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1980-04-01 第91回国会 衆議院 法務委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十五年四月一日(火曜日)     午前十時三十六分開議  出席委員    委員長 木村武千代君    理事 中村  靖君 理事 山崎武三郎君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君    理事 沖本 泰幸君 理事 柴田 睦夫君       井出一太郎君    上村千一郎君       越智 伊平君    亀井 静香君       熊川 次男君    白川 勝彦君       二階堂 進君    水平 豊彦君       下平 正一君    楯 兼次郎君       飯田 忠雄君    長谷雄幸久君       木下 元二君    岡田 正勝君       河野 洋平君  出席国務大臣         法 務 大 臣 倉石 忠雄君  出席政府委員         法務政務次官  平井 卓志君         法務大臣官房長 筧  榮一君         法務省刑事局長 前田  宏君         外務大臣官房長 柳谷 謙介君  委員外出席者         最高裁判所事務         総局刑事局長  柳瀬 隆次君         法務委員会調査         室長      清水 達雄君     ————————————— 委員の異動 四月一日  辞任         補欠選任   稻葉  修君     水平 豊彦君   田中伊三次君     越智 伊平君 同日  辞任         補欠選任   越智 伊平君     田中伊三次君   水平 豊彦君     稲葉  修君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提出  第五三号)      ————◇—————
  2. 木村武千代

    木村委員長 これより会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  民法及び家事審判法の一部を改正する法律案審査のため、参考人出席を求め、意見を聴取することとし、その日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 木村武千代

    木村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 木村武千代

    木村委員長 お諮りいたします。  本日、最高裁判所柳瀬刑事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 木村武千代

    木村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  6. 木村武千代

    木村委員長 内閣提出刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横山利秋君。
  7. 横山利秋

    横山委員 外務省からおいでを願いましたので、まず外務省に少しお伺いをいたしたいと思います。  先般、西ドイツ大使館を訪問いたしました。また、アメリカ在外公館皆さんともお会いしたのでありますが、いま、在外公館ことに開発途上国等における在外公館諸君が一様に不安にたえないと感じておられるのが、緊急突発的な過激派諸君襲撃であります。西ドイツ大使館は一万坪ぐらいある広いところでございまして、警察庁から一人行っておるわけでありますが、とうてい警備責任が持てないと言っておるわけであります。  そこで、この間私は、犯罪被害者給付金法案につきまして地方行政委員会と本法務委員会との連合審査会におきまして外務省お尋ねをしたわけでありますが、一向に御答弁が十分でございませんでした。そんなことではいかぬのではないか。いま国内における刑事補償法改正をするときに、いま一番国際的にも問題になっておるように、在外公館職員家族従業員生命財産が非常に危機に陥っておる。ある日突如として攻撃せられるという場合に、警備はもちろんでございますけれども補償措置について何らの提案がないということはおかしいのではないかと言ったわけであります。  最近のコロンビアとか中東とかいろいろなところにおける在外公館職員の攻撃された状況、その結果について、まず御報告を承りたいのであります。
  8. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 お答えいたします。  近年多くの国におきまして、政情不安その他の社会混乱等によりましてかつてはなかったような誘拐事件監禁事件あるいはゲリラ襲撃という事件がふえたと申しますか非常に激増していることは御指摘のとおりでございます。いまお尋ねの近年どのような実例があるかということでございますが、大小いろいろあるかと思いますけれども、特に私どもがこれを重視し、また、それ以後これを教訓としていろいろ対策を講じてきた二、三の事件だけをちょっと簡単に御披露いたしたいと思います。  一つは、昭和四十五年の三月にサンパウロで起こりました大口サンパウロ総領事誘拐事件でございました。このときは総領事が事務所から公邸へ帰館する途次にブラジルの反政府分子五名が同総領事を拉致いたして幽閉したわけでございますが、その後三月十五日に至って解放されて事件解決いたしたわけでございます。この際犯人たちは、この人質たる大口総領事を解放する条件として、彼らの同志の政治犯の釈放、亡命を要求していたわけでございますが、日本政府といたしましては、ブラジル政府に対して、この事件に対してブラジル政府が積極的な措置を講ずるよう種々要請を行いましたところ、ブラジル政府も事情を理解いたしましてこの犯人側要求を受け入れたために、受け入れとともに同総領事の身柄は釈放され、事件解決したという経緯でございました。  同じころ、昭和四十五年の二月にはクウェートにおきまして大使館占拠事件というのが起こりました。これはいわゆるパレスチナ武装ゲリラ五名が当時の在クウェート日本大使館に侵入し、大使以下十六名を人質として大使館に立てこもった事件でございました。この事件は、実はその前にシンガポールにおきまして人質事件が起きまして船の中に立てこもっていたわけでございます。ここにアラブと日本人ゲリラ四名がいたわけでございますが、このクウェートに侵入したパレスチナ武装ゲリラは、シンガポールにいる仲間と申しますかこれの引き渡しを要求したわけでございますが、日本政府は当時慎重な検討の結果この要望を入れまして、シンガポールゲリラ四名をクウェートに移送いたしまして、ここで大使館を占拠しておりましたゲリラと合流せしめてアデンに至り、ここで彼らは砂漠の中に消え云ったという結果でございましたが、その措置によりまして大使館内の人質は救出されたという事件でございました。  もう一つ、これは少し趣を異にいたしますけれどもラオスにおける杉江臨時代理大使夫妻殺害事件がございました。これは昭和五十二年の十二月二十五日でございますけれども、当時臨時代理大使をしておりました杉江君が夫人とともに殺害された事件でございました。事件当時いろいろ真相が不明な点がございましたが、わが国はラオス政府に対して事件の究明を強く申し入れて種々の折衝が行われ、また犯人厳重処罰をも申し入れていたわけでございますけれどもラオス政府事件解決にその後努力裁判等を行ったわけでございまして、昭和五十三年の八月に至りまして犯人二名に対して無期懲役国外に逃亡中の犯人二名に対して死刑の判決が言い渡されたわけでございます。  この事件は現実に杉江夫妻が殺害されたという明らかな犠牲がありましたので、遺族に対する補償問題が起きました。初めとりあえずの措置といたしまして、通常公務災害補償という措置を講じたわけでございますけれども、その後ラオス政府からの説明とかあるいは裁判の結果等を種々検討いたしまして、国内人事院当局等とも慎重協議いたしました結果、一般公務災害の認定の上にさらに特別公務災害ということで五〇%増の加算を行って、そういう補償をいたしたわけでございます。他方ラオス政府に対しましても、ラオス側による補償を申し入れたわけでございますけれども、その後ラオス政府からは遺族に対して若干の見舞い金の提供があったということでございます。  ちなみに、さきに申しましたサンパウロとそれからクウェート事件につきましては、これは身体あるいは財産に対する直接の被害はなかったということで補償の問題には至らずに終了しております。
  9. 横山利秋

    横山委員 コロンビアでございましたか、都合で日本公館皆さん出席だけなかったために免れておる、それはそのままになっておるわけでございますか。
  10. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 コロンビアにおきましての外交行事は、ちょうど日本大使は他の地域に出張でコロンビアの首府におりませんでしたので、そういう意味において人質になりませんでした。事件そのものはなお解決を見ておらないと承知しております。
  11. 横山利秋

    横山委員 衆議院を通過いたしました犯罪被害者等給付金法律につきまして、私は連合審査会で言ったわけでありますが、たとえば警視庁の前で赤軍派が爆弾を投げた、そのために日本人被害を受けた、これは給付金支給ができる。韓国籍日本に住所を持っておる人、これも被害を受けたら給付ができる。たまたまアメリカ人がそばを通りかかって重傷を負った、旅行に来ておった人である、それは給付ができない、こういう法案の内容であります。  私は、警察庁並び外務省の人にも言ったわけでありますが、たまたま旅行に来ておった外国人被害を受けて、あなたは国籍が違うし、また日本にたまたまおっただけだから支給はできません、こういうことになりますが、それでは逆ではないか。日本へいらっしゃって宮城の付近を見物していたときに大変な御迷惑をかけた。だからむしろ外国人に対する給付をして当然ではないか、こう言ったわけであります。恐らく、そういうことが起こったその日の夕刊か明くる日の朝刊には「日本政府冷たい仕打ち」という記事が載るのではないか、こういう感想を漏らして法案改正を望んだわけでありますが、警察庁外務省も、お気持ちはよくわかりますが、今回はということでがえんじなかったわけであります。  大変残念なことだと思うのでありますが、外務省はこの法案についての御相談を受けられたかどうか、また、御相談を受けられて私のような気持ちを述べられなかったのかどうか、その点について伺います。
  12. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 外務省も、この法案の起草の段階警察当局から御相談と申しますか御連絡を受けたわけでございます。  当時外務省におきましてもこの法律案について目を通したわけでございますけれども、当時私どもは、この法律犯罪によって侵害された法秩序の回復という面から日本国内における犯罪行為対象とする、あわせて航空機内、船舶内も加えておりますけれども、そういうことで、そういうものに対象を限定した法律であると理解いたしましたので、いま御指摘のありました在外における特に在外公館等における職員日本国外被害があった場合について、この法律がその救済を想定していないものであると実は理解したわけでございます。  他方先ほどから御指摘がありましたように、公務によりまして在外に勤務する人間あるいは公務によって在外に出張する人間あるいはその家族等外国において公務の遂行に当たって受けた被害損害というものをどのように救済するか。これは近年になってにわかにそういう事例が起こりつつあることでございますので、こういう在外公館職員の、まずはそういう事件が起こらないような警備対策と、それから万が一不幸にも起こった場合にこれをどのように補償するかという問題これは私どもしばらく前から非常に重要な検討課題でございます。  一つは、先ほどちょっと杉江事件について申し上げましたような公務による死亡事故等における補償に当たっては五〇%増しの特別補償という制度がいまから三、四年ほど前に導入されたのもその努力一つでございます。  なお外務省におきましては、警察官等について行われております賞じゅつ金制度というものにつきましても、これは特に公務によって障害を受けた者について、特に功績が顕著であり、その功労をたたえ、また省員のモラルを維持するという趣旨から、賞じゅつ金制度というものも昨年から発足するということで、そういう面からの種々努力は近年つとに払ってきておる次第でございます。
  13. 横山利秋

    横山委員 ラオス臨時代理大使夫人が殺されてしまったわけでありますが、そのときにたとえば在外公館員奥さん重傷を負った、そういう重傷を負ったときあるいは死んでもいいのですけれども、その両方の場面には公務員災害補償は適用されないでしょう。  それから、そこにおる大使館が雇用しておる現地従業員、それについては法律的な保護、補償が現在ございますか。
  14. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 職員夫人犠牲になった場合という前段のお尋ねでございますけれども、これは申すまでもない当然のことでございますけれども公務員でないということでございます。したがって、公務員災害補償という現行制度のもとにおいては、この夫人についてはこの適用の対象にならないというのが現状でございます。  ただ、私どもが近年特に検討しております中には、夫人もまた在外に夫とともに赴任する場合、特に幹部館員夫人の場合はかなり公務に近い、公務そのものあるいは公務に非常に近い種類の活動を、現地において治安の悪いところにおいても夫とともにあるいは夫人の間の行事としてこれに携わることが多いものでございますから、いわゆる在外公館における夫人貢献度というものが非常に大きいということから、その特殊性を考慮して、こういう方が不幸にして事故に遭った場合に、いまのような法制度のもとで、すなわちいかなる救済手段もないという現状のままでいいのかどうか、これは私ども非常に深刻な問題として考えて、どういう救済方法があるか実は検討段階でございます。  なお、後段でお尋ね現地職員のことでございますけれども、これも現地人あるいは日本人あるいは第三国人、いろいろございますけれども、現在の制度、これも実はまだいろいろ改善を要するとは思っておるわけでございますけれども、これは契約によって働いていただくということでございますので、現在の現地補助員給与制度の中では、公務上の障害もしくは死亡等によって退職のやむなきに至った者については通常退職手当の二倍を支給できるという規定を置いております。ただ、繰り返しでございますけれども、これだけで十分かどうかということについては、なお実は検討を続けているのが実情でございます。
  15. 横山利秋

    横山委員 ちょっと気になるのは、在外公館幹部奥さん公務に従事しておるという言い方がちょっと気になるのですがね。  それは大使の御夫人のみならず——私ども一席招かれてある人の私宅で懇談をしたこともございます。これはアメリカでも西ドイツでもそうでございますけれども大使奥さんのみならず参事官書記官奥さんだって、いざとなれば大使館へ駆けつけるし、お客様の接待もなさるし、いろいろなことであろうことは当然でございますから、ちょっといま速記録に載りましたから訂正をなさった方がいいのじゃないかと思います。  それで、結局いま御検討なさっていらっしゃるということでありますけれども、これは少し緊急を要するのではないかと思います。少なくともこれから何が起こるかわからない。西ドイツ大使館で一晩ゆっくり話をしまして、私なりに、この在外公館職員家族従業員生命財産に関する国際条約が、現行法でも国際的な信義においてやってやれないことはないけれども、何かこの一般的な国際条約が締結をされる必要性はないかとか、あるいは日本国会で特に在外公館における公務員家族従業員補償に関する法律とかいうものが必要ではないかとか、こういうやさきに、衆議院を通過いたしました犯罪被害者給付金という法律がいま日の目を浴びるわけであります。  もちろん両方とも甲乙はつけがたいにいたしましても、より国際的な緊急性のある問題であるから、外務省としては、海外百数十カ国に勤務しておる諸君に対して激励の意味でも、警備といっても実際問題としては私はそんなに警備はうまくできないと思うのでありますが、せめてこの補償に関する特別な法律、特別な条約の提起ということが必要ではないか。そういう点では、アメリカはむしろ被害国でございますから、まあ言い方によっては加害国だという言い方開発途上国にはあるのですけれども、むしろ被害国であるから、日本がこういう条約の問題については言い出すのが適当な国ではなかろうか、こういうことを考えるわけでありますが、外務省としてもう少し積極的に時間を惜しんでなさる必要があるのではないかと思いますが、いかがですか。
  16. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 横山委員の、在外公館職員家族従業員に対する、その安全についての非常に御懇切なお言葉を非常に感謝いたしておりますが、私がさっき幹部と申しましたのは、別に大使夫人とか公使夫人という意味で申したのではなくて、御指摘のように参事官書記官官補の若い夫人も含めて館務において公務に近いことをやる者という意味で、まあ人によってはそういう機会が非常に乏しい人もいるという意味で若干の区別をしただけでございまして、幹部だけを特に優遇とかいう意味ではございませんし、さらにその議論を発展いたしますと、実は在外公館にいること、外地に在勤すること自身がある種の公務だというような考え方、夜中に寝ていても賊に襲われて殺された場合にはどうかということになりますものですから、その辺の定義の仕方は実は今後の一つの大きな課題だと心得ておる意味で申しましたので、他意はない点は御理解いただきたいと思います。  それから、ちょっと先ほども御指摘があって、またいま御指摘のありました警備がなかなか万全ではないということは確かでございまして、最近、防衛庁や警察関係の方から適任者を選んで在外警備員ということで危険の多そうなところに大分派遣してお願いしているわけでございますが、これはみずからが警備に当たるというよりも、やはり在外でございますから公館警備は基本的には、一義的にはその国の治安当局警察当局にゆだねるというたてまえでございます。したがって、警備員という形で派遣された者も、原則としてはこれら相手の治安当局との連絡に当たるあるいはそれといろいろ意見を交換して、館のいろいろな警備体制についての点検を行ったり予行演習を行うというために行っていて、その一人の人間事件が起きたときにみずから難に当たるという面は、状況においてはあり得ますけれども、そのために行っているのではないということで、どうしてもやはり基本的には任国の治安当局に任さざるを得ないということでございます。したがって、それがわれわれから見て必ずしも十分でないという場合が実は一番問題であるということで、起こらないことを望みつつも、真に起こったときの対策はあわせて講じておかなければならないというのが私どもの姿勢でございます。  ただいまお尋ね国際条約の点でございますけれども、これは現在におきましては外交関係の例のウィーン条約というものがございます。すなわち、接受国は「外交官身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすべての適当な措置を執らなければならない。」こういう規定があるわけでございます。したがいまして、接受国がこのような被害を防止することについて必要な措置を怠って何か不祥事件が起きたという場合には、接受国はこのウィーン条約規定に従って補償責任を負います。ただ、接受国にとって無過失のいわば不可抗力的な損害に対してまで補償責任をとっていないということ、そのようなものまでも補償責任を問うような国際条約等は現在は存在していないというのが実情でございます。  御指摘のように、国際情勢がますます非常に厳しくなってきたという中で、これを何か国際条約のようなものあるいはある種の二国間の合意というものもあるかもしれませんけれども、そういうものによりまして何か救うかどうか、これは非常に重要な問題、貴重な御意見だと思います。実は私どももいま直ちにこの具体案は持ち合わせているわけではございませんけれども、今後の研究課題にさせていただきたいと思います。
  17. 横山利秋

