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戸叶武君 いま言われたように、大来さんが考えるようなこれからの予算編成の過程において問題が突き詰められるというのならば別ですが、先ほど大来さんがはしなくも正直に漏らしたように、ブラウン長官と大来外相の会談のときにすら中期
業務見積もり、それを五年でなく四年に一年繰り上げ上げてくれないかというような話も出たという、こういう既成事実がありますのを見てもわかるように、私は若いころヨーロッパで、外国の方と、西洋の幽霊と日本の幽霊とはどこが違うかという議論をやったことがありましたが、端的に表現すると、日本の幽霊には足がない、西洋の幽霊には足がある。中期
業務見積もり、日本では足がないが外国ではすでにその幽霊が足を持って歩いている。あしからずという形じゃないでしょうが。この幽霊問答のような形で、これは国民が知らない間に日本の防衛問題がアメリカの方の長官や
外務大臣において議論せられ、大平さんも大分苦悩したでしょうが、筋道としては、大来さんの言うような
一つの常識的な見解というものがあるところもわれわれ耳を傾けることができるのであります。
しかしながら、議会民主政治のあり方として、国民主権の国において、国民を代表する国会においても、この中期
業務見積もりというものがあるらしいけれども足がない、アメリカに行くとちゃんと足がついている、これでは全く日本の議会政治というものも頼りげないことであって、やはり防衛庁長官あたりがシビリアンコントロールと言いながら、防衛庁における
一つの軍部が、簡単に言うと昔の軍部と余り変わらないような発言をしている人が多いんですが、そういう人たち並びに党内における最終的には憲法
改正をやらなければだめなんだ——これは大平さんや大来さんとは大分違います。そういう意味において、無理やりやっても具体的事実をつくり上げて、その積み上げの中にアメリカもバックしていることだし、日本を再軍備的な方向へ持っていかなければならぬという遠大なあほうな
計画がなされている向きもあるということをわれわれは警戒しなければならないんです。
ファシズムの台頭期というものはいつもそうであって、第二次
世界戦争が起きたときにも、第一次
世界戦争が起きたときにおいても、その醸し出した雰囲気というものには共通なものがあるのであって、われわれは戦争かデタントかの問題について、戦争によってこれからの
世界が救われるとは思ってないのです。アメリカもソ連も思ってないのです。思ってないから適当なところでSALTにおいて妥協はしていこう、核戦争はなるたけ避けようというところまでは来ているが、他の迷惑は余り考えない。最終的にソ連とアメリカが正面衝突することは避けるけれども、自分たちの勢力圏は拡大していって一向差し支えないのじゃないかと、言うがごとく言わざるがごとく、それを実践しているのがいまの米ソの権謀術策におけるところの
世界戦略だと思うのです。これはアメリカではソ連が悪いと言い、ソ連ではアメリカが悪いと言い、中東ではいろんな情報が入っているから、この石油の問題で砂漠の中から黄金を掘り出したように、このアラビアの貧困を救い、アラビアの近代化をなさなければならないというふうに大きな
希望を持ってみたところが、よくいろんな材料を集めてみると、いままですでにアメリカのメジャーがアメリカの政治家や財閥を動かしてシャーを——しゃあしゃあとしてどこかでまだ生きているが、ああいう連中をほとんど買収して、そして国民を貧困に陥れ、彼らだけがうまいことをやってきたのだからだまされないぞという不信感と猜疑心というものが、このイランにおいても、その他アラブ全体においても、サウジアラビアなんかにおいてでも根底に王制における危険ということを感じながらも、なおかつやはり私は不信感というものが横溢していると思うのであります。この問題は一気に片づけることは困難でしょう。奇跡に等しいでしょう。しかし、この不信感というものは米ソの対立における
相互の
話し合いが十分でないところから来る不信感以上に、最も深刻に私は中東においては根を張っているのだと思うのであります。
そういう点において、外務省のOBの人たちにも相当憂国の志士的な方はありますけれども、ソ連が二個師団を極東にふやしてきた、日本もこれにたえるだけの軍備を整えなければ、かつて連合国がスウェーデン、ノルウェーを抑えたときに、ソ連はそれと衝突しないで、おもむろに北のフィンランドを抑えてそれから次の変化を待ってドイツに対する抵抗をやり、それから後にヤルタ
会議を通じて米英の謀略に同調したるがごとくして日本固有の領土も奪った、中国からもあいまいになっていたところの蒙古を奪い取った、こういうところから中ソ論争も出、日本のソ連との間のまずさというのは、いまごろになってからちょいちょい本当のことを漏らしかけてはいるけれども、ルーズベルト、チャーチル、スターリン、あの秘密謀略
協定によってゆがめられた外交が今日までアジアにおいて尾を引き、中国も苦しみ、日本も苦しみ、フランスも最後の段階において、連合国の有力な国であるフランスと中国は戦力低下を名としてヤルタ
会議からはオミットされ、しかも中国を入れると情報が漏れる危険性があるというので、そういう侮辱を受けながら中国は戦争に利用されただけで得るところはなかった。こういう現実の歴史を、自分に都合よいところだけうまく宣伝しているけれども、
