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1983-03-25 第98回国会 衆議院 議院運営委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年三月二十五日(金曜日)     午前十時三分開議  出席委員    委員長 山村新治郎君    理事 瓦   力君 理事 山崎  拓君    理事 北川 石松君 理事 鹿野 道彦君    理事 小里 貞利君 理事 広瀬 秀吉君    理事 渡辺 三郎君 理事 山田 太郎君    理事 西田 八郎君       小澤  潔君    狩野 明男君       北口  博君    北村 義和君       古賀  誠君    桜井  新君       野上  徹君    平沼 赳夫君       保利 耕輔君    井上 普方君       上坂  昇君    清水  勇君       中村  茂君    渡部 行雄君       東中 光雄君    甘利  正君  委員外出席者         議     長 福田  一君         副  議  長 岡田 春夫君         事 務 総 長 弥富啓之助君         参  考  人         (弁 護 士)         (元最高裁判所         判事)     松本 正雄君         参  考  人        (立正大学教授) 星野安三郎君     ───────────── 委員の異動 三月二十五日  辞任         補欠選任   近藤 元次君     小澤  潔君   高橋 辰夫君     平沼 赳夫君   川本 敏美君     井上 普方君 同日  辞任         補欠選任   小澤  潔君     近藤 元次君   平沼 赳夫君     高橋 辰夫君   井上 普方君     中村  茂君 同日  辞任         補欠選任   中村  茂君     上坂  昇君 同日  辞任         補欠選任   上坂  昇君     川本 敏美君     ───────────── 本日の会議に付した案件  議員田中角榮君の議員辞職勧告に関する決議案田邊誠君外九名提出決議第三号)  公共企業体等労働委員会委員任命につき同意を求めるの件  本日の本会議議事等に関する件      ────◇─────
  2. 山村新治郎

    山村委員長 これより会議を開きます。  田邊誠君外九名提出議員田中角榮君の議員辞職勧告に関する決議案議題とし、審査を進めます。  本日は、参考人として、弁護士松本正雄君及び立正大学教授星野安三郎君のお二人に御出席をいただいております。  この際、両参考人に一言ごあいさつ申し上げます。  両参考人には、本日は御多用中のところ当委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、特に深い御見識をお持ちのお二人のそれぞれのお立場から忌憚のない御意見を承り、もって当委員会審査参考にいたしたいと存じます。何とぞ、よろしくお願い申し上げます。  次に、議事順序について申し上げますが、初めに、松本参考人星野参考人順序で御意見をお一人十五分程度に取りまとめてお聞かせいただき、次に、委員質疑に対してお答えいただきたいと存じます。  それでは、まず松本参考人からお願いいたします。
  3. 松本正雄

    松本参考人 それでは申し上げます。  野党各党から提出せられております議員田中角榮君の議員辞職勧告に関する決議案に対する意見を述べよとのことでありますから、これに対する意見を申し上げます。  まず、結論から先に申し上げますと、私は、このような辞職勧告決議案提出せられることには反対であります。絶対に反対であります。  その理由を申し上げます。  提案理由の要旨は、田中議員受託収賄罪により起訴され、本年一月二十六日、懲役五年、追徴金五億円の論告求刑を受けた。この事件は、田中議員総理要職にあった時期の汚職責任を問われているもので、国民に与えた衝撃は甚大であり、議会の名誉と権威を著しく傷つけるとともに、国民政治不信を増大させたから、その政治的道義的責任を明らかにするために、議員の職を辞すべきことを勧告するというのであります。  田中総理が検察庁で取り調べを受け、逮捕監禁せられ、本年一月に検事から論告求刑せられたことは公知の事実で、間違いはありませんが、人は、何人といえども、検事から起訴せられ、その結果論告求刑があったからといっても、それだけで犯罪人扱いされるものではありません。  近代法は、人は起訴されても、有罪判決があるまでは無罪推定を受ける権利を有することを原理原則としております。これは、一九四八年の国際連合総会において決議せられた世界人権宣言の十一条一項において定めているところであります。すなわち、同条一項には、「犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪推定される権利を有する。」と規定されております。そして、英米等世界文明国はもとより、この原則によっておりますわが国においても、当然にこの原理原則が採用せられていることは、法律家である者はほとんど常識として心得ていることであります。  したがって、田中総理も、起訴せられ、検事論告求刑があっても、判決が確定するまでは、法的には無罪推定を受ける権利があるのであります。現在は第一審の判決すらいまだない状態でありますから、法律的には、田中議員無罪推定を受ける権利があり、無罪立場にあります。  このように無罪推定を受けている人に対して、犯罪を犯したかのごとき取り扱いをして、辞職勧告をするがごときことは、はなはだしい人権侵害であります。このような決議案を出すこと自体、法治国の国会にあるまじき無謀な行為であると私は考えております。私は、このような点から、本件決議案は断じて提出すべきではないのではないかと考えております。  なお、引き続いて国会議員身分について申し上げたいと思います。この点は、私がここで申し上げるのはそれこそ釈迦に説法で、議員各位の方々が十分心得ておられることでありますから、ちょうちょう述べることはいたしませんが、国会議員身分は、憲法国会法等で厳格な規定を設けられており、その身分保障は確固たるものがあります。それは選挙によって選ばれてその身分を取得しておられるので、これは議会制民主制度根幹をなすもので、国会議員に対する辞職勧告決議などは、慎重の上にも慎重に考慮すべきことであります。本件勧告でございますが、勧告といっても、国会決議ともなれば、当該議員にとっては実質的には強制力を持つものと同様の効果があるものと考えるからであります。  議員辞職を迫ることは、ある意味では刑罰以上に厳しい制裁と考えられます。なぜならば、今後判決で一審か二審か、あるいは最高裁判所等において無罪ということになりましたならば、議員辞職というような制裁を受けたことに対する補償は一体だれが負うべきなのでしょうか。そういう点に考慮をいたせば、会社等でたとえば社員が解雇せられ、解雇無効の訴えが起きて、その解雇は無効だという判決があった場合に、そういう判決を受けた人はまたもとの職場に戻ることができるのですが、国会議員にはそういうことはできません。そういう償いは一体だれがするのでしょうか。こういう点において大きな人権問題だろう、こう考えております。  皆さん承知のように、「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」、これは憲法基本的人権である罪刑法定主義をうたったものであります。御承知と思いますが、憲法三十一条は、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」ということを言っております。これは近代的法治国家原則原理であることは皆さん篤と御承知のことでございます。こういう点から申しましても、こういう辞職勧告決議案というものは、憲法上も非常に疑義があるんじゃないかと私は考えております。  なお、時間があるようですから若干申し上げますと、本決議案田中議員政治的道義的責任を問題にしておられるようであります。私はロッキード事件については何の関係もありませんし、詳しいことはほとんど知りませんが、新聞、雑誌等の報ずるところによりますと、田中議員起訴事実をほとんど否認しておられるようであります。収賄の事実を否認し、職務権限についても争っておられるようであります。したがって、何が道義的責任なのか、何が政治的責任なのか、私には、この決議案だけを見たのでははっきりいたしません。もし田中議員が主張しておられるように、検事起訴事実が間違っているとか虚構であったとすれば、政治的責任とか道義的責任とかの問題は発生する余地がないと考えられます。  さらにまた、元来政治的責任とか道義的責任とかの問題ははなはだむずかしい問題でありまして、人はその社会生活においてさまざまな価値観倫理観を持っておりますから、一つの基準というようなものがないのであります。結局は当該個人が判断すべき問題だと考えております。政党がこういう点について個人圧力をかけてどうこうするということはいかがなものでありましょうか。  以上のような理由から、この決議案の御提出には反対でございます。  以上申し上げます。
  4. 山村新治郎

