○春日一幸君 激動の七〇年代を越えいここに新しい八〇年代の関頭に立って、
わが国政の前面をながめるとき、そこには幾多の難関がいかめしく立ちはだかっております。すなわち、安全保障に、エネルギーに、
財政に、それは状況ただならぬ危機に直面しております。
この先、
わが国政はいかにあるべきか、
政府と
国会は、いまこそ英知をこらし、勇気をもって決断し、万難を克服してこの難関を乗り越えなければなりません。
私は、民社党・
国民連合を代表し、これら
わが国政の中枢的
課題について、以降、
政府の態度、
方針について
質問いたします。(
拍手)
その第一は、
わが国の安全保障体制についてでありますが、まず冒頭に、去る一月十八日発覚した自衛官
スパイ事件について
質問いたします。
その主犯宮永は、陸上自衛隊の元将官で、それは
ソ連情報の第一人者であり、しかも現役の中堅将校がその共犯者であったということに、
国民はかつて見ないほどの大きな衝撃を受けております。
年間二兆円を超える国費を投じ、国の安全をゆだねておる肝心の自衛隊がこのようなありさまでは、
わが国の防衛体制は一体どうなっておるか、さらには
わが国の防衛に大きなかかわりを持つ
米国初め友邦諸国は、これを見て、
わが国への
信頼を決定的に失うばかりでなく、今後はむしろ警戒することにはならないか、
国民は驚きと憤りの中でいまや深刻な不安に包まれております。
〔副
議長退席、
議長着席〕
ここに、一九五四年の在日
ソ連代表部員たりし
ソ連スパイ、ラストボロフ事件、またその後のコノノフ事件、マチューヒン事件などを分析して、今回の宮永事件をあわせ考察するに、
ソ連の対日軍事謀略は長年にわたって継続的に、かつ
計画的に行われておる疑いが濃厚であります。(
拍手)
一方、西独においては
スパイ事件の発覚が年間一千件に達しているのに、
わが国においてはこれがわずか数件にとどまっておるというこのことは、すなわち、摘発されたスパイ事犯は、摘発されないスパイ行為全体のせいぜい氷山の一角にすぎないのではないかと、このことが心配されてなりません。
およそスパイがねらう情報は、
わが国の防衛、作戦
計画に関する機密資料がその中心でありましょうが、実にその機密こそは、
わが国が独立を保ち、
国民の生命を守るための機密そのものにほかなりません。(
拍手)
しかるに、
わが国の防諜体制は、各国のそれに比べて余りに開放的で、現にそれはスパイ天国、スパイ銀座と呼ばれておるほどであります。もとより、
わが国は他国と異なる平和憲法のもとにあり、かつは言論の自由と行動の自由は基本的人権として保障されなければなりませんが、だからと言って、それを野方図にすることによって外敵の侵略を誘い、ために国の独立と
国民の生命を危険に陥れるがごときことになってはなりません。
いまや
国際情勢は、われらが平和への願望にかかわりなく、インドシナ三国は戦争地獄、それにアフガンへの
ソ連大軍の進駐、わけても
わが国北方領土における
ソ連軍基地の構築など、生々しく緊張を加えております。
このような現実に対処して、
わが国が専守防御に完璧を期するために、防衛の機密
確保に万全を図ることは、それこそ
政府と
国会に課せられた厳粛な責務であります。今般の宮永事件の発生もまさに
政治の
責任であり、なかんずく
自民党長期政権の
責任そのものであると言っても過言ではございません。(
拍手)
政府は、この宮永
スパイ事件について
ソ連政府に対しいかなる対抗
措置をとったか。なお、宮永のスパイコンビたる
ソ連側コズロフ大佐に対して
政府は法上の
責任を追及しているか。しているとすればその根拠法、していないとすればその事情は何か。
今回の宮永事件で
防衛庁首脳の
責任が厳しく問われておりますが、それは当然のことながら、問題の中枢は、かかる売国行為を可能にしている
わが国の
政治ムードとあわせ、現行法体制そのものにありと
考えます。
総理は、現行法体制のままで防衛上の秘密は
確保され得ると
考えておられますかどうか。今後のスパイ防止
対策について、この際、
国民はもとより、友邦諸国が安心できるよう、日本の
内閣総理大臣として
責任ある御
答弁を願いたい。(
拍手)
次は、現行「防衛
計画の大綱」について
質問いたします。
