○高杉廸忠君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
議題となりました
厚生年金保険法等の一部を
改正する
法律案につきまして、大平総理大臣並びに関係大臣に質問を行おうとするものであり
ます。
不確実に混迷する八〇年代に、高齢化の進行だけは確実であり、しかも高齢化社会の到来が目前であることを考え
ますと、八〇年代こそ高齢化社会における社会保障制度の準備づくりに専念すべき期間であると存じ
ます。
そして、それは、単にその後退を阻止するという消極的なものであっては断じてなりません。積極的に新しい困難な社会
状況に対応し得るよう再構成を急がなければならないと存じ
ます。その再構成は、社会保障の分野だけではなく、広く関連する諸領域の施策、とりわけ雇用の分野において従来の慣行の思い切った改変が不可欠であり
ます。
〔
議長退席、副
議長着席〕
しかるに、一方、
政府の社会保障に対する認識は大変心もとないものであり、「逐年
改善が図られてきた結果、制度的にはすでに
国際的に見ても遜色のない水準に達している」と述べているのであり
ます。果たしてそうでありましょうか。
わが国の
年金制度の歴史は浅く、標準的な給付の支給要件を満たすに至らず、
経過的な
措置の適用を受ける受給者が大半を占めているのが実情であり
ます。このような事情を反映して、
政府部門から家計部門への社会保障移転の対国民
所得比は、五十四年度において、欧米諸国の二〇%前後に対して、
わが国のそれは低く一二・六%にしかならないのであり
ます。
このような社会保障の実態を踏まえて、私は以下具体的に質問をしてまいり
ます。
第一に、福祉に対する基本的な考え方についてただしたいと思い
ます。
大平総理は、就任以来、
日本型福祉社会を口にしており
ます。しかし、これは福祉見直し論の延長線上で追求され、
政府の果たすべき責任の
回避、省略の方向づけの一環として枠をはめられ、それに役立つ施策だけを拾い出すといった構想になっているように思えてなりません。このことは、単に私一人ではなく、福祉、
年金に関心を持つ国民が等しく感じているところであると存じ
ます。問題は、低成長の中で今後どのように福祉
充実を進めていくかであり
ます。社会保障の長期計画を発表し、五年後、十年後に達成する具体的な目標を設定し、国民の前に明らかにすべきだと思い
ますが、総理、約束でき
ますか、明らかにしていただきたいと存じ
ます。
第二に、厚生
年金関係について伺い
ます。
厚生
年金について、財政の見通しが困難だからといって、直ちに安易に雇用環境を無視して支給開始年齢をおくらせようとする発想は理解しがたいところであり
ます。働く職場を確保し、生きがいのある老後を送ることができるように配慮することこそむしろ前提とすべきであると存じ
ます。欧米諸国のように、
年金の支給開始年齢がすなわち退職年齢であると理解できるような雇用環境をつくるべきだと思い
ます。それまで支給年齢の引き上げには触れるべきではありません。
この際、
本案の受給資格年齢について次の財政再計算期に
所要の改定
措置をとるという
規定を撤回し、
政府部内において高齢者の雇用確保策について再度十分検討していただきたいと思い
ます。労働、厚生、両大臣の御答弁をお願いいたし
ます。
次に、
わが国年金制度の最大の欠陥の一つは、わかりやすい
年金ではないということであり
ます。その典型的な例が、厚生
年金の老齢
年金額が自分で正確に算出できないということであり
ます。
年金額を知り得ないで、何で老後の生活設計ができるでありましょうか。
わが党は、以前から、いわゆるポイント方式の導入を要望してまいりました。現在の体系を大きく変えないとしてもこの方式の導入は可能であると思い
ます。厚生大臣の明快な御答弁をお願いいたし
ます。
第三に、国民
年金の
改正に関連して伺い
ます。
現在のお年寄りにとって最も優先度の高い対策は、
所得保障としての
年金の
充実であり
ます。特に、五十五年現在三百三十万人の受給者を持つ七十歳以上のお年寄りに支給される老齢福祉
年金の給付額が当面の大きな問題であり
ます。老齢福祉
年金は、今回の
改正では、
衆議院段階の修正を入れ、二万二千五百円へ引き上げられることが予定されており
ますが、この額は生活費の補助としても不十分であり
ます。五十年当時においてさえ、当時の厚生大臣は、老人ホームの生活費程度には引き上げたいと答弁していたのであり
ます。今日、その額は三万円を上回っており
