでございますが、そういう値下がりが行われたときに、内外の経済に与える影響はどういうことが考えられるのか、またエネルギーをいろいろやっておりますけれども、省エネとかあるいは省エネの設備の問題とか、そういうような問題に対してどういう影響を及ぼしていくんだろうかというような点につきまして御説明を願いたいと思います。
  337. 山中貞則

    国務大臣(山中貞則君) 長期的に見れば日本は、これがいつまで続くのかは別にして、石油が値下がりをするという結果については大変ありがたいことである。結果的には大体貿易収支から始まって物価の低下に至るまで全部プラス要因が多い。しかしながら、諸外国との関係では債権国として、債務累積国の苦しみが一層増してきた場合の日本側のすでに貸してある負担分の問題とか、そういう面に目配りはしておかなければなりませんが、問題は、日本にとっては長期的にそれが続いてくれることが望ましいし、中期的であってもなるべく安定してくれた方がよろしい。その意味では、日本の経済運営は、よその国よりも高い依存度、すなわち九九・八%という信じられないほどの依存度の石油に対するわが国の立場でございますから、よその国の経済効果にプラスする面よりもわが国の効果が大きいはずである。  したがって、ここで気を緩めてもう代替エネも新エネも省エネも終わりだという考え方をとったら、いわゆるまたもう一遍カルテルが復活した場合のことを考えてみたら、そのときにはまた一から出直しというはなはだ一貫性のない、当然ながら九九・八%の依存度を持つ国として、いかなる環境においても代替エネ、省エネ、新エネというものに対する努力は営々として続けておいて、やがてその依存度も少なくしながら、そしてわれわれの英知の産物が日本の産業のエネルギーを充足していくということをここでやめちゃならぬと思うんです。  しかし、民間の方はやはり長期的な展望に立って投資しなければならないものもあり、採算の問題もこれあり、民間の方が恐らく一歩腰を引く姿勢になるおそれがあります。これについては、当然のことであっても国家のためにやはりその研究は努力してほしい。たとえば、きょう知ったわけでありますけれども、室蘭大学の先生たちが、波力発電ですね、これによって、強い波とか小さい波とかいうようないろんな変化があってなかなか実用電力に使えないのを、少なくとも試験的な設備を本当に室蘭の海の岸壁のところに取りつけが始まったそうでありますけれども、それを産業用電力にも供給できるようなものを開発したというのですね。これは恐らく大学の自力であって、国が直接補助などしていないものだと思うのですが、このようなものがとだえてしまう、日本人の恐るべき英知の結集というものが途中で緩んでしまうことのないように、これは一生懸命お願いもし、努力もし、ともにまた支え合っていきたいと思っております。
  338. 嶋崎均

    嶋崎均君 いろいろな影響等につきましては今後まただんだんに事態を踏まえて論議が行われると思いますし、総括質問でございますからそれらのことは後に譲るといたしまして、石油問題を中心にしましてできるだけこの問題、他人の苦しみをいい方へ転化するという、そういう気持ちだけじゃなしに、世界全体がこれを契機にして景気の上昇のために上手に使っていくという工夫を今後していかなければならないという、そういう前向きな受け取り方を私はしておるのでございます。しかしどうも新聞等を見ますと、こういう報道がされますと、景気が底にあるせいか、いろんな悲観的な話がよけい出てくる。  そこでお伺いいたしたいと思うのですが、いま開発途上国には債務累積問題というのが非常に大きな問題になってきておるわけでございます。その名前を挙げるのは恐縮ですけれども、メキシコとかブラジルとかアルゼンチンだとか、あるいは東欧の諸国とかいうような国々も非常に、産油国としてのみならず、そのほかの問題でもそういう問題が出てきておるというのが現実であるわけでございます。  昨年の暮れから、IMFとかあるいは国際決済銀行であるとか、あるいは国際的な協力の中でその対策がどんどん進められ、民間銀行等につきましてもそれらの対応を進めてまいっておるようでございますけれども、今後これらの問題に対して、国際的な金融不安が生ずるのではないかというような心配をしておる方がおるわけでございます。その点につきまして大蔵省の方から意見を承りたいと思います。
  339. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 確かに原油価格の下落ということは、言ってみれば、第一次石油ショック、第二次石油ショックのときに富が移転したのが、また今度は逆に富が移転してくるというわけでございますので、産油開発途上国の経常収支が悪化すると、こういうことにはまさにそのとおりになるわけでございます。  しかし、最近の金利低下に伴います金利負担の軽減とか、あるいは国内経済調整によって大体その分だけが吸収されるというようなことからして、国際金融不安を惹起するような事態にはメキシコ等もならないだろうと、こういう見方です。しかし、大口債務国の対外支払いの困難な問題を解決してそして混乱が起こらないようにするためには、やはりいまも御指摘がありましたが、債務国・債権国政府、そしてまた民間銀行、さらには、先日私どもも出かけましたIMF等の当事者がよく相談し合ってこれに対処する必要があると思います。いまのところ大きな不安が出ておるとは必ずしも思いません。  と同時に、国内の問題としては、民間銀行に対しての指導という点があるわけでございます。大蔵省は、これまでも実施してきた銀行の対外取引に関するガイドラインをさらに充実強化いたしまして、まずカントリーリスクに対する把握体制の強化でありますとか、外貨の中長期運用、調達比率の段階的な引き上げでありますとか、流動性外貨資産の保有の増大、このような新たなる措置を講ずることとして万全を期していきたいと考えております。
  340. 嶋崎均

    嶋崎均君 そこでひとつ総理に伺いたいと思うのでございますけれども、先ほど来、経済企画庁の長官からお話がありましたように、アメリカの場合を考えてみましても、最近どうやら自動車の売り上げが伸びてきておるとか、あるいは住宅の着工がよくなってきておるとかいうような姿で、徐々に経済の明るさが見えてきておるのではないかというような姿が出ております。また、政府の当局者もあるいはボルカーさん自身も、経済がどうもいい方に向いていきそうだと、特に石油の価格の引き下げというようなことをとらえまして、そういう方向にうまく転化をしていかなきゃならないというような考え方をとっておられるようでございます。  そういうように、いまやっと先進国の中でもいま底入れしている経済というものを、何とか上がりたいというような、そういうどん底から上がるというような状態にきておる、その時期にこの石油価格の問題が出てきておるわけでございます。  そういうことを考えて見ますと、この五月にウィリアムズバーグで開かれるサミット、またそれに向けていろんな準備がだんだんに進められておるのだろうというふうに思うのでございますが、こういうことをひとつ契機にしまして、何とか西側の経済というものを底入れをしていくという努力が積み重ねられなければならないのではないかというふうに思っておるわけでございます。  こういう点について総理のお気持ちを聞かしていただきたいと思います。
  341. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 日本の経済の情勢は必ずしも楽観を許しません。失業問題等につきましても統計が出たところでございます。あの統計の内容の真実性については検討を要するところがございますが、一応の警告として受け取らなければならぬと思っております。  しかしながら、最近の情勢を見ますと、在庫調整がかなり進行してきておる。    〔委員長退席、理事長谷川信君着席〕 為替が非常に強くなってきつつある、あるいは物価が非常に安定してきている等々の諸現象を見ますと、非常に材料としてはいい材料でございます。その上に石油の値段がいまのような情勢で安くなってきますと、たとえば試算によりますと、四ドル安くなれば約一兆二千億円という外貨が外国へ行かないで日本に残る、それだけ日本の方にお金がたまるという形になるわけで、景気のプラスの材料としては大きな材料になるわけであります。こういうようなものをてこにいたしまして、経済の実態をよく見きわめつつ、景気がじりじりじりじりいい方向へ向かうように政府としてもいろんな努力をしていくべきであると思っております。  財政が出動することは非常にむずかしい情勢でございますから、民間の活力を培養して、たとえばいわゆる規制を解除するとか、もういろんな面がこれはございます、住宅の問題にいたしましても土地問題にいたしましても、営業にいたしましても。そういう形でできるだけ民間が自由に活動できて、民間自体のイニシアチブで金もうけのチャンスが出てくると、そういうような機会をできるだけつくって、民間の力あるいは消費需要の力あるいは新しい設備投資の力というものをつくりつつ、景気が徐々にはい上がっていくように今後とも努力してまいりたい。石油が仮に四ドル下がるとすれば、試算によれば一兆二千億円も金が流出するのが妨げて日本に残るわけでございますから、これらは徐々に徐々に景気に響いていい方向に向かっていくし、向けていくべきであると思っております。
  342. 嶋崎均

