運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1982-08-03 第96回国会 衆議院 法務委員会 第26号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年八月三日(火曜日)     午前十時一分開議  出席委員    委員長 羽田野忠文君    理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君    理事 高鳥  修君 理事 中川 秀直君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君    理事 沖本 泰幸君 理事 岡田 正勝君       井出一太郎君    今枝 敬雄君       上村千一郎君    大西 正男君       亀井 静香君    亀井 善之君       古賀  誠君    高村 正彦君       森   清君    北山 愛郎君       鍛冶  清君    正森 成二君       簑輪 幸代君    田中伊三次君  出席国務大臣         法 務 大 臣 坂田 道太君  出席政府委員         法務大臣官房長 筧  榮一君         法務省民事局長 中島 一郎君         法務省刑事局長 前田  宏君  委員外出席者         警察庁警務局給         与厚生課長   福永 英男君         警察庁刑事局捜         査第一課長   仁平 圀雄君         警察庁刑事局捜         査第二課長   森広 英一君         最高裁判所事務         総局刑事局長  小野 幹雄君         法務委員会調査         室長      藤岡  晋君     ————————————— 委員の異動 八月三日  辞任         補欠選任   木村武千代君     亀井 善之君   白川 勝彦君     古賀  誠君   安藤  巖君     簑輪 幸代君   林  百郎君     正森 成二君 同日  辞任         補欠選任   亀井 善之君     木村武千代君   古賀  誠君     白川 勝彦君   正森 成二君     林  百郎君   簑輪 幸代君     安藤  巖君     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提出  第五〇号)(参議院送付)  民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法  律案内閣提出第七六号)(参議院送付)      ————◇—————
  2. 羽田野忠文

    羽田野委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所小野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 羽田野忠文

    羽田野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 羽田野忠文

    羽田野委員長 内閣提出参議院送付刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横山利秋君。
  5. 横山利秋

    横山委員 お互いに各地で非常な台風の被害を受けまして、私どもとしては罹災者の皆さんのためにまことに御同情にたえない次第でございますが、法務省最高裁関係被害関係はございませんでしたか、御報告ありますか。
  6. 坂田道太

    坂田国務大臣 このたびの災害につきまして、まだ報告受けておりませんが、先般の長崎の被害等につきましては、若干浸水等があったが、登記事務の問題に支障はほとんどないというような報告を受けております。このたびの水害について、まだ報告を受けておりません。
  7. 横山利秋

    横山委員 御報告がないようではありますけれども、ひとつ十分に注意をしてほしいと思います。特に拘置所、刑務所等社会的に与える影響も多うございますから、私ども視察をいたしました各施設も老朽なものがないとは言えませんので、十分御注意を願うようにお願いをいたしたいと思います。  さて、刑事補償法についてお伺いをいたします。  刑事補償法の第一条ですが、無実裁判を受けた者が「未決の抑留又は拘禁を受けた場合には、その者は、国に対して、抑留又は拘禁による補償請求することができる。」こうなっております。  二つお伺いしたいのですが、無実裁判を受けた者という意味ですね。判決で疑わしきは罰せずという裁判原則がある。疑わしいけれども証拠がない、したがって、疑わしきは罰せずとして無罪とする、こういう場合にももちろん適用があると解釈をしてよろしいのですか。
  8. 前田宏

    前田(宏)政府委員 お尋ねの中で、冒頭に無実裁判とおっしゃいましたでしょうか。何かちょっと聞き取れませんでしたのですが、それは無罪裁判ということをお指しであろうと思いますけれども、条文にございますように、刑事訴訟法による通常手続等において「無罪裁判を受けた者」というふうに明白に書いてございますので、いまのようないわば証拠不十分と申しましょうか、そういうことで無罪になった場合も当然含まれるということでございます。
  9. 横山利秋

    横山委員 それと関係を持ってお尋ねをいたしたいのですが、被疑者補償規程は、その精神刑事補償法と一緒でしょうか。
  10. 前田宏

    前田(宏)政府委員 基本的にといいますか、もと考え方としては同様と言ってもよろしいかと思いますけれども裁判によります無罪検察官がいたします処分とでは、事柄の性質上違いがあるということが当然その性質から出てくるわけでございますので、その意味では違う点があるというふうに申し上げる方が正しいのじゃないかと思います。  被疑者補償規程では補償要件といたしまして、いわゆる不起訴処分があった場合において「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」、こういう言い方をしておりますので、そういう要件を満たした場合に被疑者補償が行われるということでございますから、法律の場合とは結果的に若干違いがあるというふうになるわけでございます。
  11. 横山利秋

    横山委員 裁判無罪裁判を受けた者、疑わしきは罰せずというわけで、言葉遣いが適当でないかもしれませんけれども、少なくとも疑わしいと思うけれども証拠がないから無罪とするということと、それから被疑者補償規程による「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由がある」とは大分違いますね。それから、補償規程四条の一、「七十条第二項に定める「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文により、公訴を提起しない処分があったとき。」あるいは四条の二、「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる事由があるとき。」この違いというものは、片一方法律できわめて明白に無罪判決があったら請求ができる、片一方検察官自由裁量に任せられておって、しかも検察官は自分がその者を調べて、本当は怪しいけれども証拠がないからまあと思っておる者に補償をすることかせぬことかは、仮に先般の改正によって配慮があるにしても、検察一体精神からいってこの補償規程運用を十分にやらない、そういう可能性というものが如実にここからうかがい知られるわけでありますが、なぜ刑事補償法原則というものが被疑者補償規程にそのまま取り入れられないのでありますか。
  12. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほども若干申し上げたところでございますけれども検察官が不起訴処分をする場合には、裁判と違いまして決着をつけない、と言うとおかしいのですけれども、場合によってはある程度のところで捜査を打ち切ってしまうというようなこともあるわけでございまして、それは検察官処分というものと裁判というものの性格とが基本的に違うところから出てくるわけだろうと思います。  そういうことで、よく申しておることでございますが、検察官処分には裁判のような確定力はない。逆に言いますと、御案内のとおり、検察審査会起訴相当議決等がございますと再起訴をするという場合もございますし、職権乱用罪等につきましては、付審判請求があって起訴手続と同様な効果がとられるというようなこともあるぐらいに、検察官処分というものは一応の処分ということでございまして、裁判所のような確定力を持つものではないということが一つ基本であろうかと思います。  それから一方、刑事補償法法律の方は、これは申し上げるまでもないかと思いますが、憲法から来ているものでございまして、そういうことから無罪というふうに憲法規定も書いてあるわけでございますから、その無罪の中でより分けをするということは適当でないということになるわけでございます。  そういう両方のことがもとになりまして、補償法の上ではいろいろな意味無罪になった場合にそれがすべて含まれる。しかし、被疑者補償の方は、先ほど来申し上げたようなこともございまして、むしろ積極的にといいますか、はっきり無実であるという場合だけにこの補償をするということが、それぞれの性質に応じてむしろ相当であろうという考え方によるものというふうに理解しているわけでございます。
  13. 横山利秋

    横山委員 法務大臣、聞いていらっしゃると思うのですが、私は、もうこの問題を長年取り上げておるわけです。裁判無罪になったら、たとえその過程が仮に疑わしきものであっても補償はする。検察段階抑留または拘禁をした、ところがそれに補償するか否かは、ここに言いますと、「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由」がなければ補償しない。裁判における無罪判決と、それから被疑者補償規程における問題とは違うわけです。被疑者補償規程はそういう検察裁量にゆだねられておって、調べた検察陣が、まあくやしいけれどもこれはあかんぜという場合もあるでしょうけれども、自由な裁量にゆだねられておる。  私は、積年、この被疑者補償規程をやはり立法化しろと言っている。そして刑事補償法と同じ精神で貫けと言っている。裁判無罪になろうが、あるいは検察段階で不起訴になろうが、同じことではないか。なぜ行政段階における問題だけ行政検察陣裁量にゆだねられるのかということを、歴年私は主張しておる。被疑者補償規程は、私の主張も取り入れて若干の改正はされました。されましたけれども法律事項ではないわけですね。したがって、刑事補償法被疑者補償規程とを一連の脈絡をつけて、そして人権を守るべきだ、こう主張をいたしておるわけです。どうお考えですか。
  14. 坂田道太

    坂田国務大臣 この問題はなかなかむずかしい問題も含んでおるというふうに思います。もちろん横山先生の御指摘は御指摘といたしまして参考にいたしたいと思いますが、ただいまのところは、いま刑事局長が答弁をいたしましたとおりに考えておる次第でございます。
  15. 横山利秋

    横山委員 法務大臣、ちょっとお勉強が足りぬようですね。私の言うことはわかっているのでしょう。裁判で疑わしきは罰せずで、多少疑われても無罪となった以上は補償する。検察の方は、いいくらかげんとは言いませんけれども裁量にゆだねられているというのはおかしい。これはぜひ今後にわたって御検討を願いたいと思います。  もう一つの私ども主張は、刑事補償法では補償内容は、抑留または拘禁による補償は一日千円以上四千八百円以下といままではなっているわけですね。それの四条二項で、「裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであった利益喪失精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察検察及び裁判の各機関故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。」とあります。  こういうことでしょうか。四条二項全部を満たす、つまり期間が長かった、本人財産上の損失が多かった、それから商売で得べかりし利益をたくさん喪失した、精神上非常な苦痛を受けた、肉体上の損傷もあった、警察検察裁判も、各機関故意過失がたくさんあった、こう満杯の場合が四千八百円。それから、精神上の苦痛はなかった、財産上の損傷もなかった、得べかりし利益喪失もなかったという場合は、だんだん四千八百円マイナスアルファマイナスベータというふうになる、こう理解するものですか。
  16. 前田宏

    前田(宏)政府委員 この刑事補償法によります補償は、いわゆる損害額の全部を補償するという趣旨のものではないというのが基本であるわけでございまして、そういう意味でもいわば定額補償をする。これは別な迅速な支給という要素もございましてそういう形をとっているわけでございます。したがいまして、御指摘四条二項でいろいろな要素が並べられておるわけでございます。これはこの二項にも書いてございますようにもちろん裁判所がお決めになることですけれども、その額を定める場合に当たってのいわば考慮事項でございますから、上限下限の幅の中で適当な金額をお決めになるについていろいろな要素考えるべきであるということでございまして、御質問に即して言えば、いわゆる満杯になった場合が上限であるという意味ではないというふうに理解しております。
  17. 横山利秋

    横山委員 どういう意味だか御説明がよくわからないのですよ。最高上限が四千八百円で、その四千八百円以下に決める場合には四条二項を考慮せよというのですよ。そうすると、本当に本人が気の毒だった、いろいろな条件を満たす場合には四千八百円をやるということでしょう。そうすると、四条二項の各項目が大したことはないとすれば、四千八百円マイナスアルファマイナスベータ、こういう論理で間違っているのですか。
  18. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわば二つ問題があろうかと思うわけでございまして、いまおっしゃいましたいろいろな要件が全部実証されたという場合に四千八百円で十分かという意味でございますと、そうではなくて、それは頭打ち的に四千八百円になるということでございますから、それぞれの要素が一〇〇%それぞれ達したら、あるいはこれを超えるかもしれないという問題が一つあるわけでございます。  一方、しかしおっしゃいましたように頭打ちで四千八百円と決めてあるわけでございますから、いろいろな要素を勘案して、その中でマイナス要素といいますか、そういうものがあれば、四千八百円よりも下回る金額で具体的な金額が決まるということは御指摘のとおりでございます。
  19. 横山利秋

    横山委員 私はこう考えるのですよ。抑留または拘禁というものを千日なりあるいは五百日なりされた、それだけでも無罪になった人間が大変な苦痛を受けたのであるから、少なくとも抑留または拘禁されたら一日に千円以上四千八百円、こういうふうに割り切って、それ以外に四条二項についてもし必要があるならば、プラスアルファプラスベータというふうにすべきなのが当然ではないか。裁判官が四千八百円を上限にして、この四条二項でマイナスアルファマイナスベータをやるというのは、裁量が、判断基礎が人によって非常に違うと私は思います。だから、抑留または拘禁を受けたら一日について幾ら四条二項に該当したならばプラスアルファプラスベータ、こういうふうにすべきなのが当然ではないか、こう言っているわけです。四条二項で勝手に裁判官が、あいつは財産上の損害もない、あいつは精神上の苦痛もなかった、故意または過失もなかったということでどんどん下げてしまうということになるのではあるまいか。  実際問題として、それでは実施状況はどうなんですか。四条二項はいろいろなことで加味をされているのですか。刑事補償決定のあった事例の表がここに出ておるわけですが、一人当たり補償金額がここに出ています。しかし、これは改正の日が別なものですから、上限になっておるのかならないのか、一日平均がどうなっているのか、これではちょっと見にくいのですが、実施状況上限との関係はどうなっていますか。
  20. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 ただいまの点でございますが、裁判官が認定するに当たりまして、ただいまの要件をどのように認定しているかということにつきましては、具体的な個々のことでございますので私どもも十分に承知はできないわけでございますが、五十一年から五十五年までに決定のありましたものについて、一日当たり大体どれぐらいになっているかということを見てみますと、たとえば五十五年の場合には決定人員が六十一人おります。この補償の総金額、これは三千八百五十九万二百円となっておりまして、一人一日当たり平均金額は三千三十三円、こうなっているわけでございます。  これが五十五年度に決定されました分につきましても、これは請求期間が三年間ございます、またあるいはその審理期間もあるというような関係でございまして、たとえば五十五年には最高が四千八百円でございますけれども、五十三年は四千百円である、その前は三千二百円でございましたか、そういうようなことでございますので、どの分がどうということはにわかには言えないわけでございますが、いずれにしましても、平均がそういうことで三千円を超えているということで、中間よりはかなり上になっているというふうに考えております。
  21. 横山利秋

    横山委員 この表では上限との関係が必ずしも明確ではないのでありますけれども、恐らく私は上限をそのまま適用した事例は少ないのではないかと思うのです。  私が言う意味最高裁どうお考えですか。抑留拘禁されたら、とにかくまず日数を単純に一日幾ら決めて、それ以外は、四条の二項に各該当するものについては、事情をしんしゃくして何千円までプラスすることができる、そういう四条二項の幅を一日当たり幾ら定額決めておくということが妥当なやり方ではないかと思いますが、いかがですか。
  22. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 これは立法問題でございますので、私ども意見を申し上げるのはいかがかと思いますが、いずれにいたしましても、その金額上限下限の幅が適当かどうかということに結局は帰着するわけでございまして、ある拘禁がありましても、たとえば心神喪失というような事情で現実には最低限に近いところで処理されているような事件もございまして、一日拘禁されていればすべて条件が同じというふうに果たしてできるのかどうか、そういう点も含めて、全部諸般の情状というものを裁量によって決する方が妥当な結論が得られるのじゃないかというふうに考えております。
  23. 横山利秋

    横山委員 大体、立法上「一日千円以上四千八百円以下の割合による額の補償金を交付する。」千円と四千八百円という、なぜその幅をつけたのか。四条二項以外に理由があるのですか。その者が大変な金持ちであった、あるいは貧乏人であったということに関係があるのですか。あるいは抑留中の他の、四条二項以外の理由があるのですか。千円と四千八百円の幅を設けている理由は何ですか。
  24. 前田宏

    前田(宏)政府委員 結局、定額制ということでございますから一律ということもあり得るかと思いますけれども先ほど来御議論のありますように、いろいろな要素も一応あるわけで、定額制と言いながら、その中で若干弾力的な運用をした方が現実的であろう、こういう考え方から上限下限が決まっているものと考えるわけでございます。  上限下限をどのように決めるかということになりますと、それは数的な問題に今度はなるわけでございまして、御案内のとおり、二十五年の制定当時には二百円以上四百円以下というような形になっておりました。その後何回か改正がございまして、上限は大体上がっておりますが、下限は上げた場合もあり上げない場合もあるというようなことで、今回御審議いただいております法案では、下限引き上げは行わないということで据え置くということになっております。  したがいまして、その差が大分開いてくるわけでございますけれども、千円という最低限の場合も、たとえば先ほどお話が出ましたように、心神喪失等補償するのはどうかなというような場合も相当あるので、それは千円ぐらいに据え置いた方がむしろよかろうというような考え方で、これは引き上げないというようなことで千円がそのままになり、片や、四千八百円は前々から低過ぎるんじゃないかというような御議論もございましたので、むしろ従来の上げ幅よりもさらに上げ幅の大きい引き上げを今度の案では考えているということで、上限下限が従来よりも差がついてきている、こういう形になっておるわけでございます。
  25. 横山利秋

    横山委員 裁判所でこの判定をするに際して、四条に関しての通達だとかあるいは基準だとか、考慮すべき判断基礎条件とか、そういうものはあるのですか。それとも裁判官の全くの裁量権にゆだねられておるのですか。
  26. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 私どもの方で何ら通達その他一切の基準は示しておりません。全くの裁判官裁量によっております。
  27. 横山利秋

    横山委員 これはそうであれば、私はもう少しこの四条の一項と二項との関係を明白にすべきだと思いますよ。抑留または拘禁を受けたら、とにもかくにもそれは一日幾らということにする。刑事局長お話のような心神のちょっと異常な者だとか泥酔者という問題は、私はまた別問題で議論をしようと思っておるのですけれども、少なくとも無罪だった人間は一日に幾ら抑留ないしは拘禁を受けたものに対しては補償し、自余いろいろなその人の条件に応じてプラスアルファ、べータをつけるということがこの補償法の骨格になるべきだ、私はそう信じておるわけであります。  それから第三番目に、私どもが常に主張しておりますのは、非拘禁補償の問題であります。非拘禁ではあるけれども警察へも行く、検事のところへも行く、裁判所へも出頭する。それはもうこ参考資料を見ましても、まさに多い人に至っては二千二百一日拘禁されているわけですね。名古屋高裁金沢支部、殺人の問題。それから、その次が千八十日。これは拘禁日数だけでありますけれども、この間に非拘禁で実に多くの日数を費やしておると思うのです。そういう非拘禁日数について、私ども、これは半額は負担をしろと言うておるわけですが、それは一体四条の二のどこに影響を与えているわけですか。
  28. 前田宏

    前田(宏)政府委員 四条の二とおっしゃいますのは、四条二項との関係でございましょうか。
  29. 横山利秋

    横山委員 四条の二項の関係四条二項の中に非拘禁の問題が入っておるのかおらないのかという質問です。
  30. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわゆる非拘禁者に対しても補償すべきであるという御議論がございますことは、重々承知しているわけでございまして、その点についても前々から一応の考え方を申し上げているところでございますが、それはやはり現行刑事補償法基本的な考え方によるものでございまして、四条二項そのものと直接関係があるというふうには実は思わないわけでございます。要するに、四条二項は拘禁する場合の要素でございますから、そのもとには、やはり抑留または拘禁によって身柄拘束されておった者が無罪になった場合というのが前提でございますから、いわゆる非拘禁者補償の問題は別問題ということになるのではないかと思います。
  31. 横山利秋

    横山委員 そうだとすれば、よけいに非拘禁によって受けておる財産上、精神上、得べかりし利益の問題を含めまして、非拘禁についての半額補償について、これは法改正をすべきだと思いますが、いかがですか。
  32. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほど申し上げましたように、非拘禁者まで補償を広げるべきかどうかという問題は、この刑事補償基本にかかわる問題でございまして、従来から御指摘も受けておりまして、その御趣旨なり理由なりはよくわかっているつもりでございます。  しかし、それに対しましては、かねがねからそこまで広げるのはどうかというような御意見をまた逆に申し上げ続けてきているわけでございまして、横山委員に改めて詳しく申し上げるまでもないかと思いますけれども、要約して申しますならば、やはり刑事補償というのも損害賠償の一種である、基本的にはそういうものである、こういうことでございますから、やはり行為者故意過失というものが本来は要件であるはずである。しかし、身柄拘束を受けた者が無罪になったというきわめて特殊例外の場合については、憲法規定もあり、そういう故意過失というものを抜きにして、いわば非常に例外的な措置として無条件補償する、こういうのが現行刑事補償法刑事補償内容といいますか、要件であるというふうに考えられてきているわけでございます。  したがいまして、非拘禁者の場合にもいろいろな不利益なり損害なりがあることは否定いたしませんけれども、それはそういう無条件の、そしてしかも定型的な補償にはなじまないので、むしろ原則に立ち返って、いろいろ故意過失を立証していただいて、それによって国家賠償をするというのが基本ではないか。そうしませんと、いろいろとほかの国の行為による、公権力の行為による広い意味での損害等についての補償という横並びの問題も次々に起こってくるので、なかなかそこまでは踏み切れないのじゃないかということを前々から申しているわけでございまして、さしあたってまず拘禁者補償を充実するということが先決であろうということで、今回もその金額引き上げということに特に重点を置いてお願いをしているというのが実情でございます。
  33. 横山利秋

    横山委員 国家賠償法へ逃げるのですけれども、国家賠償法は、賠償を求めるについては役人の故意または重大な過失、そういうものを立証しなければならぬのでありますから、きわめて狭い門だから、国家賠償法の方へ問題をすりかえるのは適当ではありません。  この刑事補償法を、四千八百円を七千二百円にするのでありますから、被疑者補償規程の第三条も当然改正されるでしょうね。
  34. 前田宏

