○安田隆明君 私は、自由民主党・
自由国民会議を代表して、ただいま
議題となりました
昭和五十五
年度一般会計予算外二件に対し、賛成の
討論を行います。
今日、
わが国が当面している最大の
課題は、
物価の高騰を防止し、
経済の自律的な
拡大を維持しつつ
財政の再建を図ることにあります。
最近の
物価情勢は、一年間に二倍を超える
原油価格の高騰と
円安という
海外要因によってこのところ続騰し、この二月には前年比二一・四%の
上昇を記録するに至っております。しかし、
国民生活に重大な影響を持つ
消費者物価は、最近、昨年秋の天候不順による野菜の品薄で一時的な
上昇はありますが、総じて安定を続け、五十四
年度の
上昇率は
政府の当初見通しを下回る四・七%にとどまることが予想されるに至っております。
一方、
生産活動は、民間の設備投資の
増加を中心として、個人消費など国内民間
需要が堅調に推移し、
景気の力強い自律的
回復が持続されておりまして、
政府の実質成長率六%程度はその達成が見込まれる
状況となっております。
第二次
石油ショック当初、われわれは、あの四十八年当時の
狂乱物価とマイナス成長という最悪
事態の再来を危惧いたしたのでありますが、五十四
年度の
わが国経済は、
原油の大幅
値上げによるインフレとデフレ現象を防止して、
雇用情勢を
改善し、
経済を安定成長に導き得たのは、
国民各位の自制的態度と
企業の堅実な経営
努力とともに、自由民主党
政府の適切な
政策運営によるものであると思うのであります。すなわち、これまで五次にわたる公定歩合の
引き上げと、貸出
増加額の規制など、
金融引き締めの
措置を行って仮需などのインフレ要因を未然に防止する一方、民需の盛り上がりに即応して
公共事業契約の執行の繰り延べなど、金融、
財政の両面にわたって機動的、弾力的にその
対策を講じております。御承知のように、現在、世界の先進諸国が第二次
石油ショックによってスタグフレーションに陥っている中で、
わが国がかかる
経済的成果を上げ得たことは同慶にたえないところでございます。
財政につきましては、五十
年度以来、
景気の下支えと牽引の役割りを果たしてまいりましたが、最近は
経済の順調な
拡大を反映して大幅な自然増収が見込まれるようになりました。われわれは、
公債発行の縮減
方針のもとに、さきの補正
予算で約一兆二千億円、新
年度予算では前年当初比一兆円の
公債の減額を行ったところでありますが、本
年度末の
公債残高は実に七十一兆円の巨額に達しており、その利払いに要する
国債費五兆三千億円は一般会計の一二・五%にふくれ上がり、他の
歳出を圧迫しております。このまま推移すれば、利払いのための
公債発行に追い込まれ、今後の福祉
充実や
景気調整など将来の不測
事態に
財政が
対応することが困難であり、
財政再建は急務であります。
五十五
年度予算は、かかる
情勢を十分に踏まえ、
国民生活の安定と着実な
経済発展のための基盤強化のために細心の配慮が講ぜられておりまして、必ず
国民各位の理解が得られるものと信じております。
以下、その賛成
理由を簡単に申し述べます。
第一は、
物価と
景気動向に即応した
予算であることであります。
五十五
年度予算の
伸び率一〇・三%は二十年ぶりに低い
伸び率となっており、特に一般
公共事業については四十九
年度と同様厳しく抑制し、
財政面から
物価を刺激することのない配慮をしていることであります。この
財政面における抑制
措置とあわせて、他面、五十四
年度からの約七千億円の
公共事業の繰り越しを行って
景気対策にも万全の
措置を講じており、五十五
年度予算は
物価と
景気の両にらみの
効果が期待できるものと思うのであります。
第二は、
財政再建の
第一歩を踏み出したことであります。
さきに申し述べましたように、五十
年度以降の積極的な
財政運営が実って、
わが国経済はようやく民間主導型
経済に移行し、多額な自然増収が見込まれるようになり、
財政再建に取り組む時期が到来しております。従来の「出るをはかって入るを制す」から「出るを制して入るをはかる」との
予算編成方針に切りかえ、昨年の
サマーレビューによる
歳出の徹底的見直しを行う一方、五十五
年度財政事情の
試算を公表して
財政健全化の
必要性か広く
国民に訴えております。この結果、新
年度予算は、
国債費と地方交付税を除いた一般
歳出を五・一%の
伸びに抑える一方、
国債発行を一兆円減額して
公債依存度を三九・六%から三三・五%へと
低下させましたことは、五十
年度以降毎年増発を続けてきた
財政の
国債過剰依存から脱却する
第一歩を踏み出したものとして評価することができるものであります。
第三は、政策税制が
改善され、いわゆる不公立税制に勇断をもって対処したことであります。
長年の懸案でありました利子配当
所得の総合課税への移行が五十九
年度から実施されることとなり、このためのグリーンカードなど所要の
措置が講ぜられることとなっております。
これまでも租税特別
措置につきましてはその
整理縮減を図ってきたところでありますが、本
