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国務大臣(林義郎君)
社会労働委員会の御
審議に先立ち、
厚生行政について
所信の一端を申し述べてみたいと思います。
二度にわたる
石油ショックは、全
世界に大きな
影響をもたらし、アメリカを初めとする先進諸国もこれに対処するため、大きな努力を払ってまいりました。しかしながら慢性的な
経済の
停滞は引き続き、
社会の活性をいまだ取り戻すに至らず、いわゆる先進国病に対する適切な処方せんはなかなか書くことができない
状況にあります。
わが国の
経済社会は、欧米諸国に比べ比較的柔軟に
石油ショックを受けとめてまいりました。
わが国はこれまで欧米へのキャッチアップを目指してまいりましたが、
石油ショックを経た今日、欧米の模倣の時代は終わり、
わが国独自の創造力に基づく新しい
福祉社会の建設を目指す時代が到来したものと考えます。私は、皆様方の御意見を伺いながら活力ある
福祉社会の建設を通じて、新しい時代の創造に全力を挙げてまいる
所存であります。
わが国の
社会保障
制度は、すでに国民の
生活の中に深く根づき、国民一人一人は
社会保障給付を織り込んだ生涯の
生活設計を立てております。このような
社会保障
制度の安定的発展を期するためにも、活力ある
福祉社会の建設という見地からその見直しを行う必要があることを私は率直に申し上げたいと思います。
ただし、見直すというのは、長期的視野に立って
高齢化社会、成熟化
社会、そして国際化
社会という新たな時代に
対応できる
制度に改めるということであって、決して福祉を切り捨てるということではありません。家庭、コミュニティーなど、
社会的連帯をはぐくみ、国民が生きがいと安心を見出していけるような基盤を
充実していくとともに、国民の健康や老後に対する保障あるいは
社会的
経済的に弱い立場に置かれている方々に対する援助を効果的に実施していくことが、これからの
社会保障行政に課せられた役割りであると考えております。
昭和五十八年度予算案の編成も、マイナスシーリングというきわめて厳しい
状況のもとで行われましたが、これからの時代に
対応する予算の第一歩として、積極的な
健康づくり対策あるいは
老人や
身体障害者の在宅福祉
対策など真に必要な
施策に関する経費については、全力を挙げて
確保するように努力いたしました。その結果、全体としては、現下の厳しい財政
状況のもとでも実質的な福祉水準が維持できる予算になったものと考えております。
以下、
昭和五十八年度における主要な政策について申し述べます。
社会福祉
対策につきましては、厳しい
状況にあるときこそ、
社会的、
経済的に弱い立場にある方方が不安なく
生活できるよう、
地域社会との関係を考慮しながらその一層の
充実に努めていく必要があります。このため、これらの方々が家族や
地域の人々とともに生きがいを持って
生活できるよう、家庭奉仕員の大幅な増員、デイ・サービス
事業の拡充など在宅福祉
対策の
推進に特は
重点を置くとともに、引き続き必要な施設の
整備を進めていくこととしております。
また、
生活保護につきましては、国民
生活水準の動向を勘案して、
生活扶助基準の引き上げを行うこととしております。
児童家庭問題につきましては、
社会に活力をもたらしてくれるかぎである子供たちの健全な
育成と家庭基盤の
充実を図る必要があります。そのため、児童館の増設、母子・寡婦資金の貸付原資の
増加、母子
保健対策の
充実など
施策全般について、その
推進を図ってまいる
所存であります。
国民医療の
確保につきましては、
社会の
変化に応じ、医療
需要の増大、多様化に
対応するため、医療供給体制の
整備を図っていくことが現下の急務であると考えております。このため、
予防からリハビリテーションに至る包括的な医療体制を確立し、
地域の医療
需要に沿った診療機能のネットワークをつくっていく必要があり、その一環として
地域医療
計画の策定などを内容とする医療法改正法案を今国会に提出すべく、鋭意準備を進めております。
老人保健制度につきましては、
保健と医療の両面にわたり、総合的な
事業の円滑かつ的確な実施を図るために全力を挙げてまいる
所存であります。
また、
老人精神
保健対策といたしまして、
保健、医療及び福祉の緊密な連携を図り、包括的な
地域ケア体制づくりを目指すこととしております。
医療保険
制度につきましては、現に国民
生活の安定
向上に重要な役割りを果たしてきております。
しかしながら、
高齢化社会の到来を控え、医療保険を取り巻く
環境は厳しく、
医療費の適正化が強く要諦されており、
厚生省といたしましても、不正請求の徹底的排除を初め、薬価基準の改定、診療報酬の審査の
充実など、これに鋭意取り組んでいるところであります。
なお、国民健康保険につきましては、都道府県を単位として高額
医療費について逐次保険者の共同
事業を実施してまいりたいと考えております。
公的年金
制度につきましては、本格的な