    前田(宏)政府委員 法律改正になりました場合に、それに見合う規定改正は当然することになっておりますので、今回も、この法律改正になりました場合には、補償規程も当然にそれに見合った改正をする予定でございます。
  35. 横山利秋

    横山委員 被疑者補償規程改正を当然するのでありますから、私がいま申し上げておる諸問題についても、当然検討の対象にしてもらいたいと思います。  補償法の第三条、「左の場合には、裁判所の健全な裁量により、補償の一部又は全部をしないことができる。本人が、捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証拠を作為することにより、起訴、未決の抑留若しくは拘禁又は有罪の裁判を受けるに至ったものと認められる場合」。常識的に見れば、これは身がわり犯人、交通事故などの身がわり犯人のことを言うているのではないかと思いますが、その以外の場合があり得るのですか。
  36. 前田宏

    前田(宏)政府委員 三条一号の要件に当たる場合は、ただいま御指摘のとおり、身がわりという場合が一番典型的な場合であろうと思います。しかし、それは交通事故に限らず、たとえば賭博であるとか殺傷犯であるとか、そういう場合にいわゆる親分子分のような関係で身がわりをするというような場合もあるわけでございまして、そういうことが一つの典型的な例であろう、そういうふうに思います。  また、非常に極端なことで、そういうことがあるかどうかと思いますけれども、大きな罪を犯した者が、それと既判力が及ぶ関係にある小さな罪、これについて処罰を受けますと既判力が及んで大きな罪の処罰を免れる、こういうことにもなりますのでそういう工作をする、そのために自白をするというような場合も考え方によっては含まれてくる場合があるというふうに思っておるわけでございます。
  37. 横山利秋

    横山委員 おおむねこの問題は、被疑者の自白によって、虚偽の自白をしたかあるいは他の有罪の証拠を作為したか、身がわり犯人の場合は、これはわかりやすい問題でありますから一番わかるのですけれども、そのほかの場合について私は重大な疑問を持っておるわけであります。  たとえば、ここに一例を挙げてみましょう。これは千葉大のチフス菌事件の問題であります。「自白調書に現れた「犯行方法」の変貌」、自白調書に出ているわけですね。  ○四月十三日(警察)   カステラ——細菌混入液をたらした。   バナナ——細菌混入液をたらした。   カルピス——指で菌を取り、やかんの中でカ         ルピスと混ぜた。  ○四月十四日(警察)   カルピス——割りばしで菌を削り取って、や         かんの中で混ぜた。  ○四月十六日(警察)   バナナ———寒天斜面培地から白金棒で削り         取り、バナナの先から三センチ         ぐらいのところに刺した。  ○四月十七日(検察官)   カステラ——培地から白金棒で削り取り、蒸         溜水に溶かし、たらした。  ○五月五日(検察官)   バナナ———白金棒で刺したかもしれない。   カステラ——蒸留水に溶かし、ばらまいた。  ○五月七日(検察官)   みかん———(白金棒で)刺したかもしれな         い。  ○五月二十一日(検察官)   みかん———白金棒で菌を取り、みかんに刺         したかもしれない。そのまま刺         したのか、液体にして刺したの         か、刺しているとすれば、その         ままなのかもしれない。  ○五月二十五日(検察官)   みかん———三個に菌液で刺した。  この自白調書は日によってみんな違うわけですね。もちろん、警察で被疑者を調べていくということは、だんだん白状していくという過程であるからということも言えないことはないけれども、これは虚偽の自白という類型に一体なるのであろうか。  それから、四十五年十月に勧銀の大森支店で起こった事件で犯人とされた近田才典被告、最高裁決定で確定をした。逆転無罪の二審判決を支持したが、この自白を見てみますと、変転としているわけですね。  こういうようなことを考えてみますと、これが、刑事補償法の「捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、」ということに一体なるのであるかどうか。近田被告及びチフス菌事件その他、きょうはたくさんの類型を私は持っておるわけでありますが、ここに言う三条の一号は、この近田被告やそのほかの者のいわゆる自白が転々として変わるということも該当するのですか。虚偽の自白になるわけですか。または他の有罪の証拠を作為したことになるのですか。
  38. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いろいろな具体的な事件で、被告人の自白が時期によっていろいろと変わってくる、供述内容がいろいろ変わってくるということは往々にしてあることがございますが、まず、いわゆるチフス菌事件につきましては、御案内のとおり、一審ではそういう点も問題になりまして無罪になったわけでございますが、二審の東京高裁では、自白に信用性、任意性があるということで有罪になり、最高裁でもそれが支持された、こういうことでございますので、その点については特に問題はないのじゃないかと思うわけでございます。  それから、勧銀事件につきましても、自白がいろいろと変わってきておるという問題が指摘されております。ただ、これも刑事補償法の三条の一号にありますように、積極的に「捜査又は審判を誤まらせる目的」でしたものかという問題もございますし、また、本人の記憶等によりましてそういう客観的には違っている供述をするという場合もあるわけでございますので、客観的に合わなかったからといって、直ちに虚偽の自白をしたと言うわけにもまいりませんし、その理由、目的というものを一々見なければならないわけでございまして、そういう自白の変遷があったからといって、刑事補償法の三条一号との関係で、ここに言う捜査、審判を誤まらせる目的の虚偽の自白というふうにすべてが直ちになるというものではないと考えます。
  39. 横山利秋

    横山委員 いまの御説明ですが、「捜査又は審判を誤まらせる目的」であったかどうかの判断は、検察官がするわけですね、あるいは裁判官がするわけですね。主たる主張は、第一判断検察官が「捜査又は審判を誤まらせる目的」であったかどうかを判断するということになる。  それから、被疑者補償規程においても、やはり四条の三の二号で、「捜査又は審判を誤らせる目的で、虚偽の自白をし、その他有罪の証拠を作ることにより、抑留又は拘禁されるに至ったと認められる場合」とあり、これは「捜査又は審判を誤らせる目的で」あったかどうか。拘置所の中で、長い期間にわたって密室の中で取り調べられておって、そうして虚偽の自白をした、虚偽の自白をさせられた。その結果、無罪になった、あるいは嫌疑なしということになった。そのときに、おまえ自白したのじゃないか、うその自白したのじゃないか、いや、させられたのです、いや、した、おまえの判こがついてある、こういう論争というのは絶え間なく続いておるわけであります。  ここの四条の三の「捜査又は審判を誤らせる目的で」と書いてあることについて、私は問題があり過ぎると思うのでありますが、いかがですか。
  40. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まず、補償法の三条の要件と申しますか、一号に当たるかどうかということの判断裁判所がお考えになることでございまして、その段階では検察官は関与しておりません。それがまず一点でございます。  それから、やはり目的でございますから、その目的に該当するかどうかということは、いかなる場合でも問題になると言えばなるわけでございますし、目的以外の要件につきましても、その要件に当たるかどうかということは、やはり一種の事実認定の問題でございますから、関係者の言い分が違うということはないわけではございません。その場合にはやはり裁判所がいろいろな観点から御検討されて、そしてそういう目的があったかないか、あるいはそれが虚偽のものであるかどうか、裁判所の公正な判断で事は決まるということでございます。  この目的をここに掲げております趣旨は、そういう場合にだけ補償をしない場合があるというふうに、補償しない場合を限定しよう、むしろそういう意味で書いてあるものというふうに思うわけでございまして、そういう意味では、むしろ本人の権利の保護という、そちらの面があるのではないかというふうにも思うわけでございます。
  41. 横山利秋

    横山委員 補償法では、第七条で「補償請求期間」があり、そして、たしかそれを決定するまでの期間がありましたね。何条でしたかな。第七条で「三年以内にしなければならない」と。そして、これはいつまでにその決定をしなければならないという期間はありませんでしたかな。ありましたかな。——ないですね。刑事補償法被疑者補償規程に、請求期間と、請求をされてからそれをイエス・ノーを決定する期間の定めのないのはどうしたことでしょうか。
  42. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まず、法律の方でございますが、御指摘のように七条で、裁判確定の日から三年以内にしなければならないというふうに限定がされております。これはまあ一種の権利と申しますか、もとはそういうことでもございまして、いつまでもそれが不確定の状態に置かれては困るというようなこともあって、他の場合のいろいろな補償なり給付なりの請求と同様であると思いますけれども、一定の期限を切っているものというふうに理解されるわけでございます。  被疑者補償規程の方は、特段の限定がございませんから、条文の上から言えばいつでもいいということになるわけで、むしろその方が広いと言えば広いわけでございます。  それから一方、先ほど来御疑問といいますか御指摘の、いつまでに官側といいますか、裁判所なり検察官なりがあれしなければならないかということについての明文の規定はございませんが、もちろん請求があった場合にできるだけ早くしなければならないことは当然でございまして、それはむしろ運用の問題として、関係者ができるだけ早くという精神でやること、これは当然のことであろうと考えております。
  43. 横山利秋

    横山委員 これは国民の権利としてある問題であり、あるいは補償についても人権の問題としてこういう規定がある以上は、請求権がいつまで存在するかという点についても法律並びに規程に明記をすべきであり、請求があった場合には、少なくともこれはいつまでに裁定をしなければならない、あるいは請求を棄却しなければならないということについて明白にすべきだと私は思うのであります。  いつまでものんべんだらりと、そんなえらい無実人間を長らく済みませんでしたと言うて、検事がいろいろメンツがあるんだからしばらく待っておけとかほかっておけとか、そういうことがありやすい問題でございますから、法律並びに規程に——これは法律の十六条ですね。「理由のあるときは、補償決定をしなければならない。」規程の方においては第六条ですね。「裁定しなければならない。」速やかにとも書いてないじゃありませんか。いつまでに、少なくとも三カ月なら三カ月以内にそれを裁定しなければならないというふうに書くのが当然ではありませんか。
  44. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほども申し上げましたように、性格は同一ではございませんけれども、いろいろな補償制度あるいは給付制度というものがあるわけでございまして、その場合に、国がいつまでにしなければならないということを書いている例は、どうもないのじゃないかなというふうに思うわけでございます。(構山委員「ほかがなくたって書けばいいじゃないの」と呼ぶ)それは書いても差し支えないわけでございますが、むしろ先ほど申しましたように、事柄の性質上、いつまでも横山委員がおっしゃるように漫然とほっておくということが適当でないことは論ずるまでもないところでございまして、何年以内とか何カ月以内と書くよりも、それこそ可及的速やかにやるという運用の問題である。(横山委員「可及的速やかにとも書いてないよ」と呼ぶ)それこそ運用の問題でございまして、そこに問題があれば、裁判所なり私どもの方で現地を指導するなりということで十分是正し得る問題であろうというふうに考えております。
  45. 横山利秋

    横山委員 誠意がないね、ちょっと刑事局長、答弁に誠意がないよ。可及的速やかにやっておるといったって、十六条も補償規程の六条も可及的速やかにとは何も書いてないのですよ。これは人権の問題なんですよ。  だから、少なくとも法を改正して、三カ月以内に補償決定をしなければならないと十六条を直す、補償規程は第六条の裁定で三カ月以内に補償裁定書ないしは補償しない裁定書、そういうものを改正してやれと言っているのですよ。もうちょっと誠意のある答弁をしてくださいよ。大臣、どうですか。
  46. 前田宏

    前田(宏)政府委員 むしろ、誠意がないという御批判でございますが、先ほど来申しておりますことは、運用で十分気をつけなければならないし、そういう御指摘でももしありましたならば……(横山委員運用の問題じゃない、法律改正議論している」と呼ぶ)要するに法律改正の要否の問題でございますから、そういう必要があるかどうか、運用が二年も三年もほってあるということでございますならば、法律規定でそれを制限しなければならないと思いますけれども、そういう実態にはないというふうに考えておるわけでございますので、そこまでの必要はないのじゃないかということをるる申し上げているところでございます。
  47. 横山利秋

    横山委員 実態がないって、あなたどうしてそんなこと言えるの。この資料の中で、請求があってから決定まで一体どのくらいかかっているか、全部言ってください。
  48. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 請求から決定までの期間でございますが、一件一件申し上げるわけにはまいりませんが、昭和五十五年に決定のありました事件について見ますと、短いものでは八日になっております。一番長いものは千三十七日というのがございまして、平均では九十日、約三カ月がかかっているということでございます。  この千三十七日、まあ三年近くかかっている事件でございますが、これはどういう事件かと申しますと、たくさん事件がございまして、その一部について無罪になって確定したという事件でございます。(横山委員「この中のどれですか」と呼ぶ)五十八番でございます。(横山委員「五十八番なら強盗殺人」と呼ぶ)はい。  そういう一部無罪で、その無罪のあった一部について補償請求がありました。有罪部分についてはずっと控訴、上告がありまして、結局この一部無罪の場合には、刑事補償法の三条の二号がございまして、これがほかの有罪の事実との関係でどういう関係にあるか、場合によっては全部または一部を補償しないでいいということになりますので、その部分が、たとえば拘禁されておりましてもそれがほかの有罪部分の取り調べに利用されているとか、あるいはそちらの方で未決勾留日数が算入されるというような事態になりますと、補償というものに影響が出てまいります。そういう関係で、その有罪の方が果たしてどうなるのか、それが確定するまではこちらの決定ができないということで他の有罪の部分の確定を待った、こういうようなことでそうなっておるわけでございます。
  49. 横山利秋

    横山委員 いまの御説明のとおりだとすれば、八日ないしは千三十七日、平均三カ月というふうにやっておるならば、よけいに、無罪になった以上は、証拠書類その他も一切わかっておるのですから、三カ月かかる必要はないと思いますよ。もっと端的に、判決書もある、資料もそろっておる、それならば、いまの併合罪のような場合は別といたしましても、もっと端的にどんどん作業が、補償の処理が無罪と同時にできるということになるではありませんか。  被疑者補償規程運用状況はどうですか、補慣と請求との関係
  50. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 裁判所といたしましては、請求があればできる限り一生懸命努力して決定をしているということだと思います。  それで、ただ、無罪があればすぐできるじゃないかというお話でございましたが、請求期間が三年間ございまして、無罪があって、確定してすぐ請求があるとは限りませんで、かなり時期がたってから請求があるという場合も少なくございませんので、そういう場合には改めて確定記録を検討するということになりますので、ある程度の期間はやむを得ないかと思います。
  51. 前田宏

    前田(宏)政府委員 被疑者補償規程の方の運用の実情でございますが、ごく例外的に三年を要した例があるということでございましたけれども、それは共犯者がございまして、その共犯者が無罪になったことから初めて補償の要否ということが問題になったという例外的な場合でございまして、それを除きますと、立件後即日と言ってもいいくらいに補償決定をいたしております。
  52. 横山利秋

    横山委員 いずれにいたしましても、法律並びに規程が不十分なところを私はいろいろたくさん指摘をしておるわけですが、いまの十六条並びに規程の六条について、請求から裁定ないしは補償決定について期間を設けて、その間に迅速に処理できるように改正をされることを要望いたします。  さて、被疑者補償規程運用状況について資料が出ていませんが、最近の状況を説明してください。
  53. 前田宏

    前田(宏)政府委員 被疑者補償規程運用状況でございますが、たとえば最近五年間、五十二年以降をとりあえず見てみますと、立件いたしました数が、五十二年から順次申しますと、四十五、百六十七、二百七、三百四十、三百四十八ということになりまして、実際に補償が行われました数は、お手元にございますかと思いますが、七、三十七、十、七、四、こういう数字に相なっております。金額的に申しますと、合計額でございますけれども、それぞれ五十二年からでございますが、十六万七千三百円、百十一万六千六百円、十四万八千九百円、十四万五千六百円、十六万四千七百円というふうに順次なっているわけでございます。
  54. 横山利秋

    横山委員 これを見ますと驚きますね。立件件数と補償人員とがえらい違いますね。五十六年三百四十八人立件して、補償人員はわずかの四人です。そうですね。五十五年では三百四十人立件して、わずか七人。五十四年では二百七人立件して、わずか十人。五十三年百六十七人立件して、わずか三十七人。こんなに立件をしても少ないというのはどういうことなのでしょうか。査定が少し厳し過ぎるのじゃないの。私が指摘したような法律精神補償規程精神とが違うところから、こうなっているのじゃないのですか。
  55. 前田宏

    前田(宏)政府委員 そういう御疑問をお持ちにならない前に申し上げればよかったわけでございますけれども、たとえば五十六年の立件数三百四十八と一番多いわけでございます。その中で心神喪失による不起訴というものが三百十五人を占めておるわけでございます。同じようなことは五十五年でも同様でございまして、三百四十人中三百一人が心神喪失ということでございます。  過去におきましては、むしろ解釈上といいますか、心神喪失のものは立件しなくてもいいのじゃないかというようなこともございまして、四十年代あるいは五十年代の前半ごろには立件してなかったわけでございます。横山委員も御指摘になりましたような何回か前の改正の際に、立件漏れがあってはいけないという御指摘もございまして、それに伴って通達も出しているわけでございます。そのとき以降といいますか、立件の手続が十分とられるようになりまして、その上で数がふえているわけでございますけれども、その実態がむしろ補償不相当な事案が多いということが、そういう立件数と実際の補償数との差に大きく出てきているわけでございます。
  56. 横山利秋

    横山委員 先ほど国家賠償の問題に付言をされて、国家賠償をすればいいじゃないかという話が出ましたが、ここに一つ事例があります。  東京高裁五十五年五月二十八日判決、刑事事件。一審が横浜地裁、控訴審が東京高裁。  被告人は、ほか数名と共謀の上、昭和四十八年十二月三十日横浜市の花月園競輪場内において、現金をすり取ったとして窃盗罪で起訴され、第一審の横浜地裁は懲役二年の有罪判決を言い渡したが、控訴審の東京高裁は犯罪の証明がないとして原判決を破棄し、無罪判決を言い渡し、同判決は確定した。  刑事補償は、五十年三月八日東京高裁に請求、三月二十四日補償決定補償金額七十八万一千円。  国家賠償請求事件は、東京地裁から東京高裁。  無罪判決を受けた本人とその妻らが、検察官には被害者の供述を軽信し、本人が犯人でないことを示す多数の証拠を看過した点に過失があり、また、捜査をした警察官には、被害者の供述調書を漫然と作成して検察官に予断を抱かせ、慎重な捜査を怠らせる端緒をつくった点に過失があるとして国及び県を被告として訴えを提起したところ、右裁判所は、本件検察官の公訴の提起・追行は違法な公権力の行使であるとして、本人及びその妻の損害の一部について国の損害賠償責任を認め、合計五百五十九万八千四百四十円を認容した。  右の判決に対し、国が控訴したが、控訴審は、被控訴人らの請求を右の限度で認容した原判決は正当であるとして、控訴棄却の判決をした。  競輪場で現金をすり取った、窃盗罪で起訴された、こういう事案ですね。  そこからこちらの方は、岐阜市内においてナンバープレート二枚を窃取し、市内において普通乗用自動車一台を窃取し、四十七年一月和歌山県で、遠洋マグロ漁船に乗船して稼動して返済する意思がないのに前借金名下に現金の交付を受けて騙取した。これに対して名古屋地裁豊橋支部が犯罪の証明がないと無罪。  国家賠償請求事件は、名古屋地裁豊橋支部へ慰謝料八十万円を請求する訴えを提起したところ、裁判所は窃盗について五万円を認容し、詐欺については請求を棄却した。  控訴審は、検察官が被控訴人を本件各窃盗の犯人と推認し、犯罪の嫌疑が十分であって有罪判決を得る可能性があるとの心証を形成したことについては、経験則及び採証の法則上、合理的な根拠があったものと認められるとして、控訴人敗訴の部分を取り消し、被控訴人の請求を棄却した。  いろいろな事例をながめているのですけれども、ここの「刑事補償決定のあった事例」ですね、提出されました六十一件が「刑事補償決定のあった事例」でありますが、この六十一件の中で国家賠償の請求をしたのは何件ありますか。——わからなければ調べておいて、後で御報告を願います。  私の推論するところ、六十一件が無罪であって刑事補償決定があった、五十五年に六十一件あった。六十一件あって、国家賠償の請求をしたものは少ないと思われるわけであります。国家賠償法は、いまちょっと御紹介いたしましたように、国、警察官、検察官等に間違いがあった、重大な責任があるということの立証というのはきわめてむずかしい。この表にありますように、被告にしてみれば、おまえはやれ傷害だ、恐喝だ、恐喝だ、放火だ、業務上過失致死だ、詐欺だと言われてどのくらいの迷惑を受けたかもしれぬが、おまえは無罪であった、刑事補償する、しかし、先ほどの私の第一の質問のように、法律による得べかりし利益なんか最高四千八百円だ。国から大変な損害を受けた、だから国家賠償の請求をしたいところだけれども、立証責任を原告に転嫁するなんてことでは、とてもじゃないけれども国家賠償の請求ができないということの明白な事例だと私は思うわけです。この点についてどうお考えですか。
  57. 前田宏