    横山委員 私ども同僚諸君とともに弾劾裁判法研究調査のために西ドイツを訪れたわけであります。  談たまたま、西ドイツ国内情勢並びに西ドイツ政府がハイジャックに対しましてとった強硬な態度日本政府が当時とりました人命尊重基本的態度、この二つの対照的な問題が一晩討議にございまして、かたがた、在外公館職員のいまの心情その他について機微に触れる会談をいたしました。与野党の国会議員感を同じゅういたしまして、日本へ帰りましたならば、皆さんのお気持ち十分国会においてお伝えをし、適切なる手段が一刻も早くとられるように尽力する約束をいたしたところでございますから、外務省におきましても、あなたの方が責任省でございますから、できるだけ早急にこれらの在外公館公務員家族従業員の期待に沿うように希望いたしたいと思います。
  18. 柳谷謙介

    柳谷政府委員 御指摘のとおり、外務省がその責任立場にあることは自覚しておるつもりでございます。具体的に公務員のそういう補償という問題になりますと、人事院当局とか警察当局とか関係方面と十分御協議もする必要があると思っておりますけれども、鋭意これを進めて何とか改善を図っていきたいと思っております。
  19. 横山利秋

    横山委員 どうぞ外務省お帰りください。  では次に、刑事補償法の一部を改正する法律案そのものについて質問をいたしたいと思います。  私は、この法案が出るたびに自説を固持して毎回毎回申し上げておるわけであります。五十年の三月二十八日の当委員会におきまして、私は安原刑事局長とかなり綿密な一問一答をいたしたことを記憶いたしております。私の主張をかなり入れていただきまして、被疑者補償規程改善その他についての改善がなされたわけではありますが、しかし、やはり私の立論趣旨というものはどうしてもまだ全うされていないわけであります。改めて私の考え方をもう少し羅列をして御検討をお願いいたしたいと思います。  一つは、国家賠償法刑事補償法被疑者補償規程、それから警察間違い逮捕、この四つになぜ一貫性を持たせられないかという論理であります。  国家賠償法は、公務員の重大なる過失故意、そういうものによって裁判所請求を進める。判決で無罪になったのは刑事補償法による。検察が間違って逮捕して嫌疑なしとなったならば被疑者補償規程が適用される。それから警察が間違ってつかまえてきて、それが社会面にばっと載って、そして警察がえらい済まなんだ、あなたは犯人じゃないという場合においては何らの法的な根拠法がない。こういう状況になっておるわけであります。いずれにいたしましても、間違えられてつかまり、検事局へ行き、裁判に付される、そういうような状況については、庶民の立場で言えば、一貫してこれは補償を求める権利があり、国はそれに対する補償責任がある、私はそう思っておるわけであります。これが私の立論の第一の趣旨であります。  それから第二番目は、被疑者補償規程というものは一体何の法律的根拠があってこれをやっておるのかという点であります。先年の法務省の物の考え方によりますれば、たしか行政組織法大臣訓令等根拠を持つというのであります。また予算国会議決をもらっておるというのであります。しかしながら、予算議決があってもこれを執行するには予算を支出する根拠法というものがなければならないではないかという点について、私と安原政府委員との間の論議はすれ違いに終わっておるわけであります。  それから、被疑者補償規程は結局は恩恵的に出す。被疑者嫌疑なしということになった。だから検事が、あなたは補償請求をいたしますかと聞く。そういう人たちはそういう規程があるということを知らない、知らないから、さあどうしましょうかと考える。それは権利はないのであるから、あなたが申し出ても私の方で判断をして出すか出さぬかは決めますよ、こういうことなんであり、それから、引っ張った検事が直接その補償の事務をやるわけではないけれども、結局同じ検察庁であるから、私は、同じ穴のムジナが自分のやったことが悪かったから補償をするというのはなかなか積極性がないシステムではないかという点が次に指摘をいたした点であります。  それから、きょうは警察の方をお呼びすることができなかったわけでありますが、その当時愛知県で間違った逮捕をした。それで訴えられて大変なことになって、愛知県では、議会の議決を経なければ支出ができないので、議会でわざわざその補償金について議決をして支出をしたというケースを題材にいたしました。そんなことを一々議会の議決を経なければ警察補償ができないようでは、よほどでない限り警察補償しないであろう。したがって、被疑者補償規程ないしは刑事補償法の中にそれも取り込むべき筋合いのものではないかと指摘したわけであります。こう質問をするつい一週間ばかり前に愛知県の警察官が窃盗したことがわかりました。そこで余罪を追及いたしましたら、何のことはない、三年間連続して現職の警察官が窃盗を働いた、万引きをしたことがわかりました。そこで警察本部長以下十数名の人々が減俸、訓戒、戒告等を受けた一大事件が出たわけであります。  そうすると、私の承知しておる限りでは、当時警察庁からおいでになった方は「現在いろいろの方法を検討中でございますけれどもまだ成案を得ておりませんので、公式の場で御答弁できる段階でございませんので御了承いただきたいと思います。」と言っておったけれども、まだそれは何らの方法がついていないような気がするわけであります。警察官が三年間現職で万引き、窃盗をしておったということになりますと、その事案に対しまして警察はどんな補償をなさるのか。法的な根拠法もなく、やはりまた議会の議決を得られるのであるかどうかわかりませんけれども、あの当時私がずいぶん警察官の非違行為につきまして事例を列挙いたしました。いま山梨県警が非常に成績を上げて、由美子さんですか、あの問題で大変喝采を浴びているときにこういうことを言うのは適当ではないかもしれませんけれども、そういうような間違って逮捕するという事例、警察官の非違行為というものが潜在的にも顕在的にもかなりあるということを痛感せざるを得ないのであります。  ですから、改めて私は申し上げたいのでありますが、国家賠償法についても挙証責任の問題で検討を要する。それから刑事補償法についても私ども社会党が提案しておりますのは、被拘禁の日数はこの法律による半額を支給せよという問題がいまなお法務省のコンセンサスが得られない。それから被疑者補償規程についても改善はしていただいたものの、五十五年度の一般会計予算で拝見をいたしますと、五十五年度の要求額は八十七万三千円、前年度予算額は七十四万六千円、比較増減十二万七千円の増加にとどまっておるということは、予算上の刑事補償金というものは、被疑者補償規程というものは実際問題としては働いていないのではないか。もう少し顕在的にこの刑事補償法の中に取り込み、警察間違い逮捕も取り込んで、間違ったやり方についての国家補償というものをもっと顕在化することによって人権が守られるのではないかという私の信念というものはどうしても変わらないのであります。  長々いろいろと時間の関係上申し上げましたが、総括して一遍法務省の前向きの見解を承りたいと思います。
  20. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 ただいま横山委員が仰せになりましたような諸点につきまして、これまでもお尋ねがあり、当時の刑事局長が不十分ながら御説明をし、必ずしも御納得を得られなかったということは私もよく承知しておるところでございます。いろいろと論点が分かれておりますので、お答えがうまくできるかどうかと思いますが、被疑者補償規程についてはすでに申し上げるまでもなく大臣訓令という形で実施をしておるわけでございまして、順序が逆になるかもしれませんが、それが十分機能していないではないかという最後のお尋ねの方から申し上げたいと思います。  先ほども御指摘のございましたように、いろいろと御議論のありましたこともございまして、昭和五十年の訓令の改正によりまして、被疑者補償規程の内容の改善と申しますかそれがなされておるわけでございます。中身のことはまた改めて申し上げるまでもないかと思いますが、この改正によりまして、補償すべき事案が発生しました場合には検察官の方で手落ちのないようにみずから立件の手続を行うということから始めるようにしておるわけでございまして、御本人の方が言ってこなかったからほうっておくというようなことではなくて、検察官が事件を処理しました場合に、みずからその要否を検討するというところが大きな改善ではなかろうかというふうに考えておるわけでございます。そういうことも影響いたしまして、最近、たとえば五十一年では立件しましたものが四十八人でございましたものが、五十二年では大体同じような四十五人でございますけれども、五十三年になりますと百六十七人、五十四年では二百七人、こういう数になっておりますし、本年はいまのところ三十一人が立件されているというふうに報告を聞いておるわけでございます。  これでも数が少ないではないか、また予算の面でも金額が少ないのではないかという御指摘でございますが、いま申しましたように、規程改正いたしまして補償すべきものについては漏れなくやるようにという改正をし、その趣旨の徹底を図り、今後もその趣旨を徹底していきたい、かように考えているわけでございます。その内容についての当否はさけておきますと、この被疑者補償規程自体としては、少なくともできるだけ拾うものは拾うというふうになっているのではないかと私どもとしては考えておるわけでございます。  そこで、もとにさかのぼりまして、これを法律化すべきではないか、大臣訓令では適当でないという御議論があるわけでございます。それに関連いたしまして予算支出の根拠、これがはっきりしないではないかという御議論も先ほどお述べになったところでございます。  そこで、基本的な物の考え方でございますが、先ほども冒頭に仰せになりましたように国家賠償法が基本でございまして、国の手落ちといえば手落ちでございますけれども、逆に国の立場で金を出すということでございますので、それなりの要件というものが定められておる。基本的には公務員の故意過失というものを要件としておるわけでございますけれども、身柄を拘束されて裁判で無罪になった場合には、憲法の規定もございまして、そういう国家賠償の基本的な考え方の例外といたしまして、公務員の故意過失を要件としないでいわば定型的な補償を行うというのが刑事補償法であろうと思うわけでございます。  その刑事補償法考え方をさらに捜査段階に推し広めて、検察官の手元で不起訴になった場合に及ぼすべきではないか、それも法律の形で及ぼすべきではないかというのがまず御議論であろうと思うのでございます。確かに、裁判で無罪になりました場合と捜査の最終段階で不起訴になりました場合とでは、実質的に似ていると申しますか同じといいますか、そういう結果が生じておるわけでございます。したがいまして、何らか国の方でそれなりの手当てをすることが必要であることにおいては共通であるわけでございます。  しかしながら、基本的に現在の刑事訴訟制度あるいは裁判制度あるいは検察制度というものがあるわけでございます。その基本的なものについてまた御批判もあるわけかと思いますけれども、非常に粗っぽい言い方をいたしますと、裁判で無罪になりました場合には、申し上げるまでもなく裁判で有罪になった者以外すべて無罪でございます。したがいまして、その無罪になった場合ということは非常に明確であるわけでございますけれども、検察官の不起訴というものはいわばシロからクロまで、もちろん間の灰色、その濃さ薄さも含めまして両極端から真ん中のものを含めて全部が不起訴になり得るわけでございます。クロが不起訴になるのはおかしいではないかということでございますけれども、御案内のとおり起訴猶予という制度があるわけでございまして、検察官の目から見れば罪を犯したことが明らかであるけれども、諸般の事情によって起訴しないという場合も不起訴になるわけでございます。恐らく横山委員におかれましても、そういう起訴猶予になる場合まで補償しろとはおっしゃらないであろうと考えるわけでございます。  私なりの考え、従来から御議論がありましていろいろと局内でも議論しておるわけでございますが、そういう前提を考えますと、これを法律にして補償するということになりますと、およそ不起訴の場合全部にするということならそれなりの一つ考え方であろうかと思います。しかしいま申しましたように、不起訴にはピンからキリというと言葉は適当ではございませんがいろいろとございまして、まず客観的に見てクロである場合も不起訴の一態様としてあるわけでございまして、それを含めて補償するということは逆に国民感情から見ても適当ではないんじゃないかということになりますと、それを除いたものを補償するということにあるいはなるかと思います。その中には、先ほど申しましたようにシロのものからクロに近いものまでがあるわけで、その中でどれだけを補償すべきかということに相なろうかと思います。その面からいきますと、シロのものだけでもいいとかあるいはクロでない以上はシロと見るべきであるから全部やるべきではないかというような御議論がまたそこにあろうかと思いますけれども、その場合でも、どこまでやったら国民感情に合うかという問題があろうかと思います。  そういうふうに客観的に一応区分はできるわけでございますけれども、逆に、たとえば検察官としてはこれはクロとしか見えないので補償をしないということにいたしますと、仮にその補償請求というものを権利に仕立てました場合には、検事はクロだというけれども自分はシロであるあるいは灰色である、したがって補償しない決定はけしからぬので補償せよということを裁判に持ち出さないと補償金がもらえない、こういうふうになるわけかと思います。そうしますと、被疑者の方が自分がシロであるかクロであるかということを検事の認定では納得できないので裁判所に持ち出してシロ・クロをつけてもらおうというふうにならないと、権利化した意味がないということであろうかと思います。そういうことになりますと、すべて捜査の段階でのシロ・クロというものは検事の手元ではとまらなくて全部裁判所に持ち出さないと、シロ・クロが決着がつかないということになりかねないかと思います。  そのことについて、従来検察官が被告的な立場に立つのはどうも感心しないということではなかろうかというような御批判もあったと思いますけれども、そういう意味ではなくて、ただいま私申し上げたような意味で、現在の刑事訴訟法のもとでは検察官が公訴権をいわば独占しており、その反面として起訴便宜主義というものが認められておって、そこで裁判所に持ち出すまでもなく一応のシロ・クロをつける。場合によっては、有罪と認められる者でも本人の改善更生のためには起訴しない方がよろしい、表に出さない方がよろしい、その効果というものは多年の伝統によりましてお認めいただいておるところであろうと思います。  そういう現在の検察官の権限、反面義務かもしれませんけれどもそういう権限と、それから出てまいります刑事訴訟法の起訴便宜主義という考え方、こういうものを全部いわば基本的に考え直さないと、この捜査段階における不起訴処分についての補償というものはなかなか法律にするのに困難があるのではないかということを従来から申し上げており、またその後も私ども考えましてもどうもそこへ行き着いてしまうのではないかというふうに考えるわけでございます。  したがいまして、刑事補償法ができまして裁判で無罪になった場合の措置がとられ、それとの見合いで、捜査段階で同じようなことが起こった場合にほうっておいていいのかということから現在の被疑者補償規程ができたと思いますけれども対象が違っておりまして、裁判所における無罪と同じ幅の不起訴の者がすべて補償対象になっていない。つまり、検察官の手元で不起訴になる場合に、いろいろと先ほど来申しておりますように種類がございますが、その中で明らかにいわばシロである場合に限ってやっておる。そこに本来理論的な無理というか困難があると言えばあるわけでございまして、結局、そういうものをほうっておけないということから、刑事補償法では賄えないけれども被疑者補償という形でやらないわけにもいかないので、こういう形でやるというような発想からこういうことになって現在に至っておるように思うわけでございます。そういうことから、これを立法化するということは、刑事訴訟法の制度また現在の検察制度、その根本とのかね合いにおきまして、率直に申し上げて大変むずかしい問題を含んでおるというふうに考えるわけでございます。したがいまして先ほどの御議論の中で、恩恵的であるということ、また同じ検察官がやるということは、言葉はともかくといたしまして、同じ穴のムジナ的な感じがするのでどうしても消極的になりやすいではないかという批判が出てくるかと思いますけれども、性質的には、権利か恩恵かというふうに極端に分けますと権利性はないと言わざるを得ない。しかしながら、先ほども冒頭に申しましたように、この被疑者補償規程改善し、また運用をできるだけ正確にといいますか間違いないように漏れないようにやっていくことにおいて実質的に補償の実が上がる。あとはいわば制度論といいますか技術的な問題と言ってしまっては失礼かもしれませんが、そういうことも考えられるわけでございます。要は、実質的に補償すべきものは補償すべきであるということがどれだけ担保されるかということに帰着するのではないかというふうに考えるわけでございます。  それから、警察官のいわゆる非違行為についてのお話もございましたが、その中で、誤認逮捕でございますと被疑者補償規程には乗り得るわけでございます。しかし先ほどの御指摘の例のように、窃盗を繰り返して一般国民に迷惑をかけたということになりますと、どうもこういう刑事補償の分野ではなくて別な分野のことではないかというような感じがするわけでございます。  結局、身柄の拘束とか相手を間違って逮捕したとか、刑事手続に乗せたことによる被害ではなくて、一般の不法行為と申しますかそういうことによる損害、役人が一般的にどろぼうしたということであろうと思いますので、相手方、被害者に当たる方を逮捕したとかあるいは任意にしても調べたということの被害ではどうもない。誤認逮捕の方は不十分かどうかは別として被疑者補償規程に乗りますけれども、どろぼうして御迷惑をかけたというのはちょっと性格が違うじゃないかという感じを持っております。  いろいろ申し上げましたけれども、基本問題につきましてはなかなか御納得をいただけないのではないかと思いますが、私どもとしては、別に気持ちの上で消極的であるという考えはございませんのですが、全体の刑事訴訟制度あるいは検察制度裁判制度、これとの基本的なものの中でなかなか困難ではないかというふうにいまでも考えておるというふうに申し上げるわけでございまして、反面、規程の運用につきましては十分努力してまいりたい、かように考えております。
  21. 横山利秋