    嶋崎均君 いま総理もそういうお気持ちでおられるので、これからいろいろ事務当局あるいは関係者の間でサミットのための準備が進められますけれども、どうか、そういうお気持ちでの対処の仕方をぜひ心からお願いを申し上げたいというふうに思っておるわけでございます。  いまお話がありましたように、現在審議されている五十八年度予算考えてみますと御指摘にありましたようになかなか財政が動きにくい状態になっておるわけでございます。国債費が八兆二千億というようなことになっておるわけでございますし、何というか、定率繰り入れの停止というようなことをもしやらなかったとすれば九兆六千億というような膨大な国債費がかかるというような状況に相なっておるわけでございます。また、そういう事態を踏まえまして、政府としましても、五十年度以来非常に高かった予算の伸び率、たしか一八%ぐらい伸びておったと思いますが、それを五十五年度には五・一%にする、あるいは五十六年度には四・三%、五十七年度は一・八%、ついに五十八年度は一般経費はマイナスにするというようなそういう努力を積み重ねて今日までまいられたわけでございます。しかし、それにもかかわりませず、歳出の方はどんどん削減をしてきたにもかかわりませず、現実財政の赤字というのは消えていない。消えていない大きな理由というのは、当初見込まれたような経済状態というのが予測したような経済状態が実現しなくて、そのあふりで歳入がどんどん減ってきたということに原因があるというふうに思うのでございます。  しかし、いずれにしましても、そういう状況でございますので、いまの日本の財政というのは、ある意味で諸外国の景気が悪くて、そのあふりを受けて日本の経済も異常に悪いと、そういう状態で出ている赤字だというふうに言えると思うのでございます。そこで、経常的な状態というか、景気が通常の状態に戻ったときに生ずるであろう赤字ということを想定をし、またそうなれば赤字の額というのは小さくなりますから、そうなれば逆に歳出面から削って予算の整合性を保つという道もあるいは出てくるのかもしれない。そういう恒常的な状態というものを見つけて問題を整理していかなければならないのではないだろうかというふうに私は頭の中で考えておるわけでございます。  そういう意味で、いまのこの財政の赤字の生じた理由というものについて、大蔵省の方から御説明を願いたいと思う次第でございます。
  343. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは財政赤字は景気動向によって生じますところの赤字と、そうしていわゆるいまおっしゃった構造的赤字とでも申しましょうか、その両方があるということは御指摘のとおりです。したがって、この現在の財政の抱えている赤字のうち、さればどの程度が経済情勢にかかわりなく生ずるいわば構造的なものであるかということになりますと、それを見きわめることはきわめて困難で、一概に仕分けをするということはむずかしいと思っております。  ただ、いずれにしても、この全体を見ましたときに、五十八年度予算で六四・一%というのがいわゆる国税収入の割合ということになっておりますので、収支を均衡させることは直ちに困難であるということだけに、財政改革というものはやっぱり、その仕分けするしないは別として、これに対して積極的に進めていかなければならない。やっぱり徹底した合理化、適正化を図っていって、そしてできるだけ早期に特例公債依存体質から脱却して、さらには公債依存度全体を引き下げていくという目的にじみちながらまっしぐらに努力を続けなければならぬというふうに考えております。
  344. 嶋崎均

    嶋崎均君 そこで、少し事務的にお聞きしますが、一ころアメリカで完全雇用赤字というようなことが議論をされまして、何というか、景気変動に伴って生じてくるところの循環的な赤字というものと、それから構造的な赤字というか、もう経済の中にある程度ビルトインされてしまった赤字と、そういうようなものを分けて事柄を考えられたことがあるわけでございます。同じような考え方で、これは日銀の去年の七月の資料の中にそういうようなことがいろいろと分析をされておるわけでございますが、最近大蔵省で赤字をいろいろ整理をしていく場合に、そういう観点から物を整理されたことがあるのかどうかお聞きしたいと思います。
  345. 山口光秀

    政府委員山口光秀君) ただいま御指摘の完全雇用予算という考え方は、数年前アメリカではやった考え方でありますが、五十七年度に経済企画庁が「昭和五十七年経済の回顧と課題」というのを年末に出しましたのですけれども、その中でその手法を使いまして、循環的な赤字とそれから構造的赤字とを分けて、四割が循環的な赤字、六割が構造的なものであるという試算をしておるわけでございますが、この完全雇用赤字というはじき方にはいろいろ前提がございまして、生産関数でございますとか、あるいは完全雇用水準をどう考えるかとか、前提の置き方によって非常に結果が変わってくるということでございますので、私どもはこういう考え方をとっておりません。ただ、ただいまの財政構造をながめてみますと、一般会計の収入の中で租税が占めます割合が六割合になっている。欧米各国は八割とかあるいは九割でございます。八割、九割でございますと、景気循環の過程に応じまして復元が可能な水準であろうかと思うのですが、六割ではちょっときついかなと、こう思うわけでございまして、これを改善していくことが一つの課題ではないか。その改善の仕方というのは当然歳入、税収のウエートを上げていくということでございますが、これは分母を小さくするということでもあり、分子を大きくするということでもあり、いろいろな考え方があろうかと思います。
  346. 嶋崎均

    嶋崎均君 いま御説明のありましたように、なかなか、どれが構造的赤字でありどれが循環的な赤字であるかということの分析というのは私たちもいろいろ考えてみてもむずかしいことが非常に多いように思うのでございます。しかし、そういう意味で、いまの状態というのは極端な状態である。しかし、そういう中で、中期試算で明らかなように、こんな大きな赤字ではどうにもならないというような判断をされてしまって、いや最後は増税ではないか、あるいはこれだけの節約というと、とてもつじつまが合わぬじゃないかと、非常に悲観的に物を考えるというのが恒例――そうなりやすいというふうに思うのでございます。しかし、私は、これから世界の経済というのはどういうぐあいに動いていくかよくわかりませんが、そういうことをよく踏まえて、今後どういう問題の取り組みをするかよく御検討を願いたいというふうに思っておるわけでございます。  そこで、先ほど防衛関係のところで質問をいたしましたけれども、社会保障費の伸びというのが非常に大きな問題になっておるわけでございます。御承知のように参議院では、衆議院予算審議をされている間の中で連合審査というものをやりまして、その中で国際貿易問題あるいは老齢者対策問題、さらに文教委員会では中学生の暴力問題というようなことを論議させていただいた経緯があるわけでございます。そういう意味で、すべてに触れるということはとてもむずかしいからなんでございますけれども、いま老齢化社会を迎えて、行き先どういうことになるだろうかということを大変心配をしているというのが現実だろうというふうに思うのでございます。  そこで、厚生大臣に、いま抱えておる厚生問題、特に年金問題について現在抱えている問題点について御説明願いたいと思います。
  347. 林義郎

    国務大臣(林義郎君) 嶋崎委員の御質問にお答え申し上げます。  高齢化社会というのをいま控えて、また非常な成熟した社会になってまいりました日本の状況というような中でたくましい福祉を進めていかなければ、福祉の国日本というものをやはり建設していくのが私たちの使命だろうと、こう思っております。そうした中で、福祉というものはいわゆる体の不自由な方々、それからお年寄りの方々、母子家庭のような御婦人の方々、そういった者を中心にして、こういった方々も生きがいを持って生涯を暮らせるということをつくっていかなければなりませんし、それは単に国がやるだけではなくて、また地方公共団体がやるだけではなくて、お互いが相互扶助の精神に立って助け合うということが必要であろうと、こう思うわけであります。そういった形で本年度の予算におきましても生きがい対策という形、また健康づくりというようなことを各方面にわたって進めてきたところでございます。特に老人問題につきましては総理からのいろんな御指示もございましたし、私としては、特にお年寄りの在宅ケアと申しますか、そういったことをやっていくということを一生懸命やるという形で重点的に取り上げたわけでございます。  医療の問題は、医療費がたんだんだんだん高騰してくるということでございますが、国民所得の伸び以上に医療費が伸びているということでございますが、やはり医療というものが非常によくなってきた。これは日本が世界第一の長寿国にもなりましたし、また乳児の死亡率も世界第一でございますから、これはやはりいままでの医療が果たしてきた大変な役割りだろうと、こう思うわけであります。同時に、逆に医療によりまして費用がかかってきているということをどう取り上げていくか、ここをいまから考えていかなければならない問題ではないかと思います。  嶋崎委員御指摘の年金の問題でございますが、これはいますぐに私はどうだこうだということが一般的な問題ではないと思います。もちろん、当面ございますような解決をしていかなければならないところの特殊な共済年金はございますが、一般的に申しますと、いますぐにという話ではございませんが、いまのような状態を続けていくならば、西暦二〇〇〇年あるいは人口のピークに当たりますところの西暦二〇二〇年ぐらいになりますと、掛金を掛けておられる方の加入期間も非常にふえていく。そういたしますと、そのとき、いまのままの計算でいきますと非常に大きな負担をしていかなければならない。そのときには支払う方の方が少なくて、もらう方の方が非常にふえてくるという問題もございますので、この辺をどうしていくかということをいまから考えてやっていかなければならないだろう。政府の方といたしましても、私は年金担当大臣ということで御指名をいただきましたが、そういったことを踏まえまして二十一世紀へ向かってどうしていくかということを真剣にいま考えるし、また本年には国家公務員共済、三公社の共済を統合する話、これは大蔵省でやっていただきますし、また地方公務員の共済の統合につきましても自治省の方でいま現在鋭意検討中でございます。来年度には厚生年金と国民年金との統合をやっていこうと。それから、さらにそれを一本化していくという形で話をまとめていきたいということで鋭意努力をしているところでございます。
  348. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまお話のありましたように……
  349. 林義郎

