運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1983-05-17 第98回国会 参議院 外務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年五月十七日(火曜日)    午前十時一分開会     ─────────────    委員の異動  五月十二日     辞任         補欠選任      山中 郁子君     小笠原貞子君  五月十七日     辞任         補欠選任      小山 一平君     村沢  牧君      小笠原貞子君     立木  洋君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         増田  盛君     理 事                 安孫子藤吉君                 福田 宏一君                 渋谷 邦彦君     委 員                 稲嶺 一郎君                 大鷹 淑子君                 夏目 忠雄君                 鳩山威一郎君                 宮澤  弘君                 田中寿美子君                 立木  洋君                 宇都宮徳馬君    国務大臣        外 務 大 臣  安倍晋太郎君    政府委員        外務大臣官房長  枝村 純郎君        外務省アジア局        長        橋本  恕君        外務省欧亜局長  加藤 吉弥君        外務省経済局次        長        妹尾 正毅君        外務省経済協力        局長       柳  健一君        外務省条約局長  栗山 尚一君        外務省国際連合        局長       門田 省三君        外務省情報文化        局長       三宅 和助君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        文部省学術岡際        局ユネスコ国際        部留学生課長   岡村  豊君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際情勢等に関する調査  (中曽根内閣総理大臣ASEAN諸国訪問に関する件)  (OECD閣僚理事会等に関する件)  (米国ウィリアムズバーグにおけるサミットに関する件)  (外交実施体制強化に関する件)  (欧州中距離核戦力制限交渉極東地域における核配備問題に関する件)  (核軍縮問題に関する件)  (金大中氏問題に関する件)     ─────────────
  2. 増田盛

    委員長増田盛君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  国際情勢等に関する調査を議題といたします。  安倍外務大臣から発言を求められておりますので、この際、これを許します。安倍外務大臣
  3. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 中曽根総理大臣は、四月三十日から五月十日までの間、インドネシアタイシンガポールフィリピン及びマレーシアASEAN五カ国を公式訪問し、帰途ブルネイに立ち寄られました。私は、うちインドネシアタイシンガポールの三カ国に同行し、その後OECD閣僚理事会等会議出席のためパリに赴きました。  ついてはまず総理大臣ASEAN諸国訪問につき御報告申し上げます。  総理大臣各国首脳との会談において、国際経済問題、カンボジア問題等国際情勢わが国安全保障政策、日・ASEAN諸国関係、二国間問題等について建設的かつ忌憚ない意見交換を行われました。  私も、インドネシアタイシンガポールにおいて、首悩会談出席するとともに、モフタル外相シティ外相ダナバラン外相との間でそれぞれカンボジア問題を中心会談を行いました。  総理大臣は、世界不況長期化懸念を表明され、自由貿易体制の堅持の重要性を主張されるとともに、わが国としても特恵のシーリング枠拡大を初め市場開放のため一層の努力を行っていく旨述べられました。また、総理大臣は今後ともASEAN諸国との関係を重視する旨、また、カンボジア問題に関しては、わが国は、包括的政治解決実現のためASEAN諸国努力を引き続き支持する旨を確認されました。  総理大臣は、わが国安全保障政策に関し、わが国専守防衛を旨とし、近隣諸国脅威を与えるような軍事大国にはならないとの基本方針を守っていく旨述べられ、これに対して各国首脳より十分の理解支持を得ることができました。  総理大臣は、経済協力の推進が国際社会におけるわが国役割り一つであるとの認識のもとに、新中期目標を立ててODAを拡充してきている旨、その中でASEAN諸国援助の最重点地域とするとの政策が不変である旨、また、農村、農業、エネルギー人づくり中小企業の分野に重点を置くとの基本政策を続けていく旨を述べられました。総理大臣は、また、今後の協力の新しい側面として、産業技術の移転、プラントリノベーション協力科学技術関係閣僚会議の開催を含む科学技術面での協力及び青少年、教員等中心とした人的交流拡大を挙げられました。これに対し、各国首脳は感謝の意を表明いたしました。  総理大臣は、五月九日クアラルンプールにおける総理大臣主催昼食会において、ASEAN繁栄なくして日本繁栄なしとの立場から前述の諸点を総括した政策スピーチを行い、出席したマハディール首相を初めとするマレーシア政府要人の高い評価を受け、報道関係者の間でもきわめて好評でありました。  今回の中曽根総理大臣ASEAN諸国訪問は、総理大臣ASEAN各国首脳との間に理解と友情に基づく個人的友好信頼関係を構築され、また、各国との友好親善関係強化し、今後のわが国ASEAN諸国との関係を長期的により安定したものとするための基礎を一層固めた点で、広くわが国外交全般、特にアジア外交にとって大きな意義を有するものと考えます。  私としては、今回の訪問を通じて総理大臣早期実施ないし前向きの検討を約された諸般の措置わが国が着実に実行に移すことにより、ASEAN諸国の期待にこたえることが必要であると考えます。この面で、特に、各位の格別の御理解と御協力をお願いします。  次にパリにおける国際会議等につき御報告いたします。  第九回国際エネルギー機関閣僚理事会は、五月八日パリで開催され、わが国からは山中通商産業大臣会議を含む諸行事出席し、私はその一環であった閣僚夕食会での討議に出席しました。  今回の会議中心テーマエネルギー必要量安全保障でありましたが、山中大臣よりは国際石油情勢産油国との関係中東訪問成果及びエネルギー必要量安全保障研究につき発言し、私からはエネルギー必要量安全保障研究を行ってきたこと及びその対応策につき意見一致が見られたことは時宜を得たものである旨発言いたしました。  最終的に採択されたコミュニケにおいては、わが国立場は十分確認されたものと考えており、エネルギー必要量安全保障研究結論が続いて行われたOECD閣僚理事会においても承認されたことは意義深く、また、ウィリアムズバーグ・サミットを控え、西側諸国の協調に資するものと考えます。  次に、OECD閣僚理事会は、五月九日、十日の両日開催されました。今般の会合には、米国からシュルツ国務長官リーガン財務長官ボルドリッジ商務長官ブロック通商代表等、仏からはシェイソン外相ドロール蔵相、西独からはゲンシャー外相ラムズドルフ経済相、英からはピム外相ハウ蔵相等外務経済担当有力閣僚出席しました。  今次会議全体の雰囲気は、インフレ鎮静化石油価格下落等の好条件の影響もあり、米欧景気回復の兆しが出始めているため、総じて明るいものであり、全体としてよい成果をおさめたとの評価ができると思われ、来るべき先進国サミットや第六回UNCTADに向けての良好な雰囲気づくりの面で役立ったと思われます。  マクロ経済政策については、インフレなき持続的成長をいかにして定着させていくかが中心的政策課題であるとの認識一致しました。  貿易問題に関しては、保護主義に対する巻き返しを行うべきこと、特に最近の景気低迷期に導入された措置を緩和、撤廃すべきことにつき合意されたことは、今次会合の大きな成果と申せます。  東西経済関係につきましては、かなりの議論がありましたが、全体的には、厳しい対立的雰囲気には至りませんでした。コミュニケにおいてOECDにおける東西経済関係は、従来の分析、検討を踏まえて、今後ともこれらを適宜見直していくことで意見一致を見たほかに、IEAエネルギー必要量安全保障研究結論OECDとしても承認することとなりましたが、これはフランスもIEAの作業の結論を受け入れたということを意味し、評価し得ると考えます。  南北問題については、債務累積問題の解決のためには、途上国側の調整も必要だが、輸出拡大のための環境づくりも重要であるとされ、ODAの拡充の必要性も強調されましたが、これらは、六月のUNCTADを控え、意義あるものと思われます。  また、私はOECD閣僚理事会の機会を利用して、次のような会談を行いました。  米国との間におきましては、日米間の絶え間ない協議一環として、シュルツ国務長官ボルドリッジ商務長官及びブロック通商代表との間で、国際情勢及び二国間の懸案につき意見交換を行いました。  また、日欧協力関係をさらに促進するため、日仏外相定期協議、日・EC議長国外相協議を行うとともにチンデマンス・ベルギー外相フルグラー・スイス経済相ハーフェルカンプEC委員長らと会談を行いました。とりわけ、ゲンシャー外相等との間で行った日・EC議長国外相協議は、わが国EC十カ国との間の最初の制度化された協議であります。ECは主要国際問題につき近年共同歩調に努めており、本件協議日欧関係強化のみならず、わが国外交の幅を広めるものであると考えております。  さらに、ヘイドン豪外相とは豪州労働党政権発足後初めての閣僚レベル会談との面も有しており、その面からも意義深いものでありました。  皆様方の御協力に感謝するとともに、今後とも一層の御協力を賜りたいと存じます。
  4. 増田盛

    委員長増田盛君) 次に質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  5. 田中寿美子

    田中寿美子君 ただいま安倍外務大臣から、ASEAN総理大臣と御一緒に御出席なさいました後、パリでの国際エネルギー機関閣僚理事会、さらにOECD閣僚理事会にお出になりました御報告を承ったわけでございます。実は、毎年四月末から五月にかけて総理大臣ASEAN訪問なさるというのはいまは年中行事のようになってきております。そして年の初めにはアメリカに行く。それから四、五月ごろにはASEAN訪問する。その後ではほとんど必ずと言っていいほど本会議において総理大臣から御報告があり、そしてそれに対する質疑をしたものでございます。またこの外務委員会にも総理大臣がお出ましになって私ども質疑をしてきたわけでございますが、ことしは特異な状況選挙というのは本当にしようがないもので、選挙を控えておりますから委員余り出席が十分ではない。そして、押し迫ったこの日程の中でついに総理大臣から御報告は伺うことができませんでございましたことを大変残念に思います。しかしきょうは外務大臣おいででございますので、そのASEANから後、外務大臣は方々を回っていらっしゃいましたからもうASEAN記憶も薄れていらっしゃるのじゃないかと思うほどでございますけれどもASEAN関係で御質問をさせていただきたいと思います。  総理大臣は、最後ブルネイに行かれる前にクアラルンプールクアラルンプールスピーチというのを発表なさいました。そこには、日本軍事大国にならないということを強調されそうして日本の進めている防衛状況についてASEAN諸国から理解を得たということが述べられております。  これまでも過去に、一九七七年に福田総理大臣訪問されましたときには、マニラの演説でわが国軍事大国の道は選ばないというふうにおっしゃいましたし、それから八一年、鈴木総理おいでになりましたときもバンコクで同じような誓いを述べられました。そして今度は中曽根総理、そのクアラルンプールスピーチの中では、わが国専守防衛を旨とし、近隣諸国脅威を与えるような軍事大国にはならないということを各地でおっしゃったことを総括してまた決意を表明していらっしゃいます。このこと自体は非常に望ましいことですから、そういうことを内外に向かってはっきりと日本軍事大国にならない、ASEAN諸国を脅かすようなことは二度としないという意思表示をなさいましたことは結構なのですけれども、それが過去の例を見ましても福田総理決意、それから鈴木総理決意、それらのものが述べられた後にどんどん防衛力増強というのが日本では進んでおりまして、現実問題としてASEAN諸国にはそれに対する不安が高まっているわけなのですね。最近の予算の中での防衛費だけの突出、これはレーガン大統領との申し合わせによって実現されている。  それから、鈴木総理日米共同声明の中でシーレーン防衛を約束してこられた。そして、そのシーレーンの問題についてはその後も次々と発展させた議論が進んできたわけでございますね。グアム島以西、フィリピン以北というそのシーレーン範囲などについて、あるいは三海峡の封鎖というような問題については非常に国内でも大きな議論国会で行われてきているし、それからASEAN諸国のみならず東南アジアそれから東北アジア人たちだってみんな心配しているような状況、それからさらに教科書検定問題など日本が過去に東南アジア諸国に与えた害悪についての反省というものが必ずしも十分ではなかったということで、大変東南アジアあるいはASEAN諸国人たちの反感を引き起こしたという状況なのでございますね。  それで、私たちからしますと中曽根総理ASEAN訪問というのは、今回経済援助各国に約束してきたわけですが、その経済援助と引きかえに日本防衛力増強だとかシーレーン防衛政策だとかいうものをASEAN首脳支持してもらう、その支持を取りつけるということを目的としたものだったというふうに受け取れるのでございますけれども、この点を外務大臣はどのように見ていらっしゃるか。つまり、憲法の枠内でとか自衛範囲内でということを御自分もおっしゃっているけれどもASEAN諸国人たち、それらの首脳たちがそういう言葉でもって条件をつけていると。その辺をどうとっていらっしゃるか。つまり中曽根さんに言わせれば、日本防衛政策はもう全面的に支持されたというふうに思っていられるようですけれども外務大臣もそのように思っていらっしゃいますでしょうか。
  6. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今回の中曽根総理ASEAN訪問で私はインドネシアタイシンガポールの三国だけに同行をいたしまして三国の首脳との会談には同席をいたしたわけでございます。その他フィリピンマレーシア首脳会議においても同様に中曽根総理から日本防衛政策について説明がありました。これはいま田中先生がおっしゃるような経済協力と絡めるということじゃなくて、経済協力はこれは長い間やってきていることでありますし、経済協力の問題とは別にしてわが国防衛立場安全保障立場説明しておきたいということで説明をされたわけであります。これは歴代内閣がとっておるような専守防衛あるいは非核原則、そうした基本的な考え方、これは近隣諸国には脅威を与えないものであるし、そしてまた歴代総理大臣が重ねて表明しているように決して日本軍事大国にはならない。ただ、日米安保体制というものがあるし、この日米安保体制の効果的な運用を図っていくためにはそれなりに日本自衛能力を高めていかなきゃならぬ、こういうこともあわせて説明をされたわけであります。私も立ち会っておりましたけれどもこれに対して各国首脳は、日本のそうした自衛のための努力、あるいは日本憲法の枠内における努力というものについては十分これは評価をする、理解をする、その点についてはわれわれは何も言う筋合いはないのだということで、私は十分な理解があったのじゃないかと思うわけであります。私も、さっきお話がありましたようにASEAN諸国には、日本がやはり最近自衛力増強を進めておって、これが一つ脅威になるのじゃないかというふうな一つの空気も部分的にはあったことは事実でありますけれども、やはりこうした問題はきわめて大事なことでありますし、やはりASEAN諸国日本との歴史の中において戦争で被害も受けておるわけであります。したがって、日本防衛力というものに対する、あるいは日本軍事力というものに対する潜在的な脅威というものがあることは事実でありますから、基本的に日本立場というものを明快に説明する、日本の実態を正直に説明するというのが大事ではないかと思うわけで、中曽根総理もそうした立場に立って詳細に説明をされたわけで、素直にこれに対してはASEAN首脳から理解を示された、こういうふうに私は判断をして、そういう意味では今度のASEAN訪問というものは日本防衛政策理解せしめる上においては非常に意義のあった訪問であった、こういうふうに私は考えておるわけであります。
  7. 田中寿美子

    田中寿美子君 意義あらしめますためには——中曽根総理はみずから改憲論者であることを自認していらっしゃいまして、国内的には日米会談鈴木総理が表明してこられた内容をさらにどんどん広げていかれている感があるわけです。それですけれども、今回のASEAN訪問では平和憲法を守る立場非核原則をちゃんと守るのだ、あるいは広島、長崎の経験を持った日本はというふうにちょうど平和論者たちが言っている言葉を使って、大変頭の回転の速い方ですから、そして言葉の表現が上手な方ですから大変上手におっしゃったように思いますけれども、行かれる前に、フィリピンマルコス大統領インドネシアスハルト大統領なんかがアメリカに行ったときに日本防衛力増強に対して懸念を示しておりますよね。ですから懸念が十分ある。ただ礼儀上、こういう一国の総理訪問して平和憲法の枠内で必要最小限度防衛をというふうな言葉を使われればそれは結構ですというふうに言うのは当然だろうと思いますが、スハルト大統領も昨年十月に来ましたときに鈴木総理に、アメリカ日本自衛のための防衛力以上のものを求めているのじゃないかという懸念を表明しているわけですね。ですから、自衛力というのにはおのずから限界がある、それを超えたら危険だという意味のことを言っているわけで完全に心配を払拭したというふうには言えないのではないか。それは過去の、本当に日本の第二次大戦中の侵略に対する記憶というものは決してまだぬぐい去られてはいない、こういうことだと思います。  それですから、手放しで全面的に認めてくれたというわけにはいかない。しかし、なぜか今回はマスコミも大変中曽根さんの発言は受けたというふうな報道をしております。しかし、シンガポールリー・クアンユー首相も、ASEANとして日本東南アジア安保を担うことを期待してはいない、日本にそんなことをお願いすることを期待してはいないと述べておりますし、フィリピンマルコス大統領も、東南アジア防衛について日本は何ら軍事的任務を負うべき必要がない、何もそんなことをお願いしてはいないというのが全体としての感じだと思うのですけれどもそういうふうに受け取られますか、外務大臣
  8. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日米首脳会談で、いわゆる国会で不沈空母論争なんというのがありまして、何か中曽根内閣がこれまでの内閣とは違って突出した防衛に対する考え方を持っているのじゃないか、こういうような感じが確かにASEANの国の一部にはあったことは事実です。ですから、やはりこれはきちっと説明をしてその誤解を解かなきゃならない、こういうふうに中曽根総理判断をされたし私もそういうふうに思いました。  中曽根内閣防衛に対する基本的な考え方というのは歴代内閣防衛政策を踏襲するということをはっきり言っておるわけでありまして、自民党内閣の、歴代内閣考え方を進めていくことには変わりないわけですからその点を今回は特に強調して説明をされたわけで、これは私は各国首脳にはその説明によって十分理解が深まったのじゃないか、こういうふうに思います。  同時にまたいまお話しのように、確かにASEAN諸国日本に軍事的なものを求めておるという考えはありません。これは確かにリー・クアンユー首相も、むしろ東南アジアの安定というのは日本の軍事的な力によってこれを求めようとは考えていない、やはり日本に求めるものは経済的な面での協力であるし、あるいは技術交流、あるいは人的交流とかそうした面での密接なつながりを求めておるのだ、こういうことで、これは各国首脳に平均的に見られた考え方でございますから、この点はやはり日本も十分今後とも頭に置いて取り組んでいかなければならない課題ではなかろうか、こういうふうに私も思うわけであります。
  9. 田中寿美子

    田中寿美子君 ですから、総理が公の場でそれぞれの国の首脳と会見されて言明されたことはこれは厳しく守っていかなければならないと思います。民衆の間に、かつて田中総理が行かれたときみたいな反対のデモは大きくは起こらなかったけれども、やはりタイやそれからフィリピンで幾らかずつデモがあったというのは、これはデモの形で表明しなくても民衆の間でいろいろと日本に対する警戒心があるという事実はもう少し——首脳のところでああわかりましたと言われてもやっぱりその点は十分つかんでいていただかないといけないと思うのですね。  それでシーレーン説明ども非常に——非核原則は完全に守ると言われるけれどもどもから見れば非核原則はすでに部分的に破られている。それからシーレーン説明でも、国内の討論からすれば今度はグアムからは三分の二ぐらいの距離だ、それから南西方面は沖縄に沿って一千海 里以内、フィリピンの近くまでは行かないのだという説明をしていらっしゃるのですが、日本シーレーン説明はそれでよろしいのですか、シーレーンの把握は。
  10. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) シーレーンの問題については、これはいま日米合同委員会等検討をしておる問題でありますし、そういう検討中のシーレーン問題に関しての総理としての考え方を述べられたわけですね。これは日本が有事の際に、いわゆる日本が攻撃を受けた際に、日本の周辺数百海里あるいはまた千海里の航路帯というものを日本日本防衛のために守っていかなければならない、そのために日米共同研究をしておるのだと。そしてこれは距離からいっても、直接南西南東方面ASEANにまで達するものではないということを説明されました。この点については私はやはり各国首脳理解も得られたのじゃないかと思うわけであります。  今回、首脳間の会談中心でありましたが、しかし中曽根総理も積極的にASEAN諸国経済界であるとかあるいは学生等とも交流を進められまして、私も見ておったわけでありますが、基本的に違うのは十年前のASEAN諸国日本に対する——政府だけじゃなく一般大衆考え方といまの考え方というものはずいぶん違いがあるのじゃないか。十年の間に日本ASEANとの関係距離というものは非常に縮まったといいますか、日本ASEANとの友好関係のそういう相当な深い根がおりてきたというような私は感じを率直に持ちました。これは私のみでなくてリー・クアンユー首相もはっきりこういうことを言っておるわけでありまして、経済協力も非常に進んでおりますし、それもいろいろと十年前の反省に基づいてASEAN諸国のニーズに対応した形での協力が進んでおるわけですし、人的な交流というのも大分進んできておるわけであります。またもう一つは、ASEANがカンボジア問題というのを抱えて相当危機意識を持ってきておる。こういう中で、また同時に世界不況の中でASEANが非常にいま困難な時期を迎えておる。そういう中でASEANにも、日本と軍事という面じゃなくて経済の面で、あるいはまたその他の交流の面でもっと積極的に進めていきたいという気持ちが相当強く出てきておる。これが今度の訪問の中で相当いろいろな形で表現をされて今度の訪問がいわば成功であったと、こういうことが言えることにつながったのじゃないかと私はそういうふうに考えております。十年前の日本ASEANとの関係は相当変わってきた、よくなってきたというふうは私に実際行ってみまして判断をいたしたわけであります。
  11. 田中寿美子