    横山委員 時間がございませんので、これは長年私の主張でございまして、とうていきょう質疑の中で解決できるものではございませんが、ただ最終的に私の意見だけ申し上げておきたいと思うのであります。  五年前も、こういうことを言うたら大変検察陣の諸君に気の毒だとは思うけれども、しかし世の中には、間違って逮捕する、間違って裁判にかける、間違って死刑の判決をする、そういうことが通常あり得るということはたくさんの例から立証されることなんであります。そういう人権を国家権力が侵害をしたということについて補償するのに勇敢でなければならない。その勇敢なシステムというものが立法上確立されなければならない。それは間違って逮捕した検察官、間違って死刑判決をした裁判官、間違って逮捕した警察官、ともにそういう間違いを起こしたならば国民の権利は金銭面でもきちんと補償されるということがあってこそ、国民の受忍義務というものは説得力を持つものだと私は信じておるわけであります。  ところが、そういう人権を守るための補償制度をつくることは何か検察陣やあるいは裁判官や警察の士気を阻喪するのではないか、私はそういう隠然たる気持ちがあるような気がしてならないのであります。裁判なら権利として支給する、検察段階では恩恵として支給する、そういう理論の違いが私にはわかりません。なるほど、嫌疑なし、嫌疑不十分等々のいろいろな違いがあることは私も十分承知をいたしておりますが、全くの間違いの誤認逮捕やいろいろなそういう不都合なことが現にあるのでありますから、私は、国家賠償法やあるいは刑事補償法被疑者補償規程やあるいは警察官や、そういう一貫して国民の権利を保障することがあって、むしろ国民がそういうことで調べられる、裁判所に立つことについての受忍義務に対する説得力が生ずると思うのでありますから、今後永続的にこの種の法案を立案されますときに私の意見を十分念頭に置いてやっていただきたいし、私も、しかるべき機会にはこれらを一貫した理論体系あるいは法律案の提起等をいたしたいと思います。  以上申し上げまして、私の質問を終わることにいたします。
  22. 木村武千代

    木村委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午前十一時三十三分休憩      ————◇—————     午後一時二十四分開議
  23. 木村武千代

