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1980-11-06 第93回国会 衆議院 農林水産委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十五年十一月六日(木曜日)     午前十時二分開議  出席委員    委員長 田邉 國男君    理事 津島 雄二君 理事 羽田  孜君    理事 福島 譲二君 理事 新盛 辰雄君    理事 松沢 俊昭君 理事 武田 一夫君       逢沢 英雄君    小里 貞利君       亀井 善之君    川田 正則君       岸田 文武君    北口  博君       北村 義和君    近藤 元次君       菅波  茂君    田名部匡省君       高橋 辰夫君    保利 耕輔君       三池  信君    小川 国彦君       串原 義直君    島田 琢郎君       田中 恒利君    竹内  猛君       日野 市朗君    安井 吉典君       吉浦 忠治君    神田  厚君       木下敬之助君    近藤  豊君       野間 友一君  出席政府委員         農林水産政務次         官       志賀  節君         農林水産大臣官         房長      渡邊 五郎君  委員外出席者         参  考  人         (日本経済調査         協議会理事相談         役)      青葉 翰於君         参  考  人         (全日本農民組         合連合会書記         長)      谷本たかし君         参  考  人         (東京大学農学         部教授)    逸見 謙三君         参  考  人         (東京大学農学         部教授)    金沢 夏樹君         参  考  人         (日本経済新聞         社論説委員)  山地  進君         参  考  人         (全国農業協同         組合中央会常務         理事)     山口  巖君         農林水産委員会         調査室長    小沼  勇君     ————————————— 委員の異動 十一月六日  辞任         補欠選任   神田  厚君     木下敬之助君 同日  辞任         補欠選任   木下敬之助君     神田  厚君     ————————————— 本日の会議に付した案件  農林水産業振興に関する件(八〇年代農政の  基本問題)      ————◇—————
  2. 田邉國男

    田邉委員長 これより会議を開きます。  農林水産業振興に関する件について調査を進めます。  本日は、八〇年代農政の基本問題について、参考人から意見を聴取することといたします。  本日御出席を願った参考人は、午前に日本経済調査協議会理事相談役青葉翰於君全日本農民組合連合会書記長谷本たかし君、東京大学農学部教授逸見謙三君、午後に東京大学農学部教授金沢夏樹君、日本経済新聞社論説委員山地進君、全国農業協同組合中央会常務理事山口巖君、以上六名であります。  青葉参考人谷本参考人に申し上げます。  参考人各位には、御多忙中にもかかわらず、本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。八〇年代農政の基本問題につきまして、参考人各位のそれぞれのお立場から、忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。  次に、議事の順序でありますが、青葉参考人谷本参考人逸見参考人の順で、お一人二十分程度意見をお述べいただき、その後、委員から質疑がございますので、これにお答えをいただくことにいたしたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、参考人委員長の許可を得て発言をしていただき、また、委員に対しては質疑ができないことになっておりますので、御了承ください。  それでは、青葉参考人にお願いいたします。
  3. 青葉翰於

    青葉参考人 ただいま御紹介をいただきました日本経済調査協議会におります青葉でございます。  きょうは、八〇年代農政の基本問題について私の所見を申し述べるようにということでお伺いをしたのでございますが、私の結論から先に申し上げますると、日本農業潜在能力を生かす政策をとることが必要であるという一語に尽きるわけでございます。  近来、わが国農業危機が叫ばれておりますが、私はむしろ日本農業の将来は明るいと考えているものでございます。  その第一の理由は、元来日本国民は勤勉だと言われておりまするが、その中でも農業者は特に勤勉であるということは、大体どなたもお認めになるところだろうと思います。  それから第二の理由は、農業機械の画期的な発達と世界じゆうにひけをとらないような優秀な農業技術の飛躍的な進歩があるからでございます。  勤勉な人間がおりましてよい技術を持ちながら、なぜ日本農業危機が叫ばれるのでございましょうか。それはわが国農業潜在能力が生かされていないからだと考えるものでございます。りっぱな潜在能力が殺されておりますのは、日本農業構造が非常におくれている結果だと申しても過言ではなかろうと思います。  これにはいろいろな問題点がありまするが、ポイントは、営農規模欧米先進諸国に比べて格段に小さいということが一番大きな問題点でございます。皆さんもすでに御承知のことでございますが、五十三年度の農業白書によりますと、農用地面積は一戸当たり日本の一・二ヘクタールに対しまして、アメリカは百五十七・六、フランスは二十四・五、西ドイツは十三・八、イタリアは七・七ヘクタールとなっております。アメリカ国土が広いのでございまするから一戸当たり非常に大きいということは当然だといたしましても、日本よりも国土の狭い西ドイツ日本の約十四倍の面積農業をやっているのでございます。  わが国農業の中でも養鶏であるとか養豚などはかなり大規模化して生産性を上げておりますが、最もおくれているのが稲作でございます。そこで、小規模稲作を改めまして、少なくとも西独程度営農規模を実現いたしますならば、米作のコストは半減することも夢ではないと思われます。  そこで、第三の明るい事実は、大規模経営農家が、すでに日本の各地で有能な農業者自身の努力によってだんだんあらわれてきているということであります。例として、米価審議会委員竹本平一さんは、御自分の所有地は当初三ヘクタール程度にすぎなかったのでございますが、付近の耕地を一年契約で委託耕作を引き受けられまして、約十五ヘクタールの土地をまとめて、家族五人でりっぱな業績を上げておられるのでございます。  農業中心的な存在でありまする稲作が余りにも非効率な営農規模であるということは、これをある程度規模営農に転換いたしますれば、それだけ生産性向上の余地が大きいというわけでございますから、私はおくれていることが日本農業の将来を明るく考える一つ理由としているわけでございまして、ここに、農業自体の中に大きな宝の山が残されているとよく申し上げているのでございます。  いわゆる日曜休日農家と言われます第二種兼業農家方々は、小規模耕地を十分な小作料と引きかえに専業農家耕作を委託すればよいわけであります。その場合、土地所有権に不安のないように、いずれもいろいろな角度から改善がすでに行われていることも御承知のとおりであります。政府はそのほかにあらゆる角度から営農規模拡大の施策をとるべきだ、かように思うわけであります。  それから、現在の稲作生産調整によって農業経営上の大原則でありまする適地適作原則がほとんど無視されておるということが、これまた日本農業の悲劇でございまして、農業潜在能力を押し殺されているわけであります。しかしながら、行政というものは公平の原則に従わなければなりませんから、画一的な生産調整を免れないということでありまして、これは画一的な生産調整そのもの日本農業潜在能力の発揮というものを抑えておる一つ制度的な欠陥であろうかと思うのでございます。  そこで次に申し上げたいことは、食管法の抜本的な改正をまず実施することが必要だという点でございます。  最近十年足らずの間に二度も大量の余剰米を生じましたことは、食管制度官体心欠陥があったと言わざるを得ないのでございます。人間にいたしましても、同じ失敗を二度やる人は世間から信用されない、これは当然のことであります。私は、第一次過剰米の発生いたしました直後からことしの春まで約八年間、米価審議会委員をやらせていただいておりましたので、第二次過剰米発生原因がよくわかるのでございます。  その原因を率直に申し上げますると、農業を取り巻く経済環境が全く変わっておりまするのに、米の不足時代にできました古い食管制度のたてまえに拘泥して、米価経済的に見まして必要以上に引き上げたことが根本原因であります。小規模の二兼農家コストをカバーするように引き上げていったのでございますから、食管制度自体が、一方で農業生産性向上に必要な構造改善を唱えながら、実際は構造改善ができないような価格政策を打ち出してきたわけでございます。また同時に、他方において余剰米を発生するような原因をその中につくっていったわけでございます。これが財政負担をはなはだしく増大いたし、また消費者国際価格に比べて数倍というような高い米を買わなければならないところへ追い込まれているわけでございます。  そこで、八〇年代の農政の基本問題といたしましては、自給率向上であるとか、あるいは食糧安全保障であるとか、いろいろ重要な目標がありまして、それはそれでもちろん結構なことでございまするが、日本農業中心はいまでもなお米づくりにあるわけでございまするから、まずもって欠陥を生じておりまするところの食糧管理制度の抜本的な改正農政中心にするべきだと考えているものでございます。  経済界には食管法廃止論者も少なくないのでありまするが、私が関係いたしておりまする日本経済調査協議会の先般発表いたしました「食管制度抜本的改正」という提言におきましては、食管法の弊害のある点をなるべく除去いたしまして、よいところだけを残すように抜本的な改正をすべしという食管制度改革論でございます。  現在米の価格が低位に定められておりまする標準価格米需要は、政府買い入れ数量約六百万トンの三分の一に当たる二百万トン程度でございます。したがいまして、それ以外の米はいわゆる自主流通米ということで、値段は高くてもいいからおいしい米が食べたい、そういう方が国民の中で三分の二おられる。でありまするから、政府国民消費生活の安定を図るという見地から申しまするならば、三分の一の二百万トンの管理をいたしまして、十分な食糧供給確保の体制を維持していけばよろしいわけでございまするから、この議論はいわゆる部分管理構想でございます。  しかしながら、物価の変動であるとかあるいは食糧不安、たとえば石油危機の第三次とか第四次とか、あるいはよそで戦争が起こったとか、いろいろな外的要因によって食糧不安等が起こる場合もあるわけでございまするから、そういう場合には標準価格米需要がふえるわけでございまして、その場合には政府管理量をふやしまして、需要に見合うように供給をする、また二百万トンが百五十万トンに減るという場合には、何も消費者が希望しないものを無理に管理している必要はないわけですから縮小をする、こういうような弾力的な部分管理方式を考えたわけでございます。  そのために標準価格米購入者市町村等の発行いたしまするクーポンによりまして、クーポンをつけて米屋から米を買う、そのクーポンは米の小売屋さんからさらに卸会社へ集められ、卸会社はこれを政府へ提示して標準価格米の売り渡しを求める、そういう仕組みでございます。  また政府といたしましては、二百万トンの米を全農であるとかあるいは全集連というような政府指定集荷業者から一括して買い入れることといたします。これは買い入れ経費等を節約するためであります。しかし非常時に備えまして食管法の第三条は残しまして、農家から直接買い上げの可能な形を存続いたしておきます。  現在米穀流通は卸、小売とも登録業者のみが取り扱うことができることになっておりまするが、この制度を改めまして、ただいま申し上げました標準価格米クーポン米と簡単に申し上げますが、このクーポン米以外の米は自由流通としようというものであります。ただし、卸業務についてのみは現行の登録卸業者のみが扱うことができるように法律で定めておこうというのであります。これは米の投機を防ぐということが主なねらいでございます。クーポン米は卸及び小売も現在の登録業者に取り扱わせようという案でございます。  現在の米の全量管理部分管理に改めることによりまして、財政負担は、その他の点も加えてほぼ半減をするというふうに予想されます。それから、クーポン米以外の米の流通を自由化することによって市場原理が導入されまして、供給需要に応じて価格が生まれまするから、過剰米がありながら米価が上がるというような不合理に対して歯どめがかけられるわけでございます。そこで生産調整廃止ということも一方で可能になってまいります。  なお、米の流通につきましては、東京と大阪に正米市場を設けまして、政府の既存の取り扱い指定業者だけで生産者側流通業者側との直接取引による価格形成流通円滑化を図ろうということをねらいといたしております。  さらに、需給状況で過剰の度合いが大きい場合米価が低くなり過ぎるというおそれもありまするので、その場合には、一定価格以下に下がった場合は政府が無制限に買い入れに応ずるということにいたしておきます。一定価格というのはどういう価格かということになりますが、この制度を実行に移します場合には、現状でありまするならば現在の米価水準から流通経費を差し引いた額、すなわち一俵当たり一万二千円程度ということにいたしておけば、現状から出発するという場合に無理がないというふうに考えられるわけでございます。  そこで、米の生産調整の方は数年間、三年とか五年とか暫定期間を設けてだんだんにこれを廃止するという方向を打ち出す点も加えております。  また他方において、第二種兼業農家稲作を離れるときに補助金をこれに支給するとか、あるいは中核農家に対して転作奨励金を支払うとか、またこれらの指導について農協に補助金を支給するとか、いわゆる前向きの構造改善には積極的な経費を、ただいま申し上げました現在の食管負担一兆円のほぼ半分が浮くわけですから、それをできるだけ前向きの構造改善の費用に投入をすべきだ、こういうふうに考えるわけでございます。  この間、農政審から「八〇年代の農政基本方向」という御報告が出ましたが、これを拝見いたしますと、農政のとるべき方向としてはおおむね妥当である、こんなふうに考えるわけでございます。しかし具体的にどうするかということは余り触れておられない、新聞等ではそういうような批判も見受けられまするが、これは、農政審議会の性格からいたしまして現状では余り具体的に書くことはむずかしい、そういうことを農政審に要求する方が無理ではなかろうか、こんなふうに思います。  そこで、農政審趣旨を遠慮なく具体的に表現いたしてみますると、ただいま私が御説明申し上げました日経調提言のようなことになるのではないか、こんなふうに考えるわけでございます。別に打ち合わせたわけではございませんが、農政審の中身を、きのうですか、おとといですか、こちらの事務局から届けていただきまして拝見いたしますると、平仄がまことによく合っておる。  しかしながら、いま申し上げました日経調の案も決して完全な案だとは考えておりません。これをたたき台といたしまして、農政関係方々農政審趣旨中心として具体案の検討に進まれることを希望いたしまして、私のお話を一応終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
  4. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  次に、谷本参考人にお願いいたします。
  5. 谷本たかし

    谷本参考人 過般、農政審議会が「八〇年代の農政基本方向」について内閣総理大臣答申をいたしました。したがいまして、これが今後の日本農政方向づけになっていくと考えられますので、それを踏まえながら若干の所見を述べさせていただきたいと存じます。  農政審議会答申は、いままで指摘されなかった幾つかの新たな問題を提起しております。たとえば食糧安保の問題あるいはまた日本型食生活の問題等々がそれであります。そうした点を踏まえまして、以下三点について意見を述べたいと存じます。  まず第一点は、答申食糧安保を登場させたのですが、それはどういう意味なのかということであります。  国の経済と独立にとって食糧自給引き上げは大変重大な問題であることは言うまでもありません。しかしながら、農政審が示しました食糧安保はそれとは違うのではないかと思います。最近政府は、八〇年代の政治経済軍事外交基本戦略たる総合安保構想なるものを提起しつつあります。農政審答申はその一環としての食糧安保なのではないかということであります。  総合安保構想は、日本経済対外膨張主義路線と深くかかわっていることは言うまでもありません。高度経済成長が行き詰まり、低成長への転換を余儀なくされて以降、日本資本減量経営の名による労働者首切り合理化賃金農産物価格の抑制などを行ってまいりました。その結果、資本国際競争力は強まったが、他面、国内市場拡大が制約されるという矛盾が生まれてまいりました。そして、八〇年代に臨むに当たって、激化する世界市場争奪戦にどう臨んでいくか、このことが日本の大資本にとって大きな課題になり、そしてそれが政治経済軍事外交をどうするかという立場総合安保構想が提起されるようになってきているのではないかと思います。そうした立場からすでに軍事力強化方向が出されつつあります。  食糧安保がそうした総合安保構想一環というのは、食糧対外依存主義はそのままにしながら食糧安保を強調しているということがその一つではないかと思います。この前提には日本経済対外膨張主義路線があることは言うまでもありません。つまり、工業製品の輸出を拡大しながら見返りに食糧を輸入し、したがって、国内自給引き上げは回避していくという考え方がそこにあるということであります。  端的な例を示すならば、農民が強く望んでいるえさ米生産さえ積極的に認めようとしないことにそうした態度があらわれております。人間が食って余れば飼料にするというのは、穀物飼料化の歴史が示しているところであります。アメリカ飼料穀物の柱はトウモロコシでありますが、そのトウモロコシはかつてインディアンの主食でありました。ヨーロッパの飼料穀物の柱は麦類でありますが、これも人間食糧であったことは言うまでもありません。答申は、転作物さえ示さないままに三割減反の方向を強調しながら、他方では、飼料穀物自給率は現在の三四%が三〇%に落ちるとしております。なぜ積極的にえさ米を認めようとしないのか。私どもはここに大きな不満を感ぜざるを得ません。  民間段階で開発されておりますえさ用の品種で見てみるならば、青刈り転作よりははるかに効率的であることはだれの目にも明らかであります。あるいはまた、えさ大麦よりもはるかに高い収量が得られることもこれまた言うまでもありません。自給率引き上げにできることさえ積極的に進めないのは、対外膨張主義とのかかわりとしか言いようがありません。  さらにまた、答申の言う食糧安保総合安保構想一環というのは、さらに食糧安保安上がりでいくとしていることでも明らかであります。それは依然として安いものは外国からの方式を貫こうとしていることや、あるいは価格政策で言うなら、主食の安全を保障してきた食管制度安上がり食管に切りかえる、また価格政策全般については財政負担合理化という立場でもって再編成を進めようとしている、こうしたことの前提には、軍事力強化に金はかけても食糧確保安上がりでいくという考え方がある、そのあらわれなのではないかと思います。  次に、第二点として申し上げたいと思いますのは、農業現状食生活のとらえ方の問題であります。つまり、だれの立場答申はとらえているのかということであります。  まず、農業現状はどうなのでしょうか。日本農業危機がどんなに進行しているかは、跡継ぎがないということに示されております。御承知のように、昨年の新規学卒農業就業者は八千人でありました。このうち農業後継者は五千人でありました。基幹男子専従者のいる農家は百十万戸であります。この百十万戸の農家中核農家として育成していくのには跡取り確保されねばなりません。三十年サイクルというふうに見た場合に、昨年の跡取りの数は、実はそれに必要な七分の一でしがなかったのであります。これは大きな危機的状態と言わなければなりません。  答申は、農業後継者の育成を随所で強調をしております。それは大変結構なのでありますが、農業危機的状況が発生してきた真の原因に触れることを回避しております。  なぜ跡取りが減るのでありましょうか。これは農業所得動向を見れば明らかであります。経済高度成長期には、農民農業生産に従事することによって得ていた労働報酬は、製造業賃金と比べてみますとその六割から七割台でありました。これが低成長時代に入りますと五割台に落ち込んできているのであります。さらに注目しなければならないのは、最近の農業所得動向であります。昨年の農業所得は、前年と比べてマイナス六・二%となりました。八年ぶりの農業所得の下落だということで大騒ぎされたのでありますが、ことしの場合はどうでありましょうか。ことしの場合は、上四半期で見てみますと前年同期対比で五八・三%に落ち込んできております。  それに、さらに見落とすことができないのは七月の農村物価指数であります。農産物の方はマイナス三・七%になっているのに対し、農業用生産資材の方は何と一一・九%上がっているのであります。なぜ売るものは安く、買うものは高くなるのでしょう。いろいろな事情がありますが、最も基本的な最大の原因独占支配の強まりにあると見なければならぬと思います。農民が売るもので見てみますと、過剰輸入需給緩和によって最近農畜産物の買いたたきが進行しております。ことしの農業白書は、最終消費者が支払う額に占める国内農業産出額は、昭和四十五年の場合は三三%であったが、五十年には二九%に落ちたことを指摘しております。最近はもっと下がっておるでありましよう。  なぜそうなったのでしょう。外食産業の伸びといった問題もあると思いますが、基本的には資本独占的支配の強まりにあると見てよいと思います。この点を具体的に生産集中度で見てみますと、昭和五十一年現在、小麦の生産大手六社で七三%であります。バターの場合は六社で九四%であります。食肉加工の場合は九社で九一%であります。冷凍食品の場合は十社で八七%であります。こうした仕組みは、農民は買いたたかれる一方、消費者は、農業生産性向上してもそのメリットは資本によって吸収されてしまって消費者には還元されない、そういう仕組みになってきていると言ってよいのではないかと思います。農民が買うものはどうなのか。農機具で見てみますと、大手五社によって生産集中度は八八%に上がっております。  農政審答申はこれらの事実には完全に目をつぶっております。そればかりか、農産物価格については生産性向上の反映を強調しても、農業用生産資材価格についてはそれすら言っていないのであります。このことは、農業危機の大きな原因にほおかむり、農民不在資本立場に立って農業を論じたものと言わなければなりません。答申の言う農業後継者の育成は絵にかいたモチも同然としなければならぬと思います。  次に、食生活の問題について若干言及をしておきたいと思います。  答申は、日本型食生活の定着を強調しております。摂取カロリー、栄養水準とも適正になってきた、日本人の体格もよくなってきたとしているのであります。しかしながら、私たちが消費者団体と接触の中で得ている消費者団体の反応は、答申が言うように何でも安けりゃいいんだということではなくて、消費者はまず安全な食糧供給を強調しております。なぜなのか。食糧は命の糧だからであります。  最近、子供の骨が弱くなったことが社会的な問題になり始めました。たとえば東京都内のある保育園の保母さんの集会に私が出たとき、悩みを伺ってみましたら、背筋を伸ばしていすに座れぬ子供が非常にふえてきたと言うのであります。ちょっとしたことですぐに子供の骨折になるというようなことが保母さんの悩みになっているのであります。あるいは婦人にいたしましても、輸血ができないような薄い血の状態の方が非常にふえてきております。消費者団体はこうした問題について、それは化学物資のとり過ぎによることを指摘しております。つまり、日本人の体格はよくなったが、質が低下していると言うのであります。  そこで農業生産のあり方が問題にされてくるのであります。なぜ自然循環にかなった農法が消されてしまったのか。これは御承知のように農業基本法農政は、安い物は外国から、国内生産は輸入できない物に限定しつつ、生産合理化農業への工業の論理の導入を行ってきたのであります。その結果どうなったか。水田について見るならば、麦、飼料作は放棄させられ、そして畜産と分離された結果、米の生産は化学肥料と農薬づけの生産たらざるを得なくなったのであります。畜産はどうなのか。飼料は外国依存化されるもとで、生産の工業化方式が取り入れられ、加工業方式による畜産となってきました。そのもとで薬づけ畜産があらわになってきたのであります。  答申は、そうした主要な原因である外国依存政策あるいは農業への工業の論理の導入に一片の反省も示さず、食糧の質、農業生産のあり方の転換に目をつぶって、食品の安全確保をつけ足し的に言うとか、農業生産の複合化をつけ足し的に指摘するのにとどめております。してみるならば、答申は、農民不在の考えであるのみか、消費者不在と言わなければならぬと思います。  最後に第三点といたしまして、では、答申はどんな農業をつくろうとしているのかについて若干の所見を述べたいと存じます。  答申中心に据えておりますのは、借地農方式による規模拡大であります。そして答申はその根拠といたしまして、高齢者農家がふえていることや、農業に依存しなくとも農外所得で食える者がふえていることや、米作での収益格差の拡大等々を挙げております。現に米作あるいは葉たばこなど一部作物に請負耕作の形で借地農方式規模拡大が進みつつあります。これらの例を見たときに共通的なのは、価格保障のあるものに限られているということであります。  ところが答申は、米価保障の取り崩しの食管改正を強調するとともに、価格政策については、所得確保の見地ではなくて、需給均衡価格を強調し、輸入価格への接近すら強調をしているのであります。輸入価格への接近は、農民から見るならば理不尽そのものと言わなければなりません。それは、輸入価格と国内価格の格差拡大の主要な原因は、農業農民のせいではないからであります。  ちなみに、昭和四十六年対五十三年で見てみますと、農畜産物価格は約二倍になりました。その間消費者物価は二倍、労働賃金は二・五倍になっているのであります。このことは何を示すのか。それは消費者物価、労働賃金引き上げ農産物価格引き上げをもたらしたということであります。他方、その間一ドル三百六十円であった為替レートは、二百二十円になりました。つまり以前よりは四割安く輸入できる状態になってきているのであります。してみるならば、輸入価格と国内価格価格差の拡大は、インフレ経済と円高が生み出したものであって、農業以外の要因によってもたらされたと言わなければなりません。これに対して、輸入価格との格差拡大を武器にして低価格を押しつけようとするのは筋違いだと言わなければなりません。そればかりか、借地農方式による規模拡大答申は強調しながら、それすらも困難にしようとしているのであります。  その点でさらに強調されてよいのは、雇用政策が変わってきていることであります。雇用政策はすでに、常用雇用を減らし、臨時雇用を増大させる方向へと転換されてしまいました。これは農民に対して不安定雇用の間口を拡大したということなのであります。さらにまた社会保障について見ましても、低福祉への方向転換であります。このことは、老齢化農民が農地離れをすることができない、そういう状態を一層強めるものと見なければならないと思います。  そうして見てみるならば、農業を産業として確立することを求めるのには、インフレの抑制を含む福祉経済への転換というのが前提にならなければなりません。そのことを抜きに自給率引き上げることが困難であることはもちろんでありますし、また答申の言う自給率の維持自身も困難に陥らざるを得ないであろうと思います。  時間が参りましたので、以上で私の所見を述べることは終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
  6. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  次は逸見参考人にお願いいたします。
  7. 逸見謙三