    田中寿美子君 いま大臣がおっしゃいました幾つかの条件の違いが確かにあるだろうと思いますけれども、ただ中曽根さんは、徹底的に憲法の枠内で必要最小限の防衛力を整備するのであるとか、平和憲法のもとで専守防衛に徹するとか、空母や爆撃機は持ちませんとか、憲法を改正する意思はありませんというような非常に憲法を守る立場、ハト派的な立場ASEANに行ってはとられた。このような姿勢は国内でとってほしいのですね。国内では非常にタカ派的なイメージをばらまいていらっしゃったのを今度のASEANで修正なさったような感じがしまして、大変上手と言えば上手だし、私は、失礼な言葉だけれども、よく風見鶏と言うけれども向こうへ行ったらそっち向くというような感じがしてならない。これは現実にそのようなASEAN外交を展開してもらわないと困ると思うのです。  それで総理が立ち去られた後で、それぞれの国のマスコミなどが非常に批判的な言葉を、記事を載せているということに注目していただきたいし、実際に日本の企業などがASEANにどんどん進出しておりますわけですが、それは後でお伺いしますけれども、そういう企業で働いている現地の人たちのいろいろと不満の声は私どもの方には伝わってまいります。だから、民衆レベルでそういう問題があるということを十分に承知していただいて、経済援助をひっ提げてこられた日本総理大臣に対して各国の元首の言動は非常に控え目であったのだというふうに謙虚に受けとめていただきたいのでございます。  それで、総理大臣フィリピンに行かれたときのスピーチで一部原稿を書きかえて、過去の戦争で貴国と貴国の国民に多大の迷惑をかけたことはきわめて遺憾であり、深く反省しているというふうな言葉をつけ加えられたというふうに伝えられておりますけれども、この多大の迷惑をかけたというのは、具体的にいえばどういうことを指していらっしゃるのでしょうか。
  12. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはやはり戦争中に日本フィリピンの国民に非常に——フィリピンの国民もずいぶん戦禍を受けたわけでありまして、そういう点をとらえて率直に中曽根総理のお気持ちを伝えられたのじゃないかと、こういうふうに私は思っております。
  13. 田中寿美子

    田中寿美子君 フィリピンだけではないのですね。フィリピンでは相当大量の虐殺も日本軍が行った。それからインドネシアだって、比較的日本の与えた被害は少ないとは言われているけれどもそれでも相当のことをやっているわけですね、各地でね。  かつて私がインドネシアを大分前に訪問した当時、これはスマトラですけれども、主としてジャワの方が被害をたくさん受けたわけですが、スマトラでさえ現地の酋長の地位にある人を日本軍がつかまえてそして拷問した。その息子さんがまだ小さな子供でしたけれども来て、私はあそこでちょっと研究することがあって——母系社会の研究ですけれども、まだ日本インドネシアの国交のない時期だったのですけれども、そのときにその小さな子供は、その人のお父さんは日本軍に口から水の管を差し込まれて、そしておなかがぱっと破裂して死んだと、その子供ですよと。しかしこの子は日本に行って勉強したいという意欲を持っているのだという話を聞きました。その人はいまは学者になって日本に来たこともあるというようなことなのですけれども、これはほんの一例で、もっとジャワやジャカルタあたりで相当のことを行ったということを聞いております。ですから、日本軍が東南アジアに進出して占領した間に行った残虐行為みたいなものは、語り伝えられていて民衆の間ではなかなか離れないものがあるということを、多分中曽根総理は幾らかそのような話もお聞きになったかもしれません。非常に歓迎ぶりがいいだけにこれに対して反省言葉を加えなければならなかったというふうに伝えられておりますけれども、そういう言葉日本の国の防衛について述べられた方針、日本憲法の枠内、専守防衛の枠内を超えないという安心感を今後すべて——ASEANだけじゃない、東南アジア諸国あるいは東北のアジアも含めてそういう方向をどこまでも日本外交の方針としていただきたい。つまり、日本の外交はいま対米協力というのが第一番の方針であるということになっておりますよね。そして西側の一員としての外交ということを強調してこられた。ASEANに行ったら今度はASEANとの友好を最大の目標とするというふうに言われる。一体どこに一番日本の外交の中心はあるのですか。
  14. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私は、日本の外交は日本の平和と安全というものを守っていかなければならない、世界の平和に貢献をしていかなければならない、そのための基軸というのはやはり日米であろうと思うわけであります。これは御承知のような日米安保条約というものによっても結ばれております。それによって日本の平和と安全というものは確保されておるわけですからこれが基軸であるのは当然でありますが、同時にまた日本ASEANとの関係日本がアジアの一国であるということはこれは日本の生存という立場から見ても当然のことでありますし、やはり日本はアジアの一国である、そういう基本的な立場で隣国であるところのASEAN諸国とも全隣友好を積極的に進めていく、これがまた日本外交の大きな方針であることは言うを待たないわけでございます。いまお話のありましたように、日本が戦争中に犯したいろいろな過ちもあります、そうした反省を踏まえた結果生まれた日本の外交方針でありますし、また日本防衛の基本的な考え方にこれが連なっておるわけでございます。したがって軍事大国にならない、あるいは諸外国に対しても脅威を与えないということは、やはりこれから日本が生きていく上において戦争中のああいう過ちを繰り返してはならない、いわゆるその反省の上に立った日本の不動の方針として打ち立てられたわけでございます。これはASEAN諸国にも十分認めていただかなきゃならないし、歴代総理大臣ASEAN訪問が繰り返されておりますが、これはやはりASEAN重視という一つのあらわれであります。その積み重ねがだんだんと一つ成果をもたらして今回のこの訪問が比較的成功裏に終わったと、それだけにASEAN日本距離というものが時を経るに従って縮まってきているというふうに私は感じておるわけであります。
  15. 田中寿美子

    田中寿美子君 私たちの目からすれば、対米協力ということを一番中心にしてその方針をASEAN諸国にも納得させるように努力したというふうに思えるのですけれども。ですから外交の方針は、日本はアジアの一員であるというようなことはほとんど言わなくなってしまった、西側の一員であるということは言うけれども。だから、もっと本当にアジア諸国との関係に力を入れる外交になってもらいたいというふうに思っております。  そこで、今回は経済援助をあちこちでたくさん約束してこられました。これまでの経済協力状況を見ますと、インドネシアとかフィリピンに対しては非常に多額の援助をしている。インドネシアには今度は五十八年度の供与分として六百七十五億円の約束をしてこられた。それからフィリピンでは五十七年度分の年次供与分として五百五十四億五千万、特別借款として九十六億円の合計六百五十億五千万、タイには昭和五十七年度の年次供与分として六百七十三億六千万、この円借款をそれぞれ供与することを約束してきた。マレーシアは昨年度の年次供与分として二百十億円、特別借款として四百億円の合計六百十億円、シンガポールはそれを必要としていないと。こういうことで大変たくさんの、合計して二千億ぐらいになりますか、前年比九%増のODA供与を約束してこられたわけなのです。これの評価ですけれども、実際に向こうから要求された額よりはこれは抑えた額なのだろうと思うのですが、そうでしょうか。
  16. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 一般に円借款の要請がございますときは、今回の三カ国に限らず要請国政府からいろいろなプロジェクトをたくさん出してまいりましてその中から選んで相談して決めるわけでございますから、常に先方の要請額は相当大きな額になっているというのが通常でございます。今回の場合もそのとおりでございます。
  17. 田中寿美子

    田中寿美子君 そうしますと、今回こちらが供与するということの意思表明をした金額について不満があったということはないわけですか。
  18. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 今回総理が、いま先生御指摘の三カ国について意図表明をなさいましたときに、先方はこれを非常に評価いたしまして深く感謝の意を表明しておりました。
  19. 田中寿美子

    田中寿美子君 貸してもらうのですから、援助してもらうのですから不服を述べるということはないでしょうけれども、これらのASEAN諸国の経済状態ですね、これはどういうふうにごらんになりましたか。つまり、どこもいま世界的不況で困っているわけですけれどもASEAN諸国状況は経済的に不況の状況で、そしてその原因などをどのようにおつかみになっていらっしゃいますか。
  20. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 一般的にはASEAN諸国のみならず、世界不況の波が非常に深刻になっておりまして、これはもう先進国といえどもそうでございますからいわんや開発途上国はもっと深刻でございますが、開発途上国全体がそうした非常な深刻な中で、ASEAN諸国は比較的まだまだ力は全体的にはほかの途上国と比べて私は持っておるというふうに判断をいたしたわけでありますが、しかしやはり依然として苦しいことは事実でありまして、インドネシアなんかは、御承知のように石油が非常に豊富でそのために経済開発が順調に進んでおったわけですけれども、最近石油の価格が下がったために石油によるところの収入が減りまして開発計画を抑制しなきゃならぬ、こういう状況にありますし、またその他の国についても、これは第一次産品といいますか、一次産品の輸出が非常に停滞しておるということがやはり各国の経済を悪くいたしております。そんなことで、途上国の中ではASEAN諸国は相当力がある方ではございますけれども世界不況の波の中で非常に厳しい歩みを続けておる、こういうふうに判断をいたしまして、それだけにやはり日本協力というものがいま一番大事なときではないだろうか、こういうふうに思いましたし、今度の経済協力も、そうしたASEANの苦しみというものに対してこれにおこたえをしなきゃならぬということであれだけの経済協力決意して約束をしたということでございます。
  21. 田中寿美子

    田中寿美子君 いまお話しになったように、たとえばインドネシアは石油が売れなくなった、それから総じて第一次産品が売れないことが世界不況の中でASEAN諸国の困っている主な理由であると、あるいは金融難といいますかそういうものがあると、それを中曽根総理はやがて行われますウィリアムズバーグのサミットに持っていってASEAN諸国の要望を伝えるのだと、それを持っていって訴えるのだとおっしゃっておりますけれども、そういうものを訴えてサミットで効果がありそうですか、どうですか。
  22. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今回の総理大臣訪問一つ意味は、サミット出席する国はアジアでは日本だけですから、アジアの国民の、アジアの国々の意見を聞いておきたいということが一つの目的でもあったわけなのですが、したがって今回の首脳会談では、まずやはりサミット出席をするに当たってASEAN諸国考え方を聞いておきたいと、それをぜひとも自分はサミットで論議をしてこれを反映したいということを述べられまして、ASEAN首脳も、これに対してASEAN諸国の抱いているところのいろいろな悩み、同時にサミットに対する要望等を率直に述べられたわけであります。基本的にはやはり南北問題というものに帰着するわけなのですが、サミットにおいては南北問題を取り上げて、先進国がいま苦しんでおるけれどもそれ以上に苦しんでおる開発途上国に対して積極的に先進国が手を差し伸べるべきであると。これは金融の問題についてもそうでありますし、あるいは一次産品の輸入についてもそうでありますし、そうした包括的な南北問題といったものをこのサミットの論議に加えてほしいということであります。総理も、その辺のところは十分自分としても心得て、サミットにはASEAN諸国意見を反映したいと、こういうふうに述べたわけであります。  したがって、今度のサミットでは世界の経済の景気を回復していく、回復しつつある、さらにそれに自信を与えるということも大きな課題になると思いますが、やはり日本としてはこの総理大臣訪問を踏まえて南北問題について何らかのアプローチをして、そしてサミットで先進諸国がこの南北問題に対して関心を持ち、さらにこれに対して積極的な姿勢をとっていくように日本が積極的に旗を振っていかなければならないと、こういうふうに私は考えるわけであります。
  23. 田中寿美子

    田中寿美子君 先進国の首脳ですから、いまどこの国もみんな経済不況で困っておりますのでそう簡単にはいかないでしょうけれども、少なくともASEAN諸国状況を訴えるということは心情的に幾らか訴えられるかもしれませんけれども日本そのものが、それじゃASEAN諸国から一次産品を市場開放してどんどん入れることができるかどうかということになると簡単ではないわけですね。それで、南北問題の解決というのは非常にむずかしいけれども、やがて六月に開かれるUNCTADだとかあるいは南北の間の話し合いで進めていかないと、同じ先進国の間での競争もあるし解決できない問題もいっぱいあるということでそう簡単ではない。ですけれども、あれほどはっきりとサミットASEANの問題を反映するということを言っていらっしゃるのですから、どうしてもその点ではサミットでも十分そういう意見をお出しにならなければならないものだというふうに私は思っております。  そこで、前回大臣がおいでになりませんときに政府委員の方を相手に私ちょっと申し上げましたけれども、今回も合計二千億ぐらいの経済援助を約束してきている。日本は現在ODAがGNPの〇・三四%ぐらいまで来ている。あと三年間ぐらいで倍にできるかできないか。つまり日本が世界の平和に貢献する方法としては、武力によるのではなくて経済援助で発展途上国を助けたり、あるいはいろいろ困っている国を助けたりすることが使命ではないかということから、経済援助を懸命にやることが大事だと。  ところで、この経済協力に要します基金の問題なのですけれども経済協力基金はもう赤字、借金になっていますね。それで一般会計からの出資金というようなものを入れませんと、果たして今後経済援助をしていくのに大蔵省がうんと言うかどうかという——経済協力基金というのは財投の資金運用部資金から借り入れて、資金運用部資金というのはたとえは民衆の、大衆の郵便貯金の積み立てたものとか、それから年金の積み立てたものとか非常に膨大なものを大蔵省の中に持っているわけですけれども、それの利率がいま七・三%だそうですが、そこからどんどんつぎ込んで経済援助に使ってきている。ところがもういまや経済協力基金は赤字になっちゃったた。だから一般会計から出資しなければとうてい賄っていけない事情だと思いますけれども、いかがでしょうか。
  24. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いまおっしゃるように、やはり日本が平和外交を推進していく上において非常に重要なことは経済協力を進めていくことだと思います。これによって直接的に世界の平和に対して協力できるわけでありますし、また開発途上国に対して協力もできるわけでございまして、そういう意味において日本の国策として経済協力というものを第一に取り上げておりまして、今回五十八年度予算でもこの経済協力ODA予算は昨年に比べて七%、このシーリングがマイナスという中で経済協力は七%伸ばしておりますし、そしてこれは何としてもやはり五年倍増という方針を実現したいというのが私どもの考えであります。  この倍増計画というのは、これはある意味においては世界に対して日本が方針として打ち出しているわけですから、公約ということにはならないとしても一つ日本の世界に対する方針として出しているわけですから、この方針だけは何とか貫いていきたい。しかし、いまの状況ではなかなかこの五年倍増というものは、このペースで行きますと財政がこういう状況ですから実現するということは困難な面もあるわけでありますが、しかしわれわれはこの方針は何とかひとつ進めていきたいと思います。  問題は、いまお話しのように基金なんかに赤字が出ておるということで、財政当局からすれば一般出資というような形については難点があることはこれは事実でありますけれども、これは財政の問題はもちろんそういう点にありますけれども、しかし日本は国際的な一つの責任といいますか約束というのがあるわけでありますし、そういう面では、何とか赤字は赤字としてこれを解消するためのわれわれとしても最大の努力をして世界に対する国際的な日本の責任というものを果たしていかなければならない。これから五十九年の予算編成に入るわけでありますが、それに対してわれわれはひとつ全力を尽くして倍増計画の達成をしていくための努力を大いに重ねてまいりたいと、こういうふうに考えております。
  25. 田中寿美子

    田中寿美子君 何か御説明がありますか。
  26. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 一言だけ、事実関係でございますが。  先生御指摘のように、現在海外経済協力基金は赤字の問題が出始めておりまして困っておるわけでございますが、ただ現在一般会計から、たとえば五十八年度でもたしか千六百億円ぐらいの出資金をいま御審議願っておるわけでございます。海外経済協力基金の円借款用の原資は、一般会計の出資金が一に対して財政投融資の金を三までの限度という比率で従来運用してきております。
  27. 田中寿美子

    田中寿美子君 いま大臣の、これはやっぱり世界に対する公約であるし、日本が世界の平和に貢献する方向として経済協力ということが最も大切なものなのだということは私もそう思っておりますので、それは財政当局が反対してもぜひ貫いていってもらわなきゃいけない。しかしそのためには財源というものが必要なのですね。それで、前回か前々回にも私申し上げましたけれども、たとえば昨年の国連の軍縮特別総会に鈴木前総理がお出になってそして軍縮についての決意をスピーチなさった。その中で、日本は軍縮をぜひすることについて強い決意であるということを言われて、そして軍縮で浮いたお金を難民だとか発展途上国とか困っているところに回すべきであるというような発言をしていらっしゃるのですね。  それで私が申し上げたいのは、そういうふうに抽象的に軍縮で浮いた金を経済援助に回せと言ったって自然に世界じゅうから金が浮いてくるということはあり得ない。だから、日本のように平和憲法を持ちそして軍縮については先頭を切っていかなければならない国は、もっと具体的な提案をするべきであると。だから世界じゅうの国が、先進国が軍事費のうちの何%かを拠出して、そして、それをそういう方向に向ければもっと途上国、あるいは南北問題に貢献するのではないか、そのくらいの提案を軍縮委員会ででもどこででもやってもらいたいということを申し上げたのですが、実はきょうまたもう一度それを問題にいたしますのは、ことしの四月にポルトガルのアルブフェイラというところで社会主義インター——私ども社会党と民社党が日本からは参加しておりますが社会主義インターの大会がありました。そしてそのときの決議があるのですけれども、その決議は、一番いま重大な問題は南の飢え——飢餓ですね、そして北の失業であると、だからこれには一定の手当てをしなければいけない、だから核軍縮によって肥沃な畑と新しい産業をつくり出せというようなことを目標にした決議をしているわけなのです。社会主義インターと申しますのは、たとえば西ドイツの社会民主党、それからフランスのミッテランの属しております社会党、北欧諸国の社会民主党、あるいはいまはスペインもポルトガルも社会党政権下にあるわけです。ギリシャもそうなのですね。ですから政権をとっている政党もたくさんある。いま議長は西ドイツのブラント社会民主党党首です。そして私どもの社会党の飛鳥田さんが副議長になっておりますわけなのですが、ここで核軍縮を提案してそのブラント議長の呼びかけた決議がされております。それは、当面各国が軍事費を五%削減して経済発展の基金としてプールする協定を締結してはどうかと、そして現在は大いなる恐怖と大いなる希望をあわせ待つ時代である、軍拡競争をやめ、南の飢えと死、北の失業対策にこれを充てて全力を尽くすべきではないかというようなこと、それから特に最貧国を負債の利子から解放するように、第三世界の負債対策というようなことも考えるべきではないかというようなことをその決議の中に盛っているわけですね。大変理想的に聞こえるかもしれないけれども、このような具体的な提案に対して日本のような国は考慮をもっと払うべきではないかと思うのですけれども、いかがでしょうか。
  28. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 大変結構な決議であると思います。しかし、これに具体性を持たせるには一体どうしたらいいかということが問題じゃないかと思うのですね。軍縮をすると言っても、たとえば西側陣営だけが一方的に軍縮をするということになれば、いま世界の平和というのがいわゆる力の均衡というものによって保たれておるという立場からすれば、世界の安全保障という面で危機が訪れてくるという可能性もありますし、やはり本格的な軍縮が行われるには東西両陣営が平均して軍縮をしていく、そしてそれによってもちろん余分な資金がいまの開発途上国等に向けられるということならば、これはまさに何といいますか公平な軍縮であるし、またそれが実際にできれば私はまことに結構な方向だと思うのですが、果たして東西両陣営ともこぞってそうした軍縮ができるかどうか。いまのINFの交渉一つをとってみましても米ソ間には大変大きな意見の隔たりがあるわけであります。ですから、やはりこうした結構な決議が実行されるには、それぞれ現実的な手段というものを踏まえてこれから進めていかなければならぬ課題じゃないかと思うわけで、これは日本としても鈴木総理も積極的に世界に対して呼びかけておるわけでありますし、日本は平均のとれた、均衡のとれた軍縮というものには大賛成であります。したがって、軍縮委員会等におきましてもそうした日本立場は主張しておりますし、とにかく実効性のある現実的な軍縮が進むというためにこれから日本としても努力をしてまいらなきゃならぬと、こういうふうに思います。
  29. 田中寿美子