    木村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。長谷雄幸久君。
  24. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 刑事補償法の一部を改正する法律案についてお尋ねをいたします。  改正案の内容は、補償金の額の算定基準となる日額の上限と補償金の最高額及び加算額の引き上げでありますが、この改正案の提案理由としまして「最近における経済事情」を挙げております。確かに補償金のいかんは経済事情を無視できないところでありますが、さらに根本的には、補償金のあり方のいかんという問題は補償の本質とかかわる問題だと考えます。  そこで、若干補償の本質に触れながら補償金を含めた補償のあり方についてお尋ねをしてみたいと思います。日本国憲法四十条には「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる。」こう規定があります。この刑事補償は国民の基本的人権として保障されたものであり、刑事補償法は憲法のこの規定を受けたものであることは言うまでもないところであります。  そこで、補償金額の決め方について刑事補償法規定によりますと、抑留、拘禁による補償の場合は、同法四条一項により、拘束日数に対応しかつ高額と最低額を定めたいわば相対的定額補償になっている、こう思います。そしてそれが具体化する段階において、同条二項により、拘束の種類、期間の長短のほかに本人の受けた財産上の損失、得べかりし利益の喪失、精神上の苦痛、身体上の損傷、刑事手続における当該公務員の故意過失その他一切の事情が考慮されるというぐあいに規定がなっております。  ところで、刑事補償請求手続は無罪の裁判をした裁判所の決定手続によるものとされております。ここでお伺いしますが、この決定手続において、同法四条二項にいう事情のうち、いかなる事情が考慮され、いかなる事情が考慮されなかったか、つまり排除されたかということについては、これは決定手続の中で明確になるようになっているのかどうかお尋ねします。
  25. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。刑事補償の金額を算定するに当たりまして裁判所は、ただいま御質問の中にございましたように、補償法の四条二項所定のもろもろの事情を総合考慮した上で、結局当該請求者に対する補償金額としてどれほどが適当かということを判断するものでございまして、そのもろもろの事情のどれをとり、どれを捨てというところまでは一々個別的には特定するということなく総体的に考慮した上で判断をする。したがいまして、さらに言いますと、補償金額のうち財産上の損失額が幾らであるあるいは精神的な損害額が幾らであるかというところまで区別して具体的に決定の中で示すというふうなことはなかなか困難なことであると思いますし、そのようには実務もなされておらないというように思われます。
  26. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 いまの答弁を伺っておりますと、非常に困難である、また手続的にはそうなっていないということでございますが、いま私が読み上げたこの四条二項の条文にも、こういうことが考慮すべき事情として例示されているのですから、これを請求権者の方で明確にして請求する以上は、これに対応した判断をなさるべきではないか、こう思っておるのです。  それで、その点に関連しまして幾つか具体的にお尋ねをいたします。  まず、財産上の損失について伺います。たとえば死刑執行による補償の場合については、同法の四条三項の規定がありまして、これによると、証明された財産上の損失額は全額補償されることになっております。そうしますと、それとの均衡上、身体の拘束による補償の場合にも証明された財産上の損失はすべて補償されることとしなければならないと思いますが、この点はどうですか。
  27. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 御質問のように、死刑の執行による補償の場合と未決の抑留、拘禁による場合の補償と立て方が異なっておりまして、未決の抑留、拘禁による補償の場合には四条二項の諸事項を考慮して行う、こういうことになっておるわけであります。  その中で、財産上の損失が資料によって証明された場合にそれをすべて補償すべきではないか、こういうことでございますけれども、刑事補償の性質といいますか、これは先ほどお話がございましたように、下限と上限を定めたその定型化された金額の中で迅速にとりあえず一定の額を補償する、なお個々的な事情がある場合にはたとえば国家賠償というような方法でこれに対処するということでございますので、この死刑の執行の場合には第四条第三項によるわけでございますけれども、未決の抑留、拘禁による場合には四条二項の規定によって財産上の損失という点ももろもろの事情の一つの事情として考慮する、その全損失を直ちに刑事補償によって補償するという立て方にはなっておらないというふうに思います。
  28. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 そうしますと、死刑執行による場合はもとよりのこと、抑留、拘束による補償の場合においても、本人もしくは遺族等が財産上の損失による補償請求する限り、他の法律による請求との関係もあることでありますので、きちんとした判断をするのが妥当ではないかということですね。つまり、財産上の全損失額及びうち本法により認容された額等は明確に判断しなければいけないのではないか、これが請求者に対する親切ではないか、こう思うのですが、どうですか。
  29. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 御質問の前提というか直接入る前に、実務の実際において刑事補償請求を受けた裁判所でどのような審理の方法を行っておるかということを一応お話し申し上げたいと思います。  刑事補償請求を受けた裁判所におきましては、補償請求につきまして検察官及び請求人の意見を聞く、また決定については刑事訴訟法が準用されて口頭弁論を経ることは要しない、したがいまして原則的に書面審理となるわけでございますけれども、必要があれば事実の取り調べをすることができる、事実の取り調べをするについてなお必要があれば証人尋問をしあるいは鑑定を命ずることもできる、こういうふうな規定になっておるわけでございますけれども、実際の審理におきましては、申立書の記載、検察官及び請求者の意見を考慮し、また一件記録に基づいて本案についての公判審理の過程にあらわれました補償法四条二項所定の諸事情を考慮して、いわゆる書面審査のみで決定しておるというのがほとんどでございます。いわゆる事実調べとして証人尋問をしたというふうな例は聞いておりません。そういった補償決定審査実情でございます。  その実情というのは、先ほど申しましたが、要するに刑事補償というものが迅速にとりあえず一定の額を補償するという趣旨にあるためであると思います。先ほど御質問の中にございましたが、厳密に財産上の損失等を、ただいま申し上げました以外のたとえば民事裁判等で行われるような資料などを収集してさらに厳密に認定するというふうなことは実際問題として行われておりませんので、補償決定の審査の中で審査される諸資料にはおのずから限界があるということでありますので、先ほどのような実情になっておる、こういうことになるわけでございます。
  30. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 確かに迅速な決定手続は重要なことだと思うのですが、迅速だけではいかなる裁判でも余り意味がない。中身が当事者の意向に沿った判断がなされていないということはやはり問題ではないかと思うのです。  その点に関連してもう一つだけ伺いますが、慰謝料の件ですけれども、この場合もやはり財産的損失の場合と同じことが言えるのではないかと思うのです。同条三項の規定によりますと、死刑執行による補償金の額が先ほどの証明された財産上の損失額に加算して千五百万円、今回の改正案でこの加算額が二千万円に引き上げられることになっておりますが、この加算額は三項の文言全体から見て非財産的損失による補償額つまり慰謝料と考えられると思うのです。  そうしますと、請求権者において非財産的損失による補償、この慰謝料の額を明確にして請求する限りにおいては、財産上の損失による補償請求の場合と同じように、非財産上の全損失額、慰謝料の額、それから本法により認容される額、それからさらに財産上の損失の額との関係も明確になるように、この決定手続で判断をすべきだと思うのですが、どうですか。
  31. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 先ほど財産上の損失額についてお答えいたしましたことと同様のことが慰謝料の額についても申し上げることができるかと思います。
  32. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 私がこの問題を取り上げたのは、さっきもちょっと触れましたが、刑事補償法だけにかかわらない、他の法律にかかわる場合があり得るということを前提にしたから申し上げたわけですね。  つまり、刑事手続においてたとえば当該公務員の不法行為があった場合の補償につきましては、特別にこのことの議論は意味があるのではないかと思うのです。不法行為があった場合については憲法十七条の規定がございまして、この規定に基づいて国家賠償法が成立されておりますが、この刑事補償法の場合と国家賠償法の場合との差異は公務員の不法行為の有無にあると一般には言われております。そのことからそれぞれの本質について、国家賠償は賠償だ、そして刑事補償補償だ、こうも言われているのですね。  この本質論ともかかわるわけでありますけれども、刑事補償請求をなし得る場合において国家賠償請求請求できるような事態、つまり刑事手続において当該公務員に不法行為があった場合は請求権競合の場合である。そうしますと、請求権者はいずれの手続により請求することも可能だ、こう言えると思うのです。このことが本法の五条一項の規定だと思うのです。  そうしますと、当該公務員の不法行為があった場合の補償については、これを刑事補償手続により請求する場合において、請求権者がその公務員の不法行為による損害補償請求する限り、決定手続において当該裁判所は、不法行為の有無及びこれによって生じた全損害額さらに決定手続で認容される額を明確に判断しなければならないのではないか。この刑事補償法の五条二項、三項の規定がまさにこのことを明示した規定ではないか、前提にした規定ではないか、こう読めるのです。そういう意味でいま私が取り上げたわけですね。  ですから、いまの質疑で明らかになったように、現在の決定手続にはそういう意味で大変問題があると思うのです。ですから、この決定手続のあり方について今後検討を加える必要があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  33. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 先ほど来申し上げておりますが、また御質問の中にもございましたが、刑事補償と国家賠償との差が、刑事補償の場合は国家機関の故意過失を要件としない、また補償の額が定型化されているという点で国家賠償と差異がある。その刑事補償の本質を前提とし、先ほど申し上げました簡易な方法によって迅速に一応の補償をするという刑事補償のたてまえからいたしまして、ただいまのような実務の運用がなされているというふうに思いますので、私どもとしてはこの実務の運用をなお注目していきたい、このように考えます。
  34. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 重ねて伺いますが、この問題は、いまもちょっと申し上げたように請求権競合の場合において、たとえば刑事補償手続で請求をした。客観的にその認容額が三千万円であったとします。ところが刑事補償手続では一千万円しか認容されなかったとした場合に、客観的にはあと二千万円というものを国家賠償法に基づいて請求ができる。そうしますと、請求権者の方であと二千万円あるのだということで国家賠償法に基づいて請求した場合に、いや実はあなたの請求権はすでに刑事補償のときに終わっているのだということになっては大変気の毒ではないかということを申し上げているのですね。  ですから、そういう意味で決定手続の中においては、何に基づいて請求した、その請求内容に従って何について認容した、いや棄却をしたという内容が明確にされていないと、いわば民事訴訟理論でいうと新訴訟物理論みたいにこれもだめだと言われてしまったのでは大変気の毒ではないかということが言えると思うのです。  そういう意味で、実際の決定手続においてそれが明確になっていれば問題はないのですけれども、それがなっていないということでございますので、まさに運用に任されているようでございますので、そうであるならば、それが決定手続をする裁判官においてもわかりやすいように、また請求する側にとっても十分にできやすいような、そういう法改正も含めてもっと親切な形にできないものか、こういう提案なんです。いかがでしょうか。
  35. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 先ほど来、刑事補償手続における決定の手続きといいますか審査状況をお話し申し上げましたが、国家賠償の側におきましても通常は原告に生じた全損害額を認定するという厳密な手続きがとられ、その後損害額から刑事補償金を差し引くという方法がとられているようでございますので、御指摘のような方法を刑事補償の手続においてとったとしても、それが直ちに国家賠償の審理を円滑ならしめるものとは一概には言い切れないではないかと考えます。
  36. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 ちょっと御答弁がはっきりかみ合わないのですが、法務省に伺いますが、そういうことで要するに内容的にはっきりしなければ、請求者の側に立っても、それを決定する裁判所の側に立っても非常に困るのではないかということなんですね。そういう意味で、実務においてそういう取り扱いがなされているのならばどうも余り親切でない、であるならば法改正を含めて検討する余地があるかのではないかということでございますが、いかがでしょう。
  37. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 ただいま最高裁の方からお答えしたことの補足のようなことかと思いますけれども、長谷雄委員の仰せになりますのは、請求権のいわゆる競合の場合であるので、たとえば刑事補償法で一千万ということがあるかどうかわかりませんが仮に補償がなされた、あと残り二千万という、さっき設例であったわけでございますが、先ほどの最高裁のお答えでもそうだったと思いますし、私の理解でも、そういう残りを請求するということではなくて、国家賠償法では故意過失が要件でございますけれども、いわばさっきの例で申しますと三千万全部を請求して、それがどの程度認容されるかという全体の請求、全体の認定があって、それで仮に三千万が適当であるとなれば、それから一千万が引かれて残りが二千万になる。仮に三千万の請求をしてこれが二千五百万が総体として認定できるとなると、二千五百万円から一千万円を引いて一千五百万円が新たに国賠で補償がされるということで、いわば全体、全体といいますか両方の全体の数字が出まして、それで重複を避けるという差し引き計算が行われるということであるはずだと思いますので、そういう意味では、個々の内訳はなくても支障がないのではないかというふうに思うわけでございます。  ただその前提といたしまして、仮に財産上の損害額が証明されたら全部を支給といいますか補償すべきではないかということについて、これも先ほど最高裁の方からお答えがございましたが、要するに証明させて全額払うのがプラス面もあるでしょうし、またその証明のためにいろいろと手間がかかるというマイナス面もあるわけでございましょう。そういうことで、どちらが一概にいいかどうかということも直ちに言えないように思いますので、いろいろと刑事補償補償の仕方については検討の余地はあろうかと思いますけれども、当面、御指摘請求権の競合の場合には特に本人にとって不利益になるということはないのじゃないかというふうに思います。
  38. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この問題はこの程度にして、次に進みます。  刑事補償が認められる要件として憲法四十八条では、抑留または拘禁それに無罪の裁判、この二つの要件を挙げております。そこで、まず抑留、拘禁に関する問題について一つだけ伺っておきたいと思います。  抑留または拘禁、これをひっくるめて身体の拘束とも言われておりますが、この身体の拘束が刑事補償の積極的要件でありますので、不当な刑事訴追の場合であっても拘束のない限り補償対象にはならない。この解釈については、たしか昭和三十三年だったと思いますが最高裁も決定で認めていることは私も承知いたしております。しかし、犯人とされたことによる苦痛というものは身体を拘束されていた期間だけには限らない。また身体の拘束が仮になくても犯人と名指されて取り調べを受けるということの場合も、程度の違いはあるにしても同じ問題はある。この苦痛は精神的なものはもとより経済的にも無視できないものがあると思うのですね。犯人とされたことにより社会的な信用を失い、また交友関係、取引関係も相当打撃を受ける場合もあるのではないか。  このような場合に本人の受けた精神的、物質的のそれぞれの損害について、これをてん補する必要があるのではないか。そのためには本法を改正しなければならないと思うのですけれども、この点についてはどうお考えか。またその際、外国の立法例たとえば西ドイツ刑事補償法には身体の拘束を受けたことは要件となっていませんですね、これも一つの参考になるのではないかと思いますが、いかがですか。
  39. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 ただいま御意見にもございましたように、身体の拘束を受けない場合でございましても間違って犯人扱いをされたということによる有形、無形の損害というものは事実あるだろうと思いますし、お気の毒といえば大変お気の毒な場合であろうと思います。  ですから、それなりに何か考えなければいかぬということもごもっともな点があるわけでございますが、この刑事補償法につきまして前々申しておることでございますけれども、これも広い意味での国家賠償である。国家賠償である以上国民の負担においてなされるものであるということになりまして、国家賠償の基本原則はやはり当該公務員の故意または過失というものを要件としている、これは申すまでもないことだと思います。  ですから、その原則が原則であるわけでございますので、そういう故意過失を要件としないというのはきわめて例外な場合であろうというふうに考えられるわけでございまして、そこで刑事補償法がきわめて例外といってもいいのを決めておりますのは、やはり憲法の規定もございまして、身体の拘束を受けたということによって受けた被害といいますか損害といいますか、それが故意過失を論ずるまでもなく国として補償せざるを得ない、補償すべき特殊な場合である、こういう精神であろうと思うわけでございます。  ですから、この特殊例外な場合をどこまで広げるかという一つの立法論になるかと思うわけでございますが、従来の考え方は、憲法も一応規定の上では身体の拘束ということを考えておるわけで、それがやはり原則を打ち破る例外であって、それ以外を認めないかということになりますと、それは議論があろうかと思いますけれども、大変例外的な場合である。その例外的な場合をどこまで広げることができるかということが一つの大きな問題であろうというふうにも思うわけでございます。  そこで、そうなりますと、いろいろと国の公権力の行使によって国民の方々に御迷惑をかけた場合がないとは言えないわけでございまして、それをどの辺まで拾うかという国の基本的な考え方ということになるわけで、犯罪被害の方々に対する給付制度というような従来は余り考えられていなかったことができてきたというようなことでもございますので、だんだん国民の理解またそれを国民が負担してやるということについての国民の考え方というものの変化によっては広がってくることも考え得るかと思いますけれども、なかなかその限界を引くのがむずかしいということがあるわけでございましょうし、少なくとも現在までは、そこまで広げるのは例外が広がり過ぎる、国家賠償の本質からしてやや広がり過ぎるという考え方で来ておったもの、かように考えておるわけでございます。  それからちなみに、いま西ドイツのことを御引用になりましたので若干調べたわけでございますが、必ずしもよくわからない点がございます。確かに身体の拘束を絶対要件とはしておりませんので、拘束されてなかった場合でも補償が行われるように見えるわけで、現にそうだと思いますけれども、それでは刑事訴追を受けた場合に非拘束つまり拘束を受けてなかった場合全部補償になるかというと、どうもそうでもなさそうでございます。ドイツの制度でございますから必ずしも理解が十分できないところもありますが、訳文によりますと、いわゆる未決勾留のほかにその他の刑事訴追上の措置の執行によって損害を受けたという要件がございまして、その刑事訴追上の措置のいずれかの執行というものが何を意味するかということでございますが、その中身といたしましては、どうも日本にはそういう制度がないようですが、仮収容とか仮逮捕とかあるいは勾留状の執行を停止する一方において行動制限をするとか、そういう身体的な拘束が、未決拘禁そのものではございませんけれどもあるような場合が例示されております。それだと大体拘束に近いわけでございますけれども、そのほかに物の差押え、捜索であるとか、これも日本にはないわけでございますが運転免許の仮の取り消しであるとかというものも例示されているというか掲げられておるようでございます。これも先ほど抽象的に申しました例外をどこまで広げるかという範囲の問題であろうかと思います。  したがいまして身体の拘束がない場合、西ドイツの場合もすべてではない、一部であろう。一部の場合も、その性格が行動制限というか身柄の拘束というのが主体のように見えますが、それだけでもないというようなことで、その限界がそれぞれの国情なりそういうものに対する考え方によって違うのかと思いますが、どうも日本制度にないようなことがいろいろ掲げられておりますので、なお研究を要すると考えております。
