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参考人(黒川正典君) 私、ただいま御紹介いただきました黒川でございます。経歴を簡単に申し上げますと、ここには氷川商事会長となっておりますが、
大学で船舶工学科を修習いたしまして、直ちに
日本郵船に入りまして、昨年まで在籍しておりました。主として工務関係を担当いたしたわけでございます。
原子力船関係につきましては、現在原子力産業
会議の
原子力船懇談会の小
委員会、これの副
委員長を務めておりますけれども、主として
技術的な面よりも、むしろ
原子力船のあり方は一体どうあるべきかといったような検討の場でお手伝いをさせていただいております。したがいまして、ここでは時間の関係もございますので、主として
原子力船の
開発の
必要性とか、
原子力船に対する関係業界の
現状と姿勢、「
むつ」を含めますこれからの
原子力船の
開発、さらには官民の役割りといったようなものにつきまして重点的に述べさせていただきたいと思います。
最初に
原子力船の特徴というものを申し上げるべきでございますが、これは先ほど
竹村参考人からお話ございましたので省略さしていただきます。
原子力船の
必要性につきましては、これは産業界にとりまして、まず原子力商船の
意義というものがオイルショックを境にいたしまして、その前後で大きく変わっております。すなわち、オイルショック前の高経済成長の最も進んだ時期におきましては、
海運界におきましても
コンテナ船は非常に超高速化していく、さらにタンカーとか専用船といったようなものは大型化していく、そのテンポが非常に違うございまして、これによりまして必然的に
馬力も大きくなってくる。
コンテナ船で例を申し上げますと
昭和四十六年、
わが国で欧州航路用として建造いたしました三万五千トン型の
コンテナ船では八万
馬力で二十六ノットという性能を持っておりますし、翌年の四十七年には先ほど
竹村参考人からお話ございました米国の
シーランド社のSL17というシリーズ物でございますが、これは十二万
馬力で三十三ノットというのを建造いたしまして、このうち欧州
コンテナ船で例を申し上げますと八万
馬力ですが、
日本と欧州の間は約一万二千六百海里ございます。これを途中寄港しないで真っすぐ行くといたしますと、二十六ノットで二十日間かかりまして、その間、
燃料はマイジンを含めますと九千トンという量を持って出帆しなくちゃいけないということになるわけでございます。この量は戦前のオイルタンカーが大体一万三千トンというのが標準型であったということを考えますと、いかに多くのバンカーが必要であったかということがおわかりになると思います。しかし、このような超高速化の競争を続けました結果、油だきとする限りは、もう実際上商船としての限界に来たのだということで、その壁を破るためには
原子力船が浮かび上がってきたというのが実情でございます。ところが、オイルショック以降は御
承知のように、重油の
価格が当時一挙に三ないし四倍になりまして、それまでスピード競争をしておりましたのが急速に冷却いたしまして、その後今日まで引き続き重油高のために、現在ではボンド油でキロリットル
当たり約二百ドル、邦貨換算いたしまして約四万二千円になっております。したがいまして、今日ではこの油高のために
コンテナ船ばかりでなくて、タンカーや専用船につきましても、ただいま減速
航海というのが常識化しつつございます。このように船舶におきましても、直接に
燃料消費量を節約すると同時に、当然エネルギーの多様化により重油の節約を図るということが叫ばれてまいりまして、その一環といたしまして、改めて
原子力船がクローズアップしてきたというのが実情でございます。したがいまして、このようにオイルショック前は主として高速のために必要だからということであったんですが、その後は油の節約というふうに変わってきたわけでございます。したがいまして、
コンテナ船の非常に高速なのは数が知れておりますんで、もし油の総量を節約するということにいたしますと、
コンテナ船だけじゃございませんで、できる限りの船について原子力化するということが望ましいわけでございまして、
海運の
立場から申しますと、一万
馬力程度からと、欲を言えばそういうことでございますか、これではちょっと低出力過ぎまして無理であろうということなので、さしあたり