    国務大臣(林義郎君) ちょっと恐縮です。ちょっといま御指示がありましたので、恐縮でございますが、乳児死亡率が一番高いと言ったようですが、一番低いのでございます。一番世界に誇っていい私は数字だということで、発言を訂正させていただきます。
  350. 嶋崎均

    嶋崎均君 それではいいんですけれども、いま五十五年のこの人口統計で考えてみますと、先ほど御指摘のありましたような、日本の三十年ぐらいの先は大変な老齢化が進む。いま西欧諸国では大体六十五歳以上の人が一四ないし一五%程度のところでほぼ横ばいというような姿で保険の設計というものはなされておるわけです。ところが、わが国の場合は計算をやってみると二二とかあるいはそれを超えるかもしれないというような――もちろん三十年先でございますが、そういう事態が予想されておるわけでございます。そういうことになりますと、たとえばドイツの労働者年金の負担率を考えてみましても、一九%を超えておるというような事態から考えるとどえらい負担をしなきゃならぬというようなことに相なるのではないだろうかというふうに思います。その点についてちょっとどういう計算になるのか、ごく簡単に教えていただきたい。
  351. 林義郎

    国務大臣(林義郎君) 嶋崎委員の御質問にお答え申し上げます。  年金の保険料率は、いまお話がございましたように、だんだんだんだん――いまのところはそうでもございませんが、二十一世紀の初頭になりますと加入者が大体四十年ぐらい加入するという形になりますので、大体いまのままのシステムでいきますと、平均してもらっている方の標準報酬の八〇%ぐらいをもらうと、こういうことになるわけでございまして、もらう方は非常によろしいんですが、これは当然負担がそれはかかっていかなければならないと、こういうことでございますし、そのころになれば人口の高齢化というものが非常に進むわけでございまして、負担をする方と支払いを受ける方との比率が非常に――負担をする方の人の数が非常に少なくなってくると、こういうことになります。それで、いまお話のございました西独では一九%ぐらいと、こういうふうに言われておりますが、恐らくこれは日本のいまの制度に引き直して考えてみますと二三%ぐらいと、こういうことになってくるのではないかと思うわけであります。こんなことまでいくのが果たして負担をする側の現役の勤労者の方々の御理解が得られるものかどうか、私はやはりその辺が一番の大きな問題だろうと、こう思っておるわけでございまして、これもこういった問題につきまして将来にわたって年金の給付と負担のあり方についてやはり慎重に検討していかなければならない。これは国がどうこうというわけではないので、世代間の負担の話でございますから、たくさんの支払いを受けようと思えば一方たくさんの負担をしていただかなければならないと、こういうことでありますし、だれかが負担をする、だれかが支払いを受けると、こういうことでございますから、世代間でよくどこでやったならば両方の御納得がいただけるか、私は一〇〇%などというようなものはないのだろうと思います。だから、どこまでお互い同士が話し合いをして解決できるかという線をつくっていくことが必要なことではないだろうかというふうに考えているところでございます。
  352. 嶋崎均

    嶋崎均君 いまいろいろお話がありましたけれども、とてもその先の計算はいまの制度を前提にはできないぐらいの話に相なっておるのだろうというふうに思うのです。ただ、いま日本の老齢人口の六十五歳を超える人の割合というのは一〇%にちょっと未満というような姿に相なっておるわけでございます。そういう域に達するまでに少なくとも十年、十五年の日月があるわけでございます。そういうことを考えますと、いまから着実に制度を変えていくということになれば、その十年なり十五年の日月というのは非常に重要な私は意味を持っておるというふうに思うのでございます。そういう意味で、このごろ財政再建その他のことが言われておりますけれども、そういう点について十二分に検討をして対策を講じ、それを進めていくという努力をいまから始めるということが必要である。    〔理事長谷川信君退席、委員長着席〕 また、いまから始めますれば、そういう世代間不公平の問題も解決できるというようなことに相なるのだろうというふうに思います。そういう意味で、これから日本の財政を考えていく場合にいろいろ問題があると思うのでございますけれども、そういう財政再建の方向について大蔵大臣はどういうぐあいにお考えになっておられるのか、御示唆をいただければありがたいと思います。
  353. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 確かに中長期に物事を考えていかなきゃたらぬ課題であるというふうに考えております。いま嶋崎さんがかなり中長期の点について厚生大臣に御説明になったわけでありますが、私はそういう計算をしてまいりますと、たとえば先ほどちょっと例示されておりました社会保障費、昭和三十年度から五十八年度を考えてみますと、実に八十七・六倍になっているわけです。全体の予算の伸びは五十倍と、こういうことであります。そういうようなことを考えてみて、これからさらに、これは二十八年間にわたるわけですから、三十年先ということになりますと、これからの計画の中では租税負担率が間々目安にされますけれども、そのほかに社会保障負担もあわせて国民全体の負担のあり方ということとその時点における給付の水準というようなことを長期的に組み合わして考えなきゃならぬ問題であるというふうに考えております。
  354. 嶋崎均

    嶋崎均君 そういうぐあいに考えて努力をすることはもちろん必要なんですが、よく考えてみますと、私が大蔵省にいた時分の予算の規模と現在の予算の規模と比べてみますと、当時、私は四十四年予算編成した時分の主計局の総務課長でございまして「ムリナサクイナシイイヨサン」、六兆七千億をちょっと超えたところであったと思うのです。現在の予算はもう五十兆であるわけでございます。そういう中で、やはり財政というのは着実に充実をし、あるいは整備をされて今日来ておるように思うのでございます。そういう観点からしますと、財政というのは嫌なもので、毎年伸びないと経済成長にはプラス要因にならないものですから、何か非常にさびしい気持ちもするわけでございますが、そういう内容は相当行き届いておるということも現実である。そのことを見失ってはならないというふうに私は思うのでございます。これからいろいろな問題はあろうと思いますけれども、御承知のように行政改革というようなことが唱えられておるわけでございます。したがって、そういう問題をこの五十八年度予算の中ではどういうぐあいに取り入れていくか、また今後、そういう規模になった予算でございますから、どうしてうまく配分を考えていくかというようなことが問われておるように思うのでございます。これらの点につきまして、大蔵大臣なりあるいは総理の御意見があったら聞かせていただけたらありがたいと思います。
  355. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 確かに、いまかつての経験を通じての数字のことをおっしゃいましたが、私が国会に出ましたときに、佐藤大蔵大臣のときでございますが、「イッチョウヨイクニ」という予算を覚えておけと、一兆四千百九十二億、その孫弟子が今日「ゴジュッチョーミンナデクロウ」と、こういうようなことですから、大変に膨脹したものだなあと思います。おっしゃるとおりに、昭和四十九年、あの第一次石油ショックの際に、いわば福祉元年ということから、いま振り返ってみますと、かつて追いつけ追い越せと言っておった欧米先進諸国にそれぞれの施策、制度では大体追いついたと、あるいは追い越したともいえると思うわけであります。そういう考え方の上に立って、これからはやはり長期的な点を踏まえながらも、しかも内容的には必ず必要であるというものに対しては絶えず重点配分をすると同時に総体的にはやはりこの分野は個人、企業に負担してもらう分野だ、これは自治体の分野だ、これこそまさに国が責めを負うべき分野だと、そういう分野調整などを本気に考えていく時期だなあと、ただ、この経済成長から見れば、予算規模は大きいにこしたことはないという、そういう一つの精神的圧力というものを感じつつも、やはり総体的に整合性のとれた、しかも背伸びをしない予算というものを考えていかなきゃならぬなと、こういう感じでございます。
  356. 嶋崎均

