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1981-04-22 第94回国会 衆議院 外務委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十六年四月二十二日(水曜日)     午前十時四分開議  出席委員    委員長 奥田 敬和君    理事 青木 正久君 理事 稲垣 実男君    理事 川田 正則君 理事 松本 十郎君    理事 高沢 寅男君 理事 土井たか子君    理事 玉城 栄一君       太田 誠一君    北村 義和君       栗原 祐幸君    佐藤 文生君       竹内 黎一君    中山 正暉君       井上  泉君    河上 民雄君       金子 満広君    野間 友一君       田川 誠一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 伊東 正義君  出席政府委員         外務政務次官  愛知 和男君         外務大臣官房審         議官      栗山 尚一君         外務省アジア局         長       木内 昭胤君         外務省北米局長 淺尾新一郎君         外務省経済協力         局長      梁井 新一君         外務省条約局長 伊達 宗起君         海上保安庁次長 大塚 正名君  委員外出席者         防衛庁防衛局運         用第一課長   萩  次郎君         外務委員会調査         室長      高杉 幹二君     ————————————— 委員の異動 四月二十二日  辞任         補欠選任   坂本三十次君     佐藤 文生君 同日  辞任         補欠選任   佐藤 文生君     坂本三十次君     ————————————— 四月十七日  万国郵便連合一般規則及び万国郵便条約締結  について承認を求めるの件(条約第三号)(参  議院送付)  小包郵便物に関する約定締結について承認を  求めるの件(条約第四号)(参議院送付)  郵便為替及び郵便旅行小為替に関する約定の締  結について承認を求めるの件(条約第五号)(  参議院送付)  郵便小切手業務に関する約定締結について承  認を求めるの件(条約第六号)(参議院送付)  日本国とグレート・ブリテン及び北部アイルラ  ンド連合王国との間の郵便支払指図の交換に関  する約定締結について承認を求めるの件(条  約第一三号)(参議院送付) 同月二十日  婦人に対するあらゆる形態差別撤廃に関す  る条約批准等に関する請願浦井洋紹介)(  第三一五二号)  同(野間友一紹介)(第三一五三号)  同(村上弘紹介)(第三一五四号)  同(四ツ谷光子紹介)(第三一五五号)  同(金子みつ紹介)(第三三一二号)  同外七件(森井忠良紹介)(第三三一三号)  婦人に対するあらゆる形態差別撤廃に関す  る条約早期批准に関する請願藤原ひろ子君  紹介)(第三一五六号)  同(金子みつ紹介)(第三三一四号)  戦後ソ連地区抑留死亡者遺骨送還のため外  交交渉促進に関する請願上草義輝紹介)(  第三三一一号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国際電気通信衛星機構の特権及び免除に関する  議定書締結について承認を求めるの件(条約  第一六号)  条約法に関するウィーン条約締結について承  認を求めるの件(条約第一七号)  業務災害の場合における給付に関する条約(第  百二十一号)付表I(職業病の一覧表)の改正  の受諾について承認を求めるの件(条約第一八  号)  国際情勢に関する件      ————◇—————
  2. 奥田敬和

    奥田委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。高沢寅男君。
  3. 高沢寅男

    高沢委員 先回の外務委員会原潜問題についてのアメリカ海軍ステートメント、それからそれに伴う想定問答資料をちょうだいして拝見をいたしました。その関係原潜問題をまたお尋ねいたしたいと思います。  まず、アメリカステートメントによりますと、事故が起きたときの救助活動がどうだったかということですが、「救援を提供するため浮上した。しかし、当該商船は霧と雨による視界不良のため視界から消え去った。」これは、アメリカに言わせれば、当時は海上気候条件等々が大変悪い条件で非常に見通しがきかなかった、そこで見えなくなった、こういうことです。一方、想定問答の方では「当該船舶遭難様子もないまま航行し去るのを目撃した。」こうなっておるのです。こちらの方は、遭難様子もなくそのまますうっと航行していったのだ、こうなっているわけですが、このステートメント想定問答の中身はだれが見ても非常に大きな食い違いがある。これは同じアメリカからの説明資料であります。  私は、まずこの点についての大臣の御認識、また、そういうアメリカ側食い違いがある説明に対して、一体どっちなんだというようなことをただされたのかどうか、ただして何かの回答を得られたのかどうか、そういう関係をお尋ねしたいと思います。
  4. 伊東正義

    伊東国務大臣 お答えします。  私は直接会ったものじゃないものですから、そのときのことは詳細はわかりませんが、私どもステートメントをもらいまして、国会でもいま高沢さんがお読みになったことで私は御答弁を申し上げておるわけでございまして、質疑応答というのはどういう性質のものかは別にしまして、率直に言って若干そこはニュアンスが違うような感じがします。それで、その日の事故の起きた状況、いまの遭難後の救援活動状況等、事実関係がどうもはっきりわかりませんので、やはりそこをはっきり国民が納得するような調査説明がないといかぬので、早くその間の真実調査してくれ、こういうことを言っているわけでございます。  私は、ステートメントというものを、これは正式なものということで何回も先生にお答えしたということでございまして、そのニュアンスの違いがどうだということはそのものとして尋ねるということじゃなくて、一体そこはどうなっているのだ、やはり早く事態の究明ということをしてほしい、どれが真実かということを知らしてほしいということを言っているわけでございます。
  5. 高沢寅男

    高沢委員 われわれがこの事態を知るのに、遭難して救助された船員人たち、彼らが、船が急に下から持ち上げられるようになって、そして機関室へ浸水してきて十五分で沈んだ、われわれはこのことを聞いて、まあそうだろうと事態判断しているわけです。これはわれわれの事態判断の有力な、大変重要な一つ根拠であるわけです。  さて、アメリカ側からその事態説明するものを実は何も得ていない、また、あなた方外務省からも何の説明も聞いていない、これが現状で、これは大変遺憾なことだと思うのですが、それにしてもわずかにアメリカ側がよこした説明資料内容が食い違っておるというような状態のときに、あなた方は、これは一体どっちが本当なんだ、どっちがどうなんだということをアメリカに向かって、すでに事件が起きてから十日以上たっていますが、そういう問い合わせをされたのかどうか、これは私は淺尾局長にお尋ねします。
  6. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 まず最初に、概括的にお答えいたしますと、まさにこの点が私たちとしてもわからないところでございますので、原因について現在アメリカに早く知らせてほしいということを申しているわけでございます。  さらに説明させていただきますと、ステートメントの中に「当該商船は霧と雨による視界不良のため視界から消え去った。」続けて「当該潜水艦は、当該日本船が見えなくなる前に人的又は物的被害があったか否か確認することができなかった。」という個所がございまして、もう一つの御指摘の点のアメリカ海軍が予定した想定問答というものが「当該潜水艦は、衝突後直ちに、視界不良という条件の下で、当該海域の捜索を行い、当該船舶遭難様子もないまま航行し去るのを目撃した。」あと航空機のことが書いてございますが、それは別にいたしまして、あくまでもわれわれとしてはこのステートメントというものがアメリカのその時点でのわれわれに対する正式の通報というふうに考えておるのでございます。しかし、このステートメントそれ自身でも本当にそうだったのかどうかということがなかなかわかりませんので、当時の状況衝突状況、なぜ救助活動ができなかったかということについて、現在アメリカに照会しております。
  7. 高沢寅男

    高沢委員 あなた方はそういう状況判断アメリカに求めるという場合に、遭難船員がこういう状況だったということは全部海上保安庁が聴取されているわけです。あるいはまた海上自衛隊も聴取されているわけです。そのことをあなた方外務省海上保安庁にただしたのですか、そして、その事実関係外務省として掌握する、その上に立ってアメリカにまたこれを究明するというふうな、海上保安庁との関係あるいは海上自衛隊との関係は一体やられているのですか、どうですか、お尋ねいたします。
  8. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 海上保安庁につきましては、常時われわれとして緊密な連絡をしております。そして、海上保安庁船員からいろいろその当時の事情聴取をされているということを伺っておりますので、われわれとしても一日も早くその事情聴取内容を知らせてほしいということを頼んでございます。他方アメリカ側に対しては、まだそういう海上保安庁が調べた調書それ自身をわれわれいただいておりませんので、われわれとしてアメリカ側と接触する場合においては、報道あるいは国会等において行われている議論を伝えてございます。
  9. 高沢寅男

    高沢委員 私は、ただアメリカから何か出てくるのを待つというのではなくて、こちら側がこうだったのじゃないかということでどんどん相手に向かって問題をぶつけて、そしてそれに対してイエスノーかの答えを求めるということでなければ、こういう問題はちっとも解明されないと思うのです。その関係において、たとえば原潜衝突時の行動通常行動であった、こうステートメントに書いてあります。それから、淺尾局長国会で繰り返しそのことを、アメリカはそう言っております、こう答弁されております。しかし、遭難船員の話によれば、衝突をされたときに海中においていろいろな爆発音が聞こえた、あるいは何かが高速で走るような音も聞いたというような表現があるわけで、私はこの証言はまさかうそではない、真実証言だと思いますが、そうなってくると、通常行動であった、このこと自体が一体本当であるのかどうか、これもアメリカに向かって、本当にそうかどうか、これは当然追及し、また究明すべき問題じゃないですか、そういうことを外務省としておやりになりましたか、答弁を求めます。
  10. 伊東正義

    伊東国務大臣 いまお尋ねのことは、海上保安庁生存者から事情を聴取されておるわけでございまして、海上保安庁からこれが調査の結果だと言って発表するということは、まだ私の方に連絡があるということはないわけでございます。  その一つの理由として、こちらでいろんなことを先に出すことは、向こう調査にそれをまた利用されるというようなこともあってもいかぬという心配をされているのじゃないかと思うわけでございますが、ただ、国会で何回も、海上保安庁生存者意見を聞けばたとえば視界は二千メートルであったというようなやりとりがあるわけでございまして、これはアメリカ側に、国会での原潜に関するやりとりは知らせてございます。でございますから、向こうもそれは知っているわけでございますし、また、向こうから来ている調査官も生存者からの意見も聞きたいということで、日本側の弁護士さん立ち会いで日本側船員からも当時の状況を聞くということを実は向こうで計画をしておりますので、私はその関係のことも向こうにもわかるだろうと思いますし、また向こうから報告が来ましたときに私ども海上保安庁で調べられた事実と余りにも違うとかいうようなことがあれば、日本側調査ではこうだということではっきりそこはおかしなことがあれば日本側意見を言う、私はそのつもりでおりますので、国会やりとりを通じまして、アメリカの方は日本側海上保安庁からの答弁等は知っているということでございます。
  11. 高沢寅男

    高沢委員 私は、このアメリカステートメントを見ますと、そう言っては失礼かもしらぬが、これは明らかにうそを言っておる、あるいはうそを言おうとしておる、こういうふうに考えざるを得ないのです。このステートメントによっても、想定問答によっても、当時上方を飛んでいたP3Cの航空機にも指示してそういう遭難状況を調べるようにした、しかし何にもなかった、こういうことですが、船が十五分で沈んで乗組員救命ボートに乗り移って援助を求めておるというこの状況を空から見て見えなかった、またこの原潜もそのときすぐ近くに浮き上がっていたというのですから、原潜もまた見えなかったというふうなことは、私はあり得ないと思うのです。また、救命ボートに乗っていた船員人たちからは飛行機もよく見えた、原潜もよく見えた、こういう状況で、あちらの側から全然見えない、私はこれは見えたけれども見えなかったと言っておるというようなことに考えざるを得ない。  そういたしますと、いま大臣は、向こうから何か来たときにそれが納得できなければ問いただす、こう言われますが、来たときじゃなくて、もうすでにこの十日のステートメントが来ている、来た内容が、いま言ったようなことからどう見ても事態真相を示していない、これはうそを言っている、こういうふうに判断されるとすれば、これは一体どうなんだ、これは違うじゃないか、被害を受けた人はこう言っておるぞ、これをどんどんこちらから、向こうから来るのを待つのじゃなくて、こちらからどんどんアメリカに向かって問題を提起し、ぶつけていく、そして答えを求める。どうなんだ、イエスノーかどっちなんだ、こういうことで初めてこの真相がだんだんわかってくるのじゃないですか。この点は大臣、どうですか。
  12. 伊東正義

    伊東国務大臣 私も、そのステートメントでは当時の事情がよくわからぬ、そして、どういう救難活動をやったのかということもそれだけではわれわれは納得できぬということで調べてもらいたいと言っていた中のそれは一つの事項でございますので、そういうことだけではわかりませんよ、納得しませんよということを向こうに言ってあるわけでございます。そういうことを早く調査してくれ、こう言いましたときに、まさにそれが核心に触れることなんで、向こう調査でも、何が起きたのか、なぜ通報がおくれたか、人命救助はどうだったかということは調査核心に触れることで、それがまた責任の問題とかそういうことに関連することであるから、それに予断を与えるようなことをあらかじめ言うことは適当でないのでしばらく待ってくれ、自分の方は異例のスピードで調査をする、出たものは真実は隠さぬ、そのまま伝える、こういうことでアメリカ側から私に何度も言っているのでございます。  また、大統領も、個人的に非常に関心を持っている、首脳会談の前までに両方の考えを満たす十分な進展があるものと思う、そういうことを期待しているというような親書までわざわざ大使が持って届けてきまして、本当に迅速にやる、補償の問題もそれとはまた別にちゃんとやるというようなことを言ってきているわけでございますので、私はそれを信じて、なるべく早くちゃんとした報告をしてもらいたいということをこの前求めたというのがいままでの経過でございます。
  13. 高沢寅男

    高沢委員 私は、この場合の外務省立場は両面あると思うのですよ。一つは対アメリカで、いま私が言うように、一体事態真相はどうだったのか、なぜこうなったのか、これを求めていく、それからもう一つは、今度は対日本国民、あるいは具体的には国会、それに対して事態本当の姿はどうだったのかということを明らかにしていく、こういう両面の責任が私は外務省にあると思うのです。  そこで、われわれが国会でこの問題を論議してこの事件の性格を明らかにするのにどうしても必要な一つポイントとして、ぶつかった原子力潜水艦はいわゆる攻撃型原潜であったのか、あるいはポラリス戦略ミサイル原潜であったのか、どっちかということ、これは一つの重要なポイントです。このポイントについて、もう一度ここで改めて淺尾局長にお尋ねしたいと思うのですが、どっちだったでしょう。
  14. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 この潜水艦の名称についてはジョージワシントンということが明らかになっております。ジョージワシントン号は、ジェーン年鑑その他でも明らかなとおりSSBNということでございます。ポラリス型というように理解できる根拠はそこであるわけでございます。
  15. 高沢寅男

    高沢委員 この外務委員会では、SSBNであると私は初めてお聞きした、実はこういう感じです。  それで、この事件が起きたのは九日、それから十日にアメリカからそういう通告があった。そして、この国会が初めてこの問題を論議したのは十三日、衆議院安保特別委員会です。この安保特別委員会で、この原潜は一体SSNSSBNかずいぶん質問が出ました。与党の議員からも野党の議員からも質問が出ました。そのとき、淺尾さん、あなたは何と答えたか。わかりません。その問題はアメリカに尋ねるべきだ。尋ねる考えもありません、この事件公海上の問題で安保関係ありません、したがって尋ねる考えもない、あるいはまた、アメリカはそういうことを発表しないことになっている、したがって尋ねる考えはない、こう言って、あなたはずっと国会答弁を重ねてきました。しかし、いまはここでSSBNだと答えた。  しかし、さかのぼって、われわれも土井委員の要求によって得た資料によって見ると、すでに十日にアメリカのよこした想定問答で、これはSSBNだとアメリカ側の発表でちゃんと出ておる。十日に来ておることを、あなたは十三日の安保特別委員会で、それは答えられない、それは言えません、それは尋ねる考えもありません、こういう答弁をずっと重ねてきたのは一体なぜですか。きょうここであなたは答えた。しかし、いままでの経過の中ですでに明らかになって、アメリカも公表しておる。なぜあなたはこの国会にそれが答えられなかったのか、説明を求めます。(「アメリカに雇われているのと違うぞ」と呼ぶ者あり)
  16. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 私も日本人でございます。  いまの御質問の経緯を振り返ってみますと、衆議院安保特の中でいろいろな御質問がございました。その際に、このジョージワシントンSSBNということは、ジェーン年鑑からそのとおりというふうに十分推測されるわけです。ただ、質問過程の中で、当該潜水艦が現実にSSBNとしていわゆる水中から発射する弾道ミサイルを搭載していたのかどうかということが問題になったわけでございます。私は、型式から言えばSSBNということではあろうと思いますけれども他方、一九八一年の国防教書の中には、この一番古いSSBNの五隻は改装して攻撃型潜水艦になるということもございまして、そのことも議論の中に出ていたわけでございます。したがって、型式としてはあくまでもSSBNではあっても、当時のジョージワシントンがそのときにおいて果たして実体的にもSSBNであったのか、あるいはSSNに改装されているのか、そういうことはわからないということから、先般お答えを申し上げたわけでございまして、他方、ではなぜ尋ねないかという問題については、公海上で起きた事件でございますし、また、アメリカ政府の方針として、核の有無については肯定も否定もしない、こういう政策でございまして、私としてはアメリカのそういう政策というのは核の抑止力という意味から十分に肯定し得るということから、これは公海上で起きたことであるし、そういうアメリカ政策もあるということで、アメリカに尋ねないというふうにお答えしたわけでございます。
  17. 高沢寅男

    高沢委員 あなたはいま、私も日本人であると言われましたけれども、あなたのいま答えられたことは全部アメリカ側立場に立っての説明ですよ。私がいま言っていることは、すでに十日に、それはポラリス潜水艦の改造問題があったかどうか、それがアメリカ国防白書にあったかどうか、しかし、その過程を踏まえた上で、十日の時点アメリカ側説明によってそれはポラリス型潜水艦であるということがすでに外務省説明が来ておる。あなたはそれを見て知っているわけです。それを、そうであるかどうかと国会で尋ねられた。それに対して答えられない。これは、いまあなたはアメリカのあれこれの立場説明されましたが、私は端的に言えば、あなたは国会を欺いてきたということですよ。国会議員あるいは国会というものをあなたは、悪い言葉で言えば小ばかにして、彼らはこの程度答えておけばそれで通るのだというようなことで、すでに明らかにわかっていることも答えない。それをとにかく隠す、隠す、隠すというようなやり方。  しかし、今回は資料の提出によってそのことは明らかになりました。明らかになったからあなたも今度は答えたと思うけれども、しかし、いままでのその間の経過は、わかっていることを国会には隠す、国会議員には答えない、こういうふうなあなたの一つのビヘービア、あなたの国会に対する対応の仕方がある、こう私は実は言わざるを得ない。  この点は、大臣いかがですか。十日にわかっておる、ポラリス型潜水艦であるとアメリカが言ってきておる。それを、十三日以降の国会で問題になったときにそれに答えられない。これは一体、大臣いかがですか、私は大臣見解をお尋ねします。
  18. 伊東正義

    伊東国務大臣 いま淺尾君が言いましたように、それは核弾頭を積んでいるか積んでないかということはわからぬという意味のことを言ったのじゃないかと私は思うのでございますが、そういうやりとりは別にしまして、私ども、どうしても機密のことがあって、それは外交上の関係で話のできないということも、外交上の問題でございますからある時点まではこれはよくあることでございますので、その点はひとつ御了承を願いたいと思うのでございますが、それ以外のことで何も国会に隠しておくとかなんとかというようなつもりはないわけでございまして、もしもそういうふうなことがありましたら私からも十分注意しますし、そういうつもりをもって国会お答えをしているわけでは毛頭ございませんので、その点はひとつ御了承を願いたいと思うわけでございます。
  19. 高沢寅男

    高沢委員 いま大臣は、もしもそういうことがありましたらと言われましたけれども、もしもじゃないのだ。すでにあるのです。これは明らかですよ。私は、いままでずいぶんこの委員会やりとりの中で、外務省政府委員お答えが、核心に触れなければならぬところを触れていない、とにかくこの程度に済ましておけば国会は済むというような態度が余りにあったと思うけれども、しかし、私もそれを決定的なことでもって指摘する材料がなかったが、今度はもう明らかです。これはのっぴきならぬです。すでに十日にアメリカから、核ミサイル、ポラリス潜水艦であると来ておる。そして、兵器体系にも損傷はなかったと言ってきておる。この兵器体系とは言うまでもなく戦略ミサイルです。そういう事態が十日に明らかになっていて、十三日以降の国会ではなおのらりくらりと、わかりません、尋ねる考えもありません、こういう政府委員答弁で一体これからの国会運営ができるのか、実はそこまで私は言わざるを得ない。  大臣、もしあったらじゃないのです。あったのです。このことについて、大臣政府委員を指揮する立場で、あなたの責任ある見解をもう一度お尋ねいたします。
  20. 伊東正義

    伊東国務大臣 いまお答えを申し上げましたが、これは政府委員が云々と言われましても、責任は私でございますから、そういうことがありましたら、私、ここで謝ります。以後注意しますが、そんな悪意でということはないと私は思うのでございます。資料を出せばそういうことはもうわかることでございますので、時間の関係でそういうことがあるということはたまたまございますので、それは御容赦を願いたいと思いますが、私も速記録等を調べてみますけれども、そういうことがありましたらこれは私の責任でございますから、私から謝ります。
  21. 高沢寅男

    高沢委員 時間の前後とか、そんな問題でこれは済む問題じゃないですよ。私は外務省当局の姿勢の問題だと実は思うのです。端的に言うと、こういう事件が起きると外務省当局とアメリカ当局はお互いに腹と腹を寄せ合っておる、こういう姿勢です。そして、われわれ国民国会にはしりを向け、背中を向けておる。この腹と腹の間で何事もできるだけ隠そう隠そうと、これはお互いの共同作業ですよ。そしてわれわれ国民が、国会が何か聞くと、そんなことはわかりません、そんなことはありません、そんなことは尋ねるわけにいきません、みんなわれわれに対してはひじ鉄砲です。そういうことがいつでも外務省の姿勢なんです。今回ははしなくもそのことが明らかになった、こう私は思うわけなんです。  したがいまして、その姿勢を根本的に改めてもらいたい、改めるべきだということを私は申し上げておるわけで、いま大臣から謝りますという遺憾の表明がありましたが、委員長、これはこれからもこの外務委員会の運営の問題に関連すると思いますので、政府委員のこういう国会に対する対応の仕方ということを一度この委員会理事会においてもひとつまた取り上げてもらって、そして御協議を願い、しかるべき結論を出してもらうように、これは委員長にお願いをいたします。委員長の御見解をちょっとお尋ねいたします。
  22. 奥田敬和

    奥田委員長 理事会に諮って皆さんの御意見を十分伺い、対応策を検討いたします。
  23. 高沢寅男

    高沢委員 それでは、次へ進みたいと思います。  十六日にロング・アメリカ太平洋軍司令官が来られて、総理もお会いになったし、外務大臣もお会いになりました。私はそれは新聞の記事で拝見しましたが、その中でロング司令官は、この事件を三十日以内に調査して結果を出したい、こう言われた。これは大変大事なポイントだと思いますが、この三十日以内というのはいつから数えて三十日か、お尋ねしたいと思います。
  24. 伊東正義

    伊東国務大臣 総理もお会いになりましたが、私が会いましたときに、さっきから言いました事故の原因、通報のおくれ、人命救助、補償の問題等善後処置ということを言いまして、なるべく早く知らせてもらいたい、できれば中間報告的なものもやってもらいたいということを私は言ったわけでございます。そのときにロング司令官は、これは非常に重大な問題であると自分たちも受けとめている、そして、場合によっては責任問題というものも出てくるのだ、そういうことのためには、調査ということはちゃんと法律手続に沿って証拠も集めてやらなければいかぬ、いま私の言いましたようなことは調査核心に触れる問題であるので、それを裁判なり審判なりやる場合の予断を与えるようなことをあらかじめ調査の途中で言うことはむずかしいので、調査をなるべく早くやるから、それはひとつ了承してもらいたいということでございました。  なお、どのぐらいかかるものかと言いましたときに、約三十日という話がございました。それはいつから起算して三十日か、何月何日、事故の起こった日からとかなんとか、そういうことは実は詰めませんでしたが、調査の大佐、向こうの担当官を任命しまして調査を始めているということでございましたので、大体日を繰ってみますと、首脳会談の前までにそれは間に合わないじゃないか、もっと早くしてもらわなければ、首脳会談があるので、その前に調査結果がわかっているということでないと困るということを私は言ったのでございまして、その後に、それから二日たって大統領の親書が来まして、首脳会談の前にある程度の意を尽くせるようにすることを自分も十分期待しているという手紙が来たわけでございます。  それで、三十日というのをいつから起算してかということは、そのときは問いただしておりませんが、私は首脳会談の前にある程度のことがわかって決着をしておくということが大切だというふうに思いまして、三十日では遅いじゃないかという意味のことを私は言ったのでございます。
  25. 高沢寅男

    高沢委員 そういたしますと、そのロング司令官の発言があり、その後、レーガン大統領から総理に親書が来て、この親書では、首脳会談までに決着を進めたい、こういうふうにも言われておる、こうお聞きするわけですが、それらの全体を総合して、それじゃ首脳会談までにはこの問題は決着される、こう理解していいと思うのですが、その場合の決着とは、今度何か補償をするということがアメリカの側から出てきているようですが、補償の問題で話がつけば決着というふうにお考えなのか、補償の前提になるこの事件の全体の経過責任を明らかにするということと補償と二つ合わせて一つである、こういうことでもって決着なのか、その点の大臣のお考えをお尋ねしたいと思います。
  26. 伊東正義

