○
福岡公述人 駒澤大学法学部で
政治学と比較
政治学を担当しております
福岡と申します。
いままで四人の方がいろいろな側面からお話をしてきましたが、各論的に申せば
幾つかお話ししたいことがあるのですが、
選挙制度というものを本来的に見ていく中で
一つ感じるのは、
選挙制度というものは長所も短所もあると言われていますように、かつて一九五八年フランスでドゴールが共産党を封じ込めるために二回
投票制という
制度を持ち込んで、それが今日左翼連合を生み、フランスのミッテラン大統領という逆の結果が出てきたという形になっております。
選挙制度というもの、実用するにも悪用するにも、それは
政治に携わる皆様方の御判断と良識にかかわっていると思うわけであります。
その中で私が
一つ感じますのは、
選挙の
制度とその国独自の
政治風土といいますか、最近の
政治学の中では
政治文化という概念を使っておりますが、その国独自の
政治の風土、文化というものとかかわって検討していかなければならない。その
意味で、
スウェーデンでも
二院制を
一院制にしたという大
改革がありました。
日本でも現在、まさに革命的行為と言われております
選挙制度の
改革は、あくまでも実態に即してよりベターなものにしていくということが基本原則であろうと思っております。
その
意見で、私は
比例代表制というこの
制度が、枝葉末節においては先ほど
西平先生も御指摘にありましたようにかなり多くの疑問点がありますが、民意を鐘のように反映するという、
議会政治の上で一瞬大事な
国民の
意見である民意の
議会政治へのフィードバックを可能にするという
意味ではきわめてすぐれた
制度である。
もう一点は、
比例代表制という
制度を
研究していく中で非常にむずかしい点は、
比例代表制というのは
比例代表制論者と比例すると言われるほど非常に数多くあります。その各国それぞれの
研究をしてみますと、まさに党利党略であり、国策であり、いろいろな形でありますので、そのすべてを網羅することはここでは時間の関係上できませんが、私なりに考えました
幾つかの点を披瀝していきたいと思います。
最初に、
国民の
意見を国政に反映するという
意味で、
比例代表制は確かにすばらしい
制度でありました。しかし、それがかつての西ドイツといいますかドイツの戦前における、あるいは今日のイタリアにおいてあるいは
デンマークがこの間ついに十党を超える、
政党のシステムの破片化という言葉を使っておりますが、非常に
政党が分散化していく。フラグメンテーションという、断片化、破片化という言葉を使われますが、これを起こしますと、今日
政治問題が非常に山積をしているはずでありますが、山積をしている中で党利党略、
政党間の交渉というものが非常に重要視されまして、
政策とか行政が二次的、三次的なものになってしまう。そういうようなことを考えますと、
政党システムの破片化ということは防がなければいけない。その
意味で
制限条項が、
ヨーロッパの
比例代表制を採用している
国々では非常に多く採用されております。それは五%であったり、あるいは
スウェーデンの四%であったり、
デンマークの二%であったりというふうな形になっております。
今回、この
公職選挙法の提案
理由説明をちょっと見ていく中でお話をしたいのですが、先ほど後ろの各論のところは
西平先生が御指摘をしましたので、私は前文に当たります「
全国区
制度の
改正について」というところからお話をしていきたいと思うのです。
その中で、提案
理由が四点について出ているわけですが、簡単なリピートになりますがお聞きくだされば、まず一点目が「
参議院にふさわしい人」という概念が出ております。これは、
参議院にふさわしい人がどういう人かは定かではありませんが、恐らく良識の府としてふさわしい人である、もうちょっと言うならば市川房枝さんに
代表される出たい人より出したい人をという、いまの
全国区とは全く逆の
立場になると思います。
第二点目につきましては、「八千万人の
有権者を
対象とする
個人本位の
選挙となっているので、
有権者にとって