    嶋崎均君 そこで、次に財政投融資の問題についてちょっと触れてみたいと思うのです。  ことしは財政投融資の計画も非常に伸び率が悪いという姿になっておるんですけれども、これから将来を考えていきますと、たとえば預金の増加率というのはどんどんどんどん伸びていくというような姿でもなかなかなさそうだ。もちろん貯蓄率は非常に高いから、財政が非常に大幅赤字で、それが金利引き上げの要因になるという可能性が非常に多いし、アメリカでは現にそういう事態になっておるにもかかわりませず日本は安定をしておりますけれども、しかしそういう面もなかなか窮屈である。また、この関連の厚生関係のいろんな積立金、なかなか伸び率もこれから緩んでいくというような形になっていくだろうというふうに思います。  こういう事態を踏まえまして、中長期的に財政投融資の将来というものについてどのようにお考えになっているか、事務当局でも結構ですから御意見を承りたいと思います。
  357. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 御指摘のとおり、財投の運用につきましては、そのときどきの社会的、経済的要請に即応しながら、重点施策への資金の重点配分に努めていくということは論をまたないところでございますが、郵便貯金が前年度同額と伸び悩むなど、きわめて厳しい原資事情のもとで、財投計画の規模を前年度比二%増という低い伸びにとどめたわけです。しかし、住宅、道路、中小企業、資源エネルギー、経済協力、こういう分野には重点的、効率的な資金配分を行ったところでございますが、今後の財投編成に当たりましても、郵貯、年金の伸び悩み等、厳しい原資事情が予想されます中で、やはりいま山中大臣からも、いわゆる代替エネルギー等の御指摘がございましたが、そういう対策、中小企業対策、そういう根強い財投資金需要とか、また一方、国債引き受けの問題もございますので、資金の重点的、効率的運用に努めていかなければならぬ。なお、臨調におかれても、財投のあり方についていま議論がなされておるというふうに聞いておりますので、それを大いに関心を持って見守っておるところであります。
  358. 嶋崎均

    嶋崎均君 話が急に変わって恐縮なんでございますが、特例公債を発行するという問題、借りかえの問題について、ちょっと御質問をいたしたいと思うのでございます。  こういう問題が議論になってから、どうも公債を借りかえするという話、極端な話は、借りかえするといま持っているのが借りかえで金がもらえないのじゃないかというような極端な議論も一部あるように思うのでございますが、この点につきましては、これは間違いなしに借りかえのときには現に公債を所有している人はもらえるんだろうというふうに思いますが、そういうことをひとつ明らかにしていただきたい。  それから、国債が現金で償還されるのであれば、借りかえとは一体何なのか。特例公債の新たな発行とどこに違いがあるのか、わかりやすくその点も御説明を願いたいと思います。
  359. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) これは、私の人間に対する信用がないのか、借りかえ問題議論されましたら、私のところへも、公債は現金で返らないものですかという質問がありました。まことに不徳のいたすところだと思っておりますが、明確に申し上げます。  国民の保有する公債について満期が到来した場合、個々の保有者に対し、全額現金で償還することは当然である、このように申し上げるべきであろうと思っております。  その償還財源をどのような方法で調達するかということとは全く別の問題でございますので、このことだけはこの際明確にしておくべきものである。ましてや、強制的に借換債を取得させられるなどということは絶対ないことであるということをこの際申し上げておきます。
  360. 嶋崎均

    嶋崎均君 そういうことになりますと、要するに公債の借りかえ問題というのは、現実それを望んでおるわけじゃありませんけれども、五十九年に何というか、特例債をなくしようというようなことで努力をやってきましたけれども、一般の公債につきましての論がありますように、これを新発債で処理をするか、あるいは借換債で処理をするかということは、経済的にそんな大きな差異のない問題であるというふうに私たちは思っておるわけです。それは、もし仮にそういうことになったことを前提にしての話でありますけれども、そういう点につきまして何というか。今後借換債の発行という問題、それと新発債の発行との絡みにつきまして御説明をいただきたいと思います。
  361. 山口光秀

    政府委員山口光秀君) 借換債の問題でございますが、政府はただいま借りかえをしないという方針をとっている。現に今国会にお出ししております財政特例法におきましても、そういう前提に立って規定を設けております。それはそういうことを、そういう態度であるということは念頭に置いていただきましての話を申し上げます。  御質問の要旨は、特例公債の償還財源をどうするのかということになろうかと思うわけです。それは衆議院の方でも御議論がございまして、いずれ大量に特例公債の償還を行う時期が来るので、そのときの財源はどう考えるかということだったわけでございますが、それを生み出すためには、結局のところ歳出カットか、負担増か、公債発行、その公債発行の一形態として借換債というのがある。このいずれかであるということを御説明申し上げたわけでございます。公債発行に求めるということは、結局、その時期になっても赤字公債を出している場合の話になろうかと思うわけでございます。そういう赤字公債を発行していながら、赤字公債の償還を行うというそういう状態に追い込まれました場合に、新規の財源債でやるか、借換債でやるか、ここがどういう差異があるのか、こういうお話であろうかと思うわけでございます。新規の財源債でやりますということは財政の形といたしましては一般会計の負担でやるということになります。一般会計の予算におきまして授権をいただきまして発行するということになろうかと思うわけでございます。それから、借換債でやります場合には国債整理基金特別会計法に基づきまして借りかえの権限がございますので、それに基づいて発行することになる。したがって、予算形式あるいは予算技術的にはそういう差異があるわけでございますけれども、それじゃ経済とか、あるいは金融に及ぼす影響はどうかということになりますと、そう大きな差はないのではないかというふうに思われます。
  362. 嶋崎均

    嶋崎均君 いま借りかえの問題についてお話し申し上げましたけれども、結局そういうことは望ましいことじゃないのですけれども、結局特例公債を発行しながら特例公債を償還をしなければならぬ。そういう事態になったときの技術的な問題、またその性格について説明があったわけでございまして、これらの問題については、そういう性格のものであるということを十分ひとつ徹底をして、余り、何というかそのこと自体が政治的な論議の対象になるというようなことがないように、十分の指導をしておくことが必要なのではないかというふうに私は思うのでございます。  ところで、最近大蔵大臣が直間比率の問題につきまして、臨時行政調査会の答申の中にもありますけれども、それを直していかなきゃならないのではないかとか、あるいはEC型の付加価値税を導入をするという問題につきましても、従来の決定にありますような一般消費税(仮称)というものの取り扱いに絡みまして、そういう問題を今後どういうぐあいに考えていくのであろうかとか、あるいは少額の非課税貯蓄の問題、そういう問題を論議をするのにつきまして、そういうこともいろいろ広般な意見を交えながら論議を進めていかなければならないというような、そういう立場でいろんな発言をされておるというふうに私は理解をしておるわけでございます。それらの問題が決定的にどういう方向をとったかというようなことにはなってないというふうに理解をしておるわけでございますが、これらの点につきまして、どうもそのことが、中曽根内閣は増税を考えておるのじゃないかというようなことと結びつけて新聞等に報道されておるのは、非常に私残念だというふうに思っておる次第でございます。先ほど申しましたように現在の財政というのは非常に国際経済の厳しい中で、特殊な事態で大幅な赤字が出ているという現実があるわけでございます。将来を考えていろいろ検討を進めていくということはもちろん必要であろうというふうに思うのでございますが、これらの問題についての大蔵大臣の考え方を端的にひとつ御説明を願いたいと思います。
  363. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 私が直間比率問題につきまして予算委員会、大蔵委員会の質問に答えてお答えいたしましたものが、いろいろな角度から一部新聞で論評されておったことは承知をしております。直間比率の見直しというものを具体的に検討しておることもありませんし、また御指示を受けておるということもございません。ただ私が申しましたのは、私が前回大蔵大臣をしておりました五十四年当時は、直間比率という言葉そのものが直ちにいわゆる一般消費税(仮称)の導入につながると、こういう雰囲気でございました。それがその後、税調答申では課税ベースの広い間接税、税体系の見直しが今後の検討課題だというふうに言われ、また臨調でも直間比率の見直しを検討すべきであるとこう言われておる。そういうようなことからして、またよく各党の方と議論しましても、この問題についてそれぞれの見解をお持ちになりながら議論も行われておりますので、幅広く勉強するという上での環境は整ったんだなあ、こういうことを素直に申してきたわけです。  ただ直間比率というのは、結局あらかじめそれこそ最初に比率を定着さして決めるべきものでなく、これまた結果として経済情勢、景気動向等に左右されて動くものでございますから、強いて言えば税体系の見直しという言葉の方が適当かなと、こういうある種の反省に立って、そういうことも考えてみたわけでございます。したがって、EC型付加価値税等議論されて、一般消費税(仮称)という問題が起き上がってきた経過からいたしまして見ても、ただ、これから税制というのは、広く国会の問答を通じたり、それを御報告申し上げる政府税調等で御審議いただく場合に、この税金は御審議の対象外にしてください、これを審議してくださいとか言うべきものではなく、そういう意味においては、そういう質問がございましたので、EC型付加価値税とかいうようなものも、学問の段階において否定するものではないというふうに言っておるわけでございます。  そうして、もう一つはマル優制度について、これは御案内のように、私が大蔵大臣でございましたときに、グリーンカード制度を本院でも御可決をいただきまして、そして今度は私がまた大蔵大臣といたしましてこれの凍結の提案をしておるわけでございます。したがって、三年間の凍結期間に利子配当課税制度のあり方については、国会での議論を踏まえて税制調査会で検討していただくということになっておりますので、その際、あらかじめマル優制度は、これは議論の外に置いてくださいとかいうようなのは、総理大臣の諮問機関であって幅広く税制のあり方を審議していただく税調に対しては非礼であるとも考えますし、これをらち外に置いて議論してくださいというような非礼なことを申し上げるつもりはありませんというふうなお答えをいたしたわけでございます。しかし、目下具体的な考え方を持ち合わせておるわけでもございませんし、マル優廃止問題を検討しておるという現状も全くございません。
  364. 嶋崎均