  40. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 次に、補償の第二の要件である無罪の裁判に関する問題について伺ってみたいと思います。  まず、裁判責任能力が否定されたことによる無罪の裁判、この問題についてでありますが、この場合、旧刑事補償法によりますと刑事補償が与えられていなかった、これは立法上明確だと思うのです。旧法時代では、刑事補償に限らずすべての人権について、国家の臣民に対する恩恵だとの思想が根底にあったと思うのですね。そのことはともかくとして、そのことが尾を引いてこういう法律になったのではないかとも思いますし、旧法において責任能力を欠く場合に刑事補償を否定する理由として学者はいろんなことを言っておりますけれども一つには、責任阻却による無罪の裁判というものは、責任無能力者に対して反社会的事実としての罪の不存在を宣言するというものではなく、ただ刑を科するのが相当でないにすぎないんだ、こういう解釈が一部にはございました。  そこで伺いますが、旧法における補償しないという考え方、これは現行法においても生かされていいのではないか。いかがでしょうか。
  41. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 いわゆる責任能力を欠いたことによる無罪の場合につきましては、先日も沖本委員にお答えをしたように思いますけれども、ただいまおっしゃいましたように、旧刑事補償法では確かに補償対象外としておったわけでございます。  その理由につきましてもいま長谷雄委員が仰せになったようなことで、やはり殺人であれば殺人ということで人を殺した事実は消えていないといいますか現にあるわけでございますから、それを前提といたしますと、そういう者に補償するのはどうかという御意見が出てくるのはごもっともと言えばごもっとものように思うわけでございます。  ただ、責任能力を欠くことによる無罪というものを、罪がないのかどうかというようなことあるいは罪はあるけれども罰しないかどうかというようなことになりますと刑法理論の問題にもなるわけでございますが、それはさておきまして、無罪であることにおいては変わりはない。確かに刑法の問題もございますし、実質的にも、同じ無罪であってもいわゆる無実の場合とそうでない場合とでは違うではないかという実質論は十分わからないわけではございません。ただ憲法で無罪ということが一言で言われておりますわけで、そうすると、現在の憲法下におけるわが国内法で無罪とは何ぞやという議論になるわけでございましょう。そうしますと、責任能力を欠いた場合もひとしく無罪であるということにならざるを得ないという言い方はおかしいかと思いますが、そういうことになるわけです。  翻って考えますと、その犯人が精神障害であるということでございますと、もし仮にそれが当初からわかっておれば、やはり身柄の拘束ということは適当でなかったという実態であるわけで、それが公判の最終段階に至ってわかったということで無罪になるということでございますので、確かに、何もしていなかったということと、したことはしたという場合とで違うことは違うのでございましょうけれども、無罪であるということではいわば同じである、また身体の拘束をすべきでなかったという点においても同一であるということで、少なくとも現行の憲法なり刑法なりの考え方からいきますとそこに差をつけるというのは、お気持ちはわかりますけれども理論的にどうも無理があるのではないかというのが従来の私どもの考えでございます。
  42. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 この問題を取り上げたのは、念願であった犯罪被害者等給付法案が先日衆議院を通過しました。通り魔殺人のようにいわれなき犯罪がいまなお後を絶っていない現状であります。このような犯人が刑事手続の結果、構成要件該当、違法の行為が確かにあった、ところが責任無能力であることが判明して終局的には刑事補償が与えられてしまった、こういうケースが起きております。この点はきわめて国民感情とも合わない。  先ほどの刑事局長の答弁の中にもこういうお話がありましたが、この点につきましては、調べてみますと、昭和四十二年の五月、殺人、同未遂被告事件で逮捕勾留され、公判審理中も引き続き勾留された被告人が心神喪失を理由に無罪の判決を言い渡された事件がございまして、この事件の被告人が請求者となって刑事補償請求をした事案で、裁判所は身柄の拘束を受けた四百四十三日間についてその全部を補償対象としました。  この事案の決定手続における決定理由を見ますと、刑事局長とは反対の御意見がありますね。この中で指摘されておりますところにこういうくだりがあるのです。この理由の中で「検察官は、請求人の犯行により、本件殺人、同未遂の結果が発生したことは証拠上明らかであり、このような場合、刑事補償対象にならない旨意見を述べている」こういうくだりがあります。これは検察官が求意見によって意見を述べたことだと思うのですけれども、いずれにしても検察官がこういう意見を述べている。これについてどう思いますか。
  43. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 ただいま御指摘の決定は、実は先ほど最高裁の方から伺いまして承知したばかりでございまして、その経過等をよく承知していないわけでございます。ただ拝見しました限りでは、検察官の意見として御指摘のようなことを述べていたもののごとくに見えるわけでございますが、率直に申しますと、その以前から先ほど来申し上げていたようなことで、御批判はございますけれども心神喪失の場合も含むという理解で運用がなされてきたものと私どもとしては理解をしておるわけでございます。  そうなりますと、その検察官の意見は何だということに相なるわけでございますが、いきさつを調べてみないとわかりませんけれども、一言で言えば何か間違いではないかというふうに申さざるを得ないわけでございます。強いて申しますと、被疑者補償を検察官の方で先ほど来御議論のございましたように扱っておるわけでございまして、被疑者補償規程の方では「しないことができる。」という場合の第一号にそのことが挙がっておるものでございますから、あるいはそれと若干取り違えをしておったんじゃないかということは、想像でございますけれどもあるわけでございまして、私どもの公的な立場といいますか理解といたしましては、先ほど来申し上げておりますように、御意見がありごもっともな点もあるとは一面思いながら、しかしやはり理屈としては含まれるという解釈を維持してきたつもりでございます。
  44. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 お立場は十分理解できます。しかし、こうした不合理を何とかして是正しなければいけないというのが国民世論だと思うのですね。これはさきに紹介しました決定が出た段階で、マスコミ等でそういう議論がありました。これを何とか是正する一つの理論としては、解釈論でやるということと、もう一つは立法論でやることの二つ考えられると思うのですね。  解釈論では、私は私なりに考えておりますが、一つには、憲法四十条には「無罪の裁判」と規定を明記しております。しかし、何を無罪とするかということについては、その無罪の内容を限定していない。すべて法律にゆだねられている。これが現状ですね。その無罪の裁判については、刑訴法の三百三十六条では「被告事件が罪とならないとき」それと「被告事件について犯罪の証明がないとき」この二つの場合を挙げております。ここにいう「罪とならないとき」というのは、伝統的な犯罪理論によると、構成要件該当、違法、有責の行為だ。つまり三つの要件が備わった場合がその犯罪の成立条件だ。このいずれかを欠く場合は犯罪は不成立で、しかもこれは無罪だ、こう言われておるわけですね。  ところが、この辺の問題ですね、つまり、責任無能力の問題を解決するためには何も伝統的な犯罪理論に拘泥する必要はないのではないか。伝統的な犯罪理論というのは何も憲法で枠は与えられているわけではないのだ。これは学説なんだ。理論なんだ。そうなると、この伝統的な犯罪論に対する反省がまず第一に必要ではないか。この点についてはいかがですか。
  45. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 御指摘のように、心神喪失による場合を外そうと思えばそういう議論の立て方をしなければ出てこないことだろうと思います。  しかし、およそ現憲法下で無罪とは何ぞやということになりますと、やはりいまおっしゃいましたように、まあ伝統的な考え方かもしれませんが、それが多数的な考え方であろうと思いますし、逆に、憲法で明らかに限定をしていないということ、それを決めてないんだという言い方も不可能ではないかと思いますけれども、無限定であるということになりますと、現憲法下で刑法なら刑法の適用といたしまして無罪になる場合を含むと考える方が素直というか自然であって、それをごく一部、いわゆる三つの要件なら三つの要件のうちの一つだけの場合はだめなんだという説明はなかなか苦しいのではないかというふうに思うわけでございます。
  46. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 第二の反省としまして、刑法三十九条は「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」それから四十条では「聾唖者ノ行為ハ之ヲ罰セス又ハ其刑ヲ減軽ス」それから四十一条では「十四歳ニ満タサル者ノ行為ハ之ヲ罰セス」こういう規定がありますね。  聾唖者の後段の場合を除いて、心神喪失者、聾唖者及び十四歳未満の者の行為については罰せずと規定しているのですね。罪とならずとは規定していない。ほかにも同じような規定の仕方が刑法の中には幾つかありますけれども先ほど刑事局長は、無実と無罪とは違うんだという微妙な発言をされておったのでございますけれども、いまの三十九条、四十条、四十一条の刑法の規定については無実ではないのですね。確かに局長がおっしゃるように、伝統的な犯罪論から言うと無罪、しかし無実ではないということになるのではないか。  そうなると、罰せずというこの心神喪失、聾唖者あるいは十四歳未満の者の行為については、判決主文は無罪ということではなくて刑法の規定どおりに罰せずと、こうするのが最も刑法に忠実な判決の仕方ではないかと思うのですね。この点について裁判所はいかがでしょうか。
  47. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 ただいま仰せのように、聾唖者、心神喪失者の関係におきましては「之ヲ罰セス」という文言が用いられております。  しかしそれは、現行刑法において正当行為あるいは正当防衛、刑法三十五条、三十六条等についても同様「之ヲ罰セス」というふうに規定して犯罪は成立しないということを示しておるわけであります。これらは聾唖者あるいは心神喪失者同様にいずれも刑事訴訟法三百三十六条にいう被告事件が罪とならない場合として無罪を言い渡すべきものというように解され、また、そのように実務は運用されております。そういうことでありますので、現行法の解釈として罰しないということと罪とならないということを別個に解するということはいささか困難なのではなかろうか、このように考えます。
  48. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 まあその議論はやめましょう。  無罪の裁判に関する次の問題は、身体の拘束を受けた者が裁判による無罪の裁判を受けることなく刑事手続を終わった場合の問題なんですね。これは、この法律によりますと補償は受けられないということですね。この場合に当たる例の一つとして検察官の不起訴処分が挙げられますけれども、この不起訴処分は、裁判所裁判と違って確かに確定力はない。しかし、身体の拘束を受けている以上は何らかの補償をする必要がある。この点について先ほどもちょっとお話がありましたが、被疑者補償規程、こういうものが一応制定はされております。  しかし、この被疑者補償規程というのは法務省訓令なんですね。つまり、検察庁内部における内部的な命令であって、国民の権利として補償を認めたものではないということは明らかだと思うのですね。したがってこの場合も、こういう事例について不起訴処分のような場合、法律による補償を必要とする場合があるのではないか、こう思いますが、いかがですか。
  49. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 ただいまのお尋ねにお答えします前に、先ほどちょっと私の申したことで補足させていただきますが、無実と無罪ということを用いましたのは、今回の御質疑ではなかったと思いますが、過去にこの法律の御質疑の中で無実有実という議論があったように思いましたので、そのことを思い出して申し上げたわけでございます。  それはそれといたしまして、被疑者補償の関係でございますが、御指摘のように、被疑者補償規程は大臣訓令でございまして法律ではございません。なぜそういうことに相なっておるかということでございますが、これも何回か申し上げたことがあるかと思いますけれども先ほど指摘のように、不起訴処分が裁判所裁判と同様な意味での効力を持たないということがまず基本にあるわけでございますが、それだけじゃなくて、裁判によります有罪無罪というのは非常に明確でございます。ですから、無罪というのは有罪になった以外のすべてが無罪であり、中身がシロであろうと灰色であろうとすべて無罪であるわけでございます。有罪の者は刑事補償対象になりませんし、無罪の者はすべてなる、もちろん身体拘束が前提でございますけれども。そういうふうに明快により分けがつくわけでございます。  不起訴処分の場合には、これもくどくど申し上げる必要もないと思いますけれども、検察官の立場で見た場合のクロ、有罪という言葉が適当かどうかわかりませんが、犯罪をやっているということが明白である、これが検察官の認定だけじゃなくて客観的にも明らかな場合も含まれておるわけでございます。それから一面、全く人違いであるとか犯罪にならない行為であるとかいう、もう一方の極端な場合もございますし、その間に証拠が十分でない場合があるとか、いろいろな段階がすべて不起訴処分の中には含まれておるわけでございます。したがいまして、不起訴処分があってそれまで身柄の拘束をしておった場合にお気の毒な場合があることはもちろん否定するわけではございません。  ただ、それをどこまで補償すべきであるかということになりますと、やはり線の引き方というものがむずかしくなってまいるかと思います。先ほど触れましたように、客観的にも犯罪を犯したことが間違いないというようなものまで補償すべきであるという御議論は恐らくないだろうと思います。ところが、検察官の一応の認定でございますので、検察官としては、これはクロである、もし裁判にかければ有罪になるであろうという認定をしましても、被疑者の方はそうではなくて、いややはり自分はシロであるということの主張があり得るかと思います。そういうふうに考えてまいりますと、不起訴処分でシロ・クロをつけるというわけにはまいらなくなって、すべて裁判所へ持ち出して、自分がシロであるかクロであるかということを確定してもらわなければ補償金がもらえない、こういうふうになってくるわけでございます。  そういうふうに考えてまいりますと、不起訴処分というものが現在のような形で維持できるかどうかという問題、あるいは現行刑事訴訟法における検察官の権限いわゆる起訴便宜主義というものが果たして維持できるかどうかという問題、それによるそれなりの効果というものもお認めいただいているように思うわけでございますが、それも基本的に再検討しなければならなくなるというような、いろいろ現在の刑事手続におきます基本的な問題にかかわってくるような気がするわけでございます。  反面、そういうような性質の処分によって補償をするということ自体、厳格な意味での法律では本来若干の無理があるのじゃないか。やはり裁判でシロ・クロをつけた場合に初めて補償ということが憲法の要請もございまして理論的にすっきりするわけでございますが、検察官の処分といういわば広い意味の行政権に属する性格のものによってシロ・クロをつけるといいましても、それは最終的なものではないわけでございますので、それによって補償をするということ自体にもともと若干の無理がある。  しかし、そうかといって全くほうっておくわけにいかないので、検察官の認定の段階でやはりこれはシロであるということが十分わかる場合には、刑事補償にならって何らかの補償をするのが適当であろう。刑事補償と基本的な発想は似ておりますけれども、性格的には大分違うものとして考えられたのがこの被疑者補償ではないかと思うわけでございます。基本的な発想は同じでございましょうけれども法律的な性格は違う、そうなりますと、同列で法律をもって権利化し制度として成り立たせていくということには、もとにやはりいろいろと問題があるような気がするわけでございます。
  50. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 おっしゃることはよくわかります。確かに不起訴処分には確定力はないし、再起する可能性も十分あるし、また不起訴処分にも理由によっていろいろ中身があることも承知をいたしております。  そういう意味で、どこまで補償するか、それをどこで線を引くかということも大変問題になってくると思います。いずれの場合にしても、一つ考え方として、一定の期間を決めてその期間経過後は、もちろんケースにもよりましょうが補償し得る場合があるということならば、その場合をある程度限定することはやむを得ないと思いますけれども法律による補償というものは考慮してもいいのではないかということを希望として申し上げているわけでございます。  そのことと、もう一つの場合は付審判の請求却下の場合でありますが、先ほどの不起訴処分の場合は検察官によるものでありますけれども、付審判の請求却下の場合は少なくとも裁判所裁判による場合であります。したがって、その補償を要する程度というものは検察官の不起訴処分の場合よりも強いということが言えるのではないかと思うのですが、この点についてはいかがでしょうか。
  51. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 付審判の場合で請求却下ということの想定でございますけれども、職権乱用なら乱用で付審判請求がありまして、それが却下になるということは実質的にはシロだ、こういう御趣旨でございましょうか。そういう場合にも、まず身体拘束ということがあり得るかどうかという問題もあるかと思いますが、確かに、裁判所の判定であるということは検察官の処分よりは公的な権威があるということは事実でございましょうけれども、無罪というのとはやはりまだちょっと差があるといいますか違いがあるように思うわけでございます。
  52. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 まだほかにも問題はございますが、時間も参りましたので、最後に法務大臣に一言お伺いしたいと思います。  今回の法律改正案は補償金についての一部手直しを内容とするものでありますが、この法律は内容的に見て、いま私が指摘しましたように改正すべき多くの問題がなお残されておると思います。刑事訴訟法がいわば事前の人権保障規定であるとするならば、この刑事補償法は事後における保障規定だと言うことができると思うのです。その意味で、この刑事補償法の欠陥が是正され本法の精神が十分に生かされ機能するようになることは、国民の人権保障の上からきわめて重要だと思います。  私は、そのような認識に立って、今後この法律の問題点について早急に改正をなす必要があるのではないかと考えておりますが、法務大臣の所信を伺いたいと思います。
  53. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 いますぐ改正に踏み込んだらどうだということではないと思いますが、運営いたしまして慎重に検討してまいりたいと思います。
  54. 長谷雄幸久

