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参考人(
永原慶二君) 大変大きな問題でございますが、私は、ただいま申し上げましたように、歴史学分野でございますので、そういうような分野に即しながら申し上げたいと思います。
まず
最初に、
学術会議会員の
条件と申しますか、そういうような、特に
学術会議法に規定されておりますような
学術会議が
任務を遂行していく場合に必要な会員の
条件というようなことを
考えてみますと、これは当然のことでありますが、純粋に
学術研究の立場、その論理に立って
学術研究の発展の方策を
考え、かつそういう
学術研究の成果を国の政策に反映していくという
任務でありますから、会員が学識、経験において豊富でなければならないということは当然でございます。
同時に、私は最もこの点が大事だと思いますが、現在研究の先端に立っておられるような研究現場の
方々、この
方々ともっと緊密な
連絡をとって、そういう研究現場で出されている研究
体制に必要な諸問題、これを十分に受けとめて、これを
学術会議の
活動に反映させる、この点が最も大事なことだろうと思います。そういう
意味で、
学術会議の改革の方向は、直接研究の第一線に立って
活動をしておられるような有権者の
方々、あるいは有権者にもなっておられない場合もあると思いますけれ
ども、研究現場の
方々との連携をどのようにより緊密にするか、この点が最も改革の方向としてまず配慮されるべきことだろうというふうに思っております。
たとえば、この問題の
重要性ということを私
ども歴史学の分野の例にとって
考えますと、
学術会議では、特に前期におきまして公文書館法というものの制定を
学術会議は
政府に勧告いたしました。それ以前にも資料保存の問題についてさまざまの勧告をいたしてまいりました。歴史学にとってみますと、この資料の保存、公開の問題、これは国及び自治体の資料と同時に民間の問題を含みますが、そういうものの保存、利用の
体制の問題はきわめて切実であり、研究の発展の上に基礎的な問題でありますけれ
ども、こういうような問題については、もちろん会員はそれなりの見識を持つわけでありますが、最も必要なことは、やはり全国各地に散在しておられる現場
研究者の意見、これが当然大事でありまして、そういうようなものをどれだけ確実にくみ上げるかということであります。
したがいまして、こういうような文書館法の制定等についての勧告を行う場合にはさまざまな形で、たとえば
学術会議の中でその問題についてシンポジウムを行うとか、また各地に私
どもが参りまして、各地の
研究者と話し合いながらそういう問題のあり方、あるべき姿を討議してまいりました。そういうような形がどうしても必要であります。このためには現場の第一線
研究者が
学術会議に対して非常に積極的な関心を持ち、また
期待を持つ、こういう関係が確立してなければとうていこの問題はうまくいかない、こういうことを私
自身経験を通しても痛感しておるわけであります。
ところが、今回
改正法案として出された問題を
考えてみますと、これは従来のような有権者制度、有権者による直接
選挙制度というのをやめまして、
学会推薦という、候補者を推薦いたし、研連がこれを選考して最終的な会員候補者を
政府に申請する、こういう形をとるようになっておりますけれ
ども、こういった場合には、やはり直接第一線の多数の
研究者にとりますと、やはり会員の選考を自分
たちの手で直接的に行うという形でなくて、
学会あるいは研連にゆだねるという間接的な形をとらざるを得なくなるわけであります。そのことは、やはり
研究者が
学術会議に対する関心を薄らげるおそれがあるということを私
自身は憂えざるを得ませんし、
学術会議がとりわけ前期以来
検討してまいりました方向もその問題を特に重視いたしました。
そういう
意味で、やはり基本的には有権者による直接
選挙制が
学術会議と
研究者との連携を強め、
学術会議の
活動基盤を強めるという上で欠かせないものというふうに理解しておるわけでありまして、私も全くこの点は大事な点だろう、改革の方向はやはりこれを確保した上で
考えていかなければならないというふうに思っております。
それからまた、現在のものは
選挙制度であるけれ
ども、
選挙制度にいろいろな弱点が出てきて、したがって
学会推薦によって研連が選考する方がより適切な会員が選ばれるという
考えがあるわけでございますけれ
ども、私は現在のやり方、これはやはり候補者につきましてはおおむね
学会の推薦という形を大多数はとっておるわけであります。もちろん個人で立候補されることも非常に望ましいことでありますが、しかし、実情としてなかなか個人が立候補するということはむずかしいといいますか、
研究者かたぎから申しますとなかなかあり得ないわけで、やはり
学会から推されるということが自然の形になっております。
その点で、今度の
改正法案も
学会推薦という点ではそんなに変わらないんじゃないかという
考え方もございますけれ
ども、現在は、やはり自分
自身も
学会から推薦されて出ておりますけれ
ども、しかし、そういう形で推薦された者が有権者によって直接
選挙されるというこの関係によって、会員は当然有権者に責任を直接的に負うという関係を客観的に強めるわけでありますし、また