    前田(宏)政府委員 国家賠償においていわゆる故意過失を立証しなければならないということは事実でございまして、そこに困難を伴うということも否定するわけではございませんが、先ほど二つの事例について具体的な御紹介がございました。その一例については国家賠償が認められた例でございますし、一例については結局二審でそれが認められなかったというふうに、認められた場合と認められなかった場合と両方の例がたまたま出ているようなことでございまして、いろいろな困難も幾らかあるかと思いますけれども、むしろそれが損害賠償制度の原則と言えば原則であるわけでございますので、この刑事補償法によって一応定額的な補償をする、そして足りない分は原則に立ち返って訴訟の形で請求をされるという形を従来からとっており、それが現在の制度としては妥当ではないかというような感じを持っているわけでございます。  その場合に、問題は、この刑事補償法による定額補償がより充実すればおおむねその損害を補てんできる、こういう現実的なことになるわけでございまして、きわめて例外的なものについてはそういう原則でお願いをする、通常の場合はこの刑事補償法による補償で実質的にカバーできるということになれば、事は実質的に片づく問題でございますので、そういう意味でもこの補償金額の引き上げということに従来も努めておりましたし、また今回もぜひお願いしたい、こういうことになるわけでございます。
  58. 横山利秋

    横山委員 国家賠償法を改正をして——五十五年に六十一件のものがあって、国家賠償法の請求がきわめて狭い門であるという点については、私どもとしてはつくづく残念であって、無罪判決を受けた人々に国家賠償法の門が大きく開かれるように不日、私どもとしては改正の提起をいたしたいと思います。  こういうようにこの刑事補償法が適用されるということは一体なぜであろうか、なぜこういう問題が起こるのであろうか。その源泉を私はいろいろ調べてみますと、要するに、本人の自白というものがやはり根底にある場合が非常に多いのであります。先ほど「捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証拠を作為することにより、」という法律の文章を引用をいたしましたが、この虚偽の自白をしたのかさせられたのかという点について、二、三の事例を引用して警察当局の所見を聞きたいと思います。  まず第一に、先般下獄をいたしました千葉のチフス事件の鈴木被告の問題であります。  ここに畑山博さんの書いた「罠告発—日本の裁判」という本がございますが、こればかりでなくて、私はいろいろな資料をもって千葉のチフス事件について研究をしてみました。そうして一言をもってすれば、千葉のチフス事件は自白があるけれども証拠がない、何らの物的証拠がない、こういうことに推論をせざるを得ないのであります。先ほど引用した「自白調書に現れた「犯行方法」の変貌」について、本人の自白なるものがずいぶん変わっておる。一体なぜこんなに状況が変わったのかということを調べてみたわけであります。  そうしますと、この千葉のチフス事件について語るところあるいは聞きたいところ、実に多いのでありますけれども、この発端は新聞から始まって警察が後追いをしたということ、内部告発であること、それから千葉の病院が全く衛生状態が悪かったこと、カルテその他が病院関係者によって隠滅させられたこと等が特色なんでありますが、自白に至る過程というものをちょっと引用をしますと、   鈴木美夫、大矢房治は強盗殺人犯を落とすベテランとかで、八、九十キロに見える巨躯の持主。日色義忠は痩せて神経質そうだった。それが目の前に二人立ち、日色が後に立って、「さあしゃべれ。さあ聞くべえ」「きさま」「ばかやろ」「おれたちは強盗、強姦みんな落としてきたんだ」とたてつづけにどなる。   充は、 被告です。   充は、葛城病院に二十四日間、強制入院させられ、菌検出検査の名目で食事も制限されていた直後だったので、ひどく疲れていた。そこへもってきて、耳もとで手メガホンを作って「さあしゃべれ」とやられるのですっかり憔埣してしまった。   黙秘すると、日色も前にまわり、三人でぐいぐい机を押して壁に押しつけられた。   「取調べの三人が最も嫌ったのは黙秘なんです。恥かしい話ですが、机を押しつけられて何度も脱糞してしまいました。そして、糞まみれの下着をはいたまま責められるのです」   充は言う。   「しゃべらなければ、手錠をはめたまま千葉大や地元の下古城を引き回してやる。実地検証という名目でやれるんだ、と言うのです」   お前がいくら弁護士を頼りにしても役に立たない、あいつらは弁護料として家屋敷みな取ってゆく、身ぐるみはがされてしまうんだぞ、とも言われた。 それから、その次になりまして、   取調べは、連日朝早くから夜遅くまで行なわれた。「他の証人はこう言っているぞ」と言って調書のようなものを読んできかされたこともあった。それを聞いていると、味方だと思っていた親類、友人までみんな自分を疑って見ているようだった。   「両親が週刊誌に“早く自供せよ”という手記を書いてるぞ。写真も出てるぞ、ほら。本当は山岡検事に怒られるのだが、特別に見せてやる」といって、遠くから見せられる。記事のところはわざと手で隠されていて見えないのだが、写真は確かに両親の写真だ。(ちなみに、当時、そのような内容の週刊誌はない)   取調べ室の真向かいのドアがだんだんかすれて見えてくる。しかも、あのドアを開けることが出来ても、その先はさらに遠いのだ、外界は千里も離れているのだ、そう思うとどうしようもない無力感にとらえられてくる。  「あの気持だけは、入れられた者しか絶対に分かりません」   逮捕後七日目の四十一年四月十三日。  「おめえ、やったろう。やったと言え。やった。やった。やった」   またしても手メガホンの大音声。   「ふりかけたろう」「刺したろう」「土屋さんは白金棒でやったと言ってるぞ」   その日は取調べの刑事は四人いた。   充がいつまでも黙っていると、とつぜん相手は口調を変えた。   「ところで、川鉄には従業員は何人ぐらいいるかね」   事件とはまるで関係ないことだと思って答える。   「さあ、何人ぐらいですか」   「ところで、あれをやったろう」   相手は説く。   また口をつぐむ。   「今までしゃべっていたのに、なぜ急にしゃべり止める。しゃべれなくなったのは、やったんだろう。やったと言え」   充はなおも黙っている。   「ふりかかる火の粉を払えると思うのか。さあ言え」   たたみかけるようにまた言われる。   朝からえんえんとそれをやられて、充はもうろうとしていた。時間が何時ごろなのかも分からなかった。とつぜん外へ出て行って戻ってきた鈴木美夫警部が妙なことを言った。   「今情報が入った。今、君の両親が社会にあびて自殺しようとしている。堀内十助夫婦が助けにとんでいる。日色刑事も行っている。おめえが自白しないからだ。おめえは、こんな中に入っているから知らねえが、父親と母親が今テレビの画面に出て大変なことになってるんだ」   「おめえがやったってことになんないと、自殺するんだぞ。え、鈴木、何とか言え。返事しろ。やったってことにすれば、すぐ向こうへ連絡する。そうすれば自殺が防げるんだ」   「………」   「カステラ事件認めろ。それで両親が助かるんだ。親が死んだら元も子もなくなるんだ」   「………」   「勤めに出てるおめえのかあちゃんの立場もちゃんと勤めやすくしてやる。さ、認めろ」  充は連日の取調べの中でとうにふだんの判断力を失くしていた。ささやかなカステラ事件一つ認めれば、この場が収まるならと、ふと思ってしまったと充は言う。   「さあ返事しろ。鈴木」   「はい」   思わず充は答えていた。   「よし。聞いたぞ。今の言葉を三人が聞いたぞ。記録したぞ。これが何よりの証拠だ。さあ先を聞くべえ」   父親繁の証言によるとその日の深夜三時頃、小山町下古城の充の実家では、年老いた両親が、日色義忠の訪問を受けていた。 省略をして、   その家の中で寝ていた両親は表の戸をドンドンと叩く音に目を覚ました。   「千葉中央署の日色という者だが、充君から頼まれてきたのです」   日色は言った。   「本人は今自白しそうな気持になっているのですが、親がショックを受けて自殺するかもしれないというのです。安心して自白するように一筆書いてもらいたい」   そして充からの言伝てとして、   ○子どもは医者に育ててほしい。   ○親の面倒は収がみる。   ○三越から買った背広を差し入れてほしい。   その三点を伝えた。   日色は「早く本当のことを言って楽になれ」と書くように、繁に言った。が、繁は「こっちは元気だから心配する必要はない」と書いた。   母親琢が立って前庭に出て、充の丹精している花を一茎折り、「これを息子に届けてください」と警部補に託した。  これを読みまして、私も留置場なりどっかに入っておった人の心境を数人から聞きましたが、留置場におる者の心理、警察の調べの仕方、そういうものをまことに如実に感得いたします。  先般、私の名古屋でビジネスホテルの若い経営者が売春あっせん行為をしたということで二十日間入りました。母親がやってまいりまして、私のところは実際そういうことはしておりません、こういうことなんですが、あんまがパンマだったわけですね。そのパンマであることは事実らしいのですけれども、ビジネスホテルとしてはそれがパンマをしたのかどうかは本当に知らないと言っておったわけですが、その取り調べの状況を見ますと、新聞に出たからおまえの子供が学校で何と言われているか知っているだろう、おまえのところはハンパン宿だと友達に言われておるぞ、おまえがゲロしないならばおまえのお袋も、これが七十幾つですか、二十日間引っ張ってやるべえ、こういうことを言われて、自分としてはそんなパンマだということの確認もしていないし、そんなことは自分としてはあずかり知らぬことであるけれども、まあやったかもしれない、パンマであったかもしれないと言わざるを得なかった。そうれ見ろ、そういうことを承知の上でやったんだろう、あっせんしたのだろうというところへ追い込まれた。  そこへ行くまでの二十日間の留置場における密室の取り調べというもの、本当に自分としても大変な体験をいたしました、こういうことを私に告白したわけですが、このチフス事件の取り調べの事案について警察庁はどんな感懐を持っておりますか。
  59. 仁平圀雄

    ○仁平説明員 千葉大のチフス事件につきましては、ことし五月二十五日に最高裁で上告棄却の決定がなされまして、第二審の有罪判決が支持されたことは御承知のとおりでございます。この第二審判決におきましては、自白の任意性及び信用性を認めておるわけであります。そういう意味では、警察の取り調べに特に行き過ぎがあったという指摘はなされておらないわけであります。  この事件は、先生も御指摘になられましたように、新聞先行の事件であったとか内部告発事件であったとか、さらには証拠の隠滅がなされておったとか、また事件そのものが細菌学という非常に専門的な領域の犯行であったというようなことから、被告人から取り調べによって聞き出す以外に方法がなかったという性格の事案であろうと思います。したがいまして、取り調べもむしろ被告人から教えられながら調べたというような状況でありまして、いろいろ問題はあるわけでありますけれども、全体として供述には任意性、信用性があると認められておるわけでありまして、警察として特に問題があったというふうには考えておりません。
  60. 横山利秋

    横山委員 いま下獄をして再審の請求の準備をいたしておるのですけれども、あなたもいま問わず語りにおっしゃったように、要するに細菌学の非常にむずかしい問題なんだ。要するに、それは私の言うように自白だけで、本人がカステラなりバナナの中へ混入した事実関係証拠は何にもない、本当に何にもない、こういう奇怪きわまる事件なんであります。チフスが各所で発生をした、そのチフスの発生の場所を尋ねてみると鈴木充が歩いておる。逆に言えば、鈴木充が歩いた、方々歩いておるのですけれども、鈴木とチフスの発生したところだけをどんどん押さえていったということなんで、鈴木充が歩いていないところにもチフスは発生しておる。そして、千葉大の病院施設というものはこの事件によって大改革をなされて、自来ばっとチフスがやまったということなんであります。  私は鈴木充に下獄前に二回ばかり会ったわけでありますが、私はこの種の問題について犯人であるかないかということを断定するのは避けたいと思うのです。しかし、いずれにしても、あらゆる千葉大チフス事件についての資料を私も持ってみまして、検察陣にあるいは判決にどういうものが物的な証拠であるか、私なりに見ています。学理的なことは私にはよくわかりません。わかりませんけれども、物的な証拠は何かと調べてみましたところが、何にもないんですね。何にもない。ここがこの千葉のチフス事件、要するに自白だけ。  で、自白をなぜしたか、自分の罪でない、そんなことはした覚えがない自白をどうしてしたのかというのが、私がとことんまで本人を追及したところなんであります。いまは畑山さんの資料をもってやったのですが、上告趣意書からいろいろなもの全部ここにあるわけですけれども、まことに何の証拠もないという奇怪きわまる事件であります。私は、そういう点では、いま引用いたしました自白に追い込んだ状況というものが、ちょっと寒けのするような気分を覚えざるを得ないのであります。  次は、四十二年にありました名古屋の風天会事件であります。  四十二年六月十二日夜に、半田警察署で彦坂という巡査を、突然若い者が警察にやってきて殺した。それで県警は、警察署の中で警官が殺されたという大騒動になりまして、捜査本部もセットをいたしまして、あらゆる努力をいたしました。新聞でも大変な騒ぎになりました。そして、一週間後に山本組長以下隠れた者を含めますと十三人(該当者七人)、六月十九日までに逮捕。市内に分散留置。七月上旬まで自供しない。十三人とも自供しない。それから、七月末から八月上旬にわたって全員の自供が続く。犯行を認める上申書を出した。自供調書を出したという。八月五日ごろに次々と自供を始めたという。十月初めに一人まだ自供しない。凶器が見つからない。十二月十五日ですか、県議会で県警本部長は、この七人を含む十三人の風天会の殺人と発表。そして十二月二十日、最後の本多供述書がとられる。そして、新聞は一斉に風天会の犯罪として報道をしたわけであります。ところが、十二月二十一日夜に、Kという少年がふろしきを抱えて、物的証拠である背広とやすりを持って警察へ来て、私がやったと言った、簡単に言うとそういうことであります。この半田警察署の風天会事件というものは、もう地方においては一世を聳動さしたような大事件でありました。  そして、私がいまずっと改めて調べていったわけでありますが、警察内部にも意見の違いがあった。いわゆるデカといいますか、本当に昔からやっている下積みの刑事は、二十四時間調べておれば、こいつがシロかクロか大体おれはわかる、これはシロだ、風天会じゃねえということでずいぶんがんばった人もあるけれども、県警本部は、風天会だ、ゲロさせろ、どんなことがあってもゲロさせろという命令で、名前をいろいろ挙げるのは省略をいたしますけれども、これはもう愛知県警の一大チョンボであります。  いまでもこの七人が供述した自白調書があるはずでございますが、御存じでございますか。自分がやりました、自白調書があるはず。警察にあるのか地検にあるのか、知りませんけれども、それがあるはずであります。この風天会事件についてどうお考えでございますか。その自白調書はどうなっておるでしょうか。
  61. 仁平圀雄

    ○仁平説明員 この風天会事件につきましては、先生からも御説明ございましたように、捜査の結果、風天会関係被疑者らを犯人と認定し、送致いたしましたところ、後日真犯人が名のり出まして、犯人誤認が判明した事案でありますが、この風天会関係被疑者を犯人と認定いたしました事情は、事件の前夜に、別の事件で警察に逮捕されました仲間を奪還すべく半田警察署を襲撃しようと謀議したり、また偵察をしたという事実があったということ、それに加えて、被疑者らも自供したということからであります。  また、その真犯人があらわれたわけでございますが、真犯人の供述によりますと、実は真犯人もその仲間が逮捕されたと思い込んで、これを奪還すべく半田警察署を襲おうとした、それで本件犯行を犯したということでありまして、風天会関係被疑者らの襲撃計画と偶然にも一致していたという大変希有なケースであったと思うわけであります。  こういうことから、風天会関係被疑者に対しまして、これはある程度厳しい追及が行われたことと思いますが、当時愛知県警察の方について調査いたしましたが、自白を強制したという事実はないという報告を受けておるわけであります。しかし、結果的に見ますと、犯人を誤認したわけであります。これは初期段階における基礎捜査が徹底を欠いていたということ、殺害された警察官の供述を過信してしまったこと等、いろいろ問題があるわけでありまして、警察といたしましてはこのケースは大変遺憾であったと思っておるわけであります。  それから、このときの被疑者の供述調書につきましては、多分検察庁に送っておると思いますが、写しは警察にも保管されておると思います。
  62. 横山利秋

    横山委員 四十五年には、やはり名古屋で公安スパイ事件が勃発をしております。これも語るところ実に長いのでありますが、結局は、ある女性を警察がスパイとして利用して、最後は突っ放した横井久子という女性の問題があります。  それから、同じく四十五年に、豊橋の親子三人殺し事件があります。これも警察のチョンボと言うことができましょう  数々の事例を私が引用してみますと、今度の勧銀大森事件、行員強盗殺人事件、近田被告の無罪確定に関連して、やはりなぜ近田が自白したか。無罪の者が、無実の者が、近田がなぜ自白したかという点に融れざるを得ないのであります。  最高裁が二審の無罪判決を支持し、検察側の上告を棄却したわけでありますが、「取り調べは苛烈で、任意性にも疑いがある。科学的な捜査への徹底を欠き、自白偏重に陥ったうらみがあることはまことに遺憾」、こういう批判をしておることも御存じのとおりであります。     〔委員長退席、中川(秀)委員長代理着席〕 「自白には不合理な点や客観的証拠と合わない点が見られ、信用できない」と突っ放しておるわけであります。これは一体どういうふうに考えたらいいでしょうか。伊藤次長検事は、「やむを得ない。最高裁として十分検討したうえでの結論だろうと思う。私としては、今後の問題として、控訴審における取り組みを強化していかなければならないと考えている。」と語っておるわけであります。  ここでお伺いをしたいのは、この「事実誤認などの法定外の理由検察最高裁に上告した例は、過去にも八海、松川、幸浦事件など、いくつかあるが、そうした例外的な上告は本来、極限的な場合に限るべきである。検察上告は近田さんの苦痛に三年余の無用の時間をつけ加えた。検察は上訴権の行使にもっと自制的であるべきである。」という朝日の社説に、まことに私は同感なんであります。地検、高検等が判決に不服を持って上告をするということは、これは許されたる権限ではありますけれども、少なくとも諸般の状況からいってこれが形に終わるというようなことであるならば、上告についてもっと自制をすべきではないか。これが上告していなかったら、近田さんは三年前にもう無罪判決が確定をしておるということが言えるのではないか、そう言われておるわけであります。  また、被害者の家族に謝罪の手紙を書いたそうであります。手紙は、捜査段階に捜査官の前で書いたものだ。けれども、謝罪の手紙でありながら、近田さんの指印が押されておる。これは証拠を残すために捜査官が近田さんに書かせた疑いが強いではないか。こんな謝罪の手紙に指印を押させるということ自身が、いかにもその場の雰囲気を物語っているわけではないか、そう思われるわけでありますが、いかがでございますか。
  63. 前田宏

    前田(宏)政府委員 御指摘の事件につきまして検察官側から上告をしたことについて、いろいろと御批判もあるわけでございますけれども先ほども御引用になりましたような言葉をそのまま使うわけではございませんが、極限的というか例外的といいますか、やはり事案によっては最高裁判所までの御判断を求めたいという場合もないわけではないのでございます。特に本件の場合は、事案自体が大変重大な事案であるということはもとよりでございますし、また、一審では有罪になり、無期懲役という重い刑が科せられたわけでございます。それで二審になりまして、それが逆転してといいますか、無罪になったということでございまして、いろいろな問題を含んでおるわけでございますが、それだけ裁判所の御判断も二つに分かれるというようなことでございます。  それから、最高裁決定でも言っておりますように、結果から言えば無罪でございますからとやかく言うこともどうかと思いますけれども、全く疑いがないわけではないというニュアンスの部分もあるわけでございまして、そういう大変重大な事案についていろいろな見方があり得る。事実の認定あるいは証拠の評価、いろいろな見方がある重大要件でございますので、場合によっては上告するということも許容されるわけでございますから、その例に当たるのじゃないかというふうに思っているわけでございます。  私どもといたしまして、自白を強制したり、誘導したりしてはならないことは当然でございますし、また仮に自白がありました場合に、それをうのみにしてはならないということはもちろん十分考えておりますし、また指導もしておるわけでございます。しかし、事件によりましては、いわゆる明白な物証がない事件、ある意味では供述に頼らなければならない事件というものも多々あるわけでございます。たとえば暴力団関係の組織的犯罪でございますとかあるいは覚せい剤の転々譲渡事犯ということになりますと、いわゆる突き上げ捜査とか掘り下げ捜査が必要だというふうに言われるわけでございます。それによって供給源までさかのぼるべきである、それによってこそ覚せい剤事犯は根絶できるのだという御意見、またそういう見方もあるわけでございまして、ある程度供述を求めなければそういう根源を突く捜査もできないという事態も反面にはあるわけでございます。  そういうことでございますから、捜査官といたしましては、そういう事案の真相を明らかにする、それによって覚せい剤なら覚せい剤の根源を突いてそれの絶滅を図るという期待といいますか、要求もされておるわけでございます。そういう中でいまのような問題もないように、強制、誘導等にわたらないように、また自白がありました場合に信用性なり関係証拠との符合の問題とか、そういういろいろな点について配慮、吟味というものをしながら適正な処理をするというのが捜査官の立場でございまして、ある意味ではむずかしい問題を両立させなければならないという大変困難な立場に置かれているわけでございますが、そういうことで今後とも十分努力してまいりたいというふうに考えておるわけでございます。
  64. 横山利秋

