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宇都宮徳馬君
アメリカだけに要求してもしようがないと言うけれ
ども、いいことはまず友人から口説いていかなきゃね。それはいいことをやるのだから友達から口説いていく。それから今度はけんかの相手を口説いていく。ソ連も口説いたらいいと思うけれ
ども友達を口説けないでけんかの相手は口説けないね。だから当然ソ連も口説かなきゃいかぬと思いますけれ
どもやっぱり友達も口説けなきゃ。友達に、余り非理性的な
政策をしちゃ危いと、ソ連とも話ししなきゃいかぬという方向にだんだんいきつつあるのですからそういう方向に——
日本なんか大体初めから軍縮している国なのだから、これは。
憲法を持ち、
非核三
原則を持って初めから軍縮している国だから軍縮を主張する、平和を主張するには一番いい
立場ですよ。それでしかも相当利口な民族だし、学問もあるし金もあるのだからこれはもう少しそういう
立場を利用して世界のために尽くす必要がありますね、お願いしますよ、ひとつ。
それから、
金大中さんの問題にちょっと触れたいと思うのだけれ
ども、
金大中事件というのは、あの事件にじかに
関係した人は別として私は
日本人のうちであの事件の発生を最初に知ったのです。いまから十年近く前になるけれ
ども、八月八日の午後二時ちょっと前に韓国の国
会議員である金敬仁から電話があって、そして彼も非常におどおど警戒したような声だったけれ
ども金大中がいなくなったと言うわけです。だれかに連れ去られたと言うわけなのです。それで私は、当時あなたの先任者で
外務大臣だった木村さんに紹介することにしていたものだから、二時に木村さんに会うということになったので、金敬仁から電話が来たけれ
どもうっかりすると木村事務所を訪ねているかもしらぬと思って木村さんに電話して尋ねたところが来ていない。じゃおかしいというわけで、それで私は——私は
金大中の身辺のいろんな動きを聞いていましたから、だからこれはもう重大な政治問題になるおそれがあるというので、いまの二階堂日自民党幹事長が官房長官だったが彼にすぐ電話したけれどいない。ところが当時の官房副長官はいまや時めく後勝田君だったが彼に電話した。彼はいろんなことで私はよく知っていたから電話して、それでこれはもう重大な問題になると、至急警察をあれして調べてもらいたいと言ったのですよ。それで私の印象では、やっぱりすぐやってはくれたのだと思うけれ
どもその間に連れていかれたと。
金大中という人は、その前年だったか大統領
選挙があって朴正熙大統領とも争って、大体朴正熙大統領が五百何万だか、
金大中が四百何万だか、つまり差は百万とありませんね、相当接戦だった。ところが維新
憲法によって、いままで中国と
アメリカがよくなるとか南北の対話が始まるとかいう空気が維新
憲法ですっかり崩れた。全部じゃないけれ
ども崩れていてそのさなかにあの
金大中事件というのが起こって、これで南北の和解の空気がすっかり壊れてしまったわけです。
金大中がなぜ南北の和解のために役立つかというと、彼はとにかく大統領
選挙のときに朝鮮の平和統一ということをスローガンにしていた。ですから、ひとつの全朝鮮から期待される民主主義的人物であったわけです。それが突然
日本からいなくなった。私
どもが直感したのは政敵によって殺される、何とかして早く生きているうちに助けなきゃいかぬということだった。ところが四、五日してソウルにあらわれた。これは非常に奇怪なあらわれ方だったわけです。だれが考えてもこれは韓国の政府、国家が
関係しなきゃできないことですね、応援しなけりゃ。これは
日本の首都の一流のホテルで起こった事件ですから
日本の警察権の威信にも関することですし、それから公権力が
関係していればこれは当然主権侵害であって、国際的な慣例に従って原状回復を当然求めなきゃいかぬ。いかなる友好国家でもそういう主権侵害に対するけじめなんかきちっとつけないとお話にならぬですからね。それでやってもらおうと思っていたのだけれ
どもだんだん延びて、しまいには朴政権時代に
選挙違反なんという事件でつかまえたりいろんな事件でつかまえたのです。それで、最後に全斗煥になってからいろんなその後の騒動なんかの関連でつかまえた。これは
日本人としても、
一つの
日本の政府としてではなく
日本の一般国民としてもやっぱり
金大中の人権問題に対しては責任があります。一種の民族的責任というか、とにかく自分のところから連れていかれて、有力な大統領候補でなかなか衆望のあった政治家がそうなったのだから、これはやっぱり正しく
解決しなきゃいけませんね、正しく
解決しなきゃ。これは歴史から見て、ああなるほど
日本はしっかりした
解決をしたということじゃなきゃいけないわね。それで、いわゆる政治的決着の際にもこういうことをやらした。つまり、刑事事件としての捜査は続ける、それで刑事事件としての捜査を続けているのです。
それでもう
一つの主権侵害、公権力の関与が明らかになればこれは原状回復も要求するということが言われているわけですね。しかし、刑事事件としての捜査もいいかげんなうちに
金大中が
アメリカの方に行って、それで
日本政府としては刑事事件としての捜査は続けるという
意味で本人の事情聴取ということをFBIか何かを通じて求めた。本人はそれは気に入らぬという話である。だからこれは本人が気に入らぬという以上、もうこれで刑事事件としても真相究明を放棄しちゃうのだというようなことを後藤田官房長官が言っているように新聞に出ていますね。しかしこれは
外務大臣がやっぱり責任者だと思いますから、一体この問題を外相としてどう考えておられるのか、聞かしてください。