研究者の側も、直接国の制度によって保証された
選挙というものによってみずから選ぶという関係がございますから、この点はやはりそれ
自体として非常に有意義な、今日
考えられる上では最も
学術会議の基盤を強めていくという点から言えば適切な方向として私は維持していった方がよろしいというふうに
考えます。
ただ、にもかかわらず
学術会議でも、自主改革案では、三分の一程度は推薦制ということも自主改革要綱と称せられている中で挙げておりますけれ
ども、これは確かに
学問は日進月歩でありまして新しい研究分野が生まれてまいります。あるいは既存の
学会では包摂し切れない幾つかの
学会に関係するような分野もございます。そういうような分野につきましては、なかなかまだ
学会が十分に成熟した形をとっていない、こういうこともございまして、そういう分野の
専門家は意外に今日のような
選挙制度では出にくいということもございます。そういう
選挙の弱点をカバーするという点では、これは推薦制を一部導入するということは現実に対応しているというふうに思いますけれ
ども、やはり基本的には国によって直接保証された直接
選挙制度ということが、
研究者と
学術会議との結びつきを強める手だてとしては最も適切であろうと思います。
そして、現在そういうことによって行われているにもかかわらず、次第に
研究者の
学術会議に対する関心が弱まってきているとか、立候補者が少ないということも言われておりますけれ
ども、それは必ずしも
選挙制度そのものに対する失望とか、あるいは
選挙制度の欠陥というようなことだけがその要因であるというふうには
考えない方がよろしいんではないかというふうに私は
感じております。むしろ、これはなかなか研究に従事しております者の立場から申しますと、
学問が
専門分化して、細かいことに専念していかなければならない、次第に
学問は高度化する結果、全体に対する関心が弱まるというようなことは
一つの
学問分野でもあることでありまして、まして
学会行政全体というようなことについては、
研究者とりわけ若い
研究者の間の関心が弱まるというようなことも一面ではやむを得ない面がございます。
そういうような面とか、あるいは有権者の規模が非常に大きくなっているにもかかわらず
学術会議につけられております国の予算はそれほどにふえておりませんから、そのために
学術会議が地方有権者との間で接触できる機会というものは予算の制約から非常にむずかしいということもございまして、そういうような制約からも
研究者の
学術会議に対する関心が弱まっているというようなこともあり得るわけでありまして、直ちに
選挙制度だけが全く欠陥であって、だから
学会推薦とか、あるいは研連推薦ということにすれば、その問題がすべて解消して最も適切な人が選ばれるというふうには単純に割り切れないのではないかというふうに
感じております。
そういう
意味で、基本的にはやはり有権者による直接
選挙制というものを原則といたしまして、その上で現行の制度の弱点というものを是正していくという方向がやはり
学術会議を活性化していくという点でも
考えるべき最も重要な筋道ではないかというふうに思っております。これが第一の問題であります。
次に、少し具体的に
改正法案との関連について申し上げさしていただきますが、今度の
改正法案によりますと、学協会が候補者を推薦し、その候補者を研連が選考いたしまして、最終的な候補者を決めて、
政府にそれを提出すると、こういうことになっておりますが、ことには大きく分けて二つの問題がございます。
一つは研連の問題であり、
一つはその
母体になります学協会の問題であります。
研連の問題について申し上げますと、研連は、実はこれは六十近い研連が今日
法律で決められておりますけれ
ども、各部の実情に即して研究
連絡委員会というものを実際に見てまいりますと、非常に多種多様なあり方をしておりまして、これは、
学術会議の発足以来実際の必要に応じて随時に研連がつくられてきておりまして、必ずしも研連というものがどういう
活動をすべきものであるというようなことは具体的に画一的なものではございません。大きく分けまして研究
連絡委員会というのは、国際対応と申しまして、国際的な
学術研究会議に対応するという
仕事と、国内の研究
連絡の
仕事、この二つを
任務としております。
たとえば歴史学研究
連絡委員会、私が現在責任を負っておりますが、この
委員会は伝統的に国際対応の
仕事だけをやってきておるわけであります。そして、国内問題については主として、これは任意団体でありますけれ
ども、
学会の連合体としての
日本歴史学協会というのがその
仕事をやっております。そういう形をとっておりますが、他の研連によっては、これは両方をやっている場合もあるし、主として国内問題だけに重点を置いているというようなこともございます。
〔
委員長退席、理事片山正英君着席〕
そういう
意味で、その
役割りは現在非常に多種多様であるということでありますが、まあそれはそれなりに各研連はそれぞれの
任務を設定いたして、またそれに適当な人を
選出するような研究
連絡委員会の
委員選出方式を持っているわけであります。この
委員選出の方式については、別に
学術会議の規定でも直接的に詳しい規定はございませんけれ