    田中寿美子君 ですから、もしASEAN諸国の要望をサミットに持っていって伝えるというふうにおっしゃるなら、ASEANだけじゃない、東南アジア諸国もいろいろと非常に苦しんでいる。南の諸国は飢えに苦しんでいる。北は北で失業の問題、だからそういうものを含めて軍備拡張の方に金を使う分をみんなで出し合ってはどうかというような提案は、これはジュネーブの軍縮委員会、もう終わったけれどもああいうところでも、あるいはサミットでも日本が提唱して少しも恥ずかしくない提案じゃないか。一歩から始めなければなりませんですから、だからアメリカなんかの核凍結の運動だってあるいは現状を凍結している。私は西側だけ軍縮しろということを言っているのではありません。世界各国みんなが一歩から始めなければいけないのではないか。ついでに申し上げますけれども、この社会主義インターではスウェーデンの総理大臣のパルメさん——社会民主党党首ですが、パルメ委員会というのは世界の平和研究学会の中のものですけれども、去年の軍縮特別総会の前に日本に来て、広島などを見てそして提案しております中にもそういうことは入っている。つまり各国が軍事費を幾らかずつでも減らそうと、そしてそれをプールして南北問題に充てたり、あるいは北の失業もあるだろうからそういうこともあると同時に、ヨーロッパの東西の間に非武装の地帯を設けてはどうかというようなことも提案しているわけですね。ですから、何かいまINFの交渉で米ソがデタントに向かうのか、それともまた後引っ込むのかといういろんな動きが見られますけれども、そういうものに対し私どもはやっぱりぜひ何か一歩でも進めるようなことをしてほしい。それには日本アメリカと仲がいいのだから、アメリカにももちろんそういうことを言うし、そしてソ連にもそういう要求をするということで積極的な姿勢をとってほしいということを要望申し上げておきます。  最後に、クアラルンプールスピーチの中でも、あるいは途中でしばしば報道されましたけれども青年交流の問題ですね。中曽根さんは言葉つくるのが大変お上手で、二十一世紀のための友情計画、大変いい名がつけられていると思うのですけれども、今度改めていままでの交流計画に各国百五十人ずつふやして五年間三千七百五十人、年間七百五十人の交流をする。一カ月間それぞれの国から青年を呼んで、そして日本の民宿などをさせて、日本の家庭の中で生活をさせて友情をはぐくむのだ、なるべくならば向こうは青年教師、教師なんかを送りたい、そしてホームステイをさせたい。ところが中曽根さんは、それならばこっちもそのカウンターパートであるところの日本の教師たち交流したらいいと。私は、決してこれは悪い計画じゃない、いいとは思いますけれども、一カ月間日本を見せてあげるという、それは意味はあるかもしれないけれども、果たしてこれが両方の親善友好の役を果たすだろうか、大変懸念を持つわけです。生活の慣習が違いますですから日本の家庭に滞在させてうまくいくかなという、またそれだけ百五十人を受け入れる家庭があるかなという心配をします。  私、かつてアジアの女性たちと一緒に北欧を研究旅行したことがあるのですけれども、そのうちの半分ぐらいはイスラム教徒でいらしたわけです。そうしますと、北欧のような西の国の家庭に泊まったこともあるのですけれども、まず変な話ですけれども、トイレの使用の仕方ですね、それが洋風のトイレであっても、水を使うイスラムの人たちはやっぱりそのトイレをそういうふうに使われるわけですね。そうしますとその家庭の人は非常に文句を言うというようなことがありまして、そういう慣習の違いなどを考えたりして十分の計画をしなきゃならない。ですからよく外国旅行をした場合に、人は自分の持っているものを持って帰ると言います。自分の持っている教養分だけしか外国からは得るものを持ってこないと言いますけれども、一カ月ずつ呼ぶ場合に、これはよほど前もっての研修というか勉強もしておかなければいけない、そういうふうに思いますのですが、まだ計画は具体化されていないと思いますけれどもその点をどういうふうになさるおつもりでしょうか。
  30. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは、中曽根総理から各国首脳にこの計画が提案をされまして、各国首脳が非常に積極的な反応を示したわけで喜んで受け入れられたわけですが、したがってやっぱりこの計画は成功させなければならないと思います。成功させるにはいまおっしゃったようないろいろな問題があるだろうと思います。私も、実はASEAN諸国日本に留学して、あるいは日本で研修した元学生、元研修生等とも話をしたわけですが、その際に、自分の子供は日本には留学させたくないという人もその中にはおりました。それはどういうことかといいますと、一つは、国に帰ってきてもどうも日本の企業が十分採用とかしてくれない。せっかく日本で学んだ分が役に立たない。あるいはまた、どうも基本的に日本ASEANの文化が違う。そういう面で、むしろ自分たちは西欧の文化の方になれておるということで、自分は非常に日本が好きだし日本で勉強したけれども、子供たちはやっぱり日本よりはむしろ西欧に行かせたいのだという話も十人のうちの二人ぐらいはおりまして非常にショックを受けたわけなのですが、やはりそういうことを考えますと、一カ月の留学ですから非常に短時日で、それだけにまた受ける印象というのが一カ月の印象で、国に帰って、それが将来とも残っていくわけですから、その一カ月間の訪日で非常に有効に日本というものを十分知ってもらうようにするというわけですから、よほどこれは準備をしてかからなきゃいかぬと思っております。したがって、せっかくの二十一世紀のための友情計画と銘打ってやっているわけですから、そして各国ともこれを喜んで受け入れたわけですから、われわれとしても、この具体化についてはこれは五十九年度から実施をするということで差し迫っておりますので、関係各省庁とも相談をいたしまして、いまお話しのような点は十分踏まえて、何としてもこれを成功させるという立場検討して準備を進めてまいりたい、こういうふうに思います。
  31. 田中寿美子

    田中寿美子君 中曽根さんのクアラルンプールスピーチでは、ASEAN諸国との文化の同一性というのを最初の前文のところでおっしゃっているのですけれども大変文化が違うということと、それから、それぞれ植民地支配を受けた国——タイなんかを除いてありますから、いまおっしゃったように、ある部分の人たちは西欧的な文化の方になれているということもあったりしますね。ですから、十分な計画の効果が上がるようにしないとそれこそお金をむだに使ってしまうということになると思います。  それで、ついでにその留学生ですが、短期間の日本見物というのではなくてASEANへの日本からの留学生、それからASEAN諸国から日本に来ている留学生の数とか実態を、これはもし外 務省でわかれば外務省の方で結構ですけれども、ぜひその状況を伝えていただきたいと思います。
  32. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) ASEAN諸国からの国費留学生の日本への受け入れでございますが、現在ASEANからは五百一名になっております。これは全世界からの国費留学生の約二八%でございます。この留学生につきましては年々拡充してまいりまして最近かなり数はふえております。  なお、私費につきましてはASEANからは比較的少のうございまして、二百九十四名ということで、主に私費につきましてはこれ以外の地域から参っております。  それから、日本からASEAN諸国への留学生でございますが、昭和五十七年度につきまして日本の政府奨学金による者が十三名でございます。そのほか、外国政府の奨学金による者が四名ということで、総計十七名になってございます。  なお、私費につきましては正確な数字はわかりませんが、かなりいろいろな形で短期間あるいは中期間行っているということが想像されます。  いずれもこれらの留学生は特殊な地域研究を目的として、現在、大体一、二年の期間日本から行っているというのが現状でございます。
  33. 田中寿美子

    田中寿美子君 日本からASEANに行っている十三人の国の内訳はわかりますか。
  34. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) インドネシアが二名、マレーシアが一名、フィリピンが七名、シンガポールが二名、タイが一名、計十三名でございます。  それから、外国政府の奨学金による者が四名でございますが、その内訳につきましては、インドネシアが三名、タイが一名、こうなっております。
  35. 田中寿美子

    田中寿美子君 その奨学金というのはアメリカですか、外国政府のあれは。
  36. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) これはそれぞれの、タイないしはインドネシア政府の招聘でございます。
  37. 田中寿美子

    田中寿美子君 こちらからASEANに本格的に腰をおろして、留学して、その土地の習慣もよくつかみ、その国の人々の考え方も十分つかんで将来の本当の友情を育てるための留学生というのは非常に少ないですね。前にスカルノ体制のときに賠償留学生というのが日本にたくさん来ていたわけです。先年、私インドネシアに参りましたときにも、今回中曽根さんがいらっしゃったときにも皆さんが聞かされたことだと思いますけれども日本へ留学して日本でいろんなことを習ってきても、日本の企業そのものが採用してくれないとか、採用しても日本人職員と労働条件、賃金などに非常に差があるとか、日本で勉強しても、後、日本語を使わなければ役に立たないような状況では余り日本に留学したくないというのが向こうから留学した人たちの言い分でございました。  それで、こっちからの場合はいま一、二年間の留学生というふうに言われましたけれども、これは文部省の方が御存じかと思いますが、もうちょっと短い留学もあるのですね。研究を目的に行かれる方が三カ月ぐらいでインドネシアなどには行かれる。そうすると自分の研究目的地に入って、そしてプランを立てて調査、研究に回っているうちに今度はもうすでに報告書を書かなきゃならないというわけで、三カ月くらいの留学というのは非常に残念で、せっかくこれからというときに帰らなきゃならないようなあんな制度じゃなくて、これはインドネシアのケースですけれども、西ドイツだとかアメリカの人は二年も三年もじっくりと土地の家に住み込んで、そして研究もしたり協力もしたりつき合いもしている。その点が日本からの留学生には非常に欠けているのではないかということですが、これについてどう思われ、そして今後どうしようと思っていらっしゃるかを伺いたいと思います。
  38. 岡村豊

    説明員(岡村豊君) お答え申し上げます。  ただいま申し上げました日本政府の奨学金で参っております十三名の留学生は、期間はいずれも十カ月以上でございます。そして、その中でも種類がございまして、アジア地域についての将来の地域研究者を養成するためにアジア諸国等派遣留学生制度というのを設けております。これは期間は二年間でございます。この制度は発足以来十年以上たっておるわけでございますが、この制度によって留学して帰ってこられた方はそれぞれ皆さんりっぱなアジア地域の研究者になっている、こういう状況でございます。  なお、三カ月というお話につきましてはこれは留学生制度以外で、たとえば教官が研究のためにということで別の制度で行っておるのだろうと思いますが、教官が参ります制度につきましても長短さまざまございますので、それぞれ目的に合わせて適切な選択をしていただくよう今後大学等についてさらに一層指導してまいりたいと、かように考えております。
  39. 田中寿美子

