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1983-02-09 第98回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年二月九日(水曜日)     午前十時開議  出席委員    委員長 久野 忠治君    理事 江藤 隆美君 理事 高鳥  修君    理事 堀内 光雄君 理事 三原 朝雄君    理事 村田敬次郎君 理事 川俣健二郎君    理事 藤田 高敏君 理事 坂井 弘一君    理事 大内 啓伍君       上村千一郎君    小渕 恵三君       太田 誠一君    海部 俊樹君       粟原 祐幸君    砂田 重民君       田中 龍夫君    渡海元三郎君       橋本龍太郎君    浜田卓二郎君       藤尾 正行君    村山 達雄君       岩垂寿喜男君    木島喜兵衞君       小林  進君    佐藤 観樹君       沢田  広君    野坂 浩賢君       鍛冶  清君    草川 昭三君       岡田 正勝君    木下敬之助君       瀬崎 博義君    中路 雅弘君       正森 成二君    楢崎弥之助君  出席公述人         社会保障研究所         所長      福武  直君         日本労働組合総         評議会経済局長 宝田  善君         ソニー株式会社         代表取締役会長 盛田 昭夫君         専修大学法学部         教授      福島 新吾君         中央大学経済学         部教授     一河 秀洋君         航空ジャーナル         主筆      青木日出雄君  出席政府委員         内閣官房副長官 藤波 孝生君         総理府総務副長         官       深谷 隆司君         行政管理政務次         官       菊池福治郎君         防衛政務次官  林  大幹君         経済企画政務次         官       辻  英雄君         環境政務次官  福島 譲二君         国土政務次官  玉生 孝久君         外務政務次官  石川 要三君         大蔵政務次官  塚原 俊平君         大蔵省主計局次         長       平澤 貞昭君         文部政務次官  大塚 雄司君         厚生政務次官  稲垣 実男君         農林水産政務次         官       楢橋  進君         通商産業政務次         官       渡辺 秀央君         運輸政務次官  関谷 勝嗣君         郵政政務次官  戸井田三郎君         建設政務次官  中村喜四郎君         自治政務次官  佐野 嘉吉君  委員外出席者         予算委員会調査         室長      三樹 秀夫君     ───────────── 委員の異動 二月九日  辞任         補欠選任   相沢 英之君     浜田卓二郎君   正示啓次郎君     太田 誠一君   草野  威君     鍛冶  清君   竹本 孫一君     岡田 正勝君 同日  辞任         補欠選任   太田 誠一君     正示啓次郎君   浜田卓二郎君     相沢 英之君   岡田 正勝君     竹本 孫一君     ───────────── 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和五十八年度一般会計予算  昭和五十八年度特別会計予算  昭和五十八年度政府関係機関予算      ────◇─────
  2. 久野忠治

    久野委員長 これより会議を開きます。  昭和五十八年度一般会計予算昭和五十八年度特別会計予算昭和五十八年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。  この際、御出席公述人各位一言ごあいさつを申し上げます。  公述人各位には、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。昭和五十八年度予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。  なお、御意見を承る順序といたしましては、まず福武公述人、次に宝田公述人、続いて盛田公述人順序で、お一人約二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答えを願いたいと存じます。  それでは、まず福武公述人お願いをいたします。
  3. 福武直

    福武公述人 御指名いただきました福武でございます。  私が意見を申し上げますのは、社会保障の分野でございますが、この点から昭和五十八年度の予算を拝見いたしますと、前年度同額以下に圧縮するという厳しい状況の中で、ともかく〇・六%増ということで、福祉水準低下を回避し、福祉の後退を食いとめるよう努力されております。そして、今後老齢福祉年金が減少することに着目されて、その国庫負担を平準化することによって財源を浮かすなどの工夫をされ、在宅福祉対策健康づくりに力を入れるという苦心の予算であり、満足のいく予算とは言いかねますが、私は、現在の状況のもとで以上のような努力をされたことを評価し、賛成したいと存じます。  しかし、社会保障の今後を考えますと、私は大変心配でございます。社会保障は現在大きな岐路に立っており、その選択を誤りますと困ったことになると思いますので、この機会に、社会保障現状及び将来について、私見を述べさせていただきます。  近年、国家財政の窮迫が大問題になっておりますが、その中で、社会保障充実させると民族活力が弱まるという声が強くなってきております。「活力ある福祉社会」という最近の表現の中には、以前の同じ言葉に含まれました意味と違いまして、いま申しましたような含意が強く込められていると思います。それは福祉国家批判につながるわけでございますが、福祉国家を目指しました先進国においても、同様に福祉国家病理が説かれ、いわゆる先進国病が語られております。こうした国際的にも見られる福祉国家批判の論調が、わが国においても十分な検討もされないで受け入れられておりまして、救質が惰民を助長し、「骨肉相養い隣保相扶くる親愛友誼の道義を薄からしめる」という戦前の考え方が幾らか復活しているかのように思われます。「福祉国家福祉社会」という本を書きましたイギリスのロブソンは、「福祉国家怠け者仕事嫌い無能者を援助し、ないし保護したりする装置ではない」というふうに申しておりますが、まさにそのとおりでありますにもかかわらず、社会保障充実国民怠け者にし、海外競争力が弱まって、民族活力低下させると誤解されているわけでございます。それははなはだ危険であると言うほかはありません。もちろん、社会保障先進国病理は、将来、わが国にとって他山の石としなければなりません。しかし、現在において、このような発想で社会保障を目のかたきとし、その費用を削減しようとしてはなりません。いわば日本病の発生を恐れて、費用抑制財政立場だけで強行される場合、私は、かえって活力が弱まると憂慮するものでございます。  わが国社会保障現状を見ますと、社会福祉をも含めた社会保障関係費は、一般会計予算の一八%を超えるほどの大きさになっております。そして、この予算における社会保障費GNP対比で見ますと、十年前は二%であったものが、現在、四%を占めるに至っております。また、社会保障給付費、これには社会福祉関係費が含まれておりませんけれども、この給付費は十年前、国民所得対比で六%であったものが一三%になっております。このように十年ほどの間に急激に費用が伸びましたために、社会保障費膨張財政赤字の元凶のように見られて、風当たりも強くなってきたというわけでございます。そして、前に申しましたように、社会保障費抑制しないと、勤勉な日本人も惰民になり、民族活力が衰退すると説かれるわけでございますが、果たしてそうでございましょうか。私は、後に触れますように、社会保障費を無制限に伸ばせというものではございませんが、現在の状況のもとで社会保障費を削減しますと、逆に活力基盤を弱めると考えるものでございます。  日本社会保障費は、七〇年代の前半まで、御承知のように、国民所得対比六%前後にとどまっておりました。同じ六%でございましても、高度成長の結果、国民所得がふくらんでまいりましたので、実額におきましては、年々大きくなっていきました。そして、福祉元年と言われました一九七三年に著しく改善されまして、年金スライド制も導入されました。ところが、その後、日本経済は低成長に移りまして、国民所得というパイは大きくならなくなりました。したがって、年とともに年金も成熟してまいりますし、社会保障費の比重も大きくならざるを得なくなったわけでございます。十年足らずの間に、社会保障費国民所得対比で倍増したといたしましても、それは当然のことでございます。  現在における国民所得対比一三%という数字は、国際的比較から見まして、私は、決して大きな数字ではないと思います。社会保障先進国では、六十五歳以上の老年人口が一〇%に達した段階で、国民所得対比二〇%前後になっております。したがって、老年人口が現在九%という日本におきましては、もう少し大きくなっておりましても不思議ではなく、格別大き過ぎる数字ではないというふうに、私は思うわけでございます。  それにもかかわらず、これまで申しましたように、社会保障充実国民活力低下につながると考えられ、自立自助が強調され過ぎているようになっております。活力という言葉は、正確な用語ではございません。むしろあいまいな用語でございますが、この言葉を使おうとするならば、私は、経済的活力社会的活力とに分けて使用し、本当の活力は両者のバランスにあると考えます。経済的活力がなければ社会保障は成り立ちませんが、社会保障が不当に抑制される場合社会的活力は弱まり、その結果、経済的活力基盤も崩れると思います。  現代日本は、就業人口中、雇用者が七割を超えます。家族従事者計算外といたしますならば、雇用者は八割になります。言いかえれば、日本世帯の八割が雇用者世帯であるというふうに大ざっぱに言ってもいいかと思いますが、この雇用者世帯は、一般自営業者世帯と違って、生活上のリスクに対して弱い立場にあり、社会保障の支えが不可欠でございます。社会保険労働者対策として始まったことを考えれば、説明を要しないことでございますが、さらに将来、この雇用者はふえていき、先進諸国並みの九割前後になるだろうと思います。  また、現在の日本老齢人口は九%で、七%になった段階高齢化社会というふうに呼ばれますから、現在の日本社会はすでに高齢化社会であると言っていいかと思います。そして、周知のように、今後急速に高齢化が進行いたしまして、世界有数高齢社会になることが確実であります。この高齢者もまた、生活上のリスクを自力で克服しがたい人々でございまして、社会保障によってその生活は補強されなければなりません。  そして、産業化の進展、都市化の展開という社会の動きにつれまして、雇用者家族は好むと好まざるとを問わず、核家族化せざるを得ないのでありますが、このような家族に対しまして、高齢者生活保障を、自立自助の名において過大に要求することができるでしょうか。そうする場合、家族負担にたえかねまして、活力を生み出す基盤としての家庭は押しひしがれると言えないでしょうか。私の言う社会的活力は弱まるわけでございます。そして、社会保障による下支えによって家族生活が安定するとき、その安心によって社会的活力が維持され、その結果、経済的活力も発揮されると言えないでしょうか。  このように、私は、社会保障を正当に評価し、重視してもらいたいと考え、社会保障への不当な抑制志向を困ったことだと思いますが、このことは、将来においても、社会保障費をできるだけ公的支出によって賄えということにはつながりません。高齢化の進行は、一層社会保障を必要とする要因でございますが、同時に、その高齢化は、社会保障費に限界を置く条件ともなります。二十一世紀になりますと、生産年齢人口日本現実に即しまして二十歳から六十四歳といたします場合、三・九人で一人の老齢人口を支えなければならなくなります。さらに、四半世紀後におきましては、二・六人で一人を支えるということにもなるわけでございますが、この重荷をどのようにして担うべきか、早急に問わなければなりませんし、この重荷のゆえに、負担する世代給付を受ける世代との間の調整がいまから試みられなければなりません。その意味におきまして、社会保障は、公正な負担効率的な給付が行われるよう、体系的整合性を求めて、根本的に再検討されなければならないと思います。  現代日本社会保障は、正確に言いますと「社会保険及び関連サービス」という題名でございますが、普通ビバリッジ報告というふうに通称されております。その報告を書きましたビバリッジ表現をもっていたしますならば、まさに「継ぎはぎ措置」によって伸びてまいりました。そのために、たとえば本来連帯の問題であるべき年金損得勘定で考えられるというゆがみをもたらしました。その年金に対する公的負担は、将来抑制方向改革されなければならないと私は考えておりますが、この年金は、御承知のように既得権を侵害するわけにはいきませんから、いま改革いたしましても、その現実化は二十一世紀になります。したがって、一日も早く改革し、二十一世紀に備えなければなりません。その意味におきまして、厚生大臣年金問題担当大臣として、年金制度の一元化をめぐる改革が動き出したということは、遅きに失したとはいえ、とにかく大変結構なことであり、私は精力的に推進していただきたいと存じます。  このように、年金につきましては、私は抑制方向を支持するわけでございますが、これに対して社会福祉サービスは、将来いよいよ重要になり、この社会福祉をめぐっては、今後費用増大することを覚悟しなければならないと思います。そして、福祉サービスは、産業化都市化の結果、共同体としては解体してしまった地域社会を、コミュニティーとして再建するためにも必須であると考えております。ばらばらになった個人を地域社会の結合の中に新しく組み入れるためには、社会福祉のネットワークの整備が一層重視されなければならないということでございます。  この社会福祉に関しましては、各国のシステムが大変異なっておりまして、社会保障給付費国際比較の中に含まれておりませんので、正確な比較はできませんが、日本では、所得保障医療保障先進国水準に達しているのに比べて、いまなおおくれていると思います。そして、この社会福祉は、これまで社会保障制度審議会も位置づけておりますように、低所得階層対策として考えられ、福祉無料という観念がしみ通っております。しかし、今後の福祉は貧しい人やハンディキャップを持つ人たちだけの問題ではなく、すべての人の福祉ニードに応じなければなりません。わが国におきましても、先生方承知のように、本年度から家庭奉仕員すなわちホームヘルパーの派遣事業が、所得税課税世帯にも対象を拡大いたしまして、利用料を出してもらって行うというふうな方に進んでおりますが、このように、福祉サービスはこれから一層広げられなければならないと思います。そして、福祉無料という観念を打破し、応能応益利用料を取るべきかと思いますが、そうしたとしましても、これまでよりもより大きい費用が要ると私は思います。そして、このことを避ける場合、来るべき高齢社会に対応することはできないと思います。  このようにいたしまして、私は、今後、公正と効率を追求し、適正なバランスをとるにしても、日本社会福祉を含めた社会保障への負担は、増大せざるを得ないと考えます。ところが現在の国民は、ある程度負担増は仕方がないと思いながら、負担増大には必ずしも積極的ではございません。したがって、社会保障システムの全体像を提示し、負担増を当然とする国民的合意を醸成する必要がございます。そして、社会保障が生存を保障し生活を安定させるために必須であることが国民の間に理解され、税制改革によって不公平感が解消されますならば、この負担増も受け入れられるものと私は思います。  以上述べてまいりましたように、社会保障社会福祉は、今後の社会において必要不可欠のシステムであり、それが過重な負担を伴う過剰な給付にならない限り、いわゆる活力を弱めるものではございません。活力ある社会活力ある経済と矛盾するものではなく、両立するものであり、また両立させなければなりません。言いかえるなら、経済政策社会福祉政策調整され、公正な負担と妥当な給付を求め、重点的な効率化が図られなければならないということでございます。  どうか、このような私の考え方を御検討いただき、わが国が正しい意味での活力ある福祉社会を実現しますよう、先生方のお力添えをいただきたいと存じます。このようにお願いを申し上げまして、私の意見の開陳を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
  4. 久野忠治

    久野委員長 どうもありがとうございました。  次に、宝田公述人お願いをいたします。
  5. 宝田善

    宝田公述人 宝田でございます。  昭和五十八年度予算案につきまして、私は五点について意見を申し述べたいと思います。  第一は税制、とりわけ勤労所得税直間比率問題、第二は公務員給与の問題、第三は広い意味での福祉の問題、第四は防衛費の問題、第五は内外経済情勢予算関係、以上であります。  第一に、税制につきましては、すでに五年間続いた勤労所得税課税最低限並びに税率構造固定化を五十八年度もさらに踏襲することは、勤労者としては断じて認めることのできない措置だと考えます。  この点については、財政の再建を目指す臨時行政調査会基本答申ですらも次のように述べているところであります。  すなわち、税制基本的考え方の冒頭におきまして「税制については、①課税最低限が五年間据え置かれ所得税負担水準が上昇している、②国税収入に占める直接税の割合が近年徐々に高まり昭和五十七年度には七二・四%となっている、③給与所得者の多くが所得把握差等から所得税負担について不公平感をもっている等の現状を踏まえ、税負担公平確保等のための制度面執行面の改善を行う」云々ということであります。さらに「税負担公平確保観点を踏まえ、所得税制における課税最低限及び税率構造並びに現行の直接税、間接税比率等税制上問題のある重要課題につき検討すべきである。」これが臨調基本答申であります。  われわれは、臨調答申については一定の批判を持つものでありますけれども、その臨調ですら課税最低限を税の公平確保観点から検討すべきであるというのが昨年の答申であったことをまず指摘をしておきたいと思います。  いまやこの問題は、もはや財源難という理由から回避することができない段階に達し、新たな税の不公正問題を生み山しております。なぜならば、今日の財政事情のもとでは、財源難は恐らく中長期にわたって続くことは周知の事実でありますし、財源難理由とする限り、この据え置きはかなり長期に続くことが予想されるからであります。そのために、勤労所得税税制上の概念の変質がいま起こりつつあるからであります。労働団体は数年にわたって、一致してこの問題を政府に対する第一の要求としてきたのも、そうした理由からであります。  いまさら言うまでもありませんが、所得税というものは所得に対して課せられる税金であります。所得概念は、法人税申告所得税勤労所得税も同じであります。すなわち、収入もしくは売り上げから必要経費を差し引いたものが所得であります。法人税申告所得税は、この以前からの定義どおりの税の仕組みが継続されておりますが、源泉分勤労所得税については、かくも長期間課税最低限及び税率構造、控除を固定することによって、収入から差し引くべき必要経費というものが実態から年々乖離しております。今日では勤労所得税というのは半ば収入税的性格を持つに至っていると私は思います。同じ所得という概念に対する課税であるのに、数字固定化によってその実質を変質させていくということは、いわゆる租税特別措置執行上の不公正とはまた別の、あるいはそれ以上に重大な、新たな不公正の拡大と言わなければなりません。  この点について、政府予算提案については、臨調答申にもかかわらず、一言説明も見られないことはわれわれとしては全く納得できないところであります。不公正の拡大によって財源難を解決するということは許されるべきことではありません。この問題は財源難を超えた、もっと根本的な問題として考えていただきたいのであります。  このことと関連をいたしますが、いわゆる直間比率問題を見てみますと、直接税の比率昭和四十年に約六割、四十五年に六割六分、五十年に約七割弱。現在の七割というものは昭和五十年代の初期にほぼでき上がっていると見ていいと思います。この四十年から今日までの源泉所得税比率を見てきますと、二割から三割に上昇しているわけであります。ほかの所得税比率はほとんど変わっておりませんから、いわゆる直間比率の直接税の方の比率増大というものは、ほぼ源泉所得税負担増に見合っている比率であると見ていいと思います。  ちなみに、四十年と五十七年の申告所得税比率はそれぞれ七・九と八・六、法人税は二八・三と二七・九であります。この間に勤労所得税は一〇ポイント上昇している。直間比率比率でありますけれども、その比率変化原因にはかなり源泉所得税の問題があると思います。のみならずこの五年間、課税最低限据え置きが始まりましてからの五年間に、源泉所得税は二五%から三〇%台に毎年一ポイント以上上昇しております。したがいまして、勤労者立場から言えば、いわゆる直間比率というものを問題にするならば、まずもっていまの直接税比率増大原因であります勤労所得税の増税というものを手直しすべきであって、少なくとも五十三年程度までは調整をして、その比率の上に将来の比率問題というものを検討すべきであると思うのであります。いまの重税をそのままにしておいて、安易な税源として間接税を考えるとか、あるいは勤労所得税減税財源として逆に間接税というものを考えるのは、問題のすりかえではないかと思うのであります。  第二に、公務員給与凍結の問題でありますけれども、これまた臨時行政調査会基本答申は、政府態度とは違うのであります。  基本答申は、労働基本権代償措置としての人事院勧告制度公労委仲裁制度は、維持され、尊重されるべきであると言っております。二番目に、公務員給与は、民間準拠を基礎とすると言っております。三番目には、人事院勧告を受けた政府及び国会が責任を持って決定すべきだと言っております。四番目に、人事院勧告の実施に伴う総経費膨張というものは、さまざまの手段、工夫により極力抑制すべきであると言っております。言っている意味は、人事院制度は尊重する、総経費膨張というものは、さまざまな工夫によって、すなわち賃金水準以外の工夫によって極力抑制せよ、これが臨調答申であります。賃金凍結ではなくて総経費抑制ということを言っているわけであります。  この答申から見ますと、政府のとっている態度は全く逆であります。賃金水準そのもの凍結したわけであります。労働団体は、労働基本権代償措置としての人勧完全無視を抗議して同一の態度をとっております。  問題は、それがまた五十八年度の予算案提案理由あるいは説明において一言も見られないところであります。検討すべきものは、税制公務員給与も、理由なしに決定が下されているところが予算編成上の問題点だと思うわけであります。  昨年十一月、いわゆる三公五現の賃金仲裁棚上げ問題に際しまして、ILOの理事会は日本政府に勧告を出しました。要旨は、一、労働基本権が制限されている状態において調停、仲裁が一たん下されたならば、全面的かつ迅速に実施されるべきである。二、政府予算権は仲裁裁定の遵守を妨げる効果を持ってはならない、これがILOの勧告であります。労働基本権代償措置ということを考えるならば、いまわれわれはILOに再び提訴をしておりますが、遠からず公務員給与の問題についても同種の勧告が出ることを信じております。  さらに、心ある経営者は次のように言っています。およそ経営者が企業を立て直すときには、まずあらゆる手を尽くす。しかる後に、最後に従業員の給与についても協力を求めることが筋である。この順序を逆にする経営者というものはまずいないのではなかろうか。政府といえども巨大な経営体でございます。従業員がおります。経営の論理からしても、人勧凍結が行革の措置の前に行われるということは問題だと思うわけであります。しかして人勧凍結の影響というものはあらゆる面に出ておりまして、一般の推定では地方公務員を初め諸団体関連団体を含めまして、年金その他に及び、恐らく二千六百万の人々に影響を与えているのではないかと言われております。  第三に、日本福祉でありますが、福武先生がかなり詳しく申し上げましたから、私はごく簡単に申し上げますが、いま一番問題なのは、公務員給与と連動いたしまして厚生年金国民年金据え置きが行われたことであります。これは先ほども出ましたように、近年異例のことであります。このことによる国民政府に対する不信感というものは決して無視できない。その第一は、政府は、財政の都合によっては国民福祉のミニマムというものを本当に守らないかもしれない。財政の事情によって動くような制度というもので、われわれの生涯にわたる、あるいは長期の生活設計を立てるというのは問題ではなかろうか。この物価スライドだけは、およそ高齢者福祉のミニマムとしてぜひ守っていただきたいと思うのであります。  さらに関連いたしますが、国民年金特別会計への国庫負担金繰り入れの平準化その他、事務費の節約等々、あるいは保険財源への国庫負担の切りかえ等々も、来年度以降起こるでありましょう社会保障制度の抜本改正の中で、恐らく将来の返済計画も帳消しになるのではなかろうかという不安感がいま非常に大きいのであります。福祉あるいは文教というものにゼロシーリングやマイナスシーリングをかけまして、その中で財政工夫させるというのは無理が伴うのでありまして、内訳を見ますとほとんど単価の凍結、適用対象を狭める等々が続出していると思うのであります。  さらに広義の福祉を考えますと、文教の実質予算の減というものは、日本の教育政策上きわめて大きな問題を含んだと思います。  さらに、国民の暮らしの大問題であります住宅対策費も、昨年は補正後予算で景気対策でふやしましたが、五十八年度ではもとのもくあみに戻りました。住宅取得税控除十億円では九牛の一毛にすぎません。  第四に、国民の暮らしにかかわるそういう福祉政策が次々と後退している中で、ひとり防衛関係費だけが六・五%増になっていることは、まさに聖域としか思えないのであります。海外経済協力費は、国際的な義務もありますから原則としては考えられますが、防衛費については同列には論じられないと思うのであります。われわれは予算の編成過程を新聞その他を通じてしか知るすべはありませんが、その新聞等の報道を見ている限りでは、昨年度以来防衛費予算編成というものは、何%ならアメリカ側がイエスと言うからとか、防衛庁あるいは自衛隊が事前に米軍側といろいろ軍備についての協議をしたり話し合いをしているというふうな形で、防衛予算というものが編成されているのではなかろうか。この種の記事のみが散見されるということは、政策決定において同じ尺度でいま予算が編成されているかどうかということについて、われわれは疑問を感ずるわけであります。とりわけシーレーンや三海峡封鎖等は、どう考えましても国土防衛論の範囲ではないと思うのであります。これは明らかにアメリカの対ソ戦略の分担としか考えられない。  昨年の新聞の世論調査を見ましても、いま日本国民の大部分は軍事力をふやせという思考はとっておりません。のみならず、いまの米ソの核戦略というものはもはや国内経済を破綻させており、軍拡競争というものは決して世界の平和をもたらしていないというのが現実であります。のみならず、いま、もはやこの限界から相互に軍縮の声が上がらざるを得ないというのが現状ではないでしょうか。われわれは日本の平和ということを本当に考えるとき、世界の平和ということを考えるときには、もっと別の手段、世界に生活苦や紛争の根をなくすような努力こそが本当に平和への大道ではないかというふうに考えます。  最後に、五十八年度予算と内外経済との関係を申し上げます。  いま、この十二月末でOECD諸国の失業者は二千六百万人であります。いま世界の同時不況と言われているものは、ほとんど回復のめどが立たない、第一次世界恐慌に匹敵するような問題をはらんでいると言われています。その中でわれわれは、いま貿易摩擦というものに直面しておるわけであります。恐らくこの先進国の失業問題を解決するには、日本経済の半分ぐらいの規模のものが先進国の中の産業として復活しなければ、雇用問題は解決しないと思うのであります。  そこで、ヨーロッパ諸国の最近の動きは、自由貿易は維持したい、しかしそれは、世界経済拡大の中でしか維持できないのではないか、こんなに同時不況が進んだ中で自由貿易というものはもはや困難ではないかと言われております。したがいまして、ことしのサミットの第一の課題というのは、恐らくVTRとか自動車とか個別の貿易摩擦の問題よりは、いかにしてこの世界同時不況というものについて先進国が手を取り合って立ち向かうかということよりほかに道はないと思うのです。そのときに日本が果たす役割りというものはきわめて大きい。  成長率が一番高い、インフレ率は最低だ、国際収支は大幅黒字である、失業率最低と四拍子そろった日本先進国の中で最もこの世界同時不況に対応する役割りを期待されているのでありますが、五十八年度の予算編成というものは、国内の財政問題だけに視野を置きまして、日本経済も縮小、世界経済に対しては全く再建の役割りというものを視野に置かない編成の仕方ではないか、こういう編成の仕方というのは恐らく年内に世界的に問題を巻き起こすのではないか、というのが私の見解であります。  時間が来ましたので、省略して意見を終わります。(拍手)
  6. 久野忠治