    伊東国務大臣 向こうは、調査調査でちゃんとやる、それを待って補償ということでなくて、補償の方のことはあわせて早く話し合いを始めるということで、並行していま話が進んでおるわけでございますので、私はこれは補償の話がつけばもう決着とは全然思っておりません。あくまで調査の結果の報告をもらって、大多数の国民の方が納得するような調査結果が出るということでなければ、本件はうやむやになるおそれがあると私は思いますので、やはり補償は補償、調査、原因、通報おくれ、人命救助がどういうことであったかというような調査もちゃんとできるということが両方相まって、私は本件の大筋の決着、こう思っておるわけでございます。  向こうの大統領から来ています言葉は、最後の方に「鈴木総理閣下のワシントン訪問の前に、双方にとって必要なことを満たす十分な進展が見られることを非常に期待しておるところであります。」という大統領からの手紙でございますので、私は、首脳会談の前に少なくとも大筋のことがわかる、補償なら補償でどんどん進んでいくとか、責任の所在がわかるとか、そういうことができることを期待しているわけでございますし、実はきのうも日本の大使館に、この前こういう手紙をもらったが、ひとつ調査は早くやってもらいたいという旨を伝えたところでございます。
  27. 高沢寅男

    高沢委員 いまの大臣の言われたようなそういう決着でなければいかぬ、こう私、思います。いままでも何かアメリカのこの戦略原子力潜水艦による衝突事件が何回も起きておるというふうなことが伝えられておりますから、これからの再発を防ぐという意味でもこのことの究明、そして決着ということがどうしても必要だと思います。  そこで、その決着の場合の一つ考え方として、私はこうでなければいかぬと思う。それは、被害を受けた船員人たちがこうだったということを述べておられるわけです。その述べておられることは、海上保安庁もちゃんとキャッチされておりますし、海上自衛隊もキャッチされておるということがあるわけで、これは言うならば日本側がこの事件に関して持っておる一つのデータであり、資料であるわけです。これと、アメリカ側からいろいろ責任をこうとりますという説明が出てくる。経過はこうだったという説明が出てくる。この両者が突き合わされて整合性がある、合致するということになって初めて経過が明らかになったということになると私は思うのです。そういう考え方でこの決着を進めてもらいたいと思いますが、大臣いかがでしょう。
  28. 伊東正義

    伊東国務大臣 アメリカ側調査だけ発表になって、日本側海上保安庁調査が発表にならぬということは私はないと思います。発表するときは、アメリカ側調査もこうだった、日本側海上保安庁生存者から聞いたことはこうだったということは、当然これは発表になると私は思っておりますし、またそうでないと、アメリカ側の発表だけで、日本側の発表はわからぬということではまた国民の皆さんも納得しないと思いますから、その点はやはりこの事件国民の皆様に何か割り切れぬ、わからぬというようなことのないようにすることが大切だ、日米の友好関係を続けるには、やはりそういうところをはっきりすることが大切だというふうに私は考えるわけでございます。
  29. 高沢寅男

    高沢委員 ぜひそういうふうに進めてもらいたいと思います。  そこで、この事件といわゆる非核三原則というものは非常な関連があるわけですが、今度の日米首脳会談の中では、鈴木総理大臣はレーガン大統領に、日本の国是が非核三原則であるということをよく確認するのだということを国会答弁でも言っておられるわけです。外務大臣も当然同席されることになると思うわけですが、この点はひとつきちんと、日本の国是、非核三原則をアメリカの方も尊重しますということをそういうやりとりの中で確認してもらいたいと思うわけですが、いかがでしょうか。
  30. 伊東正義

    伊東国務大臣 首脳会談でどういうことを話され、どういう議題かということは、実はまだはっきり決まっておりませんので、いまここで云々することは差し控えますが、この間ロング司令官に会いましたときも、私も、非核三原則につきましては日本はこういうことなんだからということを話し、向こうも、今後ともアメリカとしては非核三原則を尊重するということを、司令官と私の話し合いでも一つの話題になったことでございますので、首脳会談の中でそれをどういうふうに取り上げるかということは、いまここで私からお答えするには、まだ総理と相談もしておりませんのでわかりませんが、いずれかの機会には、私はヘイグさんにまた会いますから当然今度のことも話題になりましょうし、そういうことは言うつもりでございます。     〔委員長退席、松本(十)委員長代理着席〕
  31. 高沢寅男

    高沢委員 まだ首脳会談でどういうことを話すか相談していないと言われますから、私も相談してないものをそれ以上とはあえて言いませんけれども、しかし、どう考えても、首脳会談で今度の原潜問題が話題になるとすれば、その関連でどうしてもわが国の国是、非核三原則が話題になることは自然だと思います。  いま大臣も言われましたように、アメリカの太平洋軍司令官という非常に責任ある立場にある司令官も、日本の非核三原則を私もよく承知している、従来も尊重してきた、これからも尊重します、ここまで言っておられるわけですから、したがいまして大統領との会談やあるいは国務長官との会談の中で、またアメリカ側責任ある立場の態度の表明として、日本の国是、非核三原則を尊重するということをきちんと話題に出して、そして確認をしていただきたい。これは私、最後になりましたが、要望でございます。ぜひそうしていただきたいということをお願いいたしまして、ちょうど時間が参りましたので交代いたしたいと思います。ありがとうございました。
  32. 松本十郎

    ○松本(十)委員長代理 土井たか子君。
  33. 土井たか子

    土井委員 いま高沢委員の方から御質問のございましたアメリカ原潜の当て逃げの事件について、さらに少しお尋ねを進めたいと思うのですが、事故当日からこの方、日昇丸の野口船長と松野下一等航海士は行方不明のままでございまして、一縷の望みを託しながら、しかしわれわれは不安な気持ちを抑えることができなかったのですが、けさほどの報道で、ついにこのお二人は遺体で発見されたという事実が出てまいりました。屋久島の沖で十二日ぶりに発見をされたわけであります。御家族のお気持ちは言うまでもなく、何と痛ましいことか、われわれとしてはふんまんやる方ない思いで、アメリカに対してこのままで済む問題ではないという気持ちにより一層なるわけでありますが、先日、社会党の方は、議員団が被害者である乗組員生存者の方々に会ってそれぞれ具体的にお話を聞くという事情調査で出かけるということをいたしまして、これは全国に散らばっていらっしゃるわけでございますから、ここにおられる井上泉代議士の高知であるとか、また徳島であるとか、それから鹿児島であるとか、そしてさらに東京であるとか、それぞれの地域に手分けして実情をお尋ねしてきたわけであります。  そこで、まずお伺いをしたいのですが、これは先日、非常に好ましからざる提出の仕方で手元に届けられました、先ほど高沢議員もお取り上げになりましたが、アメリカ側からの四月十日付で発表になっております潜水艦衝突事故に対する報告書というのがございます。それと同時に、アメリカ側より想定問答の形で補足説明というのがわれわれの手元に届けられているのですが、この想定問答が届けられたのは一体米側発表の報告書と同時でございましたか、いかがでございましたか。
  34. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 まず海軍報告書というか、声明が届けられて、その後約三十分か一時間ぐらいしてからこの想定問答というのが届けられたのであります。
  35. 土井たか子

    土井委員 そうすると、想定問答の方が後で届いたということなんですね。  この想定問答を見ますと、「問」と「答」という形式になっていますが、この問答はだれとだれとの問答なんでございますか。
  36. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 これはアメリカ海軍を問わず、アメリカの役所が何かステートメントを出したときに、その後で応答要領というものをいつも作成する慣例になっております。したがって、アメリカ海軍がもし質問されたときにこういうふうに答える、こういうことでございます。
  37. 土井たか子

    土井委員 そうすると、これはもし問われたときにこう答えるという問い方は日本ということを予想しての、アメリカ海軍から予定された想定問答というかっこうになりますね、いかがですか。
  38. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 日本のみならず、日本人あるいは外国人その他の方から問われた場合の質問を想定しておると思います。
  39. 土井たか子

    土井委員 非常に御丁重な御答弁で恐れ入ります。  これはアメリカ側潜水艦の艦長がその衝突事故について現場から状況報告したことに基づかなければ、こういう答えの部分というのは出てこないとなっておりますが、そのように考えてよろしゅうございますね。
  40. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 海軍ステートメント及びこの想定問答について、アメリカ側の内部のどういう経路でつくったかということについて私たちはつまびらかにしておりませんけれども、やはりあれだけのステートメントを出すからには、アメリカ側としてはそれだけの十分な判断をしてステートメントを出し、あるいは応答要領をつくったというふうに理解しております。
  41. 土井たか子

    土井委員 したがって、いまの御答弁からすれば、当然のことながら、現状に対しては事実についてアメリカ側が知ろうとするなら、やはり現場の責任者である艦長が事情について打電をする、連絡をするということを抜きにして考えられないということは、常識の上でもはっきり言えると思うのです。  そういう点から申し上げますと、この想定問答答えの部分で、先ほども問題になりましたけれども、「衝突後直ちに、視界不良という条件の下で、当該海域の捜索を行い、当該船舶遭難様子もないまま航行し去るのを目撃した。」という部分があります。  これは、手分けをしまして社会党が国会議員団として乗組員の方々のお宅を訪れたり、現地に行ったりしていろいろ調査をした結果、一人残らず口をそろえてはっきり言われることは、中には轟沈という表現もあるのです、当時は無我夢中でしたから、ゴーンという音がしてから船全体が左にがっと傾いて、そして沈没してしまうまで十二、三分だったでしょうかと言う方もあるなら、十五分以内でしたと言う方もあって、十五分以上と言っている人は一人もいないのです。いわばあっという間に沈没してしまったというのが、日昇丸の乗組員の方々が一人残らずおっしゃる事実であります。これは被害者なんですから。現に二人の犠牲者まで出てしまっているのですよ。  そういう状況からしますと、想定問答のこの部分というのは事実に反するうそがここに記載されていると言わざるを得ないのですが、外務大臣、このアメリカ側想定問答を一体信用なさいますか、日本側被害者である乗組員の方々のそのときの状況に対して率直におっしゃっている事柄を御信用になりますか、いかがでございます。
  42. 伊東正義

    伊東国務大臣 日本側生存者の聞き取りといいますか、断片的に私は伺うだけで、海上保安庁から正式な全員の調書、聞き取りというのは聞いていないわけでございます。この間も海上保安庁が一、二の例を報告しました。いま先生からは直接聞かれた話の報告があった、そういうこととアメリカ側報告との間では食い違いがある、私はこう思うわけでございますので、アメリカ側報告ではどうも納得できない、よくわからぬ、もっとこの事情をよく調査して、そして納得のいく説明をしてもらいたい、事実の調査をしてもらいたいということをアメリカ側に言っているわけでございます。  真実はどちらか一つしかないわけでございますから、アメリカ側も、調査すれば真実はわかる、その真実日本にそのまま伝える、うやむやにせぬということをわざわざ言っているわけでございますので、私どもはそれを期待しているわけでございます。実際はわれわれにはまだどれが真実かということははっきりわからぬ、ただ両方の報告にはどうも食い違いがあると私は見ておるわけです。
  43. 土井たか子

    土井委員 私がお会いした乗組員の方は非常に温厚な実直な感じのする方でありまして、あれほどひどい状況に遭いながら、いろいろお尋ねしたときに物静かにお答えになる方なんです。報道陣は言うまでもなく、いろいろな方に事情聴取のために連日聞かれて、あのときに生きるか死ぬかという思いをされて死線をさまよわれた後、疲れがいえないままに今日に来て、なおかつわれわれは聞くわけですから、いかにつらいかということもわかるのだけれども、温厚な方が訥々として答えられる。  ところが、問題は、アメリカ想定問答の形でこういうことを言っているのだと言った瞬間、このおとなしい方が色をなして怒られて、そんなばかなことがあるものですかと言われたのです。それをそのまま、実情が明らかにならないからわからないとか、アメリカ側がこれに対して新たな報告を出すまで待とうとか、何とか言ってくるだろう、そんな問題じゃない。被害を与えられているのは日本なんですから、日本側として被害者である当の乗組員の方々の立場に立って、アメリカに対して、実情はこうじゃないかということをどうして言えないのかと言って色をなして怒られたのです。私はこの方とお話をしながら、それはおっしゃるのはあたりまえだ、当然のことだという気がしてなりません。どうなっているのだと言いたいですよ。  海上保安庁の方、ここに御出席ですね。突然お呼び立てして恐縮ですが、第十管区海上保安本部に救助された乗組員の方々が串木野に上陸されて後、いろいろと事情聴取を受けて、事情についてそれぞれが率直に御意見を述べられているはずであります。それぞれの方々は、ガーンという音がして何が何だかさっぱりわけがわからぬけれども、その瞬間、中には潜水艦の姿を見たという方もある。しかし、いずれにしろこの船は瞬時にして沈没をした。先ほど申し上げましたけれども、十二、三分と言う人もあれば、十五分と言う方も乗組員の中にはあるわけですけれども、そういう事実を海上保安庁のいろいろな事情聴取に対してお答えになっていらっしゃいますか、その点どうですか。
  44. 大塚正名

    ○大塚(正)政府委員 ただいま先生の御指摘のとおり、十三人の供述をちょうだいした中に、十五分とか十二分とか、そういった時間を述べられながら、沈没したという供述はございます。
  45. 土井たか子

    土井委員 その海上保安部での供述の中で、二等航海士の方の供述というのはずいぶん長いはずであります、御本人がおっしゃっているのですから。そうして、その後いろいろな方から聞かれるものだから先入観が入って物を言うかもしらぬ、自分自身率直に物を言った、事実をありのままに述べられたと思われるのは、あの直後に海上保安部でいろいろ聞かれてお答えしたことではないか、だから、あの分厚い、そのとき述べた資料の中身が実は一番率直に事実を物語っている資料だということになるであろうということもおっしゃっているのですが、そういうことも含めて、海上保安庁外務省に、事の事情に対しての連絡とか、報告書の提出とか、いろいろなことをなすっていらっしゃらないのですか、いかがですか。
  46. 大塚正名

    ○大塚(正)政府委員 ただいま先生がおっしゃいましたように大変膨大な供述調書になっておりまして、また、当初私どもは、十日に救助されてその日と翌日十一日にかけて串木野の保安部で滞在中に皆さんからお伺いしたわけでございますが、その後各地にお帰りになりまして、私どもその両日にわたって伺いました供述内容を整理中に、すべての事項について、御意見が多少食い違っておると申しますか、もちろん感じ方でございますから違うのはあたりまえでございますが、その辺をさらに確認したいということも含めまして、ただいま鋭意御自宅の方に係官を派遣して、さらに再調査と申しますか、再度補足的な供述を得ております。  したがいまして、そういった状況下におきまして中間的に外務省事情をお話しするという事態にないと存じまして、ある程度まとまった段階で御報告あるいは御連絡したい、かように考えておる次第でございます。
  47. 土井たか子

    土井委員 それがまとまった段階と海上保安庁がおっしゃるのは、いつごろになるのですか。これはいまのままだと、外務大臣アメリカにいらっしゃるのはもう目の前ですよ。アメリカにいらしてこのことが議題になるのは理の当然なんです。一体いつごろになるのですか。
  48. 大塚正名

    ○大塚(正)政府委員 繰り返しますが、現在の作業状況はそういうことでございますので、事項によっては再度あるいは三度にわたってお伺いする必要があることもございますので、いま、時間的にいつごろどういう形で御連絡するかということについては確言できない状態でございます。
  49. 土井たか子

    土井委員 何のためにお調べになるのですか。一体、何のために海上保安庁というのがあるのですか。この事実については日本側からアメリカ側に対して物を言わなければならない。外務省がただひたすらアメリカ報告待ちみたいなかっこうになっていくという背後には、直後、じかに事情について問いただされている唯一の存在と言ってもいいと思うのです、この海上保安庁が、これに対してどういう対応をなすっているかということも決して無関係ではない。即刻そのことは逐一報告なさるのがあたりまえじゃありませんか。意見食い違い食い違いのままで、報告はこういうものでしたということを率直に出されることがこの実情に対して責任ある態度だと私は思いますよ。一体、海上保安庁はどういうことなんですか。いつまでに出せるかわからないなんということは許すことができないのです。その御答弁に対しては了解できませんね。もう一度それは御答弁ください。
  50. 大塚正名

    ○大塚(正)政府委員 私どもは、隠すという意図は全くございません。ただ、こういった海難原因の調査につきましては、当事者が十三人もおられましてその辺の事情をまとめるという作業は大変でございますし、一たん私どもが公式の調書として内容を発表いたしますといろいろその影響も大きいということもございまして、慎重の上にも慎重に、いま再度あるいは三度にわたって調査を続行中でございます。もちろん、いつまでもかかるわけではございませんが、しかし、事案の軽重によってはいろいろと時間のかかる面もございますので、ただいまここで、いつ、どういう形でということを申し上げられないことを御了解いただきたいと存じます。
  51. 土井たか子

    土井委員 しかし、保安庁の方とされては、アメリカに行かれる総理、外務大臣が事この問題については具体的な事実を認識した上でアメリカに対していろいろと物を言わなければならないはずなんですから、それまでにそのことに対しての御連絡外務省に対して、外務大臣に対して少なくともなさいますね、いかがですか。
  52. 大塚正名

    ○大塚(正)政府委員 時間的関係から申しますと、今月いっぱい時間があるようでございますので、鋭意その方向で努力をいたすつもりでございます。私どもとしましては、米側の方が事故調査をまとめて出すということも伺っておりますし、当庁の方で事情聴取をしたある程度の結果から見て、こういう点が非常に知りたいのだということについてはまとめまして外務省の方にお渡ししたいというふうな感じは持っておりますが、首脳会談に向けてどういう点を申し上げていただくかという中身につきましては、今月いっぱいぐらい時間がございますので、何らかの形で配慮を加えてまいりたい、かように感じております。
  53. 土井たか子

    土井委員 しかし、それほどいまいろいろと慎重に事を構えておられる保安庁が、きょうは、衝突後日昇丸は直ちに沈没したという証言があること自身は事実としてお認めになっていらっしゃるのです。よろしゅうございますか、大臣、これはそのとおりなんですよ。  そうすると、この想定問答の中で、「衝突後直ちに、視界不良という条件の下で、当該海域の捜索を行い、当該船舶遭難様子もないまま航行し去るのを目撃した。」というのは明らかに事実に反する、このことだけははっきり確認して、これはうそじゃないか、事実に反するということを、こちらの言い分とあちらの言い分と違うから一体どっちが本当かを決めてみようというそんなばかな言い分じゃなくて、こちらから主張すべきことはきっぱり言うのが大切なことだと私は思いますが、大臣、どうですか。
  54. 伊東正義

    伊東国務大臣 書き物で向こうに照会するとか何かはやっておりませんが、マンスフィールドさんにも私は二回か会ったわけでございまして、きのうも催促をしたわけでございますが、そのときに、衝突向こうで浮上して捜したが霧、雨で見失ったというようなことはどうも納得がいかぬということを私は何回も言ったわけでございます。  日本側国会に出ていますことは、これは実は向こうにも伝えてあるのでございまして、皆さんからの轟沈に近い形であるとかいうようなことは向こうにも伝えてわかっておるわけでございますので、私は日本側考え方はもう向こうにはわかっておると思うのでございますが、先生のおっしゃるようなことを改めてまた言えということでございますれば、また近い機会に会うときがありますから、これはまた、国会でこういうことが問題になっていますよ、野党の先生方も行って聞かれて、生存者はこう言っていますよということは向こうにも伝えることはやぶさかじゃございませんので、これはもちろん伝えて、アメリカ側のあのときのステートメントはどうも納得がいかぬ、早く解明してもらいたいということを何回も言っているわけでございますから、そういうことを申すことはちっともやぶさかではございません。
  55. 土井たか子

    土井委員 これは実は乗組員の方々の当事者のお立場もさることながら、こういうでたらめというか、うそというか、真っ赤なうそというふうに申し上げていいようなこの想定問答の中身がございますと、日本国民からしてアメリカに対する信用がなくなります。こういうことが白昼、常々まかり通るということになれば、信頼が失われますよ。したがいまして、そういう意味も含めて大臣はこの点はきっぱりと、これはうそじゃないか、何らかの形で訂正が必要だということまで意を含めておっしゃる必要があると私は思うのです。そうでないと、これがまかり通るとさらにうそうそが積み重ねられていくということもなきにしもあらず、いよいよ信頼が失われる、これは取り返しのつかぬことであります。どうでしょう、大臣、その点を意に含んでこれはきっぱりおっしゃるべきだと思いますよ。
  56. 伊東正義

    伊東国務大臣 私は、その報告じゃどうしても納得ができない、わからぬということで、調べてもらいたい、こう言っているのでございますので、その報告がそのまままかり通るということでは私自身も納得がいかぬと思うわけでございますから、そこは十分に調査をしてわかるようにしてもらいたいというのが日本側アメリカに対する強い要請でございます。何か国民が納得のできぬうちに、うやむやのうちにこの問題が終わってしまうというようなことになりますと、これは土井さんがおっしゃるように、日米の信頼関係がおかしなことになるという御意見、そのとおりでございますので、私もそういう考え方、そういう姿勢でこの問題とは取り組んでいるつもりでございます。
  57. 土井たか子

    土井委員 防衛庁側は、この事件についてアメリカ側から連絡がございましたか。
  58. 萩次郎

    ○萩説明員 海上自衛隊の二隻の護衛艦が十日の朝十三名の遭難者を救助しました直後、その遭難者から、どうも潜水艦らしいものにぶつかったようだ、それから、その事故当時、上空を星のマークをつけた航空機が飛んでいたようだという話がございましたものですから、海上自衛隊潜水艦行動について直ちにチェックをいたしましたけれども、該当がないということでございますので、まず米海軍アメリカ潜水艦ではなかろうかという照会をいたしました。  一方、星のマークをつけた航空機ということでございますので、念のため、航空自衛隊のレーダーサイトで、その前の日の事故当時、その上空あたりを航空機が飛んでいたことはないかということをチェックいたしました。その結果、レーダーサイトで確かにその米軍機らしいものが飛んでいたという報告がありましたものですから、この点についても米側に、米軍の航空機ではないかという照会をいたしました。  潜水艦の方につきましては、米側から後刻、在日米海軍としては米側の潜水艦がそのあたりに行動しているという報告は受けていないけれどもさらに調査するという返事がございました。それから、その航空機については米軍のものであるという返事がございました。  その後、十日の夜になりまして米海軍が例の公式発表をしたわけですが、その公式発表の中身が防衛庁にも、夜中でございますが、報告がございました。米側との連絡はそれだけでございます。
  59. 土井たか子

    土井委員 その米側との連絡の中で、当初、アメリカ潜水艦ではないかということを尋ねられたのは何日の何時でございますか。
  60. 萩次郎

    ○萩説明員 十日の朝未明に護衛艦「あきぐも」、「あおくも」が救助したわけですが、そこから東京に第一報が入りましたのが朝八時ごろでございます。それですぐに調査をして、大体八時半から九時ごろに米側に照会をしております。
  61. 土井たか子

    土井委員 十日の朝未明とおっしゃるのは、それは四時ごろのことでしょう。四時ごろに救助をされているわけですね、どうですか。
  62. 萩次郎

    ○萩説明員 護衛艦「あきぐも」、「あおくも」が十三名を救助いたしましたのが大体六時ごろでございます。発見は五時ちょっと前でございますが、それで直ちに海上保安庁連絡をとると同時に、東京に連絡をしました。東京でその内容を受領いたしましたのが朝八時過ぎということで、米側に対しては大体八時半から九時ごろに照会をしておるということでございます。
  63. 土井たか子

    土井委員 少しいまの御説明は時間がずれているように思うのですね。「あきぐも」から海上保安庁の方の船に乗り移る時間もございますし、それから海上保安庁の方が遭難をキャッチしたという時間帯もございまして、全部総合的に見ていきますと、いまの御説明は時間がちょっと違っているのです。  それはそれとして、「あきぐも」というのは時速どれぐらいで走りますか。
  64. 萩次郎

    ○萩説明員 「あきぐも」は四十年代につくられました二千二百トン級の護衛艦でございまして、最高速度は二十数ノット出るわけでございますが、当時遭難者発見のころのスピードは大体十二、三ノットでございます。
  65. 土井たか子

    土井委員 古仁屋という場所から事故現場までどれぐらいの距離があるのですか。
  66. 萩次郎

    ○萩説明員 ちょっと正確な距離はわかりませんが、古仁屋は九日の朝九時に出港しておりまして、救助の現場近くに到達しておりますのは十日の朝大体四時ごろでございます。その間、私どもで距離とそれから速度を計算しますと平均十二・三ノットの距離ということでございます。
  67. 土井たか子

    土井委員 おもしろい計算をなさるのですね、これは。逆な計算もあるのですね。大体どれぐらいの速度で出たかというのは、そういう計算をした上でお出しになるらしいので、その船自身がどの速さで走っていたかということは論外だという計算であるというのはいまの御答弁で非常にはっきりするわけですが、一体事故現場までどれくらいの距離がございますかとお尋ねしているのに、それに対して明確な御答弁がないまま、いまあれこれというふうな御説明をされましたけれども、これは単純に計算しても、古仁屋を朝九時に出港したということから計算いたしましたら、少なくとも九日の夜には現場に到達をしくそこを通過しているというかっこうになるわけですが、初めからこの事故とその地点というものを知って通過をして引き返したとしか考えられないのです、時間的前後を考えますと。これこそ単純に計算をいたしますとそのように考えられるのですが、どうですか。
  68. 萩次郎

    ○萩説明員 この二隻の護衛艦は、奄美大島古仁屋で一般公開といいますか、PR活動をして、佐世保港へ帰る予定の二隻でございます。  この二隻は、当初、十日の午後四時三十分に佐世保に入るという予定で、途中夜間当直訓練とか通信訓練とかというものをしながら佐世保に向けて真っすぐ走っておりましたわけで、特にわざとおくらしたとか引き返したとか、そういうようなことはございません。
  69. 土井たか子

    土井委員 そういうことがございましたら、その古仁屋から約三百九十キロぐらい事故現場まであるわけでありますが、それを十九時間もかかったという理由をひとつ説明してください。そうして、この問題の「あきぐも」がどういうふうな行動を当時していたかという行動記録、日誌と言ってもいいのですが、それをひとつ御提出願います。よろしゅうございますか。
  70. 萩次郎