    田中寿美子君 終わりますけれども、いずれにしても数が少ないですね。わずか十三人が国費で行っていると。そして四人はそれぞれの国から行っていると。ASEANを重視するとかアジアを重視すると言う以上はもっと——その留学は魅力がなくてほかの方がやっぱり日本の人にとっても仕事につく見込みがあるとかなんとかということであれば、先方の留学生の言っていることと余り変わりなくなるわけです。ですから、何かもっと工夫をしていただきまして、大量に青年たち日本を見せてあげるのはこれまたこれで別のやり方で、さっき申し上げましたように有効に使ってほしいけれども、しかしじっくりと研究した人が、これは外務省の職員だってそういう方たちが入ったらいいと思うし、それぞれの企業にもこのごろは必要だろうし、そういう点をぜひ十分考慮して人物交流計画をしていただきたいということを申し上げて、私の質問を終わります。
  40. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 昨年十一月二十六日中曽根内閣が発足をいたしまして五カ月、今年一月の訪韓、訪米を皮切りに近くはASEAN訪問、あるいはOECD閣僚理事会、また引き続きサミットということで、ようやく中曽根外交が回転し出したというそういう印象であります。ただ、中曽根外交の真価が問われるというのはむしろ今後にあるのではなかろうかというふうに感じられます。そこで、最近の一連の訪問を通しての問題、そしてさらにはウィリアムズバーグにおけるサミットに臨む日本政府としての対応、こういった問題を主体に、若干これからお尋ねをしてまいりたいというふうに思います。  先ほども報告がございましたし、また若干それを中心に触れられた質疑がなされました。要約いたしますと、今回、ASEANについては日本安全保障政策についての理解を求めるということが一つと、経済協力と、それから文化交流と言った方がいいのか、それを軸にした人的交流のあり方というものが中心であったろうというふうに思うわけであります。わが国安全保障政策については、確かに総理が胸を張って大変な理解を得ることができたというふうに評価をなさっているようであります。ただ、新聞報道等を通じて見ましても、すべてがパーフェクトにいくということは考えられません、日本においても賛成もあれば反対もあるといういわゆるさまざまなそういう受けとめ方というものがあるわけでございますので一概には言えないかもしれませんけれども、ただやはり過去の忌まわしい記憶というものを想定しつつ果たして日本は、総理の言われるとおり、今後の日本安全保障政策についてあくまでも憲法の枠内における専守防衛に徹し切れるものであろうかということについては、それぞれの地域の学者、文化人と申し上げた方がよろしいのでしょうか、そういう人たちからのやはり不安感を交えた反応があったことも事実のようであります。しかしいまここで、だからと言って果たしてどうなのだろうと。確かに一月の訪米時における総理の御発言を通し波紋もあったろうし、ASEAN地域におきましてもいろんな受けとめ方があったことは否定できないだろうというふうに思うわけです。したがって、こうした一連の経過の中で疑惑を与えるというようなことは日本外交の今後にと ってきわめてマイナスになるということは常識でございます。やはり中曽根外交とはこうあるのだと、あくまでも平和外交に徹し切って将来ともに貫くのだという一貫した印象を与えてこそ初めて正確な評価というものを受けることができるのではあるまいかというふうに思えて実はならないわけであります。今回の日本安全保障政策もさることながら、国際情勢が激動するというそういう状況の中では、特にASEAN地域にとっても軽視できない、軽視というよりも無視できない問題として対ソ観は一体どういうふうに持っているのだろう、あるいは対中国関係というものについてはどういうふうな考え方を持っているのであろう、あるいは最近の核軍拡というものが次第にエスカレートしているその状況の中で一体ASEANとしてはどういうふうに対応していったらいいのかという、ASEANASEAN自体のそういう考えといいますかさまざまなものをお持ちになっていたのであるまいか。日本として今後友好親善の関係をさらに推進し連帯感を強めるという立場に立つならば、こうしたもっと幅を広げた安全保障政策というものも当然考えていかなくちゃならぬ問題になっていくのであるまいか。そういうようなことが、関連してこの話し合いの俎上に上らなかったのかどうなのか、まずこの問題からお伺いをしてまいりたいと思うわけであります。
  41. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今度の総理ASEAN訪問首脳間で話になった議題は、政治の面におきましては何といいましてもカンボジア問題であります。カンボジア問題につきましてはASEAN諸国は非常に深刻な危機感というものを抱いておりまして、いまベトナムがカンボジアに侵入している、その背景にはソ連があるわけであります。カーピッツァ次官なんかが東南アジア諸国を歴訪したことは御承知のとおりであります。そうしたソ連の勢力がやっぱりベトナムに出てきたということ、同時にまた潜在的には中国に対する一つの恐れというものもあることはこれは事実でございます。そういうような状況の中にあってこのカンボジア問題がどういうふうに解決していくかと。カンボジアからベトナムが撤退をしてあそこに自主独立の民主政府ができる、このためにASEAN諸国は結束を強化して努力を重ねておるわけでございますが、依然として見通しは立たない。こういう状況で、相当やはりASEAN諸国は危機感を持っている。特にタイはいわば前線国家とも言うべき、タイの国境で戦闘が行われるということもあって非常な危機感が強いわけでございます。  そういう状況でございますから、やはり首脳間の論議もカンボジア問題をめぐって、あるいは中ソの動きであるとかあるいはまた米ソの関係であるとか、その中における日本立場であるとか、そうした世界の情勢、特にアジアを中心とした、ASEAN中心とした国際情勢判断というものが議題になったことは事実であります。  二国間の問題については、先ほどから論議が行われておりますような経済協力、文化交流あるいは人的交流、そういうものが中心でございました。  それで、全体的に見ればASEANは最近カンボジア問題というものを契機にしてASEAN自体の結束も固まり、同時に危機意識というものが強くなったとそういうことで、またASEAN諸国の経済的な不振ということもあって一面においては結束を強化して、やはりアメリカがしっかりしてもらわなきゃ困るという一つ考え方があるように思います。一面においては、やはり日本の経済的な面での支援といいますか協力というものを強く今後も求めていきたい、こういう考え方が全体的に強く打ち出されたというふうに判断をいたしております。
  42. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 おっしゃるとおりだと思うのですが、特にいまカンボジアの問題が俎上に上ったわけでありますけれども、これは大変長い月日が経過しておりますし依然として問題解決への足がかりも見出されないという、とりわけ難民問題もこれに絡んでありましょうし、たしか総理タイ訪問されたときに、難民問題処理に当たっては日本としてもできるだけ協力を惜しまないというような発言等もされているようであります。そこで、具体的に話し合われたということであって、日本としてこういう役割りを果たしてもらいたいという、期待感を込めたそういう要請なり注文なりはなかったわけでありますか。
  43. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは総理との首脳会談、私もそれぞれの国の外相との会談をしたわけでありますが、基本的には先ほど申し上げましたように、ASEANがカンボジア問題で非常に危機感を抱いて、むしろ軍事的な面でも圧迫感を持っておるという意味において日本に頼る、日本に軍事的に頼るということは考えていないということでありまして、日本自体が日本自衛のための努力を続けているということには十分理解を示しながら、日本がさらにASEANにまで軍事的な協力を果たしていくということについてはASEAN諸国は必ずしもこれを期待してないということでありまして、日本に対する期待は、一つは経済的な面でのASEANのいまの苦境というものを救済するための積極的な援助その他の協力を求めておるということでありますし、また難民対策等については日本も国際機関等を通じて積極的にやっておりますが、それをさらに強化してもらいたいということであります。  同時にまた、カンボジア問題解決のために日本ASEAN立場に立って世界の世論を喚起し、そして世界世論をASEANの外交を支援する方向へ引っ張っていくというために日本努力をしてもらいたいと。同時にまたベトナムとの対話は、日本はベトナムに対しては経済援助をストップしておりますけれど、しかしやはり日本日本なりの役割りというものをカンボジア問題解決のために果たしてもらいたいと、そういうふうなことがASEANの大体基本的な要請であったように私は受け取ったわけであります。
  44. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 確かに日本のできる役割りというものはきわめて制限された範囲ではなかろうかというのはいま御答弁されたとおりだと思うのですね。  先般、たとえばベトナムの外務次官が来日されたときに、安倍さんから大変強硬にカンボジアからの撤兵ということの要請もされた。こういった話し合いというものは日本としても独自に強力に推し進めるということもできましょうし、またいま触れましたように、難民問題についても一体具体的にどういうふうに枠を広げるべきなのか。これは先般来からここでもしばしば指摘されておりますように、何といっても大事なことは、難民というのは水道の蛇口をとめなければならぬわけでございますから、しかし水道の蛇口をとめても漏水というやつがあるわけで、あるいはボートピープルだとかランドピープルというものはいまだに後を絶たないという問題もございましょうし、また一番そういう問題で深刻な影響を受けているのはタイであるわけでございますから、果たして日本としてどういうことができるのか、こういったところが、恐らくこのカンボジア問題を中心とする解決への何らかの糸口になる日本が果たすべき役割りではないのかなと。そういった面は当然いまおっしゃるように話し合われたわけでございますね。
  45. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) もちろん日本としてのASEANに対する協力、特にカンボジア問題についての日本の姿勢についてはASEAN諸国に対しましてはっきり申し上げたわけであります。日本は、ベトナムがカンボジアから撤兵をするまではベトナムに対する経済援助をしない、いわゆるカンボジアに民主独立政府ができる、そのためにいま努力をしている三派をASEAN諸国が支援をしている、このASEANの外交に対して日本は積極的に協力をしていく、こういう日本立場は明快にASEANに伝えました。ASEAN諸国日本のそうした外交の方針に対してきわめて好意を持って非常に深く多としておったわけでございますし、またさらに、難民の救助等に対する国際機関を通じての日本のこれまでの努力も非常に多といたしました。さらに、日本が積極的に国際世論に働きかける、ASEANの外交を支援しながら国際世論に働きかけるという点についても非常に大きな期待を表明いたしたわけであります。
  46. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 もう一つは、ASEANというと経済協力ということがすぐ頭に浮かぶくらいの地域であるわけですが、経済協力と申しましても同じ発展途上国の中でも昨今は比較的安定した地域であろう、そうしたことが一応認識できるだろうと思うのであります。ただ、いま世界的にも景気が低迷しているという状況の中で、国際経済の活性化というものが恐らく共通した方針として取り組まれているわけでありますので、恐らくこのASEAN地域においても、先ほど御答弁の中にあったように、特に中国に対して何らかの恐れを抱きながらも、しかしまた一次産品を中心とする二次産品にいたしましても、中国という国はまた大変大きな魅力あるマーケットではないだろうかという判断もあるのではなかろうか。しかしそういった面について、ASEAN諸国が積極的に中国と接近するという、あるいは接近するために日本に対して何らかの手だてというものを講じてもらえないかというような話は別段なかったわけでしょうか。
  47. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ASEAN諸国は、ASEANとしてはまとまっておりますが対中国政策ではそれぞれのニュアンスの相違もあるわけでありまして、もちろんタイとか、あるいはまたマレーシア等は中国と正式な国交関係を持っておるわけですが、インドネシアあるいはシンガポールは持っておりません。インドネシアとの首脳会談中曽根総理から、中国政府が日本に伝えた意向としてインドネシアとの国交再開の用意ありと、こういうことを伝えられたわけでありますが、インドネシアスハルト大統領はまだインドネシアとしてはその時期が熟していないと言ってこれは否定的な見解を示されたということであります。したがって、中国政策についてはASEAN全体の足並みが必ずしもそろっていないということであります。しかし、ベトナムをソ連が応援をしている、そしてカンボジアに入ってきた、そしてこれに対して中国が反対をして中越国境との紛争もできておるし、あるいはまた中国が三派の一つ、クメール・ルージュといいますかポルポト政権を支援しておると。これもまた三派という形でASEANも支援をしている。そういうことで中国とのそういう面でのかかわり合いというものはあるわけでございまして、なかなかこの辺は複雑な面があるのじゃないかというふうに判断をいたしました。
  48. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 確かに一刀両断的にこうだという断定的な判断を下すのは大変むずかしい環境であろうというふうに思いますね。これはいままでの歴史的な経過の中でそれぞれ利害が相反するというそういう事情もございましょう。ただ、これから将来のアジア全体の繁栄と平和ということを考えてみた場合に、社会体制の違いはあろうともやはりここに日本が果たさなければならぬ役割りというものは当然求められるでありましょうし、そういった中にこの中国というものも無視はできないという存在であろうということでありますし、恐らくこれ以上の分析、何がそういう原因になっているかということをあえてお伺いいたしましても、ただ、そうかと言う程度にとどまるわけでありますので、しかしいま申し上げたようにやはり将来展望、これから五年先、十年先ということを考えてみた場合にさらに情勢も激変するかもしれません。そういう激変する環境の中で、まず少なくともアジア地域においては平和と安定というものが保たれるという方向へ少なくとも道を開く、そういう先導的な責任というものを日本がぜひとるべきではないだろうか。さまざまの問題がある、さまざまに複雑に絡み合ってだからできないのだとするならば、これはいつまでたっても百年河清を待つようなことにしかならないわけでありますので、いま申し上げておる中国との問題につきましても、これはいまインドネシアの例が一つ出されましたけれども、長い時間がかかってなおかつなかなかうまくいかないという問題、恐らくその背景というものを考えればいろんな問題点というものは当然浮き彫りにされてくるでありましょうし、むしろ前向きに友好親善の方向へお互いの国が維持できるようにまた持っていかしめるということも日本にとっては大きな役割りじゃないのかなという感じがしてならないのです。いま直ちにということは大変無理だと思うのですけれども、これから何年か先、短期、中期の展望に立ってそれを推し進めていかなければならないというそういう構想はお持ちになりませんでしょうか。
  49. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今回の中曽根総理訪問というもので日本ASEANとの関係はより一層深まったというふうに考えておりますし、日本ASEAN協力をして、またASEANに対して果たす役割りというものはますます大きくなったと思いますが、私は基本的には、これはかつて福田総理のとき、マニラでいわゆる福田ドクトリンというのが出されて非常にASEAN諸国評価を得たわけですが、ASEANとの関係は、一つはやはり日本軍事大国にならない、ASEANの持っておる潜在的な日本に対する懸念というものをはっきりと払拭する、払拭し続けていくということが最も大きなことであると、これは今回の中曽根総理訪問によってさらに明確にされたわけであります。同時にASEANとの関係は、ただ経済的な協力関係というものはこれを進めていかなきゃなりませんが、それだけでは済まないわけでやはりもっと心と心のつながりというものを拡大していく、先ほどからお話がありましたようないわゆる人的交流といったものもまだまだ非常に貧弱でありますから、これを拡大して将来へ向かっての心と心のつながりを拡大していくための具体的な努力というものを今後続けていかなきゃならぬ。同時にまた、カンボジア問題で非常な厳しい状況にいまASEANはなっておりますけれども、しかし基本的にはASEAN諸国とインドシナ三国といいますか、一番接近しているのはインドシナ半島三国でありますから、やはりインドシナ三国との対話といいますか平和共存といいますか、友好関係を確立していく。そのために日本がこれからどういう役割りを果たしていくかということであろうと思います。そのために日本としてもいろいろな努力を今後にわたってやっていかなきゃならぬと、私はそういうふうに思うわけです。
  50. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 この経済協力の問題についてはそのときそのときの歴代総理訪問をされましていろんな約束もされてきた。今回もまた経済協力の面についてでき得る範囲の中で約束をされてきたようであります。従来ずっと約束されてきた、また打ち出したいろんな政策というものも、ASEANにとっては大変耳ざわりのいいそういうものもあったろうと私は思うのですが、これはどうなんでしょうね、着実に今日まで実行されてきているのでしょうか。これはむしろ柳さんに聞いた方がいいのかな。
  51. 柳健一

    政府委員(柳健一君) 御質問のASEAN諸国に対しますこれまでの歴代総理大臣田中総理大臣福田総理大臣、それから一昨年の鈴木総理大臣、それらの総理訪問されましたときに約束されました援助案件は、大体ほぼきわめて順調に実施されてきております。たとえば一例を申し上げますと、田中総理のときはほとんど一〇〇%近く、福田総理の場合でも九〇%から一〇〇%というふうにみんな実行されております。鈴木総理の案件はまだ二年前のことでございますし御案内のとおり円借款というのは若干時間がかかりますので、執行率の面ではまだパーセントは低いのでございますが、二年間ということな考えればきわめて着実に実行されているというふうに考えております。
  52. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 約束された以上は、たとえ日本の経済情勢が厳しい、財政が硬直しているというようなことは理由になりませんわけですから、当然それも十分考慮の中に入れて思い切った話し合いの中でそういう約束をされたと。これはぜひこれからも強力に実行の方へ向けて取り組んでいただきたいなという感じがしてなりません。  それから人的交流の問題で、いまもお触れになりましたけれども何せこの狭い日本の国土でございますので、たくさん受け入れる、しかも長期間にわたってASEAN地域の留学生を初めとする方々を迎え入れるということは望ましいのでしょうけれどもなかなかこれは大変な作業ではないのかなと。難民の収容所問題一つを見ましても、先般私も外務委員会で品川に視察に行ってまいりましたが、それもようやくここまで来たのかなという印象でございました。しかもこれから、たとえば七百五十名、五カ年間で三千七百五十名を受け入れる、大変結構なことだと思うのですね。そのためには当然お金もかかるでしょうし施設もかかるでしょう。受け入れの環境というものもいろいろと選択をしていかなきゃならぬ問題。恐らく総理自身の頭の中には、あるいは安倍さん御自身の頭の中にも年間七百五十名なんかで対応し切れるのかなと、できるならば千名でも二千名でもということをあるいはお考えではなかったのかなと。私どもも端的に率直に考えますと、日本に対する十分な認識というものを持っていただくためにはそういう若い人たちに来ていたたいて、きわめて感覚的に非常に敏感な時代に、短期間ではなかなか日本の文化であるとか歴史というものを吸収するということは、時間的に非常に無理だと思う。やっぱり一年とか二年という、これにも大変いろんな制約条件があってむずかしいということを考えますと、これは本当にできるのか。逆にまた日本からASEAN地域に出すことも必要だろうとは思いますけれども日本を知ってもらうということがこれからの連帯感を強める上においては大変大きな効果をもたらすであろうということが一つと、先ほどもお話がありましたようにせっかくこちらでいろんなさまざまな経験をされて、日本に対する認識理解というものを深められた方々が今度は本国に戻られる、しかし戻ってもそれが生かされないという問題、こういう問題も総合的に考えて日本政府として対応するということがやはり求められてきはしまいか。ここでもう一遍それを整理をした上でいま申し上げているわけでございますので、恐らくそういう問題もお考えの上で今回いろんな点の発言あるいはお約束というものをされてきたのではあるまいかと。十分自信がおありになるのかどうか。将来どういうふうな方向で、たとえば一つの例であれば人的交流のありようというものについてどうお考えになっていらっしゃるのか、改めてお伺いしておきたいと思います。
  53. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ASEANとの人的交流、特に留学生とか研修生とかそういうものを受け入れる、あるいは日本からも留学生等を派遣する、これは今後のASEANとの関係を考えますときに私は非常に大事なことだと思っております。いまのASEAN諸国日本に出しておる留学生、研修生は、欧米諸国に出しておる研修生あるいは留学生と比較をすると問題にならないと。一%か二%というふうな数字も出ておるわけで、そういうことを考えますと、将来はこれは拡大をしていかなきゃ本当の意味での長期にわたってのASEANとの深いつながりというものは、いわゆる心のつながりというものはできていかないのじゃないかというふうに思います。ですから私は、日本に財政という一つの枠組みがありますからなかなか困難な点はありますけれども、今回もわずかではありますけれども一つ拡大方針を打ち出したわけでございますし、現在ASEAN諸国から、外務省あるいは文部省初め各省の予算で昨年度、本年度、年間で約二千五百人、これは短期と長期の滞在でありますが二千五百人を受け入れておりまして、明年度以降は七百五十人純増するということにいたしておるわけですが、まだまだこれでは不十分でありまして、財政がこれから日本も再建の段階に入っていきますけれども、財政の許す中にあって私はできるだけの受け入れ体制というものを拡大していくべきだと思いますし、その方向で私も努力をしてまいりたいと思います。
  54. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いよいよウィリアムズバーグのサミットが迫ってまいりました。その地ならしとも言うべきOECD閣僚理事会あるいは主要先進国の外相会議等が持たれたようであります。きわめてわずかな日程で、客観的に見ましてもある意味における大変成果のあった会談ではなかったのかなというふうに思えるわけでありますが、特にシュルツとかゲンシャーに会ったときの話し合いの内容というものはこれから日本としても当然避けて通れない、むしろ積極的に取り組んでいかなければならない問題、そういうものが取り交わされたようであります。こうした点について、恐らくサミットにおいても当然議題になるであろうというふうに予測されるわけでありますけれども、今回は報道によってわれわれ印象的に知る以外にないわけでありますけれども、むしろ二国間の問題よりもアジア地域の問題であるとか中東の問題であるとか、あるいはINFの制限交渉の問題をどうするのかというこういった問題に論議が集中されたという印象を実は受けるわけであります。こうした点で、日米欧というものがいよいよ足並みをそろえてさまざまな問題に対処できるような方向へ行けるのかなと、こういう感じを実は持ったわけでありますが、その辺の概要についてお述べをいただければ大変ありがたいと思います。
  55. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) IEA、それからOECD会議に私も出席をいたしたわけでございますが、両方の会議とも議論は相当活発には行われましたが、全体的に見ますと余りぎすぎすした対立というものはなくてコミュニケも最終的には満場一致で採択をされるということになりました。特にIEAは、これはフランスは加入していないのですが、そのIEAコミュニケがフランスが入っておるOECDで受け入れられたということは非常に私は成果ではなかったかと思います。OECD会議も、これまたやはり政治的な面というものは避けてむしろ経済面での論議というものが主として行われたわけでありますし、特徴としては、世界経済が明るくなっておる、そういう中で先進国は保護主義というものを防遏していかなきゃならぬということでいろいろと過程においては意見がありましたが、これがまとまったということが一つの特徴であったと思います。それから東西経済の問題で、これは去年はサミット等で非常に厳しく対立しまして後まで尾を引いて、いわゆるヨーロッパとアメリカがヤンブルグの開発をめぐっての厳しい対立にまで発展をしたわけでございます。この東西経済問題が、アメリカもどちらかというと弾力的な姿勢で臨みましたし、またフランスも妥協的な立場で臨みましたために東西経済問題もヨーロッパとアメリカの間で妥協が成って、コミュニケが円満な形で採択をされるということでありまして、全体的には、いままでになくこの会議というものは議論は活発でしたけれども円満に進行した。特にまた日本に対しては、これまでOECD各国日本に対する批判を相当強くしておったわけです。ところが今回は、むしろ日本に対する評価こそあれ日本に対する批判的な発言というものは一切ありませんでした。日本がこれまでしばしばとってきた市場開放措置、特に最近とりました認証制度の改善措置等についてはもう積極的に評価するというふうな発言もありました。日本に対してはむしろ評価をするというのが全体の空気でありました。全体的には明るい空気の出たこのとき、まさに大いに先進国が一致をしてこれらの問題に前向きに対処していかなきゃならぬ。同時にまた南北問題も取り上げられたわけでありまして、南北問題に対しても多少の意見の相違はありました。たとえば、南北問題に対しては先ほどもちょっと田中委員のときの御意見に出ましたけれども、ヨーロッパはどちらかというと最貧国中心、最貧国といいますとどうしてもアフリカに集中しているわけでありますし、そうするとやはりOECD、いわゆる世界の先進国が最貧国を中心経済援助をしろという主張がどうしても強くなるわけでございますが、日本はアジアを中心経済協力をしております。特にASEANには経済協力の三二%を集中しておるわけで、ASEAN諸国というのは最貧国ではないわけでございまして、日本日本の持っておる一つ役割りというものを果たすためには日本のいまの経済援助政策というのを変えて、もちろん最貧国に対してはそれなりの援助はしておりますけれどもしかし日本経済援助政策というものを変えて、たとえばアフリカにヨーロッパの肩がわりをして集中するというわけにもいきませんし、そういう点で多少の意見の相違もありました。これもより貧困な国々に対する協力ということで一応のまとまりを見せまして、全体的にはOECDIEAは順調に成果を上げて終わったのじゃないかと。やはりこの背景には世界経済というものが去年に比べるとことしは相当明るさが増したと。アメリカもよくなってきたしあるいはまたイギリスもドイツも自信を持ってきたと。そういうことが背景にあったものですからこの会議が円満にいったのじゃないかと、こういうふうに判断をいたしております。したがって、これはサミットに対する準備会議ではございませんが、サミットに向けていい影響をこのOECDIEA会議というものは与えることになったのではないだろうかと、私はこういうふうに考えるわけであります。
  56. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 確かにこれからも日本として米欧に足並みをそろえて協調していかなければならないというその基本的な方向があるわけであります。ただ、そうした協調をする中でできないこととできることと両方あるわけでして、確実にできないことはこれは軍事的な協力はできないという面。そうすると政治的にどういう面の協力ができるのか、実効ある協力ができるのか。こうなればいまおっしゃったように経済協力をおいてほかにないであろうと。これは決して短絡的な結論ではないだろうというふうに思います。  ただ今回、これも伝えられるところによりますと、特にゲンシャーあたりは具体的な国名を挙げて日本に対する経済援助を求めると。たとえばユーゴスラビアであるとかルーマニア、先般もこの委員会で、ちょうどルーマニアの議員団一行が来ましたときに私そのことを申し上げたことがあるのですが、確かにあの地域も決して例外ではなく、大変困っているという状況はわれわれとしても十分認識ができるわけであります。さりとは言うものの、あちらもこちらもということは財政的にも問題があり限界があるわけでございますから、さてその辺をどう交通整理をして、直ちに彼らの言う主張というものに同調はできないけれども日本考え方というものは十分理解をすることができるという方針といいますか、そういうものは常に堅持しなければならぬというふうに思うわけですね。直ちに端的にここを援助してくれ、あそこを援助してくれと言っても状況が違う場合がございましょう。先ほどアフリカの問題も出されましたが、最貧国に対して日本としても手を差し伸べたいけれども、こちらはASEANという地域もあるしあるいは中南米という方もある。あれもこれもというふうにいかない。あるいは優先順位というものを決めなければならぬのか。さまざまなそこにまた問題が提起されてくることが予測されるであろう。そういうことを背景にして今後米欧協調ということを貫くとすれば、その辺のいろんな問題点はありましょうけれども、やはり一貫して十分日本立場理解していただきながら最大の努力を払って経済協力重点を置いた取り組みというものを進めていく、こういう結論であるというふうに理解してよろしいかどうか。
  57. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いま世界の情勢は非常に複雑でありますし、日本は経済大国ではありますけれども世界の政治に対して余り口を出さないというのがいままでの姿勢であったかもしれませんけれども、しかしいまはそういうことが許されるような状況ではなくなっております。これはたとえばINF交渉一つとってみても、日本安全保障というものにとっては大きなつながりが出てきておるわけでございますので、あるいはまた世界外交を進めていく上においては各国との経済的な面での協力というものが必要ですが、やはり政治的な面での対話というものがいまほど必要になった時代は私はないと思っております。そういう意味で、実は私も積極的に世界各国との政治協議といいますか、政治対話を進めていくという方向を打ち出しまして、今回も実は日本ECの議長国との第一回の政治対話の会合を設けたわけでありまして、これは半年ごとに議長がかわりますから、これを今後とも続けていきたい。あるいはまた日仏の定期外相会議であるとか、あるいはまたシュルツさんとの会合であるとかその他のヨーロッパ諸国との会合等におきましても、単なる経済問題ということだけでなくて政治問題も含めて広く意見の交換をいたしたわけでございます。これはそれなりに世界における日本役割りといいますかが大きくなったと、あるいはまた日本発言力が強くなったと、それだけにまた責任が重くなったということであろうと思います。そういう自覚の上に立って、日本はそれなりのこれからの外交は進めていかなければならないと思うわけでありますが、そういう中で経済協力日本の果たす国際的責任の最も大きなウエートを占めておりますが、しかしこれはあくまでも日本自体が日本判断で取り組むべきことでありまして、いわゆる日本経済協力の基本というのは人道的な立場あるいは相互依存という立場でこの経済協力を進めております。シュルツ国務長官とも、日米双方の経済援助についてお互いにペーパーを交換し合いましてお互いの意見の交換をしたわけでありますが、その際にも、日本日本のやはり経済協力基本方針があると、それはそれなりに貫いていくと同時に、またアメリカ経済援助について日本も十分知っておく必要もあるし、日米関係という立場からはお互いにそれなりに意見も交換し、また協力すべきことは協力をしてやっていこうということにも話し合いを進めたわけでございます。これは各国との間でもそういう姿勢でいま進めております。日本アメリカの共同プロジエクトの経済協力もありますし、今度日本ECとで話し合った日本ECとのいわゆる共同の援助プロジエクトも、これを進めていくということについて合意をしたわけであります。こういうあらゆる面を踏まえながら総合的に取り組んでいきたいと考えております。
  58. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 今回、特に二国間の外相会議では、この経済問題もさることながら政治的な議題というものを中心として話し合いがなされたという色合いも非常に濃かったのではなかろうか。  それでちょっと前後をしたかもしれませんけれども、特にいまお触れになりましたINF制限交渉の問題にいたしましても、これは当然安全保障政策についての意見交換なんということについても話し合われたのだろうというふうに私思うのですね。恐らくこれは将来にわたっても、あるいは機会を得て二国間同士で話し合うというようなことも考えられるのだろうなと。その一つの例としては、今回のみならず先月末でございましたか、これは日英軍事協議といった方がいいのか、日英防衛協議といった方がいいのか、安全保障協議といった方がいいのか、英国の外務省からギルモア局長という方とウエストン防衛部長という方が来られたそうですね。こういった中でも恐らく概念的な安全保障政策という問題、なかんずくINFの制限交渉の問題のありようというような問題が主題になったのだろうと思うのですが、実態的にはどうであったのでしょう。
  59. 加藤吉弥