    逸見参考人 八〇年代の農政の基本問題、こういうことで二十分間で先生方に参考になる意見を申し上げるという難題でございますが、ほかの参考人もございますので、私は時の流れを追いまして八〇年代というのを位置づけて、どういう選択肢が政府政策としてあり得るか、こういう点についてお話をいたしたいと思います。  先生方御存じのとおりに、六〇年代の高度成長下の農業農政というのは、どちらかというと非常にやりやすい農業農政ではなかったかと思います。先ほどの参考人も申されましたように、石油とか穀物とか外国から安い物が入ってまいりまして、安全保障的な考えに必ずしも深い注意を払わぬで済む、こういう恵まれた国際的環境、あるいは産業が大変進みまして、農業の問題といたしましては、どちらかというと農業者の所得を工業関係の人と同じように保つ、こういう課題に専心することができたわけでございます。  それは農業を輸入の穀物とか輸入の石油を使いまして、いわゆるハウス物にするとか、いわゆる工業的な畜産にするとか、こういうことを一方でやりましたし、他方兼業化によりまして農家の所得の安定が確保される。また、それでも足りない分につきましては、農産物の上昇というのは、消費者の所得が農産物の上昇以上に上昇しましたために、消費者側の抵抗を受けることなくできた、また、生産価格消費者価格の間に問題がありましたときは、財政支出でこれを補うことができた、こういうような構造でございます。  私も青葉参考人と同じように米価審議会委員を務めさせていただきましたが、米価の決定が七月というのは本当によろしかったと思っております。高度成長の場合には、予算を組みます場合の成長率と七月ぐらいに予測される国民経済成長率との間に大きな差がございまして、税収の見積もりに差が出てきて、その見積もりの差を利用して生産米価を上げる、こういうように、まさに高度成長を利用して農産物価格が上げられたわけでございます。  また対外的には、国民生活の向上に伴う農産物の輸入というのは世界でも最も率の高いものでございまして、外国との摩擦も比較的少なかった。これがひっくり返されたのは七〇年代でございますが、七〇年代における変化というのは、一つには石油危機に対応する、あるいはその後のインフレに対応する農業と工業との対応の仕方の差に非常に大きくあらわれたのではないかと思っております。  工業の方は、円高と国内のインフレに非常に苦しみながら輸出しなければならない、こういうことのために大変な合理化をさせられたわけでございます。円高になりますと、すでに買ってある原料を加工して、それを輸出するわけでございますから、工業の方は初めは——これは先生方にお説教するつもりは毛頭ございませんけれども、円高というのは工業に不利だと思っていて、そのうち輸入する原料の方も安くなりましたために大成功して、世界で最も輸出に成功する国になる。ところが農業の方は初めから輸出の問題はございませんで、円高というのはありとあらゆる原料が安くなる、えさが安くなる、輸出する必要がないものですからインフレを農産物価格にそのままスライドさせてしまう。このために石油危機以後のインフレ過程では、工業に比べて農業はかなり楽な局面を経過したのではないかと思っております。農業と工業のこの差が、現在になりまして農業を非常にむずかしい局面に直面させているわけでございます。  そのほか、先ほど来の参考人からございましたように、第一回目の米の過剰も、世界穀物危機に際しまして、その過剰問題に対処する気持ちが若干緩んだのではないかと私は外部におりまして見るわけでございます。それが第二のより深刻な過剰に直面する、こういうことにもなっておりますし、さらに、先ほど申しました六〇年代のような財政のゆとりというものは、現在先生方が大変お苦しみのように、ございませんで、また消費者の方も、低成長になりまして消費支出の伸びというものが緩くなって、そのために消費者物価に関心を持ち始めた、こういう状況にあって今後どうするかというのが課題でございます。  その際、今後予想される変化というものを二つ考えなければならないのではないかと思っております。  一つは、私ども輸入に大幅に依存しておりまして、世界食糧需給というものはどうなるか、こういうことに関心を持たざるを得ないわけでございます。私は、世界食糧不足になりましても、日本の国力から言えばかなり輸入できるのではないかと思っております。ただ、日本が余り安易に世界の穀物価格が上昇するのもいとわず買い付けますと、発展途上国に大変な被害を及ぼす。現在の人口増加、現在の発展途上国の所得水準の上昇、こういうのを考えますと、紀元二〇〇〇年ごろにはかなり苦しい状況になるのではないか。  これはいろいろな国際機関あるいは九月に出ましたアメリカの国務省の報告にも載っているところでございます。二〇〇〇年ぐらいまでは、短期的な不作というのはございますけれども、傾向として世界食糧不足はない、私もそれらの報告書に賛成するわけでございます。ただその中で、発展途上国で余り耕地拡大し過ぎる、あるいは石油危機などのためにますます燃料を木材に依存する、こういうことのために山林が伐採されるなどしまして、農業の環境が紀元二〇〇〇年ぐらいから悪くなるのではないか、こういうことが指摘されているところでございます。したがいまして、どうも二十年後ぐらいに備える必要があるのではないか、こういうふうな気がいたします。  国内の問題で一点だけ指摘させていただきますが、現在の特に兼業農家などの年齢構成を考えますと、十年ぐらい後には農業労働力というものは、それに対する評価は別としまして、事実問題として大幅に減るのではないか。自然体で農業が行きますと、二〇〇〇年ごろには、主に他産業に従事しながら若干裏庭で農業をやるという農家を抜かしますと、稲作を基準にしますと五ヘクタールから十ヘクタールぐらいの農家が出現するのではないか、こういうふうに私は考えているわけでございます。  その際、農政が五ヘクタールぐらいのものを目指すか十ヘクタールぐらいのものを目指すか、こういう点で先生方にお考えいただきたいというわけでございまして、八〇年代にある方向をとるかとらぬかによって、五ヘクタールぐらいのところをやれるか十ヘクタールぐらいのところまで持っていけるか、これが基準ではないか。十ヘクタール以上に実は持っていきたいわけでございますけれども、そうなりますと、私の感じでは農民へのプレッシャーが強過ぎる、こういうために、まあそのぐらいが限度ではないかと考えております。  それに対しましては、先般の国会で農地三法というのを通していただきまして、ある意味で構造改善を一層推進するための舞台装置はできているわけでございます。今回の農政審議会の「八〇年代の農政基本方向」、この答申によりますと、価格政策も、需給を勘案してもっと弾力的に決める、こういうことでございますので、価格の方も出発点としては一応の現状認識はできているのではないか、こういうふうに考えます。  ただ、現在の過剰農産物対策、こういう点から考えますと、いい悪いよりも、事実問題としまして価格政策はもう少し厳しくならないとならぬではないか。一例を挙げますと、この報告の背景になっております農産物の需給見通しでございますが、六十五年にお米の十アール当たりの収量五百十キロとしております。私はこれは少し低過ぎるのではないか。これよりも十ないし二十キログラム程度多くなるのではないか。  これは、基準年の五十二年の平均収量というのは事実問題としては作況指数で一〇三くらいに見なければならないのを一〇〇として見ておりますので、どうしても基準年が低くなり、目標年次の予測が低くなる、こういうことの上に成り立っておるような価格に対する価格政策方向というような気がいたします。国際価格にしわ寄せということは農産物構造改善程度と歩調を合わせるべきだと思っておりますけれども、いまの財政事情というのを考えますと、農産物過剰という問題に対してもう少し率直な価格政策というものがされてしかるべきではないか。  それからもう一つこの関係で申しますと、従来政府政策は、構造改善政策構造改善政策価格政策価格政策、こういうことで進んでまいりまして、その相互の関連というものが必ずしも明確でなかった、私はこういうような気がいたします。私は農業経済学をやっている者といたしまして、構造政策ということは、本来価格が需給というものを調整するけれども、価格機能、価格の役割りだけで構造改善あるいは需給調節をするには消費者なり生産者なりの負担が余りにも大き過ぎる場合に構造政策に訴えるべきだと思う。これは教師として持っている定義でございます。  したがいまして、どこまでが構造政策でやりどこまでが価格政策でやるべきか、こういうことはもう少し慎重に考慮されてしかるべきではないか、こういうふうに考えております。言いかえますと、価格政策と構造政策を相互に別個に推進しました場合は必ずしも構造政策を能率的に行い得ない。こういうことで、せっかく農地三法をおつくりいただいたものですから、価格政策農家生産力の拡大あるいは需給というものにもう少し大きな役割りを果たすようにというふうに考えるわけでございます。  農家方々は、先ほどの参考人が申されましたように、減反と言われましても転作のいい作物が見つからぬ。大変御苦労なすっておられるわけで、これには深く同情を申し上げるわけでございます。しかしながら、もっと申しますと、転作を進ませ得ないのは農業経営の体質が弱体だからでございまして、りっぱな経営、北海道の経営ではいまの価格でも麦作は非常に有利な作物になっている。  これをもう少し押し詰めますと、将来の食糧危機ということを考えますと、いま私が、国民農業に期待する食糧の安定的な供給、やれ石油が上がりましても穀物が上がりましても、それに対応できるような農家ということを考えますと、もっともっと農家の体質を強める必要がある、こういうふうに考える次第でございまして、この点で価格政策と構造政策の組み合わせ、こういう点にはもっと力を入れる必要があるのではないか、こういうふうに考えているわけでございます。  それから今回の農政審議会答申で私は評価いたしますのは、従来は政府政策というのは農家がつくるまででございまして、消費者の手に渡るまでの間はわりあいと放置していたわけでございます。それに対して食品産業ということでそこに関心を示した、こういうことは私評価するわけでございまして、消費者がますます苦しいし農家もますます苦しくなった事情のもとでは、どうしてもその間の、農家の手から消費者の戸口に至るまでのルートというものも合理化してもらわなければだめだ、こういうふうに考えております。  最後になりましたけれども、発展途上国の対策というものは、これは・日本食糧の安全を図るという意味、あるいは日本が安定的に食糧を輸入することがただでさえ苦しい発展途上国に大変な負担をかける、こういうことを防止する意味で、発展途上国の食糧生産に対するあるいは農業の環境保全に対する政策というものが全く抜けている、あるいは農林水産省でこういうことに興味をお持ちにならない、こういうことについては大変な不満を持っているわけでございます。  大体私が申し上げることは以上でございますが、ただ一つ、これは先生方におかれまして慎重に御検討いただきたい、こう思うのは、日本型食生活でございます。私も大学の友人の医学関係の者とかそういう者に聞きますと、現在の食生活というものが最も健康に望ましい、こういうことを言われておりまして、現在の栄養摂取水準あるいはその組み合わせというものを維持するということが国民の健康上喫緊である、こういうことをしょっちゅう聞かされているものでございます。  ただ、私の経験から申しますと、たばこは健康に悪いと言ったって皆さん吸うわけでございまして、これ以上肉を食べると健康に悪い、動物油脂をとると健康に悪いと聞きましても、おいしいものは食べるというのが人情の常でございまして、日本型食生活というものをできるだけ維持する、いまの自由主義の世の中で消費統制ということに訴えるわけにいきませんけれども、何らかの手段がないのか、これこそ政治の問題ではないかと私は考えております。また、これが変わった場合に、そうならなかった場合にどうするかということも御検討いただければ大変ありがたい、こう存ずる次第でございます。  以上でございます。(拍手)
  8. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  以上で各参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  9. 田邉國男

    田邉委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。島田琢郎君。
  10. 島田琢郎

    ○島田委員 参考人の皆さんには、朝来お忙しい中を貴重な御意見をお聞かせいただきまして大変ありがとうございました。  ただいま三人の方々からいただきました御意見の中で若干お尋ねをしながらさらにお考えを披瀝願いたい、こう思います。  まず青葉参考人に。  日経協の立場からの御提言中心にして意見の開陳があったわけでございますが、おっしゃる御提言については個々に深く触れるという時間はないのでありますけれども、ただ、私もあの御提言を読ませていただきまして感じますのは、何か農家の置かれている立場というものについての理解がもう一つ欲しかった、こういう感じがいたします。  そもそも経過的なことを言えば、こういう日経協からも貴重な提言を受けなければならなくなった今日の日本農業、これは、われわれ農民が好むと好まざるとにかかわらずそういう方向に、端的に言えば持っていかれた、こういう感じを農家としては強く持っているわけであります。そのときどきにおいて、あるいはその経過の中においてわれわれも、こういう状況がこれからも続いていくならば、まさにおっしゃるような状況に相なるよということを言ってまいりました。  それは、農業基本法が発足をいたしまして以来、農民の側からも積極的に問題の提起を行い、こういうことでなければ日本農業というのは日本国民全体から期待されるような農業にはなりません、したがって、われわれの言っているような方向でひとつ改善も図ってもらいたい、また農政の確立もやってもらいたいという要求をしてまいったのですが、結果的にはそうしたわれわれの側の意見というのが農政に正しく反映するということがないままに経過をして、今日日経協からも提言を受けなければならぬという事態を招いた。  この経過というものを考えますと、確かに一つの取り返しのつかない状況が生まれている中だから、これはいまさら言うてみても覆水盆に返らずの感はあります。しかし、遅きに失したとはいえ、こういう提言をするのだというこの勇気に対して私は敬意は表するのですけれども、その辺の過程における農民の苦しみとかあるいは積極的な農政改革への提言とかというものもあったという御理解が一つないと、これは農民としてはたまったものじゃない、寄ってたかっておれたちをいじめるのかという感じになってしまうのですね。  その辺のところの御議論は、この提言を通して一体どのように展開されたのでしょうか。ちょっとお尋ねをしておきたいと思うのです。
  11. 青葉翰於

    青葉参考人 ただいま御質問のありました、経過をどう考えるか、また農業者立場についてどのような理解を持っているか、こういうような御質問の御趣旨だと思いますが、率直に申しますると、食管制度というものは、自由経済の中におきましていわば社会主義的な統制経済をはめ込んであるということなのでございますが、その統制経済で、これが本当の徹底した統制経済であれば、たとえば生産調整をやります場合に、北海道にはこういう作物が適当であるから北海道は全部転作をする、それから九州の方は米が、おいしい米も出るかもしれませんけれども、余りおいしくないからこれは別なものをつくらせる、お芋をつくらせるというようなことが本来ならばできてしかるべきだと思うのでございます。  しかしながら、言うまでもないことでございまするが、日本は民主主義の国でございまするからそれができない。いわば中途半端な統制経済であるということが一つ基本的な条件としてあるように私は思います。  私も、日本農業を愛すると申しますか、日本農業がりっぱな農業になってほしい、また、日本の社会を支えておりまする基盤である非常に人情味豊かな農村社会、あるいはこのごろは農村は緑の番人だというような言葉もありますが、都会地の農業の方に土地を売らせるというのはけしからぬというような議論もいろいろな角度からありますが、本当に日本農業をおやりになる方が幸せな農業をやっていただきたいという考えが根本にあるわけでございまして、決して現在の農業者方々がけしからぬというような考え方から提言をまとめたのではないということを、これは心構えといいますか、心情の問題でございますが……。  それから、これはいろいろなお立場の方から、独占資本考え方だというような批判もあろうかとも思いまするが、少なくとも私どもの方でこの研究を進めまする態度といたしましては、国民経済的な立場に立って、日本のあらゆる産業が調和のとれた、バランスのある、世界の先進国の中でも本当に調和のとれた総合的な産業体制というものを目指して、工業もよかれ、それから農業もよかれと、それには、農業には先ほどもお話をしました営農規模拡大ということが、ことに稲作農業については必要であるというふうに考えたのでございます。  お答えにちょっとならないかもしれませんが、気持ちだけを申し上げます。
  12. 島田琢郎

    ○島田委員 青葉さんは冒頭で結論として、日本農業潜在能力が十分あるのだからそれを生かすと一こういう前提でお話をされまして、日本農業の将来は明るいものだ、それは農民がとりわけ勤勉だからだと、こういうお話でございましたし、また、農業機械に対する技術とその対応がきわめて進歩的であると、こういうおほめの言葉もあったわけであります。  ところが、われわれはまさにおっしゃるように勤勉でありたい、野良を中心にして誠心誠意そこに人生のすべてをぶち込んで働いていきたい、こう考えていても、過程をごらんになっておわかりのとおり、私は北海道でありますが、北海道でさえいまや自分たちの生きがいの野良を取り上げられようとしておるという事実が生まれておるわけです。  ですから、おっしゃるように潜在能力はあるにしても、それを生かせる場所が次第に狭められ、取り上げられていっている。そして、勤勉でありたいと願うのにもかかわらず、水田は米をつくるな、牛乳はしぼり過ぎるからやめろと言う。近ごろは麦も多過ぎると言う。こうやって、まさに日本農業のメッカと言われる北海道を例に引いてさえもそういう事態にいま追い込まれているわけです。そうしますと、当然そういう状況の中では、せっかく培いつつある農業機械技術さえも損なわれるという危機にいまさらされようとしておるという、その危機感が非常に農民の間に強いわけです。  ですからそこのところは、おっしゃることはまさに私も同感なのでありますし、日本農民は勤勉でありますし、技術的にも進歩しましたと、こう言ってくださるのはありがたいが、これはややおだてに過ぎて、実際はそうなっておらぬのですよという理解が日経協におありになるのかなという点に私は多少の疑問を持つものですから、その辺のところは、やはりお立場での御提言は御提言として私どもは真摯に受けとめてそれをそしゃくし、やはりわれわれとしてもやるべきことはやらなければならないが、その条件についてはまさにいま申し上げたような中にあるということが、一つやはり論議の土台になってもらわないと困るなという感じがいたしましたので、ちょっとお尋ねをした次第なんです。  そこで、先ほど大規模農家の竹本さんの例をお挙げになってお話になっておりましたが、これは内地府県の典型的な零細経営の中における一つのへ言ってみればユニークなものとして考えられるケースではないか、こう思いますけれども、しかし、それに右へならえして、今度の農地三法が機能的になったとしても、竹本さんの経営のようなものがどんどん生まれるという可能性はきわめて少ない、むしろ逆ではないかという感じがしております。これは青葉さんだけではなくて、谷本さんにも御意見を聞かしていただきたいと思いますし、逸見さんにもぜひ御意見をいただきたいのであります。  特に逸見さんは、五ヘクタールくらいを目標にしたいわゆる経営規模拡大ということを政治家のあなたらも一生懸命やれという御激励でございます。これは農基法農政以来の最大の課題であったはずでありますけれども、現実には、いろいろなことをそこにてこにしながら農政も対応してきたということも私は認めるわけでありますが、現実問題はますますそれが逆の方向に向かうということになっている。今度も農地三法の対応によってそれが可能かと言うと、むしろ私はきわめて悲観的な一人であります。片や、いま北海道を例に挙げましたけれども、北海道ではそういう状況が生まれている、経営の縮小を余儀なくされている、こういう状況の中で、南の方の内地府県の農業が今度は北海道に近づくような条件が、手のひらを返したように生まれるということになるのだろうかという点ははなはだ疑問なしとしない。  こういう点を考えますと、との農業規模拡大という問題については、日本の持っております宿命的なものとさえ言える一つの課題でございますから、これに取り組まなければならないということを否定するものではありませんけれども、手法としてはこれでやれるということにならないと私は思うのですが、参考人各位はどうお考えなのかお聞かせをいただきたいと思うのです。
  13. 青葉翰於