    横山委員 この五月二十七日の新聞によりますと、愛知県「豊明市汚職 県警捜査に汚点」。事案は、兼子という、もうやめられたのですが、助役が職員の採用について有利な取り計らいをしたということで五十万円を受け取ったとして、三月四日収賄の疑いで県警二課、岡崎署に逮捕され、銭を出したという二人も贈賄で逮捕された。しかし、岡崎支部は、勾留満期の三月二十五日、捜査資料が不十分として処分保留のまま三人を釈放、ところが、同課と同署は、釈放直後に兼子前助役だけ、別に公共工事をめぐって汚職事件があったとして収賄容疑で再逮捕、贈賄容疑で浦野という設計事務所の社長も逮捕。だが、この事件についても同支部は、容疑が固まらないとして、一回目の勾留満期の四月六日、二人を処分保留のまま釈放、結局不起訴処分になった、こういうわけであります。  助役はこれで退職をいたしました。そして、退職金や何かすべて棒に振ってしまいました。これは釈放即逮捕という、何か別件逮捕で逮捕しておいてやったように思われるのですが、それが釈放しなければならないといったら、表門で待ち構えておって、おい、今度は収賄罪で逮捕するということですぐに逮捕する。それもアウト。まことに奇妙きてれつなものであって、県警としては何をやっておるのだという感じを持ったわけでありますが、御報告は来ていますか。
  65. 森広英一

    森広説明員 御指摘の事案の県警の捜査の経過等につきましては、先生が御指摘のとおりでございまして、特に御説明する必要はないと思いますが、いまのような捜査が行われた経過におきましては、それなりに罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がございまして、そういう容疑に基づいて法定の手続によって令状を請求して、正規に被疑者の身柄を逮捕して処置をしておるものでございまして、捜査の仕方自体に違法の問題は存在しない、かように考えております。
  66. 横山利秋

    横山委員 違法がないといったって、助役や有名な社長をつかまえて、そして、間違っておりましたとか、不起訴でございます、はい、さようならと、それで済むものですかね。  ちょっとお伺いしますが、これによりますと、愛知「県警本部は岡崎署からの事件報告書をもとに捜査二課で捜査内容の採点をした、このほど「百点」の評価を与えるという連絡が同署に届いた。」そうであります。  「点数制度は同県警でも汚職、知能犯専門の各署刑事二課で、五、六年前から一般的に行われている。前年の検挙実績などを踏まえ各署に「努力目標」とする点数が、県警本部から伝達される。無銭飲食は最低の一点。事件の規模、捜査の難易度、社会的評価によって徐々に点数がふえる仕組みだが、ずば抜けて点数の高いのが「汚職」事件の一件百点だ。」そうです。  「岡崎署のことしの努力目標点数は二百五十五点というから豊明事件で四割の“実績”を上げたことになる。」こんなにチョンボしておいて、百点もらって……。「上半期ではいったん集計されるが、同署の肩の荷は大変軽くなったといえる。」  「点数については「目標管理の手段として取り入れているが、あくまでもひとつの目安。達成、不達成は評価の対象とはならない」」。チョンボであろうと何だろうと、努力したことは百点やると、いいかげんなものだと思うな。「第一線では「達成できなかったら格好が悪い」と本音も聞かれる。ある検事は「捜査として送り(送検、書類送検)を済ませてしまえば点数が計上されるのだとしたら、おかしい。何のための捜査か」」と手厳しく言っておる。  こんなことが本当に全国の各県で行われているのですか。愛知県だけですか。チョンボであろうと不起訴であろうと、おまえらが努力したので結構だ、満点の百点だといって、岡崎署はよかったよかったといって喜んでおる、こういうわけです。こんなばかなことが一体どうして通用するのですか。
  67. 森広英一

    森広説明員 いまのようなことが報道もされておりますし、県議会の問答にもあったわけですが、俗に百点と言われておりますけれども、これは何ら捜査に問題がなかった、よくやったという意味の百点という意味ではなくて、努力目標の問題として、そういう技術的に数字を当てはめているだけのようでございまして、決して、問題がないという意味の百点という意味ではとらえていないということでございます。  なお、御質問にありました、こういった部内の評価制度を全国的にやっているのかどうかという点でございますが、この制度は、愛知県が独自に本部長の通達でやっておる制度でございます。  それから、この事件につきましては、結果的に、御指摘のとおり起訴になっておらぬわけでございますが、先ほど来いろいろ御議論がございますけれども、被疑者の供述等の関係において、決して全く無実の者を逮捕して、人違いをして事件を立件したというようなものではございませんで、現在まで問題は残って、補充の捜査もまだ現にしておる、こういう事件でございますので、御理解を賜りたいと思います。
  68. 横山利秋

    横山委員 不起訴になったからといったって、まだやっておるから承知してくれとおっしゃるけれども、私は、いまごろからまたこれをやるようだったら、また笑われると思いますよ。愛知県だけがそんな点数制で、あなたは瑕瑾がないというわけではないと言いながら、満点ですよ、県警は百点やっているんですよ。不起訴になった問題に百点やって、そして岡崎署の努力目標は二百五十五点ですからね。この豊明事件で社会的に黒星を受けながら、この種の汚職の最高点、百点をもらっているんですよ。こんなやり方はおかしいと思いませんかね。いい仕組みだったらよその県でもやっているでしょう。  愛知県だけがなぜこんな——とにかく何でもやれ、点数をたくさんとらなければわが警察署の名誉にかかわるといって、督励をしておるようなものですね。何でもいい、引っ張ってこい、引っ張ってきて起訴にならなくても点数をやるということになりはしませんか。この豊明がいい証拠じゃありませんか。こんなこと、やめさせなさいよ。どうです。
  69. 森広英一

    森広説明員 点数制度というお言葉でございますけれども、これは昔いろいろ御批判がありましたような一定のノルマといいますか、達成目標を掲げて、その達成に至るまでは是が非でもやれ、こういうような悪い意味での点数制度をやっておるものとは思っておりません。この問題は、一つの努力目標、事件を警察がやるのは基本的には責務でございますので、目標を示しただけであって、これに到達しなければ、たとえば懲罰するとかそういうものではございません。点数制度という御批評でございますけれども、そういう悪い影響のないように運営させるように指導してまいりたい、かように思っております。
  70. 横山利秋

    横山委員 そんなことを言ったって、こういうことがもう社会的にわかっちゃったんですよ。岡崎署のやることなり、警察のやることは、おお、おまえ、点数を稼ぎに来たかということになるのですよ。しかも、これが努力目標だといったところで、おれのところの署は点数は何点だとちゃんとわかっているでしょう。現場の警察官は、交通は何点だ、刑事は何点だ、防犯は何点だ、おお、あかんぞよ、もうちょっとがんばれということになるのは必至じゃありませんか。何ぼ努力だといったって、そんなもの結果はわかっていますよ。  そういう点数制度でやっている愛知県警の岡部刑事部長の妻が、名古屋市中村区大門町のトルコ街に購入したマンションに暴力団が組事務所を開設しておるわけですね。これはもうごらんになったと思います。大変な騒ぎです。私も中村区に住んでいるのです。私のうちのそばなんですよ。それで私はきのうも街頭演説をやって、こうなっておるのですけれども、中村区を回ったんですよ。トルコもある、暴力団もおるわけです。  そこで、商店街の人たちがここの改造をする、昔の中村遊郭です、それの改造にいま一生懸命になっているわけです。一生懸命になって「大門地区結束」「暴力追放 手ぬるい」というわけで、先般来も、私も、あそこの辺に、宿屋がはやらないのでマンションをやるというわけで住宅金融公庫に行ったら、住宅金融公庫が、いやあ、横山先生、あそこはまだトルコぶろがあるでねえと言っておる。私は、トルコぶろや暴力団、町の改造のためにみんなが一生懸命にやって、マンションをつくり、住宅をつくるということでやっているのだから、協力してやってくれと言ったら、それなら条件つきで協力しましょう。それから、あるマッサージやいろいろな学校をあそこにつくることになった、厚生省が。トルコぶろや暴力団がおるから、そんな学校なんかいかぬぜという意見があった。いや、これもとにかく町の改造の一環だからひとつ何とか了解してもらいたいというわけで、技工士か何かの学校がまたあそこへできるわけですよ。そういうわけで、商店街は一生懸命大門地区の改造に全力を挙げておるわけです。  そこへ何ということか、刑事部長の奥さんが、あそこでマンションを買って、暴力団の組事務所を入れているそうな、どういうことだというわけだ。ところが、刑事部長が記者会見しておっしゃったことが、奥さんが遺産相続で銭をもらった、東京かどこかで銭を使おうと思って、税対策のために買った、買ったら組事務所がおることがわかったから、いま立ち退き請求をしているところだ、プライバシーのことだからそう文句を言ってくれるな、こういう言い方をしたものだから記者も怒ってしまう。  大門の商店街振興組合は七月二十九日、大門地区四学区の住民代表と連絡会議を開いた。ところが、警察署長が来なかった。警察署長は刑事部長に気がねしたかどうか知りませんよ、来なかった。また怒っている。そうしたら警察署長が今度は来たそうですが、いずれにしても、稲川理事長の言い分は、「警察に対する暴力追放の要望書を作って住民一丸となって環境浄化運動を進めていくつもりだ。そのためにも、まず警察の協力と的確な指導を仰ぎ、立ち退きを強く要望していきたい」。もう遺憾千万なことだ、警察は、上部のやっていることだからおれは知らぬ、そんなことがよう言えたものだ、こういうことなんです。  私は大蔵に長らくおるわけですけれども、奥さんに遺産相続があったからといって、マンションを買うと税対策になるのかなと思っている。どうしてなるのだろう。税法上どうなるのだろう。不思議でかなわぬのです。そんなことを刑事部長ともあろう人がわからぬはずはないが、何かそこにもう一つからくりがあるのじゃないかという気がしてならぬのです。これは、なるほど女房のやったことはおれは知らぬといって済ませる問題ではないのですね。さっきの岡崎署の点数問題、二百五十五点、これも一体刑事部長がやっておるのか、前任者からの引き継ぎか知りませんけれども、どうもチョンボが多過ぎますよ、愛知県警は。私は決して他の問題について愛知県のお巡りさんのやっておることについて敬意を払うにやぶさかではないけれども、しかし、こういうことはあかんですよ。点数制度はあかん、奥さんにマンションを買わして組事務所を住まわしているのはあかんですよ。やめさせなさいよ。     〔中川(秀)委員長代理退席、委員長着席〕
  71. 森広英一

    森広説明員 報道された問題で御指摘でございますが、確かに御指摘のような経過でマンションを購入しておるわけでございますが、本人等につきまして私どもで調査をいたしましたところ、決して暴力団であることを承知で住まわしたわけではない。これはさる信託銀行に依頼をして、世話をしてもらってマンションを買い、さらに、この管理につきましては、本人が営業で管理しているわけではございませんで、マンションの管理を専門とするある会社に依頼をしてやっておったところが、たまたまそういった暴力団と知らないで管理会社がそういう者を入居せしめたということが判明いたしまして、本人としては、ただいま先生も御説明ございますように、従来から警察はそういった場合に住民と一緒になって暴力団の排除の運動をしております関係から、これはよろしくないということで、これは個人の問題でもございますので、その奥さんみずからが暴力団の排除を要求する民事の訴訟も提起をして、何とか暴力団を排除して住民の要望にもこたえる、また自分も姿勢を正そう、こういう努力をしているわけでございまして、こういった暴力団を排除していくということは、今後とも必ず実行させるように指導をしてまいりたいというふうに思っております。
  72. 横山利秋

    横山委員 点数制度をやめさせる。点数はやめさせる。
  73. 森広英一

    森広説明員 点数制度という名前には該当しないと思いますが、その内容につきましてよく吟味をしまして、まだ私どもも正確に見ておるわけではございませんが、そのものにつきましては運用状況等もよく見まして検討してみたいと思います。
  74. 横山利秋

    横山委員 きょう私が問題をさらに突っ込まない問題があるのですよ。豊明市の問題についてまだこれからもやるつもりだということを、そんな気持ちもないのにかっこうをつけられておると思うのですけれども、これは警察内部に少し問題があるのですよ、私の承知する限り。この豊明市汚職の関係者、公職者を含めた関係者とそれから署長ベースと親戚関係にあるのですよ。私はこれ以上言いませんけれども、これはつくられた問題です。針小棒大につくられた問題です。それによって、もう大変な、長年勤めた助役なんかは次の市長に立候補する候補者だったが、政争の具に供せられたともっぱら評判にされている。その政争の具の根底にあるものが、関係者と警察のトップ——トップといっても県警じゃありませんが、トップの皆さんと縁戚関係にある。そんなことはあちらこちらでささやかれていることなんですよ。そして、これでもうある意味の目的は達したわけです。助役はもうやめて、退職金も棒に振った。  これで見ますと、採用試験で有利な取り計らいをしたというので五十万円を受け取った。それから、公共工事に浦野設計から銭を十万円だそうですが、もらった。五十万円が、十万円が本当かどうか、真相はわからないのですけれども、それだけに値するほどの大問題であったかどうか。そういうことの陰の中には政争の具に警察が利用されておるというのが議会筋内外のもっぱらの評判なんだ。これは県議会からあるいは豊明市議会から、もっぱらの評判なんですよ。  あなたは、そんなことまでおれは知らぬとおっしゃるかもしれぬけれども、そういうようなところにこの問題があって、しかも、おまえは採用のときに銭もらったろう、いや、罪がない、どうもおかしいで、嫌疑不十分だから釈放。そして表門で待っておって、おまえは今度公共工事で設計士から十万円もらったじゃないか、もう一遍引っ張る。またそれも嫌疑不十分で不起訴。こういうような大問題にどうして一体なる大事件であろうか。だから、県警捜査に汚点だと新聞が書くのはあたりまえのことなんだ。そのあたりまえのことに岡崎警察署は満点もらった。百点もらった。ますます恥の上へ泥を塗ったようなものだ。そんなばかなことを続けさせておいてはいかぬ。しかもそういうことをやっておる刑事部長が、自分の女房の買ったマンションに組の事務所を上にも下にも両方とも住まわせて、私は知らなんだ、女房のやったことだ、租税対策だで済むと思いますか、こんなこと。言語道断ですよ。  こういうことになるものですから、一体昔は刑事部長というものは下からずっとなっていった人が刑事部長になったものだ。このごろは警察庁お声がかりの学士さんがおいでになる。いわゆる近代捜査でおやりになるということだそうですが、近代捜査をおやりになるのもいいけれども、ここまで来ますと、下の方からいわゆる下積みで一生懸命やっておった人間が、風天会は、あれは間違っておると言う。岡崎の三人殺しも、あれもやり方が間違っておると言う。そういうような下積みの一生懸命やっている人が、やめてから内部告発しているのですよ。私のところにも来ましたがね。ところが、おれは何ぼ言ったって、上から、出ろ、取ってこい、何やっているのだ、そんならとことんまでやってみろと言われれば、しようがないからやっておったがね、こういうことなんですね。  そこのところは、刑事部長が警察庁お差し回しの人がいいのか、ときには下から積み上げてきた人を刑事部長にした方がいいのか、どっちも私は断定はしませんけれども、もう少しどこか考えた方がいいのじゃないか。そんな点数制度で成績を上げさせる、みんなその気にさせるというのは、明治時代じゃありませんか。大正時代じゃありませんか。そんなことは私はやらせるべきじゃないと思うのです。  きょうは、私のもっぱら焦点としましたのは、警察の中における自白の問題であります。代用監獄の中における自白の問題であります。虚偽の自白をせざるを得ないような状況をつくり上げておる状況を幾つか摘出をした次第なんです。これはまた次の国会にでも監獄法のときにいろいろな材料を取り上げて申し上げたいと思うのでありますけれども、これは警察としてチョンボが続いておりますから、十分ひとつ考え直してもらいたいと思いますが、もう一遍お答えを願いたい。県警によく言ってちょうだい。点数はやめろ、マンションはもう処分しろと。そうでなければ首だ。
  75. 森広英一

    森広説明員 いま御指摘のように、捜査というものはやはりきちんと最後までりっぱに事件として成り立って、初めて評価をされるわけでございますから、いかに一生懸命やりましても、最後がりっぱでなければならないというのは御指摘のとおりでございます。今後とも捜査というのは、よく詰めて、りっぱに評価されるような事件をやるように、県警に対して指導をしてまいりたい、かように思っております。
  76. 横山利秋

    横山委員 終わります。
  77. 羽田野忠文

    羽田野委員長 午後一時再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時十一分休憩      ————◇—————     午後一時一分開議
  78. 羽田野忠文

    羽田野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。岡田正勝君。
  79. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 警察庁の方、お越しいただいておりますか。それでは、警察庁の方から先にちょっとお尋ねをいたしますが、犯罪被害者等給付金支給法というのができまして、五十六年の一月から実施をされておるわけでありますが、その実施の状況につきまして御説明願いたいと思います。
  80. 福永英男

    ○福永説明員 お答えいたします。  同法は、先生御指摘のとおり、五十六年の一月一日から施行されたわけでございますが、以来一年七カ月経過いたしまして、この間に百九十一名につきまして給付金を支給しております。金額総額では約三億九千万円になります。したがいまして、一申請者当たりで割り返しますと約二百万円、こういう状況でございます。
  81. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 続いてお尋ねをいたしますが、この給付金の給付額ですね、これを引き上げるというような御計画はございませんか。
  82. 福永英男

    ○福永説明員 お答えいたします。  実は、本年の四月に上限を約五%引き上げたところでございます。
  83. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 次に、いままでの実績の中におきまして、最高の支払い額といいますか給付額といいますか、それの実例をひとつ御披露いただきたいと思います。
  84. 福永英男

    ○福永説明員 いま申し上げました改正を行う前の事例でございますが、八百五万五千七百二十円を支給いたしましたのが、いままでの最高事例でございます。
  85. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 一部、これは私の聞き違いかわかりませんが、何か千百万というような実例があったのではございませんか。
  86. 福永英男

    ○福永説明員 御指摘の例は、一事件で複数の被害者があった例ではないかと思います。
  87. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 どうも警察庁の方、ありがとうございました。結構です。  それでは次に、大臣もしくはその他の方からお答えいただきたいと思いますが、私は素人でよくわからぬのでありますが、この刑事補償法補償、それからまた保障、それから国家賠償法における賠償というような言葉がしきりに出てくるわけでありますが、この刑事補償法で言います補償という意味をひとつ解説して聞かしていただきたいのであります。
  88. 前田宏

    前田(宏)政府委員 正確なお答えができるかどうかと思いますけれども、性格的には損害賠償の一種だということになろうかと思いますので、性質は賠償だと思いますけれども、国家補償あるいは刑事補償というときには、補償という言葉を使っております。これはやはり国の公権力の行使といいますか、そういうことによって被害を受けたといいますか、そういう場合に、国としてその被害損害の補てんをするという、その補てん的な意味もあるというようなことから、補償という言葉が使われることになったのではないかというふうに理解しておるわけでございます。
  89. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 ということになりますと、ここの刑事補償法の中におきます千円から四千八百円までというものの上限だけを七千二百円に引き上げようという、その七千二百円というのは一体どこから出てくるのですか、その根拠は。
  90. 前田宏