    ○長谷雄委員 終わります。
  55. 木村武千代

    木村委員長 柴田睦夫君。
  56. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 今回の改正案は補償額の上限を引き上げるものであって、それはそれとして一定の意味を持っているわけですが、すでにわが党の木下委員指摘しましたように、刑事補償というのはさらに拡大されなければならないと考えております。  それは、補償額の大幅引き上げということであり、また対象を拘禁以外にも広げるということ、被疑者として取り調べを受け無罪となるまでの全期間に及ぶようにしなければならないということです。また、被疑者補償規程刑事補償法に統一して権利として認めることが必要であると考えます。さらに無罪の刑事事件につきましては、国家賠償におきましても無過失損害賠償の規定あるいは捜査官の故意過失の権定規定を置くといったような改正検討されなければならない。これは現実の国家賠償請求訴訟がやられているその状況から見ても、このことが言えると思うのです。  ところで、不十分な刑事補償制度ではあるわけですけれども、若干尋ねてみますが、無罪になってもなお刑事補償請求しない者が多いように伺っておりますが、その理由について検討されたことがあるかどうか、まずお伺いいたします。
  57. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 無罪の確定をし、そしてその過程において未決の抑留、拘禁があった者で刑事補償請求をしなかった者について、その割合などを調べてみますと、昭和四十九年から五十三年の五年間におきまして地裁、簡裁の言い渡した無罪判決が確定した人員を前提とし、地裁、簡裁それぞれの別に出してみますと、地裁の場合は補償請求可能な人員の五五・二%、簡裁の場合は四三・五%が補償請求している、こういうふうな数字になっております。  そういうことでございますから、なお補償請求の可能な方はいるわけでありますけれども、可能であるにもかかわらず請求をしない理由はどこにあるか、これを正確に調査するということはいたしておりませんが、主たる理由は拘束の期間が短く終わったという方の中に補償請求をなさらないという方が多いためではなかろうか、このように考えます。
  58. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 現実の刑事補償の決定を受ける手続というのは、そんなにむずかしいことじゃないと思うのです。  いま、この点については詳しく調べられておらないということですけれども、単に期間が短いということであっても、手続的にそんなにむずかしいことではないし、それは請求することが権利であり当然であるわけですから、この点はやはり法務省なり裁判所なりが、こんなにたくさんの人が請求しないという実態を考えて、この運用状況を的確につかまなければいけないと思うわけです。弁護士がついていても、無罪の裁判を受けるというのは一生に何件かしかないぐらいの率だと思うのです。そういう中ですから、あるいは忘れたりというようなこともあるかもしれませんが、この点についてはやはりしっかりと把握して、その権利を行使しないあるいは忘れたりしているというような実態については、そういうことがないような方向で解決が図られなくてはならない、そういう対策が講じられなくてはならないというように考えます。  それから、刑事補償法の第二十四条で補償決定を公示するということになっているのですけれども、これはどういう立法趣旨でありましょうか。
  59. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 公示の制度は冤罪者の名誉を回復するための一つの方法として取り入れられたものと承知いたします。
  60. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 それでは実際上の公示の中身ですけれども、大体画一化されているのじゃないかと思うのですけれども、その文面、新聞に出る大きさ、それから当の本人がいっそういう公示があるか事前に知る機会があるかどうか、その点についてお伺いいたします。
  61. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 公示決定の文面についてまずお答え申し上げたいと思います。  仰せのように、大体同じような方式の文面になっております。まず「刑事補償法による補償決定の公示」あるいは「刑事補償決定要旨」というような表題を付し、その次に内容に入るわけです。何某に対する何々被告事件につき、昭和何年何月何日言い渡しの無罪判決が確定したので、昭和何年何月何日左のとおり抑留、拘禁による補償決定をした。次に請求人の名前、さらに括弧して住所、職業、年齢、そして補償対象となった日数何日分、補償金額何円という内容で、その次に公示の日昭和何年何月何日、補償決定を公示する裁判所の何々裁判所、こういうような内容になっております。
  62. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 二十四条の立法趣旨は冤罪者の名誉を回復する手段であるということですけれども、その中身を見てみますと、無罪の判決に基づいて刑事補償の決定があったということ、しかも新聞では小さい記事で出されるということが果たして本人の名誉の回復ということにつながるかどうかという疑問を持つわけです。  私も弁護士として担当した事件で、一番最近では昭和五十二年に無罪の判決があって刑事補償決定を受けましたけれども、そのときも本人は新聞の公示は特にしなくてもいいというような態度でした。それは結局その公示の中に、文面自体を見ても国として無実の人間を拘禁したということについての謝罪の表明は何もありませんし、また、この記事自体が非常に小さくて第三者の目にとまらない。新聞自体を読む人も読む時間が非常に少ないわけですからなかなか目につかない。これでは余り意味がないということからやめることになったんですけれども、しかし、そういう事例もありますが、そういう中においてもさらに自分が無罪になったということを天下に知らせたいという人に対しては、この制度をさらに改善しながら、中身においては国家機関としての謝罪の意味が表示されて本人の名誉回復に役立つようにする、そういう方向で改善検討をする必要があると思うのですが、この点はいかがでしょうか。
  63. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 中身の関係でございますが、補償法二十四条に「決定の要旨を、」ということでございますので、先ほど申し上げたような文面によりますと決定の要点は尽くしているのではないかというように考えます。  また、この公示制度利用の状況でございますけれども委員の方からお話もございましたが、必ずしも高いとは申せません。一般の場合には物質的な補償によって満足なさるという方が多いのかとも思います。また名誉回復を特に必要とするような場合には新聞等が報道として大きく取り上げるということがしばしば行われておりまして、別に公示を求める必要がないというふうな場合もあるいはあるかとも思われます。  申し立てについては、刑事補償請求とともにあるいは補償決定後独立して行われるということでありますけれども、その手続は簡単でございまして、申し立て手続の複雑であることが公示を求める者の少ない原因であるとは考えられませんので、いろいろな状況を考えますと、現在の運用について仰せのような点は十分に考慮すべきであるとは思いますけれども、なお推移を見てまいりたい、このように考えます。
  64. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 この刑事補償法二十四条の規定自体が名誉回復というようなものを含んでいない規定の仕方になっているので、こういう面の改善そして本当に公告を出したいという人の心が満足できるようなものに近づけなければならないということを私は言いたいわけです。  それから一方では、今度は勾留されなかった人、在宅で起訴されて無罪になった人に対しては、無罪であるということを第三者、天下に知らせる方法がないわけですが、これは法律上はしなくてもいいことになっているわけですけれども、そういうことで勾留された被告人との比較においてそれで済まされることであろうか、これも改善方法を検討しなければならないと思うのですけれども、いかがでしょうか。
  65. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 不起訴の場合に補償すべきではないかということと関連するようなお尋ねであろうかと思いますけれども、要するに、在宅で調べを受けて公判でも在宅のままで無罪になった場合があるわけでございますが、それらを含めまして御本人の不利益ということは予想にかたくないわけでございます。  でございますから、そういうことについて御本人の希望等もあるかと思いますけれども、どういう制度で御本人のお気持ちを満足させるような措置をとるべきかということになろうかと思いますが、これは刑事補償法そのものの問題ではなくて、むしろそのこと自体独立のことではないかというふうに思うわけでございまして、果たしてどのような方法によるのが適当であるか、なお研究をさせていただきたいと思います。
  66. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 裁判所の会計の問題ですけれども、私が五十二年に補償決定を受けたときに、決定が確定したのは五十二年の十二月になってからですけれども裁判所の方ではいま金がないので来年まで待ってくれということを言われたことがあるのです。これは裁判所まで破産するのかと思ったのですけれども……。  そこでちょっと聞いておきたいのですが、裁判所補償金を払うあるいは公示するについての支払いをするというような補償予算をいつでも執行できるような体制になっているのかどうか、その予算の執行関係についてお伺いしたいと思います。
  67. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 刑事補償金の支払いにつきましては、いつどこの裁判所で幾らの補償決定がなされるか事前に知ることができませんので、あらかじめ各裁判所に当該の予算を配賦するということはしませんで、刑事補償の決定を受けた本人から支払い請求があった段階で各裁判所から最高裁判所予算増額の上申がなされ、これに対して最高裁判所において予算を配賦し、そしてその予算の配賦を受けた各裁判所から本人に対して支払いがなされる、このような手順になっております。
  68. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 額自体も低いし、それがまたおくれるということであれば一層問題だと思いますので、この点も、そういうこともあるわけですから極力改善していただきたいと思います。  それから、補償制度が不十分であるということは私も絶えず言っているのですけれども、本来は補償しなければならないような不当違法な拘禁をしてはならないということを強調したいと思うのです。  いま、私が経験した事例について言いましたが、このときなんかも、これは相手方から告訴された事件ということであって民事的な性質も持っておりましたので、相談を受けて、私も弁護人として、逮捕や勾留されるようなことはまずないだろう、こういう判断をしていたのですけれども、私の判断に反して逮捕されたわけです。そうしますと、新聞などではこれはわりあい大きく報道されたわけですが、逮捕されたときの新聞報道を見ますと、これは全部捜査官の予断のある容疑事実というものを中心にして出るわけですから、えらい悪いことをしたように書かれるわけです。審理をされた後無罪になっても、特に政治的、社会的な意味のある事件でない場合は無罪の報道も実際はされないことがあるわけです。逮捕、勾留、起訴を受けて、それからの本人の精神的、経済的苦痛、また社会的損失は無罪になっても決して回復されないものがあるわけです。  犯罪捜査において本人を取り調べるには強制処分を伴わないでもできるものが多いわけで、基本的には特に逮捕、勾留の必要がある者について拘禁をする、その必要がない者については在宅のままで取り調べをする。言いかえれば、逮捕、勾留などは刑事捜査においてはその必要がある特別の場合例外的なものであって、捜査の原則というものは身柄を自由にしてそしていわば在宅でやる、これがやはり刑事訴訟法の精神であろうと思うのでけれども、この点はどのようにお考えですか。
  69. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 原則、例外という言い方が適当かどうかわかりませんけれども、柴田委員もおっしゃいましたように、身柄を拘束するということは、それだけの必要性があるといいますかやむを得ないといいますか、そういう場合であるわけでございまして、そういう必要性がないのにかかわらず拘束するということがあってはならないことは当然でございます。
  70. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 実際上の運用を見ておりますと、たとえば逮捕状の発付を受けて被疑者を呼び出して、そして結局逮捕状を執行しない事例というのはたくさんあるわけです。  そうしますと、犯罪捜査上逮捕状を執行しなくてもいいものについても逮捕状を発行しているということになりますし、逮捕状を執行するかしないかというのが、これがまた捜査官の裁量にかかってくるわけで、捜査官に裁量を大幅に許しているという現状のもとにおいては、場合によっては捜査官の恣意によって不必要な逮捕が行われる可能性というものも出てまいるわけです。刑事訴訟法の百九十九条の第二項は、裁判官が明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状を発しないことがあることを規定しているわけですけれども、必要がないという理由で逮捕状の請求を却下する、こういうことはちょっとわれわれも経験上、それは犯罪にならないものに逮捕状を請求した場合は逮捕状を発付しないということはあるのですけれども犯罪の容疑は一応あるという場合に、まあ逮捕までする必要はないだろうということで却下することは、実際上非常に少ないのじゃないかと思うのです。  逮捕状を発付したけれども捜査官が逮捕をしなかったというような場合、これは本来逮捕の必要が明らかにないのではないかと思うのです。そういうことで捜査官の逮捕を不当に許すというようなことがあってはなりませんし、たとえば被疑者の職業、住居などから出頭が客観的に期待できるというものに対して逮捕することは不当であるというように思うのですが、裁判所が逮捕状を出すか出さぬか、この逮捕状が必要であるか必要でないか、そういう基準をどこに置いて検討されるのか、判断されるのかお伺いしたいと思います。
  71. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 ただいま刑事訴訟法の百九十九条を御引用になられましたが、通常逮捕状の場合「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、」逮捕状を発する。「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。」  この「明らかに逮捕の必要がないと認めるとき」ということに関しまして、刑事訴訟規則百四十三条の三が「逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。」このように書いてございますが、逮捕状発付に当たる裁判官としては、これらの法、規則の規定に準拠してその事務を行っているというように考えます。
  72. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 かつて、逮捕状に裁判官の判だけ押して、あと書記官に任しておいたというような事例もあったのですけれども、現実の逮捕状の出し方に対して私幾つか疑問を持つものがありますので申し上げたわけです。  それから、勾留請求をした場合に勾留が否定されるケースがあります。勾留請求が却下されるのは、罪を犯したことを疑うに足りる資料がないか、逃亡のおそれもなく証拠隠滅のおそれもない、住居も定まっているというような場合ですけれども、こういう勾留が否定されるようなものに対して勾留請求する。こういう匂留が否定されるようなケースについては、本来逮捕自体が必要ではないのじゃないかと思うのですが、法務省いかがですか。
  73. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 逮捕状が裁判所裁判官の発する令状であることはもう改めて申し上げるまでもないと思います。それだけに、それなりの証拠があり、また、いま最高裁の方からお答えになりましたようないろいろな事情を御判断になって逮捕状が出るわけでございますから、捜査官だけの一存で逮捕ができるというわけでないことは当然でございます。  その次の段階といたしまして、勾留請求という段階があるわけでございますが、その場合には時間の経過もございますから、身柄を引き続いて留置しておく必要性が薄くなってくるという場合も当然あるわけでございますし、また、やはり検察官の見方と裁判所のお考えとは必ずしも一致しない場合もあるわけでございますので、検察官の立場としてはなお引き続き身柄を留置する要があるということで勾留を請求いたしましても、裁判所の御判断で、裁判官の御判断で勾留が認められないということは制度としてむしろあり得ることではないかと思います。
  74. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 現実の勾留の運用などあるいは逮捕の問題を見てみましても、やはり被告、被疑者の弁解を聞くというようなことではなくて、自白を得る手段にこれが大いに利用されているというような、そういう印象を強く持つわけです。  それから誤認逮捕という問題ですが、これは犯罪捜査規範によりますと「被疑者の逮捕その他の強制処分を行うに当っては、事前にできる限り多くの確実な資料を収集しておかなければならない。」こうせっかくしているのですけれども、実はこの規範が守られないから誤認逮捕の問題が生じてきていると思うわけです。理論上逮捕が本当にやむを得なかったということもなきにしもあらずでしょうけれども、誤認逮捕の事例を見てみますと、共犯者や目撃者の供述をうのみにする、場合によってはその目撃者あるいは共犯者などに示唆したり誘導したりする、そして供述を得て逮捕する、そういうやり方。また、アリバイを確実に証明しないとアリバイがないということ自体も一つの逮捕の有力な資料とするような、これは悪い習慣だと思うのですけれども、そういう捜査の悪習があるわけですけれども、この共犯者たちの供述に対してもやはり反対証拠や物的裏づけをちゃんとやらなくちゃいけない。それを無視して逮捕に進んでいくということになれば、やはり捜査官の責任というのは否定できないと思うのです。  そして誤認逮捕されたというようなことは、もうここで言うまでもなく、これは本人にとってもその周辺の人にとっても大変なことであるわけで、これを本当に防がなくちゃならないのですけれども、その前提として、捜査にあずかる側として、誤認逮捕というのはどうして起こるのか、どうしたら誤認逮捕を防ぐことができるか、その点についてのお考えをお聞きしたいと思います。
  75. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 証拠が不十分でありますのに逮捕するというようなことがあってはならないことは当然でございます。そのことによって人権を侵害するというようなことがあってはならないこともまた言うまでもないところでございます。  ただ反面、やはり捜査機関といたしましては、起こりました犯罪を適確に検挙して処罰するという義務も責任もあるわけでございます。そのことによって善良な被害者を守っていくという面、また社会の秩序を守っていくという面、これもあるわけでございますので、少しでも自信がないということでちゅうちょいたしておりますと、検挙すべき者、処罰すべき者もまた免れてしまうという一面も起こるわけでございます。  その兼ね合いがむずかしいわけでございまして、刑事訴訟法の第一条を持ち出すまでもないかと思いますけれども、やはり両者の問題を十分考えながら間違いのないように、またやるべきものはやるという態度で臨むべきであると思いますので、その辺はやはり捜査官の日ごろの訓練なりまた物の考え方が偏るというようなことのないように、それも含めて常時注意しながら、またある面では勇気を持って臨むという心構えなり教育の問題ということにやはり帰するのではないかと思います。
  76. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 次に勾留の問題ですけれども、勾留の要件に証拠隠滅または逃亡のおそれという言葉があるわけですけれども、これは一般的可能性で足りると考えるのかあるいは具体的なものでそうした要件を裏づけるものが必要であると考えるのか、お考えをお伺いします。
  77. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 お尋ね趣旨を正確に受けとめていないかもしれませんが、大変漠としたそういう可能性ではやはり適当でないわけでございまして、その事案に応じたそれなりの理由というものがあって、それはそれなりに疎明されると申しますか把握されていることが必要なことは当然であろうと思います。
  78. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 結局、罪を犯しているからそのこと自体から逃亡のおそれがあるというように単純に結びつけてはいけない。勾留する方から見れば罪を犯したという前提でしょうけれども、そのことからすぐに、逃げるおそれがあるあるいは証拠隠滅のおそれがある、こういうことを直接出しては、これでは勾留がせっかく要件を決めていることに合わなくなるということを申し上げたいわけです。  それから、起訴前の勾留期間を延長する場合に刑事訴訟法の第二百八条第二項が「やむを得ない事由があると認めるとき」としているのですけれども、実際上の延長は、確かに検察庁も忙しいのでしょうけれども、取り調べ未了だとか余罪を取り調べなくちゃならぬとか、関係者が多数であるとかいうようなこと、それが延長の理由になっているようです。そういう場合があるのですけれども、こういうことは延長の理由にすべきじゃないと思うわけです。  たとえば暴走族なんかの事件で多数の関係者が出てまいりますと、検察官の方は、最初の十日間の間に一回ぐらい簡単な調べをして、とてもこれは間に合わないというようなことで延長請求する。本当に、多数の関係者を調べて客観的に見てまだ調べる問題がたくさん残っている、いままで十日間の間非常に努力もしているけれども、さらに調べなくちゃならぬものが残っている、そうしないと起訴、不起訴を決めるには至らない、だから勾留を継続する必要があるのだ、延長する必要があるのだ、こういうことでなくちゃいけないと思うのですけれども先ほど言いました取り取べの未了とか余罪取り調べのためとか、こういうことで単純に延長の請求をするというのは間違っていると思うのですが、この点はいかがですか。
  79. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 勾留延長はまさしくやむを得ない場合に行うわけでございますので、そう単純にすべきでないことはもとよりでございます。  しかしながら事案によりましては、中身が複雑な場合もございましょうし、関係者が多数ありまして精いっぱい努力いたしましても十日間で間に合わないという場合も当然あり得るわけでございます。勾留延長請求の表示の仕方についても工夫が要るのかと思いますが、裁判所におかれましても、そう請求どおりに認めて延長を許可するというわけでもないわけでございまして、却下される場合もございますし、延長期間を短縮される場合もあるわけでございまして、それなりの疎明を検察官側でいたしませんと延長も認められないというのが実態でございます。  なお、お言葉の中で余罪云々ということがございましたが、これも余罪だけのために延長するということは適当でないことは当然でございます。しかし、その当該勾留事実を処理するためにその余罪というものがはっきりすることが一つの大きな要素であるという場合には、それもそういう観点から延長の理由になることはあり得ると思いますが、単に余罪があってその調べができていないというだけで延長するということは必ずしも適当でないといいますか、現にそういうことは行われていないというふうに思います。まず前提として当該勾留事実についての延長理由があって、さらに付随的な事情として余罪もあるということも書くことはよくあることでございますが、いきなり余罪だけで延長請求をするということはないのではないか、かように理解しております。
  80. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 勾留をされた被疑者、被告人の身柄拘束に対する救済は、一つは準抗告の申し立て、それから勾留取り消しの請求、三つ目に起訴後の保釈請求、四つ目に勾留の執行停止、こういうのがあるのです。  刑訴法の八十七条の勾留取り消しの規定は、勾留の理由または必要がなくなったときは勾留を取り消すということになっているのですけれども、この規定が適用された事例というのは一体どの程度あるのですか。
  81. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 昭和四十九年から昭和五十三年までの簡裁と地裁について見ますと、刑訴法八十七条の請求によって勾留を取り消された人員は、簡裁について八十七名、地裁について百五十二名、合計二百三十九名、これが請求による勾留取り消しの人員でございます。なお職権による取り消し人員が、簡裁につきまして九十三名、地裁につきまして百三十九名、合計二百三十二名という人員になっています。
  82. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 それは結局は、刑訴法の六十条の勾留の理由、必要、それがなくなったという場合にそれだけの者が勾留を取り消しされたということになると思うのですが、この規定というのは五年間でこの程度であるということから考えてみると、やはり非常に少ない。実際は勾留をそんなに継続しなくてもいい者が勾留をされているというのが現状であろうと思うわけです。  それから勾留の理由として、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、かつ住居が定まっていない、それから罪証隠滅のおそれがある、逃亡するおそれがあるということを挙げているのですが、八十九条の権利保釈の制度を見てみますと、一号から六号まで保釈を許可しない要件を掲げているわけです。  保釈をするということは、保釈金を確保することによって保釈後の被告人の出頭を保証する、逃亡を防ぐわけですけれども、勾留の理由とされていない重罰刑の犯罪であることやあるいは常習犯であることや前科があるということ、それから審判に必要な者などに害を加えるおそれがあるということ、それから被告人の氏名がわからないとき、こうした六十条の勾留の理由のところには書かれていないことが今度は保釈を許さない要件に加えられているということは、六十条と八十九条の法律としての整合性が欠けているのではないかという疑問を持つのですけれども、この点はどのように考えておられますか。
  83. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 御指摘の刑事訴訟法の六十条と八十九条でございますが、その前提として、八十九条は保釈をしないというわけではなくて、いわゆる権利保釈を認めないという事由を挙げているものと思います。つまり、保釈の請求があった場合でこの各号に当たらない場合に許さなければならないという言い方でございます。したがいまして、勾留が根っこといいますかもとにあるわけでございますから、理由があっても原則として保釈の請求があれば認めなければならない。しかし、ここに挙がっているような事由があれば当然には保釈しなくてもよろしい、要するにあとは裁量になる、こういう関係であろうと思いますので、必ずしも矛盾しないように理解しているわけでございます。
  84. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 結局、権利保釈の制度によって保釈を請求する場合に、六十条に書いてないことによって保釈を許されないということが出てくるわけですが、たとえば住居も明らかである、それから罪証隠滅のおそれもないという場合においても、ほかの八十九条の各号の要件によって保釈されないということがあるわけですけれども、保釈しないということはやはり勾留を継続する必要があるということですから、現実の運用においてはいろいろな解釈をしてやっているようですけれども、この点は立法上検討すべき問題であるというように私は疑問を持っておりますので指摘しておきたいと思います。  それから、保釈の場合の保釈金額の問題ですけれども、最近の保釈金というのは非常に高いというのが法曹界で常識になっているわけです。たとえば、この前弁護士の名前をかたって、保釈になったから保釈金二百万円を用意しろと言ったら二百万を用意したというのがあるのですけれども、窃盗事件などでケースはいろいろあるわけです。二百万円という保釈金は、私もここのところ弁護士はほとんどやっておりませんが、昔の感覚からいうととても想像できないような金額であるわけです。保釈金は、法律上には基準はないわけですけれども、年々というほど高くなって、保釈許可になっても保釈金の準備ができない、保釈金が高いからとても保釈はうちではできない、あきらめざるを得ない、こういうケースが実際上あるわけです。  先ほど言いました私が担当した事件のときも、これは無罪になるような事件ですけれども、一応容疑事実として書かれる金額が大きいというようなこともあって、私の感覚では保釈金は百万円くらいだろうというようなことを言っておりましたら、やはりこれも五百万円の保釈金をとられた。この人はわりあいに金のある人ですから何日かして金が集められたのですけれども犯人になるような、起訴されるような人はなかなかそんなに裕福な人は少ないわけです。  保釈金額というのはその人に応じて出せる、そして生活破壊まで、サラ金から借りてこなくてはならぬというようなことにならないようなものでなくてはならぬと思うのですが、通俗的にたくさんある交通事故だとかいろいろな比較的軽微な事件でも、最低五十万、七十万、百万というような保釈金があたりまえになっているようです。どうしてこういうふうに保釈金が上がるのか私は非常に不思議に思うのですけれども、確かに保釈金というのは出頭を保証するに足るものでなくてはならない。だから貨幣価値が下がると、そしてまた収入などの関係で一定の上昇があるのは当然でしょうけれども、仮に物価が何年か前の一・五倍になっていても、保釈金の方は三倍も四倍にもなる、それが現状であろうと思うのです。  そしてまた、裁判官がみんな大体保釈金を非常に高くしてきている現状なんです。昔弁護士をやった人の感覚からいうと考えもつかない保釈金になっていく。保釈というのは裁判官がするわけですけれども、どの裁判官でも上がっていく、どうしてそういうふうになっていくのか、そこら辺を聞きたいと思います。
  85. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 保釈保証金額が年々上がっておる、しかもかなり高額ではないか、裁判官一様にそうではないか、こういうような御質問でございますが、御質問の中にもいろいろと仰せになりましたように、事案の状況に応じましてその被告人の出頭を保証するに足りる程度の金額、しかも保釈を許す以上は被告人が納めることのできる金額、こういうあたりをめどにして各裁判官は保証金額を定めておると思います。  具体的には事案の性質、態様、本人の資産、生活状況、そういったものが基準になると思いますが、具体的にその金額を定めるに当たりましては、事前に弁護人とお会いをして状況を伺うというふうな扱い方もかなりなされておると思いますし、一たん保証金額が決まったけれども納めることができないで結局保釈出所できなかったというケースは、それほど数多くあるというふうには私は承知しておりません。年々上がっておりますことは事実とは思いますけれども、これも御指摘のように一般的な賃金、物価の上昇というようなものがそこに反映されておるものと考えます。  各裁判官は、それぞれの事案事案に応じて、いま申し上げたようないろいろな状況を考慮しながら保証金額を定めておるわけでありますが、その結果がおのずから大体同じような線に移っている、こういうふうなことで、結果として見ればおっしゃるような状況はあるいはあるかとも思いますけれども、要するに、各事案ごとに出頭を保証するに足りる、また納めることが可能な保証金額を各裁判官がいろいろな状況を勘案しながら決めているというふうに申し上げたいと思います。
  86. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 私も刑事事件で保釈というのは恐らく何百件かやったでしょうけれども、私は昔ですから、金額はいまに比べればはるかに少なくて何分の一だったわけです。それでも逃げた人はだれもいない。出頭するに足りる保釈金がちゃんと用意されて、それでよかったわけです。  いまの場合は、特殊な金が幾らでもある人あるいは本当に逃げるおそれがある、罪証隠滅のおそれがある場合には多額になるのはあたりまえでしようけれども、そういうおそれが非常に薄いのに、十年前は十万円ぐらいだったものがいまでは七十万円になるというのは余りにもひど過ぎる、そういうふうに感じますし、裁判所自体、単に裁判だけではなくてそういう被告人の人権という面においてもこういう点は考えなければならぬ問題だということを考えますので、特に指摘しておきたいと思います。  時間をちょっと短くしてくれということでございますので、最後に、刑事補償ということを考える場合に、本来はこういう補償制度が必要でないような状況になることが理想的であるわけです。要するに、無実の者を拘束したりあるいは無実の者が有罪の言い渡しを受けたり、そういうことがないようにするということがやはり司法の目的であるわけで、安易に逮捕したり勾留したりさらに起訴したりする、有罪の裁判を無罪にするためには控訴、上告までしなければならないということ、そういうものをなくしていかなければならないわけです。  不当な拘束をしないように、捜査あるいは裁判に携わる者が世の中の経験則、常識というものをしっかり持って憲法や刑訴法の精神に厳格でなければなりませんし、裁判になった場合に、たとえば代用監獄において被疑者の全人格を支配した上での違法あるいは不当な自白の強制を初めとする任意性も信用性もないような自白をつくり出す調べが数々指摘されるわけですけれども、それが裁判に出ると、今度はそういう事実は捜査官は口をそろえて否定しますし、裁判所も任意性がないということを裁判の上で認めることをなかなかちゅうちょしているという問題があるわけですが、やはり本当に任意性のないもの信用性のないものをつくり出した捜査の過ちについては判決の上でも明確に指摘していく、それが不当なやり方を許さないことになっていくのだと考えるわけです。これは司法における基本問題、中心問題であるわけですから、逮捕、勾留という問題それから起訴裁判に至るまで、それぞれ研さんを遂げて間違いのないようにされることを望んでおきます。
  87. 木村武千代