    青葉参考人 これは土地柄によって非常に千差万別だろうと思うのです。たとえば傾斜地の山梨県とか長野県というようなところでは、大型機械を使った農業をやるために土地を広げようと思っても、段々畑のようなところではできない、これは一つの極端な例でございます。また、その土地の周囲の環境その他いろいろな条件が当然あろうかと思うのでございまするが、少なくとも農業協同組合は全国的な組織を活用して、農業者の平均的な農業生産あるいは生産物の流通、そういうものができるようになるかということについて、現在でももちろんやっていらっしゃると思いまするが、いままでのようにただ値上げを政治力を使ってやるというようなところから転換をされまして、その土地その土地に合ったような規模拡大あるいは適地適作というようなことを実行される姿勢が生まれてこなければならない時期に来ているのではなかろうか、こんなふうに考えます。  一律にできるというふうに——まあ原則論として申し上げたわけでございまして、場所によっていろいろである。しかしながら、その方向には進まざるを得ないでしょうし、またそのためには政府ばかりでなく、農業協同組合というものがここで姿勢を変えて、これは農業者の中からの組織のはずでございまするから、やっていただくことが強く望まれるわけでございます。以上です。
  14. 谷本たかし

    谷本参考人 農地三法が制定されましたのは、農地の流動化が借地農方式などで若干進み始めているので、それに一定の形式を与えてやれば農地の流動化がさらに大きく進んでいくのではないかという前提でつくられたわけであります。  さて、それでは農地の流動化がどういう作物で進んでいたのかという点について見ますと、請負耕作、作業請負などで見てみますと、米それから一部葉たばこ、それ以外はほとんど私どもは見受けておりません。つまり価格水準が一定程度に維持されている、言いかえるならば価格保障政策が曲がりなりにも確立されているという部門の中で請負耕作や作業請負等が進んでいる、こう見てよろしいわけであります。  ところが、三法は成立させたが、八〇年代に向けての農政は所得補償的な価格政策はやめて需給均衡でいくのだ、その場合の需給均衡というのも、国内の生産物だけを土俵にした需給均衡じゃなくて、輸入物も含めた需給均衡であります。そういう形の価格政策になっていきますと、価格政策は非常に安定的ではない状態が出てくるし、そして価格水準それ自体もかなり低いものになっていくであろうことが想定されます。そういう状況の中で果たして農地流動化が進むのか、いま示されつつある八〇年代に向けての価格政策は、農地流動化に逆行する価格政策になるのではないか、こう思います。  さらにまた、農地流動化を促進させていくのには雇用政策の問題、つまり兼業農家が安定的に労働賃金だけで一本立ちできるような状態というのが保障されていく必要があると思いますし、あるいはまた社会保障についても老人農家が年金だけで食えるような状況というのが一定程度確保されていく必要があるであろう、こう思います。ところが、八〇年代に向けての雇用政策と社会保障のあり方というのは、先ほども申し上げましたようにこれとはまさに逆行的であります。  最後にもう一つ指摘をしておきたいと思いますのは、農地の地価の問題であります。農地の地価は高度成長から低成長に移りました当時に落ちつきを取り戻すであろうと言われていましたが、引き続き上昇しております。しかのみならず、再来年に向けて宅地並み課税が実施されようとしております。宅地並み課税が実施されていけば農地の価格はかなり暴騰するであろうと思われます。といいますのは、高度成長時代の農地価格の上昇は、都市部で宅地価格で農地を売った農家が遠隔地に農地を求める、そういう形の中で農地価格が上がってきているわけであります。宅地並み課税というのは、高度成長時代の農地の地価の値上がりのパターン、それを政策的に拡大するものだと言ってよいわけであります。  農地三法は、農地価格が高くなったので借地農方式規模拡大をやらせるのだと言っておるのでありますが、地価が上昇していけば農家の農地の財産的保有傾向は一層強まっていきます。そういう傾向が強まるということは、農家にとって財産ですからいつでも処分ができるような状態でなければならぬという形の農地保有になります。そうなると、ますますほかの農家に貸してやれない、貸したくとも貸さない、ましてや農用地利用増進事業のようにびしっとした上からの枠組みがかけられるような状況の中では、一層貸し出すことができない、こんな状況になっていくのではないか。  現に米審委員の竹本さん自身も、あの仕組みの中では私は農地三法の、農用地利用増進事業のベースに乗せるつもりはありませんと言い切っておる。それはなぜか。それは農地価格が上昇する中で農家の財産的土地の保有傾向が強まる、その保有傾向の強まりというのは、いつでも処分できるような状況が欲しい、そのためには相対でやっていった方がいい、役場が間に入ったのではだめだ、こういうぐあいに竹本さん自身も言っておるわけですね。そうであったと見るならば、農地価格の上昇というのはさらに規模拡大を阻害する要因になっていくのではないか、こんなぐあいに思います。
  15. 逸見謙三

    逸見参考人 先ほどどうも言葉が足りませんで……。  自然体でいきますと二〇〇〇年ごろ五ヘクタール程度になるのではないか、少し御努力いただければ十ヘクタールぐらいになるのではないかと申し上げました。  借地農がうんと発生するということでございますけれども、まず雇用の機会があるかということでございますが、これは日本の失業率というのは世界でも一番少ない、欧米の三分の一ぐらいだ、こういうふうに私ども承っておりまして、たとえばアメリカで最近十年間で最も規模拡大しているのは借地農でございまして、日本の三倍も失業率がある国でできるわけでございまして、この点は私は問題点がないのではないかと思っております。  それから日本の実情を見ましても、同じ米作でも北海道の場合は過去非常に順調に、いま先生おっしゃられましたように、いまの減反の制度のもとでは確かに規模を縮小しておりますけれども、自然の傾向としては酪農のみならず稲作も大変な勢いで規模拡大したわけでございまして、本州の稲作中心規模拡大が進まなかったわけでございます。私どもがいろいろ計算いたしますと、〇・五ヘクタール以下では、米価をちょっと変えますと自分で耕すよりも外へ貸した方が有利だという状況が出ております。これといまの農家の年齢構成を考えますと、若い人はますます農業から離れていくということは自然の傾向であろうと思いまして、この際、地代収入ということと営農による農業勤労収入ということの区別をはっきりさせるということをいたしました場合には規模拡大が進むのではないか、こういうふうに私は考えております。
  16. 島田琢郎

    ○島田委員 私の持ち時間、まだ五分ほど残っておりますが、同僚の田中恒利議員が関連してお尋ねをしたいということでございますから、お許しいただきたい。
  17. 田邉國男

    田邉委員長 田中恒利君。
  18. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 逸見先生にちょっとお尋ねいたします。  私の理解が不十分な面もあろうかと思いますが、六〇年代の農業をめぐる環境、七〇年代の環境、そして八〇年代、それぞれのお話の中に、一つ石油危機をめぐって、工業が円高、インフレの中で相当思い切った合理化をやって成功した、農業は円高で非常にやりやすくなった、こういうお話があったわけです。  この問題でありますが、確かに七〇年代、農家の所得それから生活水準がぐっと上がってきておることは事実であります。ただ、マクロ的なそういう分析と、ミクロで見た場合の農家の実態や現状、これは、農業自体の所得や雇用や生活環境といったようなものは七〇年代非常に急速に悪化をしてきたのではないかという理解を私どもはしておりますので、その辺の問題について政策を立案をする場合に、全体的な農家の所得なりあるいは生活水準なりといったようなものを見て立案する場合と、個別に農家経済なり農業経営なり、そういうものの実態の中に立つ場合とで、私は場合によっては逆なことになる心配があると思うのです。そういう点についての先生のお考えを一点聞きたい。  もう一つは、先ほど構造政策価格政策の組み合わせが大切である、こういうお話がありました。私も実はそのことについては従来から非常に関心を持っておるわけであります。私の出身県は愛媛県ですが、愛媛県は実はミカンの産地であります。このミカンが成長した過程を特に戦後見てまいりますと、やはり米価の水準というものが相当高い水準を維持した時代に農業経営が所得を蓄積しております。これがやはり一つのバネになっておりますし、私は、本来やはり農家の経営の中に所得を造成さしていくという政策が先行して、その後にいわゆる構造政策というものがついていく、これが流れではなかろうかと思っておるものでありますが、どうも価格政策というものが、いま八〇年代においても論議されておりますが、昭和三十年代、高度成長段階に入ってから、私どもの認識では非常に後退をして、構造政策が単に形の上で計画をされ、進められ、必ずしもこれも実態として組み合わせられていない、そこのところに日本農政の非常に大きな混乱があったのじゃないか、こういうふうに理解をしておるわけであります。  この価格政策と構造政策の関係というものを、私などが考えておるようにまず価格政策を充実をして一定の所得というものを農業経済の中に蓄積をさしていく、そういう前提の上に立たないと、単なる補助金政策、融資政策ではこれは大きな壁にぶち当たってくる、このことをいま改めて反省しなければいけないのではないか、こういうふうに私は理解しておるのでありますが、それらにつきましての御専門の立場で先生の御意見を承りたいと思うわけであります。
  19. 逸見謙三

    逸見参考人 価格政策と構造政策の方から先に申し上げますが、この点に関しましては大変むずかしい問題でございまして、私も確かに、農業合理化を行う場合の基金というものは農家の家計が安定しなければ出てこない、こういう側面があると思います。ただ、構造政策というのは二つの側面があると私は思っていまして、一つは、最も得意な品目あるいは得意な地域に作物が集中していく、こういう側面、これは全く、価格政策を使わなければできないのじゃないかと思っております。  それから、いま価格政策がなぜきかないかということになりますと、これは第二種兼業農家みたいに、先ほど谷本参考人が言われましたように幾ら農産物価格が安くなっても兼業農家はかえって土地を貸さなくなる、こういうようなのは第二種兼業農家価格が非常にききにくくなるという側面がございまして、むずかしいわけでございますけれども、いまの状態で申しますとそれがやや崩れて、先ほど申しましたように稲作で〇・五ヘクタールぐらいのところでは、もう少し米価を厳しくすればこれは能率のいい農家だけが稲作拡大していく、こういうことが行われるのじゃないか、こういうことで申し上げたわけでございます。  それから先ほどの前の方の、農業と工業との関係でございますが、私も、農家が七〇年代の中ごろ大変苦しまれた、こういうことは重々存じ上げております。ただ工業の方の、自動車なんかはなかなか調子よかったのですけれども、鉄鋼とか造船が苦しんだのを見ますと、七〇年代は日本経済全体が苦しかった中で、どちらかというと工業の方、輸出産業の方がお苦しみになった、こういう感触を持っているので申し上げたわけでございます。
  20. 田邉國男

    田邉委員長 亀井善之君。
  21. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 三人の参考人の皆さんから大変有意義なお考えをお聞かせをいただきまして、大変参考になった次第でございます。  そこで青葉参考人にお伺いをしたいわけでございますが、先ほど、日本農業営農規模拡大あるいは潜在能力を生かす施策、大変ごもっともな御意見と思って拝聴した次第でございます。  そこで後半の問題で、食管制度改正の問題につきまして触れられたわけでございます。食管制度抜本的改正農政中心にというようなお考えを述べられ、さらにその食管制度の改革論の中で、部分管理構想でございますか、このことをお述べになったわけでございます。  そこで、標準価格米が約二百万トンで、約三分の一ぐらいではなかろうか、こんなお話も伺ったわけでございますが、どうも実態としては三分の一以上標準価格米の利用者があるように私は思うわけでございます。そしてさらに、標準価格米につきましてクーポン券による購入、こういうような面で、若干これはまた事務的な面で、経費的な面でも繁雑になるのではなかろうか。そしてさらに、市場原理を導入をいたしまして、需給関係で価格を決定されるというようなお話を伺ったわけでございますが、現実的にそれでは現在の価格、いま標準価格米が一番高くても四千五百円から五千円ぐらいではなかろうかと思いますが、現実にそのような制度を導入した場合に、どのくらいの価格になるものか、その辺のお話を伺うことができればと、こう思うわけでございます。  実際、現在の中でこのような制度を導入するというのは、流通経費につきましても、いま政府が、集荷やあるいは倉庫に入れると、運送等の問題につきまして経費を出しているわけでございますが、民間と申しますか、そういう中に移した時点で果たして現在の価格を維持することができるかどうか、あるいはどのくらい安くなるものか、その辺のことがおわかりになりましたらちょっと伺わせていただきたいと思うのです。
  22. 青葉翰於

    青葉参考人 ただいまの御質問の一点は、標準価格米が三分の一程度だということを申し上げたのに対して、実際はもう少し多いのじゃなかろうか。これはまあこの私どもの提言考え方からいきますと、何も三分の一でなくてもいいわけなんで、これが二分の一になったら二分の一を政府管理されたらよろしいのじゃなかろうか、また四分の一になったら四分の一だけおやりになったらいいのじゃなかろうか、こういうことでございます。  それから、標準価格米につきましては、現在の財政負担をそのまま継続するということで、現在標準価格米の値段は一応指導価格という形をとっておりますけれども、場合によってはこれは公定価格にしてもよろしい、こういうような考え方でございます。ですから、標準価格米については消費者の家計に影響を与えないように一定の値段で処理をする、こういうことでございます。以上でございます。
  23. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 後半の問題でございますが、標準価格米がそういう形で公定価格ということになりますと、自主流通米流通というのが少なくなると申しますか、現実的には、いまのお話でございますと標準価格米が大半になってしまって自主流通米が少ない。先ほどお話しの市場原理を導入した形でお考えをいただく、ある面では、食管経費と申しますか、そういうものを削減するような合理化一環と申しますか、あるいは米の価格という問題をお考えになってのこのような構想ではなかろうかと思いますけれども、実際に自主流通米はそれではどの程度をお考えになっているのか、伺わせていただきたいと思うのです。
  24. 青葉翰於

    青葉参考人 自主流通米につきましては、その価格は需給の状況に応じて生まれた価格によるということでございますから、非常にいい米が高く売れるという状況で農家の方がたくさんおつくりになればこれは下がってくる。また、最近は米の品質別の分類をだんだんに厳しくといいましょうか、細かにするように改正されてきましたが、いい米はまだ不足がちであるというような状況から見ますと、消費者が自分のふところを考えていい米をよけい食いたいという人がふえれば、いまの自主流通米流通量はふえるし、また価格も上がりぎみである。また家計を守るという意味で標準価格米でがまんをしようといいますか、済ませようという方が多くなれば、自主流通米と標準米との比率が変わってくる、その選択は消費者に任せるという考え方でございます。
  25. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 それから、谷本参考人にお伺いをするわけでございますが、いま米が過剰である。農家の皆さんが一生懸命つくっても、しかし米が六百五十万トンも残っておるというような中で一生懸命おつくりになるわけでございますけれども、一方では米がそのように過剰ということがやはり頭にありまして、生産という面でも非常に精神的に苦労があるわけでもございます。そういう中で何とかこれを変えていかなければ、解決をしなければならないという考え方に立つわけだと思います。  そこで、実際それではどういう形で過剰米対策をお考えになるか、あるいはまた米の消費拡大というような面でどのようなお考えをお持ちでございますか、ちょっと谷本参考人に伺いたいと思うのです。
  26. 谷本たかし

    谷本参考人 米過剰問題の解決というのは、私はやはり基本的には、米作を発展させるという立場で見てみますと、えさ米生産、これはやはり認めて伸ばしていくというようなことが今後の政策の根幹に据えられるべきものではないかというふうに思います。  それからまた、米の消費拡大の問題でありますけれども、米の消費拡大については、やはり米麦相対価格比の是正、ここのところを価格政策でどうやっていくのか。言いかえるならば、消費者にとっては米を食うよりも麦の方がむしろ物によっては安上がりというような状況があるわけでありまして、そういうのが米の消費を圧迫していることもこれまた厳然たる事実でございますから、政策問題としてはその辺のところをもっと重視した施策をやるべきではないのか、こんなぐあいに考えます。
  27. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 続いて、谷本参考人にそれに関連をいたしましてお伺いを申し上げるわけですけれども、いま小学校や中学校で学校給食をしているわけでございます。これは米飯給食ということで週二回という努力をいろいろされているわけでございますけれども、学校によりましてはなかなか思うようにいかない面もある。順次それは進んでおるわけでございますけれども、この学校給食の米飯給食、このことにつきましてお考えを伺わせていただきたいと思うのです。
  28. 谷本たかし

    谷本参考人 いまの若い人たちに米離れが進んでいるとされております。十年先三割減反ということが取りざたされておりますけれども、もっとひどい状態になるのではないか、つまり減反がもっと拡大されるのではないかというようなことの根拠の一つにも、若い人たちの米離れということが指摘されているわけであります。  そういう米離れの状況が出てきたということの最も大きな原因一つは、学校給食の従来のあり方が粉食中心であったというところにあると思います。学校給食は教育事業の一環でもあるわけでありますから、そうであってみるならば、いわゆる日本型の食生活、これをどう定着させるか、そしてそこに使うものは、輸入食品を使うのではなくて、やはり地域でとれたものを中心に使うことができるようなあり方が追求されていくべきではないかと思います。そうしてみるならば食生活というのと地域農業というのがストレートに結びついていくわけでありまして、そうした点を重視した学校給食というのを拡大していく必要があるのではないかと思います。  なお、この際もう一つ付言させていただきますが、現在の学校給食法の中では、給食の中身について「パン又は米飯」というぐあいになっております。パンが優位に立っておるような法律でありまして、その辺のところも、やはり米飯というのを先に出してくるといったような法律改正などの配慮も必要になっていくのではないかと思います。
  29. 亀井善之

    ○亀井(善)委員 終わります。
  30. 田邉國男

    田邉委員長 吉浦忠治君。
  31. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 三人の参考人、大変お忙しいところ、貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。心からお礼を申し上げます。  先に青葉参考人にお尋ねをいたしますが、大変私どもに勇気を持たせるようなお話をいただきまして、潜在能力を示せば農業は大丈夫だという将来に対する明るい見通しを示されましたが、日本農業規模が小さいということはよくわかりますけれども、大規模な営農が必要であるという点で、これは小規模を改めるならばコストが半減するというお話がございましたけれども、いままで日本農業を支えてきた小規模経営農家が、この先生のお話のような点からまいりますと切り捨てみたいな形で、確かに機械的にはコストも半減するでございましょう、生産性向上する余地もありますけれども、いままで日本農業を支えていた農業を切り捨てのような形で果たしていいものかどうか、先生はどのようにお考えなのかをお尋ねいたしたいと思います。
  32. 青葉翰於

    青葉参考人 ただいまの御質問、小規模農家を減らすということは小規模農家の切り捨てのような感じがするという御質問だと思うのでございます。  先ほど逸見参考人からもお話がありましたし、農政審の「八〇年代の農政基本方向」の中にもありますように、老齢化とかあるいは若い人が余暇の方に向かうとか、跡継ぎがないとか、そういうような姿がだんだんに出てきているわけでございまして、そういう方たちが、たとえば二分の一ヘクタール持っている小規模農家の方が隣の五ヘクタール持っている方にそれを使ってもらうという場合に、五ヘクタール農家の方は大きな機械をちょっとばかり隣まで広げて使えばいいわけで、これはまことに簡単なことでありまして、それによって得られた利益を小作料といいますか、委託耕作料といいますか、そういう形でなるべく十分に小規模農家の方にあげるようにすればいいわけで、小規模農家の方はそのままその村落にお住みになって、役場に勤めるとかあるいは農協に勤めるとかあるいは学校に勤めるとかしていらっしゃるわけですから、従来よりも体が楽で、それに対する報酬も得られる、こういう形でありまして、決して切り捨てて追い出してしまうというような構想ではないわけでございます。  そういう状態が経済的にもあるいは年齢構成というような点からもある程度必然的に来るということは、農政審答申にも書いてあるわけでして、それを事前にキャッチして、なるべくスムーズに、コストが半分に下がった場合、中堅農家も大規模になってその一部をおとりになるし、小規模農家もなるべく十分なる小作料をもらっていく、その宝の山を——また消費者もあるいは政府もそれによって米価が上がらないで済むということでもやはり恩恵を受けるわけですから、私は三方得の政策ではなかろうか、こう思っております。
  33. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 お三人の方々にそれぞれお尋ねをいたしたいと思いますけれども、青葉参考人に、食管法の抜本改正ということを述べられましたけれども、この改正農政中心にすべきである、よいところは残し、改革をしなければいけないということでございますが、具体的にどのような方法で抜本改正をなさろうとお考えになっているのか、簡単で結構でございますので……。
  34. 青葉翰於

    青葉参考人 実際のやり方としては、ここに出ました農政審答申一つの具体的な方法のサンプルとして提示したつもりでございますが、それをやる場合に、これは一つのたたき台であるということでございまして、このやり方が完全無欠なものだとは決して考えておりません。  それからもう一つは、これは三年間の暫定期間を設けて、その方向に向かって、農林省さんなりあるいは農業協同組合なり農家の方なり御関係の方が方向をよく認識して、逐次その方向に適応するように向かっていかれるということが農業関係の皆さんが一番幸せじゃないか。私ども第三者的な立場から見ると、いまは実際先がどうなるかわからないという感じがするわけでございます。その具体的な方向を示して、それに向かって皆さんで知恵をしぼって一歩一歩と進まれたらよろしかろう、こう思います。
  35. 谷本たかし