    ○萩説明員 「あきぐも」と「あおくも」、この二隻はいつもペアで組んで二十三護衛隊というものになっておりますので、御質問の件は「あきぐも」、「あおくも」両艦船の行動ということになるかと思いますが、この行動についてはいかようなりとも詳しく御説明いたすつもりでございます。  なお、航海日誌というのはこの艦船に積まれておる日記でございますが、これはそのままを出すというのは、部内資料でございますので必ずしも妥当ではございませんが、この行動の細部、どこで何度変針してどちら方面に何ノットで通るということは詳しくいつでも御説明できます。
  71. 土井たか子

    土井委員 それを詳しくここで聞くこともいいのですけれども、大体あらましのところを御説明願って、そして改めて文書を作成して二十四日、次回の当委員会の開催までに提出を要求したいと思いますが、委員長、よろしゅうございますか。
  72. 松本十郎

    ○松本(十)委員長代理 どうかな、できますか。(萩説明員「はい」と呼ぶ)それでは提出してもらいましよう。
  73. 土井たか子

    土井委員 あらましのところの御説明というのはどういうふうになっておりますか。
  74. 萩次郎

    ○萩説明員 ちょっと細かくなりますけれどももう一度申し上げますと、九日の午前九時、古仁屋港を出港いたしまして、奄美大島の南側を太平洋に抜けております。  九時五十分、東北東に変針いたしまして、十三時三十五分、午後一時三十五分、北に変針しております。それから午後三時十分に北北西に変針をしております。それから九日の夜八時にさらに真北に変針をしております。それで、そのまま真っすぐ真北に行くと佐世保港入港ということでございますが、そのまま北に向かっておりましたところ、十日の早朝に左の方六十五度でございますが、救難用の信号弾が上がっているのを「あきぐも」「あおくも」が発見ということでございます。  その間、両艦がやっておりました訓練は、九日の午前十時から十一時十五分まで通信訓練、それから九日の十二時から午後四時三十分まで戦術運動訓練、それから九日の夜八時から遭難者発見までが夜間当直訓練というものをやっております。
  75. 土井たか子

    土井委員 追ってそれは、先ほど申し上げたとおり資料としての御提出を要求します。  さて、安保条約の事前協議でも、わが国の領海内に核を持ち込むことは認められないというのが政府の見解ということになっておりますが、大臣、それはそのとおりに考えておいてよろしゅうございますね。
  76. 伊東正義

    伊東国務大臣 事前協議の対象でございます。
  77. 土井たか子

    土井委員 事前協議の対象でも、わが国の領海内に核を持ち込むことは認められないというのが政府の見解でございます。これは当委員会におきましても、ポラリス潜水艦その他核兵器を常備しておる軍艦の航行は無害通航とは考えないという大臣答弁がございます。これはそのとおりに考えてよろしゅうございますか。
  78. 伊東正義

    伊東国務大臣 そのとおりでございます。
  79. 土井たか子

    土井委員 そうすると、事前協議として核の持ち込みということが問題になっていないから持ち込まれていないという答弁をいままでずっと政府は繰り返し繰り返しやってこられて今日でございます。しかし、今回のこの原潜当て逃げ事件を見ると明らかなように、領海すれすれのところでそういう行動をしていたということが明らかになっております以上は、領海に入っていないという保証はどこにもございません。政府は大丈夫だ、信じなさいとおっしゃるけれども、しかし連日の新聞の投書欄をごらんいただきたいと思うのです、国民の不安は強くなる一方なんです。国民はもはや信じないという気持ちにすらなっているのじゃないでしょうか。  そういうことからすると、非核三原則というものを、先ほども高沢寅男議員が言われたとおり、はっきりもう一度アメリカに対して言われるということが大切であると同時に、もう一つ言いますけれども、この事情に対してアメリカ側がしかとした報告を出さない、究明に対してもいまのままのかっこうである、こういうことでアメリカに行って首脳会談に臨まれるということは、日本国民感情からすればいかがかと思うのです。こういう状況のままでは首脳会談に臨むことができないと言うのが私は筋じゃないかと思いますが、大臣、この点はどうお考えになりますか。
  80. 伊東正義

    伊東国務大臣 私も、首脳会談の前にある程度のものがはっきりし、大筋の決着がついているということが大切だ、両国の首脳会談を友好裏に終わるためにも大切だと思いますので、先ほどから申し上げますように、調査を急いでもらいたいということを向こうに言っているわけでございまして、ロング長官が三十日と言いましたときにも、それでは首脳会談に間に合わなくなるおそれがあるということで、私は司令官にもマンスフィールドさんにももっと早くということを言ったわけでございます。  その後、二日目に、レーガン大統領の親書の中で、いまさっき申し上げましたように、双方にとって必要なことを満たす十分な進展が見られることを非常に期待しております、大統領からわざわざこういう親書が来たわけでございまして、首脳会談の前にある程度のものははっきりしておくということが、首脳会談を成功裏に終わらせる一つの大きな要素であると私は思っております。
  81. 土井たか子

    土井委員 いま最後に大臣は、ある程度のものをとおっしゃいましたけれども、なぜこんな事故が起きたのか、なぜ当て逃げをして救助をしなかったのか、なぜ通報が三十五時間もおくれたのか、大臣は前回の当委員会でもおっしゃいましたとおり、それぞれは最低のはっきりさすべき点でございます。これぐらいははっきりさせないと国民は納得するはずがない、このように大臣も御認識をされているところです。それぞれの点について、事情に対してはっきり国民が納得できるということが、すなわち訪米前の時点でなすべきことだと御理解をされているわけですね、いかがですか。
  82. 伊東正義

    伊東国務大臣 そのとおりでございます。
  83. 土井たか子

    土井委員 日米首脳会談のためにいまいろいろ問題になっておりますけれども、防衛大綱を六十二年までに達成するというあの問題、きょうの新聞にも大きく出ておりますが、アメリカに行って話しやすいことのためにこのようなことをお決めになるのですか、いかがですか。
  84. 伊東正義

    伊東国務大臣 私はそういうふうに何も理解はしてないのでございますが、中業の問題、防衛大綱の問題、それをいつ達成するか、総理は予算委員会でなるべく防衛計画大綱を早く達成するのだという抽象的なことをおっしゃっておられます。いまでもそういうつもりだろう、こう私は思っておるわけでございますが、それを具体的に何年にどうするかというようなことは防衛庁あるいは政府関係者全部の間で議論になるか、恐らくこれからの問題だろうと思っておるわけでございまして、首脳会談は数字を挙げてどうとかいうような、そういうことじゃなくて、一般的な、たとえば防衛問題でございますれば、私が行ったときも防衛力の強化の一般的な努力をしてくれというような話でございましたので、私はいまも、首脳会談ではそういうやりとりがあるのではなかろうかなと想像しているところでございます。
  85. 土井たか子

    土井委員 巷間には、いろいろ訪米についての課題が伝えられているわけでありますけれども、いまの防衛大綱の問題についてお伺いをしても、それ以上いま御答弁はおっしゃりにくいだろうと思いますが、P3C四十五機、それに対してプラスアルファ分を何機買い付けるかということが実は訪米の焦点なのであるということが言われております。そうなんですか。
  86. 伊東正義

    伊東国務大臣 私は全然そんなことを聞いたことはないのです。防衛庁がどう考えていられるかわかりませんが、私に関する限り、首脳会談でそんなことが話になるなんということは全然聞いたことがございません。
  87. 土井たか子

    土井委員 大臣自身が、いまは聞いたことがないとおっしゃいますけれども、そういう可能性があるとお思いですか、また、そういうことは話題にすべきであるとお思いですか、どうですか。
  88. 伊東正義

    伊東国務大臣 そういう具体的な、飛行機の名前を挙げて何機とか、そういうことが議題になるとは思いませんし、また、そういうことを首脳間で話をするというようなことは適当でない、私はこういうふうに考えております。
  89. 土井たか子

    土井委員 前々回でございましたか、当委員会で私は、金大中氏事件の裁判の第一審、第二審の判決文の現物をここに持ってまいりまして、そうして大臣にもお示しをいたしまして、あとはその第一審、第二審の判決文そのものを差し上げまして、そうしてその後の調査がどのようになるかということを待っているわけでありますが、一向に外務省からは何の音さたもただいままで聞こえてまいっておりませんが、韓国で何かの動きがございましたですか、いかがでございますか。
  90. 伊東正義

    伊東国務大臣 向こうへ照会をしております経過等につきまして、政府委員からお答え申し上げます。
  91. 木内昭胤

    ○木内政府委員 先回も御答弁申し上げましたとおり、九日にこの事実を新聞紙上で承知いたしましてから、翌十日より照会を開始いたしております。その後も催促をいたしておりますが、現時点ではまだ照会の結果を聞いておりません。いずれ近日中に照会の結果が判明するものと期待いたしております。
  92. 土井たか子

    土井委員 だれに対してお聞きになっていらっしゃるのですか、照会照会とおっしゃるのは。
  93. 木内昭胤

    ○木内政府委員 在京韓国大使館の係官にも聞いておりますし、わが方出先の在韓日本国大使館の公使から韓国の外務部の亜州局長に問い合わせております。私からも在京大使館員に照会を重ねておる次第でございます。
  94. 土井たか子

    土井委員 本日のある新聞記事によりますと、韓国では法務部長官、大法院院長が罷免されたという記事が出ておりまして、韓国政府の公式筋が、日本で判決文が公表されたことがその原因であると述べている、こういうのです。こうなってまいりますと、判決文そのものが本物でなければこういう状態にならないですよね。こういう事実があるということが載っておりますが、外務省としてはこの事実を御存じでいらっしゃいますか、どうですか。
  95. 木内昭胤

    ○木内政府委員 ただいまの人事の異動については、まだ詳細承知いたしておりません。
  96. 土井たか子

    土井委員 それはずいぶん手ぬるいですね。これは御質問申し上げてそろそろ二週間たちます。いつごろこれに対してしかとした御連絡がいただけそうですか。
  97. 木内昭胤

    ○木内政府委員 照会の結果がなるべく早く判明することを私どもとしても期待いたしております。
  98. 土井たか子

    土井委員 いまの事実についてもそういう事情があるようでありますから、やはりこれは早期にきちっと確かめていただかなければなりません。事は大事なことですよ。それにもう日がたつのにこういう状況が綿々として続くというのは、私は日本外務省の怠慢としか言いようがない。本気でやる気があるのかどうか非常に疑わしい問題であります。大臣、これについてどのようにお考えになりますか。
  99. 伊東正義

    伊東国務大臣 お答えしますが、ここの崔大使に会いましたときに、私からも土井先生から御質問の点も話し、向こうでも大使館で照会しているからということで、なるべく早く返事をもらいたいということを私は崔大使にも直接言ったのでございまして、何もこれを延ばすとか、そういう考えを持っておるわけではございませんので、私としてもなるべく早くちゃんとした返事をもらいたいというふうに思っております。
  100. 土井たか子

    土井委員 なるべく早くとおっしゃるのはいつごろというのを、ひとつここで聞かしておいていただきましょう、いかがですか。
  101. 伊東正義

    伊東国務大臣 日を切りましてどうということを言っているのではないのですが、やはりなるべく早くということでございまして、私もこの委員会でいつまでも同じ質問をお受けするのも本当に心苦しいと思っているのでございますから、なるべく早くというつもりでございます。
  102. 土井たか子

    土井委員 私は予告どおりにそれはもうしつこくやりますよ。外務省は少しどうかしているのですよ。これは確かめようと思ったら、即刻、その日のうちにでもできることなんです。一体、何日たつのですか。  したがいまして、大臣がこの問題についてここで質問を受けることは心苦しいから早く結論を得たいとか、調査結果を公表したいということを相変わらず言い続けられることがいつまでも続くということでないように、次回は二十四日が当委員会の開会の日でございます、私はもう一度、一度と言わず何度でも尋ねますから、その日までにしっかりした調査内容を明らかにしていただくことをここで再度要求して、質問を終えたいと思います。大臣、よろしゅうございますね。
  103. 伊東正義

    伊東国務大臣 なるべく早くという気持ちで、同じでございます。
  104. 松本十郎

    ○松本(十)委員長代理 玉城栄一君。
  105. 玉城栄一

    ○玉城委員 私、今回の原潜事故についてお伺いいたしたいわけでありますが、事故以来、連日国会の各委員会におきましても、また新聞、世論等を見ましても、非常に重大な事件だと思うわけであります。  そこで、先ほど土井先生も冒頭にちょっとお触れになっておられたわけでございますが、本当に一縷の望みが失われまして、米原潜による衝突によって沈没をしました日昇丸の船長の野口泰三さん並びに一等航海士の松野下純夫さんが昨日遺体で発見されたことは、大変残念なことであるわけでございます。  実は私、先日、船長の野口さんの御自宅に、お見舞いと御同情、また御激励のお電話を差し上げたわけでございます。奥様は人にお会いできる状態ではない、電話に出られる状態ではないということで、御長男の隆夫さんとお話をいたしたわけであります。私はこの席で改めて心からお悔やみを申し上げ、御遺族の方々に対して本当に御同情の念を禁じ得ない次第でございます。大臣、御所見がございましたらお伺いいたします。
  106. 伊東正義

    伊東国務大臣 御質問のとおり、船長さんともう一人の方の遺体がきのうの夕方、屋久島の方で発見されたということを聞きまして、やっぱりだめだったかということと、こういう事故が二度あってはいかぬということを私は本当に心から思ったようなわけでございます。早速きのう、総理と私からも御遺族には弔意とお見舞いの電報は打っておきましたが、本当にこういう事故の二度起こらぬようにすることがわれわれの役目だ、あとは遺族の方々に対する善後処置を、それは金銭では解決できない問題でございますが、そういうことも十分なことができますように政府としてもお世話をすること、あるいはこの事件全部につきまして国民の方々に、こういうことがあったのだということの納得を得るような説明を早くできるようにするということ、これがきのう御遺体が見つかったという瞬間に頭に浮かんだことでございまして、政府としても心から弔意を表する次第でございます。
  107. 玉城栄一

    ○玉城委員 人の命は地球より重いと言われるわけでありますが、今回、国民二人の貴重な生命がきわめて奇々怪々な事故によって失われたわけであります。いま大臣もおっしゃいましたように、この事故の原因究明が早急になされなければ、国民が納得できないと思うのは当然であります。したがって、政府が日米信頼関係を幾ら強調されましても、国民の納得のいかないままにそういうことが築けるわけがないと思うのですね。それはまさに砂上の楼閣にしかすぎない、このように思うわけでありますが、いかがですか。
  108. 伊東正義

    伊東国務大臣 それは私も玉城さんと同じ考えで、私は、事情がはっきりし、是は是、非は非としてはっきりさせることが日米の信頼関係を維持するゆえんのものだというつもりでこの問題に取り組む決意でございます。
  109. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、間もなく日米首脳会談に御出発になるわけでありますが、防衛増強の問題だとか、経済問題だとか、あるいは日米協調の問題とか、いろいろなことが言われているわけであります。しかし、いま申し上げましたとおり、こういうきわめて不幸な事故によってとうとい人命も失われ、その真相の究明もあいまいとしたままで幾らどんなことが話し合われても、国民サイドから見れば疑惑と不信感はますますつのるばかりだと思うのです。  ここで外務省にちょっと伺っておきたいのですが、リッチという大佐がアメリカの原因調査責任者として来日しているやに報道で知っているわけですが、この方の立場だとか、目的だとか、行動だとか、あるいは調査の見通し、それを御説明いただきたいと思います。
  110. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 リッチ海軍大佐は、まさにこの原潜事故の究明のためにアメリカによって任命された調査員でございます。そして、私たちが知っている限り、リッチ大佐は十三日に日本に参りまして、第七艦隊あるいは在日米海軍関係者と会合した後に、十六日にはグアムに赴いて、十七日に再度来日しております。目下わが国においてさらに調査を続行中でございまして、本日の午前中に日昇丸の乗組員と会われて、乗組員からの話を聞かれたというふうに聞いております。
  111. 玉城栄一

    ○玉城委員 したがって、その方の調査の見通しはどのように考えていらっしゃるわけですか、あるいは外務省としてどのように評価しておられるわけですか。
  112. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 調査の見通しにつきましては、再三当委員会及び他の委員会で御答弁しておりますように、アメリカは三十日をめどにして調査をしているということでございまして、まさにリッチ大佐もそのために連日必要な調査をしているということでございますが、その評価それ自身については、私たちとしてまだリッチ大佐から、内容も承知しておりませんが、目的はまさにアメリカがこの事故の究明を急いでいるという一つの証拠あるいは証左として、われわれとしてもリッチ大佐のその調査が一日も早く完了することを期待しているわけでございます。
  113. 玉城栄一

    ○玉城委員 いまお話がありましたが、三十日のめどづけということですか。
  114. 伊東正義

    伊東国務大臣 三十日という言葉が出ましたのは、ロング司令官の口から出たわけでございます。私は、三十日ということだと、首脳会談の前に何も調査の結果がわからぬということでは困るから、それはもっと早くしてもらいたいということを言ったわけでございますが、その二日後に大統領からの親書が来まして、先ほどから申し上げたような親書が来たわけでございますので、私どもとしましては、補償の問題が進むことは当然でございますが、さっきからお答えしているような事故の原因、通報のおくれ、人命救助のあり方に対する日本国民の疑惑といいますか、納得がいかぬといいますか、そういうことに対する調査は、少なくとも私は首脳会談の前に向こうから来ることを期待しているわけでございます。
  115. 玉城栄一

    ○玉城委員 双方、大変期待期待ということをおっしゃっておられるわけでありますが、何かだんだん怪しくなってきたような感じがするわけです。たとえば日中国交回復当時等の新聞の国民の声の欄等を見ますと、非常に評価をし、大変よかったという声も多かったわけですが、この事件以来ずっと新聞の国民の声の欄等を見ましても、外務省の弱腰だとか、及び腰だとか、あるいは非常に消極的であるとか、対応のまずさ、不可解な言動とか、そういうことに満ち満ちているわけです。  そこで、これは外務大臣にお伺いしたいのですが、たしか十九日だったと思います、鈴木総理がこの問題についではこれ以上突っ込むのは日米関係にマイナスになるという意味のことをおっしゃったということは報道で知ったわけでありますが、大臣としてはどのように受けとめていらっしゃるわけですか。
  116. 伊東正義

    伊東国務大臣 私は、なるべく早くということで、それが時間がかかるというのであれば中間報告でもということを言ったわけでございます。この委員会でもそういうお答えをしたことがありますし、アメリカ側には中間報告でも出してもらいたいということを言ったのでございますが、ロング司令官も、やはりこれは法律でちゃんと手続を踏んでやらないといかぬことだから中間報告はどうしても無理だ、困難だということを私に言ったわけでございます。  それから二日後にマンスフィールドさんに会ったときも、中間報告はどうしても無理なんだ、しかし、異例のスピードで調査はするから、真実は伝えるからということで、レーガン大統領の親書もそのときに向こうから日本に手交したということがございますので、私は司令官にまで言ったわけでございますが、どうしても無理だ、そういう返事でございますので、それでは中間報告ということは言わないが、ちゃんとした報告を早くよこすという努力をしてくれ、それは大統領の手紙にもあるし、その努力に対しては評価をし、その誠意は信頼するかち調査を早くやってくれということを要請したということでございます。  私が何回も言ったにもかかわらず、向こうは困難だということでございますので、それでは中間報告を求めることはしないが全部の報告を早くくれということを言った、そこの中間報告を求めないというところをあるいは報道のような表現をされたのかどうか、それは総理に聞いておりませんからわかりませんが、私はいま言ったような判断向こうの善意を信頼して、それでは来るのを待とう、しかし、それは首脳会談前にわからぬと困るということで、いま待っておるところでございます。
  117. 玉城栄一

    ○玉城委員 いまも大臣がおっしゃいましたように、中間報告についても当初の大臣の意気込み、またさっき申し上げました総理の深入りはしたくないというような感じの御発言等、だんだんトーンダウンをしてきている、これは事実だと思うわけです。  それで、これは報道で知ったわけですが、大臣がマンスフィールド大使と会われたときに切々と胸を打つ感動的なお話し合いがあったということでございますが、ちょっといきさつを聞かしていただきたいと思うのです。
  118. 伊東正義

    伊東国務大臣 新聞に報道されました、自分は政治家としてやっておって、外交官になったのは遅くてというような話があったことは確かでございます。しかし、話の内容は、私はロングさんに言ったことを言い、向こうは、ロング司令官に言ってあるから、そのときそばにおられたのですから私の気持ちは知っておられるはずだ、アメリカ側のあれに対するロングさんの返事はあったがマンスフィールドさんの返事をもらいたいということで話したのでございまして、マンスフィールドさんもレーガン大統領の親書を手渡しながら、あの人の言っている誠意を信ずるに足るような態度で話をされたことは確かでございます。
  119. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、二人でどういうことを決意し合われたわけですか。
  120. 伊東正義

    伊東国務大臣 特に決意し合ったということではございませんが、この調査を早くやることについては向こうもそのとおりでございますし、出た結果、真実はそのまま伝える、うやむやにするようなことはしないということを向こうもはっきり言われたわけでございますし、お互いが日米の信頼関係を損なうような結果にならぬように努力をしようという話をしたのでございます。
  121. 玉城栄一

    ○玉城委員 この事故以来、まさに日米外交戦といいますか、一連のそれを見ておりますと、日本側というのは米側に押しまくられているような感じで、本当被害者と加害者、よく見ますと、果たしてこれでいま国民の心配しているものを外務省は守っていけるのかどうかという不安が出てきているわけです。ですから、いろいろなお話し合いをされるのも結構でありますが、問題は、先ほどから大臣もおっしゃっておられますけれども真相、どうしてこういう事故が起きたのか、いろいろなことがありますが、それを早く明らかにしてもらいたい、それを明らかにしないまま幾らどんなお話し合いをされ、首脳会談だと言っても、先ほどから申し上げておりますようになかなかそうはいかないということだと思うわけです。  そこで、大臣は四日にアメリカへ御出発になるわけですが、その四日までの間に何らかの、それこそ本当国民の納得のいくような回答があると理解してよろしいわけですね。
  122. 伊東正義

    伊東国務大臣 首脳会談は七日、八日でございますので、少なくともそれまでにはある程度、大統領の手紙にありますように意を満たすだけの結果が出ることを私は強く期待しておりますし、実はきのうもアメリカの大使館にその旨をさらに伝えたわけでございます。私は、この問題をうやむやにしたり、国民にわけのわからぬ納得のいかぬようなままに幕を引いてしまうというような意思は全然ございません。私は、ここで申し上げているとおりの気持ちで最後までアメリカに強く要請はしますし、国民の納得のいくような解決がなければいかぬと思っておりますし、日米関係の友好に傷が入らぬようにということも努力をしてまいろうという決意でございます。声を大にすることだけじゃなくて、やはり静かな声を出しても最後までがんばるというのも、これは私の考えでございますので、冷静に、しかし力強く、最後まで国民の納得いくようなことで決着をしなければいかぬと私は思っております。
  123. 玉城栄一

    ○玉城委員 それこそもう大体先が見えてきたような感じがして、非常に憂慮といいますか、心配をするわけであります。報道でしかわれわれはわかりませんけれども、たとえばアメリカ海軍当局にも、そういう調査報告を早く出すということについては大分抵抗があるとか、いろいろなことを言われているわけですね。もしも万一、中途半端なそういうものが首脳会談前に出ましたとき、後にそれこそ首脳会談に対する国民の不信感というのは非常に強くなってくると思うのです。そのように大臣、お考えになりませんか。
  124. 伊東正義

    伊東国務大臣 この問題の大筋がうやむやなといいますか、調査もなく、首脳会談でも余りそういうことが問題にならぬで首脳会談が終わってしまったということになると、国民の皆さんは、あれは一体どうしたのだろうかという不信の念といいますか、そういうものを持たれると私は思うわけでございますから、そういうことにならぬようにということを私も、恐らくマンスフィールド大使もともに憂慮しながらいま努力をしているどころでございますので、そういうことにならぬことを私は心から期待しながらがんばるつもりでございます。
  125. 玉城栄一

    ○玉城委員 本当にこの原因等が明らかにならないことには対策の立てようもないわけです。どういう状況のときに救助され、どういう状況のときに救助されないのか、原因も明らかにならないと対応、対策の仕方も全然できないわけですから、国民の不安はつのる一方です。  大臣、わが国はまさに島国でありますから、周辺を海に囲まれております。そういう日本の位置づけについて、どういう御認識でいらっしゃるのでしょうか。
  126. 伊東正義

    伊東国務大臣 おっしゃるとおりでございますので、日本は経済的にも、資源的にも、外国から資源を入れてまたそれを売るというような、世界との関係は非常に海による関係が多いわけで、大部分と言ってもいいかもしれません。そういう国柄から考え、あるいは日本の漁業のことを考えても、海の安全ということは当然でございますので、海に関係する人が安全が危ぶまれるということは本当日本としても何としても避けなければなりませんし、こういう問題がいろいろなところに心配を及ぼすということはわかりますので、ひとつ原因をはっきりして、二度とこういうことのないようにすることがわれわれの役目だと思っております。
  127. 玉城栄一

    ○玉城委員 船を使う回数はわが国は世界でもトップクラスではないかと思うのですね、そういう島国でありますから。したがって、船舶も海路の安全が確保される、されないということは、国全体にとっても非常に重大な問題だと思うわけです。いまおっしゃいますとおり、資源も少ないわけでありますから、海外に依存せざるを得ない。漁業の操業の問題においてもしかりだと思うのです。海とのかかわりは非常に深いわけでありますから、その海の安全がこういう状態で原因不明のままされていくということになりますと、本当国民の不安というものはつのる一方だと思うわけです。  したがって、その会談のときにも、そういう意味日本の置かれている立場等からしまして、この原因の究明等いろいろな問題も含めて、こういう日米関係にひびを入れるようなことは決してしないでくれ、これは国民の安全にとって非常に大事な問題であるのだということをぜひおっしゃっていただくべきだと思うのですが、いかがですか。
  128. 伊東正義

