○高原
公述人 いま御紹介いただきました高原でございます。
私は、
経済に多少強いという、そして家計を担当している主婦の
立場から、五十六年度の
予算案について
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
いままでのお二人の方々の、教育者としての非常にお高い
立場からの話と違いまして、家計サイドからでございますので、
かなりみみっちい話になるのではないかと思います。
最初に、今度の
政府の
予算案を見ましての最初の私の印象を申し上げたいと思うのです。確かに、鈴木
総理が二兆円国債減額ということをおっしゃっていらして、その公約は果たしているわけですけれ
ども、公約の中で二兆円減額だけ言ってらして、その裏側の
増税の枠がなかったために、非常に大きな
増税というものが行われてしまっているわけです。私は、公約としては、やはり
国民のいやがる
増税の方も最初から言っておいていただかないと、
政府の案を見たときに、あれっという非常に裏切られたような気がするわけでございます。これを家計にたとえますと、借金を減らせ、減らせということで、家計を担当している主婦が借金は一生懸命減らしたのだけれ
ども、歳出の方はちっとも切り詰めないで、かせぎ手である主人のしりをたたいて、かせいでこい、かせいでこいというような形の
予算案になってしまったのじゃないかなという気がするわけです。そういう
意味で、全体の印象としては、公約が行われたと言われながら、その裏で何かうなずけないものがあるわけでございます。
次に歳入の面、つまり、
国民の側から言いますと
負担という面について申し上げますと、法律を改正しての
増税というのが一兆四千億円ということになっております。さっき申し上げたように、
増税というものに、
増税ゼロで国債を減らすとか、
増税を何千億円以内で国債を減らすというような枠がついていれば、こんなにも
増税がなかったのではないかと思うわけなんです。
ただ、中身を見ますと、
比較的
国民としては抵抗できるものが多いのではないか。つまり酒税のアップなんというのは、酒を飲む量を減らせば多少は抵抗できるのではないかという気がするわけです。ただし、それは税の増収にはつながらないで、むしろ減収を引き起こすのではないかという気がするわけで、財布を預かる身としては、税の上がったものはなるべく買わないというような形でしか対抗できないのかという気がしているわけでございます。この辺も今後の御検討で、一兆四千億そのままが
増税されるのかどうかは御検討になるでしょうけれ
ども、私が受けた感じとしては、そういう形で抵抗していくということを考えざるを得ないと思うのです。
私は、問題は、
増税としてはっきりあらわれている一兆四千億円の方ではなくて、むしろ、法律を変えないで、目に見えない形で行われる隠れた
増税の方が家計にとっては
負担が大きいのじゃないかという気がするわけです。それはどういうことかといいますと、
所得税の減税が引き続き行われないということでございます。そうしますと、特に給与
所得者にとっては非常にしんどいことになるのではないかと思っております。
実は私も最初のうちは、
政府が
財政再建ということを強くおっしゃっておられますので、もう一年ぐらい減税をがまんしなくてはならないかなという
意見を持っていたわけですけれ
ども、昨年末からいろいろな
数字を見ておりますと、サラリーマン世帯にとっては近年にない非常に厳しい家計の
状況になっているわけです。昨年の
実質賃金が〇・九%の減少であるということで、これは二十七年に統計をつくって以来初めてのことだと新聞は報じているわけなんです。そうしますと、ベースアップその他で給料が上がったものがまるまるふところに入ってくればいいわけですけれ
ども、逆に実質では
マイナスになっているということで、これではちょっと家計としては苦しく、このあたりで私は
物価調整減税というものが考えられていいのではないかなという気がするのです。
昨年は確かに
賃上げの幅が少のうございました。私は、この
賃上げの幅が少なかったということが
物価の狂乱を防ぐ上で役に立った、八%ぐらいまでいきましたけれ
ども、それ以上にならなかった、コストアップを引き起こさなかったのは、ベースアップを抑えたことではないかと思うのです。そうしますと、せっかくベースアップを抑えたことが、結局はサラリーマンにとって
