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細見参考人 ごく概略のことしか申し上げられませんので、ごく概略のことを申し上げたいと思います。
私、実は
前回の
ケネディ・
ラウンドというのに大蔵省におりましたときに関係しておりまして、いま若干の
参考人の方からお話が出ました、なぜそんなに
関税を下げるのだとか、あるいは
中小企業がどうなるのだとか、あるいはなぜ
関税を下げるのに食糧まで引き込むのだというようなことで、ほぼ同じような議論がございまして、結果は見ておっていただきたいということを申し上げて今日の経済になっておるわけでございます。そういう
意味で私は、最近の国際経済の推移の中でやはりこの
東京ラウンドというのがかなり大きな事柄であったという側面を申し上げてみたいと思います。
御
承知のように戦後の
ガット体制というのは、いろいろな
意味での保護
貿易主義というものを二度と繰り返させないということで出てきたわけでありますけれども、そうは申しましても、
国内で
中小企業の問題あるいは出おくれた産業の問題というようなものがありまして、今日のように為替レートが大幅に変動する時代になりますと
関税率というのも相対的にウエートが軽い問題に見られるわけでありますけれども、この
ケネディ・
ラウンドとか、そのもう
一つ前にやはり
アメリカ人の名前を使ってジロン・
ラウンドというのをやっておるわけですが、そのころには
関税の一〇%も下がれば
企業はひっくり返ってしまうのだ、つぶれてしまうのだというような、これは国際世論でございます、
日本だけがそうだったというわけじゃございません、国際的にそういうことで、
関税交渉というのは非常に手間をかけて非常に細かく議論するくせがついたわけです。その
意味で私は、今回の
東京ラウンドは
ケネディ・
ラウンドのときに比してまさるとも劣らない、三十数%というような
関税率の引き下げによく
成功されたと思うわけです。
ただ、そう申しましても、
日本が非常に譲ったじゃないか、
日本が一番いわば裸になってしまったじゃないかという議論がいつも出るわけでありますが、たとえば、
日本の
関税水準が三%ぐらいになった、
アメリカやECは四%とか五%とかいう水準で、
日本がカットしたのも大き過ぎるし、
関税水準が低過ぎるじゃないかという議論が非常に多いわけですけれども、これは、実は
関税水準を低くすることによって
日本経済を支えているわけです。と申しますことは、油や鉄鉱石やあるいは輸入石炭に税金をかけたのでは
日本の経済はやっていけないから、それをゼロにすることによって、つまり安い
関税にすることによって
日本経済は成り立っておるのであります。こういう平均で三%ということは、たとえば
日本の自動車のように、御
承知のように
世界で一番
輸出が伸びておる自動車に
日本が輸入
関税をかけているわけですね。そういうものを入れて三%になるわけでして、ですから、つまり、製造段階が進んでおるものほど——
日本の
関税の伝統でございまして、原材料はゼロにする、資源のない国ですから。どうしても買わなければならない食糧とか原材料はゼロにする、加工段階が高くなるにつれて
関税を高くするというやり方になっておるわけですから、すべての輸入
品目を一緒にして平均
関税率というのをとれば、
日本の
貿易構造で
関税が一番安くなる。むしろ
関税が安くなっておるというのは、
日本はそういうかっこうで得をしているとまでは申しませんが、そういう
貿易構造であるということは第一に申し上げておかなければならないことだと思うのです。
それから第二に、今回の
東京ラウンドは非常に大きくよくやっておられると思いますが、その
背景として国際経済下における
日本の状態というのをちょっと申し上げてみたいと思うのですが、
日本は御
承知のように油その他のものを買って、そしてそれに必要な外貨をかせぎ出さなければならないわけであることはもう申し上げるまでもない。ですから、たとえば去年の十一月とか十二月とかいうときの通関輸入の
状況を見てみますと、
日本の輸入というのはその前年同月に比べまして、数量では、十一月が一〇一%、約一〇二%ですが、二%くらいふえ、十二月には九三%、つまり去年よりも七%も減っておるわけです。しかし、ドルで払っておる金というのは、ドルでそれを見ますと、十一月が一四三%、十二月が一三八%、つまり、もう量はふえないわけですけれども、端的に油の値上がりと思っていただいていいかと思いますが、そのほかの鉄鉱石とか石炭とか、みんな上がってしまって、こういうかっこうで、とにかく何とか
日本経済をやっていくためにはかせぎ出さなければならない。
一方、