    山村委員長 ありがとうございました。  次に、星野参考人にお願いいたします。
  5. 星野安三郎

    星野参考人 御指名によりまして、議題であります田中角榮議員に対する辞職勧告決議案につきまして、憲法研究者立場から、また主権者国民立場から意見を申し上げたいと思います。  結論と申しますか、基本的な立場でございますが、日本国憲法前文に示された人類普遍原理としての国民主権原理、また政治道徳の法則は普遍的であるというような原理、その具体化としての、たとえば憲法十五条に示された公務員選定罷免権国民固有権利である、あるいは四十一条の国会国権最高機関である、あるいは四十三条の全国民代表する選挙された議員、そういう立場からこの決議案に基本的に賛成するものでございます。  このような基本的な立場から、以下四点につきまして私の意見を申し上げたいと思います。  第一の点は、この決議案法的性質の問題でございます。  これは形式的に見てあくまで勧告にすぎず、何ら法的強制力は持たないということでございます。また内容的に見ましても、田中議員刑事責任を追及するのではなくて、国民主権原理に基づく政治的道義的責任を問うものであり、しかも同僚として、その倫理観に刺激を与えるという性質のものだろうと思います。したがいまして、三権分立で、この国会決議案は、たとえば司法権圧力をかけるとか、司法権の独立を侵すとかいうものとは全く関係のないことだというふうに思うわけでございます。  ところで、刑事的責任政治的責任について、実は田中議員自身が明確に述べておられると思います。これは第一回の公判における被告人陳述の際に次のように述べておられます。   起訴事実の有無にかかわらず、いやしくも総理大臣在職中の汚職の容疑で逮捕、拘禁せられ、しかも起訴に至ったということは、それだけで総理大臣の栄誉を汚し、日本国の名誉を損なったこととなり、万死に値するものと考えました。 このように述べております。「起訴事実の有無にかかわらず、」という、これは要するに政治的責任の問題でございますが、その後政治的責任について「万死に値する」と述べている。  さらに、去る八三年一月二十六日に行われました第一審における検察官論告求刑について申します。  そこでは、この事件としては最高刑の五年の懲役、しかも戦後の汚職史上最も極刑を論告しているわけでございますが、情状論の中では、本件は、国の行政最高責任者である内閣総理大臣に係る事件であること、賄賂の額が現金五億円に上る巨額であること、国際的な犯罪であること、その犯情は悪質であること、証拠隠滅工作を行いとか、反省の色は全く見られないなどと厳しく指摘して、刑事責任について次のように述べております。   右の如き犯行の態様及び犯情をみると、田中が永年にわたり国政に参画し、その間、内閣総理大臣をはじめ、大蔵大臣通商産業大臣等数々の要職を歴任し、国家社会のため少なからぬ功績を挙げたとしても、その刑事責任は極めて重かつ大であるといわなければならない。 というふうに述べております。  さらに重要と思われますのは、田中議員政治的道義的責任について次のように指摘している点でございます。   しかして、国政の頂点に立つ者にかかる本件の如き行為は、職務の公正と廉潔を旨とすべき公務員一般の綱紀のみならず、国民全体の道義の維持に深刻な影響を及ぼし、わが国政治行政に対する国民の信頼を著しく低下させるものであり、この種行為に対する厳正な処断を欠くときは、ひいては、民主政治根幹を揺がす虞があるといっても過言ではない。 このように述べております。  もちろんこの論告求刑は、刑事事件としては第一審の論告求刑にすぎませんし、まだ一審の判決も出ておりません。さらに最高裁で無罪という判決が出るかもしれません。それはわかりませんけれども、仮に出たことにおきまして刑事的責任は一切ないとしましても、先ほど田中議員自身が述べられたことや、検察官が指摘された政治的道義的責任というものは免れるものでは絶対ないと私は考えるわけでございます。  ましてや、いわばごく下級公務員汚職というようなことでなしに、いやしくも一国の総理大臣在職中の事件につきまして、検察官逮捕、拘禁したり起訴するからにはそれだけの——これは国内問題だけではなくて、国際問題でございます。それだけの十分な自信がなければ、軽々にしなかったはずだと思います。またそれだからこそ、田中議員が一審の陳述でそのように述べたのだろうと私は思うわけでございます。  このことを憲法的に申しますと、先ほど申し上げましたような、前文に示された普遍原理に違反するのではないか。すなわち国民主権主義とは反対に、主権者国民の厳粛な信託を裏切ったこと、あるいは国民代表としての資格を欠いている。またその福利国民が享受する、こう書いてありますが、それと反対に、どうも田中さん自身福利を享受したということにおきまして、まさに憲法前文に示された「そもそも國政は、國民の嚴粛な信託によるものであって、」以下の原理に真っ向から違反する、それを否定するものだ。したがいまして、このような道義的政治的責任を痛感されまして、ちょうどこの問題の相手であるニクソン大統領は疑いで辞職されて、政界から引退をされましたが、それと同じように田中さん自身議員辞職し、政界から引退すべきが当然だったのではないかというふうに私は思います。  さらに田中さんが総理大臣になったのは、自由民主党総裁公選でなったわけでございますから、政権政党である自由民主党党員議員諸公が、同僚としてそのような総裁を選んで内閣総理大臣に指名したという責任を感じて、同僚として辞職勧告したり、あるいは除名というようなことをやるべきではなかったかと思いますし、そういうことは、当然自由民主党党員議員さんにも支持されたのではないかというふうに私は思うわけでございます。  次に、第二の点でございます。私は、いま申しましたように、国民主権原理からこの決議案に基本的に賛成すると申し上げましたが、それと全く逆に、国民主権主義原理に違反するのではないかという御意見があることでございます。  これは、いわゆるみそぎ論とか洗礼論、そういうこともあったが——数次の選挙によって、選挙民から洗礼、みそぎを受けて当選しているではないかということと関係するわけでございますが、田中議員主権者である選挙民から選挙によって選出された以上、選挙以外の方法によって議席を失わせるようなことは慎重でなければならぬ、これは法的拘束力はないけれども、実質的な影響力を与えるということにおいて問題だ、こういう消極的な御意見でございます。  しかし、このような御意見は、いわゆる国民代表制理論、すなわち国民代表というのは、命令委任関係ではないという理論、あるいはそれの具体化としての憲法四十三条に規定する「全國民代表する選擧された議員」についての誤った認識と解釈によるものと思われます。  御承知のように、「全國民代表する」という規定は、ある候補者に投票した特定の選挙区の選挙民意思代表するという点で命令委任ではございません。それと全く逆に、選出された議員は、個別具体的な選挙民利害意見に拘束されることなく国民全体の奉仕者憲法十五条に言う、公務員国民全体の奉仕者として全国民代表するものでなければならないということでございます。  命令委任とか国民代表理論というのは、もう古典的な理論でございますし、いまさらくどくど申し上げる必要はないと思いますけれども、仮に命令委任ではないという意見——命令委任だとした場合にさまざまな矛盾が出てくるわけでございます。たとえばA候補に投票し、A候補が当選したとしても、その投票した個々の選挙民は、あるいは私的な、あるいは地域的な利害を期待して投票したかもしれません。そうでございますから、投票した人個々人の間に意見利害の対立だってずいぶんあるだろうと思います。それじゃA候補に投票しなかった者は代表されないのか、あるいは棄権した者についてはどうなのかというような問題、さらには選挙権資格について、古くは財産とか教育とか性別などによる制限がございました。今日でも年齢制限があるのでございますから、そうしたならば、命令委任ということになると、その人に投票した者だけしか代表しないということになる、あるいは一切代表されないということになる。それでは困るので、全国民代表する、要するに命令委任ではないという学説が出てきたのだろうと思います。  さらに、議会政治の問題で、議員資格とか責任というようなことで、議員は以前は報酬を当てにしない名誉職とされておりました。したがって、政治家というのは井戸塀、要するに社会公共のために、報酬を期待するどころか私財をなげうって奔走して井戸と塀しか残らなくなったということで、これは名誉職と考えられておった。あるいは選挙権について、たとえば有産者に限ったのは、財産や一定の税金を支出する者だけが公共心や愛国心を持つのであって、そのような財産税金を払わない者は結局は私的利益で動くものだから、そういう者には選挙権を与えないという考え方、あるいは選挙権性質につきまして、一面権利だけれども、それは国民全体の利益公共利益に奉仕することであって、一面公務であり義務だという考え方、あるいはまた、日本の歴史において、地方政治においては公民住民を分けて、二十五歳以上の男子で、一戸を構え、直接国税を二円以上納める者を公民として、それに選挙権、被選挙権を与え、住民には一切選挙権を与えなかった、しかもその理由として、われわれは無産無知の小民が地方政治に口を出すことを欲しないというような市制町村制理由の問題とか、あるいは戦後では、御承知のように参議院の全国区制の問題、その中から選出された議員というのは、その選出をした選挙民の個々的な利害意思代表するのではなくて全国民代表するということでございます。したがいまして、先ほどのような洗礼論というのは根拠がないだろうと思います。  その点で一つ気になっておりますのは、昨年の八月でしたか、自由民主党憲法調査会中間報告を出されましたが、四十三条の規定から「全國民代表する」というのを削除するというのが出されていることは、私は大変気になるわけでございます。どうも田中さんを擁護する意思があったのではないか。これはげすの勘ぐりでございますが、要するに「全國民代表する」ということは、単なる名目ではなしに、実は国民代表制議会民主制の本質にかかわる問題だということで申し上げます。  さらに第三は、第二と関係するわけでございますが、この決議案は、議員議席を失わせる際の資格争訟(五十五条)あるいは院内の秩序を乱した議員懲戒除名(五十八条)などの議員身分保障に違反するのではないか、それに抵触するのではないかという意見についてでございます。  実は、これらの規定というのは、議員の不逮捕特権を定めた五十条とか、議員の発言、表決の無責任を定めた五十一条など、院外からする議員身分保障とは憲法上の性質を異にしております。むしろこれは議院自律権規定と言ってよいと思います。言いかえますと、特権は義務づける、ノーブレスオブリージという言葉がございますように、議員はさまざまな特権にあぐらをかいて甘んじてはならず、全国民代表者としての責任を全うするため、自戒自粛するための議院自律権と言っていいと思う。相互に懲戒とか除名とか、資格争訟の問題はそういうことだと思います。  大学で自治を認められた私には、同僚任免権——自身懲戒委員会懲戒したことがございます。あるいは弁護士会がやはり仲間を懲戒して除名というような、そういうことと本質的に同じだと思います。したがいまして、この決議案身分保障に違反するのでは毫もないと思います。むしろ憲法十五条に定める公務員選定罷免権国民固有権利であるとしたそのような国民主権を、今度の議会がいわば代行するものと言ってよろしいのではないかというふうに思うわけでございます。  次は第四の点でございますが、この決議案を採択されますことの必要性緊急性についてでございます。  検察官論告求刑後の世論調査によりますと、田中議員辞職を要求する者は七五%、自由民主党支持者の六九%までがそのことを支持しておられます。また週刊誌などによりますと、小金井市とかその他の地方議会田中議員辞職勧告を支持する決議がなされてきている状況がございます。さらに愛国党など右翼の人たちもどうも辞職を要求しているようでございますし、また腐敗と汚職政治を打倒する自衛隊のクーデター計画など、こういうことも問題になっている状況でございます。  このような状況は、政権を担当する自由民主党中曽根内閣政治倫理確立に対する消極的な態度、あるいはロッキード汚職を覆い隠すような文部省の教科書検定の問題、あるいはまた田中議員が知事二十七人を支配しているという週刊誌の指摘など、そういうことに対する国民のいら立ちと反発を示すものと言ってよいのではないかと私は思います。そして田中議員選挙区においても選挙ごと支持票が少しずつ減少の傾向をたどっているのを見ますと、これはそのような辞職されることを当然とする世論の反映と見てよいのではないかというふうに思います。  いずれにいたしましても、このような決議案を支持する国民世論は高まっていると思われます。私たちは、民の声は神の声として、この決議案を速やかに採択されるよう——自由民主党においても支持され得るものだというふうに私は思います。さらに政治倫理確立のために、国権最高機関としての国会国政調査権を活用したり新しい立法を制定されて、本当に国民的な要望である政治倫理確立の実を示していただければありがたいと思います。  私の意見を終わります。
  6. 山村新治郎