マイナスの結果を生むことになったのでは何とも納得できないことですので、この辺で何か隠れた
増税にならないような形のものを御検討いただきたいと思うのです。
いろいろ
所得税の中でも、サラリーマンの場合には
課税最低限の引き上げもなく、サラリーマンの中で納税者の数が急速にふえると言われておりますし、それから累進税のために、
比較的低いサラリーの人たちの税額が急速に伸びるというような報道を拝見しております。そこで、ぜひ
物価との絡み、
実質賃金が
マイナスになったということの絡みで、何か隠れた
増税にならないような形のものが今後御検討いただけないかと思っております。
次に、歳出面について申し上げますと、これも
増税というものの枠がなかったために
かなり膨張しているのではないかと思うわけです。
財政再建ということになりますと、
国民もそれから皆さん方も、総論では賛成を表明するわけですが、各論になるといろいろ問題が起きて、なかなかそれが削れないわけです。したがいまして、
増税の枠というものをはっきり決めておかない限り、歳出を削るということはなかなかむずかしかったのではないか。その
意味で、今度の歳出削減というのは不十分であったのではないかと思うわけなんです。
その中の一、二について
意見を述べさせていただきますと、いつも言われているのが
行政改革であり、これは
国民の側からいつも声が強く上がるわけです。私も、行政というのは、一面では能率アップということで改革を進めなければいけないし、もう一方では仕事減らしというような形で改革を進めないといけないと思うわけです。ところが、最近の記事などを見ておりますと、この辺でも私たち非常に納得できないものがあるわけです。たとえば第二次臨時行政調査会というのが誕生して、
行政改革に本格的に取り組むということでございます。しかし、そのためにスタッフが百何十人も配置されるということであるわけです。そうしますと、そういう民間の英知をしぼって、それを中心に行革が進められるということでしたら、行政管理庁の方は一体要るのか要らないのかというあたりで、大変私などは納得できないものがあるわけです。それから、仕事を減らすという
意味では、いろいろ今後第二次臨調で検討されると思うのですけれ
ども、たとえば塩とかアルコールの専売をやめて民営に移すのだというようなことが耳に入ってまいります。その一方では個人郵便
年金というのが誕生する。一方では民営に移しておきながら、他方では民営でやっているものを官営で行わなければならないというようなことがあって、それぞれ
理由はおありなんでしょうが、何か納得できないものがあるわけです。
それから、
行政改革の一面として、公務員の給料なんですけれ
ども、今度は一%アップの
予算が計上されているということですけれ
ども、一体この一%というのはどういう
意味を持つのかというのが大変疑問に思うわけです。一%でしぼるのか、それともまたもっとベースアップをするのかというようなことで、この辺も、民間に勤めている人にとってはなかなか理解しがたいことだと思うのです。民間の場合には、私も、自分の主人が民間会社で大変経営の苦しいところにおりましたために、ベースアップもありませんでした。それからボーナスも何年ももらえなかったという経験がございますので非常に身につまされるわけですけれ
ども、それに比べれば公務員は、どんな
赤字であっても常に適当な水準のベースアップが行われ、昨年暮れには十分なボーナスを早々と受け取っておられるというようなことで、ことしは一体どうなるのかというあたりを私はぜひ見守りたいと思っているわけなんです。
いま行革について申し上げましたけれ
ども、次に福祉の面について申し上げますと、私は、本当に困っている人に手厚く福祉をつけるという
意味では、今回
所得制限などの制限が行われたということはやむを得ないのかなという気がしているわけです。十分
所得のある方に福祉をつけることはないではないか。そして非常に困っている人たちに手厚く福祉というものをつけていってほしいと思うのです。と申しますのは、私自身の母が完全に寝たきりになりましてもう四年たっております。私はいま病院に
お願いしているわけで、その病院に納めるお金を一生懸命かせいでいるわけなんですけれ
ども、家庭で寝たきりの老人を見ている主婦の方々の話を聞くと本当に大変なんです。高齢化