    前田(宏)政府委員 確かに、無罪あるいはこれに準ずるような判決を受けた方が身柄拘束を受けていたという場合の補償でございますから、幾らが適当かということになりますと、それはもういろいろな考え方があろうかと思います。そこで、昭和二十五年に制定されました当時は、二百円以上四百円以下ということであったと思いますが、それも戦前の法律参考にしながら決めたようになっているわけでございまして、科学的にといいますか、非常に細かい計算をして、これがこういう数字だということじゃなくて、やはりある意味の達観と申しますか、そういうことから一応の金額が決まったんだろうと言わざるを得ないわけでございます。  しかし、その後いろいろと経済事情の変動等もございまして、この補償はいわゆる損害額の全額を補償するというほどのものではございませんけれども、やはり賃金であるとか物価であるとか、そういう問題が一つの算定の参考にはなるわけでございまして、そういうことから、何回かにわたりまして、そういう経済事情といいますか、経済の変動を考慮しながら引き上げを行ってきたわけでございます。その結果、現在最高上限が四千八百円ということになっているわけでございまして、大ざっぱに申しまして、一年おきの場合もございますし、数年おきの場合もございます。それはそういう物価あるいは賃金の変動というものをにらみながら、予算事情もございまして決めていっているわけでございまして、従来は、前回の賃金なり物価の状況と今回改正をする場合のその間の変動、アップ率と申しますか、それを考慮に入れて、前回の金額にそういう率を掛けるというやり方を何回か続けてきておるわけでございます。  今回も基本的にはそういう経済事情というものを参考にして引き上げるという考え方それ自体は変わっていないわけでございますけれども、従来から国会等におきまして、この金額は低きに過ぎるのじゃないか、何とかもう少し上げることはできないか、こういう御意見、御指摘もあったわけでございますので、今回の改正案におきましては、むしろ制定当初にさかのぼって、それからの経済事情の変動というものをもう一度見直したらどうだろうか、こういう考え方最高裁と私どもとの間で事前にいろいろと御連絡申し上げて準備をしたわけでございます。そういう形で財政当局とも折衝したわけでございまして、その間の事情最高裁の方から申し上げた方がいいかと思いますけれども、そういう見直しをいたしまして、その方が従来のように前回との差をアップ率とするよりもいわばはるかに有利であるといいますか、アップ率が高くなる。こういうことになりましたので、今回のような、制定当初からのアップ率というものを掛けて四千八百円が七千二百円になる、逆から言いますと五割アップというような形になるわけでありまして、従来にないアップ率というふうになるわけであります。  こういう金額の算定の経過は、以上申し上げたようなことでございます。
  91. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 最高裁の方は、何か一言ありませんか。
  92. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 いま前田刑事局長がおっしゃったとおりでございまして、従来からこの上限が少し低きに失するんじゃないかという御指摘を受けておりまして、私どもといたしましても、財政事情の厳しい折ではございますけれども、何とかしなければいけない、こういうことで、いままでの上昇率を見てまいりますと、当初と、途中で何回か上がってまいります場合の労働者の平均賃金でありますとかあるいは物価というものを参考にしている点では同じなのでございますが、その取り入れている中身が多少違う。たとえば、当初は常用労働者の賃金というものを基準にしておりましたが、その途中ではそれ以外の、たとえば日雇い労働者とか、そういうほかの要素も入れて平均賃金を出して、その上昇率を考えておった。また物価の方も、いろいろな卸売物価等を平均いたしまして、それで物価の上昇というようなことを考えていた時代がございましたので、そういうことからいたしますと、当初この制度が発足いたしまして決められた額との間にかなり差が出てまいったということでございますので、今回はひとつ当初のものに、当初予定しておりました常用労働者の上昇率と物価上昇率というものを平均いたしまして、その倍数を掛けてちょうど七千二百円という額が出たわけでございます。
  93. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 大臣、ちょっと大臣のお考えを聞かしていただきたいと思うのでありますが、さっき警察庁の方に来ていただきましたのはほかでもないのですが、さっきの犯罪被害者の給付金、言うならば国から、いや、気の毒でしたなというお見舞い金みたいなものですね、性格といたしましては。それがいままでの、実績、一年七カ月くらいの実績を見ましても、大体一人頭平均二百万くらいにはなっている、こういう状態であります。  ところが、ここで刑事事件で身柄拘束されたというような人が、先般の質問のやりとりの中でお聞きいたしますと、無罪になるということはまず日本の場合は〇・〇一%くらいというのでありますから、一万人に一件というような状態で無罪になる。これは世界の人種どれも一緒でしょうけれども、特に恥を知る日本人といたしましては、逮捕されたというだけでも大変なショックを受け、社会的な名声に大変な傷がつく。しかもそれが拘禁をされたと言えばなおさらのことであり、財産上の損害というものも相当なものだと思うのでありますね。さらに、弁護人を頼んだり、いろいろなことに相当な金を使わなければならぬと思うのであります。  その結果におきまして無罪ということになった場合、そのいわゆる拘禁あるいは抑留しておった期間について補償する金額というのが、今度上がっても七千二百円、過去の実例を見てみましても、調査室からいただきました資料を拝見いたしましても、これは入っておった日数によって違うのでありますけれども、大体二百万くらいが最高というような辺でございまして、普通の場合は大体何十万単位、こういう状態でありますが、これで果たして、言葉遣いがいいかどうかわかりませんが、バランスがとれていると思いますか。大臣、どう思われますか。
  94. 坂田道太

    坂田国務大臣 これは、私の感じを申し上げることはかえってバランスを失することになるんじゃないかというふうに思いますので、従来刑事局長が答弁してまいりましたことで御了解を願いたいというふうに思います。
  95. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 いまの私の質問刑事局長からと最高裁の方から同様にお答えいただきたいと思います。
  96. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわゆる犯罪被害者に対します給付金の場合は、極端に言えば殺されたとか重傷を負ったとか、そういう場合ももちろん入っているわけでございますので、直ちに比較していいかどうかという問題が実はもとにあるんじゃないかというふうに思うわけでございます。そういうわけでございまして、内容が違うわけでございますから、どうも両方並べてどちらがどうかということも果たしていかがかと思うわけでございます。  むしろ犯罪被害者の方についても、もっと金額を上げるべきじゃないかという御意見ももちろんあるわけでございますし、またこの刑事補償の方につきましても、いま御指摘のようにこの程度で足りるのかという御意見はもちろんあるわけでございます。私どもといたしましては、できるだけこの金額引き上げていきたいということで及ばずながら努力をしているつもりでございまして、今後一層この補償の充実ということには努めてまいりたいというように考えておる次第でございます。
  97. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 この額が妥当な額であるかどうかにつきましては、いろいろお考えもあろうかと思いますが、とにかくこういう財政事情の厳しい折でもございます。何とか少しでもというようなことで、今回は五〇%アップをさせていただいたわけでございまして、私どもといたしましては、ただいまのところできる限りの努力をいたした、そういうつもりでおります。
  98. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 これは刑事局長お尋ねをしたいと思いますが、下限金額は据え置きになっていますね。いままででも御説明があったのでございますが、どうもちょっとのみ込めませんので、なぜ千円で据え置きなのか、その点をひとつ御説明いただきたいのと、それからいま一つは、心神喪失のゆえに無罪になりました方で、その人たちの補償というのはやはり千円でやっておるのでありますか。実績としてはもっと低い金額、一日当たりが千円ではなくて、たとえば六百円というのがあるのでありますか。
  99. 前田宏

    前田(宏)政府委員 下限の千円は今回引き上げをしない、つまり据え置きということでお願いをしておるわけでございます。従来、何回かの改正の際に下限引き上げてきた場合もございます。しかし、引き上げていない場合もございまして、今回は引き上げていないというわけでございますが、この点につきましては、これまでもいろいろと申し上げておりますが、やはり裁判所判断でその事案にふさわしい金額が定められるべきであろうというのが基本でございまして、この刑事補償法による補償は性格的には一種の定額補償でございますけれども、その中に若干のニュアンスといいますか、幅を持たした方がいいだろうということで、上限下限というものがあるわけでございます。  当初は二百円以上四百円以下ということであったわけでございますが、その後何回か改正がありまして、その幅が近くなったり遠くなったりというようなことになっておりまして、特に今回のように上限が七千二百円になりますと、下限が千円ということにいたしますと相当な幅があるように見えるわけでございますが、性格は定額だということは変わっていないわけでございます。冒頭申しましたように、そのある程度の幅の中で事案に応じた適当な金額というものを裁判所決められる、こういう仕組みになっているわけでございますが、従来の実情を見ますと、主として先ほども御指摘のありました心神喪失による無罪の場合が多いわけでございますけれども、それが下限の方に集中して行われている、こういうことでございまして、そういうことからこの千円はやはり据え置く方がむしろ妥当ではないかというふうに考えたわけでございます。  なぜかと申しますと、心神喪失の場合、結論的には無罪でございますけれども、現に犯罪に当たる行為をしているわけでございまして、その結果被害者の方を殺しているという場合もあるわけでございます。したがいまして、いわゆる無実というわけではなくて、法律上、刑法上無罪ということでございまして、一般常識からいいますと、いわゆる無実の際には補償すべきであるけれども、むしろこういう場合に補償するのはどうかな、現に人を殺しているではないかという御議論もあって、現にそれはすべきでないという強い御主張も一部にはあるわけでございます。しかし憲法で、およそ無罪の場合には補償すべきであるという大原則が出ておるものでございますから、心神喪失の場合だけを特に除くということ、これも不可能ではないと思いますけれども、そこまでいくのもどうかというようなことで、この場合も一応含める。含めるといたしますと、先ほど申しましたようにそういう場合までやるのかという御議論もあるわけでございますから、むしろそういうものは最低のところで補償した方が一般の方にも御納得いただけるのじゃないか、こういう理解でございまして、そういうことから、主としてそういう実情でございますので、下限の方はむしろ引き上げない方がいわば国民感情等にも合うんじゃないかということでございます。  なお、心神喪失による無罪の場合にどういう補償が実際に行われているかということは、最高裁の方からお答えいただいた方がいいと思いますが、法律上千円以上となっておりますから、それ以下ということはないわけだと思います。
  100. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 心神喪失等理由といたしまして無罪になりました者の刑事補償でございますが、昭和五十一年から昭和五十六年までに二十件ございます。そのうちの七件がその当時の最低の額で賄われております。その他の十三件は多少上回るわけでございますが、大体八百円の最低のところで千円というのが七件、千円の最下限のときに千五百円が二件、それから千円の最下填限のときに二千円が一件、そういうことでございまして、中間的なものが二件、それから六百円から二千二百円までの場合で二千二百円、最高をやったというのが一件ございます。大体はただいま申しましたとおり下限に近いところでやっておりまして、下限を割るということは、法律上もできないことじゃないかというふうに考えます。
  101. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 無罪が判定されたときに補償するこの補償というのは、どういう手続でだれが決めるんですか。
  102. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 これはその請求がありますと、その事件が配填になりまして、そこの裁判所が記録を検討いたしまして、諸般の事情を考慮して幾らの額が適当であるということで決定するわけでございます。
  103. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 今回七千二百円に上限引き上げますね。その引き上げをすることに伴いまして、被疑者の補償規程というものもあるはずでありますが、それの引き上げはされるんですか。もしするとするならば、いつごろの予定なんでしょうか。
  104. 前田宏

    前田(宏)政府委員 従来から、刑事補償法改正でこの金額引き上げになりますと、それと同様な改正被疑者補償規程につきまして行っているところでございます。したがいまして、この法案を御可決いただきました場合には、その実施に合わせるようにこの被疑者補償規程改正する予定でございます。
  105. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 非拘禁者の場合につきまして、補償はなぜやらないのでしょうか。
  106. 前田宏

    前田(宏)政府委員 なぜやらないのかというお尋ねでございますと、何か特にやらないように考えているようにとられるかもしれませんけれども、そういうことでも実はないわけでございます。毎々申し上げているところでございますけれども、本来、冒頭にもお尋ねがございましたように、この刑事補償というのは一種の損害賠償であるという理解だと思います。そうしますと、民事的な考え方かもしれませんけれども行為者、この場合は公務員ということになるかと思いますが、その故意過失というものが不法行為の要件でございますから、それがあります場合に損害賠償というものが初めて行われるというのが基本だというふうに理解をされるわけでございます。  しかしながら、この刑事補償法ではそういう行為者故意過失というものを論じませんで、無罪になった場合に、その人が身柄拘束を受けていた場合には定額的な補償をするということに決めておるわけでございます。これは憲法規定にも根拠があるわけでございますが、そのもとは、やはりいろいろな国の行為による損害というものがあるわけでございますけれども身柄拘束を受けていた者が無罪になるという非常に重大な場合であって、またいわば非常に例外的な場合である、そういう場合にほうっておくわけにいかないという考え方から、民事的な損害賠償の概念をいわば打ち破りまして、そういう故意過失を論じない、要件としないという例外的な制度というか、考え方をとっているわけでございます。  したがいまして、そういう例外的な考え方をどこまで押し広げることができるかという問題が理論的にあるわけでございますし、一方、国の制度全体といたしまして、国の行為によって損害を生ずる場合が多々あるといいますか、いろいろあるわけでございます。そういう場合に、どこまで国がそういう損害を穴埋めするかということになりますと、広く立法政策の問題であり、あるいは社会保障的な考え方なり、非常に広範な問題になってくるわけだと思います。ですから、それはまた国民といいますか、さらには国会の御判断ということになるわけでございますが、どこまでそういう補償的なものをすべきかという一つ基本的な物の考え方決める必要があるだろうと思うわけでございます。  申すまでもなく、この補償金額というものはまた国民の負担になるわけでございますから、そういうことから考えまして、どの辺で一応の線を引くのが国民の負担という面も含めて合理的かということになるわけでございます。国民がそういうものは非常に広く補償すべきだという考え、それは負担すべきだという考えになりますれば、おのずからその補償の範囲も広がってくるだろうと思うわけでございまして、理屈的な面とそういう国民の意識といいますか、あるいはそれの現実的なあらわれとしての財政事情とか、そういういろんな点から考えていくべき問題でございまして、従来までのところ、そういうことからこの刑事補償考えているのはきわめて極端な、つまり身柄拘束を受けていた方が無罪になるという場合に限って故意過失を論じないということにしているので、それ以外の場合にはやはり原則考えていかないと、他のいろんな場合とバランスを失するようなことも起こるのではないか。それには先ほど来いろいろ申し上げておりますように、広くいろんな点を考えて、場合によっては拡張していいという考えも不可能ではないと思いますけれども、そこまではまだいかないんじゃないかということで、現状はこういうことになっている。  とりあえず、先ほどお尋ねがございましたように、一番問題である身柄拘束を受けて無罪になった方の補償金額自体も少ないというぐらいなことでございますので、そこからまず充実していく方がいいのではないか。さらに、だんだんいろんな情勢がよくなりました場合、あるいは物の考え方が変わってきました場合に、だんだんそういう補償的なものを広げていくということではなかろうかというふうに思うわけでございます。
  107. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 最後に一つだけ。  もちろん拘禁者の方に比重を置くべきでありますけれども、承りますところによりますと、昭和五十一年の刑事訴訟法改正におきまして、こういう場合は裁判の費用を補償するという道が開かれたと聞かされておりますけれども、実際に実績があるのでありましょうか。ありましたならば、教えていただきたいと思います。
  108. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 昭和五十一年に三百五十五万五千円、それから五十二年が千三百六十五万七千円、五十三年が二千五百七十四万七千円、五十四年が千三百五十五万二千円、五十五年が三千九十八万八千円、これだけ支出しております。
  109. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 何人ですか。
  110. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 ただいまの件数でございますが、決定いたしましたのは五十一年は総数で九名でございます。それから五十二年は六十六、五十三年は四十二、五十四年も四十二、五十五年は四十、こういうふうになっております。
  111. 岡田正勝

    ○岡田(正)委員 これをもって質問を終わりますが、私は、この無罪になった人たちのお気持ちから考えますと、やはり社会的にも大変な打撃を負い、極端に言うならばぬぐい切れない大変な傷を背負っていくわけでございますので、それに対します補償というのは、当局におかれましても今回の場合は八千五百円を要求して、財政当局の財政上の都合から七千二百円でというふうに抑えられたということも聞いておりますから、了とするのでございますけれども、私ども考えからいったらどうもまだ低きに失するのではないかという感じがぬぐい切れないのであります。こういう点で将来とも改善をされますように強く要望申し上げまして、質問を終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  112. 羽田野忠文

  113. 簑輪幸代

    簑輪委員 最初に補償額についてですけれども、私どもの党は、現行刑事補償法制定の当時から、最低は決めておいても最高決めない方がよい、つまり上限を定めない方がよいというふうに主張してまいりました。その点に関して、五十三年の改正のときにわが党の安藤議員の質問に対し、当時の伊藤政府委員の方からこのような答弁がされております。「たとえば西ドイツのように上限を書いてないところもあるわけでして、それらの国の運用の実情、上が書いてないとどういうことになっておるか、こういうことも調べてみたいと思っておりますし、十分研究してしかるべき措置をとりたい、」こういうふうに御答弁いただいておりますので、その後、この西ドイツを含めましてどう研究され、その成果はどんなものがあって、その後どのような対処をすべきとお考えになっているか、お聞かせください。
  114. 前田宏

    前田(宏)政府委員 五十三年の改正の際にそういう御議論がございまして、その後、西独の制度等につきまして若干の研究調査はいたしておるところでございますが、どうも運用の実情等につきましてはなかなかよくわからない点が実はございます。  制度的には確かに上限を設けてないという形になっておりますけれども、私どもの理解をしておりますところでは、いわゆる慰謝料と申しますか、精神損害については一律に一日十マルクということになっておりまして、それ以上いわゆる財産的な損害については、その損害額が立証できた場合にはそれを加算する、こういう形になっておりまして、しかし五十マルク以下のときはしないというような例外もあるようでございますが、そういうことで、その補償金額の定め方はそうでございますけれども、その中に含まれております手続的な問題もあるわけでございまして、そういう立証がされた場合にはその額を補償金額に加えるということになりますと、当事者、つまり御本人がどれだけの損害を受けたかということを主張しなければなりませんし、それの裏づけの立証もしなければならないということになるわけでございますし、それについてまた国側からそれが納得できないというか、おかしいというようなことで争いが起こる場合もあるわけでござます。  現にこのドイツの場合に、一応の金額が決まりましても、それに本人が納得できないということになりますと、やはり民事訴訟の方で最後はもう一度争いをするというふうな仕組みになるわけでございますので、結局、行きつくところはということになりますと、民事訴訟で損害額主張し、さらにそれを十分立証するという手数、労力を要するわけでございます。そうしますと、当然のことながら、補償金額の決定、またその支給を受けますまでに相当な期間を要するわけでございます。それから、これは理屈上の問題かもしれませんけれども、その立証に成功いたしませんと補償が受けられないということにもなるわけでございまして、極端な場合にはその分がゼロになって、定額の一日十マルクといいますか、それだけにとどまるというものも理論的にはあり得るわけでございます。その場合にも、手間はかかるけれども、いわゆる実損額が立証できた場合にはそれだけ補償されるんだからというプラス面があること、これは否定できないわけでございます。一面、いろいろなマイナス面もあるということでございまして、そういう利害得失がある。  で、わが国の刑事補償法は御案内のとおり一種の定額制をとっておるわけでございまして、その金額について低いとかいろいろな問題もございます。また幅がどうだというような問題もございますけれども先ほど来他の委員の御質問にもお答えしておりますように、日本の刑事補償法におきましては、損害賠償特殊例外的なものとして故意過失を要しないで、若干の幅は設けておりますけれども定額的な金額補償をする。これはそういう御本人のいろいろな資料はもちろん参考にいたしますけれども、立証責任とかそういうものはないわけでございまして、裁判所の公正な判断によって決定をする。その点につきましては、先ほどもできるだけ早く支給するようにというような御意見もいただいたわけでございますけれども、それは運用で何とかするといたしまして、それが裁判所のいわば職権でできることでございますから、努力次第では一日でも二日でもできるということになるわけでございまして、そういうプラス面、これはまた相当大きなものがあるんじゃないかというふうに思うわけでございます。  そうなりますといろいろ利害得失もあるわけでございますから、どちらが必ずこうじゃなければいかぬということもないわけでございまして、その利害得失を勘案しながら一番いい制度、最善の制度をとるべきだということになるわけでございますが、それにつきましても、わが国の補償法でとっておりますような定額制、その上限が高くなればなるほど実際の損害に近い補償が非常に簡便に行われるということになるわけで、実質的にはそこで事が解決するわけでございます。  したがいまして、制度をいろいろ変えることももちろん検討の余地はございますけれども、そういう上限をなるべく上げていくということによって、西独なら西独の制度で考えておりますプラス面を取り入れて、むしろマイナス面は取り入れないというふうにもなっていく実態であろうと思いますので、むしろそういうふうにすることによって実質的な解決を図るのが適当じゃないかなというふうに考えて、少なくとも現在のところは基本的な物の考え方を変えるということにはなっておりません。ただ、いろいろと各国で日本の制度と違った制度もあるようでございますから、その点で取り入れるべきものがあれば取り入れて、この補償の改善というものに役立つといたしますならば、それを取り入れていくように努力はいたしたいと考えておるわけでございます。
  115. 簑輪幸代

    簑輪委員 いまお答えいただきました中で、その西独の制度はプラス面とマイナス面があるということでございますから、その中のプラス面をとってわが国の刑事補償法に生かしていくということはできるのではないかと思うわけです。たとえば、定額の部分を従来どおり認めた上で、なおかつそれを上回る損害が立証されるときには、そのときは故意過失の立証を要せず、損害額の立証によって補償をしていくという道も考えられるであろうというふうに思うわけですね。  それから、先ほど損害問題については主張を立証しなくてはならないという請求者側の負担の問題もおっしゃいましたけれども、この際は主張にとどめて、立証の問題に関しては、職権による調査ということによる方法も考えられるであろうと思うのです。現在の刑事補償法四条の二項では、いろいろな事情を掲げて、「その他一切の事情を考慮しなければならない。」としてあるわけですが、この一切の事情は、請求者側の方が証明を要する事柄ではなくて、裁判所の方において記録その他の手続を経て認定をされているように私は承知しているわけです。  ですから、これらの考え方を生かして、定額補償プラス故意過失を要しない損害主張を認めていくという方法を講じる余地はあるのではなかろうか。その点についてはいかがでしょうか。
  116. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほども申し上げましたように、基本的な考え方としては、取り入れるべき点は取り入れたいということでございますが、いまの二、三の点について申し上げますと、定額制はそのままにしてということでございますけれども、仮に定額制をそのままにするということになりますと、その金額はむしろいまよりはずっと低い額になるのではないかというふうに思うわけでございます。先ほどのドイツの例ほどではないかもしれませんけれども、一日十マルクといいますと千円ちょっとということになって、それがいいかどうかという問題も起こりますけれども、現在はそういういろいろな損害額を含めて今度七千二百円ということでございますから、それは別枠だということになりますと、いわば基本給という言葉がいいかどうかわかりませんが、そういうことになりますと、それがぐっと千円とか二千円とかいうことにもなりかねないわけで、それに現実の損害額を立証して加えていくということになりました場合に、果たしてそのトータルがどういう金額になるかということも考えなければなりませんで、直ちに現在の定額の上にプラスになるというふうにもいかないのではないかというのが基本的に疑問の第一点でございます。  また、立証を容認すべきじゃないかということは一面ごもっともでございますけれども、やはり基本的に損害額の全額を補償するということになりますと、先ほど申し上げましたこととも関係いたしますが、どうもその辺で損害賠償の性格にも立ち戻った議論が起こってくるような気がするわけでございまして、やはり損害賠償ということになれば、基本故意過失というものを要するのではないかという議論が、またそこで出てくるような感じもいたします。それを抜きにいたしまして、故意過失は要らない、しかも立証は職権でよろしいというようなことになりますと、それを理屈上どういうふうにつなげて理論づけるかというむずかしい問題にもなってくるのではないかというふうにも思うわけでございまして、確かにその辺が理論的にも矛盾なく説明ができ、本人といいますか、請求人にとってプラスになる、また国民から見ても納得できるという制度になりますことはもちろん望ましいわけでございますが、いろいろな面から検討を要することであろうというふうに思うわけでございまして、なお諸外国の例、あるいはそれを日本の場合に若干取り入れた場合にどういうふうになるか、実態がどうなるか、また理論的にどう説明ができるかということにつきまして、研究をさせていただきたいというふうに思うわけでございます。
  117. 簑輪幸代