    久野委員長 どうもありがとうございました。  次に、盛田公述人お願いいたします。
  7. 盛田昭夫

    盛田公述人 盛田でございます。  私は、この五十八年度の政府予算案に対しまして賛成の立場から所見を述べさせていただきたいと思います。  特に私には、景気とか貿易の問題について意見をというようなお話でございます。これに関しましては、個々の問題に入りますと非常に大きな、また多くの問題をはらんでおりますので、限られた時間でございますので、私の考えますもう少し根本的な問題につきまして意見を述べさせていただきたいと思います。  そもそも私どもが生活をしております自由経済機構の中で、自由経済を成り立たせるための一番大事な要素と申しますか、要因と申しますのは、お互いに取引をする際、相互の間に存在をする信用だと私は考えております。信用がなくしては経済は成り立たないわけでございます。  国内で見ますと、われわれの経済の信用の基盤をなすものは通貨でございます。取引をいたします対価としての通貨でございます。したがいまして、この通貨の安定、通貨に対する信用というものをいかに確保するかということは、これは日本政府の長くとってきた伝統的な政策でございまして、金融機関を十分に監視し、またウォッチし、保護し、また必要があれば、企業の困難の場合には、日本銀行まで出動して通貨不安を守るという姿勢をとってまいったのは、いかにこの通貨というものが大事かということを示しておるのでございます。これが経済基盤でございますし、私どもも商売をしておりますときに、われわれがつくりました製品が幾らで売れるかということによって利益が出るか出ないかということが決まるわけでございまして、利益が出なければ法人税も納められないということで、また歳入欠陥がふえてくるということになるわけでございます。いま私どもがここで一番大きな問題は、これだけ世界が小さくなり、貿易が非常に大きくなっておりまして、貿易摩擦も起きておるわけでございますが、それはなぜかと申しますと、国際的な取引の上におきましては、われわれが商売をいたしますときの対価としての通貨が、全く信頼のおけない状況にあるというのが現実問題でございます。  これにはいろいろ理由もございまして、昔はいわゆる固定レートであったわけでございますが、これが一九七一年以来、ニクソン・ショック以来いまのフロート制に変わったわけでございます。  このフロート制に変わった一つの原因は、国際的な貿易摩擦を少しでもなくするためには、各国がその経済競争力にマッチした通貨の強さにしなければならない。卑近な例をとりますとゴルフのハンディキャップのようなものでございまして、強い人はハンディキャップが少ない。弱い人は、ビギナーはハンディキャップをたくさんもらう。それでお互いにフェアプレーをしようという考えからいまの通貨制度が出てきたわけでございまして、その強弱の変化によりましてフロートによって多少そこを変えていく。ゴルフがうまくなればハンディキャップを下げていく、年をとってくればまたふやしてもらうというようなぐあいになるはずであったわけでございます。  ところが、その後いわゆるオイルショックが起きまして油の値段が非常に上がってきたために、非常に大きな、多額なお金がOPEC諸国へ集まっていきました。それからアメリカのドルの弱さというような問題が出てまいりまして、世界の経済情勢というのは大変さま変わりをしてまいったわけでございます。  その結果といたしましていまどういうことが起きておるかと申しますと、いまの通貨の交換レートというものは決して一つ一つの国の産業の競争力をあらわしておるものではなくなっておるわけでございまして、それ以上に非常に大きな通貨が国と国との間を動いております。それはいわゆる健全――健全という言葉を使ってはいけませんかもしれませんが、物を対価とした貿易に伴っての通貨の動きよりもはるかに大きなお金が、投資とか投機とかいう形で非常に動いておるわけであります。アメリカが高金利政策をとれば、アメリカの高金利を目がけて非常に大きな通貨が出ていく、それがOPEC諸国の金、ユーロダラー、その上に日本の余った資金というものまでアメリカに流出をしてしまいまして、日本の円が急速に弱くなる、こういう状況が起きておるわけでございます。そうなれば、今度は外国から見れば日本へ物を売りにくくなる、日本からは売りよくなるわけですから、日本は、政府日本の貿易をふやすために円をわざわざ安くしておるのではないかというような状況でございます。しかも、その大きなお金が左右に動きますものですから、そのために、円の場合を見ましても交換レートというのは非常に大きく変わっておりまして、ひどいときには一カ月に三十円も四十円も変わるわけであります。一割も一割五分も変わるということが起きてきております。  ところが、産業界はおきましては、特にこれから世界の活性化のために貢献をしていかなければならない高度技術を必要とする産業におきましては、一つの技術開発にもう五年も十年もの時間をかけて開発をしていきます。しかも開発費は増大するばかりでございます。その大きな開発をして、そしてそれで新しい製品をつくり出して、そして新しくマーケットをつくって世界の経済を拡張していこうという努力をしておるわけでございますが、そのためには非常に多くの技術者、労働者が努力をしておるわけでございますが、そのときに原価を一%、二%下げるという努力というのは大変な努力でございます。ところが、売り値の方はもう通貨変動によりまして一割、一割五分というのが全く自分たちのコントロールの外で変わってしまっておるわけでございます。いわばいまでは通貨は、ちょうど株式のように投機とか投資の対象として通貨の値段が決まっておるわけでございます。ですから、私どもの立場から見ますと、ちょうど株式を対価として商売をしろと言われておるようなものでございまして、いまこの会社の株を対価として商売をしろと言われれば、会社の株式の価格というのは、ときにはその会社の実力だけでなくて、その会社の人気とか将来性とかいろいろなことで、社長が死んだら下がるとか、そういう全く違った理由で上がり下がりするわけでございますから、そういう変動の多い、しかも全く違った影響力によって変動の多いものを対価として産業を行えということは、これは私は産業人に意欲をなくする最大の原因だと思うわけでございます。いまは通貨は投機とか投資としての対象として考えられて、むしろそちらの力の方が大きいわけですから、いまむしろそれで利益を上げておる人たち――利益を必ず上げておるというのは言い過ぎかもしれませんが、座っておりまして世界の為替を見て電報一本でお金を動かしておる人たちは、通貨変動というのは非常に楽しい、またおもしろい商売だと思いますけれども、私は、日本経済を活性化し、世界の経済を活性化し、雇用をふやすというためには、どうしても産業、工業というものが健全にならなければこの世界経済は直っていかないと思うわけであります。そのためには、その人たちに勤労意欲と、それから将来に目がけて投資をする意欲を持たせなければ、経済は活性化するはずはないと思うのであります。  その投資を促進をするためにいろいろな税制が考えられている。アメリカでも考えられておりますし、ヨーロッパでも考えられておりますし、日本でも話題に上っております。しかし減税をしてもらっても、投資をしてそのリターンがなければ企業として投資ができるはずがないわけであります。リターンがあるかないかということを決めるのは、そこで生産した物がその投資をしたものをリターンできるだけの利益を得て売れるかどうかという見通しがなければ、投資ができないわけであります。ところが、いま国内においては、この通貨をこれだけ大事にしておる政府が、対外的な問題になりますと、いまのフローティングシステムにそのままもう任しておるということは、われわれ産業人にとってはこれは重大な問題でございますし、このような状況が続く限り産業の活性化というものは期待できない、私はこういうふうに思うのであります。  そのために私たちはやはり、この新しい通貨体制というのは、要するにお互いの経済力にマッチした、経済競争力にマッチした交換レートをもう一遍つくる努力をし、そして一回決まったらそれはそんなに大きな変動のないような制度というものを世界的に考えなければ、私は世界の経済は活性化できないと思うのであります。  貿易摩擦にいたしましても、いままでのフリートレードということから、最近はフェアトレードと言われております。フェアトレードと言われながら、事実は、おれのところの産業が困るし失業者が多いから日本の輸出を自粛しろという形で、すでに繊維からテレビから、それから自動車から、またいまはVTRから、日本の輸出を自粛しろという圧力になってきております。これは、幾らいま自粛をして解決をいたしましても、企業というもの、また技術というものはまた新しく進んでまいりますから、その次にはまたその次のものが出てきて、またそれを自粛しろということの繰り返しになりまして、貿易摩擦は終わらない、私はこう思うのであります。  それならばどうするかといいましたら、これはお互いの国の産業力にマッチした交換レートを決めて、そうしてアメリカの自動車も日本の自動車もお互いに競争しようじゃないか。最後にどれを買うかと決めるのは一般大衆なんですから、一般大衆が本当に対価とその商品とが一番合ったものを選んでくれるようなフェアな競争をしようじゃないかということに持っていかなければならない。  いまそういうことを申しますと、そういうふうな交換レートにするためにはいまの資金の動きを制限しなければならない、いわゆる為替管理をしなければならないから、これはやるべきことではないという説がございます。しかし、私から申し上げますと、全く物を伴わない投機、投資のためのお金の動きを制限することの方が、産業の製品である貿易の数量制限とか自粛とかいうことをすることよりははるかに罪が軽いと思うのであります。全国の、また世界じゅうの産業人は一生懸命働こうと思っておるわけであります。その人たちに勤労意欲を与え、その経営者に投資意欲を与えてこそ、世界の経済基盤的に本当に活性化をしてくるわけでございますから、私たちは、その人たち、その産業の製品の貿易を制限をすることはなるべくしない方がいい。ところがそれをやるためには、一方においては無用な――私が無用と言うと非常にしかられるかもしれませんけれども、投機とか投資とかいう形の資金の動きに多少の制限を与えなければならないかもしれない、為替管理もしなければならないかもしれない。しかし、産業というものが経済基盤であるというふうに見た以上は、産業の活性化のためには物の動きに制限を加えるよりは、ただ投機のための資金に制限は加えてもよいのではないかと私は思うのであります。  ところが、この問題はなかなか皆さん方専門家に受け入れられるところではないのでございまして、世界の国際金融制度の討議が行われる場は、またその討議をなさる方々は金融の専門家であります、また金融界の方々であります。金融界の方方と私ども産業人とは、お金というものに対する考え方が違うわけであります。金融界の方々はお金が商品であるわけです。株屋さんの株式と同じであります。ですから、その株屋さんに株の値段を固定しようとか株の値段の動きをとめようと言えば、株屋さんは全部反対するのは当然であります。しかし、私ら産業人は、経済の根本として自分たちのつくった物を売るときにもらう対価というものが浮動しておっては、本当に産業が成り立つはずがないということは自明の理だと思うのであります。したがいまして、この国際金融、国際の通貨制度というものに対する見方は、産業人と金融界とではおのずから見方が違ってくる。  しかし、いま何が大事かといいますと、私は世界の経済が活性化すること。世界の経済が活性化しなければ日本経済の活性化もできません。また、日本経済が活性化しなければ、日本の国の予算、また大きな歳入歳出というような問題も根本的に解決ができない。どうしても世界の経済を活性化をしなければならない。本当に活性化をするためには、いま私の申し上げました産業人が売買をする、商売をするときの対価というものをはっきり信頼の置けるものにするということが、ちょうど国内におきます日本の円の通貨というものに日本政府が非常な重点を置いておられると同じように、国際的にそういうものが必要だと思うのであります。  そのためには、どうしても各国に相当経済政策を変えさせなければならない。変えてもらわなければならない。特に自由主義を標榜しておりますアメリカの態度には相当な注文をつけなければならないと思うわけでございますけれども、いまは日本経済力の強さによって、日本が貿易摩擦のスケープゴートになっている。しかし、一方には、日本はこれだけ強力な産業人を持っておるわけでございますから、先ほど宝田公述人もおっしゃいましたけれども、世界のために強い経済を持った日本の役割りというものは、私は日本がここでリーダーシップをとって、何か新しい通貨制度、また産業人に意欲を与えるような通貨制度というものを世界的に研究をする。そのときには、お金を商品として扱われる金融専門家だけの意見で決められては私は困ります。やはりそれで生活をしております産業人の意見も十分取り入れて新しい通貨制度というものをつくり上げる指導的立場をひとつ日本がとっていただきたい。サミットも近づいてまいります。それを解決をしなければ、また世界じゅうで新しい道を開かなければ、日本経済、景気というものも回復してまいりませんし、貿易摩擦も減らしていくことができないと私は考えますので、私の意見として申し上げさせていただきます。  御清聴いただきましてどうもありがとうございました。(拍手)
  8. 久野忠治

    久野委員長 どうもありがとうございました。     ─────────────
  9. 久野忠治

    久野委員長 これより公述人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。浜田卓二郎君。
  10. 浜田卓二郎

    ○浜田委員 ただいま三人の公述人の皆様から大変貴重な御意見を承りまして、ありがとうございました。自由民主党という立場から質問をさせていただきたいと思います。  ソニーの盛田会長から大変興味深いお話を伺ったわけでありまして、最初に二、三の質問を申し上げてみたいと思います。  現在のフロート制であっては経済の活性化というのはむずかしいという御判断のようでありますが、通貨制度は、四十六年以前にとっておった固定相場制、そして現在のフロート制、そしてその中間に、EC諸国でとっておりますいわゆるトンネルの中の蛇という、EMSですか、こういう制度もございますし、またアメリカで、これは私、新聞か何かで読んだ記憶だけの話でありますが、円とドルを一定の範囲の関係に据え置いて、一種のトンネルの中の蛇のような関係を日米でつくろうというような意見も出ているやに聞いているわけでありますが、国際人としても著名な盛田会長でございますので、このような動向、あるいはいまおっしゃった考え方は、固定相場制といま申し上げたような中間的な通貨制度、このあたりのどのあたりを頭に置かれての御発言なのか、最初にお伺いしたいと思います。
  11. 盛田昭夫

    盛田公述人 お答え申し上げます。  いま御質問がございましたが、私は、先ほども申し上げましたように産業人でございまして、金融専門家でございませんので、技術的にどういう制度が理想的かということを私は具体的に申し上げることは非常に困難でございますが、固定相場制というのは非常に危険であることは確かでございます。それから、国の実力が変わってくるに従って、やはり相場というものは多少変えていかなきゃならない。しかし、いまのフロート制の中で起きておりますような一年間に二割も大きな額が変動するということは危険だということを考えておりますので、私は何か中間的な方法がとれるのではないか。そのためには、やはりIMFとか蔵相会議とかサミットとかいう会談があるわけでございますから、ちょうどゴルフのハンディキャップ委員会のように、ある時点でお互いに一つの討議をして、まずその標準値を決める。その上下を、ある範囲内では世界先進諸国が共同をして介入をしていく、また場合によれば、それでもとまらないときには、先ほども申し上げましたように為替管理もある程度していくというような――アメリカはいままで為替管理ということをしたことがないわけでございますから、そういう経験がないわけでございますけれども、アメリカは、御承知のようにあれだけ強大なドル圏内に住んでおりますので、アメリカ人には、またアメリカの政府当局者には、なかなか危機感というものがわからない。しかしヨーロッパは相当にその危機感を考えておりますので、円とドルとくっつけてしまうというのは円札をドルにかえることになりますので、私はそれは危険だというふうに考えますが、ここで、あるワイダーバンドの固定制と言うべきか、また、私が申し上げましたようなもっと新しい考えの、世界各国が共同介入をし、場合によったら為替管理まで発動するという約束のもとに、当分の間はある程度の標準値の中にお互いに固定をしようという考え方ができるのではないかと、私は素人なりに考えたわけでございます。
  12. 浜田卓二郎

    ○浜田委員 わが国は、昭和四十六年に、戦後ずっととっておりました固定相場制からフロート制に移行したわけでありますが、そのとき、要するにどういう為替レートに調整するかという対応が大変おくれたという問題とか、あるいは一気に固定相場制が大きくフロートしたために経済的なショックが非常に大きかったというような、そういう経験も持っているわけであります。それと同時にわが国は、固定相場制の時代にはもう世界で最もきつい為替管理をしいていた国でありまして、にもかかわらず、あの変動の際には大量の投機的な資金移動が問題になり、国会でも大きく追及されたことは記憶に新しいわけでありますけれども、そういう諸点を踏まえて、もう一度――こういう固定相場制、それからいまおっしゃったワイダーバンド、これは中間的な、さっきのEMSみたいな話だと思いますけれども、この点について、もう一度御所見を伺いたいと思います。
  13. 盛田昭夫

    盛田公述人 日本は、初め三百六十円から、ニクソン・ショックによりまして三百八十円になりましたときは、非常なショックでございまして、ある一部には、これで日本の産業はつぶれるのではないかというような意見も出たわけですが、決してそういうことはなかったわけであります。しかし、その後フロート制が非常に変動いたしまして、百八十円、百七十円というようなところまでいったわけでございますが、私は、現在の円レートというのは決して日本の実力をあらわしていないし、また円安過ぎる、こう言われても間違いないと思うわけでございます。これが起きましたのは、先ほども申し上げましたように、やはり投機的資金が非常に大きく動くことが問題でございますから、固定制時代の為替管理に戻れという意味は私は申し上げたわけではございませんけれども、ある程度、一時は投機的な資金の動きというようなものをこれは制限を各国がするということをしていいのではないか。  なぜならば、多額のオイルマネーとか多額のユーロダラーというものがあるわけでございますけれども、それらが投機だけに回っております間は危険がふえるばかりでございます。これらのお金がいわゆる循環をいたしまして、むしろ各国の産業の投資に使われるようになってくれは、これは健全にそのお金が再生産を生むわけでございますから、そちらの方へお金を向けるようにしませんと、いまのようなことをしておりますと、経済界、産業界に投資意欲がなければお金の需要がありませんから、余ったお金はますます投機の方へ走る。したがいまして、私が先ほど申しました新しい方式というものは、やはり為替の自由化がいいんだという考えはもう一度考え直す必要があるのではないか、そういうことを申し上げたかったわけでございます。
  14. 浜田卓二郎

    ○浜田委員 大変ありがとうございました。  それでは、次に福武先生にお伺いをしたいわけでありますが、私どもも、社会保障が救貧策ではない、そのような狭い限定されたものではないということは前提として十分承知しているわけであります。ただ、先ほどの御発言の中で、日本病というものを財政の側面からのみ論ずるのはおかしい、それとまた、現在のわが国社会福祉水準というものはまだまだ足らない面も残されている、そういう御発言でございました。  そこで、私は財政の側面からだけ社会保障の問題を論ずるということでは決してなくて、むしろ国民がどれだけの保険料あるいは税金を負担し得るかという、いわゆる国民負担の限界という点からこういう問題を考えていく必要があると思うわけであります。  そこで、高齢化の問題をおっしゃいましたが、わが国がこれから有数の高齢化国になっていくということではなくて、むしろわれわれがこれから迎えなければならない高齢化社会というのは、これはいまだ人類が経験したことのないほどの未曾有の高齢化社会である、少なくとも人口推計統計上で描かれている姿はそういうことであります。そういう事態に直面していって、特にいまの年金制度、医療制度というものを現在の給付水準で、しかも支給開始年齢も据え置くという前提で単純に延長してまいった場合には、これはもうとうてい容認できないほどの国民負担が将来の勤労者世代にかかってくる、その点を私どもは危惧しているわけであります。  そこで、二点についてお考えを伺いたいわけでありますが、一つは、私どもは、年金、医療の将来の、特に年金から来る保険料負担、これはもう保険料であろうと税金であろうと勤労者にかかる負担という意味では同じでありますから、それが余りに過大になっていった場合には、先生の言われる、まだおくれていると言われる各種の弱者対策あるいは高齢化対策等について回していく財源というものが果たして求められなくなるのではないか、そういう感じも持つわけでありまして、どのくらいの国民負担で将来わが国負担水準というのを抑えていくべきか。いまの状態を単純延長していったら、スウェーデンの現在の国民所得の七〇%を超えると言われるそういう負担水準よりもさらにわが国の場合には高くなっていってしまうのではないか、私はそういう展望を持つわけでありますけれども、これはどのくらいの国民負担で抑えていくべきとお考えなのか、その点を第一点お伺いしたいわけです。  それとうらはらではありますけれども、現在の厚生年金制度は支給開始年齢が六十歳からであります。しかも、四十年加入でありますと、すでに月額十七万円を超えるぐらいの大きな給付が保障された制度になっているわけであります。しかし、これを単純延長していったらいま申し上げたような形になるというのは、先生の先ほどのお話であったろうと思うわけでありますが、そこで支給開始の年齢、これは一つのライフサイクル、六十まで働いて後は年金だ、そういうライフサイクルで高齢化社会に対応していけるかという問題でありますけれども、この点についてどのようにお考えか、さらに、現在の給付水準についてどういうふうにお考えか。この二点をお伺いしたいと思います。
  15. 福武直

    福武公述人 お答えいたします。  おっしゃいますように、現在の年金は、国年は発足がおくれましたから、水準からいいますとまだ大変低いのは御承知のとおりでございますが、厚年は実際に支給されております平均の月額におきましても十万円を超える、完全に国際的に比較にたえる段階になっているというふうに思います。したがって、私の公述の中でも申し上げたわけでありますが、年金ははっきり抑制方向で考えなければいけないというふうに申し上げたわけであります。その理由は何であるかといいますと、いまおっしゃいましたような水準に達しているからである。そうしますと、現在働いている世代給付を受ける世代とのバランスがとれなくなる、もうすでにそういうふうな状況に入ってきている。可処分所得で考え、さらに家族の員数から考えて、一人当たりに割るということになりますと、まさにそういうふうになっていて、これはとうてい容認できないことでございます。したがって、年金の一元化をめぐる動きが始まったのは大変結構だけれども、遅きに失したというふうに申したのはまさにそのとおりでございます。  なぜ年金抑制というようなことを申すかといいますと、年金一般国庫負担をつけるわけでございますが、なくてもやれる人にまでいくわけですね。そこに問題があると私は思いますので、一九五三年の制度審におきましてすでにそういうことを打ち出しているのですが、報酬比例部分にまで国庫負担をつけるなというふうなことを言っているのですが、私はそれに賛成でございまして、そういう形で抑制すべきだというふうに思います。  それから第二点でございますが、これからは六十五歳支給というのは当然の前提としなければいけないと思います。しかし、その場合これがむずかしいわけでございまして、早く引退して年金をもらってというのはいけない、日本型といたしまして就労シナリオでいかなければいけないということが言われるのでございますが、そのことをもっと真剣に考えませんと、簡単に六十五歳まで働けるようにすることはなかなかむずかしい。現在でも日本高齢者たちは大変多くの人が働いているわけでございますが、それは働いているというだけでありまして、働き方はは問題がある。そう‐いうことを考えますと、私は、六十五歳にしなければいけないが、同時に非常に努力して働けるような環境をつくっていかなければならない、そういうふうに考えております。
  16. 浜田卓二郎

    ○浜田委員 国民負担の点は。
  17. 福武直

    福武公述人 負担の限度についてお聞きになったわけでございますが、私は、保険料負担はせいぜい二〇%程度というのが限度であって、それ以上はとても耐えられないだろう、負担する世代の反乱を招いて世代間の戦争にでもなったら大変だ、こういうふうに考えております。
  18. 浜田卓二郎