    伊東国務大臣 私も国務長官と会うときが恐らくあると思うのでございますので、その点はヘーグさんにも私の意見としても十分伝えます。
  129. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、ちょっと質問を変えたいと思いますが、これはこの間の委員会でも御質問をさせていただいて、まだ全然はっきりしないまま終わっているわけです。今月の四日に米軍機が沖繩の宮古島に緊急着陸をしたわけでありますが、それができるという話は聞きましたけれども、その経過だとか、なぜそういう緊急着陸をしたのか、その辺の理由を御説明いただきたいと思います。
  130. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 先日、当委員会で玉城委員から御質問がございまして、早速わが方で問い合わせた結果をここで御報告いたします。  問題になっておりますOV10二機、これは沖繩本島の米軍飛行場とフィリピンの間の飛行をやっておりましたその途次、燃料給油のため宮古空港に四月四日午後零時四十五分着陸し、同じく二時十五分に離陸したというふうに回答を得ております。
  131. 玉城栄一

    ○玉城委員 ちょっと不思議なのは、燃料給油のために緊急に着陸したという理由がちょっと常識的に考えられないわけですね。それで外務省としてはいいということなんですか。
  132. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 嘉手納からフィリピンのクラークまでの直線距離は約千五百キロでございます。宮古からクラークまでは約千二百キロ、OV10の航続距離、これは積み荷がない場合には補助タンクをつけて約二千二百キロでございますが、積載荷物がある場合、あるいは風向きによって航続距離はそれほど飛べないということで、今回の場合、給油のために宮古空港に着陸したというふうに理解しております。
  133. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは韓国から飛んできたわけですね。
  134. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 フィリピンでございます。
  135. 玉城栄一

    ○玉城委員 ちょっと違う。どこから飛び立ち、どこに行く目的で飛び立って、どうして沖繩の宮古島のあの小さな民間空港に給油のためだという理由で緊急着陸したかという理由がわからないというのです。普通そうでしょう、飛行機というのは。ましてや軍用機が整備点検の段階でちゃんと油を積んでいくのは、われわれ自動車を運転するときだってそうですね。しかも、これは重要な偵察機でしょう。その辺が、給油だという理由がわからないというのですよ。
  136. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 この飛行機は、先ほど申し上げましたように沖繩本島の嘉手納からフィリピンに飛んでいた飛行機でございまして、先ほど申し上げましたように、積み荷がない場合、あるいは風向きによってはもちろん補助タンクをつければ直線で途中給油なしに飛べるわけでございますが、積み荷がある場合、あるいは風向きによっては途中で給油する必要があるということで、今回は宮古に着陸して給油したということであります。
  137. 玉城栄一

    ○玉城委員 淺尾さん、嘉手納と宮古というのは、普通のプロペラ機でも行ったり来たりしているのですよ。そういう近距離ですね。いまおっしゃるようなことではちょっとわからないのです。それでいいのですか、嘉手納からフィリピンに向かう途中に油がなくなったから宮古島におりたのだという理由ではわかりませんと言っているのです。
  138. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 ですから、通常の場合、積み荷がないということであればもちろんそれは飛べるわけでございますが、今回の場合、積み荷と風向きの関係で宮古におりざるを得なかった、そこで給油をした、こういうことでございます。
  139. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは本当の理由はそのようには理解できないのです。といいますのは、この宮古島とすぐ隣接して下地島パイロット訓練飛行場というのがあるのですね。これはこの空港の建設の経緯からしまして、軍事利用に使われることが非常に心配をされておったわけです。ですから、本来であればここを使いたい、しかし、この宮古島に一応おりてみようというような意図もあるのではないかということで地元では心配しているわけですね。ですから、おっしゃるとおり嘉手納からフィリピンに向かう途中、油がなくなって宮古島におりたという理由だけでは、非常に説得力がないわけですね。その辺をもう少しお調べになっていらっしゃらないのか。これは三回ぐらい質問しているのですね。
  140. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 私たちアメリカ軍が宮古を軍用のために使う素地として今回着陸したというふうには理解しておりませんので、先ほど御答弁申し上げたような技術的な理由から着陸せざるを得なかったということでございます。
  141. 玉城栄一

    ○玉城委員 その問題はもう少し調べていただきたいのですよ、これはここでなくてもよろしいですから。  ただ、最後に確認をしておきたいことは、地位協定上は民間空港にもおりられないことはないという話は聞いていますから、それはよくわかります。沖繩の場合はたくさん離島がございまして、いろんな空港があるわけですね。そういう余りはっきりしない理由のもとにどんどん米軍機がおりてくるとか、そんなことをされたらたまったものじゃないわけですね。ましてや、いま申し上げましたそういうパイロット訓練飛行場等について、先々米軍が使用するというようなことがあっては、これは重大問題だと思うのですね。そういうことだけは絶対させないという方針であるということだけは伺っておきたいわけです。
  142. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 地位協定については、先生御承知のとおり、五条の一項によってアメリカ合衆国あるいは合衆国以外の国の飛行機で、合衆国によってあるいは合衆国のために、または合衆国の管理下のもとに公の目的で運航されているものは日本の飛行場に出入することができる、こういうことでございます。ですから、そういう趣旨で今回もアメリカは宮古空港に着陸したということでございまして、私たちとして調査した結果、先ほど申し上げましたような理由であれば、これは地位協定上認められているところでございまして、それが先生のように、軍事用途のためにのみ宮古を専用にする、そういうようなことであれば、これはもちろん施設、区域として当然提供するなり、あるいは共同使用、こういうことにならなければならないというふうに思います。
  143. 玉城栄一

    ○玉城委員 最後ですが、その軍事用途専用のみということを言っているわけじゃないのです、そういうことはまた提供上のいろいろな問題があるわけですから。たとえどういう理由であろうと、できるからといって民間空港にそういうふうにおりてきてもらったら困る。そういうことはできるだけさせないように外務省としては米側に話してもらいたいわけです。いかがですか、できるから、いつでもおりてきてもいいということでは困るわけです。
  144. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 先ほども答弁申し上げましたと同時に、地位協定に基づきまして、非軍用、軍用機の航空管制という問題もございます。ですから、私たちとしては、今回のような場合というものは恐らくそう頻発するということでございませんで、アメリカ側も別にそういう意図を持っていないということでございまして、それ以上絶対に宮古空港に着陸するなということは、地位協定上わが方として義務を負っている、この協定は国会でも御承認を得ている協定でございますので、それ以上のことをアメリカ側には要求できないということでございます。
  145. 玉城栄一

    ○玉城委員 以上です。
  146. 松本十郎

    ○松本(十)委員長代理 午後二時三十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時六分休憩      ————◇—————     午後二時三十六分開議
  147. 奥田敬和

    奥田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  国際情勢に関する件について質疑を続行いたします。金子満広君。
  148. 金子満広

    金子(満)委員 日米の首脳会談が準備されているわけですが、日米首脳は、いつ、幾日に会談をするか、または幾日間になるか、その点、わかっておったらお知らせ願いたいと思うのです。
  149. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 五月七日、八日に首脳会談を行うようにわが方としては希望しておりまして、現在のところ、七日の点については、すでにそういう会談が行われるということは確認済みでございます。
  150. 金子満広

    金子(満)委員 一日だけになるということもあり得るわけですね。
  151. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 私たちとしては二日行いたいということを現在申し入れ中でございますので、必ず二日できるとか一日しかないということをちょっとここで申し上げるのはまだ早いのじゃないかと思います。
  152. 金子満広

    金子(満)委員 それでは、日米首脳会談と関連して、若干の問題で政府の見解をただしておきたいと思います。  まず、三月に伊東外務大臣が訪米した際に、ワインバーガー国防長官から、日本の防衛協力問題でいわゆるグアム以西、フィリピン以北ということが示唆された、こういうことが言われておりますが、その件について、三月三十日のこの委員会で、伊東外務大臣は、「そういう区域を広めていくということはまだ国民のコンセンサスはないのだから、それはむずかしいことですよということをすぐに私はそこで言った」というように答弁されました。この立場は、今度の首脳会談でも当然貫いていくことだと思いますが、それでよろしいのですか。
  153. 伊東正義

    伊東国務大臣 これは本当に示唆されたということはないのです。示唆でなくて、ペルシャ湾とかインド洋とかいうことの一連の関係で、こういうところでアメリカは防衛努力をしておりますと言って、その上で、日本の防衛力強化の努力に期待しますと言ったわけで、グアム以西、フィリピン以北の海域を日本が分担して受け持ってくれとか、そういう意味の示唆というものは全然なかったのです。一般論としてずっと説明がありましたので、後になって、あのとき何か言ったのに日本側は黙っていたということで誤解があるといかぬと私は思いまして、すぐに、いまグアム以西、フィリピン以北という話が出たけれども、これは誤解のないようにしてもらいたい。その海域を日本が分担して防衛するということになりますと、海域分担の考え方は憲法の集団自衛権の問題に関連をします。これは法律上むずかしいということが頭にすぐ浮かびましたし、もう一つは、防衛庁が周辺海域数百海里、航路帯千海里ということを言っておられますから、それから見ると広がっている。いまの防衛計画大綱というものは数百海里、千海里ということを頭に置いてできておるのでございますから、それよりまた広がるということになりますと、防衛計画大綱そのものの問題にもなりかねないと思いましたので、これは政策判断の問題でございますが、むずかしいということをすぐに言ったわけでございます。  今度アメリカに行くにつきましても、その点、特にまだ中で相談したというようなことはありませんが、私はいまでも同じ考えでございます。
  154. 金子満広

    金子(満)委員 示唆かどうかは別として、そういう話が出た。出た話について、伊東外務大臣立場としては、今でも三月三十日にこの委員会で言われたとおりの立場である、したがってこれを貫いておる、こういうことに当然確認はできるわけですね。
  155. 伊東正義

    伊東国務大臣 そのとおりでございます。
  156. 金子満広

    金子(満)委員 そういう中で、その後、その後というのは三月三十日以後でありますが、塩田防衛局長などがこの国会で、何か防衛協力の区域を広げるとも受け取られるような発言をしているということもありますが、いまの外務大臣見解を聞いてそのことははっきりしたわけで、伊東外務大臣見解が政府の立場であろう、こういう点を確認をしておきたいと思います。  それから次に、日米首脳会談と関連してですが、原子力潜水艦の当て逃げ事件ですけれども、日米会談の前に決着がつくということは考えられないと思うのですね。すべてがここで解明つくということは考えられない。日米首脳会談では軍事問題が大きな比重を占めるであろうということは広く世間でも指摘されているわけですから、そういう中で原潜の当て逃げ事件について若干の質問をしておきたいと思いますし、政府の姿勢を聞いておきたいと思うのです。  この問題は金で片をつける、いわば金で示談をするという性質の問題ではもちろんないし、国民が納得するという方向ですから、事実を明らかにしないであいまいな政治決着というようなことはないのだ、当然そういうことになろうと思いますが、その点は大臣、いかがですか。
  157. 伊東正義

    伊東国務大臣 それは高沢さん、土井さんにもお答えしたとおりでございまして、損失補償、損害賠償が終わったからもうこの問題は決着だということじゃないので、けさからお答えしているような事故の原因、再発防止のための通報の問題、人命救助の問題というようなことが解明されて、国民がああそうだったのかと納得をしたことがございませんと、私は決着したというふうには思っておりません。
  158. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、その立場でもう一つ伺いたいのですが、国民の納得する解決とは一体何だろうという問題になりますね。この点では新聞の社説その他でもいままで繰り返し出ているところであり、そして多くの国民が望んでいることは、私は最小限三つあると思うのです。  一つは、なぜ衝突事故を起こしたのか、もう一つは、なぜ救助活動をしなかったのか、三つ目は、なぜ日本政府への通告をおくらせたのか、最小限この三つははっきりしないと、今度の問題が解明されたということにはもちろんならないと思うのです。いま外務大臣答弁の中でも、そういう点は解明をしていくということですが、この三点は最小限度早急に解決する、究明していく、こういうことでよろしいですね。
  159. 伊東正義

    伊東国務大臣 補償の問題等はもちろんでございますが、いま言われた三点は、これはこの前から国民がなぜだろうと思って腑に落ちないところでございますので、それをやはりはっきり解明するということが必要だということは前から申し上げたとおりでございます。
  160. 金子満広

    金子(満)委員 その方向でぜひ解明を急いでもらいたいと思います。  いずれにしても、政治決着という言葉が一時はやった時期もあるし、いまでも尾を引いているのがあるのですね。たとえば金大中問題なども、政治決着ということで真相をあいまいにしたまま何が何だかわからないというので答えを出して、それがかえって問題をこじらせているということもありますから、その点はいま大臣が言われるように、最小限明らかにしていってもらいたい、こういうように思います。  そこで、そのためには当然アメリカ側、つまりアメリカ海軍アメリカ政府の側の調査の結果をただ待つだけでなくて、主権国家として日本政府があらゆる手段を尽くして独自で本格的な調査をすべきだ、これは当然のこととして追及しなければならない義務だ、私はこういうように考えますが、その点、大臣の所見を承っておきたいと思うのです。
  161. 伊東正義

    伊東国務大臣 調査は、アメリカ調査に全部任せてということじゃなくて、おっしゃるように、日本側海上保安庁が全力を挙げて調査をしておられるわけでございますから、私どもはその調査の結果を尊重するということは当然でございますので、向こうの結果とも突き合わせるということも当然やらなければいかぬと思っております。
  162. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、具体的な問題ですが、アメリカ側調査責任者というのはリッチ大佐ということは報道されているとおりですが、このリッチ大佐というのはどういう資格の人ですか。どういう役職についている人ですか。
  163. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 リッチ大佐は、太平洋艦隊司令部に属しておりまして、リッチ大佐自身原潜乗りでありまして、その経験が非常に豊かであるということから、アメリカ側調査を任せられて現在調査に従事している、こういうことでございます。
  164. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、そのリッチ大佐がいろいろな意味日本調査に来た。調査の対象は第七艦隊であるということは北米局長もいままで答弁されておりますから、それはそうだと思うのです。それで、第七艦隊で何を調べたか、御存じですか。
  165. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 一般的にリッチ大使の行動、概略は承知しておりますが、七艦で何を調べたのかということまでは、われわれとしては承知しておりません。
  166. 金子満広

    金子(満)委員 日本には第七艦隊といえば対潜哨戒航空団であることは常識的にわかっているわけですが、そういう中で防衛庁も参議院の安保特で三沢からP3Cが出ているということは言っているわけで、リッチ大佐は当然そのP3Cというものを調査に来たということはだれでもわかるわけですね。この点、P3Cにも調査がされているということは言えませんか。
  167. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 先ほどもお答えしましたように、具体的にP3Cそれ自身について調査しているかどうかということは私たち承知しておりませんので、ここで当然に調べているということをお答えいたすのはいかがかと思いますけれども、リッチ大佐の来日の目的はあくまでも原潜事故の究明でございます。そういうことを申し上げて、御推察願いたいと思います。
  168. 金子満広

    金子(満)委員 北米局長、P3Cが第七艦隊の所属であるということは御存じですね。
  169. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 これは在日米海軍の所属というふうに私たちは承知しております。
  170. 金子満広

    金子(満)委員 その点は、第七艦隊所属の第二哨戒航空団だ、これは三沢と嘉手納だ、こういうようになっていると思いますが、どうですか。在日米軍ですか、P3Cは。
  171. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 いわゆる在日米軍というのは、日本の施設、区域を利用している軍隊という意味では在日米軍というふうに申し上げられると思います。現在、委員が御指摘になりました具体的な所属等については、私、ちょっと手元にございませんので、いま言われましたあれに所属しているかどうかは、ちょっとここでお答えできません。
  172. 金子満広

    金子(満)委員 防衛庁、それはどうですか。
  173. 萩次郎

    ○萩説明員 ただいまの三沢にございますP3Cは、日本におりますので、当然のことながら在日米海軍でございますが、指揮系統としてはもう一本ございまして、先生の御指摘がございましたように、第七艦隊の哨戒偵察部隊ということで第七艦隊の麾下にあるということでございます。
  174. 金子満広

    金子(満)委員 いま、いわば事件内容を一番よく知っている、総合的につかんでいる者とすれば、ぶつかった当該潜水艦はよく知っているわけですが、すでにグアム島に行ってしまっておる。それから在日米軍は、これは防衛庁の答弁でも明らかになっているように、この事件は知らない。そうなってきますと、いま防衛庁からの言明でもありますように、第七艦隊に所属しているP3Cが総合的に全体を知っているだろう。したがって、この全般的なことを知っているという点で言えば、あの遭難時どうであったか、こうであったかということを含めて、リッチ大佐はこのP3C関係調査したであろうということは、これははっきりしていると思うのですね、ほかに調査する場所がないのですから。まずP3Cの関係部門、関係者、こういう点で調査をしたであろう。もし知らぬということは、私は余りにも無責任過ぎると思うのですね。それはリッチ大佐に一々ついていけとかなんとかじゃなくて、日本に来て日本の主権の中でやっているのですから、内容は別として、どういうところへ行ってどういうことをしたかというようなことは私は外務省は知っていると思うのですよ。全然知らないじゃなくて、幾日から幾日までいて、グアムに行って、また帰って何をやっているというのは、テレビだって出ているのだし、報道にもあるのですから、そういう点で外務省当局は、P3Cについても会っているというようなことは全然関知してないのですか。
  175. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 先ほど申し上げましたように、リッチ大佐は十三日に来日して、第七艦隊在日米海軍関係者と会合し、十六日にグアムに赴き、十七日に再来日し、本日午前、日昇丸の乗組員と会った、そういう点は承知しておりますが、委員御指摘のように、具体的にP3C関係者と会ったかどうか、そういう点については外務省としては承知しておりません。
  176. 金子満広

    金子(満)委員 それでは、話を進めますが、四月十日の米側からの知らせ、これには大きなうそがあった、虚偽の事実があったということは何回も指摘をされていますから、その点は繰り返して申しませんけれども外務省はそれを最初発表するときに、たとえ口頭であっても、最も肝心な部分を落としてやってきている。しかも肝心なものというのは、言われているように、当該船舶遭難様子もないまま航行し去るのを目撃したというとんでもないことまであるのですが、こういう追及、こういう解明をやってなかったということは答弁自身の中であるわけです。  そこで、アメリカの方はまずそういう虚偽の知らせをよこしている、外務省の方は知っていてもそれを隠しておいて発表しない、これは、真実を解明するという、そして独自に本格的に日本側として、政府として解明していくという基本姿勢に欠けているところが私はあるのだと思うのですね。外務省真実を隠す権利は全然ないわけですよ。私は、知り得たことは、これだけ国民的な追及の声が出ているのですから、全部出すべきだと思うのですね。いまのように幾日にどこへ行ったということだけでなしに、私はそういう点はもっとはっきりさしてもらいたいと思うのです。  この点を大臣に伺いたいのですが、本格的に独自の調査をするということであれば、知っていることは全部出してもらいたいのです。これは出してはぐあいが悪いだろうとか、また小出しにするとか、しっかり抱いておいて米側と打ち合わせをして、すり合わせをして、一致したところだけ出すとかいうようなことになったら、事は重大だと思うのですね。そういう点で、私は海上保安庁にしろあるいは防衛庁当局にしろ、さらに外務省自身知り得たことは、私はこの委員会報告してもらいたいと思うのです。そういう点、大臣、いかがですか。
  177. 伊東正義

    伊東国務大臣 日本側調査は、これは海上保安庁がやっておられるわけでございますから、私は海上保安庁が当然国会に対しても報告されるということだと思うわけでございます。私の方がもらって、私の方が発表するなどという手続よりも、海上保安庁自身がやっておられますから、それはそういうことだと思いますし、アメリカから報告をもらいましたら、できるだけ早く国会の場を通じて発表するということをやったらいいじゃないかと私は思っております。
  178. 金子満広

    金子(満)委員 そういうことであれば、これはもう衆参のそれぞれの委員会議論になっているわけですが、たとえばP3C、三沢からのフライトプランというのがある。これはもうあるわけですね。ところが、運輸省の方は、運輸省だけの判断ではできない、出せない、こういうことまで言っているわけですね。そうしますと、外務省としては、これを出していい、運輸省が独自に発表してよろしいということを当然言えると思うのですね、隠しておけという権利は外務省は何にも持ってないわけですから。そういう点は、伊東外務大臣、運輸省が持っている一切の資料は公表して差し支えないわけですね。
  179. 伊東正義

    伊東国務大臣 何も特に国民の皆さんに、今度の事故の起こったことに関して人命救助の問題とか原因とかそういうものを隠す必要は私はないと思うのでございまして、海上保安庁、運輸省でいろいろお調べになったものをどう発表されるか、それは運輸大臣責任でおやりになることでございますので、私どもの方からとやかくその内容について言うというようなことは考えておりません。
  180. 金子満広

    金子(満)委員 当然、運輸省の管制保安部としてはそのコピーを持っておるわけですから、外務大臣がもう出して差し支えないということですから、これはまた別の機会に要請して私はやりたい。こういうことは明確にしておきたいと思うのです。  そこで、全体のP3Cの飛行計画については、何回質問しても出ないのですけれども、少なくとも米側からの通報によると、「当該潜水艦とともに行動していた米国の航空機一機は、」これは複数いたか、単数であるかは別として、「航空機一機は、当該水域の低空捜索を行ったが、救助を求める船舶又は乗組員を発見できなかった。」こういうふうに言っているわけです。そうしますと、その事故の起きた現場付近の上空には、飛行機は当時沈没したときに、あるいは沈没した直後には、いたということに当然なるわけですが、この点はそう確認できるのでしょうね。
  181. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 これはまさにアメリカ海軍の発表にも、当該潜水艦行動をともにした飛行機という発表がございます。私たちもその飛行機についてアメリカ側に確認しましたところ、これはP3Cであるという確認を得ております。
  182. 金子満広

    金子(満)委員 これはP3Cということを初めていま北米局長が認めて、これは大事なことだと私は思いますね。  そこで、防衛庁でも当然これは掌握していることだ、つかんでいることだと思いますが、同じですね。
  183. 萩次郎

    ○萩説明員 航空自衛隊のレーダーサイトが、その事故の発生したかなり近くの下甑島というのにございます。それで、救助された乗組員の中に、星印のついた飛行機が飛んでいたという証言がありましたものですから、その航空自衛隊のレーダーサイトの方で確認しましたところ、これは後になっていろいろ調べてみたわけなんですが、確かに当時航空機が飛んでいる航跡があるということでございました。そこで、念のため在日米海軍司令部に問い合わせましたところ、夕方ごろになって、うちの航空機が飛んでいたということでございました。それが三沢のP3Cであるというのは、後刻判明したわけでございます。
  184. 金子満広

    金子(満)委員 私は、大事なことが判明したと思うのですね。三沢から飛び立ったということ、それからP3Cであるということ、そして事件の起きたその時刻及びその直後からかなりの時間、事故現場の海域の上空にいたということ。  そうしますと、あとは航跡を含めて飛行プラン、飛行計画があるわけですから、このコピーは当然この委員会にも報告できるし、いまここで報告できなければ、後刻速やかにこの委員会に出していただきたい。これはいろいろな問題を解明していく一つの大きな力、大きな影響力を持ったポイント一つになると思うので、この点、委員長の方からもひとつよろしく提出させるように頼みたいと思います。
  185. 淺尾新一郎

    ○淺尾政府委員 P3Cのフライトのプランの提出につきましては、参議院内閣委員会において同様な御要望がございまして、現在、同委員会理事会において協議中ということでございますので、私たちとしてはその委員会の御決定を待ちたいということでございます。  ただ、一つ言わしていただきますれば、フライトプランをアメリカが提出いたしますのは、地位協定に基づきまして航空機、特に軍用機と非軍用機との航空管制のために提出しているわけでございまして、そういう技術的な理由ということで提出しているわけで、それ以外の目的のためにはこのフライトプランはいままで御提出したことがないし、アメリカ側はそういう一般的な技術的目的以外には提出できないというのが従来からの立場でございますが、現在、他の委員会において協議中ということで、それまで待たせていただきたいと思います。
  186. 金子満広

    金子(満)委員 それでは最後に一言ですが、米側がということじゃなくて、日本側日本側の権利として、そして現に持っていることですから、そしてまた、それぞれの国会委員会が協議中であるとかないとかではなくて、外務省は隠す権限はないのですよ、持っているのですから。そして運輸省が持っているのですから、それから防衛庁もあるのですから。外務省の方は、ブレーキをかけない、運輸大臣がいいと言えば出す、こういうことですから、当然防衛庁が出すことも御自由です。アメリカ側がああだこうだというのは、アメリカ側に立って言わなくていいわけですから、日本側として堂々とこれは出すべきだということです。この点はほかの委員会でも議論になっているそうですけれども、当委員会でも、あることはもう確実になっているのですから、委員長の方からも提出させるようにひとつやっていただきたい。このことを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
  187. 奥田敬和

    奥田委員長 国民の知る権利は国会がかわって行うのですから、いま各省打ち合わせの調査資料を速やかに本委員会に提出するように、委員長としても強く要望いたしておきます。      ————◇—————
  188. 奥田敬和

    奥田委員長 次に、国際電気通信衛生機構の特権及び免除に関する議定書締結について承認を求めるの件、条約法に関するウィーン条約締結について承認を求めるの件及び業務災害の場合における給付に関する条約(第百二十一号)付表I(職業病の一覧表)の改正の受諾について承認を求めるの件の三件を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。土井たか子君。
  189. 土井たか子

    土井委員 条約法に関するウィーン条約について御質問申し上げます。  まずお伺いしたいのですが、国際慣習と国際慣習法というのはどう違うのですか。
  190. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国際慣習というのは文字どおり各国の間において一般的な慣行として行われているものということで、その限りにおいて法規範としての意味を持つものではないと思います。ただ、そういう国際慣習というものがやがては国際社会において法的規範として拘束性を持つものだ、法的確信とかそういう言葉を使われますけれども、法的規範として拘束力を持つものであるというふうに認識されておる場合には、そういう慣習は国際慣習法である、こういうことだろうと思います。
  191. 土井たか子