    嶋崎均君 家庭の奥さん方は、どうも少額貯蓄非課税というのがパアになるんじゃないかということに大変御心配をいただいておるようでございます。けれども、いまのお話聞きますと、そういうことを廃止決定したということがないんだということで受け取っておきたいと思います。  それに関連しまして、最近の租税負担率ですね、このことについてちょっとお聞きしたいと思います。どの程度になっておりますか。
  365. 梅澤節男

    政府委員(梅澤節男君) 租税負担率でございますが、ただいま御審議いただいております五十八年度の見込みでございます。国税、地方税、これ地方税の分につきましては若干の推計が入りますが、二三・七%でございます。現在、実績が判明いたしておりますのは、五十六年度二三・六%、五十年代を通じまして若干上昇の傾向にございます。
  366. 嶋崎均

    嶋崎均君 いま御説明いただきましたように、近年、当初で見込んだものよりも相当租税負担率が動いてきているというのが実態であろうというふうに思いますので、これをとらえてリジッドな目標として租税政策を運営するということは、どうも余り私は適当なことではないんじゃないかというふうに思っておるわけでございます。従来から政府の経済計画の中で租税負担率の目安が設定されている例がありますけれども、ただ、今後非常に変動する経済情勢の中で、その取り扱いについては従来のやり方にとらわれず、より弾力的かつ慎重に考えていくのが必要なのではないかというふうに思う次第でございます。  この問題は、将来の成熟化社会において経済の活力が失われないようにするためには、国民の負担水準についてどう考えるべきかという視点でとらえるべき問題であろうというふうに思うのでございます。したがって、何か租税負担だけを取り出すのではなしに、社会保障の負担も合わせて、もっとより大まかな、より全体的な国民の負担のあり方といったベースで物を考えるべきものであるというふうに思っておるわけでございます。その点につきまして、大蔵大臣あるいは経済企画庁長官のお考えをお伺いしたいと思います。
  367. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) お答えいたします。  かつてのあの七カ年計画の中に二六カ二分の一という数字がございました。私どもその二六カ二分の一という数字についていろんな角度から議論してそれを確定した場合、非常にお答えにくかった点もたくさんございました。今日もちろんそこまでいっておりませんし。したがって一つの考え方として、臨調の第三次答申の基本答申の中にございますように、「租税負担と社会保障負担とを合わせた全体としての国民の負担率は、現状(三五%程度)よりは上昇することとならざるを得ないが、徹底的な制度改革の推進により現在のヨーロッパ諸国の水準(五〇%前後)よりはかなり低位にとどめることが必要である。」というような御指摘がなされておることもございます。したがってやっぱり私は、租税負担率そのものが大変経済情勢等の推移によって変動しますものでございますので、分母も分子も動くものでございますので、社会保障負担も合わせたより全体的な国民の負担のあり方といったお考えも、臨調の答申を見ましても一つの貴重な見識ではないかなあというふうに思っております。ただ、経済審議会の方では幅広くいろんな角度から御検討が行われるのではなかろうかというふうに考えております。
  368. 嶋崎均

    嶋崎均君 今後そういう点については十分慎重に取り扱っていかれた方がいいのではないかというふうに思います。  それに関連しますのですが、ことしは所得税法の改正がなかったものですから余りこの問題が取り上げられなかったわけでございますが、税務行政の執行について、なかなか定員がふえるわけでもないし、この制度をもっと効率化、合理化をしていくというようなことが今後必要なのではないかというふうに思っておるわけでございます。たとえば一千万を超えたものは必ず申告をしなけりゃならぬというようなこととか、あるいは申告書公示制度をずっと昔のままで据え置いておるとか、あるいは法定資料の拡大をもっと上手にやるとか、あるいは国と地方を通ずる税務関係をどうしてうまくやるとかというようなことをひとつぜひ検討すべきではないかというふうに思います。  この点について大蔵大臣の意見を伺いたいと思います。
  369. 竹下登

    国務大臣(竹下登君) 所得課税につきまして、国民の間から税負担の実質的公平を確保することが強く要請されておる、納税環境の整備はきわめて重要な課題であると、それは共通認識でございます。  そこで、制度面における対応といたしまして、税制調査会に昨年の六月、申告納税制度特別部会、これが設けられて審議が行われているわけでございます。昭和五十七年十二月の税制調査会の答申では、「所得課税の適正な執行を担保するための制度上の措置について幅広く検討し納税環境の整備を図る必要がある。」として、「「申告納税制度特別部会」において、そのための諸方策につき納税者の実情を十分勘案しつつ具体的な検討を進めている」というところでありまして、早い機会にその結論を得ることをいま期待しております。  それから執行面における施策といたしましては、青色申告者の育成、充実など執行面における納税環境の整備を図って、資料、情報の収集に努めて、高額、悪質重点の調査を中心に効果的かつ効率的な税務調査の実施に一層努力して、課税の公平を期したいと、こういうことを考えております。  それから、例の申告書公示制度の公示額の引き上げ等の問題でございます。これはまさに昭和四十六年の税制改正において千万円に引き上げられて以来据え置かれておりますので、人数も大変増加しておりまして、その意味において、機会をとらえてその引き上げを図ることも考えられますが、一方では、制度の趣旨等にかんがみて軽々に金額を動かすべきではないという議論もあるわけでございますので、いずれにいたしましても、この問題につきましても申告書の公示限度額の引き上げという問題でありますだけに、税務執行の事務負担の軽減、効率化の観点を踏まえて、両論ありますのをこれからひとつ検討をしていこうという段階でございます。
  370. 嶋崎均

    嶋崎均君 もう時間がありませんで、幾つか問題を残して終わりますけれども、最後に一つお聞きいたしたいと思うのでございます。  この牛肉とオレンジの問題というのが日米交渉の中で非常に重要な問題であったわけでございます。ところで、この牛肉につきましては日米経済摩擦のシンボルの一つであったとさえ思うのでございます。牛肉の生産の合理化には生産者も努力しているが、米国やあるいは豪州等と土地条件が非常に違っておりますので、その輸入の自由化はなかなかむずかしいと、また総理もそういうことを明確にレーガン大統領に自由化することが困難である旨おっしゃっていただいたわけでございます。が、一方国民の間には……
  371. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 嶋崎君時間が参りました。
  372. 嶋崎均