開発が可能であろう、それから何とか将来採算がとれるだろう、しかも比較的需要の多いと思われます中
馬力程度、具体的に申しますと約三万
馬力、これは先ほど
竹村参考人と同じでございますが、この
程度以上のものを対象といたしまして、
原子力船に転換するということをねらったわけでございます。ここでわれわれ船舶が
原子力船の対象になるんだというふうに思っておりますが、一方では対象にはならないんだという
意見もあるのも事実でございまして、この点で正直なところ、いままで民間の関係業界においても十分なコンセンサスが得られてなかったということが、
原子力船の
必要性を説く上での決め手を欠く一因になっておったかと思います。
そこで、ここで改めていま一度原点に戻りまして、船舶用として考えられるいろいろの
燃料がございますが、この中からエネルギーを中心にして見たときの船舶の位置づけは一体どうあるべきかということを見きわめる必要があろうかと思います。御
承知のように、石油というのは大切なエネルギー資源であると同時に、石油化学の原料といたしまして、われわれにとってなくてはならない生活物資の原料でもございます。
そこで、この限りある石油というものは、石油でなければならないという分野に重点的に使用して、
エネルギー源といたしましては、可能な限り他の代替エネルギーに転換するというのが必要かと思います。これは現在世間でよく言われているところでございますが、そこで、将来のエネルギー利用の分野を私なりに展望いたしてみますと、いずれも常識的なことでございますが、まず自動車とか航空機あるいは漁船とか小型船と、こういうものは比較的に出力も低うございまして、また軽いということ、さらには移動性の強いというようないろいろな条件ございます。どうしても石油系の
燃料が本命でございまして、たとえ代替エネルギーを使うといたしましても、石炭液化による油を使うとか、自動車ならば電気自動車に転換するというのがせいぜいかと思います。一方また、
発電所のように
陸上で十分な敷地が確保できますところでは、原子力発電あるいは石炭火力というのが常識になるかと思います。
これに対しまして、大型の船舶は一体どうなるかと申しますと、機動力を十分発揮させるという上からは、世界各地で自由に入手できます油だけにするのが一番でございまして、また使っても非常に重宝だというような
経済性もあるというようなことから、やはり船は飛行機や小型船並みに引き続いて油だけで通すべきであると、あるいは代替エネルギーを使う場合としても、石炭だけで進むべきじゃないだろうかという
意見も一応はうなずけないわけでもございません。しかし、将来石油がだんだん不自由になってくるということは、これは必至でございます。けさほどの新聞によりますと、サウジが十四万バレル
日本にふやしてくれたと、いろいろニュースございますが、ずっといままでのやつを展望してみますと、毎日毎日は一喜一憂するという事情ございますが、長い間の展望を見ますと油のなくなる、あるいは非常に少なくなるということは、私は必至だろうというふうに考えております。
現在、船舶用に使われております
燃料は、油にいたしまして約二千数百万キロリットルになっております。これは民生用の化学製品の原料に使いますナフサ、これが約三千万キロリットルになるかと思いますが、ほぼその量に相当いたしますし、
日本で輸入いたします原油の約一割になっております。したがいまして、この量というのは非常にばかにならないものでございますので、この中から少しでも他の代替エネルギーに転換するというようなことを考えますと、それは石炭もございましょうけれども、やはり
原子力船というものを、この特徴を考えますと、将来大型船では十分これを対象にしなければいけないし、またなり得るものじゃないかというふうに考えております。
現在、
原子力船の対抗馬に見られます石炭だき船では、これはいろいろ具体的な話ございますが、その炭有地が非常に偏っておると、現在豪州の船は成約になっておるようでございますが、これは豪州の内航船でございまして、豪州の東海岸と西海岸を走るという石炭の産地の間を走る船でございます。どこで
もとれるというわけにもいきませんし、また石炭ですと御