    土井委員 国際慣習と一般に言われるものの中にも慣習法たり得るものとそうでないものとあるだろうと思うのです。事実たる慣習としていま存在している国際慣習の中で、慣習法たり得る要因というのはどういうところにあるのですか。
  192. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 お答えになるかどうかわかりませんけれども、私の理解しておりますところは、そういう国際社会において国際間の関係が一定の法秩序を持つために、先ほど申し上げましたように一定のルールというものが法的な拘束力を持つ、持たなければいけない、そういう意味で国家間において認識されておるものということだろうというふうに存じます。
  193. 土井たか子

    土井委員 その国家間において認識されているものとおっしゃるその認識というのは、何がメルクマールになるのですか。
  194. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ただいま申し上げましたように、国際社会におきまして国家が国と国との間で平和的に協力していくためには一定のルールというものが法的な拘束力を持つものとして存在するということが、国際法秩序という言葉を使ってよろしいかと思いますが、そういう法秩序を維持するために必要であるということがメルクマールだろうというふうに存じます。
  195. 土井たか子

    土井委員 そういたしますと、国際慣習法というのは国際法なんですね。
  196. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 そのとおりでございます。
  197. 土井たか子

    土井委員 そうすると、条約というのも国際慣習法の中に入れて考えていいのですか。
  198. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 条約の中には、もちろん先ほど申し上げましたような意味での慣習法が成文化されておる条約もございますが、そういう慣習法を離れまして、国家間の合意に基づいてある一定のルールを新たにつくる、そういう意味でつくられましたものも多数ございます。そういう意味条約がすべて慣習法であると言うわけにはまいらないと思います。条約の中には慣習法をその内容として成文化したものもございます。     〔委員長退席、青木委員長代理着席〕
  199. 土井たか子

    土井委員 もう一歩進めて言うと、それではいまの御答弁からすれば、国際慣習法が条約になっている場合もあれば、慣習法ではないけれども、もう一歩進めてその慣習法にないものを条約にする場合もある。  そこで、その条約についてお尋ねいたしますけれども、その国際慣習法にないものを条約にする場合も、国際慣習からはみ出た条約というのがあるのでしょうか、どうなんでしょうか。
  200. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 それは当然なことながらあると思います。
  201. 土井たか子

    土井委員 国際慣習からはみ出た条約というものは、たとえば、どんなものがあるのですか。
  202. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 私が申し上げました趣旨は、国際慣習法として国際社会全般に受け入れられているルール以外に、関係国の間で一定の目的のために権利義務関係を構成する、そのために一定の約束事を文書にすることは間々ある事例でございまして、そういうものは先ほど申し上げました意味での国際慣習法の枠外ということになろうかと存じます。
  203. 土井たか子

    土井委員 そこまでは私も認めて、その次をお尋ねしているのです。国際慣習法の枠外になる条約でも、いまおっしゃったとおりに、国際的ルールとして確立はしていないけれども、お互いの国家間のあり方について権利義務を創設するという中身を持つその権利義務というのは、そこでその次が出るのです、国際慣習という範囲で考えられますかどうですかと言っているのです。
  204. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 慣習というものは、いろいろな分野で国と国との間のいわば広い意味でのおつき合いのルールとしていろいろなものがあり得るかと思いますけれども、特定の目的のために、いまさっき先生がおっしゃいましたようなことで権利義務関係を設定いたします場合に、必ずしもそういう慣習的なものに拘束されることなく国家間の合意によって一定の約束事をする、これは自由にできることでございます。
  205. 土井たか子

    土井委員 そうすると、条約というのは無制限に何でも結べる、こうなるわけですね。歯どめはない、このように理解しておいてよろしゅうございますか。
  206. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 今度の御審議いただいております条約法条約の中で強行規範という概念がございまして、そういう強行規範に抵触するような条約は無効であるという規定がございます。そのような認識は今日の国際社会において一応存在するかと思いますが、そういう場合を除きまして、国家間の合意、一定の目的のためにどういう約束事をするかということは、その国と国との間で自由にできるというのが今日の国際法のルールであろうというふうに考えております。
  207. 土井たか子

    土井委員 そうすると、強行規範という問題には拘束されるけれども、そこから外れれば何でもできる、こういうことになるわけですか、つづめて言うと。
  208. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 一たん合意したものはきちんと守らなければいけないという原則はございますけれども、その前に、さっき申し上げましたようなことで、強行規範に抵触するような約束事は当初から無効だということを除きましては、自由に合意ができるということだろうと存じます。
  209. 土井たか子

    土井委員 ただ、強行規範に抵触するような条約は無効である、これ自身、本来は国際慣習だったのじゃないですか。いまの一たん締結した条約についてはそれを遵守する義務がある、バクタ・ズント・セルヴァンタと言っていいと思うのですが、これもまた国際慣習だったのじゃないですか。つまり、条約についていまどういうものが条約として認識され得なければならないかという問題については、やはり国際慣習というものを認識の中に置いて条約というものが考えられているのじゃないか、そのように思われますが、間違っていますか。
  210. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先生の御質問の御趣旨を必ずしも十分に理解しないままお答え申し上げたかとも思いますけれども、一般に国際慣習というものがあって、そういうものの趣旨に反するような条約を結ぶことは好ましくない、そういうカテゴリーのものがあるかという御質問であれば、それはその種のものはあろうかと存じますが、基本的には、先ほど申し上げましたように、国家間の合意というものは自由にできるというのがこれまでの国際法の原則であろうというふうに私は理解しております。先ほど先生の御質問がありました合意が守られなければならないという原則、これは当然のことながら国際法のいわば大原則と申しますか、基本原則であろうというふうに思います。
  211. 土井たか子

    土井委員 よくわかったようなわからぬような御答弁なのですけれども、そこはおいおい質問の中で確かめてまいりましょう。  そこで、今回、これは外務省がお訳しになったのでしょう、条約法に関するウィーン条約という日本語訳をいただいて読んでみると、これまた読みづらいのですね。日本語として、よほど繰り返し繰り返し読んでみて、どういう意味なのだろうと熟読玩味しないとよくわからない条約が多々ございます。そこで、いまから私は全くそういう形式にとらわれないで、わかりやすくかみ砕いて質問することに鋭意努めたいと思いますから、御答弁もわかりやすく言ってください。そして、聞いていることに対してお答えをお願いいたします。  四十六条で「条約締結する権能に関する国内法の規定」というのがございますが、ここに言うところの「国内法の規定」という国内法には憲法は入るのでしょうか、入らないのでしょうか、いかがでございますか。
  212. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 四十六条に言っております「国内法」の中には、憲法は入ります。と申しますのは、前段で国内法の規定に違反して締結された、まあ国内法から見まして手続的に瑕疵があったという条約につきまして、瑕疵があったことを理由にその条約の無効を主張してはいけないというのが四十六条一項前段の趣旨でございますけれども、ただし書きにおきまして、「違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は、この限りでない。」ということで例外を定めております。ここに申します「基本的な重要性を有する国内法」というものの中には当然、憲法、また国によりましては憲法という言葉を使わなくても、基本法とかそういうことで憲法に相当する国内法というものを念頭に置いた規定でございます。
  213. 土井たか子

    土井委員 そこで、そうすると日本においては日本国憲法をこの四十六条に言う「国内法の規定」の中の国内法として認識をするということになるかと存じますが、それはもう言うまでもない話ですね、いかがですか。
  214. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 おっしゃるとおりでございます。
  215. 土井たか子

    土井委員 日本国憲法の九十八条の二項を見ますと、「日本國が締結した條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする。」こうございます。これは今回の条約の二十六条に定めている「合意は守られなければならない」という趣旨、原則、先ほど申し上げましたバクタ・ズント・セルヴァンタの原則どおりに誠実に遵守すべきであるという規定と考えてよろしいか、つまり、国際法と同内容の国内法がここにあるという認識を持っていいのですか、どうですか。
  216. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 そのとおりでよろしかろうと思います。
  217. 土井たか子

    土井委員 この規定は、締結をいたしました条約を国内法とすることを定めている規定なんですか、どういうことになるのですか。
  218. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 基本的にはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ、国内法の法技術的な問題といたしましては、締結された条約をそのままの形で国内法に準用するか、あるいは別途国内法を制定してそれによって特定の条約内容を国内法として執行するか、法技術的にはこの二通りの方法があろうかと思います。
  219. 土井たか子

    土井委員 二通りの方法があるにしろ、しかし基本的には条約条約、国内法は国内法であって、条約すなわち国内法と言うことはできない、これは確認していただけますね、どうですか。
  220. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 学説的には一元論とか二元論とかいうことはございますが、わが国の現在の法体系のもとでは、いま先生のおっしゃったとおり、条約条約、国内法は国内法ということでございます。
  221. 土井たか子

    土井委員 いま私が言ったのは一元論、二元論の問題ではないと、実は私自身は思ってお尋ねを進めているわけですが、さて、その締結した条約はいまおっしゃったようなことなんでしょう。「確立された國際法規」というのは何なのですか。
  222. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法の規定は「條約及び確立された國際法規」ということでございまして、そこで言う「確立された國際法規」というのは、先ほど先生の御質問お答えいたしましたいわゆる慣習国際法、国際慣習法と申しますか、条約以外で条約という形をとっていない国際法ということでございます。
  223. 土井たか子

    土井委員 それじゃ、条約という形をとっていない、条約以外の国際慣習法というものをここで指しているわけですね。そうしますと、もう一度申し上げますよ、この九十八条の二項からいたしますと、日本国としては、日本締結している条約そのもの、それから国際慣習法にかなった条約並びに国際慣習法、これだけを遵守するということをここに明らかにしているにとどまると考えていいと思われますが、いかがですか。
  224. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 それでよろしかろうと存じます。
  225. 土井たか子

    土井委員 そうすると、先ほど御答弁の中に、国際慣習法から外れるその中身を持っている条約でも両国間で合意すれば条約として締結できるとか、あるいは国際慣習化されていない中身にわたってもお互いの当事国が合意すれば条約として締結できるとか、いろいろおっしゃいましたけれども日本国憲法では、この九十八条の二項に従って考えた場合に、いま申し上げるように、日本として締結している現にある条約、さらには国際慣習法として認められているその中身にかなった条約、さらに国際慣習法、それについて遵守するということを言っているわけですね、それにとどまっているわけですね、確認します。
  226. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 そのとおりであると思います。
  227. 土井たか子

    土井委員 そうすると、先ほど一般論として国際的にはどういうふうな認識があるかと言ったら、国際慣習法にも国際慣習にも縛られない、その範疇からはみ出るような問題であっても、お互いの国が合意すれば条約として認められるという理論をそこで展開されたのですが、それは日本国憲法の場合にはそこまで認めてないということになると思いますが、どうですか。
  228. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほどお答えしましたことは、国際法を慣習国際法の一環として、先ほど申し上げましたように国家間において一定の目的のために、特殊なその目的のための権利義務関係を創設するような条約をつくるということが国際法の中で国際法のルールとして許されておるということでございますので、そういう条約を結ぶことが確立された国際法規に反する行為になるというふうには私は全然理解いたしません。
  229. 土井たか子

    土井委員 いまの御答弁、おっしゃっている趣旨がちょっとよくわからないのです。そういうことは国際法でどういうふうに確立されているのですか。確立されているならば、これは国際慣習法として認識をしている中身だろうと私は思いますよ。だから、先ほどの御答弁は、そこからはみ出てもお互いの当事国間で合意すれば条約となるという御答弁があったものだから、それではというので、憲法の九十八条からすればそこまで言っておりませんねと聞いた。九十八条が言っているのは、「確立された國際法規」と言っているのです。その点に対してお答えは、先ほどのように、国際慣習法として、国際法として認識をされている中身だというお答えなんです、端的に言うと。  ですから、もう一度繰り返しになりますけれども、ずっと整理して言っているのですよ。条約というのは、日本国憲法では九十八条の二項で、このように日本締結した条約、それとさらに確立された国際法規として日本が認識している中身、これを遵守するという義務がある、このように規定しているわけですね。だから、先ほどおっしゃった国際的に考えられている条約に対する概念というのは、日本国憲法が考えているよりももっと広い範囲に及ぶということになる。日本国憲法で定めている中身よりも、先ほどおっしゃった、栗山さんがお考えになっていらっしゃる条約という範囲はもっと広い意味考えられているのですねと、こういうことになる。おわかりになるでしょうか。
  230. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 どうもまことに申しわけございませんけれども、必ずしも私、先生の御質問の御趣旨を正確に理解したかどうかまことに自信がないのでございますが、私が申し上げた趣旨は、国際慣習法で一定のルールがある、しかしながら、そういうルールで決められていない範囲において国家間で自由に権利義務関係を設定する条約を結ぶことができるかという御質問でございましたので、私は、それは国際法は許しておるのだ、まさにそういう条約は多数あるということをお答え申し上げたつもりでございます。  そこで、憲法の規定に戻りますが、まさにそういう条約というものは、憲法の規定に書いてございます「條約」として当然憲法が想定しておる条約だろうというふうに私は考える次第でございます。それでは、そういうものが「確立された國際法規」に反するかという御質問であれば、それはさっきお答え申し上げましたことの繰り返しになりますが、国際法はそういうものをつくることを許しておりますので、それは何ら「確立された國際法規」と矛盾するような条約ということにはならないというのが、私が先ほどお答え申し上げました趣旨でございます。もし言葉が足りませんでしたら、その点お許しいただきたいと思います。
  231. 土井たか子

    土井委員 繰り返しになって恐縮ですが、そうすると国際法規というのは、つまり国際慣習法を離れてもあるということなんですね。
  232. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 一般国際慣習法としての国際法と、それからいわば特則と申しますか、関係国間の特則としての条約、そういうものから成り立っているということだろうかと存じます。
  233. 土井たか子

    土井委員 実はいまのは私の質問に対する答弁になっていないのですが、まあいいです。これもおいおい少し確かめを進めましょう。  国内法の中に憲法を入れて考えるということを認識されているわけでございますが、天皇というのは元首でしょうか。
  234. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 従来から種々の機会に天皇は元首であるかという御質問が政府に対してございまして、その際にお答えしておりますのは、元首というものにつきましては国際法上明確な定義はないということでございます。  この条約法条約に言う「元首」に当たるかというのが御質問であれば、この条約法条約に言う「元首」というのはそういう条約締結権を持っておる人ということでございますので、わが国の天皇の場合にはこの条約法条約に言う「元首」には当たらないということになります。
  235. 土井たか子

    土井委員 締結権はないけれども条約に対して公布権はあるようですね。この公布権がある天皇に対しては、いまおっしゃった締結権がないがゆえに元首と言えないということからすると、条約の公布権があるということはどういう関係になりますか。
  236. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 条約法条約との関連で申し上げますと、第七条に、条約締結に関するあらゆる行為について、一定の人については全権委任状を出す必要がないという規定がございます。その中に「政府の長及び外務大臣」と並んで「元首」というものが挙がっておるわけでございます。そういう意味におきまして、わが憲法のもとにおきまして天皇はこういう権能を持っていないということで、元首ではないというふうにお答え申し上げた次第でございます。
  237. 土井たか子

    土井委員 それでは、条約を公布することというのは、ここに言う「条約締結に関するあらゆる行為」の中には入らない、このように考えていいのですね。
  238. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 公布自体は条約を国内法上効力を発生せしめるための行為でございまして、国際法的な意味を持つ行為ではございませんので、先ほど私が申し上げましたような意味におきまして、国際法的に天皇は条約締結権を有しておらないということだろうと存じます。
  239. 土井たか子

    土井委員 そういう点から天皇は元首でないと言われているわけなんですね。  大臣もよく御存じだと思いますが、日本の在外公館、大使館へ行きますと、天皇、皇后両陛下のお写真がございます。外国の在外公館、大使館なんかに参りましたら、その国の元首の写真が飾ってあるのが大体なんですが、日本の大使館の場合に天皇、皇后両陛下のお写真が飾ってあるというのはどういう意味なんでしょう。
  240. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたように、元首という言葉につきましては国際法的に一定の厳密な定義があるわけではございません。  わが国の場合におきましても、天皇は憲法の規定に基づきまして、一定の外交に関連する国事行為を行われる権能を有しておられます。それから、国の象徴としての地位を持っておられます。そういう意味におきまして、天皇は元首であるかといえば、そういう意味においては元首と考えてよろしかろう、また元首であろうということは、政府が従来から答弁申し上げておるとおりでございます。
  241. 土井たか子

    土井委員 そうすると、日本国憲法上は元首というのは一体だれなんですか。
  242. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 私は憲法の専門家ではございませんが、私の承知しておりますところでは、先ほど申し上げましたような意味で天皇を元首と解してもよろしい場合もあろうということを従来から御答弁申し上げておるわけでございますけれども、ただいまの先生の御質問があらゆる意味において天皇は元首であるかということであれば、それはそうではないということだろうと思います。
  243. 土井たか子

    土井委員 非常にややこしく、わかりにくいのですよね。憲法上は元首を天皇というふうに解釈しても差し支えないというふうに言われたこともあるがと、えらい微妙な言い回し方なんですが、確かに憲法上元首と考えている人もあるようです。でも、そういう立場をとったとしても、この条約上の元首ではないと、こうなるのですね。
  244. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど御答弁申し上げたとおり、この条約法条約で言う元首には天皇は当たらないということでございます。
  245. 土井たか子

    土井委員 この辺は何だかそのときどき便宜的に解釈をされるような向きもあるようでありまして、国際的に元首という概念が確立されていないとかいうふうなこともあるかもしれませんけれども、しかし、日本としてはやはりそこのところはすっきり考える必要が出てくるのじゃないかと私は思います。一連の十に限られた国事に関する行為というものを行うにとどまる、国政に関する権能は有しない、そういうことから考えていって、果たして憲法上これを元首として考えていいのかどうか。政治的には別ですよ。政治的には大いにそれで利用しようという向きの人もあるかもしれない。しかし、憲法上これをどう考えたらいいかというのは、いまのような御答弁ではどうも、それじゃ今回の条約と憲法との関係をどう考えたらいいのだろう、何だかその点はすっきりしないなというふうなかすが残ります。その辺はどれほど考えてみても釈然としない気が私はいたしますが、栗山さん、それはすっきりなりませんか。
  246. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど私が御答弁申し上げましたのは、私自身の憲法解釈ではございませんで、御承知のとおりに、従来しばしばいろいろな機会に先ほどの先生の御質問と同じような御質問に対しまして政府側から御答弁申し上げていることでございます。
  247. 土井たか子

    土井委員 そうすると、政府のそういう理解というものについて言うならば、憲法で言う元首とこの条約で言う元首というのは、同じ元首と言われていても、それは日本としては憲法で元首と認識される人がこの条約では元首たり得ない、こういうことになるわけですから、日本で憲法上言う元首は国際的ではないのですね。そのように言っていいですか。
  248. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 私もすべての国の憲法を承知しておるわけではございませんが、条約締結権ということに着目して考えた場合には、常識的に言ってその国の元首と言われているような人も憲法上条約締結権までは有していないという場合も十分あり得るのではないかというふうに存じます。
  249. 土井たか子

    土井委員 そういう例があったらひとつ示してください。いまできなければ、少し時間を置いてそれは当たってみていただきたいと思うのです。  それから、先ほど四十六条の「国内法」に憲法を認識するということをおっしゃったわけですが、もし憲法違反の条約である場合はどういうことになるのでしょう。
  250. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先生の御質問は、憲法違反の条約が国際的にどうなるかという御質問でございますか。(土井委員「国際的、国内的に」と呼ぶ)  国内的には、当然のことながら憲法に違反した条約は効力を持たない、無効であるということになろうかと存じます。  国際的に申し上げますと、この四十六条の規定がまさにその点に触れておるわけでございまして、このただし書きにありますように憲法違反ということが明白であるという場合、これはさらに二項に参りまして、二項の趣旨というのは、憲法違反ということを理由に条約の無効を主張する、そういう国内法違反を理由とする無効の主張というものが乱用されることを防止するために設けられておる規定でございます。要するに、憲法違反ということが相手国の方から見てもだれの目から見ても明白だ、こういう場合には憲法違反ということを理由として条約の同意を無効にするということを主張することができるということでございます。そうでない場合には、仮に憲法との関連で手続的に瑕疵がありました条約でありましても、相手国との関係においてその条約が無効であるということは主張できないというのが四十六条一項の趣旨でございます。
  251. 土井たか子

    土井委員 そうすると、憲法上考えまして、手続的に瑕疵がある、すなわちそういう意味での手続上の憲法違反がある、形式的憲法違反と申し上げていいと思うのですが、ということならば、相手方から見てもその点は明白に認識できる場合がある、それが恐らく明白に認識できる場合だろうと私は思います。にもかかわらず、その条約について無効にする根拠たり得ないのはどういうわけですか。
  252. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ある条約締結した場合に、それが手続的に憲法違反であるかどうかということは、外から、外からと申しますのは条約の相手国から見ました場合ということでございますけれども、その場合に常に明白であるということでは必ずしもないだろうと思います。むしろ明白でない場合の方が、私は常識的に考えて多いのではなかろうかというふうに考えます。  憲法の規定が条約締結手続につきましてだれが見ても非常に明快に、誤解の余地のないように細かいところまで規定しておるという場合はむしろきわめて例外でございまして、その憲法の規定をどういうふうにその国で解釈しておるかということになりますると、それぞれの国におきましていろいろ歴史的背景、憲法上の慣行というものもございましょう。そういうことになりますると、相手国から見まして手続に瑕疵があるかどうかということは必ずしも明白でない場合がむしろ多い。  それゆえにこそ、先ほど私が申し上げましたように、条約法条約四十六条の規定をつくる場合にも、この規定が乱用されないようにということでただし書きが置かれ、そして、ただし書きをさらに厳密に定義するという意味で二項が置かれたというのがこの四十六条の経緯でございまして、先ほど御答弁申し上げましたように、外から見て手続の瑕疵というものは必ずしも明白ではないという場合が多かろうというふうに私は考えます。
  253. 土井たか子

    土井委員 外から見ての瑕疵ではなくて、国内的に手続上瑕疵ありということが確認されている場合はどうですか。
  254. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ちょっと私の念頭にはそういう場合があり得るかというのは直ちに思い浮かばないわけでございますが、通常の場合でありますれば、当然条約を結ぼうとしておる当事者は自分の国の憲法上の手続に従って、憲法の規定に忠実に条約締結しようとしておるだろうというふうに考えられますので、それが瑕疵があることが条約が結ばれる前から明白だというような事態というのはどういう場合があり得るかというのは、ちょっと私、思い当たりません。
  255. 土井たか子

    土井委員 いまの日本国憲法というのは、日本の国内法体系の上で最高法規として認識されるべきですから、したがって、そこから考えていきましょう。  条約締結行為について必要な国会承認というのがありますが、この国会承認は、事前あるいは時宜によっては事後の承認となっているのですね。原則は条約を批准するに先立っての、つまり事前の話であります。ただしかし、時宜によっては事後の場合があるのです。締結をしてしまってから後、承認を求めて、不承認になった場合どうなるのですか。
  256. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 不承認になりました場合には、これは改めて相手国との間に再交渉をするということになります。
  257. 土井たか子

    土井委員 再交渉をするのに先立って、その不承認になった当該条約は一たん無効であるという認識があるからこそ再交渉するということになるのじゃないですか、いかがです。
  258. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国会の御承認を得るまでは条約締結行為は完了しておらないわけでございますから、無効という問題はその段階ではまだ生じないだろうというふうに考えます。
  259. 土井たか子

    土井委員 国会承認を得るまでは条約締結行為というのは終了していないのですか。これはおかしいですね。憲法の七十三条の三号のところをよく読んでみてくださいよ。「條約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、國會の承認を経ることを必要とする。」事後というのは、条約締結後という意味ですよ。条約締結行為というのは、これは承認を得なければ完了しないとお考えになるのはちょっと外れているのじゃないですか。
  260. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 失礼いたしました。いまの点は私ちょっと誤解いたしまして、先生のおっしゃるとおりでございます。
  261. 土井たか子

    土井委員 そうすると、締結をしてしまってから後、事後の承認国会に求めてみたところが不承認であったという場合、どうなるのですか。これは条約自身に対しては先ほど再交渉とおっしゃいましたけれども、何のために再交渉をするかと言ったら、条約自身が無効になったということを認識した上での再交渉ということなんじゃないですか、いかがですか。
  262. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 一たん条約締結しましてから事後に国会の御承認を仰ぐということになりまして、その段階で国会の御承認が得られなかったという場合には、直ちにその段階でその条約が無効だということにはならないのでございまして、国際法的には一応有効に締結されている条約でございますので、先ほど私が申し上げましたように、相手国との間では、国会承認が得られなかったので、この条約を一たん白紙に戻して改めて条約を結ぶ交渉をすることになるということでございます。
  263. 土井たか子

    土井委員 いま白紙に戻すとおっしゃるのは、つまり言葉をかえて言うと、条約を無効という形にするということになるのじゃないですか。白紙に戻すというのはなきものにするという意味だから、一たん無効宣言していることになるのじゃないですか、違うのですか。
  264. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 白紙に戻すということを私、申し上げたのは、より正確に申し上げれば、一たん締結した条約を終了させて、そして新たな条約を結ぶということになるということでございます。
  265. 土井たか子

    土井委員 この条約法条約の中で、終了ということは別に定められているところがありますね。その部分はどういうふうに定められていますか。
  266. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 五十四条あるいは五十六条の規定でございますが、いずれにしても私が申し上げたことは、相手国ともう一度話をして、国会の御承認を得られなかったのであるから改めて条約を再交渉するということでございます。仮定の議論を申し上げますと、相手国が条約を終了させる、新たな条約を結ぶということに同意しない場合には、改めて条約の不履行ということで国家責任の問題が生ずるということは、理論上の問題としては考えられようかと思います。
  267. 土井たか子