    ○浜田委員 どうもありがとうございました。  以上で終わります。
  19. 久野忠治

  20. 川俣健二郎

    ○川俣委員 公述人の皆さん御苦労さんでございます。社会党の川俣健二郎でございます。  国会の予算審議状況はまだ入り口なのでございますが、外交、防衛、財政再建等で、これから人勧、減税、教育、社会福祉、医療等々、総括というセットで行われるわけでして、きょうのお三方のお話は大変に参考になりました。そこで、時間を稼ぐ意味で私の方から各先生方に順次質問を述べておいて、後で公述人の皆さん方からもう少しお聞かせ願いたいと思うのでございます。  まず、福武さんはさすが専門家でございまして、社会保障怠け者にするという間違った発想はむしろ危険である、そこで、活力低下させるということを言うが、むしろ活力経済的活力社会的活力の両面相まって云々というあれは、私も非常に参考になりました。そこで、福武さんの態度は、非常に圧縮されたとは言うが、〇・六%のプラスという努力を評価し、賛成だ、こういう表明でございます。しかし、一点伺いたいのは、社会保障そのものを根本的に検討するという考え方は、私たちも論議しておるところでございますが、問題は、社会保障そのものだけの御意見は非常に伺いましたが、五十兆余りの五十八年度の予算全体から見て、たとえば国防費なんか六・五%突出しておることから考えまして、社会保障というのはどうしても戦争のにおいがすると子供や老人が疎外されるというか邪魔者にされるというのは古今東西の歴史が教えているわけですから、そういう観点、先生のような専門の方から見て全体の国家予算の中の社会保障に対する政治の面がどうなっているだろうかということをぜひお聞かせ願えればなと思っておるわけでございます。  それから、宝田さんは、税制、人勧、福祉、防衛、内外情勢と予算という五つに区切って、非常にわかりやすく伺いましたが、少し内外情勢と予算との関係で、いま専門的に盛田さんからも大変高邁な御意見がありましたが、こういったものを踏まえて、先ほどちょっと時間がなかったように見られるので、その五つ目をもう少しお聞かせ願えればありがたいと思っておるのでございます。  そこで、盛田さんに伺いたいのですが、さきの宝田さんのお話に、労働者の立場ではっきり言われているわけですが、五十七年度に続いて五十八年度もこういう税制のあれというのはまことに許容限度も過ぎているという話が出まして、臨調答申ですら課税最低限を云々ということが言われておる、それから人勧でも臨調では賃金抑制ということは言っていない、いろいろと工夫しろ、こういう場面から宝田さんは、経営者はあらゆる努力をした結果、最後の手段として賃金に手をかけるのが当然じゃないだろうか。こういうお話をお隣で聞かれておりまして、経営の専門の盛田さんの立場から、この辺に対する御意見があればお聞かせ願いたいものだと思っておるのでございます。  それから、盛田さん御自身の公述のあれをずっと伺っておりますと、自由経済で大事なのは両者間の信用、そのもとは通貨であるという通貨論をずっとお話し願ったわけですが、さらにゴルフになぞらえて、ハンディの修正があってしかるべきだ。さらに、コストを一%、二%下げるというのは大変に努力が要るのだが、売り値を一割、二割というのは外的要因でいとも簡単にやられるんだという苦衷の一端を述べられましたが、私の感じでは、こちら側に座っているからじゃないのですが、やはり自由経済という、修正というか限界というか、ケインズの論議も出てくるかもしれませんが、やはり盛田さんは、経済人、産業人として金融界に対する注文であり、各国、特に米国経済体制を変えてもらわなければならぬというこの注文を聞いてみると、自由経済そのものに――われわれ政治家が交通整理をやるにしても、野放しの競争原理というものだけで活力を生ませるから自由経済はいいのだということではなくて、いま国際的にこういう貿易摩擦等が出ておることから見ますと、こちらが資本主義でこちらが社会主義だということではなくて、やはり何らかの形で政治の場において交通整理をする段階に来ておるのではないだろうか、こういうように考えておるのでございますが、その辺をさらに専門的にお聞かせ願えればと思っております。
  21. 福武直

    福武公述人 私に対する質問は大変大きな問題でございます。その前に、専門というふうにおっしゃいましたので、それにひっかけまして少し先生方お願いしたいことがございます。お許しいただきたいと思います。  私は決して社会保障の専門家ではございません。それにもかかわらず、肩書きといたしましては社会保障研究所長でございます。私はその任にあらずということで半年余りお断りしたのでございますが、適当な人が見つからずやむなく就任したわけでございまして、専門ではないわけでございますが、なぜそういうことになるかということをお考えいただきたいわけでございます。  わが国社会保障につきまして、率直に言いまして、過去大して熱心でございませんでした。したがって、いまどうなっているか、はっきりしたことはわかりませんが、少なくとも私の東京大学におりました五年前の段階では、国立大学におきまして社会保障に関する講座はなかったと思います。そういうことをひとつお考えくださいまして、いろいろの点で御助力いただければと思います。さらに、社会福祉系の大学というのは、これまた本当の専門家ではございませんから正確ではないのでございますが、三十五から四十ぐらい学部、学科があると思いますが、国立大学におきましてそういうことを扱っておりません。こういうこともお考えいただきたいと思います。そういう状況でございますから、本来専門でない私が専門家面をしなければならないというわけでございます。  これは現状を申し上げて、お考えいただければということでございまして、川俣先生の御質問とはちょっと違うのでございますが、そういう勝手なことを申し上げました後、御質問に答えたいと思うのです。私は財政の専門家ではございませんし、国際関係その他につきまして十分な知識を持っておりませんので、直接それにお答えすることはお許しいただきたいと思いますが、ただ、将来のことを考えますと、このように考えているということだけを申し上げさせていただきます。  ミュルダールという有名な学者がございますけれども、彼は「福祉国家を越えて」というふうな本を書いております。福祉国家ということを追求いたします場合に、自分の国の福祉さえよければいいというふうな考え方に陥っては困るのだ、福祉世界を目指さなければならない、そういう言い方をしているわけでございます。  したがって、世界のGNPの一〇%を占めるようになりましたわが国がそれ相応の協力をしなければならないということで国際的にいろいろ問題が起こるのだろうと思いますけれども、そういう場合に、私は、それを直ちに社会保障の方に回せというふうな短絡的な考え方はとりませんで、世界の中で飢えに苦しみ、貧乏に悩み、病気にさいなまれている人々が途上国にたくさんいるわけでございまして、そういう人に将来援助の手が行き届くように、そういうふうなことをお考えいただくのが、経済大国にとにかくなりました日本の役割りではなかろうかというふうに考えております。  なお、一つつけ加えますが、私は、社会保障を守りたいというふうなことで、ふつつかながらにわか勉強をしておるわけでございますが、その社会保障費に対する風当たりが強くなりますと、社会保障費は一三%だ、国防費は一%だというふうな言い方をされる方が多くなっているのでございますが、国費の負担からいいますと一%対四%であるということをどうかお忘れいただかないようにというふうに申し上げたいと思います。  以上で、私の答えにならない答えを終わらせていただきます。
  22. 宝田善

    宝田公述人 私がはしょりましたのは実は五番目の柱だけではありませんで、最初の税金で時間の半分をとりましたので、以下順次省略をしたわけでございます。  五番目の質問の問題についてだけお答えいたしますと、先ほど申しましたように、いまの特に先進国経済というのは、かつて例がないような構造的な問題を含んでおります。それは、二回にわたって世界はオイルショックの影響を受けたわけでありますが、現在のこの世界同時不況というのは、第二次オイルショックの影響だけでは決してはかれない問題なのでありまして、とりわけ、去年の秋から年末にかけまして、あるいは夏から暮れにかけまして、ヨーロッパの失業率というものは急激に増加をしております。第一回のときと比べますと、ショックの影響というものは時間とともに薄れていくべきものなのに、最近は相当急激な不況状況が起きている。しかも、それは世界的に連関をしているというところから、最近は世界的なニューディール、何らかの新しい先進国間の協調された、統一的な世界景気対策といいますか、世界経済対策というものがないと、この二千六百万の失業者はどんどんふえ続けるのではないかということで、ヨーロッパの労働組合はいまや全く見通しを失って、大変な問題にぶつかっているのであります。  日本は、まだ失業率が二%台でありますから、これからの問題なんでありますが、本当に、西ドイツもついに失業率一〇%に達しまして大変な問題だ。問題は、それを一国だけでは解決できない。まあフランスのように、特定のVTRに変な制限措置をつけた国がございますけれども、根本的な問題というものは、そのような小手先の個別政策ではもはやどうにもならない。それぞれの国が引き締めをやり、貿易制限を始めますと事態はさらに悪化する、そのような状態に現在来ているのではないかというのが最大の世界の問題点ではなかろうか。  それをどうしたら解決できるかと言えば、それぞれの政府が協調して拡大政府に転換する以外にはないというのが、常識的な、経済学的な対策であります。これ以外に全く展望がない。にもかかわらず、御承知のように、イギリス経済をとってみましても、ドイツをとってみましても、フランスをとってみても、いずれの国も条件が非常に悪いわけでありますね。その中で一番条件がいいのは日本だ、これはもうOECDを初め国際的な評価であります。第二次オイルショック以降の日本経済のパフォーマンスは優等生であると日本も称していますし、国際的にも評価されている。  こういう国家群がいまの先進国経済の立て直しということを考えようとするときに、いまの五十八年度の予算編成というのは全く国際的視野を欠いているのではないか。辛うじて説明資料に見られますものは、アメリカの景気が年度の後半に回復するであろうから、日本の実質経済成長率はかなり楽観的に三%台にいくであろう、その一言しかないのでありまして、一体これだけ相互に緊密化した世界というものをいまどうするか。それは、南の問題、世界の環境の問題、世界の平和の問題、それだけではなくて、世界の経済というものをどうすべきかということを考えますと、余りにも財源難という理由だけで緊縮ということをとり続けますと、これはそういう機能が全く持てないということになりはしないか。  それから、省略しましたのは、もう一つは国内の内需の問題であります。いまの予算というものは、名目は多少ゼロを超えましたけれども、物価で割りますと、これはやはりマイナス効果であります。公共事業も名目同額でありますから、実質は後退であります。このような予算というものは、財源難といいますか、あるいは財政危機というものは中長期的な課題でありまして、年々の予算編成というものは短期的な対応も必要なのであります。財政の再建というものは、もはや三年間で特例公債をやめるということは不可能になりましただけに、中長期的な解決しかないのであります。いよいよ病気はショック療法から本格的な治療に向けなければいけない。  しかるに、中長期の財政再建ということになりますと、外科的なゼロシーリソグ、マイナスシーリソグだけでは、かえって再建できない事態もあり得るわけですね。要するに、数値というものを大きくするか小さくするか動かしたければ、分子と分母と両方に手を入れるべきである。要するに、言いたいことは、日本の潜在成長率というものは国際的にまだ最高でありまして、企画庁の数字でも二〇〇〇年に向けて四%台を見ているほどであります。潜在成長力はかなりある。にもかかわらず、それを生かさないで財政の切り捨てだけをやりますと、角を矯めて牛を殺す。分母が小さくなる、いわゆる税収がどんどん減ってまいるという悪循環に陥るわけであります。  昨年度の六兆円の歳入欠陥はどこから出たかといいますと、世界不況の影響ももちろんございますけれども、前年と比べましてもはや税収というものはふえない、全然伸びなくなったというところからきているわけでありますから、短期のハンドル操作というものは相当なぶれがありてしかるべきでありますね。短期対策と中長期対策というものを財政は見なければいけない。そのときに、いまの日本の三・六%は、アメリカ景気を当て込んだ楽観論でありまして、国内の状況を見ますと、建設産業、住宅関連、農業、地方商業、いずれを見ましてもこれは全く展望が持てなくなっている。全国の中で、輸出の強力な産業を除きますと、かなり前途については暗いのであります。  そこで、問題は二つありますが、一つは、財政というものはこういう日本全体の内需というものとどういう関連を持つべきかという視野がもう一つ必要であろう。  それからもう一つの問題点は、先ほど盛田さんは大変有益な意見をおっしゃいまして、私は非常に貴重な意見だと思っておりますが、同時に世界の経済というものは、為替レートあるいは通貨の安定性と並んで、各国の産業構造といいますか経済構造の問題というものがもう一つございます。このことは、日本の内需を考える場合にも絶対必要でありまして、レートの安定性と同時に、各国の産業構造、経済構造というものを八〇年代以降は市場の競争だけに任せておけないのではないかという問題が、世界的にいま出てきている新しい問題であります。  日本で一億一千万の人口が、農業がつぶれ、地域産業がつぶれ、地場産業がつぶれていったときに、どうやってわれわれは地方で飯が食えるか。福祉の方から考えますと、なるべく長い間働けた方が年金制度というものの基盤も安定するわけであります。また、人間も生きがいを求めますから、これからはなるべく働ける方がいいのでありますが、雇用の場ということを考えますと、特に地域を視野に入れて考えますと、産業構造というものは大変重要になってくる。そういうことを考えますと、われわれは単純にいまの政府財政難という視野だけで、一国の経済政策財政政策というものを見るわけにはいかないのではなかろうかということを申し上げたわけであります。
  23. 盛田昭夫

    盛田公述人 お答え申し上げます。  第一の御質問の、経営者は賃金を最後にするかどうかということでございますが、私は企業の立場から申し上げますと、企業が困難な立場に陥りましたとき、企業というものはこれこそ本当に運命共同体でございますので、経営担当者といたしましては、その企業の競争力を回復するために何をするかということは、何がその競争力を失わせたかという原因を一つ一つ解明をしてから行わなければならないと考えております。したがいまして、賃金が必ず最後になるということは私は考えておりません。たとえば、賃金が高過ぎて競争力を失っておるのであれば、やはり運命共同体として、お互いに苦しむということをあえてしても、産業競争力はつけなければならない。したがいまして、必ず最後ということには考えておりません。それは、共同体としてお互いにできるだけよくしたいという気持ちは経営者として持っておりますけれども、必ずしも最後ということにはならないと私は考えておる次第でございます。  それから第二の問題でございまして、自由経済について政治の交通整理が要るかどうかという御質問でございますが、もちろん自由経済というものは自由競争を前提としておりますが、この自由競争にもおのずから秩序というものはあるわけでございまして、秩序を無視した競争というものは、これはフェアトレードではないと考えておる次第でございます。特に、この国際摩擦に関連いたしましては、いまや自由経済にも政治が介入をしなければならないというような状況になりまして、現に自動車から、またときには農業に至るまで政治が介入するということであるわけでございますが、私が申し上げたいのは、貿易摩擦を減少させるために産業界だけに政治が介入するのではいけないのであって、その基盤となります国際通貨問題には、これこそ一企業では手の及ばないところでございますから、政治、特に外交の力を発揮していただきたい、こういう意味に私は申し上げた次第でございます。
  24. 川俣健二郎

    ○川俣委員 時間がありませんので、終わります。
  25. 久野忠治

    久野委員長 草川昭三君。
  26. 草川昭三

    ○草川委員 公明党・国民会議の草川昭三でございます。  諸先生方から大変貴重な御意見をお伺いいたしまして、非常に参考になったわけでございますが、まず最初に盛田先生にお伺いをしたいと思うのでございます。  先ほど、無用な投機のために国際通貨が非常に不安定で産業界は迷惑をしている、貿易制限をしても技術革新によって新しいものを開発する、それよりはひとつ資金の動きを制限する為替管理をと呼びかけられたわけでございます。大変私どもも勉強になるわけでございますが、それを延長してまいりますと、国内の企業においてはいま為替差損の変動準備金というものがないわけであります。一部の企業では、有償というよりも有税で準備金を積んでおるところがあるわけでございますが、非常にこれもいま厳しいわけですから、余りないようにお伺いをするわけですが、産業人としては、このような為替レートの変動のために特措というのですか特別措置の準備金をつくってもらいたいというような御要望があるのかないのか、これがまず第一番。  そして第二番目に、いまカントリーリスクという問題が出ておるわけでございまして、非常に国際的な金融不安ということが話題になっております。邦銀、日本の銀行もずいぶん痛手を受けておるようでございまして、これもその対応が迫られておるわけですが、産業界としては、このようなカントリーリスクがある国に対しても、今後なお要望があるならば輸出を続けられるかどうか、まずこの二点についてお伺いいたしたいと思います。
  27. 盛田昭夫

    盛田公述人 お答えを申し上げます。  いま、国内の産業に対して為替変動準備金があった方がいいかどうかということでございますが、これは現在のような非常に大きな変動がございますときには、もちろん企業といたしましては、企業の体質をよくするということが経営者にとって非常に大きな責務でございますので、もしもそういうものをやっていただければ私どもは大変うれしく存じます。  それから、カントリーリスクの問題につきましては、これは私ども、もちろん商売をしております上で売り先が安全であるかどうかということは、これは外国だけではなくて国内でも非常に気をつけてやらなければいけないことでございますけれども、もちろん発展途上国に対しても、私どもは技術供与その他の形でも使ってやはりそういう国の発展を願う、また助けるということが必要だ、こういうふうに考えておりますので、私どもはいろいろな形でそういう国に対しての商売、また援助というものもしていきたいと思っております。  たとえば、非常に規制の厳しい国につきましては、その国に工場を移しまして、技術を移転をいたしましてその国で生産をしていくというようなことを考えたいと思いますし、また、現地資本を十分利用することによりまして、ある程度企業としてのカントリーリスクを避ける方法もあるわけでございまして、カントリーリスクが果たしてこの国はどれだけあるかということはおのおのによっての見解の相違もございますので、カントリーリスクだけで、こわがって商売を控えておりましては私どもの商売の発展性はございませんので、その辺は十分勘案の上で適宜な手段をとっておる次第でございます。
  28. 草川昭三

    ○草川委員 ありがとうございました。  では、第一番目の福武先生に年金のことについてちょっとお伺いをしたいと思います。  いま先生の方から、高齢化社会を踏まえまして問題点が指摘をされたわけでございますが、実は隠された問題がずいぶん水面下にあるわけでございまして、かつて政管健保が赤字を出しまして、これは棚上げになっておるわけでございますけれども、これが累積でたしか五千億ぐらいになっておるわけです、いわゆる財投の方で金利負担等肩がわりをしておるわけですから。それからなお、問題があります日雇い健康保険というのがあるわけでございますが、この日雇い健保も累積赤字が六千億を超す、六千六百億ぐらいになってきておるわけです。これらの健康保険も、高齢化でございますから、保険料を上げるというわけにはまいりません。さりとて、いまの国の財政から一般会計からも入れるというわけにはなかなかまいっていませんので、たしかいま審議会等でも審議をしておるわけでございますが、政管健保の累積は別といたしまして、とりあえず日雇い健保のような基本的な問題を今後どのように取り組んだらいいのか、お伺いをしたいと思います。
  29. 福武直

    福武公述人 お答えいたします。  先ほど専門家でないという弁解を申し上げたわけでございますが、私はにわか勉強いたしまして、一番むずかしい、わからないのが医療保険の問題でございます。それで、私の研究所におきまして、来年、その次にかけまして、この問題を一生懸命やろうというふうに思っているわけでございますが、日雇い健保をどうしたらというふうなことにつきまして、私自身いまこうしたらうまく解決するという見解を持っておりません。  ただ、全般的に申し上げまして、これからの医療費というのは、申すまでもなくやはり上がっていかざるを得ないだろう。そして、冗談な話を不謹慎にするということになるわけでございますけれども、将来の高齢社会におきましては、ただ生かすだけの医術から、うまく健康に生きて、うまく死ねる方法も考えなければならないのじゃないかというふうなことまで思うわけでございますが、そういう状況を支えていくのはいまの医療保険体制では不可能であろうというふうに考えております。そういう医療を国民全体で支えていくということにしなければいけない。ところが、いまの状況でございますと、御承知のように大変大きく分立しておりまして、保険集団間の利害が非常に大きいということでございます。  私は、老人保健法を評価するものでございますが、それは健保の方から金が流れていくというふうな、そういう全体を支えていく方向への第一歩であるという意味において評価するわけでございまして、そういう点で医療は日雇い健保だけの問題ではなくて、全体的に大きな革命的な変更を加えませんとどうにもならないのじゃないか。医療のむずかしさというのは、年金の方はミニマムということで済むわけでございますが、医療はミニマムの医療というのはないのでありまして、オプティマムの問題で、過剰な医療は困りますけれども、適正な医療ということは必要でございます。そういうむずかしさを持っておりますので、その場しのぎでなくて、私は、根本的な再編成を早くしていただかなければいけないのじゃないかというふうに思っております。  御質問の直接の問題についてお答えできませんことをおわびいたします。
  30. 草川昭三

    ○草川委員 ありがとうございました。  では最後に、宝田先生にお伺いをしたいわけでございます。  五つに分けられてお話がございまして、最後の内外経済情勢のことでございますけれども、世界的にいわゆる同時不況なので、少し貿易自由化等を含めて考えなければいけないというようなお話もあったわけでございますが、当然のことながら、余剰農作物等の対日要求というのも一面的には出てくるわけでございまして、われわれもそれを受け入れざるを得ないということになりますと、日本の国内の労働界においても、それなりの犠牲というのですか、役割り分担を受けるとするならば、日本の国内における雇用というものも、ある程度は減少するということを考えなければいけないのではないか。一つの言葉で言うならば、ワークシェアリングという言葉がありますが、世界的に労働する量を分かち合うというようなことも考えなければいけないと思うのですが、その対応は日本労働界に果たしてあるかどうか、これが一つ。  それからもう一つ、減税等につきまして、私ども全く同感でございますが、減税の原資について、何か総評の中でも赤字公債を発行してでも必要だというような意見とそうでない意見の対立があるやにお伺いをしますが、その点についてどのようなお考えか、お伺いしたいと思います。
  31. 宝田善

    宝田公述人 最初の自由化問題、これと世界経済関連あるいは日本との関連、もっと言えば余剰農産物対日要求論ということでありましたけれども、私は、そういう問題の出し方でどちらかという態度は実はとっておりません。  といいますのは、いままで政府あるいは通産省が行っておりました国際水平分業論、これは七〇年代に出ました八〇年代ビジョンに明確にあらわれておりますけれども、そういう産業政策には問題があったと考えます。といいますのは、ヨーロッパ諸国を見ますと、繊維もファッション産業を初め皆残っている。それからセラミックス、陶器産業も残っている。さまざまな産業というものが各国の中に残っておりまして、盛田さんがいらっしゃいますけれども、余り自動車とか電気とか特定の強い産業に特化した場合にはこれからはむしろ危険な要素があるのではないかというのが、先ほど申し上げました産業構造論であります。  そういう意味で、水平分業という原則は私は決して否定をいたしませんが、ああいう大ざっぱな、軽工業はもう要らないとか、そういうことをやっておりますと、かつて七〇年代に日本は重化学工業でいくんだと通産省が言ったけれども、そのうちの三分の一はいまや鉄鋼を初め構造不況産業でありますね。そういうふうにしまして、十年もたちますとかなり新たな問題というものが出てまいります。  そこで、一億一千万の雇用ということを考えていきますと、自由貿易という原則はありますけれども、逆に産業政策としてはもっときめの細かいものが必要なんであります。ヨーロッパでは伝統的な産業がかなり残っている。日本ではあらゆるものがプラスチック化され、あらゆるものがいわゆる耐久消費財化されていりて、木材関係の利用技術とか、さまざまないい面の技術が滅びているというのが現状であります。そういう意味で、私は、大ざっぱな水平分業論というものはいまや反省期に来ておる、もう一遍考え直すべき時期に来ていると思います。  そういうふうにして見ますと、最近の中小企業あるいは地場産業でも、世界じゅうに販路を持っているような中小企業がどんどん出てきておりますね。こういうようなきめの細かい雇用の場というものを考えるべきであって、それを抜きに、農業は、農産物は全部アメリカから買えばというふうな形での犠牲というふうにわれわれは考えない。雇用の場というものは、もっときめ細かく、市町村末端に至るまで努力してつくるべきものなのだというふうに考えます。  それから、ワークシェアリングという概念はいま国際的に定着をしておりますが、これは年間労働時間、いま日本は二千時間を超えておりまして、ヨーロッパ、アメリカよりも三百時間から四百時間長いのでありますけれども、一人当たりの総労働時間、これを短縮することによって雇用量をふやそうというのがワークシェアリングの定義でありまして、われわれがいま努力しているのもまさにそういう方向なのであります。  それから、減税の原資の問題でありますけれども、減税につきましては、こと三年ほど、労働団体は統一の歩調をとっております。そこでは財源問題については、逆に言いますと、われわれは軍縮をやって財源を生むべきであるというふうに考えておりますが、必ずしもそう考えておらない団体もございますので、財源については今日四団体の間で合意がございません。そこで私は、先ほど申し上げましたように、財源という問題を超えた問題として、いま勤労所得税の質の問題を改めて提起しているわけでございます。  以上です。
  32. 草川昭三

    ○草川委員 以上で終わります。
  33. 久野忠治

  34. 岡田正勝

    岡田(正)委員 公述人の先生方、貴重な御意見をいただきまして大変ありがとうございました。民社党の岡田でございます。  順次お尋ねをいたしたいと思いますが、福武先生の福祉の問題につきまして基本的なお考えを承りましたが、非常にりっぱなものでありまして、私も同感であります。ただ、いま行革がしきりに叫ばれておるときでございます。この行革と福祉という問題は、いま国民的課題ではないかというふうに思っておるのでありますが、福祉のナショナルミニマムにつきまして先生はどういうようなお考えを持っていらっしゃるか、聞かしていただければありがたいと思います。
  35. 福武直

    福武公述人 お答えいたします。  ナショナルミニマムといいましても、正確にこれがミニマムだと言うことは大変むずかしいというふうに考えております。ただ、どの線でということは私も言いかねるわけでございますが、たとえば年金におきましてナショナルミニマムとは何であるかということでお答えいたしますとするならば、それはその年金によって健康にして文化的な生活が最低限度営める額であるというふうには思いません。そのようなミニマムは公的扶助のミニマムであって、年金のミニマムではないというふうに考えております。  年金のミニマムというのは、したがって、基礎年金とか基本年金とかいうようなことになりました場合、その部分だと思いますが、その部分はとにかく老後の生活において頻りになるべきものであって、生活保護と同じものが最低の年金であるというふうには考えていない、そういうことでございます。  それから、先ほどちょっと申しましたように、ミニマムということが通用しにくい分野がございまして、これが医療でございます。先ほど申しましたようにオプティマムの問題でございますから、最低の医療でとどめてあとはという、そういうわけにいかないわけです。そのむずかしさがあると思うのです。  それから福祉サービスの問題も、ミニマムというのは言えないことでありまして、これまた過剰な給付はいけませんけれども、しかしミニマムでいいというわけにはまいりません。そのために、福祉サービスは拡充されなければならないけれども、利用料は払わなければいけない。したがって、老人ホームにお入りになる、まあ私も入るかもしれませんが、そういった場合にやはり適当な利用料は払わなければいけない、そういう方向が打ち出されておりまして、それが福祉の後退というふうにすぐ言われるわけでございますが、私は決してそうではなくて、いまの負担よりももっと高まっていいというふうに思っております。そういうふうにいたしまして財源を生み出し、本当に困ったときは安心できるというふうな、そういうシステムにすることが社会保障の基本だ、こういうふうに考えております。  お答えになりましたかどうか知りませんが、以上をもちまして先生の御質問へのお答えとさしていただきます。
  36. 岡田正勝