高齢化社会の到来を控え、
制度の長期的安定を図ることが現在最も重要かつ緊急の
課題となっております。このため、
厚生年金並びに国民年金について、
関係審議会の意見等を踏まえ、
わが国社会が
高齢化のピークを迎える二十一世紀を展望しつつ、
制度全般のあり方について見直しを行い、次期通常国会に所要の改正法案を提出いたしたいと考えております。なお、五十八年度における年金額の
改善につきましては、諸般の厳しい
状況にかんがみ、これを見送ることといたしました。
中国残留日本人孤児の問題につきましては、先般四十五人の孤児が来日し、その肉親捜しを行いましたが、今後ともその
推進を図るとともに、帰国後の定着化
対策の一層の
充実強化に努める
所存であります。
医薬品につきましては、昨年国民の
信頼を失わせるような事件が生じ、まことに遺憾に存じております。国民の健康を預かる者として一層心を引き締め、薬事行政を厳正に進めてまいります。
このほか、
厚生行政は、水道、廃棄物に関する施設
整備、
環境衛生関係営業の振興、食品、家庭用品の安全
確保対策など、国民
生活に直結した問題に関するひとときもゆるがせにできない
施策ばかりであります。
私は、皆様の御支援、御鞭撻を得ながら、このような
厚生行政の
推進に全力を挙げて取り組み、国民福祉の着実な
向上を図ってまいる
所存であります。
何とぞ、よろしくお願いいたします。
次に、
昭和五十八年度
厚生役所省
一般会計、
特別会計及び
政府関係機関予算の概要について御
説明申し上げます。
昭和五十八年度
厚生省所管一般会計予算の総額は九兆六百十四億円余でありまして、これを
昭和五十七年度当初予算額九兆百六十八億円余と比較いたしますと四百四十六億円余の増額、〇・五%の
増加率となっており、国の
一般会計予算総額に対し一八%の割合を占めております。
御承知のとおり、最近における
わが国の
経済情勢及び財政事情はまことに厳しいものがあり、明年度予算も引き続き財政再建を強力に
推進し、その
対応力を
回復することにより、
経済の着実な発展と国民
生活の安定、
向上を図る基盤を確立することを
目標に編成されたところであります。
厚生省予算につきましても、歳出内容の見直し、合理化を徹底的に行い、限られた財源を最大限
活用するため、給付の
重点化、公平の
確保に努め、将来にわたり
社会保障
制度を安定的かつ効率的に運営していくことを編成の
基本方針としたものであります。
このような厳しい制約のもとにおきましても、幸い
厚生省予算は各方面の絶大な御
理解と御協力によりまして、
社会福祉、
保健衛生、
社会保険等各般の
施策の
推進に必要な措置を講ずることができ、福祉水準は全体として維持されたものと考えております。
この
機会に各位の御支援に対し衷心より感謝申し上げますとともに、責任の重大さに思いを新たにして、国民の健康と福祉を守る
厚生行政の
進展に一層の努力を傾注する決意を表明する次第であります。
さて、
昭和五十八年度の予算編成に当たって特に留意した点を申し上げたいと存じます。
第一に、
地域社会の中で
老人、
心身障害者、低所得者等
社会的、
経済的に弱い立場にある人々を支えるため、
生活保護基準の引き上げ、
身体障害者社会参加促進
事業の
充実、家庭奉仕員の増員等を初めとする
各種在宅福祉
施策の拡充強化を図るとともに、
社会福祉施設についても運営の
改善等を行うことといたしております。
第二に、本格的な
高齢化社会の到来を控え、国民の健康を
増進し、治療
中心の医療からの脱却を図るため、本年二月から
施行されている
老人保健制度及びこれを円滑に
推進するための関連
保健衛生
施策の拡充
整備並びに
医療費の適正化に特に
配慮いたしております。
第三に、国民の
保健医療を
確保するため、僻地医療体制の
計画的な
整備、救急医療、医療従事者の
養成確保、母子
保健対策、精神衛生
対策の
充実を図ることとしているほか、難病
対策、特定疾病
対策等の拡充を図ることといたしております。
以上のほか、
生活環境施設の
整備、原爆被爆者、戦争犠牲者のための
対策、医療品、食品の安全
対策、血液、麻薬・覚せい剤
対策、
環境衛生関係営業の振興等につきましても、引き続きその
推進を図ることといたしております。
なお、所得保障の中核であります年金
制度におきましては、
昭和五十七年度の消費者物価上昇率が三%をも下回る見込みであることや、公務員給与改定の見送り、恩給、共済年金等の据え置き等諸般の情勢にかんがみ、年金額を据え置くことといたしましたが、所得制限につきましては、現に相当の水準にある母子・準母子福祉年金を除き、本人所得制限限度額を引き上げることといたしております。
以下、主要な
事項につきまして、その概要を御
説明申し上げるべきではございますが、
委員各位のお手元に資料を配付いたしてございますので、お許しを得て、
説明を省略させていただきたいと存じます。
何とぞ、本予算の成立につきまして、格別の御協力を賜りますようお願い申し上げる次第であります。