    谷本参考人 いま取りざたされているような食管法改正には私どもは反対であります。ただ、それではいまの食管法というのが農民にとってどれだけの利益をもたらしているのかというと、現行食管制度の運営はむしろ米作農業を押さえ込むような制度に変質しているというようなことでありますので、現行食管法のままでもよいとは考えておりません。問題は穀物の自給率引き上げるという立場に立つのか、引き下げるという立場に立つのか、それによって今後目指すべき食管制度のあり方と食管法の中身というのが決められていくべきではないのか、こう考えます。  私どもは穀物自給率引き上げるという立場に立てという主張をしております。したがいまして、食管制度の法の対象には、飼料用の穀物なども含めた主要穀物全体を国家管理でやるという立場に立った法改正を考えてはどうなのかというふうに思います。したがいまして、対象作物についての貿易は国家管理の状態のもとに置いて、そして生産についても農業農民団体との話し合いで生産量を決めていく、また価格については、政府買い入れ価格については農民との話し合いで決めていく、また売り渡し価格については国会で決めていくというような形での新しい管理制度を考えていってはどうなのか、こんなぐあいに思っております。
  36. 逸見謙三

    逸見参考人 私は、日経調の案は一つだけ食管法改正の場合の障害を除いた、こういうふうに理解をしております。その一つの障害と申しますのは、将来の食糧不安を皆さんがどう見るかということでございまして、現在はお米が余って、もう少し自由にしたい、こういうふうに皆さんがお考えになっている、先ほど青葉参考人が申されましたように、クーポン米の量というのを将来変動的に扱うことによりまして、国民の皆さんがますます食糧危機に対応するためにクーポン米を買いたいということであればその量で調節して、その他の数量は最低価格の維持、こういうふうに持っていったということは一つの障害を除いた、こういうふうに理解をしております。  ただ、その最低価格というのは、私はたしか現状では一万二千円くらいになると理解しておりますけれども、これは先ほど話に出ました竹本さんみたいな一番能率のいい経営でもかなりつらい水準ではないか、こういうふうに理解しております。その水準をどうするかとか過渡期の問題をどうするか、こういう具体的な数字をどう盛り込むかということに関しては余りにもまだわからない点が多過ぎて、私は論評を差し控えたい、こういうふうに存じております。
  37. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 時間の制限がございますので、以上で終わらせていただきます。
  38. 田邉國男

    田邉委員長 近藤豊君。
  39. 近藤豊

    近藤(豊)委員 きょうはお三方大変御苦労さまでした。  農政審の報告によりますと、中核農家中心にしてどんどん経営規模拡大をし生産性の上昇を図ろうとしております。そしてその方向というのは、その中に、言わずもがなだと思いますが、二種兼農家と言われるような農家については、これは先細りになっていくであろうという想定のもとに農政審答申はできているように思います。  この二種兼農家の存在というものが非常にいま大きく農業価格政策に影響していると私は思うのですけれども、その場合に、特に価格政策の面、生産性向上の可能性という面から、さらにこの問題の扱いはだんだんとはっきりさせていかなければならない問題だと心得ております。  そこでまず、青葉参考人を初めお三方にそれぞれこの点についての御意見をお伺いしたいと思います。
  40. 青葉翰於

    青葉参考人 ちょっと御質問の趣旨が私よく理解されなかったのですが……。
  41. 近藤豊

    近藤(豊)委員 二種兼農家のように、大体ほかの仕事をしていて土曜日、日曜日にだけ機械を使って米をつくるという人たち、この人たちはある程度生産性向上はできるのですけれども、専業農家のようにそう生産性向上に取り組むわけにはいかない。ところがこの人たちの割合が非常に多いですから、価格政策などで足を引っ張られることがあり得ると思うのです。この人たちをどうやって生産性をうんと向上させるようにするか、あるいはそうでなければ、生産性向上ができなければ、価格政策の面からそうした二種兼農家は次第に中核農家に農地を渡していくことを大いに促進するようにするかという問題があるだろうと思うのです。  なかなかそれは言いはばかる面が多いものですから、議論が真っ正面に出てこない点があるわけですね。その点はきわめて勇敢な提言をしておられるわけですから、ひとつ青葉参考人から御意見が伺えればと思うわけです。
  42. 青葉翰於

    青葉参考人 先ほども申し上げたことでございますが、二種兼農家の方は、たとえば二分の一ヘクタールをおつくりになる、あるいは趣味としてつくられるとか、いろいろな角度からおつくりになること自体をやめるようにというふうに強制する趣旨ではもちろんないわけでございます。  また二種兼農家の跡継ぎの方が、非常に意欲的な息子さんがいて、ひとつおれは中核農家になってやるんだということであれば、二分の一ヘクタールをお持ちになっている方がさらに近所をお借りになって三ヘクタール、五ヘクタールと、場合によっては竹本さん級に十五ヘクタールぐらいおやりになるということも、これはやれば可能なわけでございます。それから、いや、そうしないで二分の一ヘクタールは隣の大きい農家の方に貸して、小作料をもらってそれで満足するんだという形で、二種兼からだんだんに引き揚げていかれるという方をむしろ期待をしておるわけで、しかし、二種兼農家稲作をおやめになることが本当にその方々の不幸になるかどうか、不幸にならない、こんなふうに考えての提言でございます。以上です。
  43. 谷本たかし

    谷本参考人 兼業農家というのは昔からどうも支配者からは評判がよくない。封建時代には、兼業農家というのは大名の方が年貢を取り上げる立場でけしからぬと言ってまいりました。最近は財界筋から、特に第二種兼業農家についての非難、攻撃が強くなっておるようであります。では兼業農家立場から見てみた場合にはどうなのか。いまの兼業農家は昔と違いまして専業農家よりもむしろ生活水準は安定しておる、そういう状態であります。そういう状況の中で兼業農家が兼業農業を続けていきたいとする場合に、これをやめろと言う権利というのはどこにもないと思うし、やりたい者はやっていっていいのではないか、私はそう思います。  問題は、農業生産性向上させていきたいという場合にどうするかということでありますが、その種の場合にはやはり共同化、協業化、そういう状態を集落の中でどう組織し、その中にどう参加していただくかということだろうと思います。もちろん、その前提になってくるのは、全体の合意が前提になってくるし、またそうしたものを可能にしていくのにはそれだけの政策的な条件整備というのが前提になってくるのではないか。  その政策的な条件整備というのは、先ほど来申し上げております雇用問題の解決であるとかあるいはまた年金問題であるとか、あるいはまた地価の抑制といったような問題等々が伴わなければならぬのは言うまでもありません。
  44. 逸見謙三

    逸見参考人 私は先生方ほどたくさんの農家に接しておるわけではございませんけれども、どうも私があちらこちらの農家を訪ねた経験で申しますと、五ヘクタールぐらいの農家とそれ以下の農家では農機具の費用がずいぶん違う、こういうふうに考えております。小さい農家の場合は農機具の修理でも維持でもどうもコストが非常にかかる。五ヘクタールぐらいの大きな農家になりますと、現状で申しますと農家が自分で修理や何かかなりのことをする、こういうようなメリットが出てまいります。それから農機具の所有もセットになってまいります。  現状ではそこぐらいがめどだと思いまして、その農家がその水準に達するためには、安い賃貸料でどの程度土地をとれるかということではないかと思います。米価の水準が土地の賃貸料に響く、その関係がうまく響きました場合には規模拡大というのは有利になりますし、第二種兼業農家、これは私は先ほど申しました本州の稲作農家だけの問題だと思いますが、わざわざ日曜まで働くということはしなくなるのではないか、こういうふうに考えております。
  45. 近藤豊

    近藤(豊)委員 谷本参考人にお伺いしたいのですが、確かに二種兼農家が協業化をしていったりあるいはその他の理由で農地を貸したりすることが、次第に農業全体の経営規模拡大に進展することだと私は思うのですが、谷本参考人は、その場合の協業化というようなことは、多分中核農家との組み合わせでの協業化ということを考えておられると思うのです。そうしますと、農地の賃貸料プラスその二種兼農家の主な収入、たとえば工場に通って得る給料とか、そうしたチャンスの問題だと思うのです。  現在、幸いなことに日本はそれほどの失業率の上昇は見られないのですけれども、そうしますと、雇用問題、つまり日雇い労働とかそういう不安定なことではなくて、定職が得られるような状況が今後も続くのであれば、その面では環境は特別な政策的な配慮をしなくてもいいような気がするのですが、それ以外にどういう点を政策的な配慮を要するというふうに考えておられますか、もう少し敷衍をしていただきたいと思います。
  46. 谷本たかし

    谷本参考人 いまさしあたっての一番大きな問題というのは、高齢者の農家が非常にふえてきておる、高齢者の農家の農地の利用をどうするのかというようなことが農政上の大きな課題とされつつあるわけであります。  その点で見てみますと、先ほども申し上げましたように、高齢者の農家一定程度土地離れができるようになるためには、やはりこれは年金をもっと充実強化していく必要があります。そこのところを抜きにしてしまいますと、高齢化しても引き続き農業経営はやっていかざるを得ないというようなことになるわけであります。また、その場合にもう一つの大きな問題として考えなければならないのは、高齢者の労働力がそれなりに農業に従事できるような場をどう考えていくのかという、もう一つの問題をあわせて考えていかなければならぬと思います。  最近地方自治体での予算組みなどを見てみますと、老人農家の一頭の牛の飼育ですね、これに対して助成をしてやるといったような例などが出ております。そうしたものなどもあわせながら、老人農家が農地離れができるような条件整備というのが伴わなければ、先ほど申し上げたような中核農家中心としての第二種兼業農家などを組み合わせた協業化、共同化といったたぐいのものも成功していかないのではないか、こんなぐあいに思います。
  47. 近藤豊

    近藤(豊)委員 次の問題、最後の問題ですが、世界食糧需給、これは当分は心配ないのだということを逸見先生おっしゃっておられましたが、ことしのようにアメリカがかなりの干ばつで相当の被害がある、日本も冷害、あるいは韓国も大変な冷害が報道されております。このようないわゆる地球物理学というのですか、世界全体の気候が場合によっては相当長期間変調を来すかもしれないという、いわゆる自然条件が一つ。  もう一つは、石油の場合ほど鋭くはないかもしれませんが、食糧が武器として使われるような場合の日本の自給力についての、あるいは食糧獲得能力についての不安という点はどのように評価しておられますか。
  48. 逸見謙三

    逸見参考人 どうもお天気の話は専門家でもむずかしいようでございまして、将来地球が暖まるという説と寒くなるという説と両方ございまして、差し控えさせていただきたいわけでございますけれども、私は、紀元二〇〇〇年ぐらいまでの間は、過去のいろいろな趨勢値をとりましても、それほど傾向として地球の気候が悪くなる、こういうふうには考えられないわけでございます。  それから、石油と食糧の対比でございます。食糧が全然戦略的な手段あるいは外交手段に使われないということはございませんけれども、石油と根本的に違いますのは、石油の場合は輸出をとめましても地下に残っております。ところが食糧の場合、輸出をとめますと、これはそれだけつくっている農民が失業するわけでございまして、農民の側からそれを抑えるということに対する反発が非常に強い。これはアメリカがソ連に輸出を云々しましたときに農民の反対が非常に強かった、こういうことがございます。  二番目に、石油の場合はOPECという、このごろ大分緩んでおりますけれども、ある意味で独占というのがございますが、世界の穀物市場は非常に競争的でございまして、アメリカが云々すればアルゼンチンが売り出ず、なかなか武器に使いにくい条件がございます。  三番目に、石油の輸出国はどちらかというと発展途上国で輸入国が先進国なものですから、たとえが悪いのですが、犬が人間にかみつくというような側面がございます、ところがアメリカやカナダやオーストラリア、先進国が穀物をとめますと、人間が犬にかみつくということになりまして、世の中の人道的なことから言って袋だたきになって、なかなか大規模にはそういう戦略が発揮しにくい、こういうふうに見ております。
  49. 近藤豊

    近藤(豊)委員 終わります。
  50. 田邉國男

    田邉委員長 野間友一君。  野間委員に申し上げます。谷本参考人は所用のため十二時二十分ごろ退席をされますので、同参考人に対する質疑は先にお願いをいたします。
  51. 野間友一

    ○野間委員 参考人の皆さん御苦労さまです。  そういうことでありますので、まず谷本参考人に対しまして二点ばかりお伺いをして、お答えいただいたら随時御退席いただいても結構かと思います。  まず一点は、農政審答申あるいは建議、これを見てみますと、その特徴の一つ農産物価格政策の後退にあると私は思うのです。都市勤労者並みの労賃を償うための価格保障という政策をほぼ全面的に否定されておるというふうに私は読んだわけでありますが、需給調整機能を中核農家の水準に合わせる、つまり引き下げる、そういう方向が示されたと思うわけでありますけれども、その結果どういうふうになるのか、農民運動をされておるお立場からお答えいただきたいというのが一つです。  二つ目はえさ米の問題です。先ほども谷本参考人が非常に強調されたわけでありますが、農民の要求も非常に強いし、転作作物として私も最適だと考えております。ところが政府財政負担の問題で、今度の答申等を見ましても結局長期見通しから外しておるというふうに私は受け取ったわけでありますけれども、財政負担等の関係ではどのようにお考えになるか、ぜひお答えいただきたいと思います。
  52. 谷本たかし

    谷本参考人 今度の農政審答申価格政策の後退であるというのは御指摘のとおりであります。その結果どういう状態が起こってくるか。答申の中身全体を見てみますと、価格政策を厳しくすることが兼業農家が離農しやすい条件をつくるのだ、そういう立場からもそのことが論じられているわけであります。  果たしてそうなるか。ここが問題であります。先ほども申し上げましたように、農民農業生産を営んでいる中で得ている労働所得は、製造業賃金と比べてみますと一日ないし一時間当たりで大体五割台という状況になってきているわけであります。そうした状況がさらに強められるというようなことになってまいりますと、お手上げになるのは兼業農家ではなしに、専業農家の方がむしろ先にお手上げ状態になっていく可能性があるのではないか。生産力格差という状況もありますけれども、生産力の格差といってもいまのところそう大きいものではありません。そうであってみるならば、むしろつぶされるのは政府が育てようとしている中核的な農家、そこが最大の被害を受け、落ち込み状況が出てくるのではないか、そのように思います。  次に、えさ米の問題であります。財政負担の問題、これは非常に大きな問題になっていくと思います。私どもの次元から申しますと、いまのえさ専用品種で作付した実験結果というのが、十アール当たりで一トン以上の収量が得られております。これを価格に換算しますと、外国から安い穀物が入ってきておりますので、トン当たり三万円にしかならないというような状況があります。  さて、それでは転作大豆と比べてみたらどうなのか。転作大豆と比べてみますと、転作大豆の収量は大体いまのところ十アール当たり百二十キロ、値段にしますと三万円になります。ですから、転作大豆の状況と、私どもがやっておりますえさ米実験田の結果というのが大体似たような状況だということであります。ということは、大豆並みの奨励金が対象とされるならば、えさ米生産はきわめて有力であり、伸ばしていくことができる、こんなぐあいに私どもは思います。  それで、これから先三割減反だということが言われておるのでありますが、畑地にする可能な水田というのは三割までありません。これからますます田畑輪換を可能とする土地改良をやっていかなければならぬわけでありますが、それだけ、追いつき追い越すだけの土地改良がやれる計画になっているかというと、そうではないわけであります。  そうした状況等々も考えてみますと、食用米の問題とえさ米というのは、プール計算方式食管の中でめんどうを見ていくということを考え、なおかつ他の転作物との格差などを考えてみますと、そう不当な財政負担というぐあいには私はならないのではないか。そしてえさ米を対象にしていきますと、収量を伸ばすという方法はこれから先幾らでもあるわけでありますから、そうしたものなどに期待をかげながら、当面の財政負担については思い切った財政負担の措置を講ずべきではないのか、こんなぐあいに思います。
  53. 野間友一

    ○野間委員 どうもありがとうございました。  えさ米については私も同じような考え方を持っておりますので、ぜひ転作作物の中に入れるようにこれからも一緒にがんばっていきたいと思います。ありがとうございました。  それでは、青葉参考人にちょっとお聞きをしたいと思います。  先ほどからいろいろお話を承っておる中で、クーポンの問題がございますが、お聞きしたいのは、そのクーポン以外の米の流通ですね、これを完全に自由化するというのが大体提言のポイントではなかろうかというふうに理解をしたわけでありますけれども、これをやった場合、たとえば七二年のときにあの商社の丸紅がモチ米の買い占め、投機などやりまして、国会でも私たち追及をしたわけでありますが、そういうようなことを引くまでもなく、米が大資本の投機や価格操作の対象となる可能性はないというふうにお考えなのかどうかということ。  提言では、卸売業務だけは指定卸売業者に限定をする、こういうふうにされておりますけれども、これもダミーを使ったりあるいは系列化支配、インテグレーションでこういうようなものが行われる可能性が非常に強いというふうに私は思うわけでありますが、これらの防止する手だてについてどのようにお考えなのか、まずお聞かせいただきたいと思います。
  54. 青葉翰於

    青葉参考人 ただいまお話のありましたように、卸売業者は政府の監督する指定業者とするということでありまして、それが大商社の系列に入ったりダミーになったりということもあるかもしれませんが、それに対しては政府が直接に監督して、投機に類するような買い占めといいますか買い付けをやった場合にはそれをやめさせるとか、あるいは適当な限度を設けて、それ以上のことをやる場合には卸売業者の免許を取り消すとか、とにかく政府が首根っこを押さえているという形でそういう投機をやるようなことを防げるのじゃなかろうか、こう考えております。
  55. 野間友一

    ○野間委員 大変困難な問題だと思います。いまも、モチ米がことしは不足するのじゃないかということであれこれ新聞等でも書かれておりますし、私たちも調査しておりますけれども、自由に流通する場合に、それをチェックする方法というのはなかなかむずかしいのじゃないかというふうに私は思っておるわけなんです。  それからもう一つのポイント、この提言を読ませていただいて感じましたのは、私の理解不足かもわかりませんけれども、食管制度の抜本的な改正についてはいまお話がありましたけれども、結局生産米価を引き下げれば、兼業農家稲作を断念してそして米の過剰が解決するというのが一つのポイントになっているやに私は承ったわけです。  その点で、先ほどの谷本参考人のお話もありましたけれども、大体二種兼、こういう方々は自家飯米の生産中心になっているということなんですね。生産米価が低落した、こういうことから二種兼の方が稲作を断念されるよりも、谷本参考人の話もありましたけれども、むしろ稲作収入に依存をしておるそういう専業農家の方が打撃を受ける。全体として米の生産について言いますと不安定性を増すのではないかというふうにも私は思うわけでありますけれども、この点についての御見解はいかがでしょうか。
  56. 青葉翰於

    青葉参考人 二種兼の方がどの程度やめるかということは、これはやってみなければわからないわけでございまして、必ず全部が急速にやめるということにならない可能性も十分考えられます。先ほど申し上げましたように、土地の状況によって違うし、それから年齢構成によって、自然体でいきましても時間がたてば、もう十年もたてば自然にやめる方もできてくるという、これも動かせない事実だろうと思います。  それから、中核農家米価の引き下がりによってまいるのじゃなかろうか。これは確かにそういう面もあるわけですが、この案がたたき台だと申し上げております理由は、中核農家をどういう形で、実際に補助金をもっとふやすとか、盛り立てていく方法を考えなければならないという意味でこの案がたたき台だと非常に謙譲に申し上げているわけでございます。
  57. 野間友一

    ○野間委員 もう一つお教えいただきたいと思うのですけれども、生産者をどう保護していくのかという点で、買い入れ価格とかあるいは政府の売り渡し、さらにその規模、こういうものについての提言、私は拝見したのですけれども、具体的には出ていないように思うわけであります。とりわけ買い入れ価格について、お説と申しますか提言の中には、クーポン米小売価格から流通経費を差し引いた額、これはいまの時点で計算してみますと、六十キログラム当たり一万二千円になるわけです。いまに比べて五千六百円ぐらい低くなるわけです。これではとうてい生産者はたまったものではないというふうに思うわけですけれども、もう少し具体的に提言の中身を敷衍していただけたら幸せかと思います。
  58. 青葉翰於

    青葉参考人 いまの一万二千円という価格も、一つのやり方として提示したわけでございまして、それが現在の生産農家に与えるあれが非常に多ければ、それをたとえば一万四千円にするとかあるいは三千円にするとかということも、一万二千円でなければならぬときめつけたわけではないのでございまして、その辺は非常に弾力的でございますので、そのように御理解いただければありがたいと、こう思います。
  59. 野間友一

    ○野間委員 それでは最後に逸見参考人にひとつお教えいただきたいのですけれども、先ほどからもいろいろ論議がございますけれども、農産物の場合には非常に特性がございまして、気候によっても左右されますし、地理的なというか国土的な条件によってもずいぶん左右される。しかもオートメのように、例の製鉄のようなああいう完全な合理化にはなじまない、つまり労働集約型の産業が特徴だと私は思うのですね、合理化をどんどん進めていくことは可能だと思いますけれども。  そういう点と、もう一つは、先ほども言われていましたけれども、石油のように一つの戦略的な物資として使われる、そうなりますと、考えてみますと輸入という点が大変に不安定なものであるというふうに私は思うわけです。ヨーロッパあたりでも、農業については保護政策が基調にあるというふうに私は思うわけです。今度の見通し等を見ますと、穀物の自給率が現在の三四%から三〇%にむしろ減るというふうにいまなっているわけですね。これは私は逆ではなかろうかと思うわけです。  そこで私は、いろいろな財政上の問題はあるにしても、農業についてはうんと手厚い保護政策、言葉が適切かどうかはともかくとして、そういうようなものをやっていかなければ、農業あるいは農家の経営を考えた場合に、先ほど青葉参考人はバラ色のように将来の夢を描かれたわけですけれども、そうならないのじゃないかと私は思うわけですが、この点についての御見解をお聞かせいただいて私の質問を終わりたいと思います。
  60. 逸見謙三