    政府委員(加藤吉弥君) 御指摘のとおり四月の二十七、二十八の両日、イギリス外務省のギルモア次官及びウエストン国防部長をお招きいたしまして、日英両国間で軍事問題、安全保障問題についての意見交換を行いました。これは従来から行われております日英両国間の政治協議、政治対話、これはさまざまのレベルで、またさまざまの議題を中心として行われておりますが、その一環として行われたものでございます。  今回の討議は二日間にわたって行われましたが、主な議題は、これも先生御指摘のとおりINF交渉——中距離核戦力削減交渉が問題でございました。この点につきまして、英国側からNATOの加盟国としての英国の立場につき詳細な説明がございました。なかんずくソ連側が言っておりますように、英仏の核をこのINF交渉の中で勘定するわけにはいかないというその説明を詳細に聴取いたしましたが、同時にソ連のSS20に代表される中距離核の削減に当たっては、単にヨーロッパということだけではなくグローバルなソ連の全地域にわたって全面的にその削減を求めるという観点から交渉しなければならないという点を強調しておりました。  わが国の方からも、特にこのINF交渉につきましてはやはりグローバルな観点点からソ連全土における核兵器の削減撤廃が必要であるということを強調いたしまして、この点におきましては日英双方の見解が完全に一致したと考えております。
  60. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 恐らく日英協議につきましても、あるいはOECD閣僚会議または二国間外相会議の伏線であったかもしれませんし、いま安倍さんからもお述べになりましたように、当然INF制限交渉の問題を通じて今後の西側の安全保障のあり方というものが話し合われたのだろうというふうに私は思うのです。それは、恐らく次の段階としては、サミットへ向けて当然その議題になるであろうということを想定して、いろいろそういう地ならしといいますかがなされたというふうにこちらとしては受けとめているわけであります。そういう経過の中ですでにサミットも近づいているわけでございますので、新聞報道等を見ましてもすでにサミットにおける討議の内容——柱と言った方がいいのか、それがだんだん固まりつつある、煮詰まってきたような印象を受けているわけでありますが、もうすでにこの点については確認をされ、政府としては当然それに向けての取り組みというものを詰められている段階だろうと思いますが、この点について御説明をいただければありがたいと思います。
  61. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) サミットにつきましては、まだいわゆる個人代表で議題の整理をしておりまして最終的には確定はしていないというのが今日の現状でありますが、サミットは御案内のように経済が中心ですから、いまの世界経済に対する認識、これの対策といったものが今度のサミットのもちろん中心議題でありましょうし、明るくなってきたこの世界経済をどういうふうに確実なものにするかということも大きな中心的な議題で、これはやはり世界に経済の活性化といいますか、経済の景気回復に今回のサミットを通じて自信を与えるというのが私は大きなテーマになってくるのじゃないかと思いますが、しかし経済サミットとはいっても、おっしゃるように西側陣営の首脳が集まるわけですから、経済問題だけで終始するわけではないと思います。いままでのサミットでもそうでありましたように、いま直面している世界政治の問題が当然議論されることは、これは議題としてのせられなくても議論されることは当然であろうと思います。したがって、INF交渉問題あるいはまた中東の問題、あるいは日本としては今回の総理ASEAN訪問でカンボジア問題というのが非常に大きな議題になったわけですからそうしたアジアの問題、特にカンボジア問題、そういうものが出される可能性というのは、これは議題として出されなくても私はあり得るのじゃないかというふうに判断するわけです。
  62. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 当然いままでのサミットというのは経済問題中心であったことはそのとおりでありますけれども、まただんだん性格が変わってきたことも否めない。しかも、当面するその課題の中で解決を急がれる問題もございましょうし、直ちに西側としても迅速な対応というものを迫られるさまざまな問題がある。恐らくINF制限の問題もそうでしょうしSTARTの問題もそうでしょうし、依然として膠着状態にある問題、それをどう一体これから進めていくかということが大変な難事中の難事かもしれません。それについては、やはりソ連の現在の情勢というものがどうなのだろうという正確な分析も持ちながら判断の基本にするということも必要な点ではないのか。外務省からお出しになっている、最近のソ連のあり方について加藤さんがずっと述べられたものを私も読ましていただきましたけれども、ソビエトの国内情勢というものはわれわれが想像するよりももっとひどいような状況の中にいま環境としては置かれている。SS20の問題にいたしましてもさらにより拡大する方向へ進むのかどうなのかという問題もありましょう。あるいは、一体アフガンだとかポーランドの問題をどうするのだという問題もありましょう。あるいは、アフリカにその拠点を設けているような国々についても一体これからどうなっていくのだろうという展望もありましょう。そういった問題は、総合的に日本を含めて各国とも、正確な分析と情報を持ちながら対応するというときに初めてその対応が実っていく方向へ向けられるのではないのかなという感じがいたしますし、いまお触れになった中東問題にいたしましても、依然としてレバノンからの外国軍の撤退が一体どうなるのだと。シュルツ国務長官の調停というものは果たして期待するような方向へ一体実を結ぶのであろうかという問題、あるいはソ連のシリアに対するかかわり合いというものはこれからもっともっと色濃くなっていくのであろうかと。絶えずやはりそういう問題を頭の中に入れながら今回のサミットにおいては日本としてはこういきたいと、そしてまた米欧と協調する面を見い出すということがどうしても迫られるのではないのかなと。  ですから、経済問題の討議もさることながらやはり当面するこの種の安全保障という問題については、私はまたとない機会であろうということで、すでに青写真というものは、私からあえて申し上げずとももうおできになっているはずであると。いま幾つか柱を安倍さん御自身もおっしゃられた。私もそのとおりだと思うんです。しかし、そういうやっぱり正確な分析、判断というものを持っていきませんと、日本としてもまた足並みがそろわないというそしりを受けるようなことがあってはならぬということを心配するがゆえにいま申し上げておるわけです。これはむしろ日本としてぜひそこに食い込んでいきながら話題を提供しつつ今後の取り組みというものを進めていく方が賢明ではないのかなと、これが一つ。  それから、いろんな問題が錯綜しておりますので、あれもこれもということはなかなかむずかしいでしょう。それで先回も私この委員会で申し上げたように、何とかもう一遍南北サミットというものを聞けるようなそういうチャンスをつくれないだろうかという問題、それから当然日本側としていいチャンスでありますのでこの間もここで申し上げましたように、核軍縮へ向けての米欧の歩調をとにかく足並みをそろえさせるという方向に向けても、日本としてはまたとない提言の場所でもあろうと、いろんなことが想定されるわけです。それらを今回全部整理をしていただいて日本一つの方針としてぜひ述べていただければいいなと、こんな願望を持っているのですけれども、どうでしょうか。
  63. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 大変貴重な御意見をいただきまして、まさにそのとおりであろうと思います。わが国サミットに臨む態度につきましていま検討を進めて総理のもとで結論を急いでおります。  世界情勢に対する認識と同時に、それからまた日本サミットに当たりましてどういう点に特に力点を置いて日本立場を、あるいは世界に対する世界政策として西側は臨むべきかということ等について積極的に発言をする、しなければならない、そうしたポイント等もいま整理をいたしておる段階でありまして、御意見等も十分踏まえながら今度のサミットをやはり成功裏に終えなきゃならぬ。同時にまた、サミットを通じて世界の平和の実現のために日本がそれなりのやっぱり貢献をしていかなければならない、こういうふうに考えます。  同時にまた、南北問題は日本としても特に力を入れて発言をしなければならない課題一つであろうと思っております。インドのガンジー首相も、先般来、いわゆる南北サミット的なものの実現を主張されております。こうしたことも今度のサミットで恐らく論議をされることになるのではないだろうかと、こういうふうに考えております。
  64. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 次に申し上げることで締めくくりの質問ということになりましょうけれども、これからも平和外交を貫く、そのためにはしばしば私も問題を提起しながら申し上げてまいりました外務省の機能強化という問題、これは総理が昨日ですかテレビ対談でいろいろ五十九年度の財政情勢を中心として今後の方針を述べられたようでございます。大変厳しい情勢でございますね。マイナス五%シーリング、あるいはそれ以上になるのではあるまいかという予想以上に大変厳しい側面を持っているようであります。  こういう環境の中で、先般も当委員会で安倍さんから大変願わしい決意を述べられたわけでありますけれども、いまのような状況が進む限り非常にこれは絶望に近い状態じゃないのかなと。人員の増員の問題にいたしましてもこれはもうそのとおりであります。これは毎度繰り返すようで恐縮でありますけれども、一人の外交官が育つまで最低十年かかるわけですから、そこらあたりの年限というものを考えていったら一体将来どうなるのかなあと。もうとてもドイツ並みとかイタリア並みなんということはこれは考えの外であるというのでは、これは機能的に十分な能力を発揮できないというおそれがある。これはもう常識だろうと思うのですね。  先般もここで臨調答申についての安倍さんの所見を伺いましたね。私自身もそうだと、これで果たしていいのかなあと。長年蓄積された経験と知識に基づいて外務省は外務省なりにこうあることが一番望ましいという方向で機構にしても何にしてもおつくりになってきたのだろうと私は思うのです。それをすぱっとやったのでは混乱が起きるだけで、それでなくても足りない状況の中でこれから仕事を進めていかなくちゃならない、これは大変寒々としたような印象を受けてならないのですよ。そこへ持ってきてきのうの総理発言でしょう。一体どうなるのだろうというおそれを抱くのは私一人ではあるまいと、こう思うのです。先回は安倍さんから大変勇気ある決意のほどをおっしゃっていただいたのですけれども、それすらもだんだん危なくなるのではないだろうかという印象を実は持つわけですが、この点いかがでしょうか。
  65. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私は、渋谷委員の多年にわたってのわが国の外交の実施体制を強化すべきであるという御主張に対しましては心から敬意を払っておりますし、また心から感謝をいたしておりますが、そうした御激励にもかかわらず残念ながらいまの外交の実施体制というものは必ずしも十分でないと、おっしゃるような寒々しいものがあるわけでございます。  しかし日本が、世界の中の日本としての役割りというものがますます大きくなった今日、そしてまた日本は軍事という面ではなくていわゆる平和外交に徹して外交を通じて世界に貢献をしていかなきゃならぬとこういうことでありますから、外交の果たす役割りというものはこれまでと違ってこれからはさらに大きくなってくることはこれはもう明らかでございます。したがって、このままの状況で置いては幾ら努力をしても空回りをするということにもなりかねませんし、世界の信頼を日本が集めるということもいまの外交の実施体制ではむずかしい状況に追い込まれるのではないかという心配もあります。  確かに日本の財政は大変厳しい状況でありますから、財政再建という立場から見ますと聖域は設けないということで、われわれが望んでおる体制をつくり上げる上においてもいろんなむずかしい事態が起こってくることは想像されるわけであります。たとえば、私たちは少なくともいまの外務省の陣容を五千人体制に必ず持っていかなきゃならぬというのが外務省多年の悲願でありますが、この五千人体制すらいつできるかわからぬというふうないまの状況にあるわけでありますが、しかし私は今後の日本の外交の役割りというものを考えるときに、財政が苦しいからといって努力をしないでいくというわけにはもちろんいきません。私たちは、世界の中の日本立場というものを踏まえて外交体制をさらに強化していくためには、そうした財政的ないろいろの締めつけはありますが、しかしその中でやはり国民に理解を求め、あるいはまた財政当局にも十分ひとつ協力を求めて、また議会の御支援も得まして、これはもうできる限りのひとつ体制の強化のための努力はこれからも続けてまいらなければならない。  臨調の答申でも外交の重要性というものは指摘をしておるわけでございますし、私は最近予算編成等にもしばしばタッチしておりますが議会の協力等もだんだんと高まってまいりまして、たとえば人員等につきましては、他の定員等については削減措置を講じながら外務省はわずかばかりではありますけれども増員が実施をされておるわけでございます。これを今後ともさらにわれわれとしては拡大をしていくという努力は怠ってはならないと思います。私は、全体的な空気としては非常にむずかしい課題ではありますが絶望はしておりませんし、これから全力を傾けて、客観的に見て外交の実施体制の強化というものは当然これは客観的にもしていかなければならないという事態になっておりますから、私は可能性としては十分あるのではないか、それに向かってこれからも外務省一致結束をして努力を続けてまいりたいと考えております。
  66. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そのためには少なくとも数年は、安倍さんかわっちゃいけませんね。日本だけなのですよね、外務大臣がしょっちゅうかわるのは。ソビエトは例外ですけれどもアメリカを見てもドイツを見てもイギリスを見ても、少なくとも三年以上、四、五年やっているわけですよ、総選挙が終わっても引き続き。これは朝令暮改がしょっちゅう行われるのじゃないかという危険性も含むでしょうし、われわれが海外へ行って在外公館へお伺いしますと、だれとは言いませんよ、もちろん、そういう声を聞きます。大臣がかわるたびごとに全部訓令や何かも変わってくる、その都度苦労しなきゃならぬ。それは極端かもしれません、全部が全部と言うと、官房長はまたそんなことはないはずだというふうにお思いになるから。けれども実際はそういう場合があるのだそうです。  だから、少なくとも一番大事なポイントである外務省の外務大臣がしょっちゅうかわるなんていうことは、これはもうアメリカにとってもイギリスにとってもドイツにとっても、その信頼の度合いというものがまた薄れるのじゃないかというそういう危惧感を持つからあえて私はここで申し上げる。本当はきょう総理が出てくれれば最後に申し上げる問題は総理にぜひ聞きたかったのです、きょうは。国会閉会までそのチャンスがあるかどうかわかりませんけれども。そのくらいの外交に取り組む真剣さというものが必要ではないだろうか。これは総理になるための——大変言いにくいことを申し上げて恐縮ですが、ステップではないのですから、外務省というのは。あるいは生涯外務大臣としてやるぐらいのやっぱり決意でもって取り組んでいただかないと、私はこの問題の解決というものはなかなか言うべくして解決できないのではないだろうか。  大変厳しい予算の状況が指摘されます、毎年、毎年。まあやむを得ない。しかし一方においては、聖域化しないと言いながら防衛費は突出する。非常にアンバランスなそういう行き方というものがいま通っているわけですよ。平和外交に徹するならば、やっぱりそういう面で多少でもこっち側の方へ平和外交推進のために向けてもらえるならばなあと。それにはやっぱり安倍さん御自身が本当に勇断を持ってこれに取り組んでいかないと、五十九年以降はまたがたがたしはしまいかというそういうことを心配する余り、いまあえてそのことを提言を含めて実は申し上げたわけでございます。  いま絶望していないと最後におっしゃった言葉を私御信頼申し上げて、今後の機能強化のためにまた一層その整備が図られていくような方向に向かってぜひお取り組みをいただきたいということを最後に要望を込めて申し上げて、私の質問を終わらしていただきます。
  67. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 渋谷委員からのいまの御要望、御指摘、まさに頂門の一針として謹んで承らしていただいたわけでございまして、私も外務大臣として、さらにまた政治家といたしまして、いま私が発言をいたしました外務省のいわゆる外交機能の体制化につきましては、今後ともひとつ志を忘れずに全力を尽くしてまいる所存であります。ありがとうございました。
  68. 増田盛

    委員長増田盛君) 午後一時四十分に再開することとし、休憩いたします。    午後零時三十六分休憩      ─────・─────    午後一時四十一分開会
  69. 増田盛

    委員長増田盛君) ただいまから外務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、国際情勢に関する調査を議題として質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  70. 立木洋

    立木洋君 この間、外務大臣総理と御一緒にASEAN訪問されたことについて若干お尋ねしたいと思うのですが、大臣は、お帰りになってからASEAN訪問は非常に成功したというふうに記者会見等でお述べになっていますけれども日本側が主張した軍事大国にならない、あるいは自衛の限度内での防衛云々、こういうことについてASEAN諸国がどのように受けとめたというふうに判断されているのか、まずその点からお尋ねしたいと思います。
  71. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) この問題につきましてはむしろ積極的に中曽根総理の方から発言をされたわけでありますが、ASEAN諸国としても非常に重要な関心を持っておるという判断のもとに発言をされたと思いますが、日本のいま中曽根内閣の進めている防衛政策は、これはやはり自民党の歴代内閣基本政策の上に立ってこれを行っておるわけであって、これは日本がしばしば内外に声明しているように非核原則を守る、日本憲法を守っていく、専守防衛を行う、同時にまた、したがって日本防衛政策というものは他国に脅威を与えるものではないし軍事大国には決してならないのだ、こういうことを説明をされまして、これに対しまして諸国首脳は、もちろん日本憲法範囲内あるいは自衛範囲内において日本がおやりになることに対してわれわれは何にも異論はありません、こういうことで、大体おしなべて各国日本防衛政策について理解を示した、中曽根内閣防衛方針について理解を示した、こういうことであります。
  72. 立木洋