    簑輪委員 引き続き研究していただくということでお願いをしておきたいと思いますが、いまおっしゃった中で、定額をということになれば現行補償よりもむしろ下がるのではないかとおっしゃったわけですが、別に下げる必要もないわけだと私は思うのです。やはり現行でも刑事補償として十分でないという中から、さらに引き上げるようにという声が強いわけですし、またもう一方の考え方で言えば、そういう定額補償を受けるだけでよろしいとおっしゃる人はそれでよいし、さらにそのほかに主張し立証して請求をしたいとおっしゃる人には、その道も開かれているという方法もあるのではないかと思うわけです。刑事補償については、その点憲法精神に従って一層充実させていくという立場で引き続き御研究をいただきたいし、できるだけ早い時期にそういう方向で改正をお願いしたいと思います。  今回、この補償額の算定の仕方について前々からちょっと御説明をいただいておりますので、前回までの改正の仕方とは違って前進面があるということは、私どもも十分評価できるところでございます。しかし、それでも結果的に見て、数字としては常用労働者の一日平均現金給与額という基準から見ても、いまなお低い水準にあると言わなければならないと思うのですね。  制定当時のいろいろな議論があって、これは刑事補償というものをどう考えるのかという基本的な認識にかかわってくるというふうに思いますけれども補償額について当時の論議を見てみますと、昭和二十四年十一月十五日の法務委員会の議事録で、「経済上の損失というもののほかに、さらに慰藉料も含んでいなければならない」というふうに述べられております。この当時算定した数字の根拠としては、平均賃金から定めたけれども、直ちに平均賃金からこの金額になったわけではない、「いわゆる損害賠償等におきます計算になりますと、」「平均賃金というようなもの、あるいは実際の賃金というようなものから、その本人の生計費などは差引かるべきものと考えるのであります。かような点がマイナスになり、一方慰藉料相当のものがプラスになる、そのようなところを勘案いたしまして、」二百円ないし四百円というふうな御答弁があるわけですね。  この当時の平均賃金というのを見てみますと、二十四年の五月で三百五十二円というふうに記されております。したがって、最高金額はこの平均賃金を上回っていたわけですね。こういう計算になるというその考え方の根本、いま申し上げました考え方の根本というのは、今回の金額をはじき出す際にそういう考え方でなされたものか、あるいはそうでないのか、その点をお聞かせいただきたいと思います。
  118. 前田宏

    前田(宏)政府委員 昭和二十五年の制定当時にいろいろと御議論がございましたわけですが、その議事録等を見ましても、きちっとした算定方式があって、これとこれを足して、あるいはこれを引いたらこういう数字になるということではなくて、言葉は適当でないかもしれませんけれども、ある程度大ざっばなとらえ方ということで額が決まったように理解されるわけでございます。  考え方といたしましては、いまおっしゃいましたように、賃金というようなものをまず頭に置き、それからやはり本人の生活費もかかるので、それはマイナス要素になる、それから慰謝料がプラス要素になるという、基本的な物の考え方はそういうことであったと思いますけれども、その辺がプラス・マイナス大体相殺になるというような感じで、それに若干の端数を加えた丸めた金額というと変なことでございますけれども、一応の概算的なもので考えた数字を丸い金額としてとらえたというのが当時の考え方であったろうと思うわけでございます。ですから、全く考えもなしに四百円というふうに決めたわけではないと思いますけれども、さっき申しましたように、これとこれを足し、これを引いたらちょうど四百円になったというわけでもないということは御理解をいただけるのじゃないかと思います。  そこで、その後の改正が何回かございますが、先ほども申し上げましたように、また最高裁からも御説明がありましたように、賃金なり物価なりの変動、それをその都度若干の知恵をしぼりながら、いろいろな数字を使って、基本的にはできるだけ有利にという考え方であったと思いますけれども、若干の資料は違っております。しかし、基本的な考え方はずっと一貫しておるように思うわけでございます。また今度は、先ほど来何回か申しておりますように、前回の金額にその後の変動を掛けるというやり方ではなくて、二十五年当時にさかのぼって見直してみてそれのアップ率を掛けたということでございますから、それを分析いたしまするならば、やはり四百円という物の考え方がそこに基本にあって、それに率が掛かっている、こういう理解が可能であろうと思うわけでございまして、そういう意味では、当時の考え方が今度むしろいままでよりも生きているという言い方も可能じゃないかというふうに思うわけでございます。
  119. 簑輪幸代

    簑輪委員 今回の改正の場合は昭和二十五年にさかのぼってというところに基本を置いて、しかし、そこからの賃金のアップ率あるいは物価のアップ率などを参考にしながら考えられているというふうなことのように承るわけですれけども、そういうスライド式の物の考え方ではなくて、いつ、どの時点においても絶えず労働者の平均賃金を基準にして、そこから生計費を引き、慰謝料をプラスするということで、その数字とかけ離れていないものでなければならないはずだ。それが刑事補償をどのようにとらえるかという基本的な認識にかかわると私は思うわけです。  その点から言えば、今回の改正は、平均賃金九千五百十四円というところから考えてみますと、丸めたとすれば、これを一万円ぐらいにしても少しもおかしくはない。むしろ九千五百十四円を合理化して、平均賃金の九千五百十四円から生計費を差し引き、慰謝料をプラスした数字が七千二百円になるなんていうことになれば、これは生計費よりも慰謝料の方がうんと少ないなんというとんでもないことになってしまうわけで、やはり考え方は、今後の改正においてもどこからスライドさせるということではなくて、刑事補償はどうあるべきか、労働者の平均賃金というものを絶えず見ながら、そこからずれないようにすべきであるという、そこのところを踏まえていかないといけないのではないかと思うわけです。  そして、それはもう最低のことでありまして、平均賃金相当であれば十分であるかというと、決してそうは言えないと思うのです。旧法においては刑事補償考え方そのものが新法とは違っていて、本来は補償などしなくてもよろしいのだけれども、恩恵的に気の毒だから補償するという考え方に立っていたようです。その旧法においても、平均賃金から考えてみますと、最高基準日額というのは約倍になっているのです。昭和七年の常用労働者の一日平均賃金が一円五十八銭から二円五十一銭。ですから、最高基準日額が五円と定められた旧法においては、この労働者の平均日額を上回り、倍と言ってもいいと思うのです。  恩恵的な措置ですら平均賃金の倍の補償を受けていたのに、新しい憲法もとでこれが権利として定められていながらこのような低い水準にとどまっているということは、一体いかなる理由に基づくのかという点がとうてい納得できないわけです。ですから、今回の改正幾らかの前進とは評価するものの、ぜひ平均賃金を上回る、あるいは目指すのは二倍であっても、最高額ですから一向に構わないと思うのです。そういう方向にぜひ検討を進めていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  120. 前田宏

    前田(宏)政府委員 結論から申しまして、この補償日額をできるだけ引き上げたいということにおいては、全く異論のないところでございます。ただ、細かい理屈のようなことになって恐縮でございますけれども、この刑事補償というものは、いわゆる抑留または拘禁の結果生じた損害というものをまるまる補償するというふうに考えるのか、そうでないかというところにも基本があるわけでございまして、一応従来の考え方は、全損害というものは国家賠償なり普通の損害賠償ということで考えるべきことであって、刑事補償としてはいわば定額的な形で、つまり国民の負担において一定の限度で補償をするという考え方をとっていると思うわけでございます。  その額の決め方についてはいろいろな考え方があると思いますけれども基本的にはそういう考え方であろうというふうに思うわけでございまして、東京高裁の昭和四十五年当時の決定でございますが、それにおきましても、この刑事補償金というものは生活費そのものの補償ではないから、申し立て人の当時支払いを受けていた賃金の額をもって標準とするのは適当でないというような決定もあるわけでございます。  そういうことで、基本的な物の考え方は確かにいろいろと物の見方なり考え方があるわけでございますから、これでなければならぬというふうに申すわけではございませんけれども、いろいろな先ほど来御議論のありましたようなプラス・マイナスというようなものを考えて、一応のといいますか、まずまずこの程度でまずカバーできるという金額を設定する。それで足りない分はやはり原則に立ち戻って国家賠償なら国家賠償でお願いをするという考え方をとっているわけでございます。  その場合に、もちろん賃金というものを無視するわけではございませんし、それが重要な要素になることはそのとおりでございますけれども先ほど申しましたように、その全額あるいはそれを上回るというふうには直ちにならないのじゃないか。そういう考えを否定するわけではございませんけれども、別な考え方も十分成り立つわけでございまして、そういう理論的な問題と、さらにはいろいろと国民の負担という面からの財政的な問題と、いろいろあるわけでございますので、その点を総合勘案しながら、できるだけ補償の改善を図っていきたいということになるわけでございます。
  121. 簑輪幸代

    簑輪委員 ちょっと先ほど質問とかかわるのですけれども財産上の損害について法定の最高額以上の損失が生じた場合に補償してもいいではないかという議論については、法務省の特別顧問をしておられる小野一郎博士がこういうことを述べておられるわけです。「特に、財産上の損失については、法定の最高額以上の損失が生じたことが証明された場合に、それをも補償するのが正しくはないか。」「死刑の執行による補償については、この点を考慮している。未決拘禁又は自由刑の執行についても同様の規定があって然るべきだとおもふ。」というふうに言っておられるわけですから、この点をもあわせて御十分御検討の中に入れていただきたいと思うわけです。  ところで、いま御答弁いただいた中で財政的問題があるというお話ですので、最近のこの刑事補償の毎年の予算、それから実際に補償された額、そしてそれの率ですか、一体予算額に占める実際の刑事補償額というのは何%になっているのかということがわかれば、教えていただきたいのです。
  122. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 最近の方から申しますと、五十五年度の予算額は一億七千九百七十二万二千円でございまして、支出額が六千八百九十五万七千円……(簑輪委員「パーセントは」と呼ぶ)パーセントはちょっと出ておりません。  どれぐらい申し上げましょうか。ずっとですか。
  123. 簑輪幸代

    簑輪委員 それでは、数年さかのぼっていただけますか。
  124. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 それでは五十四年度でございますが、予算額が一億五千七十九万五千円、支出額が三千九百九十九万九千円。五十三年度の予算額が一億二千七百九十一万七千円、支出額が五千五百七十六万八千円。五十二年度が、予算額が一億二千三百三十九万三千円、支出額が七千七百四十一万三千円。五十一年度の予算額が九千二百七十九万五千円、支出額が千五百三十三万一千円。
  125. 簑輪幸代

    簑輪委員 予算と実際に補償された金額とを見てみますと、予算が大分上回っておりまして、変な言葉ですが、未消化といいますか、そういう事態にあると思うのですね。ですから、この予算枠の範囲内ぐらいまでは、逆に言えば金額を上げてもよろしいのではないかという論議も成り立つやに思うわけです。  これに関連して、最高裁判所として刑事補償最高額を幾らぐらいにしたらよろしかろうかというお考えは、法務省とは別にまたお持ちだろうと思うので、お聞かせいただけたらと思うのです。
  126. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 特に私どもがどのぐらいなければいかぬというふうに考えているわけではございません。先ほどもちょっと申し上げましたけれども、私どもが予算で要求いたしましたときは、一応八千五百円を要求したわけでございます。その根拠は、お手元の方にも出ておるかと思いますが、平均賃金を九千幾らというふうに推定したわけでございます。それは五十五年度の常用労働者、三十人以上のところの平均賃金を基準にして推定したものでございまして、その九千何がしというのは三十人以上の雇用の平均賃金でございます。それ以外に私どもはちょっと入手できませんので一応そうしたわけでございますが、三十人以上の規模の平均賃金と申しますと、全体の平均から見ますとかなり上回っているんじゃないかということを考えまして、全体的にはもう少し低いんじゃないかということで大体八千五百円ぐらいじゃないか。これは推測でございますが、そういうことで一応要求したわけでございます。  いままで仰せのとおり、高いにこしたことはないかと思いますけれども、やはりいままでの経緯とか、あるいは国の財政事情というようなものもいろいろ勘案して決めなければならないことだというふうに考えまして、今回の場合は七千二百円ということになったわけでございますが、私どもといたしましてはできるだけの努力はした、そう考えておるわけでございます。
  127. 簑輪幸代

    簑輪委員 そういうことで、八千五百円でも決して十分ではないと思いますけれども最高裁の方としてもそれくらいの金額はというふうにお考えだということでございますので、次にはうんと大幅な引き上げを何としてもお願いしたいと思うわけですが、大臣、いかがでしょうか。
  128. 坂田道太

    坂田国務大臣 この問題につきましては、私どもといたしましても今後努力をしてまいりたいと考えております。
  129. 簑輪幸代

    簑輪委員 刑事補償が非常に低い、不十分だというふうに思いますけれども、ずっと刑事局長の答弁を聞いておりますと、損害賠償ということになれば、これは故意過失の立証をして、その上に損害額の立証をして国家からの賠償を受けるというのが原則であって、刑事補償の方はその特殊な形態であるというふうな御説明のように伺うわけですけれども、この国家賠償というのは、現実問題として故意過失の立証というのは非常に困難ですし、特に警察検察あるいは裁判所というところにおける不法行為というものを、全く孤立した弱い立場にある被疑者、被告人が十分な立証をしていくということは容易なことではありません。密室の中における取り調べ、その段階における強要や拷問などのようなことはとても十分な立証はできないということから考えてみても、国家賠償がこれまでにその役割りを十分果たしてこなかったというのは否定できないところだろうと私は思うわけです。  そういう国家賠償の実態というものについて、具体的に新しい憲法もとで国家賠償制度によって請求をし、そして国がそれを認めて支払ったというケースは各年何件ぐらいずつあるのか、お聞かせいただけたらと思います。
  130. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほど御通告がございまして至急に調べたわけでございますが、昭和三十五年以降、無罪事件であるということを理由に国家賠償を請求いたしまして国が敗訴した件数、これを調べてみますと、十二件あるようでございます。
  131. 簑輪幸代

    簑輪委員 これは確定をして、支払ったという件数でございますね。
  132. 前田宏

    前田(宏)政府委員 確定した件数でございます。
  133. 簑輪幸代

    簑輪委員 してみると、二十二年間にわずか十二件。まさに針の穴を象が通るに等しいほど、無罪の場合の国賠請求というのは非常に困難だということを、この数字そのものが示しているというふうに思うのです。  あわせて、もし資料がございましたら、請求した数をお聞かせいただけたらありがたいと思います。
  134. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほどは昭和三十五年以降の数字を調べて、敗訴し確定したものが十二件と申しましたのですが、請求件数はいまどうも三十五年からの数字がすぐに出てまいりませんで、四十七年から五十六年までの受理件数というのがございますが、その合計は七十二件ということでございます。
  135. 簑輪幸代

    簑輪委員 この数字が示しているように、国賠はいかに困難であるかということであろうと思うのです。だからこそ、こちらの方でやれば十分な補償が得られるではないかというようなことではなく、やはり故意過失の立証を要せず補償が受けられるこの刑事補償制度の充実をどうしてもお願いしておかなければならないと思うわけです。  ところで冤罪事件、その中で特に有名な冤罪事件について、抑留拘禁日数、それから特に逮捕から無罪確定までの年数というのを知りたいので、あらかじめお願いしておきましたけれども、わかりましたらお願いします。
  136. 前田宏

    前田(宏)政府委員 お尋ねの事件の代表的なものとして三つ御指摘を受けているわけでございますが、いわゆる古田石松老事件というのがございますけれども、これは大正二年に逮捕された事件でございますが、無罪判決がありましたのは昭和三十八年ということでございます。それから金森老事件というのがございますが、これは逮捕されたのが昭和十六年でございまして、無罪になったのが四十五年ということになっております。また、戦後のいわゆる米谷事件でございますが、これは二十七年に逮捕されて五十三年に無罪になっておりますが、これはいわゆる再審による無罪ということでございますから、逮捕されてから一審、二審あるいは上告審までいきまして、そして確定し、その後再審になって、その結果審理を経て無罪になるということでございますから、いま申し上げた期間裁判が続いていて無罪になったという意味ではございませんから、念のため申し上げます。
  137. 簑輪幸代

    簑輪委員 逮捕、拘禁日数も数年から二十年にもわたるような長期間になったり、逮捕から無罪の確定まで何十年とかかるという、こういうケースについて、その当事者である被告人、受刑者というのは想像を絶するほどの苦痛を味わっていると思うのですね。こういう長期にわたる不当な抑留というのが続くことについて法務大臣としてはどのようにお考えでしょうか、御感想を一言お聞かせいただきたいと思います。      〔委員長退席、太田委員長代理着席〕
  138. 坂田道太

    坂田国務大臣 これはまことに気の毒なことだというふうに思います。
  139. 簑輪幸代

    簑輪委員 大臣は気の毒とおっしゃいましたけれども、気の毒では済まないのではないか。金銭的な問題だけじゃなくて、精神的な苦痛というのは、人生をすべて否定されるに等しいような仕打ちを受けてしまうということから見れば、このようなことを何としてもなくさなければなりません。特に再審の事件に当たっては、先輩の裁判官が行った有罪判決、誤った判決について謝罪をするというようなケースもあるわけですけれども、そういうような償いというか、陳謝というか、謝罪というか、そういうことがされたとしても償えるものではないと思うのです。憲法では特に抑留拘禁された期間だけの補償規定しているかのように言われておりますけれども、このような例を考えてみるときに、抑留拘禁された期間だけで償いは終わったというのは絶対に許されない、何としても非抑留期間、その点の補償考えなければならないと思うのです。  勧銀の大森支店事件の近田さんは、二審の判決を受けた後、自由の身にはなりましたけれども、こう言っておられるのですね。「最高裁で負けたら、拘置所に逆戻りかと、この三年間、眠れぬ夜があった」というふうに言っておられるわけです。非拘禁状態であるということで一般人と同じような生活、心情にあるとは絶対に言えないわけで、いつ何どきまた拘禁抑留されなければならない、そういう不安におびえる毎日、その苦痛というのはとうてい筆舌に尽くしがたいものがあると断言してはばからないと思います。  そこで、再三論議がありましたけれども、何としても非抑留期間についての補償というものを立法措置を講じていただかなければならないと思うわけです。お金がないから、予算がないから国賠でやりなさい、あるいはまた、公権力による不当な措置による損害の賠償に関する横並び問題とか、いろいろ理由はあろうかと思いますけれども、この際はそれらの理由はやはり克服して、このような、人間をすべて否定されるかのような不当な仕打ちを受けたそういう場合に、何としても、そのうちの万分の一でも回復するための非抑留期間についての補償というのを立法していただかなければならないと思うのです。この点に関してお聞かせください。
  140. 前田宏

    前田(宏)政府委員 私どもも、いわゆる非拘禁者につきまして苦痛がないとかいうことを申しているつもりはございませんが、そういう方々に対しましても補償すべきかどうかということについては、それなりの理論的な整理も必要でございますし、また国の制度全体としての整合性といいますか、そういうことも考えなければならないということでございます。財政問題も、別に金のことであるからというわけではございませんで、そういう国の制度全体としてどうかという意味も含めてのことでございます。したがいまして、その点につきましては、前々から申しておりますように、国としてどういう場合にまで補償すべきかどうかということをいろいろな点から検討していかなければならないということでございまして、決してそれを頭から否定しているつもりはございません。
  141. 簑輪幸代

    簑輪委員 否定しているという意味ではないのですけれども、このまま今後の課題とかあるいは検討してということが続くならば、ますますそういう不合理というのが拡大されていくのではないかという心配をするわけです。  それで、たとえば非拘禁、非抑留の、全くの拘束がない自由な身であるという人に対してまで拡大するかどうかは別として、一たん長期に拘禁をされた後、仮に釈放されたとしても、その後不安におののく日が継続するという、そういう事態はまた別の基準考えてもしかるべきではないかというふうに思います。国民的合意が得られる基準というのを何らかの形で設けて、こうした、いま申し上げたような著名事件の刑事補償の例から見ましても、手だてをとることは可能だと私は思うのです。先ほどお答えいただきました事件のほかに、弘前大学教授夫人の場合は二十七年間、加藤老事件は六十一年間の長期間、逮捕から無罪までこうした長期間かかっている。これを明らかにしたならば、国民的合意の得られる基準というのは模索することが十分可能だと私は考えるのです。そこで、その点について次回までにぜひ積極的な提案をしていただくように強くお願いしておきたいと思います。  続いて、被疑者補償規程についてなんですけれども被疑者補償規程四条で立件手続のことが決められております。この中で、もちろん抑留または拘禁を受けた者についてですけれども、「「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文により、公訴を提起しない処分があったとき」に立件手続を行う、こういうふうになっています。たとえば昭和五十年から五十五年までの刑事事件既済事由別人員という統計をいただいたんですけれども、ここに記載されております嫌疑なし、罪とならずという裁定主文による件数は、毎年三千件を超えているわけです。そのうち非拘禁の者は除かれるわけですけれども拘禁されてこの嫌疑なしと罪とならずというのに該当する人の数というのは、先ほど来御答弁がありました被疑者補償事件一覧表の補償立件数に等しいことになるのでしょうか。
  142. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まず、基本的な数字といたしまして、事件の受理当時に身柄拘束を受けていた者についての起訴理由別の人員を若干調べてまいったわけでございますが、たとえば昭和五十五年におきましては、その総数が二万八百五十七人あるわけでございます。そのうちの大半の者が起訴猶予ということで不起訴になっておりまして、これが一万六千七百五十二ということでございます。そしていま御指摘の嫌疑なしは何人かと申しますと二十五人でございまして、罪とならずというのは六人でございます。そのほかにこの補償の場合によく出てまいりますのは心神喪失の場合でございますが、心神喪失が二百九十二というような数字になっているわけでございまして、被疑者補償の立件数はその年における立件数でございますから、処分と必ずしも年が一致しておりませんので、完全に一致するわけじゃございませんが、大数的にはいま申した数字で御理解がいただけるのじゃないかというふうに思います。
  143. 簑輪幸代