    山村委員長 ありがとうございました。  以上で参考人からの御意見の開陳は終わりました。     ─────────────
  7. 山村新治郎

    山村委員長 次に、質疑の申し出がありますので、順次これを許します。  なお、本日は時間も限られておりますので、質疑時間につきましては、理事会での申し合わせのとおり御協力をお願いいたします。  広瀬秀吉君。
  8. 広瀬秀吉

    広瀬委員 きょうは、松本参考人星野参考人、どうもありがとうございます。  私は、この決議案提出した提出者の一人であります。そういう立場松本参考人にちょっと御質問をしたいのであります。  私どもがこの決議案を出しました理由は、先ほど松本先生も一部読み上げられたりいたしまして、よく御存じかと思うのでありますが、まさにこの問題についての政治的道義的責任国民の前に明らかにさせたい、こういうところにねらいがあるわけであります。先生が、主として刑事法上の有罪が証明されるまで、確定判決有罪ということにならない間は無罪推定を受けるのだと言われる。そういうことも私ども、刑事法上の原則として、また被告人の人権の一部として承知をしないわけではありません。しかし、私どもの田中角榮議員に対する辞職勧告決議というのは、そういう刑事法上の立場、あるいはまた一審段階ではないか、しかもその一審の中で論告求刑があった段階である、そういうことにかかわりなく、先ほど星野先生の御意見にもありましたように、この提案の趣旨にも明確にしておきましたように、国民主権原理といいますか、政治家、特に国会議員は、国民の厳粛なる信託によって政治を行うものである、そして全身全霊を挙げて国政に尽瘁をする、その福利国民が享受をする、こういう国民主権原理に基づいて、きわめて重大な責務を国民の前に負っている。したがって、その厳粛なる負託にこたえていく姿勢が必要であるにもかかわらず、今回、先ほどの星野先生の言葉によれば、その福利を自分で受けてしまった、これは大変皮肉な、痛烈な言葉でありましたけれども、そういうことが果たして政治家として許され得るものであるかどうか。  法律上、あるいは刑法上の論理として、有罪判決が確定するまでは無罪推定を受ける、これが人権であるということでありますが、法律上の権利だとかそういうもの以前に、私どもはやはり国民主権原理という、憲法前文でうたっているその原点に立って、政治家は、「李下に冠を正さず」という古来の言葉もあるように、おのずからそういう立場でおるべきである、身を慎むべきである。  しかるにもかかわらず、総理大臣としての現職時代に、その職務権限を行使をして賄賂を受け取ったということ。そういう疑いを持たれただけで、田中さん自身、この公判延の冒頭陳述の中でも、この事実があろうとなかろうと、一国の総理大臣であった者がそういうことで逮捕、拘禁をされることは、まさに万死に値する、罪とは言いませんでしたね、その辺があれかもしれませんが、万死に値するということであったならば、逮捕された段階あるいは起訴された段階において辞職されることが、国民の厳粛なる信託を受けて国政に携わる者として当然であったのではないかということであって、一定の裁判上の段階において三審制を無視しているとかなんとか、そういう刑事事件とは全く別個にわれわれは物を考えたいということであります。  特にロッキード問題が発生した場合に、長く続き過ぎた自民党政権の中で、金権腐敗の構造をもはやこれ以上放置してはならないという国民世論の大変な高まりを受けて、国会では特別に、この事件の真相を解明すべきである、それと同時に、その徹底的な真相解明を通じて、その政治的道義的責任を明らかにすべきであるということをみずから決議をしたわけであります。  そしてまた、与野党の、その件での対立をめぐって数十日のブランクが生じ、議長裁定、党首会談というようなこともあって、国会国権最高機関であるだけに、そういう国民の厳粛な信託を受けているわれわれであるからというので、どこかからの強制力議員の職を辞するというようなことは、法律上定められた一定のもの以外はほとんどないわけでありますが、それにもかかわらず、われわれはどうしてもそういう問題とは別に、政治的道義的責任国民の前に明らかにする、こういう立場田中議員自身が自発的に辞職されてしかるべし、こう思っておりましたけれども、一向にその気配もないし、反省も全くない。こういうことで、議員辞職国会勧告する。  これはやはり国会自身最高機関としてみずからを清くする以外にやりようがないことである。そういう立場で、私どもは国会の自浄作用の一環として、そういうことは当然許さるべきことであるし、また、なすべきことである、こう考えているのですが、いかがですか。
  9. 松本正雄

    松本参考人 お答え申し上げます。  ただいまお話しになりました国会議員政治的倫理の点、全く同感でございます。  ただ、先ほど私が申し上げたのは、主として法的見地からの話でございまして、私はもう五十年前に弁護士を登録して以来ずっと弁護士生活をやり、その間しばらく裁判官をやったこともございますが、やはり基本的人権というものが頭にしみついておりますので、私が申し上げたことはつい基本的人権に触れることが多かったのでございますが、いまお話しのように、政治的道義的責任についてどう対処するか、これも先ほどちょっと触れましたように、その人個人個人の良心の問題であり、御自身がお決めになることで、こういうように決議として国会議員に突きつけることに、私は反対なのでございます。
  10. 山村新治郎

    山村委員長 渡辺三郎君。
  11. 渡辺三郎

    ○渡辺(三)委員 日本社会党の渡辺でございます。  本日は、両先生、お忙しい中をありがとうございました。  関連して簡潔に御質問申し上げたいと思いますが、先ほど来両先生から、今回の問題について主として法律的な立場からいろいろ参考の御意見を承りました。いま同僚広瀬委員も言いましたように、野党がこぞってこの辞職勧告決議案というものを提出した本来の趣旨は、あくまでも、このままでおっては、日本民主政治国民全体の大変な不信を買ってしまい、まさに民主政治根幹を揺るがしてしまうのではないかという反省の上に立って、私どもはこの決議案提出することにいたしたわけであります。  いまもお話がありましたように、昭和五十一年の二月二十三日、衆議院の本会議で、第七十七国会でありますけれども、これに対しての院の決議を行っております。これはまさに私がいま申し上げましたように、このまま推移するならば日本民主政治というものは大変な危機に陥ってしまうのではないか、したがって、国会自体もこれを徹底的に、迅速に究明をする努力をしなければならない、こういう異例の特別の決議が行われたと思っておるわけであります。その上に立って、今日まで国会自体が自浄能力を持つように努力をしてまいりました。しかし残念ながら、今日まで長い期間たちましたけれども、御本人の反省がきわめて不十分であるというふうなことから、国民全体のこれに対する批判がますます高まってきた、こういうふうに考えておるわけであります。  したがって、それぞれ法律的な専門的な立場から非常に参考になる御意見をいま承ったわけでありますけれども、法律的な観点でいえば、こういう問題、ああいう問題と、いろいろな疑点がおありかもしれません。しかし、問題の本質は、先ほど来いろいろ言われましたように、国権最高機関たる国会議員としての、一般の国民には与えられておらない当然の権利といいますか、そういうものがございますだけに、なおさらこの問題については、国会自身国民信託にこたえるための措置をすることは、私は当然の責任だというふうに考えておるわけでありまして、時間がございませんから簡潔に締めますけれども、このような私どもの基本的な考え方についての両先生の御見解を、それぞれ松本先生、それから星野先生から承って、私の質問を終わりたいと思います。
  12. 松本正雄