世界がみんなわかってしまった。だれも米ソの操るままに戦争に入ったならば、ひどい目に遭うのはおれたちだけであると、考え方は違うけれども、その警戒心はアメリカべったりと思われるようなエジプトにもイスラエルにもある、サウジアラビアにもある。強烈な懐疑心と抵抗がイランにもある、あるいはイラクにもある。イラクの保守派がソ連系と結んでも反米的な抵抗に似たものをやっていることや、いろいろ中東の問題も複雑多岐であるが、真実は何か。これは大国によってほとんど自分に都合のいいような余地が残されておりますけれども、われわれが痛いところを突くのじゃないが、もっとまともに第二次
世界戦争後における権謀術策のあの外交政策をソ連なりアメリカなりが徐々にでもいいから反省して解消していかなければ、戦争以上の悲惨な戦いが、ゲリラ的な抵抗によって混乱が、私は中東を中心に置いて韓国でもどこでも噴き上がってくる危険性を感ずるのであります。
どうぞそういう意味において、私は、大来さんやあるいは大平さんが苦悩し、模索し、あるいは遠慮し過ぎてみたり、本当のことはこうだと小さく言ったりする悩みを持っていますが、あのコペルニクス的な転回を
世界観において与えたコペルニクスやガリレオの徒が、神聖ローマ帝国の圧迫の中において研究を続けたときには、いつも真実を語って、その後でバット・ノーということを書き連ねれば弾圧を免れたんです。真実はここに書いてあるとおりだが、しかし、それを本当のことを言うと十字架にかけられちゃうから、バット・ノーとしまいの方に小さな文字で書いたということであります。あの
世界観ですら、宇宙観ですらアレクサンドリアのアラブの科学者においてその示唆は与えられたものであって、ルネッサンスの独善の中からコペルニクスやガリレオだけが探索したものではないのです。
世界の至るところから、素朴であっても真実以外にものを動かすものはないというこの声が、いま音を立てて私は聞こえるような気がします。むしろこっけいで知らないのは本人同士であって、だまされているやつがみんな大体おれたちはだまされているから気をつけろといいながら気をつけているのが現実じゃないかと思うのであります。こういう第一次
世界戦争や第二次
世界戦争で非常につらい目に遭ったところのドイツなりフランスなりヨーロッパにはいろんな体験があります。アメリカを孤独にさせてはいけない、何をしでかすか危ないから、この辺で慰めておかなけりゃならないという面もあるし、言うべきことは言わなければこれは大変だという考え方もあると思います。
シュミットさんと会って、大平さんは大変わが意を得たりという気持ちでしたでしょうが、その前に華国鋒さんと会って、ソ連をやっつけなけりゃならぬというような強硬論に接して、何かいろんな複雑な
世界の動きを私は感じたと思います。中国に迷惑をかけた人々がいま中国に賓客として招かれているような時代です。アメリカの中にも、アメリカを中心として日本と中国とのこの軍事力によってソ連をやっつけなければならぬという力み返った人もおります。それがために意見を異にして国務長官をやめた人もあります。やめてもタカ派だけで固めることができないで、間一髪のところで、電光石火ハト派の国務長官にすりかえたという面もあります。そういう点において非常に私は
世界が動いていると思うんです。うなりを発して動いていると思うんです。大平さんは、アメリカ、メキシコ、カナダにおいて失望した面を、ヨーロッパにおいてシュミットさんと話し合ったときに何かを感じたと思います。大平さんも私はより感じていると思います。苦労をしない者には苦労したやつの悩みはわからないのです。
どうぞそういう意味において、単に油の中にだけ埋没することなく、
世界を破滅から救うために何をやらなければならないか。アメリカのきげんを取り、ソ連との摩擦を避けるというだけの小細工でなくて、ソ連といえども、アメリカといえども強引なことをやると、
世界からあなたたちは孤立してだれからも相手にされないことになりますよという現実を、いま日本とEC及び南北問題で苦悩している後進国との間に大きな世論を形成していくならば、その力の方が——アメリカでもソ連でも全くむちゃくちゃなやつばかりはいないんです。英知を持った人たちがおるのです。その人たちが呼応して、
一つの日本外交の持っている不動の思想を堅持することが日本にとっても
世界にとっても必要なことであるということを認めてくれると思いますが、大来さん、今度のフランス行きは、一フランスだけでなくヨーロッパの先進国の首脳者との会談も待っておりますけれども、シュミットさんと大平さんの会談以上にそれは成果を期待されているんです。多くを望めないかもしれませんが、私はあえてその成果の大なることを望む者でありまして、この防衛の問題も、外務省、大蔵省もしっかりして、ただ単なる予算編成というだけでなく、国民がこれに、このようなふざけたことをやっていたのでは
合意を与えないであろう、このおそれを大平さんだって受けてないはずはない。いま国民は怒っているんです。暴発の寸前にあるんです。これをひとつ大来さんから、簡単でよろしいですが、本当の今度のヨーロッパにおける決意が、この大来さんにとっては非常に大きな私は決意でなければならないと思いますので、そのことをお伺いいたします。