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1982-07-30 第96回国会 衆議院 法務委員会 第25号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十七年七月三十日(金曜日)     午前十時十三分開議  出席委員    委員長 羽田野忠文君    理事 太田 誠一君 理事 高鳥  修君    理事 中川 秀直君 理事 稲葉 誠一君    理事 沖本 泰幸君 理事 岡田 正勝君       井出一太郎君    今枝 敬雄君       上村千一郎君    大西 正男君       木村武千代君    佐野 嘉吉君       森   清君    蓑輪 幸代君       林  百郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 坂田 道太君  出席政府委員         法務大臣官房長 筧  榮一君         法務省刑事局長 前田  宏君  委員外出席者         法務委員会調査         室長      藤岡  晋君     ————————————— 委員の異動 七月三十日  辞任         補欠選任   安藤  巖君     蓑輪 幸代君 同日  辞任         補欠選任   蓑輪 幸代君     安藤  巖君     ————————————— 七月二十九日  刑事施設法案の反対に関する請願(岩佐恵美君  紹介)(第四六〇一号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提出  第五〇号)(参議院送付)      ————◇—————
  2. 羽田野忠文

    羽田野委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所小野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 羽田野忠文

    羽田野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 羽田野忠文

    羽田野委員長 内閣提出参議院送付刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  5. 稲葉誠一

    稲葉委員 刑事補償法改正案関連をして質問を続けておるわけですが、きょう質問するわけではございませんで、三日になるか、あるいは別の一般質問のときになるか、これはまだ未定ですけれども、きのう大阪地裁堺支部で開かれた強盗傷人事件に対して、二人に無罪の言い渡しがありました。これは新聞の報道だけで詳しいことがわかりませんので、いずれこの判決その他をいただいて、審理経過等について別の機会に質問なり何なりをさせていただきたい、こう思うのですが、この中で、検察官論告求刑の中で特定の人を指して差別的な用語を使ったというようなことが報ぜられておりますので、こういう事実関係があるかないかということについて、それから事件がどうして無罪になったのか、こういうことを含めてあなた方の方でも十分研究をしておいていただきたいというふうに思う次第です。  そこで、この刑事補償法関係に入るわけですが、昭和五十七年の七月一日と二日の検察長官会同安原検事総長訓示をしているわけですが、これは私もいただいて読ませていただきましたが、その中の最後のところでこういうふうなことがあるわけですね。「また、検察官こそ捜査処理最終責任者であることを深く自覚し、あくまでも冷静かつ的確な判断を心掛け、」これはあたりまえのことですけれども、その次に「ときには、警察捜査の結果を再吟味するだけの余裕を持つべきであると思うのであります。」云々とあるわけですね。「ときには、」以下の「警察捜査の結果を再吟味するだけの余裕を持つべきである」、こういうようなことは一体何を意味するのか。特にこの時期にこういうふうなことを検事総長訓示をされたのはどういう意味なのか。こういうことについて、検事総長を監督するのは法務大臣ですから、法務大臣の御所見を承りたいと思うのですが、専門的なことは刑事局長で結構です。
  6. 前田宏

    前田(宏)政府委員 過日の全国の検察長官会同におきまして、安原検事総長がただいま御引用のような部分を含む訓示をしたことは、そのとおりでございます。  そこで、いま御指摘の「検察官こそ捜査処理最終責任者であることを深く自覚し、あくまでも冷静かつ的確な判断を心掛け、ときには、警察捜査の結果を再吟味するだけの余裕を持つべきであると思うのであります。」こういうことでありまして、その前段も後段も趣旨においては同一であろうというふうに思うわけでございます。抽象的に言えば冷静かつ的確な判断、その前に「検察官こそ捜査処理最終責任者であることを深く自覚し、」ということがございまして、一般的、抽象的に冷静かつ的確な判断を心がけるべきである、その具体的な一つの場面といたしまして、対警察捜査関係では、そういう検察官の立場、また心構えから、警察捜査の結果についても、ここにあるような再吟味するだけの余裕を持つべきであるというふうに述べたことであろうと思うわけでございまして、その意味は、警察捜査についても冷静かつ的確に対応すべきである、こういうことをいわば言葉をかえて述べたもの、かように理解をしております。
  7. 稲葉誠一

    稲葉委員 では、いままで検察長官会同において検事総長なり法務大臣、まあ法務大臣訓示をするのだと思いますが、こういうふうな「警察捜査の結果を再吟味するだけの余裕を持つべきである」、こういう意味のことを言ったことがあるのですか。
  8. 前田宏

    前田(宏)政府委員 このときの会同に限らず、どの会同ということはいま具体的に覚えておりませんけれども、最近いろいろな無罪事件等もございますし、再審等の問題もございます。そういうことだけを意味しているわけではございませんけれども、そういうものも含めながら、一般論といたしまして、いろいろな証拠吟味ということについては、毎回と言っていいほど注意を喚起しているわけでございます。  つまり、関係者供述の間にそごがあった場合に無罪になる例があるとか、あるいは関係者供述と客観的な証拠との間に矛盾がある場合にそれが無罪の原因になる場合があるとか、そういうような例も指摘しながら、そういうことについて証拠吟味ということ、それは即おおむね警察捜査証拠吟味ということにもなるわけでございますが、それに限らず、検察官みずからが捜査をして得た証拠につきましても冷静に吟味をして、その矛盾等がないようにしないと処理を誤る、あるいは極端な場合無罪になるというようなことは、いろいろな会同において述べているところでございます。
  9. 稲葉誠一

    稲葉委員 警察捜査の結果を十分再吟味しないで、その結果として無罪になったという例はどの程度あるのですか。具体的な例を二、三お示し願いたいと思うのです。
  10. 前田宏

    前田(宏)政府委員 そのように具体的にストレートに、警察捜査の再吟味をしなかったために無罪になったというふうに言っていいかどうかということでございますが、そういう面についても、結果から見れば足りない点があったんじゃないかと思われる例は、一つ二つにとどまらないわけでございます。
  11. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、その二、三の例を挙げて具体的に説明をしてください、こう言っているわけです。
  12. 前田宏

    前田(宏)政府委員 ですから、先ほど申しましたように、結果的に見ればそういうふうに反省させられる例ということで、当面の問題として稲葉委員がお取り上げになりましたような近田事件等も、その一つの例であろうと思います。
  13. 稲葉誠一

    稲葉委員 いや、私は二、三の例と言っているんだ。近田事件一つの例ですからね。二、三と言っているんだから、あと二つか三つあるわけでしょう。それを説明してくださいと言っている。
  14. 前田宏

    前田(宏)政府委員 具体的な事件につきまして、あいまいなことで申し上げますと、いろいろな意味で問題が起こるかと思いますので、具体的な事件を整理いたしまして改めてお答えしたいと思います。
  15. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、あれでしょう。委員長も聞いておられた。改めてお答えするというのだから、結局三日の日にもう一遍質問しなければならない、こういうことになるわけでしょう。  そこで、この前あなたの方に、こういう点を調べておいてくれと言った問題点ですね。実は私は、近田事件大森勧銀事件の問題に関連をして、「逆転無罪」という本は読んでないのです、率直に言いまして。  そこで、昭和五十六年度の日弁連の「特別研修叢書」というのがことしになってやっと手に入ったわけです。ずいぶん遅いのですがね。手に入った中で、門井という弁護士さんが「ある冤罪事件弁護活動大森勧業銀行強盗殺人事件の場合−」という講演をしているわけですね。このときに、近田被告も出ているのですが、これは東京高裁判決があって、最高裁決定ですか、これがまだ出ない、前ですね。ですけれども、この本が出たときには最高裁決定がおりていた、こういうことになっておるわけです。これは詳細なレジュメをつけていろいろ説明をしているのですけれども、まあこれは講演ですから、必ずしもすべて意を尽くしたとも言えないし、あるいは考え違いというか、オーバーというか、あるいは逆に過小な点もあるかもわからない、こういうようなことで、こういう点、こういう点を調べてくれということを私はこの前申し上げたわけです。  そこで、第一点ですけれども検察官高裁で「最終意見として相当長文書面提出しました。この中で、手製小刀——ヤッパですね、「についてのK証言は、」Kというのは、名前わかっていますが、名前は申し上げません、Kにしておきますが、「被告人弁護人らの共謀による偽証教唆であるなどとまで述べて私どもを非難したのには大変驚きました。」こういうようなことを言っておられるわけですね。実は、私はこれを読んだときに、その上にインタロゲーションマークをつけておいたのです。門井弁護士電話でもして、よくここの点を聞きたいと思ったのです、率直に言いますと。これはここまで言っているかどうかについては、私自身もちょっと疑問を持ったものですから、インタロゲーションマークをつけてあるのです。  そこで、こういうふうな事実、たとえば最終意見書を出したことは間違いないと思うのですが、これにストレートに、あるいはこれに近いようなことが検察官最終意見陳述書にあるのですか、ないのですか。仮にあるとすれば、内容が多少違うのかもしれません。そこのところをひとつ読んで説明をしていただきたいと思います。
  16. 前田宏

    前田(宏)政府委員 御指摘のように、この事件高等裁判所における審理最終段階で、検察官意見を述べていることは事実でございまして、その意見書面提出をされております。  その中で、当然のことながら、いろいろな争点があるわけでございますから、問題の凶器のことについても触れておりますし、そのことについて証言をした、先ほどおっしゃったKという証人証言についてももちろん触れているわけでございます。  相当長いことでございますので、結論的な面から申しますと、その証人証言偽証の疑いがあるというニュアンスであるわけでございますけれども弁護人について偽証教唆であるということまでは言っていないということでございます。
  17. 稲葉誠一

    稲葉委員 偽証教唆であるとまでは言っていないけれども、それに近いようなことが言われておるかないかということですね。     〔委員長退席太田委員長代理着席〕 そこら辺のところを説明をしていただきたいと思うのです。何か弁護人がそのKという人に手紙を出したとか、そういうようなことがああだとかこうだとかということがその中に書いてあるようですね。そこら辺のところをそのままストレートに読んで説明をしていただきたいと思うのです。
  18. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その点は、被告人証人に出しました手紙のことからも関連してくるわけでございますが、それは一応おきまして、弁護人との関係で見ますと、被告人の方から弁護人に対しまして、いまの証人等住所を教えてもらいたいというような連絡があって、それに対して連絡をして、住所を教えてやったということがあるわけでございますが、その点について、弁護人は「いかなる配慮をしたのか明らかでない。悪意によるものでないとしても、配慮を欠いていたとすれば、やや軽率であったのではないかとの疑問が残ると言わざるを得ない」というようなくだりがございます。  それから、本件のまあ凶器であるかどうか問題でございますけれども八王子検察庁で、結局は処理済みになっている刃物があるわけでございますが、そのことについて、弁護人の方から証人に対して、その証拠品刃物廃棄処分済みであるということを通知したという事実があるわけでございますが、その点につきまして、「証拠品ヤッパ廃棄処分済みであることを確認した旨を通知し、いかなる証言をしようと、偽証に問われる危険性はない旨の安心感を付与しているものである。偽証しやすい心理効果を結果的に醸成するに至ったものである。もし弁護人らが、あらかじめ申請中の証人に与える右心理効果に気づかず右書面を発したものとすれば、これまた軽率であったとの批判を免れ得ないものと言わざるを得ない」、こういうような表現がございます。
  19. 稲葉誠一

    稲葉委員 どうもはっきりいたしませんが、そうすると、いま言った廃棄処分済みだというふうなことの通知を出したということですね。  これは四十九年の十二月二十七日に白川勝彦弁護士、いまの代議士ですが、この人と門井節夫弁護士の二人がKという家へ行って、それから八王子区検へ行ったわけですね。この人は道交法違反で、飲酒検知器か何かを拒否したというようなことがあるような事件のようですが、これは略式命令で確定しておったというので、その記録閲覧に行った、こういうことですね。これは客観的な事実のようですが、そのときにすでに小刀廃棄処分になっておったということ、これも間違いのない事実ですね。そのことから見て、そのことを通知をしたって、別にどうということはないのじゃないですか。単に通知するだけなら、任意ですね。別にそれが証人に対してどうのこうのとかいうことにはならない。その手紙一体どこが悪いのですか。ただ客観的にそういう廃棄処分になっておったという通知だけでなくて、ある意味において偽証をしてくれというふうな意味手紙あるいはそうとられるような手紙がそこに入っているわけですか。これは白川君もその当時二人で行っているのですから、その手紙白川氏が関与したことかどうか、それはよくわかりませんが、そこまで確かめていませんけれども、それはどういう内容手紙なんですか。どういう点が非難されるべきなんですか。
  20. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その手紙の文面上、そういうことがあるという意味ではないようでございまして、その前提といたしまして、弁護人の心がけといいますか配慮として、証人に対しては、経験した事実のみを証言させればいい、予備知識をあらかじめ付与することは、逆にその証言信憑性を減殺する効果はあっても高めることはないというようなことで、そういう予備知識を与えない方がいいんじゃないかということを一般的に申した上で、廃棄済みであるということは事実であるけれども、それを申請中の証人にわざわざといいますか、特に言うこともないんじゃないか、そういうことを言えば、証人がいわば安心をしてどういう証言をするかわからないというようなことも強いて言えば考えられないわけではないので、そういうことまで気をつけるべきではなかったか、こういうような理解のように書いてあるわけでございます。
  21. 稲葉誠一