    嶋崎均君 より安い牛肉を求める声も非常に強いわけでございます。したがって、今後牛肉については、国内生産者の合理化を進めつつ牛肉の安定供給を確保するとともに、より安い牛肉を求める消費者の声にもこたえる必要があると思います。総理及び農林大臣のお答えをお願いしたいと思います。
  373. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 牛肉、オレンジにつきましては、アメリカへ参りましたときに先方と話をいたしまして、自由化に応ずることはいまのところはできませんと、この問題は静かに事務的に専門家同士で話し合うことにいたしましょうと、そういうことで、そういう形で進行させるようにいたしております。  それから、日本の牛肉の値段につきましては、肉用牛あるいは酪乳牛等の活用によりまして非常な努力が続けられて、大体ECの値段の七割程度まで接近してまいりました。もう一息というところでございますが、この肉用牛と酪農関係の乳牛とどういうふうにコンバインしていくか、これから努力してもらっているところであります。  ところで、牛肉の値段に対する御要望が非常に強うございますので、私先般来農林大臣にお話しいたし、農林事務次官に話して、肉安デーのようなものを前にやったことがあるが、一月のうち二十九日がニクだから二十九日肉安デーと、そういうことでちょっと頭を使ってやれないかと勉強をお願いいたしました。最近農林省側におきましてもそういう対応の準備ができたとか聞いております。  農林大臣から具体的に御説明願うことにいたします。
  374. 金子岩三

    国務大臣(金子岩三君) ただいま総理からお話がありましたので、補足をいたします。  私は先般、総理から呼ばれまして、もう少し肉の安い物をひとつ食わせるようにしたらどうだという御意見がありました。早速省内で協議をいたしました。大体成案を得まして、内容は大体充実したものができました。きょう畜産局の方で新聞に記者会見でいろいろ説明しとるはずと思いますが、いままで安売りデーがありましたけれども、それとは変わった徹底したいい肉を安く供給するという方向でこれに取り組んでおります。
  375. 嶋崎均

    嶋崎均君 これで終わります。どうもありがとうございました。(拍手)
  376. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 以上で嶋崎均君の質疑は終了いたしました。     ─────────────
  377. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) 引き続き派遣委員報告を聴取いたします。大蔵大臣、農林水産大臣通商産業大臣、運輸大臣、労働大臣、自治大臣、行政管理庁長官及び経済企画庁長官にはお残り願いたいと存じます。  総理大臣以下他の閣僚は御退席くださって結構でございます。  本委員会は、昭和五十八年度総予算案審査のため、北海道、愛知県及び福岡県にそれぞれ委員を派遣し、去る二月二十五日各地において同時に地方公聴会を開催し、つぶさに現地の実情を聴取してまいりました。  それではその概要について御報告を願います。  まず、札幌班につきまして、藤井裕久君にお願いいたします。藤井君。
  378. 藤井裕久

    藤井裕久君 時間の関係もありますので早口で報告いたします。  予算委員会地方公聴会札幌班につきまして御報告申し上げます。  札幌班は、土屋委員長、関口理事、大川理事、立木理事、北委員、瀬谷委員、対馬委員、そして私藤井の八名で構成され、二月二十四日に日本軽金属苫小牧工場、王子製紙苫小牧工場をつぶさに視察し、翌二十五日、札幌市において公聴会を開催してまいりました。  以下、公述の要旨を簡単に御報告申し上げます。  構造不況の実情と雇用問題につきましては、北海道経済連合会専務理事池田英三郎君、全北海道労働組合協議会議長小納谷幸一郎君、北海道産炭地域振興対策協議会会長中田鉄治君から意見を聴取いたしました。  まず池田公述人からは、北海道の鉱工業生産は昭和五十年を一〇〇とした場合、五十七年はわずかに一〇七と、全国平均の一四八に比較し著しく低い。加えて公共事業費の頭打ちによって景気は一段と悪化しており、企業倒産件数は再び増加傾向を示している。特に室蘭市は鉄鋼産業に依存する典型的な企業城下町であるが、打ち続く需要不振から高炉休止に追い込まれ、多くの直接工が余剰となっているほか、下請、孫請、輸送業者の仕事が大幅に減少している。かかる状況下における当面の対策としては、室蘭白鳥大橋や高速自動車道等の着工を急ぐとともに、特定不況地域中小企業対策臨時措置法にかわる法律の制定を急いでほしい。  北海道経済の今後の課題としては、二次産業の振興のために、基盤整備の推進を図るとともに、先端技術産業の誘致を進めていくことが重要であるが、いずれにしても北海道開発の総合的推進には北海道開発庁の存続は不可欠である。  また政府への要望としては、内需拡大策として、ぜひ都市再開発事業の振興に力を注いでいただきたい等の意見が述べられました。  次に、小納谷公述人からは、今日北海道経済は一段と不況色を強め、雇用情勢はますます悪化してきている。有効求人倍率は全国平均の〇・六八に比較し、北海道はわずかに〇・二三と極端に低い。また、三十二万人にも上る北海道の季節労働者は北海道全労働者の一五%に相当し、実に六人に一人の割合となっている。こうした季節労働者の収入は平均百七十五、六万円程度にすぎないが、これも最近は公共投資の減少により雇用期間が短縮化されており、公共事業の季節的配分をお願いするとともに、冬期工事に必要な機械購入の補助など、政府において特段の配慮をお願いしたい。  また、若年労働者の就労率が著しく低下しており、昨年の新規就職決定状況を見ると、高校卒で五二・一%と全国平均の七八・二%に比較し著しい格差がある。これは企業、国鉄の新規採用の停止が大きく影響しているが、国鉄はこれまで例年二千名の採用を行ってきており、本道の雇用確保の視点からも国鉄において、二千五百名の退職者の半分程度は採用していただきたい等の意見が述べられました。  中田公述人からは、北海道の炭鉱は現在八山あるが、五十六年の出炭量は一千三十五万九千トン、炭鉱労働者は一万二千人と、ピークの昭和三十三年の七万九千人に比べ、この間六万七千人も減少している。また、この二十年間、毎年閉山が続き、夕張だけでもすでに二十二山が閉山に追い込まれ、現在では二山のみとなっている。炭鉱を抱えた市町村は、今後とも炭鉱の町として生きていくことに大きな不安を感じ苦悩している。さきの産炭地振興法の十年延長によっても、石炭産業の復興は困難であり、自助努力はするものの、自治体には財政力がなく、国においてなお特段の援助が必要である。北海道産炭地振興計画実現のためにも、石炭特別会計への繰り入れの一層の増額及び地方交付税の増加、地方債の発行を認めるとともに、臨時交付金の交付をお願いしたい。  また、北炭夕張新鉱については、いまなお千八百四十名が本年四月の新会社設立に望みを託して生活しており、こうした人たちのためにも、四月をめどとして再建の方向で解決されるよう、政府においても一層の努力をお願いいたしたいとの意見が述べられました。  次に、行財政改革と国鉄再建問題につきまして、北海道副知事永澤悟君、北海道大学経済学部教授小林好宏君、北海道町村会会長濱口光輝君から意見を聴取いたしました。  まず、永澤公述人からは、行財政改革は国民的要請であるが、進めるに当たっては民間と行政の役割り分担を明確にするとともに、国の負担が地方に転嫁されることのないよう、地方の声を十分聞いてほしい。さらに、国と地方の関係については、機能及び責任を明確にし、財源を再配分する必要がある。補助金の整理合理化については、国民健康保険の補助率の引き下げ等、国の歳出削減のみを目的とした整理合理化はとうてい受け入れられない。  また、北海道開発庁と北海道東北開発公庫については、全道民がその存続を求めており、特に開発庁は北海道の開発にこれまで多くの功績を残してきており、二十一世紀のわが国の発展のためにも存続すべきものと考える等の意見が述べられました。  小林公述人からは、青函トンネルの経済効果について、総工費七千億円の投資によって建設業及び製造業は多大の恩恵をこうむっているとともに、雇用面への効果も大きく無視できない。さらに、トンネル工事に活用された技術と完成したトンネルは、無形、有形のストックとして、今後の経済発展のためにもきわめて重要な資産である。  また、その利用効率については、従来の連絡船利用に比べ、旅客輸送で二時間、貨物輸送で三時間十分の時間短縮効果があり、それに応じた利用者及び貨物需要の増大が期待される。さらに新幹線が開通した場合には、時間短縮効果は飛躍的に増大するであろうし、その他にも通信ケーブル、送電線、ハイブライン等、その多目的利用によって、利用効率をさらに高めることが可能である。また費用負担の問題は、青函トンネルを国民的資産と考えることによって、国鉄と国が妥当な負担区分を決めるべきである。  国鉄の民営化論については、現在の国鉄再建問題は公共性や地域間格差の解消という社会的要請をある程度受け入れたときに、どこまで赤字を許容し得るかという問題である。もし黒字経営が目的であるならば赤字線を全廃すればよく、そうであれば国鉄でも民営でも同じである。したがって、赤字の許容限度をどのあたりに置くかが国鉄再建問題の基本である等の意見が述べられました。  次に、濱口公述人からは、北海道の場合第一次及び第二次廃止対象路線を合わせると、千四百五十六キロメートル、道内全営業キロの三六%にも及んでおり、これは経済性のみを優先させ、公共性や北海道の特殊事情を無視した一方的選定である。五十六年度の国鉄損失額は一兆八百六十五億円であり、うち特定地方交通線の赤字はわずか七%の七百六十八億円にすぎない。また、北海道分について見ても廃止対象二十二線の赤字は三百七十三億円にすぎず、このことからも特定地方交通線の廃止は、国鉄の赤字解消や再建にも役立たず、かえって残る幹線経営を困難にし、赤字増大を懸念するものである。  また、廃止線のバス転換には二百六十台ものバスが必要であるが、こうしたバス輸送には、通勤、通学時間帯に全員を輸送できるバス台数の確保、運行が物理的に不可能である。さらに第二次選定路線の中には、石炭輸送路線として幌内線、歌志内線の二線が含まれているが、国内炭二千万トン体制を維持するためにも、この二線の存続を図るべきものと考える。  広大な土地と厳しい気象条件を持つ本道において、交通確保はきわめて重要な課題であるが、特定地方交通線の廃止が沿線地域や北海道の発展に及ぼす影響が大きいことを認識され、これらの路線がぜひ存続されるようお願いしたい等の意見が述べられました。  最後に、農林漁業の現況と輸入自由化問題につきまして、北海道農業協同組合中央会会長床鍋繁則君、北海道指導漁業協同組合連合会会長長崎勝利君から意見を聴取いたしました。  まず床鍋公述人からは、北海道の農家戸数は十一万七千八百戸、全国に占める割合は、二・六%と低いものの、農地面積は百十四万六千ヘクタールで二一・一%を占めわが国最大の農業生産地である。また、酪農についても家畜の飼養頭数を見ると、乳用牛が七十七万九千頭、肉用牛は二十一万六千頭、全国に占める割合はそれぞれ三七%、九・一%と高い割合を占めている。  また、北海道農業が直面している課題としては、北海道の主産品であるバレイショ、てん菜、大豆の畑作三品を初め麦、加工原料乳の生産価格が低迷していることのほか、原油等原材料コストの高騰から、粗収入に比較し農業所得の伸び悩み、農業従事者の老齢化等の問題を抱えているが、今後の構想としては、農業生産及び流通加工段階の低コスト、良質生産を主眼として、北海道農業の健全な発展と国民生活に寄与することを目標としている。  また、農産物輸入自由化、枠拡大については、わが国の食糧自給率が先進国中最低であるほか、農林水産物関係の残存輸入制限二十二品目は農業の基幹的重要作目ばかりであり、自由化、枠拡大は不可能であること等の意見が述べられました。  長崎公述人からは、今日わが国の漁業は二百海里時代を迎え、資源、漁場の制約等から低迷しているが、特に北海道漁業は外国船との国際的問題を抱えておりきわめて深刻化している。韓国船による漁具被害は、五十五年の政府間暫定措置が講ぜられた後、漸減傾向にあったものの、ことしに入り再び激増し、一月以来二月二十日までの五十日間で実に五十五件を数えている。また、禁止区域内での韓国大型トロール船による操業が再三の警告にもかかわらず行われており、自主規制の無力さを痛感している。したがって現行暫定措置の一部手直しによる自動延長にはとうてい承服できない。  北海道の漁業経営は、漁獲量の伸び悩み、水産物需要の停滞、燃油価格の高騰によりきわめて困難な状況にある。これを克服するためには、資源保護対策の推進、操業秩序の確立に努めるほか、生産体制の再編成、操業隻数の適正化等を促進して、二百海里時代に対応した資源管理型漁業の確立を図らなければならないが、その具体的推進に当たっての財政金隔、雇用問題等については政府に特段の援助をお願いしたい。  また道内漁協経営は、五十六年度末に借入金残高が漁業生産量を上回るに至り、もはや自助努力のみではいかんともしがたい状況にある。漁業経営負債整理資金融通助成事業の弾力的運用、制度の改正見直しをお願いしたい等の意見が述べられました。  以上をもちまして、札幌班の報告を終ります。
  379. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) ありがとうございました。  次に、名古屋班につきまして赤桐操君にお願いをいたします。赤桐君。
  380. 赤桐操

