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参考人(
宮脇岑生君) ただいま御紹介のありました
国立国会図書館の
宮脇でございます。
この法律は従来の
一般の法律と非常に異なりまして、アメリカの連邦議会と大統領の戦争権限に関するものでありまして、非常に重要なものであります。この法律の成立後、アメリカでは幾たびか具体的に問題になりました。また、今後もその
可能性は十分にあると思いますので少し説明をしたいと思います。この法律については余り日本の国内では従来紹介されておりませんので、少々その性格であるとか意義を踏まえて紹介したいと思います。
この戦争権限法は、アメリカ大統領と議会の戦争権限を扱ったものですが、これはアメリカの歴史上、憲法制定以来長い間論議された問題であります。そして、特に大統領の戦争権限というものは非常に強大なものであり、その本質は、ビアード教授によれば、アメリカ合衆国がすべての試練を切り抜けて、存在しなくなるまで完全に理解することのできないような、そういうむずかしいものであり、前人未到の暗黒大陸であるとまで述べているわけです。また、この権限に関する論争が非常にあいまいであるというのは、一つにはアメリカの憲法が非常にあいまいであること、これが大きな原因をなしていると思います。戦争権限という言葉を明確に定義することは非常にむずかしいんでありますが、コーウイン教授によれば、憲法で明確に禁止されていない限り、戦争を成功裏に遂行するためにとられるすべての権限と言われるものであります。非常にこれは包括的なものであります。戦争権限法においても、この法律が審議される中で、戦争権限は外国との武力による敵対行為を宣言し、遂行し、終結する権限を意味するということが論じられております。特に憲法の中でこの戦争権限に関して規定があるのは、まず大統領を陸海軍及び民兵の総指揮官として定めていること、これは軍に対する統帥権を大統領に与えたものであります。そして議会には戦争宣言、それから軍の募集、編成、維持、こういう権限を議会に与えております。アメリカでは、この権限をめぐりまして、特にベトナム戦争のように議会の戦争宣言がなくして大統領が軍隊を投入した、これはもちろんトンキン湾決議その他法律的にはいろいろ問題がありますけれ
ども、とにかく戦争宣言はなされずになし崩しに軍事介入がなされた。これが非常に長い間行われ、これを何とかチェックするために三年以上にわたってアメリカの議会で長い間論じられたものであります。また、この法律制定以前には、軍隊を投入する根拠となるトンキン湾決議のような対外約束決議、条約、こういうものが非常に重要な問題として論議されたわけであります。そして一九七三年の十一月七日に、アメリカの立法史上非常に画期的な立法とも言うべきこの戦争権限法が成立したわけです。この法律は上下両院非常に規定が異なっておりまして、大変成立の過程ではアメリカの法律史上もまれなほどに問題があり、大統領は拒否権を発動しまして、その後にさらに再可決して成立した法律であります。
そこで、この法律で、特に大統領の権限についていま玉置
先生から御指摘の点に触れてみたいんですが、この大統領の権限に関しましては、特にその目的としまして、合衆国の憲法の起草者の意思を履行し、敵対行為または敵対行為に巻き込まれることが急迫し、そのことが状況から見て明白な事態へ合衆国軍隊を投入すること、及び敵対行為または上記の事態において上記の軍隊を引き続き使用することに対して、連邦議会と大統領の両者が共同判断をする、こういう目的のために制定されたものであるということであります。特にこの敵対行為というのは、英語ではホスティリティーという表現をしておりますけれ
ども、この点につきましては、この参議院の
予算委員会で、五十三年の三月十一日に、園田外務
大臣は、戦闘行為と述べているものであります。
そこで、その大統領の軍隊の使用権限が特に問題になるわけですけれ
ども、これは先ほど申しましたように、憲法の規定で総指揮官として規定しているだけであります。そこで、この総指揮官という条項を受けて、この法律では大統領が軍隊を投入する権限として、次の三つの場合を挙げているわけです。第一が、戦争宣言をした場合、第二に特定の法律によって授権をした場合、第三に合衆国その准州、属領、または合衆国軍隊に対する攻撃により生じた国家非常事態を宣言した場合、これらの項目は従来認められていたものを列挙したものにすぎないというアメリカ議会の
報告書には出ておりますけれ
ども、特に、第二の特定の法律による授権は、大統領が軍隊を投入する場合に、議会によりその事前に承認したものでありますし、第三の場合は、事前に議会の承認を得ずして軍隊を投入するときに当たると思います。ここで特に問題になるのは、第三項の場合でありますけれ
ども、この第三項がいかなる性格のものであるかということは非常にいろいろ問題があるようであります。特にこれを明確に法的効力を有するものとするならば、かなり憲法上の問題が出てくるのではないかと思います。しかし、これは
一般には、
一般的な方針と申しますか、政策の表明であるというぐあいに解釈されているようであります。ここでたびたび申しました合衆国軍隊の投入ということに関しましては、第八条の(C)項で、外国または外国
政府の正規軍もしくは非正規軍が敵対行為に従事している場合またはこれらの軍隊が敵対行為に従事するようになる急迫したおそれが存在している場合に、そのような外国または外国
政府の軍隊を指揮し、調整し、もしくはそれらの移動に参加し、またそのような軍隊に随伴するために、合衆国軍隊の構成員を配属することを含むとしております。
そこで問題になるのは、戦争宣言や特別制定法による授権がなくて大統領が合衆国の軍隊を使用した場合であります。この点につきましては、上院と下院の規定が非常に異なっておりまして、下院では百二十日間、上院では三十日、大統領に軍隊投入の権限を与えてあります。そして、これが先ほど申しましたように、両院協議会におきまして六十日というぐあいに限定されたわけであります。すなわち、これは従来から見れば、議会の承認なしに六十日間軍隊を投入することができるということであります。ただし、この六十日間の投入期間は例外規定がありまして、次の三つの場合にそれが適用されるわけですが、第一に、連邦議会が戦争宣言をしたか、もしくは合衆国の軍隊の使用についての特別授権をした場合、第二に連邦議会が法律によっていま述べました六十日の期間を延長した場合、第三に合衆国に対する武力攻撃の結果として連邦議会を物理的に開くことができない場合、この場合には延長できると、これは大統領の軍隊の投入に対して議会の積極的な行動がある場合を規定したものでありますけれ
ども、また大統領が逆に積極的に軍隊投入に関して行動する場合について、次のように規定しております。大統領は合衆国軍隊の安全に関する不可避の軍事的必要により、軍隊の継続使用が、合衆国軍隊の迅速な撤退を行う過程において必要である旨を
決定し、議会に書面でこれを立証した場合には、この六十日の期間は三十日間延長されるというものであります。
以上が大統領の権限に関するものであります。