    稲葉委員 私が聞いているのは、その出した手紙というのは、小刀検察庁廃棄になったという事実を通知しただけなのか、あるいはこういうふうなこと、こういうふうなことを言って答弁してくれというふうなことまで含んでいる手紙なのかということなんですよ。そこがはっきりしなければ、検察官が、何か配慮を欠いたとかなんとか、そういう論難していることの根拠が出てこないんじゃないですか。客観的にはどういうことなんですか、それは。
  22. 前田宏

    前田(宏)政府委員 その点は、先ほども申し上げましたとおり、この最終陳述書の上では、手紙で「ヤッパはすでに廃棄されて現物はなかった旨の通知をしているものである」というふうに書いてあるわけでございまして、その手紙自体はどうもないわけではないかと思いますが、そういうことでありますから、要旨としては、廃棄されて現物はなかったということに尽きているように理解されるわけでございます。
  23. 稲葉誠一

    稲葉委員 あなた、そんなことは客観的に事実なんだから、問題にならないじゃないですか。客観的事実だから客観的事実を通知しただけで、あと検察官憶測じゃないですか。だからそれは、検察官の方が弁護人を非難し、弁護人検察官を非難すること、これは自由だ。お互い当事者訴訟だから自由だけれども、そういう憶測みたいなことじゃないのですか、これは。  私、それではお聞きしますけれども、どうもよくわかりませんが、道交法確定記録保存期間というものと、それから証拠物廃棄期間というものとは違うのですか、同じなんですか、どっちなんですか。
  24. 前田宏

    前田(宏)政府委員 記録は、宣告刑によりまして期間の差がございますが、証拠物につきましては、処理が済み次第廃棄という処理をすべきものは廃棄するということでございまして、そういう意味から言えば、記録保存よりは証拠物廃棄が先行する場合が多いと思います。
  25. 稲葉誠一

    稲葉委員 廃棄するといったって、本人所有権を放棄したのですか、それは。本人のものなら還付しなければいけない。話を聞くと、所有権を放棄したらしいですね。所有権を放棄したといったって、無理に放棄させたのかどうかわからぬ。しかしこれは、道交法小刀一体どういう関係があるのですか。どうして所有権を放棄させなければならないのですか。そこのところがちょっとわからぬな。
  26. 前田宏

    前田(宏)政府委員 この件は、たしか道交法違反で検挙された際に、車の中に凶器を持っていたということで銃刀法違反現行犯といいますか、そういう両方の罪で起訴されているということでございますから、銃刀法違反としての証拠物ということになるわけでございます。
  27. 稲葉誠一

    稲葉委員 ちょっとよくわからないですね。書類の廃棄の場合は、宣告刑でいくのですか、法定刑処断刑宣告刑関係で、どれで保存期間が決まっているのか、ちょっと僕にもわかりませんが、三年間とか五年間とか決まっているわけですが、いずれにいたしましても、そういう客観的な事実を通知したことだけでかれこれ言うのはおかしい。  それでは、証人に対して、検察官証人申請する、その証人をたとえば午後から公判廷で調べるというときに、朝来て、その証人検事がもう一遍調べ直して、記憶を喚起するというようなことをやっていますね、現実に。それもいけないのですか。どうなんですか。やっているじゃないですか、みんな。
  28. 前田宏

    前田(宏)政府委員 事前のテストと申しますか、そういうことはいろいろな場合に行われるわけでございまして、それはすべてケース・バイ・ケースであろうと思いますから、一概にいけないとかいいとかいうことは言えないと思います。ただこの場合は、それは憶測と言えば憶測かもしれませんけれども、そういう配慮が望ましいというようなことを感じて、そういうことを関連して述べたというにとどまっているものと理解しているわけでございます。     〔太田委員長代理退席委員長着席
  29. 稲葉誠一

    稲葉委員 これは確定記録ですから、閲覧できればわかるので、検察官が出した最終意見というものをちょっと私も見ていませんから、これ以上のことはここでわからないので、門井弁護士にもよく聞いてみたいと思っておるわけですね。  それに関連して、「これは私ども弁護人が、前に述べたように確定記録閲覧の際に本当理由を書かなかったということをとらえたものでした。無実の近田君を救うということだけでなく、司法の権威を守るためにも真実を明らかにしたいということで数年間の弁護活動をしてきただけに、またこのために閲覧理由本当のことを書かなかったということであっただけに、この偽証教唆との検察官指摘には腹の底からの怒りを覚えました。」こういうふうに日弁連講習会では言っているわけです。私も率直に言うと、いま言ったように、読んだときに上にインタロゲーションマークをつけてあるわけです。  そうすると、この確定記録閲覧も、そこに多少いまの配慮が足りないとかなんとかということの関連で問題になってくるんだというふうに書いてあるようにとれるのですが、一体八王子区検へ行って、白川氏と門井氏と二人で行って確定記録閲覧を求めたという確定記録というのは、何人にも確定記録閲覧できるわけですね。確定記録閲覧する理由を書かなくてはいけないのですか。どうなんですか。これは何か、一たん書いたら、これではいけないからといって直させられたわけですね。直させられて、そして、大森勧銀事件に必要だというふうなことを書かなかったというふうなことをとらえて検察官が論難したように門井弁護士はとっておられるわけです。  いまあなたの説明を聞くと、どうもそうでもないようにもとれるわけです。私は、だからこのところについては、くどく申し上げますが、上にインタロゲーションマークをつけているのです。だからどうも、八王子区検に行って、理由を書かなかったということが直ちに配慮が足りないとかあるいは偽証教唆ということとは結びつかないようにも私は思うのです。確定記録閲覧の場合に一体理由を書かなければならないんですか。仮にその理由大森勧銀事件のことだと書かなかったとして、一体それはどういうふうになるのですか。非難さるべきなんですか。どうなんですか、それは。
  30. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まず前提の事実として、弁護人の方が八王子検察庁記録閲覧に行かれました際に理由を書いて、それを直せと言われたというような話がございますが、その点は、何分にも古いことでございまして、だれがどういうことを言ったかということは、いま調べてみましても、どうもわからないというのがまず前提の事実でございます。  それから、先ほどの検察官控訴審における最終陳述のことでございますが、先ほど一部読み上げましたけれども、そのもう少し前にいまの問題に触れているところでございまして、「申請理由を偽って」右確定記録閲覧をしておるという言い方が出ております。それが検察官受け取り方としては、アンフェアだといいますか、というような印象を持ったということも、そのことを通知したことが配慮が足りないということにつながる一つ説明というふうには理解できると思うわけでございまして、そういう意味では門井弁護士さんの理解も少しどぎついことはどぎついわけでございますし、偽証というふうに言っているわけではないのですけれども、それが一連のこととして評価されているという意味においては、あるいは一致しているかもしれません。
  31. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、確定記録閲覧に行ったときにだれがどう言ったといっても、これは恐らく事務官が言ったことですから、そこまで調べるといってもいまわかりませんから、それはいいのですが、私の聞いているのは、弁護人の方としては、大森勧銀事件捜査に必要だからこの記録閲覧したいということを言えば、それはもうすぐ検察官の方に連絡があって、その証人に出てくれと言っている、これは本人の方から出たいというふうな電話をしたようですけれども、その人に対していろいろなプレッシャーというか働きかけがあるじゃないか、こういうことを考えて弁護人としては、だからその事実関係について別件の何か民事訴訟を提起するためとかなんとか理由を書いたようですね。それは別にどうということはないんじゃないんですか。正当な弁護活動であって、検察官がかれこれそこで論難すべきことではないんじゃないのか、こう私は思うのですが、それはどうですか。それでは検察官の方もアンフェアじゃないですか、これは。もしそれが通知されれば必ず働きかけるに決まっているじゃないですか。あたりまえでしょう。わかれば何か手を打つのはあたりまえなんだから。
  32. 前田宏

    前田(宏)政府委員 手を打つかどうかは、そのときのことでございますから何とも申し上げられませんけれども、それはそれとして、必要であればやむを得ないことであろうと思いますので、それをアンフェアだとは言えないと思います。  ただ、ここで検察官が主張したのは、少なくとも御本人も後で認められておりますように、事実はこの事件のことで見たかった。しかし、それではいまのような配慮があって、結局その実態とは違う民事事件という名前といいますか、理由を別に書いた。そういう意味では本当のことを言わなかったというふうに言っておられるわけでございますから、その点を虚偽と言えば虚偽、それをそういうふうに言うことが適当かどうかという問題はございますけれども、そういうとらえ方は一応できないわけではないというふうに思うわけでございます。
  33. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、そこで弁護人の方としては、それで本当のことというか、大森勧銀事件のために必要だと書けば、すぐ検察官の方から連絡があるというふうに考えて、自己防衛というか、防衛権の行使として、弁護権の活動として書いただけの話なんですが、一体確定記録閲覧というのは何人にも認められている権利ですね。刑事訴訟法に書いてある。そこで、それは理由を書かなければいけないのですか。確定記録が必要だということだけでいいのじゃないのですか、必要があるから閲覧したいというだけで。謄写は別ですよ、謄写は許可が要るのだから。証拠物閲覧はこれはまた別だけれども確定記録閲覧そのものは、別に理由を書かなくたって、必要があるから見たいというだけでいいのじゃないのですか。その点はどうなんです。
  34. 前田宏

    前田(宏)政府委員 確定記録閲覧につきましては、御案内のとおり、刑事訴訟法の五十三条というところに規定がございまして、一項で「何人も、被告事件の終結後、訴訟記録閲覧することができる。但し、訴訟記録保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。」ということがございます。さらに二項で、「弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があって特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。」というのがございます。三項には、例の憲法八十二条二項ただし書きに掲げる事件のことが書いてございます。  というようなことで、いま稲葉委員がおっしゃいましたように、一言ですべて公開といいますか、閲覧自由というふうにもなっていないわけでございます。一項は確かに原則的に自由でございますが、それでもただし書きがある。さらに二項は、そういう事件の種類によって特別な理由がない場合には閲覧できない、こういうふうになっているわけでございますから、だれかが閲覧申請に来られました場合に、一項のただし書きの問題もあり、また特に二項の問題もあるということで、理由をまず一応書いていただくということは、事務の処理としてあってしかるべきものではないかというふうに思います。
  35. 稲葉誠一

    稲葉委員 あなたの方でいまいろんな条文を引っ張ってきて、それをただし書きの方を使っておられますけれども、本件の場合はそれに該当しないことは明らかでしょう、この八王子区検の場合は。結果として後から見て該当しないということがわかったので、そのときはただし書きに該当するかしないかわからぬから書いてもらった、あなた方はこう言うかもわかりませんけれども、ただ、その条項のただし書きには該当いたしませんということの理由でいいのじゃないですか、こんなことは。それでいいじゃないですか。そういう書き方でいいわけじゃないですか。
  36. 前田宏

    前田(宏)政府委員 おっしゃいますように、ただし書きに該当しませんということをおっしゃられましても困るわけでございまして、それはむしろこちらが、保管者側が考えることでございますから、やはり一応の理由を述べていただいて、それが結果的にその記録と照らし合わせてみまして、稲葉委員のおっしゃるように特に問題がないということであれば、その理由はいわば結果的には要らなかったことになると思いますけれども申請の段階では一応書いていただかないと、こちらの取り扱いがしにくいということになるのじゃないかと思います。
  37. 稲葉誠一

    稲葉委員 そこら辺のところは、どっちが原則だということの理解の仕方だと思うのですよ。だから、確定記録閲覧がだれにでもできるとちゃんと原則で書いてあるわけですからね。例外は厳しく考える。別にそんな細かい理由を書かなければならないことはないので、その理由が違っていたとかなんとかいうことで論難すべきことでも何でもないと思うのですが、これはその程度にしておきましょうか。  そこで、もう一つの問題は、自供の問題はあるのですが、これは具体的な事実関係ですから、事実関係の認識の問題をいまここで論議しても始まりませんから、これは三の四十五年十二月十五日の自供の関係については別にしたい、こう思うのですが、私の問題にいたしますことは、この前言った四の起訴後一カ月近くたって四十六年一月十八日に上申書が出されておるということですね。こういう事実はまずあるのですか、ないのですかということと、その上申書はだれが——だれがということは、特定の検察官なり警察官の名前まではわからないかどうかは別としても、どういう官職の者がどういう事情でこういう上申書を書かせるということになるわけですか。
  38. 前田宏

    前田(宏)政府委員 お尋ねの上申書と申しますのは、昭和四十六年の一月十八日付のものであろうと思います。この上申書のことは判決書の中にも出てくるわけでございまして、そういう上申書があるということは、その判決書自体からも明らかであるわけでございます。  で、細かいいきさつは必ずしもはっきりしない点もございますけれども記録等を一応検討いたしましたところによりますと、本人から留置場の看守を通じて捜査担当の警察官に対して話したいことがあるということであったので、それではということで調べ室の方に呼んだ。そして何の用かということであったが、その内容はよくわからないけれども、どうも余り重要なことであるというか、関係のあることではなかったような印象だというようなことになっておりますが、その際、ついでにといいますか、話のついでにというような形で、本人が登戸へ行ったかどうかということが話題になりまして、そのことを警察官が話題としたところ、これはこういうわけであるというふうに近田氏が述べて、それを自分の上申書という形で、もちろん警察署長あてということでございますが、そういう形の上申書を出したというふうな経過のように考えられます。
  39. 稲葉誠一