    木村委員長 飯田忠雄君。
  88. 飯田忠雄

    ○飯田委員 本日の刑事補償法の一部を改正する法律案は、内容を拝見いたしまして金額を上げるだけの法律でございますので、その点につきましては何ら反対すべき理由はないのでございますが、ただ、死刑を執行された者に対する補償の問題が規定されております。この問題に関する限り、果たしてこうした刑事補償法を設けるだけで後はどのような措置も講じないで放置しておいていいのかという疑念を持たざるを得ないのであります。人間の命が二千万でいいという理由はないのでございますので、この点から少しく御質問をいたしたいと思います。  まず最初に、過去において法定刑に死刑を定めた罪の刑が確定した後に無罪判決があった例はございましょうか、あるいはないでしょうか、お尋ねいたします。
  89. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 これまでに死刑判決が再審によって無罪となり確定したという事件はございません。ただ、再審開始決定がありましたけれども検察官側からの不服申し立てがございまして現在上級審に係属中のものとして、いわゆる免田事件、いわゆる財田川事件、いわゆる松山事件、この三つの事件がございます。
  90. 飯田忠雄

    ○飯田委員 これは最高裁判所の事務局からいただきました統計でありますが、強姦致死傷で二件、殺人罪で二件、傷害致死、これは死刑でないから抜きましょう。強盗殺人、これが二件、こういうようなものが無罪になっております。これは刑が確定した後無罪になっておる、このようになっております。こうしたものは裁判官の判断の仕方では死刑になる可能性を多分に含むものであると思われます。  それで、こういう事件について具体的には裁判刑はどのようなものであったか、お尋ねをいたします。
  91. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 御指摘のケースは、殺人既遂の事件としていわゆる吉田巌窟王事件というのがまず第一にあると思います。これは原裁判におきましては無期懲役という刑でございます。また一つはいわゆる弘前大学教授夫人殺し事件といわれる事件でございまして、これは原裁判におきます刑は懲役十五年ということでございます。またもう一つはいわゆる加藤老事件と言われるものでございまして、これは原裁判における刑は無期懲役でございました。
  92. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ただいまの再審になりまして無罪になりました裁判刑を拝聴いたしますと、死刑になったものはなくて、死刑でないものについて再審が行われて無罪になっておるわけでございます。死刑判決を受けた者について、しかもそれが死刑を執行された後に無罪となった例はない、こういうことでございましたが、死刑になってしまいますと本人がいないのですから、したがって再審に持ち込むだけの条件ができないのではないか、このように思われるわけであります。  したがいまして、死刑執行後に無罪判決があった例がないということは、必ずしも無実の罪で死刑になった者がないということではないのではないか、このように思いますが、いかがでしょうか。
  93. 柳瀬隆次