    岡田(正)委員 ありがとうございました。  次に、宝田先生にちょっとお尋ねをいたしますが、先生は税の不公正の是正と直間比率の是正、それから減税の問題、人勧を尊重せよというような問題について述べられましたが、全く同感であります。  そこで、税調ではなくて臨調答申の人勧の問題で、臨調ですら人勧の実施についてはこれを尊重せよ、そして総経費抑制をむしろ行うべきであるということを述べてあると強調をされました。私は、そのいまの人勧を尊重せよということについては全く同感でありますが、先生は総経費抑制という問題についてはどういうようなお考えをお持ちであるか、お聞かせいただければありがたいと思います。
  37. 宝田善

    宝田公述人 ちょっと私の発言が正確でございませんので訂正いたしますが、あそこで引用しましたのは公務員給与の項でございまして、その基本的問題というところですから、あそこでは賃金総額の意味です。ですから、人事院という制度はまず尊重をする。そこで勧告が出ますね。それは民間を基準にせよ。それで、あとどうするかは、第三者機関に任せないで政府、国会が責任を持ってお決めなさい。人事院の勧告を尊重すれば、当然単価掛ける員数ですから、人件費総額はそれだけふくらみますね。そのことについては五、六項目挙げておりますけれども、定員を削減せよとか新規採用を抑制せよとか幾つか例を挙げまして、そういう工夫によってあるいは行政の効率化によって極力圧縮すべきであるというのが臨調の本旨であります。  どういう手段でどういうふうに人件費総額を圧縮するかということについては、われわれは現在二つの基準を持っております。これは、政府財政といいますか、あれは公のもので、もとは国民の税金でございますね。ですから、効率的に使われなければいけないということです。それから公正に使われなければいけない。そういう原則はわれわれは行革全般に対して持っております。  しかし同時に、われわれは労働組合でありますから、公務員労働者の労働権というものは尊重されなければいけない。そこで、現在改めるべき行政というものは数多くございますから、それは改めるべきである。当然そこで人員の余剰とか、あるいは、ある省でふえてしまうとか、ある局でふえるというようなことは起こり得る。いわば変動は起こり得る。しかし、いわゆる生首は飛ばさないというのが労働組合用語でございますが、直接失業をもたらすような措置は反対する。これは労働組合である以上当然でございまして、そこでいろいろな再訓練をするとか研修をするとかやって、とにかくいまの日本社会で中高年が失業しますと再就職できないという状況のもとで、というのは民間全体が、特に大企業を中心に終身雇用型というものが存在する中では、生首なしに別の職場への保証というものをすべきである。その限りにおいてわれわれは、身分その他が動くことについては絶対反対するものではない。その配転の場合に不利な扱いがなければ、行政の民主化とか効率化改革と労動権の調和というものをわれわれはむしろ主張しているというのが考え方でございます。
  38. 岡田正勝

    岡田(正)委員 ありがとうございました。  それで、税の不公正の是正とそれから直間比率の是正の問題にお触れになりましたが、税の不公正の是正という面では、先生が、いろいろありますからお答えが大変だと思いますが、最も不公正が大きいと思っていらっしゃるものは何でございましょうか。
  39. 宝田善

    宝田公述人 それは私が冒頭に申し上げました、いまや所得税というものが所得にかからなくなっている。これはもう新しくして最も重大な問題だというふうに考えます。  それから二番目は、国民の多くの世論が認めておりますような租税特別措置というものはなるべくなくせということであります。  それから三番目は、いわゆる執行上の問題であります。これはいわゆる脱税が非常に多い。偏っている。そこでもわれわれは源泉ですからほとんど九九%天引きでございますが、日本申告所得税法人税では、統計をごらんになればわかりますけれども、まだ脱税という例は大変多いのでありまして、残念ながら日本の大企業でも、新聞等に見られますように相当多い。自営業でも相当多い。これは執行上の不公正でありまして、税率とか税制度の問題ではございませんけれども。  そういう意味で、大きく分けますと、いま私どもは不公正というのは三種類ある、以上の三つですね、そういうように考えております。
  40. 岡田正勝

    岡田(正)委員 盛田先生にちょっとお尋ねいたしますが、大変高邁な御意見でありまして非常に参考になりました。厚くお礼を申し上げます。  そこでいま一つ、これは愚問に属するかもわかりませんが、おっしゃいました中で、政府がフロート制というのをまあ他に任せっきりというような状態では困る、お互いの国の産業にマッチをした交換レートというものを世界的につくり直すというようなことが、政府でアクションをとれぬものかという悩みをお話しになりまして、大変共鳴をしておるのでありますが、これに伴って厄介な為替管理という問題が起きてくるということにもお触れになりましたが、なかなか実行がむずかしいことではありましょうけれども、確かにこれは努力しなければならぬ問題でありまして、非常に大きな警鐘として承ったわけであります。  そこで、この問題が仮に成功いたしましたというような場合、これは産業への活力というのはもうすばらしいものがあると思いますが、貿易摩擦の解消ということについてどの程度の影響があるとお考えでございますか。
  41. 盛田昭夫

    盛田公述人 お答え申し上げます。  いま、仮に成功した場合とおっしゃいました。成功できれば私どもは大変ありがたいと思うわけでございますが、国内におきまして通貨というものが安定をしておれば、同じような業種の企業同士が相当公正な競争をしておりまして一応秩序というのはできておるわけでございます。したがいまして、おのおのの国の為替レートがその国の力に均衡したものに仮に決まったといたしました場合は、おのおのの今度は競争できるかできないかというのははっきり企業の責任になるわけでございまして、たとえば米国やヨーロッパにおきます失業をいますべて日本の輸出のせいだというふうに転嫁されておる実情がございます。私どもはそうだとは思っておりませんけれども、スケープゴートに使われておる。しかし、お互いに適正なレートであれば、あと本当に大衆がどちらの製品を選ぶかということは、大衆というのは非常に利口というとおかしいんですけれども、やはり非常に多数の人たちが適正な判断をするわけでございますから、そこで大衆がどちらを選ぶかということにおきましては、これはむしろ政府とかそれから政策とかいうことでなくて、おのおのの企業の競争力、経営力の責任になってくるというふうになりますので、私はいまのような貿易摩擦が政治化をするという問題が避けられるのではないか、そういう意味で申し上げたわけでございます。
  42. 岡田正勝

    岡田(正)委員 ありがとうございました。
  43. 久野忠治

    久野委員長 いいですか。――瀬崎博義君。
  44. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 公述人の皆さん、御苦労さまです。時間が非常に短いので、失礼ながら簡潔な御答弁をお願いしたいと思うのです。  まず福武公述人に伺いたいのですが、福武さんは社会保障費がプラス〇・六%になっていることを評価されまして、五十八年度予算案賛成とおっしゃったんですね。しかし、その一方で救貧思想なるものがわが国でも強まりつつあることには警告を出され批判されたと思います。ところで、臨調では福祉の全般的な見直しを答申のたびごとに出しておりますし、その理念として福祉を真に救済を必要とする者に限れ、こういう理念を打ち出しているのですが、私は、まさにこれは救貧思想の一部ではないかと思うのです。福武先生の御意見をここで伺いたいことが一点。  それからもう一つは、わが国の憲法は国民の権利として、「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」「國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障」の「増進に努めなければならない。」こういう規定をしておりますね。この面から言っても、政府社会福祉社会保障を勝手に引き下げたりすることは許されない、重大な責任を負っているのだということではないかと思うのです。同時に、一方で憲法は、戦争放棄それから戦力不保持を規定しているわけですね。そうしますと、五十八年度の政府予算案社会保障費は、プラスには違いないけれどもわずかに〇・六%、人口の自然増等を見れば内容的にはマイナスじゃないかと思うのです。ところが、軍事費の方はプラス六・五%になっているわけですね。これは逆ではないか。同時にまた、福武公述人は、社会福祉充実社会経済にも活力を与える、こういう考え方もおっしゃった。そういう面から考えますと、先生の御意見、御趣旨に沿えば、現在の政府の出した予算案には反対という結論の方が正しいように私は受けとったのですが、いかがでしょうか。
  45. 福武直

    福武公述人 まず、臨調の真の弱者に対してはというふうな表現についてでございますが、私は率直に言いまして、おっしゃいましたように少し歴史を逆転させるような考え方が、財政の立て直しを強調される余り出ているというふうに思います。そういう意味におきまして、私は賛成しかねるわけでございます。  それから、第二番目の問題についてでございますが、これは〇・六%というふうに申しましたけれども、〇・六%というのはふえたということじゃなくてマイナスにならなかったということであって、したがって、満足はできないけれどもいろいろ御努力をなさっているのでというふうな、そういう言い方をしたかと思います。それが私の考え方でございます。  それから、憲法の問題とひっかけて防衛費とのバランスの問題をおっしゃったわけでございますが、これにつきましては先ほどのお答えで申しましたように、私きょう意見を申し上げにまかり出ましたのは社会保障の分野でございまして、ここでお答えしかねるわけでございますが、先ほど申しましたように将来の方向といたしましては、私は単純にそっちをこっちに持っていけというふうな言い方にはくみしませんで、先ほど申しましたように、日本のGNP一〇%という経済力をもってするならば、今後途上国の方にも目を向けて、単なる日本だけがよくなればいいという、そういう考え方を脱却しなければならない、こういうふうに思っております。
  46. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 順序がちょっと飛んで失礼なんですが、盛田公述人に伺いたいと思うのです。  先ほど、通貨が投機の対象にされて産業人としては大変マイナスだとおっしゃいましたね。しかし、ある意味でこれは今日の世界の資本主義体制が危機的状態にあることをはしなくもお述べいただいたんではないかと思いますし、サミットに期待すると言いながら、サミットをやるたびに悪くなっているわけですね。だからこの点はなかなか深刻だと思うのです。ですからそういう意味で、私は、こういう為替変動に対処する上でも、あるいは貿易摩擦に対処する上でも、まず第一義的に国内でできる努力をすべきじゃないかな、こういう意見を持っているんです。ちょうど日米欧通商協議も開かれているわけですが……。  そこで、賃金抑制が行われますと、どうしても消費購買力が冷え込んでいく。そうしますと国内景気が停滞する。そのために工業製品が輸出に向かわざるを得ない。貿易摩擦の激化になる。だから農産物の輸入だ、こうくるわけですね。ここでまた日本の農民とのいろんな対立も起こってくる。第一、何かと言えば農産物の輸入の自由化、拡大が打ち出されるのですが、八一年ですでに農水産物をアメリカから百億ドル輸入して、なおかつ年間百三十四億ドルの黒字になっているわけでしょう。それですでに穀物の自給率では三〇%、総合的な農産物の自給率でも七〇%ですから、農産物で全部黒字を解消しようと思ったら、日本の農業をゼロにでもせぬ限りと、こういうことになるので、とてもじゃないができる相談ではない。ですから、まず企業が労働者の賃上げの要求に積極的に応じていく。そのことによって勤労国民の消費購買力の向上を図っていく。国内消費に多くを頼っている中小企業もこれで活性化されるだろうし、国内景気が上向く。そのことを通じて、結局大企業のつくっているいろんな製品も国内市場が拡大されていく、こういうことを考えていただくべきではないか。特に大企業にはそういう社会的責任があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  47. 盛田昭夫

    盛田公述人 お答え申し上げます。  いま大企業に責任がある、すなわち大企業はもっと賃金を上げろというお話でございましたが、先ほども私は申し上げましたが、企業というものは税金に頼っておるわけでもございません。企業こそ運命共同体でございまして、自分たちの労働と努力によりましてつくりました製品を売りまして、その利益によりまして、その差額によりまして賃金も払えるわけでございますから、企業がただ景気をよくするために賃金を上げるということは、企業そのものが弱体化をいたしていきまして、企業の寿命は短くなる一方になると私は考えておるわけでございます。  そこで、私が申し上げました論点は、国内におきましても国際的におきましても、企業間の経済的な関係というものはいわゆるフェアな競争でなければならない。そのフェアな競争ができることによりましてお互いに企業というのは健全な発展ができるわけでございます。企業というのは寿命があってはならないのでありまして、本年入りました社員もこれから二十年、三十年わが社にいるわけでございますから、経営者といたしましては、会社がそれだけ長期間健全でなければならない、そのためには、短期的にだけ考えまして企業の体質が弱くなるというようなことをやっておりましたら、これは次々と企業は破産に瀕していくと私は考えております。  もちろん運命共同体でございますから、従業員の収入を考えるということは経営者の役目でございますが、それはおのずから適正な基準があるわけでございまして、その適正な基準で企業を健全に保っていくのが経営者の役目だと私は考えておりますので、国内政策だけでいまの世界的な景気は回復できないと考えておりますし、またその企業が国内で売れないから外国へ出して貿易摩擦をつくり出しておるわけでは決してございません。やはり企業、特に輸出企業は世界的なマーケットを見渡して商売をしておるわけでございますから、余った物だけを輸出しておるわけではないことをお答えを申し上げたいと思います。
  48. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 以下、宝田公述人にお伺いしたいと思うのです。  先ほど来、臨調答申等の引用もあったのですが、基本的な問題として私ども共産党も、人勧凍結は憲法違反だし、完全実施のために全力を尽くしている点では人後に落ちるものではないのですが、基本的な点で、人勧凍結臨調行革と全く別個に出されてきたものなのか、あるいは臨調行革の一環としてこの人勧凍結が打ち出されてきたものとお考えなのか、伺っておきたいと思うのです。
  49. 宝田善

    宝田公述人 前の鈴木総理は、土光さんと臨調を発足させるに当たりまして三つぐらいの公約を結ばれたそうでありまして、その覚書はいまも経団連の金庫に入っておるというふうな本も出ておりますけれども、行革は天の声であるとか、ああいう受けとめ方をしたのは私はやはり問題だと思うのですね。あれはあくまで一つの審議会でありますから、審議会は審議をすればいいのであって、その答申というものをどう処理するかは、これは一部は政府の問題であると同時に国会で決めるべきものであります。その意味では、先ほどの人事院勧告じゃないですけれども、国会が行政のあり方というものをお決めになる、この筋をややあいまいに、おっしゃることは全部いたしますという白紙委任型の審議をお願いしたのは、私は政府側に問題ありと思うのであります。そういうムードの中では、これは繰り返し申しますけれども、臨調答申にわれわれは一定の批判立場でございますが、あの人勧凍結の閣議決定はその答申のムードを恐らく継いだ。しかし、その中を流れている論理は私は異質である、こう申し上げたいわけでございます。
  50. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 私どもは、やはり人勧凍結はこの臨調行革の主要な柱の一つとして出てきているのではないか。だから、臨調行革に反対するということと人勧凍結を打ち破る、この運動は一体のものだと考えるのです。  それから、一兆円減税についてずいぶん御意見を承りました。そこで、軍縮との関係もさっきお触れになったのですが、御承知のとおり五十八年度の軍事費は二兆七千五百億円でプラス六・五%ですね。しかも、一応人勧凍結という事態のもとで、内訳を見ますとF15とかP3Cの正面装備でぐっとふえるわけですね。ざっと二一%ほどふえていると思うのです。その後年度負担が非常にふくらみまして、ほぼ二兆円に迫ってきました。こういう状況の軍事費のもとで一兆円減税の実現をかち取ろうとするとき、その財源としてこの軍事費の思い切った削減なしに減税が可能とお考えなのか、ここの削減なしには減税というのは取れるものじゃない、こういうふうにお考えなのか、伺いたいのです。
  51. 宝田善

    宝田公述人 私は総評の人間でございますから、総評は軍縮運動をやっております。財源も軍事費を減ずれ、少なくともふやすなということを一方で運動しておりますから、われわれの論理は軍縮をしてその分を財源に充てるべきであると当然言っております。  それから、もう一つ何かございましたか。(瀬崎委員「いや、いまお聞きしたのはそれだけです」と呼ぶ)そうですか。われわれはそう要求しております。
  52. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 では、これで最後なんですが、そうしますと、本当は減税を取ろうというのであるならば、しかも総評としては軍縮がそのために必要なのだというお考えならば、当然この軍事費の削減を主張している勢力と大いに協力、共同していく、このことには御異存ないと思うのですが、この点を一点伺っておくことと、それからもう一つ、先ほど来、税の不公平の中で申告所得者との関係も触れていらっしゃるのですよ。私どもも当然のことながら、申告納税者に対しても税務行政は適法、適正でなければならない、こう思っております。だがしかし、その不公正で言うならば、最たるものは株式時価発行プレミアム非課税などの大企業、大資産家に対する不公正、あるいはまた執行面で言うなら代表的なのはタックスヘーブンなどがそうだと思うのですが、あれこそ脱税ですよね。大企業しかこういうことは利用できないわけですけれども、こういうことが中心でなければならない。よくクロヨンなどということを耳にするわけですけれども、現在の特に中小零細業者などが六割の申告しかしてないとか、あるいは農民が四割しか申告してない――これは絶対にそういう実態はないとわれわれは考えているわけですね。ですから、そういうところに不公平の焦点が行っちゃって、本来、労働者と協力、共同して真の減税を闘い取るべき中小業者や農民との間に溝ができて、私はこれは大変だと思うのです。むしろそういう、お互い苦しい立場にある者が協力、共同する方向を目指すべきではないかと思うのですが、御意見を伺って終わりたいと思います。
  53. 宝田善

    宝田公述人 御質問の点は、われわれは不公平な税制をただす会というものをつくっておりまして、われわれもその一員でございますけれども、広く政党、学者、各諸団体でできております。そこでの合意でわれわれは不公正税制論というものをやっておりますが、その中には、先ほどおっしゃいましたような執行上の問題だけではなくて、制度上の問題ですね。これを全部並べ上げて、諸団体、中小企業団体も入りました合意点をつくっておりますが、おっしゃるとおりの制度上の問題というのはかなりございます。ただし、執行上全く問題はないかといいますと、何せ片方は源泉でございますから本当に一〇〇%ですね。申告の場合にはそれほどは行ってないということもお互いに認め合っております。その主たるものは大きな制度上の問題、それから租税特別措置、そういうものであるということは参加団体の合意点でございます。
  54. 久野忠治

    久野委員長 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼申し上げます。(拍手)  午後一時三十分より再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時二十七分休憩      ────◇─────     午後一時三十一分開議
  55. 久野忠治

    久野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  この際、御出席の公述人に一言ごあいさつを申し上げます。  公述人各位には、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。昭和五十八年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願いを申し上げます。  なお、御意見を承る順序といたしましては、まず福島公述人、次に一河公述人、続いて青木公述人の順序で、お一人約二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答えを願いたいと存じます。  それでは、まず福島公述人にお願いをいたします。
  56. 福島新吾