    稲葉委員 問題は、だから起訴された後における被告人供述調書を一体警察官なり検事がとれるかどうか、こういうことの問題になってくるわけです。あなたはいまその点を言われなかったけれども、そこの問題になってくるわけでしょう。これは判例などによってはできるだけ避けた方がいいとか、いろいろな議論がありますけれども、特定の場合には許されるというような議論になっていますね。そのためにこの上申書という形のものにしたんじゃないですか。そこまで警察官がわかっていたかどうか、ちょっとわからぬけれども検事だったらわかっていたかもわからぬけれども、警察官だからそこまでの法律的な解釈がわからないで書けと言ったのかもわかりませんがね。  しかし、起訴後本人がこういうことを仮にいま言ったような説明で書いてもらいたいというか、言いたいということを言ったとなれば、それは重要な問題ですよ。重要な問題であるのにそれを上申書という形にとったということは、どうも非常におかしいというふうに見られるわけですね。裁判所、そう見ていますね。これはアリバイの問題は、前から問題になっていたんじゃないですか。登戸へ行ったとか、そこへ一晩泊まったとか、車の中で泊まったとかいうことは問題になっていたわけですからね。時間的にも無理だというようなことも出てきているわけですから。  そこで、これについては高裁では、「後日公判で事態が紛糾した場合に備え、あらかじめ被告人供述調書を作成しておく必要があるが、起訴後でもあるので上申書の形式によるのが無難である。こうした意図と配慮から右上申書が作成されたとみるのが自然であろう。」「上申書の作成・提出の経緯にかんがみると、本件における捜査官の捜査姿勢全般に対し、不信の念すら感じざるを得ない。」こう裁判所が言っているわけですね。こういうふうにいま私が述べたようなことを言っておることはまず事実ですかどうか、これが一つです。
  40. 前田宏

    前田(宏)政府委員 高裁判決の中にいまお読みになりましたような部分があることは事実でございますが、この点が問題にされているということでございましたので、何かこういうことを言われるような具体的な資料があるかということを見たわけでございますけれども、どうも直接結びつくような証拠はない。証拠というのは変でございますけれども、ないわけでございまして、また十分記録を検討していないという点もあるかと思いますけれども、裁判所が一応そういう推論をされたということであろうというわけで、何かあらかじめ意図的にやったものだというふうに見るのが自然だろうというふうに結論づけるような証拠といいますか、資料といいますか、そういうものはいまのところは見当たっておりません。
  41. 稲葉誠一

    稲葉委員 非常に広範な記録ですから、だから細かい点までわからないのは無理もないかと思うのですが、しかし、この上申書というのは検事のところへ送られてきたわけですね。当初から送られておったんですか。この警察の証人が出ましたよね。渡辺という証人かな。これが出た後に登戸行きのようなことを近田被告が言っておったというようなことを言ったものだから、この上申書が急に警察から送られてきたのか、前もって検事は持っておって、そしてそういう証言が出てきたものだから突如としてこの上申書を出してきたのか、ここら辺のところを指して裁判所は、これはどうも捜査に不信感がある、こういうようなことを言っておるんじゃないですか。その事実関係はどういうふうになっていますか。
  42. 前田宏

    前田(宏)政府委員 そういう事実の摘示でもあれば逆にわかりがいいわけでございますが、そういう説明もないわけでございますので、どうも見た限りではこのような推論になるのかなという、むしろ疑問を持つような感じもするわけでございます。  いまの点について申しますと、むしろ当初から上申書が送られてきておって、後になって急に問題が起こってから追送されたというような事実関係ではないようでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、渡辺証人が、近田被告が前からそういうようなことを自供しておったというようなことを、証人として出廷したときに述べたんでしょう。その後突如として検事が持っていた上申書を出したんじゃないですか、経過は。そこまで細かい点だからあるいはと思いますが、そういうふうになっているんじゃないですか。これは門井弁護士もそういうふうにずっと言っているんだから、あなたもそういうことを読んでおったんじゃないの。
  44. 前田宏

    前田(宏)政府委員 被告人の弁解が、問題の石田という人に会ったのは十六日の夜であるということを言っているということが、なかなか調書に出てなかったということが問題になっておったわけでございますが、この上申書はそれとも必ずしも矛盾しないわけで、石田という人に会ったのは十七日でも十分いいわけでございますし、むしろこの判決で言っているように、石田という人に会ったのは十七日の夜で、登戸に行ったのはむしろそれより逆に先の十七日の朝だというような、この上申書から見ればそういう事実関係になるわけでございますから、それまでの十六日、十六日という弁解と直接につながるものではないように思うわけでございます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉委員 それでは、どうしてその上申書を検察官が法廷に出したんですか。
  46. 前田宏

    前田(宏)政府委員 細かい点でございますけれども、従来からというか、ある時期から、石田という人に会ったのが十六日の夜であるか十七日の夜であるかということが問題になりました。その場合に、石田という人に会ったのと登戸へ行ったというのが、結局石田氏という人に会った後に登戸に行った、こういう話としてずっと来ていたわけでございます。そうなりますと、それが十六日であれば、登戸へ行ったのがその後になるということになりますし、十七日の夜であれば、犯行の時刻には登戸の方へ行っておったということになるわけで、前後関係は同じままでそれが十六日か十七日かということが論ぜられてきたわけでございます。  ところが、この上申書は、そういう見方のほかに、石田という人に会ったのと登戸へ行ったのとの前後関係が逆な場合もあり得るという見方といいますか、別な見方があるわけでございますが、そういう見方に立ってそういうことを本人が言っておる、その方がむしろ事実ではないかという、検察官としての主張を変更したというふうにも言えるかと思いますけれども、新しい、前後が逆になるという見方、それもあり得るというふうに経過上なって、それを立証するための資料ということで、この上申書が出てきたということでございますから、事態がいろいろ動いて、十六日か十七日かというような論議があって、その論議がはっきりしないままに来ているところで、実は石田氏に会ったのが先ではなくて登戸の方が先であるというような見方が出てきて、そういうことは何か証拠があるかということになると、この上申書がある、こういう経過のもとで出てきたというふうに理解されるわけでございます。
  47. 稲葉誠一

    稲葉委員 細かい事実関係をここで聞いて論議するところでもないと私は思うのですが、主として法律的な面について、後からいろいろ別な件でお聞きしたいのですが、しかし、いま言ったようなことなら、高裁判決の中で、「上申書の作成・提出の経緯にかんがみると、本件における捜査官の捜査姿勢全般に対し、不信の念すら感じざるを得ない。」こう言われているわけですから、これは最高裁で却下になって判決確定しているわけですから、そうすると、ここにいう作成・提出というのと、捜査官という、これは捜査官というのは警察官のことを言っているのですか。これはどうなんです。作成は警察だな。提出検察官捜査官というのはだれを言っていることなんだ。だれというのは、個人名ではなくて、どういうふうに理解するの、この判決は。
  48. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まさしく稲葉委員と同様な疑問を持つわけでございまして、この判決をお書きになった裁判官に伺ってみるほかないわけでございますが、捜査官と言った場合には、この場合には警察官も当然のことながら入りますし、場合によっては検察官も含むというふうにも理解されるということでございまして、それをどういう意味でこのような表現をされたか、はっきりしないと言えばはっきりしないわけでございますし、先ほど申しましたように、こういう点は確かに指摘されておるわけでございますから、それなりに受けとめなければならないわけでございますが、どういうことからこういうような結論、御指摘を受けることになったかという点について、そういう意味からも検討しているわけでございますけれども、必ずしもはっきりしない。むしろ何か非常に心証を害したというようなことがあって、そういうことになったのじゃないかなというような気もするわけでございます。
  49. 稲葉誠一

    稲葉委員 それだから、上申書というのを本人が言いたいからと言っていったのじゃなくて、無理に書かせたのじゃないかなということが考えられるんじゃないですか。ここのところ、確かにどうもよくわからぬですな。何か十七日の朝方に登戸に行って、十七日の夜に本件犯行を行ったというようなことがこの上申書には書いてあるらしいですね。そういうようなことを何か本人が言ったというなら重要な問題だし、無理に書かせたとなればこれはまた問題だし、そういうようなことは警察が本来捜査をやっている検事に、起訴している後ですから、連絡すべき筋合いのものだ、こう思うのですが、ここらのところ、細かい事実関係よくわかりませんが。  そこで、いろいろな問題の中で、実は私も疑問に思いますのは、渡辺証人というのが出てきますな。この渡辺証人証言の中で、近田被告が実際と違う銀行のいろいろな図面をかいたというふうなことを言っていますね。かいたと言っているけれども、それについてはもう関係がないから調書にとらなかった、こう言っていますね。  そこで私は、事実論じゃなくて一般的な議論として、一体供述調書というのは何なのかというと語弊がありますけれども捜査官が必要と思うものだけを書けばいいというふうなものなのか、あるいは被告人あるいは被疑者がしゃべったことで、こういうことは書いてくれと特に言った場合はもちろん書くことになっていますね。なっているけれども、そうでない場合でも、そこでいろいろ言っているわけですから、そういうふうなものについては捜査官の主観でこれは書かなくていい、こういうことになれば書かなくていいということになっているんですか。そこはどういうふうになるんですか。
  50. 前田宏

    前田(宏)政府委員 法曹の先輩である稲葉委員に私から申し上げるのもいかがと思いますけれども、一般的に申しまして、いろいろな関係者から調書をとる場合、全体として本人の述べたところがその調書にあらわれていなければならないということは当然であろうと思います。したがいまして、全体的に見てへんぱな調書といいますか、そういうことがあってはならないということ、これは当然であろうと思いますけれども、そうかといって、何回か調べた場合に、言った都度言った都度そのとおりに記録しなければいけないかということになりますと、必ずしもそういう必要はないんじゃないかというふうに思いますし、現にそういうことではないというふうに思うわけでございます。  明らかに客観的な事実に反することを述べているというようなこともあるわけでございまして、また、捜査官側だけの見方かもしれませんけれども、いいかげんなことを言っているという場合にそのとおりにとる必要があるかということになりますと、そこまでの必要はないんじゃないか。ただ、それはあくまでも調書全体が片方に偏っている、捜査官側だけに有利であるというようなことであってはならない、これはそのとおりでございますけれども、一言一言全部言ったとおりにとらなければならないということにはならないんじゃないかというふうに思います。
  51. 稲葉誠一