承知のように非常にかさがかさばります。あるいは灰とかSOX、NOXといったような処理も非常に厄介だというようなこと、さらには石炭と申しましても、これは油の前は化学薬品の製品の原料でございまして、やはり化石
燃料といたしましてはこういう方面にも将来は使わなくちゃいけない。そうなりますと、燃やすほか使い道のないという核
燃料、これを使いました
原子力船というのは、将来のあるべき大きな指針かというふうに考えております。
しからば、
原子力船に対します関係業界の
現状あるいは姿勢はどういうものかということを申し上げますと、現在産業界にありましては、原子力産業界の中に、
昭和四十三年以来
原子力船懇談会というのを設けまして、これが中心になりまして取りまとめを行っております。そしてその都度
意見書として提出されております。このメンバーの中で特に関係の深いと思われます
海運と造船の業界の
原子力船に対する取り組み方につきましては、概して次のようであるかと思います。
海運界は
原子力船の需要をつくり出すという
立場にあるわけでございます。ただ、先ほど申し上げた大量のエネルギーを消費するものとしての使命感から、将来エネルギーの多様化のために、いずれは
原子力船に取り組まざるを得ないということは観念的にはわかっておりますが、
現状では
原子力船がいまだに
経済性の高い炉が、いわゆる決定版になるようなものは
開発されてないとか、いろいろむずかしい問題もある。したがいまして、航行上の諸制約その他いろいろ問題ございますが、そういうようなことでいま直ちに必要はないんだけれども、将来必ずそういう時代がくるから、必要になったときにはいつでも建造できる
体制だけは整えておいてほしいというのが大方の
意見でございます。
造船業界といたしましては、これは受け身となりまして、やはり需要があるかどうかによってずいぶん影響するところでございますが、ただいまのところどの
程度の需要があるかという見きわめが十分立たないというので、さしあたっては将来に備えて
技術者の温存、確保とかというようなことはしておりますが、ただいまのところ、将来のニーズを先取りして自主的に積極的に
開発しようという動きはないように見られております。
いずれにいたしましても、水面上はこのようなことでありますけれども、具体的には私ども郵船といたしましても「
むつ」には
乗組員を派遣しておりますし、造船所もいろいろ事業団その他に派遣するといったようなことで陰になりひなたになりして御協力はしているわけでございます。
このように
原子力船の将来はエネルギー、特に石油事情の動向によりまして著しく左右されますので、将来とも的確な見通しがつけがたいので、いま一歩どうも煮え切らないというふうにお考えかと思いますが、これではいけないというので、現在原子力産業
会議の先ほど申し上げました
原子力船懇談会の中に、
原子力船の
開発目標に対する検討会、ちょっと長い
委員会の名称でございますが、明年末ごろ結論を出すということで発足しております。先般発足してまだ作業途中でございますので、現在どうなっているかということはわかりませんが、先ほど申し上げました将来の見通しその他につきましては、ここにありますような
開発目標に対する検討会ということなんで、その成果を期待しておるわけでございます。
大分長くなりましたけれども、急いで申し上げます。
そこで、次に
開発関係でございますが、
開発の緊急性、これはもうOPEC、特に中東産油国の情勢が非常に不安定である。あした何が起こっても不思議でないんだという時代になっております。当然これにエネルギーを依存する
日本といたしましては代替エネルギー、そのうちの大宗をなします
原子力船というものは、一刻も早く
開発しなくてはいけないんじゃないかということ。それから
原子力船と簡単に申し上げましても、これには相当長期間要します。また、莫大なお金あるいは人手もかかることなので、いま直ちにやる必要があるんじゃないかというふうに考えております。
次に、
自主開発の
必要性でございますが、これは私どもの先輩でもよくそういう人がいるんですけれども、
原子力船を在来のディーゼルエンジンと同じように考えまして、必要なら外国から
技術導入してくればいいじゃないか、あるいは直接炉を買ってきたっていいじゃないかというような明治時代の感覚で申される人もあるわけでございますが、
わが国は御