    逸見参考人 私も農業に関係しておる者といたしまして、農業に対して財政的にもできるだけお金をいろいろいただく、こういうことは願うわけでございますけれども、日本のいまの経済の実力から言いますと、どうもこれ以上のことは国民の合意が得られないのじゃないか、あるいは勤労者、農民も勤労者でございますけれども、一般勤労者の負担が余りにも大き過ぎるのじゃないか、こういうふうに心配するわけでございます。  危機に備えるということはある意味で保険でございまして、保険をどう安くするかということになってまいります。その場合に、お米に関しましては日本の特殊事情がございますので、私も完全自給というのが現状において望ましい、こう思っております。ほかの作物に関しましてはある程度の、国内生産も必要でございますけれども在庫政策ということでやることが望ましいのではないか。  ついでに申しますと、ほかの穀物は、石油や鉄を使いまして穀物にしまして、主に小麦や畜産物にするわけでございますけれども、石油は中近東から参りまして、一番不安定でございます。穀物になりますと北米から主に参りまして、畜産物になりますと大洋州から参ります。そういうのの輸入の組み合わせをお考えいただくことも危険の分散になるのではないか、こういうふうに承知しております。
  61. 野間友一

    ○野間委員 ありがとうございました。  私もいろいろ異なった意見を持っておりますけれども、時間がございませんのでこれで終わりたいと思います。どうも御苦労さまでした。
  62. 田邉國男

    田邉委員長 以上で各参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。  暫時休憩いたします。     午後零時三十四分休憩      ————◇—————     午後二時五十六分開議
  63. 田邉國男

    田邉委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  農林水産業振興に関する件について調査を進めます。  午前に引き続き、八〇年代農政の基本問題について、参考人から意見を聴取することといたします。  本日午後に御出席を願った参考人は、東京大学農学部教授金沢夏樹君、日本経済新聞社論説委員山地進君、全国農業協同組合中央会常務理事山口巖君、以上三名であります。  この際、参考人各位に申し上げます。  参考人各位には、御多忙中にもかかわらず、本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。八〇年代農政の基本問題につきまして、参考人各位のそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。  次に、議事の順序でありますが、金沢参考人山地参考人山口参考人の順で、お一人二十分程度意見をお述べいただき、その後、委員から質疑がございますので、これにお答えをいただくことにいたしたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、参考人委員長の許可を得て発言をしていただき、また、委員に対しては質疑ができないことになっておりますので、御了承ください。  それでは、金沢参考人にお願いをいたします。
  64. 金沢夏樹

    金沢参考人 農政審答申の中で、いろいろな問題が盛られておりますけれども、時間の関係もありますので、主として構造問題ということにしぼってお話を申し上げたいと思います。  それで、稲作面積七十五万ヘクタールというものが転作の対象になっておるというふうに述べておりますけれども、これが一体農業の荒廃ということにつながるのかつながらないのかということでありますが、これが農業の荒廃につながるかつながらないかは、一つは、農政というものの発想がどんなふうに転換できるかということに大きくかかわってくる問題ではないかと私は思うのであります。最初にそのことについて申し上げたいと思います。  私は、本来一国の農政というものは、大きく申しまして二つの柱があると考えております。一つは、需要供給ということにバランスをとりながら、一定生産価格を保持し、必要なものを供給していくような需給関係、需給調整という問題であります。もう一つは、それを担当する農業者というものをいかに安定化し強力化するかという問題であります。別の言葉で申しますならば、一つは需給調整、価格政策、もう一つは、担当者の問題というのは構造政策というふうに申し上げてもいいのではないかと思います。  こういうふうに、需給調整ということとそれから農業の構造政策というのは、まさに車の両輪のごとく、片一方に偏らないように真っすぐ走るということがはなはだ重要だと思うのでありますけれども、しかし、従来の日本農政というものは、構造政策ということは非常に背後に隠れた問題でありまして、需給調整ということがきわめて大きな柱でありまして、そこからいろいろな問題が発想されてくるというような筋書きになっておるかと思うのであります。  農業がこれから素直に育っていくか荒廃するかということは、農業者がいかに安定的に、かつ場合によっては収益的に農業を持続していけるかどうかということだと思うのであります。もとより需給政策ということと構造政策ということは関連はいたしておりますけれども、しかし、構造的に本当に農業者のサイドから問題を打ち立てていくということが大変重要な一つの視点でありまして、この需給政策と相並んで一つの柱のように打ち立てていくということが必要なのではないかと思うのであります。  しかし、私の見たところでは、農業者をいかに強力、安定化するかというための構造政策というのは、従来の農政の中では最も不得意とするところ、不得手とするところでありまして、その問題が大変じみな内容を持っておるものでありますから、どうしても構造政策ということが背後に隠れるような形になっておるのが実情だと思います。  したがいまして、たとえばこの農政審の報告の構成を拝見いたしましても、第一章に日本型食生活の形成と定着、二に食糧安全保障、三に需要動向に応じた農業生産の展開、四に農産物価格政策、五に構造政策、こういうふうな順序で配列されております。つまり、大前提食糧需給という問題があり、それをさらにかみ砕いて生産の問題があり、さらにその問題をブレークダウンして、経営がどういうふうにそれを受け持つか、こういうふうな発想の順序になっておるわけであります。  これが、言ってみればいままでの農政の発想の順序だと私は思いますけれども、しかし問題は、農業の本当の発展のためには、構造問題ということが一つ大きく柱として打ち立てられなければならぬわけでありまして、これにつきましては、農政の非常に大きな発想の転換と申しますか、そういうようなことを必要とするものではないかなと思うのであります。  この考え方というものは非常に重要なものを含んでおるわけでありまして、後でまた申し上げますけれども、こういう構造政策ということを一つ大きく表に出していくという思想がないと、農業者は与えられた物を与えられただけつくっていくというふうな、きわめて自主性のない農業に終わってしまうということだろうと思うのであります。  しかし、この報告を検討してまいりますと、従来の農政はそういう点が特徴であり、この報告もある意味では同じ性質のものと思われますけれども、しかし、大変注目していい点は、従来のいろいろな報告書と比べまして、それなりに農業経営の発展方向ということを大変重要視しておることであります。恐らく、不十分ではありますけれども、いままでの報告書と比べずと、大きくその経営の重要性ということをうたっておる点は、その一つの特徴ではないかと思います。  とにかく、いろいろな農業経営のこれからのあり方ということを下敷きにしないと、これからの農業政策というものはなかなかうまくいかないという自覚が内外ともに生じているということの証明でありましょうけれども、たとえば「八〇年代の農政基本方向」の三十四ページには、その経営全体としての農業のあり方、それから土地の高度利用化、複合経営のあり方等々につきまして、それに対してこれからの方向性ということを重要視してうたってある点は、私は、従来の報告書と比べると一歩進んだ評価をすることができるように思うわけであります。  そういうことで、本報告は、確かに従来になかった経営の問題を大きく取り上げているということは評価すべきことだというふうに思いますけれども、しかし、さらに突っ込んで申しますと問題がある。それは、いろいろな日本のこれからの経営的な方向ということを示唆しておりますけれども、それではそれによって一体どんな具体策を講じようとするのかという点になりますと、その問題を後に残しておるということだろうと思うのであります。方向性のみを示して、具体的な対策というものはまだこれからの問題というふうに受け取られます。しかし、その高度利用ということがここでの大変な力点になっておるわけであります。  私も今後の食糧問題等々を考えます場合に、少なくとも、耕地拡大化ということよりは、まず高度利用ということを優先すべきであるという考え方は持っております。高度利用をいかにして実現するか、これが一つの大きな問題点だと私は思うのでありますけれども、しかし、これは言うべくして実はそう簡単な話ではないのでありまして、個人が高度利用を志したから、次の日から高度利用ができるというような性質のものでは全くないわけであります。  まず、高度利用のためには、十分な土地改良その他の施策が施されておらなければならないわけであります。そしてまた、いままでの技術政策等等におきましても大きな反省を伴わないと、高度利用などということはできない問題がある。たとえば、いままで稲の増産ということで、試験場等等におきましてその品種のいろいろな改善も行ってまいりました。栽培技術のやり方もやってまいりました。機械化も進めてまいりました。しかし、いずれもそれは稲の最高収量をいかに実現するかという点に多くのポイントがありまして、そういう稲作技術発展、開発方向というものは、しばしば土地の高度利用を排除する方向に動いてきたということもこれは十分に反省しなければならぬところではないかと思うのであります。  こういうことで、高度利用ということは単なる作物の話ではなくて、一つ土地利用の体系として総合的に作物の組み合わせを考え、総合的に価格政策を考え、総合的に市場政策を考えるという対応でないと、いままでのように単に作物の生産性を上げていくような技術政策方向のみでは解決できない問題をたくさん含んでおりまして、何か水でも引っ張ってくればいい、用水でも設備すればあとは農業者の自由な責任において高度利用を実現するべきだという発想はいささか違っておるわけでありまして、高度利用の実現のためには、なさなければならぬたくさんの施策が累積的にある、これを一つ一つほぐしていかなければならぬ、こういうふうに思うわけであります。  そういう意味で、従来言っておりました生産性向上というようなことも、もっと広い意味で、単なる労働の生産性だけではなくて、資本生産性というようなことも十分に考えていかなければならぬわけでありまして、一個の作物の話ではない、全体として農業の収益を上げ、生産力を高め、経営の安定化を図るための諸施策が、一つ一つ政策的な措置を必要とするというものを持っておるだろうと思っております。大変そういう意味でじみな問題が多いわけであります。だからこれは、政策対応としてなかなか取り上げにくいような問題、従来の農政考え方としては大変取り上げられにくかったあるいは不得手だというような問題、いろいろな施策を施してもそれが実際に農業経営の安定につながってこない問題が多いのではないかと思うのであります。  したがいまして、私がこれから考えます一つの問題は、こういったじみな問題、そしてどこから手をつけたらいいかということが大変重要な問題でありまして、いろいろ土地利用の高度化の施策をやっていくためにどこからでもいいというわけにはいかないのでありまして、ここから手をつけて、その次にこの点を改良して、その次にはこの点の整備をやってというふうな順序があるわけでございます。  そうすると、どうしてもこれは地域というものが主体的に農政の中に入り込んで、地域が主体的にその地域の農業を拡充していくという責任と計画性をもう少し与えなければ、国がいろいろ細かい気持ちを持って指示していただくことは、場合によっては大変マイナスになって大きくは育たないという場合をしばしば生じている。こういうことで、私は、地域農業計画というものについての地域の任務と自主性ということをこの際強調いたしたいのであります。  農地の流動化でありますけれども、たとえばこの間農地三法が国会を通りましたけれども、農地三法のごときも、法律ができれば農地は大いに流動化するという性質のものでは決してないのでありまして、自分たちのそういった地域計画ができ上がって、その中に流動化ということが位置を占めるわけでありまして、そういう意味での地域主体ということにこれからの農政のポイントを、たとえば権限なり任務なりというものをもう少し県なりその他に移す面がないのかな、少なくとも構造問題に関しては。こういうふうに考えております。特に農協あたりの、この地域農政に占める農業サイドからの発言なり自主性なりというものはきわめて大きいと思うのであります。  と同時に、この際皆様方にぜひ申し上げておきたいのは普及事業の重要性であります。  われわれは、農政ということでいろいろな事業を行い、農家生産性を上げるために引っ張っていく、力で引き上げていくということはいままでずいぶんやってまいったことでありますけれども、農家のサイドに立って地域計画等々を進めていくためには、やはり普及事業のごとき非常にじみな仕事を評価しなければならぬわけでありまして、こういうものでじわじわ農業を強くしていくというふうなことを考えませんと、一躍成果を早く求めるというふうなことではこの成果は上がらないのではないか、こういうことであります。  こういうことで、高度の土地利用体系ということを考えてまいります場合に、単にこれは米減らしのための高度利用ということではなくて、かなりの安定性と収益性をもたらし得るからこそ高度の利用ということが主張されるということでなければならないと思うのであります。そうなりますと、まあいろいろな補助金制度等々もありますけれども、土地の高度利用のあり方に対しましては、かなり、先ほど申しました技術政策なり市場政策なりあるいは労働政策なりというふうな対応の中で、日本のこれからの、特に水田を中心とした農業の体系、収益的にも上げていくような体系というものが、それぞれの地域によってそれなりの形があり得るのではないかと思っております。  当然に飼料米等々も問題になろうかと思いますが、飼料米を飼料米として評価するということになりますと、これはとても価格や何かで問題にならないということがありますけれども、一体、飼料米というものをその土地の、水田なら水田の一年の利用体系の中にいかに上手にはめ込み得るかどうか、作付体系の弾力性ということからいって、飼料米というものはどんなふうな性質を持っているかというふうなところまで検討しなければならぬと私は思います。  そういうことで、日本の高度土地利用ということにおきましては、未検討な問題が余りにも多いということ、かつ、その未検討な問題を一つ一つ突き詰めていけば、それなりの可能性は地域によってまだまだあるのではないかというふうに私は考えております。  皆さん方の中にはこういう御意見を持たれる方もあろうかと思うのであります。たとえば、こういうふうに生産調整等々におきまして、やはりそれについての国の地域分担のような考え方を明示しておくべきではないかというお考えもあろうかと思います。まあ、地域分担ということが明示できればそれにこしたことはないと私は思いますけれども、しかし、地域分担というのは、先ほど申しましたように、国が独自にその生産調整の割り当てというようなものを地域の農業に応じて、他の作物との関係も考慮するでありましょうけれども、国がいまの段階で地域分担を上から示すということには問題がたくさんあろうかと思うのであります。やはり国と地域の両方からの突き合わせが必要だと思うのであります。いずれにしても、こういった計画化が必要だと私は思いますけれども、県、地域からのそういう突き合わせということがなければならないのではないかということであります。  そういう意味で、私は、今後、県農政というものが一体どういうふうな課題を持つのか、市町村農政というものの積み上げとしての県農政、地域農政の締めくくりとしての県農政というものが、もう少し日本全体の農政の上で検討されるべき問題が多いのではないか、問題は大変じみなところにあると思います。それから最後に、中核農家ということであります。中核農家の育成ということと、それがら多くの兼業農家を含めて、一体日本農業農政はどういうふうに担当農家層を考えていくかというところに多少のジレンマがあるようでありますけれども、やはり私は、今後の日本農業の担当者といたしましては、国が言う単なる中核農家というだけの狭い範疇では解けないであろう、やはり多くの農家層というものを日本農業の戦力の中にそれなりに入れていかなければならないだろう、第二種兼業農家の特殊な問題も含んでおりますけれども、これから地域の組織化ということが、そういう意味で非常に重要な問題になっていくのではないか、こういうふうに思います。  そういうことで、問題を構造問題にしぼりましたけれども、問題は大変じみだ、じみなところに手をつけないというようなところに実は多くの残された問題があって、形のいいものだけが先に進むようなところに実は多くの問題が残されてしまっているというふうに思います。  ちょっと時間を経過いたしましたけれども……。(拍手)
  65. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  次に、山地参考人にお願いいたします。
  66. 山地進

    山地参考人 ただいま御紹介いただきました山地であります。本委員会意見を述べる機会を与えていただきまして、大変に光栄に存じます。  私は、農政審議会委員として今度の答申の作成に参加したものですから、それに加わったという立場から、今度の答申の特色、私なりに見た特色を挙げながら、それを多少コメントする形で意見を述べさせていただきたいというように思います。「八〇年代の農政基本方向」を見ますと、最初に「日本型食生活の形成と定着」ということが出ておりまして、まず、日本型食生活の重要性、わが国の食糧政策あるいは農業政策における重要性というものを最初に指摘し、それと同時に、食糧安全保障をいかにして充実していくかということを取り上げております。  いままでの農政審答申、何度かありましたけれども、こういう形で最初に日本型食生活の問題というようなものを指摘したり、それから安全保障の問題を取り上げたというのは、多少は触れてある程度ということならいままでもありますけれども、今度の答申の非常に大きな特色だろう。しかも、今度の答申でさらに重要だと私の思いますことは、日本型の食生活を維持させるということが、同時にわが国にとっては食糧安全保障につながる、そういう関連性を指摘したということだと思います。  御承知のとおり、日本人の食生活、これは平均的に見ますと、同じ所得水準にある欧米諸国と比べましてはっきり違っている点が幾つかございます。たとえば、同じ所得水準のところと比べましても、熱量の摂取量が少ないとか、あるいはでん粉質食品の摂取の割合が大きいとか、あるいはたん白質の摂取の中で植物性の割合が非常に高いとか、あるいは動物性たん白の中では魚の比重が非常に高いとか、とにかく非常にはっきりした特色がございます。それによって欧米諸国が大変に悩んでおります心臓病も比較的少なくて済んでいるとか、そのためにまたトップレベルの長寿国になっているということがございます。  ヨーロッパあるいはアメリカですと、御承知のように、死因の中で一番多いのが心臓病で、その次ががんで、後が脳溢血というふうなことですけれども、わが国の場合には、脳溢血が多くて、その次ががんで心臓病。脳溢血はだんだんいまは少なくなってきておりまして、これから恐らくこの一両年のうちにがんと順位が交代するのだろうと私は思っておりますけれども、そういうことで比較的心臓病が少ないというのは、恐らく日本型食生活のせいだろうというふうに私は考えておるわけです。  ことしの初めにアメリカへ参りまして、例のアメリカ人の食事目標というのをアメリカの上院で作成いたしましたので、その作成の過程などについていろいろ聞きましたところ、アメリカじゅうから栄養学者とか権威ある医者を呼んで、これからのアメリカ人の食事目標としてどういうことを考えるべきかということをヒヤリングをしたわけですけれども、その過程でモデルとして挙げられたのがイタリアあるいはスペイン、ポルトガルというふうな南欧の食生活、それと大変にまた似ておりますのが日本食生活でして、とりわけ沖繩の食生活、奄美大島、沖繩に大変に長寿が多いということで、日本食生活というものがモデルとして取り上げられた。アメリカ農務省のその担当官といいますか、この問題の専門家によりますと、日本食生活は、もうちょっと塩分を少なくすれば理想的だというふうなことを言っておりました。  私、いろいろこういう問題を地方で話しますと、消費者の関心というものも非常に高い。結局、米の過剰とか転作の問題とか、そういうものを考える場合でも、日本の現在の食生活に自信を持つということが非常に必要ではないかと思うのです。  戦後、高度成長のもとでわれわれは急速に食生活の内容を変えてきたわけですけれども、そのために、まだまだ追いつけ追い越せという意識が非常に強くある。そのために非常に主婦その他の一般の人たちが食生活というものに対して不安感を持っているのではないか。しかも、その間、御承知のようにいろいろな形で米は攻撃をされてきたわけです。単に畜産物とか油脂で、カロリーの形で攻撃されただけでなくて、それよりはむしろ米にまつわるさまざまな中傷というものが私は非常に大きく影響をして今日に及んでいると思います。  しかし、今度の答申でも、そういう時代は去ったのではないかというふうなことを申しておりまして、私も、日本人がもっとこういう点について自信を持つということが、今後の食糧農業政策を考える上での出発点ではないかというふうに思います。  こういうことを申しますと、食生活のあり方について政府が関与するということは非常に問題があるというふうにおっしゃる方がございます。確かに、方法いかんによっては問題があろうかと思いますけれども、アメリカでやっているやり方も、もちろん強制ではなくて説得という、科学的な根拠を示しながらやるやり方で、日本としても当然そういう点については十分配慮しながらやっていく必要があるというふうに考えます。  こういうことをやっていきましても、非常に多量の、あるいは二千数百万トン、場合によっては三千万トン近い穀物というようなもの、さらに大豆、砂糖というようなものの輸入は必要になるわけです。それにつきましてはさまざまな対応策を考えていかなければいけないと思いますけれども、最近の情勢、特にことしの世界的な異常気象、それに伴う来年の期末在庫の急激な低下というふうな問題を考えていきますと、何らかの形で、私は二国間協定というようなものも考えた方がよろしいのではないかというふうに思います。いろいろな国々が最近二国間協定をやっておりますけれども、そういうことで供給の安定を図る。もちろん、そのほか発展途上国に対する技術協力、こういうようなものは積極的にやっていく必要があると思います。ごく端的に言えばそういうことが必要になるのではないか。  それから、日本食糧供給がどういうふうな構造で行われているかということについて、もっと国民教育をやっていく必要がある。米がどうなっているかということはほとんどわかっているとは思いますけれども、全体としてどんな供給の構造になっているかという点についてはまだ十分ではない。  最近経験したことですけれども、ある軍事評論家に、日本の穀物自給率、最近三四%とか言いますけれども、これに大豆が入っていないというふうに申しましたら、大変にびっくりされて、砂糖はどうなっているか、砂糖も入っていないというようなことを申し上げたら、大変びっくりしておりましたけれども、とにかく日本食糧供給の構造というものがどうなっているかということは、少なくともそういう方々には常識としてもっとなくてはいけないはずですし、国民全体も、そういうふうなことを知ることによって、本当に米の問題、あるいは日本食糧の問題、農地をどういうふうに使っていったらいいか、優良農地の確保とかその他さまざまな問題に対する理解が出てくるのではないかというふうに私は考えます。  ちょっと時間がたってしまいましたけれども、価格政策については、需給調整機能の発揮という点にもっと力を入れる必要がある。それから、用途別の価格制という点を強調している点が私は特色だと思います。  前の方の需給調整機能の発揮という点につきましては、これは御承知のように、行政価格の決定というのはどうしてもおみこしを担ぐスタイルになってしまいまして、これは日本だけではありませんけれども、どうしても弾力性を欠いて下方硬直的になる。そのために財政上、需給上、いろいろな問題を起こしていることは皆さん御承知のとおりだと思います。それを反省したのが今度の答申の意味だと思います。  もう一つ、用途別の価格制につきましては、これはミカンとか牛乳で現実にやられていることですけれども、米についても最近は多少そういう傾向になっておりますが、この点については私はもっとはっきりさせたらどうかというふうに思います。つまり、余ったものは安い、これは混合経済体制の中ではそういう一つの物について幾つかの価格が出てくるというのは私はやむを得ないことだと思います。  今度の答申では、飼料穀物問題につきまして、安全保障の観点から長期的な課題として取り組むべきだという意見と、もう一つ、条件整備についてできるだけ早く関係者の合意形成を図れという意見、これが両論併記になっているのではないかというふうに私は受け取っているわけです。私の意見を言わせていただけば、後者の方でして、できるだけ早くこの問題について検討を深めて、湿田などで十分に大豆や小麦のつくれないところではえさ米を入れていく。それをどういうふうにしてプールしていくか、その組織をどういうふうにつくっていくかということが、この問題では最も重要だろうと思います。地方でいろいろの幹部の方々に会いますと、この用途別の価格制という点についてはかなり理解が出てきております。えさ米についても、多少ムード的な観点はありますけれども、賛成する人がかなりあるように思います。  それから、三番目に、構造改善の問題ですけれども、私は、稲作においても二割八割体制をつくれということだろうと思います。御承知のように、中核農家が占める生産の割合というものは、露地野菜とか野菜とか、養蚕、鶏卵、養豚、養鶏、それから酪農というふうな部門におきましては、およそ二割の中核農家が六割ないし九割、大ざっぱに見て大体七割の生産をしているというふうに言っていいかと思います。この二割八割体制というものは、何も日本のそういう部門だけでなくて、アメリカが全体としてそうですし、それからヨーロッパも大体そういうふうに言ってよろしいかと思います。ところが、稲作だけは非常に分散しておりまして、二割の人たちがせいぜい三割ぐらいしかつくっていないというふうなことで、私は、これは二割八割体制を稲作においてもできるだけ早くつくっていくということではないかというふうに考えております。  それから、この構造政策のもう一つの特色は、いままで農林水産省の行政の中では農村という形では余り問題が意識されていなかった。農業農民それから農家というふうな形では意識されてきたかもしれませんけれども、農村という形では余り意識されてこなかった。これはもちろんほかの行政官庁との関係があったからだと思いますけれども、しかし、現実の情勢を見ますと、農村という形では、環境整備は結局いつも全部後回しにされて割りを食っているというのが私は現実だろうと思います。そういう中で、農村の環境整備ということで、農村という形で問題をとらえるようになったということは、これからいろいろな形で構造改善を進めていく上でも、構造政策を進めていく上でも、非常に役立つことではないかというふうに思います。  これに関連しましては、生産価格、それから構造、この三つの政策が三位一体の形で運用される、どれかが飛び出しても余りうまくないわけでして、これが三位一体の形で運用されるようにしていく必要があるというふうに思います。  それからもう一つの特色は、私は食品産業の問題を取り上げたということだろうと思います。  この答申では、食品産業を「農業とならんで車の両輪」ということで、食糧供給の上で位置づけておりますけれども、こういう形で、国民食糧供給安定という問題を、食糧農業システムという形で生産から消費まで一貫した形で問題をとらえようとしているという姿勢は、いままでの農林行政の上から言えば一歩前進ではないかというふうに思います。しかし、こういうことをすることによって食品産業から農業の側への要請はいろいろ強まってきますし、逆にまた農業から食品産業への要請というようなものも行われるようになる。その間にあって農政がどういうふうにこの車の両輪のかじをとっていくか、これは今後の農林行政にとって非常に重要な課題になるのではないかというふうに私は思います。  一応この辺で終わりたいと思います。(拍手)
  67. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  次に、山口参考人にお願いいたします。
  68. 山口巖