    稲葉委員 一言一言全部言ったとおりに書いていた日には、調書でなくて、それは録音か何かで全部とっていかなければならないですね。こういうやり方もイギリスなんかではやっているという説もありますが、私はいまのような供述調書のあり方については問題があると思っているのですよ。それはもちろん、三百二十一条で担保されているからいいんだ、任意性だ、信用性だ、担保されているんだからいいんだという理解の仕方もありますけれども。  ロッキードの被告などもこういう調査が作文だ作文だと言っていることについては、私は作文だというふうに思いますね。作文というのは、取り調べ官が自分の頭の中で構成要件というものを全部考えているわけですから、それに合うように聞いていって、それに合うところだけ書いて、ほかのものはほとんど書かないわけですからね。だから、そういう意味においては作文だというふうになるのですね。あんなに初めから終わりまでだらだらしゃべっているわけはないわけですから、全部まとめてとっているわけですからね。  たとえば殺人の場合の未必の故意だって、この石をぶつけたら当たりどころによっては死ぬのではなかろうかと思いましたなんて、そんなことはあなた、本人が言うわけないでしょうが。こっちが聞くから、はあそうだと答えるだけの話で、はあそうかもしれませんねと答えるというと、それが、当たりどころによっては死ぬかもわからないというふうに思いましたという、未必の故意の調書になってくるんだから。現在はみんなそれをやっているんだから。だから検事の方は、いかに法律的に構成してうまく調書をとるかということも、現在においては一つの技術なんですよ。大臣、そうなんですよ。聞いてごらんなさいよ、実際そうなんだから。  だから、おまえ詐欺したかと言えば、だれだって詐欺したなんて絶対言わないです。あたりまえの話です。おまえ窃盗したかと言えば、窃盗したと言わないですよ。おまえとったかと言うと、とりましたと言うかもわからぬけれども。そこら辺、非常にむずかしい。それは頭の働きなんだよ。よく聞いてごらんなさいよ。取り調べ官、警察官と検察官と被疑者、被告人との頭の働きなんですよ。おまえ詐欺したかと言えば、詐欺したなんてだれだって絶対言わないですよ。いや、私は詐欺しませんと言いますよ。徐々に事実関係を聞いていって、それが法律的な判断として詐欺になるかならないかは、それは判断の問題なんで、それを頭から詐欺したかなんて聞いたら答えないから、そこのところはテクニックの問題でやって、うまく構成要件なり何なりに合うように調書を頭の中で整理してとっていくわけですね。だからそういう点、非常に問題なんですよ。それはイギリスなんかのやり方と違うようですから、そこら辺、技術の問題があるわけですが。  そこで、実は私、きのう、この問題の中で、近田事件だけじゃないのですが、あらゆる事件の中で、法務省から出した資料はそう詳しくないのですが、法務委員会の調査室のつくった資料、これは非常に詳しく、よくできておりますね。なかなか大したものですよ。褒めてあげますと言うとおかしいけれども本当によくとれている。ただ、請求人の氏名、刑事補償の場合、名前まで全部書く必要があるか、これが仮に漏れたときには、と思いますけれども、しかし、それは公告されるわけですから、本人としては別に反対しているわけじゃないからいいかもわかりませんが。  これは率直に言うと、一つ一つ本来検討しなければいかぬと思うのですよ。検討するというのは、どこを検討しなければならないかというと、これは五十五年しか出ておりませんから、五十六年のも当然来ているわけですから、検討するとなると、一つのポイントは、なぜ刑事補償というものが行われるかということは、それを前提としてなぜ無罪の裁判が出るかということですね。その前提として、警察なりあるいは検事なりの捜査というものがどこに問題点があったか。欠陥がなかった場合もあるだろうし、ある場合もある。そうなれば一体どこにその問題点があるかということになってくると、一つは別件逮捕の問題がそこに出てくるだろう、それから一つは、もちろん代用監獄を中心とした自白の強制の問題が出てくるだろう、こういうふうなことが考えられてくるわけです。  そこで問題となってくるのは、別件逮捕と言うときの別件というのは一体何かということをやはり厳格に定義づけをしておかないと、何でもかんでも別件逮捕だからと言うわけにもいかぬし、何でもかんでも別件逮捕だからいいとも言えぬし、そこら辺のところを……。  そこで私の言うのは、実は「判例タイムズ」の一番新しい四百六十八号を見てみたわけですね。そしたら、刑事局の参事官をやっていていま東京地検の特捜部長をやっている藤永幸治さんが、刑事法のことを書いている。これはなかなかいい論文ですね。この論文をそのままイエスと受け取るか、ノーと受け取るか、いろいろ見方はあると思いますが、「我が国の捜査実務は特殊なものか——別件逮捕・勾留と関連して——」、こういうふうなことが事いてあるわけですね。これを私は読んだのですが、実はこの中でよくわからないと言うと語弊がありますが、関連して質問提出するわけです。  この大森の勧銀事件の中では、強盗殺人についてちゃんと勾留して、それを途中で釈放していますね。釈放して、その後において、一方は窃盗が進行しているわけですからね。勾留理由二つになっておって、片方は実刑で刑の執行を受けておる。片方の強殺の方は一回釈放になっておるけれども、片方の窃盗の方はまだその当時は勾留中でしたか、それでやっておいて、後から求令状で恐らく起訴したのだ、こう思うのですね。だから、あなたの方から言わせれば、本件については強殺は別件逮捕ではない、こういうふうに言われるのだと思いますね。  そこで、私にはよくわからないのは、この藤永さんの論文の中にもあるのですが、「特に最近は別件逮捕というあらぬ批判を避けるためにも、本件の逮捕を重ねることにより、いわゆる事件単位説に沿う捜査をしているのが実務の現状であるといえよう」、こう書いてあるのですね。この「本件の逮捕を重ねる」という意味がよくわからない。これは誤解を招く言葉なんですよ。詳しく読んでみればわかるかもわからぬけれども、ちょっと僕はよくわからない。「事件単位説に沿う捜査」というのは具体的にどういうことなんですか。これはよくわからないんだ。
  52. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわゆる別件捜査、別件逮捕の問題を論ずる場合に、本件、別件という言葉の使い方が人によっていろいろまちまちでございまして、それ自体が問題と言えば問題であろうと思いますが、ここで藤永検事が言おうとしたのは、本件と別件と言われるように、甲なら甲という事実と乙なら乙という事実がある場合に、二つの事実があるのに一つの方で逮捕、勾留をして、他の方についてはその逮捕、勾留を利用してといいますか、その機会に取り調べをするというようなことをやるとすぐに別件逮捕だという批判を受けるというようなことで、本来はそういうことがあってもいいわけなんだけれども、そういう疑いをかけられるのは適当でないので、一件一件、甲乙あれば、甲は甲でやって、それから済んでから乙をやるというふうにやっていった方がいわれなき非難を受けなくてよかろう、こういうことを言いたかったのじゃないかと思います。
  53. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、これを読むと、「本件の逮捕を重ねること」という意味がどういう意味かというと、たとえば強殺なら強殺でやって二十日間勾留しますね、そして釈放する、釈放してその入り口でまた同じ事件について逮捕する、こういうことを言っているようにとれるのです。「本件の逮捕を重ねることにより、いわゆる事件単位説」というのは、そういうことはできないという意味ですか、もちろんあたりまえだと思うのだけれども。何かよくわからぬな。
  54. 前田宏

    前田(宏)政府委員 同じ事件で二十日間を二回やるということができないことは当然でございますから、そういうことを言っているわけではないので、本件というのは、私の理解では、いま言いましたように仮に甲乙あった場合は、甲も本件、乙も本件ということなので、まず甲なら甲を逮捕、勾留して調べる、それが済んだら、また本件である乙の逮捕、勾留をする、こういう意味で、甲の逮捕、乙の逮捕と、それぞれ本件である、こういうことを言いたかったのじゃないかな、こういうふうに思います。
  55. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうなれば、あなた、窃盗なんか、たくさんあるのを幾らでも勾留できるじゃないですか。十件あれば、一つ二十日間かな、そうなると二百日勾留できるし、それで勾留が幾つも幾つもつながっているから、あなた、保釈のときなんかそういうところは一体どうするのです。全部保釈しなければならないというと莫大な金がかかってきて、大変な問題になると思うので、ちょっとこれは藤永さんの言う意味が、「事件単位説に沿う捜査」ということが、この本件というものの私の理解の仕方、読み方がどうも変なふうにとれたものですから、ちょっとお聞きしたわけです。  そうすると、いわゆる別件逮捕の場合に、あなたの方としてはどういうのが別件逮捕だ、こういうふうに理解をしておるわけですか。
  56. 前田宏

    前田(宏)政府委員 もともとその別件逮捕というものが法律上あるわけではございませんで、まあ捜査方法の当否ということで議論されているわけでございますから、物の考え方によっていろいろと使い分けがあろうかと思います。  この藤永検事の論文の中にも、いわゆる別件逮捕についていろいろな理解といいますか、それを書いておるわけでございますが、まあ一言で申しまして、本来起訴に値しないような事実で逮捕、勾留をして、そして重大な犯罪の捜査にそれを利用するというようなことが好ましくない捜査方法である、こういう意味であろうと思います。
  57. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、そういう捜査方法をいままでの中でやったことが一体あったのか、ないのですか、どうなんですか。
  58. 前田宏

    前田(宏)政府委員 結果から見ますと、いろいろな御批判なり評価もあると思いますけれども、一般的にといいますか、基本的な考え方として、ことさらにその手続を潜脱するというような、悪意を持ってやっているというようなことはないように理解しております。
  59. 稲葉誠一

    稲葉委員 私が聞いているのは、刑事補償法の審議をしているわけですから、そうしてせっかく法務委員会の調査室でこんなりっぱな資料をつくっていただいたわけですから、これの最後のところに「最高裁判所刑事局報告による」と書いてあるから、これは間違いないと思うのですが、五十五年のこの中で、いまあなたの言われたような別件逮捕によるところのもので、こういうふうな無罪判決があり、刑事補償になったものが一体あるのですか、ないのですか。どういうふうになっているのですか。
  60. 前田宏

    前田(宏)政府委員 時間の関係もございまして、この事例が全部で六十一例ですか、あるかと思いますが、その全部に当たっておりませんが、とりあえず東京高検管内のものについて見ましたところ、いまここで問題になっているような、いわば無実の人が違法な不当な捜査によって起訴されて、それが裁判で無罪になった、こういうような適例はどうもないようでございます。  一応分類的に見ますと、この事例の中では、たとえば四番であるとか八番であるとか、あるいは十二番、十三番であるとか、そういうものが自白の信用性に関する問題を含んでおるわけでございますが、その一例といいますか、中身を申し上げませんと十分御理解ができないと思いますので、たとえば四番の放火事件について見ますと、この被疑者というか被告人は、酔っぱらって人から借りている自分の部屋に放火しようということになりまして、そしてウイスキーなどを飲んで、もちろん酔っぱらっていた、ラッパ飲みして酔っぱらったというようなことがございますが、それがこぼれてシャツやズボンに広がった。そして、被告人の体温でそのウイスキーに含まれているアルコール分が気化しつつある状態のときに、ライターで点火をした。その火が気化したアルコールに引火をして、シャツなどにしみていたウイスキーのアルコール分が一気に炎上した。こういうようなことで火事になって建物が四棟も焼けまして、一名の方が亡くなった、こういう事件でございまして、放火の訴因と予備的に失火の訴因と両方の起訴がなされているわけでございます。  本人供述はいまのようなことで、ライターで点火して着衣に燃え移ってから、それを灯油のしみているカーペットの上に脱ぎ捨てたと思うと。という点はさっきちょっと申し落としましたが、灯油の入ったポリ容器をけっ飛ばしたり投げつけたりしてカーペットの上に灯油がこぼれていたということでございますが、そういうことを述べていたので、もちろん外形的には被告人がそういうことをしたわけでございますが、その供述がどうも客観的な事実と必ずしも符合しないということで、放火とも言いかねるし、また、そういうふうなシャツにウイスキーがしみて、それが気化してライターで火がつくというようなことはなかなか予測しがたいということで、失火の訴因も否定された、こういうような事案でございますので、どうも適切な事例ではないのではないかというふうに思うわけでございます。  さらに、たとえば八番でございますが、恐喝未遂ということでございます。これは、被告人が女の人から金を恐喝しようということで、第三者の亡くなった人がいたようでございますが、その人から預かっている金が残っているはずだということで、いわば貸し金の返済みたいなことでおどかした。もし返さなければ言いふらしてやるというようなことを言ったということで、恐喝未遂であるわけでございますが、その点については、被害者がそういうようなことを言ったという証言証拠になっているわけでございますけれども、その被害者である女性の証言がどうも不明確で、それから脅迫的な言辞があったというふうには断定できない。また、被疑者といいますか被告人は、捜査段階で一応否認しておったわけでございますが、最後の日、つまり起訴当日に一応認めている調書ができている。この調書について本人は、何とか釈放してもらいたいというためにそういうことを述べたのだというようなことを公判で弁解したということで、その弁解も直ちに排斥しがたいというような認定になりまして、結局無罪になったということでございますので、どうも不当な捜査というような類型には入らないのじゃないかというふうに思うわけでございます。
  61. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまずっと例が挙がって、五十五年度で六十一件挙がっておりますけれども、このうちにいわゆる代用監獄の中での自白ですね。いまあなたの言われた中のは、自白の問題ならば、自白が任意性がない、信用性がないということで無罪になったのがほとんどだと思いますが、そうすると、代用監獄の中で自白が行われた、強要が行われた。強要と言っていいのでしょうね。そういうふうなことで無罪になって刑事補償を出すようになったという例が相当あるのだというふうに思うのですがね。その点は、いまここで調査ができていなければ、いまでなくてもいいと思うのですが。  それからもう一つ、いま勧銀事件のことを聞いているわけですが、その勧銀事件のこれも、前には強殺の事件で逮捕、勾留されて、釈放された、こういうふうになっていますね。ただ、私は詳しく聞かなかったのは、時間的なずれがあるんじゃないですか。それと、ライフル銃の窃盗で逮捕され勾留されてから、その強殺の事件で逮捕した。逮捕はしないわけかな。すぐ勾留されているから、すぐ勾留状を請求したのか、よくわかりませんが、その間にずれがあって、その間はいわゆる別件の捜査というものが行われていて、そして強殺の方の容疑が相当、あなたの方から言わせれば固まったという段階の中で勾留状の請求という形になったんだ、こういうふうに思うのです。だから、十二月二十一日に起訴されたわけですね。  警視庁留置場に勾留され、その期間の大半を、別件勾留だけが継続している間も、ほとんど連日午前九時前後ころから午後一〇時ないし同一一時ころまで、ときに翌午前一時ころまで、勧銀事件について、すくなからぬ人数の捜査官の取調を受けていたものである。こうした事情に加え、前示のような捜査当局ないし捜査官の自白追求に対する姿勢からみると、被告人に対する勧銀事件の取調が苛烈であったことは推測するにかたくない。とくに、別件が起訴された一一月六日以降においても、なお代用監獄が勾留場所となっている限り、被告人が勧銀事件について捜査官を満足させる自白をするまでは、右の取調状態が際限なく継続する状況にあったと認めざるを得ない。このことは、勧銀事件について釈放された一二月六日以降において、なお一層明らかである。 これは高裁判決の中に書いてあるわけですね。  そうすると、私がまずお聞きをいたしたいのは、これは警察でやったことだ、警察でやっていることだからということで、検察官はこういうような調べが行われておるということについて全然知らなかったのかどうか、これが第一ですね。知っていたけれども任せっ放しにしておいたのかどうか、これが第二点ですね。  それから、時間的なずれがあるわけですね、窃盗事件とそれからこの方の勧銀事件捜査が令状をもらってやるまでの間、起訴されるまでの間。十二月二十一日の起訴だから、いつになるのですか、十二月六日に釈放になって十二月二十一日に起訴になっているわけですね。十二月六日の釈放ですから、それの十日前か二十日前かに勾留になっていると思うのですが、そうすると、窃盗事件の逮捕、勾留との間に時間的なずれがあると思うのです。これは恐らく別件でしょうね。こういうふうに、その間の経過を説明願いたいのと、それから、いまこういうふうに高裁判決で判示されていますから、その点についてどう思うのか。
  62. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほど一部の例を申し上げましたけれども、五十五年に補償決定のあった事例につきましては先ほど全般についてお答え申し上げましたように、不当な捜査といいますか、それによって誤った自白が得られたというふうに見られるものはないということでございます。ただ、その自白が結局結果的に信用できなかったという理由はいろいろあるわけでございますが、先ほどのような例で御理解をいただきたいわけでございますし、必要があればその他の数件についても申し上げたいと思いますが、自白は、先ほどの第二の例では検察官に対する調書ということでございますが、その他はおおむね警察における供述であろうと思います。ただ、警察における供述であるからといって直ちに代用監獄の罪だというふうにつながるかどうかということは、また別問題であろうというふうに思うわけでございます。  それから、本件における事実関係でございますが、大変複雑になっておりまして、入りまじっているわけでございますけれども、いわゆる窃盗、銃刀法等の関係は四十五年の十月二十七日に逮捕になりまして、十一月六日に起訴されておるわけでございます。さらに、その関係で追起訴が十二月に二回ございます。それから、問題の強盗殺人事件の方は十一月十四日に逮捕になりまして、そして一たん十二月六日に釈放されております。そして、十二月二十一日に別件、つまり窃盗等の勾留中に求令状起訴ということになっておるわけでございます。
  63. 稲葉誠一