    松本参考人 御質問の趣旨がちょっとはっきりいたしませんが、どう答えたらいいでしょうか……。
  13. 渡辺三郎

    ○渡辺(三)委員 本日の参考人から承りました意見は、法律的な観点でいろいろこの問題についての御見解を賜りました。しかし、私どもが出しておりますこの辞職勧告決議案というものは、先ほど来私申し上げましたように、国権最高機関国会議員であり、かつ、内閣の最高責任者である、重大な責任を持っておる総理大臣であった人の在職中に起きた事件であります。したがって、これに対して国民から、国会議員がこれでいいのか、内閣総理大臣がこういうことでいいのか、こういう意味での批判がほうはいとして起こって、それに対して国会自体が第七十七国会で、この問題についての真相究明を早急にやらなければならない、責任を明らかにしなければならないという決議もいたしたわけであります。それに従って今日まで、国会もそれなりの調査を行い、活動を行ってまいりました。こういう問題について先生は一体どういう考え方をお持ちですか、こういうふうにお伺いしているわけです。
  14. 松本正雄

    松本参考人 お答えします。  結局問題は、起訴せられているような事実があるのかどうかということが前提になると思いますが、それがはっきりしないでは、こういうような決議案の御提出はいかがか、こう思うのです。  いま事実関係を究明したとおっしゃいましたけれども、事実関係の究明ではなかろうと思うのです。御承知のように、事実関係の究明、捜査をやるのは警察と検察庁で、ほかのものも調査することは自由でしょうけれども、法的機関としては警察と検察庁です。事実関係の何の究明か、辞任について本人にいろいろ言われたのか、しかし本人が辞任されないのでこういうふうになったのだがどうかというようなことかと思いますが、さっきも言いましたように、辞任はあくまで本人の良心の問題で、ほかから押しつけるべき問題じゃない、私はこう考えております。  お答えになりますかどうかはっきりしませんけれども……。(渡辺(三)委員「先生の見解をお聞きすればよろしいのですから」と呼ぶ)
  15. 星野安三郎

    星野参考人 先ほど申し上げましたように、この決議案が刑事被告人の刑事的責任を追及する、そういう責任の問題であるならば、いま松本先生がるる述べましたように、有罪判決があるまでは無罪推定を受けるということで、刑事被告人の人権は絶対に保障されなければならないのでございますが、問題は、今度は法的といっても、憲法のたとえば前文人類普遍原理とか政治道徳の法則は普遍的であるとか、そういった国民主権主義とか民主主義とかいうのは、一定の政治倫理の上に成り立っていると思うのです。もちろん個々の倫理観というのは人によって違いますけれども、このような一定の政治哲学、政治倫理あるいは民主主義の倫理というものを、憲法とかさまざまの法律というものは前提にしているわけで、そこから責任があるだろうということでございますね。  しかもまた、いまこの刑事的責任、そういう容疑があったのかどうかということでございますが、先ほど申しましたように、きわめて小さな権限しかない公務員汚職というのではなしに、内閣総理大臣在任中の容疑でございますね。しかも現在の内閣総理大臣は、明治憲法下の天皇に匹敵するほどの絶大な権限を持っておるわけであります。また御承知のように、たとえば法務大臣を通じて指揮権を発動して、検察のそういう捜査だってやめさせ得るだけの、そして田中さんは現在でも内外ともにやみ将軍と言われ、田中曽根内閣と言われるような、それだけの実力を持っておる方でございます。それをいわばその末端機関の検察が本当に逮捕、拘禁したり起訴するからには、それこそ冤罪になるようないいかげんなことは絶対にあり得ないだろう。これはまさに内外の、とりわけ日本国民とか日本国家の名誉を失墜する、いわば外国にも影響を与える事件でございます。私は捜査官でございませんし、検察官でございませんからわかりませんけれども、私がたとえば論告求刑、これまでのあれを読んだ限りにおいては、それはあったろうとしか推定できないわけでございます。  要するに、そういうことの政治的責任道義的責任国民主権主義立場から同僚として追及するということであります。しかも拝見しますと、賛成されている方は二百人以上でございますね。そしてそれぞれの政党は、政策、意見についてはさまざまな対立がありながら、事この問題については野党のほとんど全員が一致したということは、それだけの必要性を感じているからではないだろうかと私は思うのです。  そしてまた、緊急性について申し上げましたが、きのうの毎日新聞の「記者の目」として、「スッキリせぬ国会審議」「注目の田中辞職勧告決議案」というのがありました。これが正しいか正しくないかは別として、どうも党利党略の立場から、野党も与党もいいかげんになっているのではないか、もっとすっきりしてほしいというような要望がございますが、そういう点からすると、与野党一致してこれは決議できるものではないか。そうすることによって初めて政治倫理確立について、また国民の厳粛な信託による国政に信頼と期待を回復することができるのだろうというふうに私は思うわけでございます。
  16. 山村新治郎

    山村委員長 山崎拓君。
  17. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 両参考人から大変貴重な御意見を承りまして、大変勉強させていただいたわけでございます。  そこで御質問を申し上げますが、実は本国会の再開劈頭におきまして各党の代表質問がございましたが、その中で某政党から、このような代表質問の中での陳述があったわけでございます。読み上げますと、「元総理田中角榮君を中心とするこの事件で、わが党は、党独自の調査を系統的にやってまいりました。そして、田中君がアメリカのロッキード社から巨額の資金を受け取ったなどの事実とその政治犯罪性は、裁判の結果を待つまでもなく明白である」重ねて読み上げますと、「裁判の結果を待つまでもなく明白であることを指摘してまいりました。一昨日の検察側が行った論告求刑は、わが党の調査と主張の正しさを裏づけたものである」という陳述でございます。  これは日ごろいわれなき検察ファッショについて常に論難をしている立場政党の御発言でございまして、大変驚愕をもって聞いたのでございますが、もし今回のこの決議案が、このような考え方に基づいて提出されたものであるといたしますと、これは考え方によりましては、院が被告人の断罪を行うということ、そういう感もなきにしもあらず、こういうことになるわけでございまして、三権分立や司法権の独立を侵すことになるのではないか、このように懸念するわけでございます。この点につきまして、まず松本参考人の御意見を承りたいと存じます。
  18. 松本正雄

    松本参考人 お答えいたします。  ただいまの質問を兼ねた御意見とも承れますが、御意見に関する部分は全面的に賛成でございます。  ただいまお話しのように、どこの政党か知りませんが、裁判の結果を待つまでもなく云々と、まるで予断をされるようなお言葉は、法治国家の国民として慎むべきことではないかと思います。
  19. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 続いて星野参考人にお伺いいたしますが、星野参考人の御意見の中で、今回の田中議員逮捕につきましては、元総理逮捕せられたのでございますから、検察側が十分な自信があればこそ逮捕に踏み切ったのだということを二回にわたりまして述べられたわけでございます。そうなりますと、星野参考人の御意見も、いまの私が御紹介申し上げました政党と全く同じ立場に立って御意見を述べられたのではないか。裁判の結果を待つまでもなく明白である、こういう考え方を述べられた、このように思いますが、いかがですか。(発言する者あり)
  20. 山村新治郎

    山村委員長 御静粛に願います。
  21. 星野安三郎

    星野参考人 先ほど最初に申し上げましたように、私は刑事事件、しかも収賄というような事件については、刑事訴訟法やさまざまな点で、最高裁の最終判決無罪という判決があるいは下るかもしれない、したがって刑事的責任はなくなったとしても、政治的責任は免れないということを申したわけでございまして、私は確実にそれをやった、したがって有罪にすべきであるというようなことを考えたこともございませんし、申したわけではございません。
  22. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 星野参考人が引用されたのでございますが、求刑公判での情状、これは起訴事実が真実であればという前提があるのではないか。起訴事実が真実でなければ、たとえば政治的責任あるいは道義的責任というのはない。逆に言えばそういう前提に立っているのではないか。起訴事実が真実であるがゆえにそういう政治的責任刑事的責任が発生する、こういう立場に立っての情状論ではないかと思うのですが、いかがでございますか。
  23. 星野安三郎

    星野参考人 ですから、その真実というのが、いわば刑事訴訟法やあるいは個々のそういう法的な真実、要するに法的にさまざまな手続と証拠によって証明される真実かどうか。私は刑事的な問題をここでは一切論じているわけではございません。そしてまた、この決議案もそういうことだと私は思いまして、先ほど言ったような事情から、とにかく総理大臣が現職中の事件についてそのようなことがあったからには、恐らくそれだけの、そしてこれは国際的な大きな問題にもなることですから、それだけの自信と確信を持ってやったのだろう。にもかかわらず、それが証拠法上とか刑事訴訟法上のさまざまな点で無罪になることは十分あり得るわけでございます。したがって、刑事事件としての事件の真実性とかなんとかということは一切私は問題にしていないわけであります。
  24. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 そうであれば、無罪になることはあり得るということでございますれば、仮に辞職勧告決議案が成立をいたしまして、先生は強制力はないとおっしゃいましたが、強制力がございまして、事実上あってやめたとした場合、そしてまた無罪になった場合、これはその議員に対する救済について、あるいは補償についてどういうふうにお考えでございますか。
  25. 星野安三郎