    土井委員 いま終了ということに非常にこだわっておっしゃっているのですが、四十五条のこの条文では「無効若しくは終了」という表現で規定がございまして、無効と終了について中身をよく読んでみますと峻別がないのです。条約を無効にするということと条約を終了させるということと、実体は違うのですか。
  268. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 条約法条約におきましては、六十九条と七十条にそれぞれ「条約の無効の効果」と「終了の効果」というのがございます。条約が無効であるという場合には、これは当初にさかのぼって法的な効力を有しないというのが無効の効果であるということでございまして、終了の場合は七十条に参りまして、条約をまさに文字どおりそこで終わらせるということで、それまでに存在しました権利義務関係というものは有効なものであって、その条約の終了によって影響を受けないということで、無効と終了とは違うものとして規定しております。
  269. 土井たか子

    土井委員 それはわかりました。七十三条の規定から言うと、事前に国会承認を得ず締結してしまった条約は、その時点では有効だ。そして国会承認を事後に得ようとしたところが不承認になった、その時点までは有効に作用している。したがって、そこまで遡及して無効と言うわけにはいかない。だから、そこではこの条約はその時限で有効に働いていたと考えなければならない。しかし、そこでぶっ切れて条約そのものが存在が否定されるというかっこうになったわけですから、条約はその時点で終了した、このように認識されているのですね。そのように理解していいのですか。
  270. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 そのように認識していただいて結構でございます。
  271. 土井たか子

    土井委員 では、七十三条の三号に従って、条約締結するに当たって国会承認を得なかったという場合はどうなりますか。
  272. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法七十三条で言う条約条約法で申します条約とは、御承知のように範囲が違うわけでございまして、条約法条約の方は範囲が広いわけでございます。およそ国際法によって規律される国家間の合意というものは、形式、名称のいかんを問わず、これはすべて条約であるということが条約法条約の定義でございます。  そこで、そういう条約法条約で言うところの条約の中で、いかなるものについて立法府、議会、国会承認を得るべきかということになりますと、これは当然のことながら、各国の憲法、その憲法に基づきます慣行なり解釈によって一定の範囲の条約につきまして立法府の承認を得ることが必要だということになるわけでございまして、そういうものにつきましては当然のことながら、わが国の場合におきましても憲法七十三条のもとで国会承認を得なければならない条約につきましては国会の御承認をいただくということが、政府の確立した考え方でございます。
  273. 土井たか子

    土井委員 それは事実上はそうなんでしょうが、しかし、条約締結してしまってこれを国会承認を得ようとするとどうも不承認になる可能性があるかもしれない、そういうときに延々と、時宜によっては事後承認承認を延ばすということも理屈の上ではあり得ると思うのです。その辺は、そういうことがあってはならないと思いますが、そういうことは断じて起こりませんという何か歯どめはどこかにありはしませんか。あるのですか、ないのですか。
  274. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 歯どめとおっしゃるのは、憲法上の歯どめでございますか。
  275. 土井たか子

    土井委員 憲法上の歯どめ、事実上の歯どめの両面、どういうことになっているかというお答えをいただきます。
  276. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法七十三条の三号に基づきまして国会の御承認をいただくべき条約につきましては、先生御案内のとおり、政府として法律事項を含む国際約束、財政事項を含む国際約束、それから法律事項、財政事項を含まなくとも、政治的に重要であって、そのために批准を要件とする国際約束、そういうものにつきましてはすべて国会の御承認をいただくというのが憲法第七十三条三号のもとでの正しい条約締結手続であるというふうに認識いたしまして、従前からそういう政府の見解国会で申し上げておるとおりでございまして、実際の個々の条約国会に御提出する場合におきましても、そういう政府の見解を踏まえまして慎重に検討をして、御提出すべきものは御提出しておるというふうに考えております。
  277. 土井たか子

    土井委員 そういう点では必ず国会承認を得るということを心がけて提出をいたしておりますと、最後は非常に懇切丁寧におっしゃっておるわけですが、外務省としては、国会から承認を得るという手続を要求された場合は必ず提出をして承認を得る手続をとらなければならないということになりますか、どうですか。
  278. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げました三つのカテゴリーに属します国際約束につきましては、政府といたしましては当然これは国会の御承認を得べきものと考えますので、むしろ国会の方からそういう御要望がある前に率先して国会の御承認をいただくということを考えるべきだろうというふうに存じます。
  279. 土井たか子

    土井委員 それは当然なのでしょうね。だけれども、それにもかかわらず当然考えなければならないところをお考えにならなかったために、国会から、承認を必要とするではないか、したがって承認を求めるという手続を一日も早くとるべきであるという要請を受けたときには、それに従ってそうしなければならない義務がありますか、どうですか。
  280. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 仮にもそういうことがございますれば、その国際約束につきまして内容を十分検討いたしまして、まさに政府が従前から申し上げておる三つのカテゴリーのいずれかに当然入るべきだということであれば、当然国会承認のために御提出するということになろうかとは存じます。
  281. 土井たか子

    土井委員 本来これは「事前に、時宜によっては事後に、」の承認に対して必要とする条約についてのカテゴリーというのを、一体だれがお決めになったのですか。
  282. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 これは政府の内部におきまして、憲法七十三条の規定、その趣旨、それから戦後の慣行というものも勘案いたしまして慎重に考慮しました上で、当時の大平外務大臣の御答弁という形で国会に御説明申し上げた次第でございます。
  283. 土井たか子

    土井委員 これは条約締結行為の一環として国会承認が問題になっているのでしょう。条約締結行為、条約締結権というものと、外交に対しての行政行為、行政権限というもの、これは同じなんですか、別なんですか。
  284. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法七十三条三号に関しましては、条約締結権は内閣にあるということでございますけれども、「但し、」ということで、条約の民主的統制と申しますか、民主的コントロールということを踏まえまして、ただし書きによって、そういう内閣に基本的にあります条約締結権につきましては、しかし国会承認を必要とするという条件を付しておるというふうに私は理解しております。
  285. 土井たか子

    土井委員 いまのはまだ御答弁をいただいてない御答弁なんです。それではもう一度言葉をかえて聞きましょう。外交関係処理の中に、いまそこで条文をお読みになりました第七十三条三号の定めております条約締結行為というのは入るのですか、入らないのですか。
  286. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 七十三条の二号と三号との関連についての御質問でございますが、二号に規定しております外交関係の処理というものと三号にあります条約締結ということで、条約締結外交関係処理の一環かという御質問かと思います。この点につきましては、憲法の解釈ということになりますので、私も必ずしも十分に自信を持ってお答えできないと思いますけれども、広い意味での外交関係の処理というものの中に条約締結というものも入るということを考えることは十分常識として可能だろうと思います。  しかし、先ほど申し上げましたように、条約締結につきましては、外交関係の処理一般につきましては内閣の権限ということで行政府の専管事項である、それに対しまして条約締結というものは国会承認を必要とするということでございますので、そういう点に着目すれば、条約締結というものは二号で言っています外交関係の処理とは截然と区別されるべきものだということ、これはそういうことと考えてよろしかろうというふうに私は考えます。
  287. 土井たか子

    土井委員 そうなんですね。いま、最後の方におっしゃったように私も考えているのです。外交関係一般をよく行うように処理すべきことを行政事務と定めているのが七十三条の二号でありまして、それと区別をして定めているのが条約締結行為だ、そう思っているのです。条約締結行為というのは外交関係の処理から区別して考えなければならない。  なぜ条約締結国会承認が必要になるのか。国会の性格を見ると、四十一条で国権の最高機関であるというところにその意味があるのです。国権の最高機関というのはなぜか、主権者国民の代表機関だというところに意味があるのです。その国会承認を必要とするか、必要としないか、この条約に対しての区分けを、カテゴリーというのを行政の専権として考えるという権限が、一体そこで認められていいのでしょうか、どうでしょう。
  288. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法七十三条に基づきましていかなる範囲の条約国会に御提出すべきかということは、少なくとも第一義的には、条約締結責任を有しております内閣自身考えて決める、そういう憲法の解釈というものにつきまして行政府が行うということは、これは差し支えなかろうというふうに私は考えます。
  289. 土井たか子

    土井委員 どうも苦しいですね。なぜ差し支えないのですか。私がいまさっき言った、どういうわけで国会承認というものをわざわざそれは必要としているかということの理由について申し上げたわけですから、その理由に対しての反駁がないと、それに対しては説得性ある主張ということにはならないはずなんです。なぜそれは差し支えないのですか。     〔青木委員長代理退席、委員長着席〕  つまり、主権者国民を代表する国家機関というものを行政権が拘束をし、そうしてその国会に対して行政権が一定の枠づけをしていいのですか。これはそういうことをして認められるのですか。
  290. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 第一義的には、行政権を持っております行政府が、自分の権限の問題でございますから、解釈をして決めるということは差し支えなかろうというふうに存じます。
  291. 土井たか子

    土井委員 それはお答えになっていないと先ほどから言っているのです。それならば、その七十三条の三号で言うのと同じように、「條約を締結すること。」でぶっ切ればいいのですよ。しかし、条約締結するのについて、必須要件がただし書きで書いてあるのです。国会承認がなければ条約締結することができないわけですよ。そうでしょう。なぜ国会承認が必要かというのが、したがってそこで非常に大切な問題になってくる。  この国会承認をするという国会の行為というのは一体どこから出てくるかといったら、立法機関だからじゃないのですよ、四十一条の「國権の最高機関」というところから問題にされているのです。その最高機関性を持つ国会に対して、行政事務をつかさどっている外務省がいろいろとやかく拘束をすることは許されますか、こう聞いているのです。
  292. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 これは先ほど申し上げましたことの繰り返しになろうかと存じますけれども、七十三条三号で言う条約の範囲はどうかということを、外務省が恣意的に解釈をしてやっておるというつもりは毛頭ございません。内閣法制局を含めまして政府全体といたしまして、先ほど先生の御指摘のありました国会の地位というものも、まさに七十三条三号ただし書きというものはそういう国会の地位というものを踏まえて置かれた規定でございますので、そういう趣旨を踏まえてどういう条約国会に提出すべきかということを慎重に検討をいたして、一定の範囲のものについては国会の御承認を得ることが必要であるということで従来やってきておるということでございます。
  293. 土井たか子

    土井委員 まだこの聞いていることに対して納得のいく答弁を得ているわけじゃないのですよ。しかし、少し質問を進めますが、それでは、署名済みである条約というのは、批准というのをやはり意図して署名をされていると考えますが、いかがですか。
  294. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 少なくとも最近の慣行といたしましては、署名をするかどうかということを判断するに際しましては、条約内容を見まして、その趣旨、目的というものに日本として賛成をし、できるだけ早い機会にその条約締結するという基本的な判断を持って、そういうものについては署名をするということでやっております。
  295. 土井たか子

    土井委員 批准をするということをやはり考えた上で署名をなすっていらっしゃる、いまの御答弁のとおりだと思うのですが、条約に署名をされて、しかも国会承認を受けながら、批准をしていないという条約がございますね。先日ここで問題になりましたよ。
  296. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ございます。
  297. 土井たか子

    土井委員 それはどういう条約ですか。
  298. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 お答え申し上げます。  国会の御承認を得ましていまだに批准書を交換するに至っていない条約は、ソ連及び豪州との渡り鳥の保護に関します条約及び協定でございます。
  299. 土井たか子

    土井委員 あと租税条約関係があるはずでありますけれども、それは事実あるのかないのか、ありとするならどういう条約かということを、この節ちょっと確かめて御答弁願いたいと思います。
  300. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 失礼いたしました。昨年国会の御承認をいただきました、ポーランドとスペインでございましたか、二カ国との租税条約がございます。
  301. 土井たか子

    土井委員 国会承認を受けながら批准をしていないというのも、これは非常にへんぱなかっこうなんですね。相手国の事情があるという、それはいろいろ御答弁をなさるであろうとは思いますけれどもね。これは批准をするということをきちっと認識した上での署名であったはずなんですから、また、国会承認はもうすでに受けられているわけですから、そういう点からすると、やはりこれは条約締結行為の中で責任があるわけですね。これについてどのように考えていらっしゃいますか。
  302. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 お答え申し上げます前に、さっき私の御答弁申し上げましたことの中で、事実関係につきまして訂正させていただきますと、ソ連及び豪州との渡り鳥保護の条約及び協定、それから租税条約につきましては、イタリアとの租税条約の改正議定書、それからポーランドとの租税条約。租税関係の二件、渡り鳥関係の二件でございます。このいずれにつきましても、国会の御承認を得ました後、先方と批准書を交換するに至っておりません。  これにつきましては、そのそれぞれにつきまして、先ほど土井先生はちょっと予期して言われましたけれども、いろいろな相手国側との事情がございまして、発効に至っておりません。  この中で申し上げますと、豪州につきましては、豪州側の国内措置というものがようやく最近に至りまして整備されてまいりましたので、近々批准書を交換して発効させるという予定にしております。ほかの三件につきましては、先方の事情がいろいろございますために、国会の御承認をいただいておりますが、まだ発効させ得る段階に至っておりません。  政府といたしましては、せっかく国会の御承認をいただいたことでもございますので、できるだけ早く条約発効の運びにさせたいというふうには考えておりますが、まだいまの段階では明確にいつ発効させ得るかという見通しを得るには至っておりません。
  303. 土井たか子

    土井委員 先日、当委員会で、この渡り鳥保護条約についてまだ批准をしていないから、渡り鳥に対する保護については義務がないというふうな御趣旨の御答弁をされたのでありますが、これは今回のこの条約法条約の十八条からすると違反するのじゃないですか、そういう御趣旨の御答弁というのは。
  304. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 条約法条約十八条の規定は、署名をいたした後は、その条約の存在意義と申しますか、その存在理由というものをなくすような行為をしてはならない、そういう行為は慎まなければいけないということを定めた規則でございます。ただいま御質問がありました、まさに資源保存関係条約という場合に、条約に署名をした、しかしその後、批准をしないままどんどんその資源をとってしまう、その資源を絶やしてしまうというような行為をする場合には、それはまさにそういう資源保存の条約をつくる意味をなくしてしまうというものであるから、そのような行為は慎まなければならないというのが十八条の規定だろうと思います。  ソ連、豪州との渡り鳥協定について申し上げますと、そういう協定がまだ発効はいたしておりませんけれども、わが国におきましては、御案内のように国内法がありまして、条約の発効のいかんにかかわらず、条約の対象になるような鳥については国内法に基づいて保護を行っておりますので、そういうような意味で、条約が発効いたさなくとも条約で期待しておりますような鳥類の保護というものは現状では行われておるということだろうと思います。しかし、それにもかかわりませず、御承認をいただいた条約につきまして一日も早く発効させるべきであるということについては、そのとおりでございます。
  305. 土井たか子

    土井委員 最初に、私は端的に質問に対してのお答えをいただきたいと申し上げたのですが、そうすると、この渡り鳥保護条約というのは批准していないから、したがって渡り鳥を保護するという義務はないというふうに言っても、十八条に矛盾しないのですか。十八条では「条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務」がちゃんと設けられておりますよ。
  306. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 十八条の規定は、先ほど私、申し上げましたように、一たん条約を署名したならば、批准に至るまでの間、その条約意味をなくしてしまうような行為をしてはならないという趣旨でございまして、いまの渡り鳥条約の例で申し上げますと、積極的に渡り鳥をどんどん捕獲してしまう、そういうようなことを行いますると、せっかく条約でもって保護しようとしておる鳥の資源というものが絶滅の危機に瀕するとか、あるいは非常に減少するとかいう状態になりますので、そういうことはやってはいけないというのが十八条の趣旨だろうと思います。  ちなみに、先ほど私、申し上げましたように、条約を批准しなくても現行国内法において渡り鳥の保護というものはやっておりますので、そういう意味で十八条違反という問題は生じなかろうということを御答弁申し上げた次第でございます。
  307. 土井たか子

    土井委員 日豪渡り鳥保護条約の中で、パプア・ニューギニアにも適用するという部分が、その後実情が変わりまして、独立するというふうなことの事情変更の状況がございましたが、これはやはり事情変更の原則に従って考えて、条約自身が変わったというふうに認識すべきなんですか、どうなんですか。
  308. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 御指摘のパプア・ニューギニアに関します交換公文につきましては、いま申し上げましたように、条約自体がまだ発効するに至っておりませんので、いわゆる事情変更の原則に基づく条約の無効とかそういう問題ではなかろうというふうに思います。条約が発効いたします前に、当初予想しておったような事態が、パプア・ニューギニアの独立によって消滅してしまったために、その交換公文の中身、すなわち、豪州が、自治領という地位にあるパプア・ニューギニアと相談をするということができなくなってしまった、そういうことによってその交換公文の適用が事実上不可能になった、こういうことだろうと思います。
  309. 土井たか子

    土井委員 そうすると、その状況は、その交換公文の部分というのが廃棄されることになるのですか、終了することになるのですか、運用が停止されることになるのですか、無効になることになるのですか、どうなんですか。
  310. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたように、交換公文を含めて条約自体が発効いたしておりませんものですから、御質問のような、一たん有効になったものを無効にするとか終了させるとかそういう性質の問題ではなかろうというふうに存じます。
  311. 土井たか子

    土井委員 有効ではないけれども、しかし、考えて、みると、条約それ自身は存在しているのです。署名をして、国会承認まで得ているのです。ただ、批准がまだだという段階なんですね。そして、その間にその条約のある部分というのが欠落したと申し上げていいと思うのです。この条約に対する取り扱いというのはどのようになるのですか。批准は、そうすると、欠落した部分についてはもう一度国会承認を求め直してやるというかっこうになるのですか、いかがなんです。
  312. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 御指摘の交換公文を含めて条約の本体と一緒に国会の御承認をいただいたわけでございますけれども、先ほど私が申し上げましたような事由で、パプア・ニューギニアが独立いたしましたものですから、その結果としまして交換公文につきましては適用不可能になったということでございますので、これはいわば消滅したということで処理をいたす、その旨を豪州側と確認をするという手続をとることを目下検討中でございます。
  313. 土井たか子

    土井委員 そのことについて国会承認は必要じゃないのですか。その交換公文について国会承認があったのですよ。今度はその部分が消滅したということになっているのですから、これは消滅したということについての国会承認が改めて必要なのじゃないのですか、いかがです。
  314. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 消滅したということについて国会の御承認を得なければいけないというふうには考えておりません。
  315. 土井たか子

    土井委員 その根拠は何ですか。消滅した部分について国会承認を必要としないと言われている理由ですね、なぜ国会承認が必要じゃないのですか。
  316. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 当初、条約と交換公文と含めて国会の御承認をいただいたわけでありますが、先ほど申し上げましたような事情で、交換公文そのものの方は適用が不可能になって存在の意味がなくなったということでございますので、そういうものを除いて、もとの条約自体について改めて国会の御承認を得なければならないというふうには私ども考えておりません。
  317. 土井たか子

    土井委員 そうすると、国会承認をしたという条約とは違ったものについて承認があったというふうに憶測をして取り扱いを進められるわけですか。つまり、国会承認をしたときとこの条約の中身は違ってきているのです。交換公文は条約の一部をなす部分でしょう。その点が欠落したということは、その部分について条約が変質したのです。その変質した条約については、まだ国会承認を得ていないのです。それ以前の条約について国会承認があった限りで、変質したことについては、国会イエスノーも言っていないのです。まだそれを対象にもしていないのです。しかし、これを承認があったものとして憶測なさるのでしょうか。もしこういうことがあるとするなら、越権行為ですよ。
  318. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 この前、本件について御質問がございましたときに御答弁申し上げたかと記憶いたしますけれども、パプア・ニューギニアの独立の結果、最終的に豪州側との間でこの交換公文を適用することができなくなり、したがって、実際問題として存在する意味がなくなったという認識については、豪州側も日本側も全く同様の認識を持っておるわけでございます。手続的にこの交換公文をどういう形で処理するかということにつきましては、目下豪州側といろいろ話し合い中でございまして、話し合いがまとまりまして処理いたします段階になりますれば、これは当初両方の協定本文と交換公文をあわせて国会の御承認をいただいた経緯がございますので、その処理の結末につきましては、当然国会に御報告すべきものだと考えております。  ただ、いま申し上げましたようなことで、交換公文が事実上消滅してしまったからといって、国会の御承認をいただきました当初の協定そのものにつきまして、また改めて国会の御承認を得なければならないというふうには考えておりません。
  319. 土井たか子

    土井委員 前半は結構ですが、後半になってややこしくなり、怪しげになった。交換公文は条約の一部じゃないですか。もう一度確認しますよ。
  320. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 双方につきまして国会の御承認をいただいておるわけでございますから、そういう意味におきまして、一部ということであれば一部というふうに考えていただいてもよろしかろうと思います。
  321. 土井たか子

    土井委員 条約の一部が変更するということは、条約が変わったということになる、こう理解してもいいと思いますが、どうでしょうか。
  322. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 一たん国会の御承認をいただきまして締結いたしました条約を、あるいは締結すべく国会の御承認をいただきました条約を、相手国とまた交渉して修正をするということになりますれば、これはまた改めて国会の御承認をいただかなければいけないということであろうと存じますが、本件のような場合におきましては、単にと申し上げますと語弊があるかと思いますが、協定に付属しております一つの文書が、客観情勢が変わったために全く適用ができなくなった、そういう意味において存在理由が全く消滅してしまったということでございますので、そういうこととして処理いたしましたにつきましては、当然これは国会に御報告すべきだと思いますけれども、そういうものを条約の修正というふうに観念して、改めて当初の渡り鳥協定自体を国会に御提出して御承認をいただかなければならないというふうには私ども考えないわけでございます。
  323. 土井たか子

    土井委員 条約そのものについてもう一度承認をし直すということではなくて、報告を受けて、その報告に対してイエスノーということが言い得るかどうかの問題なのです。これはイエスしかないでしょう。報告ならば聞くか聞かないかという問題しかないのです。承認を得るということと、それから報告をするにとどまるということとは、全然意味が違ってくると思うのです。  報告をしてよいというのは、憲法でどこに決められているのですか。報告をする手続はどこでどういうふうに決まっているのですか。
  324. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 憲法七十三条三号に基づきまして条約締結するという場合には、これは憲法が要求していることでございますから国会の御承認を求めるということでございまして、それ以外の報告と私が申し上げましたのは、そういう締結に伴って必要な国会の御承認という憲法の要件を離れて、国会の御承認をいただいた文書が先ほど申し上げましたような客観的な事情のために事実上適用が不可能になったということでございますので、豪州との間でこの文書につきましてはこういうふうに処理いたしましたということを国会に御報告申し上げることが、当初その文書につきまして国会の御承認をいただいたことから考えまして当然であろうというふうに考える、そういう意味において国会に御報告申し上げるということを御答弁申し上げたわけでございます。
  325. 土井たか子

    土井委員 これはパプア・ニューギニアが独立したことのために、そういう客観的事実に従って、それに対しての交換公文というものがもう意味がなくなった、したがって、それを意味なきものにするという意味での変更といえば変更なのですね。したがって、その部分に限って国会承認から除くという手続を迫られるというふうに、言葉をかえて言うと言えると思うのです。  ところが、問題はこれではなくて、いろいろその後実情が変わることによって条約内容が変更を来らしめられるというようなときがあると思うのですよ。条約の変質というふうに申し上げていいと思うのです。したがって、条約自身を変えるという国家意思といいますか、政府がそれを意図されたときには、それは改めて国会承認を必要とされるかどうか、この点はどうですか。今回は、恐らくはこの中身については条約の内部の変更じゃないという御理解だから、単に国会報告すれば済みますという御理解をなすっておっしゃっているのだろうと私は思いますから、条約自身に対して変更があるというふうな場合はいかがですか。
  326. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 当初国会の御承認をいただきました条約の修正、改正は、改めてまた国会の御承認をいただくということで、それを原則といたしております。もちろんこれは先生御承知のとおりでございますが、当初の条約の中で授権規定がございまして、その授権規定を含めて国会の御承認をいただいている場合に、その授権の範囲内での改正というものについては、これは行政府限りで処理するということはやっております。
  327. 土井たか子

    土井委員 そうすると、もう一度いまの話を戻して、日豪渡り鳥条約に言うパプア・ニューギニアに対する取り扱いというのは、この条約に言う六十二条の例には当たらない、このように考えておられるわけですか、どうなんですか。
  328. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 六十二条の「事情の根本的な変化」という事態ではないというふうに理解しております。  六十二条は、御承知のように、条約締結時に当事者が全く予想していなかった根本的な事情の変化が起こったときには一方の国が他方の国に対してその条約をやめる、あるいは条約から脱退する、条約の義務から免れるということを主張することができるという規定でございまして、先ほどのパプア・ニューギニアのケースは、日本と豪州との間で別に事情の変更が起こったから一方があの文書はやめにしてくれとか、いや、やめにしないとか、そういう性質の問題では全くないわけでございます。
  329. 土井たか子

    土井委員 きょうは約一時間半という約束で、しかもまだ形式的なところにまでしかいってないのです。いよいよ内容にわたる問題は次回に譲りますから、次回はひとつ内容にわたる問題について少しお尋ねを進めたいと思います。  きょうは、これで終わります。
  330. 奥田敬和

