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高橋参考人 実は、この点がこの
制度の中で私
ども大変関心を持っていたところであります。結論的には、この
法案は
公安委員会が
裁定手続を一切やるということですが、率直に申し上げますと、危惧の念を持っておるのであります。
理屈を申し上げるつもりは毛頭ないわけですけれ
ども、総括的に一言だけまず申し上げておきますと、この
制度はあくまで
行政による
救済であるという
考え方に立っていただく必要がある、現にそういう
立場に立っておるわけです。したがって、
司法機関や、特に裁判所の関与するところのものではないということ、これは当然であります。ただ、早急に
救済をしなければならない、これが
前提であります。そういう点では、
刑事の
裁判手続と
関係なく
補償決定がなされることがあるであろうということですね。そして
刑事判決以前に
補償がなされた場合に、そのこと自体が
被告人の有罪または刑の量刑に
影響を来すことがあってはならない。つまり、これは
被告人の
刑事裁判手続と事実上絡むところが当然あるわけですけれ
ども、並列して考えていかなければならないということであります。ですから、この
被害者の
救済ということを強調する余り、
被害者の
人権保障がゆえに
被告人の
人権の否定といいましょうか侵害といいましょうか、そういったことにならないということをぜひ
前提にして考えていただきたいというように思うのであります。
そういう点では諸
外国の例では、
被害者が
捜査機関に協力することを
前提として
補償するというようなそういった
制度を設けているところもありますけれ
ども、私は
反対であります。これは
被害者に対して国が
保護救済をする反面、当然
被害者というのは
捜査に協力する
義務があるのじゃないか、どうも一見論理的な感じがするのですけれ
ども、きわめて危険であります。なぜかと申しますと、
捜査協力という概念が非常にあいまいでありまして、広く解釈される危険があるということであります。私
ども現に
刑事裁判を
捜査段階から長年やっておりますと、どうしても
被害者の供述というのは真実から見て
捜査側に引っ張られる、そういった印象もまた一方で持っておるのであります。
そうしたことを
前提として御
質問に
お答えをいたしますけれ
ども、私
ども日弁連は、これは
国家公安委員会から切り離して独立の
行政委員会をつくっていただきたいということを訴え続けておるわけであります。私
どもの
法案は、まず、
裁定機関として
刑事被害補償中央審査会というものを法務大臣の所轄のもとに置くべきであろう。この中央審査会というのは
刑事被害補償地方
委員会、後で申し上げますが、この地方
委員会が行った処分に対する審査請求をやる、そういった権限を付する。そしてこの中央審査会は
委員九人で組織する。
委員のうち、三人は常勤、六人は非常勤。大変細かいところまで提案をさしていただいております。そしてその
委員は、弁護士及び
刑事の
被害の
補償に関する学識経験を有する者、このうちから両議院の同意を得て法務大臣が任命するという形で、やはりこれは弁護士ないしは法律経験者を中心として構成をしなければならないだろうという
考え方であります。そして各地方に、これは法務大臣の所轄のもとで結構だと思いますけれ
ども、
刑事被害補償地方
委員会を置くということであります。
補償の申請に対して審査
裁定を行う、
支給をするというこうしたことや、あるいは
生活実態調査等も行う。そしてこの
刑事被害補償地方
委員会、これは各地方裁判所の所在地に置くべきだろう。そして
委員は、先ほど申し上げた中央と同じように、弁護士及び
刑事の
被害の
補償に関する学識経験を有する者を法務大臣の任命でという形を訴えておるのであります。
〔
松野委員長代理退席、
委員長着席〕
これは
法案と大きく違うところだと言わざるを得ないわけでありますが、先ほど私、申し上げましたようにこの
制度というのは、
被害者の
人権保障であるという
前提にまず立たなければならないだろう。したがって、この審査は公正適正に行われる必要がある、また、いささかの疑いがあってもならないというように思うのであります。しかもこれは先ほど言いましたように、一般の被疑者、
被告人に対する
刑事手続と並行して、あるいはこの
制度の方が先行して行われるということであります。そういう点では申し上げましたとおり、
捜査や公判に
影響を及ぼしてはならないということです。
ところが、この
法案を見てまいりますと、警察法の四十七条の二項の改正も伴うわけであります。御
承知のとおり
公安委員会というのは、警察とはたてまえ上も
制度としても違うわけであります。ただ、この四十七条などを見ますと、
都道府県公安委員会を警視庁及び道府県警察本部は補佐するという形になっていくのであります。そこで、公訴提起は検察庁がもちろんやるわけですけれ
ども、御
承知のとおり
犯罪の
捜査は警察がやるわけであります。そういう点で、
捜査の過程で
被害者と接触する機会は十分あるし、またそれをしなければ公訴提起もできないわけであります。これは当然のことであります。しかしその
捜査の主体が一方では、
公安委員会を補佐するという形であるけれ
ども、この
被害補償の
裁定に関与する、そういう点では、事実上
捜査との関連が非常に密接になるという、そういった危惧を持つものであります。したがって、私は先ほど申し上げましたように、この
裁定は独立した
行政機関に全部任せる、そして事実認定という点での必要な
資料は警察がその
委員会の要求によって提出をしていく、そういった形での協力
関係を持たせていくべきではないだろうかというように思うのです。
そういう点では、私
ども刑事事件をやっていますと、先ほど言いましたように、
被害者が
補償されてない、犯人憎しというこれは当然のことであります。これは否定するわけにいきません。ただそういったことから、一方にある被疑者、
被告人の
人権に
影響を及ぼす危険はないだろうかということを大変心配しておるものです。恐らくそういった
立場からでしょう、各政党の
意見な
ども法案要綱等も拝見させていただきましたけれ
ども、その多くは独立の
行政機関を盛り込んでおられるし、また、この
制度が世界的にいち早くできたのはニュージーランドとイギリス、これを契機としておりますけれ
ども、そういったところでも、やはり独立の
行政機関にしているというのがほとんどであるということもつけ加えておきたいと思います。