およそ国政の目的は
国民福祉にあり、
国民福祉の大前提は国の安全にあることは論を待ちません。したがって、安全保障
政策は国政の大本と言えましょう。
政府は、五十一年十月に閣議決定を行って「防衛
計画の大綱」を定め、その大綱に基づいて自衛隊の配備、装備を行っております。
ところが、この防衛
計画大綱は、その冒頭に「
わが国が保有すべき防衛力は、
国際情勢及び
わが国周辺の国際
政治構造並びに
国内諸情勢が、当分の間、大きく変化しないという前提に立ち」云々と述べておりますが、ここに、
わが国周辺の軍事情勢は、前にも申し述べましたとおり、わが北方領土に
ソ連の軍基地が構築され、空母ミンスクがウラジオストクに根拠を移し、また、長距離爆撃機バックファイアやT72型戦車多数が新しく極東
地域に配置されたとの報道もあり、かたがた、
ソ連軍のアフガンへの大軍侵入に端を発して、米ソのデタントは消滅したとの見方もあるなど、ここ三年間にそれは大きく変化したことは厳然たる事実であります。
このような周辺諸情勢の大規模な変化にもかかわらず、当分の間大きく変化しないとの前提に立って決定されたあの五十一年版の防衛
計画が、現在もそのままに踏襲されているのは異様なことであります。
政府は、この「防衛
計画の大綱」を現状に即して再
検討すべきであると思うが、
政府の見解はいかがでありますか。
総理より御
答弁を願いたい。
次は、
米国との安全保障体制の
確保について
質問いたします。
昨年中、雑誌文芸春秋などを舞台に、ロンドン大学教授森嶋通夫氏と早稲田大学客員教授関嘉彦氏とが、
わが国の安全保障
政策について深刻な論争を展開しておりました。この両氏の論争のハイライトは、森嶋氏の非武装、無抵抗降伏論と関氏の必要最小限の自衛力保持論との応酬にあったと思われます。森嶋説は、あれは防衛放棄論であるから、国の安全保障
政策とは異質のものと思われるのでここでは触れないこととし、この際、関氏の所論に関連して
政府の
方針を伺います。
すなわち、関氏は、一国の安全は軍事力だけでは守れぬが、しかし軍事力なしでは守れない、ゆえに必要最小限の自衛力を持つべきだ、なお、日本の安全保障の軸になるのは日米安保条約だ、もしも大規模な攻撃や核兵器による脅迫を受けた場合は、米軍の援助や
米国の核の報復力でそれを抑えてもらうしか手がない、
米国にそのような
信頼をかけれるかどうかは、日本が自衛のためにみずから誠実な
努力をしているか否かにかかる、と論じておられました。論理はまことに明快であります。
そこで、お伺いしたいことは、このほど来日したブラウン
米国防長官が、
国際情勢の緊迫にかんがみ、西側諸国は多大な防衛
努力を進めているので、日本もこれに合わせて防衛力を
拡大してほしい旨要請したのに対し、
総理は、
国民の合意を固めながら
努力したい旨答えられたことについてであります。もとよりこの問題は、その折、
総理も付言されたとおり、日本の問題だから日本の問題として
考えるべき筋合いのものではあろうが、しかし、これは関氏指摘のごとく、日米安保が日本の安全保障の軸だとすれば、あの条約が両国の相互協力を基本理念とするものであることにかんがみ、日本が自助を怠るならば、
米国もまた援助の熱意を失うことになるものと理解すべきでありましよう。
もとより、
わが国の防衛力は専守防御に徹して必要最小限にとどむべきでありますが、同時に、それは日米安保の機能とあわせて総合的に考慮する必要がありましょう。
そこで、
政府の
方針は、報道されたごとくに改めて
国民の合意を得てこの防衛力
強化の要請にこたえる方向であるのか。だとすれば、
政府はこれからいかなる手段、方法をもってそれを
推進される御所存か。この際、
政府の真意をしかとお聞きしておきたいと存じます。(
拍手)
なおあわせて、ここに直面する
イラン問題、アフガン問題に対する
政府の態度、
方針について伺っておきます。
総理はその
施政方針演説で、
ソ連のアフガンへの
軍事介入とテヘランにおける
米大使館占拠事件に対して、
政府は国連の
決議を強く支持し、自由主義諸国と連帯協調して対処していくと述べ、それがたとえ
わが国に犠牲を伴うものであっても、それを避けてはならぬと、かたい決意を示されました。
わが党も、もとよりその