    奥田委員長 金子満広君。     〔委員長退席、青木委員長代理着席〕
  331. 金子満広

    金子(満)委員 ウィーン条約について若干の質問をいたします。  六九年にこの条約がつくられて、今日十二年になるわけですが、日本がきょうまで入らなかった理由、そしてまた今日ここに入ろうということになった経過、問題などについて最初に伺っておきたいと思うのです。
  332. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 お答え申し上げます。  この条約は、申し上げるまでもないことでございますけれども条約締結、実施、終了といった条約の基本的な面につきましてのルールを定めたものでございまして、そういう意味におきまして、国際社会の法秩序の発展、安定というものに非常に大きな意味を持つ条約でございます。そういう見地からいたしまして、政府といたしましては、この条約が国際社会の中でできるだけ広い範囲の国に受け入れられていく、国際社会全般に受容されていくことが基本的に重要であると考えるわけでございます。  その場合に、わが国がいかなるタイミングでこの条約に加入すべきかという問題でございますが、政府といたしましては、この条約が先ほど申し上げたような理由で非常に重要なものであるだけに、できるだけ多くの国がこの条約に参加していくことが望ましい。そういう意味におきまして、条約が定めております三十五カ国の批准、加入というものによって条約が発効するということがまず先決であるというふうに考えておったわけでございます。  当初、この条約につきましては非常に長年月を要しまして、その間いろいろむずかしい問題がございましただけに、条約採択後、批准、加入をする国がなかなか伸びないという状況でございまして、採択後十年余を経て、昨年に至りようやく三十五カ国ということで条約が発効するということになりまして、条約が一応国際社会の中で受け入れられていくという見通しがっき始めたということでございますので、この段階でわが国がこれに入るという機が熟したというふうに判断いたしまして、今国会に御提出して御承認をいただきたいというふうに考えておる次第であります。
  333. 金子満広

    金子(満)委員 三十五カ国になるまで待っていたということになりますと、よその国の反応を見ながら、みんながやってから後から日本はやろう、悪く言ってもよく言ってもそういう経過になるわけですね。  そこで、模様を見ておる、様子を見ておるということの中でいろいろ問題点はあったと思うのです。たとえばこの条文とか条項について国際的にどういう反応があるか、また、われわれとしてはどうするかということで、問題になる条項、関心を持ってきた条項というのがあると思うのですが、どんな点がありますか。
  334. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 まず一言、先ほどお答え申し上げましたことを補足する意味で申し上げますと、日本といたしましては別に状況をいろいろ日和見をしておったということではございませんで、わが国といたしましては、この条約というものが基本的に重要であり、かつこれに賛成という立場でございまして、基本的にこの条約の中身につきまして日本として非常に入りにくいという理由があったわけでは全くございません。  他方、この条約の幾つかの部分は、従来から国際慣習法として確立しておるもののほかに、戦後の国際社会の多様化と申しますか、国家関係の多様化というものを反映して、幾つかの新しいルール、従来の国際慣習法にはなかった新しいルールを条約の中に取り入れております。したがいまして、そういうものにつきましては、条約に多数の国が入ってきまして、これが国際社会の新しいルールであるということで確立いたしませんと余り意義はないということになりますので、そういう意味で、日本といたしましては、この条約がどれほど多くの国に受け入れられていくかということをある程度見きわめたいという気持ちを持って今日に至ったということでございます。
  335. 金子満広

    金子(満)委員 この条約に新しいものが盛り込まれたという中で、幾つか見ればわかるのですが、たとえばその一つに「条約の無効」という問題の第二節があるのです。四十九条、五十条の問題ですね。これらはこのウィーン条約を作成する過程で大変議論になったわけですね。いろいろな記録があるのですが、詐欺、それから買収、この二つの条項について当時日本政府はどういう態度をとりましたか。
  336. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 四十九条「詐欺」、それから五十条「国の代表者の買収」、こういう場合にはこの条約を無効にするという根拠として援用ができるという規則でございますけれども、これにつきましてはいま金子先生御指摘のとおりに、外交会議において種々議論がございました。  一般的に申し上げますと、別に詐欺をやっても買収をやってもいいということを主張した国があるということでは全くございませんで、こういうものは好ましくないし、そういう行為の結果できた条約が無効であるという認識につきましては各国ともそれほど異議がなかったわけでありますけれども、何分にもこういう規則というものは従来の先例も全くございませんし、国際判例でも詐欺、買収というものを主張して条約の義務から免れるということができた例というのもございません。したがいまして、全く先例も国際判例もないような、またそういうことを規定する必要性もないものをあえてここに規定する必要はないのではないか、それからまた、詐欺とか買収とかいいましてもその定義が必ずしも明確ではないし、そういう行為があったということを客観的に立証することもなかなかむずかしいということでございますると、むしろそういうことを理由にして条約の無効を主張するというケースがふえて、条約関係が非常に不安定になる可能性があるのではないかという意見を持った国もございます。  会議におきましては、わが国などは後者の方の意見に立って主張をいたしました経緯はございまして、一例を申し上げますと、五十条につきましては、日本はチリとかメキシコと一緒に、ある段階におきましては削除したらどうだというような提案をいたした経緯はございます。しかしながら、結局、種々議論を経まして、最終的にはこの四十九条、五十条というものが採択された、こういう経緯でございます。
  337. 金子満広

    金子(満)委員 その点について指摘をすれば、これは「国際法外交雑誌」六十七巻四号、六八年十二月なんですが、このウィーン会議に参加した日本代表の随員の一人で湯下博之さんが書いたものがございます。その中でいまのところに触れていろいろ言われているのです。  たとえば「両条の審議を通じて特徴的だったことは、削除提案支持国が、詐欺や国の代表者の腐敗」これは後で買収に変わりますね。「腐敗自体の善悪はともかく、それらにより締結された条約を無効とすることは実例もなく、定義も不明確であるため乱用への道を開く惧れがある等の主張をしたのに対し、アフリカ諸国等より、詐欺も国の代表者の腐敗も国際合意の根底を覆すものであり、しかもネオ・コロニアリズムの主要な手段である。また、実例がないというのは誤りで、従来も先進国と後進国との間では例は少なからず存在したが、外交上の考慮等から表面に出て来なかっただけである等の反論がなされ、さらに、第五章に規定する無効原因が網羅的なものとされている以上、原則として正しい両条を技術的困難等を理由として削除すべきでないとの主張がなされ」、こういう経過があるのですね。もちろんこれは私的なものである。外務省が認知したものだという意味じゃありませんけれども。  そうしますと、この条項が採決をされるときには日本政府は反対をしたわけですね。削除するということに賛成して、この条項そのものを通すということには反対しましたか。
  338. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 四十九条、五十条が表決に付された際には、わが国は棄権いたしました。
  339. 金子満広

    金子(満)委員 それから、この当時の議事録があるのですね。それによりますと、買収のところでの日本代表の藤崎さんという方、この方は当時どういう資格の方でしたか。
  340. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 政府代表でございます。
  341. 金子満広

    金子(満)委員 それはもちろん政府代表でしょう。責任者ではなかったのですか。
  342. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 首席代表ではございません。
  343. 金子満広

    金子(満)委員 それにしても、発言が相当ひどいのですね。議事録によりますと、これは第四十六回会議、一九六八年四月三十日の議事録からなんですが、日本代表団は、さっきあなたがおっしゃったチリ及びメキシコ代表団とともに、以下の三つの理由で四十七条、これはウィーン条約では五十条になっていますが、その削除を提案した。理由が三つあるのですね。「第一に、腐敗という概念は国際法では全く新しいもので、国際法委員会の論評では、このような新造語を正当化し得るいかなる事例も挙げていない。第二に、主権国家は高潔な人物によって代表されることが想定されている。強制による事例とは対照的に、個人は自己の意思に反して腐敗されることはあり得ない。したがって、誘惑に」これは買収という訳に変わっていますが、「誘惑に応じるような代表を選んだ国家は、その誤った選択の結果をこうむっても当然である。第三に、前例や普遍的に受け入れられる基準がない場合には、代表の意思に大きなおもしとなることを意図した行為と儀礼やわずかな好意とを区別することは困難であろう。日本代表団は、不必要、不公正であるだけでなく少なくとも品位に欠けると考える規定を行うことに反対である。」  この翻訳はわれわれがやった翻訳なんですが、その点で、買収するという行為について何も言ってない。される方が悪いのだ。ちょうど選挙じゃありませんが、買収する方はよくて、されるやつが悪い、そんな者を選んだ方が悪いのだという反論なんですね。これは非常に私は妥当性を欠いた、かなり乱暴な反論だと思うのです。こういうような点がこの中にある。  そこで思うのですけれども、こういうことをやって反対して、最終的には棄権したとおっしゃいましたが、いまは保留もなしに国会で批准してくれという政府の提案ですね。そうしますと、いま言ったようなことは発言としてはあったが、いまはこういう意見はありません、これはもう会議で消滅ですということに考えてもいいか、それとも、こういう考え方はいまも日本政府は持っていますということなんですか、その点を聞いておきたいと思うのです。
  344. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 四十九条、五十条の規定につきましては、先ほど私が申し上げましたとおりに、こういうことをしてもいい、こういうことをすることは道義的にも認められることだ、あるいは本当にそういう事態があった場合に、その国が条約の無効を主張すると言っても、そういうものは認めないのだということをわが国として考えておるというわけでは毛頭ございませんので、そういう意味におきまして、四十九条、五十条というものにつきましてわが国は別にこれを留保するとかそういうことは現在全く考えておりません。  わが国の当時におきます関心事は、これはいまでも基本的にはそうでございますが、条約関係の安定、国際法秩序の安定ということのためには、むやみに立証不可能な理由を述べて条約の無効を主張する、そういう無効原因の援用の乱用が行われるということは非常に望ましくないということでございまして、四十九条、五十条につきまして当時の日本代表あるいは日本代表団がわりあいと懐疑的な態度をとりましたのも、まさにそういう理由からでございます。  しかしながら、最終的に今日の形で採択されました条文につきましては、わが国としては別に異議がないわけでございます。趣旨としては全く異議がないわけでございまして、これを留保するというようなことは全く考えておりません。
  345. 金子満広

    金子(満)委員 そうしますと、買収される側が悪いというような主張はいまはもうとってない、このように理解していいですか。
  346. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど金子先生が御引用になりました発言は、それ自体を取り上げて論ずれば、これは不穏当だ、あるいは必ずしも適当でないということは申し上げられようかと思います。  ただ、交渉の過程におきましては、当時としましては、わが国としてはできればこういう規定は削除した方が乱用の可能性が減る、条約関係の安定化のためには望ましいという主張を一部ほかの国と一緒にいたしておりました。そういう過程におきまして、みずからの主張を強めるために、それ自体を取り上げれば必ずしも適当でない、不穏当な一方的な表現というふうな発言が行われる場合というものは、国際会議の場では多々あることであろうと思います。それ自体が非常にいいということでは必ずしもございませんでしょうけれども、そういうものとして御理解いただければいいと存じます。別にわが国として、買収される方が悪いのだというようなことを考えておるわけでは毛頭ございません。
  347. 金子満広

    金子(満)委員 ですから、当時はそれであっても、いまはそういう見地に立っていないということですから、それはそれでいいです。済みませんが、ちょっと短く答えてくれませんか。  次に、五十三条を初めとする強行規範の問題について伺いたいのですが、この強行規範に何が含まれるか、どんな例示がされたか、日本政府はいまどんなことを考えているか、その点を短く端的に答えていただきたいと思うのです。
  348. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 どういうものが強行規範であるかということにつきましては、いろいろ議論がございました。多くの国の中で、特にこういうものは強行規範であろうということで異議がなかったものを申し上げれば、国連憲章の原則に違反しての不法な武力行使、こういうものは強行規範に反する行為であるという認識は異論がないところだろうと思います。そのほかどういうものがあるかということになりますと、これは必ずしもコンセンサスはないということだろうと思います。現代の社会においてどれだけ意味があるかということになると別問題でございますが、たとえば奴隷売買とか海賊行為、そういうものを禁止するということは強行規範だ、これについても異論がないということだろうと存じます。
  349. 金子満広

    金子(満)委員 国際的にコンセンサスの問題はありますが、日本の政府としてはどういうようなものということがありますか。また、この条約を批准する以上、こういう考えがあるというそ考えだけは述べられるのじゃないですか。
  350. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 これはまさに強行規範というものである以上、国際社会のほとんど全部ということでコンセンサスがなければならないと思います。そういう意味におきまして、わが国といたしましても、先ほど例示として申し上げましたようなものの中で、まさに国連憲章に反した武力行使というものにつきましては、こういうものは強行規範に反する行為であるというふうに認識しております。
  351. 金子満広

    金子(満)委員 幾つかの事例の中で、当然のことなんですが、国際法上の犯罪というもの、たとえば毒ガスの使用などというのは強行規範に反する、こういうことになりませんか。
  352. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 何が強行規範であるかということにつきましては、今日の国際社会の多様性というものを前提として考えました場合に、先ほど申し上げましたように、今日の国際社会において、だれしも認めておる武力行使という基本的な行為以外に、何が強行規範であるかということになりますと、これはまさにいろいろ議論があり得るところだろうと存じます。一概にはなかなか言えないというのが今日の国際社会の実情であろうというふうに考えます。
  353. 金子満広

    金子(満)委員 これはなかなかむずかしいことだと思いますが、何が強行規範かということで国際的なコンセンサスというものはもちろんあります、これは時代の進歩とともに変化するわけですけれども。  それから、何をさせていかなければならないかという問題は、当然われわれは考えるし、政府も考えておかなければならぬですね。自然に国際的なコンセンサスができるのじゃなくて、つくっていかなければならぬというものがたくさんあると思うのです。そういう意味では、毒ガスとか生物化学兵器、残虐な大量殺戮兵器というものは当然そうだと言うべきだし、そういう点から、大量の殺戮兵器で残虐性を持ったということになれば、原子力潜水艦の問題もありますけれども、核兵器の禁止という問題について日本政府としてはどう考えますか。
  354. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 核兵器の使用は、その性質からいいましてきわめて好ましくないことであるということについては、そのとおりの認識を私ども持っております。しかしながら、核兵器の不使用ということが今日の国際社会において強行規範であるというふうに認識しておるかという御質問でありますれば、今日の国際社会におきましてはそういう段階にはまだ至っていない。そういう事態になれば望ましいということはございましても、今日の国際社会におきましては、そういう核兵器の不使用ということが条約法条約で言うところの強行規範であるというふうにはとうてい認識しがたいのではないかと考えます。
  355. 金子満広

    金子(満)委員 確かにウィーン条約でそういうように決めてはいないわけですね。ですから、そうなれば望ましいということですから、こういう点は受動的でなくて、われわれの方から、日本政府の側から積極的に核兵器の不使用というものをあらゆる機会に出していくべきだ。これは国会の決議もあることですから、そういう点で努力をしていくということはいいでしょう、どうですか。
  356. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国際政治の問題あるいは政策の問題としての核兵器の使用、不使用の問題というものと、一般国際法での強行規範、いかなる逸脱も許されない規範として、いま申し上げたような核兵器の不使用というものが国際的に成立するような状況かと申し上げれば、先ほど申し上げましたように、それはそういう状況にはないというのが偽らざる現状だろうと思います。  ちなみに、一言補足させていただきますと、ある種のルールが強行規範たり得るためには、やはりそういう行為に違反した場合にはそれは効果的な制裁措置が講じられるということで、国内社会でもそうでございますが、強行規範であり得るためにはそれを担保するための国際社会の機能というものが当然必要なわけで、強行規範の発展というものは、そういうものとの見合いで考えていかなければならない問題だろうと私は考えます。
  357. 金子満広

    金子(満)委員 いろいろ議論はあるのですが、いまの解釈のとおりでいくと、強行規範という条項はあってもなくても大したことはない、単なる精神的な概念規定だというようになってしまうと、この条項をつくった趣旨にも反してくると私は思うのですね。だから、何が強行規範かという点については、核兵器を使用させない、そして、その点はいかなる理由をつけても使用することは合理化できないわけですから、そういう点で努力をしていくということ、そうなることが望ましい、不使用ということが望ましいということですから、それは努力していくということを当然しなければならぬし、そういう点もひとつ意見として申し上げておきたいと思うのです。  それから、基本的人権の尊重というのはどう思いますか、強行規範との関係で。
  358. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 基本的人権の尊重でありますとか、その他、条約法条約会議におきましても、ほかにも民族自決権でありますとか、国家の主権平等でございますとか、そういうものが強行規範としてあり得るのではないかという議論が行われた経緯はございます。人権の尊重ということが必要であって、そういうものが国際社会の間で次第に確立していくということが必要であり、かつ望ましい。国連憲章も、そういうものを国連憲章の原則としてうたっておるということも事実でございます。  しかし、それと、そういういま申し上げましたように必ずしも定義がはっきりしない、非常に抽象的な広い概念に基づきましてこれを強行規範だと観念して、そういうふうに認識するということ、これは今日の社会においては非常にむずかしいのではないかというふうに考える次第でございます。
  359. 金子満広

    金子(満)委員 ですから、総論は賛成なんだけれども具体的問題になってくるとなかなかなじまない、うまくはまらない、こういうようにも聞こえるわけですが、今後、つまりこの条約法条約を批准した後のあらゆる国際的な条約で、もちろんその条約の中には協定その他も含まれるのはあたりまえなんですが、われわれは基本的人権の尊重であるとか民族の自決権とかいうものはやはり明確にしていかなければならない。そして、絶対に侵してはならない権利であり、そういうものなんだということを定着させなければならないと私は思うのです。ですから、基本的人権という場合に、日本国の憲法十一条では「基本的人権は、侵すことのできない永久の権利」である。これは、わが国の憲法が永久の権利としているのですから、国際的にも、基本的人権を侵していいですとか、一定の条件の場合には侵すことが妥当ですとかいうことは原理としては言えないのだと思うのです。  そういう点では、どれが強行規範であるかという点の例示というのは、さっき言われた程度のものしか出ていないわけですけれども、われわれは、そういう点は進んで積極的にこういうものと言う点の中では、基本的人権の尊重とか、あるいは言われているように国連憲章でも民族自決の原則というのは明確になっているし、世界人権規約でもこの点は侵すことのできない権利として規定してあるわけですから、その点で努力をしていくことが当然のことだと思います。したがって、今後もこのウィーン条約を運用するに当たっては、そういう見地に立ってやってほしい、こういうように思います。  それから、もう一つ強行規範との関連でお尋ねをしたいのですが、第二次世界大戦の経過、結果、そういう中で領土の不拡大の原則というものが国際法上も確立をしてきたと思うのです。第二次世界大戦というのはいろいろの意味で世界史の流れも変えましたし、そしてまた、何が国際的な犯罪であり、何をやってはいけないかという点についてもかなり明確になってきたと思うのです。そういう中の一つに、領土不拡大の原則というのが国際法の原則として確立してくる。  そこで、領土不拡大の原則という立場から見て、例外が国際的にあるかどうか、この点を伺いたいと思うのです。
  360. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 金子先生の御質問を私、正確に理解したかどうかわかりませんが、領土不拡大というものが国際法のルールとして確立しているかということを御質問であれば、そういうルールは国際法としては遺憾ながら確立しておらないのだろうというふうに認識いたしております。  ただ、先ほども申し上げました憲章違反の不法な武力行使をやりまして、その結果として領土を拡大するということ、これは明白に国連憲章の禁止するところでございますし、それから、先ほど私が御説明しました強行規範との関係におきましても、そういう不法な武力行使による領土の拡大というものは、現在の国際法においては例外なく禁じられておる、こういうことだろうと思います。
  361. 金子満広

    金子(満)委員 つまり、武力や暴力や強制によって領土を拡大する、こういうことはできないということですね。——では、そのようにうなずいていますから、その観点から申し上げると、したがって、そういうような方向で領土を拡大するということは許されない、その点では国際法でもはっきりしているわけですね。これは、私は、第二次世界大戦の経過、そして結果の中でより明確になってきたことだ、こういうように思うのです。  たとえば、領土不拡大の原則を規定したカイロ宣言がありますね。カイロ宣言というのは、もちろんポツダム宣言の中にも引用されて生きているわけですね。そして、このポツダム宣言について言えば日本は降伏文書の中でこれはもちろん署名しているわけですから、こういうカイロ、ポツダム、そして降伏文書署名、これは連合国との中にあるわけですから、これは一つの国際的な条約になっている。こういう中でも、領土の不拡大の原則というのは当然貫いていくべきだし、貫かれなければならぬ、こういうように思うのですが、どうですか。
  362. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 第二次大戦中に、英米共同宣言でありますとか、それからその後、いま先生がお挙げになりました一連の文書におきまして、当時の連合国が彼らの政策として領土不拡大ということをうたっておったということは事実でございます。そのとおりでございます。
  363. 金子満広

    金子(満)委員 つまり連合国は、領土不拡大はいまのお話でいくと政策であって、原則ではないということなんですか。
  364. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたように、領土の不拡大というものが国際法によって禁じられているということは、第二次大戦前も第二次大戦中も、それから戦後もないのだろうというふうに先ほど申し上げましたことの繰り返しになりますが、そういう国際法の規則というものは存在しないというふうに私どもは認識しております。
  365. 金子満広

    金子(満)委員 そうしますと、日本の降伏文書というのは、連合国の政策日本が従ったのですか。それとも、降伏文書というのは国際条約だ、こういうようには考えないのですか。負けたとか勝ったとかは別にしてですよ。
  366. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 降伏文書は、もちろん降伏文書の中でポツダム宣言を日本は受諾しておりますから、その限りにおいては、連合国のそういう方針を降伏文書の中で日本は受け入れた、そのほかもろもろの条件とともに受け入れた、こういうことでございます。
  367. 金子満広

    金子(満)委員 条約ということになるのでしょう、性質は。
  368. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 法的なそういう拘束力がある一種の条約であろうかというふうに考えます。
  369. 金子満広

    金子(満)委員 やはり一つ条約であることには変わりないのですね。そうしますと、領土不拡大というのは政策でなくて、国際条約の中で一つの原則になってきている。これはやはり動かすことのできない問題だと私は思うのですね。  そこで、領土不拡大という問題が国際的な原則になっているのだから、これは守らなければいけないというのは当然のことなんですね。そうしますと、二十六条で合意は守らなければならぬということになっています。合意は守らなければならぬということになると、守らないものについては指摘をしていかなければならぬし、守らせる方法を講じていかなければならぬと思いますが、その点はどうですか。
  370. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ただいまの先生の御質問の御趣旨は、戦争中に連合国の政策として表明されておった領土不拡大の原則というものが、戦争の最終的な終結、それに伴うもろもろの処理を取り決めましたサンフランシスコ平和条約にそのまま反映されてないではないか、そういう御趣旨かというふうにそんたくいたしますけれども、そういう意味でございますれば、それは平和条約に盛り込まれております最終的な領土処分というものが連合国が戦争中うたっておりました領土不拡大の原則には必ずしも合致しないものであるということは、そのとおりだろうというふうに考えます。しかしながら、平和条約によりまして敗戦国として占領という地位を脱しまして、完全な主権の回復と国際社会への復帰、そういうことのためにはある種の代償を払わなければならなかったということでございまして、そういうものとしてやむを得なかった事態であるというのが政府の認識だろうというふうに考える次第でございます。
  371. 金子満広

    金子(満)委員 聞かないうちに先の方を読んでいろいろ答弁されるわけですが、私が言っているのは、その降伏文書はあなたがお認めになったように一つの国際協定である、条約である、こういう点は言われているわけですね。すると、その中にはあなたがおっしゃるように、それは連合国側の政策であったかもしれないけれども、それがカイロ宣言、ポツダム宣言、これを今度は降伏文書の中で包括的に国際条約にしているのですから、こういう点で領土不拡大というのは守らなくちゃならぬ、私はその意味で言っているのです。  その次に、あなたが答えましたから、もう一つつけ加えて言えば、サンフランシスコ平和条約ですね。サンフランシスコ条約について言えば、あのときは、といういま解釈があるのですね。それでは、いま今日の時点条約を結ぶとすれば、千島などについてのあの二条(c)項はあのとおりのものができるかどうか、こういう問題にもなると思うのです。あなたは二条(c)項というのはいまにしてみれば妥当ではないがという意味一つは言い、しかし当時の状況としては代償を払うという意味でやむを得なかったとも言っているのですね。その点はどうなんですか。いまでもあの二条(c)項というものはそのままでよろしいかどうか、こういう問題なんです。領土不拡大という、その国際的な、国際法の原理原則から見てどうか、こういう問題なんです。
  372. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほどから申し上げておりますように、いま今日の国際社会におきまして明白に禁じられておることは、国連憲章に反した不法な武力行使によって領土を拡大する、これはいかなる逸脱も認められない厳然たる国際法の大原則であるということでございます。  ひるがえって、サンフランシスコ平和条約によります領土の処理の結果というものが戦争中の連合国の領土不拡大原則に必ずしも合致してないということは、これはそのとおりだろうと思います。しかしながら、先ほど申し上げました私の国際法の認識というものとの関連で申し上げますと、そもそも第二次大戦中の連合国のわが国に対します武力の行使というものが、先ほど申し上げましたような意味での不法な武力行使であるというふうには、日本政府としては認識しておらないわけでございます。したがいまして、サンフランシスコ平和条約二条に基づきます領土の処分が仮に今日行われた場合に、全くの仮定の議論としての先生の御質問だろうと思いますが、そういう場合に、その領土処分が強行規範に反した不法な領土処分であるかというふうに認識すべきかという御質問であれば、それは必ずしもそういうふうには申し上げられないのではないかというのが私のお答えでございます。
  373. 金子満広

    金子(満)委員 第二次世界大戦の場合、連合国の武力が日本にどう向けられたか、そのことについてその性質は何かということを私は聞いているのじゃもちろんないわけです。これは明白に日本の侵略戦争であったということは降伏文書を見ても明らかなんですから、その点をいまここで問うわけじゃありません。問題は、いまあなたは領土の処理という問題で言いましたが、二条(c)項という問題が、カイロ宣言やポツダム宣言や降伏文書の見地に照らして、武力や暴力で分捕ったものではないわけです。これはあなたも御存じのとおりだと思うのです。そうしますと、この点で二条(c)項というものが今日妥当でないということは言えるのだと思うのです。これは連合国がというより、当時日本政府がその主張をしなかったわけです。明確にしなかった。その理由は、負けたのだから、敗戦国だから、当時の状況の中ではという、あれやこれやが並んでくるけれども、そこのところは情状酌量でこうだじゃなくて、国際法の原則なんだから、そういう点から見て二条(c)項というのは妥当でない、こういう点ぐらいは認められるのじゃないですか。     〔青木委員長代理退席、稲垣委員長代理     着席〕
  374. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたことの繰り返しになろうかと思いますが、平和条約の二条の規定というものが、戦争に日本が敗れた、そういう状況のもとで主権を完全に回復して国際社会に復帰するというためにどういう代償を払わなければならなかったか、そういう全体の政治的な日本の置かれた立場というものを離れて、二条の規定だけを取り出してこれがどうあるべきかというふうに論ずることは適当でもなければ、また可能でもないというふうに考える次第でございます。
  375. 金子満広