年度は八十二項目に及ぶ準備金や特別償却のうち十項目を廃止し、四十六項目を
削減するなど、社会保障、中小
企業、農林漁業
対策、資源及び科学技術の面に配慮しつつ、政策税制の抜本見直しが行われておりまして、この五年間における
整理合理化の割合は八五%に達し、税
負担における不公平感かおおむね解消されております。特に、今回の税制改正の特色は、一千万円以上の高額
所得者の給与
所得控除の引き下げが行われていることと、法人の退職給与引当金の累積限度額の適正化が図られ、税の増収
措置がとられております。野党の一部に法人税の
引き上げが見送られたことで
批判があるようでありますけれども、この退職給与引当金の累積限度の引き下げ
措置は法人税率の一・一%に
相当する税収が得られ、しかも大
企業ほど利用率の高い本
措置を見直して、中小
企業にも一律課税される法人税の
引き上げを避けるとともに、
景気及び
雇用の
関係から
企業への重課を見送ったことは、時宜に適したものであると
考えるのであります。第四は、
行政改革の断行であります。高度
経済成長期に肥大化した
行政組織全体を見直す今回の
行政改革は戦後最大の
規模のものでありまして、
大平総理の意気込みを高く評価するものであります。十八
特殊法人の統廃合、
地方支分部局の
削減、許認可事項の
整理、国家公務員の
定員削減、
補助金の
整理、国家公務員
関係三法などいわゆる器減らしの見地から取り組まれている今回の
行政改革の早期実施に
国民は強い期待を持っております。今回の行
財政改革による
経費の節減
効果は約一兆円と言われるだけに、
財政再建への寄与はまことに大きいものがあります。とかく
行政改革は従前の権益擁護が絡むだけにその抵抗もありますか、今日の
国民的
要請にこたえて、その早期実施を強く要望いたします。
第五は、厳しい
財政下においても重要
経費については特段の配慮がなされていることであります。
すなわち、
石油供給の安定的確保や代替エネルギーの開発のためのエネルギー
対策費は三一・九%、
政府開発援助三年間倍増のための
経済協力費は一七・五%、恩給、社会保障費等は一般
経費の
伸び率を上回る
措置が講ぜられ、五十五
年度予算は既定
経費の
節減合理化の中でも緊要な重要
施策については
予算の
重点配分が貫かれております。
この際、私は、特に社会保障と防衛問題について一言申し上げたいと思います。
わが国の社会保障は、高度
経済成長期の自然増収に支えられ大幅な
改善が行われておりますことは、年金を例にとるまでもなく国際的に遜色なきものになっております。しかし、近年、ばらまき福祉への
批判から、単なる量的
拡大から質的
充実が求められておることは御承知のとおりであります。
予算編成時における福祉に関する党と
政府との申し合わせは、福祉の後退を意図するものではなく、現行社会保障制度の体系や効率、給付と
負担についての明確化を図って、高齢化社会に
対応した
日本型福祉社会建設の長期的展望に立って、真に福祉を必要とする方々に手厚い保障を行うものであります。
また、防衛問題につきましては、不幸にして与野党間で大きく
意見が異なることはきわめて遺憾であります。
およそ、独立国にあって自国の平和と安全のために
防衛力の
整備を図ることは、国家存立の基盤であります。今日の緊張化する国際軍事
情勢の中にあって、
わが国が国力、国情に応じて日米
安保条約を基軸に
防衛力の
整備に努めることは当然の責務であり、今回の
予算でGNP対比〇・九%を確保しておりますことは適切な
対応であり、今後ともその強化
充実を強く推進すべきであることを主張いたすものであります。
最後に
政府に要望いたしたいことは、強力な
物価対策であります。
現在の
物価上昇は、
大平総理が述べられているように、
原油価格の高騰による
産油国への
所得の移転であるため、単純な
価格統制や
公共料金の凍結によって解決できるというなまやさしいものでなく、
政府の
対策にも限度のあることも十分承知しております。しかし、最近の
物価高騰の中には、たとえば野菜の異常な
値上がりなど、政策の
対応いかんによっては十分防止し得るものもあります。
政府ではさきに総合
対策を講ずるなどの
努力を行っており、この方の
効果も期待できるのでありますけれども、今後とも総
需要管理政策の一層の徹底を図るとともに、きめの細かい構造
対策や個別
対策を実施して、何としても六・四%の
政府見通し内でおさまるよう強く強く要望いたしたいのであります。
戦後三十数年、わが党は、
国民各位の御支持により、世界に例のない一党による政権を担当し、今日ある
日本を築いてまいりました。いま、八〇年代の不透明時代の幕あけに際して、わが党は、かつての実績と経験を生かし、新しい時代の
国民の
ニーズにこたえるため、さらに研さんしてこの難局を乗り切ることを
国民各位に訴え、
予算三案に対する私の賛成
討論を終わります。(
拍手)
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