方針には異論ございません。しかしながら、
わが国は、
米国とはもとよりのこと、
イランとも重厚親密な
関係にあり、また
ソ連とは独特な
関係にあります。したがって、一たびその
対策を誤るならば、それはいずれもたちまち
わが国に致命的な障害をもたらしましょう。諸情勢は刻々に煮詰まって、
国民はかたずをのむ思いで
政府の対応を見守っております。
そこで、お伺いいたしますが、
米国、
イラン、
ソ連が現在
わが国に提起しておる要請事項は何々か、そして、それらの要請に対する
政府の態度、
方針はどのようなものか、この際、
総理より重要項目ごとにそれを具体的に御説明願いたい。(
拍手)
次は、奇襲侵略とこれに対する自衛隊法の規定について
質問いたします。
この際、
昭和五十三年七月、時の統合幕僚
会議議長栗栖弘臣氏が、外敵の奇襲侵略を受けたとき、自衛隊は時に超法規的に行動することもあり得ると発言したと報道され、これが文民統制を乱す言動なりとして解任されたことを想起願いたい。
そもそもあの栗栖発言の趣旨は、外敵の侵入を受けた場合でも、自衛隊は防衛出動の発令が行われた後でなければ武器を持って行動することはできない、ところが、
総理大臣が防衛出動を発令するには、まず
国防会議にその可否を諮り、その議を経た上で、
原則的には事前に
国会の承認を取りつけなければならない。したがって、奇襲を受けてから防衛出動が発令されるまで、自衛隊の行動はその間空白に置かれることになる、奇襲というような極限の時点で、なすところなく待機していなければならなくては、自衛隊はその任務に万全を尽くすことができない、これは法上の欠陥であると思うから、
政府と
国会はこの点について速やかに法体制を
整備してほしいという趣意でありました。当時、
防衛庁内局筋は、そんな場合はひとまず逃げろと口走ったことでありましたが、それでは何のための自衛隊かとあざけられ、そこで、個人個人の正当防衛として、出動命令がなくても武器が使えると言い直したら、制服側から、個人の行動として認めるのでは隊としての統制がとれないと横やりを入れられ、それならば刑法第三十五条に言う正当行為として武器の使用を認めることにしてはどうかと三転したら、今度は法務省筋に、刑法三十五条は個人への適用を対象にしたものだ、これを自衛隊の行動に適用することは筋違いだと真っ向から否定されました。なお、自衛隊法の罰則には、正当な
権限がなくて自衛隊の部隊を指揮した者は三年以下の懲役または禁錮に処すとして、その行動を重ねて法定主義のくぎで打ちとめておるのであります。したがって、奇襲侵略を受けた場合に、自衛隊は
内閣総理大臣が法上の諸手続を踏んで防衛出動を発令するまでの間は、抗戦するにしても、逃避するにしても、はたまた降伏するにしても、何人もその部隊を指揮することは許されないことになっておるのであります。
このように、正当防衛もだめ、正当行為も否認、超法規的行動も
禁止とあらば、自衛隊は現行自衛隊法のもとにおいては、外敵の奇襲侵略に対していかなる臨機の行動も許されてはおりません。わが党は、あの当時、五十三年八月、時の陸海空三自衛隊の幕僚長にその
意見を聴取しましたが、三幕僚長は、奇襲即応体制
整備のためには現行自衛隊法の
改正が必要である旨、こぞって言明いたしました。現行自衛隊法は、このようにまさしく大いなる欠陥を内蔵しておるのであります。
しかるに、奇襲にどう対応するかという画然と限定したこの栗栖氏の問題提起が、一部の人士によって、これを国家総動員法や徴兵制の復活につながるものだなどと歪曲、誇張されて騒ぎ立てられ、かくて
政府は、当時有事立法の研究を行うとの決定だけはいたしましたが、その後、慎重に研究するとの口実のもとに、さわらぬ神にたたりなしとばかりに、本日まで何ら具体的な
措置をとってはおられません。
奇襲攻撃があるかないか、それは何人も断言できるものではございません。だがしかし、第二次
世界大戦後本日までに、
世界の諸
地域においてすでに数十回にわたって国家間に戦闘が行われておりますが、そのことごとくは現に奇襲によって開始されていることを見誤ってはなりません。
自衛隊が国の安全保障を