輸出の方はどうなっておるかと申しますと、決して
輸出がそう悪いわけじゃないのです。ではありますけれども、たとえば十一月で見ますと、数量で一一三%、それから十二月が一一〇%、円の
ベースで見てみますと、十一月が一三八、十二月は二二九。ところが、これをドル
ベースで、つまり実際の外貨収入で見てみますと、それぞれ一一一%、一一四%。つまり円でかせぐ分だけドルでかせげない、そういうかっこうで、いまや国際的に
世界じゅうが何をやっているかと申しますと、こういうかっこうの油というもの、あるいは一次産品というものの値上がりに対処して、みんな金利を引き上げて、そして自分の国の通貨を高くしてできるだけ安く買おう、自国通貨建てにしてできるだけ安くしようということで、いまや一九三〇年代のダンピングだとか、あるいは為替切り下げ競争だとかいうことの逆さまをやっておるわけです。
そういう
意味で、それじゃ、われわれがこれから高い価格にし、高い
輸出をしていかなければならない
輸出の市場はどこかということでありますが、これを
輸出マーケットで見てみますと、こういうことになるわけです。相変わらず
アメリカが意外と大きいわけでして、本来もっと
アメリカに依存度を低くすべきだと私も個人としては考えますけれども、対米
輸出といいますか、
輸出の中に占める
アメリカのシェアが実は二五・六%、カナダまで入れますと二七%になる。その次が、今度はヨーロッパでございまして、EC及びECに加盟してないヨーロッパを入れまして一六%、東南アジアが
アメリカに匹敵して二五%、中近東が一〇%、ラテン
アメリカが六%、アフリカが三%、共産圏が、全部入れまして七・二、あれだけ言われます中国でもまだ三・六%ということで、いま輸入のところで申し上げましたように、われわれがほっておいても、つまり、いま
程度の経済をやっていくのでも月に二割とか三割とか輸入の金額が、代金がかさむ、それを何とか
輸出をしてかせいでこなければならないマーケットというのは、
貿易構造というのはそう急激に変わるわけではありませんから、やはりいま申し上げたようなシェアのマーケットへ出ていかざるを得ない。したがって、そういう国との間の
貿易をいかにしてバランスしていき、
お互いに摩擦を少なくしていかなければならないかというのが問題かと思います。
前回の
ケネディ・
ラウンドのときもそうでございましたが、こういう大きな
貿易交渉をいたしますと、
国内では、いまも御議論がありましたように、譲り過ぎたという議論が必ず出てくるわけです。ですから、
アメリカでも、御
承知のようにニクソンの新
政策につながる過程の
アメリカの
経済政策というのは、非常に
保護主義的であったわけですね、
ケネディ・
ラウンドの後は。ヨーロッパもそうでございました。したがって、 ECができ、いろいろな排他的な動きになった。
日本はそうでなかったと信じたいわけでございますが、いずれにしましても、そういうふうに大きな
交渉の後というのはえてしてそういう批判が出てまいります。
日米もそういうことで自動車とかいろいろな問題があることは事実でございますけれども、これは何も
日米だけで起こっているわけじゃないわけでして、
アメリカとECというのは
日米にまさるとも劣らない
貿易戦争をいまやっているわけです。大変な悪口雑言の言い合いをいまやっております。これは政治的な
背景というのは、譲り過ぎたということで、何とか強い姿勢をとらなければいかぬというムードが出やすいものだ、そういうものが政治だと私は思うわけですが、そういうことになっておるわけです。
ですから、われわれ
日本のように、いま申しましたように、いやでも毎月二割とか三割とかの輸入代金というものがふえていくような——油が二倍になるとかいうことになれば、どなたがお考えになっても、二百数十億ドルで済んだ油代が四百億ドルになり、あるいは五百億ドルになり六百億ドルになるわけですね。とすれば、それをどこかでかせがなければならない、あるいは少なくともどこかで相当部分をやりくりしてこなければいかぬということになれば、やはり
貿易というもの、しかも、それをできるだけフェアにやって、相手も納得する形で
貿易を
拡大していくということにしなければならない。
貿易環境は
日本だけが油で困るわけでなくて、
世界じゅうも困るわけですから、
世界じゅうの国がフェアなかっこうで、
貿易をやって、確かにあるときは輸入が多くなることもありましょうが、その結果、またその国の
輸出もふえて、両方が、つまり
貿易が
拡大することによって油その他に対する輸入の代金が相対的に小さくなるというようなかっこうで、
拡大貿易の中で油の負担とかそのほかの問題を
解決していかなければならぬわけですね。
そういう
意味で、今回の
東京ラウンドというのは、