    福島公述人 福島でございます。  政府昭和五十八年度予算に反対いたします。  熱核兵器、生物・化学兵器、ミサイル、電子・光学兵器等の軍備競争は日進月歩してとどまるところを知らず、一たび戦争が起これば、たとえ小規模でもその惨禍は想像を絶するほど大きいと予想されます。しかも、その世界の軍拡による資源の乱費と財政への重圧とが、先進国、開発途上国を問わず、至るところで深刻な不況と巨大な外債累積の一因となっております。今日、中南米を中心に各国で相次いで起こる外債返済不能の状況は重大であります。長期的に工業化が成功するまでの間、米日欧の金融機関が信用供与を支え切れなければ、世界の信用制度そのものが破綻するおそれを含んでおります。他方、アフリカ等の非産油開発途上国ではそれ以下の状況で、大量餓死に直面しているのであります。いま先進国の軍拡競争をとめなければ、世界の経済的崩壊か、戦争による大量殺傷か、どちらに転んでも破滅の危険が迫っていると恐れられています。     〔委員長退席、村田委員長代理着席〕  米ソの核軍縮のみでなく、広く世界の一般軍縮を実現することが、中東などの戦火を防ぐことも含めて、世界を救う道であり、最も緊急な課題としなければなりません。世界で唯一の被爆体験国で、憲法第九条を持つわが国がその課題に献身することこそ、わが国の果たすべき国際的責任として最もふさわしく、かつ、今日の危機から生き残るためにも最良の選択であります。憲法第九条は、今日の状況を先取したものとして高く評価すべきであります。そのときに旧態依然たる反共イデオロギーを基調にした対ソ軍事対決を主張するレーガン政策にコミットする防衛力増強の道を選択することは、全く時代錯誤で、かえって危険を増大するのみか、日米経済摩擦を除去する効果も保証せず、新たな財政破綻の道を開くものであります。  予算政府の収支計算書で、あらゆる施策を金額に換算して提示するものでありますから、そこに政府が適正とする社会の資源配分の思想をあらわすものであります。しかし、今日の予算は、何よりもまず財政再建を企図するものであります。前述したような世界の危機的状況の中で、財政再建が一刻も早く実現されるべきことは当然であります。しかし、本予算はその課題を十分達成していないと考えます。それは、政府財政再建に名をかりながら、防衛力増強を際立たせる、政策の新たな組みかえを試みたからにほかなりません。財政再建を優先させるためには、防衛費もゼロシーリングに合わせて出発すべきであります。  近代民主制国家においては、合意による支配が基本原理であります。多数決原理は国民のコンセンサスの先端における微調整のために活用されるべきであって、コンセンサスそのものの成立しない政策を強行するために乱用することは民主制からの逸脱であります。政府は、与えられた強大な権限と権威を利して国民の政治討論を活性化し、コンセンサスを形成し得た後に重大な政策転換を図るべきであります。先に政策転換を行って、後からついてこいという形は、封建的なリーダーシップにほかなりません。  さて、本来、国家の施策はどの項目にどれだけの比重を置くべきか、社会保障経済政策、公共事業、防衛、教育文化、科学技術等のどれが予算の何%を占めるべきかを決定する基準があるわけではありません。それぞれの財政支出は対象も効果も違い、支出の態様も、あるいは給付であり、あるいは施設の設置、工事の実施、ときには資金の貸与でありて、全く異なっており、相互比較に客観的根拠は求めにくいでありましょう。しかし、それらはすでに歴史的存在なのであって、その政策のセットが年々混乱なく執行されてきたところに、国民のある種のコンセンサスが成立しているのであります。従来の政府予算編成は、その上に微調整を加える形で進められてきました。それは民生制の原理に忠実であったと言えましょう。  ところが、近年財政の破綻が叫ばれてきました。その再建に関しては十分合意が成立していると言えます。しかし、その方法を増税に求めるか、増税なき行財政改革に求めるかでは、すでに見解が分かれております。  ところが、本予算では、行財政改革に名をかりて、防衛費を突出させ、社会保障、教育文化費等を抑制する、いささか目立った政策の相互関係の修正が行われております。これは新内閣のスタンドプレーであるように見受けられます。そのような予算の組み替えについての事前のコンセンサスは国民に対して訴えられておりません。前述したように、既定の予算支出の各項目のセットには一応のコンセンサスが成立していると見られる以上、その大幅な組み替えには十分な政策論争が必要であります。今日までの各省庁主管の予算の部、款、項、目のそれぞれの内容が適正か否かについては、当然にさまざまの批判が可能であります。しかし、この予算に提示された新たな政策セットは、将来にわたる日本政治の方向性を決定する重大な内容を含むもので、それが発足早々の内閣によって強行されるのは多数決の乱用であろうと考えます。  ところで、まず今日の財政危機の原因から検討したいと思います。  今日の予算ではほとんどの事務費も政策費も単年度で終了することはまれで、後年度への継続性を持ちます。それは施策の安定性を保障する利点もあるわけですが、他方で、一たん設置された行政機関は自己増殖し、創設された政策も自己運動を起こして年々強化され、それにインフレが加味されると容易ならぬ財政膨張原因となります。財政硬直化の原因はここにあり、歳入がそれに見合って増加しない限り、新政策の導入はきわめて困難で、財政の安定さえ脅かされるのであります。  池田内閣の高度経済成長政策は、財政面ではGNPの増大に伴う歳入増と所得減税を組み合わせて、財政硬直化の壁を側面から迂回する効果をねらったものだったと考えます。しかし、それも景気変動によって税収が落ち込むことによりつじつまが合わなくなります。しかも、高度成長政策に伴って始まった財政散布政策は、国民各層に財政支出の恩恵に浴する欲望をかき立ててしまいました。一たん政治的禁欲から解放された無数の利益集団は、国会に群がる圧力集団と化し、毎年激しい予算分捕り合戦が演じられるに至ったのであります。政権政党としては、それは選挙の得票地盤培養策と合致するので、年々の支出増加を強く支持することになり、その結果、占領下のドッジ・プランに基づく財政収支の均衡の原則は完全に崩れ去りました。  財政法の抑制にもかかわらず、実質的な赤字国債の発行に踏み切ったのは昭和四十年、第一次佐藤内閣の福田蔵相のときからであります。それは当初からインフレ誘発の危険を指摘されたわけでありますが、財政散布の魅力はとどめがたかったようで、次第にそれは増発を重ねられることになりました。昭和四十五年度あたりから、予算の性格がはっきり景気調整機能から資源配分機能に重点を移したとされ、大型予算、超大型予算、超積極化予算などの名が年々つくられてきました。ついに昭和四十八年度には田中角榮内閣の列島改造予算の登場を見たのであります。それは公共事業、建設関係予算の異常な突出であったと言えましょう。そのとき国債依存率は、当初予算で一六・四%を予定するに至っておりました。このとき、赤字国鉄の批判にもかかわらず、多くの新幹線計画も大々的は組まれたのであります。  また、皮肉なことですが、当時市民の政治参加の声が高まります。それは積年の高度成長政策による公害の発生、環境破壊、都市の過密、農村の過疎、それに物価上昇などによる老人、母子家庭、身体障害者等の生活圧迫などが一斉に噴き出したことを背景とします。そして社会資本、社会保障の立ちおくれが痛切に訴えられ、その声にこたえた福祉充実、いわゆる福祉元年が出発したのがこの年でありました。  これらの財政膨張は、すべて財政硬直化の病巣を切開する困難な政策を避けて、新政策の展開による財政散布を競った結果にほかなりません。それは前記の圧力団体の影響はもとより、政府・与党内部の激しい確執、派閥領袖の実力者相互の権力闘争と深く関連してきたと見ざるを得ないのであります。国鉄、健保、食糧管理の三大赤字が放置されて、赤字の雪だるま式増殖を続けたのもその結果にほかならなかったでありましょう。  まことに遺憾なことに、その福祉元年に石油ショックが襲いかかり、福祉社会資本の充実は当初から重大な打撃を受けたのであります。ここから、日本の安定は世界の安定とともにしかあり得ないという教訓を酌み取るべきであります。石油ショックは日本に対する軍事攻撃を意味するものではなかったわけで、それをシーレーン防衛にすりかえるのは明らかに詭弁であります。  さて、石油ショック克服の重荷を担った財政のもとで、国債はさらに膨張しました。五十年度にはついに二兆円を突破、償還額が一兆円を超えております。五十一年度には発行は七兆円以上に急増し、歳入の二九・九%にも達しました。かくて、三木内閣の大平蔵相も、昭和五十五年度までに赤字国債からの脱却を図ると言明せざるを得なかったのであります。しかも、翌年には早くもその財政再建は税収入の落ち込みを理由に棚上げされてしまいます。ところが、それと反対に、田中内閣の列島改造予算に反対していた福田内閣が、またまた公共事業費の大盤振る舞いを続け、国債はついに十兆円を超え、償還費は三兆円、歳出の九・三%に達したのであります。その後、三年にわたり国債発行は三〇%を超えます。たまりかねた経団連が第二次大平内閣に行財政改革の断行を要望したのは、昭和五十四年十一月です。そのとき初めて、五十五年度予算の目標に財政再建が掲げられました。しかし、大蔵省は、当時竹下蔵相でありますが、同年サマーレビュー、ゼロリストなどにより予算の見直しを行ったのですが、結局増税を引き出したにとどまります。支出削減については、福祉の見直しのみを目標に掲げ、全面的な行財政改革を考慮しなかったのであります。  この間に、防衛関係費に対する内外の圧力が急増しました。これ以前の好況期にはこのような声は高くなかったし、政府防衛費の急増をしてこなかったことを注意したいと思います。むしろ、石油ショック以後に決定された「防衛計画の大綱」は基盤的防衛力構想であるとされ、防衛力増強の到達目標、シーリングであって、決して中間目標ではなかったはずであります。  ところが、昭和五十六年度予算では、防衛関係費の対前年度伸び率は七・六一%になりました。それはわずかに〇・〇一%の差ながら、社会保障関係費の伸び率を戦後初めて上回ったものです。そして、エネルギー対策費、経済協力費の大幅増とともに総合安全保障政策の重視を印象づけたのであります。これ以後、五十七年度予算でも、本予算でも、大蔵省の主張する他の経費との均衡、概算要求枠、シーリングという制約は、防衛費には適用されないという主張が正当化されました。いわゆる防衛の聖域化が始まったのであります。  五十六年三月から開始された第二次臨調も、国民の期待に反して尻すぼみに終わる見込みが強くなっております。増税なき財政再建は政府によって明らかに放棄されました。福祉、文教予算には負担増を迫り、三公社の民営移行を提起しても、防衛の聖域化は黙認し、各種行政補助金の削減、省庁の再編合理化への追及は鈍っているのであります。政府予算編成に行政改革の熱意を反映するに至っていないことは遺憾であります。  これを要するに、本予算は、すでに二十年に及ぼうとする赤字国債依存体質の財政の根源を何ら改めていません。福祉、文教費等の切り詰めが行われた反面で、多大の継続費を含む防衛費が聖域化され、閣議決定のGNP一%の歯どめにも見直しが語られるようでは、財政硬直化の原因は消滅しないどころか、むしろ新たな財政膨張の道を開くにほかなりません。  このような防衛費の突出は、世界の情勢が変わったから当然必要であると言われます。なるほどアメリカからの防衛圧力は異常に高まりました。しかし、現実にソ連から何ほどかの脅威を受けているでしょうか。ソ連が極東の軍備を強化しようと、武力紛争を開かない限り影響はありません。そもそも今日、極東にあるか欧州にあるかということは余り戦略的に意味がないのであります。ソ連が世界第二の軍事大国である事態は、第二次大戦後変化はないのであります。今日、財政危機の中で、防衛費増強を際立たせることでどれだけの意味がありましょうか。総理は、みずからの国はみずからの手で守るべきだという言葉を好むようでありますが、どうしたら国が守れるかという方法についての論議が欠落しています。今日の戦争は、国政の安定を失ったところで武力紛争が起こり、それに外部の武力介入が加わるという形が最も多発していると言えます。幸いに今日の日本にはそのような状況はないのですから、深刻な経済的破綻を起こさないように、まず財政改革を達成し、国際的安定にも寄与することが先決だと考えます。  第二次大戦後、平和国家、文化国家という言葉が政治のシンボルとして多用されました。それはきわめて幅広い共感を呼んだと思います。そのとき日本には占領軍二十万が君臨し、焼け跡に食糧も不足していたのでありますが、将来の理想として、その目標は光を与えていたと言えます。  ところが、朝鮮戦争中に警察予備隊が押しつけられました。休戦までの三年間の経過を顧みて、ここで日本があのような幼弱な武装組織を設置する必要性は全くなかったと考えられます。しかし、憲法を押しつけと言う人が、警察予備隊を押しつけだと言わないのはなぜでしょうか。それは今日の総理の言葉の背後にもあるように、国家の防衛は武力によるほかないという国家観念が抜け切らないからでありましょう。  憲法第九条を、これらの立場の人は空論だと言います。しかし、広島、長崎の原爆投下を受けて日本が降伏してから三十八年近く、世界の軍事力は飛躍的に強化されました。仮に基盤的防衛力ないしは五六中業に示された防衛力をもってしても、いまや公然と仮想敵国とされるソ連の軍事力と対抗して国土防衛の効果を持ち得るとはとても言えません。今日唱えられている自衛隊の戦略も、米軍の救援までの短期間を支えるというところにしかないのです。しかも、救援が間に合ったら戦争はそれで終わるということになるでしょうか。ソ連軍が相手でなかったころの二つの戦争を考えても、仮に朝鮮戦争のレベルに達したとすれば三年に及ぶ長期戦が、ベトナム戦争のレベルにとどまったならば十年の激しい破壊戦が続き、しかも、勝敗はつかないか米軍が放棄するかの結果が示されているではありませんか。それにかわる短期の決着を求める道は核戦略しかない、それも一方的効果を上げることは考えられないのであります。そのときの日本国民と国土の損害はどれほどであるか、考えただけでも恐るべきものでしょう。防衛は白日夢でしかないことを銘記すべきであります。  対ソ交渉を求めるには強い防衛力を持たねば効果がないというのは、レーガン政権の考え方です。総理はそれに同調しておられるようです。しかし、米ソとも今日の軍拡負担を続け得ない状況に立ち至っていることは明らかです。この機会を利して軍縮に向かわせる努力を傾けることの方が、はるかにわが国の安全に寄与します。  軍拡が一たび進み始めると、わが国財政も全く変質してしまいます。それは、国内経済を衰退させて激しい対立を引き起こし、前述した間接侵略型戦争の危険を培養するでありましょう。その間において、政治方針の対立から軍事クーデターが発生する危険もはらむことを付言したいと思います。それは開発途上国のみでなく、先進国フランスでさえ一九五八年に軍事クーデターが発生し、ドゴール大統領を憲法を停止して出現させたことは、忘れてならないと思うのであります。  以上で終わります。(拍手)
  57. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 どうもありがとうございました。  次に、一河公述人にお願いいたします。
  58. 一河秀洋

    ○一河公述人 一河でございます。  本日は、この重要な権威のある席に出席をお許しいただき、意見を述べる機会をいただきましたことを、大変光栄に存じております。  私は、昭和五十八年度予算のうち、特に一般会計を中心にいたしまして、財政運営全般についての意見を述べさせていただきたいと存じます。  結局のところを申しますと、五十八年度の予算におきましては、五十五年度以来、いわば無理に無理を重ねて継続をしてまいりましたいわゆる増税なき財政再建路線、これが崩壊をいたしまして、財政再建の方向が見失われてしまっている、しかも財政の景気調整機能さえも、これに制約されて基本的には放棄されている、このように判断をしてもよろしいのではなかろうかと思うのでございます。きわめて深刻化をしております不況、そして、それと同時に進行しております長期的な経済社会の目標の変化と構造的な変化、こういう重大な状況の中で財政がこのような事態になっておりますことは、まことに憂慮すべきことでございます。その意味で、五十八年度予算には基本的には反対をいたします。  以下、このように申し上げることの理由を簡単に申し述べさせていただきたいと存じます。  まず、五十八年度予算そのものの評価についてでございます。  第一に、歳出面を見てまいりますと、これはいまさらここで申し上げるまでもないことでございますが、一般会計歳出予算の対前年度当初比伸び率一・四%、昭和三十年度のマイナス〇・八%以来の小さな伸び率でございます。また、歳出の中で五十六年度の国債整理基金からの借金分を除いた、いわばこの実質的な歳出伸び率ということになりますと、マイナス三・一%にすぎないわけであります。これは、ドッジ・ライン緊縮予算昭和二十五年度予算のマイナス六・一%以来の非常に緊縮的な、いわば超緊縮的な財政運営になっていると言って差し支えなかろうかと思うのでございます。そしてまた、この予算の規模増は、来年度の政府見通しの名目経済成長率五・二%さえも大きく下回っているわけでございまして、財政は、景気刺激どころか景気抑制的に働く機能を持たざるを得ないと考えます。  また、内容的に申しましても、歳出を圧縮するため、新規の政策経費増はほとんど全く放棄されている。従来は余り手をつけられませんでした社会保障費や文教費までが抑え込まれる。そのため、防衛費の伸びだけが、従来から申しますれば大きなものではないにしても、いたずらに目立つし、またこの面での後年度負担増が目立つ、こういう問題があろうかと思うのでございます。  私は、防衛費の伸びは何が何でもけしからぬ、このように考えるものではございません。しかしながら、こういう形でなし崩し的に財政の支出の形が変わってくる、財政の構造的な変化が生じてくる、これは非常に大きな問題だ。そのための十分な議論が前提としてなされるべきであろうと考えるものでございます。  第二に歳入面でございますが、歳入面を見ますと、税収の伸び率が対前年度補正後比で六・〇%、これは私はきわめて小さな、いわば過小評価になっているのではなかろうかと考えるものでございます。名目経済成長率が五・六%の見通しでございますから、税収の伸び率が六・〇%ということになりますと、いわゆる税収の所得弾性値は一・〇七。これは確かに昨年度は非常に低かったのでございますが、基調としてこのように低い弾性値と考えてよろしいかどうかは大いに疑問があろうかと思うのでございます。  そこで第一に、経済成長率見通し、名目五・六%、実質三・四%。これはほかの民間の調査機関等の予測と比較をいたしますと、中くらいのところにあるわけでございまして、従来の経済運営から申しますと、かなり手がたい見通しになっている、こう言ってもよかろうかと思うのでございます。経済成長率を手がたく見込み、低い税収の所得弾性値を見込むことによって税収を比較的に手がたく見込む、これは五十六年度、五十七年度と引き続きまして大きな歳入欠陥を出した結果だろうとも考えられますけれども、もう少し積極的な税収見込みを持ってもよかったのではなかろうかと思うわけでございます。  もちろん、この政府見通しにいたしましても、この数値では甘過ぎる、こういう批判もたくさんございます。しかしながら、この程度政府見通しさえも当たらない、これをも経済成長率が下回る、あるいはこれをも税収の所得弾性値が下回るというような事態がもし生じたとすれば、これは大変な不況でございまして、それでもなおかつ税収を手がたく見積もって、これ以上赤字を積み重ねないようにすることが大切である、財政再建の道を見失わないことが大切であると考えるとしたら、それはまさに本末転倒だと思うのでございます。経済バランスをたとえ失ったとしても、財政バランスすればいいということでありまして、まさに本末転倒の議論だろうかと思うのでございます。もしこの政府見通しをも経済成長率が下回り、歳入欠陥が出るようなことがありましたら、それこそまさに財政がもっと赤字を出して、景気の刺激をする必要があるときでございまして、もう少し積極的な税収見込みを持ってもよかったのではなかろうか、こう考えるものでございます。  しかも、このような財政運営を行いまして、最後に収支バランスを見れば、表面的には国債発行額は減っているようでございますが、実質的には補助貨幣準備資金の取り崩しでありますとか、特別会計やあるいは特殊法人からの納付金の増加でありますとか、いわば税外収入の大きな、しかも一時的な、ことし限りの増加を大きく見込んでいるわけでございまして、もしこれをしなかったならばということで実質的な財政収支バランスを見れば、十五兆円をかなり上回る収入不足、したがって、実質的には過去最大の国債財政だ、こう考えても差し支えないのではなかろうかと思うのでございます。  このような次第で、五十八年度の予算は、第一に、従来の財政再建路線が完全に崩壊している。第二に、深刻化しつつある不況の中で財政の景気調整機能が放棄され、むしろ景気抑制的な予算になっている。第三に、基本的に今後の方向といいますか、今後の展望が全く示されていない。したがって、非常に欠陥のある予算である、このように考えるものでございます。  現在必要なのは、優先順位から言えば、第一に、財政による景気調整機能を優先視すべきであろうかと思うのでございます。短期的な収支、バランスを図るためにも、財政による景気調整機能をまず第一に優先視すべきだろうと考えるものでございます。また第二には、財政再建を含めまして、長期的に財政運営のあり方と申しますか、何を優先的に考えるべきか、これをはっきりさせなければいけない、こういう段階だろうと思うのでございます。しかしながら、もしこういう問題を考えるとすれば、そのためには財政の収支バランスの悪化とか、あるいは財政赤字とか申しましても、それにはさまざまの原因があるということを考える必要があろうかと思うのでございます。  対策を考えてまいります場合には、少なくとも財政赤字の三つの原因が区分される必要があろうかと思うのでございます。一つは不況による赤字でございます。一つは過去にかかわる構造的な赤字でございます。一つは将来にかかわる構造的な赤字でございます。  その原因と対策を考えれば、まず第一に不況による赤字。確かに、財政収支のバランスがまた次第に悪化をしております原因の一つは、明らかに五十六年度以来の景気の後退、税収の伸び悩みでございます。このような赤字に対しては、やはり財政再建ではなくて、景気調整を優先的に考えるべきだ。そういう状態の中で財政再建を優先的に考えるとすれば、それは景気をさらに悪化させて、財政再建そのものをもさらに危険な状態に陥れてしまうと言わざるを得ないかと思います。少なくとも、財政再建が長期的には重要な課題であるにしても、短期的にはもっと弾力的、伸縮的に運用されるべきであろうと考えるものでございます。経済バランス、これは財政バランスよりも優先的に考えられるべきものである。また、しばしば言われますサラ金財政というような考え方は、非常に大きな誤解を招く考え方であると言わざるを得ないかと思っております。  第二に、過去にまつわるといいますか、過去にかかわる構造的な赤字でございますが、これは先ほどの公述人の御説明にもありましたように、従来高成長の中で財政運営が行われてまいりました。その中で大きな税の自然増収をもとにしてさまざまの行政施策が行われる。いわば増税なき行政施策の拡大が行われましたために、さまざまのむだの積み重ねが行われてきていると言ってよかろうかと思いますし、また、一度実績として獲得した経費が、過去には優先性を持ちながらも、次第にその優先性を失ってくる。これが微調整にとどまって、大胆な削除が行われてこない。こういうことから生ずる経費の硬直的な増加、これが財政赤字の大きな原因の一つでございまして、財政再建とかあるいは行政改革とか、こういうことで主として財政対策の問題とされましたのは、まさにこの分野であって、これは妥当であろうと思うのでございます。  しかしながら問題は第三の将来、これから先の構造的な変化にかかわる赤字の問題でございまして、言うまでもなく現在、経済あるいは社会の目標の変化、構造の変化が進行し、これに伴って経費の非常に大きな増加趨勢が見られるわけでございます。たとえば、一人当たり所得の増加に伴って、そしていま一つは人口の都市集中化に伴いまして、住宅でありますとか生活環境整備の問題も起きておりますし、あるいはまた高齢化社会の進行と核家族化の進行に伴いまして、年金でありますとかさまざまの老人対策、あるいはことに医療費の増加傾向、これが非常に強くなってきているわけでございます。いわば、一般的に言いますと、財政の実物的なと申しますか、物やサービスを購入することによって財政が直接に国民にサービスを与える、社会にサービスを提供するといういわば再分配的な支出、こういう面への重点の移行が見られる、このように考えてよかろうかと思うのでございますが、こういう面での財政の支出の大きな増加傾向が見られるわけでございます。  このように、財政の赤字と申しましてもいろいろな原因が重なっているわけですから、財政再建と言いましても一筋縄ではいかないことは当然でございます。  考えてみますと、わが国経済は、他の主要諸国に比較をいたしまして、最近の経済の基本的なパフォーマンスは、失業率にしても、経済成長率にしても、不況だとは言いながらも、相対的には良好でございます。それなのに、財政の赤字だけはずば抜けて悪い状態でございます。これは結局、わが国財政赤字が単に不況だからということ、あるいは低成長への移行だからということで生じただけではなくて、一つは、従来高成長であっただけに、従来の残りかすが非常に大きい、これまでのひずみが強くあらわれているということもございますし、また一つは、わが国経済社会構造の転換が、ほかの国以上に急激に進行しているということもあろうかと思うのでございます。そういたしますと、いずれにしても、これから先の財政の機能は増大せざるを得ないわけですし、支出は増大せざるを得ない。いわば五十八年度予算はその第一歩でございます。  やはり財政というのは、ことしの財政にしても、これから先五年、十年の財政を考えていかなければいけないかと思うのでございます。年金等にいたしますとなおさらのことなのでございまして、国民の間にかなり広く、いまは年金の保険料を払っているけれども、自分たちが年をとった場合に果たして年金をもらえるのだろうか、こういう不安感が強くなっているのは事実だろうと思うのでございます。年金などの問題にしますと、五年十年どころか二十年、三十年、五十年単位で考えなければいけない問題だ。アメリカ連邦政府の行っておりますOASDHIなどの場合には六十年単位で物を考える、こういう態度も必要であろうかと思うのでございます。  そこで、最後に負担の問題ということになるわけでございます。五十八年度の負担で非常に目立っておりますのは、言うまでもなく、五十二年度以来六年間引き続いて所得税の減税が実施されていないということでございます。結局のところは実質的に増税になっております。そしてまた、このために直接税収比率が七二%を超える、世界でもまれに見るほどの高い直接税収比率になっております。しばしばアメリカに次いでと言われますけれども、アメリカの場合には州地方政府間接税が多いものですから、日本比較をして国税、地方税を通じてということになりますと、わが国はアメリカと肩を並べて、世界主要諸国の中で、あるいは世界各国の中で直接税収比率の高い国になっていることは事実でございます。ことに、この直接税収比率の中でも、給与所得を中心といたしました源泉徴収の所得税比率が目立って伸びている。そのため、かなり広範な所得層におきまして、給与所得階級においては実質的な可処分所得現実低下してきているのが実情でございます。  こういう状況があるものですから、所得税負担の不公平、いわゆるクロヨンとかトーゴーサンと呼ばれます水平的な不公平が問題になってきております。一昨々年でございましたか、グリーンカードの制度が導入されました。これは、このような意味での所得税負担の水平的な不公平是正のきっかけになるということで、大いに期待したのでございますが、これは延期をされるようでございます。  ただ、このグリーンカードの問題をめぐっていろいろな議論が行われたことを振り返ってみますと、有力な反対論の一つは、グリーンカードなど実施をすると、経済の薄ネズミ色の部分がなくなる、こういう表現をなさった方がおられましたが、いわばそういう形で経済のインセンティブがなくなってしまう、経済活力がなくなってしまう、だからいけないのだ、こういう反対論がございました。これはある意味ではもっともだろうと思うのでございます。しかしながら、もしそうだからといってこの水平的な不公平、所得の種類ごとによる税負担の不公平をこのままにしておきますと、現在でも存在をする不満が、これから先、所得税減税がなかなか行われない、また賃金もなかなか上昇しないという中で非常に強くなってくる、これは当然予想されるところでございます。  そのような不満感、そして実質的な負担増、これは一方では租税モラルを崩壊させてまいりますし、また、それに伴っていわゆる経済のアングラ化を促進する傾向があろうかと思います。また、他方におきましては、労働インセンティブと労働規律を大きく損なう懸念があると考えられますし、その結果として、実質所得の維持をめぐって、労使関係までにも望ましからざる影響を与えてくるのではなかろうかということを懸念するものでございます。  わが国の従来の経済成長、そして昨今におきます経済の、決していい状態とは申しませんけれども、国際的に比較をすれば相対的に良好なパフォーマンス、そして社会の安定、こういうことの基盤は、いわば安定した労使関係にあると言ってよろしかろうと思うのでございます。まあ、いわば現在の状態を続けることは、この安定した労使関係の崩壊につながるおそれを持つのでございます。さまざまの増税の議論も出てきているようでございますが、やはりその前にもう一度、負担の水平的な公平の実現のための一段の努力を払うことが必要ではなかろうか、このように考えております。  以上で陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
  59. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 どうもありがとうございました。  次に、青木公述人にお願いいたします。
  60. 青木日出雄