    稲葉委員 私の聞いているのは、だからそういうふうに別件でやっている間に、判決にあるように一体勧銀の強殺事件捜査が行われておったのかどうかということ、それを一体検事が知っていたのか、知ってなかったのかということですよ。それを聞いているわけです。
  64. 前田宏

    前田(宏)政府委員 どの程度詳しく知っておったかということになりますと、当時のことでございますし、そういう具体的な資料もないわけでございますから、はっきりしないと言えばはっきりしないわけでございますが、一つ言えますことは、いわゆる窃盗等の事件の担当検事とこの強殺事件の担当検事とは別な検事であったということでございますし、そうかといって、逆にこれだけのことでございますから、全く検察庁連絡がなかったということは常識としてもないわけでございます。したがいまして、ある程度警察の動きといいますか、ことは検察官としても承知しておったと思いますけれども、一々の細かい点までどの程度把握しておったかということになりますと、必ずしもはっきりしない、いまとなっては特に必ずしもはっきりしないということでございます。
  65. 稲葉誠一

    稲葉委員 大臣、大臣は文学の方が御専門ですからあれかもわかりませんけれども検事と警察官というのはなかなかむずかしいのですよ、関係は。検事の方は知能犯の捜査については得意なんですよ。自信があるのです。ところが、いわゆる強力犯というか強殺だとか暴力犯、こういう関係については検事は余り得意じゃないのですよ。こういうのは大体警察に任せっ放しが多いのです。こういうのをやる検事というのは検事の中でも余り頭脳が優秀じゃないと言うと言葉が悪いけれども、とにかく余りやらぬわけですね。だから、知能犯関係だとか会社犯罪とか、こういう涜職関係は得意なんですよ。こういう事件になると警察に任せっ放しです。だから、代用監獄で任せっ放しですね。そうして、その間何が行われているか、検事は全然知らないわけですよ。全然知っていない。報告なんか全然ありませんよ。これは恐らく起訴する段階ごろの途中で、ある程度報告を受けているかもわからぬけれども、起訴する段階ごろになって記録を受けて、それでやっているわけですから。大体普通ですよ。  第一、あなた、法務省の刑事局に来ている人、いっぱいいるでしょう。その中で強盗殺人事件とかそういう事件の得意な人なんか、あなた、聞いてごらんなさいよ、一人もいないから。そういう人は一人もいないですよ。大体みんな知能犯専門の人なんですから。だから、こういう事件になってくると、もうほとんど警察に任せっ放しです。実際いまでもそうだよ。  そこで、私の聞いているのは、わからないとかなんとかじゃなくて、判決にこう書いてあるじゃないですかというんだよ。こういうことを一体検事は知っていたか知っていなかったかということが一番問題なんで、恐らくこれは知らなかった、任せっ放しですから。ある程度事件が固まってから検事のところへ報告があるので、それを簡単に調べて起訴するわけですから。そういう関係が大体実情として行われているわけですから。だから、そういう点を検事が知っていたか、知っていなかったか。  これは当時の地検の検事かだれだか知りませんけれども、私はよく調べていないから知りませんけれども、いまやめてしまった人かどうかわからぬけれども、恐らく窃盗の方は簡裁でやったわけでもないでしょう。その間の経過、ちょっとよくわからぬけれども、簡裁ですか。区検検事がやったの、これ。副検事か何かでもやったんですか、窃盗の方は。強殺事件は副検事がやるわけないから、これは恐らく東京地検の刑事部の検事がやったのだと思うんですけれども。よくわかりませんけれども、こういう事実関係を知っていたか知っていなかったかが一番大きな問題なんですよ。  余りやかましく警察の方へ言わないのですよ。これは警察の方へ余りやかましく言うと、大臣、よく聞いてください、警察の方は嫌がるのですよ。検事捜査の指揮権はありませんから、指揮権がないのに警察の方へ余りやかましいことを言うと嫌がる。そのために余りやかましく言わない。  それから、警察から送られてきた事件検事が不起訴にしてしまうと、あの検事は腰が弱いとやられるのですよ。警察から腰が弱いとやられる。シッコが弱いと言うんですがね。それで悪口を言われるものだから、無理して起訴する場合もあるし、検事は独自の立場ではねる場合もありますけれども、いずれにしても、こういう事件検事は余り得意じゃないです。これはもう事実なんだ。  これは刑事局長に答弁を求めても、そんなことはありませんと答えるに決まっているので、そんなことはありますと答えるわけはないから、聞いても意味がありませんから聞きませんけれども、私は、だから問題にしているのは、こういうような高裁判決指摘されているような、警視庁の留置場へこんなにもどうして長く置いておく必要があったのですかということが、疑問になるまず第一点だ。小菅の拘置所へ移せばいいんだから、どうして移さなかったかということです。まず第一がこれでしょう。  それで、午前一時まで調べたと判決指摘されているんですから、そういう事実があったかないかということは、あなたの方で調べなければいけませんよ。第二点でしょう。  暴行を受けたとかなんとかという点については、これは本人が言っているけれども判決の中で否定されているわけです。だけれども、とにかくこういう時間的にここまで調べられて苛烈な取り調べを受けたということは判決の中で認定されているわけですから、こういう事実関係についてはあなたの方としても——あなたの方も調べにくいと思うんだ、警察に対して。警察の方は、おれの方は関係ない、そんな検察庁の言うことなんか聞くかということで、なかなか聞かないですよ。  東京地検と警視庁というのは仲が悪いのです。御存じかどうか知らぬけれども、とにかく仲が悪い。ことに東京地検特捜部と警視庁というのは仲が悪い。これはもう有名な話、公知の事実。それをまた聞かれても、そうですとも言えないからあなた答えないけれども、有名な事実、あたりまえの事実ですね。だから、いい事件は東京地検特捜部がやってしまって、警視庁には本当のあれしかやらないわけですよ、こういう事件はね。ロッキード事件だってそうでしょう。本当のいいところ全部やって、警察にやらせるといろいろなところへ情報が流れて危なくてしようがないからというので、検事の方は警察官に対する不信感を持っているわけですよ。逆に強盗殺人とかこういう事件になってくると、警察の方はおれの方の領分だ、検事なんかにわかるかというふうなことで、おれの方の領分だという考え方が出てくる、こういうようなことです。  多少よけいなことになりましたが、失礼だけれども、大臣に勉強の機会を与えるという意味でちょっといろいろお話ししているわけですから、お聞き取り願いたい、こう思うのです。  だから、私がいま言ったように、検事はこういう事実関係をちゃんと把握しているかどうか、これが問題なのですよ。これが刑事施設法と留置施設法に関連してくるので私、聞いているのですよ。恐らく知らないですよ。本来なら当然小菅の東京拘置所へ送らなければいかぬですよ。これは送りはしないのだから。全然ノータッチじゃないか。  それから、ここでお答えできると思うのだけれども、十二月六日に一たん釈放していますね。これもよくわからぬのだな。何で釈放しているのかということだ。釈放しておいて、その後起訴しているわけでしょう。ここら辺のところはどういう経過があるのか、よくわかりません。それなら、そのときに起訴すればいいので、証拠が整っていれば釈放するその日に——これは恐らく満期だったと思うのですが、処分保留でしょう。身柄は窃盗で拘束されて、そのまま勾留されているわけですから。それで、何で釈放して後から起訴したのか、それから補充捜査したのかしないのか、さっぱりわからぬですよ。こういうやり方、おかしいんじゃないですか、どういうふうになっていますか。
  66. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いろいろと御指摘を受けたわけでございますが、稲葉委員の御推論に基づく御意見もあったように拝聴したわけでございます。たとえばいまの点につきましては、おかしいおかしいとおっしゃいますけれども判決自体に釈放した理由も書いてあるわけでございますので、そのことからもその点は明白であろうと思うわけでございます。現に補充捜査もしているということが判決にも書いてあるわけでございますから、その点、何もしなかったのじゃないかという前提に立っての御批判を受けるのはいかがであろうかというような気もするわけでございます。  それから、先ほどいろいろと警察と検察庁との関係についてお述べになりましたけれども、確かに強力犯については警察が主体になってやるということ自体は、事柄の性質上別におかしいことでもないと思うわけでございますが、たとえば特に東京地検の例で申しますと、こういう重大事件につきましては特に刑事部に本部係というのを設けまして、こういう事件のベテラン検事を本部係に充てております。その検事はいつも所在を明らかにして、夜でもそういう事件が起こりますれば呼び出しを受けて現場に直行するというような制度を完備しておるわけでございまして、先ほど来お話のありましたように、警察に任せっきりで起訴直前になってちょこちょこと調べて起訴するということは、そういう体制からいってもあり得ないことであります。
  67. 稲葉誠一

    稲葉委員 私の方がちょっと誇大的に言ったわけで、こういう強殺事件であれば、これはある程度前もっての相談は受けますね。一般の事件の強力犯関係事件については、ほとんど相談を受けてないで、最後の二、三日ごろに記録を送ってきて、それをちょっと調べて起訴する場合が、認めている事件が多いからかもしれませんけれども、そういうのが多いのではないか、こういうふうに考えられるわけです。  だから、私の言っているのは、いま高裁判決の中で指摘されているような事実が一体あるのかないのかということを、警察に対してあなたの方で聞いて、調べて事実をお答え願いたいと思うのですよ。これは刑事施設法の問題にも非常に大きく関連してくるのです。だから僕は聞いているわけであって——だってちゃんと判決に書いてあるのだから。暴行、脅迫を受けたとは書いてないですよ。その点は否定されていますけれども、こういう事実関係はちゃんと書いてあるんだ。こういう事実があったのかないのか、警察を呼んで聞いてもいいのだけれども、ここは法務委員会刑事補償法だから、私はわざと警察は呼ばない。これはこの次までにちゃんと調べておいてください。  そこで、もう一つの問題になるのですが、また私がよくわからないのは、いまの別件の問題で、別件で調べるときに、別件の定義にもよるが、調べるときに、そのことがわかっているときに、被疑者なり——被告になっている場合もありますが、被疑者の場合ですね。その場合に、入っている被疑者はそこへ出ていかなければいけないのですか。——言うことがわかりますか。本件で勾留になっていますね。別の事件を調べようとする。被疑者は入っているわけですね。出ていくでしょう。そのときに本人が、いや、別件でなら私は行きませんということが一体言えるのか言えないのか、こういうことです。刑訴の百九十八条一項ただし書きとの関係一体それはどうなっているのか、これは一番問題なんだ。それはどういうふうに理解したらよろしいのですかと聞いたわけだ。
  68. 前田宏

    前田(宏)政府委員 抽象的な議論としては、別件であるから拒否するということを言われて動かなければ何ともしようがない、こういうことであろうと思います。
  69. 稲葉誠一

    稲葉委員 それでいいのですか。別件であるかどうかということは、そこへ行かなければわからないじゃないの。呼ばれたときに初めから別件だということがどうしてわかるの。いまの答弁、それでいいのならいいですよ。
  70. 前田宏

    前田(宏)政府委員 ですから私も、本人が別件だという認識で、だから行かないと言えばしようがない、こういうふうに言ったわけであります。
  71. 稲葉誠一

    稲葉委員 言わないのはあたりまえだ、黙秘権があるんだもの。そんなことはあたりまえの話だ。そうじゃないですよ。房に入っている者を出すのでしょう。取り調べのときに、本人は別件のあれなら行きませんよということが言えるのですか言えないのですかということを聞いている。だから、刑訴の百九十八条第一項ただし書きとの関連でどういうふうになるのですかということを聞いているのですよ。
  72. 前田宏

    前田(宏)政府委員 ですから、先ほどもお断りしましたように事実問題と一般論があるわけでございまして、稲葉委員のお尋ねは、別件だということをわかって、そのことで本人が出ていかないということであればどうかというお尋ねでございますから、そういうことであればやむを得ないでしょうというふうにお答えしたわけでございます。
  73. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、百九十八条一項ただし書きに被疑者の出頭及び取り調べの受忍義務というのがありますね。この理解の仕方がまたよくわからない。むずかしいですね。これは藤永さんの言うのを読むと、事件単位ではなく、人単位で規定されているということですね。そうですね。人単位ならば出ていかなければならないのじゃないか、受忍義務があるのじゃないですか、そう理解していいのですか。それは人単位であるというふうに断定できるかどうかということですよ。条文はなるほどそういうふうに書いてありますよ。条文としてはそれ以外の書き方がないのだからそういうふうに書いてあるだけで、そのことから直ちに、人単位であって事件単位じゃないのだから出ていかなければいけないのだというふうに理解をしていいかどうかという問題が、いわゆる別件逮捕の場合に出てくるのですよ。これは大きな問題になってくるのじゃないですか。だから、私はそのことを聞いているわけです。  そこで、ここに出てくる小林充という人の「法曹時報」の論文があります。この人はどういう人なんですか。それから、茂田忠良という人はどういう人なんですか。それと条文の解釈。
  74. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほど来お答えしておりますように、受忍義務ということについてはいろいろな考え方が解釈としてあろうと思いますけれども、その義務がある、なしと言ってみても、そういうことを主張して出ていかなければ実際問題としてしようがないということになるわけだろうと思います。一般的な抽象的な理屈としては、そういうことを言って出ていかないということであればやむを得ないだろうということを、先ほど来繰り返して申し上げているわけでございます。  それから、御指摘の論文の中で小林充という人は、たしか裁判官であると思いますが、もう一人の方はどういう地位の方か、ちょっと存じておりません。
  75. 稲葉誠一