承知のように、独自のセーフティークライテリア、デザインクライテリア、まあ安全基準と申しますかというのを持っておりますので、外国からのお仕着せですと、先ほど
竹村先生のおっしゃったように、どうも基礎的
技術基盤を確保して安定性を持たなくちゃいけないということに欠けるんじゃないかということなので、
自主開発をする必要があると思います。
それから、次に「
むつ」の活用でございますが、これも結論としては大いに使うべしということでございます。と申しますのは、船舶はその
特性といたしまして、空気と液体という相異なる流体の間を走るというどこにもない宿命がございます。このために波という厄介なものがございまして、これがいろいろいたずらをするわけでございます。具体的には
動揺とかあるいは振動、スランミング、表をぱんとやるやつですが、これには当然ショックが伴いますが、こういったような力が、しかも同時にかかってくる。重なってきて複雑な運動を与える。当然それによって船体にもいろいろな力が加わってまいるわけでございますが、これによって
原子炉にもいろいろ複雑な影響を与える。こういうような複雑な力は
陸上では再現いたせません。やるとしましても非常に困難でございます。こういうことで、どうしても実船実験というのは必要であるというふうに考えております。これは
原子力船ばかりじゃなくて、現在でも造船が経験工学だと言われるぐらいでございますので、しょっちゅう実船実験をやっております。また、このようないろいろ頻繁な
負荷変動があるというようなものもございますし、さらにまた動かしてみなきゃわからないという、ハードばかりじゃなくてソフトのいろいろな面もございますので、やはり船上で経験しかつ解明する必要のある問題は
幾つかあるんだと思います。
私、
原子力船開発事業団の方にもかねがねから非常に不満を持っておりましたんですが、大体あの事業団は「
むつ」で終わりだと、それからできた後も二年ですか、慣熟運転やって必要な
データ取れば事足れりといったようなことで、とんでもない。何のために「
むつ」をつくったんだ。これは実用化する間のみぞを埋めるものじゃないだろうか。だからそれで事足れりというんじゃなくて、原子力というのはまだ決定版がなくて日進月歩だ。進歩の過程で実船実験の必要なのがしばしば出てくる。したがって、それを繰り返し繰り返し利用してやる試験船である。そういうふうに使わなきゃうそじゃないかと申すんですが、法律というのはなかなかむずかしいもので、「
むつ」でおしまいだということでございますが、今後新しい法律に改正になりましたら、極力そういう
意味で「
むつ」を活用していただきたい。船上じゃなきゃできないものがありますので、活用していただきたいというふうに思っているわけでございます。オット・ハーンでも一次、二次と炉心をかえております。こういう例があるわけでございます。
以上、るると長く申し上げましたが、そこで、当面考えられます
開発課題といたしましては、さしあたって「
むつ」を何が何でも所期のとおり生かす。それから、まだ「
むつ」は
経済性を二義的に扱っておりますので、やはり
経済性の高い改良されました炉、これの
開発、これはぜひ進めていただかなくちゃいけない。小型軽量、
経済性の高いというやつでございます。
こういったことが中心になりましょうが、ここで特にお願いいたしておきますのは、先ほど申し上げましたように、主な
海運会社は現在「
むつ」に
乗組員を派遣しております。そういうこともございまして、
安全性というのに対しまして地域の住民の方、これはもちろんでございますが、それ以上にわれわれは本船に乗っている
乗組員の安全というものはずいぶん気にしております。したがいまして、
原子力船に対する不信感というのがいろいろあると思いますが、これを払拭するようにじっくりじみちな努力を続けていただきたいというふうに思っております。
最後に、
開発に当たっての官民の役割りでございますが、これは政府主導型にしていただきたいというふうに考えております。その理由は、何せこれはもうコマーシャルベースの問題じゃなくて、エネルギー問題という大きな国家的要請がある問題である。それから、これには先ほど来申し上げました相当の期間とお金と人手がかかるということで、とても民間では手に負えないということ、これが主な理由でございます。
大変長くなりましたけれども、終わらせていただきます。