    ○青木公述人 青木であります。ごく一般的なことにつきましては、先ほど福島公述人がおっしゃられたことにほとんど同感でございますので、ここでは幾らか細かいことを、特に防衛問題につきまして、幾らか細かいことについて触れさせていただきます。  五十八年度の予算案、特に防衛費につきまして反対であります。実は私自身は武装中立論者でありまして、日本の平和と安全のために自衛隊が必要であるというふうに信じております。それから、現在の日米安保条約というのも、いまの状態の中では必要なものであるというふうに考えております。  現在の自衛隊の能力が抑止力として働くためには有効でなければいけない、有効に機能しなければいけないわけであります。ただ、有効に機能させるということは、決して予算をふやすということだけではないのであります。  たとえば、現在航空自衛隊には防空戦闘機が十個飛行隊、支援戦闘機が三個飛行隊、ナイキのミサイル部隊が五個高射群おります。これも能力を二〇%ふやすという前提で考えますと、決して防空戦闘隊を十二個飛行隊に、ナイキの高射群を六個高射群にする必要はないのであります。たとえば、戦闘機とナイキとの比率を変えることによってでも防空力を強化することはできます。あるいは、この兵力をそのままに置きまして、たとえば警戒管制能力をふやすとか、情報能力をふやすとか、指揮機能をふやすということでも防衛力をふやすことはできるわけであります。時によりますと、兵力を減らすことによってでも、防衛力というのはふやすことができます。二〇%の防衛力をふやそうとするときに、兵力を二〇%ふやす必要はございませんし、まして防衛費を二〇%ふやさなければならぬという理由はないのであります。逆に、今年度の予算のように、防衛支出を六・五%ふやして、それで自衛隊の能力がふえるということも言えないわけであります。  現在の「防衛計画大綱」の兵力、陸海空の配分について、私も不満であります。この兵力で実際に日本の防衛が有効に機能するのかどうかということには疑問を持ちます。ただ、それはむやみに陸海空おのおのを何%かずつふやせばいいということではないわけであります。  たとえば航空自衛隊につきまして――私は航空自衛隊出身でありますから、幾らかは身びいきなところがあるわけでありますが、航空自衛隊につきまして兵力をふやす必要があるだろうとは思います。ただ、先生方御存じのように、現在航空自衛隊が主力戦闘機として装備を進めているのはF15イーグルであります。いままで、現在も主力として使っておりますのはF4ファントムであります。両方ともアメリカのマクダネル・ダグラス社製の飛行機でありますが、つくっているマクダネル・ダグラス社が言うのですから間違いないと思いますが、F4からF15に、新しい機器とシステムの合理化、これによって一飛行時間当たりの整備所要マンアワー――ちょっとむずかしい言葉ですが、整備員が何人が何時間かかるかということであります。飛行機が一時間飛ぶために必要な整備所要マンアワーは、不定期整備、中間段階、定期整備、全部を含めまして、F4が二十六・一一マンアワー、F15では十一・二六マンアワー、わずか四三%というふうにマクダネル・ダグラス社が言っております。また、御存じのように、F4ファントムは複座でありますから、パイロットは二名要ります。F15は単座でありますから、一名で済みます。もし、同じ規模の飛行隊をつくるとすれば、パイロットの数は単純に言って半分で済む。また整備員の数は、これはいろいろな計算があるのですが、少なくとも一五%を減らすことはできます。  通常の会社あるいは事業でお考えいただいてもおわかりになると思いますが、そこのワークフォース、主要な労働人員の人数が減れば、当然管理、支援のための人数も減ります。全部に影響してくるわけであります。ですから、新しい戦闘機にすることによって、航空団の規模というのは約二〇%下げることができるはずであります。ですから、ここで兵力を更新することによりまして人員はふえないはずなのであります。  また、航空管制部隊というのがあります。現在、日本で二十八個のレーダーサイトによって常時警戒、監視をしているのであります。もしこの二十八個のレーダーサイトの半分を、いまの技術によりましてリモートコントロールやビデオ電送等を使って無人化するとすれば、当然そのためには整備の人員、警備の人員等も必要になります。それを控除いたしましても、二千人の人員が浮くのであります。そういうふうに考えますと、いまの戦力を減らさず、むしろふやしても、人員をふやす必要はない。それを抑えて防衛支出を抑える方法はあるわけであります。  あるいは、海上自衛隊。専門外のことに触れて申しわけありませんが、海上自衛隊の一個対潜グループ、これも先生御存じだと思いますが、五千トン級のヘリコプター搭載護衛艦一隻、四千トン級のミサイル搭載護衛艦二隻、それに通常型の三千トン級の護衛艦五隻、計八隻とヘリコプター八機をもって成っております。  ところで、御存じのように、昨年イギリスとアルゼンチンの間でフォークランド紛争が起こりました。このときに、御記憶だと思いますが、イギリスの駆逐艦シェフィールド、これがアルゼンチン側のエグゾセ・ミサイルをたった一発食らいまして沈んでしまったのであります。実はあの紛争間にイギリスが失いました駆逐艦類は四隻あります。二隻が四千百トン級、二隻が三千二百五十トン級。これだけで結論を出すのは危険でありますが、現在の常識といたしましては、三千トンから五千トンの駆逐艦というのは、まずミサイル一発あるいは爆弾一発で沈むものであります。  どうすればいいのか。一つの方法は大型化することであります。同じくフォークランド紛争でも、同じエグゾセ・ミサイルが命中をいたしましたグラモルガンという巡洋艦があります。六千二百トンございました。ミサイルが当たっても沈まなかったのであります。大型化をすることによって沈ませないでも済むかもしれない。もう一つは、同じ一発当たって沈むのならば、うんと小型化をしておけばいいわけです。もし千トン級の護衛艦にして数を三倍にすれば、三分の二は残るわけであります。  ということは、現在の護衛艦八隻、ヘリコプター八機による――われわれ八・八艦隊と呼んでおりますけれども、この対潜グループというのは、これからの戦闘には一番適しない編成ではないか。少なくともそれが昨年のフォークランド紛争の結果からはわかっているはずであります。しかし、ことしの予算案には、この三千トン級の護衛艦が二隻含まれております。そこでは、新しい考え方とか、合理化をしようという考え方が全くないのではないかというふうに考えられます。  まして、今年度の予算にあります陸上自衛隊の七四式戦車六十両、七五式装甲車九両、百五十五ミリ自走りゅう弾砲二十四門、二百三ミリメートルの自走りゅう弾砲十二門、これらに至ってはナンセンスであります。いまの日本の防衛のために、たとえば北海道の中部で戦車戦を行って何になるのか。われわれが抑止力と考えておりますのは、向こうが上がってこれないように、上がる気を起こさせないような防衛力をつくることであります。それに徹すれば、決して防衛予算をふやすということだけ、その方法だけが日本の抑止力を、あるいは平和と安全を守る方法ではないわけであります。  先日来、中曽根首相が日本を不沈空母にたとえられまして、ソ連から来るバックファイアを阻止すると言われたのであります。現在私の承知しておる範囲では、ソ連海軍航空隊のバックファイア爆撃機、これは沿海州にソビエツカヤガバンという町がございますが、これの北側にあるアレクセイエフスカヤという基地におります。ここに主力がいるはずであります。ここは北緯四十九度十五分であります。ここから真っすぐ東へ向かって飛びますと、ちょうど樺太の真ん中を通ります。それが太平洋へ出る道なんであります。日本列島の上空で阻止をしようと言いましても、このバックファイアは、日本の領空どころか、日本の持っている地上の警戒レーダーの覆域のもう一つ外側を通ってまいります。どうやってこれを阻止をしようというのであろうか。  また、そうやって回ってくる飛行機を、実は阻止をする方法はございます。たとえば、昨日故障を起こしましたE2Cを使って洋上で捕捉するという方法もある。F15に増加燃料タンクをつけて、洋上はるかで捕捉するという方法もある。ただ、日本の領空にも、日本のレーダー覆域にも入らないところを飛んで太平洋へ出ていく飛行機を、そこで阻止をすることが、われわれの個別的自衛権の範疇に入るのか、きわめて疑問であります。  また、もしそれをするとすれば、新しい装備が必要であります。いまの戦闘機の数をふやし、対潜哨戒機の数をふやすよりは、洋上で捕捉できるようなレーダーを使い、そこで阻止ができるような戦闘機を使うべきであります。あるいは、日本で阻止をしようとするならば、相手は超音速爆撃機でありますから、戦闘機をふやすよりはミサイルをふやした方がいいわけであります。マッハ二の爆撃機であろうと、マッハ三の爆撃機であろうと、ミサイルは捕捉してくれます。  というように、現在の計画で、われわれが適当だとは思えないところがずいぶんございます。  ただ、それらを含めまして一番恐れますのは、老人の医療、病院に行くたびに四百円取られるのは自衛隊の戦闘機を買ったためだとか、あるいは、そんなことはないとは思いますが、われわれの子供が学校へ行って教科書を有料で買わなければならぬのは自衛隊の戦車を買ったためだとか、あるいは将来増税があって、それが防衛力をふやさなければならなかったためだと言われることを恐れるのであります。われわれが考えるのは、日本に有効な防衛力を持つためには、自衛隊が国民に支持をされなければいけないわけであります。国民に反感を受けて幾ら戦闘機をそろえようと戦車をそろえようと、それは有効な防衛力にはなり得ないと思うのであります。  そこで、先ほども申し上げました、何か細かいことも申し上げましたが、人数を減らせるとか金を減らせるとか言いますのは、防衛費の伸びを一般の歳出の伸びと同じにしても結構である、その範囲内でいかにして自衛隊を強くしていくか、有効な防衛力としていくかということを考えるべきだと思うのであります。  以上で終わります。(拍手)
  61. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 どうもありがとうございました。     ─────────────
  62. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 これより公述人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。太田誠一君。
  63. 太田誠一

    太田委員 きょうは三人の公述人の先生方から大変示唆に富む御意見を拝聴いたしまして、参考になったことを御礼を申し上げるわけでございます。大変お一人お一人違う御意見が、対立する御意見もあったようでございますけれども、まず初めに、財政の全体の問題につきまして一河公述人にお伺いをしたいと思います。  いま、ことしの、五十八年度の予算編成に当たって、五十五年度からずっと政府の方で目標として掲げてきた財政再建ということを一方で放棄をしている、そして、他方で景気調整機能もまた放棄している、つまり両方とも何か放棄をしてしまっている、特に景気刺激策というものが、今日の段階では、パイが小さくなることによって歳出不足が生じ、そしてそれがまた財政を困難に陥れている、それに対して景気刺激という考え方をもっと前面に出すべきではないかというふうな御指摘があったように理解をしておりますけれども、それでは、どの程度まで国が経済バランスを保つためにこれだけの有効需要の不足を埋めなければいけないという、この経済バランスをとるための方策と、それから財政再建を行う、財政バランスを回復するためにはどのぐらいの赤字国債を出していいか、あるいは赤字国債というよりも国債発行残高を国民経済全体に対してどのぐらいは許されるかというところについて、実は合意ができていないわけでありまして、合意ができていない中で、ガイドラインなしにどっちを優先するかという議論というのができないから今日まで困ってきたわけでございます。そして、特に財政の規模そのものを大きくするという議論もさることながら、財政予算の中身、景気刺激的な予算項目をふやすとか、あるいは税制の中で工夫を加える、あるいは直間比率を変更するというふうなことでも景気刺激策はとれると思うわけでございますけれども、現状では、仮に若干の財政の規模そのものを拡大したところで、わが国全体の経済に占める、たとえば公共事業の予算の大きさというのは年々国全体の財政規模に比べては小さくなってきているわけでありますから、少々これを変更したところで景気刺激効果はないというふうに思われるわけでございます。その辺について、何か一河公述人の方で、頭の中に、国民経済全体の中で赤字国債、国債発行残高はこのぐらいであるべきだとかいうふうなガイドライン的なものをお持ちでしたらば、お教えをいただきたいと思うわけでございます。  それからもう一つ、これも財政の問題でありますけれども、税制についてクロヨンでありますとか、水平的不公平という話があったわけでございますけれども、実際の税を取る現場の話を聞いてみますと、給与所得とかあるいは自営業者の所得、あるいは源泉徴収でありますとか、申告所得でありますとか、そういうふうに分けて考えて、全体の自営業者の中で納税者人口の比率が大変低いとか、あるいは給与所得者の中で税金を払う者が大きいとかいうふうな議論がされるわけでありますけれども、これは実は、同じ対象の二つの表現の方法にすぎないという見方もあるわけでございます。商工業者のうち小さな、零細な規模のものは、法人成りをする以前の状態では、何といいますか、会社の規模そのものが小さいから税金を払えないのであって、会社の規模が大きくなれば法人成りをして、それが申告所得から源泉徴収に変わるのだというふうなことも言われるわけでございます。そういうふうなことを考えますと、一般的に言われるほど税の負担の不公平というのがあるのだろうかということが一つ挙げられると思うわけでございます。  それと、私は一河公述人に対して二点お伺いしますが、もう一つ、防衛の問題については私は、ここで、青木公述人の防衛に関する考え方は大変すばらしい、効率性を重んずるというか、同じ費用をかけてももっと効果的なやり方があるのだということを具体的に指摘をされまして、大変示唆のある御発言をいただいたわけでございますけれども、いまのたくさん挙げられた中で、全部を一遍に改善をしようと思っても無理なわけでありまして、特にこの問題が深刻である、たとえば陸上自衛隊のこの問題について最も深刻であるというふうな、最も悪いという点について一つ選んで御示唆をいただければ幸いであるかと思います。  以上でございます。
  64. 一河秀洋

    ○一河公述人 ありがとうございます。  先生、二つの点を私は明確にしろということでございまして、第一点は、公述人は積極的な景気刺激をしなさい、赤字財政拡大してもやむを得ないと言うけれども、それには果たしてガイドラインがあるのか、むしろこのガイドラインが明確でないし、コンセンサスがこれについて存在をしていないから、いわば財政、余り明確な方向も打ち出せない面がある、こういう御指摘であっただろうと思うのでございます。確かに御指摘のとおりであろうと思うのでございます。  ただ、この点について私が申し上げたかったのは、常識論から申しまして、長期的に赤字公債を継続をするということは、これは望ましくないのは当然だろうと思いますし、また公債に対して無制限の依存をするということは、確かに財政規律の問題にもかかわってまいりますし、また負担感がないままにサービスだけが増大をすることになるわけですから、国民の選択にも大きな影響をもたらすであろうということは考えられます。具体的にそれでは国債の累積残高は幾らまで許されるのか、あるいは財政の赤字幅は幾らまで許されるのかということになりますと、これは国民の反応や経済状況によるものでありまして、何%とかあるいは何百何十兆円とか、こういうガイドラインをはっきり出せるものではないだろうと思うのです。  私、申し上げたかったのは、財政収支のバランスを図るということも大切であるけれども、ただ無条件に毎年度毎年度それを積み重ねる、何が何でも毎年減らしていくのだということではなくて、もう少し長期的な姿勢をはっきりさせた上で、短期的には弾力的に運用することを考える必要があるのではなかろうか、こういうことを申し上げたかったわけであります。  それから第二点は、税の水平的な不公平が存在をするからこれを是正することが何よりもまず優先視さるべきだ、こう申し上げたのに対して、実際には税負担の水平的な不公平は俗に言われるほどは存在をしていないのではないだろうか、こういう御意見でございました。これは現場と接触された貴重な御体験であろうと思いまして、私、今後この点はさらに一層勉強をさせていただきたいと思っております。  ただ、この点については最近幾つかの研究もあるわけでございまして、たとえば一橋の石教授がこの点についてのかなり詳細な、客観的な検討をしております。それは、国民所得統計における所得と税務統計における所得をそれぞれ同一概念に引き直し積算し、その間にどれだけの格差があらわれてくるか、こういう手法で、税務統計で課税所得として捕捉されているのは一体何%くらいだろうか。これは国民所得統計で捕捉されているものを正しいとしての前提でございますが、この研究によりましても、俗にクロヨンと呼ばれております、これに非常に近い実態といいますか、近いものが出ておりまして、こういう点から考えましても、あるいはまた国民の感覚から申しましても、こういう税制は水平的な不公平が存在をすると私考えております。  ことに小さな事業経営は、法人成りをするということを言われまして、これは全くそのとおりだろうと思います。日本ぐらい法人企業の多い国はないのでございます。現在、事業法人、活動しているのが百数十万ございましょうか。これは世界で一番大きな数でございますし、経済活動の中で法人活動の占めているウエートは日本が一番高いだろうと思うのでございます。法人税収が大きいのは、法人税率が高いからではなくて、法人の数が多いからでございます。ただ、しかしながら、先生御指摘になりました、法人成りを税率のゆえにするような小さな企業、これは形としては法人であっても、実態としては個人企業と全く変わらない、株主総会などやったことがないという株式会社だろうと思うのでございます。そして、その中では個人経営と同じような経営が行われているわけでございまして、たとえ法人課税であるといたしましても、個人課税と同じように負担としては考えても差し支えなかろうかと思っております。  ありがとうございました。
  65. 青木日出雄

    ○青木公述人 簡単に申し上げますが、特に陸上部隊の規模を縮小するためには、日本のような専守防衛の自衛隊、この程度の規模の自衛隊でございますと、統合軍の編成にすることが一番いいわけであります。カナダ国防軍でやっておりますように、陸海空を全部一緒にしてしまいまして、一つの集団として統合をしてしまうという方法が一番いい方法であります。  ただ、残念ながら日本の自衛隊というのは、一番初めに、陸海空分かれて、おのおのアメリカ空軍、アメリカ海軍、アメリカ陸軍によってつくられましたので、特に陸上自衛隊についてはアメリカ陸軍のミニ師団といいますか、野戦機動を主として考えるアメリカ陸軍師団をミニ化してつくった編成であります。ただ陸上自衛隊をいまのままで残すといたしましても、それからまた機動力を持つ部隊が全くゼロでなければならぬということではないのでありますが、幾つかの部隊は機動力を持った師団として残しましても、その他については沿岸防衛を主とする、たとえば地対艦ミサイルとか精密誘導兵器とか、これらを装備した沿岸防衛部隊に編成し直すべきだ。そういう師団の編成をし直しまして所要の部隊を計算すれば、半分とまではいかなくても相当数の兵力削減ができるだろう。現に陸上自衛隊は志願者が少なくて定員を割っているわけであります。それで演習もままならないような状態でありますから、これを新しい形で編成し直すことができれば、あるいは現在あります甲師団を全部乙師団にしまして、それで定員を減らすことができれば、防衛費というのはずいぶん削減ができるのではないかと思っております。
  66. 太田誠一

    太田委員 どうもありがとうございました。
  67. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 野坂浩賢君。
  68. 野坂浩賢

    ○野坂委員 社会党の野坂浩賢です。公述人の先生方には御多忙のところ、われわれのために大変論旨明快にお話をいただきまして、大変ありがとうございました。参考になりました。  御三人の先生に質問することをまず申し上げたいと思うのであります。  御三人の先生には、特に福島先生がお触れになりましたけれども、憲法の九条の問題についてのお話がございました。現状、国会で論議をしておりますのを御承知かと思いますが、連日新聞に報道されておりますアメリカに対する武器供与の問題、あるいは防衛費GNP一%の枠を超すかどうかというような問題、それと財政再建がございますが、御三人の先生に明快にお答えいただきたいと思いますのは、いま憲法を改正するかどうかというのも一部の党では議論されております。現憲法を改正すべきであるとお考えか、お考えでないか、その点を第一点、三人の先生にお答えをいただきたい、こう思います。  二点目は、福島先生と一河先生にお尋ねをしたいと思いますが、増税なき財政再建という言葉がございます。この増税なき財政再建と言いますけれども、議論としては、国債の発行かあるいは増税か、歳出の思い切った削減かというのが論争されております。このいずれをとるべきか。そして、その方法があれば具体的にお話をいただきまして、何年くらいあなた方の考え方でやれば財政は再建できるのかということであります。たとえば例として申し上げるならば、増税をするということであればどういう方法でやるのか。その前に不公平税制ということはわかりますが、それと別にお話をいただければありがたいと思います。これはお二人の先生にお伺いしたいと思います。  福島先生に、平和を守っていかなければならぬ、いわゆる武力による平和の維持ということがいろいろ議論されておりますが、いまわが国は西側の一員、そうしなければ孤立化をするという議論があります。福田内閣当時は全方位の外交ということを言われておりましたが、日本の国から見て西側の立場に立つか、全方位の外交政策を進めるか、どちらがいいかという点について御見解を承りたいと思います。引き続いて一河先生に、いま再建の三つの方法を申し上げたわけでありますが、先生のお話では、いわゆる経済を発展させて、その経済発展過程で税金の増収を見るべきだというような御意見を承りました。いまの税は過少であるというふうな判断、それは一つの例として弾性値一・〇七であるということを規定づけられたわけでありますが、この予算で景気は上向くというふうにお考えかどうか、あればその理論的な根拠をお示しいただきたいと思います。  最後に青木先生にお伺いしますが、効果ある防衛能力という点について言及がありました。傾聴いたしましたが、そういう意味で、いま日本のGNPの一%以内、これはいままでずっと踏襲してきた考え方でありますが、専門家として、日本のGNP一%以内で今後も堅持して防衛力の問題については対応すべきだ、こういうふうにお考えであろうと思いますが、それについての御見解を。  以上です。
  69. 福島新吾

    福島公述人 三点の御質問をいただいたと思いますが、まず第一に、現在、憲法を改正すべきか否かという点でございますが、私はもちろん改正すべきではないという考え方でございます。  まず、それにつきましてさまざまな議論がございまして、すでに、憲法のもとで自衛隊の設置であるとかその他いろいろな違憲行為が行われているという指摘をする方もあるわけでございます。私は、細かい点ではいろいろの見解もございますけれども、全般的に申しまして、憲法というのはある種の政治行為の土俵であって、その土俵というのはかなり柔軟性を持って幅のある解釈ができる方がよろしいのではないか。たとえばイギリスにおいては、条文のない軟性憲法を維持してきているわけでございますけれども、イギリスの民主性が揺るぐということは全くないわけでございます。成文憲法であり、硬性憲法でありますわが憲法でございますけれども、その解釈についてある種の幅があるということは、またその幅のもとでもとへ戻す可能性もあるという点できわめて有効性があるのではないか、こういうふうに考えております。  それから第二点の、増税なき財政再建の方途はどうであるかという御質問でございます。  私は財政についてそれほど明るくはございませんけれども、今日の深刻な財政破綻を建て直すことには非常に関心を持っておりまして、それに関しては、大幅な歳出削減と、それからある種の増税というのは避けられないであろう。やはり国債がここまで大きくなったところで、なお国債に依存するということは、今日、国債の引き受け能力についても論議が始まっているというような状態で、余り考えるべきではなかろうと思っております。増税ということを言いますのはかなり問題でございますけれども、いまも若干お話ございましたように、不公平税制を是正して納得のいく形での増税という、あるいは池田内閣当時から毎年の所得減税が行われていたわけでありますけれども、あれもその限度によっては実質的な増税をはらんでいたと思いますけれども、そのような形もあり得るのではないかというふうに思うのでございます。  それから第三点、国際的な日本立場ということですけれども、いま西側の一員というお言葉もございましたけれども、明らかにそうでございますけれども、NATO諸国のアメリカに対する態度というものを見ておりますと、同盟国でありながら意見の食い違いというものは全く恐れない、そして、独自の対ソ外交を進めるという点で、日本側の態度ときわめて異なっていると思います。つまり、日本の意識においては過剰同調社会という特質があらわれておりまして、一たび同盟の一員であれば何から何まで信頼を得ていなければ安心ができない、あえて風波を立てることは避けようということが働いているように思われるのでありますけれども、私はむしろアメリカとの友好関係を強めるために、アメリカにとって適正でないという政策を改めるように諫言するという態度が必要ではないか。現在、レーガン政権でございますけれども、アメリカ合衆国の中にはそれと違う意見が強力に存在するわけでありまして、それらの人々と意見を同じくするということは決して同盟を傷つける、同盟という言葉を使ってはいけませんけれども、友好関係を傷つけることにはならない、こう考えております。  もちろん全方位外交ということも重要でありまして、現在朝鮮半島におけるクロス承認の問題が出ておりますけれども、これはまだきわめて実現にはほど遠いかと思いますが、むしろああいうことを日本が先頭に立ってやっていただけないか、そういうことをかねがね念願しております。あるいは、私、最近中南米を旅行してまいったわけでありますけれども、中南米諸国というのは日本との国交、外交、経済関係が余り密接ではございませんけれども、そこでやはり日本に対する期待というのはきわめて大きいわけであります。そして、それらに対して十分こたえていくということは、アメリカと中南米との安全保障関係にとっても決してマイナスではない。再び中南米に紛争であるとか軍事政権を広がらせるような事態を避けるために役に立つであろう、こういうふうに考えております。それは、同じように東南アジアあるいはアフリカ等においても行い得ることだろうと思います。  以上でございます。
  70. 一河秀洋

    ○一河公述人 三点のお尋ねだと存じます。憲法第九条、増税なき財政再建の具体的内容、いま一つは、税の、というよりは五十八年度予算の景気効果ということだと存じます。  憲法第九条につきましては私は何も触れませんで、いわば一国民としていかに考えるかというお尋ねだろうと存じますが、私は、憲法というものは絶対に変えてはならぬものであるとは考えておりませんが、現状において憲法を特に改正する必要があるというふうにも考えておりません。  第二に、増税なき財政再建ということでございますが、一体それではどういう方向財政再建をしたらいいのか、具体的な方法いかんというお尋ねでございます。  非常にむずかしい課題を含んでいるかと思うのでございます。御案内のとおり、この一月二十九日でありましたか、大蔵省で出しております中期財政試算、あの中期財政試算を見ますと、基本的には現在の財政構造が維持されるわけでございますが、建設国債発行額を変わらないものとして、六十一年度、六十三年度、六十五年度ですか、ここまでに建設公債を除いた赤字債を年割り額平均で、均等割でなくしていったらどのくらい財源不足になるか、あの計算を見ますと、一番楽に返しましょう、長期年賦で返しましょうというケースCでございますか、この場合でも五十九年度には四・二兆円ほど財源が足らない。六十一年度にはこれがさらに拡大して七・六兆円ほど財源が足らない。いま手元に資料がございませんので、正確な記憶ではございませんが、そういうことだったと思うのでございます。  少なくとも現在の財政構造を維持していれば赤字はふえる。そうすると、歳出を減らすか税収をふやすかということでございます。先ほど申し上げました過去の、あるいは過去にかかわる構造的な赤字については、大いに歳出の削減によって対処すべきであろうと思いますし、それが本来だろうと思うのでございます。微調整どころか、大調整をする必要があろうかと思うのでございます。しかしながら、だからといって、何が何でも歳出を削ればいいとも必ずしも言えませんのは、わが国経済社会財政のウエートをこれから高めざるを得ないような状況になっているという点でございます。資源配分の点を別にして考えたといたしまして、所得のいわゆる世代間再分配の問題として考えたといたしましても、高齢化と核家族化ということはわが国社会の非常に大きな負担になってこざるを得ないわけでございます。  昭和九十年代には六十五歳以上人口が一九%を超えると見込まれておりますので、もし年金を六十五歳以上給付というような、いわば外国並みの給付年齢にしたとしても、もし平均所得の六割程度給付をするとすれば、その年金財源負担だけでも、働いている人は平均して少なくとも三割くらいの負担をしなければいけませんでしょう。あるいは、ことしの老人医療制度の改正以前でございますけれども、三年ほど前に、あれは冲中研究所だったと思いますが、将来医療費の推計を各界の専門家を集めて行っております。この推計でありますと、現在の医療制度がそのまま続いたとすれば、昭和百年ころには医療費だけで国民所得の一七%になるという推計をしております。そうすると医療費と年金だけで四七%、これは現在の支出をそのまま続けていくというわけにもとうていいかないだろうとは思うのでございます。またそれだけに、財政の収支バランスを図ることは単に歳出の削減のみをもって対処できるものとは考えません。  第三に、景気に対する効果でございます。  これは先ほどるる申し上げましたように、私は、五十八年度予算は景気刺激どころか、はっきりとした景気抑制効果を持つ予算であると考えております。  以上であります。
  71. 青木日出雄