    稲葉委員 「法曹時報」ですから、私も恐らく裁判官だと思うのですが、この人の意見はなかなか興味のある意見だと思いますね。理論的に言えばこの方が正しいのですよ。別件だということであれば、在宅被疑者に対する任意の取り調べと同様でなければならない。これはあたりまえの話ですな。これは確かなことだと思うのですが、片方は「警察学論集」だから、恐らく警察関係の人だと思う。これは私もこの論文を二つ読んでみますから。読んでみないとわかりませんけれども。  だからこれの言うように、「受忍義務は、事件単位でなく、人単位で規定されていると解するのが相当」だ。条文はそういうふうに書いてありますけれども、これ以外に書き方がないからこういうふうに書いてあるだけであって、単純にこういうふうに言うことはできないのじゃないでしょうか。この考え方ならば、別件の場合だからといって断ることはできないことになってくるのじゃないですか。そうじゃないですか。こういうふうに言えますか。藤永さんの言うように簡単に言えるのですか。
  76. 前田宏

    前田(宏)政府委員 ですから、先ほど来何回も申しておりますように、この義務についてはいろいろな見解があって必ずしも一律でない、しかし、実際の問題としてはそういうことを本人が主張しておればどうしようもないでしょう、こういうことになろうと申したわけでございます。
  77. 稲葉誠一

    稲葉委員 それでは、黙秘権が規定されていますね。黙秘権が憲法で規定されている。刑事訴訟法に規定されている。では、自分は黙秘権があるから行かないということが言えるのですか。房の中にいて、取り調べに出てこいと言ったときに、いや、私は黙秘権があるのですから行きませんということが言えるのですか、言えないのですか。どうなんですか。
  78. 前田宏

    前田(宏)政府委員 どうも、どういうお答えをしたらお答えになるかと思いますが、そういうことを言えるか言えないかとなれば、言うことをとめるわけにはいかないと思います。
  79. 稲葉誠一

    稲葉委員 いやいや、黙秘権というのは取り調べのときにあるのであって、それでは、おれは黙秘権があるから行かないと言えばいいのですか。房の中に入っていて、私は行きませんと言う、それを引っ張り出す、検事のところまであるいは警察のところまで連れていくわけにはいかない、こういうふうに理解してよろしいですか。
  80. 前田宏

    前田(宏)政府委員 整理して申しますれば、いわば黙秘権と取り調べの受忍義務とは別問題であろうというふうに思います。
  81. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、それじゃ一体取り調べの受忍義務というのはどうなんですか。黙秘権があるから私は行使します、だから出ていきませんと言ったときには、取り調べの受忍義務との関係ではどういうふうになるのですか。これはケース・バイ・ケースだ、こう言うのですか。それとも別個の問題で、やはり出ていかなければいけない、こういうことになるのですか。おれは黙秘権があるのだから出ていかないと言ったときに、一体どうするのですか。引っ張っていくのですか、実力行使するのですか、どうなんですか。
  82. 前田宏

    前田(宏)政府委員 何回も同じようなお答えになりますが、いま申し上げたように黙秘権と受忍義務とは抽象的に言えば別問題であって、受忍義務がある場合にはやはり受忍義務があるということで、黙秘権があるからということで直ちに出ていかなくていいということには相ならないだろうと思います。ただ、受忍義務があるといいましても、要するに、昔から言うように無理やりに馬に水を飲ませるわけにいかないというのと同様でございまして、仮に手とり足とり引っ張っていったところで、しゃべらないものをしゃべらせるわけにいかないというのが実情であることは言うまでもないところであります。
  83. 稲葉誠一

    稲葉委員 同じ議論をしてみても始まりませんので、いま私がこういう点は調べてくれと言ったところは、あなたの方としては調べにくいところだと思うのですよ、警察に対してですからね。だけれども、私はなぜ警察を呼ばないかというと、それはもう当然あなたの方で調べるべき筋合いのものであるというふうに、判決にまで書かれているのですから、そういうふうに私は理解をして、そしてあなたの方で調べてくれ、こういうふうに言っているわけです。  それから、この近田事件の問題で最後に私が調べてくれと言った問題点は、捜査報告書の問題なんですね。これは四十五年の十一月二十日の捜査報告書と四十五年の十一月二十四日の捜査報告書と二つあるわけですね。二つあることは間違いがない。これは、片方は四十五年の十二月四日に自白がある、こういうふうなことですね。片方は何か前の方からずっとそういうようなことを、ヤッパの点ですか、もらったとかなんとか言っておったというようなことなんかも出てくるわけですね。判決の中ではどういうふうにこの二つの点については指摘されているわけですか。
  84. 前田宏

    前田(宏)政府委員 二つの報告書のことについてでございますが、いまのお尋ねが非常に抽象的であるので何ともお答えしにくいわけでございますが、この前いただいた宿題に即してまず申しますと、第一点はいわゆるツールマーク、つまり工具でボルトなどを動かした場合に残る跡でございますが、その点が一つあったと思います。そのことにつきまして、四本のうち一本は右回りだ、三本は左回りだということになっておる、そのことから自白との矛盾があることは明白ではないか、なぜその点を見過ごしたのだというおしかりといいますか、御指摘を受けたわけでございますけれども、その御指摘はむしろ前提が違っているのではないかというふうに思われるわけでございまして、ボルトが右回り、左回りという意味じゃなくて、犯人がそれを動かそうとするときにつけた跡が、一本目は右と左よくわからなくてといいますか、両方やってみたので右回りもついておったということでございますので、むしろ矛盾はないという前提の事実であろうと思います。  それから、第二点の捜査報告書に関連いたしまして、いわゆる凶器をKという証人がもらった、それを被告人にやったというふうになっているのじゃないかという御指摘を受けましたけれども、そういう事実関係ではございませんで、そういう意味では御指摘前提がまた違っているのじゃないかと思うわけでございます。
  85. 稲葉誠一

    稲葉委員 この二つ捜査報告書、私の聞いているのは、前提が違っているか違っていないかは別として、警察官なり検察官捜査に不信感があるという意味の中で、この二つ捜査報告書の記載が判決の中でどういうふうに取り上げられておるのかということを第一点に聞いているわけです。あるいは取り上げられてないのかもわからぬ。私はまだ全部詳しく読んでないわけですから、私はその点を第一に聞いているわけなんです。だから、控訴趣意書の中では二つの点が大きく取り上げられていること、これは間違いないわけです。判決の中ではその点がどういうふうになっているかということを私はまずお聞きしているわけです。これが第一です。私もまだ読んでないところもありますから、全文読んでないからわかりませんけれども、あるいは判決の中ではそこのところの判断は示してないかもわかりません。それは私もよくわかりませんが、それが一つ。  しかし、弁護人側から言わせると、そこに矛盾点があって、それが控訴趣意書の中に大きくとらえられておって、それが本件の無罪を獲得するに至った一つの原因であるように趣意書の中では展開されておるようにとれるのです。だから、それはなぜかとなると、それは検察官捜査報告書の手持ちの全証拠を開示した、こういうわけですね。開示をして、そして一審の国選弁護人が全部それをコピーして持っておられた、そしてどういうわけか、この捜査報告書二つについては不同意にした。不同意にした場合は、普通撤回して証人申請するのですけれども、報告書だからということでそこまでの必要性がないということでやらなかったようですけれども、とにかく一審の弁護人のそのコピーがあったわけですね。それを二審の弁護人が引き継がれたものですから、それを活用されて、控訴趣意書の中に援用されて、これはどうも捜査がおかしいじゃないか、矛盾点があるじゃないかということの追及になってきて、そればかりじゃありませんけれども、それも一つの点として実を結んで本件の高裁無罪判決が出てきた、こういうふうになってくるんだろうと思うのですが、その点は、高裁無罪判決は全然関係がないということなんですか、趣意書の中で言っていることは間違いないのですか、これはどういうふうになっているのですか。
  86. 前田宏

    前田(宏)政府委員 稲葉委員がおっしゃいましたように、判決書をよく読んだ上でないとおっしゃいますので、どの点を問題にしておられるのかなかなか把握しがたいので対応したお答えがしにくいわけでございますけれども、先ほど申しましたように、いわゆるツールマークの問題あるいは凶器の問題、これがいろいろと争点であったことは事実でございます。そのことについて二つ捜査報告書がありますけれども、その捜査報告書に書いてあることが何か捜査の不当を示すものあるいはそれを裏づけるものというような理解にはどうもならないんじゃないかというふうに思っているわけでございます。
  87. 稲葉誠一

    稲葉委員 その二つ捜査報告書が出てきたということが本件の捜査の中での大きな矛盾点というか、矛盾点と言えるかどうか、そういうような点として控訴趣意書の中には出ているんじゃないですか。そういうふうに門井さんは日弁連の講習の主張の中で二つの点を取り上げて言っていますよ。だから、私はそれで聞いているわけです。「逆転無罪」という本を読んでいるわけじゃありませんけれども日弁連の研修の中ではそういう点を挙げて言っておるから、私は聞いているのです。  仮にそれが全部の開示が行われておったからこそそういうふうな問題があることがわかったんだということになってくれば、捜査官としては全部の証拠の開示義務というものが、当然そこでフェアな態度としては出てくるのではないか。だからどういう点が問題かというと、捜査官がその弁護人に最初に見せるときに、自分の方の公訴事実を立証する範囲内でしか見せないわけですね、現実には。片一方だけは必要があるけれども片方は必要がないからというので見せない、こういうふうになってきてましたね。そうなってくると、検察官が必要でないといったものの中にあるいは必要なものが将来出てくる可能性も出てきているわけですからね。だから、捜査官としては国家権力によって、力によって集めたものについては全部これを見せるべきではないか。自分の方で取捨選択して判断するのではなくて、一応全部を被告人弁護人側に見せて、それに対しての攻撃防御の機会を与えるのが筋ではないか。  逆に当事者主義だということになれば、それじゃ弁護人の持っているものについても全部見せろというなら、それも理論上は見せるということになる、こういう形になって初めて土俵の上に両方が上がるのであって、片方が力によっていろいろな形で得られたもので自分の方に必要ないものについては、公訴時に必要ないというふうに判断をして出さないということになれば、そこで裁判というものはフェアな土俵の上に上らないんじゃないか。お互いに出すなら出すということにしたらいいじゃないか、こういうふうなことを考えている。  同時に、その中においては、検察官が国家の力で、いろいろな国家の予算で集めたものは一応全部を見せるという形をとるのが筋ではないか、証拠の開示ということが必要ではないか。その中でこの二つ捜査報告書が開示されたからこそ、それが控訴趣意書の中に援用されて、そしてその矛盾点というか違いが出てきてこの判決の結果に至ったのではないか。これは門井さんのこの講演を読むとそういうようにとれるのですよ。だから私は聞いているわけなんですね。こういう点についてはどういうふうにお考えか、一般的な証拠の開示その他の問題をめぐって。
  88. 前田宏

    前田(宏)政府委員 いわゆる手持ち証拠の開示の問題につきましては、かねてから御議論のあるところでございますし、いま稲葉委員仰せのような御見解もあるわけでございます。ただ、この問題は最高裁決定等もありまして、いわばケース・バイ・ケースということに相なるかと思いますけれども、一応の結論といいますか、出ているところであることは申し上げるまでもないと思います。  これを全部何でも見せるべきであるというような議論、さらに進んで弁護人の方の手持ちの証拠も見せるべきであるというふうな御議論になりますと、現在の刑事訴訟法の訴訟構造の基本にかかわるといいますか、影響するような問題であろうと思います。さらに、それは単なる当事者主義の問題にとどまらず、いわゆる証拠能力が原則として否定されているというような問題にもつながる問題であろうと思います。  さらに、先ほど来の御議論を伺っておりますと、夜遅くまで調べたのが不当である、そのこと自体問題はありますけれども、逆に言えば、捜査期間が非常に制約されている、原則として十日間であり、延長しても二十日間である、その間に何とか事件をまとめなければならないという問題。そのために警察にいたしましても検事にいたしましても、場合によっては若干夜遅く、あるいは休日も返上して調べなければならないというようなことにもなってくるわけでございまして、それは何も犯人をといいますか、被疑者をいじめるためにやっているわけではなくて、実態を究明したいという気持ちからやっているわけでございます。そうなりますと、むしろ普通のサラリーマンのように夕方五時までにすべて終わる、それがまた被疑者保護のためにもなるんだというような考え方をとりました場合に、果たしていまのように十日なり二十日なりで事件処理ができるかというような問題も起こってくるのではないかというふうにも感じるような気もするわけでございます。  それはさらに、御指摘の代用監獄問題が問題になりますと、拘置所に原則として入れるべきであるということになりますと、そういう期間の制限というような問題も一方では関連して起こってくるのじゃないか。それがやはり場合によっては無罪の遠因にもなりかねないという問題もあるわけでございまして、捜査当局の手落ちなり間違いなり、それは場合によってあり得ることでございまして、それがないように努めなきゃならない、反省しなきゃならない、これは何度言っても言い足りないところでございますけれども、それだけで問題は片づかなくて、いろいろな問題が総合的に検討されなければならないのじゃないかというふうに思うわけでございます。
  89. 稲葉誠一