ども、そういうような形をとっております。
したがって、今回の
改正法案によって研連が新たに会員候補者の選考を行うという非常に新しい重要な
任務を負うことになりますが、そういたしますと、新しい会員選考という
仕事と、たとえば従来行っておりました国際対応の
仕事をあわせて研究
連絡委員会は行わなければなりませんけれ
ども、歴史学研究
連絡委員会で言えば、その国際対応に適切な方が選ばれて
委員になっているわけであります。その方がそれでは会員選考に適切な
学会を代表するような方であるかどうかということになりますと、これはそう一概にそうであるというふうには言えないわけであります。非常に新しい
任務の変更が出てまいります。そういうような問題は、決して既存の研連というものがあるからそれにおぶさって今度会員候補者の選考の
任務も行わせればよいというふうに単純には言い切れないことであります。
〔理事片山正英君退席、
委員長着席〕
したがって、今度のような形がもし実現いたしますと、研連
自体が非常にやっかいなといいますか、困難な
任務を負わざるを得ないし、私
どものおそれますのは、いままでの
経緯から申しますと、非常な
混乱が生ずるだろうと思います。また意思の統一が行われるまでに非常な時間がかかる。たとえば第一部の関係の研連は現在八つ正規にはございまして、そのほか、たとえば予算の関係で正式の研究
連絡委員会ではないけれ
ども、
学術会議の内部ではそれに準ずるものとして扱っております研究
連絡会というのは四つございまして、一部関係で十二ありますけれ
ども、十二だけではとても選考分野を覆い切れない。新しく発展してまいりました、たとえば文化人類学とかそういうような分野については全く研連が現在ないというのも実情でございます。したがって、研連
自体をどういうふうに編成し直すかというようなことから始まりますし、また、果たして国の側で、今度研連は法制化されますけれ
ども、研連が必要なだけの予算の面でも措置されるであろうかどうかということは、非常に私
どもにとっては現実上不安でありまして、そういうことの保証なしに研連でやれますというふうには単純には申し上げられないというのが私の率直な
学会の現状に即しての感想でございます。
もう
一つ最後に、この
学会の問題、登録
学術団体の問題でありますが、この登録
学術団体が候補者を推薦するということになっておりまして、その
学術団体についてはこの
法案にも示されておりますような基準が設けられるというふうに思いますけれ
ども、しかしこの
学会全体のことを、たとえば歴史学分野に即して
考えますと、それはその
学会誌をどんな感覚で出しているかとか、会員数がどれだけであるかというようなことだけでは単純に割り切るべきことではない。特に
日本歴史の研究のようなことになりますと、各地の地域的な郷土史研究団体のようなものが実は研究の上で非常に重要な問題を果たしております。たとえば国文学では、場合によってはアマチュア的な方が入っておられる
学会、細分化したある
一つのテーマについての
学会がございますから、そういうものが非常に大事な
役割りを果たしているわけでございます。
そういうものまでを含めまして、やはり語
学会が
学術会議の候補者の問題について積極的な姿勢をとれる、これは実際に会員候補者を推薦するかどうかは別問題でありますけれ
ども、そういう問題が積極的に
考えられる客観的
条件が保証されていなければ当然ならないわけであります。しかし、そういうことになりますと、現在の登録団体ではとうていこの問題は済まないわけであります。
現在、第一部関係においては百一の
学会が登録されておるわけでありますけれ
ども、これは一部関係の
学会の実情から申しますときわめて限定されたものにすぎないわけであります。したがって、当然こういう新しい法
改正が実現いたしますと、再登録をやり、新しいそれについての
条件審査をしなければならないということがありますが、余り既成の成果だけにそれの基準を求めるということになりますと、
学問の進歩の芽を摘み取ってしまう。そういう実際の新しい方向の持っている要求というものが
学術会議に反映されなくなるおそれがあると思います。
これは特に一部関係ではそういう郷土史とかアマチュア的なものというふうに申しましたけれ
ども、もっと
専門的に言えば、新しい、既存の分野でない分野の研究は当然のことながら
最初は少数派であります、
学会全体に。当然そういうところからも会員が出ていただきたいわけでありますけれ
ども、
学会推薦という方式をとります場合には、やはり
学会代表ということになり、自分の
学会を中心にするという、これは
学会エゴイズムだと言われるかもしれませんけれ
ども、結果的にはそういうことになるおそれがあるわけであって、やはりそういう
意味でも
一つの
学会の利害を超えて広く適切な会員を選ぶ場合には、
学会推薦をとりながら同時に最終的には有権者
自体が会員を選んでいくという方が
学問の発展の可能性を伸ばしていくという観点からも適切なんではないかというふうに思うわけでございます。
以上、仮にこの
法案を実現した場合ということについて
考えましても、とりわけ研連のあり方の問題、
学会の扱い方について非常な困難を含んでいるのではないかというのが率直な感想でございます。