    ○青木公述人 まず第一の憲法についてでありますが、私も現在の状態で憲法を改正する必要はないと思うのであります。ただ、現実に自衛隊が存在をいたしておりまして、いまの憲法を素直に読みますと、どうも矛盾しているような感じがする、これも事実であります。ただ、問題になるところは戦力の保持、それから交戦権の否認についてでありますが、現状を改正してみても、では何か変わりがあるかというと、実際には実行行為としてはほとんど変わりがないわけであります。そこで、憲法を改正して、それがはずみになりまして歯どめのない軍備の増強をやってしまう結果になっては大変である。それから考えれば、幾らか矛盾するような感じはしても、現憲法はそのまま維持をした方がいいというふうに考えております。  それから、第二番目のGNPの一%の問題であります。  GNP一%を防衛費の限界にするというのは、別に理論的な根拠はないわけであります。理論的な根拠はないのでありますが、大変わかりやすい。めどとしてはきわめてわかりやすく、いい方法であります。そのほか、いろいろな指数を使う方法等がございますけれども、これはまことにわかりにくくて、何かごまかされているような感じがしてしまう。ですから、GNPの一%という指数は、これは将来とも使うべきではないかというふうに考えるのであります。  ただ現実に、現在国庫債務負担行為が非常にふえておりますので、恐らく昭和五十九年度予算でGNPの一%を突破してしまうのではないか、これはGNPの推移にもよりますけれども。昭和六十年度予算は間違いなくGNP一%を超えると思います。ただ、そこでも問題なのでありますが、GNP一%というわかりやすいめどがあって、それを目標にしてまた将来を考えますと、先ほど申し上げましたようないろいろな合理化する努力によりまして、そこで維持をすることは可能だと思うのであります。  ただ、御存じのように、現在機材も人件費も非常に上がっております。特に将来一%で維持できるような――といいますと、先ほどもちょっと触れましたように、たとえばレーダーサイトをリモートコントロールにしてしまう、無人化にする、当然それをやるための初度の支出は必要であります。ですから、将来何年か後からはそこでフラットになるということで、それに移行するために何年間か、これをはっきり目的を示しまして、その目的でGNPの一・二%とか一・三%になるということははっきり限定をつけてはどうか。そういう方法で、先ほども、現在防衛計画大綱の見直しが必要ではないかと申し上げましたが、見直しというのは決して何でもむやみにふやすということはございませんので、物によっては減らしてもいい、物によっては合理化をしていく、その端緒をつくるということでございます。それをやることによりまして将来の計画が決まれば、それの移行期間についてだけはGNPの一%をある程度超えるということもやむを得ないのではないかと思っております。そういう方法でもとらなければ、GNP一%を将来とも守るということは不可能ではないかというように考えます。
  72. 野坂浩賢

    ○野坂委員 ありがとうございました。
  73. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 これにて野坂浩賢君の質疑は終了いたしました。  次に、草川昭三君。
  74. 草川昭三

    ○草川委員 公明党・国民会議の草川昭三でございます。三人の先生方にはそれぞれ貴重な御意見を賜りまして、心からお礼を申し上げるわけであります。  まず最初に、一河先生にお伺いをしたいと思うのでございますが、ただいまの先生のお話の中で、特に予算収入に関して、低い所得というのですか、弾性値をもっと積極的に見通しを持ってもいいのではないかというような御意見がございました。あるいはまた、その中で、民間の研究機関の成長率の予想が非常に低いが、政府の方はその中間ではないだろうかというようなお話もあったのですが、先生御自身としての見通しはどのような点を持っておみえになるのかということがまず第一番でございます。  続きまして、二つ目の問題は、同じく国債の発行額を抑制するために一時的な税外収入に頼っておるというのが目につくというお話がございました。これは私も全く同感でございまして、ぜひこの議論もこの委員会でやらさしていただきたいと思っておるわけでございますが、自動車損害賠償責任再保険特別会計、いわゆる自賠責特会等からもことしは二千五百億、あるいはそのほか電電公社だとか中央競馬会等で四千億近く入れておるわけでございますけれども、特別会計からの納付というのは決してノーマルな形とは認めがたいわけでありますし、余りこれが定着をすると、いわゆる財政運営上いかがなものかという感じが非常にするわけですが、その点についてのお考え。  それから三番目に、これもぜひ先生の御意見を聞かしていただきたいわけでございますが、一昨年来、一般会計からいわゆる財政投融資にツケを回すのが目立ってきておるわけであります。私は、昨年も公述人の先生方にもお伺いをしたわけでございますが、資金運用部資金というものは国を信用して預け、そしてまた財投という形で長期安定的に運営をして日本高度成長を支えたわけでありますが、本質的にはその時期も終わったのではないか、こう思うわけでございまして、財投に関する先生の御意見を賜りたい、このようにお願いするわけであります。
  75. 一河秀洋

    ○一河公述人 草川先生からいただきました質問、いずれも足らざるところを非常に鋭く御指摘をいただきまして、冷や汗をかいております。  三点ございまして、一つは収入成長見通しの問題、一つは税外収入の問題、一つは財投の問題でございます。この二と三の問題は関連をしておりますので、あわせてお答えすることをお許しいただきたいと存じます。  まず、第一点の収入の見通しということでございますが、先ほど、今年度の収入は過小見通しではないだろうかということを申し上げました。この第一点は、経済成長率見通しが非常に手がたい。正直に申しまして、あるいは政府の見通しよりも現実経済成長率の方が下回るかもしれませんし、経済予測というのは、正直に言いまして、まだ当たるも当たらぬも紙一重のものがあろうかと思うのでございます。それに加えて、今年度の各種の見通しあるいは予測というものを見ておりますと、かなり共通をしておりますのは、年度後半におけるアメリカの景気上昇にみんな依存しているということでございます。この見通しが一つ狂いますと、どの景気見通しもみんな狂ってしまって非常に深刻な不況にならざるを得ない、こういう点では共通をしているだろうと思うのでございます。これは人様の国の景気のことを当てにして自分の国の景気の見通しを立てるわけですから、二重に当てにならない面が確かにございます。  ただ、私、特に申し上げたかったのは、外れるかもしれない、しかし、外れるならば少し積極的な見通しをして外れてくれた方が財政のためにも経済のためにもいいのじゃなかろうか、低目に見積もって、少しはよくなるはずのものを財政がさらに足を引っ張るような運営は好ましくないのではなかろうか、こういうことを申し上げたかったわけでございます。  税収の所得弾性値についても同様でございまして、昨年度の税収の所得弾性値が非常に低かったということが、今年度非常に消極的な態度をとらせている原因だろうと思います。ことに昨年度の予算編成におきまして、いわば収支のつじつま合わせと申しますか、予定どおり公債を減らす、五十九年度までに特例債をゼロにするということを何とかつじつまを合わせようとして、合わせ切らない面で結局経済成長率を高目に見積もる。弾性値を高く見積もって、税収を大きく見積もり過ぎたために大きなけがをしてしまった。そこで大いに反省したけれども、少し反省し過ぎた、こういう感じがするのでございます。ことに昨年度、税収の所得弾性値が低かったのは、景気が急激に下降していく局面で法人税と申告事業所得税の落ち込みが目立つのが原因で、低いといいますか、不況になってしまって、不況でこれが継続をするということになってまいりますと、昨年度ほどのことは出てこないだろうと考えておりまして、したがって陳述のとおり申し上げたわけでございます。  それから第二、第三の点でございますが、税外収入を今年度大きく見積もっている。これは確かに財政の実態をいわばごまかす面があるかと思いますので、健全ならざる方法であると考えております。ことに先ほどから申し上げておりますように、ある人がうまいことを言っておりまして、ことしの予算はすごろくで言えば一回お休みの予算である。この大事なときにお休みをしたり、トランプで言えば、不謹慎ですが、パスをするようなことでは非常に困ると思うのでございます。  それでもなおつじつま合わせができなくて税外収入を見込む。いろいろと素人には思いつかない種をお考えになっているようでございまして、ことに先生御指摘の自賠責の問題など、非常に大きな基本的な問題をはらんでいるかと思っております。あるいはここ何年来か、地方交付税交付金の点でも三二%では不足するという問題が続いておりましたので、こういう点も問題があろうかと思うのでございます。あるいは一般会計から財投にいろいろツケ回しをいたしましたり、あるいは地方財政にしわ寄せをしたりということで、いわば一般会計の面だけきれいごとで財政再建をしよう、こういう面はあろうかと思います。  確かに一般会計、財政の中心でございますし、逆に言いますと、結局はいろいろなところで行き詰まりが来て、最終的にどこにしわ寄せされるかといえば、これもやはり一般会計しかないわけでございますので、一般会計からきれいにしていこうということはわかるのでございますが、その余りにほかのところに余りぼろ隠しをすると、将来抜き差しならないことになるという気もいたしまして、やはり財政再建というのは、一般会計だけではなくて、一般会計、特別会計、財投あるいは特殊会社、こういうものまであわせて、さらには地方財政まであわせて総合的に考え、その中で一般会計のあり方を考えるべきではなかろうか、かように考えております。
  76. 草川昭三

    ○草川委員 ありがとうございました。  では、最後に青木先生にちょっとお伺いしたいのでございますが、先生は空の方でございますけれども、少し陸上のことについても……。  現在、自衛隊員の充足率が非常に悪いということが指摘をされておるわけです。特に将校と下士官の充足率はほぼ一〇〇%近いわけでありますけれども、兵は半分の約五五%ぐらいだ、こう聞いておるわけでして、いわゆる自衛隊の軍縮ということも真剣に考えたらどうなんだろう。たとえば、いまの師団編成は実質的には師団編成になっていない。下士官が歩哨に立っておるというような例が多いわけでありまして、抜本的にいまの編成を再検討すべき時期に特にこの陸上の場合はあるのではないか、こう思うのですが、先生の御意見を賜りたいと思います。
  77. 青木日出雄

    ○青木公述人 確かに陸上について問題があるのですが、正直に申しますと、われわれの仲間では、自分の専門以外には余り口を出さぬというのが慣例になっております。  ただ、先ほどもちょっと申し上げましたように、たとえば現在の師団が全部甲師団――甲師団が半分以上を占めておりますが、この編成である必要があるのかどうか。あるいは全部を乙師団に落としてしまうという方法もありますし、次はソ連軍のように、第一級、第二級、第三級の師団というふうに考えてもいいわけであります。特にソ連の言います第三級師団といいますのは、二五%以下の人員充足率で、兵器装備だけを持っている部隊であります。いざというときには動員をすれば人員を充足してそれで使い物になるという方法なんでありますが、ソ連のようなやり方というのは非常にむずかしいとしても、現在のままでも、甲師団は三個連隊編成でございますけれども、そのうちの一個連隊を装備だけにいたしまして、二個連隊に人員を集中すれば、これは曹士のバランスもとれますし、演習等にも不都合はない。兵隊さんのかわりに旗を立てて演習をやるなんという変なことはなくなるわけであります。  そういう方法でいいのではないかと思いますし、もう一つ、先ほど申し上げましたように、現在の陸上自衛隊を沿岸警備を主とする部隊にして、また、主要兵器を精密誘導兵器とか地対艦ミサイルとかいうような兵器にいたしますと、たとえば精密誘導兵器ならば、それは使う者自体はコンピューターを扱うわけでありますから、それを持つ者一人ずつが下士官であって何の不都合もないわけであります。とすると、そういう新しい部隊編成にいたしますと、現在の幹部、曹士のバランスが大きく変わってくる。いままでの人員充足の状況から考えれば、積極的にそちらの方に陸上自衛隊は改編をしていくべきじゃないか。そうやるのが、結論としては人員も少なくて済み、有効性はかえって上がりということが可能ではないかと思うのであります。そんな方法でどうかと思います。
  78. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 これにて草川昭三君の質疑は終了いたしました。  次に、木下敬之助君。
  79. 木下敬之助

    ○木下委員 公述人の三人の皆様方、本当に御苦労さまでございます。また、大変すばらしい御意見、ありがとうございました。私は民社党の木下と申します。どうぞよろしくお願いします。  まず、一河先生にお聞きいたしたいのですが、ただいまの草川先生にも答えておられましたように、五十八年度予算経済成長率を名目五・六と見込んでいることを手がた過ぎる、そういうふうに言われまして、下回る場合のことを考慮に入れるとなおさらもっと積極的でよいと、政治的な感覚も含めてお答えになられました。一体どのくらいだという感じ、もしお持ちならと思ったのですが、御無理はなさらなくても結構です。  また、今後の展望がないということを言われましたが、一体先生としては展望はどうあるべきとお考えになっておるのかお聞きしたい。  それから、縮小均衡でこういうふうにあることに御批判を持っておられると思いますが、拡大均衡予算というものはどういうふうに考えられるか。  いま一つ、最後の方で、将来の問題についていろいろ触れられまして、年金にも触れられました。行革、福祉、いろいろ大変な問題になってきておりますが、将来についての福祉等のどうあるべきかというコンセンサスはまだなかなかできてないと思っております。この将来の福祉のナショナルミニマムはどうあるべきとお考えになっておるのかといったことについてお聞きいたしたいと思います。
  80. 一河秀洋

    ○一河公述人 正直に申しまして、いずれも非常な難問でございまして、いずれもお答えしにくい問題でございます。  まず第一に、成長率五・六%――どのくらいかと申されますのは、実際の見通しという意味でございましょうか。
  81. 木下敬之助

    ○木下委員 いえ、先生の政治的な判断も含めて……。
  82. 一河秀洋

    ○一河公述人 私は、名目で言えば六%ないし七%前後を見込んだ方がむしろよろしい。非常に乱暴でございます。そしてまた、それが実現するとも必ずしも思いません。しかし、むしろ現在の段階では、経済成長見通しというのは、単なるプロスペクトといいますか、正確な見通しというよりは、もっと経済社会に明るい見通しを与えるものであってほしいという願いがあるのでございます。  それから第二に、展望の問題と申しますか、展望がない、それから将来展望としてナショナルミニマムはどうか、この二点は絡んでいると存じます。展望がないと申しますのは、やはり何と申しましても、この四年間ですか、五十五年度以来一応具体的な財政再建五十九年度という目標があったものが実際には崩れておりますし、あるいは昨年末の財政制度審議会ですか、特例債といえども借りかえがあってもいいのではないかというふうな意見も出てきているようで、そうなってまいりますと、特例債と建設債をはっきりと区別して物を考えなければいけない財政運営上の理由は、きわめて希薄になってくるという気もするわけでございまして、それでは、将来財政をどうするかということについて具体的なイメージが感じられない、こういう意味で展望がないという言い方をしたわけでございます。  ただ、それでは公述人の将来展望はどうだろうかということになってまいりますと、これは具体的に申し上げますとかなり長時間を要するのではなかろうかと思いますが、少なくとも一つは住宅生活環境整備、それから世代間の再分配、医療費、この辺の問題を十分に配慮した非常に長期的な視野を持った財政運営が必要だということを申し上げたかったわけでございます。特に年金の問題につきましては、五十年、六十年単位で考えるべき問題であって、五年、十年の財政収支バランスとの対比で、十年間払えるから年金を払っていいとか、こういう問題ではなかろうと思うのでございます。  ただ、税と社会保険負担率から申しますと、今年度は税が国民所得負担率で二三%強でございますか、社会保険負担率が一〇%を少し上回ると思うのでございますが、税プラス社会保険料の対国民所得比率が三四%前後、これはヨーロッパあるいはアメリカに比較をいたしますとかなり低い率でございます。アメリカにしてもフランス、イギリスにいたしましても、税と社会保険料の割合は違いますが、合わせた負担率ということからいいますと、いずれも五〇%前後に達しているわけでございまして、わが国がヨーロッパあるいはアメリカ並みの財政の支出ということになりますと、負担の面でもやはり増大をしてこざるを得ない面はあろうかと思います。それだけに水平的な公平を実現し、納得のいく負担が必要である。そうでないといろいろな意味でのモラルの崩壊を来すだろう、こういうことを申し上げたかったわけでございますし、そういう点からいいますと、現在の福祉水準を大幅に引き上げるということにも、長期的な展望を考えて行わなければいけないということを特に強調したかったわけでございます。  余りはっきりとしたお答えになりませんが、お許しをいただきたいと思います。
  83. 木下敬之助

    ○木下委員 どうもありがとうございました。  青木先生、一つお尋ねいたしたいと思うのですが、いろいろと防衛の質についてお伺いいたしまして、本当に貴重な御意見ありがとうございました。総理も質の高い防衛力とか、きりっとした防衛力とかいう発言をなさっている。この総理の発言の中身と先生のおっしゃったようなこと、大体同じようなことなんですが、総理の発言に対してはどういうふうに思っておられますか。  それからもう一つ、現在の自衛隊は将来どういうふうにあるべきか、どう考えておられるのか。政府は大綱の達成を進めておるわけですが、この大綱の達成に対しては先生はどういうふうに思っておられるのか、お聞きいたしたいと思います。
  84. 青木日出雄

    ○青木公述人 防衛力の質について高めなければならぬということについては全く同意見であります。ただ、これはもう申すまでもございませんが、日本の防衛力というのは、はっきりした憲法の制約下にございまして、専守防衛であり、それから他国にいたずらに不安や脅威を与えないような防衛力、ちょっと特殊な防衛力であります。これをつくるためにどうするかというところで問題があるわけでありまして、やはり一般的には日本の防衛力は、量的にも能力的にも非常に少ないというふうに考えられがちなのでありますが、私は決してそうではないと思うのであります。われわれの防衛支出も、確かにGNPの一%以内というのは少ない。少ないようですが、ただわが国のGNP非常に多うございますから、実は現在の防衛支出の水準はイギリスのほぼ半分に近づいております。  ところが、イギリス軍というのは、これは御存じのように、イギリスで一番大きいのは、実は海軍ではなくて陸軍であります。その陸軍も、ヨーロッパのNATOの中部軍派遣の陸軍部隊が一番多いわけであります。これはもちろん攻勢部隊でありまして、イギリス本土の防衛には何の関係もない部隊、何の関係もないと言っては言い過ぎでありますが。それから、イギリス海軍にしろ空軍にしろ、やはり相当大きな部分が攻撃力であります。現在イギリスでは、今後五カ年間の防衛支出の増大計画をやっておりますけれども、実はイギリス海軍の中でこれから予算がふえるのは、トライデンーミサイル搭載潜水艦の予算だけであります。あと八隻ほどDDとDEをつくる予定になっておりますけれども、これは実は新しくできると同時に、古い船を他国へ売却をすることになっております。実は通常型の軍備につきましては、全く増強の計画はないわけであります。空軍につきましても、約半分が攻撃力でありますから、そうしますと、防衛力だけで計算をいたしますと、日本とほとんど同レベルである。  極端な例を申し上げますと、固定翼の対潜哨戒機、日本と同じようなシーレーンを持ち海洋国であるイギリスが、固定翼対潜哨戒機の現在の保有数は二十八機であります。それに対して、日本は百三十機持っております。このうちで小型のS2を抜くといたしましても、百機を超える数を日本は持っておるわけであります。決して量的に小さいものではない。これをうっかりした増強の仕方といいますか、充実の仕方をいたしますと、量的には拡大しないでも、それを質的に変えるだけでも他国に脅威を与える結果になると思うのであります。  日本の周辺にあるアジアの国は、どの国も財政的に非常に困っておりまして、現実にどこの国を見ても、防衛力をそう極端にふやし得る国はないわけであります。それで、これらの国は、第二次大戦のときに日本の侵出といいますか侵略といいますか、日本の部隊が行きました経験を持っているわけでありますから、やはり日本に対しては相当警戒的であります。特によく言われることでありますが、たとえば朝鮮海峡といいますのは対馬海峡の西水道でありますが、韓国側に言わせれば大韓海峡と言います。これについての防衛を日本で言及をしますと、韓国の人たちは非常に嫌な顔をされます。これは韓国の主権に関することであって、それを日本側から云々をされるのは心外であるということであります。同じように、マラッカ海峡の防衛について話をしますと、シンガポールなりマレーシアの人は非常に嫌な顔をします。同じくロンボク水道の防衛についての話をすれば、インドネシアは嫌な顔をするわけです。それらのところはおのおのの国の主権に属するところであり、そこについての責任は各国が持っているわけです。それを軽々にわれわれの方で、われわれのシーレーンを守るためにそこも守らなければならないという発言をするとか、あるいはそれについての能力を持つということについては、相当警戒的でなければいけないのではないかと思います。ですから、これらのことについては、それらの国がおのおの防衛ができるようにわれわれは援助をすべきであって、私たちがそこまで言及をして、能力を増強する必要はないのではないか。それらの関係諸国がそこを防衛してくれる能力を持つこと、それが日本の平和と安定にもつながるというふうに考えております。  そのあたりで、実は最近の総理大臣の発言されていることと私の考え方は大分ずれがあるわけであります。  よろしゅうございますか。
  85. 木下敬之助

    ○木下委員 大綱達成について。
  86. 青木日出雄

    ○青木公述人 大綱は、先ほども申し上げましたように、見直しの必要があると思うのであります。見直したものについて、一体いつまでに達成する必要があるだろうか。結論としましては、大綱というのは目標でありますから、常にそれに近づこうと努力をしていればいいのではないか。というのは、ああいう計画は常に量を示しますので、量についてはそれに近づく努力をしていけばいいのであって、質的に能力を向上すること、それが抑止力になるというふうに考えております。
  87. 村田敬次郎

    ○村田委員長代理 これにて木下敬之助君の質疑は終了いたしました。  次に、瀬崎博義君。
  88. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 公述人の皆さん、御苦労さまです。  福島公述人にまずお伺いをしたいと思うのですが、先ほどの御意見の中で、先に政策が転換してしまって、国民には後からついてこい式は、これはもう民主主義に反する、そういうお話もありました。現在、本予算委員会でも対米武器技術の全面供与の問題をめぐって、国会決議がありながら、それを無視して先にやっちゃった、後でいろいろ国会でも議論が起こっている、こういう点はその最近の最たる例で、今日の中曽根内閣の危険性を、ある意味で先生ずばり御指摘いただいた、こう思ったわけであります。  さらに、財政破綻の背景として、歴史的にさかのぼって池田内閣当時の所得倍増政策、さらには田中内閣当時の列島改造政策も批判をされた。こういうような点、あるいはまた軍拡の批判もされました。われわれ、大変はっきり物を言っていただいておりまして、共鳴を覚えているのです。  しかし、同時に、福祉元年だと言ってずいぶんと財政膨張政策がとられた。これを通じて財政散布が行われたことも今日の財政危機の原因であるかのようなお話に伺ったのです。しかもこういう中で、圧力団体という言葉もお使いになったと思うのですが、それらが政治家と結びつき、政治家は圧力団体の要求を票に結びつける。こういう仕組みの中で、いろいろと新しい政策、制度がつくられる。それがまたひとり歩きしていって、財政膨張原因になる。確かに私も、そういう面は多々あると思うのです。とりわけ公共事業、その中でも大規模な公共事業とか、あるいは産業基盤整備型の公共事業には、政官財癒着型の分捕り合戦は目に余るものがあります。あるいは開発援助等もそういうたぐいに類するかと思います。  しかし、福祉とか教育の制度について言えば、本来、現行憲法には、国はすべての生活の部門にわたって社会保障社会福祉充実に努めなくちゃならない、こういう規定があるにもかかわらず、なかなか進んで政府がやってくれないので、そこで関係福祉団体や民主団体やあるいは地方自治体がいろいろとお互いに団結して国にも働きかけ、あるいはまた、自治体が率先してやるというふうなことでつくられていって積み上げられていったんじゃないかと思うのですね。決して圧力団体的な性格の運動ではそういうものはないと思うのです。  それは各種の年金制度にしてもそうだし、保育所の増設だとかあるいはその内容、長時間保育とか障害児保育とか、あるいは今回また一部有料に逆戻りして大変残念なんですが、老人医療費の無料化制度だって、地方自治体がまず口あけをした制度であったし、そういうふうに考えますと、こういうものはやっぱりはっきり区別して、むしろ国民がこれまでいろいろと苦労し運動して積み上げてきたそういう制度も、何か財政の放漫な散布といいますか、そういう原因であるという範疇に入れるのはどうかなというふうに思いつつ伺ったのですが、あるいは私の聞き違いかもしれませんが、改めて先生の御意見を伺っておきたいと思うのです。
  89. 福島新吾