確保するための機関として設置されておるものである以上、あらゆる事態に備えてその機能は完璧でなければなりません。不完全な法体制でシビリアンコントロールが全うできるわけはなく、また、法の欠陥を認めながら、それをしも補完できない憶病で怠惰なシビリアンで自衛隊が統御、統制できるものではございません。(
拍手)
このように、自衛隊法に奇襲対処の基本が欠けておることは、立法当時の一担当者であった元
防衛庁次官加藤陽三氏がその著書「自衛隊史」の中で、「二十九年に自衛隊法を
制定したが、当時の在日米軍は二十万人を超え、米軍が圧倒的に強大であったから、奇襲攻撃について考慮しなかった。」と述べておることに徴して明白であります。
シビリアンコントロールの当の
責任者は
大平総理、あなた御自身であります。あなたは、この法の不備を認め、所要の法的
措置を講ずるのか、それとも法に不備はないというのなら、どのような法解釈に基づいて、どのような
措置を自衛隊に命ずるととによって国の安全を守ろうとするのか、シビリアンコントロールの
最高責任者としての
総理の見解と
方針をお伺いいたしたい。(
拍手)
次は、 エネルギー問題について
質問いたします。
一九七三年十月のいわゆるオイルショックの発作まで、
石油価格は一バレル実に三ドル未満でありました。あのとき、OPECによる戦略的操作により、それが一躍四倍以上に
引き上げられ、
石油消費国はひとしく仰天したことでありましたが、自来、
石油の
価格と
供給は、いやおうなく産油国の恣意にゆだねられ、いまや
価格は実質一バレル三十ドル台にはね上がり、それでも消費国はなりふり構わず分量
確保にきゅうきゅうとしているありさまであります。
顧みれば、
わが国経済は、あの
石油ショックまで、安価な
石油を基盤にして一路高
成長を遂げてきたものでありますが、この六年間にそれが十倍以上に値上げされて、これはあたかも二階に上げられてはしごを外されたみたいで、いまや全く途方に暮れた
状態にあります。
かくて、長年輸出ドライブでかせぎために保有外貨は、ほかに一、二の理由ありとはいえ、昨一年間に百二十七億ドルと一挙に三分の一近くも激減し、今後の貿易の成り行きが危ぶまれております。加えて、中近東の雲行きはますます不安であります。何はともあれ、
石油から脱却する
政策が強力に
推進されなければなりません。そのためには、DD取引、GG取引の増大を図るとともに、省
エネルギー政策を推し進め、まずは
安全性を
確保して
原子力発電を
推進することであります。(
拍手)
あわせて、石炭液化技術の開発、
石油からLNGへの転換、それに核融合や太陽熱、風力、地熱などによる新エネルギーの開発など、国はエネルギー投資を
計画的に
推進せなければならないが、これらのプロジェクトに対する
政府の施策はどのように進行しておりますか。
なかんずく、この非常事態を前にして直ちに実効を期待できるものは、当面
原子力発電にしぼらざるを得ないと思うが、現状はなお遅々としてはかどらず、これでは
政府目標たる
昭和六十年度三千万キロワットの発電
計画はほとんど達成不可能であります。この際、
政府は、従来の成り行き任せの
姿勢をかなぐり捨て、
安全性確保に国の科学技術を結集して万全の手だてを尽くし、もって唐子力発電の画期的
推進を図るべきであります。
なお、
原子力発電機器の定期検査は年に百二十日を要し、ためにその
稼働率は五五%にとどまっておりますが、西独ではこの検査を六十日間で作業していることに注目し、
政府はその検査能力の
改善充実を急速に達成すべきであると思うが、その可能性はどうか。
さらには、あの日韓大陸棚開発協定はさきに所要の法的
措置を完了しているにもかかわらず、いまなおその工事に着手していないのはどうしたことか。
以上の
質問諸点に対し、
総理と
通産大臣より
政府施策の現状をそれぞれ具体的に御説明願いたい。
次は、行
財政改革について
質問いたします。
ここに五十四年度末の国債
発行残高は約五十九兆円、これに地方債の
発行残高約四十兆円を加えれば、公的債務はここに百兆円に達しました。かくて国債費は
歳出予算の主座を占め、国の
財政はすでに破綻直前の
状態にあります。したがって、
財政の
再建はいまや
わが国政に課せられた至上命令と言うべきであります。そこで、
財政再建の手段はたれが何と言おうとも、それは
行政改革と
不公平税制の