    稲葉委員 問題は、確かに刑事訴訟法の根本構造にもかかわる問題になってくるというふうに思われるわけですね。だから、英米法のようにあっさり調べておおらかに起訴するという行き方もあるわけですね。ただ、いままでの形で言うと、これは無罪が非常に多いわけですね。だから、アメリカの場合は多いときは三〇%ぐらいですか、普通二〇%ぐらい無罪になるわけですね。日本でも陪審法が戦前あったときに、これはよくわからないのですが、大塚一男弁護士が言っておることの中に、岡原昌男さんが戦前の陪審法時代の調査をしてまとめたのがあるのですが、たとえば放火の場合なんかは、日本の場合無罪率が〇・〇一%ぐらいでしょう、ところが陪審にかかった事件を調べるというと、それが約三割近く無罪意見だった、こういうふうなことが言われているのですね。僕もこれは大塚さんに聞いてみないとよくわからないのですが、そういうようなことで、岡原さんの調査が唯一のものだ、こういうのですよね。ただしかし、日本の陪審法というのは拘束力がある陪審じゃないし、ただ意見を言っただけの問題であって、アメリカの場合と全然違いますから、それがそのまま出てくるかどうか、ちょっとわかりませんけれども、そういうようなことも言われておるのです。  だから、いま言ったようにあっさり調べておおらかに起訴するという行き方がいいのか、あるいはそれが日本の国民性なり何なりに合わないのだ、自白を求めるというか、自白することによって調べる側と調べられる側と人間関係、信頼関係が出てきて、そして将来の行刑、矯正の上においても非常に意義があるのだ、こういうふうな言い方をする人もいるわけですね。ところが、日本の場合はそうではないというか、日本の場合はそれが今度は逆に、自白というふうなものをどうしても強く求めるような方向にいかざるを得ない、いく、それは結局代用監獄の中で行われる場合が多い、こういうことになってくるわけですね。  だから、いま刑事局長が言ったように、確かにそれじゃ四十八時間でどうだ、二十四時間でどうだ、二十日間でどうだ、こういう問題になってくれば、たとえば西ドイツでは六カ月間勾留できるじゃないか。ほかのところ、フランスでもどこでもみんな別件捜査ということについては制限ないじゃないか。日本のように別件捜査のことをやかましく言うのはほかの国ではないのだという意見も、これはなきにしもあらずですよね。だから、西ドイツで六カ月勾留できるといっても、日本は起訴すれば二カ月ですけれども、しかし、それはどんどん更新していくわけですから、勾留更新ということについては無期限なんですから、これは全然どうということないわけです。ただ、向こうは六カ月という制限がある、日本は起訴してから二カ月だ、あるいはその前二十日間だからこっちは短いから、ドイツは六カ月だからこっちの方があれじゃないかという言い方だけでは問題の基準にはならない、こういうふうなことにもなるわけでして、これは基本的にたくさんの問題を含んでいて、とても刑事補償法のきょうの問題ではないわけなんですね。  私どもがよく聞いたことはこういうことです。いまはどういうふうになっているのかわかりませんが、勾留継続をするときに勾留更新決定をするわけでしょう。そのときに私どもが聞いたのは、勾留を継続する必要があるから勾留を更新するのだという決定の仕方をしている。前はしていたのですよ。それは滝川さんから私はよく聞いたのですが、滝川さんは笑っておった。勾留を継続する必要があるから勾留を更新するという、そういうばかなことが戦前日本では行われておるのだということが言われておる。いまはそんなことはないと思うのですけれども、しかし、結局は同じことですね。結局、勾留を継続する必要があるから勾留を更新するという決定と日本でもいまはやはり同じで、無期限に勾留更新決定をどんどん続けていっている、こういうことなんです。  だから、この藤永さんも言っているように、法律だけを見たのではなかなかわからない、具体的な実態というものを調べてくれということを言われておるわけですね。そういう実態をわれわれも何らかの機会に調べなきゃいけないというふうなことを私も考えておるわけですが、きょうは時間が来ましたのでこの程度にして、きょう調べてくれと言ったことについては、この次までによく調べておいていただきたいと思います。  きょうは終わります。
  90. 前田宏

    前田(宏)政府委員 ただいま確定記録についていろいろ御調査の要求がございましたけれども記録自体がいま裁判所の方にございまして、ほんの一期間だけ借りてきておりまして、また返さなきゃいけない状態にございます。というのは、訴訟費用か何かよくわかりませんけれども、その算定か何かでまだ記録が要るのだということで、検察庁に戻ってきておりません。きょうの御質問があるので、急遽半日とかいうような期限で借りてきたものでございますから、この次までまた裁判所の方で要るということになりますと、十分な調べができるかどうかという問題が一つございます。  それからもう一つ、よけいなことでございますが、いま勾留更新の話がございましたが、ドイツの六カ月というのは捜査としての勾留期間でございまして、いまおっしゃいました日本で何回も勾留更新ができるというのは、起訴後のことでございますから性質は違うので、やはり二十日に見合うものが六カ月というのが正しい理解ではないかというふうに思うわけでございます。
  91. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのそういうふうになってくると、じゃ、ドイツの場合は、いろいろなことが出てくると、再犯のおそれを理由とする勾留を認められる、この場合には更新しても一年を超えることはできない、ドイツではこういうことになっているのですね。だから、実際はどうなっているかということですよ。条文の上では、日本でいう二十日というのとドイツの六カ月が対応するのですか。日本の場合は、起訴してどんどん幾らでも勾留更新ができるのですから、それなら結局ちっとも違わない。実情は、日本の方が長期にわたる場合もあるんじゃないですか。ドイツの方が短期で終わる場合もあるし、率直な話、条文だけ見たって、実際の運営がどうなっているかということはなかなかわからないですよ。起訴は、ドイツの場合は起訴法定主義だということになるし、日本の場合は起訴便宜主義だということもあるし、裁判の構成もみんな違うだろうし、一々そういうことだけで、法律面だけで議論するわけにはいかないから、その実態の運用というものもわれわれはよく調べなければならないのじゃないか、こういうように思うのです。  記録の点については、それは刑事記録の場合は確定すれば検察庁に返ってくるわけですけれども、ある段階はまだ裁判所で持っておりますからね。事件によりますけれども、普通一カ月ぐらいのものなんだけれども、刑事補償の申請なんか出ると長くなりますけれども。それはだから、わかる範囲内のことでいいということですよ。これはわからないことを調べろと言っても無理ですから、それは不能犯だからそこまで言わぬけれども、わかっている範囲で調べていただきたい。特にいま高裁判決指摘された、午前一時ごろまで調べたとか、何か警視庁の留置場に置く必要があったのか、それがどうしてそういうふうな遅くまで調べたのか、こういう事実があるのかないのかということを、あなたの方の責任で調べておいていただきたい、こういうことですね。  終わります。
  92. 羽田野忠文

    羽田野委員長 沖本泰幸君。
  93. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いま稲葉先生のすごいやりとりの後で、専門家のお話の後できわめて素朴な御質問になるわけですけれども、国民全部が専門家ではありませんし、ほとんど六法全書がわからないのが多くの国民ですから、私もその一人でもありますし、そういう立場から御質問させていただきたいと思います。  稲葉先生のお話とは大分トーンダウンしますのでなんですが、法律案の提案理由説明の中で、「刑事補償法による補償金額は、無罪の裁判またはこれに準ずる裁判を受けた者が未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合については、」こうあるのですが、この字句について区分がなかなかむずかしいので、一応国語辞典で拾ってみますと、「拘留」というのは、「刑の、一種で一日以上三十日未満の期間拘留場(留置場)に拘置するもの」、こういう字句の使い方をしておるわけです。それで「拘置」は、「監獄や拘留場に入れておくこと」、こう国語辞典にはありますし、それから「抑留」というのは、「(強制的に)押えとどめること」、それから「拘禁」というのは、「捕えてとじこめること」、こういうふうに出ているわけです。  それで、法律用語辞典を拾ってみますと「刑事補償法」という中で、   無罪の裁判を受けた者(一条)、または免訴・公訴棄却の裁判を受けたが、もしこれらの裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるであろうという充分な理由のある者(二五条一が、未決の抑留一たとえば逮捕・勾引のような一時的な身体の拘束)または拘禁(たとえば勾留のような継続的な身体の拘束)を受けたとき、または刑の執行、死刑の執行までの拘置その他刑訴の収監状による抑留、犯罪者予防更生法や執行猶予者保護観察法の引致状による抑留・留置を受けた場合に補償を請求することができる。 という説明になっております。  それから、今度は法令用語の中を引きますと、「勾留 拘留 拘置」、こう三つ並べまして、   法令用語には、同音異義のことばが案外たくさんある。同音異義のことばでも、お互いどうしの意味が相当離れたものである場合は、たまたま同音であるからといって、両者の意味を取りちがえたりすることは比較的少いが、お互いの意味が似通っていると混同されたりすることが多く、取扱上甚だ厄介である。そこで、法令用語の改善の一手段として、こういう同音異義のことばを整理するということもかねて計画されており、一部実行に移されているが、それにはまた別の法律上の障害がいろいろあって、簡単に実行できない場合も多い。用語の選択に慎重な配慮を要する刑事法令の場合、特にその困難性が顕著である。   ここに掲げた「勾留」と「拘留」の関係ども、その一つの例で、いうまでもなく、前者は、刑事訴訟法上、刑の未決のうちに、被疑者または被告人の逃亡または証拠隠滅を防ぐためにこれを拘禁することおよびその拘禁のための裁判をいい、後者は、刑罰の一種で、短期間(一日以上三〇日未満)拘留場に拘置する自由刑を指すが、両者、同音である上に、ともに刑事法上の用語で多少類似の意味をもっているので、どちらか(勾留の「勾」の字が当用漢字にないので、なるべくならば勾留の方)を別のことばにいいかえることが考えられているが、さてなかなか名案がない。   国語審議会は、「勾留」を「拘置」にかえる案を出し、新聞紙面などでは、すでにこれが実行されているが、「拘置」ということばは、すでに刑法で、刑の執行として監獄にとめておくことを意味して使われており(一一条以下)、また、監獄法にも、若干ちがった意味をもって「拘置監」(拘置所)という用語がでているので(一条一項四号)、法令上「勾留」を「拘置」にかえるためには、まず、「拘置」の方を適当にいいかえる必要があり、その方にうまいことばがなかなか見当らないので法令用語の上では、いまだに実行されないでいる。 こうあるわけなんで、素人が読むとなかなか区別がつかなくなってくるわけです。  そうしますと、この「無罪の裁判またはこれに準ずる裁判を受けた者が未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合については、」こういうことになりますと判断がしにくいということになりますから、これはわかりやすい字句の判断の仕方、あるいはその内容を御説明いただけたらと思うのです。
  94. 前田宏

    前田(宏)政府委員 まず、今回御審議をいただいております法律案の提案理由説明のところで、「未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合」という言い方をいたしております。これはいま沖本委員が仰せになりましたように、刑事補償法の規定の上ではいろいろな言葉が使われておりまして、主としては「未決の抑留又は拘禁」ということでございますが、そのほかに「刑の執行」あるいはその他のいろいろな場合があるわけでございます。それを一々ここで並べるのもいかがかということから、「等」という言葉を使ってくくっているというのがこの提案理由説明の表現でございます。  さらに、もとへ戻りまして、ただいま沖本委員からむしろ詳しく御説明をいただいたわけでございますけれども、現行の刑事補償法の中では抑留、拘禁あるいは拘置あるいは留置、そういうような言葉が使われておるわけでございます。この抑留、拘禁という言葉は、むしろ憲法の方からきているというふうに御理解いただきたいと思います。それは、この刑事補償法の根拠でございます憲法四十条にその言葉が使われているということが、まず形式的なことでございます。  実質的に言いますと、抑留、拘禁というのは一種の包括的な概念でございまして、いずれも身柄拘束であることは拘束でございますけれども、抑留と言います場合には一時的なもの、拘禁と言います場合にはやや長期にわたるもの、こういう区別がつくわけでございます。  刑事訴訟法なら刑事訴訟法ではそういう言葉はむしろ使っておりませんで、先ほど来お話しになりましたように逮捕、勾留という場合の勾留、あるいは警察の留置場に留置するというようなこと、それが使われておるわけでございますが、それを評価的に見れば抑留あるいは拘禁に当たるということで、抑留、拘禁という言葉を使って実はなるべく少なくしようという趣旨で、まず抑留、拘禁ということでとらえようとしたものと考えるわけでございますけれども、どうもそれだけでは足りない、なおこういう場合もこういう場合もということで、たとえば死刑の執行を受ける前に、死刑の判決を受けた者が執行前身柄の拘束を受けるというものは刑法では拘置という言葉を使っておりますので、これもやはり入れなければならない。それから、たとえば護送中に一時警察の留置場に置くような場合が刑訴法にございますが、そういう場合には留置という言葉を使っておりますので、これも漏れてはいけないので留置という言葉を使う。あるいは犯罪者予防更生法なりあるいは執行猶予者保護観察法なり、そこで引致というような概念がございまして、そこで引致による身柄の拘束とその場合における留置ということが考えられておりますので、これもやはり同様な性質のものであるから入れなければならないというようなことで、それぞれの法律にそれぞれの意味を持って使っている言葉がございます。  それを残しますと、それが刑事補償の対象から外れてくるという面が起きかねないわけでございますので、そういうことから、できれば抑留、拘禁ということで統一した方がいいのかもしれませんけれども、それだけではカバーし切れないというものを、それぞれの法律において使っている言葉をそのまま引用してきて用いる、こういうことにならざるを得ないというのが実態でございまして、むしろ、一見ごたごたしておりますけれども、同様な身柄の拘束を余すことなく対象にしようという気持ちのあらわれだというふうに御理解をいただきたいわけでございます。
  95. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほど稲葉先生の御質問があったのですが、いわゆる刑事施設法、監獄法を変える、こういうふうな際に、あわせてこういう点を検討されて、語句を統一的なわかりやすいところに改めるということはないわけなんですか。
  96. 前田宏