    柳瀬最高裁判所長官代理者 御質問のように、幸いこれまで死刑執行による刑事補償というようなケースはございません。私どもとしては、いやしくも無事の犯人が誤った死刑判決によってその生命を奪われるというようなことがあってはなるまいということで十分心を戒めながら裁判に当たりたい、このように考えます。
  94. 飯田忠雄

    ○飯田委員 この問題は議論をしても切りがありませんので次に移りますが、死刑になって後に無罪となった者に対する補償をこの刑事補償法では決めております。  この刑事補償法で決めておるのは、元来死刑執行後の無罪の者なんですから、ということはそういう者もあり得るという前提のもとにつくられたと思いますが、そこでお尋ねいたしたいのは、死刑になった後無罪になった者に対する補償です。補償の持つ意味は何でございましょうか。殺されてしまった者に補償をするというその意味でございますが、どうでございますか。
  95. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 十分お尋ねを理解していないかと思いますが、死刑の執行を受けた本人といいますか、本人の死刑の執行を受けたことによる損害、これを補償しようということであろうと思います。
  96. 飯田忠雄

    ○飯田委員 そうしますと、死刑になった者に対する補償、分析してみますと生命の問題がございますね。生命を返せ、これはとてもできそうにありませんが、そのほかに慰謝料の問題、損害賠償の問題があると思います。  そこで、こうした死刑を執行してしまった者に対する補償をどのように補償しても償い切れないものが生命返還という問題であろうと思います。これを除きますと慰謝料とか損害賠償ですから、損害賠償の範囲さえ決めればいいということになるようでありますが、ここでお尋ねをいたしますが、死刑再審無罪事件についての補償額は損害額プラス二千万円の範囲内、こうなっております。この損害額というのは一体何を指すのでございましょうか。
  97. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 先ほども申し上げましたように、死刑が執行された本人というとおかしいのでしょうけれども御本人の損害額ということでございますから、その本人が死亡したために本人の財産から支出されたりあるいは債務として残ったりというような損失額が考えられますし、また、いわゆる逸失利益と申しますか将来生きていれば得られたであろう利益の喪失額というものもここに含まれるものと思います。
  98. 飯田忠雄

    ○飯田委員 逸失利益というものについての判定が私は大変むずかしいと思うわけです。  といいますのは、死刑囚が獄につながれまして裁判が確定をして死刑執行になっていくその間において、一体どういう得べかりし利益というものを算定する基準があるのであろうかということを考えますと、まことに不確かなものであるように思いますが、この点については起案者としてどのようにお考えでございましょうか。
  99. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 刑事補償のことでございますから広い意味での損害賠償でございます。したがいまして、死刑執行という原因は非常に異例なことでございますけれども、一般に加害行為があって相手方が亡くなったということによる損害というものと本質的には同様であろうと考えます。
  100. 飯田忠雄

    ○飯田委員 刑事補償法によりますと、その第二条に死刑執行後の無罪判決のあった場合には補償請求者は相続人だ、こう書いてあります。これは相続人の利益を保護するための規定としてこう置かれておるのでしょうか。その点はどうでしょう。
  101. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 現実的には相続人が現実的な利益を受けるという面はあろうかと思いますけれども、理論的には先ほど来申しておりますように死亡者本人の損失に対する補償であり、それを相続人が相続という形で承継する、こういうことであろうと思います。
  102. 飯田忠雄

    ○飯田委員 相続人がない場合はどこへだれが請求するのでしょうか。
  103. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 これも、死刑執行という異例な原因から起こったことでございますけれども、本質的には違法行為による損害償の一種でございますので、相続人がない場合にはそれを請求する者はないということは一般の場合と同様であろうと思います。
  104. 飯田忠雄

    ○飯田委員 そうしますと、死刑になった人に対する補償という意味はそこで消えてしまうことになりますが、相続人がある場合には相続人が請求権者になる、相続人がなければ請求権者はないということでありますならば、この場合の補償というのは相続人に対する補償意味しておるように思われますが、どうでしょう。
  105. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 同じようなお答えになって恐縮でございますが、実質的には、それは先ほど申しましたように支給された補償金は相続人が取得されてそれをお使いになるということになるわけでございますが、基本的には死亡した本人の損失の補償ということにおいては変わりないと思います。
  106. 飯田忠雄

    ○飯田委員 私も死亡した本人の損失だろうとは思いますけれども、生命を失ったというこの損失はもう計算することのできない大きな損失なんですが、しかもこれは率直に申しますと、捜査から裁判が終わるまでの間の各公務員過失の総合の結果ではないか。捜査による捜査官のやむを得ず犯した過失、それから検察官のやむを得ず犯した過失裁判官がどんなに研究しあるいは証拠固めをやっても免れがたい過失、こういう過失が寄り集まって無辜の者つまり無実の者が死刑になってしまう、こういうことであろうと思います。  そうしますと、この場合の補償というのは広い意味における過失に対する補償ではないかと私は思うわけですが、この過失に対する補償、無過失に対する補償、それはどちらでもいいというものの、補償の法的性質が明らかになりませんと、これに対する処置がうまくできてきませんので、私はこのことを申し上げるわけです。  それで、死刑というものについていろいろいままでに世論調査がなされました。ここに一つの例がございます。昭和五十年の五月の調査、総理府がおやりになったものですが、これによりますと、死刑の廃止について賛成する者と反対する者ということで、死刑の廃止に賛成する者は二一%、死刑の廃止に反対する者は五七%、過半数が反対であります。わからないという者は二〇%、こういうことになってまいりますと、今日の段階では死刑廃止に現実において踏み切ることはむずかしいのではないかと思われます。  そうしますと、制度として死刑が存在し、また裁判官初め多くの裁判に関与した人たち過失が免れがたいものだということになってまいりますと、ここで私どもはこうした無実の者が死刑になることがないような新しい制度をつくる必要があるのではないか、このように考えるわけでございます。この点につきましてどのようにお考えでしょうか。
  107. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 先ほど来おっしゃっておりますように、間違って死刑になりました場合にその方の生命は取り返せないことはまことにそのとおりでございまして、そのようなことが起こらないように努力すべきことは当無のことでございますが、やはり裁判でございますので、担当する者あるいは関与する者がその誤りなきを期して最善の努力をするというしか言いようがないと申しますか名案もないように思うわけでございまして、別にそれを防ぐための特別な制度というものはなかなか考えつかないように思います。
  108. 飯田忠雄

    ○飯田委員 いままで死刑の判決を受けた人が刑の執行を受けないでおる事例はございましょうか。
  109. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 死刑の判決が確定いたしましてまだ執行されてない人が何人かいることは事実でございます。
  110. 飯田忠雄

    ○飯田委員 死刑の判決が確定したのに死刑が執行されない人が何人かおるということは、そこに何か死刑を執行するのに忍びないものがあるからこのようなことになったのではないかと思いますが、その点はいかがでしょう。
  111. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 別に意味はそういうことではございませんで、御案内のとおり、再審の申し立てでありますとか恩赦の申し立てでありますとか、そういうことがあるわけでございまして、特に再審の申し立てがありました場合には死刑の確定から執行までの期間に算入しない、こういうような規定もあるわけでございます。  もちろん、再審の請求がありました場合に絶対執行できないというわけではないわけでございますが、やはりそういう申し立てがありました場合にはその申し立てを一応尊重もし、重ねて裁判所の判断があるということでございますので、それを見てより慎重な態度で臨むということのあらわれでございまして、死刑の判決そのものについて特に問題があるというわけではございません。  また死刑の執行の場合には、当然のことながら、先ほどの御議論にもございますように慎重にも慎重を期してやらなければならないわけでございますので、私ども立場におきましても、死刑判決がありました場合、大臣の命令によって執行されるわけでございますが、その間において確定した記録をあらゆる角度から検討もし、それから再審の事由がないか恩赦にすべき事由はないかというようなことも含めて、あらゆる角度から検討した上で死刑執行というふうになるわけでございます。そのようなことでございますから、もしその間に再審事由があるあるいは恩赦相当であるということになればそれなりの手続がとられるわけでございまして、そういうことがない限り執行もやむを得ない、こういうことに相なるわけでございます。
  112. 飯田忠雄

    ○飯田委員 死刑が確定いたしまして実際に死刑を執行するまでの間の期間というものが法定されておると思いますが、その法定された期間内に皆さん再審をしたり恩赦の申請をしているのでしょうか。その点はいかがでしょう。
  113. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 いろいろなケースがございますので一概に申せませんけれども先ほどもちょっと触れましたように、原則的には六カ月という期間が決められておりますが、再審の申し立てがありました場合にはその期間を算入しないというような別な規定もあるわけでございまして、何回も何回も再審の申し立てがあるケースもございます。  そうなりますと、いまの算入しないという規定の計算上、形式的には範囲内に入っているという場合もあるわけでございます。そのようなことでございますので、一応確定から相当延びておるという場合もありますけれども、それはそれなりの理由があってのことでございまして、何か委員のおっしゃいましたような別な理由で執行を延ばすというようなことは本来ないはずでございます。
  114. 飯田忠雄

    ○飯田委員 死刑の判決のありました者に対しまして死刑の執行を猶予する制度をつくるということについて、私どもは前からこのような考え方を持っているのですが、この死刑の執行猶予ということにつきまして皆さん非常に誤解がございまして、たとえば何年か猶予してそれからやるといったようなことをお考えですが、私どもは期間、期限は考えていない。とにかく死刑の判決をやって少しでも怪しい、これは死刑にすべき問題であるから死刑の判決をするのだが、ちょっと気になるといったような場合には執行猶予をつけておけば無実の者を殺してしまうということにはならない。よく調査した末、これはもう間違いないということであれば死刑の執行猶予を解けばいいわけですから、そのような考え方につきましてはどのようにお考えでしょう。
  115. 前田宏

    ○前田(宏)政府委員 死刑の執行を猶予するということを制度的に設けるという御提案といいますかお考えのようでございますが、そのことにつきましては刑法の全面改正作業の中でも議論されたところでございますし、飯田委員の御研究の結果も私ども承知しておるわけでございますが、先ほど申しましたように、裁判がございまして死刑が確定した場合には、執行の任に当たる大臣の補佐をいたします私どもといたしましてあらゆる角度から慎重な検討をしておるわけでございます。それで一応というか十分ではないかというふうに考えておるわけでございまして、いまの御提案、いろいろなお考え方があろうと思います。全面改正の中で、さっきおっしゃいましたような一定期間を設けるというような考え方もあったわけでございますし、また、いま仰せのように全く期間を定めないでやるという考えも考え方としてはないわけではないと思いますけれども、それはそれで、また逆に死刑の判決を受けました人の立場になりますと、大変不確定、不安定な状態にもなりかねないわけでございます。  要は、誤った死刑判決がなされないこと、またそれが執行されないことということにあるわけでございまして、不定期的な執行猶予というようなことがいろんな面から考えて果たして適当であるかどうか、なお検討の余地があろうと考えております。
  116. 飯田忠雄

    ○飯田委員 実はなぜこういうことを私お尋ねするかといいますと、この刑事補償法というもの自体がすでに無実の者が死刑になった場合の補償を決めておるわけです。つまり、無実の者を死刑にしてしまうということがあり得るのだ。だから、その場合に、補償するのはどうするかということをわざわざ法律で決めておる。そうであるなら、当然死刑判決後に再審で無罪となる場合も将来は出るかもしれぬ、それを予想した補償法ですから。  そうであるならば、私はこの問題をまともに取り上げて、そうした、死刑の判決後に死刑の執行をしてしまった、それから再審で無罪となったといったようなことが起こり得ない制度——現在はそういうことが起こるような制度です。それを起こり得ないような制度をつくることが必要ではないか、このように私は申し上げておるわけでございます。とにかく死刑を執行してしまえば命がなくなるのですから、それが無実であったという場合にその補償はもはやなし得ないのだ、命の補償なんということはあり得ない、だから慎重を期して死刑については死刑の執行猶予制度を設けるべきではないか、このように私は考えておるわけでございます。これは、このことによって無実無事の者を死刑にするのを避けるという一つの利益がございます。  それから、この制度は無期とは違います。死刑の執行猶予ということは無期とは違うのです。無期の場合は無期に対する処刑上のいろいろな取り扱い上の利益がございます。しかし死刑の場合は執行猶予をしているだけですから、無期とは全然違った性質のものでございまして、今日世論調査で死刑の存続を望む声がわが国の人たちの半数以上だということになれば、死刑の存続ということを念頭に置いた上で、無実の者が死刑になるということを避ける制度、それを考えるべきではないか、このように私は考えておるわけです。そこで、こうした提案をいたしたわけでございます。  時間が来ておりますのでこれ以上申しませんが、こうした私のいま申しましたような、死刑囚を死刑にしてしまった後ではもはや命の返還はできないんだという観点から、そういう事態をつくらないために、刑事補償法だけでは不完全だから、なお死刑の執行猶予制度というものを立法する努力をなさる御意思はないでしょうか。この点について大臣の御感想を承りたいと思います。
  117. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 死刑につきましても一定期間その執行を留保いたしまして最後の改善の機会を与えようという制度が中国にあるということを聞いておるわけでございますが、中国とわが国とでは法の制度も違いますし、またわが国では現在でも死刑の言い渡しにつきましてはきわめて慎重に行われていることなどからいたしまして、直ちにお説のような制度を取り入れることはいかがかと存じております。
  118. 飯田忠雄

    ○飯田委員 実はこの刑事補償法というのが、大臣も御存じのように、死刑の判決をしてそして死刑に処してしまったら実は無実であった、その場合に対して補償をする法律なんです。  ということは、この法律は、どんなに慎重に死刑の判決をなさっても間違いを生ずるということを前提に置いた法律ですから、そこで、そうした前提を置く法律自体が実はおかしいのではないか。この今度の改正について私は反対しませんよ。今度の改正は金額を上げるだけですから、これは別に反対はいたしませんが、根本的に考え方がおかしい。ですからこの死刑の執行猶予制度を設けて、そして少しでも確信が持てないものは死刑に対して執行猶予を付する。これは何も中国のまねをするのじゃありません。私は中国のまねをしてこういうことを言うておるわけじゃないので、たまたま中国の文献を翻訳して発表したことはありますけれども、そういうことじゃありません。日本制度としてそういう制度が正しいのではないかと思うわけですが、大臣、ひとつどうでしょう。
  119. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 なお慎重に検討しなければなりませんが、ただいまのところは先ほどお答え申し上げましたとおりであります。
  120. 飯田忠雄

    ○飯田委員 では終わります。
  121. 木村武千代

    木村委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。     —————————————
  122. 木村武千代

    木村委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  123. 木村武千代

    木村委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  お諮りいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  124. 木村武千代

    木村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  125. 木村武千代

    木村委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時四十二分散会