    赤桐操君 名古屋班につきまして御報告いたします。  名古屋班は、中西前理事岩動委員大島委員、八木委員、太田委員近藤委員井上委員、それに私赤桐の八名で構成され、二月二十四日に山崎鉄工所本社工場、敷島製パン犬山工場、三菱重工業名古屋航空機製作所小牧南工場をつぶさに視察し、翌二十五日、名古屋市において公聴会を開催してまいりました。  名古屋班の公述項目は、加工型産業の現況、素材産業、繊維産業の実情並びに地方自治と行財政改革の三項目でありまして、七名の公述人よりそれぞれ意見を聴取した後、派遣委員から熱心なる質疑が行われました。  以下、公述の要旨につき順次簡単に御報告申し上げます。  まず、加工型産業の現況につきましては、トヨタ自動車副社長小野博康君、大隅鉄工所社長大隅武雄君からそれぞれ意見を聴取いたしました。  小野公述人は、わが国の自動車産業は製品出荷額で一〇・六%、輸出額で二一・六%を占め、就業者五百万人を擁する総合産業であり、税収入の八・四%を負担する地位を占めている。しかし、第二次石油ショック以後、国内販売が低迷しているほか、輸出も世界経済の不況や先進国の輸入制限措置で完成車の輸出は二年連続前年割れとなっている。このため、国際競争力強化のため続けられてきた一兆円規模の設備投資水準が圧縮に転じ、各社の決算も減益基調に陥っている。五十八年でも国内販売は実質GNPの伸び程度、輸出は世界市場が好転予想ながら日本車の輸出増につながることは期待できない。今後は、ユーザーニーズの多様化に対応する高水準の研究開発投資や国際競争力の強化、通商摩擦への対応を期さねばならず、民間経済の活性化、自由貿易の維持拡大、道路整備の促進、自動車関係諸税の増徴停止などにつき配慮願いたい旨の意見が述べられ、次いで大隅公述人から、現在の工作機械はコンピーュターを内蔵させ、工場無人化、省力化が中心テーマとなっているが、これは人的コストの低下、国際競争力の強化に多大の効果をもたらす。特に熟練工を得がたい中小企業にとって有力な戦力である。したがって、需要の六五%は中小企業であるが、五十七年に入り自動車関連産業の減産と欧米の不況、通商摩擦で需要は激減し、五十八年度は内需二五%減、外需四〇%減と予想している。このため、設備投資促進のために、法定耐用年数十年を五年に短縮すること。国際競争力低下を防止するための投資減税の導入、合理化投資に対する低金利資金貸付制度のほか、貿易摩擦回避への支援、為替変動による損益防止の税制措置が必要であるとの意見が述べられました。  次に、素材産業、繊維産業については、大同特殊鋼会長袴田邦男君、瀧定社長瀧季夫君、三菱油化社長吉田正樹君から意見を聴取いたしました。  まず、袴田公述人は、特殊鋼は鋼に含まれる炭素を調合して数百種の多数小量のもっぱら受注対応の生産を行っている業界であるが、年間千三百万トンのうち大手高炉八社が六五%、特殊鋼メーカー十一社が二八%、残り電炉六十社が七%のシェアを占めている。最近は内需不振と世界経済の不況で厳しい経営環境に陥っており、生産過剰の顕在化により販売価格が卸売物価指数を大きく下回り、先行き心配している。今後は低成長が続き、物離れが必至で、需要の増加が望めないので、景気刺激に特段の配慮を賜りたいとの意見が述べられ、また瀧公述人からは、複雑多岐にわたる繊維産業のうち縫製業界に焦点を当て、昨年秋以降衣料消費の低迷が顕著となっている。原因は暖冬と先行き経済の不安感の浸透による買い控え、物離れ現象によるもので、各企業とも売り上げの低迷に伴う収益減に苦慮している実情にある。特に物離れは、消費者ニーズの多様化、個性化、小ロット・短サイクル化を助長している。業界でもその対応に努めているが、国においては不況感解消のため、ムードを政策決定要素に含めるとともに、ファッション産業に対する理解と配慮を深めてほしい旨の意見が述べられました。  さらに、吉田公述人から、石油化学業界は関連産業を含めると、出荷額十五兆円、雇用者数五十万人の鉄鋼産業に匹敵する基幹産業であるが、二度にわたる石油危機により原料ナフサが九倍に上昇したことと、内外需の後退から生産が激減し、五十六年以降連続して大幅な赤字経営を余儀なくされている。対策を放置し、石油化学製品が輸入依存に陥れば、わが国産業に多大の悪影響を及ぼすこととなる。業界自体、原料、設備、流通などあらゆる分野での効率的な産業体制の整備が課題となっており、過剰設備の処理、事業の集約化、原燃料コストの低減などに取り組む考えである。特に特定産業構造改善臨時措置法案の早期成立、輸入ナフサに対する石油税免税措置の恒久化、原料ナフサ非備蓄原則の確立について特段の御高配を賜りたい旨の意見が述べられました。  最後に、地方自治と行財政改革につきましては、愛知県知事鈴木礼治君、四日市市長加藤時嗣君から意見を聴取いたしました。  まず、鈴木公述人は、愛知県はやむなく超過課税を実施し二百四十億円の財源を得て防災事業等に充てているが、このことは地方財政の余裕のなさを示す証左でもある。加えて、交付税不交付団体ゆえに譲与税等の周辺財源も配分規制されており困惑をいたしておる。こうした中で、愛知県では十数年前から行財政の合理化に努力してきた。すなわち、行政合理化推進会議、事務改善委員会、財政問題懇談会を設け、財政改革として超過課税の導入のほか、使用料、手数料の改正、減債基金の設置、全国に先駆けたゼロベース予算編成の導入などを推進したほか、行政改革面では管理部門の再編成、民間委託、職員定数削減の推進を進めてきた。五十八年度も一層努力していく。国においては地方税、交付税制度の抜本拡充、国と地方の機能分担の明確化等につき特段の配慮を願いたいとの意見が述べられ、次いで加藤公述人から、四日市市は石油化学コンビナートの不況で法人住民税が三十四億円から二十九億円に減少、交付団体と不交付団体を出入りして財源面で苦労している。このため、五十六年度から行財政改革に着手、三百六十一件の改善を鋭意進めており、五十七年度はこれにより四億円の節減効果を上げた。当面の要望として、県と市の行政事務の重複部分が末端行政体の負担となっている面があり、事務分担の明確化が求められる。また、国鉄等の三公社の市町村納付金につき特例措置を廃止するとともに、原重油関税が立地市町村にも入るよう検討されたい。さらに、五十八年度の地方財政計画は補助事業を減らし単独事業を増加させよとの指示だが、これは一般事業まで削ることになり配慮してほしいとの意見が述べられました。  以上をもちまして名古屋班の報告を終わります。
  381. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) ありがとうございました。  最後に、福岡班につきまして長谷川信君にお願いをいたします。
  382. 長谷川信