候補者の選択が著しく困難である」と書いてあります。ちなみに、前回の同時
選挙での無効票の数は、全有効
投票の七%を超えております。実に四百万票以上であります。四百万票をとれない
政党もいくつかあるわけですから、そのことを考えますと、これはいまの
全国区
制度に対する痛烈な皮肉であると私は考えております。ちなみに、当日行われました地方区、
衆議院の無効票の約二倍であります。具体的な数字はここにありますので、もしよければそれはまた後ほどお話をしたいと思います。
それから、
投票日の当日になって決めるという人がどのくらいおるかというと、これも地方区や
衆議院と比べると約二倍ありまして、
投票日、すなわち
投票箱の前でだれにしようかなというかなりいいかげんな人が前回八%、これは
世論調査の結果ですが、ありました。明るい
選挙の
世論調査であります。
このような約四百万票以上という無効票の
存在と、それから
投票箱の前でどうしようかな、一番右の上に書いてあったのがどなたかわかりませんが、その人に入れてみようかという八%の人、このことを考えていくと、
制限条項となりますたとえば
全国区の票で直近の
選挙で四%とかあるいは
国会議員五人とか
無所属十人集めなければいけないということが何と枝葉末節な陳腐なことであるかということを、まずもって考えなければいけないと私は思っております。
それから三番目の「膨大な経費」、これはまさに金権
選挙の原因でもあるし、もう
一つは永田町は圧力団体に席巻されてしまったと言われるほど、狂ったような
選挙になると思うのですが、その
意味で今回の
比例代表制は、この点を改めるには最たるものだと思っております。
その次、四番目になるのが、
個人本位から
政党本位の
選挙ということでございますが、やはり
議会政治、
議会デモクラシーが
政党政治というものを大
前提としなければ運営できないということは自明の理であります。確かに、
国会にもろもろの
意見を反映するために一人一党的な人が登場することは好ましいことであると同時に、まさに先ほど言いました
政党システムの破片化を促す原因でもあります。ある
意味では、自己満足で
選挙に出てきて当選をしていくということもあると思います。
この四点の中で、今回の
比例代表制名簿拘束式というものが、実を言うと二点目、
候補者の選択をやさしくする、これは従来百人の中から選んできたのが、七党か、せいぜい八会派ぐらいから選ぶわけですから、かなり楽になります。そういう
意味では、非常にいい
制度であると私は賛意を表したいと思います。
三番目の「膨大な経費」、これはどんなことがあれ、数百億あるいは数千億と言われた前回、前々回、四十九年以降の金権
全国区
選挙を考えれば、これははるかに安い
選挙制度だと思って、これも私は
賛成をいたします。
それから「
政党本位」、この問題と一番目にある「
参議院にふさわしい人」ということを考えていったときに、
政党要件の
国会議員五人、直近の
選挙での四%、それから
無所属の人たちは十人の会派をということは余りにもきつ過ぎるのではないか。これは明らかに提案
理由と自己矛盾を犯している大変大きな問題ではなかろうかと思います。従来の
公聴会やあるいは
参考人のいろいろな
意見の中でも、これは自民党推薦の方でも恐らくその点を、私は新聞の示すところでしか理解をしておりませんが、
政党要件の緩和ということをうたっておるわけであります。
公聴会が、あくまでも議案の慎重
審議の要するにプレスティージづけということで終わるのならばそれは仕方ないところでありますが、もし、本当に
委員会あるいは
国会が
国民の
意見を代弁し
国民を
代表して話し合うということを考えていくならば、この
政党要件の緩和という点はぜひお考えになってほしいと思います。
この中で、たとえば前回の同時
選挙のときの
全国区の票で四%ということに該当するのは、まあ多くの
政党は該当するわけですが、その中で市川房枝さんと青島幸男さんの票を見ますと、これは四%の
要件を超えております。二百七十八万票と二百二十五万票ですから、有効
投票の四%というのは当選しております。この四%というのは、確かに