是正を断行し、
歳出の縮減と歳入の増加を図ること以外にはあり得ません。(
拍手)
政府の五十五年度以降の
行政改革計画によると、五十五年度に実施するのは、中小
企業共済事業団と中小
企業振興事業団との統合、日本学校給食会と日本学校安全会の統合、オリンピック記念青少年総合センターを国への直轄化、こどもの国協会の民間移行など、それは見るからに当たりさわりのない枝葉末節にすぎません。(
拍手)
問題の地方出先機関の整理については、五十五年度の整理対象は、支所、出張所合わせて五、六カ所にすぎず、その他の
計画を加えても、こんな程度で
財政の立て直しなど望むべくもありません。前
国会において、わが党の佐々木
委員長も強調いたしましたが、まず隗より始めよとの教えのとおり、大蔵省、
行政管理庁はみずからその出先機関を
廃止して、各省庁にその範を示すべきであります。このような児戯にも似た機構いじりを、
行政改革などと口幅ったいことが言えましょうか。
わが党は、真に
財政支出
抑制の実効を上げるためには、地方出先機関にあっては、現業機関は別として、その他の
行政機関は
原則としてこれを全面的に
廃止し、
国家公務員、地方公務員は
定年制導入と配置転換により現在
定数を二割削減し、あわせて特殊法人を大幅整理し、
行政事務の地方移管と地方事務官
制度を
廃止するなど、それは
行政機構全般にわたって徹底的に斧鉞を加えるのでなければ、この
財政の危機を克服することはとうてい不可能であると
考えます。(
拍手)
なお、この際、特に強調しておかねばならぬことは、官公庁、公団、公社等の綱紀紊乱についてであります。
このほどの
会計検査院による五十三年度検査報告を見るに、その検査対象は全体の八%未満であるにもかかわらず、不正、不当の支出が二百七十億円も指摘されました。これを全体に類推すれば、官公庁における国費のむだ遣いは実に三千四百億円に達します。まことに国、地方を通ずるやみ給与、空出張、それに鉄建公団、KDD等で暴露された乱脈経理に見るとおり、
国民の血税は、現在親方日の丸とばかりに、権力の座にあぐらをかく冗長な役人組織によってこのように大きくむしばまれているのであります。(
拍手)
不況とインフレ、重税と金詰まりの中で、労使ともども苦労に苦労を重ねている
国民に対し、まことその良心のありどころを疑わざるを得ません。
総理は、
行政の
最高責任者として、ここに
国民に対し深く陳謝するとともに、この際、綱紀粛正のために、それらの行為者には厳然たる処分を行うべきであります。(
拍手)
なお、
不公平税制の
是正についてでありますが、
政府は来年度において若干の
改正を行おうとしておりますが、これまた
行政機構の
改革におけると同様に、ほとんど問題の核心に触れたものではありません。わが党は、給与所得控除の青天井の撤廃、
租税特別措置の根本的な
見直し、
法人税制の基本的仕組みの再
検討、その他税制全般にメスを加えて、税の公平化を断行すべきであると
考えます。
特に、この際、念のため明確にしておきたいことは、あの一般消費税の問題であります。
政府は、
財政再建に名をかりて、なおもこの消費税
導入を他日にもくろんでおられる様子に見受けますが、これは本末転倒、緩急前後を誤るもはなはだしきものであり、断じて許容されるものではありません。
政府はこのことを確と銘記しておいていただきたい。(
拍手)
続いて、
財政再建と
福祉予算との関連についてであります。
端的に申しまするならば、
福祉の充実は、景気維持の観点から見てもきわめて重要であります。なぜなら、設備投資を原動力とした
経済成長は、今後はとうてい期待できません。また、輸出の増大もすでにピークに達しておりますし、わけても公債の増発による景気刺激
政策はもはや許されるところではありません。この上は、
歳出の重点を、
生活関連社会資本の
拡充と
社会保障の充実に置いて、すなわち、
福祉向上によって景気の維持を図ることこそが残された唯一の道であります。したがって、今後の
予算は、景気維持、
福祉向上
予算として編成すべきであると
考えます。
しかるに、五十五年度
予算案はこの方向に逆行し、さらには、
公共料金の軒並み値上げを行うなど、それは現状に対する機能を欠いた場違い
予算と断ぜざるを得ません。特に