    星野参考人 倫理の問題というのは、本人の内心の問題でございますから、昔から、たとえば嫌がる馬を水を飲ませるために川ふちまで連れていくことはできる、けれども、嫌がる馬に水を飲ませることはできないと言われますように、人間の倫理の問題というのは、外的な強制に屈するものではございません。したがいまして、このような決議案が出されて田中議員がおやめになるかどうかはその方の自由といいますか、もし責任を感じているならばおやめになるでしょうし、感じていなければ、断固、千万人といえどもわれ行かんというその道を歩まれるかもしれません。したがって、まさに同僚議員として政治責任を感じていることを、その決意を促す、それが勧告の趣旨だろうと私は思うわけでございます。したがいまして、そのことによっておやめになって、最高裁で無罪判決が出たからといって、別に本人はだれに損害賠償とか慰謝料を請求するものではないでしょう。私が仮に田中さんならばそれでよかったのだというふうに考えるのではないかと思います。
  26. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 星野参考人は、冒頭に原理原則的な問題として、憲法四十一条を引用されたわけでございます。憲法四十一条は国会国権最高機関であるということを定めてございます。その国権最高機関における決議、今回の決議でございますが、そういう決議についてどういうふうにお考えでございますか。重大であるとお考えでございますか。それともそれほどでないというふうにお考えでございますか。
  27. 星野安三郎

    星野参考人 大変重大でございます。重大でございますが、その重大なことをせざるを得ないのは、先ほど申しましたように、田中議員が第一回の公判での陳述のとおり、政治責任を感じておやめになっておったならば、もうこんなことをする必要は全くなかったわけでございます。
  28. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 重大であるにもかかわらず強制力はないのですか、重大であれば強制力があるはずでございますが……。
  29. 星野安三郎

    星野参考人 したがって、言いかえますと人間の内面の問題ですから、これは強制力というものはないのでございます。要するに本人が政治責任を、第一審で言われたことが本音だったならばまた改めてそのことを、同僚勧告をそうだと言って受け入れるかどうか、こういうことだと思っております。
  30. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 ただいまの論理で考えてまいりますと、院の決議は大変重い、重大であるということをお認めになりました。一方では、院の決議はございましても、従うかどうかは本人の自主判断だという趣旨のお話であったと思います。  そういたしますと、仮に院の決議がなされましてもこれは実行されないということになりますと、決議の意味はないではないかということがございます。(「そんなことはないよ」と呼ぶ者あり)それから院の権威を失墜することになりはしないか。院の決議につきまして国是ともいうべきほど重いという御意見政党もあるわけでございまして、そういうことからいたしますと、実効を伴わないような決議をすることはいかがなものかというふうに考えるのですが、その点いかがですか。
  31. 星野安三郎

    星野参考人 むしろこの決議をされたということだけで大きな政治的な意味があるということでございます。御承知のようにロッキード事件というのは、日本国会で問題に発展したのじゃなくて、アメリカの議会で、そこから今度は日本国政調査権の問題で、それでやはりそこでも十分に解明されずに、国権最高機関としてどうなのかという国民の不信というかそういうものがあったわけです。そのときにおいてこのような決議がなされるということは、しかも、仮に与野党全会一致であるならば本当にその責任を感じているのだということであり、にもかかわらずそれに本人が服するか服さないか、それは本人の問題であって、国会の権威とは全く関係ないと思います。
  32. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 ありがとうございました。
  33. 山村新治郎

    山村委員長 山田太郎君。
  34. 山田太郎

    ○山田(太)委員 本日は両参考人にはお忙しいところおいでいただきまして、貴重な意見を開陳いただきまして、まず冒頭に厚く御礼を申し上げておきたいと思います。  そこで二、三両参考人にお伺い申し上げたいわけでございますが、申すまでもなく、ロッキード事件日本議会民主政治根幹を揺るがすような事件であったことは、国民の多くが一致して見ているところでございます。また同時に、この辞職勧告決議案も野党一致して提案した、これも重大な意味があるものと思っています。  そこでまず一点お伺いいたしたいことは、ロッキード事件責任の追及については、意見の御開陳の中にもあったかとも存じますけれども、二つの側面があると思います。一つはいわゆる法的責任の追及、もう一つ政治的道義的責任の追及であると思います。前者は裁判によって公正に行わなければならないということは当然のことですが、後者の政治的道義的責任の追及は国会の大きな役割りではないかと思うわけです。  ところが、先ほどの自民党同僚議員の御質問の中にも、あるいは自民党サイドといいますか、ロッキード事件にかかわる田中元首相の政治的道義的責任については、裁判が係属中であるということで棚上げしようとする態度が見えるわけでございますが、三権分立の原則からいいましても、国会政治的道義的責任を追及するのは当然ではなかろうか。  したがって、お伺いしたいことは、裁判係属中の事件であっても、国会国会立場政治的道義的責任を追及すべきである、このことは刑事的責任の追及とは別次元、当然司法権の独立を侵すものではない、こう思うわけでございますが、まず第一点、両参考人にお伺いしておきたいと思います。
  35. 松本正雄

    松本参考人 お答えします。  政治的道義的責任と申しましても、その事実があったかどうかがやはりもとになると思うのでございます。いま裁判中なものですから、ここでそういう事実が存在したものとして、それを前提として道義的政治的責任を追及されるというのはどうか、私はこう考える次第でございます。
  36. 星野安三郎

    星野参考人 その点は、内閣総理大臣は御承知のように国会議員の中から国会の議決に基づいて指名される、そこにおいて国会議員責任を負うということだと思うのですが、そこでこの決議がなされても、まさに七十六条の司法権の独立の点から、裁判所はもちろんそのことによって影響されるものではないだろうというふうに思うわけでございます。したがいまして、司法権の独立を侵害するものでは絶対ないということでございます。
  37. 山田太郎

    ○山田(太)委員 ついでにもう一点、政治家の、いわゆる国会議員政治的道義的責任についてお伺いしたいわけでございますが、国家公務員法第七十九条には、刑事事件起訴された場合、公務員は休職になるということが規定されておることは御存じのとおりでございます。ところが、特別職の公務員である国会議員にはこの規定がない。これは選挙民によって選出されたということと同時に、当然のことでございますが、選ばれた議員には高い倫理観が備わっているし、またその責任の重みをみずから認識しているということが前提にあると思います。それが前提であります。したがって、国会議員の場合、起訴段階であるならば大目に見ていいとか、そういうふうなことにはならないと思うのでございます。この点については両参考人いかがお考えでございましょうか。  先ほど星野参考人からは、よしんば刑事上裁判で無罪になったとしても、政治的道義的責任は免れないと言われたが、こういう場合はたくさんございます。ことにこの事件はその筆頭に位するようなものではなかろうか、こう思うわけでございますが、いかがでございましょうか。
  38. 松本正雄

    松本参考人 国会議員のことについては、任免について非常に厳格な規定が設けられておるという点を先ほど申し述べましたが、ただいまの御質問は、その点については全く同感でございます。  ただ、最後の結論の御質問は、起訴されれば国会議員は良心的にやめるべきだということなんですか、ちょっとはっきりしませんが。
  39. 山田太郎

    ○山田(太)委員 普通の国家公務員では、もう起訴の段階で休職しなければならぬことになっているわけですね。御存じのように、特別職の国家公務員である国会議員はこの規定がございません。なぜそれがないかというと、選挙で選ばれたということもさりながら、もうすでに前提として、政治倫理についても高い見識と重い責任感があるであろうからということでございます。ところが、いまのままでいきますと、起訴されても知らぬ顔の半兵衛でいっていたのでは、もう民主主義の根幹を揺るがすこの事態を起こしているわけですから、法的に規定がないから国会議員の場合は見逃してもいいではないか、大目に見てもいいではないかというわけにはいかないと思うのですが、この点はどうでしょうか。
  40. 松本正雄

    松本参考人 まだ御質問が釈然としない点がございますけれども、大体わかりました。  国会議員は、起訴せられれば、道義的責任を感じて辞職すべきだという御意見じゃないかと思うのですが、これはとんでもないことで、検事は御承知のように行政官でございます。間違いを起こすこともあります。あるいはまた、あるよくない検事が、特定の政治家をねらい撃ちして罪に陥れる、そして逮捕、監禁して起訴することもできます。現在の検察官は良識的な人が多いですから、そういう間違った人はいないと思いますが、もしあられもない無実の罪で、特定の意図を持ってねらい撃ちをするようなことがあったとすれば、ただいまの御質問のように、起訴されれば国会議員はやめなければならぬかということになると、これはとんでもないことで、私は、国会議員起訴されただけでやめる必要はない、こう思います。  時間がありませんから詳しくは言いませんが、現在の刑事訴訟法は英米法によっておりまして、当事者主義で、原告が検察官、被告が本人あるいは弁護士という側で、原告の言い分だけを聞いて判断してやめる——国会議員起訴されただけで、どういうことで起訴されたか、どういう裁判を受けるかわからない、それでやめるようなことがあったらとんでもないことで、起訴されただけでやめる必要は絶対にないと思います。
  41. 星野安三郎