社会になれば、これからはそういう人がふえていくことはわかり切っていることなんです。ですから、そういうところに手厚く福祉がつくような形の
対策を考えていただきたいと思うのです。本人も大変だろうと思うのですけれ
ども、次の世代の主婦というのは本当に何もできないというような大変さでございます。これからもどんどんふえていくということは
数字でわかっていますので、そういう困った人たちに福祉をつけるという
対策をつけていただきたいと思うのです。そういう
意味で、
所得制限で、
所得のある方はやむを得ないということになるのではないかと思うのです。
ただ、その場合、私、二点申し上げたいのです。
一つは、困っている人に福祉をつけてほしいと申し上げますと、それは昔の救貧的な発想への逆戻りであるという批判をよく受けるわけです。そうしますと、困っている人がありがたがって福祉を、哀れみを受けるような形ではない、そういう形での制限を考えていただきたい。
所得制限というのはやむを得ないと思いながら、なるべくそれが哀れみというような形につながらないということをお考えいただきたいと同時に、もう一つ、高齢化
社会での福祉の問題という場合には、健康度とかそんなものでも判断して、元気なうちは自分でやるけれ
ども困ったときには福祉を
お願いするというような形になっていかないかなと思うのです。ですから、
所得制限だけじゃなくて、お達者バッジというようなものでもつけて、お達者な方は自分でがんばっていただくというような形を何か考えていただきたい。
所得制限が福祉について厳しくなり始めておりますので、この際、その辺も御検討いただけないかなという気がするわけです。
それからもう一つ、
所得制限での問題は、税の把握に関して非常に不公平が生じるのではないかと思うわけです。サラリーマンは、クロヨンあるいはトーゴーサンというような形で言われておりますが、
所得を大変ばっちり把握されているわけでございます。そうしますと、
所得制限ということで何百万円以上ということになると、ばっちり把握されましたサラリーマンが大変損をして、把握が不十分なところの人たちは福祉を受けれて得をするという形になるわけです。実際に今度の児童手当の問題でも、サラリーマンよりも自営業者の方がはるかに児童手当を受けれる割合が高いという
数字が出ております。そういうことで、
所得制限をお進めになる上には、なるべくそういう把握の面での不公平をなくした上でやっていただきたいという気が強くいたしております。
それからもう一つ、
生活している家計担当者の
立場から申し上げますと、いま行革、福祉と申し上げて、今度はちょっと小さくなりますけれ
ども、住宅の問題なんです。
今度の場合、住宅金融公庫の貸し付けの戸数が減っておりますし、それからここでも
所得制限をつけまして、
所得の高い者には利率を高くしているわけでございます。その辺で私、
政府の住宅
政策というのは変わったのかな、どうなっているのだろうかなという気がするわけなんですけれ
ども、従来から
政府の住宅
政策を見てまいりますと、持ち家
政策が中心であるわけです。つまり、住宅金融公庫にお金をつけてそれで持ち家を持たすというのが中心であったわけで、しかもその住宅
政策が
景気政策との絡みで、
景気が悪い五十二、三年ごろは住宅金融公庫の融資をふやし、今度は
財政再建で住宅金融公庫の融資を減らすというような形で、非常に二次的に住宅
政策が扱われていると思うのです。
ところが、けさの新聞にも出ておりましたけれ
ども、現在のところ、もうすでに宅地は二けた
上昇しておりまして、私
どもにはもう手が出ない
状況になっているわけなんです。ですから、もし住宅金融公庫の融資を今回減らすということが住宅
政策の転換であるとするならば、もっと賃貸住宅の充実に変わっていっていただきたいと私は思うのです。もういまや高くて、普通のサラリーマンでは首都圏周辺で家が買えるような
状況ではないわけです。そうしますと、土地を持っている人にもうちょっと融資して安い賃貸住宅を建てさせるとか、そういうように根本的に住宅
政策をチェンジして、ぜひ私たちが住みよい環境で暮らしていけるような
対策を何か考えていただけたらと思っております。
非常に細かいところになりましたけれ
ども、時間が参りましたので、以上、
意見を申し述べさせていただきました。(拍手)