    金子(満)委員 いずれにしても、いまの時点で二条(c)項の千島に対する権利、権原、請求権、これを放棄するというあの条項が、いまやるならばそのままいくとは私、思いません。しかし、そういう点を幾ら言っても仕方がありませんが、ウィーン条約の精神からして、そういう点をも加味してみれば、二条(c)項というものは廃棄することはもちろんできる。また、そういうことによって領土問題の真に公正な妥当な解決ができるのだ、私はそういうように考えます。  この点は意見がちょっと違うかもしれませんが、やはり領土問題の公正な解決というのは、そういう国際法の原則、領土不拡大という、そこのところに基づいていかなければ、勝った方は負けた方の領土をみんなで分割してやってしまうというようなことが仮にあるとすれば、これは全く不法なことでありますし、第二次世界大戦の前にはそういうことは幾つも事例がありますよ、しかし、第二次世界大戦の後は、そういう形で武力、暴力で他国の領土を自国の領土に編入するとか、分割してとってくる、こういうことはないわけですから、こういう点は、領土不拡大の原則というのは明確にしておくべきだ、また、日本政府はそういう態度を二条(c)項に対してもとるのが筋道だと私は思うのです。
  376. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 平和条約の二条(c)項が廃棄できるか、あるいはまた廃棄すべきではないかという御質問に対しましては、これは従来から政府が申し上げておりますとおりに、サンフランス平和条約というものを、全体はもちろんのこと、その一部の規定を取り出してこれを一方的に廃棄するということは、これは国際法上認められないということでございまして、現在の条約法条約の規定に照らしましても、サンフランシスコ平和条約の二条(c)項を取り出して、これを廃棄するということを許容しているような規定は条約法条約にはございません。
  377. 金子満広

    金子(満)委員 見解はもちろん違いますけれども、四十四条で条約の可分性の問題の中ではそういう点ももちろん考えられますし、強行規範ということにわれわれが関連して言えば、できないということはもちろんないわけで、その点は意見は違いますし、見解は違いますが、さてその次に、武力による威嚇あるいは武力行使という問題で、五十二条に関連して伺いたいと思います。  ここでは、なぜ武力ということだけに限定しているのか、その点を伺っておきたいと思うのです。
  378. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 この規定は、もともと国連憲章の二条から来ております。国連憲章におきますユース・オブ・フォースという、フォースという言葉が具体的には武力を意味するものであるということにつきましては、これは国連加盟国の大多数、あるいは学者の学説等におきましても一致して認められておるところでございまして、特にこの五十二条によるフォースによって強制された条約は無効であるという原則、この場合のフォースというのは武力であるということにつきましては、これは国際社会の、国連憲章の解釈としまして従来から確立しておるものであるというふうに考えます。
  379. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、この五十二条について、ウィーン条約の作成過程では、このフォース、力という問題についていろいろ議論があったと思うのです。その議論の特徴をもしあなたがおわかりだったら短く説明してほしいのです。
  380. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 ウィーン会議におきましては、確かに先生御指摘のとおりに、一部の諸国から、武力以外のたとえば経済的な、あるいは政治的な圧力というようなものも五十二条の対象に含めるべきであるという主張が行われた経緯がございます。しかしながら、結論といたしましては、やはりそういうものはこの条約法で言うところのフォースに含めて解するべきではないということになりまして、そのかわり、もちろんそういう経済的な手段等によりまして相手国にいろいろ不当な強制、圧力を加えて条約締結するということは決して好ましいことではございません。そういうものは国際社会としてはできるだけ慎むべきであるという認識につきましては、これはどこの国も異存がございませんでした。したがいまして、そういう趣旨を盛り込みました宣言を条約とは別途に採択いたしました。そういう経緯がございます。
  381. 金子満広

    金子(満)委員 確かにいま言われるような討論、議論経過がある。そうして、そういう結果、宣言が出されているということも事実です。したがって、この五十二条の「武力による威嚇又は武力の行使」云々というところで出され、しかもこれは全会一致で決まっているのですから、当然国会にもそこで決議された宣言というのは、短いのですから、これは長くとも提出をすべきだと思うのです、この条約の批准を国会に政府が提案するのですから。  この五十二条に関連して、「条約締結の際の軍事的、政治的あるいは経済的強制の禁止についての宣言」があるわけであります。   国連条約法会議は、有効な条約のいずれもが当事国を拘束し、彼らによって誠意を持って遂行されなければならないとの原則を是認し、諸国家の主権ある平等の原則を再確認し、条約締結に関する行為の実行に当たって諸国が完全な自由を持たなければならないことを確信し、 以下省略しますが、その中で、   一、諸国の主権ある平等と同意の自由の原則を侵害して、条約締結に関する行為の実行を他国に強制する目的である国によって加えられる、軍事的、政治的、経済的のいかんを問わず、いかなる形態であれ、圧力による威嚇あるいは圧力の行使を厳かに非難する。   二、現行の宣言が条約法会議最終文書の一部となることを決定する。 ですから、このウィーン条約の最終文書の一部となることを決めているわけですね。ところが、ここに政府は、外務省は提出をしていないわけですよ。  それから、同じくもう一つの、これは決議で、「条約締結における軍事的、政治的あるいは経済的強制の禁止についての宣言に関する決議」、これは非常に短いのですが、   国連条約法会議は、会議の最終文書の一部として、条約締結における軍事的、政治的あるいは経済的強制の禁止についての宣言を採択した後、次のことを要請する。   一、国連事務総長があらゆる加盟国並びに本会議に参加するその他の諸国及び国連主要機関に対しこの宣言への注意を喚起すること。   二、加盟諸国が宣言をできるだけ広く宣伝普及すること。 こういう決議になっているわけです。ところが、宣伝も普及も、大体国会に対してもあなた方はしていないのですね。私はこれは落ち度だと思うのです。  いまのものは私どもが翻訳したのでこれは全く仮訳で、政府、外務省が翻訳したものではもちろんありません。したがって、私は、きょうこの条約の採決は行わないわけですけれども、次の委員会までにいまの二つの宣言と決議は日本語に翻訳をして提出をしてもらいたいと思うのです。これは委員長、別に秘密文書でも何でもない、あるのですから、その点をひとつお願いしていただきたいと思うのです。
  382. 稲垣実男

    ○稲垣委員長代理 ちょっとそれについて答弁させます。栗山審議官
  383. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 従来、国際会議条約を採択します際に、国連等におきまして種々の決議が同時に採択されるという場合は多々ございます。その際に、その条約につきまして国会の御承認をいただくという場合に、その決議自体を参考として国会に提出するという慣行は必ずしもないわけでございますが、御指摘の宣言二つにつきましては、金子先生の御要望がありましたので、次回委員会までに間に合うように提出させていただきます。
  384. 金子満広

    金子(満)委員 それでは、それを確認して、次に移りたいと思うのです。  その次に、武力の行使というのは単純にわかるわけですね。鉄砲を撃つとか、爆弾を落とすとか、機関銃をどうするとか、武力の行使というのは単純にわかるのですが、武力による威嚇ということになるとなかなか定義がむずかしくなると思うのです。もちろん、この条約を批准するわけですから、政府としては武力による威嚇というのはどういうものなのか、その点を具体的に聞かしてもらいたいと思うのです。
  385. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先生御質問の中で触れられましたように、威嚇というものがどういうものかということになりますと、客観的にはなかなか立証がむずかしい場合があろうかと思います。しかし、常識的に言いまして武力による威嚇とは何かということであれば、相手の国に対して、自分の意思に従わないのであれば武力に訴えるぞ、そう言っておどかしをして、そうしてこちらの主張を向こうに受け入れさせるというふうにするというのが武力による威嚇ということだろうと考えます。
  386. 金子満広

    金子(満)委員 いまの説明によりますと、自分の方の言うことを相手が聞かなければ武力に訴えてやるぞという、つまり言葉になれば威嚇ということですか。もう一つは、無言の威嚇ということもあるでしょう。ですから、自分の言うことを聞かなければ武力でやりますよと言う以外には威嚇にはならないという解釈をしますか。
  387. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 口に出して言わない場合はどうかという御質問でございますけれども、これは口に出して言わなくとも、客観的に見て明々白々、そういう意図がはっきりしておるという場合であれば、それは威嚇ということの中に入るかと存じます。
  388. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、具体的には威嚇の定義というのはあるのですか、ないのですか。国際法上これが威嚇であるというものがないとすれば、日本政府は、外務省は、条約締結した当事者はここで言う「武力による威嚇」とはどういうようなものを言うのか、その点どうですか。
  389. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたようなことが政府の考えだろうというふうに思います。
  390. 金子満広

    金子(満)委員 よくいわゆる防衛力論争の中で出てくる問題ですが、専守防衛という一つの言葉がある。そういうときに、具体的にお聞きしたいのですが、相手が脅威を感ずることがあれば、それは威嚇の構成要因になるのかならないのか、この点はどうですか。
  391. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど申し上げましたように、直接武力を使うぞと口に出して言わない場合はどうだという御質問がありまして、それに対して私は客観的に明々白々であればそれは口に出さなくてもよいであろうということを申し上げた次第でございます。  ただ、今度は一方の国が非常に威嚇だと感ずる、主観的に感ずるということは、これは客観的には非常にむずかしい問題でございまして、ある種の状況のもとにおいてその国が非常に威嚇されているというふうに感ずる場合におきましても、それがさっき私が申し上げましたように客観的に明々白々な威嚇という事態が発生しているかどうかということは、必ずしも判断できないことではなかろうかというふうに考えます。
  392. 金子満広

    金子(満)委員 そうしますと、五十二条に言う「武力による威嚇」というのは、その都度いろいろの状況を勘案して日本の政府が判断する、外務省としてはそういうふうに考えているのですか。
  393. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国連憲章の原則に反した武力による威嚇、武力の行使、これは国際法上不法である、こういうことでございますので、やはり武力による威嚇にしましても、武力の行使にしましても、ある程度個々の事態に即して考えなければいけないかというふうに存じますけれども、やはり法の規則でございますから、一方の当事国がそれを主観的に判断して、それが武力の行使であるとかないとか、あるいは威嚇であるとか威嚇でないとかというふうに非常に恣意的に判断すべきものではないと考えます。
  394. 金子満広

    金子(満)委員 以前この委員会で、私は、紛争とは何かということをお聞きしたことがあるのです。そうしたら、なかなかこの紛争の定義が出てこない。出てこないから、紛争当事国というものも不明確になる。当事国が不明確なら、なおさら周辺国はわからなくなる。しかし、この場合には、条約を作成する過程日本からも複数の代表が行ってこの議論に参加しておるわけですね。そうしますと、当然この武力による威嚇とか武力の行使とかいう問題について、さきの買収の問題では相当突っ込んだことを言って主観的にやっているのですから、武力による威嚇について、日本の政府としては、また政府代表としてはこういう考え方だというのを述べたことはあるのですか、これは全然タッチしなかったのですか、どうですか。
  395. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 私も審議経過をしさいにすべて記憶しておるわけではございませんが、私の記憶する限り、武力による威嚇とは何かということを定義づけようとしたことは会議自体でもございませんでしたし、わが国の代表がそういうものを定義しようというふうに提唱したこともなかったというふうに承知しております。
  396. 金子満広

    金子(満)委員 それでは、武力による威嚇とは何かということについて政府の考えていること、これを次の委員会までにひとつ出してほしいのです。出す、出さないにかかわらず条文としてあるのですから、これが何もわからなくて、賛成しろ反対しろと言われたって、これはちょっと乱暴な話だと思うのです。ですから、いまの段階であなた方の方で考えている武力による威嚇というのはこのようなものを言うとか、こういうようなことが考えられるとか、私はそういう点で一つ見解を次の委員会までに出してほしいと思います。この点、委員長、よろしくお願いします。
  397. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 先ほど、武力による威嚇とは何かという御質問がありまして、それに対して、他国に対して自国の意に従わなければ武力に訴えてその主張を通すという意思を示してみずからの主張を通そうとすることが武力による威嚇だというふうに認識しておるということを申し上げたわけでございますが、それ以上、武力による威嚇というものは何かということを定義せよというふうにおっしゃられても、実際問題としては、先ほど申し上げましたように個々の事態におきまして非常に判定がむずかしい問題でございますので、定義しろ、日本政府としての定義はどうかとおっしゃられても、これは非常にむずかしいのではないかというふうに考える次第でございます。
  398. 金子満広

    金子(満)委員 わが意に相手を従わせるというときに武力でやるぞという、それは威嚇だ。しかし、無言の威嚇もあるということも認めたわけですね。ですから、そういうものを、いま考えているものでいいのです。これは永久に不変だというものでなくて、いま「武力による威嚇」というのを、条約の条項にあるのですから、その威嚇というものをこう考えていると、いまおっしゃったことであればそれだけでも、あるいはそれにまだプラスすることがあれば出してほしい。ウィーン条約を作成する過程でいろいろ議論にはなったと思うのです。日本政府は何も言わなくても、国際的には議論になっていると思うのです。国連憲章その他も含めて、同じようなことしかなければ、同じようなことでもいいですよ。きょうの議論はここのところでこの問題については切っておきますから、次に出してほしいと思うのです。委員長、それをちょっと念を押しておいてください。
  399. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 いま私が申し上げました以上の明確な定義というものはなかろうかと思いますが、なおその会議におきます審議経過などをもう一度検討いたしまして、改めて御報告いたします。
  400. 金子満広

    金子(満)委員 その提出を確認して、次に移りたいと思います。  三十四条から三十八条までのいわゆる第三国条項、これについて幾つか伺いたいと思うのです。  御承知のように、一九〇一年に締結されたパナマ運河に関するアメリカとイギリスの二国間の条約があります。この条約はその三条で「運河は、これらの規則を遵守するすべての国の商船及び軍艦に対し、全く平等の条件の下に自由とされ且つ開放されなければならず、」運河は絶対に封鎖されてはならない、こういうように規定しておるわけですね。  それから、スエズ運河の方ですが、一八八八年のスエズ運河に関する条約では、エジプトを含む多数国間の条約になっていますけれども、その一条で「スエズ海水運河は、国旗の区別なくすべての商船及び軍艦に対し、平時においても戦時においても、常に自由であり、且つ、開放される。」そのように規定しておるわけですね。同時に、四条では「締約国は、たとえトルコ帝国が交戦国の一となる場合でも、運河及びその出入港並びに出入港から三海里の範囲内で、いかなる交戦権もいかなる敵対行為も又運河の自由航行の妨害を目的とするいかなる行為も行わないことを約束する。」このように規定しているわけですね。  そこで、お伺いしたいのですが、これはウィーン条約による三十六条に該当すると思いますが、そのように解釈できますか。
  401. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 いま金子先生の御指摘になられた条約は、私は実は名前は承知しておりますけれども、正直に申し上げてしさいに読んだことがございません。したがいまして、いまの条約法の規定に言うところの第三国の権利義務というようなものを創設した条約であるかどうかという御質問に対しては、私、お答えする自信がありません。  一般論として、国際河川でありますとか運河に関します取り決めで、そういう第三国に対する通航の権利とかいうものを認めるという場合が従来からございまして、条約法の第三国の権利に関します規定も、そういう国際先例というものを参考にしてつくった規定であるということは承知しております。  ただ、いま先生がおっしゃられた二つの具体的な条約につきまして、これと条約法条約との関連はどうかということになりますと、その条約自体をちょっと勉強いたしませんと、明確なお答えはできません。
  402. 金子満広

    金子(満)委員 いま答弁のとおりだと思うのですね。つまり、パナマ運河の場合でも、スエズ運河の場合でも、その国際性、そして第三国に対する害じゃなくて益の方、そういう点を保障するという形になっているわけですね。そういう国際的な運河、それが今度のウィーン条約の中でも第三国問題について触れているところだし、そういう点は平時でも戦時でも守っていくということがスエズやパナマの場合あるわけですから、そういう点で非常に大きな意義があるし、そういう条約の発展としてこのウィーン条約というものになったのではないか。まだ確定的に申し上げませんでしたけれども、あなたの答弁は、そういうようになったのではないかということも言っているわけですね。  そこで、もう一つ話を進めて申し上げたいのですが、運河が国際的であると同時に、海峡の場合にも国際海峡がたくさんあるわけですね。領海であっても国際海峡が日本でも津軽その他あるわけですが、これは同じように第三国に対しての自由な航行を認めるということになっていると思うのですが、どうですか。     〔稲垣委員長代理退席、委員長着席〕
  403. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国際法によりまして、具体的にはいま成文の条約としては領海条約でございますが、領海条約において、海峡につきましても一般船舶の無害通航の権利を認めるという制度がございます。
  404. 金子満広

    金子(満)委員 そのとおりだと思うのですね。それをさらに発展して考えてみた場合に、結局、戦時においても平時においても、スエズ、パナマの運河は封鎖をしないということに条約上なっている、こういうようなことでありますから、これは当然わが国の場合もその方向でやっておくことが大事だと思うのですね。  いま海洋法会議が開かれていますね。その海洋法会議でいろいろ国際海峡の問題が議論されると思うのです。そこで、国際海峡について、戦時、平時を問わず、すべての艦船の自由航行を保障するという見地に日本が立ってこれをやるべきだと思いますが、その点どうですか。
  405. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 現在の海洋法会議におきまして、国際海峡につきましては、従来の一般国際法で定められております、あるいは領海条約で定められております無害通航権、それをむしろ強める、通航の側から言えばある程度強めるという観点から議論が行われております。そういう新しい通航制度というものをつくるということにつきましては、わが国は基本的にはこれを支持するという態度で海洋法会議に臨んでおります。
  406. 金子満広

    金子(満)委員 そこで、これは一つの問題になって、国会でもいろいろ議論になった経過もあるし、今後もなるだろうと思いますが、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡、三海峡封鎖問題というのが話としてあります。このウィーン条約の第三国条項という立場から見て、それからまた、あなたがいまお話しになりました自由航行を強めていくという日本政府の方針からして、三海峡封鎖なんということはあるのかないのか、私は絶対にあってはならぬと思うのですね。その辺はどうですか。
  407. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国際河川でありますとか、運河、それから国際海峡というようなものについて、一般的な制度としてなるべく自由通航が望ましい、国際的に見て、沿岸国のみならず、非沿岸国あるいはその海峡を利用する国にとっても自由通航ができるということが望ましいということはおっしゃるとおりでございます。日本政府としてもそういう態度で海洋法会議に臨んでおるということは、先ほど申し上げたとおりでございます。  三海峡封鎖の問題につきましては、これは従来から政府の方として御答弁申し上げておりますとおりに、わが国に対する武力攻撃というものが起こりまして、それを排除するためにわが国が自衛権を行使する、その自衛権行使の必要の範囲内で、三海峡に対していま御質問のありました封鎖というような措置をとることが自衛権行使の一環としてあり得べしということについては、これは従来から政府が御答弁申し上げているとおりでございます。
  408. 金子満広

    金子(満)委員 仮に自衛権行使というような事態があったときに、どこかの相手国以外の国の艦船は自由に通航できますか。
  409. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 自衛権行使の一環として、わが国に武力攻撃を行っておる国の艦船のみならず、やむを得ざる場合において、第三国の船舶というものに対しても通航を制限するということは、これは全くあり得ないわけではないというふうに考えます。
  410. 金子満広

    金子(満)委員 では、何のことはない、一言で言えば三海峡を封鎖しますということじゃないですか。  そこで、この自衛権と交戦権との区別と関連をひとつ。これはそこまでもう物を言っているのですから、はっきり言えると思うのですね。その点を明確に答えてもらいたいと思うのです。
  411. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 国際法上の交戦権と申しますのは、国が戦時におきまして有します種々の権利の総体をあらわすものとしてこれを交戦権と言うということは、政府が答弁で申し上げておるとおりでございます。これと、わが国が国際法上、憲法上有しております個別自衛権というものとは別のものというふうに考えております。
  412. 金子満広

    金子(満)委員 ですから、別だから、どこが別だか、別の境を言ってくれというのですよ。そうでないと、自衛の名において、つまり自衛権の行使ということで第三国にまで累を及ぼしていく、三海峡は封鎖しますとあなたはおっしゃるのだから。そうでしょう、そういうことがあると言っているのだから、これは重大なことで、宣戦布告をするのだか何だか、私はあなたの意図がわからないから、わかりませんよ。しかし、三海峡を封鎖することは自衛のためならあり得る、その場合には第三国のものも通しません、これは日本政府はやります、これは自衛権の行使です、それじゃ交戦権との関係はどうかと言ったら何か抽象的に答えるのじゃなくて、これは重大な問題だと思うのですね。  ウィーン条約もそういう点で第三国の利益をどう守るかということを条約として決めているのですから、この条約を批准してしまえばすべてはこの条約によって今後律せられるのでしょう、この条約と違ったことはできないのですから。海洋法会議は方針はこれです、自由航行を大いにやれるように主張します、しかし三海峡は封鎖しますでは、話が全然違うのですね。同じ人が答えているのですから、この矛盾をどうするか、これはこのウィーン条約にも関連して大きな問題だと私は思うのです。あなたがそういうように三海峡封鎖あるべしといま段平をここに掲げたわけだが、本当にそれでいいのですか。
  413. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 私は別に三海峡を封鎖するということを申し上げているわけではございません。もちろん、従来から再三政府が答弁申し上げておりますとおりに、自衛権というのは、外部からの急迫不正の侵害に対しこれを排除するのに他に適当な手段がない場合必要最小限度の実力を行使する、これが自衛権であるということを申し上げておるわけでございまして、三海峡封鎖の問題もその自衛権の範囲内でのことで、具体的にどういう場合にどうということをあらかじめ予断して封鎖することを考えているのだというふうに私が申し上げたわけでは全くございません。  ちなみに、条約法との関係で申し上げますと、条約法条約の七十三条というのがございまして、これには「国の間の敵対行為の発生により条約に関連して生ずるいかなる問題についても予断を下しているものではない。」という規定がございまして、武力紛争という事態が起きましたときの条約に関連して生ずる問題というのは、これは一応別の問題であるということを規定してございます。
  414. 金子満広

    金子(満)委員 七十三条の「予断を下しているものではない。」これはわかりますよ。ところが、三十六条は第三国の権利について規定しているのですね。だから、この条約を批准しないのなら拘束されないわけですよ。しかし、この条約を批准したら、批准の日からその以後の日本関係する一切の国際行為というのは、条約についてもこれで律せられるということになりますよね。だから、そういうときに、三海峡を進んで封鎖するとは私も聞いていないのですよ。また、あなたもそう言っているのじゃないのですね。しかし、三海峡を封鎖するということは理論上もあり得るし、実際上も一定の状況のもとではあり得るのだということを言うから、これはえらいことですよ、この条約の三十六条及び四節全体に照らしてみてどうなのかということを聞いているのです。
  415. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 いずれにいたしましても、この三十六条の問題は、いま先生の御質問で出てきておりますたとえば海峡でありますとか、運河でありますとか、河川でありますとか、そういう問題の場合には、その特定の河川、運河というものにつきましてある一定の国が集まって条約をつくって、そしてその条約のルールに基づいて第三国にどういう権利を与えるとか与えないとか、そういう場合のルールのことを三十六条というのは規定しているものでございまして、そういう条約を離れて一般国際法のもとでどういうルールが個々の海峡に適用されるかという問題は、この三十六条の問題とは全く別個の問題ではなかろうかというふうに私は考えております。
  416. 金子満広

    金子(満)委員 それでは、時間ですから、いまの点は別の機会にもう少し詰めていきたいと思いますが、最後に一問だけ。  七十四条の「外交関係及び領事関係条約締結」というので「国の間において外交関係又は領事関係が断絶した場合又はこれらの関係が存在しない場合にも、これらの国の間における条約締結は、妨げられない。条約締結すること自体は、外交関係又は領事関係につきいかなる影響も及ぼさない。」というのは、これは事例としてはどんなことを指して言うのですか。
  417. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 これは外交関係、領事関係がないからといってどんな条約も結んではいけない、外交関係がなければ必然的にそういう条約を結ぶことができないというものではなくて、単なる非常に技術的な、実務的な条約でありますれば、そういう外交関係、領事関係が存在しない場合でも条約を結ぶことは当然認められるのだ、それから、今度は逆に、条約を結んだからといってそのこと自体が相手国と外交関係を持つという、そこからそういう意味になることはないのだということを規定しているものでございます。すなわち、外交関係や領事関係がないからといっていかなる条約もその国と結ぶことはいけないということはありません、それから、逆に条約を結んだからといってそのこと自体がその国との外交関係があるということを意味するようなことにはならないのだ、そういうのがこの七十四条の規定の趣旨でございます。
  418. 金子満広

    金子(満)委員 たとえば、外交関係はないけれどもそれぞれの相手国にもこちらにも自分の国の国民がいるというときに、その安全を保障する、自由を守るというような取り決めなどがそれに該当するのですか。外交関係は断絶している、しかし相手国にいる日本国民あるいは日本にいる相手国の国民の生命や財産は保障していくというようなこともたとえばその例になりますかと、こういうことです。
  419. 栗山尚一

    ○栗山政府委員 外交関係がない、領事関係がないという状態のもとで、その国におりますわが国の在留邦人の保護が何らかの条約関係でできるかということになりますると、一般論として申し上げますとなかなかむずかしいのではなかろうかというふうに考えます。ただ他方外交関係がなくとも、非常に限定された特定の問題を処理するためにその国との間に何らかの法律的な約束をしてその問題を処理する、そのために何らかの条約をつくるということはあり得ることではなかろうかというふうに考えます。
  420. 金子満広

    金子(満)委員 終わります。
  421. 奥田敬和

    奥田委員長 次回は、来る二十四日金曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後六時二十分散会