ます。現在三百万人を超える受給者は、六年後には半減し、十年後には八十五万人に減少するのであり
ます。一日も早く適正な水準に引き上げてお年寄りの労苦に報いるべきだと思い
ますが、いかなる御見解をお持ちであり
ますか、この際明らかにしていただきたいと存じ
ます。
第四に、女性の
年金権の保障についてであり
ます。
従来、
わが国では、職業戦線に出るのは主として男性であり、
年金制度の立て方は勢い男性中心で、女性は従属的に取り扱われてまいりました。しかし、今日、事情は大いに変わってきており
ます。女性の
年金権の保障をどのようにするかは焦眉の急を要する問題であり
ます。特に、被用者の妻の
年金加入については、任意加入ということから、老後において、任意加入した者と任意加入していない者との間に老後の
年金給付で大きな格差がもたらされることであり
ます。それに公的
年金として三分の一の国庫負担が導入されており
ます。こういった制度が国民の選択に任されていること自体、大きな矛盾であり、問題であると思い
ます。そのような現状も踏まえ、女性の
年金権の
あり方について一日も早く整合性を持った制度を打ち立てるべきであると存じ
ます。どのような方向で解決されていこうとしているのか、明快にお答えを願い
ます。
遺族
年金は、その受給の実態から、まさに妻の老齢
年金と言っても過言ではないのであり
ます。しかるに、
わが国の遺族
年金は、本人給付額の五〇%と
規定されており、それに
寡婦加算、扶養加算という加算制度で補完しているのであり
ます。この支給割合、支給額は、社会保障の最低基準を定めたILO百二号
条約の水準にも達しておらず、
国際的に見ても立ちおくれているのが目立っており
ます。
年金における妻の座の冷遇が明らかになっているところであり
ます。遺族
年金の支給割合そのものを
改善していくべきだと思い
ますが、その方向をとり得ない理由というのはいずれにあるのか、明らかにしていただきたいと思い
ます。
また、本
改正案には、四十歳未満で子供を持たない妻に遺族
年金を支給しないという改定が
規定されており
ますが、寡婦の
所得能力を過大視し、世帯を単位として制度化されている厚生
年金の本質すら否定するものであり、この際
政府は潔くみずから撤回すべきであると存じ
ます。
第五に、行政機構、制度の一元化の要請であり
ます。
わが国の
年金制度は、八つの省庁に分かれて所掌しているのであり
ます。諸外国においても制度が分立している国も見られ
ますが、所管省庁がこれほど分かれているところはありません。
年金担当を一元化すべきではないでしょうか。そして、そこで改革のプログラムの策定と
財政措置を検討すべきであり
ます。これこそ今日要請されている行政機構の具体的な改革であると存じ
ます。
行政機構の一元化と同時に、今後各制度相互間で
年金給付額の基礎給のとり方、最低保障の
あり方、
年金額のスライド
方法などに関しては相互の調整が図られていくべきものと考えられ
ますが、この問題についてどのような構想を持っておられるのか、明らかにしていただきたいと存じ
ます。
年金問題は、給付と同時に積立金が民主的に運用されなければならないと考え
ます。そのため積立者自身が構成メンバーに入った積立金運用
委員会とも言うべき機関を設けて運用を民主的にすべきであると思い
ますが、検討の用意はありませんか。
第六に、人口構成の変化と
年金財政の将来見通しについてであり
ます。
わが国の人口構成は、今後、生産年齢人口に対する老齢者数の割合が急速に高まっていき、現在の約八対一から今世紀末には五対一程度になるものと予測されており
ます。これは当然
年金制度にも反映して、厚生
年金では老齢
年金の受給者数が三十年後には現在の五倍を超えると予測されており、また、その給付費は現在価格で八倍を超えるものと思われ
ます。現在の制度のもとでは当然それを賄う世代の負担は大きなものとなることが予想され、
政府の見通しでは二十年後の保険料率は現在の二倍程度に引き上げられようとしており
ます。その際の給付
内容、国庫負担、保険料の
事業主と被保険者の負担関係などをどのような
あり方で進めようとしているのか、この際明らかにしていただきたいと存じ
ます。
最後に、わが党の主張であり
ます「暮らせる
年金」「わかりやすい
年金」「国民がコントロールできる
年金」、以上に向けて
年金制度が
改善されることをここに強く要望いたしまして、私の質問を終わり
ます。(
拍手)
〔国務大臣大平正芳君
登壇、
拍手〕