    立木洋君 毎回ASEAN日本首脳が行かれたときに、日本のかつての東南アジアに対する侵略行為についての反省のことだとか、あるいは日本の軍事姿勢といいますか防衛姿勢が繰り返し問題になる。このことは、つまり過去にそういうことがあったということだけではなくて、今日の日本のとっておるそういう軍備を増強していることがASEAN諸国としてはやっぱり問題であるという今日的な問題としてこの問題が問題にされている。だから、日本側としても常に繰り返しいわゆる釈明をしなければならない、そういうことになっているのじゃないかと思いますけれども、そういうふうなことが繰り返し問題になるというのはなぜなのか、そこらあたりの御認識はどうでしょう。
  73. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) やはりこれからも日本総理大臣がしばしばASEANに行かれると思いますが、こうした日本防衛政策の基本というものはその際必ず説明をして、そしてASEAN諸国理解を求めていくということは私は大事なことじゃないかと思うわけなのです。というのは、いまお話がありましたように、一つはかつてのあの大戦という歴史的な問題題、そういう中にやっぱりASEAN諸国日本に対する恐怖感といいますか脅威が潜在的にあるわけですから、日本は再び過去のような軍事大国にならないのだということをこれからも言い続けるということは大事なことであると思うし、また同時に、現在の日本の何といいますか、持っているいわゆる力——国力から言いますとこれは核を持とうと思えば持てるわけですし、あるいは軍事大国になろうと思えばなれるだけの潜在的な力というか現実的な力を持っておるわけなのですから、そうした現実の時点というものをとらえても日本はそれだけの力を持っているけれども、やはり今後にわたって過去のことも反省をし、日本の基本的な方針として、今後ともそれだけの力はあるけれども持たないのだということを説明するということは、これは日本ASEANとの関係をさらに強化していく上において私は大事なことじゃないかと思うわけなのですね。
  74. 立木洋

    立木洋君 大臣、先ほど日本側のそういう姿勢については理解を得ることができたというふうにお話しになったけれども、しかし私は、ただ単純にASEAN側が理解を示したという意味ではなくて、やはりその中にはASEAN諸国が持っておる不安あるいは不満といいますか、不信的な点も個々の発言の中に私はあったように新聞報道なんかを見て感じるのですけどね。  たとえばインドネシアスハルト大統領は、何でも日本が軍備増強するのに結構だと言ったのではなくて、自衛努力という意味であれば異存がないという趣旨のことだと思いますし、それから、自衛の必然性を超えてしまえば平和を脅かすことにもなるというふうな指摘もありましたし、タイのプレム首相も、防衛力については憲法の枠内でというふうなこともやはり述べていますよね。それからフィリピンマルコス大統領も、お帰りになったその後の記者会見で、無制限に広げないようくぎを刺したというふうなことも述べているという指摘もある。  それぞれの国の首相、首脳自身がこういうふうな見解を述べたというだけでなくして、それぞれの国の新聞を見てみますともっとひどい——ひどいというかもっと率直な指摘がある。シンガポールの新聞ですと、日本の政府は常に平和憲法非核原則を挙げて軍事大国になる意思がないことを表明してきた。だが、戦後の日本政府は繰り返し意図的に憲法を曲解し、非核原則の定義に修正を加えているというふうに指摘した新聞もある。ジャカルタでの新聞では、中曽根首相は日本国内でも反対されている軍拡の方針をASEANに求めようとしているという非難めいた論調もあります。またフィリピンでは、中曽根首相は日本軍国主義の象徴であるだとか、アメリカのアジア政策の操り人形であるなんというふうな避難声明を出されたということもあるわけですが、こういう点については大臣どのようにお考えになっていますか、受けとめておられますか。
  75. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 新聞の批判は自由だと思うのですね。新聞はそれぞれやはりその記者の判断でやられることだと思いますし、それはそれなりに受けとめればいいと思いますけれども、しかし日本のいま行っておる防衛の基本の方針というものはこれは事新しいものじゃありませんし、これまでの歴代内閣の方針を踏襲しているわけなのですから、私は、これをASEAN諸国首脳理解するのは当然のことだと思いますし、事新しいことではないと思います。ただ今回は、日米首脳会談を契機として何か中曽根内閣中曽根総理防衛姿勢が突出をしたのじゃないかというふうな印象があっただけに、ASEAN諸国の中でもそうした防衛政策の基本が変わったのじゃないかという危惧もあったことは事実だと思います。したがって今回、中曽根総理がいままでの歴代内閣基本方針を堅持していくのだということを主張されたことはいままでと違って何か大きく取り上げられたということでもありましょうけれども、これはいままでのことをそのまま言っているだけであたりまえのことじゃないかと思っておりますし、この方針が変わらない限りはASEAN諸国というものが日本防衛に対して理解を 今後とも示すことは間違いない、日本がいま行っておる防衛の体制というものは事実脅威を与えるものでありませんし、日本の進んでいる道というものは決して軍事大国でないということはこれははっきりしておるわけですから、私は理解されたのは当然だと、こういうふうに思います。
  76. 立木洋

    立木洋君 いまもおっしゃったけれども軍事大国にならない、軍事大国でない、これはきわめて抽象的な表現なのですよね、軍事大国というのは。外務大臣のお考えになっておる軍事大国というのは、尺度、基準といいますか、これはどういうふうになったら軍事大国なのか、どこらあたりまでは軍事大国でないのか。この軍事大国というのをちょっともう少し具体的に述べていただけませんか。
  77. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) やはりまず第一に、日本のいまの防衛の実態というのが果たして他国に脅威を与えるものであるかどうかということだと思います。これについては申し上げるまでもなく、いまの日本自衛力の実情というものは、これは具体的に他国に対して何らの脅威を与えるものじゃないと私はしばしば言っておるわけですが、たとえば他国に対して脅威を与えるような具体的には戦艦だとか、あるいは航空母艦だとか爆撃機であるとか、そういうものは持たないわけでありますし、同時にまた、日本防衛基本方針というのは専守防衛ということはこれはもうはっきりした基本方針として堅持してきておるわけでありますし、さらにまた、日本は核を持つ力はありますけれども非核原則をこれからも厳守していくのだと、こういうことを内外に対して声明しこれを実行しておる、こういうことでございますから、それだけの日本の方針というものから見ましても軍事大国への道は進んでいないということははっきり言えるのじゃないかと思います。
  78. 立木洋

    立木洋君 脅威を与えないというのは、武器を持っている側が脅威を与えているかどうかということは判断できないので、相手の方が脅威感じるかどうかというこれは相手の問題だと思うのですね。だから、そういう問題が常に潜在的に存在するからこそ、東南アジアではこういう日本がどうなるのかということに常に注目を向けているのでしょうし、またそういうことを懸念するからこそ説明しなければならないということにもなっているわけで、私はそこらあたりの考え方というのは非常に大切だと思うのですね。  一九七七年に福田さんがおいでになったときにも、軍事大国にならないということを重要な一つの柱として向こうで強調をされた。それからすでに六年間たっているのですけれども、この六年間の間に日本の軍備はどうなったでしょう。安倍さん、どのようにお考えでしょうか。
  79. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日本防衛力はいわゆる自衛の限界という中での最小限の努力が続けられてきておるわけで、これは六年前に比較すれば日本防衛力は充実したと思いますけれども、それはあくまでも、いわゆる日本の国力から言えば最小限のものであるし、日本専守防衛という基本を踏み外しておるわけでは決してないと思います。ですから、世界に対して、近隣諸国に対して脅威を与えるような存在には絶対になっていないという点について私は自信を持っております。
  80. 立木洋

    立木洋君 六年前のときには、世界で言えば、つまり軍事費の絶対額で見ると世界で第九位でしたですね。いま第八位になっています。ちょうど五十二年度の当初軍事予算というのが、防衛予算というのが一兆六千九百六億円、五十八年度の軍事予算というのが二兆七千五百四十二億円、伸び率から言えば単純に計算しますと六二・九%ふえているのですね。それで軍事的な絶対額が第九位から第八位にまでなったと。問題はそれだけでなくて非常に重要なことは、この間に日米防衛協力の指針、つまりガイドラインが決定されて、それに基づく日米共同作戦体制というのが強化された。  当時といまとでは日米の北同訓練というのがどういうふうな状態になっているというふうに外務大臣はお考えですか。
  81. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日米のいわゆる協力というものはあくまでも安保条約に基づく協力でありますから、安保条約というのはこれは日本の平和と安全を守るということに限ってのものでありますから、したがって日米協力が進むということは、この安保条約を効果的に運用していくということが日本の平和と安全をより確保することにつながっていくわけですから、この点で工夫がこらされ、そしていろいろと改善の措置がとられるということ、時代に即応した体制が築かれていくということはこれは日本の平和と安全を確保していく上においてはむしろ必要なことじゃないか、私はそういうふうに思うわけです。
  82. 立木洋

    立木洋君 これは防衛庁が出しています防衛白書で数字を計算してみますと、一九七六年、福田さんがASEANに行かれる前の年ですよね、日米が共同訓練したのは何回かといいますと一年間に二回やったのですよ。一回やったのが四日間なんです。二回やって八日間、一九七六年には。ところが五十六年度の日米共同訓練というのがどうなっているかといいますと、陸上で三回、それから海上で五回、それから航空が十二回。日を全部延べで計算しますと百六日間日米共同訓練が五十六年度は行われているのですよ。だから六年前に比べますと、二回で延べ八日間しかやられていない日米共同訓練というのが、日米防衛協力のガイドラインができて共同作戦体制が強化されたという状況の中で、これは五十七年度の統計は防衛白書にまだ出していませんから五十六年度で計算してみても百六日間やられているのですよ。これは大変な進みぐあいですよね。  それから、たとえば砲、いわゆる高射砲だとか機関砲だとかの砲ですね、これが六年前は四千七十、これが去年は四千七百二十。それから戦車が七百七十両が八百九十両。艦艇、これが百四十七隻が百六十三隻、これは基準排水量から見ますと十六万七千トンが二十一万二千トン。それから、その当時なかった飛行機なんかでは、P3CだとかF15JだとかF15DJだとか、こういう新型のより性能の高い航空機も入ってきている。それで国際的に言えば、絶対的には第九位から第八位にまで上がった、こういう状態が進んでいけば、これは六年間の状況がこういう状態ですからさらに防衛力は整備、強化しなければならないと、これが第七位になり、第六位になり、これはますます東南アジアだけでなくアジアの諸国から見ても、そういう力を増してくれば脅威になるというふうに見られることになるのじゃないかと思うのですがね。ここらあたりの六年間の、いま私が数字を計算して述べたことについて大臣はどのようにお考えですか。
  83. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 六年間に自衛力が非常に向上してきたということはこれは確かにそのとおりであろうと思います。これはあくまでも自衛力であって、いわゆる攻め道具を日本が打つわけじゃありませんから自衛のための手段が強化されたということでありますし、そして予算面についていろいろとお話がありましたけれども、あくまでもそれは世界の各国軍事力と対比して見ますと日本防衛力というのは予算に占める範囲も五%台ですし、あるいはGNPの中では一%以内にとどめておるわけでありまして、ソ連なんかはもう十数%だと言われておりますし、あるいはまたヨーロッパでも三%、四%、アメリカは五、六%とこういうふうなことでありますし、その他ASEAN諸国と対比して見ましても日本防衛力というのは日本の国力と比べますと非常に低く抑えられておるわけでありますし、そういう中でのまた充実というのも先ほどから申し上げましたようにあくまでも自衛力に限っておるわけですから、これは日本のいわゆる抑止力、侵略に対する抑止力を高めていくためには私はそれだけの大きな効果があったと、非常に限定された中の防衛力の増加ではありますけれども、それだけの抑止力が高まったということであろうと思いますし、またアメリカとの間で演習、共同作戦の回数が多くなったということも、これはあくまでも日米安保体制強化していくといいますか、日米安保体制の効果的運用を進めていくという見地からいけば、これはすなわち日本安全保障というものを確立することになるわけですから、これに対して日本脅威になるとかなんとかという筋合いのものでは決してないと。むしろ日本のそれによる自衛能力というのが高まり、安保体制が強化されて日本安全保障というものが非常に確立される方向に進みつつあるということでむしろ喜ばしいことじゃないか。しかしこれはあくまでも限界があるわけですから、それは先ほど申し上げましたような専守防衛とか非核原則とかそういうものを踏まえた中での防衛力強化であることはこれはいまさら申し上げるまでもないわけであります。
  84. 立木洋

    立木洋君 日本は攻め道具を持ってないということを繰り返し強調されたわけですが、しかし事実上重要なことはアメリカのアジア戦略、これを事実上日本が補完しておると、このことが私は非常に大切だと思うのですよ。なぜ私が共同作戦体制のもとでこれほどの共同作戦がふえてきているのかということを重視するかという意味はそういう意味ですよ。先ほどGNPの問題を持ち出されましたけれども、たとえばGNPというのは軍事大国かどうかということを決める基準じゃないのですよ。御承知だと思いますけれども、たとえばイスラエルなんかの場合にはGNPの二三%以上が軍事費でしょう。あれを軍事大国と言うのかどうか、これはきわめて好戦的な国ではありますけれどもね。たとえばアメリカの場合はどれだけかといったらGNPの五%余りでしょう。ソ連がどれだけか、これはいろいろな発表の仕方がありますから、七%という発表があってみたり外国では一二%、一一%なんて発表がいろいろありますけれども、これはそんなGNPに対するパーセンテージだけで軍事大国であるかないかというふうな判断がされるのではなくて、つまり軍事予算の絶対額、どれだけの性能のある武器を備え得るだけの軍事予算を投入しているか、このことが相手に対する脅威を与えるわけですから私はGNPの問題は問題にならないと思う。  そこで私はこの問題の最後の質問ですけれども軍事大国にならないという歯どめというか保証というか、少なくともそれは考えておかなければならないし、先ほどもそれは制限がありますと、無制限ではございませんと言うのですから、それなら軍事大国にならないという歯どめ、保証というのは大臣どのようにお考えですか。
  85. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはいま自民党内閣で進めておる防衛政策を、忠実にこれを今後とも進めていくということが軍事大国にならないそのものの具体的な方策じゃないだろうかと、私はそういうふうに思います。
  86. 立木洋

    立木洋君 一%も突破されると、一昨日でしたかきのうでしたか、新聞でも来年度は二千億円さらにふえるだろうというふうな状態、これはいまの自民党の政策をやっていけばどんどん軍事大国になっていく道を進むということにならざるを得ないのでそれは全然歯どめになっていないから、そういうことで歯どめと言われてもそれは歯どめにはならないという答弁でしかないというふうに受け取っておきますよ。  話は若干変わりますけれども、INFの交渉の問題に関して、外務大臣が極東も含めたグローバルな形で進めることが必要だというふうに述べておられる。この真意を若干お尋ねしたいのですけれども、まずアジア、極東における米ソの核戦力というのはどういう状態になっているというふうに判断していますか。
  87. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは、私は軍事専門家でありませんから、またアメリカの核がどういうふうに配備されておるかというふうな実態についてもアメリカ自身がそれを明らかにしないわけでありますし、またソ連がいろいろと核戦力をアジアの地域に配備しておるということもこれは間違いないと思いますけれど、はっきりわかっておるのは、たとえばSS20が百八以上あるだろうというようなことはわかっておりますけれども、しかし陸、海、空軍の中でどれだけ配備されておるかということはわかりませんけれども、しかし私はいまの世界的な状況から見ると、米ソの軍事バランス、これは通常兵力はむしろソ連が優位に立ちつつあるのじゃないか、核戦力は、長距離核戦力も含めてバランスがとれておるというような状況ではないだろうか、こういうふうに思っています。
  88. 立木洋

    立木洋君 いま言われたアジア極東地域にソ連のSS20が百余りですか配備されていると。そうすると、当然やっぱり核バランスがとれているといえば、アジア極東地域アメリカの核がそれ相応配備されているというふうに考えられるのはこれは常識ですよね、バランスがとれているとおっしゃったのだから。そうでしょう、そういうことですね。
  89. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) もちろん日本には配備されておりませんよ、日本には。日本には配備されておりませんけれどもアメリカの海上兵力その他、そういう中でのやはり核戦力というものはそれなりのものがあるのだろうと。これはいまの米ソの関係から見れば、そうしていわゆる戦争の抑止が核のバランスあるいは軍事力、核軍事力のバランスというものによって現在保たれているという状況からすれば、私はやはり常識的に見てそうしたバランスはあるのではないだろうか、こういうふうに思います。
  90. 立木洋

    立木洋君 大臣も一九八四年度のアメリカの国防報告をお読みになっただろうと思いますけれども、私もこの間見てみたのです。そうすると、あそこの国防報告の中で述べられている内容では、ヨーロッパの地域においては、ソ連がこの数年来非常に戦力を増強するという措置をとったということが述べられ強調されていて、だからヨーロッパにおける核の、バランス、これをアメリカの側としては改善していく必要があると。つまりアメリカの側としてはそれに対応できるだけの核をやっぱり配備せぬといかぬのだと、こういうことがヨーロッパの地域のところでは強調されているのですよ。これをどう評価するかということは別にして、しかしアジアの部分を見ますと、ソ連ではすでに百基以上もSS20が配備されているにもかかわらずアジアの場合においてはそういう危機的な受けとめ方というのは全くしてないわけです、あの国防報告の中では。つまりそうではなくて、それに対応できているというふうなニュアンス。だからどういうことかというと、つまり同盟国における戦力の強化ですね、そういうふうなこと等が強調されているだけで、この核の問題については指摘かないのですよ。ヨーロッパみたいな指摘はないのですよ。そういうふうに見ると、結局極東にもソ連に対応した、つまりバランスの保たれた形でアメリカは極東アジアに核を配備しているだろうと。大臣は盛んに、いや日本にはありませんよと言われましたけれども、いずれにしろアジア極東に配備されているだろうと。そうすると、極東を含めたグローバルな形で交渉を進めるべきだという場合には、ソ連のSS20を極東に配備するのには反対だし、配備しているのは撤去せよ、これは私も当然だと思うのです。同時に、それに対応して配備されているであろう——私は、それ日本にないと言うから日本のことはまだ言いませんけれども、アジアや極東にある、バランスのとれたという形で配備されているかもしれない核については、これはやっぱり極東から撤去してもらうということは当然アメリカに対しても要求すべきじゃないかと思うのですけれども、いかがですか。
  91. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私は、SS20に対抗するいわゆる中距離核ミサイルというものは、これはたとえばパーシングIIであるとかあるいは巡航ミサイルに当たるのじゃないかと思いますね。そうなりますと、やはりいまの状況から見ますと、ソ連がヨーロッパに二百四十以上、あるいは極東に百八以上中距離核ですね、SS20を配備しているということになりますと、それに対抗するものはそれじゃ果たして西側陣営にあるか、アメリカにあるかということになるとそれはないと。  そこでいまINF交渉というのが非常に重要な課題として持ち上がっておるわけで、ソ連もそれを認めておるから交渉に応じておるのじゃないかと、私はそういうふうに思っております。
  92. 立木洋

    立木洋君 いや大臣、答弁そらしたらいかぬですよ。私はヨーロッパのことを聞いているのじゃないのです。アジアのことを聞いているのです。だからヨーロッパのことで言えば、ヨーロッパには戦術核が七千五百あるのですよ、アメリカの戦術核が。すでに配備されているのですよ。それに対抗するという意味でソ連側はSS20をヨーロッパに持ってきた。つまり、長距離核戦力ということに対応させるために巡航ミサイルだとかパーシングIIだとかというのをアメリカが配備する必要を認めたのであって、それより小規模の小型の戦術核というのは七千五百あるということはもう認められているのですよ。これはヨーロッパの話です。  ヨーロッパの話はさておいて、私がお尋ねしたのはアジアなのです。だから、アジアでSS20が配備されておるということはほぼはっきりしておると。それに対抗するバランスのとれた形で当然極東にもアジアにもアメリカの核があるだろうということは大臣もお認めになったわけだから、そうすると極東のSS20を撤去せよという場合には、同時にアメリカの核配備も、アジア極東において存在するものは何にしろ全部撤去してくれということを双方に申し入れるのが、やはり極東におけるグローバルな形で核問題に対する日本政府の態度として当然示さなければならないのではないですかということを言っているのですよ。
  93. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) それは私たちの観点とちょっと違いますですね。やはりSS20をわれわれがグローバルな形で縮減をしろと。いわゆるこのINF交渉はグローバルな立場に立てというのは、やはりSS20というものが非常に機動性に富んでおると。それでヨーロッパのSS20を縮減をするとしても、その縮減されたSS20がアジアに移ってくるという場合においてはアジアの脅威はさらに拡大をするわけですが、同時にまたいつこれがヨーロッパに移っていかないとも限らない。非常に機動性に富んでいるSS20という中距離ミサイルですから、そういうものに対する交渉といいますか縮減というものは、ソ連全土というものを踏まえてこれはやるべきだというのがわれわれの立場なのですよ。ですからいまおっしゃったようなお話と、私たちがいまグローバルという立場で主張しているのはちょっと違うように思います。  それからまた、ヨーロッパからこちらに移ってくるということに対して、ただわれわれがそれは困ると言っているだけじゃなくて、いま極東に配備されておるSS20も、これもやはりいまの状況から見ましてSS20は全くアメリカに向いているわけじゃないですから、SS20はアメリカまで射程距離ないわけですから、そうするとそれはストレートに極東に対する一つ脅威につながっていくわけですから、そうしたものは必要ないじゃないのかと。だからゼロオプションといいますか、全廃するのが当然じゃないですかということです。さらにまたそれに対して追い打ちをかけるような形でこれを強化する、増強するなんということはとうていわれわれとしては認められないというのが私たちの主張なのです。
  94. 立木洋