    長谷川信君 福岡班につきまして御報告を申し上げます。  福岡班は、伊藤理事、古賀委員、後藤委員、田代委員、粕谷委員、桑名委員、秦委員、それに私長谷川の八名で構成、二月二十四日、新日本製鐵八幡製鉄所及び安川電機八幡工場を視察し、翌二十五日、福岡市において公聴会を開催いたしました。  福岡班の公述項目は、行財政改革と国鉄再建問題、果樹生産とオレンジの輸入自由化問題、経済不況の現状と知識集約型産業の動向の三項目であり、それぞれ二名、計六名の公述があり、それに対し委員より熱心な質疑が行われました。  以下、公述要旨につきまして簡単に御報告を申し上げます。  まず、行財政改革と国鉄再建問題について福岡県知事亀井光君、福岡県添田町長山本文男君より公述がありました。  亀井公述人は、行政改革は簡素で能率的な小さい政府が大きな仕事を行う行財政制度を確立することであり、その出発点は、行政の守備範囲を明確にするとともに、住民に身近な仕事は地方に移譲することである。福岡県は石油ショック後の税収減に対応し、定数管理の是正等により人件費比率を大幅に引き下げているが、このような努力を県下各市町村にも要請をいたしておる。国は、地方の自主的改革を損なわぬよう定員増を伴う事業や補助率の引き下げによる地方へのツケ回しを厳に慎んでもらいたい。また、人員、予算の裏づけのない機関委任事務の押しつけをやめ、地方事務官制度に抜本的な改革を行うべきであると述べられました。  山本公述人は、福岡県内で廃止される九路線のうち六路線が筑豊地域に集中しており、地域住民の生活に大きな打撃を与える。国鉄線赤字の原因は、自動車等の交通体系の変化もあるが、合理化によるダイヤの削減等による利用者減少の悪循環、ローカル線同士の連携を欠いたダイヤ編成の不備が重なり合っている。廃止による代替輸送のバス運行は、狭隘道路の改良等多額の費用と時間を要するので、一時休止を含め廃止予定路線の特徴を生かした運行方法の見直しと路線の連結により再生化を図るべきである。国鉄再建は徹底した合理化で進め、地方に不利となる民営化を避け国民の足を確保してほしいと述べられました。  次に、果樹生産とオレンジ輸入自由化問題について大分県杵築農業協同組合長富来三吾君、熊本県果実農業協同組合連合会理事田尻晴彦君より公述がありました。  富来公述人は、大分県のミカン栽培面積は昭和四十八年をピークに、その後の価格低迷により荒廃園が続出するなど、五十六年に六千八百ヘクタールに減少した。しかし、生産額は百四十六億円と農業生産額の八%を占め、大分県農業の基幹作目となっている。生産費に圧迫され、ミカン農家は赤字経営だが、高品質と低コスト生産に努めており、最近ハウス栽培に取り組むなどの努力を重ねている。このようなさなか、オレンジ、果汁の自由化、枠拡大がなされるとミカン農家の努力が水泡に帰すると同時に、ミカン生産が崩壊することは必至なので、絶対に阻止することを熱望すると述べられました。  田尻公述人は、オレンジ、果汁輸入自由化、枠拡大問題が参議院選挙後に持ち越しとの不安の中で、熊本県ではこれを阻止するとともに、国際競争に打ちかつ足腰の強い果樹農業経営の強化を要請する大会を開催している最中である。果樹生産の実情を知らずにオレンジ等の自由化を促進する楽観論がある一方、自由化が日本の果樹業界に懐滅的な打撃を与えるとの発表があって農民に不安と動揺をもたらしているので、何としても自由化反対、枠拡大の阻止をしてもらいたい。アメリカの果樹農家は、過剰のオレンジを消費力の強い日本に輸出をすべく圧力をかけており、レモンやグレープフルーツの自由化のときのように政治的取引によって政府が妥協することを懸念しているが、特に外国果実輸入業者が果樹農民の意向を無視し自由化に走ることがないよう強く要求するものであると述べられました。  最後に、経済不況の現状と知識集約型産業の動向について九州・山口経済連合会理事長古賀政久君、大分県商工労働部長児玉俊明君より公述がありました。  古賀公述人は、九州の工業生産は全国水準を一五%も下回っているが、不況の素材型産業のウエートが高く、また個人消費や住宅建設など低迷している最終需要に依存する度合いの強い中小企業の割合が大きいことが原因である。最近の景況は、鉄鋼やセメントの減産体制や雇用調整助成金の受給増に見られるように次第に後退色を強めている。特に毎年度の一―三月には上期前倒しによる公共投資の息切れが生じ、景気の足を引っ張っているが、今年度もその危惧があるので、今後は公共事業契約率を年度間に平準化させるとともに、道路を中心とするプロジェクトの前倒し、投資減税、九州域内の道路交通網の整備等を進められたいと述べられました。  児玉公述人は、大分県は新産都市により鉄と石油による重化学工業に特化してきたが、知識集約型産業構造への移行と地域の活力を生かすため、県内を、臨空工業地帯、モデル定住圏構想、農業開発構想、マリノポリス構想、臨海工業地帯の五つの拠点開発を進めている。特に大分空港を中心とする臨空工業地帯構想はテクノポリス構想と軌を一にするもので、IC等の先端工場を誘致し、大分方式とも言うべき地域主導の点在型産業構想、農業と工業の併存、中小企業中心に人材の育成を図ることを特徴とするもので、大分県の産業構造改正の起爆剤として取り組んでいると述べられました。  以上で福岡班の御報告を終わります。
  383. 土屋義彦

    委員長土屋義彦君) ありがとうございました。  これをもって派遣委員報告は終了いたしました。  明日は午前十時に委員会開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時二十六分散会