    星野参考人 公務員の場合には起訴された場合に休職になる、国会議員の場合にはそういう規定がないということについては、二つに分けて考える必要があると思うのです。  一つは、国会議員はとにかく倫理的な責任感というものは持っているはずで、みずから判断して処すべきであって、法的に規制する必要はない、その点は同感でございます。  起訴された国会議員はやめるべきだということについては絶対反対。その点は松本先生と全く同感でございます。  国会議員の不逮捕特権とか、あるいは院内の発言や表決について院外で責任を問われないということは、まさにそういう特権——たとえばこれは御承知だと思いますが、イギリスのピューリタン革命でしたか、チャールス一世が反王党派の議員逮捕するために、軍隊を議場に入れたことがあるわけでございます。結局ハンプデン、ピムらが逃げたわけですが、それ以来、イギリスの国会では、開院式は貴族院でするわけでございますが、貴族院の使者が衆議院に来ますと、大戸を閉めて、守衛がのぞき窓から見て確認してからあげる。のぞき窓から何を見るかというと、その使者が軍隊を連れてきていないかどうかを確認するというのであります。  そういう意味で、今日は議会制民主主義、政党内閣があれしましたから、たとえば多数党あるいは政権を持っている政党が、少数党に対して政治圧力をかける場合に、そういった起訴というようなことがあり得ることも考えられる。そういうことにおいて、起訴されたからやめるべきだということについては、私も絶対反対でございます。  起訴ということについて、私、いまの検察庁がそうだと言っているわけではございませんけれども、権力政治世界ではそういうことも起こり得るわけで、その点では、起訴された者はやめるべきだということについては、私は絶対反対だということだけ申し上げておきます。要するに、分けて考えたいと思います。
  42. 山田太郎

    ○山田(太)委員 実は両参考人の方は一般論的な立場でお答えがあったと思います。私が敷衍して聞きたいことは、このたびのロッキード事件に関連して辞職勧告決議案が出されたわけですが、これは、そういう規定がなくて、本来ならばみずから辞職すべきところを、もう数年にわたって今日に至って、いわゆる議会民主政治の信頼を損なうような日本全体の空気になっていることは事実でございますから、国会の役割りとして、このロッキード事件に対してこのような辞職勧告決議案を出すことは、それを補完する意味もあり、またこれは当然のことじゃなかろうか、こう思うわけですが、星野参考人どうお考えですか。
  43. 星野安三郎

    星野参考人 それは先ほど申しましたように、田中議員自身の、第一回公判のそのことに尽きると思います。それが本心でありましたならば、当然みずから辞職しておったのではないかというふうに思うわけでございます。したがって、それをしなくて、むしろいま一般には、たとえば今度の中曽根さんの内閣の成立について田中曽根内閣ということが言われているように、もしそれを許しておくと、今度はまた新しい田中内閣ができるのではないかという不安も持っているわけでございます。  要するに、何の反省もないどころか、むしろ巻き返している。外国では、実力者——田中さんは自民党を離れているわけでございますか、その方が実際自民党を動かしているというようなことは、外国では考えられないようですね。たとえばイギリスで、だれは実力者だと言ったら、相撲取りかと……。そういうのは、まだ日本議会制民主主義あるいはまた議会制民主主義を支える政治倫理とか政治道義が未発達なのじゃないだろうかというふうに思います。  そういうものを徐々に確立する上でも、この決議案は私は大変重要な意味を持っていると思います。
  44. 山田太郎

    ○山田(太)委員 どうもありがとうございました。
  45. 山村新治郎

    山村委員長 西田八郎君。
  46. 西田八郎

    ○西田委員 民社党・国民連合の西田八郎でございます。  本日は、両参考人の先生方、御苦労さまでございます。  私は、基本的人権を守るために、現在裁判制度が三審制をとられており、かつ、最終判決が出るまで無罪推定を受ける、そういうことについては反対するものでもありませんし、否定するものでもありません。  ただし、この問題はそれとは別だということが言えるのではないか。少なくとも一国の行政の長である内閣総理大臣が疑われたこと自体が問題になっておるわけであります。刑事的な訴追を受けて、その結論が出るまでにこれを云々するということは、法律上はさすがにそうであるかもしれない。しかし、政治道義立場から、総理たる者がその責任をとるということについては、当然のことではないか。  したがって、私どもは、本人が自発的に辞職されることを期待をいたしておりました。ところが、この事件発覚以来もうすでに数年を経過しておるにもかかわらず、いまなおそうした反省が見られないということで、われわれが辞職勧告決議案を出したということでありまして、たまたまその時期が検事論告求刑があったときに一致したということである。そのことを私は強調しておきたいと思います。したがって、私どもは検事論告求刑があったから出したのではありません。私どもは、少なくともこういう問題は政治家の倫理を確立する上からも、道義的責任を感じてやめるべきであるという主張のもとに辞職勧告決議案を出しておるということをひとつ御理解をいただきたいと思うわけであります。  そこで、松本先生にお伺いするわけでありますが、先生はいま弁護士をしておられる。一時最高裁の判事もおやりになったことがあるわけでありますけれども、この事件が発覚したとき、国民の一人としてどうお受けとめになられたでしょう。それをまずお伺いしたいと思います。
  47. 松本正雄

    松本参考人 前の発覚した当時の心境ですか。こういうことがあったらとんでもないことだ、こう思いました。
  48. 西田八郎

    ○西田委員 続いてお伺いします。  先生は弁護士をしておられるので、われわれが法律的にこんなことを言うのはおかしいのですけれども、先ほど山田先生の質問にありましたように、少なくとも公務員法七十九条では、刑事事件が発覚したとき、すでに起訴されたところで休職になるということになっております。続いて公務員法第二款、懲戒のところでは、第八十二条に「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」、一般公務員は罷免されることもある。「免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。」これは厳正に定めてあります。  それでは国会議員は、先ほどのお話のように、事件起訴されたらすぐやめなければならぬかというと、私はあながちそうではないと思います。最近の訴訟においても、検察が自信を持って起訴したものも、自供の強迫であるということで無罪になっておるものがたくさんあるわけであります。そういう点から言いますと、必ずしも起訴されたからやめなければならぬというわけではありませんが、少なくとも国家公務員の上に立つ内閣であります。憲法六十五条から七十五条の長きにわたって、内閣の職務権限その他が定められております。その中で特に第七十二条におきましては「行政各部を指揮監督する。」、こうなっております。公務員の一番上に立って行政を指揮監督する内閣総理大臣の地位にある人が、少なくとも疑いをかけられたということについての責任は問われて当然のことだと私は思うのですけれども、その点についてどうお考えになるか。両先生にお伺いいたしたいと存じます。
  49. 松本正雄

    松本参考人 疑いをかけられたということで、総理要職にあった方がどうされるべきかという御趣旨のように思いますが、疑いをかけられた事実が真実であるかどうか、やはり御本人以外にはわからないと思うのですが、御本人の判断次第だと思います。
  50. 星野安三郎

    星野参考人 起訴された場合の問題ですが、今度の問題は、田中さんが個人として、普通の人間が犯すかもしれないような、たとえば交通事故でひき逃げしたとかそういうことではなしに、内閣総理大臣として、公務員として汚職、しかもこれは重大な職務権限関係しているということで問題になっているわけでございますね。したがいまして、私が先ほども言った、冤罪といったことでいわば政治的につぶされることがあっても、むしろ総理大臣の指揮監督を受ける下級機関である検察庁が逮捕、拘禁し、起訴したということの中には、よほどの事情があったろうということにおいてそう思っているわけです。
  51. 西田八郎

    ○西田委員 松本先生の御意見がはっきりわからなかったわけでありますけれども、少なくともロッキード事件に関連する他の被告に対しては、すでに有罪判決が出されておる。そういう中における田中さんの立場からすれば、当然それに連座するものあるいは関連するものとして受けとめなければならないのではないかというふうに考えますので、その点についてもう一度松本先生の御意見を聞かしていただきたい。
  52. 松本正雄

    松本参考人 疑いをかけられた事実があったかどうか、結局本人の考え次第だと先ほど申しましたが、疑われているようなことが無実のことであったとすれば、本人としてはそれを晴らすために努力するでしょうし、もしそういう疑われているようなことが事実に近いとしたならば、それは本人としては責任を感ずるのが当然じゃないか、こう思います。
  53. 西田八郎