    立木洋君 だから結局そこが非常におかしいのですよね。SS20を新しく配備するのにも反対だと、現在存在しているSS20も撤去せよと、これは私たちも一緒なのですよ。そのとおり主張することは私も妥当なことだと思いますよ。同時に、アメリカが極東に配備しておる核戦力、これもやっぱり撤去せよと。いわゆるSS20だけが移動性があるといったって、あの巡航ミサイルだってパーシングIIだって移動性がないということはないのですからね。命中精度は非常によくなってきているし大変なものでしょう。だから、大体アジアや極東に配備されているというのは艦艇に配置されているというのがほぼですよね。あるいは飛行機なんか、今度のB52なんかの新しい型にやられている。だから、移動性は潜水艦がしゃっと行けば行かれるわけですから、そういう意味から言えばやっぱり極東においても本当の意味で核を全部なくしていくと。つまりゼロオプションに、真の意味でのゼロにしていくということで言うならばソ連に対して言うと同時に、やっぱりアメリカに対してもいう必要があるのじゃないですか。言う必要は全くないというふうにお考えですか。
  95. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 当然やはり核が廃絶されるということは、日本もこれは理想として掲げておるわけですし、米ソ両国に対しても世界に対しても、日本は今後とも主張すべきことだと思うのですよ。だから、このままいってどんどん核戦力というものが拡大をされればどういう事態が起こるかわからぬわけですから、やはりわれわれは広島原爆、長崎のああいう惨禍を思えば、何としても世界からの核兵器撤廃が現実的に行われるということが最も理想の姿である。しかし、現実はそこに行く道はまだ遠いわけですね。そこで核軍縮という軍縮の道を求めざるを得ないわけですから、それは米ソ両国によって具体的には行われていると。これもやはり交渉が実ることをわれわれは期待しておりますし、軍縮というのは実効性が私はなきゃならぬと、こういうふうに思います。  そういう中で、いま極東におけるお話が出たのですけれども、やはり極東において確かにアメリカの核戦力もあるだろうと、これは予想ですけれどもね。これは当然ソ連の極東におけるいわゆる核戦力というものに対応するものなのだと。アメリカの艦船も持っているかもしれない、同時にまたソ連の艦船も持っているかもしれない。SS20というのは特別な中距離核ですから、これは新しく出現したソ連の新兵器ですからそれに対応するものとしては極東にはないだろうと。ヨーロッパにもないからいまパーシングIIとかあるいは巡航ミサイルを配置しようということですから、私の言っていることは全く筋が通っているというふうに思っております。
  96. 立木洋

    立木洋君 全く筋が通っていないですよ。アメリカだってポセイドンなんてどんどん広げてきてすでに配備されているわけですからね。それははかりようがない。だからこれに対抗して向こうは持ってきているのだと、これに対抗してまた持ってきているのだと。そうしたら軍拡を認めることになるのですよ。そうでない立場をやはり日本政府はとるべきではないか。だから両方に対してぴしっとやめなさいと、そして配備しているのは撤去しなさいと、なくしなさいということを求めていく、そういう立場をとるべきだというのが私が繰り返し主張している点なのですよね。  外務大臣もこの間の予算委員会で、非核原則というのは日本がどういう事態になろうとこれは必ず守るべきたということを繰り返し強調された。いまも、日本としてやはり全世界から核兵器をなくしていくというふうなことに努力をしなければならないということを述べられた。いま世界の核兵器に反対する国際的な動きというのは、これはヨーロッパでもアメリカでもいろいろそういう運動が起こっていますし、アメリカでも国会の中では核の凍結というふうなことが上程され議論されて下院でしたか、採択されたというふうな事態も起こっていろいろと出てきているわけですね。同時に、非核州宣言だとかあるいは非核都市宣言だとかいうふうなことも国際的に各地でやられている。  私は、やはりいま言われた世界で唯一の被爆国である日本が本当に全世界に軍縮を求めていく、そういう立場をより鮮明に打ち出してその軍縮の第一歩を踏み出していくと、そういうイニシアを発揮すべきであろうと思うのですよ。そういう意味で、日本非核日本宣言というのをお出しになって、実際の核の持ち込み、核の存在、そういうものをつくることももちろんしないという非核原則立場を積極的に国際的にも明確に宣言して、そういう軍縮のイニシアチブをとるというふうなお気持ちはありませんか。
  97. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日本ほど核政策についてはっきりした国は私はないと思いますね。とにかく非核原則なんか持ってこれを現に実行しているのは日本だけでありますし世界の国にないわけで、これは内外に宣言しておるわけですしこの政策を進めておるわけです。また世界の世論に広島の原爆の惨禍を訴えて核を廃絶していこうと、核実験を停止していこうと、こういうことで日本は主張を続けておるわけです。けれども問題は、主張だけで、言葉だけで解決するわけじゃない。現実的には、具体的にいま核戦力というものが米ソ両陣営に拡大をされているという実態があるわけですから、日本も現実国家としていかにその最終的な理想に近づくために具体的に実効的にいかに軍縮が実行されていくか、そういう中で日本がどういう役割りを果たすかということだろうと思うのですね。その点では日本は基本的には非核原則という世界にない方針を打ち出しながら、国連の場等において具体的に実効性のある方針については積極的にこれを支持をして、そして世界の核軍縮に向かって努力を重ねておるわけでありますし、私は日本のやっていることは世界の中で非常に積極的なそうした平和政策を貫いておると、こういうふうに思っております。
  98. 立木洋

    立木洋君 もう時間が来たからこれで終わりますけれども、つまり、先ほど来言われておる日本が唯一の被爆国でありそういう態度をこれまでも述べてきたと、また非核原則はいかなる場合でもこれを厳守するということを言われておる。積極的にやはり軍縮についても努力を今後ともしていきたいというふうなことには変わりがないのだということはいつもお述べになるわけですが、ですから、少なくとも今日の状況の中でいかなる地域からもやっぱり核をなくしていく、そして本当に全世界に核がなくなるようなそういうことを実現していく、そういう点を考えても唯一の被爆国として日本が積極的にイニシアをとる、そういう努力を私は検討すべきだと思うのですよ。だから、いますぐここで日本非核宣言をやりなさいと言っても、それは結構です、やりましょうなんてそれは大臣言えないかもしれませんけれども、しかし少なくともどういう形でか日本としては非核宣言を、本当に日本は核を持たないということを国際的にも宣言をすると。これは第一回の国連軍縮特別総会の最終文書の中にも、いわゆる非核地帯に関しては核を持っている国は特に次の約束を与えることが要請されるとして、(a)としては「非核兵器地帯の地位を厳格に尊重すること。」と。(b)としては「当該地帯の諸国に対し核兵器の使用又は使用による威嚇を慎むこと。」などということも問題にされてきているわけですから、やはり日本が率先してそういう立場をとるということの国際的な意義、与える重要性、とりわけそういうことを願っておる日本国民にこたえる態度としても私は当然だろうと思うのですよ。だから、いまここですぐその問題については結構ですということは言えないかもしれませんが、少なくともそういう考え方あるいはそういう方向、どういうふうにしてやるか検討しましょうというぐらいのことは言えませんか。
  99. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 非核宣言はもう日本は実行しておるわけですよね。この非核原則というものを具体的にいまわれわれ進めておるわけですから、政策の基本といいますか日本の国是としてこれを実行しておるわけなのです。もう核は持たないわけですし、核を持つだけの力はありますけれどもこれは持たないということを世界に宣言しておるわけですし、あるいはまた核の持ち込み等もさせないということでありますし、ですからこれほどはっきりした国は私はないと思いますね。国際連合、国連等におきましても日本は一番そういう意味では強い立場にありますから、積極的にこの核軍縮に向かって努力を続けております。ただ問題は、そうした日本だけが非核原則を貫いても、——これはやはり世界的にこれが実行されなきゃならぬ、実現されなきゃならぬわけですから、やはりこの軍縮というものはそうした具体性、実効性を持たなければこれは意味がない。そしてまた一方、ただ西側陣営だけが核の軍縮をしたところでこれが一体果たして世界の安全というものからとってそういうものが正しいかどうかということになると非常に問題もあるわけですから、そうした面等も踏まえながら、日本が歩んでいく道は日本自身が理想的な方針を実行しながら着実な核軍縮に向かっての努力を続けておるということであると思います。
  100. 立木洋

    立木洋君 そう言われるとどうも一言言っておかないと黙って引き下がるわけにはいかぬです。だから私は最初に、東南アジア日本非核原則を繰り返し言っているけれども修正を加えているじゃないかと、戦後の日本の政府はという指摘があるということを私はわざわざ紹介したのですよ。セーシェル共和国というのは小さな国ですよ。だけれども疑わしきは入れずというのです。もしくは船が積んでいるかどうかわからない、しかし核積載可能艦であれば積んでいる可能性があるのだから疑わしいものは入れない、こういう厳格な態度をとっている国だってあるのですよ。ところが日本の場合にはなし崩し的にあなた、核積載可能艦だって何であろうたって、積んでいるだろうと見える船がどんどん入ってきているじゃないですか、エンプラだって何だって。そういうふうなことではなくて、もっと厳密に日本の政府が核を持ち込ませないという厳密な立場をとるべきだということがわれわれの主張なのですから、そういうことを厳格にする必要があるということなのです。そのことだけ述べて、もう時間がないのでこれ以上——もっと外務大臣といろいろ論争したいのですけれども、時間がないので残念ですがまた次の機会に譲りますけれども、そういうことを真剣に外務大臣考えてもらわぬと本当に大変なことになりますよ。それだけ述べておきます。
  101. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私もそれ言わしてもらわないとちょっと最後におさまりつきませんからね。  日本非核原則を遵守しておりますし、また核の持ち込み等に対しては国会でも政府が口をきわめて言っておりますように日米安保条約に基づいて核の持ち込みの場合は事前協議の対象になるわけで、これはもう絶対にノーだということを言い続けております。アメリカ政府との間でもこれは確認としてとっておりますし日米関係というものは信頼関係はありますから、したがってそういう点に対する心配は全然あり得ないということであります。
  102. 立木洋