    山口参考人 全中の山口でございます。先生方には日ごろから農業問題につきまして非常に御尽力を賜りまして、この機会にお礼を申し上げます。  さて、先般発表されました農政審答申内容でございますが、率直に申しまして、評価すべき点と、食い足りない点と、これでいいのかという不安を覚える点が同居しているような内容でございます。  評価すべき点といたしましては、お二人の参考人も言及されましたように、第一に、日本型食生活の形成と定着という問題、こういう方向について政策展開の方向を示されたことでございます。従来の食糧政策には生産政策だけあって消費政策が欠落いたしておりましたので、そういう意味においてはこれは画期的な提案であるというふうに私は考えます。  第二の問題としては、食糧安全保障としての位置づけ、この問題をはっきり記載いたしたことでございまして、大いに評価できるわけでございます。  第三に、農村整備の推進の問題を初めて取り上げていただきまして、私どもとしては、まことに新しい機軸を打ち出したものとして評価をいたしておるわけでございます。  しかしながら、率直に申しまして、昭和三十六年来、農基法農政というものが二十年も続きまして、この間いろいろな矛盾が積もりに積もりまして、いろいろな形で最近農業問題として露呈をいたしてきておるのが現状でございまして、現在新たに八〇年代に向けての基本方向を示すということになりますと、この内容に非常に多くの問題点を感じておるわけでございます。  第一の問題は、新たな情勢のもとに始まる八〇年代を目指す前に、私どもとしては、二十年間続けた農基法体制下の農政、これをまず政府としてはしっかり洗い直してもらいたいということでございまして、この点がきわめてあいまいでございます。  御案内のとおり、農基法農政は、選択的拡大部門として果樹、畜産等の振興を奨導いたしております。同時に、主食である米の完全自給化を目指して政策を施行したものでございまして、米の生産振興に非常な重点を置いたものでございます。しかしながら、反面、畑作物である麦類、大豆等につきましては、計画的に国内生産を縮小して輸入に依存するという方向を志向したものでございまして、その結果が現在の日本農業の体質を招来する結果になったことは明らかでございます。カン、肉類等の選択的拡大部門がすべて過剰になり、米もまた過剰になっておるわけでございます。その反面、農畜産物の輸入量は年々増大を遂げておる、これが現状でございます。今回の答申がこれらの点に関するより明確な反省に欠けておるという点を指摘申し上げたいわけでございます。  次の第二点の問題といたしましては、食糧安全保障に関連することでございます。  食糧が石油と同様外交手段に現在使われておるわけでございまして、国際紛争や港湾スト等によっても輸入数量の確保というものがきわめて不安定になる、価格が乱高下する、こういう事態が現状においては予測されておるわけでございまして、食糧の安定供給の必要性をはっきり言っている点につきましては十分評価いたすものでございます。  しかしながら、この答申が求めております総合自給力の維持強化という点に疑問を感じておるわけでございます。自給力とは潜在的な生産能力をいうわけでございまして、有事の場合に対処できる力を蓄えておけばいいという考え方でございまして、自給率とは根本的に違うわけでございます。自給率低下によりまして一たん流出いたしました農業労働力、あるいは壊廃いたしました土地生産施設等が、有事の場合に直ちに復旧することはきわめてむずかしい問題と考えられるわけでございます。  したがって、私どもといたしましては、農畜産物の品目ごとに自給率を年々継続的に高める必要があると考えるものでございまして、周知のように、この答申の長期見通しの基礎になります五十三年の概算におきましては、総合自給率は七五%というものの、穀物の自給率はわずか三四%であり、また、内訳の小麦は六%、大麦、裸麦は一四%、大豆は五%という低位でございます。これらの穀物の品目ごとに自給率を年々計画的に引き上げる必要があると考えるわけでございます。英国の例を申して恐縮でございますが、かつて英国では一九六〇年に五二%の穀物の自給率でございましたのを、一九七五年には六四%まで自給率向上を年々図ってきたという実態でございます。  安全保障ということは、こういうことを計画的にやれということではないかと思うわけでございまして、そういう点で、自給力の向上というようなことで抽象的に逃げているという点に私は非常な問題点があるというふうに考えるわけでございます。  それから次に、食糧安全保障に関連いたしましてもう一つ述べさせていただきたいのでございますが、それは備蓄の問題でございます。答申では、安全保障の手段として輸入穀物の備蓄を提言しておりますが、これはいま申しました趣旨から、国内農畜産物自給率向上によって対処するのが備蓄にかわる安全保障の基本でございまして、外国の食料品の備蓄というものは二次的なものであるというふうな位置ずけをするのが当然であろうかと思うわけでございまして、国内の生産能力を低下させて、あえて石油の二の舞のように外国の食料品、穀類を備蓄することは非常に問題があるのではないかと考えるわけでございます。  この答申を読みますと、どうも食糧安全保障というのが、輸入食糧の安定確保、輸入食糧の備蓄、こういうことが中心であるように思われてならないわけでございまして、われわれは、むしろ食糧の輸入量というものは段階的に減らすべきであると考えておるわけでございます。段階的に減らし、計画的に減らして、その分国内の穀物生産振興するのが本当の安全保障につながる道ではないかと考えるわけでございます。  第三点は、日本型食生活提言の問題でございます。  これまでの日本農政は、先ほど申し上げましたように、生産力の向上のみに重点が置かれまして、消費サイドからの観点が欠けておったわけでございます。しかしながら、相対的に食糧の需給事情が緩和いたした現状の中におきましては、消費に見合う生産がどうしても基本にならなければならないわけでございまして、生産振興しようと思うならば、当然消費に対して政策誘導を行って、あるべき需要量の確保を図っていくということが基本になると考えるわけでございまして、そういう方向政策の目を向けてきたということはきわめて評価されるわけでございます。  国民一人当たりの熱量二千五百カロリーと押さえておりますのは、これは妥当なものと思うわけでございます。ただ、現状のまま消費者の嗜好に任せておきますと、恐らくたん白質と脂肪の消費量はこの長期見通しよりも相当ふえるのではないかという懸念、心配があるわけでございまして、この点につきましては、今後の具体的な政策がどう展開されるかという一点にかかっておると考えるわけでございます。どうしてもこれは具体的な政策のフォローというのが必要であると考えられます。そういう点ではちょっと食い足りないという感じが率直に言っていたすわけでございます。  外国の小麦にかわって米の消費を拡大しようと思うならば、政策的に、具体的に、たとえば米と小麦の価格差を現在よりももっと詰める、戦前の一〇〇対八〇ぐらいの格差に詰めるというような政策を仮に施行するとするならば、当然それにつれまして国産の米の消費量がふえる。一例でございますが、こういうようなきめの細かい政策というものを、今後、せっかくりっぱな展開方法を示していただいておりますので、政策フォローをこの際要求をいたしたい、こういうふうに考えるわけでございます。  第四点の問題は、農産物価格の問題でございます。  今回の答申の中では、政策価格の機能というものを、需給調整機能の重視、それからもう一つ中核農家農業所得確保、この二点に置いているわけでございます。しかし、私ども考えますと、これまでの政策価格というのは、決定に際しまして品目ごとにばらばらに違った算定方式で決定されておるわけで、作目間の総合性というものがないわけでございまして、統一がとれていないというのが現実の姿でございます。  こうした現状の中で、政策価格を需給で決める、こういう点だけを重視していきますと、具体的に申しますと、米が余っているから米価を下げろ、こういうふうに聞こえるわけでございまして、この点がきわめて心配な点であるわけでございます。総合的な価格体系というものがあって、その中で需要に見合う政策価格をするということなら話は別でございますが、現在の政策価格の決定方法というのは総合性が何一つないわけでございます。品目ごとにばらばらに決定されている中で需要に見合う価格決定、あるいは需給調整機能を重視した価格決定方法というのは、前途に非常に不安感を覚えるわけでございます。  そこで、われわれ系統農協といたしましては、昨年の農協大会におきまして、八〇年代の農業の課題と農協の対策という方向を明らかにいたしたわけでございます。われわれは、その中で、農畜産物価格政策の全体を通じての統一的な政策理念をまず確立する、農業生産の再編成を誘導するための戦略作目のうち、米、麦、飼料穀物、大豆、加工原料乳を政策対象に選び、これらの行政価格供給目標に見合う数量の再生産確保できるような配慮をして設定すべきであるという主張をいたしておるわけでございまして、価格の総合性、戦略的な作物に対しては国民の必要量だけは再生産確保できるような価格を決定すべきであるという方向を打ち出しておるわけでございます。  価格の問題につきましては、どうも米の過剰ということが全体のトーンの中心を占めておるわけでございまして、価格引き下げの印象、その正当化のための理論構成みたいな感じが強くいたすわけでございます。  先生方御案内のように、現在の農業所得農産物価格動向とを見ますと、農業生産資材が石油、電力等農民の手の届かないところでどんどん上がっておるわけでございまして、肥料、飼料引き上げは、五十四年をとらえてみましても五・四%という対前年アップ率でございます。ことしに入りましてからは対前年の値上がりが一〇%をずっと超えているという現状でございます。  一方、五十四年の農産物価格は非常に低迷をいたしたわけでございまして、その結果として、農業所得は、五十四年は対前年六・二%という落ち込みを示しておることは農林省の統計でも明らかなわけでございまして、本年は冷害でさらに農業所得の落ち込みに拍車がかかるという現状でございます。そういう中で農産物価格の引き下げが正当化されるような価格政策に対する提案には絶対反対でございます。  私どもは、価格の問題でこのような事態を打開するために政府に提案をいたしております。政府と農協が価格に関しては年次的な審議をお互いにやろうではないか、そこで価格生産数量を納得の上決定をしていこうではないかという提案を行っておるわけでございまして、いわゆる専業的な農家の所得確保のためには、政策価格決定に対しましては検証を行って、この価格で果たして専業農家というものが飯が食えるかどうかということの所得の検証もあわせて行いたいというのが私どもの考え方でございます。  第五点は、構造政策上の問題でございますが、答申によりますと、農業生産中心中核農家の育成と地域ぐるみの対応という点に置いているようでございます。  われわれは、さきの八〇年代の私どもの方針といたしましく地域農業の再編を目指すためには、第二種兼業農家を含めた農家生産組織の育成、営農集団の確立、これが大切であるという方針を打ち出しているわけでございます。一人の中核農家という優等生をつくっても、集落全体の生産力が低下したのでは何もならないわけでございまして、現在農家の七〇%以上は第二種兼業農家でございます。この第二種兼業農家の持つ潜在生産能力をどうやって生産に参加させて引き出していくかということが、今後の農業生産の維持、向上を図る道であるというふうに考えるわけでございます。  現状におきましても、農家は何らかの形で作業工程の一部もしくは全部を生産組織に参加することによって補完をいたしておるというのが現状でございまして、第二種兼業農家生産過程での役割りというものを非常に等閑視しているきらいがございますので、この点につきましてはわれわれとしては不満でございます。  最後に、構造政策に関連して一言述べさせていただきますが、農業構造改善事業、農業基盤整備事業については、五十四年一月に行政管理庁からの指摘もございましたように、これまでの施策というのがすべてこの基本法農政のもとで稲作に偏重いたしたわけでございまして、特に農業基盤整備事業については、稲作のみの生産性を上げるための圃場整備、いわゆる乾田化してないわけで、米だけできればいいという圃場整備を進めてきたのが実態でございまして、畑作もできるという汎用化、乾田化ということが放置されているのが現状でございます。  四十八年から始まりました第二次土地改良長期計画も、五十七年までの計画にもかかわりませず、本年までの進捗率は実質ベースで四〇%にしか達していないという実情でございまして、基盤整備はきわめて量、質ともに立ちおくれているわけでございます。水田の第二期転作が迫られている中で、特に湿田と言われているものが百万ヘクタールもあるわけでございます。こういう百万ヘクタールの湿田を抱えて、転作面積はますます強化をしなければならないという現状に置かれているわけでございますので、構造改善対策としては水田の汎用化に全力を尽くすべきものと考えるわけでございます。  特にこの問題は、この基本方向全体とのかかわりにおきまして、農政転換の方向前提になる問題でございまして、基盤整備ができないで転作面積をふやしても、転作作物は定着をいたすわけはございません。すべての政策展開の前提になるわけでございますので、この点につきましては、六十五年を目標とする国の年次別の、いわゆる基盤整備のための投資計画というものを明らかに示してもらいたいというのが私どもの主張でございます。  最後に、えさ米の問題につきまして一言申し上げさしていただきたいと思いますが、答申によりますと、現段階で飼料穀物の本格的な国内生産を見込むことはむずかしいとしておりまして、また、長期見通しにおきましても、このえさ米生産数量というものはカウントをいたしていないわけでございます。これははなはだ残念でございます。  もちろん、えさ米生産が早急にできるとは、全国的に展開できるとは私どもも思っておりません。しかし、私どもは五年以内にやはり準備体制を整えるという計画で農協としては進めておるわけでございまして、この十年の見通しでございますから、六十五年には少なくともえさ米が見通しの中でカウントされるようなことが私は望ましいのではないか、そういう点に非常に姿勢の弱さを感じるわけでございます。  穀類の自給率向上のためには、何といっても飼料穀物の国内の生産振興ということが前提でございます。また、先ほど申しました水田の三〇%近くは湿田でございます。こういう中で転作面積を消化するためには、どうしてもえさ米転作作物として認定をしていただいて、これを奨導していただくことが、生産振興を図っていただくことが大事であるというふうに考えますので、この点につきましては、今後の課題でございますが、御配慮を賜りたいと思います。  以上、簡単でございますが、全中としての意見にかえる次第でございます。(拍手)
  69. 田邉國男

    田邉委員長 どうもありがとうございました。  以上で各参考人からの意見の開陳は終わりました。     —————————————
  70. 田邉國男

    田邉委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田中恒利君。
  71. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 参考人の皆さんには大変お忙しい中、貴重な御意見をいただきまして、大変ありがとうございました。御意見の内容などに関しましてさらに一層お聞きをいたしたい点が二、三ございますので、御質問をさせていただきたいと思います。  まず金沢参考人にお尋ねをいたしますが、地域農政という問題を触れられたわけであります。私どもも、日本農業の展開を通して急速に地帯別の特徴や地帯別の様相の変化を知らされておるわけでありまして、従来の米麦食管、農地を軸とした中央集権型農政では処理できない現実の日本農業を知り、教えられておるわけであります。  そこで、地域の農政をどう組んでいくかということにつきましては非常に大きな八〇年代の農政課題だと理解をいたしておりますが、その場合に、まず中央政府といいましょうか、いわゆる国が果たすべきものは一体何なのか、それから地方にゆだねるべきものは何なのか、そういう機能分担というか、そういうそれぞれの大まかな役割りがある程度明らかにされなければならないと思うわけでありますが、そういう点につきまして先生はどういうふうにお考えになっておるか、この機会にお尋ねをしておきたいと思います。
  72. 金沢夏樹

    金沢参考人 地域農政につきましてのお尋ねでございますが、地域農政というのは二、三年前から国も取り上げた課題でございます。  このときにも私、政府、農林省当局の方々からも少しお話を承っておりましたけれども、構造的なあるいは政策的なものを実際に経営に定着させるということになりますと、先ほど山口参考人なんかもお話しになりましたように、構造改善事業等々を初め、実際に農業の現場においてそれが農業者サイドに本当に有効に働くということにはなかなかなっていないという面がある、どうしてもその地域主体で計画を立て、そこから積み上げていくような発想をしなければならぬというようなことで、地域農政特対事業等々が生まれたわけでありますけれども、これにつきましては、農林当局も本当は相当な頭の転換を必要とするような農政の姿勢だろうと思うのであります。  その場合に、国と地域との機能分担ということでありますけれども、私は、地域における積み上げ方式というものにつきまして、地域が市町村なりそれから県なりというものに筋を通していけるような積み上げ方式一つの検討が地域自身にまず十分になければならぬと思います。私自身は、積み上げ方式一つの締めくくりとして、県自身が県自身の農業のあり方というものを、地域から上がってきたものを中心にして一つ大きな農業地図をそこにかいてみせるということがまず一つ問題だと思うのです。そして、今度は国が、先ほど生産の地域分担というようなこともありましたけれども、国もそういうふうにひとつ全体の需給の立場からおつくりになったらいいでしょう。  そこを突き合わせてみせるということが非常に大事なことでありまして、当然に、地域がつくり上げてきた、下から積み上げてきました問題と国がつくり上げた需給上の問題と、ギャップがそれなりに生ずるわけでありますけれども、いままでのところはそのギャップを初めから国がブレークダウンしていくようなかっこうで、なくしていくというようなかっこうで、これでは地域が伸びない。そのギャップをどの時点でどういう形で調整するかということが一番重要なことであって、私は、ここに県が一つの重要な役割りを果たすべきではないか、こういうふうに思います。  ただ私は、いま地域と国との機能分担ということでありますけれども、地域の農業計画等についてはかなり権限を県に移譲して、県自身も財政上の問題が一番大きなことになるわけでありますけれども、県独自の判断のもとにおける融通というものはかなりできると思いますし、かつ、財政的には国が持ちましても、国がこの事業は県にゆだねましょうというような——土地改良事業等々にいたしましても、県が主体的に計画を持っていけるような問題が非常に多いのではないかと思いますので、単に十年先、二十年先に初めて効果をあらわすような土地改良事業というようなものをしばしば国の基本的な対策として行いがちでありますけれども、そういう対策としては、どんなふうな順序で土地改良を進めていったらいいかという計画の主体を県に任せていいのではないかと私は思っております。  そういうことで、いままで地域農政というと、どうも市町村に余りに負担をかけ過ぎて、県がそれをどうカバーするかということについての検討は比較的弱いのではないかと思うのです。やはり市町村の上に県がどれだけカバーしてやれるかというところの問題を、今後県農政として突き詰めていくことが必要なことではないかと思います。  ちょっとお答えにならなかったかもしれませんが、簡潔にということでありますので、失礼いたします。
  73. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 まだお尋ねをいたしたいわけでありますが、時間が限られておりますので、進ませていただきます。  私は、地域農政というのはなかなか大変だと思うのです。非常に簡単な言葉で言えば、中央政府の持っている権限と予算を地方に渡さなければいかぬという大問題がまずあると思います。その辺が、いまの長い間続いた中央農政の中でどれだけやれるか、大変だと思います。しかし、先生御指摘のような県なり地域なりでやれることはどしどし任せていく、こういう方向をできるところからやっていく、これはまず手がけなければいけない問題だと思いますし、特に貿易の問題について、これは国家というか政府できちんと考えるべきだと私は思うわけです。  そこで、山地先生は農政審議会委員でございますので、この「八〇年代の農政基本方向」を設定するに当たって、農産物の輸出入の問題、いわゆる自由化、開放経済体制の問題、これが何といっても日本農業の片一方の大きな柱だと私は思うのです。全体としては開放体制というものを前提にして個々のそれぞれの内容がまとめられておると理解をしておるわけでありますが、七〇年代、六〇年代後半からの日本高度経済成長の中で、自由化というか、私に言わせれば、農産物の洪水のような輸入というものの圧力が日本農業に与えた影響が今日の農業の大変大きなひずみになっていると私は思うのです。  この点は先ほど山口さんもそれに類した指摘をされておるわけでありますが、この点を今回の報告書の中でどういうふうに見詰めて、その前提に立って、八〇年代の自由化政策、いわゆる農業、工業の大きな関係にまで入りますが、こういう問題についてはどういう御意向が流れておったのか、できますればお聞かせをいただきたい、こういうふうに考えるわけです。
  74. 山地進