    ○西田委員 最後に、松本先生にお伺いするわけですが、倫理観はそれぞれ個人個人によって違うというふうにおっしゃいました。しかし、およそ近代国家、しかも法治国家におきましては、いずれが悪であるのか、いずれが善であるのかということをいわゆる法定をしておるわけであります。したがって、刑法が存在するのだと思うのであります。したがって、一般の国民の方々の倫理というものとわれわれ政治家の持つ政治倫理というものはおのずから違いがあると思う。われわれは国権最高機関である国会を構成する代表者である。かつまたそれがためにいろいろな特権が与えられ、特典が与えられておるのだと思います。そういう政治に携わる者は、野党であれ与党であれ、内閣総理大臣であれ平の議員であれ、これはいわゆる陣がさと言われますが、私はそんな言葉を使いたくない。議員はお互いに平等だと考えておるわけでありますけれども、おのずからそれぞれ議員の立つ立場も違います。政治理念的に違うし、信条的、イデオロギー的に違う。したがって政党を組織しておるわけでありますが、その政党を縦断する共通の倫理観というものは当然存在すると思う。だから、おれは悪いことをしていないからといっても、世間一般の人があれでは困るということになったとすれば、仮にその選挙区で選択されたとしても、星野先生のおっしゃるように、国民代表する資格ということになってくると問題になってくるのじゃないかというふうに私は思うわけであります。したがって、そういういわゆる政治家政治倫理というものについて、個々に違うから、少々くらいの賄賂をもらったってそんなものはあたりまえだ、構わぬのだということが存在するとすれば、私はゆゆしき問題だと思う。そういう点についてどのようにお考えになるのかお聞きして、私の質問を終わりたいと思います。
  54. 松本正雄

    松本参考人 政治家の倫理については、私よりも国会議員各位の方が日ごろよく心得ておられると思います。それはわれわれ尊敬しておりますので、何と申し上げていいか、皆さんの御判断に任せるよりしょうがないと思います。
  55. 山村新治郎

    山村委員長 東中光雄君。
  56. 東中光雄

    ○東中委員 共産党の東中でございます。  両参考人、御苦労さまでございます。  最初に松本参考人にお伺いしたいのですが、田中元首相が、ロッキード事件の裁判で冒頭に、総理大臣であった者が在職中の汚職の容疑で逮捕され、起訴されるに至ったことは、それだけで総理大臣の栄誉を汚し、日本国の名誉を損なったこととなり、万死に値するというふうに述べられました。これは刑事事件の手続の中での発言でありますが、刑事責任の問題ではなくて、政治倫理の問題についての発言だと思うのです。参考人の御意見罪刑法定主義とか、世界人権宣言無罪推定とかいうことを言われましたけれども、そのこととは別に、こういう田中総理の公判廷における発言そのものについて全く同感だとお考えになっておるのか、いやそれはつまらぬことを言うておるとお考えになっておるのか、あるいはつまらぬことじゃないけれども、ええかっこうしておるというふうにお考えになっておるのか。田中被告人の第一回公判における発言についてどういうふうに松本参考人は受けとめられておるのでしょうか、お伺いしたいと思います。
  57. 松本正雄

    松本参考人 田中さんがそういう発言をなすったかどうか私存じませんが、もし田中さんがそういう発言をされたとすれば、いやしくも総理要職にあった者が、検察官の取り調べを受けるということだけで非常に本人としては名誉を傷つけられた、それで、総理という要職に対する、また国会議員としての立場から御迷惑をかけた、責任は重い、万死に値する、そう言われたのではないかと思いますが、これは想像ですからわかりません。  私がどう受けとめたか、私はもしそういうことがあったのなら当然だろうと思いますし、なかったならばそういうことは言われないのではないか。よくわかりません。
  58. 東中光雄

    ○東中委員 この点は、そういうことがあったかなかったかということにかかわらず、起訴されたということ自体が日本国の栄誉を傷つけた、万死に値する、こういうふうに言っているのです。政治倫理というものは、そういうものでなければいかぬと私たちは思っておるのです。ところが、あなたがいまおっしゃったのは、自分が名誉を傷つけられた、迷惑したというふうに言うたのかなという趣旨のこともいま言われましたけれども、そういうのではないのです。いまわれわれが問題にしているのは、そういう次元の政治倫理の問題を問題にしているのであって、刑事責任の問題を問題にしているのではないのだということを問題意識としてぜひつかんでいただきたいと思うのです。  私も弁護士を、まだ三十数年でありますけれども、やってまいりました。あなたの言われる、弁護士としての刑事裁判における人権擁護という問題は、いま問題になっているのではないのであります。その点を私は特に参考人に考えていただきたいということを要望するわけであります。  そういう点で、国会としては、このロッキード問題について決議をいたしました。そこでは、提案理由の説明の中でも書いていますけれども、ロッキード事件発生以来、国会として事実の徹底的真相解明を行い、政治的道義的責任を明らかにする、これは国会としてやらなければいけないのだということを、衆議院も参議院も決めた、刑事裁判とは別に政治的道義的責任を明らかにすることを決めたわけです。そういう決議自体について、参考人はどういうふうに思っていらっしゃいますか。当然やるべきことだとお考えになるのか、その決議はおかしいぞというふうにお考えになっているのか、どうでしょうか。
  59. 松本正雄

    松本参考人 真相を究明されるということは当然おやりになってもよいことじゃないか、こう思います。
  60. 東中光雄

    ○東中委員 政治的道義的責任について……。
  61. 松本正雄

    松本参考人 政治的道義的責任を調べるというのですか。
  62. 東中光雄

    ○東中委員 私の言っているのは、国会決議は二つのことを言っているわけです。事実の徹底的解明と政治的道義的責任の解明ということを言っているのです。それを国会として裁判とは別にやるんだぞということを国会意思として決めたことについてあなたの御意見はどうでしょうか。前半についてはやってもよろしいとおっしゃった。後半についてはどうなんですかとお聞きしているのです。
  63. 松本正雄

    松本参考人 お答えします。  政治的道義的責任を追及される、それもおやりになっても結構だと思いますが、しかし非常にむずかしい問題でやり通せるかどうか。(笑声)たとえば自民党さんの方と共産党さんの方とは思想がまるで違う、価値観も違う、こういうような場合に、お互いにどっちが道義的責任があるかなかなかむずかしいことになると思うのですがね。  したがって、真相を追及してどうするか、決議案までされるということについて私は反対なんです。
  64. 東中光雄

    ○東中委員 参考人考え方がわかればそれで結構なんです。  私たち国会意思として、自民党も含めてそういう決議をしたのですよということについて言っているのでありますが、あなたは自民党とほかの党と必ずしも一致しないのじゃないかということでできないのじゃないかと言われている。これは全然国会立場というものについての正当な御理解を得ていないというふうに私は感ずるわけであります。  それで、先ほどの自民党からの質問に対しましてあなたの言われたことですが、裁判所の結論が出る前に云々というのはけしからぬ、こうあなたは意見を述べられたのですけれども、何をすることがいかぬというのでしょうか。裁判の結論が出るまでは云々というのはどういうことなのでしょうか。いま言われたことについて聞いているのです。
  65. 松本正雄

    松本参考人 裁判の判断について予断するようなことはけしからぬ、こう言ったのです。つまり、裁判所に外部からいろいろ影響を与えるようなことは私は差し控えるべきだと思います。私も、最高裁判所の判事のときにいろいろな事件がありまして、外部からいろいろなことがありましたけれども、なるべく耳をふさいでおりまして、きわめて冷静に落ちついて判断すべきで、外部から余りぎゃあぎゃあ、があがあ裁判に影響を与えるようなことを言うことは差し控えるべきだと基本的には考えております。
  66. 東中光雄

    ○東中委員 全然話が違うので、いま同僚議員が質問されたのは、政治犯罪性は、裁判の結論を待つまでもなしに明らかになったということをわが党の代表質問で発言をしておるわけです。問題は、政治犯罪性、政治責任がきわめて重いということについて、裁判の結論とは別にいまや明らかになっておるというのがわが党の——ある党と言われましたけれども、実はわが党の代表質問の中にあったのです。あくまでも問題にしているのは政治的道義的責任政治犯罪性ということについて田中自身万死に値すると言うたこと、そのことについて言っているのであって、裁判に影響を与えようとか、そんなけちなことを言っているのではないのだということだけははっきりしておきたいのですが、そういう意味で、星野参考人も裁判のことについて言っているような発言をされたように思いますので、先ほど紹介された中にも、主語は政治犯罪性ということがはっきり出ていますので、その点についての両参考人の御意見をお伺いして質問を終わりたいと思います。
  67. 星野安三郎

    星野参考人 ちょっとどういうことなのかわからないのですけれども。(笑声)
  68. 東中光雄

    ○東中委員 わからなければいいです。
  69. 山村新治郎

    山村委員長 甘利正君。
  70. 甘利正

    ○甘利委員 両先生、新自由クラブ・民主連合の甘利正でございます。  最初に、松本先生の御意見を伺います。  議員身分憲法保障されている重要なものであることはよく承知いたしております。と同時に、この決議案が場合によっては両刃の剣になるという危惧も理解いたしております。しかし、現在の政治状況の中で田中議員の問題がどう処理されるかということは、わが国議会政治の健全性を占うものと考えます。そういう観点から考えた場合、この辞職勧告決議案を審議し、採決し、本会議に上程していくということは必要なことだと思いますが、もしこれができないというならば、特別にいかなる支障があるのでしょうか、御意見がありましたならばどうぞお願いいたします。
  71. 松本正雄