個人でも可能な数字でありますが、先ほど
西平先生も言いまし、た
衆議院、第
一院であるならば、大いに僕は四%か三%ということで御指摘をしていきたいわけですが、
参議院、第
二院である、そして
全国区である、唯一の良識を
代表すべきところである
全国区の
改正であるならば、これは
社会党案の二%よりももっと少なく、たとえば前回、コロンビア・トップさんという方が五十六万票で落選をしておりますが、この五十六万票というのは有効
投票の約一%であります。
僕は、
全国区であるならば一%ぐらいまで一気に下げる。下げれば泡沫候補の出馬ということはチェックできるし、それでなおかつ、一人一党でも
国民をある
程度——先ほど
西平先生が、ア、イ、ウという
要件があって、オとして、一定の推薦を得た人はいいんじゃないかというお話がありましたけれども、私は全くそれと同じで、数字で言うならば前回の
選挙での一%とか、あるいは
全国区で四県にまたがって、たとえば五万人か十万人かある一定の推薦の
名簿がついているならば、その人たちにやはり出馬の権利を与えなければ、これは法律、
憲法上の問題どうこうではなくて、自民党の提案
理由の第一にある「
参議院にふさわしい人を」というこの第一
要件を拒否するものであって、これほど自己矛盾の
全国区
改正というものはないだろう。この一点で、私はやはり党利党略という面に即した発想ではないかというふうに考えております。
それ以外に
幾つかの
問題点はあるのですが、
選挙運動の件につきまして一点お話をしておきたいのです。
選挙運動のことにつきましては、先ほど供託金のことにも触れてお話が出ましたが、
政党というものを認定して
選挙を行う以上、改めてなぜ供託金を取るのかということは、これは非常にナンセンスである。
政党本位の
選挙にする以上は
意味がないと思うのです。もちろん、
改正の段階で一人一党が出られれば、これは考えなければならないわけですが、この点は非常に自己矛盾の論理展開であろうと思います。
もう一点は、
選挙運動の問題ですが、確かにいま
参議院の
全国区でも、
政党本位で選ぶ人の方が
個人本位で選ぶ人よりも多くなっております。これは過去三回の例で見ても、四八%前後で
政党を選んでいる人の方が多いです。ただ、この段階で、いままでの
全国区でも、テレビの
政見放送とかあるいは
選挙公報とか、そういうようなことで選んでいる人が、何を有力にしましたかという中で上位の一、二、三位ぐらいを占めているわけです。
その
意味で今度は、どのようにテレビの
政見放送みたいなものをやるのかわかりませんけれども、たとえばスタジオの中で各党に時間割り当てで、一時間どうぞ好きに使ってくださいなんということを言わないで、もっとどこでもいいから好きなように時間を与えて、諸外国のように好きなようにおつくりください、時間だけはチェックするけれども、あとはもう御自由にということ、あるいは、
政党本位の
選挙というものは
政策本位の
選挙になるわけですから、
政党の党首あるいは
参議院の方の会長か団長かわかりませんけれども、その人が出てくるとか、あるいは
候補者同士五人ずつで徹底して討論させて、その中で、ああこっちの方が能力があるなとかいろんなことを、
国民に判断の材料を与えるならば、
選挙公営の徹底した拡大をもってすれば、
日本のこの非常にゆ
がんだ
政党選挙システムというものが少し立ち直ってくる涼風を投げ込む
一つの契機になると私は思いますので、その点は大いに声を大にしてお話をしていきたいと思います。
あと、繰り上げ当選のことは、余り私はよくわかりませんが、もし六年有効であるとするならば、あるいはその途中でもって、
参議院に比例
代表で受かった人が
衆議院に転出をするとか、あるいは知事選に出てそっちで当選するとかいうような、ステップ台として比例
代表を使うということも十分予想される範囲であります。それが予想される範囲であるならば、繰り上げ当選は六年というものはもうちょっと短くすべきではないかというふうに、
幾つか
問題点を御指摘してお話をしました。
どうも失礼いたしました。(
拍手)