    福島公述人 それは速記をごらんいただいたらおわかりいただけるかと思いますけれども、私の意見はおっしゃったようなものではございません。皮肉なことにというか、市民の政治参加がそのときに同時に起こった、それは高度成長の弊害の結果であるというふうに言って、それで福祉元年になったが、その福祉元年がオイルショックによって最初から打撃を受けたということを申したわけでございます。     〔村田委員長代理退席、委員長着席〕  それを言いました理由は、やはり今日の財政破綻は福祉、教育の乱費によるという俗説がありますので、それに対して違うということを明確にしたかったからでございますけれども、同時に、先ほど来の質疑の中でも御論議ありましたように、社会保障費の将来にわたる増額ということが重大な問題をはらんでいる。そうすると、福祉という名目だから何でもいいというんじゃなくて、それに対して厳格な見直しということをしていく必要はやはり避けられないという点で、若干御意見とは違うかと思いますが……。
  90. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 私は、確かにそれは福祉を隅々まで見渡せば、先生のおっしゃる見直しの必要性のあるものも出てくるかもしれませんが、しかし、そういう方向にうっかり意見を出すと、いまのこういう政治状況のもとでは、これ幸いと、本来ならば断固として守りさらに充実させなければならない福祉や教育の制度まで掘り崩しにつながっていく。そういう点で私どもとしては現行の福祉教育の水準は断固として守る、こういう側面を私として強調したいなと、こういう気持ちを持つわけですね。  それからもう一つ、同じような趣旨で三Kについても触れられて、重ねてえらい失礼ですけれども、確認をさせていただきますが、現在の三Kはやはり赤字が雪だるま式にふえるので、何とかしなくちゃならぬというのが先生のお考えでしょうか。
  91. 福島新吾

    福島公述人 これは大変むずかしい問題でございまして、それぞれちょっと違った問題があろうかと思います。  国鉄につきまして申しますならば、やはり国鉄の赤字の主たる原因は、自動車輸送の拡大に起因していると思います。果たして今日のようなエネルギー危機、エネルギー節約時代にそのような方式がいいのか、あるいは鉄道輸送を再び復活させるのがいいのかというようなことを本格的に議論しないで、単に国鉄の路線廃止を急ぐという方式には同意しかねる点がございます。しかし、国鉄の経営自体に非常に過剰人員があるとか、いろいろなむだがあるとかいうことは、批判は避けられないのではないか。  それから食糧管理につきましても、これは終戦直後の食糧管理制度の機能がその後全く機能を転換をいたしまして、ある種の農民に対する社会保障のような性格に変わってきたように思われるわけでありまして、そのような性格であれば、もっと別途のやり方をすることはできるのではないか。今日のその食糧管理制度の抱えている膨大な事務機構というようなものについては、見直しを必要とするのではなかろうかと思います。  それからもう一つ、健保につきましては、つまり今日の日本の健保制度というのは非常に複雑で、その機構のそれぞれによって給付の水準がきわめて違うわけですね。これは国民の法のもとの平等に反すると考えられますので、それに対する全面的な公平化を前提とする見直しが必要ではないか。それが果たして健保の赤字解消につながるかどうかということについては、私、十分な自信がございませんけれども、むしろ赤字だけの問題ではなかろうということを言いたいと思います。
  92. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 この辺は意見の相違があっても当然かと思いますけれども、重ねてなんですが、やはり国鉄は民営分割をしろ、その他いろいろと風当たりの強い部門ですね。しかし、この間も共産党の不破議員も指摘したのですが、開業した上越新幹線は年間一千億円の赤字を背負い、東北新幹線は二千億円の赤字を背負う、そういう状況のもとで、少々地方線を整理してどうのこうのといったって埋まるようなものではないわけですね。ですから、先ほど言われたモータリゼーションなどで交通体系が変わったということと同時に、そういう赤字の要素もあるわけです。ですから、そういう中でなお国民の足を安全に守るという国鉄の使命はどこまでも守らなくちゃいけないのじゃないかなと思うのですね。この点の先生の御意見。  それから食管制度についても、各国、先進資本主義国どこでも、やはり農業に対しては相当な保護政策をとっているわけですね。それは、やはり食糧の自給体制は守っておかぬといざというときに困るからというのがあると思いますし、さらには、もし食管の赤字を言うなら、農業資材、肥料とか飼料とか農薬等の独占価格が非常に高い、こういう大企業の価格つり上げを無視して、ただこの食管の赤字だけを言うのはどうかなという気が私はするので、この点の先生の御意見。  それから、そういう意味では健保についても、これもとかく事務費は保険料で持たせ、その他の国民負担増加の方向に向きがちなんで、しかし、実際には薬代なども、これも製薬会社のもうけからわかることですが、そういうものが非常に高い、そういうことにメスを入れないで、この制度が悪いのだと言うのは早計に過ぎるというふうな点を考えないと、三K批判が出れば、これをいいことに政府としては全面的に国民負担増加の方向へ、改善でなくて改悪に持っていく危険が多い世の中がいまの現状じゃないかと思うのですが、どうでしょうか。
  93. 福島新吾

    福島公述人 いまこういう議論をする場所ではなかろうかと考えますけれども、私は、むしろ瀬崎議員が所属される日本共産党のようなお立場が、みずから自分の支持する側の欠陥を大胆に指摘されて、そしてそれを絶えず直しながら国民大衆の支持を集められることの方が、本当に党を強くする道ではなかろうかと思います。失礼をいたしました。
  94. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 われわれも、だから国鉄は国民サービスの向上に努めろとは大胆に言っているわけですね。時間がないからそういうことを省いて、三Kを口にする場合に根本的な問題を言うならば、そういうことを申し上げておったわけです。ちょっと先生の意見がお聞きできなくて残念であります。  それから一河先生にも、時間が余りないのですがお伺いをしたいと思うのです。  防衛費に対して、これも私短絡してお聞きしたかもしれませんが、従来から見ればそう大したものではないんだけれども、他から見れば目立つんだ、防衛費の増加が何が何でも悪いとは思わない、こういう話でしたね。ところが、ことしの場合は、どなたか御指摘になったように歳出の実質規模が四十八兆円と対前年比三・一%減っているわけですね。全体が減っている中での六・五%ですから、ベースが減っているのにふえているというこの特徴。それから、その中で特にF15とかP3Cなどの正面装備についてだけ見ますと二〇%ぐらいの増加になってきているというこの特徴。それから、予算の傾向が非常に明確に分かれまして、いわゆる伸びている方は防衛関係費のプラス六・五、国債費プラス四・六、経済協力費プラス七、エネルギー対策費プラス六・一、この辺は大体軍事費並びに大企業向け、以下国民関係の多い方になるのですが、社会保障関係費が唯一プラス〇・六以外、文教・科学振興マイナス〇・九、恩給関係マイナス〇・一、地方財政関係マイナス二〇・四、公共事業ゼロ、中小企業対策費マイナス二・九、食糧管理費マイナス七・八というふうな状況ですね。こういう、つまり全部国民の方をマイナスにした上での防衛費のプラスなんだ。それと、いろいろ言われている対米関係等を考慮すれば、これを大したことないという見方はどうかなというふうに、私はちょっとと思ったりするわけですね。  それともう一点、時間がありませんのであわせて。税の見積もりの問題もおっしゃったんですね、ことしはどうも手がた過ぎると。むしろそれを言うなら、去年、おととしあたりがいろいろな政治的理由で粉飾があった。いろいろわれわれがそれを指摘したんだけれども、政府は国会論争の中で認めないまま、最後になってだめでしたという形になっておりますね。やはり税をああいうふうにいろいろな政治的配慮で水増ししてみたりすることの方が危険だと私は思うのですが、いかがでしょう。
  95. 一河秀洋

    ○一河公述人 まず第一点、防衛費の問題でございますが、正直言いまして言わずもがなのことを言っておしかりをいただいたという感じがいたします。昭和三十年代、四十年代、五十年代を通じまして各費目の伸び率を見ますと、従来は社会保障費の伸び率が圧倒的に大きかったわけでございまして、経費項目の中に占める社会保障費のウエートが次第に増加をしてきた。これが今年度逆転をしている、方向的に逆転をしている、こういうことでございます。  ただ、六%というのは表面的には大きくは見えないけれども、実は後段で内容構造の変化が起こっているのが大問題だということを申し上げたと思いますが、むしろそのことを強調したかったわけなんでございます。その点は御了解をいただければありがたいと思います。また内容的にも、六%というけれども、内容的に考えれば正面装備費が二〇%もふえている、こういう御指摘でございますが、限られた防衛費ならばこれを効率的に使うのが当然である。どうすれば効率的なのか。それは先ほどから青木公述人と諸先生の間でいろいろと交わされている議論でございまして、これはむしろそちらの問題であろうかと思います。  あるいはまた幾つかの費目の増加を御指摘なさいましたが、正直に言いますと、いずれも比率としては非常に小さな比率、金額としては非常に小さな金額のところを増加をさせることで、財政負担を余り目立たせないで政策をやりましたという印象を持たせようとしている、こういう感じがするのでございます。  第二点の税収見積もりを過大にすることは危険である、これは全くそういう面もあろうかと思います。確かに仰せのとおりで、気をつけなければいけない点であろうかと思うのでございます。  ただ、結果論から申しますと、昨年度、これは私、全く財政のつじつま合わせのためと思いますけれども、税収を過大に見込んでしまった、これはもう最初から各方面から予想されたところであることは、先生御指摘のとおりでございます。あるいはまた同じ官庁の中でも、大蔵対自治の間で多少意見の違いがあったということも、先生御承知のとおりかと思うのでございます。しかし、逆に言いますと、昨年度税収の過大見積もりをしてしまったから、不況の落ち込みがこの程度で済んでいるという面もあろうかと思うのでございます。もし税収をきつく見込んで、公債はあくまでも締めつけるんだということで財政の支出規模を昨年度の当初以上に抑えていたとするならば、消費にしても投資にしても輸出にしても、内需、外需ともに大幅の落ち込みでございまして、これに財政がよけい、いわば首つりの足を引っ張るようなことになりまして、ことしはとんでもないことになっていたんじゃなかろうかという気もするのでございます。確かにその辺の節度、どの程度正直であるべきか、これはやはりきちんと整理しておかなければいけないという御指摘、全くそのとおりだと反省いたします。
  96. 瀬崎博義

    ○瀬崎委員 どうもありがとうございました。
  97. 久野忠治

  98. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 御苦労さまです。新自連の楢崎弥之助です。青木公述人に三問ほどお伺いをいたしたいと思います。  第一番目は、カムチャツカ半島のペトロパブロフスク・ソ連海軍基地、これは私は、いま西太平洋、南太平洋のことが非常に論議になっておりますけれども、実は北太平洋をにらむこの基地は大変重要な基地だと思うのです。これについて米ソそれぞれこの基地の評価をしておるし、戦略的な位置づけをしておると思うわけです。その辺についての御見解が一つ。  二番目に、三沢に配備される米空軍F16の役目と申しますか、米国がこれを配備するねらい、それが二番目であります。  三番目は、日米防衛技術協力でありますけれども、一体アメリカのねらいは何であろうかということに関する問題であります。  世上、いままでは一方通行であったから、相互防衛協力協定もあることだし、これからはアメリカも要求しておる以上、相互にやるべきではないかという意見がありますが、これについて、私はそうではないのだという考えを持っておる一人であります。つまり、いままでは何もただで日本がもらっておるのではないんですね。これは昭和二十六年から五十六年まで、FMSあるいは一般武器の輸入も含めて九千九百億、一兆円足らずの買い物を日本はしておるのです。つまりアメリカから見れば日本は重大な武器の市場であったわけですね。何も日本だけがただでもらっているのではないんです。アメリカもそのために利益を得てきた、それが一つ。  それからアメリカは技術をやるやると言っておりますが、たとえばP3C、あるいはF15にしてもライセンス生産でありまして、最も重要な技術は、アメリカは全部ブラックボックスですよ。F15もP3Cも、日本でつくっているのは、極言すれば胴体だけですよ。大事な技術は全部ブラックボックスで明らかにしない。これが今度こういう相互協力になったら、アメリカはこのブラックボックスを開放するでしょうか。私は非常に重要な疑問がある。  もし今度中曽根さんのやってきたことがそのとおりになれば、今度は日本からの技術の方がばっばっばっばっと取られるんですね。それで一般的なアメリカのねらいは、私はわかりますよ。NATOでも兵器の合理化あるいは標準化あるいは共通化、これは作戦運用上同じ武器であった方がやりやすいことはわかり切っている。それでも余りうまくいっていませんね、私はもう時間がないから事実は言いませんけれども。それで、そういうことは一般的にわかりますし、アメリカが軍需産業の基盤が非常に弱まっている、あるいは兵器の技術労働者が少なくなっている。そういう一般的なことはさておいて、隠されたねらいがあると私は見ているのです。  それは一つは、けさも、きのう大内委員がやりまして新聞に大きく載っておりましたけれども、共同開発というのは昭和四十一年すでにあるのですよ。日米の技術の共同研究開発というのは、すでに取り決めがあるのです、いまさら言わないでも。それで問題は、ねらいは共同生産じゃないかと私は思うのです。この辺が一体どうなるのか。  それからもう一つは、日本はいろいろな先端技術が進んでおりますが、このMDA、日米相互防衛援助協定をかぶせますと、そういう先端技術と申しますか、国産化のつぶしの効果を持つ。アメリカは日本の国産化のつぶしの効果を持つ。その隠されたねらいが二番目です。  三番目は、MDAをかぶせれば普通の汎用技術でも兵器になるのですね、MDAをかぶせたために。そうすると、それは兵器ということで、今度はほかの国に輸出する場合に武器輸出三原則で縛られるのです、アメリカ以外のやつは。つまり日本がそういう先端技術をある程度MDAでかぶせて兵器ということにしてしまって外へ出さないようにする。特に先端技術の対ソ禁輸をねらっている。そういう隠されたねらいがあると思いますが、以上の点について御見解を承りたいと思います。
  99. 青木日出雄

    ○青木公述人 どうもいずれもむずかしい問題でありまして、はっきりお話しできるかどうかわからぬのですが、まず一番初めのペトロパブロフスクについてでありますが、ペトロパブロフスクは現在ソ連の対米の最先端基地であります。カムチャツカ半島にペトロパブロフスク以外に良港もございませんし、それから周辺を防護されている場所もございませんので、ほとんど唯一の対米戦略基地だというふうに見ていいのではないかと思うのであります。ただ同時に、ペトロパブロフスクは非常に欠陥がございまして、一つは陸上輸送路が全くございませんので、海上輸送だけに頼る。それも冬期間は海が相当凍結をいたしますし、大変なのであります。その間も向こう側から見ればアメリカとか日本とかの脅威を受ける地域であります。ですから逆に言えば、ソ連としてはシーレーンの防護に非常に問題がある場所だということになると思うのであります。  ただ、それでも使っておりますのは、先ほど申し上げましたようにここしかいい場所がないということ。それから現在配置をされております主力部隊はソ連海軍の弾道ミサイル潜水艦であります。従来のソ連海軍の弾道ミサイル潜水艦では、ペトロパブロフスク付近から撃たなければアメリカ本土まで到達しない、また到達するような距離まで前進いたしますと、それの防護ができないという問題があったわけでございます。ですから、距離から言いますと、ちょうどワシントンへ届くのに、従来のSSN6ミサイルでありますが、ペトロパブロフスクの港からすぐ出た場所付近の海底で遊よくをしていれば、いつでも到達ができる準備態勢にあるという場所だったわけです。  ただ、前へ出過ぎております基地というのは、軍事上は常に問題がございまして、非常に孤立しやすい。それからカムチャツカではペトロパブロフスクだけがソ連側にとって重要な戦略基地である。それから現在、たとえばバックファイアも一部進出しておるようでありますが、これからのバックファイアのレンジで考えても、空中給油を使わなければせいぜいカムチャツカ半島全区ぐらいしか行動半径に入らない。要するに、もし向こうから攻撃をされれば壊滅的な大きな損害を受けまして、こちらから攻撃を起こしても余り戦果が上がらない。前へ出過ぎた基地というのはそういう心配があるわけでございます。  そこで、現在やっておりますのは、これも御存じのSSN18とかSSNX20とか新型の潜水艦発射ミサイルを開発いたしましたので、これの射程が伸びておりますから、必ずしもペトロパブロフスクでなくてよろしい。今後の弾道ミサイル潜水艦が遊よくをする場所はオホーツク海になるであろうと思うのであります。ただ、オホーツク海になるという場合に、これまた良港がございませんで、現在港湾建設をやっているらしいのが旧新知島、シンシル島なのです。ここに一部基地を建設をしているらしいのと、それから従来からありますオホーツク海の北側にあるマガダンというやはり海軍基地がございます。ただ、これもまた海上輸送だけに頼るところでありますから、非常に欠陥はあるのですけれども、まあカムチャツカ半島の先まで行くよりは幾らかよかろう。ですから、これからのソ連の戦略体制というのはオホーツク海へ向けて下がってくる可能性は高いだろうと思うのです。  ところが、もう一つ問題がございまして、現在ソ連海軍航空隊のバックファイアが使っておりますのは、先ほど申し上げましたようにアレクセイエフスカヤであります。ところが、これからバックファイアを運用いたしましても、北太平洋全域をカバーできないわけであります。現在、これから主要な地域になると思われます、米ソ間で主要なつばぜり合いを演ずる地域になると思える北太平洋、この海域につきましては、ペトロパブロフスクとアレクセイエフスカヤと二つの基地を使ってバックファイアを運用できないと、航空力で制圧ができないということがあると思います。その問題がありますので、将来ともこの基地がソ連にとって戦略的に価値を下げることはあるまいと思います。特に地形の問題とか、それから現在あそこに配置をされております海軍歩兵、海兵隊でありますが、これがあの地域の警備に当たっておりますけれども、この海軍歩兵の配置の問題等を考えましても、そう簡単に移動させるわけにはいかない基地ではないかと思うのであります。  先ほど申し上げましたように、北太平洋がこれから米ソの戦略的に非常に重要な地域になりますので、アメリカ海軍も北太平洋に向けて現在進出をしているわけであります。こちらに新しく一個空母機動部隊も新編をいたしますし、それから攻撃型潜水艦、これは一つは弾道ミサイル潜水艦の基地がワシントン州になるということとも関連をいたしまして、攻撃型潜水艦等の配置もふえる。ということで、将来ともにこのあたりでのつばぜり合いは続くのでありますが、先ほど申し上げました地理的なあるいは補給路的な条件から言えば、アメリカに有利な地域になる、やはりソ連の力は下がっていくというふうに判断をしております。  次は、三沢に配置をされる米空軍のF16でありますが、これはアメリカ空軍からの発表がなければわからないのですが、地域的に申し上げますと、先ほども何度も申し上げましたアレクセイエフスカヤを攻撃をするとすれば、あそこが南限であります。三沢からならばこの基地を攻撃することはできますが、そのほかの場所、もっと南からでは、F16の航続力をもっては攻撃ができない。  特にこの地域が重要になりますのは、現在バックファイアがいるというだけではないのであります。ソビエツカヤガバンの港もずいぶん改良工事をされておりますし、樺太、千島に対する現在の補給港、フェリーを運航しております補給港であります。特にこれからは、第二シベリア鉄道が完成をいたしますと、恐らくウラジオストク以上の重要地点になるであろう。それでいて、わりあいにソ連側にすれば防護をされた地域であります。ただ、もちろんウラジオストク付近の飛行場群それから港湾が非常に良好でありますので、これにすぐ取ってかわるということはないと思いますが、これからのソ連軍の沿海州配置では、はっきりウラジオストク付近とソビエツカヤガバン付近に兵力は分かれると思います。そうしますと、この両者、それからもう一つは樺太のコルサコフでありますが、この主要な三基地をカバーをできる場所というのは三沢しかない。ですから、ソ連に対する攻撃力と考えれば、三沢に配置をするということが必要だったと思います。  もう一つは、先ほども申し上げましたソ連軍のバックファイアの行動であります。日本列島を横切るとか、日本のレーダー覆域内に入るとかという行動はほとんどいたしませんで、覆域外を東へ行って後、太平洋に南下するわけであります。これを阻止することに、先ほどもちょっと申し上げましたわが自衛隊でそれを阻止ができるかとなりますと、法規的にも相当問題が出てくるだろう。これを行えるとすれば、航続力からすれば、F15でもF16でもこれは可能であります。これをやるとすれば、最終的にはアメリカの飛行機という必要を感じているのではないかという気がするのであります。ただ、それを行いますとすると、レーダー覆域の外でありますから、当然レーダーピケットの飛行機が必要であります。これに使われるのが沖縄に現在おりますアメリカ空軍のE3Aなのか、それとも三沢基地に配置をする自衛隊のE2Cなのか、これは今後問題になる点ではないかと思います。  さらに、F16を三沢に配置するということが一部に伝えられておりますように、本当に極東の米空軍の戦力を実増することになるのかどうか、これも幾らか疑問がございます。現在極東でF16を配置しておりますのは韓国の群山基地だけであります。群山基地に三個飛行隊があるのですが、一九八五年から韓国空軍に対するF16の引き渡しが始まります。月に一機の非常に遅いペースではありますけれども、とにかく八五年からは韓国空軍にも引き渡しが始まる。そういたしますと、将来とも群山にアメリカ空軍のF16の配置が必要なのであるかどうかには幾らか疑問がございます。まして一九八八年にはソウル・オリンピックがございますので、それまでにアメリカ軍としては、朝鮮半島から何らかの兵力変更するのではないか、配置なり兵力量なりの移動があるのではないかというふうにも考えられるわけであります。  そう申しますのは、三沢基地に新たに配置をされるのであれば、アメリカ空軍ならば一個飛行隊単位で移動するのが通常であります。ところが、いままでの発表によりますと、三沢基地に一九八五年からF16を順次配置することになっております。ということは、直接韓国からの移動ということではないとは思いますけれども、北西太平洋のアメリカ軍戦力全部としては、それほど大きな変更はなしに新しい配置になっていくのではないかという疑いがございます。  最後に、防衛技術協力についてでありますが、先ほど先生おっしゃられましたように、実は現在のP3C、F15Jについての国産にもいろいろな制約がございます。  特に、たとえばF15で申し上げますと、エンジンのアフターバーナーの燃料管制装置、それから機体のスピードブレーキなどのものが技術供与が受けられなかった、日本のライセンス生産が認められなかったわけであります。このアフターバーナーの燃料管制装置というのは、何のことはございません、マイクロコンピューターであります。マイクロコンピューターの使用技術ということであります。それから、スピードブレーキは、これは複合材料であります。ゴルフのブラックシャフトをお思いいただければいいのでありますが、新しい、鉄よりも強い複合材料であります。鉄よりも強くて軽量なというような意味です。ですから、ここでアメリカ側から制約がつきました大きな理由は、民生技術、汎用技術、一般、全部を含めまして、やはり新技術の日本に対する転移を避けたのだろう、日本の競争力の強化をおそれたというふうに考えられます。逆に言いますと、まだ品目の細部は示されませんけれども、向こうから要求をされる技術、これは決して大砲の弾とか戦車とかを協力せいということではないと思うのであります。それらに使われる新しい技術――ですから技術協力になるわけであります。ということは、日本でいいますと、汎用に使われる、民生用に使われることで開発をされた、あるいはそれが転用をされた軍事技術であります。ですから、うっかりいたしますと、この技術協力が日本にとっては技術的な優位、わずかにある、個々の部門で持っております技術的優位を損じることになるかもしれないという可能性はございます。特に、先ほど楢崎先生おっしゃいましたように、それを軍事技術として認められますと、非常に制約がついてまいります。それを民生用として第三国に出すことができるかどうか、相当問題があると思うのであります。  また、アメリカ側にいたしますと、当初から共同生産という意図は持っていたようであります。共同生産なのか共同開発なのかというのは、日本側だけの論議でございまして、アメリカは初めからそれを一括していたように考えられますし、現在のアメリカの状況を見ますと、防衛生産、兵器生産についての国防省の発注がずいぶん低下をしております。将来とも従来のような豊富な開発費を支出をするのかどうかということに大分疑問があるわけであります。そうしますと、これができない場合に、日本との共同開発、共同研究によりまして日本の持っております技術力や資本を利用しようと考えているのではないかという気はいたしますし、いま非常に大きな格差がございますのは日本の生産能力でありますから、生産設備は日本の方が新しい場合が多うございますので、これを利用しての共同生産ということは、向こうとすれば当然目標に考えると思うのであります。  それからここで、民生に利用されないための何かの保証とか、あるいは武器輸出三原則の問題から第三国に流出をしないための何かの保証ということが必要になるわけでありますが、ただアメリカの場合に相当問題がございますのは、アメリカもNATOの一員でございますので、NATOには武器の共通化原則がございます。ですから、NATOで使っている兵器はなるべくアメリカも使い、アメリカも使っている兵器はNATO諸国もなるべく使うわけであります。ですから、これについては共通化の原則がございますので、NATO諸国に流れるのを防ぐことができるかどうか。ところが、紛争当事国となりますと、先ほど申し上げた昨年のフォークランド紛争のイギリスも紛争当事国であります。一体、それの保証ができるのだろうか。次は、NATO諸国以外の場所で、アメリカが武器供与をやっている国があります。これは武器供与についてはファンドがございまして、それを議会の承認があってファンドから落とすわけであります。ですから、買い上げはアメリカ政府の買い上げということになります。そうしますと、アメリカ政府が買い上げた、これは武器として問題はないわけでありますが、それがどこの国へ行くかということは全く保証がなくなってしまう。一体そのあたりをどう規制するかということに非常に問題があると思うのであります。  以上のようなことであります。
  100. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 ありがとうございました。
  101. 久野忠治

    久野委員長 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  明日は、本日に引き続き午前十時より公聴会を開会いたします。  本日は、これにて散会いたします。     午後四時十四分散会