厚生年金の
支給開始年齢を、ただ単に
年金財政だけに拘泥して六十五歳に
引き上げようとしていることは、老後の
生活設計を破壊するものであり、わが党は断じて容認できません。
なお、この際付言しておきたいことは、
生活関連社会資本の
拡充に当たって、地価
対策なしに
政府投資を進めれば、投資額の多くの部分が地代に吸収されて、一般需要の創出効果がそこで減少してしまうことについてであります。かたがた、ここ数年来地価の騰貴は著しく、それはインフレドライブの凶悪なアクセルであります。
政府は、速やかに根本的な地価
抑制対策を断行すべきであると
考えるが、以上の諸点に対して
総理の御決意を、あわせて、
行政管理庁長官、
大蔵大臣より、それぞれその所管について態度、
方針をお述べ願いたい。(
拍手)
以上、私は、
わが国政の前面にそびえ立つ三つの難問題、すなわち、安全保障の危機、エネルギーの危機、
財政の危機について、いささかわが党の
所見を添えて
政府の
対策、
方針を
お尋ねいたしました。事の緊急性、重大性、そしてその困難性に思いをいたしますとき、この大平内閣で、そしてこの
自民党政権で、果たしてこの歴史的難関を乗り越えることができるかどうか、まこと不安にたえません。
すなわち、あなたは総
選挙で敗北し、続いて、一カ月にわたる党内奪権闘争をそのまま衆議院本
会議に持ち込んで、辛うじて第二次大平内閣首班の地位につかれましたが、それは何と、衆議院五百十一票のうち、わずか百三十八票の信任しか固めておりません。まさに孤影憤然として見るからに弱体であります。しかも、
自民党に対する
国民の支持は、衆議院選の段階では四〇%、参議院選の段階では三〇%、大
都市にあってはおおむね二〇%にすぎません。このことは、もはや
国民の心が
自民党を離れつつある証拠であります。しかるに、
自民党にはいまだ何らの反省なく、現に今年末の
総裁選挙に向かって、各派閥の
党員獲得競争が激烈に展開されております。このことは、
選挙粛正こそ
政治倫理の根源と指摘されている現状にかんがみ、この種の奪権闘争は金権腐敗の病巣をいよいよ深めるものであり、すなわち、
自民党は
政治モラルに照らしても、もはや政権党たるの資格を失ったものと断ぜざるを得ません。
あなたはこの先幾多の難問題を抱え、このような体制で困難きわまる政局にどのように対処していかれる御所存か。この上は第一党の総裁として大局的見地に立たれて、議会制民主
政治確立のためにもはや腹を固められるべき、ここがあなたの正念場ではないでしょうか。すなわちそれは、連合政権時代に向かって
自民党も大悟一番、そこへ道をあけていただくことであります。(
拍手)
かつて英国の保守党は、一九二四年、当時院内第一党でありながら進んで野に下り、時の
労働党党首マクドナルドを首班に指名して第一次
労働党内閣を成立せしめ、かくて議会制民主
政治の基盤を確立いたしました。およそ民主
政治とは、主権平等の本義に即し、与党と野党とがほどよく交代し合う
政治体制であります。しかるに、
わが国においては、
自民党一党支配の
政治がすでに三十年を超えました。権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する、この戒めのとおり、
自民党政治の腐臭はいまや全日本を覆い、かくて
政治の刷新、
改革を求める
国民の声はほうはいとして日々に高まっております。このような
国民世論を体し、私ども野党の側においても、
国民が安心して運命を託し得る政権の樹立を目指し、そのために、まず自由と民主主義に立つ健全なる革新
政治勢力の結集に向かって現に誠実な
努力を傾注しております。言うならば、これは
自民党政治にかわる革新連合
国民政権へのたくましき胎動であり、これはとうとうたる歴史の流れと見るべきでありましょう。
自民党もこの歴史の流れに逆らわずして、すなわち、この夏の参議院
選挙を天の時と見定め、そのあたりで政党間に政権の授受が行われるようにいさぎよくそこへ道を開かれるべきであると
考えるが、
総理の御
所見はいかがでありますか。御心境を伺って私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣大平正芳君
登壇〕