○粕谷照美君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題になりました
昭和五十六年度
政府予算三案に対し、反対の討論を行います。
総理は、去る一月二十六日の施政方針演説で、八〇年代は、七〇年代に生じた資源及び環境面での制約、通商摩擦、人口の高齢化、財政収支の不
均衡等の
課題の解決に
努力し、二十一世紀への足固めを図る決意であると述べられました。また外に向かっては、平和憲法のもと、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国とならず、内ではこれまで以上に温かい思いやりに満ちた社会にすると国民に約束されました。しかし来年度
予算は、それとは全く逆行する政策が数多く盛り込まれていることが審議を通じて明らかになったのであります。
予算は時の
政府の顔とも言われますが、今回の
予算は、
鈴木内閣の掲げる和の政治どころか、不安と対立を深めるものとなっています。
以下、数点にわたって反対の理由を申し述べます。
第一は、平和憲法に反する
軍備増強予算であり、
政府自民党の右傾化、軍国主義化が一層明確になっているからであります。財政再建のために一般歳出を厳しく抑制している中で、防衛関係費が社会保障関係費の伸び率を初めて上回ったことはきわめて危険な徴候と断ぜざるを得ません。正面装備の強化、後年度負担の増加、さらには最近の大企業の防衛生産部門への進出など、概算要求の段階から聖域化された防衛関係費の特別扱いが今後一層進むおそれがあります。しかも本
委員会を通じ明らかになったのは、財政面、
予算面からのシビリアンコントロールがないがしろにされていることであります。また、武器輸出禁止に関する決議の可決は一歩前進とは言えるものの、具体的立法措置は見送られております。わが国を米国の
世界戦略に巻き込み、国際緊張激化に加担して国民の不安を高めている姿勢に断固として反対するものであります。
第二の反対理由は、
政府の言う財政再建が全くの見せかけ倒れであり、国民の犠牲によって行おうとしていることであります。二兆円の国債減額によって財政再建元年
予算と自画自賛しておられますが、それを可能ならしめたのは、一兆四千億円に及ぶ過去最高の新規増税と、四兆五千億円に達する自然増収という目に見えない増税にほかなりません。この五兆九千億円という増税は最終的には勤労国民の負担となるものであります。財政再建には何よりもまず不公平税制の徹底的な是正によって税収を確保し、国民の税に対する信頼を回復することが欠かせませんが、
政府にその姿勢が見受けられません。
補助金の根本的改廃も大きな問題でありますが、
政府は一方で補助金を廃止したと言いながら、他方で名称を変えただけの補助金を新設するという、見せかけの整理を行っていることが明らかになりました。たかりと腐敗の温床、
予算の三分の一を占める補助金の点検は、現
政府には不可能ではないかと思わせられる、官僚支配の実態が浮き彫りにされたのであります。このような国民の目を欺き、愚弄する大衆増税先行、歳出構造温存の財政再建は、国民を納得させることはできません。
反対理由の第三は、ばらまき福祉の見直しという口実のもと、実質的な福祉切り捨て路線が進められていることであります。わが国の福祉水準は、自助
努力とか受益者負担の強化を許すほどの高い水準ではありません。本年度
予算の社会保障政策面では、所得保障が強化されています。老齢、疾病、障害、育児などの社会保障給付は、所得とは直接関係ない、ハンディを補うための生活保障的性格があることを忘れた、弱者しわ寄せの政策であります。しかも現行の所得制限は無原則で、合理的根拠を欠き、財政事情いかんで左右されていると言っても過言ではありません。
なお、今年は国際障害者年でありますが、わが国の障害者雇用
状況は劣悪で、対象となる
政府関係特殊法人ですら、七十のうち四十が雇用達成率を満たしていないのです。また民間の法定雇用率も、フランスの一〇%、四ドイツの六%、イギリスの三%に比較してわが国は一・五%とはるかに低く、障害者年の目標、完全参加と平等の社会づくりへの
努力が見られない実情であります。
反対の第四の理由は、国民の生活水準の向上を図るのではなく、国民の生活権を奪う
予算となっていることであります。国鉄財政再建のために、一九八五年までに七十七のローカル線の廃止、割り増し運賃導入対象に百七十五線が挙げられていることは、地方住民の足を奪うだけでなく、教育権、健康権、生存権すら奪おうとするものであります。その一方で都市問題の
中心をなす住宅難の解消も期待できません。八一年度から始まる第四期住宅建設五カ年計画は、これまで以上に持ち家偏重の政策でありますが、すでに持ち家政策はローン地獄と言われる勤労者の過酷な負担、二けた台を続ける住宅地価格の上昇によって破綻していることが明白であります。また
政府の経済政策の明らかな失敗に対して何ら責任がとられていないことも指摘せざるを得ません。
消費者物価の上昇は今年度で八%に達しようとしていますし、勤労者の実質賃金はマイナスです。二月の完全失業者は百三十五万人の高水準に達し、今年度の新築住宅着工戸数も
政府見込みを二十万戸以上も下回る百二十万戸程度にしかすぎず、他方で企業の倒産件数は過去最高に達しようというのが実情であります。このような経済実態からするならば、公共料金の値上げでスタートした新年度の経済政策によっても国民の生活向上は期待できません。
第五の理由は、
政府の対外経済政策によっては、国の安全保障も国民の生活安定も確保できないと
考えるからであります。
政府は対外経済政策を重視するとは言いながら、周期的に繰り返される日米経済摩擦問題に対して何ら有効な手だてを講じることもなく、
開発援助に当たっても、紛争当事国には援助をしないとの方針に反して、国際
状況を名分に事実上の肩入れを行うという、きわめて政治的性格の強い援助を拡大しようとしているのであります。わが国はかつて資源収奪的外交と非難をされましたが、今後は民族抑圧的経済外交と指弾されかねないのであります。
また
政府の食糧確保政策は輸入依存を続けておりますが、わが国の穀物自給率は三〇%強にしかすぎず、主要先進国と比べて不安定な低水準にあります。食糧の自給率向上は国民の生命保持の基本でありますが、
政府にはその理念がなく、現在の
世界的な食糧事情を考慮するとき、わが国はきわめて脆弱な上に立つ経済大国と言わなければなりません。
最後に、最近社会問題となっています青少年の非行について一昔触れておきます。この問題の背景にはわが国の学歴主義社会があり、それによる受験地獄とも言われる過酷な受験競争があります。この弊害を除くためには、高校の全入、四十人学級制度の確立等がまず必要でありますが、
政府は金減らし、人減らし政策の中にこれを抑え込もうとしているのであります。また反動的教科書論議を先行させ、教科書の検定制度を改悪し、画一的な国家主義的教育を復活させようとしています。このような問題の本質をねじ曲げて教育の軍事化を進めることは断じて許せないのであります。
以上をもって私の反対討論を終わります。(拍手)