    山地参考人 私、全部出ておりませんので正確なことは申し上げられませんけれども、暗黙の前提としては、もっともっと自由化をし、あるいは開放経済体制へ農業の場合も進むべきだという議論というのは、われわれの周りといいますか、世論として私は非常にあると思います。特にビジネスマンの場合には非常にはっきりしておりまして、農業に対する不満が非常に強いということがございます。  しかし、他方農業の側から言いますと、ある意味では日本農業ぐらい門戸を開いてしまった先進国も少ないのではないか。もちろんこの比較にはいろいろ問題があると思いますけれども、飼料穀物などは大豆を含めて完全に関税ゼロで入れてきている。ではECの場合はどうか。たとえば小麦なんかの場合は輸入価格の二倍にしてやっている、あるいはトウモロコシにしてもそういうことをやっているというようなことを考えますと、相当な開きがあるわけですね。  そういう意味で、私は、今度の答申は、私が出ている範囲ではそういうことをぎらぎら議論したというふうには言えないと思いますけれども、世の中にある議論としてはそういう両極端が実際にあると思うのです。私は、現在の食糧政策あるいは食糧供給の構造というものは、そういうものを折り合わせたといいますか折衷した中で出てきていると思います。この答申の基本的なラインというものは、現状をやや肯定するといいますか、そのかわり逆に米などにつきましては、安全保障立場からもっとはっきり物を言っているというのが今度の特色ではないかと私は思います。  そういう点で、先生のおっしゃるようにどうだったかといいますと、はっきりしたことは私も申し上げられませんけれども、われわれジャーナリズムの立場から見ておりますいまの世論というのは、そういうふうな形で非常に両極端に分かれておる。それを、いまの日本農業安全保障とかあるいは今後のさまざまな問題を考えていく上でどうあるべきかというのは、今度の見通しなりあるいは基本方向が答えになっているのではないかというふうに感じます。
  75. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 そこで、もう一遍戻りまして金沢先生に御意見をお聞きいたしたいわけです。これはもう山地先生からお話のあったようなことなんだろうと思いますが、農産物価格政策であります。  私は、実は先ほどの参考人にも御質問したわけですが、価格政策と構造政策の関連をどうすべきか、この問題については、価格政策をまず先行さして一定農家の所得というものを確保した上でないと、いわゆる構造政策の展開はなかなか思うようにいかないのじゃないか、補助金なり融資なりという外部からの経営に対する資本の注入というものだけでは、本来的な主体的な経営体の確立というものはできないのではないか、私どもは実はこういう考えを持っておりまして、価格政策というものに一定の所得のウエートを持たす、これが日本農政の中に今日なお必要である、こういう認識をしておるわけであります。  この点につきまして、先ほどもお聞きしたのですが、先生のお話もお聞かせをいただきたいと思いますし、今回のこの「八〇年代の農政」の中には所得の要素というものがなくなった、私はこう思うのであります。山地さんの方からもお話がありましたように、いわゆる需給バランスというところに価格政策の志向点を非常に明確に示しておりますし、さらに用途別価格という形で、これは上向きの用途別というよりも、むしろ下向きに用途別に価格体系がつくられるのじゃないか、こういうふうに考えます。  金沢先生は経営学の大家でありますが、農業経営のいまの実態から見て、日本農家の経営というものが果たしてこれで生き延びられるのかどうか。先生のおっしゃった主体づくりというものは構造政策価格政策の絡ませ合いをどういうふうにすればいいのか、この点について御意見をお聞かせいただければと思います。
  76. 金沢夏樹

    金沢参考人 私は、価格政策ということに対しましては、もちろん重要な問題だというふうには思います。思いますが、いまお話しのように、価格政策的にまず主力を挙げておく方が先か、生産的ないろいろな安定的な技術政策なり構造政策なりということを先にすることがいいのか、こういうことであります。  まず、いまのところ、なるほど生産性向上はありましたけれども、その生産性というのはすべて単品の生産振興政策でありまして、農業経営としての生産性ということにはちっともつながっていないのですね。ですから、まず今後の一つの問題としては、生産安定のための経営改善対策ということは、非常に残された余地を持っている問題であって、これをとにかくしっかりさせなければいかぬ、こういうふうに私は思っております。  そして、価格政策につきましても、先ほど山口参考人からもお話がありましたけれども、どうも一つ一つの単品についてのコストを計算し、非常にめんどうなコスト計算をやっておりますけれども、所得というふうに考えますなら、いま申しました経営の総合的な一つのあり方として、今後どういう作物が日本土地利用として考えられる基本になるかという構想、それから戦略作物、こういうものを含めまして、総合的な価格政策による農業経営としての所得というふうに持っていくべきであって、一つ一つの作物について経営のかっこうがきわめて不安定なままに、米の所得補償、何の所得補償というかっこうでいったのでは、やるべきところをまだ十分に押さえることはできないだろう。  こういうことで、価格政策はもちろん重要でありますけれども、そのやるべき経営の一つの姿をきちっとさせておきながら、それに対する総合的な価格政策、したがって私は個人的に思いますのは、ああいう非常に細かい生産品目別の生産費に基づく価格の問題よりは、むしろ所得政策的な考え方のもとで考えていっていい問題だろう、こういうふうに思っております。
  77. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 そこで、山口さんにお尋ねをいたしますが、いろいろ今度の提言に対して、評価する点、なお問題になるような点、私どもも大体同じような考えのように思っておるわけです。  そこで、農業協同組合でありますが、日本農業の展開の上に農業協同組合というものの役割りというのはいま非常に大きいと私は思うわけであります。したがって、政策として政府に対して要望をする諸点がございますが、農協として、今日の日本農業、特に八〇年代をにらんでどういう対応の仕方をしていくのか。  すでに農協大会などで一つの案を提示をせられ、末端で議論をせられておるということも承知をいたしておりますが、その場合に、私の考えを率直に言わしていただきますと、日本の協同組合は、産業組合以来ねらいどころは流通合理化、こういう立場で参りましたし、それなりの力やそれなりの影響を与えてきたと思うわけであります。今日段階で、農業協同組合が生産の問題、特に農家のリスク、負担をどこまで協同の力で支え得るか。これは農協だけではもちろん足らなくて、政策的に対応しなければいけない分野もあると思いますが、そういう生産過程への協同組合の役割りをどういうふうににらむのか。  このことが一つの課題であるし、同時にいま一つは、先ほども言われましたが、消費をどうつくっていくか。最近の政府なりわれわれの表現の中に、需要供給という言葉をよく言うわけでありますが、その需要を協同組合としてどう創造していくのか、この問題は消費拡大の非常に大きな課題になっておると私は思うわけであります。  先ほど、日本型食事パターンの定着化をねらう問題が新しく提起されておるわけであります。この問題の提起の背景には、今日の加工食品を中心とした消費者一定の不安感もあると思いますし、日本人の体質に合うバランス的な栄養は何か、こういう問題から、日本の自然風土の中でつくられた農産物で組み合わせていくという、きわめて素朴なしかも好ましい課題であると思いますが、純正食品、いわゆる本物の食品、こういうものに本格的に取り組んでいかなければいけない時期になってきたと思っておるわけです。それらも含ませてひとつこの際、御所見を承りたいと思うわけであります。
  78. 山口巖

    山口参考人 御質問の点につきまして申し上げます。  まず第一点の、現状におきまして農協として生産の場までおりて農協活動を展開すべきじゃないかという御指摘につきましては、全く同感でございまして、昨年度決定をいたしました八〇年代の私どもの農協の対応の方向は、そのことを中心といたしておるわけでございます。  理由は、申し上げるまでもないことでございますが、最近の農産物の需給関係を見ますると、つくれば売れるというような時代ではなくなりまして、需要のある物を計画的に生産をする、消費者に好まれる品質のよい物を、しかも生産コストを安くして安価に供給するという方向を志向いたしませんと、従来ややもすれば農協が陥りがちでございました、農家が無計画生産した物を大口に集荷をいたしまして大量に売る、そういうことで流通コストを軽減してその分を農家に還元する、あるいは農家の必要とする生産資材を大量に買い付けて流通コストを下げて農家供給するという、流通面の機能だけでは対応できない状態になっていることは先生の御指摘のとおりでございます。  そのために、いわゆる計画生産、計画出荷、それから土地、水、農業機械の有効利用によりますコストの切り下げ、これを実現いたしまする手段として、農協ごとに各集落単位を設定をいたしまして組合員の話し合いを進めまして、第二種兼業農家も含めた生産の効率化のための土地、水、農業機械の有効利用、それから計画的な作付、計画的な出荷、品種の統一、こういう問題につきまして、現在農協ごとに地域農業振興計画というものをつくりまして指導をいたしておる段階でございます。  なお、全国的には、来年の二月に五十八年までの中期需給見通し、それから生産目標を設定をいたしまして、各県中央会を通じまして農協に示しまして、生産計画策定に当たっての指標を明らかにしてまいりたい、かような考え方でございます。  このいわゆるナショナルベースの生産目標をもとにいたしまして、さらにそれを県別の生産目標に割り当てまして、それを県段階で話をしてもらって単協ごとに目標を一応示す。そこで具体的な生産計画が上がりましたのを、また県、全国と積み上げまして、全国的に系統の中で需給調整をやりまして、需要を超えたものにつきましてはフィードバックいたしまして生産の抑制を図る、あるいは生産振興を図る、こういう方向に農協としての事業展開を持ってまいりたい、かように考えており、目下作業をいたしておる段階でございます。  それから、第二点の流通の問題、特に流通、加工の問題でございますが、御案内のとおり、現状におきましては、消費者が飲食費に払います金のうち五四%というのは加工食品に支払っておるのが現状でございます。また、加工、流通段階における付加価値と申しますか、その段階におきまするコストがきわめて上がっておりまして、原料生産農産物はわずか二九%というウエートでございます。  そういう現状に照らしまして、やはり食品の質におきましてもきわめて消費者に好ましくない食品が出回っておりますので、農協みずから加工、流通段階に着手をいたしまして、需給調整の役割りも一面担うわけでございますが、素朴なつけもの等の加工から始まりまして、最終的には食肉、牛肉等につきましても、できる限り農協自体で施設等を増強いたしましてこの問題に対処いたしまして、市場牽制機能を果たしていく。全部やるというわけではございませんが、少なくとも価格牽制、品質牽制、こういう問題を手がけてまいりたい。  一例を申しますと、実は農協牛乳というのがございます。これは四十九年にスタートいたしましたが、当時の牛乳は、いわゆる乳糖、カゼイン等を混合し異脂肪を混入する牛乳が出回っておりましたので、牛乳というものはそういうものをまぜるのではなくて、牛の腹から出たそのままを処理、加工するのが牛乳であるというたてまえで、農協牛乳等を系統農協として設立をいたしまして、その結果、現在出回っておる牛乳はメーカーの製品もすべて無調製牛乳に変わりつつあることは、先生方御案内のとおりでございまして、その方向で品質の向上、それから流通コストの軽減、こういうものに努力してまいりたい、かように考えておる次第でございます。以上でございます。
  79. 田中恒利

    ○田中(恒)委員 どうもありがとうございました。終わります。
  80. 田邉國男

    田邉委員長 吉浦忠治君。
  81. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 三人の参考人方々、大変長時間御苦労さまでございました。貴重な御意見等をいただきましてありがとうございました。制約された時間でございますので、簡潔にお答えを願いたいと思うわけでございます。  最初に、金沢参考人山地参考人にお尋ねをいたしますが、現在世界食糧事情というものをどのようにとらえていらっしゃいますか。長期、中期、短期にわたってどういう見通しをお持ちなのか、簡単で結構でございますので、お答えを願いたいと思います。
  82. 金沢夏樹

    金沢参考人 世界食糧動向にどういうふうな見通しを持っておるかということでありますけれども、これは日本に関連しての問題だろうと思いますが、いろいろな気象的な条件、世界のいろいろな作物不況あるいは国際的な問題等々を含めていろいろな論議がされておりますけれども、私は、やはり直接的に考えなければならぬのは日本アメリカとの関係ではないかな、こういうふうに思っております。  そういう意味で、御承知のように、アメリカの平和への食糧というようなことがいろいろ言われてまいりました。平和への食糧供給というのは援助食糧輸出でありますけれども、今後いろいろな関係から、日本がいままでのように札束に物を言わせて物を買えるというふうな条件はやっぱり厳しくなってくるというふうに思います。したがいまして、そういう点から日本はそれなりの食糧自給率を高めていくという必要はあるのだろう。だから、広い意味で天候的な関係、国際関係、いろいろありますけれども、さしずめ、アメリカのそういった対外輸出の問題についての、日本の独自な札束に物を言わせていくような関係の問題については、厳しい問題を将来予測しなければならぬだろう、こういうふうに思います。
  83. 山地進

    山地参考人 私は、特にことしの場合を考えますと、大変に深刻な事態になると思います。もし去年のアメリカの豊作があれほどでなくて、おととし並み、これは中程度と考えていいと思いますけれども、もしおととし並みの豊作だとしたら、恐らくことしから来年にかけてはトウモロコシとか大豆などは割り当て制になっていた可能性は大ありではないかと私は思うのです。現在でもまだオーストラリアの干ばつはもっと悪化する方向へ行っていますし、いずれにしても、ことしから来年にかけては非常に深刻な事態になると思うのです。  もっと将来の問題を考えますと、これからは反収の増加に頼るしかない。アメリカの「二〇〇〇年の地球」という報告を見ますと、これからは耕地拡大は二十年間に四%しか見込まれないというふうなことで、これは私、多少疑問があるように思いますけれども、やはり人口の増加、しかもその中で、東南アジアでも毎年実質五%ぐらいの成長が続いているし、中国も近代化の意欲をかき立ててきているというような問題を考えますと、穀物と大豆についてはさまざま深刻な問題、特に魚がふえなくなるということが大豆への依存度を非常に高める、しかも大豆というのは反収が低いものですから非常に多くの面積を要するということで、アメリカにとっても非常に負担になるのではないか。  もう一つは異常気象の問題でして、気象庁が過去三回異常気象白書を出されております偏西風の南北流の卓越という状況、これはやはり過去の例から見ましてもまだ相当期間続くというふうに見られますので、ことしのような異常気象というのは頻発する可能性はあるのではないか。  そういうことから考えましてもそうですし、それからまた、二十年後六十三億とか四億とかという人口を考えるのでは未来社会を考えることにならないと私は思うのですね。これから約百年後には大体百二十億から百三十億の人口になるだろう。これはOECDの「インターフューチャーズ」というのに示されているところですけれども、食糧政策としてはそのくらいの長期の観点から見詰めるべきではないかというふうに考えます。
  84. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 引き続いて山地参考人にお尋ねをいたしますが、食糧人間生命を維持する上で不可欠かつ重要な要素でございます。したがって、この問題は最悪の事態を想定して万全を期さなければならないと考えるわけですが、しかるに、今回の答申において、食糧安全保障を図るために食糧自給力の維持強化ということが強調されておりますが、食糧自給率の向上ということはうたわれていないわけであります。  これも先ほど山口参考人から御指摘があったとおりでございますが、むしろ自給率の面で大きく後退して、六十五年見通しでは穀物自給率は三〇%、こういうふうに言われております。食糧安全保障確保のためには、国内の生産体制を整備して、いまから真剣に着実に自給率を高めていかなければならないと考えるわけであります。今後懸念される食糧危機に十分対応できるものかどうか、その点をお尋ねをいたしたいと思うわけでございます。
  85. 山地進

    山地参考人 自給力でなくて自給率向上ということをもっと考えるべきだという御質問でございますけれども、これは供給需要との関係になってまいりますから、どの程度供給して率がどういうふうになるかというところは、需要との関係で考えなければいかぬということです。  それで、現在の場合確かに非常に低くて、いろいろ問題があるというふうに言われていますけれども、いまこの程度で済んでいるというのは、結局、魚が動物たん白の中で半分を占めている。私は、もし魚がほとんどないかあるいは半分に減るかということになりましたら、いまの穀物の輸入量というのは数千万トンというようなことになって、恐らく三%以下の人口で世界の三分の一か四割近い穀物を輸入しなければならぬ、場合によっては肉で輸入するという方法はあるかと思いますけれども、そういうことで、基本的には魚を含めて問題を考えていく必要がある。  それからさらに、自給率を高めていくという場合に、非常に高くても成り立つか、あるいは国民全体が納得するかということになりますと、いままで無関税で入れてできた畜産物でほとんどなれておりますから、やるとしても相当時間をかけてならしていかなければいけませんし、わが国の一人当たり耕地というふうな点から考えていきますと、現在の穀物の輸入だけでも一千万ヘクタールの耕地をさらに必要とするというふうなことになりますと、同じ日本列島が二つ要るというふうなことになるので、現実問題としてなかなか不可能だと思います。といって、優良農地をどんどんつぶしていくようなことでいいかどうか。これはもっと詰めて考えなければいけないわけです。  私、最近ある土地改良区の完成の記念式典に友達に呼ばれまして行きました。ここは農振法も適用されていませんし、何だか半分住宅地ができたような気分で問題を考えておられて、そしてそれぞれたんぼの真ん中に家を建てるような気配で進んでいる。こういう点非常に問題がある。一定の期間は転用できないということになっているようですけれども、何かそこにいろいろな問題があるようでして、そういうことから、農村で住宅を建てるという場合でも、もっと集落の近くにまとめてそういうものを建てていくように土地の交換をしていくとか、そういうことが第一必要ですし、それからさらに、東北なんかへ参りますと、裏山を非常によく草地にして乳牛を飼うというような形で、いままで全く放置されているようなところが非常に生きて利用されているという例もあります。ですから、開発というのを非常に大型にやるということだけでなくて、そういう里山を小さな機械でうまく利用していくというふうなことを含めて土地拡大していくということは、都会地でいままで非常に生産力のあった耕地がつぶれていくわけですから、そういう努力もやっていく必要があるというふうに考えます。
  86. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 国会でも自給力の向上という国会決議をいたしましたけれども、自給率というものと自給力という言葉のあやといいますか、あやではございませんけれども、そういう自給率向上というふうに置きかえると、自給率は三四から三〇に下がるということでございますけれども、このような内容に関して、山地参考人の分野ではなかったかどうかわかりませんが、審議会において、部会においてどういう論議がなされて結論が出ておりますか、おわかりでしたらばお話しを願いたいのでございます。
  87. 山地進

    山地参考人 私は一人の委員として意見を申し上げたまでで、それが具体的にどういう需要のもとにどういう供給を想定してそうなったかということは、詳しいところは、私ははっきり言って存じません。ですからお答えできないわけですけれども、私個人の考えを言わしていただければ、やはり基本的には、たとえば六十五年で三〇%、場合によってはもっと下回るかもしれませんけれども、そういう事態に対して、日本型食生活、あるいは魚の普及というふうなことを通じて何とか維持したいという願望の込められた数字ではないかというふうに私は思います。
  88. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 山口参考人の御意見はいかがですか。
  89. 山口巖

    山口参考人 審議の内容は定かではございませんが、私ども農業団体としては、自給率向上を主張をいたしてまいったわけでございます。
  90. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 時間になりましたので、もう一点だけ山地参考人山口参考人にお尋ねをいたします。  「農産物需要生産の長期見通し」でございますけれども、これはあくまでも見通しでございまして、そのようになるという可能性が強いということを示したにすぎないと思うわけですが、今後政府も、これを受けて自給率向上を目指す中長期の需給計画というものをお立てになると思います。行政責任のある計画を策定すべきだというふうに私は考えておりますけれども、この点について山地参考人山口参考人の見解をお聞かせ願いたいと思います。
  91. 山地進

    山地参考人 私は、計画を余りきちっと決めるということには、農産物についてはやや問題があるのではないかというふうに考えます。御承知のような石油情勢あるいは政治情勢、経済情勢で世界があるわけですけれども、そういう段階の中でわが国の成長率を見通すことも容易ではない。したがって、今度の見通しは一応新経済社会七カ年計画を前提にしておりますけれども、とにかく経済そのものが不安定ですから、したがって需要だって当然不安定になる。そういうことですから、私は早く言えば、新聞記者流に言えば、率直に言えば鉛筆をなめざるを得ない話でありまして、したがって、もろもろの要素を計算に入れてはじき出した今度の数字というものはおよそのめどということでよろしいのではないか、私はそう考えるべきものではないかというように考えます。
  92. 山口巖

    山口参考人 長期見通しにつきましては、私ども先ほども申し上げましたけれども、自給率向上に直接かかわりがございますのは、飼料穀物生産をやるかやらないか、この問題にかかっておると思う。飼料穀物生産を見込まない長期見通しでございますので、これはわれわれとしてはその点は不満でございます。ただ、二千五百カロリーを基準にいたしまして、ある意味で政策誘導して、特にでん粉質食糧、米の消費の減退を政策的にある程度カバーしていこうという姿勢で長期見通しが出されている点につきましては、評価をいたしておる次第でございます。
  93. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 ありがとうございました。
  94. 田邉國男