    前田(宏)政府委員 もとより、そういう誤解のないようにといいますか、混乱の生じないようにする必要があることは一面あるわけでございますけれども、先ほどの法制局の解説と申しますか、というところにもございましたように、たとえば同音の言葉でも使い分けをしなければならないということ、それは事柄の性質によって中身が違うことを違うように明らかにしなければならないという要請が一面あるわけでございます。そうしますと、統一するということになりますと、余りごたごたしないというプラス面も起こりますけれども、逆に性質の実質的に違うものを同じ言葉であらわすということになるマイナス面もあるということでございまして、そのプラス・マイナス、利害得失を考えて、なるべく混乱しないように、ごたごたしないように、しかし、事は正確にとらえ得るようにという、その辺の調和の問題でなかなか困難な問題ではなかろうかというふうに思うわけでございます。
  97. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この辞典の方でさえ扱いがわからぬような説明があるわけですね。ですから、素人が読んだらさっぱり理解しにくいということがあります。そうすると、警察関係の方々のいわゆる書類にお使いになる文字は、たとえば先ほどおっしゃった留置場という代表的な言葉がありますし、それから、いまは拘置所というふうに、ほとんど理解の度合いが、そういうものがあります。ところが、拘置監という用語もあるわけですね。ですから、その辺がダブっているわけですから、専門家の方の好み好みで用語が違うじゃないかということになり得ると思うのですね。そうすると、それぞれの立場の人がそれなりに専門的に判断していくということになりますと、これは絶えず用語を扱っているから理解ができる。だけれども、全然わからない者がいきなりそういうものにお目にかかると、全然判断しにくい。  初め私も、ここのところを読んでいて、こういう質問をしたら恥ずかしいんじゃないだろうかとも考えたのです。しかし、この辺はやはりよく伺っておかないと、国民的な立場から考えると大事な問題だと思います。これはいまの法務大臣の最も得意とするところではないかとも考えまして、こう食い違うものが国民の、人間の生活をいろんな判断の中で決めていくところにあるわけですから、それは決定的なことを起こしてくるとは考えられませんけれども、非常に読みにくい内容のものが、人の罪を決めたりするようなところにばらばらで使われているということは非常におかしいという単純な考えが出てくるわけなんです。  その辺、刑事局長は、法制局の方でこういう扱い方になっているというお答えがあったわけですけれども、やはり依然としてむずかしいというか、これはこのまま続いていくものなのでしょうか、ある程度努力しなければいけないというものなのでしょうか。よく問題になるのは、いまIBMの問題が起こっていますが、向こうの英語で書いてあることを日本語に訳すとこういうことになるとか、日本語を英語に訳すとこういうことになるとかいうことになりますから、そういう点から考えると、こういう用語を英語に直したらどういうことになるのだろうかなという気も起きますし、こうした日本の法令の英語での説明というのはどういう扱い方になっているのでしょうか。
  98. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほども若干申し上げたところでございますが、一見わかりにくい点は否定はいたしませんけれども、沖本委員の御心配のように、何か同じことであるのに人の好みでとか、あるいは法律によって違う言葉を使っているのではないかという御理解でございますと、実はそうではないと私ども理解しているわけでございまして、やむを得ずといいますか、それぞれ性質が違うので、違うことを書きあらわすためにいろいろな表現がある。実質的には身柄の拘束だということにおいて共通でございますから補償の対象にはなるわけでございますけれども、その一つ一つを見ますと性質が皆違う。そうすると、その性質をあらわす表現を何か見つけなければならない、やはり区別をつけなければならないということで、むしろ苦心をして区別をしているということでございまして、同じことを人の好みで、あるいは法律ごとに違う表現をしているということになりますと非常に混乱が起こるわけでございますが、そういう心配はむしろないというふうにまず申し上げておきたいわけでございます。  ただ、似たような言葉がたくさん出てくるということは、一見わかりにくいといいますか、混乱するということもまた否定できないところでございますので、先ほど申しましたように、できるものならわかりやすくするという基本的な考え方、これはあらゆる場合になければならないと思いますけれども、この刑事補償の場合は、無罪になった方々に対して補償するについていろいろなその過程における身柄の拘束というものがあるわけでございますから、それぞれの法律で定められているそれぞれ性質の違う身柄の拘束というものを漏れなく拾おうということで、それを一々法律の根拠ごとに引っ張ってきているということから、同じ条文の中にいろいろな言葉が出てくるという結果になっているわけでございまして、そういうふうに御理解をいただきたいわけでございます。  なお、英文でどういうふうに表現しているかということになりますと、現在手元に資料がございませんけれども、やはり性質が違うわけでございますし、外国においてそれに相当する概念があるわけでございますので、それに見合う表現が使い分けられているというふうに考えるわけでございます。
  99. 沖本泰幸

    ○沖本委員 もうためにする議論はやらないつもりですけれども、国語辞典の方は、「抑留」というのは「(強制的に)押えとどめること」と説明しているのですね。それから「拘禁」の方は「捕えてとじこめること」。これは意味をじっと考えてみると、同じなのですね。先ほど刑事局長のおっしゃったのは、抑留の方は一時的に置くのだということになっていますし、拘禁の方は長期にわたっての扱い方なのだということですから、法務省から説明していただいて、国語辞典の方を改めていただいた方がいいのじゃないかと私は思うのです。  大臣に伺うとためにする議論みたいになりますから、この辺でとめてはおきますけれども、やはりその辺はよく御検討いただいて、よりよい整理をしていただいた方がいいような気が私はするわけなんです。どうでしょう。
  100. 坂田道太

    ○坂田国務大臣 私も素人でございまして、法務省へ参りまして非常に言葉に苦労しておる一人でございます。しかし、ただいま刑事局長から申し上げましたとおり、やはりその言葉が生まれましたのにはそれなりの意味があるということで、いま提案しておりまする補償法の中の言葉は、それなりの意味があるというふうに理解しなければならないのではないかと思います。  ただし、刑事訴訟法にいたしましてもあるいは監獄法にいたしましても、また刑法にいたしましても、刑法は明治四十年、それから監獄法は明治四十一年ということでございまして、その当時と今日とでは、法文の使い方は違わないといたしましても、少なくとも一般の国民の受け取り方はどうなのかなあと実は考えておるわけでございます。したがいまして、こういうような改正がなされる場合には、国民が読んで非常にわかりやすいようなものにしなければならない。しかしながら、刑の実態といいますか、あるいは拘束のその内容というものはそれぞれのニュアンスがあるわけでございますから、それについては、新しい言葉に変える場合でも、その実態を踏まえたものにしなくてはならない。それは恐らく法制局あたりとも相当相談をいたしまして、新しい法案等が出ました場合にはかなり整合性を持って合理的に考えられるものだというふうに私は考えるわけでございます。
  101. 沖本泰幸

    ○沖本委員 三十分ほどということにしておりましたので余り時間はないのですが、いただいた資料の中に「刑事補償決定のあった事例(昭和五十五年)」というのがあります。これは「最高裁判所刑事局報告による」という一覧表で、全部で六十一あるわけですが、一つ一つ聞いていると大変になりますので、この中でいわゆる自白したことが信用されないということによって無罪になって補償したというのがどれくらいあるのか、あるいはその内容について御説明いただきたいと思います。
  102. 前田宏

    前田(宏)政府委員 先ほど稲葉委員からもお尋ねを受けまして若干お答えをいたしたところでございますが、五十五年に補償決定がございました事例が、この最高裁の資料によりますと六十一件ございます。その中で一応自白ということが問題になった事例は、たしか合計九件になるかと思います。番号で申しますと四番、八番、それから十二、十三、二十三、二十六、二十八、三十八、四十四ということになるかと思いますが、その中でたとえば一例、二例ということで、四番の放火の事件、また八番の恐喝未遂の事件、これは先ほど稲葉委員のお尋ねに対する御説明の一助として御報告したところでございますが、さらに二、三の例をつけ加えさせていただきます。  その次は十二と十三、これは同じ事件でございます。贓物故買罪ということでございますが、これは女性の方二人が反物等を盗品だということを知りながら買った、あるいはその周旋、あっせんをしたというような事件で起訴されたものでございますが、その贓物であることの認識の点が、一応自白しておりましたけれども、必ずしも客観的な状況に合致しない点があるというようなことで、その贓物であることの認識自体が欠けるといいますか、物を買ったこと自体はもちろん争いはないわけでございますけれども、いわゆる贓物の知情の点が証明不十分ということで無罪になった例でございます。  さらに、二十三番の背任事件でございますが、これはあるお寺の住職といわゆる不動産業者とが共謀の上でお寺の財産を処分した、大ざっぱに言えばそういう事案でございます。その場合に、それが背任になるについては、被告人たちが利益を図る目的がなければならないわけでございますけれども、その点の証明が不十分である、一応供述調書にはそういう利益を図る目的ということがうたわれておりますけれども、その利益を図る目的があったかどうかということの証明が不十分であるというようなことで、無罪になったということでございます。  これらを通じて一応申し上げられますことは、何か無実な人を誘導したりあるいは強制して自白をさせて、そういうことで起訴をしてそのために無罪になったという例は、幸いにしてこの中にはないわけでございます。もちろん、いま申しましたような点につきましても問題はないわけではないのでございまして、反省すべき点もあろうかと思いますけれども、一応外形的な事実等はもちろんあって、そういう犯意の点であるとか目的の点であるとかいう点において欠けるところがあるというような事例が含まれているというふうに御理解をいただきたいわけでございます。
  103. 沖本泰幸

    ○沖本委員 次に、しばしば問題になるわけですけれども、非拘禁者の賠償ですね、補償をお考えになるような余地は、いまのところお考えにないのでしょうか、あるのでしょうか。
  104. 前田宏

    前田(宏)政府委員 現在の刑事補償法は、いわゆる拘禁された——先ほど来拘禁という言葉の意味についていろいろ御議論もいただいたわけでございますが、拘禁された者が無罪になった場合に補償するということに限定しているわけでございます。しかしながら、いま御指摘のように、拘禁しない状態で裁判が行われて、結果的に無罪になった場合にも補償すべきではないかという御議論があることは重々承知しておるわけでございまして、以前の委員会におきましてもそういうお尋ねを受けたわけでございます。  これに対しまして、私どもといたしましては、同じようなことの繰り返しになりますけれども、毎々申しておりますことは、基本的には、一種の損害賠償であるということでございますと、本来民事的な頭から言えば、行為者について故意、過失があるということを要件とするのが一応原則であろう、しかし、この場合はやはり特殊な場合でございますから、そういう担当者等の故意、過失というようなものを論ずる前に補償をしなければならないという、きわめて例外的な場合であろうというふうに考えておるわけでございます。そういう例外的なことを制度として認めるのは、やはり身柄の拘束ということと無罪の裁判ということが二つの大きな要件になっているということから、一般の民事的な基本原則から離れた例外を認めているということになるのだろうというふうに従来から理解しておるわけでございます。  確かに、身柄の拘束を受けていない方が起訴されて、ある程度の期間裁判にかかりまして結果的に無罪になるという場合に、いろいろと不利益な面が伴うということは、もちろん否定するわけではございません。しかし、それはいろいろとその他の公権力の行使に伴って、ほかの、適切な例かどうかはわかりませんけれども、特許審判であるとか海難審判であるとかあるいは許認可の処分であるとか、そういうものに伴ってやはりいろいろな不利益というものは、国民に場合によっては起こるわけでございます。そういう場合に必ず全部補償するかということになりますと、一種の立法政策の問題かもしれませんけれども、その範囲というものについては、一つの理論的な検討とまた実質的な検討、その費用が結局国の負担、つまり国民の負担ということに帰するわけでございますから、そういういろいろな面から見て、どこまで国として補償をすべきかという基本的な線といいますか、そういうものがあるべきであろうというふうに考えられるわけでございます。  この刑事補償法では、身柄の拘束、それが無罪になった、そういうものについては、故意、過失等を論ずるまでもなく、定型的にとりあえず補償をする、こういう精神でできているものというふうに従来から理解しておりますので、これを非拘禁者に及ぼすということについては、そういう基本的な考え方を大きく変えないとなかなか踏み切れない問題でございますし、また、そういうことは果たしていろいろな横並びの問題で適当かどうかという面からもなお検討を要する点が多いということで、従来からも申しておりますが、いま現在も、まだそこまではちょっと踏み切りにくいんじゃないかなというふうに思っている次第でございます。
  105. 沖本泰幸

    ○沖本委員 終わります。
  106. 羽田野忠文

    羽田野委員長 次回は、来る八月三日火曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時三十六分散会