関税が引き下がったことも、それはそれなりに大きな
評価ができますが、むしろそのことよりも、
貿易のルールということについていままでになかった非常に大きな進歩が織り込まれておる。八つの
協定が具体的にそうでありますが、たとえば
日米の問題で何遍も何遍も問題になりますいわゆる
アメリカン・セリング・プライスというやつですね、
アメリカが勝手に
関税評価をするとか、あるいは四百二条のaですか、そういうような条項によって、
日本の製品の正当な価格を否認して勝手に輸入価格をつり上げてそれに
関税をかけるというようなことをするとか、あるいはダンピングだとか、相殺
関税だとかいうようなものをかなり恣意的に適用しておった。それらについて
お互いに納得のいくルールができたということは、
輸出市場においては
先進国貿易というものに大きく依存せざるを得ない
日本としては非常に大きな進歩だ。しかも相手の国が、ECも
アメリカもいまや一月一日から
実施しておるわけですから、最も
貿易に依存しなければならないわが
日本がその施行が一番おくれているというようなことは余りほめたことにはならないのではないかと私は思うわけです。
そういう
意味で、この
東京ラウンドというのは
先進国貿易の大きなルールをつくった。ただ、
先進国貿易だけのルールをつくったかと申せば、先ほどもお話がございましたように、将来の
貿易の
枠組みとして、
農業の問題だとか、あるいは発展
途上国の問題をどうしていくのだ。特に発展
途上国に対しては優遇的な
譲許を公然と
ガットの上で与えていく。いままでのように、みんな強い者だというかっこうでの競技のルールと申しますか
貿易のルールではなくて、体の弱い者、おくれてきた者についてはそれなりのメリットを与えましょう。しかし、それなりの条件の
譲歩をするからには、相手の方もいつまでもそういう特別の温情というようなもの、特別の
譲許というようなものに頼らないで、りっぱに体力が整ってきたら卒業します、私はそんな特別扱いをしていただかなくても結構ですということをあなた方も言いなさいよ、それが
お互いの
貿易のフェアなルールじゃないですかというようなかっこうで将来の南北
貿易への道も大きく開かれておるわけでして、そういう
意味でこの
東京ラウンドというのは、いわば何回かのサミットで繰り返し繰り返し
東京ラウンドをやるんだということが言われたことは当然でありまして、壊れかかっておる
貿易ルール、
貿易機構というものをやっとといいますかきちっと強化して、八〇年代へ持っていったんだということが言えようかと思うのです。
つまり七〇年代のころにわれわれ多少とも外国の人たちと
交渉しておる者たちが
お互いに申しましたことは、もう
ガットはだめだ、われわれはいかにして
ガットの次の
世界貿易機構というのをつくろうかということをみんなで——みんなでといいますか心ある者が話し合った。なぜかと申しますと、
ガットでいわゆる特恵
関税というような制度をつくり、最近までよく言われました新発展
途上国、つまり韓国とか台湾に代表されるような追い上げてきた国があって、しかもこれらの国々は
ガットの義務の方は守らないで
ガットの権利だけを、特恵
関税というような権利だけを要求する。こういう国に対して平等の義務を課し、平等の権利を与える。フェアに義務をしょってもらい、フェアにまた特権も与えるということが一体できるだろうか。片一方の方はUNCTADにたてこもっていわゆる新経済秩序を一方的に言うわけでありますし、片一方の先進工業国の方はかなり力が弱ってまいりましたのでOECDにこもっていわゆるハイレベルというような会合をやる。将来の
世界貿易というのはどうしたらいいだろうか。自分たち先進工業国と発展
途上国、特に追いついてきた発展
途上国との間の利害をどこでだれが調整できるだろうかというようなことを言って、ポスト
ガットというようなことでどうなるかと言っておったその混乱が、とにもかくにもランブイエのサミット以来取り上げられて今日結実を見た。
その間にこれだけ為替レートが変動いたしますと、世が世であれば非常に厳しい輸入禁止措置だとか、あるいは非常に激しい対立関係とかいうようなものが起こるのだろうと思いますが、為替レートのことだからどうにもコントロールがつかないからしようがないやというあきらめもあるいはあったのかもしれませんが、とにかくこれだけの、この
程度の国際的な緊張で今日までやってこれたというのは、この
東京ラウンドをやっているんだ、みんなサミットでも話し合ったじゃないかというのが大きな支えになっておったということでありますから、ここまで来た
東京ラウンドというのは一日も早く本当の
意味で国会の御
承認を得て日の目を見るのが一番いいことだと私は思います。