    簑輪委員 こうした立件は年を追ってふえておりますけれども補償人員の方は一向にふえる気配がないということが数字の上から明らかになっているわけです。立件数から考えてみますと余りにも低い補償人数というふうに思いますが、その理由はさっきから心神喪失による罪とならずとか身がわりとか、いろいろ言われておりますけれども、すべてそれに帰してしまうのはいかがかなという気がするわけです。むしろ補償するという方向での努力が一向になされていない結果そういうふうになってしまうのではないか、つまりなるべくならば補償はしなくて済むような方向に事が進んでいるのではないかという心配をするわけです。その点についてお聞かせください。
  144. 前田宏

    前田(宏)政府委員 私どもそういう考えは全然持っておりませんで、要件に当たるものはできるだけ速やかに決められた補償をするということを基本にいたしているわけでございます。この被疑者補償につきましてそういう補償漏れみたいなものがあってはいけない、その前提としていわゆる立件漏れがあってはいけないということでございまして、前回の改正でございましたか、あるいはそのもうちょっと前だったかと思いますけれども、そういう問題が起こりました際に改めて部内に通達を出しまして、立件漏れのないように、また補償にも漏れがないようにということを指示しておるところでございます。
  145. 簑輪幸代

    簑輪委員 この立件手続によって立件されたものの中で嫌疑なしと罪とならずのほかにも、ここに掲げてある四条の二号ですかの部分がつけ加わるだろうというふうにも思うのですけれども、嫌疑なしあるいは罪とならずというふうに裁定された場合には、すべて第二条の「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」に当たるというふうに考えることはよろしいのでしょうか。
  146. 前田宏

    前田(宏)政府委員 理論的に申しますと、四条は、形式的にといいますか手続的に、そういう罪とならず、あるいは嫌疑なしという不起訴処分があったときには立件する、そこで拾うわけでございますから、二条の要件を満たすかどうかということは、立件後もう一度改めて見直した場合にその要件を満たすかどうかということになるわけでございまして、理論的には当然には一致しないということにはなるかと思いますけれども、実質的に考えますと、そういう不起訴裁定をした場合には、二条の要件を満たすことがまず通常であろうというふうに言っていいのだろうと思います。
  147. 簑輪幸代

    簑輪委員 まず通常であろうというふうに言われましたけれども、過去その例外的なものがあったのでしょうか。全く同じと見ていいのでしょうか。
  148. 前田宏

    前田(宏)政府委員 お尋ねの点が必ずしも一致しないというのは、結局四条の三なら四条の三で「補償の一部又は全部をしないことができる」場合に当たるということもございまして、立件したものが一〇〇%補償になっていないということになるわけでございます。また、要件を満たしましても本人が辞退をするというようなこともあるわけでございまして、これは要件的に言えば四条の三の四号ということになるかと思いますが、そういうような要件を満たしておりましても補償をしない場合も出てくるわけでございますので、その数は必ずしも一致しないということになるわけでございます。
  149. 簑輪幸代

    簑輪委員 嫌疑なしと罪とならずについてはそういう手だてがとられているわけですが、嫌疑不十分の場合、これについての補償というものも考えてみる必要があるのではないかと思います。嫌疑不十分の場合に、仮にこれが嫌疑不十分のまま起訴されたということになれば、その公判の維持は困難となって無罪となるというふうにも思われます。そうすれば刑事補償の対象となってその補償が受けられるわけですけれども、たまたま嫌疑不十分という裁定を受けて不起訴となってしまったために、このような裁定主文ですと有罪の推定のようなものが社会的に働いてしまって、嫌疑なしではなくて嫌疑不十分なんだということで、有罪推定を受けてしまうという不利益があると思うのです。同時に、被疑者補償も受けられないというようなことで、やられっぱなしになってしまうのではないか。名誉の面でも損害の面でも不当な処置を受けるということになってしまうので、嫌疑不十分の場合にも補償を十分行うように検討しなければならないと思いますが、その点はいかがでしょうか。     〔太田委員長代理退席、委員長着席〕
  150. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その問題は、逆な面から申しまして、刑事補償法のことについてもないわけではございません。刑事補償法憲法を受けて無罪ということでございますから、すべて補償をするというたてまえをとっておりますが、その場合にも、性質は違いますけれども、たとえばさっき申し上げましたような心神喪失の場合について、果たして補償すべきかという問題もございます。またさらに、相当疑わしいというものについて補償することはどうかというような議論も、全くないわけではないと思います。しかし、それはそれといたしまして、法律の上ではそれは一律に無罪という扱いをしております。  しかし、被疑者補償におきましては、同じような性格のものではございますけれども、従来からいろいろと御説明を申しておりますように、性格が基本的には異なる点があるということでございます。それは、裁判による有罪、無罪の場合と検察官処分ということの性格が相当違うものだということは御理解いただけると思います。そういうこともありまして、こういう検察官の不起訴処分に関連してどの範囲まで補償すべきかということになりますと、さらにまた基本的な物の考え方というところにもつながってくるわけでございます。  この問題も、性格は違いますけれども、国として補償すべき限界というか、範囲というか、それをどの辺まで広げるかという問題になるわけでございまして、いろいろな考え方が十分あろうかと思います。その辺の理屈の整理あるいは他の類似の問題との検討、そういうものをなお尽くしませんと、そこまで広げていいかどうかという結論には達しないというのが率直なところでございます。
  151. 簑輪幸代

    簑輪委員 ちょっと実態がよくわからないのですけれども、そうしますと、嫌疑不十分の場合というのは、現状では立件されるということはないのでしょうか。
  152. 前田宏

    前田(宏)政府委員 補償規程四条に「立件手続を行う場合」として掲げてございますが、これはいわば検察庁の内部のことでございますけれども先ほど申しましたように、補償漏れがないように、つまりその前提としての立件漏れがないようにということで、特に五十年の改正でございましたが、改正してつけ加えたものでございまして、その最後の第三号に「補償の申出があったとき。」ということがございまして、一号、二号はいわば職権的に立件をする、それ以外にも、本人といいますか、補償請求したいという申し出があった場合には一応立件をしまして内容を検討する、こういうことになっているわけでございます。
  153. 簑輪幸代

    簑輪委員 「被疑者補償を立法化するについての問題点」という法務省の文章をちょっと見ておりましたときに、「被疑者補償規程の活用を図る方策」というところで、「次の内容刑事局長通達を発することといたしたい。」という中に、「嫌疑不十分の裁定をした事件であっても、」罪とならずや嫌疑なし「に準じて検討することが相当と認められる事件については、被疑者補償事件として立件する。」というふうな文章がありましたので、こういう運用はなされていないものかどうか。
  154. 前田宏

    前田(宏)政府委員 私どもで出しております通達の要旨は、御要求もございましてお渡ししたわけでございますけれども、いま御指摘のようなことはその通達そのものではないように思うのでございますけれども、そういう意味で、正式な通達においてはそういう点まで触れていなかったというふうに記憶しているわけでございます。
  155. 簑輪幸代

    簑輪委員 そうしますと、嫌疑不十分の場合は、補償の申し出があったとき以外には立件しないということですね。
  156. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いろいろな場合を考えまして、できるだけ立件を広目にしようということで改正をいたしましてあの規程ができているわけでございますから、実務の運用はあの規程どおりにいわば運用されていると御理解をいただきたいわけでございます。
  157. 簑輪幸代

    簑輪委員 やはり嫌疑なしとすべきものを、被疑者補償規程の適用としないために嫌疑不十分という裁定処分とするおそれというのは、全くないと言い切れないのじゃないかと思うわけです。そういう疑いを全く持たれないためにも、嫌疑不十分の場合は、嫌疑なしに準ずるような例においては立件するという余地が残されている方がむしろ正しいのではないかと思いますけれども、その点はどうなんでしょうか。
  158. 前田宏

    前田(宏)政府委員 そういうふうにお疑いと言うと変ですけれども、というふうになりますと、内部のことでございますから、どういうふうにいわば規程を整備いたしましても、その気になればやらないということにもなりかねないわけでございまして、それはやはり私どもを御信用いただくほかはないということに帰するのじゃないかと思います。  ただ、毎々申しておりますように、決して補償することを渋ってといいますか、嫌がって、ことさらに何か裁定の処分を変えるというようなことはもちろん考えておりませんし、いろいろとこの改正が国会で御論議になります際に問題になりました事項は、その都度現地の検察庁にも示達をいたしますし、またそういう補償漏れあるいは立件漏れがないように、いろいろな会議等におきましても注意を喚起しておるところでございますので、その点は誤りなく運用されていると御了解を賜りたいわけでございます。
  159. 簑輪幸代

    簑輪委員 そう疑いの目をもって見るという意味じゃなくて、だれから見ても疑いの余地のない制度の確立という意味での指摘でございますので、誤解のないように願いたいと思いますけれども被疑者補償規程の場合においても、予算とそれから実際に補償された額という点で見ますと、大分開きがあるようですね。  それから、特に昭和五十三年の補償については、けたの違う多い補償がされているわけですけれども、何かそこに特別な理由があるのでしょうか。
  160. 前田宏

    前田(宏)政府委員 予算額と実際の支出との関係につきましては、当然のことながら予算は一つの見通しといいますか、予測で組んでいるものでございますから、実際に少ない場合もありますし、多い場合もあるわけでございまして、その差ができることはやむを得ないと思うわけでございます。なお、もし足りない場合には、それなりの予算措置を財政当局とも協議の上で講ずることにいたしておりますので、予算がないので払えないというようなことはないわけでございます。  それから、五十三年中における件数がその前後に比べて多いのじゃないかという御指摘でございます。確かにこの表の上で見ますと、五十三年に三十七人の補償決定がなされているわけでございますが、その内訳を一応見てみますと、この三十七人のうちの十七人が五十二年の立件ということでございまして、いわば繰り越しになっていることが一つ理由であると思います。また、全体の三十七人の中に一件で数名の事件がございまして、それが全体の数を大きくしている原因の一つであると思います。そういうことでございまして、特に五十三年にそういう補償を要する事件が多かったというふうには見ておりません。
  161. 簑輪幸代

    簑輪委員 被疑者補償制度についてですけれども、このような制度があり、該当する場合には補償が受けられるということについて遺漏なきよう立件手続がとられているわけですけれども刑事補償の方で言いますと、この刑事補償を該当する人が十分受けられるように、補償者の率を高めるための手だてというようなことについて、何か特別な方法をとられているのでしょうか。
  162. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 この点につきましては、従来から、無罪判決を言い渡す際に何らかの説示をしてはどうかというふうな御指摘も受けておりまして、刑事局といたしましては、従来から通達とかあるいは裁判官会同、協議会における係官の説明などによりまして、無罪判決の宣告をした場合には、刑事補償の適用がないことが明らかであると認められる場合を除きまして、その判決が確定すれば刑事補償請求をすることができる、また請求期間が三年になっているというようなことを被告人に告知するということが適当であるということを連絡しております。これはもうすでに何回もやっておりますことで、各裁判官に周知徹底ができているのではないかというふうに考えております。
  163. 簑輪幸代

    簑輪委員 そのように通達とか会同でおっしゃっているということですけれども、現実にその告知がされているかどうかという点について、何らか確認するというようなことをとっておられますか。
  164. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 そこまではやっておりませんが、まあ大体やっているのではないかと考えておりますし、大体どの事件でも、ほとんどそういう事件には弁護人がついていらっしゃるというようなことで、仮に裁判官が忘れた場合でも、弁護人がついていらっしゃいますのでそういうことはないのじゃないかと思いますが、なお今後ともそういう遺漏がないように指導したいと思います。
  165. 簑輪幸代

    簑輪委員 努力するということではなくて、そういう仕組みに変えてしまう。法廷において無罪判決を行う場合には、その判決確定の際には刑事補償があって、どのような手続であるというようなことを告知する、そういう制度に仕組みを変えてしまうということはいかがなものでしょうか。
  166. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 立法になりますと、私どもとしてはちょっと意見を差し控えさせていただきたいと思いますが、私どもといたしましては、いま申し上げましたようなことで何とか遺漏がないようにしたいというふうに考えております。
  167. 簑輪幸代

    簑輪委員 通知漏れがないというふうにするためには、そういう手だてを立法的にも考えてみなければならないのじゃないかなというふうに思うわけです。  ところで、冤罪問題等について再三論議がされてまいりましたけれども、特に有名な事件、松川事件や芦別事件やそのほか無罪判決というものがこれまでに出されてきている中で、そういうような冤罪を、あるいは弾圧事件をなくすということが重要な課題になってきているというふうに思います。そのことは再三言われておりますので、捜査の面におきましても、あるいは裁判審理の面におきましてもくれぐれも指摘されていることでありますけれども、なおかつ冤罪事件が相次いでいる、そういう現状が顕著にあらわれているというふうに思うのですね。  無罪率問題についていろいろ言われますけれども無罪の問題については率で簡単に論ずることはできないだろう、両面があって、率そのもので何かの結論を引き出すということは、非常に危険だろうと私は思っているわけです。だから、その内容に十分な注意を払う必要があるというふうに思いますけれども、冤罪が晴れるまでの並々ならぬ苦労、それらを刑事補償が償うということもあるわけですけれども、根本的にはその冤罪をなくすということに格段の努力が払われなければならないと思うわけです。  こうした冤罪が生まれてくる共通の原因というのがすでに指摘されております。別件逮捕問題、自白の偏重、見込み捜査、いろいろ指摘されてまいりました。こういう中で、最近の事例だけでも数え上げれば切りがないぐらいですが、特に勧銀の大森支店の事件、これは先ほども御指摘がありましたけれども、上告をするということが果たして妥当であったのかどうか、本当ならば、もうすでに控訴審で事態が明らかになりつつある中で一日も早くこの解決をするためには、上告はやめるべきではなかったのか。検察の権威といいますかメンツといいますか、そういうようなものにこだわったとするならば、それによっていたずらに被告を苦しめたその責任は検察も負わなければならないのだろうというふうに思うわけです。  やはり検察庁といえども憲法に基づく基本的人権、その擁護が最優先であろうと思いますし、正しい人権感覚、と同時に誤りが絶対ないとは言えないわけですから、万一誤りが発見されたときには率直にそれを認めて、それに対応する勇気ある行動をとるということが必要だろうと思うのです。それがこの場合に上告をやめるということではなかったのか。結局、上告したことによって被告人を不当に苦しめ、結果的にも検察の権威を大きく傷つけてしまったのではないかというふうに私は思うわけです。そういう点から見て、この上告問題についていま私が申し述べましたことと絡んでどのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
  168. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわゆる近田事件につきまして、検察官が上告したことの当否についていま御指摘を受けたわけでございますが、この点につきましては、先ほど他の委員の御質問にもお答えしたところでございますけれども、この事件は内容的にきわめて重大な事件である。現に一審でも有罪になり、無期懲役の刑が言い渡されるほどの重大事件である。しかも一審判決は、その後破棄されておりますけれども、それなりの審理をされて有罪という認定が一応なされたということでございます。これに対しましていろいろ問題もあり、二審において無罪判決があった、これまた事実でございまして、そういう場合にどう対処すべきかという非常にむずかしい問題に対面するわけでございます。  お言葉にありましたように何もメンツにこだわるとかそういうことではなくて、事柄の重大性、またそれまでの裁判の経過、そういうものをいろいろ考えまして、二審の判決指摘も十分尊重すべきでありましょうけれども、やはりいろいろな見方があり得る。必ずしも検察の立場としては二審の判決に一〇〇%納得できないというような場合に、いわば例外的な場合といってもよろしいかと思いますけれども、重ねて裁判所判断を仰ぐということも、場合によっては許されるべきことではないかというふうに考えるわけでございます。  先ほどお言葉で、検察といえども人権を守るべきであるというふうに言われまして、検察は何かもともと人権を守らない、そんなことではないと思いますけれども、もちろん検察庁も人権を尊重することにおいては人後に落ちないつもりでございます。ただ、刑事訴訟法上の目的にもございますように、人権の保障とさらに事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用するというのが刑事訴訟法の目的でもあり、また検察官の任務でもあるというふうに心得ているわけでございまして、もちろん人権を尊重しながら、しかも一方において事案の真相を明らかにして、処罰されるべき者は処罰されるように扱うという責務も負っているわけでございます。  したがいまして、いろいろな御批判はあるかと思いますけれども、特にメンツにこだわって何かしたというふうには御理解いただきませんで、やはり検察としては、被害者の立場なりあるいは社会の立場なり、要するに事案の真相も明らかにしなければならぬという責務も半分は負っているわけでございますから、その観点からの、熟慮した上での決断だ、こういうように御理解を賜りたいわけでございます。
  169. 簑輪幸代

    簑輪委員 検察庁、真実の発見ということに力を尽くす余り、人権の擁護という点について遺漏があってはならないという意味で申し上げたわけで、別に、特に軽視しているということで申し上げたわけではございません。  しかし、さらにさかのぼって警察の捜査などをいろいろ見てみますと、本当に現在のこのような取り調べのままであってはとても人権の擁護どころではないと言わざるを得ない事件が相次いで報道されているわけです。  ことしに入りまして、二月に出ております、家裁の八王子支部で少年院送致の処分を取り消したというケースがありまして、その際、最初におどしとか誘導で自白調書がつくられたというふうなことが明らかになっています。それで、この少年がたまたま冤罪を救われた大きな理由一つに、取り調べの際にひそかに小型テープレコーダーをしのばせていて、取り調べの状況が録音されていて、その中で、  【おどし】  「おまえ、留置場に放り込むのは簡単なんだから」 とか、   「道場へ行くか?道場へ行こう。ちょっと聞くから」 とか、   「鑑別所から少年院だぞ、逮捕されれば。逮捕状ってのは……簡単に作れるんだよ。逮捕されりゃあ、何年たったって……一生不利だよ」というようなことがあったり、  【誘導】  「だめだよ、みんなわかってんだから。おまえのグループ洗ったんだよ、全部。調書作ってあるんだ。これを見ると、おまえは(車に)乗っているんだよ」   「なんで否認するのかよ。乗ってたんだよ、お前は」 とか、  【懐柔】  「二十三人まではっきりしたんだよ。氏名がわかってんだよ。だからね、運転した人は免許取り消しだよ。だけど、同乗者ってのはねえ、たいした罪じゃないんだよ。東京地検には、私も同乗した人まで送らないよ。だから……」 というようなことがずっと述べられていて、これが明白な証拠となってこの少年は救われたわけですね。  仮にこういう明白な証拠がなければ、自白調書でもって少年院送致という処分を受けざるを得なかったということを思えば、警察の取り調べというのがこういうことであってはならないということを、この事件はいみじくも明らかにしていると思います。  だれでもそうですけれども、まして少年という、そういう事件に当たってこうした捜査がされた、取り調べがされたということは、まことにそら恐ろしいような気がいたします。可塑性に富んだ少年の未来を無残に摘み取ってしまったかもしれない、そういうことがここで指摘されております。それは、従来の捜査の中に、やはり何としても自白でということで不当な取り調べがされてきた、そういう経過からいまなおこういう捜査が続いているのではないかと思わざるを得ません。  きょうは警察はお越しいただいておりませんけれども検察庁の方としてこういう事件をどのように受けとめて、どのように指導されるのか、お聞かせいただきたいと思います。
  170. 前田宏

    前田(宏)政府委員 警察検察を通じまして、捜査当局といたしましては、先ほど来申しておりますように、人権にも十分配慮しながら事件の真相を明らかにする、こういう責務を帯びているわけでございまして、その両面を全うするということはなかなか困難ではございますけれども、困難ながらもそれを実現していかなければならないという立場にあるわけでございますので、仮にもそういう行き過ぎとか過ちのないように、十分自粛自戒をしていくべきものと考えております。
  171. 簑輪幸代

    簑輪委員 まだまだそのほか、犬でおどかして自白強要した事件とか、それから物証がないのに自白を誘導した岩手県の事件とか、そういう報道がされているのがことしに入っても相次いでいるわけです。そうした中で、この刑事補償というものについて、このままの金額だと、まあまあ万一のときには刑事補償すればというようなことが、仮に万々が一でもあってはならないという観点からも考えることができるだろうというふうに思います。そういう点で、今回の刑事補償改正、私は前向きの点を評価しつつも、ぜひ一層の改善を図っていただくようお願いを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
  172. 羽田野忠文