    松本参考人 先ほど私の意見開陳で申し上げましたように、こういう辞職勧告決議案を出すこと自体が不当だ、こう考えておるのでございまして、人権侵害になるのじゃないかと思います。
  72. 甘利正

    ○甘利委員 次に、星野先生にお尋ねをいたします。  裁判係属中であり、検察側の論告という段階で辞職勧告決議案提出することは、通常の法論理から言えば異例なことであるかもしれない。しかし、この異例な措置を行わしめる背景をいまひとつ考えなければならない。議会政治に倫理性がなくなった場合、司法の独立も議員身分も形骸化するものであります。そこで、政治と法というものはこのような問題でしばしば緊張を醸し出し、より高い次元で憲法原理を生かすものでございます、こう申し上げたいわけでございます。この決議案は、このような意義を持っていると思いますが、いかがでしょうか。
  73. 星野安三郎

    星野参考人 先ほどるる述べたとおり、全くそのとおりでございます。政治的倫理の問題というのは個々によって違う、あるいはまた党によって違う——もう一度言いますと、たとえば憲法前文には、国民主権原理人類普遍原則である、あるいは第三番にはこういう規定がございますね、今度は国家関係で、「われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。」という。要するに、近代の民主政治、国内政治あるいは国際政治において、そのような人類普遍原理とか普遍的な政治道義というものがだんだん確立されてきた。あるいは国連憲章の前文に、人間の尊厳と基本的人権、男女の同権と大小諸国の同権の承認こそが平和の基礎であるとか、そういうふうに民主政治というのは、国内政治も国際政治も、いわば人権に基づく、民主主義とか平和あるいは暴力の不行使とか平和的解決とか差別の禁止とか、そういう形において徐々に政治道義が高められてきている。そういうときに、先ほど緊急性必要性については申し上げましたが、まさに時宜を得たものであり、こういうことを決議されることは大変大事だ。  しかも私は、汚職というのは最も悪い政治的非行だろうと思うのです。このごろ子供の非行と暴力の問題が問題になってきておりますが、一国の総理大臣が、汚職というのは破廉恥罪ですよ、そのことでされたことについて、それをどうすることもできないというのは、子供たち自身われわれを信頼するでしょうか、一体国政を本当に信頼するでしょうか。  そういう点で私は、政治道義確立し高めていく上にこれは大変いい機会であり、また国会責任を果たすゆえんだということで御賛成申し上げたわけでございます。
  74. 甘利正

    ○甘利委員 質問を終わります。
  75. 松本正雄

    松本参考人 ちょっと、ただいまの答えに追加して一言だけ。  私の聞いておるところによりますと、長い国会の歴史のうちで、佐藤孝行議員に対する辞職勧告決議がなされたようですが、それ以前長い長い間こういうような決議案が出されて審議せられたということはないようであります。これをもってみても、こういうような決議案は本当に慎重に扱われてやらないと将来に悪例を残すことになりますので、その点十分お考えいただきたい、釈迦に説法ですが。
  76. 山村新治郎

    山村委員長 これにて両参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会代表いたしまして厚く御礼申し上げます。どうぞ御退席いただいて結構でございます。     ─────────────
  77. 山村新治郎

    山村委員長 この際、広瀬秀吉君から発言を求められておりますので、これを許します。広瀬秀吉君。
  78. 広瀬秀吉

    広瀬委員 前回、この問題につきましては趣旨の説明をいたしまして、これに対して実質的には反対討論にも等しい与党の意見表明もございました。本日は参考人の御意見も聴取をいたし、それぞれ各党から質問も行われました。したがいまして、そういう点から言えば、この委員会を一たん休憩して、後刻改めて再開をして、与党から提出者に対する質疑があるならば質疑も受ける用意はありますが、その申し出も目下のところないようでありますし、その意思もないのではないかとも思いますので、この問題は早急に決着をつけていきたい。したがって、再開委員会においてこの問題の採決をすべきであろう、このように思いますので、そのように議事進行について動議を提出いたしたいと思います。
  79. 山村新治郎

    山村委員長 次に、山崎拓君から発言を求められておりますので、これを許します。山崎拓君。
  80. 山崎拓

    ○山崎(拓)委員 ただいま広瀬理事からせっかくの御発言がございましたが、ただいま両参考人の御意見を拝聴いたしまして、この問題につきましては、本決議案に関しましては実にさまざまの問題点が存在するということを改めて認識させられた次第でございます。  きょうは大変時間が不十分でございまして、私もまだ数限りなく御質問申し上げたいことがあったのでございますが、時間の制約でやむを得ずしんぼういたしたわけでございますが、今後新しい参考人をお呼びするとか、あるいは提案者に対する質疑を行うとか等々、さらに審議を重ねてまいりたい、かように考えておりますので、何とぞ委員長におかれまして、与野党間でさらに本件に関しまして取り扱いの協議を続けるようにお取り計らいを願いたいと存じます。(「異議なし」「採決」と呼び、その他発言する者あり)
  81. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、本決議案の今後の取り扱い等につきましては、理事会において各党間で協議してまいりたいと思います。  この際、暫時休憩いたします。     正午休憩      ────◇─────     午後二時三十一分開議
  82. 山村新治郎

    山村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  まず、公共企業体等労働委員会委員任命につき同意を求めるの件についてでありますが、同委員に、お手元の印刷物にあります諸君をそれぞれ任命するについて、内閣から本院の同意を求めてまいっております。     ─────────────  一、公共企業体等労働委員会委員任命につき同意を求めるの件     青木勇之助君 中西實君五八、四、九任期満了につきその後任     石川吉衛門君 原田運治君五八、四、九任期満了につきその後任     市原昌三郎君 五八、四、九任期満了につき再任     氏原正治郎君 隅谷三喜男君五八、四、九任期満了につきその後任     神代 和俊君 金子美雄君五八、四、九任期満了につきその後任     舟橋 尚道君     山口 俊夫君 五八、四、九任期満了につき再任     ─────────────
  83. 山村新治郎

    山村委員長 本件は、本日の本会議において議題とするに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  84. 山村新治郎

    山村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。     ─────────────
  85. 山村新治郎

    山村委員長 次に、本日外務委員会審査を終了した所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とスウェーデンとの間の条約の締結について承認を求めるの件、所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避のための日本国とドイツ連邦共和国との間の協定を修正補足する第二議定書の締結について承認を求めるの件、文教委員会審査を終了した義務教育諸学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案の各案件について、それぞれ委員長から緊急上程の申し出があります。  右各案件は、本日の本会議において緊急上程するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  86. 山村新治郎

    山村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。     ─────────────
  87. 山村新治郎

    山村委員長 次に、本日の本会議議事順序について、事務総長の説明を求めます。
  88. 弥富啓之助

    ○弥富事務総長 まず最初に、公共企業体等労働委員会委員任命につき同意を求めるの件をお諮りいたします。全会一致であります。  次に、日程第一につきまして、永田科学技術委員長の報告がございます。共産党が反対であります。  次に、日程第二につきまして、山崎農林水産委員長の報告がございます。全会一致であります。  次に、日程第三につきまして、稲村社会労働委員長の報告がございます。全会一致であります。  次に、日程第四につきまして、北側交通安全対策特別委員長の報告がございます。全会一致であります。  次に、日程第五につきまして、左藤逓信委員長の報告がございます。全会一致であります。  次に、日程第六につきまして、橋口内閣委員長の報告がございます。共産党が反対であります。  次に、日程第七につきまして、田村地方行政委員長の報告がございます。社会党、公明党、民社党、共産党及び新自連が反対であります。  次に、動議によりまして、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とスウェーデンとの間の条約の締結について承認を求めるの件及び所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避のための日本国とドイツ連邦共和国との間の協定を修正補足する第二議定書の締結について承認を求めるの件の両件を一括して緊急上程いたします。竹内外務委員長の報告がございます。両件を一括して採決いたします。共産党が反対であります。  次に、動議によりまして、義務教育諸学校施設費国庫負担法の一部を改正する法律案を緊急上程いたします。葉梨文教委員長の報告がございます。共産党が反対であります。  以上でございます。     ─────────────  議事日程 第十号   昭和五十八年三月二十五日     午後一時開議  第一 技術士法案(内閣提出)  第二 北海道寒冷地畑作営農改善資金融通臨時措置法及び南九州畑作営農改善資金融通臨時措置法の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)  第三 戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案(内閣提出)  第四 海上衝突予防法の一部を改正する法律案(内閣提出)  第五 放送法第三十七条第二項の規定に基づき、承認を求めるの件  第六 在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)  第七 地方税法等の一部を改正する法律案(内閣提出)     ─────────────
  89. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、本日の本会議は、午後二時五十分予鈴、午後三時から開会いたします。     ─────────────
  90. 山村新治郎

    山村委員長 次に、次回の本会議の件についてでありますが、次回の本会議は、来る三十一日木曜日午後一時から開会することといたします。  また、同日午前十一時理事会、正午から委員会を開会いたします。  本日は、これにて散会いたします。     午後二時三十五分散会