    立木洋君 残念ですが……。
  103. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 外務大臣はこの一月、総理と一緒にアメリカに行かれましたね。それでなかなかいろんな問題があった。不沈空母論だとかいろいろ問題があったですね。あのとき大体中曽根総理の姿勢というものは、どっちかと言えばアメリカの軍拡傾向を認めよう、軍拡要求を認めよう、それからいろんな経済要求もできる限り認めようということで、簡単に言えばレーガンさんの御機嫌をとるというような方向のように見えましたね。特に不沈空母論なんというのは要するに言ったとか言わなかったとかいうけれども日本アメリカの第一線の防衛陣地になるような思想であってある意味では大変危ない思想なのですが、それもアメリカの軍拡要求が非常に強い。つまり安保ただ乗り論とかソ連の脅威論とかあるいはシーレーン防衛論とかいろんな軍拡をあおるような主張があって、それで特にレーガン政権、ワインバーガーなどがそういう主張で向かってくるからそれに対応する姿勢をとったと思うのですけれども。しかしアメリカもいろいろありまして、御承知のとおり四月の四日ですか、米の下院の本会議で相当な数の差で可決されていますね、核凍結案が。それから下院の軍事委員会というものはどっちかというとペンタゴンの意向をずっと支持してきた委員会ですけれども、最近になって兵力凍結に対する決議もしようというような動きもあるし、それから上院でもハットフィールドさんなんという人は私が日中関係改善する場合にいろいろ連絡した人ですけれども、この共和党の長老は相当な同志を集めておって、下院で可決された核凍結決議案というものは上院を通るということを言われていますね。そういうふうに、あなた方がアメリカ総理と一緒に行かれたときとアメリカ自身の形勢が大分変わってきているといいますかね、ですから、あなたがさっきから言われている軍縮の主張とか日本非核原則とかいうものもアメリカとの友好を維持しながら非常に主張しやすい状況になっていると思いますけれども、最近のアメリカのそういう情勢の変化といいますかね、軍拡、軍縮をめぐる情勢の変化というものをどういうふうに考えられますか。
  104. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 椎かにいまおっしゃいますように、アメリカで核軍縮の動きが出ていることはこれは事実であろうと思います。下院の本会議で、米ソ両国に対し核弾頭、ミサイルその他の運搬体系への実験、生産及び一層の配備の相互的かつ検証可能な凍結を求める決議案が可決されたということも承知をいたしております。この決議案の特徴は相互的かつ検証可能な凍結ということですから、私は非常に現実性を持った実効性を踏まえた決議案じゃないかと、こういうふうに思っております。しかし、また一方においてアメリカの下院でも日本の軍備増強を求める決議案が可決をされていることも事実であります。いろいろとアメリカには民主的な国ですからそれぞれの動きがあると思いますが、しかしそれはそれとして、やはり日本が今日の核の軍拡というものに対してこれを防ぐための努力を重ねていかなきゃならぬと、そういうことは私は現実において事実だと思いますし、そのための努力を今後ともやっていかなきゃならぬと私はそういうふうに思います。
  105. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 安倍さんの現在の世界の軍拡とか軍縮とかいう問題、それに対するお考えから言うと、最近のアメリカの傾向は半年前の傾向から見るとはるかに歓迎すべきものになっているのじゃないですか、どうですか。
  106. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アメリカがどういう動きをするか、これはやっぱりアメリカ自体の問題であろうと思いますけれども、しかし日本としての立場はあるわけですし、日本は、先ほどから何回も言いましたようにやはり核の洗礼を受けた国なのですから、そして非核原則というものを日本は守っておるわけですから、そうした立場からいまの世界の情勢を憂慮しておりますし、そういう立場に立って核軍縮に対して積極的な主張を繰り返していく、そしてその核軍縮もやっぱり基本は実効性を伴わない核軍縮では私は意味がない、こういうふうに思っております。そういう立場で軍縮等でも日本は積極的な活動をしております。また、INFの交渉なんかがいまの核軍縮の当面の最大の課題になっておりますが、日本としてはこのINFの交渉に対しても積極的な意見の表明をいたしております。各国とも密接な連絡をとりながらこのINF交渉が成功をするための努力をしておりますし、グローバルな立場でこれを行うと、そしてこのINFの交渉を実りあるものにするように日本としてもこれはソ連に対しても呼びかけておる、アメリカに対しても日本の主張をいたしておる、こういうことであります。
  107. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 もちろんどういう正しい主張にしてもそれに実現性がなきゃしょうがないわけですね。しかしだんだん空論じゃなくなってきている。つまりね、アメリカのような大軍備国、ソ連と競り合っている、それこそ軍拡し合っている国ですよ、そういう国の議会が軍縮に対してきわめてまじめな真剣な、しかも具体的な——この核凍結案に対して私はケネディ、ハットフィールドさんなどの意見を聞いたことがあるけれども、彼こう言うのですよ。つまりいまの軍拡傾向を続けたら世界は破滅だと、いずれにしてもこれは縮小しなきゃいかぬけれども、しかし縮小するためにはどうしてもストップをかけなきゃいかぬ、急行列車を逆に動かすためにはまずとまらなきゃしょうがない、それが核凍結案の基本の考えですね。つまり、それにストップかけるという考え方アメリカの議会では有力になってきています。今度、あなたが先ほどからいろいろおっしゃっているようにこれは共和党の人が相当多数入っています、百五十対二百七十ぐらいじゃないですか、その票差というものは。ですからこれは共和党が相当入っているのでしょう。共和党が入ったために相当妥協案になっていますけれども、しかしその案の中には、この案よりもはるかに進んだ考えを持った人——進んだということは決して空想的なんということじゃない、どんな考えでも全力を挙げて実行すればできないことはない、またどんな変な考えを持っている者でも真剣に説得すれば説得に応じないことはない。ですからそういう意味じゃ非常に明るい方向に向いている。あなたがさっきからいろいろ御説明になっていることを聞いていると、こういう傾向は非常に日本の自分たちの活動に対して有力な支援材料になるな、こう思われるのじゃないかと思って聞いたわけですよ。なりますよ、これは。必ずなります。またするようにしなきゃいかぬ。  日本日本立場があるというけれども、しかし世界というものは本当に緊密であって、われわれはソ連の立場だってやっぱり尊重しなきゃ生きていけない。私は中国との国交を正常化するときに自民党内でずいぶん悪口をあなた方に言われました、あんな実行不可能なことを言っていると。いま中国との関係がいいから、だからソ連の脅威もどのくらい軽減されているかわかりゃしない。ですから現実的とかできないとかという区別はありません。つまり、一つ政策方向というものは強い意思と十分な巧妙なやり方ですね、それによって実行していけば必ずできるわけです。特にこの軍縮なんという問題は、これはやらぬと世界は滅びちゃうから、それはもう福田さんのおっしゃるとおりだね。  特にいまの軍拡が非常にみんなから——財界もこれ困ると言い出しているのはやっぱり経済が実際にまいってきているから。いまおたくの福田さんの数字なんかでも六千億ドル年間に世界軍事費が使われている、こう言っているのですね。六千億ドルという数字はほかに同じような数字があります。これは第三世界の債務総額が大体六千億ドルになる。債務総額というのはいままで積もったもの、いまの軍事費というのは毎年使っている軍事費が六千億ドルと非常識な額になっているね。だから何とかしなきゃしょうがない。ですから第三世界は非常にやっぱり軍拡よりも軍縮を求めていますね。  デリーで開かれた非同盟国の会議、御存じですね。三月の七日ころから開かれた会議ですね。その会議でもいろんなことが決定された。そこでアフガンの問題とカンボジアの問題だけはこれは決議ができなかったけれどもいろんなことが決定されて、満場一致で、非常な皆さんの共感をもって満場拍手で決議されたのが軍縮決議ですよね、やっぱり。ですから第三世界は、自分の方の経済的苦境からいってもとにかく債務が六千億ドル、毎年の軍事費が六千億ドルというと考えますよねこれ、どうしたって。だから軍縮決議だけはこれ満場一致で百一カ国、非同盟国首脳会議でインドの決議案ですけれども通った。ですからこういう背景がアジアの諸国家の背景にもあるわけです、第三世界でね。軍事費なんかに使うのなら第三世界、最貧国の経済的苦痛を救ったらいいじゃないかという考えは当然出てくるわけですね。  今度アジアに行かれて非常に御苦労なさったと思いますけれども、そういう雰囲気があるしね。それからかつてのアジアの諸国家に対する日本の軍事的進出というのはちょっとこれめちゃくちゃだからね、本当言えば。理屈なしに兵隊挙げて昔の植民地略奪みたいなことをやったから。やっぱり向こうの日本の軍国主義に対する警戒心もあるし、それから軍拡一般に対するいま言ったような不合理だという考え方もあるから、だからあなた方もおいでになるときに、中曽根首相がその前に何か軍拡論者みたいな印象を与えたから非常に警戒したわけですね。ところがいまいろいろ話してみると向こうで非常に安心したというのだが、これ何度かここで御説明になったかしらぬけれども一体向こうはどういう点を警戒していてどういう点を安心して喜んだのか、あなたはそばにいてよく見ていらっしゃったのだからひとつ説明していただきたいと思います。
  108. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 軍縮問題に関するいまの憂えは私はこれはみんな持っていると思います。やはり核の現状を考えるとき一体これからどうなるだろうかと、これは世界みんな心配していると思います。特に私が心配しているのは、現実問題としてINF交渉がいま行われておりますがこれが決裂をする、そしてヨーロッパでアメリカのパーシングIIであるとか巡航ミサイルというのがソ連のSS20に対抗するためにこれが配備をされる、あるいはまた極東にさらにSS20が増強されるということになる、そういうことをどんどん繰り返していけば一体世界はどうなるだろうかという心配もあるわけで、やはりこの辺で歯どめをかけなきゃならぬ時代に来ていることは間違いないと思うのですが、それはやはりアメリカだけがやってもこれはできるものじゃありません。米ソ両国がともに実行していかなきゃならぬ。ですからアメリカのそうした議会の決議というものも、アメリカのみがいわゆる核軍縮を一方的にやれと、そういう論も一部にはあるでしょうけれどもそういう意味の決議ではないと思いますね。これ、議会全体としてまとまった空気としては、やはり米ソ両国が検証手段を持ってちゃんと実効的にやるべきだというのが私は決議の趣旨じゃないかと思います。それはそれなりに私は意義のある決議ではないかと思うわけでありまして、そういう意味でやっぱり米ソ両国が真剣にINF交渉を進めていく、世界の軍縮に向かって努力をしていく、これはレーガン大統領もあるいはまたアンドロポフ書記長もこの問題に対しては真剣にやはり交渉すべきだと、私はそういうふうに思うわけでございます。  それから中曽根総理ASEAN問題については、日本のこれまでの歴代内閣がとってまいった日本防衛政策というものを説明してASEAN諸国はそれを十分理解をしたわけなのですが、特にこの問題が大きく新聞等にも取り上げられたということは、やはり初期の段階において中曽根内閣防衛方針というものはいままでの内閣とは違うのじゃないか、突出しているのじゃないか、こういう印象を与えたのだと。私も日米首脳会談に一緒に行ったわけでありますけれども、決して中曽根総理発言日本のこれまでの既存の枠組みを壊していこう、これを変えていこうというふうな発言ではなかったというふうに承知をいたしておりますが、そういう印象があったものですからやはりASEAN諸国の中では神経をとがらす国もあったと。そういうことで今回中曽根総理から日本立場をきちっと説明して、それでもって向こうも十分わかりましたと理解をしたということでありますし、この説明は、日本基本方針ですからこれを貫いていかなければまた逆にASEANの批判といいますか非難を受けることになりますから、これは言った以上はこれを貫いていかなきゃならないと、こういうふうに考えます。
  109. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 ASEANが安心したという点は、要するに憲法に従って専守防衛でいくということですね、それをよく理解したということだと考えていいですね。
  110. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) そのとおりです。日本憲法のもとに非核原則を守り専守防衛に徹していくという日本防衛方針を十分理解したと、こういうことです。
  111. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 アメリカだけに要求してもしようがないと言うけれども、いいことはまず友人から口説いていかなきゃね。それはいいことをやるのだから友達から口説いていく。それから今度はけんかの相手を口説いていく。ソ連も口説いたらいいと思うけれども友達を口説けないでけんかの相手は口説けないね。だから当然ソ連も口説かなきゃいかぬと思いますけれどもやっぱり友達も口説けなきゃ。友達に、余り非理性的な政策をしちゃ危いと、ソ連とも話ししなきゃいかぬという方向にだんだんいきつつあるのですからそういう方向に——日本なんか大体初めから軍縮している国なのだから、これは。憲法を持ち、非核原則を持って初めから軍縮している国だから軍縮を主張する、平和を主張するには一番いい立場ですよ。それでしかも相当利口な民族だし、学問もあるし金もあるのだからこれはもう少しそういう立場を利用して世界のために尽くす必要がありますね、お願いしますよ、ひとつ。  それから、金大中さんの問題にちょっと触れたいと思うのだけれども金大中事件というのは、あの事件にじかに関係した人は別として私は日本人のうちであの事件の発生を最初に知ったのです。いまから十年近く前になるけれども、八月八日の午後二時ちょっと前に韓国の国会議員である金敬仁から電話があって、そして彼も非常におどおど警戒したような声だったけれども金大中がいなくなったと言うわけです。だれかに連れ去られたと言うわけなのです。それで私は、当時あなたの先任者で外務大臣だった木村さんに紹介することにしていたものだから、二時に木村さんに会うということになったので、金敬仁から電話が来たけれどもうっかりすると木村事務所を訪ねているかもしらぬと思って木村さんに電話して尋ねたところが来ていない。じゃおかしいというわけで、それで私は——私は金大中の身辺のいろんな動きを聞いていましたから、だからこれはもう重大な政治問題になるおそれがあるというので、いまの二階堂日自民党幹事長が官房長官だったが彼にすぐ電話したけれどいない。ところが当時の官房副長官はいまや時めく後勝田君だったが彼に電話した。彼はいろんなことで私はよく知っていたから電話して、それでこれはもう重大な問題になると、至急警察をあれして調べてもらいたいと言ったのですよ。それで私の印象では、やっぱりすぐやってはくれたのだと思うけれどもその間に連れていかれたと。  金大中という人は、その前年だったか大統領選挙があって朴正熙大統領とも争って、大体朴正熙大統領が五百何万だか、金大中が四百何万だか、つまり差は百万とありませんね、相当接戦だった。ところが維新憲法によって、いままで中国とアメリカがよくなるとか南北の対話が始まるとかいう空気が維新憲法ですっかり崩れた。全部じゃないけれども崩れていてそのさなかにあの金大中事件というのが起こって、これで南北の和解の空気がすっかり壊れてしまったわけです。金大中がなぜ南北の和解のために役立つかというと、彼はとにかく大統領選挙のときに朝鮮の平和統一ということをスローガンにしていた。ですから、ひとつの全朝鮮から期待される民主主義的人物であったわけです。それが突然日本からいなくなった。私どもが直感したのは政敵によって殺される、何とかして早く生きているうちに助けなきゃいかぬということだった。ところが四、五日してソウルにあらわれた。これは非常に奇怪なあらわれ方だったわけです。だれが考えてもこれは韓国の政府、国家が関係しなきゃできないことですね、応援しなけりゃ。これは日本の首都の一流のホテルで起こった事件ですから日本の警察権の威信にも関することですし、それから公権力が関係していればこれは当然主権侵害であって、国際的な慣例に従って原状回復を当然求めなきゃいかぬ。いかなる友好国家でもそういう主権侵害に対するけじめなんかきちっとつけないとお話にならぬですからね。それでやってもらおうと思っていたのだけれどもだんだん延びて、しまいには朴政権時代に選挙違反なんという事件でつかまえたりいろんな事件でつかまえたのです。それで、最後に全斗煥になってからいろんなその後の騒動なんかの関連でつかまえた。これは日本人としても、一つ日本の政府としてではなく日本の一般国民としてもやっぱり金大中の人権問題に対しては責任があります。一種の民族的責任というか、とにかく自分のところから連れていかれて、有力な大統領候補でなかなか衆望のあった政治家がそうなったのだから、これはやっぱり正しく解決しなきゃいけませんね、正しく解決しなきゃ。これは歴史から見て、ああなるほど日本はしっかりした解決をしたということじゃなきゃいけないわね。それで、いわゆる政治的決着の際にもこういうことをやらした。つまり、刑事事件としての捜査は続ける、それで刑事事件としての捜査を続けているのです。 それでもう一つの主権侵害、公権力の関与が明らかになればこれは原状回復も要求するということが言われているわけですね。しかし、刑事事件としての捜査もいいかげんなうちに金大中アメリカの方に行って、それで日本政府としては刑事事件としての捜査は続けるという意味で本人の事情聴取ということをFBIか何かを通じて求めた。本人はそれは気に入らぬという話である。だからこれは本人が気に入らぬという以上、もうこれで刑事事件としても真相究明を放棄しちゃうのだというようなことを後藤田官房長官が言っているように新聞に出ていますね。しかしこれは外務大臣がやっぱり責任者だと思いますから、一体この問題を外相としてどう考えておられるのか、聞かしてください。
  112. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 金大中氏の事件については、いま宇都宮先生のお話のように宇都宮先生も深く関与されておりますから、おっしゃるような経過もそれなりにあったと思います。そういう経過の中でいまアメリカにおるわけなのですね。それでいまこれに対する日本政府の立場というのはこれはいままで御承知のような経過で政治決着と、しかし捜査当局で捜査は続けていく、捜査のいかんによっては公権力の介入ということが認められたときは事態をまたもとに戻すということもこれはあるということを私も承知しておるわけです。しかし日本政府と韓国政府との間では一応政治決着、外交決着というのはしておるわけですが、せっかく自由な身に金大中さんがなられたわけですから、捜査当局もこれに対して事情聴取してその実態を明らかにしようと、こういうことは当然のことだと思います。したがって、捜査当局が外務省を通じまして事情聴取を金大中氏に求めた。外務省は捜査当局の意向に従って国務省に照会をし、国務省がアメリカの司法当局を通じて金大中氏の意向を打診した。金大中さんは正式な文書でやってもらいたいということで文書で事情聴取を日本政府が求めている、日本の捜査当局が求めておるということを出された。これに対して金大中さんから回答が来てこれには三つの条件があると。それは捜査当局の事情聴取に応じてもいいけれども三つの条件があるということであったわけでありますが、捜査当局としては、そうした三つの条件を併記した金大中さんの回答によれば、捜査当局の要請というものはそれだけ条件が付されればこれは断られたも同然だ、こういうふうに判断せざるを得ないということで、捜査当局としては再び金大中氏の同意を求めることは考えていない、そういうふうにわれわれは捜査当局から聞いておるわけであります。問題は捜査当局ですから、捜査当局が事情聴取をやろうということでわれわれとしてもお手伝いをしたのですけれども、その肝心の捜査当局が、三条件を提示されればこれは入れるわけにいかない、そういう三条件のもとで事情聴取というものは行うわけにいかない、こういうふうに判断されたと、こういうふうに聞いておるわけなのですね。そうなれば、これは外務大臣としてもこれに対してなかなか手の打ちようもない、こういうふうに言わざるを得ないわけなのですね。
  113. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 三条件はどういうことですか。
  114. 橋本恕

    政府委員(橋本恕君) まず第一に、日本滞在中に金大中さんに対する日本政府の身辺保護が十分でなかったということが一つ。それから第二に、日本政府は真相究明を公約しながら政治決着をつけて金大中さんの人権に無関心であったと、これが第二点です。第三点としまして、死刑判決が政治決着に反していたにもかかわらず日本政府はこれを韓国政府に対し取り上げなかったと、以上が金大中さんの回答の骨子でございます。
  115. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 第三点はどういうことですか。
  116. 橋本恕

    政府委員(橋本恕君) 金大中さんに対する死刑判決、これがいわゆる政治決着に反していたにもかかわらず日本政府は韓国政府に対して取り上げなかった。つまり韓国政府に対して具体的な措置を講じなかった。以上、三点について自分が納得できなければ簡単に日本の捜査当局の事情聴取に応じることはできないと、こういう趣旨だと思います。
  117. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 三条件というのはこれに応じてくれたら私は応じると、こういうことだね。それは要求じゃないね、何か気分みたいなものを言っているから。
  118. 橋本恕

    政府委員(橋本恕君) これは金大中さんの書簡、つまり先ほど大臣が言われましたように文書でもって出てきたわけでございますけれども、これは私も何度も何度も読み返してみましたが結論を先に申しますと、事情聴取に応じますとも応じませんとも書いてございませんで、そこでこれは私どもの解釈でございますが、自分としては——これは私の印象でございますが金大中さん個人としましては、先ほど申し述べました三つの条件といいますか三つの点につきまして、御自分として納得できるような日本政府からの説明があればともかく、それがない現段階ではちょっと事情聴取に応じるのはむずかしいと、こういう趣旨だったと解釈しております。
  119. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 私はおかしいと思うのは、何か理屈をつけて捜査を打ち切りたいというふうな感じがするわね、ちょっとあなたの御説明を聞きますと。私も何度も聞きましたよ、当時の責任者からね。外交決着はあるけれどもしかし刑事事件としての捜査は続けて真相を明らかにすると、それから真相を明らかにして結果として公権力の関与、主権侵害という事実があれば問題を新しくすると、これは重大なことだね。その重大なことの決着をつけるものとしていまの三条件の説明はよくわからないね。これは国民に説明できませんよ。
  120. 橋本恕

    政府委員(橋本恕君) 宇都宮先生の御指摘に対して私の説明の仕方があるいは適切でなかったせいとも思われますが、私が申し上げました三つの要素、まあ三条件でも何でもよろしいのですが、その三つの要素は、これは日本の警察当局、捜査当局が言ったのではございませんで、念のためにもう一度申し上げますと、金大中さんがアメリカの司法当局に対して寄せました返簡の中に金大中さん御自身の気持ちとして指摘されたのが以上の三つであると、こういうことでございます。
  121. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 現在の心境表明のようなものですね、事件に関する。条件じゃないから。心境表明も会ってお聞きするけれども、しかし事情聴収はしたいということをもう一度言う必要があるのじゃないでしょうかね、事件全体の経過からいうとね。
  122. 橋本恕

    政府委員(橋本恕君) その点につきましては先ほど外務大臣が明確に御答弁されましたと同じことになりますが、そもそも私ども外務省は、被害者あるいは当事者から直接事情聴取するのがこれがいわゆる捜査の常道であるという説明を受けまして、警察当局、捜査当局のその要請もむべなるかなということで、そこでわかりましたと、それじゃ、現に金大中さんがアメリカにいますから、直接ではまずいからアメリカ政府のしかるべき当局を通じて金大中さんに聞いてみましょうということで聞いたのがただいまの御説明申し上げたような内容でございました。  これを受けまして、先ほど外務大臣も明確に御答弁されましたとおりに、これは私ども外務省が捜査当局を代弁するのはおかしいのでございますが私どもが捜査当局から聞いておりますのは、先ほどのような三つのことを言われるのであれば、これは捜査当局としては事情聴取をしたいという要請は断られたも同然と解釈せざるを得ない、したがいまして、捜査当局といたしましては再び金大中氏の事情聴取に対する同意を求めることは考えていないと、こういうことでございますから、これも先ほど大臣がおっしゃいましたけれども、肝心かなめの警察がやる意思がないということはこれはやっぱり外務省としてもそういうものかなということで承らざるを得ないというのが現在の状況でございます。
  123. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 外務大臣、私国務大臣としてのあなたに聞くのだけれども、総体ね、特に外交を中心にして行政全体、総体を見ているわけですね。とにかくいまの橋本局長の言われるような三 条件というより希望表明みたいなものだね、あるいは現在の心境表明みたいなものだ。それだけを聞いていままで天下に公約していた真相究明のための事情聴取を放棄するというのは、やっぱりそれは日本の捜査当局としてまことにおかしいと思うのですけれども、あなた国務大臣としてどう思われますか。
  124. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは国務大臣としましても、捜査の内容に立ち入って意見を言うということはこれはやっぱり私は慎むべきじゃないかと思うのですね。
  125. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 何を慎むのですか。
  126. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いや、捜査のやり方だとか内容に対していろいろとくちばしを入れるというのはこれは慎むべきではないだろうか。やはり捜査当局は捜査当局の自主的な判断で行うのが日本のいままでの捜査の常道ですから、ですからやはり捜査当局の判断というものを尊重せざるを得ない。捜査当局が、いま局長も言いましたように金大中さんの言っているようないろいろな要素があるとするならば、これは無条件に事情聴取に応ずるということでなくて、そういういろいろな要素が加味されたようないわゆる条件といいますか、そういう中で事情聴取をするということは捜査当局としては考えないのだと、そういうことは捜査当局としてはやるわけにはいかないのだとこういう判断ですから、これは捜査当局のやっぱり独自の判断で捜査というのは行われるわけですから、そこまでこちらがいろいろと口を入れるということは、これまでの捜査の常道から見ましてそこまで外務省として立ち入ることはこれは避けるべきじゃないかと、そういうように私は実感として思います。
  127. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 時間が参りましたけれども、これは大事なことですからね、ちょっと納得いきませんよ、国務大臣としてのそういう発言はね。やっぱり天下に公約していることだ、日本の政治が。しかもそれは外にも公約しておることですからね。国民も聞いてそうだと思っているし、あるいは韓国の国民もそう思っているし。金大中という人は何といっても韓国の大統領の候補であれだけ票を取った人ですから、あれだけ国際問題になったのですから世界が見ていますね。そのときに日本の捜査当局は、外交的決着はしたけれどもしかし事件の真相を明らかにする捜査は続ける、それからもしそれで主権侵害の事実が明らかになれば問題を新しくするということを約束していたのです、捜査当局自身もね。ですからそういう約束をいま翻すということは、捜査当局というものがやっぱり信頼を落とす。捜査当局がおもしろくないのはわかるがね、とにかく身辺の警護が十分でなかったと、こういうよけいなことを言っているからね。しかし、金大中がそのころはまだお尋ね者じゃなくて大統領候補だった、有力な大統領候補で落ちて、とにかく五百何十万かとった要人ですよ、つまりね。そういう人には一定のやっぱり警護も要るし、だから言い分ももっともなところがあります。  それからもう一つは、何といってもあの事件は公権力の介入がない、主権侵害でないにしてもこれは明らかに日本の刑法のいろんな条項に触れてきます。殺人未遂にもなる事件ですからね。外国人に関する殺人未遂事件とも言えますし、集団的殺人未遂事件とも言えます。強制拐取というようなそういう犯罪でもあります。ですからこの犯罪というものが何も明らかにならずにということは、やっぱり捜査当局は困ると思うから外交的決着は決着、捜査は捜査、これでやろうと思ったに違いないと思う。それがここへきて金大中が何か三つほど心境を述べたからやめますというのじゃそれは納得できないね、私は。これはきょうはもう時間が来ていますから返答は求めませんけれども、納得できないですよ。これは私が納得できないだけじゃなしに国民とか関係者とか、あるいは世界が納得できないものだと。だから、日本の捜査当局のこれは信頼のためにも、もう一度私は考え直してもらいたいということを強く希望して終わります。
  128. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かにいまおっしゃるように外交決着は外交決着、捜査は捜査、こういうことで分けて、実は外務省としては、これはやはり外交決着という場合は政府対政府ですから、日本政府と韓国政府という交渉の中で御承知のような決着がついたわけであります。しかし捜査という面が残っておりまして、捜査当局が捜査本部をずっと今日まで維持しておったわけでありますから、その外交決着がついた段階でいわゆる外務省の手は、一応政府対政府という関係で決着がついた、離れたわけで、捜査のいかんによっては外交決着をまた考え直すという面も出てくるわけですけれども、しかしやっぱり捜査の面はこれは捜査当局に任さざるを得ないわけで、その捜査当局が今日まで努力をされてきてわれわれもそうした事情聴取とか何とかということでお手伝いをしてきたわけですが、その結論の最後の判断が捜査当局としては打ち切らざるを得ないという御判断ですから、これにまた外務大臣としてあるいは外務省として、この捜査当局が自主的に判断をされたことに対して介入をするということは私はこれは行き過ぎることになるのじゃないだろうか、こういうふうに思っておるわけであります。
  129. 宇都宮徳馬

    宇都宮徳馬君 再考を希望いたします。
  130. 増田盛

    委員長増田盛君) 本日の調査はこの程度とし、これにて散会いたします。    午後三時十三分散会