    羽田野委員長 稲葉誠一君。
  173. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 いまの質問をお聞きしておりまして、実は私は二つほど考えたわけですが、一つ無罪判決があった場合に、これはとにかく故意は別として、過失があったということが普通考えられるのですから、立証責任というものを、国賠の場合でも過失がなかったということを立証する責任を国側に負わせるのが筋ではないか、私はこう思うのですがね。答弁はいいですよ。そういうようなことを考えます。これは将来じっくり考える必要があるのではないか、こういうように思います。  もう一点、検察官処分が、嫌疑不十分であるとか、嫌疑なしであるとか、起訴猶予であるとか、こう決めちゃうわけですけれども決めた場合に、自分の起訴猶予ではない、嫌疑ではないんだということを一体立証する機会があるのかないのか、これはさっぱりわからぬですね。これは二階堂さんが、自分は灰色でないからひとつ潔白を明らかにしてくれというようなことと同じであって、そういう方法は何らかの形で日本の法体系の中でもつくらなければいけないのではないかということを私は考えるのですが、これはこれからの研究の課題だ、こういうふうに思っております。  それから、この前私、質問した中でちょっと訂正させていただきたいのは、こういう点、私、勘違いをしておりました。それは、大阪の検事正、検事長をやられた方のお話の中で、竹内芳郎とかいうふうに申したと思いますが、間違いでございまして、これは小林芳郎という有名な方でございますが、なぜ間違ったかといいますと、ある検事が、無罪になって、当時小林検事正ですが、息せき切ってそこへ行って報告をして、残念ですと言ったらば、ああよかったねというふうなことを言われて、その検事が初めて目を開かれたということなんですが、そのお話を何かの機会のときに私は竹内寿平さんにしたわけですね。そうすると、竹内寿平さんが私に対して、いや、私はそんな小林さんみたいな神様のような心境になれませんよという話をしたものですから、竹内さんと小林さんと間違ってしまいまして、竹内芳郎さんというふうに言ったと思いますが、訂正させていただきたいというふうに思います。  そこで、問題の中でこの前私は、八王子区検での刑事の確定記録のことに関連をして、閲覧の問題を大森勧銀事件に関連してお聞きしたわけですが、そのときに刑事局長の答弁というのは、刑訴法の五十三条の「訴訟記録の公開」、これをただ読んだだけですが、私はわざと知らぬ顔をして黙って聞いておったわけですが、一つ一つお聞きをいたしますと、この八王子区検の道交法と銃刀法違反の略式命令は、五十三条第二項の弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録に該当するのですか。
  174. 前田宏

    前田(宏)政府委員 客観的には該当しないと思います。
  175. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 客観的にという意味はどういう意味か、ちょっとはっきりしないですな。絶対に該当しないという答えの方が正しいのじゃないですか。略式命令は弁論はありっこないんだから、そんな客観的にというと、いかにも部分的には該当するような意味にとれる答弁をするからね。  「又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録」に該当しますか、しませんか。
  176. 前田宏

    前田(宏)政府委員 この「一般の閲覧に適しないものとして」禁止されたということは、だれが禁止されたかということが別に法定されているわけでございませんので、この二項の全趣旨からいたしまして、訴訟記録の保管者である検察官ということになると思いますが、それが適当でない、禁止すべきであるというふうに認定したものという意味に解すべきものと考えております。
  177. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 そんなことを聞いているのじゃなくて、八王子区検の訴訟記録を白川勝彦弁護士と門井節夫弁護士が見に行ったんでしょう。見に行ったときに、そのことに関連して私は聞いているので、「一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録」に該当するんですか、しないんですか、こう聞いているのですよ、この八王子区検の記録が。
  178. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほども客観的にと申しましたのは、手続問題と混線してはいけないという意味で申したわけでございまして、その記録自体は、それ自体としてそれに該当しませんということを申したわけでございます。
  179. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 そうすると第三項、これはまあ関係ないですね。第四項手数料、これも関係ありませんね。第一項へ戻ると、「何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。」こういうふうになっています。そうすると、この八王子区検に行ったときには、このただし書きに該当していたんですか、してないのですか。
  180. 前田宏

    前田(宏)政府委員 そのときの状況はつまびらかにいたしませんけれども、それもまた結果的にはと言うとおしかりを受けるかもしれませんが、そういう状態ではなくて、結局閲覧に応じたということになっていると承知しております。
  181. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 だから、ただし書きの「訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるとき」というのは、具体的にどういうことを言うのかということをはっきりさせなければいけないわけですが、これは細かいことになりますからここで論議するのはやめますけれども、そうすると、あなた方に言わせると、ここで理由を書かなければならないというんですね。その理由を偽ったということが、検事から言わせると弁護人としてははなはだしく——はなはだしくとは言ってないかもわからぬけれども、不信義だ、こういうふうなことを言っておるわけですね。理由を書かなければならないということは、この条文からは出てこないように思うのですね。規則か何かあるのですか。どこにその理由を書けというふうに書いてあるのですか。
  182. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほどもそのお答えをしながらお答えしているわけでございますけれども、本件の記録がそれに当たるという意味ではございませんけれども、一般論といたしまして、たとえば二項の場合には、そういうものに該当すれば閲覧をさせるかどうかということになりますと、正当な理由があるかどうかという判断が必要になるわけでございます。また、一項の場合には、それほどのこともないかもしれませんけれども、現に裁判所あるいは検察庁の事務に使われておるという場合に、それよりも優先する理由があれば、そちらの方を優先させるということも考えられるわけでございまして、いろいろな裁量の余地がそれなりにあるものというふうに考えるわけでございます。
  183. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 いまのお答えは私としては納得しないのですけれども、この事件について理由を書けということの根拠がまず第一はっきりしないですね。先ほどから聞いているのですが、はっきりしないのです。同時にまた、それを大森勧銀事件に関係があるといって書かなかったからといって、検事がかれこれ言うべき筋合いのものではないというふうに私は思うのですね。これはまた別の機会にゆっくりやられることだというふうに思っております。  そこで、私がこの前から質問をしておりますことは、いわゆる別件の事件であるとか代用監獄の問題、いろいろあるわけですけれども、私はそのことそれ自身よりも、むしろそのことを一体検事が知っていたのか知ってなかったのかということですね。だから、この前大森勧銀事件で、夜の午前一時まで調べたというようなことが判決にずっと出ていますね。出ているから、そういう事実を一体検事が知っていたのか知ってなかったのか、訴訟の指揮権にも関連するかもわからぬけれども、知っていたのか知ってなかったのか、あるいは知ったとすればいつなのか、それについてはどういう処置をしたのか、こういう点がわかっていればお答え願いたい、こう思うわけです。
  184. 前田宏

    前田(宏)政府委員 何分にも大分前のことでございまして、そのときそのときの状況についてまで明らかにすることができないわけでございますが、当時の関係者に一応聞いたところによりますと、これまた漠然としたようなことになりますけれども、この事件のことで警察がこの事件の疑いを持ったということは、その時点で一応連絡を受けたというふうに言っておるわけでございます。その後の取り調べ状況、たとえばある日に何時まで調べたかというようなことにつきましては、その都度その都度の報告は受けていないというふうに思う、ただ捜査の進行に応じて節目節目と申しますか、そういう状態で一応の報告は受けたというような程度にとどまっているわけでございます。
  185. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 これは拘置所で調べる場合には検事が出張しますから、出たり入ったりの時間全部書きますね。そうすると、拘置所の場合には大体わかるわけですか。あるいは警察官が入る場合も、許可を得て入りますね。入った時間と帰る時間、あそこへ書きますから、わかるわけですね。警察の場合にはわからぬ、こういうことになりますか。
  186. 前田宏

    前田(宏)政府委員 調べればわかるということでは、わかるんだろうと思いますけれども、一々そのことを当然に検察官が知るという状態にはないわけでございまして、そのことは拘置所の場合も警察の留置場の場合も同様であろうと思います。
  187. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 私が聞いているのは、そうじゃないのですよ。拘置所へ入る場合は、検察官が調べに行くでしょう、調べに行くときには、何時に入ったということをちゃんとあそこに記録されるでしょう。帰るときも、何時に帰ったかということを全部記録されるでしょう。だから、代用監獄で調べられる場合にはそれは記録されないんでしょう、こう聞いているわけです。
  188. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その辺は警察の内部の問題でございますから、私からはお答えするのがどうかと思いますけれども、すべての事件について全部書いているかどうかということになりますと、そのようには言えないかと思いますけれども警察の方におきましても、留置場から出し入れするということにおきまして、やはり管理上の問題もあるわけでございますから、一応の記録はあるように承知しております。
  189. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 そんな記録、ありませんよ。これは調べてみればすぐわかるんでね。特に、夜中の一時まで調べたというふうに判決に書いてあるんだけれども、そんな夜中の一時まで調べたなんということが、留置場の出し入れの中で、留置人名簿か何かに書いてあるわけじゃありませんよ。こんなことはもうはっきりしている。これはこの法案の直接のあれじゃありませんから、この法案は賛成法案ですし、きょう私の質問を最後に上がるということですから、余り気を持たせるのも悪いから、この程度にして別な機会に譲ります。  そこで、またわからないといいますか、私はこの前質問したときに、大森勧銀事件で聞いて、こういう経過を説明しましたよね。昭和四十五年の十一月六日に別件起訴があって、十一月十四日に住居侵入と強殺の本件逮捕、十七日に勾留ですね。それから十二月六日に釈放になった。なぜ釈放になったのですかということを私、聞いたですね。それから、起訴になったのが十二月二十一日かな、求令状で起訴になりましたね。なぜ釈放になったかということは、判決を見ればわかるとあなた言いましたね。判決を見ればわかるわけですね。こっちはそんなこと、わかっていますよ。それはあなた、プライヤーとヤッパですか、ヤッパが本人の自供からは得られなかったというわけでしょう。それで釈放になったんですね。  ところが、たまたま窃盗の事件の勾留があるからそっちの方があって、判決にも書いてあるでしょう。十二月六日釈放後、ことに十日から十五日の間については、引き続き警視庁の留置場で、プライヤーとヤッパはどこから得られてきたかということをずっと調べているんじゃないですか。強盗殺人で逮捕、勾留して、二十日間の勾留をして、そして証拠が十分でない、起訴できないからといって釈放しておいて、そしてその後にそのことをばかに調べているじゃないですか。判決にちゃんと書いてあるじゃないか。  これでは令状主義というものに違反するというふうに、だれが見ても考えるのはあたりまえじゃありませんか。令状主義に違反するじゃないですか。釈放しちゃっているんだもの。釈放しちゃって、たまたまというか、これがあったからいいんでしょう。窃盗の勾留がなかったらどうなんです、これは。窃盗の勾留がなくて十二月六日に釈放になったとしたら、どうなんです、どうやって本人を調べるのです。
  190. 前田宏

    前田(宏)政府委員 一般論でございますけれども、二十日間なら二十日間身柄を勾留して調べをいたしまして、十分に証拠が整わないという場合に、釈放して補充捜査をするということは、よくといいますか、間々あることでございます。その場合に、形式的に言えばいわば在宅状態になって、それを出頭を求めて事情を聴取するということは、それ自体別に問題はないというふうに思いますが、たまたま本件の場合は別な起訴済みの事件で勾留が続いておったというわけでございますから、その状態のままで聞かざるを得ない現実がそこにあるわけでございまして、それは強殺事件については在宅状態という理解も可能でございましょうが、一面、窃盗についての勾留が続いておるわけでございますから、それが併存している限り、ああいう形になるのは当然と言えば当然ではないかというふうに思うわけでございます。
  191. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 あなた、理論的におかしいのじゃないですか。いいですか、強殺の事件については逮捕、勾留されて、二十日間延長になって、それが釈放になっているのですよ。だから、私が聞いているのは、たまたま窃盗事件で勾留されているからこの本件についても調べたと言うのだけれども、本来なら在宅事件と同じ扱いになるのですよ。そうすれば、本人の同意が十分に要るわけです。同時に、本人に対して、なぜ本人が呼ばれているかということの説明をしなければいかぬのです。だからその点については、指摘されておりますように非常に私はおかしいと思う。令状主義に反しているというのが私の理解の仕方です。  あなたの方では、令状主義に反しているなんて言えない、言ったら大変なことになるもの。いままでもこうやってみんな捜査をやっているものを、法務省刑事局長がそういうことを国会でしゃべったということになれば、下の方の検事は余り文句は言わぬかもわからぬけれども警察は大変な騒ぎになるよ、何だということになるから。それはあなたの気持ちはわかるけれども、私は理解できないですよ。  そこで、いま私は、「法曹時報」に出ています東京地裁の判事ですか、小林充さんの書いた論文を読んでいるところですが、これはいずれにしてもなかなか興味の深い論文ですが、この問題を中心として、これは別などの法案が出るのかわかりませんし、出ないのかわかりませんけれども、それとの関連の中でまたお聞きしていきたいと思うわけです。  大臣もお聞きしておいていただきたいのは、ここにもありますように、たとえば鹿児島の強殺事件、これは有名な事件です。これはことしの一月二十八日に最高裁で差し戻しになったのですかな、職権発動の事件です。この事件でも、ちょっと常識では考えられないような別件です。弁護士も国選弁護であった関係上、余り弁護活動をしなかったのだと私は思いますが、いずれにしてもこの詐欺事件、詐欺四件、準詐欺一件、銃刀法違反二件、七件であって、詐欺一件は時価一万二千円相当の背広上下の騙取は起訴されておらない、それで起訴された詐欺と準詐欺の被害金額の合計は、わずか一万七千円にすぎない。しかもそれが本件より相当以前、最も新しいものでも本件強殺の事件の一年前、最も古いものは六年前です。いわゆるツケ買いによる代金不払いの事案だ。また、銃刀法違反は、空気銃一丁と刀一振りの不法所持の事件であるが、本件との関連性は全く認められない。  これは「ジュリスト」の七百七十一号で、最高裁調査官の木谷明という人が鹿児島の夫婦殺し事件上告審判決のコメントというのか、しているわけですね。いま私が読んだのはその八十ページのところの「(注)」を読んだのですが、事実関係はこのとおりですか。
  192. 前田宏

    前田(宏)政府委員 事実関係はそのとおりと言えばそのとおりでございますけれども、その幾つかの事実のうち起訴されていないものもございますが、現に起訴されたものもありまして、その事実については、執行猶予つきでございますけれども、懲役一年という有罪判決がなされているところでございます。
  193. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 いや、私の聞いているのは、その中で一件は起訴されていない、起訴されたものの合計金額は一万七千円なのだ、これがまず第一ですね。それから、古いものは六年前のものがある、こういうのですね。これは本当なのですか。
  194. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その余罪の犯行の年月日までちょっと資料がございませんで、正確なお答えをいたしかねるわけでございますが、恐らく間違いはないものと思います。
  195. 稲葉誠一

    ○稲葉委員 資料がないといっても、「ジュリスト」に書いてあって、最高裁の調査官が意見を述べているのですよ。あなたの方に資料がないわけないな。これは判決はないの。おかしいな、これは。ことしの一月二十八日のものです。それはきょうの主たるあれじゃありませんからいいですけれども、調査官が書いているのだから間違いないでしょうね。  空気銃一丁と刀一振りの不法所持は本件との関連性は全く認められない、こう書いているのですからね。六年前の詐欺と全部合わせて一万七千円というのだから、一件が起訴されていないから四件かな、四件合わせて一万七千円ですか、六年前の詐欺の事件まで起訴している。しかもそれはツケ買いによる代金不払いだ、こう書いてありますね。ツケ買いによる代金不払いというのが詐欺になるかならないか、これは微妙なところで、これは検事の尋問の仕方によって詐欺になったりならなかったりするところだ。  これはなかなかあれですが、こういうような事実があるとして、しかもこれは起訴されて公判が開かれて、一遍に全部起訴したのか、追起訴、追起訴でいったのか、それは僕も率直に言うとわからない。しかし、いずれにしても事実を認めておるらしいですね。二カ月の間にあって事実を認めて公判が開かれているらしいですが、その間、認めておるにもかかわらず、弁護士の方も国選弁護人であった関係上あれしたのでしょうけれども、これによると、その間強殺事件を調べているわけです。こういう行き方が実際あちこちで起きているということは、私は考えられないのですね。これはあなた方にとっては非常に便利なのですよ。捜査にとって便利なことは間違いない。  そこで、私は前から問題にしているのは、警察がこういうことをみんなやっているのだけれども、そういうことをあなたの方は、検察庁は知っていたのか知っていないのかということを前からくどく聞いているのだけれども、どうも要領を得ない。恐らく知らないのでしょう。知っているとしてもきわめてある程度のことしか知らないので、警察に任せっぱなしなのですね、強力犯事件というのは。  この前ちょっと話したから、あなたの方で推論だなんて言うから、きょうはやめておきますけれども、検事の方は知能犯専門で警察は強力犯専門だとはっきり分かれていると言っては悪いけれども、それは大体向き向きがあるからいろいろあるかと思いますけれども、いずれにしてもそういうような形のところに問題がうんとあるのですよ。この鹿児島の事件でもそうだし、今度の大阪の堺の事件でもどうもそうらしいですね。  これはまた改めて聞きますけれども、何か差別用語を使ったような検事が論告したとかしないとかと言われていますけれども、直接使ったのかあるいはだれかがこういうことを言ったということが犯罪に関連するという意味で使ったのか、どうもそこら辺がまだはっきりわかりませんから、きょうは質問をやめておきますし、それから大阪高裁の村上裁判長かな、何かで出た今度の判決もありますね。  そういうようないろいろな判決——ちょっとあの判決はいろいろ私自身の考えはありますが、裁判はまだ確定していませんから、確定していない事件のことについてここでかれこれ聞くわけにいきませんから聞きませんけれども、いずれにしてもそういうような別件の逮捕、そしていろいろな調べが代用監獄で行われている、検事は全くと言っていいくらいそのことについてノータッチ、余りやかましく言うと警察の方がぶつくさ文句を言うからとか、いろいろなことがあるわけですね。そういうような点について、私どもは今後ほかの法案の審議の中で、たくさん例がありますから、一つ一つ挙げて具体的な事実関係を聞いて十分確認をしていかなければいけない、こういうふうに考えておるわけです。  じゃ、この法案の質問としては、いま言ったようなこと、たくさん問題がありますけれども、別の機会に譲ることとして、この法案は賛成の法案ですから、これで質問を終わります。
  196. 羽田野忠文

    羽田野委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。     —————————————
  197. 羽田野忠文

    羽田野委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決いたします。  刑事補償法の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を求めます。    〔賛成者起立〕 ○起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  お諮りいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  198. 羽田野忠文

    羽田野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————    〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  199. 羽田野忠文

    羽田野委員長 次に、内閣提出参議院送付民事訴訟法及び民事調停法の一部を改定する法律案を議題といたします。  まず、趣旨説明を聴取いたします。坂田法務大臣。     —————————————  民事訴訟法及び民主調停法の一部を改正する法律案    〔本号末尾に掲載〕     —————————————
  200. 坂田道太

    坂田国務大臣 民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。  この法律案は、民事訴訟手続等の適正、円滑な進行を図るため、民事訴訟法等の一部を改正しようとするものでありまして、その要点は次のとおりであります。  第一は、就業場所への送達手続を新設する等送達及び期日における呼び出しの手続の合理化を図るものであります。  すなわち、国民の生活状況の変化に伴ういわゆる昼間不在者の増加により、訴訟に関する書類を、送達を受けるべき者の住居所において送達をすることが困難となりつつある実情にかんがみ、当該住居所において送達をするについて支障があるようなときは、送達は、これを受けるべき者の就業場所においてもすることができることとしております。この場合、就業場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、その者の使用者等またはその法定代理人、事務員もしくは雇い人に書類を交付することができることとしております。  また、現行法におきましては、簡易裁判所以外の裁判所においては、期日の呼び出しは、呼び出し状を送達してすることを要するものとされていますが、最近における送達ないし呼び出しの実情にかんがみ、これを改めて、簡易裁判所以外の裁判所においても、最初の期日の呼び出しを除き、いわゆる簡易呼び出しができることとしております。  第二は、証人調書等の作成及び判決書の記載の簡素化であります。  現行法におきましては、証人の陳述や検証の結果は調書に明確にすることを要するものとされていますが、訴訟上の和解の成立や訴えの取り下げなどにより、訴訟が裁判によらずに完結した場合においては、その訴訟に関する限り、証人調書等は不要となりますので、原則として、証人調書等の作成を省略することができることとしております。  また、現在、判決書のいわゆる事実摘示欄には、証拠に関する事項をも記載すべきものとされていますが、その記載の簡素化を図る見地から、証拠に関する事項の記載は、訴訟記録中の調書の記載を引用してすることができることとしております。  第三に、経済情勢の変動にかんがみ、証人の不出頭に対する制裁としての過料及び罰金等民事訴訟法及び民事調停法中の過料及び罰金の多額を相当額に改定することとしております。  以上がこの法律案趣旨であります。  何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  201. 羽田野忠文

    羽田野委員長 これにて趣旨説明は終わりました。  本案に対する質疑は次回に譲ることといたします。  次回は、来る六日金曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時二十四分散会      ————◇—————