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参考人(
谷本たかし君) まず、米過剰の問題でありますが、なぜ米が余ったと言われるような状態になってきたかというような御指摘でございました。で、米が
生産過剰に陥るような状態になってきた最も大きな要因として挙げられますのは、
生産者米価が高いからだといった理由が挙げられております。果たして
生産者米価は高かったのかどうかという点が私は疑問に思います。通常、資本主義
経済社会の中での
農産物の価格は、
農業生産の限界
生産値の
生産費によって決定される、こういうぐあいに言われております。これは何も社会主義運動をしている者がそういうことを主張しているということではないのでありまして、たとえば自由主義
経済学者のリカードなどもそうしたことを言っておるわけであります。
そうした立場でこれまでの米価を見てまいりますと、たとえば
昭和四十五年の
生産者米価で見てみますと、
生産費所得補償方式で決定されたとはいえ、
生産費方式でそれを引き直して見てみますというと、米販売農家のうちで
生産費がカバーされたのは八三%でしかございませんでした。それから昨年の
生産者米価について見てみますと、これまた
生産費所得補償方式で決定されたと言われておりますが、
生産費方式で引き直して見てみますというと、米販売農家の五三%の農家の
生産費しかカバーされておりません。このような状態は何を
意味するか。
消費者が必要とする米の
生産量の再
生産を確保する水準までの米価になっていない、こんなぐあいに断じてよろしかろうと思います。してみるならば、資本制
経済社会の中で、自由
経済社会の中であるべき価格水準というものよりも
生産者米価は低かったというぐあいに申し上げてよいのであります。にもかかわらず、多くの農家が米の
生産に集中したのはなぜなのかということになってまいりますと、それは高米価だったからではなくて、他の
農産物価格が米よりもさらに低く、かつ不安定であったというところに主たる要因があったと言わなければならないと思います。
今日、食糧の自給率は、先ほども申し上げましたように、実質四〇%を切る低水準になっていると私は申し上げました。そうした低水準になってきたのはなぜなのか。いろいろな原因がありますが、その最も大きな要因として挙げられてよいのは、農畜産物の外国からの輸入、そしてそうした事情などを背景としながらの需給緩和と農畜産物の買いたたきというようなところに自給率が引き下がってきた原因がある。そうした原因は、とりもなおさず他方で米のいわゆる相対的な過剰状態を生み、他方で穀類を中心とした食糧のはなはだしき自給率低下を現出するというような状態になってきたものと思います。
でありますから、そういう立場から見てみますというと、
政府がいま行っております米の
生産調整というのには私どもは反対であります。なぜかならば、米が余らなくとも済むような、そういうふうな農政が行われていない。そして米が過剰になってきた原因は、とりもなおさず食糧の自給率を引き下げるような、そういうふうな農政にあったわけでありまして、その農政のあり方は基本的に変えられていないわけでありますから、したがって多くの農民は米の
生産調整には反対せざるを得ないというような状況が生まれてきているわけであります。
さて次に、第二に御指摘がございました、
政府が進めようとしている
地域農業の再編成についてどう考えるのかというお尋ねでございましたが、これについては次の点を申し上げておきたいと存じます。
先ほど、
農林大臣は、
地域農政とは
地域の
生産事情に見合ったそういう
農業づくりをやるのだということを強調されました。最近
政府が言っております
地域農政には確かにそういう面もございますが、より基本的な問題としては、次の点が据えられておると思います。その第一は、米の
生産を抑え込んで他作物に転換をさせていくという
生産政策が第一点であります。それから二番目の問題は、効率的な
日本農業をつくっていく、つまり
構造政策を強化していくという点が二番目の柱として据えられておると思います。この二つの柱について私どもがどう考えるかについて申し述べたいと思います。
まず第一番目の、米から他作物への転換問題でありますが、
政府が米から他作物への転換として進めようとしておるのは、米の
生産調整政策の中で取り上げているいわゆる不足
農産物への転換であります。その例をたとえば麦について見てみますというと、
政府は米づくりをやめて麦に転換をしろというぐあいに言っておるのでありますが、これは私どもにとって非常に耐えがたい状態がございます。なぜかならば、
生産者麦価が米価よりも低いという問題もございますが、それだけではありません。といいますのは、もともと
日本の麦は米の裏作として営まれてきたものであります。農家が麦への転作を受け入れるかどうかという問題は、表作がどうなるのかという問題との関連でとらえていくわけであります。ところが、米の代替作物については補償がほとんどない。米の代替作物として最も有力なものは飼料用穀物でございますが、飼料用穀物については
政府は今後も輸入にまつという態度でございます。してみるならば、米から麦への
生産の転換を定着をさせていくためには、飼料用穀物をどうするのか、この問題が改めて問われなければならないと思います。ところが、飼料用穀物は外国に依存していくのだというのが
政府の基本
方向であります。
こうして見てみますと、米から麦への転作問題の障害になってくるのは、
政府が相変わらず外国への食糧依存政策を進めておる、麦への価格保障がない、こういうところに問題があると言ってよろしいのであります。
あるいはまた、粗飼料への転作問題を見てまいりましても似たようなことが言えるわけであります。粗飼料への転作問題について言えば、畜産
農業と結びつかなければ粗飼料への転作が進んでまいりませんし、定着もいたしません。ところが、
政府は一方では牛肉の輸入は拡大をしてきております。またさらに、最近では乳製品の輸入がふえてきておりまして国内
生産が圧迫されるというふうな状態が生まれてきております。そうした外国依存政策が進むという状態のもとでは、粗飼料への転作にしても困難であると言わなければなりますまい。
このようにして見ますと、
地域農業の再編成というのは、国際化時代に見合った
日本農業の再編成だということが一部で言われておるのでありますが、そうした国際化時代に見合った
日本農業の再編成というのは、食糧の外国依存、輸入を進める、
構造政策を進めていくというようなところにその
考え方があるのでありますが、それ自体矛盾なのではないか。言いかえるならば、輸入を拡大する、
生産性の高い農家をつくるための
構造政策を進めていこうというぐあいにしておるのでありますが、そうした輸入依存政策というものであっては、あるいは低価格政策を強めるというようなことであっては、
地域農業の再編成は進まないのではないかという点が第一に挙げられなければなりません。
それから二番目の問題として申し上げたいのは、
構造政策の問題であります。この点は先ほども申し述べましたように、たとえば欧米型的な
構造政策を
政府が進めたいのだとするならば、その前提的な
条件としては、零細な兼業農家が労働者となって一本立ちして食えるような賃金と雇用の
条件あるいは社会保障の
条件を整えるというようなことが行われなければならないでありましょう。また、
生産手段である農地にいたしましても、価格を引き下げるための施策がもっと積極的に出されてしかるべきではないかと思います。土地の値段を下げることができないのだとするならば、高い地価のもとで借地
農業をやっても引き合うような価格政策というのが裏打ちされていかなければなりません。賃金問題あるいは雇用問題というような問題等々は、これは
農業の枠組み以外の問題だと言ってよいでありましょう。
構造政策を進めるにしても、その点はひとり農林省だけがどうこうするということではなしに、労働省がどう考えるかというような点やら、あるいはまた厚生省がどう考えるかという点やら、そういうふうな点を両々相合わせながらやらなければ、
政府がお考えになっておるような
構造政策というのは進み得ないのではないか。そこのところを無理して進めようとすれば当然あつれきが起こってくるし、そしてそうした無理は矛盾の拡大でしかないというぐあいに言わなければならないと思います。