  95. 木下敬之助

    ○木下委員 三人の参考人の皆様方、大変御苦労さまでございます。  まず、山口常務にお尋ねいたしたいと思います。  先ほどから自給率向上ということが言われておりまして、何とかしなければならない、どうしてもしなければならないものなら、幾ら困難があっても先に進むしかないと私ども考えております。輸入をどういうふうな形で規制するのか、税金を上げるのか、また、具体的なもので何かお持ちでございましたら、お聞かせ願いたいと思います。
  96. 山口巖

    山口参考人 品目ごとにいわゆる具体的な政策は違うと思いますが、一例を申し上げますと、たとえばビール麦でございます。これは転作作物で麦の生産奨励をやっておりますが、現在のビールは、御案内のように麦芽が四十九年に自由化されておりまして、国産のビール麦を使って麦芽をつくると、麦芽の生産コストは自由化されている外国の麦芽の約四倍かかるわけでございます。したがって、ビールメーカーは外国の麦芽を使いまして、国産の麦芽製造工場を年々閉鎖をいたしまして、現在キャパが十七万三千トン程度がマキシマムでございます。  それ以上はわれわれがつくりたくてもつくれないわけでございますが、先生方御案内のように、ビールのコストの大部分は酒税でございます。したがって、本当に国で国産の麦の生産振興を取り上げるならば、酒税を引き上げます場合におきまして、その一部を戻し税として国産麦芽を使った場合におきましてはビール会社に還元をする、こういう政策一つとれば、国産の麦芽の製造工場も増設されますし、われわれも安心してビール麦の生産拡大ができるわけでございます。ただそのことを考えませんでビール会社に国産麦芽を買えと言っても、四倍もするものを押しつけることは、経済問題でございまして、自由化されておりますので、きわめて困難ではないか。  もう一つの例としては、チーズの問題があるわけでございます。乳製品の輸入量の中で年々増大しているのがナチュラルチーズでございまして、これはすでに昭和二十八年だと思いますが、自由化されておるわけでございます。七万トン程度入っておりまして、年々国産は減少して、もはや一万トンを割り込む段階になっております。いま牛乳が余りまして生産者団体で生産調整をやっておる段階でございますが、今後需要拡大するとするならば——飲用牛乳は一応消費が一巡しておりまして、年々五%程度は伸びております、決して消費が減退しているわけではございませんが、生産の方は七%水準で推移をいたしておりますので、そのギャップが生産調整という結果を生んでおるわけです。そこで、需要拡大ということになりますと、乳製品で拡大する以外にないわけです。チーズは乳製品の中で需要が年々伸びておりまして、一人当たりの消費量もバターをもう凌駕いたしておる状態でございます。バターにつきましては国の管理品目でございますが、チーズにつきましては野放しである、こういう状態でございますので、やはり国の方でその価格差補てんのチーズ振興基金等を設立していただきまして、生産者団体はもちろん国内の需給関係でございますから負担は当然いたすわけでございますが、そういう基金制度等を、新しい構想を発足させまして、価格差補てんの問題、あるいは関税割り当て制度、いま一対二で、国産一つ使うと倍量だけ無税で入れておりますが、この割り当て率を引き上げる等の細かい具体的な政策フォローというものをやっていただければ非常にいいのではないか。  それから、豚肉につきましては、現在輸入量が消費量の一五%程度を占めております。これはどういう理由かというのをいろいろ調べてみますと、国内の部分肉流通がきわめて発達いたしておりませんで、加工メーカーは枝肉で豚肉を買わされますので、逆に言いますと、国産の価格が多少安くても、ロースが必要なハムソー・メーカーが仮にあるとすれば、枝肉全体、ばらも、とっくりも、みんな買わされる。そういう流通形態でございますから、やはり加工屋が必要とする部分肉が流通するような市場体系等は、農水省の指導でようやく着手になっておりますが、団体も一生懸命そういう方向で体制整備をやり克服をしてまいりたい。あとは、自由化品目でございますから、生産コストの競争におきましては、農業団体としてもやはり生産コストを下げる努力をしてまいりたい、かように考えております。  その他いろいろございますが、いま問題になっておりますような点は以上のような点でございます。
  97. 木下敬之助

    ○木下委員 重ねて山口常務にお聞きいたしたいのですが、先ほどのお話の中で、農業基本法体制下の二十年間の洗い直しの反省がないという点を御指摘されておりましたが、その点について何かお考えがございましたらお聞かせいただければと思います。
  98. 山口巖

    山口参考人 お答えいたします。  先ほど申し上げましたように、構想の内容全体に基本法農政を反省——びっしり反省して切りかえるかどうかという問題にかかっておるわけでございまして、たとえば米が余ったというのは、なぜ余ったか。これはやはり基本法農政で、四十二年まで米は輸入しておりましたので、米は国内で完全自給するという方向で、構造政策において畑作は、水田の汎用化なんか一切頭にないわけです。米だけつくるということで、政府の行いました基盤整備事業は水田だけの基盤整備をやっておるのが現状でございます。そういう問題は、基本法農政をはっきり洗い直しまして切りかえませんと、ずるずる、米が余ったから米を減らすのだという安易な考えで当面の問題にどう対応するのだということでは、八〇年構想は成り立たないのじゃないか。  二十年間続けてきた農政の積み上げというものが現在のような問題を露呈しておる。特に輸入量の増加等も、畑作物に限りましては、むしろ国内生産を減らすのだ、減らすための奨励金を出してもいいという論議すらあった時代でございますので、そういう段階で麦、大豆等の輸入がふえた。そういう事態をはっきり見きわめて切りかえませんと、これまた、畑作を転作で奨励しろという安易な考え方でスタートしたのではとうてい物にならない、私はこういうふうに考えますので、申し上げた次第でございます。
  99. 木下敬之助

    ○木下委員 山地参考人にお尋ねいたしますが、先ほども輸入の問題等で、世論というか消費者がついてきてくれるかという話もございましたが、参考人の御意見としましてはどういった方向に進むべきとお考えでございますか。
  100. 山地進

    山地参考人 日本農産物コストが非常に高いということは周知のとおりです。これをいかに下げていくか、これは構造政策の最も重要なところですけれども、そういう努力を進める中で、その過渡期の段階においては、基本的には安い輸入品とそれよりも高いものをある程度まぜ合わせるといいますか、どの段階でまぜ合わせるか、それは品目によって違いますけれども、企業のところでやるものもありますし、あるいは途中でやるものもある、あるいは消費者の段階でまぜるものもあると思います。そういうことで安いものと高いものをまぜ合わせて、結局それがEC並みぐらいの価格水準になる、あるいはその程度の制限の度合いで済むというところを目指していくべきではないか。  物によってはすぐできるというようなものもあるかもしれませんし、非常にそういうことが容易でなくて、長期にわたって高いものと安いものをまぜて、平均的といいますか、折衷的な価格ができ上がるというものもあろうかと思います。それは品目によって検討していかなければいけませんけれども、いずれにしても現在の経済体制を前提とする限り、逆行はちょっとむずかしい情勢ですから、そういうことを国内のコストの引き下げを含めてきめ細かく考えていく必要があるのではないかというふうに考えます。
  101. 木下敬之助

    ○木下委員 金沢教授もこの問題につきまして何か御意見ございましたら……。
  102. 金沢夏樹

    金沢参考人 いま山地さんがおっしゃったこととほぼ同意見でありますけれども、私は、日本農産物コストということが、物によっては非常に高いものもありますけれども、皆さん方多くの人たちが論ぜられているように、コストを引き下げていくことが大変むずかしいというだけの考え方を必ずしもいたしておりません。私は、まだコストを下げ得る余地というものは、わりあいにいろいろなかっこうであるのじゃないかなというふうに思っております。  それは、いま申し上げましたように、単品だけで物を考えていけば、これだけの機械化やいろいろな土地、機械の整備や何かがありますものですから、それが全部一つの作物に移ってしまいますから、こんなかっこうで収益を云々するというところはほかにどこにもないわけでありまして、そういう意味で私どもがいろいろな分析をやってみますと、酪農にしろ何にしろ、もう少し違った見方が農業サイドからはできるものじゃないかな、こういうふうに思っております。
  103. 木下敬之助

    ○木下委員 もう時間もあれですから、最後に山口常務理事、もう一度お願いします。  日本土地が大変狭いわけで、土地に対する政策が農地も何も似たような形でやられておって、新しい人が土地を買って農業を始めるなんてとても思いも及ばぬような高い状況にありますけれども、この点に何かお考えがございましたら……。
  104. 山口巖

    山口参考人 先般農地三法のときの参考人で申し上げたわけでございますが、農地改革のとき、私どもとしては農地価格は凍結すべきであったと思うわけでございますが、これは後の祭りでございますので申し上げません。やはり現在の農地価格というのは収益還元価格を離れているわけでございまして、そういう意味で農地の移動、それから付帯いたしまして農林省の方は利用権を移動すればいいじゃないかという考えでございますが、もとの農地価格が非常に高いわけでございまして、したがって利用権の移動も、農地三法がおかげさまで通りましたので、幾らか道は開けると思いますが、早急に成果を期待するということはなかなかむずかしいのじゃないかと思っております。  したがいまして、農地価格が上がりましたのは宅地価格の高騰の影響を受けているわけでございまして、今後日本全体の土地制度価格問題を含めまして、私は国政として再検討の時期に来ているのではないかということを感じておる次第でございます。
  105. 木下敬之助

    ○木下委員 では、もう時間のようでございますので、これで私の質問を終わります。ありがとうございました。
  106. 田邉國男

    田邉委員長 野間友一君。
  107. 野間友一

    ○野間委員 参考人の皆さん、どうも遅くまで御苦労さまです。私、きょうの最後の御質問になりますので、あとしばらくの間よろしくお願いしたいと思います。  八〇年代の日本農政をどうするのかということについてそれぞれ御意見を承り、また農政基本方向なりあるいは見通し等々、私も拝見をしたわけでありますけれども、山口参考人が言われました価格政策とかあるいは構造政策、さらには食糧安保についての輸入を主導としたそういう見通しなりあるいは方向ということについて、私もほぼ同意見でございますが、これを読んでみますと、たとえばアメリカのジョーンズ・レポート、これは一次、二次とあって、二次というのがことしの九月だったと思います。あるいは経団連の農政問題懇話会でしょうか、あるいは午前中参考人として出られた日経調、こういうところの提言などが、かなりこの基本方向等の中に貫かれておるのではないかという感じを私は深くするわけでありますけれども、そういう前置きで具体的にひとつ御質問を申し上げたいと思います。  まず、山地参考人に教えていただきたいのは、ことしの十月十八日付の日経新聞に「恐るべし異常気象」あるいは「綱渡り世界の穀物市場」こういうタイトルでお書きになっておられますね。これを私興味深く拝見をしたわけです。この中で世界の穀物の需給、先ほども御質問がありましたけれども、これについて少しお伺いしたいと思うのです。  八〇年代の穀物需給の不安定性をことしの異常気象が象徴しておるというような趣旨のことがこれに書かれておりますし、ただいまもお話があったと思います。この内容について、もう少し長期的に敷衍をしていただいたら幸せかと思います、「八〇年代の穀物需給の不安定性を象徴する」というような表現がございますので。  同時に、長期見通しの最終年度である一九九〇年あるいは二〇〇〇年の穀物需給の動向、見通し、こういうものについてもあわせてひとつお答えいただきたいと思います。
  108. 山地進

    山地参考人 それを書いたときの私の頭にありましたのは、やはり異常気象の頻発という問題です。偏西風の中で、東西流と南北流の発生の度合いを調べてみますと、これは気象庁の異常気象白書で詳しく分析されておりますけれども、南北流卓越型の期間というのが傾向的に非常に多くなっている。これがどうして起こるかということはさまざまに指摘されておりますけれども、どれも全く決め手がなくて、その現象から将来を推測する以外にないわけですけれども、基本的にそういう異常気象の頻発ということが第一です。  たとえばアメリカなどにしましても、三〇年代半ばの大干ばつというものからしばらくなかったわけで、五〇年代に入って中干ばつがちょっとありましたけれども、六〇年代は豊作続き、七四年になって初めて三〇年代中ごろのものが出てきたと思いましたら、今度は八〇年も七四年と同規模の干ばつになるというようなことで、これはソ連の干ばつのあれを見ましても、ことしのように二年続きというのは非常に少ないのですね。大体一年置きぐらいになっておりまして、二年続きというのは非常に少ない。もっともことしの場合は全部干ばつではありませんけれども、そういうことで異常気象の問題。  それからもう一つは、人口の増加と所得の増加に伴う需要の増加、これは相当今後きいてくる問題ではないか。それからもう一つは、それに対する生産の対応というのが、特に発展途上国の場合、肥料、農薬の価格の上昇に伴っていろいろな困難が起こってくる可能性があるということで書いたように思っております。
  109. 野間友一

    ○野間委員 そうしますと、食糧安保という項の中に、輸入に対する依存度が非常に強いわけでありますけれども、いまの参考人のお話からしても、穀物の需給見通し等についてかなり不安定な要素があるということになろうかと私は思います。  そこで関連してですが、その長期見通しによりますと、輸入する量は九〇年には小麦が五百十九万トン、それから大豆が四百七十八万トンから五百一万トン、飼料用穀物が千七百三十五万トンというふうになるようでありますけれども、この三品目の合計が二千七百三十二万トンから二千七百五十五万トン、そして基準年よりも三百七十九万トンから四百二万トン増加をすることになるわけですね。そうしますと、世界の穀物の需給は、これの動向から見ても非常に不安定要素が強い。そういう中でさらに、いま申し上げたように輸入する穀物の量がふえていくというのがこの見通しの中で出てくるのではなかろうかと思うわけであります。  そこで、世界の貿易量に占める割合が、それではこの結果どの程度になると見通しておられるのか、また、この穀物需給の不安定が予想される中で安定的に確保できるのかどうか、こういう点について、あわせて山地参考人にお聞かせを願いたいと思います。
  110. 山地進

    山地参考人 世界の穀物取引の中で占める日本の輸入の割合がどのくらいになるかというお尋ねですけれども、これは私、ちょっと資料を持ち合わせませんのでお答えできません。現在高いわけですけれども、それを余り高くしないようにするということは、日本は確かに金があって、恐らく今後とも国際競争力が相当強くて、そういうものを購買する能力というものは私の見方ではあると思いますけれども、しかし、むやみに高くすることはいろいろな問題を引き起こす可能性があるわけでして、そういう意味からも日本型の食生活が重要な問題として指摘されているというふうに考えます。  それから、これをできるだけ安定的に輸入するにはどうしたらいいか。いろいろあると思いますが、まず第一に、自分たちの現在の状況というのはどうかということを国民全体が知るということが私は第一だと思います。  その次に、それではそれをどのように安定供給確保するかということになりますと、基本的には平和外交を進めながら輸出国との協調を保つ、これはごく一般的な表現ですけれども、具体的に言えば、アメリカとの関係を重要視して、できればアメリカとの間で以前ありましたような安倍・バッツ協定、あるいはそれをさらに強めたような協定を結んでおくべきだというふうに考えます。
  111. 野間友一

    ○野間委員 ただ、この異常気象が、干ばつとか冷害とか熱波とか、もし今後も重ねて起きるとすれば大変な状態が来るのではないか。そういう中で国内の食糧確保自給率を高めるということが必要ではなかろうかというふうに私は考えるわけであります。  時間がありませんので、それでは別の問題について山口参考人にお伺いしたいと思います。  先ほど申し上げた価格政策や構造政策、これにおいて、参考人も言われましたけれども、中核農家中心とした政策の展開が大変に強調されておりますが、価格政策の対象を中核農家に限定するというようなことが価格の抑制ないしは引き下げになると思うのです。日経調食管提言生産米価を一万二千円にすることを提案されております。これは午前中やりました。ただしこれも流動的で、必ずしも一万二千円じゃないというようなことも言っておられましたけれども、結果としてこういうことが中核農家の経営を直撃する、私はそう思うのですね。全日農の書記長の方も、二種兼の方は飯米が中心でありますから、むしろ打撃を受けるのはやはり中核農家ではなかろうかというふうに言われておりましたけれども、その点について山口参考人はどのような御意見を持っておられるのかということをお聞きしたい。  それから構造政策のポイントとして、これまた中核農家に農地を集積するというようなことが述べられておりますけれども、これで、これまた生産コストが下がるとお考えになるのかどうか。つまり、農地価格は、いまたんぼで十アール当たり三百四十二万円、これは七八年の全国平均、あるいは借りる場合でも、小作料は十アール当たりが二万円とか三万円、こういう状況ですね。したがって、政府の低価格政策前提にすれば、農地を買ってもあるいは借りても引き合わない、こういう実態になるのではなかろうかというふうにも考えられるわけであります。まして、これが果たして農産物コストダウンになるのであろうかという点について疑問に思いますけれども、この点についてもあわせてお答えいただきたいと思います。  なお、金沢参考人に対しても、同様な質問にお答えいただけたら幸せだと思います。
  112. 山口巖

    山口参考人 お答えいたします。  まず、価格政策中核農家の所得確保という点に答申の方が志向しておりますが、これでは価格の引き下げになるではないか、こういう御指摘でございますが、現行の米作の中核農家、二町五反から三町程度——中核農家というのは、百五十日働いて六十歳以下の農業労働者がいるという意味でございまして、面積のことは規定してございませんが、大体常識的に見まして二町五反から三町、こういう形でありますと、現行米価水準が、ここにいま数字を持っておらないで残念ですが、私どもで試算いたしますると、大体千五百円程度現行米価水準を下回らざるを得ないという数字に相なろうかと思うのです。したがって、引き下げになるということはまず間違いない。  ただし、算定は政府のいまの米価算定方式でございまして、私どものような生産費所得補償方式、いわゆる労賃の置きかえが、製造業の青天井でやった場合、これは当然、この現行米価水準より、二町五反、三町でも高くつくわけでございまして、これは政府試算でやった場合に先生の御指摘のように引き下げになる、こういうことでございます。  中核農家中心の構造政策を進めてコストダウンが図れるかどうかという点は、私は非常に疑問だと思っております。と申しますのは、やはり中核農家というのはある種の、農家の選別主義でございまして、今後のコストダウンというのは地域ぐるみで兼業農家も参加した形で生産コストを下げていかなければならぬ。選別主義ではなくて、いわゆる地域ぐるみの生産の組織化、こういう方向を志向すべきではないか、こういうふうに思うわけであります。  と申しますのは、何と申しましても土地、水、こういうものの有効利用ということが先行しなければならぬわけでございまして、たとえばそのための乾田化なり基盤整備を進める場合におきましても、二種兼業農家が了解しなければ現実問題としては進まないと思うのです。あるいは水の有効利用で、畑作地と転作地とそれから水田、こういうものを効率的にやるとすれば、いわゆる畑作のそばに水路を引くというようなことをやりますと、水位が高くなってろくな大豆や麦はできない、これは御承知のとおりです。そうしますと、地域ぐるみで水も有効利用をする、そういうことになりますと、大部分を占める二種兼業農家の合意がなければ、この問題は進まないわけでございます。  そういう点から申しまして、私どもとしては地域ぐるみの営農集団、しかもこれは各種の作物を有効に組み合わせる、金沢先生が再々御指摘になっておりますように、地域農業の複合経営形態という方向を農協としては志向してまいりたい、こういうふうに考えておるわけでございます。そういうことでないと、現実問題としては、中核農家に焦点を当てて、それで生産コストを下げるのだということは、口で言えましても簡単にはいかな  い。  それから中核農家なるものが、これはある特定の農家をとらえるのではなくて、常に地域、地域で、国鉄に勤めている人が実は農作業の機械のオペレーターである場合もありますし、第二種兼業農家がそういう役割りを担っておる営農集団は幾つもあるわけであります。だから、そういうふうに選別をしないで、地域ぐるみで行う、そういう労働力の核になる人、こういうものを中核農家と称するなら話は別だと私は思うのですが、どうもこの答申の内容を見ますると、何かちょっと、基本法農政の自立経営農家という言葉はここにございません、基本法農政は自立経営農家を志向したのですが、今度は中核農家という形で出ておりまして、何か脈絡一貫いたしませんし、ぴんとこないというのが実感でございます。
  113. 金沢夏樹

    金沢参考人 ただいまの山口参考人の話とダブらない点だけを申し上げたいと思いますけれども、私は中核農家というその概念がきわめて不明確だろう、こういうふうに思います。ただ、私はいまの農業の中には、中核農家と言うのは問題ですけれども、中核農業者というものは考えなければならぬというふうに思うわけであります。  とにかく、その中核農家土地が集積して、それだけを中心規模拡大を図っていこうというふうな考え方は現実的にも大変無理があるだろう。やはりその地域全体の中で、その地域の農業を本当に資源的にも有効にしていく、ただその場合に、やはりもう一つ厳密に詰めなければならぬのは、その地域の農家ということ自身も、第二種兼業と簡単に言いますけれども、第二種兼業もこれまた農業志向に対する幅がきわめて広いということで、少なくとも農業に熱意を持つ、あるいは農業に生活の基盤を置かなければならぬというふうなものにつきましては、地域の農業計画というものがまずあって、それがないと恐らく土地の集積は不可能だ、ただ中核農家というものがあって、それに土地の集積があるだろうというふうなことは、事実上は進まないだろう。こういうふうな全体の計画があって、資源の利用があって、みんなが納得して、その次に初めて農地の流動化が動くだろう、こういうふうに思います。しかしそのためにも、中核農業者のようなものは、やはりこれは全体のプランニングとしては必ずいるだろう、いなければならないだろうと思うのです。これがやはり中核農家と言うところにいろいろな問題が生じてくる、あるいは概念の不明確さが出てくる、あるいは現実に多少そぐわない点が出てくるという理由ではないかと思います。
  114. 野間友一

    ○野間委員 まだまだお聞きしたいのですけれども、時間がございませんので、これで終わりたいと思います。  参考人の皆さん、どうもありがとうございました。
  115. 田邉國男

    田邉委員長 以上で各参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。  次回は、来る十一日火曜日午前十時理事会、午前十時十五分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時二十五分散会